説明

被膜形成用塗布液及びその製造方法並びに半導体装置の製造方法

【課題】
硬化性が高い一方、室温での保存安定性の悪いシロキサンポリマーを含む被膜形成用塗布液について、保存安定性を向上させる。
【解決手段】
Si−O−Si結合を有すると共にシラノール基を有する重合体と、式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される有機溶媒と、シス型の二価カルボン酸を溶解可能な有機溶媒と、シス型の二価カルボン酸とを含む被膜形成用塗布液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に塗布し硬化させることによって、珪素と酸素との結合を有する膜を形成するための塗布液における、室温又はそれ以上の温度での保存安定性を向上させることに関する。また、半導体装置の製造工程において、レジスト膜の形成前に設けるレジスト下層膜を形成するのに有用な塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
特定のアルコキシシラン化合物の少なくとも2種を、水と触媒の存在のもと特定の有機溶媒中で加水分解することによって得られる、シラノール基(Si−OH結合)を有する化合物を含む被膜形成用塗布液が知られている(特許文献1参照)。2つのシラノール基は縮合してSi−O−Si結合を形成し、Si−O−Si結合を有する重合体となる。
【0003】
また、半導体基板上に形成するレジスト下層膜として、オルガノポリシロキサンの硬化膜を用いることが知られている(特許文献2参照)。当該硬化膜は、フォトレジストのパターンをマスクとして、CFガスを用いてドライエッチングされるものである。その後前記フォトレジストのパターンを除去する際に、当該硬化膜を残存させることができる。
【0004】
このような塗布液に求められる特性の1つに、保存安定性が挙げられる。すなわち、室温で一定期間を経ても、塗布液の化学的変化及び物理的変化が起こらないことが求められる。特許文献1には、溶媒として2価アルコールのモノエーテル又は2価アルコールのジエーテルを用いた塗布液は、ゲル化に要する日数が100日以上であり、溶媒として2価アルコールを用いた例よりも保存安定性に優れていることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、溶液状のレジスト下層膜用組成物を用いて形成した被膜の膜厚増加率によって溶液の保存安定性を評価した結果が記載されている。実施例1乃至4及び比較例1では保存安定性が良好であり、比較例2では保存安定性が不良であると評価されている。そして、比較例2では、用いた溶媒が蒸留酢酸ブチルである点が、蒸留プロピレングリコールモノプロピルエーテルを溶媒として用いた実施例1乃至4及び比較例1と異なり、溶媒の相違が溶液の保存安定性に影響を与えることを示唆している。
【0006】
特許文献4には、溶媒として、ヒドロキシル基を有し且つ沸点が110〜130℃であるプロピレングリコールモノメチルエーテル又はプロピレングリコールモノエチルエーテルを用いることによって、優れた塗布性を有し、しかも良好な保存安定性を有するレジスト下層膜用組成物が得られることが記載されている。
【特許文献1】特開平3−045510号公報
【特許文献2】特開平2−103052号公報
【特許文献3】特開2001−022083号公報
【特許文献4】特開2002−040668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
加水分解及び縮合反応により製造された、シラノール基を有する重合体を含む被膜形成用塗布液であって、硬化させやすいものは、保存安定性が悪いという課題がある。そのような被膜形成用塗布液を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、本明細書ではGPCと略称する)により測定した分子量分布は、当該塗布液の保存期間によって変化することを示す。その主な原因は、ホットプレートのような加熱手段で加熱しなくとも、室温でシラノール基の縮合反応が徐々に進行するためであると考えられる。シラノール基の縮合反応を抑制するために、冷蔵保存することが考えられるが、室温で保存するよりもコストがかさむことになる。GPCとは、高分子化合物の希薄溶液を多孔質ゲル充てんカラムに通すと、分子サイズの大きなものから順に溶出されることを利用して、高分子化合物の分子量分布及び相対分子量を測定する方法である。
【0008】
このような保存安定性が悪い被膜形成用塗布液を用いる場合、基板上に被膜を形成する際の条件を同一としても、用いる塗布液の保存期間が長いほど形成される被膜の厚さが厚くなる傾向が見られる。同一の条件とは、スピンコーターの回転速度および回転時間、並びにホットプレートによる加熱温度および加熱時間が同一であることを意味する。
【0009】
被膜形成用塗布液の溶媒の種類によってシラノール基の量が異なり、保存安定性も異なる。具体例を挙げると、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(CHOCHCHCHOCOCH)を用いた被膜形成用塗布液は、加熱によって硬化させやすいが、室温における保存安定性に劣る点で問題がある。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート中では、シラノール基は、たとえ室温の環境であってもSi−O−Si結合の状態と比較して安定に存在しにくいことが、保存安定性に劣る理由であると推測される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シス型の二価カルボン酸(ジカルボン酸ともいう)、例えばマレイン酸を添加することによって、被膜形成用塗布液の保存安定性が向上することに基づく。
【0011】
本発明の第1の態様は、Si−O−Si結合を有すると共にシラノール基を有する重合体と、式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される有機溶媒と、シス型の二価カルボン酸を溶解可能な有機溶媒と、シス型の二価カルボン酸とを含む被膜形成用塗布液である。
【0012】
本発明の第2の態様は、Si−O−Si結合を有すると共に有機基及びシラノール基を有する重合体と、式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される有機溶媒と、シス型の二価カルボン酸を溶解可能な有機溶媒と、シス型の二価カルボン酸とを含む被膜形成用塗布液である。
【0013】
上記有機基としては、アリール基、アルケニル基、アルキル基、オキシアルキル基、エポキシ基、アミノ基、アシル基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、メルカプト基からなる群から選択される少なくとも1種の基又2種以上が組み合わせられた基を採用できる。アリール基としては例えばフェニル基が挙げられ、アルケニル基は炭素同士の二重結合を有する基であって例えばビニル基が挙げられる。アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。上記群から選択される2種以上が組み合わせられた基とは、当該2種以上の基を含むものであり、例えばアリールアルキル基が挙げられる。アルキル基は直鎖状、枝分かれ状いずれでもよい。
【0014】
シス型の二価カルボン酸、例えばマレイン酸は、式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される有機溶媒、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートにほとんど溶解しない。そのため、シス型の二価カルボン酸を溶解させるための溶媒が別途必要になる。シス型の二価カルボン酸は水などの極性溶媒に溶解するが、式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される有機溶媒は水に溶解しにくい。したがって、シス型の二価カルボン酸を溶解させるための溶媒として、例えばヒドロキシル基を有する有機溶媒を用いることができる。
【0015】
そのような有機溶媒の具体例を次に示す。メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのような一価アルコール。エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンのような多価アルコール。エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルのような多価アルコールのモノエーテル類。その他、乳酸エチルなどのレジストの溶剤。基板に対する塗布性その他を考慮すると、ヒドロキシル基を有する有機溶媒の中で、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(COCHCHCHOH)又はプロピレングリコールモノメチルエーテル(CHOCHCHCHOH)が好ましい。
【0016】
被膜形成用塗布液100重量部に対し0.01重量部以上のシス型の二価カルボン酸を含むことが好ましく、被膜形成用塗布液中の固形分100重量部に対し1重量部以上のシス型の二価カルボン酸を含むことが好ましい。固形分とは、塗布液から溶媒を除いた成分である。シス型の二価カルボン酸の濃度の上限は、例えば被膜形成用塗布液100重量部に対し1重量部とすればよく、被膜形成用塗布液中の固形分100重量部に対し10重量部とすればよい。
【0017】
また、被膜形成用塗布液100重量部に対し、上記固形分は例えば1重量部以上50重量部以下好ましくは1重量部以上20重量部以下含まれ、式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される有機溶媒は例えば5重量部以上90重量部以下含まれ、シス型の二価カルボン酸を溶解可能な溶媒は例えば5重量部以上90重量部以下含まれる。上記固形分100重量部に対し、前述のシラノール基を有する重合体は例えば50重量部以上99重量部以下含まれる。
【0018】
本発明の第3の態様は、基板上に本発明の第1の態様又は第2の態様の被膜形成用塗布液を塗布し、硬化させてレジスト下層膜を形成する工程と、前記レジスト下層膜上にレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜を露光し、現像することによって、レジストパターンを形成する工程と、前記レジストパターンをマスクとして、前記レジスト下層膜をドライエッチングする工程と、を有する半導体装置の製造方法である。
【0019】
上記基板には、絶縁性を有する膜(有機膜又は無機膜)、導電性を有する膜(金属膜など)の少なくとも一方が形成されていてもよく、この場合これらの膜上に上記レジスト下層膜を形成する。有機膜又は無機膜は、スピンコート法によりシリコンウエハーなどの基板に塗布後、硬化させて形成されるものが好ましい。上記半導体装置とは、シリコンウエハーなどの半導体基板、又はガラス基板若しくはプラスチック基板などの絶縁基板を用いて製造される半導体素子(ダイオード、トランジスタなど)、及び当該半導体素子を用いて製造される電子機器(携帯電話機、テレビ受像機、パーソナルコンピュータなど)を含む。
【0020】
本発明の第4の態様は、式RSi(OR4−m(Rは有機基を示し、Rは炭素数が1乃至4のアルキル基を示し、mは0、1又は2を示す)で表される少なくとも1種の化合物を第1の有機溶媒中で加水分解させ、さらに縮合反応させることによって、Si−O−Si結合を有すると共にシラノール基を有する重合体を作製する工程と、少なくとも式ROHで表される化合物をエバポレーションにより除去(留去)する工程と、式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される第2の有機溶媒、シス型の二価カルボン酸を溶解可能な第3の有機溶媒、及びシス型の二価カルボン酸を添加する工程と、を含む被膜形成用塗布液の製造方法である。
【0021】
本発明の第5の態様は、式RSi(OR4−m(Rは有機基を示し、Rは炭素数が1乃至4のアルキル基を示し、mは0、1又は2を示す)で表される少なくとも1種の化合物を第1の有機溶媒中で加水分解させ、さらに縮合反応させることによって、Si−O−Si結合を有すると共にシラノール基を有する重合体を作製する工程と、少なくとも式ROHで表される化合物をエバポレーションにより除去(留去)する工程と、式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される第2の有機溶媒を添加する工程と、シス型の二価カルボン酸を溶解可能な第3の有機溶媒及びシス型の二価カルボン酸を添加する工程と、を含む被膜形成用塗布液の製造方法である。
【0022】
エバポレーションにより除去する工程の前に、前記第2の有機溶媒、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(101.3kPaでの沸点が約146℃)を添加する工程を行うことは有効であり、第1の有機溶媒が101.3kPa(大気圧)での沸点が100℃以下である例えばエタノールのような場合、特に有効である。なぜなら、エバポレーションによって、溶液が過剰に濃縮され、シラノール基の縮合反応が必要以上に進行し、その結果シラノール基が消滅するのを防ぐことができるからである。シラノール基の量が少なくなるほど、塗布液を硬化させて被膜を形成することが困難となる。また、加水分解(及び縮合反応)を促進させる触媒として水に溶解する酸を用いる場合、低極性の溶媒であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの存在のもとエバポレーションを減圧で行うことによって、当該酸を容易に除去できる。
【0023】
上記式RSi(OR4−mにおいて、Rとしてアリール基、アルケニル基、アルキル基、オキシアルキル基、エポキシ基、アミノ基、アシル基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、メルカプト基からなる群から選択される少なくとも1種の基又は2種以上が組み合わせられた基を採用できる。アリール基としては例えばフェニル基が挙げられ、アルケニル基は炭素同士の二重結合を有する基であって例えばビニル基が挙げられる。アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。上記群から選択される2種以上が組み合わせられた基とは、当該2種以上の基を含むものであり、例えばアリールアルキル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状、枝分かれ状いずれでもよい。
【0024】
上記式RSi(OR4−mで表される化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトラi−プロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラi−ブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリn−プロポキシシラン、メチルトリi−プロポキシシラン、メチルトリn−ブトキシシラン、メチルトリi−ブトキシシラン、メチルトリsec−ブトキシシラン、メチルトリt−ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリn−プロポキシシラン、エチルトリi−プロポキシシラン、エチルトリn−ブトキシシラン、エチルトリi−ブトキシシラン、エチルトリsec−ブトキシシラン、エチルトリt−ブトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリn−プロポキシシラン、n−プロピルトリi−プロポキシシラン、n−プロピルトリn−ブトキシシラン、n−プロピルトリi−ブトキシシラン、n−プロピルトリsec−ブトキシシラン、n−プロピルトリt−ブトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリn−プロポキシシラン、i−プロピルトリi−プロポキシシラン、i−プロピルトリn−ブトキシシラン、i−プロピルトリi−ブトキシシラン、i−プロピルトリsec−ブトキシシラン、i−プロピルトリt−ブトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリn−プロポキシシラン、n−ブチルトリi−プロポキシシラン、n−ブチルトリn−ブトキシシラン、n−ブチルトリi−ブトキシシラン、n−ブチルトリsec−ブトキシシラン、n−ブチルトリt−ブトキシシラン、sec−ブチルトリメトキシシラン、sec−ブチルトリエトキシシラン、sec−ブチルトリn−プロポキシシラン、sec−ブチルトリi−プロポキシシラン、sec−ブチルトリn−ブトキシシラン、sec−ブチルトリi−ブトキシシラン、sec−ブチルトリsec−ブトキシシラン、sec−ブチルトリt−ブトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリn−プロポキシシラン、t−ブチルトリi−プロポキシシラン、t−ブチルトリn−ブトキシシラン、t−ブチルトリi−ブトキシシラン、t−ブチルトリsec−ブトキシシラン、t−ブチルトリt−ブトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリn−プロポキシシラン、ビニルトリi−プロポキシシラン、ビニルトリn−ブトキシシラン、ビニルトリi−ブトキシシラン、ビニルトリsec−ブトキシシラン、ビニルトリt−ブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリn−プロポキシシラン、フェニルトリi−プロポキシシラン、フェニルトリn−ブトキシシラン、フェニルトリi−ブトキシシラン、フェニルトリsec−ブトキシシラン、フェニルトリt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジn−プロポキシシラン、ジメチルジi−プロポキシシラン、ジメチルジn−ブトキシシラン、ジメチルジi−ブトキシシラン、ジメチルジsec−ブトキシシラン、ジメチルジt−ブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジn−プロポキシシラン、ジエチルジi−プロポキシシラン、ジエチルジn−ブトキシシラン、ジエチルジi−ブトキシシラン、ジエチルジsec−ブトキシシラン、ジエチルジt−ブトキシシラン、ジn−プロピル−ジメトキシシラン、ジn−プロピルジエトキシシラン、ジn−プロピルジn−プロポキシシラン、ジn−プロピルジi−プロポキシシラン、ジn−プロピルジn−ブトキシシラン、ジn−プロピルジi−ブトキシシラン、ジn−プロピルジsec−ブトキシシラン、ジn−プロピルジt−ブトキシシラン、ジi−プロピルジメトキシシラン、ジi−プロピルジエトキシシラン、ジi−プロピルジn−プロポキシシラン、ジi−プロピルジi−プロポキシシラン、ジi−プロピルジn−ブトキシシラン、ジi−プロピルジi−ブトキシシラン、ジi−プロピルジsec−ブトキシシラン、ジi−プロピルジt−ブトキシシラン、ジn−ブチルジメトキシシラン、ジn−ブチルジエトキシシラン、ジn−ブチルジn−プロポキシシラン、ジn−ブチルジi−プロポキシシラン、ジn−ブチルジn−ブトキシシラン、ジn−ブチルジi−ブトキシシラン、ジn−ブチルジsec−ブトキシシラン、ジn−ブチルジt−ブトキシシラン、ジi−ブチルジメトキシシラン、ジi−ブチルジエトキシシラン、ジi−ブチルジn−プロポキシシラン、ジi−ブチルジi−プロポキシシラン、ジi−ブチルジn−ブトキシシラン、ジi−ブチルジi−ブトキシシラン、ジi−ブチルジsec−ブトキシシラン、ジi−ブチルジt−ブトキシシラン、ジsec−ブチルジメトキシシラン、ジsec−ブチルジエトキシシラン、ジsec−ブチルジn−プロポキシシラン、ジsec−ブチルジi−プロポキシシラン、ジsec−ブチルジn−ブトキシシラン、ジsec−ブチルジi−ブトキシシラン、ジsec−ブチルジsec−ブトキシシラン、ジsec−ブチルジt−ブトキシシラン、ジt−ブチルジメトキシシラン、ジt−ブチルジエトキシシラン、ジt−ブチルジn−プロポキシシラン、ジt−ブチルジiso−プロポキシシラン、ジt−ブチルジn−ブトキシシラン、ジt−ブチルジi−ブトキシシラン、ジt−ブチルジsec−ブトキシシラン、ジt−ブチルジt−ブトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ジビニルジn−プロポキシシラン、ジビニルジi−プロポキシシラン、ジビニルジn−ブトキシシラン、ジビニルジi−ブトキシシラン、ジビニルジsec−ブトキシシラン、ジビニルジt−ブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジn−プロポキシシラン、ジフェニルジi−プロポキシシラン、ジフェニルジn−ブトキシシラン、ジフェニルジi−ブトキシシラン、ジフェニルジsec−ブトキシシラン、ジフェニルジt−ブトキシシランなどが挙げられる。
【0025】
上記第1の有機溶媒としては、加水分解させる上記式RSi(OR4−mで表される化合物を希釈するものを選択すればよく、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アセトン、エチルメチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが挙げられる。
【0026】
上記式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される第2の有機溶媒としては、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0027】
シス型の二価カルボン酸、例えばマレイン酸を溶解させる上記第3の有機溶媒としては、ヒドロキシル基を有する有機溶媒を用いることができ、その具体例を次に示す。メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのような一価アルコール。エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンのような多価アルコール。エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルのような多価アルコールのモノエーテル類。その他、乳酸エチルなどのフォトレジストの溶剤。プロピレングリコールモノプロピルエーテル又はプロピレングリコールモノメチルエーテルが、第3の有機溶媒として好ましい。第1の有機溶媒と第3の有機溶媒は、同じでも相違してもよい。
【0028】
加水分解(及び縮合反応)を促進させるための触媒として、酸を水又は第1の有機溶媒に溶解させて用いることができる。この酸として、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸などの無機酸、スルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸を用いることができる。酸に代えて、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジンなどの塩基を用いることができる。
【0029】
上記式ROHで表される化合物は、上記式RSi(OR4−mで表される少なくとも1種の化合物を加水分解することによる副生成物である。式ROHで表される化合物をエバポレーションにより除去する際、さらに水、第1の有機溶媒、上記酸などの触媒のうち少なくとも1種を除去するのが好ましい。酸などの触媒と水の一方又は両方を除去することによって、加水分解及び/又は縮合反応が抑制される効果が期待できる。第1の有機溶媒及び上記酸などの触媒として、沸点又は共沸点が101.3kPaで例えば120℃以下のものを用いると、減圧でのエバポレーションにより除去されやすく好ましい。
【0030】
エバポレーションにより除去する工程は、大気圧で行うことができるが、減圧すなわち101.3kPa(大気圧)よりも低い圧力で行うと、大気圧で行うよりも加熱温度を低くできるため好ましい。本発明において、除去又は留去とは、一般式ROHで表される化合物などの対象物が必ずしも完全に除去されることを意味せず、その対象物が最終的に残留していてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の被膜形成用塗布液は、シス型の二価カルボン酸、例えばマレイン酸が添加されていることにより、従来製品よりも室温又はそれ以上の温度(35℃を超えない)における保存安定性に優れる。特に、溶媒として式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される有機溶媒が用いられ、硬化させやすい特性を有する被膜形成用塗布液は、従来、GPCにより測定した分子量分布が保存期間の経過によって変化し、保存安定性の点で満足できるものではなかった。しかしながら、本発明により、硬化させやすい特性と保存安定性の両方を満足できる被膜形成用塗布液が得られる。
【0032】
シス型の二価カルボン酸の添加により被膜形成用塗布液の保存安定性が向上する理由は、シス型の二価カルボン酸が有機溶媒中でシラノール基を安定化させ、その結果、シラノール基の縮合反応の進行が抑制されるためと考えられる。
【0033】
本発明の被膜形成用塗布液は、冷却保存する必要がないため、保存及び輸送のためのコストを低減することができる。室温又はそれ以上の温度(35℃を超えない)での保存期間中に分子量分布の変化がほとんどないので、例えば航空機と比較して輸送費が安価だが長時間を費やす船舶などの輸送手段を選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明について合成例及び実施例によって具体的に説明する。ただし、本発明は下記合成例及び実施例の記載に限定されるものではない。
【0035】
(合成例1)
本合成例では、式RSi(OR4−m(Rは有機基を示し、Rは炭素数が1乃至4のアルキル基を示し、mは0、1又は2を示す)で表される化合物として、テトラエトキシシランを用いる。
【0036】
テトラエトキシシラン84.63g及びエタノール84.63gを300mlのフラスコ中で混合し、得られた混合溶液をマグネチックスターラーにて撹拌しながら加温し、還流させる。次にイオン交換水29.26gに塩酸1.48gを溶解させた水溶液を混合溶液に添加し、1時間反応させた後、得られた反応溶液を室温まで冷却する。塩酸にかえて、反応を促進させる触媒として作用する他の酸、例えば硝酸、リン酸を用いてもよい。反応後、副生成物としてエタノールが生成する。
【0037】
その後、反応溶液にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200gを加え、エタノール、水、及び塩酸を減圧留去し、加水分解縮合物(ポリマー)を含む溶液が得られる。得られた溶液の溶媒には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが100%に近い重量比で含まれる。本合成例によるポリマーのGPCによる分子量は、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwが6200である。
【0038】
(合成例2)
本合成例では、式RSi(OR4−m(Rは有機基を示し、Rは炭素数が1乃至4のアルキル基を示し、mは0、1又は2を示す)で表される化合物として、テトラエトキシシランとフェニルトリメトキシシランを用いる。
【0039】
テトラエトキシシラン76.76g、フェニルトリメトキシシラン8.12g、及びエタノール84.88gを300mlのフラスコ中で混合し、得られた混合溶液をマグネチックスターラーにて撹拌しながら加温し、還流させる。次にイオン交換水28.75gに塩酸1.49gを溶解させた水溶液を混合溶液に添加し、2時間反応させた後、得られた反応溶液を室温まで冷却する。塩酸にかえて、反応を促進させる触媒として作用する他の酸、例えば硝酸、リン酸を用いてもよい。反応後、副生成物としてエタノール及びメタノールが生成する。
【0040】
その後、反応溶液にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200gを加え、エタノール、メタノール、水、及び塩酸を減圧留去し、加水分解縮合物(ポリマー)を含む溶液が得られる。得られた溶液の溶媒には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが100%に近い重量比で含まれる。本合成例によるポリマーのGPCによる分子量は、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwが4500である。
【0041】
(合成例3)
本合成例では、式RSi(OR4−m(Rは有機基を示し、Rは炭素数が1乃至4のアルキル基を示し、mは0、1又は2を示す)で表される化合物として、テトラエトキシシランとフェニルトリメトキシシランを用いる。
【0042】
そのテトラエトキシシラン60.65g、フェニルトリメトキシシラン24.74g、及びエタノール85.39gを300mlのフラスコ中で混合し、得られた混合溶液をマグネチックスターラーにて撹拌しながら加温し、還流させる。次にイオン交換水27.72gに塩酸1.51gを溶解させた水溶液を混合溶液に添加し、2時間反応させた後、得られた反応溶液を室温まで冷却する。塩酸にかえて、反応を促進させる触媒として作用する他の酸、例えば硝酸、リン酸を用いてもよい。反応後、副生成物としてエタノール及びメタノールが生成する。
【0043】
その後、反応溶液にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200gを加え、エタノール、メタノール、水、及び塩酸を減圧留去し、加水分解縮合物(ポリマー)を含む溶液が得られる。得られた溶液の溶媒には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが100%に近い重量比で含まれる。本合成例によるポリマーのGPCによる分子量は、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwが2000である。
【0044】
(合成例4)
本合成例では、式RSi(OR4−m(Rは有機基を示し、Rは炭素数が1乃至4のアルキル基を示し、mは0、1又は2を示す)で表される化合物として、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、及びメチルトリエトキシシランを用いる。
【0045】
テトラエトキシシラン62.47g、フェニルトリメトキシシラン8.49g、ビニルトリメトキシシラン6.35g、メチルトリエトキシシラン7.64g、及びエタノール84.95gを300mlのフラスコ中で混合し、得られた混合溶液をマグネチックスターラーにて撹拌しながら加温し、還流させる。次にイオン交換水に塩酸を溶解させた水溶液を混合溶液に添加し、2時間反応させた後、得られた反応溶液を室温まで冷却する。塩酸にかえて、反応を促進させる触媒として作用する他の酸、例えば硝酸、リン酸を用いてもよい。反応後、副生成物としてエタノール及びメタノールが生成する。
【0046】
その後、反応溶液にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200gを加え、エタノール、メタノール、水、及び塩酸を減圧留去し、加水分解縮合物(ポリマー)を含む溶液が得られる。得られた溶液の溶媒には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが100%に近い重量比で含まれる。本合成例によるポリマーのGPCによる分子量は、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwが6000である。
【0047】
(合成例5)
本合成例では、式RSi(OR4−m(Rは有機基を示し、Rは炭素数が1乃至4のアルキル基を示し、mは0、1又は2を示す)で表される化合物として、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、及びビニルトリメトキシシランを用いる。
【0048】
テトラエトキシシラン63.28g、フェニルトリメトキシシラン8.60g、ビニルトリメトキシシラン12.86g、及びエタノール84.75gを300mlのフラスコ中で混合し、得られた混合溶液をマグネチックスターラーにて撹拌しながら加温し、還流させる。次にイオン交換水に塩酸を溶解させた水溶液を混合溶液に添加し、2時間反応させた後、得られた反応溶液を室温まで冷却する。塩酸にかえて、反応を促進させる触媒として作用する他の酸、例えば硝酸、リン酸を用いてもよい。反応後、副生成物としてエタノール及びメタノールが生成する。
【0049】
その後、反応溶液にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200gを加え、エタノール、メタノール、水、及び塩酸を減圧留去し、加水分解縮合物(ポリマー)を含む溶液が得られる。得られた溶液の溶媒には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが100%に近い重量比で含まれる。本合成例によるポリマーのGPCによる分子量は、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwが4400である。
【0050】
(合成例6)
本合成例では、式RSi(OR4−m(Rは有機基を示し、Rは炭素数が1乃至4のアルキル基を示し、mは0、1又は2を示す)で表される化合物として、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、及びメチルトリエトキシシランを用いる。
【0051】
テトラエトキシシラン67.54g、フェニルトリメトキシシラン9.18g、メチルトリエトキシシラン8.26g、エタノール84.98gを300mlのフラスコ中で混合し、得られた混合溶液をマグネチックスターラーにて撹拌しながら加温し、還流させる。次にイオン交換水に塩酸を溶解させた水溶液を混合溶液に添加し、2時間反応させた後、得られた反応溶液を室温まで冷却する。塩酸にかえて、反応を促進させる触媒として作用する他の酸、例えば硝酸、リン酸を用いてもよい。反応後、副生成物としてエタノール及びメタノールが生成する。
【0052】
その後、反応溶液にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200gを加え、エタノール、メタノール、水、及び塩酸を減圧留去し、加水分解縮合物(ポリマー)を含む溶液が得られる。得られた溶液の溶媒には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが100%に近い重量比で含まれる。本合成例によるポリマーのGPCによる分子量は、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwが5000である。
【0053】
<耐溶剤評価>
合成例1によって得られる溶液23gに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート77gを添加し、さらにマレイン酸及びプロピレングリコールモノメチルエーテルを適量添加することによって、被膜形成用塗布液を調整する。合成例2によって得られる溶液23gにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート77gを添加し、上記同様に被膜形成用塗布液を調整する。合成例3によって得られる溶液25gにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート75gを添加し、上記同様に被膜形成用塗布液を調整する。合成例4によって得られる溶液23gにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート77gを添加し、上記同様に被膜形成用塗布液を調整する。合成例5によって得られる溶液23gにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート77gを添加し、上記同様に被膜形成用塗布液を調整する。合成例6によって得られる溶液23gにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート77gを添加し、上記同様に被膜形成用塗布液を調整する。
【0054】
シリコンウエハー上に、合成例1乃至合成例6の溶液を用いて前述のように調整された塗布液を、スピナーを用いたスピンコート法によって塗布する。その後、240℃の温度に保持したホットプレート上でそのシリコンウエハーを1分間加熱することで塗布液を硬化させ、被膜を形成する。被膜が形成されたシリコンウエハーを、フォトレジストの溶剤として使用されるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに1分間浸漬する。浸漬前と浸漬後での被膜の膜厚変化は、どの合成例によって得られる溶液から調整された塗布液を使用する場合においても2nm以下である。この結果は、形成された被膜がレジスト下層膜に適用可能なことを示している。
【0055】
<耐現像液評価>
シリコンウエハー上に、合成例1乃至合成例6の溶液を用いて前述のように調整された塗布液を、スピナーを用いたスピンコート法によって塗布する。その後、240℃の温度に保持したホットプレート上でそのシリコンウエハーを1分間加熱することで塗布液を硬化させ、被膜を形成する。被膜が形成されたシリコンウエハーを、フォトレジストの現像液として一般に使用される2.38wt%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液に1分間浸漬する。浸漬前と浸漬後での被膜の膜厚変化は、どの合成例によって得られる溶液から調整された塗布液を使用する場合においても2nm以下である。この結果は、形成された被膜がレジスト下層膜に適用可能なことを示している。
【0056】
<光学定数>
シリコンウエハー上に、合成例1乃至合成例6の溶液を用いて前述のように調整された塗布液を、スピナーを用いたスピンコート法によって塗布する。その後、240℃の温度に保持したホットプレート上でそのシリコンウエハーを1分間加熱することで塗布液を硬化させ、膜厚0.09μmの被膜を形成する。分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製、VUV−VASE VU−302)を用いた、シリコンウエハー上に形成された被膜の、波長193nmでの屈折率n及び光学吸光係数(減衰係数ともいう)kの測定結果を表1に示す。
【0057】
〔表1〕
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
屈折率n 光学吸光係数k
合成例1の溶液から調整された塗布液を使用 1.48 0.00
合成例2の溶液から調整された塗布液を使用 1.67 0.23
合成例3の溶液から調整された塗布液を使用 1.85 0.55
合成例4の溶液から調整された塗布液を使用 1.66 0.23
合成例5の溶液から調整された塗布液を使用 1.69 0.25
合成例6の溶液から調整された塗布液を使用 1.65 0.25
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0058】
<ドライエッチング速度>
シリコンウエハー上に、合成例1乃至合成例3の溶液を用いて前述のように調整された塗布液を、スピナーを用いたスピンコート法によって塗布する。その後、240℃の温度に保持したホットプレート上でそのシリコンウエハーを1分間加熱することで塗布液を硬化させ、膜厚0.09μmの被膜を形成する。また、同様の方法により、シリコンウエハー上にフォトレジスト溶液(Shipley社製・商品名UV113)を塗布し、レジスト膜を形成する。
【0059】
次に、形成された被膜及びレジスト膜に対し、エッチングガスとしてCF及びOを使用してドライエッチングを行い、ドライエッチング速度を測定する。ドライエッチングに用いるエッチャーは、CFガスによるドライエッチング用としてES401(日本サイエンティフィック社製)、Oガスによるドライエッチング用としてRIE−10NR(サムコ社製)である。そして、レジスト膜のドライエッチング速度に対する被膜のドライエッチング速度の比(被膜のドライエッチング速度/レジスト膜のドライエッチング速度)を求めた結果を表2に示す。この結果は、形成された被膜はレジスト下層膜として適用可能なことを示している。
【0060】
〔表2〕
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
CF
合成例1の溶液から調整された塗布液を使用 1.32 0.01
合成例2の溶液から調整された塗布液を使用 1.44 0.02
合成例3の溶液から調整された塗布液を使用 1.55 0.04
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0061】
上記の耐溶剤評価、耐現像液評価、光学定数、及びドライエッチング速度は、プロピレングリコールモノメチルエーテルの代わりにプロピレングリコールモノプロピルエーテルが添加された塗布液を用いて形成された被膜であっても実質的に変化しない。また、マレイン酸を添加しない塗布液(保存期間0日)を用いて形成された被膜の場合、上記の耐溶剤評価、耐現像液評価、光学定数、及びドライエッチング速度に関して、マレイン酸が添加された塗布液を用いて形成された被膜の場合と比較して実質的な変化はない。
【0062】
(実施例1)
合成例4の溶液125.46gに、マレイン酸0.73g(1.26mmol/kg)、プロピレングリコールモノメチルエーテル237.50g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート136.31gを添加して、本発明に係る被膜形成用塗布液を調整する。
【0063】
(実施例2)
合成例4の溶液125.46gに、マレイン酸0.73g(1.26mmol/kg)、プロピレングリコールモノメチルエーテルの代わりにプロピレングリコールモノプロピルエーテル237.50g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート136.31gを添加して、本発明に係る被膜形成用塗布液を調整する。
【0064】
(比較例1)
マレイン酸を添加しない点、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル又はプロピレングリコールモノプロピルエーテルを添加しない点が、実施例1及び実施例2とは異なる例である。すなわち、合成例4の溶液23gにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート77gを添加して、被膜形成用塗布液を調整する。
【0065】
(比較例2)
マレイン酸にかえて、トランス型の二価カルボン酸であるフマル酸を用いる点が、実施例1及び実施例2とは異なる例である。すなわち、合成例4の溶液125.46gにフマル酸0.73g(1.26mmol/kg)、プロピレングリコールモノメチルエーテル237.50g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート136.31gを添加して、被膜形成用塗布液を調整する。
【0066】
(比較例3)
マレイン酸にかえて、DL−リンゴ酸を用いる点が、実施例1及び実施例2とは異なる例である。すなわち、合成例4の溶液124.89gにDL−リンゴ酸0.84g(1.25mmol/kg)、プロピレングリコールモノメチルエーテル237.50g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート136.77gを添加して、被膜形成用塗布液を調整する。
【0067】
(比較例4)
マレイン酸にかえてコハク酸を用いる点が、実施例1及び実施例2とは異なる例である。すなわち、合成例4の溶液125.40gにコハク酸0.74g(1.25mmol/kg)、プロピレングリコールモノメチルエーテル237.50g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート136.77gを添加して、被膜形成用塗布液を調整する。
【0068】
(比較例5)
マレイン酸を添加しない点が実施例2とは異なる例である。すなわち、合成例4の溶液129.22gにプロピレングリコールモノプロピルエーテル237.50g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート133.27gを添加して、被膜形成用塗布液を調整する。
【0069】
<保存安定性評価>
調整された塗布液を室温よりも高い35℃の温度で最大1ヶ月間保存し、保存前と保存期間経過後の分子量分布の変化の有無によって、保存安定性の評価を行う。
【0070】
実施例1によって調整された塗布液(保存期間0日)について、GPCにより測定した分子量分布を図1(A)に示す。その塗布液を35℃の温度で1週間保存したもの、同温度で2週間保存したもの、同温度で1ヶ月間保存したものについて、GPCにより測定した分子量分布をそれぞれ図1(B)、図1(C)、図1(D)に示す。そして、図1(A)乃至図1(D)に示す分子量分布を全て重ねた結果を図2に示す。図2を参照すると、35℃の温度で少なくとも1ヶ月間の保存によって、塗布液の分子量分布は実質的に変化しないことがわかる。つまり、保存安定性に優れることを示している。
【0071】
実施例2によって調整された塗布液(保存期間0日)と、35℃の温度で1ヶ月間保存した塗布液について、GPCによる分子量分布は、図1(A)、図1(D)と同様である。よって、35℃の温度で少なくとも1ヶ月間の保存によって、塗布液の分子量分布は実施例1と同様に実質的に変化しない。
【0072】
比較例1によって調整された塗布液(保存期間0日)と、その塗布液を35℃の温度で1週間保存したもの、同温度で2週間保存したもの、同温度で1ヶ月間保存したものについて、GPCにより測定した分子量分布を全て重ねた結果を図3に示す。35℃の温度で2週間及び1ヶ月間保存することにより、塗布液の分子量分布は変化し、具体的には、相対的に高分子量の重合体の割合が増加する一方、相対的に低分子量の重合体の割合が減少している。つまり、マレイン酸が添加されている場合と比較して、保存安定性が悪いことを示している。
【0073】
比較例2によって調整された塗布液(保存期間0日)と、その塗布液を35℃の温度で1ヶ月間保存したものについて、GPCにより測定した分子量分布を全て重ねた結果を図4に示す。35℃の温度で1ヶ月間保存することにより、塗布液の分子量分布は変化し、具体的には、相対的に高分子量の重合体の割合が増加する一方、相対的に低分子量の重合体の割合が減少している。つまり、マレイン酸が添加されている場合と比較して、保存安定性が悪いことを示している。
【0074】
比較例3によって調整された塗布液(保存期間0日)と、その塗布液を35℃の温度で1ヶ月間保存したものについて、GPCにより測定した分子量分布を全て重ねた結果を図5に示す。35℃の温度で1ヶ月間保存することにより、塗布液の分子量分布は変化し、具体的には、相対的に高分子量のポリマーの割合が増加する一方、相対的に低分子量のポリマーの割合が減少している。つまり、マレイン酸が添加されている場合と比較して、保存安定性が悪いことを示している。
【0075】
比較例4によって調整された塗布液(保存期間0日)と、その塗布液を35℃の温度で1ヶ月間保存したものについて、GPCにより測定した分子量分布を全て重ねた結果を図6に示す。35℃の温度で1ヶ月間保存することにより、塗布液の分子量分布は変化し、具体的には、相対的に高分子量のポリマーの割合が増加する一方、相対的に低分子量のポリマーの割合が減少している。つまり、マレイン酸が添加されている場合と比較して、保存安定性が悪いことを示している。
【0076】
比較例5によって調整された塗布液(保存期間0日)と、その塗布液を35℃の温度で1週間保存したもの、同温度で2週間保存したもの、同温度で1ヶ月間保存したものについて、GPCにより測定した分子量分布を全て重ねた結果を図7に示す。35℃の温度で2週間及び1ヶ月間保存することにより、塗布液の分子量分布は変化し、具体的には、相対的に高分子量のポリマーの割合が増加する一方、相対的に低分子量のポリマーの割合が減少している。つまり、マレイン酸が添加されている場合と比較して、保存安定性が悪いことを示している。
【0077】
<半導体装置の製造>
有機膜が形成されたシリコンウエハーの有機膜上に、前述の実施例1又は実施例2で調整された塗布液を、スピナーを用いたスピンコート法によって塗布する。その後、240℃の温度に保持したホットプレート上でそのシリコンウエハーを1分間加熱することで塗布液を硬化させ、レジスト下層膜を形成する。
【0078】
その後、レジスト下層膜上にフォトレジスト溶液(Shipley社製・商品名UV113)を塗布し、硬化させることで、レジスト膜を形成する。レジスト膜の形成法は、レジスト下層膜を形成するのと同様の方法を用いればよい。
【0079】
形成されたレジスト膜をレチクル(フォトマスク)を介して露光する。露光後、150℃以下の温度例えば100℃で、所定の時間例えば1分間加熱してもよい。それから、現像することにより、所定の形状のレジストパターンを形成する。現像液としては、例えば2.38wt%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を用いることができる。そして、そのレジストパターンをマスクとして、CFを含むガスを用いてレジスト下層膜に対しドライエッチングを行い、レジスト下層膜のパターンを形成する。
【0080】
形成されたレジスト下層膜のパターン及びレジストパターンをマスクとして、Oを含むガスを用いてシリコンウエハー上に形成された有機膜に対しドライエッチングを行う。その際、レジスト下層膜は残存するが、レジストパターンは除去される。こうして、シリコンウエハー上に有機膜のパターンが形成される。
【0081】
引き続き、公知の技術によりシリコンウエハーを加工するなどの工程を経て、各種半導体装置を作製することができる。なお、最終的に作製される半導体装置では、有機膜のパターン及びレジスト下層膜のパターンは除去されている。以上のように、本発明に係る被膜形成用塗布液は、半導体装置を製造する際のリソグラフィ工程に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る被膜形成用塗布液は、スピンコート法等により基板上に塗布後、硬化させて、Si−O−Si結合を有するシロキサンポリマーの膜を形成するために使用される。そのように使用される用途として、レジスト膜の下部に形成されるレジスト下層膜、基板の凹凸面上に形成される平坦化膜などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施例1及び2に対応する、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により測定した分子量分布を示す図である。
【図2】図1(A)乃至図1(D)の分子量分布を全て重ねた状態を示す図である。
【図3】比較例1に対応する、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により測定した分子量分布を示す図である。
【図4】比較例2に対応する、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により測定した分子量分布を示す図である。
【図5】比較例3に対応する、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により測定した分子量分布を示す図である。
【図6】比較例4に対応する、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により測定した分子量分布を示す図である。
【図7】比較例5に対応する、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により測定した分子量分布を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si−O−Si結合を有すると共にシラノール基を有する重合体と、式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される有機溶媒と、シス型の二価カルボン酸を溶解可能な有機溶媒と、シス型の二価カルボン酸とを含む被膜形成用塗布液。
【請求項2】
Si−O−Si結合を有すると共に有機基及びシラノール基を有する重合体と、式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される有機溶媒と、シス型の二価カルボン酸を溶解可能な有機溶媒と、シス型の二価カルボン酸とを含む被膜形成用塗布液。
【請求項3】
請求項2において、前記有機基はアリール基、アルケニル基、アルキル基、オキシアルキル基、エポキシ基、アミノ基、アシル基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、メルカプト基からなる群から選択される少なくとも1種の基又2種以上が組み合わせられた基である被膜形成用塗布液。
【請求項4】
請求項3において、前記アリール基はフェニル基であり前記アルケニル基はビニル基である被膜形成用塗布液。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、前記シス型の二価カルボン酸を溶解可能な有機溶媒はプロピレングリコールモノメチルエーテル又はプロピレングリコールモノプロピルエーテルであり、前記シス型の二価カルボン酸はマレイン酸である被膜形成用塗布液。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、前記式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される有機溶媒はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである被膜形成用塗布液。
【請求項7】
基板上に請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の被膜形成用塗布液を塗布し、硬化させてレジスト下層膜を形成する工程と、
前記レジスト下層膜上にレジスト膜を形成する工程と、
前記レジスト膜を露光し、現像することによって、レジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして、前記レジスト下層膜をドライエッチングする工程と、
を含む半導体装置の製造方法。
【請求項8】
式RSi(OR4−m(Rは有機基を示し、Rは炭素数が1乃至4のアルキル基を示し、mは0、1又は2を示す)で表される少なくとも1種の化合物を第1の有機溶媒中で加水分解させ、さらに縮合反応させることによって、Si−O−Si結合を有すると共にシラノール基を有する重合体を作製する工程と、
少なくとも式ROHで表される化合物をエバポレーションにより除去する工程と、
式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される第2の有機溶媒、シス型の二価カルボン酸を溶解可能な第3の有機溶媒、及びシス型の二価カルボン酸を添加する工程と、
を含む被膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項9】
式RSi(OR4−m(Rは有機基を示し、Rは炭素数が1乃至4のアルキル基を示し、mは0、1又は2を示す)で表される少なくとも1種の化合物を第1の有機溶媒中で加水分解させ、さらに縮合反応させることによって、Si−O−Si結合を有すると共にシラノール基を有する重合体を作製する工程と、
少なくとも式ROHで表される化合物をエバポレーションにより除去する工程と、
式R(OCHCHCHOCOCH(Rは炭素数1乃至4のアルキル基を示し、nは1又は2を示す)で表される第2の有機溶媒を添加する工程と、
シス型の二価カルボン酸を溶解可能な第3の有機溶媒及びシス型の二価カルボン酸を添加する工程と、
を含む被膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は請求項9において、前記エバポレーションにより除去する工程の前に、前記第2の有機溶媒を添加する工程を含む被膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項11】
請求項8乃至請求項10のいずれか一項において、前記Rはアリール基、アルケニル基、アルキル基、オキシアルキル基、エポキシ基、アミノ基、アシル基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、メルカプト基からなる群から選択される少なくとも1種の基又は2種以上が組み合わせられた基である被膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項12】
請求項11において、前記アリール基はフェニル基であり前記アルケニル基はビニル基である被膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項13】
請求項8乃至請求項12のいずれか一項において、前記第1の有機溶媒は前記加水分解させる化合物を溶解するものである被膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項14】
請求項8乃至請求項13のいずれか一項において、前記第2の有機溶媒はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである被膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項15】
請求項8乃至請求項14のいずれか一項において、前記第3の有機溶媒はプロピレングリコールモノメチルエーテル又はプロピレングリコールモノプロピルエーテルであり、前記シス型の二価カルボン酸はマレイン酸である被膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項16】
請求項8乃至請求項15のいずれか一項において、前記加水分解は前記エバポレーションによって除去可能な酸の存在のもと行われる被膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項17】
請求項16において、前記酸は前記第1の有機溶媒又は水に溶解するものである被膜形成用塗布液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−112966(P2010−112966A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58646(P2007−58646)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】