説明

装飾品、時計、電子機器および装飾品の製造方法

【課題】審美性の高い装飾品、時計、電子機器および装飾品の製造方法を提供すること。
【解決手段】カバーガラス1は、全体または一部が実質的に透明な第1の板状体2と、第1の板状体2の下面21に形成された溝31と、溝31内に着色剤を入れて着色をした着色部32とで構成された第1の装飾部3と、第1の板状体2の下面21側に接合され、全体または一部が実質的に透明な第2の板状体4と、第2の板状体4の下面41に装飾を施してなる第2の装飾部5とを備え、第1の装飾部3と第2の装飾部5とは、第1の板状体2の上面22側から視認される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾品、時計、電子機器および装飾品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、時計、携帯電話、液晶表示パネル、小型ゲーム機(携帯型ゲーム機)等の機器(電子機器)では、ユーザに対して情報(例えば、時刻、日付、ゲーム等)を表示する表示部が、カバーガラスを介して視認されるよう構成されている。
このカバーガラスには、表示部に立体感を与えたり、電子機器(カバーガラス自体)の装飾性(審美性)を高めたりするために、2枚のガラス板を重ね合わせたものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1では、携帯用時計のカバーガラスとして、表面側にあるサファイアガラスと、裏面側にあり、サファイアガラス以外の異種ガラスとで構成されたものが挙げられている。このカバーガラスでは、異種ガラスにカラーインクで装飾を施して(例えば、文字を描く等)、装飾性を担持させていた。
特許文献2では、時計用カバーガラスとして、前記特許文献1の構成とほぼ同様のものが挙げられている。このカバーガラスでは、サファイアガラスと異種ガラスとの間に、例えば印刷や塗装等による模様(装飾)を施していた。
しかしながら、このようなカバーガラスでは、装飾性を有する部位を平面的に介挿しているのみであるため、その部位の立体的外観が低くなり、カバーガラスの審美性が低くなるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平5−333164号公報
【特許文献2】特開平6−242260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、審美性の高い装飾品、時計、電子機器および装飾品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の装飾品は、全体または一部が実質的に透明な第1の板状体と、
前記第1の板状体の一方の面に形成された溝と、該溝内に着色剤を入れて着色をした着色部とで構成された第1の装飾部と、
前記第1の板状体の一方の面側に接合され、全体または一部が実質的に透明な第2の板状体と、
前記第2の板状体の前記第1の板状体と反対側の面に装飾を施してなる第2の装飾部とを備え、
第1の装飾部と前記第2の装飾部とは、前記第1の板状体の他方の面側から視認されることを特徴とする。
これにより、立体的で審美性の高い装飾品を提供することができる。
【0007】
本発明の装飾品では、前記第1の装飾部と前記第2の装飾部とは、平面視で、互いに少なくとも一部が重なり合っていることが好ましい。
これにより、第1の装飾部が第2の装飾部に対してより立体的に視認されて、装飾品をより審美性の高いものとすることができる。
本発明の装飾品では、前記第1の板状体は、その全面または一部にレンズの機能を有することが好ましい。
これにより、レンズを介して視認される箇所を強調(見易く)することができる。
【0008】
本発明の装飾品では、前記溝は、エッチングまたは超音波加工により形成されることが好ましい。
これにより、溝を容易に形成することができる。
本発明の装飾品では、前記溝の深さは、0.1〜2mmであることが好ましい。
これにより、第1の装飾部の立体的な表現がより効果的なものとなる。
【0009】
本発明の装飾品では、前記着色部は、蒸着または印刷により形成されることが好ましい。
これにより、着色部を確実に形成することができる。
本発明の装飾品では、前記第2の板状体の厚さは、0.5〜5mmであることが好ましい。
これにより、第1の装飾部と第2の装飾部との立体的な表現がより効果的なものとなる。
【0010】
本発明の装飾品では、前記第2の装飾部は、蒸着または印刷により形成されることが好ましい。
これにより、第2の装飾部を確実に形成することができる。
本発明の装飾品では、前記第1の板状体と第2の板状体とは、接着剤により接着されていることが好ましい。
これにより、第1の板状体と第2の板状体とを容易かつ確実に接着(接合)することができる。
【0011】
本発明の装飾品では、前記第1の板状体と第2の板状体とは、着色された接着剤により接着されていることが好ましい。
これにより、装飾性をより高めることができる。
本発明の装飾品では、前記第1の板状体および第2の板状体は、それぞれ、無機ガラスまたは樹脂で構成されることが好ましい。
これにより、強度の高い装飾品を得ることができる。
【0012】
本発明の時計は、本発明の装飾品を備えたことを特徴とする。
これにより、審美性の高い時計を提供することができる。
本発明の時計では、前記装飾品をカバーガラスとして用いたことが好ましい。
これにより、文字板に対する立体的表現が効果的な時計を提供することができる。
【0013】
本発明の時計では、前記第1の装飾部は、文字盤の機能を有することが好ましい。
これにより、時間を確認(把握)することができる。
本発明の電子機器は、本発明の装飾品を装飾部分として備えたことを特徴とする。
これにより、審美性の高い電子機器を提供することができる。
【0014】
本発明の装飾品の製造方法は、本発明の装飾品を製造する方法であって、
前記第1の板状体に前記溝を形成する溝形成工程と、
前記溝内に着色剤を入れて着色をして着色部を形成する着色工程と、
前記第2の板状体に装飾を施して第2の装飾部を設ける装飾工程と、
前記第1の板状体と前記第2の板状体とを接合する接合工程とを有することを特徴とする。
これにより、審美性の高い装飾品の製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、審美性の高い装飾品、時計、電子機器および装飾品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の装飾品、時計、電子機器および装飾品の製造方法を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。以下の説明では、本発明の時計(装飾品)を腕時計に適用した場合を例に挙げて説明する。
図1は、本発明の時計を適用した腕時計の斜視図、図2は、図1に示す腕時計が備えるカバーガラスの平面図、図3は、図2に示すカバーガラスの断面図である。以下、図1および図3中、上側を「上」、下側を「下」として説明する。
【0017】
図3に示すように、腕時計100が備えるカバーガラス(装飾品)1は、第1の板状体2と、第1の板状体2の下面21に設けられた第1の装飾部3と、第1の板状体2の下側(一方の面側)に接合された第2の板状体4と、第2の板状体4の下面41(第1の板状体と反対側の面)に設けられた(装飾を施してなる)第2の装飾部5とを備えている。第1の板状体2と第2の板状体4とは、接着層(接着剤)6を介して接着されている。
【0018】
第1の板状体2は、その全体が実質的に透明なものである。ここで、「実質的に透明」とは、可視光の透過度が50%以上程度の透明性を有するものをいう。また、「実質的に透明」には、無色透明の他、有色(着色)透明も含まれる。
なお、第1の板状体の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、無機ガラス、樹脂等が挙げられる。無機ガラスとしては、例えば、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、ハードレックス(強化無機ガラス)、クリアレックス(無反射処理)、スピネルガラス、サファイアガラス等が挙げられる、また、樹脂としては、例えば、ポリメチルメタアクリレート樹脂(PMMA)、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0019】
第2の板状体4は、第1の板状体2と同様に、その全体が実質的に透明なものである。なお、第2の板状体4の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、第1の板状体2で挙げたような材料を用いることができる。
特に、以下に述べるような理由により、第1の板状体2および第2の板状体4の構成材料としては、無機ガラスを用いることが好ましい。
【0020】
無機ガラスは、材料強度(強度)が高いため、例えば加圧や衝撃による変形、割れを少なくすることができ、傷が付きにくく、鏡面性も良くすることができる。これにより、カバーガラス1自体の強度を高く、視認性を良くすることができる。
また、無機ガラスは、接着剤による接着を容易に行うことができ、よって、高接着強度が得られる接着剤の種類や接着方法の選択の幅が広い。
【0021】
また、第1の板状体2と第2の板状体4との熱膨張係数は、ほぼ等しいものであることが好ましい。これにより、カバーガラス1では、温度が変化したときに両板状体の熱膨張係数が違うことにより生じる反り、たわみ、接着剥離等が防止される。
かかる観点からは、第1の板状体2と第2の板状体4とは、同じ材質で構成されていることが好ましい。これにより、温度変化時の熱膨張係数の相違による反り、たわみ、接着剥離等が効果的に防止される。
【0022】
また、第1の板状体2および第2の板状体4として無機ガラスを用いる場合、それぞれの表面に、後述する化学強化処理が施されていることが好ましい。これにより、第1の板状体2および第2の板状体4の強度が向上するため、カバーガラス1の強度が向上し、例えば薄型化が可能になり、衝撃などによる割れ、破損が生じるのを防止または抑制することができる。
【0023】
第1の板状体2では、上面22または下面21は自由形状でよいが、図3に示すように、上面22の一部が湾曲凸面であってもよい。これにより、第1の板状体2にレンズとしての機能を持たせることができる。
なお、レンズの機能を有する箇所は、例えば、第1の装飾部3を設けた箇所に対応する箇所とすることができる。これにより、第1の装飾部3を強調(見易く)することができる。すなわち、第1の装飾部3の立体的表現がより効果的なものとなる。
【0024】
また、第1の板状体2の一部が湾曲凸面であることにより、カバーガラス1のデザインの幅が広がり、カバーガラス1の審美性(装飾性)がより優れたものとなる。
図1に示すように、第2の板状体4は、平面視での大きさが第1の板状体2の大きさと同等である。
【0025】
第2の板状体4の厚さ(板厚)は、特に限定されず、例えば、0.3〜5mmであることが好ましく、0.5〜2mmであるのがより好ましい。これにより、カバーガラス1の上側(第1の板状体2の上面22側)から、第1の装飾部3と第2の装飾部5との距離的空間を確保し、効果的に立体的に視認させることが可能となり、カバーガラス1が審美性により優れたものとなる。
【0026】
また、第2の板状体4の厚さが前記下限値未満であると、第1の装飾部3と第2の装飾部5とを立体的にみせることが困難となるおそれがある。また、第2の板状体4の厚さが前記上限値を超えると、カバーガラス1の厚さが増加してしまい、腕時計の小型化において設計上不利となるおそれがある。
第1の装飾部3は、第1の板状体2の下面21(一方の面)に形成された溝31と、溝31に着色をした着色部32とで構成されている。
【0027】
平面視における溝31(第1の装飾部3)がなす(示す)形状としては、特に限定されないが、例えば、文字(数字)、記号、図形(模様)等を示すのであってもよい。ここでは、数字を採り上げて、第1の装飾部3が腕時計100の文字盤として機能する一例を挙げる。
図2に示すように、カバーガラス1には、4つの第1の装飾部3が設けられており、各第1の装飾部3が数字の「3」、「6」、「9」、「12」のいずれかを形成している。これにより、カバーガラス1の下側に位置するムーブメント140の指針が数字(第1の装飾部3)を指し示すこととなり、時間を確認(把握)することができる(図1参照)。
【0028】
また、第1の装飾部3を、溝31を用いて形成したことにより、カバーガラス1を上面22側からみたときに、第1の装飾部3が凸状となり、奥行きを有するものとなる、すなわち、立体的に視認される。
溝31の形成方法としては、特に限定されず、例えば、エッチング、レーザ加工、研削加工、超音波加工、ブラスト加工等が挙げられる。
【0029】
第1の板状体2が、無機ガラスのうちエッチングが可能な材料で構成されている場合には、溝31をエッチングにより形成することが好ましい。
エッチングによれば、第1の板状体2の割れ、欠け、加工面の荒れ等の発生が防止され、溝31を好適に(容易に)形成することができる。また、その加工面を容易に鏡面状態とすることができる。その結果、溝31に容易に光沢感のある着色をすることができる、すなわち、見栄えの良い着色部32を容易に設けることができる。
【0030】
なお、エッチング方法としては、特に限定されないが、例えば、ウエットエッチングによることが好ましい。ウエットエッチングにより、溝31をより好適に形成することができる。
また、エッチング液としては、特に限定されず、例えば、フッ酸を含むエッチング液(フッ酸系エッチング液)を用いることができる。これにより、第1の板状体2を選択的に(第1の板状体2の所望の箇所を)食刻することができ、溝31をより好適に形成することができる。
【0031】
また、第1の板状体2が、無機ガラスのうちのサファイアガラスで構成されている場合には、溝31をエッチングにより加工するのが困難であるため、超音波加工により形成することが好ましい。超音波加工によれば、溝31をたとえ複雑な形状としても、容易に形成することができる。その結果、第1の装飾部3をより立体的に表現することができたり、デザインの幅を広げたりすることができる。これにより、カバーガラス1が審美性により優れたものとなる。
【0032】
溝31の深さは、特に限定されず、例えば、0.1〜2mm程度が好ましく、0.2〜0.5mmがより好ましい。これにより、第1の装飾部3を効果的に立体的に表現することができ、よって、カバーガラス1が審美性により優れたものとなる。
また、溝31の深さが前記下限値未満であると、第1の装飾部3を立体的に表現することが困難となる。また、溝31の深さが前記上限値を超えると、第1の板状体2の強度を確保するために厚さを厚くすることが必要となり、カバーガラス1の厚さが増加することで、時計の薄型化において不利となる。
【0033】
着色部32の形成方法としては、特に限定されず、例えば、乾式メッキ法(気相成膜法)、印刷(例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、パッド印刷等)、塗装(例えば、ディッピング、はけ塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等)等の方法が挙げられるが、その中でも、乾式メッキ法によることが好ましい。各形成方法により、着色部32を確実に形成することができる。
【0034】
この乾式メッキ法としては、特に限定されないが、例えば、真空蒸着、スパッタリング、熱CVD、プラズマCVD、レーザCVD等の化学蒸着法(CVD)、イオンプレーティング、イオン注入等が挙げられるが、この中でも特に、真空蒸着が好ましい。
乾式メッキ法(真空蒸着)を用いて着色部32を形成することにより、第1の板状体2との密着性に優れた着色部32を得ることができる。その結果、得られるカバーガラス1は、着色部32が耐久性に優れたものとなる。
【0035】
また、乾式メッキ法を用いることにより、高密度の着色部32を形成することが可能となる。これにより、着色部32は、光沢度が大きく、より高い金属感が得られることとなり、カバーガラス1が美的外観に優れたものとなる。
また、乾式メッキ法を用いることにより、着色部32の厚さが比較的薄い場合であっても、均一な膜厚で形成することができる。
【0036】
また、乾式メッキ法を用いることにより、着色部32が必須元素以外の元素を含む複雑な組成のものであっても、着色部32を容易かつ確実に形成することができる。
乾式メッキ法による場合、着色部32の構成材料(着色剤)としては、特に限定されず、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、W等を主成分とするC、N、Oとの少なくとも一成分以上との化合物またはAu、Pt、Pd、Ag等の貴金属および合金を用いることができる。
【0037】
また、着色部32の下面に、保護膜33が形成されていてもよい(図2参照)。これにより、着色部32の剥離、変質を防ぐことができ、よって、着色部32(第1の装飾部3)が耐久性、耐食性に優れたものとすることができる。
平面視における第2の装飾部5がなす(示す)形状としては、特に限定されないが、例えば、文字(数字)、記号、図形(模様)等を示すのであってもよい。ここでは、第2の装飾部5がカバーガラス1(文字盤)の縁取りの模様を形成した場合を挙げる。
【0038】
図2に示すように、第2の装飾部5は、第2の板状体4の縁部に沿って帯状に形成された模様である。
第2の装飾部5の形成方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、乾式メッキ法(真空蒸着)、印刷(スクリーン印刷、オフセット印刷、パッド印刷等)、塗装(ディッピング、はけ塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等)等の方法が挙げられる。
これにより、第2の装飾部5を平面的に(確実に)形成することができ、カバーガラス1を上側からみたときに、第2の装飾部5が平坦に感じることとなる。その結果、第1の装飾部3を第2の装飾部5に対し浮き上がらせて見せることができ、よって、第1の装飾部3がより立体感を有するものとなる。
【0039】
また、図2に示すように、第1の装飾部3と第2の装飾部5とは、上側からみたときに(平面視で)、互いに一部が重なり合っている。これにより、第2の装飾部5が奥側(図3中の下側)により沈み込むように見え、第1の装飾部3が手前側(図3中の上側)により浮き上がるように見えることとなる。すなわち、第1の装飾部3が第2の装飾部5に対してより立体的に視認されることとなる。従って、カバーガラス1の高級感が増し、デザインの自由度も広がって、カバーガラス1の審美性がより向上する。
【0040】
前述したように、第1の板状体2と第2の板状体4とは、接着層(接着剤)6により接着されている。これにより、第1の板状体2と第2の板状体4とを容易かつ確実に接着(接合)することができる。
接着層6の構成材料としては、透明樹脂が用いられるのが好ましい。この透明樹脂としては、特に限定されず、例えば、エネルギー硬化性樹脂、可塑性樹脂等が挙げられる。
【0041】
エネルギー硬化性樹脂としては、光および熱のうち少なくともいずれか一方により硬化可能であるものを用いるのが好ましく、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。
特に、アクリル系樹脂は、入手が容易であるため、好ましい。
また、アクリル系樹脂は、柔軟性を有している。これにより、例えば第1の板状体2と第2の板状体4とが互いに異なる材料で構成される場合に、第1の板状体2と第2の板状体4との熱膨張係数が違うことにより生じる応力を接着層6で吸収・緩和して、温度変化によるカバーガラス1の反り、たわみ等を効果的に防止することができる。
【0042】
光硬化性のアクリル系樹脂の基本組成の具体例としては、プレポリマーまたはオリゴマー、モノマー、光重合開始剤を挙げることができる。
プレポリマーまたはオリゴマーとしては、例えば、エポキシアクリレート類、ウレタンアクリレート類、ポリエステルアクリレート類、ポリエーテルアクリレート類、スピロアセタール系アクリレート類等のアクリレート類、エポキシメタクリレート類、ウレタンメタクリレート類、ポリエステルメタクリレート類、ポリエーテルメタクリレート類等のメタクリレート類等を用いることができる。
【0043】
モノマーとしては、例えば、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニル−2−ピロリドン、カルビトールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、1,3−ブタンジオールアクリレート等の単官能性モノマー、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート等の二官能性モノマー、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能性モノマーを用いることができる。
【0044】
光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン類、α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン等のブチルフェノン類、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、α,α−ジクロル−4−フェノキシアセトフェノン等のハロゲン化アセトフェノン類、ベンゾフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、ベンジル、ベンジルジメチルケタール等のベンジル類、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル等のベンゾイン類、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等のオキシム類、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン等のキサントン類、ミヒラーケトン、ベンジルメチルケタール等のラジカル発生化合物を用いることができる。
【0045】
なお、接着層6には、酸素による硬化阻害を防止する目的でアミン類等の化合物を適宜添加してもよいし、塗布を容易にする目的で溶剤成分を適宜添加してもよい。
溶剤成分としては、特に限定されず、種々の有機溶剤、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシメチルプロピオネート、エトキシエチルプロピオネート、エチルラクテート、エチルピルピネート、メチルアミルケトン等が利用可能である。
また、可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、アモルファスポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂等をもちいることができる。
【0046】
接着層6の厚さとしては、特に限定されず、例えば、1〜200μmであるのが好ましく、5〜100μmであるのがより好ましい。これにより、第1の板状体2と第2の板状体4とを強固に接着することができる。また、例えば第1の板状体2と第2の板状体4とが互いに異なる材料で構成される場合、第1の板状体2と第2の板状体4との熱膨張係数が違うことにより生じる応力を十分に吸収し、温度変化によるカバーガラス1の反り、たわみ等が良好に防止される。
【0047】
接着層6の厚さが前記下限値未満であると、接着性が十分に得られない場合がある。このとき、例えば第1の板状体2と第2の板状体4とが互いに異なる材料で構成される場合に、第1の板状体2と第2の板状体4との熱膨張係数が違うことにより生じる応力を十分に吸収・緩和することが困難になり、温度変化による接着剥離、カバーガラス1の反り、たわみ等の防止が困難になるおそれがある。
【0048】
また、接着層6の厚さが前記上限値を超えると、カバーガラス1厚さ(総厚)が増加してしまい、腕時計100の小型化において、設計上不利となるおそれがある。また、接着層6の耐久性においても不利となる。
また、接着層6は、無色のものでもよいし、着色されているものでもよい。例えば、接着層6が着色されている場合、カバーガラス1が全体的に着色されたように視認され得る。これにより、カバーガラス1のデザインの幅が広がるとともに、審美性(美的外観)をより優れたものとすることができる。
接着層6への着色方法としては、特に限定されず、例えば、樹脂(接着層6)中に着色剤を添加する方法が挙げられる。
【0049】
着色剤としては、特に限定されず、例えば、ニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ顔料、スチルベンアゾ顔料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン染料、チアゾール染料、インダミン染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、キノフタロン、アンスラピリドンのような各種染料、アゾ系、ジスアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、ペリレン系、ペリノン系、ジオキサジン系、アンスラキノン系、イソインドリノン系のような各種有機顔料、硫酸鉛、チタンイエロー、酸化鉄系顔料、群青、コバルトブルー、酸化クロムグリーン、スピネルグリーン、ジンクイエロー、クロムバーミリオン、クロムイエロー、クロムグリーン、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、炭素粉末、酸化亜鉛、酸化チタンのような無機顔料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
接着層6に着色剤を添加する場合、その添加量(含有量)は、特に限定されないが、例えば、樹脂材料100重量部に対して、0.001〜1重量部であるのが好ましく、0.01〜0.1重量部であるのがより好ましい。
着色剤の添加量が前記下限値未満であると、着色剤の種類等によっては、着色剤の添加による着色の効果が発揮されない場合がある。また、着色剤の添加量が前記上限値を超えると、着色が濃くなり、接着層6の透明性が低下する場合があるため、カバーガラス1の透明性が低下するおそれがある。
【0051】
以上のような構成により、カバーガラス1(腕時計100)を審美性の高いものとすることができる。
次に、カバーガラス1の製造方法について、図4〜図6を参照し、説明する。なお、図4〜図6は、それぞれ、図2に示すカバーガラスの製造方法を説明するための断面図である。
また、以下では、第1の板状体2が、例えばソーダ石灰ガラス等のようなエッチング可能な無機ガラスで構成されている場合を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
[1]溝形成工程
まず、エッチング可能な無機ガラスで構成されている第1の板状体2の下面21に、エッチングにより溝31を形成する。
具体的には、図4(a)に示すように、第1の板状体2の両面にマスク7を形成する。マスク7は、第1の板状体2の下面21に形成されたマスク膜(マスク層)79と、第1の板状体2の上面22に形成された基板保護膜71とで構成されている。
【0053】
マスク膜79は、後述するウエットエッチングに対して耐久性を有するものが好ましい。換言すれば、マスク膜79は、エッチングレートが第1の板状体2とほぼ同等、またはそれより小さくなるように構成(形成)されているのが好ましい。
かかる観点からは、このマスク膜79を構成する材料としては、例えば、多結晶シリコン(ポリシリコン)、アモルファスシリコン、Au/Cr、Au/Ti、Pt/Cr、Pt/Ti、SiC等の金属、窒化シリコンなどが挙げられる。
【0054】
このような構成材料の中では、特に、多結晶シリコンが好ましい。これにより、マスク膜79にピンホール等の欠損(欠陥)が生じるのを防止することができる。従って、第1の板状体2に対しウエットエッチングを施して溝31を形成する場合には、不必要な部分(例えばピンホール等)にエッチング液が侵入するのが防止され、溝31を確実に(好適に)形成することが可能となる。
【0055】
マスク膜79の厚さは、マスク膜79を構成する材料によっても異なるが、例えばマスク膜79が多結晶シリコンで構成されている場合には、0.01〜10μm程度が好ましく、0.2〜3μm程度がより好ましい。
厚さがこの範囲の下限値未満であると、ウエットエッチングを施す際に、第1の板状体2にマスク膜79を施した部分を十分に保護できない場合がある。また、上限値を超えると、マスク膜79が剥がれ易くなる場合がある。
【0056】
マスク膜79を多結晶シリコンで構成する場合には、例えば化学気相成膜法(CVD法)によると、マスク膜79を好適に形成することができる。この方法により、緻密で(密度が高く)、第1の板状体2に対し密着力のあるマスク膜79を形成することができる。
なお、多結晶シリコンで構成されたマスク膜79をCVD法で形成する場合、マスク膜79形成時の温度は、特に限定されないが、例えば、100〜700℃程度が好ましく、200〜600℃程度がより好ましい。
このような形成条件により、マスク膜79を好適に形成することができる。
【0057】
基板保護膜71は、次工程以降で第1の板状体2の下面21を保護するためのものである。この基板保護膜71により、第1の板状体2の下面21の侵食、劣化等が好適に防止される。この基板保護膜71は、例えば、マスク膜79と同様の材料で構成されているのが好ましい。これにより、マスク膜79の形成と同様に(同時に)、基板保護膜71を設けることも可能である。
【0058】
次に、図4(b)に示すように、形成される溝31に対応した箇所のマスク膜79に、開口72を形成する。
この開口72の形成方法は、特に限定されないが、例えば、まず、マスク膜79(マスク7)に、開口72に対応した第2のレジスト(例えばフォトレジスト等)を塗布する。その後、第2のマスクでマスクされていない部分のマスク膜79を除去する。次に、第2のマスクを除去することにより行う。第2のマスクは後述するエッチング工程後に除去しても良い。
なお、マスク膜79の除去は、マスク膜79が多結晶シリコンで構成されている場合、例えば、CFガス、塩素系ガス等によるドライエッチング、フッ酸+硝酸水溶液、アルカリ水溶液等の剥離液への浸漬(ウエットエッチング)などにより行うことができる。
【0059】
次に、図4(c)に示すように、第1の板状体2にウエットエッチングを施し、第1の板状体2の下面21に溝31を形成する。このとき、第1の板状体2は、マスク膜79(マスク7)が存在しない部分、すなわち、開口72から露出している下面21が食刻される。
マスク膜79の形成時に開口72に対応したレジスト(例えばフォトレジスト等)を直接塗布することで、生産性を向上させても良い。
【0060】
次に、図5(d)に示すように、マスク7を除去する。
マスク7が多結晶シリコンで構成されている場合、例えば、CFガス、塩素系ガス等によるドライエッチング、フッ酸+硝酸水溶液、アルカリ水溶液等の剥離液への浸漬(ウエットエッチング)等によりマスク7の除去を容易に行うことができる。
以上の工程により、図5(d)に示すように、第1の板状体2上に溝31が形成される。
【0061】
[2]化学強化処理工程
次に、溝31が形成された第1の板状体2に対して、化学強化処理を行う。
化学強化処理は、第1の板状体2に含まれるナトリウムイオンよりもイオン半径の大きい陽イオンをもつ塩の溶液または溶融液(以下、「薬液」という)を用いて、ガラス転移点以下の400℃程度に加熱した薬液に第1の板状体2を浸漬して行われる。
【0062】
これにより、第1の板状体2の両面のナトリウム原子がナトリウムよりもイオン半径が大きい原子に置換されて、ナトリウム原子と置換された原子が存在する化学強化層が第1の板状体2の両面に形成される。
なお、薬液としては、特に限定されないが、例えば、イオン半径の大きい陽イオンとしてカリウムイオンを有する溶融硝酸カリウム塩を用いることができる。具体的には、例えば、50%KNO3と50%KNO2の混合溶融塩中からなる薬液を用いることができる。
また、薬液中に第1の板状体2を浸漬する時間を調整することにより、化学強化層の厚さを調整することができ、よって、第1の板状体2の強度を適宜設定(調整)することができる。従って、このような第1の板状体2が備えられたカバーガラス1は、衝撃などによる割れ、破損が生じることが防止または抑制され、耐久性に優れたものとなる。
【0063】
[3]真空蒸着膜形成工程(着色工程)
次に、溝31に真空蒸着膜39(着色部32)を形成する。
まず、図5(e)に示すように、第1の板状体2の溝31を形成した下面21(溝31を含む)の全面に真空蒸着膜(着色剤)39を、前述した乾式メッキ法(真空蒸着)により形成する。
【0064】
この方法により、均質で、第1の板状体2との密着性が優れた真空蒸着膜39を容易に得る(形成する)ことができる。また、より高密度の真空蒸着膜39を形成することが可能となり、その結果、カバーガラス1は、長期間にわたって優れた美的外観を保持することができる。
真空蒸着は、例えば、以下のような条件で行うのが好ましい。
蒸着材料の加熱方法としては、例えば、伝熱ルツボ、電子ビーム、高周波、レーザ等を用いる方法や、抵抗加熱等が挙げられるが、この中でも特に、抵抗加熱が好ましい。抵抗加熱を用いることにより、均質な真空蒸着膜39を容易に得ることができる。
【0065】
真空蒸着時における雰囲気ガスは、主として、不活性ガス(例えば、Heガス、Neガス、Arガス、Nガス)で構成されたものであるのが好ましい。
また、真空蒸着時における雰囲気の圧力は、特に限定されないが、例えば、1.0×10−6〜1.0×10−5Torrであるのが好ましく、3.0×10−6〜1.0×10−6Torrであるのがより好ましい。
【0066】
また、真空蒸着は、金属組成の異なる複数のターゲットを用いて行うものであるのが好ましい。これにより、例えば、各ターゲットをそれぞれ加熱することができ、よって、各ターゲットの揮発量等を調節することができる。その結果、所望の組成を有する真空蒸着膜39を容易に形成することができる。このように、真空蒸着膜39の組成を調整することにより、真空蒸着膜39の特性(例えば、色、光沢度等)を調整することが可能となり、この真空蒸着膜39によって溝31が着色される。
【0067】
また、真空蒸着膜39の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.01〜10μmであるのが好ましく、0.1〜3μmであるのがより好ましい。真空蒸着膜39の厚さが前記下限値未満であると、真空蒸着膜39にピンホールが発生し易くなる。また、真空蒸着膜39の厚さが前記上限値を超えると、真空蒸着膜39の内部応力が高くなり、真空蒸着膜39と第1の板状体2との密着性が低下したり、クラックが発生し易くなったりする。
【0068】
[4]真空蒸着膜除去工程
次に、マスクエッチングにより、溝31以外に形成された真空蒸着膜39を除去する。
まず、図5(f)に示すように、溝31に形成された真空蒸着膜39の下面にマスク膜8を形成する。このマスク膜8は、後述する真空蒸着膜39を除去するとき、溝31の真空蒸着膜39を保護するマスクとして機能する。
マスク膜8を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、エポキシ系、フッ素系、ゴム系等の樹脂材料や、Au、Ni、Pd、Cu、Ag、Ti、Cr等の金属材料を用いることができる。
【0069】
なお、マスク膜8の形成方法としては、特に限定されず、例えば、パッド印刷、スクリーン印刷等の印刷、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、熱CVD、プラズマCVD、レーザCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射等が挙げられる。
【0070】
また、マスク膜8の厚さは、特に限定されないが、例えば、パッド印刷の場合、1〜500μmであるのが好ましく、3〜50μmであるのがより好ましい。
マスク膜8の厚さが前記下限値未満であると、マスク膜8にピンホールが発生し易くなる傾向がある。このため、後述する真空蒸着膜39の除去の工程において、溝31の真空蒸着膜39が溶解、剥離する場合があり、得られるカバーガラス1の美的外観が低下するおそれがある。
【0071】
また、マスク膜8の厚さが前記上限値を超えると、マスク膜8の各部位における膜厚のバラツキが大きくなる傾向がある。また、マスク膜8の内部応力が高くなり、結果として、マスク膜8と真空蒸着膜39との密着性が低下したり、クラックが発生し易くなったりする。
また、マスク膜8は、実質的に透明であることが好ましい。これにより、真空蒸着膜39との密着状態を下側(外側)から視認することが可能となる。
次に、溝31以外に形成された真空蒸着膜39を除去する。
【0072】
この真空蒸着膜39の除去は、真空蒸着膜39を除去することが可能で、かつマスク膜8を溶解、剥離しない剥離剤を用いて行うのが好ましい。
このような剥離剤としては、特に限定されないが、例えば、シアン化カリウム(KCN)を含む剥離液を用いることができ、例えば、30〜60g/リットルのシアン化カリウムを含む水溶液を用いることができる。なお、剥離剤中には、例えば、安定剤、剥離促進剤、有機成分、触媒等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0073】
この剥離剤を用いて真空蒸着膜39を除去する方法としては、例えば、剥離剤を真空蒸着膜39に噴霧する方法、剥離剤(剥離液)に第1の板状体2を浸漬する方法(ディッピング)、剥離剤(剥離液)に第1の板状体2を浸漬した状態で真空蒸着膜39を電解する方法等が挙げられるが、この中でも特に、剥離剤(剥離液)に第1の板状体2を浸漬する方法が好ましい。これにより、真空蒸着膜39の除去をより容易かつ確実に行うことが可能となる。
真空蒸着膜39の除去を剥離剤(剥離液)に浸漬することにより行う場合、剥離剤の温度は、特に限定されないが、例えば、10〜100℃であるのが好ましく、20〜80℃であるのがより好ましく、20〜50℃であるのがさらに好ましい。
【0074】
剥離剤の温度が前記下限値未満であると、真空蒸着膜39の厚さによっては、真空蒸着膜39を十分に除去するのに要する時間が長くなり、カバーガラス1の生産性が低下する場合がある。また、剥離剤の温度が前記上限値を超えると、マスク膜8を剥離させ、溝31の真空蒸着膜39を剥離させる、或いは、境界線が波打ち状になり、良好な外観が得られない場合がある。さらに、剥離剤の蒸気圧、沸点等によっては、剥離剤の揮発量が多くなり、真空蒸着膜39の除去に必要な剥離剤の量が多くなる場合がある。
【0075】
また、剥離剤への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば、1〜40分間であるのが好ましく、1〜10分間であるのがより好ましい。
剥離剤への浸漬時間が前記下限値未満であると、真空蒸着膜39の厚さ、剥離剤の温度等によっては、真空蒸着膜39を十分に除去するのが困難となる場合がある。また、剥離剤への浸漬時間が前記上限値を超えると、カバーガラス1の生産性が低下する。
【0076】
なお、真空蒸着膜39の除去を液体状態の剥離剤(剥離液)に浸漬することにより行う場合、例えば、浸漬時に、剥離液に振動(例えば、超音波振動等)を加えてもよい。これにより、真空蒸着膜39の除去の効率をより向上させることができる。
以上の工程により、図6(g)に示すように、溝31以外に形成された真空蒸着膜39が除去されて、第1の装飾部3が形成される。
【0077】
[5]装飾工程
図6(h)に示すように、第2の板状体4の下面41に装飾を施して、第2の装飾部5を形成する。
第2の装飾部5は、前述した方法(乾式メッキ法(真空蒸着)、印刷(スクリーン印刷、オフセット印刷、パッド印刷等)、塗装(ディッピング、はけ塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等)等)で形成するのが好ましい。
【0078】
[6]接合工程(接着工程)
図6(i)に示すように、第1の装飾部3が形成された第1の板状体2と、第2の装飾部5が形成された第2の板状体4とを、接着層6を介して貼り合わせる(接着する)。
具体的には、まず、第1の板状体2または第2の板状体4の一方(本実施形態では、第2の板状体4の上面42)に、接着層6を構成することとなる未硬化の樹脂61を供給する。
【0079】
樹脂61の供給方法としては、特に限定されず、例えば、ディスペンサー塗布法、インクジェット法、粉末ジェット法、スキージング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法等の塗布法の種々の公知技術が用いられる。
次に、かかる樹脂61に第1の板状体2を上側から密着する。
このとき、第1の板状体2の下面の一部に樹脂61を塗布してから密着することで、接着層への気泡混入を抑えることができる。
【0080】
次に、この密着状態で、樹脂61を硬化させる。この硬化方法は、樹脂の種類によって適宜選択され、例えば、紫外線照射、加熱、電子線照射などが挙げられる。
これにより、第1の板状体2と第2の板状体4とが接着層6を介して貼り合わせられ、図2および図3に示すような、カバーガラス1が完成する(得られる)。
このように、前記[1]〜[6]の工程を経ることにより、審美性の高いカバーガラス1(腕時計100)を得ることができる。
なお、前記[4]の工程で、マスク膜8を除去してもよい。
【0081】
次に、カバーガラス1を有する腕時計100の構造について説明する。図7は、図1中のA−A線断面図である。なお、説明の都合上、図7中の上方側を「上」、下方側を「下」と言う。
腕時計100は、胴121と、ガラス縁122と、カバーガラス(透光板)1と、裏蓋124とを有するケース(ケーシング)120を備えている。
【0082】
胴121とガラス縁122との間、ガラス縁122とカバーガラス1との間、胴121と裏蓋124との間には、それぞれ、パッキン125、126および127が設置されている。
また、ケース120の内側には、中枠130が収納され、その中枠130の内側に、ムーブメント140と電池150とが設置されている。
【0083】
また、胴121の側部には、巻真161付きのりゅうず160が、胴121を貫通して設けられている。りゅうず160の軸回りには、巻真パイプ162が設置されている。また、りゅうず160の軸は、りゅうずパッキン163を介して巻真パイプ162の内周面と接触している。
また、ムーブメント140には、時針141、分針142および秒針143が回転可能に設置されている。これらの指針がカバーガラス1の第1の装飾部3、すなわち、数字を指し示すことにより、時間(時刻)を確認することができる。
【0084】
また、この腕時計100は、パッキン125、126、127およびりゅうずパッキン163により、ケース2の内側の気密状態が保持されている。
また、本発明のカバーガラス1は、前述したように、腕時計100のカバーガラスとして用いられるのに限定されず、例えば、携帯電話、ポケットベル、電卓、各種ゲーム機等のような電子機器の表示部(液晶表示部)のカバー部材として用いてもよい。
【0085】
ここで、カバーガラス1をカバー部材(装飾部分)として用いた携帯電話機200について説明する。図8は、カバーガラスをカバー部材として用いた携帯電話機(PHSも含む)を示す斜視図である。
図8に示すように、携帯電話機200は、複数の操作ボタン202と、受話口204と、送話口206と、表示装置(液晶表示部)210とを備えている。
【0086】
また、この携帯電話機200は、表示装置210のカバー部材として、カバーガラス1を備えている。これにより、携帯電話機200は、審美性に優れたものとなる。
以上、本発明の装飾品、時計、電子機器および装飾品の製造方法を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、装飾品、時計、電子機器を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0087】
また、第1の装飾部は、第1の板状体の下面に設けられているのに限定されず、第1の板状体の上面に設けられていてもよい。
また、第1の板状体と第2の板状体とを接着層を介して貼り合せたが、接着層はなくてもよい。例えば、第1の板状体と第2の板状体とを重ね合わせた状態で枠部材(ガラス縁)にはめこむことで第1の板状体と第2の板状体とを密着固定してもよい。
【0088】
また、カバーガラス(第1の板状体)の上面の少なくとも一部には、耐食性、耐候性、耐水性、耐油性、耐摩耗性、耐変色性等を付与し、防汚、防曇、防傷等の効果を向上する保護膜等が形成されていてもよい。
また、第1の板状体は、その全体が透明である場合に限定されず、部分的に透明であってもよい。第1の板状体が部分的に透明である場合、その透明な部分(箇所)は、例えば、第1の装飾部を設けた箇所に対応する箇所であったり、第2の板状体に第2の装飾部を設けた箇所に対応する箇所であったりすることができる。また、第1の板状体が部分的に透明であるとき、それ以外の部分は、例えば、不透明または半透明であってもよい。
【0089】
また、第2の板状体は、その全体が透明である場合に限定されず、部分的に透明であってもよい。第2の板状体が部分的に透明である場合、その透明な部分(箇所)は、例えば、第2の装飾部を設けた箇所に対応する箇所とすることができる。また、第2の板状体が部分的に透明であるとき、それ以外の部分は、例えば、不透明または半透明であってもよい。
【0090】
また、第1の板状体におけるレンズの機能を有する箇所は、第1の板状体に部分的に設けられていてもよいが、第1の板状体のほぼ全面にわたって設けられていてもよい。
また、第1の板状体は、その上面に基板保護膜が形成されているのに限定されず、第1の板状体の側面にも基板保護膜が形成されていてもよい。
また、第1の板状体が樹脂で構成されている場合には、例えば射出成形等により第1の板状体を製造(成形)する際に、第1の装飾部の溝を形成することができる。これにより、溝を形成するための例えばエッチング等の別工程を省略することができ、カバーガラス1の生産性が向上する。
【0091】
また、射出成形の場合、溝をたとえ複雑な形状としても、容易に形成することができる。その結果、第1の装飾部をより立体的に表現することができたり、デザインの幅を広げたりすることができる。これにより、カバーガラスが審美性により優れたものとなる。
また、本発明の装飾品を腕時計のカバーガラスに適用させた例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、指針の下側に設置される時計用文字盤や腕時計のスケルトンタイプの裏蓋に適用させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の時計を適用した腕時計の斜視図である。
【図2】図1に示す腕時計が備えるカバーガラスの平面図である。
【図3】図2に示すカバーガラスの断面図である。
【図4】図2に示すカバーガラスの製造方法を説明するための断面図である。
【図5】図2に示すカバーガラスの製造方法を説明するための断面図である。
【図6】図2に示すカバーガラスの製造方法を説明するための断面図である。
【図7】図1中のA−A線断面図である。
【図8】カバーガラスをカバー部材として用いた携帯電話機(PHSも含む)を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0093】
1……カバーガラス 2……第1の板状体 21……下面 22……上面 3……第1の装飾部 31……溝 32……着色部 33……保護膜 39……真空蒸着膜 4……第2の板状体 41……下面 42……上面 5……第2の装飾部 6……接着層 61……樹脂 7……マスク 71……基板保護膜 72……開口 79……マスク膜 8……マスク膜 100……腕時計 120……ケース 121……胴 122……ガラス縁 124……裏蓋 125、126、127……パッキン 130……中枠 140……ムーブメント 141……時針 142……分針 143……秒針 150……電池 160……りゅうず 161……巻真 162……巻真パイプ 163……りゅうずパッキン 200……携帯電話機 202……操作ボタン 204……受話口 206……送話口 210……表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体または一部が実質的に透明な第1の板状体と、
前記第1の板状体の一方の面に形成された溝と、該溝内に着色剤を入れて着色をした着色部とで構成された第1の装飾部と、
前記第1の板状体の一方の面側に接合され、全体または一部が実質的に透明な第2の板状体と、
前記第2の板状体の前記第1の板状体と反対側の面に装飾を施してなる第2の装飾部とを備え、
第1の装飾部と前記第2の装飾部とは、前記第1の板状体の他方の面側から視認されることを特徴とする装飾品。
【請求項2】
前記第1の装飾部と前記第2の装飾部とは、平面視で、互いに少なくとも一部が重なり合っている請求項1に記載の装飾品。
【請求項3】
前記第1の板状体は、その全面または一部にレンズの機能を有する請求項1または2に記載の装飾品。
【請求項4】
前記溝は、エッチングまたは超音波加工により形成される請求項1ないし3のいずれかに記載の装飾品。
【請求項5】
前記溝の深さは、0.1〜2mmである請求項1ないし4のいずれかに記載の装飾品。
【請求項6】
前記着色部は、蒸着または印刷により形成される請求項1ないし5のいずれかに記載の装飾品。
【請求項7】
前記第2の板状体の厚さは、0.5〜5mmである請求項1ないし6のいずれかに記載の装飾品。
【請求項8】
前記第2の装飾部は、蒸着または印刷により形成される請求項1ないし7のいずれかに記載の装飾品。
【請求項9】
前記第1の板状体と第2の板状体とは、接着剤により接着されている請求項1ないし8のいずれかに記載の装飾品。
【請求項10】
前記第1の板状体と第2の板状体とは、着色された接着剤により接着されている請求項9に記載の装飾品。
【請求項11】
前記第1の板状体および第2の板状体は、それぞれ、無機ガラスまたは樹脂で構成される請求項1ないし10のいずれかに記載の装飾品。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の装飾品を備えたことを特徴とする時計。
【請求項13】
前記装飾品をカバーガラスとして用いた請求項12に記載の時計。
【請求項14】
前記第1の装飾部は、文字盤の機能を有する請求項12または13に記載の時計。
【請求項15】
請求項1ないし11のいずれかに記載の装飾品を装飾部分として備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項16】
請求項1ないし11のいずれかに記載の装飾品を製造する方法であって、
前記第1の板状体に前記溝を形成する溝形成工程と、
前記溝内に着色剤を入れて着色をして着色部を形成する着色工程と、
前記第2の板状体に装飾を施して第2の装飾部を設ける装飾工程と、
前記第1の板状体と前記第2の板状体とを接合する接合工程とを有することを特徴とする装飾品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−27023(P2006−27023A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207718(P2004−207718)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポケットベル
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】