説明

製紙機械用転がり軸受

【課題】軸受内部に水が侵入するために生じる潤滑不良によって発生する微小焼付きを防止するため、内輪および外輪軌道面と転動体で潤滑性能に優れた自動調心ころ軸受を提供する。
【解決手段】自動調心ころ軸受を構成する内輪1、外輪2及び転動体3のうち少なくとも1つは、鋼製であり、内輪軌道面1c、外輪軌道面2cおよび転動体3の表面のうち少なくとも1つに潤滑被膜Lが被覆され、前記潤滑被膜Lが表面側のダイヤモンドライクカーボン層と、前記ダイヤモンドライクカーボン層と前記鋼材表面との間に形成された中間層Mで構成され、前記潤滑被膜の等価弾性定数が100GPa以上280GPa以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙機械用自動調心ころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、抄造工程の一部であるウエットパートなどに使用されている製紙機械用のロールは、ロールが撓んでも組み立てやすいように、ロール支持部に自動調心ころ軸受が使用されている。紙に含んでいる水を除去するとき、水が軸受内部に侵入する場合がある。軸受内部に水が侵入すると、軸受を構成する内外輪軌道面や転動体が発錆し、錆を起点とした剥離等により、軸受寿命が低下し、頻繁に軸受交換をしなければならず、維持費にコストがかかるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−144923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受内部に水が侵入した場合でも、軸受の発錆を防止するため、内輪軌道面、外輪軌道面及び転動体表面のうち少なくとも1つに、ビッカース硬度がHv800以下のクロムめっき層を形成することを提案した。
【0005】
しかしながら、この先行技術には、軸受内部に水が侵入した場合に発錆は抑制できる。しかし、クロムめっき層は転がり接触に対して耐久性が不十分である。軸受内部に水が侵入した場合、内外輪軌道面と転動体の間では潤滑不良となり、微小焼付きが発生し、軸受寿命が低下し、結局、頻繁に軸受交換をしなければならず、維持費にコストがかかるという課題が有った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような構成を取る。
【0007】
本発明の請求項1に係る自動調心ころ軸受を構成する内輪、外輪及び転動体のうち少なくとも1つは、鋼製であり、内輪軌道面、外輪軌道面および転動体表面のうち少なくとも1つに潤滑被膜が被覆され、前記潤滑被膜が表面側のダイヤモンドライクカーボン層と、前記ダイヤモンドライクカーボン層と前記鋼材表面との間に形成された中間層で構成され、前記中間層がケイ素,ゲルマニウム,及びテルルのうち少なくとも1種で構成されており、非晶質であり、前記潤滑被膜の等価弾性定数が100GPa以上280GPa以下であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る自動調心ころ軸受の内輪軌道面、外輪軌道面のうち少なくとも1つは、前記自動調心ころ軸受の転動体の輪郭半径と半径が同一であり、前記転動体の嵌合する断面形状の軌道面円弧部、と前記軌道面円弧部の両端において前記軌道面円弧部に対し接線となる断面形状の軌道面直線部とが軌道方向に連続してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動調心ころ軸受の内輪軌道面、外輪軌道面および転動体表面のうち少なくとも1つは、鋼製であり、ダイヤモンドライクカーボン層(以降においてはDLC層と記すこともある)との間に非晶質な中間層が介在しているので、潤滑性に優れたDLC層と鋼製との密着性が優れている。そして、中間層は結晶面の配向や方向性を有していないため、ころ接触時に前記潤滑被膜に負荷される垂直荷重や剪断に対しての強度が高い。
【0010】
また、潤滑被膜の等価弾性定数が100GPa以上280GPa以下であり、潤滑被膜が鋼材に近い等価弾性定数を有しているので、繰り返し応力が作用した場合でも潤滑被膜が母材の変形に追従することが可能となるので、潤滑被膜の破損が生じにくい。
【0011】
以上のように、本発明の自動調心ころ軸受は、大きな接触応力が作用しても破損しにくい潤滑被膜を備えている。また、優れた潤滑性を有しているので、潤滑不良を防止し、微小焼付きが発生せず、十分な耐久性が得られる。
【0012】
さらに、自動調心ころ軸受の内輪軌道面、外輪軌道面のうち少なくとも1つは、前記自動調心ころ軸受の転動体の輪郭半径と半径が同一であり、前記転動体の嵌合する断面形状の軌道面円弧部、と前記軌道面円弧部の両端において前記軌道面円弧部に対し接線となる断面形状の軌道面直線部とが軌道方向に連続となる。転動体と軌道面の最大接触面積を大きくし、接触部における最大応力を低下させることによって、潤滑被膜の破損を防止するという効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る実施形態1である自動調心ころ軸受の構成を示す縦断面図を示すものである。
【図2】図1のA部分を拡大して示した部分拡大断面図を示すものである。
【図3】本発明に係る実施形態1である自動調心ころ軸受の構成を示す縦断面図を示すものである
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1に基づき、本発明の実施形態1を説明する。
図1は内輪1、外輪2、転動体3及び保持器4からなる自動調心ころ軸受10である。図1に示すように、自動調心ころ軸受10の転動体3の表面に潤滑被膜Lを施した例を示す。
【0015】
また、この潤滑被膜Lは、図2に示すように、表面側のダイヤモンドライクカーボン(DLC)層Dと、該DLC層Dと転動体との間に形成された中間層Mと、で構成されている。この中間層Mは、ケイ素(Si),ゲルマニウム(Ge),及びテルル(Te)のうち少なくとも1種で構成されており、非晶質である。そして、潤滑被膜Lの等価弾性定数は、100GPa以上280GPa以下となっている。潤滑被膜の等価弾性定数が280GPa超過であると、潤滑被膜の等価弾性定数が鋼よりも大き過ぎるので、繰り返し応力が作用した際の母材の変形に潤滑被膜が追従することが困難となって、潤滑被膜の破損が生じやすくなる。一方、100GPa未満であると、潤滑被膜の硬さが低くなって、摩耗が生じやすくなる。ここで、非晶質である中間層Mは、ケイ素,ゲルマニウム,及びテルルのうち少なくとも1種と炭素と(C)で構成されていてもよい。
【0016】
以下、図3に基づき、本発明の実施形態2を説明する。
実施形態1と同等の符号を付してあるところは説明を省略する。本発明は前記自動調心ころ軸受10の転動体3の表面に潤滑被膜Lを施す。前記自動調心ころ軸受10の内輪軌道面1cは、前記自動調心ころ軸受10の転動体3の輪郭半径と半径が同一であり、前記転動体3の嵌合する断面形状の内輪軌道面円弧部1a、と前記内輪軌道面円弧部1aの両端において前記内輪軌道面円弧部1aに対し接線となる断面形状の内輪軌道面直線部1bとが軌道方向に連続してなり、かつ、前記自動調心ころ軸受10の外輪軌道面2cは、前記自動調心ころ軸受10の転動体3の輪郭半径と半径が同一であり、前記転動体3の嵌合する断面形状の外輪軌道面円弧部2a、と前記外輪軌道面円弧部2aの両端において前記外輪軌道面円弧部2aに対し接線となる断面形状の内輪軌道面直線部2bとが軌道方向に連続してなる。
【0017】
なお、実施形態2のように内外輪軌道面の形状は内外輪の両方に限定されず、内輪軌道面1c、外輪軌道面2cのうちいずれか一つでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0018】
製紙機械用転がり軸受として利用できる。
【符号の説明】
【0019】
1 内輪
1a 円弧部
1b 直線部
1c 内輪軌道面
2 外輪
2a 円弧部
2b 直線部
2c 外輪軌道面
3 転動体
4 保持器
L 潤滑被膜層
D ダイヤモンドカーボン層
M 中間層
10 自動調心転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動調心転がり軸受を構成する内輪、外輪及び転動体のうち少なくとも1つは、鋼製であり、内輪軌道面、外輪軌道面及び転動体表面のうち少なくとも1つに潤滑被膜が被覆され、前記潤滑被膜が表面側のダイヤモンドライクカーボン層と、前記ダイヤモンドライクカーボン層と前記鋼材表面との間に形成された中間層で構成され、前記中間層がケイ素,ゲルマニウム,及びテルルのうち少なくとも1種で構成されており、非晶質であり、前記潤滑被膜の等価弾性定数が100GPa以上280GPa以下であることを特徴とする自動調心ころ軸受。
【請求項2】
前記自動調心軸受の内輪軌道面、外輪軌道面のうち少なくとも1つは、転動体の輪郭半径と半径が同一であり前記転動体と嵌合する断面形状の円弧部と前記円弧部の両端において前記円弧部に対し接線となる断面形状の直線部とを軌道方向に連続的に形成してなることを特徴とする請求項1の自動調心ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−153670(P2011−153670A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16132(P2010−16132)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】