説明

被固定部材の固定構造

【課題】軟質部材等のバッフルプレートを基盤に確実に固定することができる被固定部材の固定構造を提供する。
【解決手段】基盤8から脱落することを防止する環状の抜止め突起6a1を軸部6aの外周面に形成した鋲6を用いたバッフルプレート5の固定構造であって、バッフルプレート5は軟質部材であり、基盤7の裏面側に軸部6aの先端の位置を規定するストッパ8を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、普通自動車やトラック等の車両に搭載されるラジエータのアッパータンク等に取り付けられる軟質材からなるバッフルプレートを、タンクに鋲を用いて固定する被固定部材の固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2以上の板状部材を鋲を用いて接合することが行われている(例えば、特許文献1参照)。図6は、鋲を用いて剛性部材と軟質部材とを接合させた場合の一形態を示している。より具体的には、打込みアンカー型の鋲が示されており、スリーブ状の部材に軸棒を挿入し、スリーブ下端側を拡径させる構造である。
図6では、基盤として金属板100が用いられており、金属板100に取り付けられる軟質部材としてスポンジ101が用いられている。図に示す鋲102を構成するスリーブ部材103の先端側には複数のスリットが形成されている。また、スリーブ部材103の先端側の穴径は縮径されており、軸棒104が挿入されるとスリーブ部材103の先端側が撓んで拡径される。
また、鋲102が金属板100に打設されることにより、スポンジ101に鋲102の丸頭部が食い込み、スポンジ101に窪みが形成されている。
【0003】
このようにスポンジなどの軟質部材(被固定部材)を固定する場合、被固定部材から鋲の頭部への反力が硬質部材を用いる場合と比べて小さくなるので、軸棒104を打設しても十分な深さまで軸棒104に挿入することができなくなり、鋲102の先端が十分に拡径されないことがあった。鋲102の先端が十分に拡径されないと、軸棒104がスリーブ部材103から抜け落ちる。さらに、軸棒104がスリーブ部材103から抜け落ちると、スリーブ部材103の拡径されていた部分が元の形状に戻り、スリーブ部材103も金属板100から抜け落ちる。例えば、自動車のラジエータ周辺部品に図6に示す鋲102を打設した場合、自動車走行時の振動により鋲102が脱落するおそれがある。
【0004】
【特許文献1】特開2006−17300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、軟質部材の被固定部材を基盤に確実に固定することができる被固定部材の固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる課題を解決する手段としてなされたものである。
本発明は、基盤から脱落することを防止する環状の抜止め突起が軸部の外周面に形成された鋲を用いて被固定部材の軟質部材を前記基盤に固定する被固定部材の固定構造であり、前記基盤の裏面側には前記軸部の先端の位置を規定するストッパが設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、基盤の裏面側には鋲の軸部の先端の位置を規定するストッパが設けられているので、軟質部材を取り付ける場合でも鋲を所定の位置に配置することができる。そして、軟質部材の圧縮量を一定にすることができる。ここで、圧縮量とは軟質部材の圧縮前と圧縮後との体積の差をいう。なお、基盤の裏面側とは、基盤の被固定部材の取付け側と反対側をいう。
【0008】
また、本発明において、好ましくは、前記基盤と前記ストッパは一体成形されているとよい。
このように基盤とストッパは一体成形されているので、基盤が板金部材の場合にはプレス加工時にストッパを同時に加工することが可能である。これにより、部品点数や製造コストの削減を図ることができる。
【0009】
また、本発明において、好ましくは、前記ストッパは左右対称形状にされ、かつ凹部を有し、該凹部の底面に前記軸部の先端が当接することを特徴とする。
かかる構成によると、凹部の中央に鋲の先端を配置するようにすれば、ストッパは左右対称形状であるため、鋲打設時の衝撃を安定して受け止めることができる。
【0010】
また、本発明において、好ましくは、前記被固定部材の軟質部材が車両のラジエータのアッパータンクを覆って取り付けられるウレタン材からなるバッフルプレートであるとよい。
このように、ラジエータのアッパータンクを覆って取り付けられるウレタン材からなるバッフルプレートに用いることによって、バッフルプレートを確実にアッパータンク固定でき、振動等で脱落することがなくバッフルプレートの機能を発揮できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の被固定部材の固定構造では、基盤から脱落することを防止する環状の抜止め突起が軸部の外周面に形成されている鋲を用いて、軟質部材等の被固定部材を基盤に固定するとともに、基盤の裏面側には鋲の軸部の先端の位置を規定するストッパが設けられているので、軟質部材を取り付ける場合でも鋲を所定の位置に配置することができ、軟質部材の被固定部材を基盤に確実に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対位置などは特に記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0013】
図1及び図2は、本発明の鋲及びこの鋲を用いた被固定部材の固定構造の一実施形態を備えた自動車のラジエータ周辺部を示している。図に示すように、自動車の車体の構成要素である2本のサイドフレーム1の間にはクロス部材2が橋し渡されている。このクロス部材2に近接してラジエータ固定用の橋渡し部材3が設けられている。この橋渡し部材3には、丸穴や長穴が形成されており、軽量化が図られている。そして、橋渡し部材3を用いて略直方体状のラジエータ4が鉛直方向に沿って配置されている。このラジエータ4の上部には、被固定部材として軟質部材であるバッフルプレート5が設けられている。軟質部材としては、例えばウレタンスポンジが用いられる。ここでバッフルプレートとは、ラジエータ周囲に設けられる隔壁であり、ラジエータ通過後の冷却風が、再びラジエータ前部に戻ることを防止し、冷却風の循環による冷却水の異常過熱を防止するものである。
【0014】
図に示すバッフルプレート5には、鋲6が4カ所に設けられている。鋲6の材質としては、例えば、ステンレス、炭素鋼、アルミニウム合金及び銅合金等の金属を用いることができる。なお、本実施形態で鋲とは、クリップ、ボルト、ネジ、ピン及びリベット等の固定用部材を広く含む。
【0015】
図3は、本発明の鋲の一実施形態を示している。本実施形態の鋲6は、基盤7上にバッフルプレート5を固定するためのものである。この鋲6には、鋲6が基盤7から脱落することを防止する環状の抜止め突起6a1が軸部6aの外周面に形成されている。この抜止め突起6a1は、軸部6aの軸方向に所定間隔で複数形成されている。そのため、鋲6の脱落方向に対する抵抗力がさらに強化される。また、抜止め突起6a1の先端は、軸部6aの後端側に傾斜しており、逆刃状にされている。そのため、鋲6に脱落方向の力が働いて鋲6が打設方向と反対方向、すなわち脱落方向に移動しても、すぐに抜止め突起6a1の先端が鋲穴の穴壁5a,7aに食い込み、鋲6が抜け落ちることがない。抜止め突起6a1の形状は、特に限定されることはなく、鋲6の抜止め機能を強化することができる形状であればよい。
【0016】
上述した本実施形態の鋲6では、鋲6の軸部6aの外周面に鋲6が基盤7から脱落することを防止する環状の抜止め突起6a1が形成されているので、鋲6に脱落方向の力が働いても鋲6が容易に抜け落ちることがない。すなわち、鋲穴に抜止め突起6a1が引っ掛かるので、脱落方向の抵抗力が大きく、鋲6の抜止め機能が強化され、バッフルプレート5を基盤7に確実に固定することができる。勿論、本実施形態の鋲6は、バッフルプレート5のような柔軟性部材の固定だけではなく、金属板等の硬質部材の固定にも用いることができる。
また、スリーブ状の部材にピンを挿入して鋲の先端を拡径させる構造では構成部品が2つ以上必要であったが、鋲6の軸部6aに抜止め突起6a1を形成する構造では構成部品が1つであるので、従来の構造と比べて部品点数及び部品コストの低減を図ることができる。
【0017】
次に、本発明の被固定部材の固定構造の一実施形態について説明する。図4に示す被固定部材の固定構造は、図3の固定構造と比べてストッパ8が設けられている点で異なる。ストッパ8は、基盤7の裏面側に設けられており、鋲6の軸部6aの先端の位置を規定する機能を有する。そのため、バッフルプレート5のような軟質部材を取り付ける場合でも鋲6を所定の位置に配置することができる。そして、鋲6の頭部6bで押圧されるバッフルプレート5の圧縮量を一定にすることができる。ここで、圧縮量とはバッフルプレート5の圧縮前と圧縮後との体積の差をいう。なお、基盤7の裏面側とは、基盤7のバッフルプレート5の取付け側と反対側をいう。
【0018】
またストッパ8は、左右対称形状にされ、かつ凹部8aを有し、該凹部8aの底面に軸部6aの先端が当接している。軸部6aの先端は凹部8aの中央に配置されており、かつストッパ8は左右対称形状であるため、鋲打設時の衝撃をストッパ8で安定して受け止めることができる。また、ストッパ8の開口側にはフランジ部8bが形成されており、このフランジ部8bの面は基盤7の面と面合わせされ、ストッパ8は安定した形態で基盤7に取り付けられている。図に示すストッパ8は、紙面奥行き方向に均一な部材であってもよいし、カップ状の軸対称部材であってもよい。
【0019】
次に、図4に示した本発明の被固定部材の固定構造の自動車への実際の適用例について説明する。図5に示すように、図1及び図2に示すラジエータ4には、ラジエータアッパータンク9が備えられている。ラジエータアッパータンク9の外表面には、ウレタンスポンジ製のバッフルプレート5が設けられている。このバッフルプレート5は鋲6の頭部6bによって押圧され、窪み部5bが形成されている。この実施形態では、ラジエータアッパータンク9の外壁9aがストッパとして機能している。そして、ラジエータアッパータンク9の外壁9aには鋲6の先端が当接しており、鋲6の位置決めがなされている。そのため、窪み部5bの形状が安定する。また、ラジエータアッパータンク9の外壁9aから所定間隔離れた位置には、基盤部9bが外壁9aと平行に形成されており、この基盤部9bがバッフルプレート5を固定する基盤となる。
【0020】
この実施形態では、基盤とストッパとがラジエータアッパータンク9の筐体からなり、一体成形されているので、別途ストッパを加工して取り付ける必要がない。そのため、部品点数や製造コストの削減を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の被固定部材の固定構造では、基盤から脱落することを防止する環状の抜止め突起が軸部の外周面に形成されている鋲を用いて、軟質部材等の被固定部材を基盤に固定するとともに、基盤の裏面側には鋲の軸部の先端の位置を規定するストッパが設けられているので、軟質部材を取り付ける場合でも鋲を所定の位置に配置することができ、軟質部材の被固定部材を基盤に確実に固定することができる。そのため、硬質の基盤に被固定部材を固定する場合に広く適用することができる。例えば、自動車、船舶、航空機又はロケットに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の鋲及びこの鋲を用いた被固定部材の固定構造の一実施形態を備えた自動車のラジエータ周辺部を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1と反対側から見た場合のラジエータ周辺部の斜視図である。
【図3】図3は、本発明の鋲の一実施形態を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の被固定部材の固定構造の一実施形態を示す模式図である。
【図5】図5は、図4の被固定部材の固定構造の自動車への実際の適用例を示す説明図である。
【図6】図6は、従来の鋲及び被固定部材の固定構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0023】
1 サイドフレーム
2 クロス部材
3 橋渡し部材
4 ラジエータ
5 バッフルプレート
5a 穴壁
5b 窪み部
6 鋲
6a 軸部
6a1 抜止め突起
7 基盤
7a 穴壁
8 ストッパ
8a 凹部
8b フランジ部
9 ラジエータアッパータンク
9a 外壁
9b 基盤部
100 金属板
101 スポンジ
102 鋲
103 スリーブ部材
104 軸棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基盤から脱落することを防止する環状の抜止め突起が軸部の外周面に形成された鋲を用いて被固定部材の軟質部材を前記基盤に固定する被固定部材の固定構造であり、
前記基盤の裏面側には前記軸部の先端の位置を規定するストッパが設けられていることを特徴とする被固定部材の固定構造。
【請求項2】
前記基盤と前記ストッパは一体成形されていることを特徴とする請求項1に記載の被固定部材の固定構造。
【請求項3】
前記ストッパは左右対称形状にされ、かつ凹部を有し、該凹部の底面に前記軸部の先端が当接することを特徴とする請求項1に記載の被固定部材の固定構造。
【請求項4】
前記被固定部材の軟質部材が車両のラジエータのアッパータンクを覆って取り付けられるウレタン材からなるバッフルプレートであることを特徴とする請求項1に記載の被固定部材の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−151190(P2010−151190A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328476(P2008−328476)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】