説明

複合成形品およびその製造方法

【課題】薄肉・軽量化を実現するとともに、高剛性かつ良好な成形品外観を得ることができるものであり、これらの特性が要求される用途に適した複合成形品を提供する。
【解決手段】一対の硬質部材層2aの間に圧縮させた軟質部材層2bを積層させたサンドイッチ構造からなる積層板2の周縁部の少なくとも一部に熱可塑性樹脂3を接合してなる複合成形品であって、前記周縁部に位置する片側の硬質部材層を軟質部材層の厚みを残すように圧縮変形させた薄板部を設けてなるとともに、前記薄板部の軟質部材層に前記熱可塑性樹脂を嵌合させてなることを特徴とする複合成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量かつ薄肉・高強度、高剛性で表面品位に優れた複合成形品およびその製造方法を提供することに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂射出成形品は、優れた機械的性質と形状の自由度から、産業界で広く利用されており、その機械的特性をさらに向上させるために、ガラス繊維、炭素繊維などの強化繊維を使用した材料も提案されている。
【0003】
近年、携帯を目的としたノートパソコン、携帯電話、玩具などは、薄肉・軽量化や、高剛性要求がますます高くなってきている。特に液晶画面等の表示部材を有するノートパソコンや携帯電話においては、表示部材の大型化にともない、表示部材を支持固定するための固定部材に対する薄肉化、軽量化、高剛性を同時に達成することが求められている。さらに最近では、外観意匠性も差別化できるポイントとして重要視されてきている。
【0004】
このような要求に対して、強化繊維の添加量を増やして機械特性を高める方法には限界があるため、例えば一方向に連続な強化繊維を含む樹脂シート成形品と熱可塑性樹脂を一体化して、高剛性、軽量化と形状の自由度を合わせ持つ成形品が提案されていた(例えば特許文献1)。また、さらなる軽量化を目的として強化繊維を含む樹脂シートと軽量層を組み合わせたサンドイッチ積層板の周囲に樹脂部材を配した複合成形品が提案されていた(例えば特許文献2)。また、サンドイッチ積層板の外側層同士が一体化(中間のコア層の厚みがほぼ0)するようにプレス加工してから熱可塑性ポリマーを射出成形した複合成形品が提案されていた(例えば特許文献3)。
【特許文献1】特開平9−272134号公報
【特許文献2】特開2007−38519号公報
【特許文献3】特表2007−526150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術で得られた成形品は、剛性の高い成形品を得ることができるが、特許文献1のような積層部材と熱可塑性樹脂を重ねた成形品では、肉厚が大きくなる課題があった。一方、特許文献2のような積層部材の周囲に樹脂部材を配した成形品の場合は、射出成形時に積層部材内に入り込む樹脂部材の量を制御することが困難で軽量な成形品が得られない課題があった。また、特許文献3のような外側層をプレス加工して一体化した複合成形品の場合は、プレス加工によって外側層に凹みが生じるため、サンドイッチ積層板の外観の意匠性が損なわれたり、外側層の両側をオーバーラップ(被覆)させるように熱可塑性ポリマーを射出成形する必要があるため薄肉化できないといった課題があった。さらに、一体化した部分は軟質部材からなるコア層が存在しないため、情報機器端末のように落下や衝突といった外的衝撃力が働いた場合、衝撃を吸収できずに一体化した部分が破損するおそれも懸念される。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み、薄肉・軽量化を実現するとともに、曲げや捻りといった変形に対しても高剛性を維持し、かつ良好な成形品外観を得ることができるものであり、これらの特性が要求される用途に適した複合成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するための本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
(1)一対の硬質部材層の間に圧縮させた軟質部材層を積層させたサンドイッチ構造からなる積層板の周縁部の少なくとも一部に熱可塑性樹脂を接合してなる複合成形品であって、前記周縁部に位置する片側の硬質部材層を軟質部材層の厚みを残すように圧縮変形させた薄板部を設けてなるとともに、前記薄板部の軟質部材層に前記熱可塑性樹脂を嵌合させてなることを特徴とする複合成形品。
(2)前記薄板部に接合させた前記熱可塑性樹脂の厚みが前記薄板部と同一であることを特徴とする(1)に記載の複合成形品。
(3)前記薄板部に接合させた前記熱可塑性樹脂の厚みが前記積層板と同一であることを特徴とする(1)に記載の複合成形品。
(4)前記薄板部に1または複数の切欠部を設けてなることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の複合成形品。
(5)前記軟質部材層の厚み(mm)と密度(g/cm)により(1)式で定義される値Tが0.9〜1.4mmであることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の複合成形品。
【0008】
【数1】

【0009】
:軟質部材層の材料固有の密度(g/cm
:積層板成形前の軟質部材層の密度(g/cm
:積層板内(薄板部を除く)の軟質部材層厚み(mm)
:薄板部における圧縮厚み(mm)
:積層板成形前の軟質部材層厚み(mm)
(6)前記軟質部材層が発泡体からなることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の複合成形品。
(7)前記硬質部材層が強化繊維を含むシートにエポキシ樹脂を含浸させた繊維強化樹脂からなることを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載の複合成形品。
(8)前記熱可塑性樹脂は、強化繊維が含有されたものであることを特徴とする(1)から(7)のいずれかに記載の複合成形品。
(9)一対の硬質部材層の間に軟質部材層を圧縮させながら積層させたサンドイッチ構造を備えた積層板の周縁部の少なくとも一部に熱可塑性樹脂を接合させる複合成形品の製造方法であって、前記周縁部に位置する片側の硬質部材層を軟質部材層の厚みを残すように圧縮変形させた薄板部を設け、前記薄板部の軟質部材層に前記熱可塑性樹脂を嵌合させるように射出成形することを特徴とする複合成形品の製造方法。
(10)前記薄板部に接合させる前記熱可塑性樹脂の厚みを、前記薄板部と同一となるように前記熱可塑性樹脂を射出成形することを特徴とする(9)に記載の複合成形品の製造方法。
(11)前記薄板部に接合させる前記熱可塑性樹脂の厚みを、前記積層板と同一となるように前記熱可塑性樹脂を射出成形することを特徴とする(9)に記載の複合成形品の製造方法。
(12)前記薄板部に1または複数の切欠部を設け、前記切欠き部にも前記熱可塑性樹脂を射出成形することを特徴とする(9)から(11)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合成形品は、薄肉・軽量化を実現するとともに、曲げや捻りといった変形に対しても高剛性を維持し、かつ良好な成形品外観を得ることができるものであり、これらの特性が要求される用途に適した複合成形品を提供することができる。また、これらの特性を備えた複合成形品を使用して、パソコン、ディスプレイや携帯情報端末などの電気・電子機器向けの筐体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の複合成形品について、図面を用いて説明する。
【0012】
本発明の複合成形品1は、図1に示すように、積層板2の周縁部に熱可塑性樹脂3を射出成形して一体化した薄板である。より詳しくは、図3(a)に示すように、一対の硬質部材層2aの間に軟質部材層2b(厚さ:t(mm))を挟持させたサンドイッチ構造とした上で、図3(b)に示すように、軟質部材層2bを圧縮しつつ(厚さ:t(mm)、ただしt>t)硬質部材層2aと一体化させた積層板2を形成し、図3(c)に示すように積層板2の周縁部の少なくとも一部の軟質部材層2bをさらに圧縮させた薄板部2′(圧縮厚み:t(mm))を設けた上で、積層板2の周縁部に熱可塑性樹脂3をアウトサート成形してなるものである。複合成形品1の周縁部には、熱可塑性樹脂3を射出成形することで比較的複雑な形状を形成することができ、複合成形品1の略中央部には軽量高剛性なサンドイッチ構造を有する積層板2を配することにより、薄肉・軽量、高剛性でかつ外観に優れた複合成形品1を得ることができる。
【0013】
本発明に係る積層板2は、積層板2の剛性を効果的に確保するために、軟質部材層2bを中央層に、硬質部材層2aを両外層に配置するサンドイッチ構造とすることが好ましい。材料力学上、曲げ剛性は、表層に近い層の剛性が中央層に近い層の剛性に比べて極めて大きく影響するため、表層は硬質部材層2aで、中央層は発泡材や軽量樹脂シート等の軟質部材層2bで構成することにより、積層板2の軽量化を図りつつ、剛性も確保することができる。
【0014】
硬質部材層2aとしては、強化繊維を含んだシートが好ましく用いられる。強化繊維としては、例えばアルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系等の炭素繊維や黒鉛繊維、ガラス繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維などの無機繊維や、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維等が使用できる。これらの強化繊維は単独で用いても、また、2種以上併用しても良い。なかでも、比強度、比剛性、軽量性のバランスの観点から炭素繊維が好ましく、比強度・比弾性率に優れる点でポリアクリロニトリル系炭素繊維を少なくとも含むことが好ましい。また、硬質部材層2aに用いられる強化繊維を含んだシートは、強化繊維を含む複数の層から構成されるものであっても良い。また、強化繊維が、連続強化繊維であれば、より高い強度・剛性を得られることから好ましい。
【0015】
連続強化繊維を含んだシートとは、10mm以上の長さの連続した強化繊維がシート内(またはシートを構成する強化繊維を含む層内)に配列されているシートであって、必ずしもシート(または、シートを構成する強化繊維を含む層)全体にわたって連続している必要はなく、途中で分断されていても特に問題はない。具体的な連続強化繊維の形態としては、フィラメント、織物(クロス)、一方向引き揃え(UD)、組み物(ブレイド)等が例示できるが、プロセス面の観点から、クロス、UDが好適に使用される。また、これらの形態は単独で使用しても、2種以上の形態を併用してもよい。なかでも、マルチフィラメントが一方向に引きそろえられたものが、より効率良く強度・剛性を得られることから好ましい。
【0016】
硬質部材層2aに含まれるシートのマトリックス層には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または金属などを用いることができる。
【0017】
熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニールアルコール樹脂、EVA樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フッ素系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、非晶ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアニルエーテエルニトリル樹脂、ポリベンゾイミダール樹脂などがある。これら熱可塑性樹脂は、単独で使用しても良く、あるいは混合物でも、また共重合体であっても良い。混合物の場合には、相溶化剤が併用されていても良い。さらに、特定の機能を付加することを目的に、例えば、難燃剤として、臭素系難燃剤、シリコン系難燃剤あるいは赤燐、リン酸エステルなどを配合しても良い。
【0018】
熱硬化性樹脂としては、例えば不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド等や、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種をブレンドした樹脂があげられる。さらに、特定の機能を付加することを目的に、例えば、難燃剤として、臭素系難燃剤、シリコン系難燃剤あるいは赤燐、リン酸エステルなどを配合しても良い。
【0019】
これらのなかでも、積層板2の剛性、強度に優れることから、マトリックス層には熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、とりわけエポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂が成形品の力学特性の観点からより好ましい。更に耐衝撃性向上等のために、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂および/またはその他のエラストマーもしくはゴム成分等を添加した樹脂を用いてもよい。
【0020】
また、マトリックス層の別の好ましい態様として、チタン、マグネシウム、アルミ等の金属を用いることも可能である。
【0021】
硬質部材層2aとして、強化繊維を含んだシートを用いる場合、強化繊維の割合は、成形性、力学特性の観点から20〜90体積%が好ましく、30〜80体積%がより好ましい。なお、体積%の測定はマトリックスが樹脂の場合はJIS K 7075(1991)に記載されている方法で測定する。マトリックス層が金属の場合、アルミ等の比較的融点が低い金属は金属部分を溶融濾過し、繊維量を測定して算出するが、融点が高い金属は断面写真観察により繊維量を測定して算出する。
【0022】
硬質部材層2aの別の好ましい態様として、チタン、マグネシウム、アルミ等の金属シートが挙げられるがこれらに限定するものではなく、剛性、比重、薄肉性、コスト等の観点から積層板2の要求特性に応じ適宜選定しても良い。
【0023】
硬質部材層2aは、強化繊維を含んだシートにあらかじめ熱硬化性樹脂等を含浸させたプリプレグを用いると、後述する金型4に軟質部材層2bとともに配置して加熱・加圧成形するだけで積層板2が得られる。あるいは、強化繊維を含んだシートのみを金型4内に配置する場合には、金型4にマトリックス層の注入口を設け、熱硬化性樹脂等を含浸させながら積層板2の成形を行うことができる。
【0024】
軟質部材層2bとしては、発泡材、樹脂シート等が好ましく使用できる。このうち発泡材を使用すると軽量な積層板2が得られるために好ましく、さらには、軟質部材層2bとして発泡材を中央層とし、硬質部材層2aがその両面に配された構造のサンドイッチ構造とすると、軽量かつ高剛性な面板が得られることからより好ましい。
【0025】
軟質部材層2bとしては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂からなるものを用いることができ、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)等のスチレン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、熱可塑性フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、および2種類以上のブレンド、ポリマーアロイなどがあげられる。
【0026】
熱硬化性樹脂としては、例えば不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド等や、これらの共重合体、変性体、およびこれらの少なくとも2種のポリマーアロイがあげられる。
【0027】
その中でもポリプロピレン(密度d0=0.96g/cm)の発泡体を用いると、複合成形品1の軽量化を達成するのに好適である。なお、ポリプロピレンの二倍発泡体を用いると密度d=0.48g/cmとなり、三倍発泡体では密度d=0.32g/cmとなる。
【0028】
以上のようにして得られた硬質部材層2aおよび軟質部材層2bをサンドイッチ構造として、積層板2とする製造方法を説明する。積層板2は、硬質部材層2aおよび軟質部材層2bを単に接着等で張り合わせるのではなく、金型等にあらかじめ繊維強化シートにマトリックス層を含浸させたプリプレグからなる硬質部材層2aと軟質部材層2bとをサンドイッチ構造に配置した後、加熱・加圧成形して得られるものである。具体的な加圧方法としては、プレス成形、ハンドレイアップ成形法、スプレーアップ成形法、真空バック成形法、加圧成形法、オートクレーブ成形法、トランスファー成形法などの熱硬化樹脂を使用した方法、およびプレス成形、スタンピング成形法などの熱可塑性樹脂を使用した方法などが挙げられる。とりわけ、プロセス性、力学特性の観点から真空バック成形法、プレス成形法、トランスファー成形法などが好適に用いられる。なお、硬質部材層2aとしてマトリックス層が含浸されていない強化繊維シートを用いる場合には、金型等に軟質部材層2bとともにサンドイッチ構造に配置した後、マトリックス層となる熱硬化性樹脂等を含浸させながら、加熱・加圧成形することができる。その際にも、前述と同様の加圧方法を用いることができる。連続して積層板2を成形する場合、硬質部材層2aとしてはプリプレグを用いることがハンドリング面から好ましい態様である。
【0029】
積層板2の中で軟質部材層2bの厚みは、積層板2の全体の厚みの30〜80%が好ましい。薄すぎる場合は、圧縮により軟質部材層2bの厚みを減らすのが困難になり、厚すぎる場合は、硬質部材層2aが薄くなり必要な板剛性が得られない。
【0030】
また、積層板2は金型等の加圧によって積層板2全体の厚みを圧縮させながら成形される。圧縮前の軟質部材層2bの厚みをt(mm)、圧縮後の厚みをt(mm)とすると、t(mm)はt(mm)の50〜95%程度であることが好ましい。50%以下であると軟質部材層2bのはみ出しが顕著に見られ、外観上好ましくない。95%以上になると圧縮しろが少なく良好な外観が得られないという点で好ましくない。
【0031】
積層板2の厚みは、対象とする製品によって異なるものの、数mm程度の厚みであれば、積層板2の軽量化を達成できる点で好ましい。
【0032】
本発明では、上述のようにして得られた積層板2の周縁部の少なくとも一部をさらに圧縮した薄板部2′を形成してから、熱可塑性樹脂3を射出成形して複合成形品1を得ることが特徴である。さらに、薄板部2′に軟質部材層2bの厚さが残るように、硬質部材層2aを圧縮変形させたことが特徴である。またさらに、硬質部材層2aは片側を圧縮変形させることが特徴である。以下、これらの特徴について説明する。
【0033】
ここで、積層板2の周縁部とは、積層板2の断面が露出している部分をいい、積層板2の外周部、および積層板2の外周部から内側に向けて切り欠かれた部分の内周部のいずれも含むものとする。
【0034】
積層板2を構成する硬質部材層2aは、剛性を確保するために必要な部材であり、熱可塑性樹脂3を射出成形しても変形することなく突き当て形状を形成する。一方、軟質部材層2bには、射出成形時の射出圧力によって熱可塑性樹脂3が積層板2の内部にまで入り込んでくる。接合部に熱可塑性樹脂3が軟質部材層2bへ入り込むと、アンダーカットを形成するため接合部強度を保つことができる。その反面、熱可塑性樹脂3が大量に入り込むと、複合成形品1全体の軽量化が達成できない。
【0035】
本発明は、特にノートパソコンや携帯電話等といった情報機器端末に用いる複合成形品であり、薄肉・軽量化が要求される。0.1mmあるいはそれ以下のオーダーで製品設計が必要となる場合、積層板2の厚みを越えるように熱可塑性樹脂3をオーバーラップ(被覆)させて結合させる寸法余裕はないと考えられる。このため、積層板2と熱可塑性樹脂3との接合強度を確保するためには、熱可塑性樹脂3を軟質部材層2bに入り込ませるだけの厚みを確保しておくことが必要になる。すなわち、このような入り込みを可能とするには、薄板部2′を形成する際に軟質部材層2bの厚みがなくなるまで硬質部材層2aを圧縮変形させるのではなく、厚みが残る程度に圧縮変形を止めておくことが必要となる。
【0036】
積層板2に薄板部2′を設けるには、例えば金型4等で積層板2の周縁部を、高さt1(mm)分だけ積層板2内の軟質部材層2bを圧縮することで得られる。具体的には、図2に示すように、あらかじめ圧縮する箇所に圧縮高さt(mm)分肉盛りをしてある金型4に積層板2を挿入後、型締め力により積層板2を圧縮する方法で得ることができる。あるいは積層板2の周縁部を厚さt(mm)分だけあらかじめプレス機等でプレス加工してもよい。積層板2の周縁部を圧縮する方法は、所定の圧縮厚さt(mm)が得られるのであれば、他の方法を用いてもよい。これらの方法のうち、積層板2を成形する金型4で圧縮加工を行うことが好ましい。薄板部2′に対応する部分にのみスライドピンを作成しておき、積層板2を成形後、マトリックス樹脂を硬化させる加熱工程においてスライドピンを移動させて、薄板部2′を形成することも好ましい態様である。
【0037】
積層板2に薄板部2′を形成するための圧縮位置は、熱可塑性樹脂3との接合面が好ましい。また、圧縮する薄板部2′の幅(周縁部端から積層板2中央に向かう方向の長さ)は任意に設定できるが、目標とする熱可塑性樹脂3の入り込み長さより長くすることが好ましい。剛性を確保するための入り込み量としては積層板2の端部から最大でも1.5mm程度あれば良く、それ以上の入り込み量は、積層板2全体の重量が増加するのみで強度向上には寄与しない。
【0038】
金型4等を用いて薄板部2′を形成する場合、複合成形品1のいずれか一方の面もしくは両面を圧縮してもよいが、外観面に出ない側の硬質部材層2aのみを圧縮すると、外観面に凹凸が発生しない均一な平面が得られ、意匠面の上からも好ましい。
【0039】
特に使用者が直接触れる機会の多いノートパソコンや携帯電話等の情報機器端末の筐体に本発明の複合成形品1を適用する場合、外観面に熱可塑性樹脂3が外観面にオーバーラップするように射出成形されていると、情報機器端末を落下させたりぶつけたりした際に、熱可塑性樹脂3が欠けたり剥離したりする恐れがある。
【0040】
後述するように、熱可塑性樹脂3のオーバーラップ部分で積層板2との接合強度を維持させていると、外観面に露出したオーバーラップ部分の破損によって積層板2との接合強度が確保できなくなり、情報機器端末の故障を誘発するおそれがある。また、使用者が切創等を負う危険性もありうる。
【0041】
このような問題を回避する上でも、硬質部材層2aは両側から圧縮するのではなく、外観面に出ない面を片側から圧縮することが好ましい。
【0042】
軟質部材層2bへの熱可塑性樹脂3の入り込みやすさは、軟質部材層2bの密度(g/cm)と厚さ(mm)の影響を受ける。同一の射出圧力で熱可塑性樹脂3を射出成形した場合、軟質部材層2bが同じ厚さであれば、密度が高いほど熱可塑性樹脂3は入り込みにくくなる。また、同じ密度であれば、厚さが薄いほど熱可塑性樹脂3は入り込みにくい。このような関係を考慮して、軽量化と高強度、高剛性を同時に達成する形状を見出した。以下、具体的に説明する。
【0043】
軟質部材層2bに用いる材料固有の密度d(g/cm)と積層板2成形前の軟質部材層2bの密度d(g/cm)との比(d/d)を求めると、発泡部材であれば発泡倍率が、発泡させていない樹脂シートであればd/d=1がそれぞれ得られる。
【0044】
積層板2内の軟質部材層2bの厚みt(mm)から薄板部2′の圧縮厚みt(mm)を差し引いた(t−t)(mm)が、薄板部2′における実際の軟質部材層2bの厚みである。実際の軟質部材層2bの厚みと積層板2成形前の軟質部材層2bの厚みt(mm)との比((t−t)/t)と、前述した発泡倍率(=d/d)との積を求めることにより、薄板部2′での実質発泡倍率が得られる。実質発泡倍率は1に近いほど軟質部材層2bの材料固有の密度に近く、1よりも大きい値ほど材料固有の密度が小さくなることを示している。
【0045】
このように、軟質部材層2bの密度の状態を示す実質発泡倍率と、薄板部2′における軟質部材層2bの厚み(t−t)(mm)との積T値を式(1)に示すように算出すると、前述したように軟質部材層2bに対する熱可塑性樹脂3の入り込みやすさを数値化できることを見出した。
【0046】
本発明においては、圧縮高さt(mm)を、軟質部材層2bに使用する材料によってT値が0.9〜1.4mmになるように調整することが好ましい。T値が1.4mmより大きくなった場合、熱可塑性樹脂3の入り込みを抑制することが困難になり、本発明の目的である軽量化を達成できない。一方、T値が0.9mm未満の場合、軟質部材層2bに対して熱可塑性樹脂3の入り込みを抑制することができるものの、積層板2全体としての剛性を確保するための熱可塑性樹脂3の入り込み量を確保できなかったり、圧縮高さt(mm)が大きくなり過ぎて、圧縮しない側の硬質部材層2aの外観面に凹凸が発生したりヒケが発生する等といった悪影響が出るおそれがある。T値は、更に好ましくは0.9〜1.2mmである。
【0047】
積層板2には、薄板部2′作製前または作製後に、図3(c)に示すような、溝状の切り欠きやくり抜きなど加工を施した切欠部を設けておくことが好ましい。このような切欠部を設けておくと、積層板2と熱可塑性樹脂3との接触面積が増え、さらに射出成形時にも熱可塑性樹脂3が軟質部材層2bに入り込む方向が略放射状に広がるため、より接合強度を増すことができる点で好ましい態様である。切欠部の形状は特に限定するものではないが、櫛歯形状や半円状などの溝形状であることが好ましい。あるいは、多角形や折曲部を有する溝形状であってもよい。また、切欠部を設ける箇所は製品に要求される強度、剛性等によって適宜設定することができるものの、少なくとも1箇所、好ましくは複数個所に設けることが好ましい。なお、切り欠き加工は、薄板部2′を形成する前であっても、形成した後であっても構わない。
【0048】
アウトサート成形用の熱可塑性樹脂3に使用される熱可塑性樹脂としては特に制限はなく、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニールアルコール樹脂、EVA樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フッ素系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、非晶ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアニルエーテエルニトリル樹脂、ポリベンゾイミダール樹脂などがある。なかでも、射出成形品の各種機械特性を考慮した場合、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂などが好ましく、より好ましくは、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂である。これら熱可塑性樹脂は、単独で使用しても良く、あるいは混合物でも、また共重合体であっても良い。混合物の場合には、相溶化剤が併用されていても良い。さらに、特定の機能を付加することを目的に、例えば、難燃剤として、臭素系難燃剤、シリコン系難燃剤あるいは赤燐、リン酸エステルなどを配合しても良い。
【0049】
また、複合成形品1の高強度・高剛性化を図るため、強化繊維を含有させた熱可塑性樹脂を熱可塑性樹脂3として用いることも好ましい。強化繊維としては、例えばアルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系等の炭素繊維や黒鉛繊維、ガラス繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維などの無機繊維や、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維等が使用できる。これらの強化繊維は単独で用いても、また、2種以上併用しても良い。なかでも、比強度、比剛性、軽量性のバランスの観点から炭素繊維が好ましく、比強度・比弾性率に優れる点でポリアクリロニトリル系炭素繊維を少なくとも含むことが好ましい。
【0050】
さらに、熱可塑性樹脂3には、要求される特性に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で他の充填材や添加剤を含有しても良い。例えば、無機充填材、リン系以外の難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。
【0051】
積層板2に熱可塑性樹脂3を接合する方法としては、一般的な射出成形法が用いられる。図2に示すように、内部にあらかじめ積層板2を配設した金型4に、図示しない射出成形機によって熱可塑性樹脂3を射出成形する。本発明の成形品を得るための射出成形機は、特に限定されるものではなく、インライン式、プリプラ式いずれでも良く、またスクリュータイプにおいては、汎用スクリューであっても特殊なミキシングピースを備えたものであっても良い。さらには、射出圧縮機構や種々の付帯機構を備えたものであっても良い。
【0052】
熱可塑性樹脂3の厚みは、より軽量化を達成することが求められる場合には、図4に示すように、積層板2と同じ厚みt(mm)となるように熱可塑性樹脂3を射出成形することができる。図4では、薄板部2′に溝状の切欠部が設けてあるので、軟質部材層2bに熱可塑性樹脂3が放射状に入り込んでアンダーカットを形成し、軽量化を満足しつつ接合強度も十分に確保することができる。
【0053】
あるいは、図5に示すように、熱可塑性樹脂3を、薄板部2′の圧縮部分にオーバーラップするように射出成形することもできる。このように射出成形すると、軟質部材層2bに入り込んでアンダーカットを形成するとともに、オーバーラップした熱可塑性樹脂3とによって、複合成形品1全体の厚さを厚くすることなく接合強度を向上させることができる。さらに図5の場合、外観面側に熱可塑性樹脂3がオーバーラップしていないので、前述したように、落下等によって例えオーバーラップした部分が破損したとしても、外観面には影響がなく、使用者が切創等する危険性もない。
【0054】
図5のような複合成形品1は、例えば金型4に圧縮厚みt(mm)分の高さのスライドピンを設けておき、積層板2を金型4内にセットした後、型締め力によって薄板部2′を形成し、スライドを引いた後熱可塑性樹脂3を射出成形することで得られる。このようなスライドピン以外の方法であっても、熱可塑性樹脂3がオーバーラップするように射出成形できれば、他の方法を用いてもよい。
【0055】
本発明の複合成形品1の用途としては、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの電気、電子機器の筐体及びトレイやシャーシなどの内部部材やそのケース、機構部品、自動車や航空機の電装部材、内部部品などが挙げられる。
【0056】
とりわけ、本発明の複合成形品1はその優れた薄肉性、成形性、高剛性、良外観を活かして、電気、電子機器用筐体や外部部材用に好適であり、さらには薄肉で広い投影面積を必要とするノート型パソコンや携帯情報端末などの筐体として好適である。
【実施例】
【0057】
以下に実施例によって、本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
積層板2の軟質部材層2bとして厚さ1.1mmの2倍発泡体(古河電気工業製“エフセル”(登録商標)RC2011W ポリプロピレン樹脂)を中央層に配し、硬質部材層2aとしてその上下面に炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3052S(東レ(株)製 炭素繊維T700S(強度4900MPa、弾性率230GPa、炭素繊維含有率67重量%、ベースレジン:エポキシ樹脂)を繊維配列方向がほぼ直交するように各2層積層したものをプレス成形(金型温度130℃、圧力1MPa、硬化時間120分)して厚み1.37mmのサンドイッチ積層板2を製造した。軟質部材層2bの厚みは0.965mmであった。
【0058】
この積層板2を289mm×204mmのサイズに加工後、金型クリアランスが1.37mm、圧縮高さtが0.1mm、薄板部2′の幅が15mmの金型4内部に積層板2をセットし、型締めを行って前記積層板の端部を外観面と反対側の面から0.1mm圧縮した後、熱可塑性樹脂として長繊維ペレット TLP1146(東レ(株)製 炭素繊維含有量20%、ベースレジン:ポリアミド6)を射出圧力最大115MPa、射出速度最大65%で連続的に射出成形して複合成形品1を20枚製造した。
【0059】
その結果、複合成形品の理論重量82.5gに対し、得られた成形品は85.7gであった。樹脂のポリプロピレン発泡材への入り込みは3.2gであり十分な接合強度を確保できる量であった。(1)式から算出されたT値は1.33mmであった。複合成形品の金型で圧縮した面は圧縮した分薄くなっているが、外観面には圧縮の跡は無く外観良品が得られた。
(実施例2,3)
積層板2の構成材料は実施例1から変更せず、金型による圧縮高さtを0.15mm、0.25mmにそれぞれ変えて各々20枚のアウトサート成形を連続で実施した。
【0060】
その結果、得られた複合成形品の理論重量と実測重量、(1)式から算出されたT値は表1の通りである。複合成形品の金型による圧縮面は圧縮した分薄くなっているが外観面には圧縮跡は無く良好な成形性と成形品外観を得た。
(実施例4)
積層板2の構成材料は実施例1から変更せず、金型による圧縮厚みtを0.4mmに変えて20枚のアウトサート成形を連続で実施した。
【0061】
その結果、複合成形品の理論重量は82.5gに対して、実測重量は84.5gであり、入り込み量は2.0gであった。(1)式から算出されたT値は0.56mmとなった。複合成形品の金型による圧縮面は圧縮した分薄くなっているが外観面にも圧縮跡がついており、外観良好な成形品は得られなかった。
(実施例5)
積層板2の硬質部材層2aは実施例1から変更せず、軟質部材層2bを厚さ1.1mmの3倍発泡体(古河電気工業製 ポリプロピレン樹脂)に変更してプレス成形を行い、厚み1.37mmのサンドイッチ積層板2を製造した。軟質部材層2bの厚みは0.965mmであった。
【0062】
この積層板2を圧縮厚み0.25mmの金型にセットし、実施例1と同様に熱可塑性樹脂3を射出成形して複合成形品1を20枚製造した。
【0063】
その結果、得られた複合成形品の理論重量と実測重量、(1)式から算出されたT値は表1の通りである。複合成形品の金型による圧縮面は圧縮した分薄くなっているが外観面には圧縮跡は無く良好な成形性と成形品外観を得た。
(実施例6、7)
積層板2の構成は実施例4から変更せず、金型による圧縮厚みtを変えて各々20枚のアウトサート成形を連続で実施した。
【0064】
その結果、得られた複合成形品の理論重量と実測重量、(1)式から算出されたT値は表1の通りである。いずれのサンプルも入り込み重量が接合強度保持に必要な量を超えており、軽量な複合成形品を得られなかった。
(比較例1)
積層板2の構成材料は実施例1から変更せず、金型による圧縮厚みtを0mm、すなわち薄板部2′を形成せずに、20枚のアウトサート成形を連続で実施した。
【0065】
その結果、複合成形品の理論重量は82.5gであるのに対し、実測重量は90.8gであり、入り込み重量は8.3gとなった。これは強度を接合部分の強度保持に必要な入り込み量を超えおり、軽量な複合成形品は得られなかった。(1)式から算出されたT値は1.66mmであった。
(比較例2)
積層板2の構成は実施例4から変更せず、金型による圧縮厚みtを0mm、すなわち薄板部2′を形成せずに、各々20枚のアウトサート成形を連続で実施した。
【0066】
その結果、得られた複合成形品の理論重量と実測重量、(1)式から算出されたT値は表1の通りである。いずれのサンプルも入り込み重量が接合強度保持に必要な量を超えており、軽量な複合成形品を得られなかった。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例と比較例の各水準のT値と入り込み量の関係を図6に示す。発泡倍率2倍の軟質部材層を使用した実施例1〜4では、金型による圧縮厚みtが大きくなるにしたがって熱可塑性樹脂の入り込み量が少なくなり、実施例4では外観面に圧縮跡が残り、必要とする接合強度が得られなかった。
【0069】
一方、発泡倍率3倍の軟質部材層を使用して、実施例1〜3と同じ圧縮厚みtとなるように圧縮した実施例5〜7においては、T値が実施例1とほぼ同等の実施例5のみ接合強度、熱可塑性樹脂の入り込み量が満足できる結果となった。
【0070】
以上の実施例から、軟質部材層への熱可塑性樹脂の入り込み量は、軟質部材層の発泡倍率と圧縮厚さtのいずれもが影響を及ぼすことが明らかとなり、このような状態を数値化したT値が0.9〜1.4mmの範囲に入っていると、十分な接合強度を満足しつつ、複合成形品全体の軽量化、外観意匠性を達成することができた。
【0071】
他方、薄板部を設けず発泡倍率のみを変えた比較例1、2においては、熱可塑性樹脂の入り込み量が制御できず、複合成形品全体として重量増加となった。いずれの比較例のT値も0.9〜1.4mmの範囲を外れていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明による複合成形品は、ノート型パソコンや携帯端末などの電気・電子機器筐体用途に限らず、その優れた薄肉性、軽量性、高剛性、良外観性を活かして、自動車部品用途等にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の複合成形品を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の複合成形品を製造するための金型の概略断面図である。
【図3】本発明の積層板を示す概略斜視図である。
【図4】本発明の複合成形品で熱可塑性樹脂を薄板部と同じ高さにした場合の概略斜視図である。
【図5】本発明の複合成形品で熱可塑性樹脂を薄板部の上にオーバーラップさせた場合の概略斜視図である。
【図6】本発明のT値と入り込み重量の相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0074】
1:複合成形品
2:積層板
2′:薄板部
2a:硬質部材層
2b:軟質部材層
3:熱可塑性樹脂
4:金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の硬質部材層の間に圧縮させた軟質部材層を積層させたサンドイッチ構造からなる積層板の周縁部の少なくとも一部に熱可塑性樹脂を接合してなる複合成形品であって、前記周縁部に位置する片側の硬質部材層を軟質部材層の厚みを残すように圧縮変形させた薄板部を設けてなるとともに、前記薄板部の軟質部材層に前記熱可塑性樹脂を嵌合させてなることを特徴とする複合成形品。
【請求項2】
前記薄板部に接合させた前記熱可塑性樹脂の厚みが前記薄板部と同一であることを特徴とする請求項1に記載の複合成形品。
【請求項3】
前記薄板部に接合させた前記熱可塑性樹脂の厚みが前記積層板と同一であることを特徴とする請求項1に記載の複合成形品。
【請求項4】
前記薄板部に1または複数の切欠部を設けてなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合成形品。
【請求項5】
前記軟質部材層の厚み(mm)と密度(g/cm)により(1)式で定義される値Tが0.9〜1.4mmであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の複合成形品。
【数1】

:軟質部材層の材料固有の密度(g/cm
:積層板成形前の軟質部材層の密度(g/cm
:積層板内(薄板部を除く)の軟質部材層厚み(mm)
:薄板部における圧縮厚み(mm)
:積層板成形前の軟質部材層厚み(mm)
【請求項6】
前記軟質部材層が発泡体からなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の複合成形品。
【請求項7】
前記硬質部材層が強化繊維を含むシートにエポキシ樹脂を含浸させた繊維強化樹脂からなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の複合成形品。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、強化繊維が含有されたものであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の複合成形品。
【請求項9】
一対の硬質部材層の間に軟質部材層を圧縮させながら積層させたサンドイッチ構造を備えた積層板の周縁部の少なくとも一部に熱可塑性樹脂を接合させる複合成形品の製造方法であって、前記周縁部に位置する片側の硬質部材層を軟質部材層の厚みを残すように圧縮変形させた薄板部を設け、前記薄板部の軟質部材層に前記熱可塑性樹脂を嵌合させるように射出成形することを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項10】
前記薄板部に接合させる前記熱可塑性樹脂の厚みを、前記薄板部と同一となるように前記熱可塑性樹脂を射出成形することを特徴とする請求項9に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項11】
前記薄板部に接合させる前記熱可塑性樹脂の厚みを、前記積層板と同一となるように前記熱可塑性樹脂を射出成形することを特徴とする請求項9に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項12】
前記薄板部に1または複数の切欠部を設け、前記切欠き部にも前記熱可塑性樹脂を射出成形することを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−46938(P2010−46938A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213890(P2008−213890)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】