説明

被覆された蛍光体、この種の蛍光体を有する発光装置及びその製造方法

被覆された蛍光体は、被覆されている個々の粒子の粉末から形成され、その際、前記被覆層は粒子状の性質を有し、多層であり、かつ層厚は少なくとも20nmである。この場合、個々の一次粒子は少なくとも5nmの大きさである。前記蛍光体は放射線を発する装置中で使用される。この製造方法は乾式混合に基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載された被覆された蛍光体に関する。これは、特に発光装置、例えばランプ又はLED又はこれらの放射線源を有する照明において使用するための蛍光体である。本発明の他の態様は、被覆された蛍光体の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
EP 1 199 757からは、すでに被覆された蛍光体、この種の蛍光体を有する発光装置及びその製造方法は公知であり、その際、LED及び蛍光体層が使用される。実施態様において、蛍光体としてSrS:Euが使用され、この蛍光体は寿命を改善するために100nmの層厚を有するSiOで被覆されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、蛍光体の加工の際の劣化に対しても、蛍光体を含有する放射線を発する装置中で使用する場合でも安定化されている、請求項1の上位概念に記載の被覆された蛍光体を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、請求項1の特徴部により解決される。特に有利な態様は、引用形式請求項に記載されている。
【0005】
この提案された安定化は、蛍光体を装置に導入することを容易にする。更に、従って、蛍光体の屈折率を適切に調節し、かつその周囲環境、例えば樹脂に適合させるために一つの手段が付与される。
【0006】
蛍光体粒子の表面上に保護層を設けるための今までの通常の方法は、湿式化学的析出又はCVDが使用されていた。
【0007】
この方法は高い費用をかけて実現できるだけであり、時間もかかりかつ高価である。更に、この方法は、多くの蛍光体において被覆を付与するために使用できない、それというのも、前記蛍光体は化学的方法に対して又はそれに必要な熱処理に対して安定性が十分ではないためであるか、又は同様に前記蛍光体はその粒度、粒子形状又は粒度分布に基づき流動層法のために適していないためである。
【0008】
本発明による方法は、たいていは火炎加水分解により製造されるようなナノスケールの粒子の高い反応性に基づく。この粒子の典型的な表面積はBETにより30〜500m/gである。粒子として、特に無機物質、例えば金属酸化物、特にAl、Si、Ti又はZrの酸化物が挙げられる。この粒子は、簡単に蛍光体粉末と混合することができ、しかも乾式法で、例えばボールミル中で又は偏心ドラムミキサー中で混合することができる。これは、均質化する混合であり、粉砕ではない。この場合、湿式化学反応も必要なく、かつ熱処理も必要ない。この被覆は、混合過程で、ナノスケールの材料の大きな表面積及び吸着能力に基づき行われる。この一次粒子サイズは、一般に5〜30nmの平均値d50である。蛍光体粒子上でのこの層厚は、少なくとも20nm、一般に50〜100nmであるが、著しく厚い層厚であることもできる。
【0009】
このように乾式で設けられた層の典型的な特徴は、その粒子状の性質であり、つまり、前記の層構成要素は個々の一次粒子に属していることがなお明らかに認識できることである。
【0010】
本発明の場合に、蛍光体粒子をナノメートルのサイズの無機粒子での被覆が行われ、その際、生じた層厚はこれらの粒子の複数の層からなることができる。この被覆は簡単な乾式法によって実現される。被覆材料の粒子は、親水性又は疎水性であることができる。
【0011】
析出又はCVDにより製造された公知の被覆の場合には、層厚は極めて均一である。この場合に、粒子と層材料との熱膨張率が相互に良好に合っていない場合に、層中に容易に亀裂が形成されるという危険がある。それに対して、不均一な層はこの観点ではあまり敏感ではない、それというのも、この性質は主に被覆中の一次粒子によって影響されるためである。
【0012】
更に、本来の蛍光体の正確な選択が行われる。特定の蛍光体、例えば硫化Sr:Euは被覆によっても十分には安定化されないが、他方で意外な明らかな結果を達成することができる。このことは、特にクロロシリケート、チオガレート及びアルミン酸塩に該当する。
【0013】
本来の蛍光体の例は、LED中に使用するための親水性表面を有する水分に敏感な蛍光体(350〜490nmで一般に励起)であり、例えば、クロロシリケート、例えば公知のクロロシリケート:Eu又はクロロシリケート:Eu、Mn(例えばDE 100 26 435から公知)、又はチオガレート(例えばDE 100 28 266から公知)である。これらは、加工時の水分及び温度によって、特に、LEDの一次発光としてこの種の装置の運転の際に使用されることが多い青色放射線の存在で樹脂内への水分の拡散によって損傷されてしまう。更に、この親水性蛍光体を疎水性樹脂中へ導入することはアグロメレーション及び著しい沈降を引き起こす。
【0014】
ランプに使用する(一般に150〜260nmで励起)ために、特に成果が証明済みの被覆を備えた蛍光体は、アルミン酸ストロンチウム、特に、Hg−低圧蛍光灯又はHg−高圧放電ランプに使用するための公知のSrAl1425:Euである。被覆材料のための具体的な例は次のものである:
− 火炎加水分解により製造された、ナノ結晶Al、特にDegussa社の商品名Aluminiumoxid C(AlonC)のAl
− 親水性又は疎水性アエロジル(Aerosile)、タイプSiO及び他の熱分解シリカ;
− ナノスケールの蛍光体、例えばナノ−Y:Eu。
【0015】
この被覆の特別な利点は、この被覆が他の疎水性媒体、例えばLEDの場合のエポキシ樹脂中への蛍光体の均一な導入を改善することであり、これは、高品質なLEDのためにほとんど不可欠である。具体的な例は疎水性アエロジルである。
【0016】
ナノ−TiO又は高い屈折率を有する他の材料、例えばZrOを用いて被覆を行う場合には、このナノ層は、蛍光体とそれを取り囲む媒体(樹脂)との間の中間の屈折率を有する区域を形成し、それにより、反射損が低減される。被覆のために適した蛍光体の具体的な例は、YAG:Ce、TbAG:Ce、クロロシリケート及びチオガレート、特にMg含有チオガレートである。
【0017】
ここに記載された層は、すでに最初に被覆された粒子上の第2の層として設けることもできる。この場合に、粒子の概念は、本来の粒子と一次被覆とを含めたものを意味する。
【0018】
図面の簡単な説明
次に、本発明を、複数の実施例を用いて詳説する。
【0019】
図1は、白色光用の光源(LED)として利用する半導体デバイスを表す。
【0020】
図2は、本発明による蛍光体を有する照明ユニットを表す。
【0021】
図3及び4は、未被覆の蛍光体及び本発明による被覆された蛍光体のSEM写真を表す。
【0022】
図5は、ランプ中に導入された後の、本発明による被覆された蛍光体のSEM写真を表す。
【0023】
図6及び7は、未被覆の蛍光体及び被覆された蛍光体を用いたランプにおける、光損失及び光束の比較を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
GaInN−チップを備えた白色LED中で使用するために、例えばUS 5 998 925に記載されたような構造を使用する。白色光のためのこの種の光源の構造は、図1に詳細に示されている。この光源は、第1の及び第2の電気的端子2,3を備えた、ピーク発光波長460nmのInGaNタイプの半導体デバイス(チップ1)であり、前記半導体デバイスは光不透過性の基体ケーシング8中の凹設部9の範囲内に埋め込まれている。端子の一方3は、ボンディングワイヤ14を介してチップ1と接続している。この凹設部は壁部17を有し、この壁部17はチップ1の青色の一次放射線のためのリフレクタとして利用される。この凹設部9は注型材料5で充填されていて、この注型材料は主成分としてエポキシ注型樹脂(80〜90質量%)と蛍光体顔料6(15質量%未満)とを含有する。他のわずかな成分は、特にメチルエーテル及びアエロジル(Aerosil)である。この蛍光体顔料は、硫化物を含む複数の顔料からなる混合物である。
【0025】
図2では、照明ユニットとして面光源装置20の断面図が示されている。この装置は、共通の支持体21と、その上に接着された直方形の外部ケーシング22からなる。その上側には、共通のカバー23が設けられている。この直方形のケーシングは、個々の半導体デバイス24を収納している空間を有する。前記半導体デバイスは、380nmのピーク発光を示すUV放射する発光ダイオードである。白色光への変換は、図1に記載されているように個々のLEDの注型樹脂中で直接設けられている変換層を用いて又はUV放射線の全てが到達可能な面に取り付けられた層25を用いて行われる。これには、ケーシングの側壁、カバー及び底部の内側の表面が属する。前記変換層25は、本発明による蛍光体の利用下で、黄、緑及び青のスペクトル領域で発光する3種の蛍光体からなる。
【0026】
本発明による蛍光体は、例えばDegussa社のアエロジル(Aerosil R 812)による35nmの厚さの被覆により安定化されているCa8−x−yEuMnMg(SiOClタイプのクロロシリケート(0≦y≦0.06)である。それにより、未被覆のクロロシリケートと比較して、メンテナンスが少なくとも5%改善される。このメンテナンスは、80℃で80%の湿度での1000時間の運転時時間後の光束の減少を表す。このAerosil R 812は火炎加水分解により製造される。この製造は、両方の成分である蛍光体とアエロジルとを偏心ドラムミキサー中で20時間にわたり簡単に混合することにより行われる。
【0027】
他の例は、親水性Alon C(Al)で被覆されたSrAl1425:Euである。これは、Hg−低圧蛍光灯、例えば36WタイプのT8ランプのために使用される。。蛍光体−水−懸濁は通常の方法で行う。これは、100時間後の光束の、一般に10%の増加を示す。特に、同じ測定条件下で極めて低い光束の減少の際に、初期光束もしくは100時間の点灯時間後の光束の17%までの改善が確認される。
【0028】
具体的な実施例の場合には、100時間後の蛍光体による発光効率は未被覆のもので113.3%(標準値100%に対して)であり、同じ条件下でAlon C被覆は123.3%の値、つまり9%の向上が生じる。蛍光体が原因のこの光損失は未被覆の蛍光体の場合に1.4%であり、それに対して被覆された蛍光体の場合には0.3%のわずかな増加が観察された。
【0029】
図3は、本発明による被覆された蛍光体(図4)と比較した未被覆の蛍光体の5000倍に拡大したSEM写真を表す。図4において層の粒子状の性質が明らかに認識できる。この層は、ベース材料の未被覆の粒子の明確な輪郭と比較して、細孔を備えたスポンジ状のように又はベース材料上にカビが生えたように見える、図3参照。両方の図は、同じ拡大尺度で撮影されている。層の粒子状の性質とは、特に、ベース材料の粒子上の層が不均一でありかつその一次粒子の構造がなお良好に、個々の石からなる丸石の堆積物に類似しているように認識されることを意味する。拡大の尺度に依存して、前記粒子状の性質は、なお草が茂っている場合のように、軽度に平滑化されているように見えることもある。この層の一次粒子により製造された構造は、ベース材料の一般的な直径よりも著しく小さい。一般に、ベース材料の粒子と被覆材料の粒子との間のスケール差は、100倍、少なくとも10倍である。被覆材料の一次粒子は、均質な層を形成する方法、例えばCVD又は有機被覆とは反対に不均一に塊状になる。この場合、一次粒子はアグリゲート又はアグロメレートに凝固する。ベース材料の表面のわずかな部分が被覆を有していない場合も排除しない。もちろん、全表面は少なくとも単層で被覆されているのが有利である、これは例えば相応して長い乾式混合によって達成することができる。この層厚は、著しく可変であり、最良には所定の面積に関する平均的な層厚によって表され、この平均的な層厚は単位面積当たりの塗布された重量から導き出すことができる。一次粒子のサイズの尺度で見て、この層厚は、ハニカム構造の場合又は目の粗いネットが多層に重ねられている表面の場合のように著しく変化する。
【0030】
図5は、蛍光灯のガラス管上に塗布された後の蛍光体を示す。蛍光体は被覆材料と乾式に混合されているだけであるが、この蛍光体は高い付着性を示し、この蛍光体はランプ製造のプロセスの間に被覆として維持される。この特性は、特に層の一次粒子のわずかなサイズ及びそれと関連した高い反応性に起因する。
【0031】
28W電力のT5蛍光灯に関する試験は、蛍光体の被覆により明らかな改善を示す。図6及び7には、当初の値と比較した100時間後の光損失を、ルーメンで示す当初の値と100時間後の光束の絶対値とのパーセントで示した。ベース材料として使用した蛍光体は、アルミン酸Sr:Eu2+である。前記蛍光体の粒子上に乾式被覆によって塗布された被覆は、Alon Cである。未被覆の蛍光体を有する蛍光灯の100時間後の光損失は約29%で、被覆された蛍光体を有する蛍光灯の約19%の光損失よりも明らかに高い;図6参照。この光損失の絶対値は、未被覆の蛍光体を有する蛍光灯の場合に100時間後ですでに、被覆された蛍光体を有する蛍光灯の場合よりも明らかに低い。同様の試験を54Wの電力段階のより高い負荷のT5蛍光灯を用いて実施した。この試験は、あまり顕著ではないが、同じ特徴の傾向を示した。未被覆の蛍光体を有する蛍光灯の100時間後の光損失は約24%で、被覆された蛍光体を有する蛍光灯の約21%の光損失よりも高い。
【0032】
出発材料のベース材料と被覆材料との混合時間は、材料の種類及び状態に応じて5〜30時間であるのが好ましい。
【0033】
ベース材料の粒子のサイズは、一般的にマイクロメータ範囲にあり、特にd50の値は1〜10μmの範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】白色光用の光源(LED)として利用する半導体デバイスを示す図。
【図2】本発明による蛍光体を有する照明ユニットを示す図。
【図3】未被覆の蛍光体のSEM写真。
【図4】本発明による被覆された蛍光体のSEM写真。
【図5】ランプ中に導入された後の、本発明による被覆された蛍光体のSEM写真。
【図6】未被覆の蛍光体及び被覆された蛍光体を用いたランプにおける光損失を比較したグラフ。
【図7】未被覆の蛍光体及び被覆された蛍光体を用いたランプにおける光束を比較したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース材料として蛍光体の個々の粒子の粉末により形成され、前記粒子は被覆材料で被覆されている被覆された蛍光体において、被覆層は多層であり、かつ粒子状の性質を有し、その際、前記層の個々の一次粒子は少なくとも5nmの大きさであり、かつ平均層厚は少なくとも20nmであることを特徴とする、被覆された蛍光体。
【請求項2】
ベース材料の蛍光体は、ガーネット、特に希土類ガーネット、クロロシリケート、チオガレート並びにアルミン酸塩、特にアルミン酸ストロンチウムのグループから選択されることを特徴とする、請求項1記載の被覆された蛍光体。
【請求項3】
被覆のために無機材料を選択することを特徴とする、請求項1記載の被覆された蛍光体。
【請求項4】
被覆のために、材料を火炎加水分解により製造された金属酸化物のグループから選択することを特徴とする、請求項1記載の被覆された蛍光体。
【請求項5】
層の一次粒子の平均粒度は、一次粒子のd50値として解釈して、最大30nm、有利に高くても15nmであることを特徴とする、請求項4記載の被覆された蛍光体。
【請求項6】
前記金属酸化物用の金属が、Al、Si、Ti、Zr、Yのグループから選択され、特にアエロジル又はAlon Cであることを特徴とする、請求項4記載の被覆された蛍光体。
【請求項7】
被覆のためにそれ自体蛍光体、特にY:Euを使用することを特徴とする、請求項1記載の被覆された蛍光体。
【請求項8】
平均層厚が40〜200nmであることを特徴とする、請求項1記載の被覆された蛍光体。
【請求項9】
被覆材料のBETによる比表面積は30〜500m/gであることを特徴とする、請求項3記載の被覆された蛍光体。
【請求項10】
UV領域又は可視光波長領域で放射線を発する少なくとも1つの放射線源と、前記放射線源の放射線を少なくとも部分的により長波長の放射線に変換する蛍光体層とを有する発光装置において、前記蛍光体層が請求項1から9までのいずれか1項記載の被覆された蛍光体から構成されている、発光装置。
【請求項11】
次の方法工程:
a) ベース材料として蛍光体粉末を準備する工程;
b) 被覆材料として火炎加水分解により製造された金属酸化物を準備する工程;
c) 前記の2つの材料を乾式混合する工程
を特徴とする、被覆された蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−518398(P2006−518398A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501508(P2006−501508)
【出願日】平成16年2月20日(2004.2.20)
【国際出願番号】PCT/DE2004/000325
【国際公開番号】WO2004/074400
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(390009472)パテント−トロイハント−ゲゼルシヤフト フユール エレクトリツシエ グリユーラムペン ミツト ベシユレンクテル ハフツング (152)
【氏名又は名称原語表記】Patent−Treuhand−Gesellschaft fuer elektrische Gluehlampen mbH
【住所又は居所原語表記】Hellabrunner Strasse 1, Muenchen, Germany
【出願人】(599133716)オスラム オプト セミコンダクターズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (586)
【氏名又は名称原語表記】Osram Opto Semiconductors GmbH
【住所又は居所原語表記】Wernerwerkstrasse 2, D−93049 Regensburg, Germany
【Fターム(参考)】