説明

複合粒子及びその製造方法並びに樹脂組成物

【課題】熱伝導性と耐水性に優れる複合粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウム粒子を1100℃以上で熱処理して、前記窒化アルミニウム粒子の表面にαアルミナを含む被覆層を形成する工程と、前記表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と、窒化アルミニウムと選択的に反応する化合物とを接触させる工程とを有する製造方法により、窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部の領域を被覆し、αアルミナを含む第一の被覆層と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の前記第一の被覆層以外の領域を被覆し、窒化アルミニウム及び窒化アルミニウムと選択的に反応する化合物の反応生成物である有機物とを含む複合粒子が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子及びその製造方法並びに樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高性能化に伴い、いかに放熱対策を講じるかが重要な課題となっている。そこで、電子部品が実装される基板を構成する樹脂を高熱伝導化するため、一般に熱伝導率の高い粒子をフィラとして樹脂に添加する方法が用いられている。高熱伝導性の絶縁性樹脂を形成するために添加する電気絶縁性フィラとして、より熱伝導率の高い粒子が用いられている。
【0003】
例えば、熱伝導率の高い窒化アルミニウムをフィラとして用いる方法が検討されている。しかし、窒化アルミニウムは水に対して極めて不安定であり、大気中の水と容易に反応して、アンモニアを発生し、窒化アルミニウムの粉体の表面に、水酸化アルミニウムが生成する。
【0004】
従って、粉状の窒化アルミニウムを大気中に長期保存した場合、或いは樹脂等に分散させた場合であっても、水酸化アルミニウムの生成にともない熱伝導性が低下することが知られている。そこで例えば、窒化アルミニウム表面を有機物や無機物で被覆することにより耐水性を向上させる方法が知られている。
【0005】
しかし、窒化アルミニウム粒子表面を有機物や無機物(金属酸化物、ガラス、金属塩等)で被覆することにより、窒化アルミニウム粒子をコンポジット化した場合、窒化アルミニウム表面上の有機物または無機物が熱伝導を阻害し、コンポジット材料自体の熱伝導率が低下してしまう場合があった。また、表面被覆による熱伝導阻害の影響を低めるため、表面被覆無機物に熱伝導性の良いα化したアルミナを被覆層に用いる方法が知られている(例えば、特開平04−175209号公報参照)。
【0006】
しかし、結晶性のαアルミナからなる被覆層は、一般に焼成時に多くの亀裂が生じるため、耐水性が不十分になる。そこで、窒化アルミニウム表面に結晶性のαアルミナ層を形成する際、焼成ガスにおける酸素ガス量を制御することにより、亀裂の発生を低減する方法が知られている(例えば、特開2005−225947号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04−175209号公報
【特許文献2】特開2005−225947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に基板を構成する樹脂における高熱伝導性フィラ添加の効果は、フィラの充填量を多くすると向上するが、窒化アルミニウム表面をαアルミナのみで被覆した粒子を高充填化すると、樹脂と混合する際に粘度が上昇することで、成形性、接着性等が悪化してしまい、結果として熱伝導率を向上させることが困難となる場合があった。
本発明は、熱伝導性と耐水性に優れる複合粒子及びその製造方法、並びに前記複合粒子を含み、熱伝導性に優れる樹脂組成物、樹脂付金属箔及び樹脂シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部の領域を被覆し、αアルミナを含む第一の被覆層と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の前記第一の被覆層以外の領域を被覆し、窒化アルミニウム及び窒化アルミニウムと選択的に反応する化合物の反応生成物である有機物を含む第二の被覆層と、を有する複合粒子である。
【0010】
<2> 前記<1>に記載の複合粒子と、エポキシ樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物である。
【0011】
<3> 金属箔と、前記金属箔上に配置された前記<2>に記載の樹脂組成物に由来する半硬化樹脂層と、を備える樹脂付金属箔である。
【0012】
<4> 前記<3>に記載の樹脂組成物を加熱加圧処理した硬化物である樹脂シートである。
【0013】
<5> 窒化アルミニウム粒子を1100℃以上で熱処理して、前記窒化アルミニウム粒子の表面にαアルミナを含む被覆層を形成する工程と、前記表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と、窒化アルミニウムと選択的に反応する化合物とを接触させる工程とを有する前記<1>に記載の複合粒子の製造方法である。
【0014】
<6> 前記窒化アルミニウムと選択的に反応する化合物は、炭素数1〜24の炭化水素基と、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方とを含む化合物である前記<5>に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱伝導性と耐水性に優れる複合粒子及びその製造方法、並びに前記複合粒子を含み、熱伝導性に優れる樹脂組成物、樹脂付金属箔及び樹脂シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかる複合粒子におけるSEM−EDX分析の炭素原子分布の一例を示す図である。
【図2】本発明にかかる複合粒子におけるSEM−EDX分析の酸素原子分布の一例を示す図である。
【図3】本発明にかかる複合粒子におけるSEM−EDX分析のアルミニウム原子分布の一例を示す図である。
【図4】本発明にかかる複合粒子のSEM画像の一例を示す図である。
【図5】本発明にかかる複合粒子のX線回折スペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0018】
<複合粒子>
本発明の複合粒子は、窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部の領域を被覆し、αアルミナを含む第一の被覆層と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の前記第一の被覆層以外の領域を被覆し、有機物を含む第二の被覆層とを有することを特徴とする。
窒化アルミニウム粒子の表面が、αアルミナを含む第一の被覆層と有機物を含む第二の被覆層で被覆されていることにより、熱伝導性と耐水性に優れる。さらに第二の被覆層が有機物を含むことで、例えば樹脂との相溶性及び分散性に優れ、樹脂組成物を構成した場合に粘度の上昇が抑制され、成形性及び接着性に優れる樹脂組成物を構成することができる。
【0019】
窒化アルミニウム粒子の表面に、熱伝導性が良好なαアルミナを含む第一の被覆層を形成する際には、高温で熱処理する必要がある。そのため窒化アルミニウム粒子の表面全体を、αアルミナを含む第一の被覆層で均一に被覆することは困難であり、第一の被覆層には亀裂が生じ、窒化アルミニウムが表面に露出する領域が形成される。このような窒化アルミニウムが露出した領域に有機物を含む第二の被覆層を設けることで、優れた熱伝導性を維持しつつ、耐水性に優れる複合粒子を構成することができる。
【0020】
このような複合粒子の表面状態は、例えば、エネルギー分散型X線分析装置を備えた走査型電子顕微鏡(SEM−EDX)を用いて、αアルミナを含む第一の被覆層に対応する酸素原子(O)、有機物を含む第二の被覆層に対応する炭素原子(C)、αアルミナ及び窒化アルミニウムに対応するアルミニウム原子(Al)の分布をそれぞれ分析することで観察することができる。
【0021】
本発明において窒化アルミニウム粒子表面における第一の被覆層の存在量と第二の被覆層の存在量との比率は特に制限されないが、熱伝導性と耐水性の観点から、原子基準で、第二の被覆層/第一の被覆層として0.01〜1.0であることが好ましく、0.1〜0.5であることがより好ましい。
尚、窒化アルミニウム粒子表面における第一の被覆層の存在量及び第二の被覆層の存在量は、SEM−EDXを用いて酸素原子及び炭素原子の分布量をそれぞれ定量することで算出することができる。
【0022】
また複合粒子中に含まれる有機物の含有比率は特に制限されないが、熱伝導性と耐水性の観点から、複合粒子中に0.01質量%〜0.5質量%であることが好ましく、0.02質量%〜0.05質量%であることがより好ましい。
尚、複合粒子に含まれる有機物の含有比率は、熱重量分析を行うことで算出することができる。具体的には、複合粒子の加熱に伴う重量変化を、熱重量分析装置(TGA)を用いて、測定範囲25〜800℃、昇温速度10℃/min.の条件で測定し、有機物の熱分解に伴う重量の減少を測定することで算出することができる。
【0023】
複合粒子中に含まれる有機物の含有比率は、例えば、後述する有機物層形成工程における種々の条件を適宜選択することで制御することができる。具体的には例えば、第一の被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と接触させる化合物の種類や濃度、接触時間や接触温度を適宜選択することで、複合粒子中に含まれる有機物の含有比率を所望の範囲とすることができる。
【0024】
本発明において、窒化アルミニウム粒子の表面に形成されるαアルミナを含む被覆層(第一の被覆層)の層厚は特に制限されない。第一の被覆層の層厚は、熱伝導性と耐水性の観点から、1nm以上3000nm以下であることが好ましく、熱伝導性の観点から、1nm以上200nm以下であることがより好ましく、耐水性の観点から、10nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
第一の被覆層の層厚は、CuKα線によるX線回折におけるαアルミナの(100)面に対応するピーク(A)及び窒化アルミニウムの(113)面に対応するピーク(B)について、面積基準の強度比(A/B)から見積もることができる。
具体的には得られた強度比から、αアルミナを含む第一の被覆層の層厚を算出することができる。具体的には以下のようにして第一の被覆層の層厚が算出される。
第一の被覆層の層厚は、CuKα線によるX線回折におけるαアルミナの(100)面に対応するピーク(A)及び窒化アルミニウムの(113)面に対応するピーク(B)について、それぞれのピークの積分強度比(A/B)をICDD(International Centre for Diffraction Data)データに基づいて規格化し、αアルミナと窒化アルミニウムの体積比に変換する。換算したαアルミナと窒化アルミニウムの体積比と複合粒子の粒子径から第一の被覆層の層厚を算出することができる。
【0026】
またX線回折におけるαアルミナの(100)面に対応するピークの窒化アルミニウムの(113)面に対応するピークに対する強度比は以下のようにして求められる。
X線回折装置としてRINT2500HL(リガク社製)、X線源としてCuKα線を用いて、X線回折スペクトル(XRD)を測定する。得られたX線回折スペクトルから、2θが42.5〜44.5°付近のαアルミナの(100)面に対応するピークと、2θが32.5〜33.5°付近の窒化アルミニウムの(113)面に対応するピークとをそれぞれ同定し、それぞれのピークの強度をピーク面積から求める。得られたピーク強度に基づいて、αアルミナの(100)面に対応するピークの窒化アルミニウムの(113)面に対応するピークに対する面積基準の強度比を算出することができる。
【0027】
本発明においては、熱伝導性と耐水性の観点から、αアルミナの(100)面に対応するピークの窒化アルミニウムの(113)面に対応するピークに対する強度比が、面積基準の1以下であることが好ましく、0.001以上1以下であることがより好ましく、0.003以上0.1以下であることがさらに好ましく、熱伝導性の観点から、0.003以上0.02以下であることが特に好ましい。
前記強度比が1以下であることで、複合粒子における窒化アルミニウムに対するαアルミナ結晶の割合が少なくなり、複合化による高熱伝導化の効果をより効果的に得ることができる。
【0028】
αアルミナを含む第一の被覆層の層厚は、例えば、後述する酸化工程及びα化工程における種々の条件を適宜選択することで制御することができる。具体的には例えば、酸化工程及びα化工程に用いる酸素量や、窒化アルミニウム表面の加水分解量等を適宜選択することで所望の層厚とすることができる。
【0029】
また複合粒子の粒子形状は、略球状、扁平状、ブロック状、板状及び鱗片状等が挙げられる。分散性と熱伝導性の観点から、略球状、扁平状であることが好ましい。
また複合粒子の粒子径は特に制限されない。例えば体積平均粒子径として、0.5μm〜300μmとすることができ、熱伝導性と樹脂への充填の観点から、1μm〜100μmであることが好ましく、10μm〜50μmであることがより好ましい。
体積平均粒子径はレーザー回折法を用いて測定される。レーザー回折法はレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター社製、LS230)を用いて行うことができる。
【0030】
<複合粒子の製造方法>
本発明の複合粒子は、例えば、1)窒化アルミニウム粒子を1100℃以上で熱処理して、前記窒化アルミニウム粒子の表面にαアルミナを含む被覆層を形成する工程と、2)前記表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と、炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物とを接触させる工程とを有し、必要に応じてその他の工程を有する製造方法で製造することができる。
かかる製造方法により、窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部の領域を被覆し、αアルミナを含む第一の被覆層と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の前記第一の被覆層以外の領域を被覆し、有機物を含む第二の被覆層とを有する複合粒子を効率的に製造することができる。
【0031】
本発明に用いられる窒化アルミニウム粒子中に含まれる窒化アルミニウムの含有率は特に制限されないが、熱伝導性の観点から、95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。
また窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウムの単結晶であっても2以上の窒化アルミニウムの結晶が焼結した粒子であってもよい。
【0032】
また窒化アルミニウム粒子の形状としては、略球状、扁平状、ブロック状、板状及び鱗片状等が挙げられる。分散性と熱伝導性の観点から、略球状、扁平状であることが好ましい。
また窒化アルミニウム粒子の粒子径は特に制限されない。例えば体積平均粒子径として、0.5μm〜300μmとすることができ、熱伝導性と樹脂への充填の観点から、1μm〜100μmであることが好ましく、10μm〜50μmであることがより好ましい。
体積平均粒子径はレーザー回折法を用いて測定される。レーザー回折法はレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター社製、LS230)を用いて行うことができる。
【0033】
窒化アルミニウム粒子は通常行われる方法で製造することができる。具体的には例えば、直接窒化法、還元窒化法、気相反応法等を挙げることができる。
また市販されている窒化アルミニウム粒子から適宜選択することもできる。
【0034】
窒化アルミニウム粒子の表面には1100℃以上の熱処理により、αアルミナを含む被覆層が形成される。1100℃以上の温度で熱処理することにより窒化アルミニウム粒子の表面にαアルミナを含む被覆層(第一の被覆層)が形成される。一方、熱処理の温度が1100℃未満の場合には、α結晶化が十分に進行せず、αアルミナを含む被覆層を形成することができない場合がある。
【0035】
窒化アルミニウム粒子の表面にαアルミナを含む被覆層を形成する方法は特に制限されず通常用いられる方法から適宜選択することができ、窒化アルミニウム粒子の表面にαアルミナを含む被覆層を直接形成する方法であっても、窒化アルミニウム粒子の表面にγアルミナ等のαアルミナ以外の酸化アルミニウムを形成し、これを1100℃以上で熱処理することによってα結晶化してαアルミナを含む被覆層を形成する方法であってもよい。
本発明においては、熱伝導性と膜厚制御の観点から、窒化アルミニウム粒子の表面にγアルミナ等のαアルミナ以外の酸化アルミニウムを含む被覆層を形成する酸化工程と、窒化アルミニウム粒子の表面に形成された酸化アルミニウムを1100℃以上で熱処理することによってα結晶化するα化工程とを含む方法であることが好ましい。ここで酸化工程とα化工程はそれぞれ独立に行なってもよく、また連続的に行なってもよい。
【0036】
窒化アルミニウム粒子の表面にγアルミナ等のαアルミナ以外の酸化アルミニウムを含む被覆層を形成する酸化工程として、例えば、窒化アルミニウム粒子を酸素含有ガス雰囲気下で熱処理して酸化アルミニウムを形成する方法、窒化アルミニウム粒子を限られた酸素量の雰囲気下で熱処理して酸化アルミニウムを形成する方法、窒化アルミニウム表面を加水分解せしめた後、不活性ガス雰囲気下で熱処理して酸化アルミニウムを形成する方法等を挙げることができる。
ここで不活性ガス雰囲気については後述するα化工程における不活性ガス雰囲気と同義である。
【0037】
窒化アルミニウム粒子を限られた酸素量の雰囲気下で熱処理する場合の酸素量は、窒化アルミニウム粒子の表面に形成する酸化アルミニウム被覆層の厚みに応じて適宜選択することができる。例えば、100gの質量の窒化アルミニウム粒子に対して酸素量を5〜50mlとすることができる。
また窒化アルミニウム表面を加水分解する方法としては、通常の大気中に窒化アルミニウム粒子を0.1〜1時間放置する方法、水を含む溶媒中で撹拌する方法等を挙げることができる。
【0038】
本発明においては、熱伝導性の観点から、窒化アルミニウム粒子を限られた酸素量の雰囲気下で熱処理して酸化アルミニウムを形成する方法、又は、窒化アルミニウム表面を加水分解せしめた後、不活性ガス雰囲気下で熱処理して酸化アルミニウムを形成する方法であることが好ましい。
【0039】
酸化工程における熱処理温度は、酸化アルミニウムのα結晶化が進行しない程度の温度であることが好ましく、1100℃未満であることがより好ましく、1000℃以下であることがさらに好ましい。
また酸化工程における熱処理時間は、熱処理温度等に応じて適宜選択できる。熱伝導性の観点から、10〜200分間であることが好ましく、30〜120分間であることがより好ましい。
【0040】
酸化工程における熱処理は、一定の温度で行ってもよく、また、例えば室温から所定の温度まで昇温することで行なってもよい。本発明においては、熱伝導性と生産性の観点から、室温から所定の温度まで昇温することで熱処理を行うことが好ましい。
酸化工程における熱処理を、室温から所定の温度まで昇温すること行なう場合、所定の温度が1100℃であって、昇温時間が10℃/分であることが好ましく、所定の温度が1000℃であって、昇温時間が10℃/分であることがより好ましい。
【0041】
窒化アルミニウムの表面に形成されたαアルミナ以外の酸化アルミニウムを、高温で熱処理することでα結晶化することができる(α化工程)。
α化工程における熱処理温度は、熱伝導性の観点から、1100℃以上であることが好ましく、1150℃以上であることがより好ましい。
またアルファ化工程における熱処理時間は、熱処理温度等に応じて適宜選択できる。熱伝導性の観点から、0.2〜3時間であることが好ましく、0.5〜1時間であることがより好ましい。
【0042】
α化工程における熱処理は、一定の温度で行ってもよく、また、例えば酸化工程における熱処理温度から所定の温度まで昇温した後、所定の温度を維持することで行なってもよい。本発明においては、熱伝導性と生産性の観点から、酸化工程における熱処理温度から所定の温度まで昇温した後、所定の温度を維持することで熱処理を行うことが好ましい。
酸化工程における熱処理を、酸化工程における熱処理温度から所定の温度まで昇温した後、所定の温度を維持することで行なう場合、所定の温度が1100〜1300℃であって、所定の温度の維持時間が0.2〜3時間であることが好ましく、所定の温度が1150〜1200℃であって、維持時間が0.5〜2時間であることがより好ましい。
【0043】
α化工程における熱処理は、熱伝導性の観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気としては酸素の含有量が0.1体積%以下であることが好ましい。また不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を挙げることができる。
【0044】
本発明の複合粒子の製造方法は、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と、炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物とを接触させる有機物層形成工程を含む。
【0045】
上記のようにして得られる表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と、炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物(以下、「特定化合物」ともいう)とを接触させることで、窒化アルミニウム粒子の表面においてαアルミナを含む被覆層が形成されていない領域に有機物含む被覆層(第二の被覆層)を形成することができる。
【0046】
これは例えば以下のように考えることができる。
上記のようにして窒化アルミニウムの表面にαアルミナを含む被覆層を形成すると、形成されるαアルミナを含む被覆層には亀裂が生じる。これにより、窒化アルミニウム粒子の表面にはαアルミナを含む被覆層で被覆されていない領域が生じる。このような窒化アルミニウム粒子の表面のαアルミナを含む被覆層で被覆されていない領域に、炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物を接触させる。特定化合物はアルミナとは反応性を有さずに、窒化アルミニウムと選択的に反応すると考えられることから、窒化アルミニウム粒子の表面のαアルミナを含む被覆層で被覆されていない領域に、特定化合物と窒化アルミニウムとの反応生成物である有機物を含む被覆層が形成されると考えることができる。
【0047】
本発明における炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物として具体的には以下の有機化合物を挙げることができる。
炭素数1〜24の炭化水素基及び水酸基を有する化合物としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、オクタデシルアルコール、ベヘニルアルコール等の環状、直鎖状又は分岐鎖状の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール等のグリコール類及びジオール類、グリセリン、エリスリトール、グルシトール、マンニトール等の多価アルコール類、糖類、多糖類などを挙げることができる。
さらに水酸基の酸素原子がイオウで置き換えられたチオール類を使用することもできる。
【0048】
カルボキシ基を有する有機化合物としては、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アクリル酸、クロトン酸、オレイン酸、リノール酸等のモノカルボン酸、オレイルアルコールコハク酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等のジ及びトリカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の芳香族カルボン酸などを挙げることができる。
さらにカルボキシ基の酸素原子がイオウで置き換えられたチオカルボン酸、ジチオカルボン酸類を使用することもできる。
【0049】
これらの中でも、熱伝導性と耐水性の観点から、炭素数2〜20の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する化合物であることが好ましく、炭素数2〜20の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を1〜2有する化合物であることがより好ましく、炭素数2〜20の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を1有する化合物であることがさらに好ましい。
【0050】
また、熱伝導性と耐水性の観点から、炭素数1〜24の炭化水素基とカルボキシ基とを有する化合物及び炭素数1〜24の炭化水素基と水酸基とを有する化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、炭素数2〜24の炭化水素基と1〜2のカルボキシ基とを有する化合物及び炭素数2〜24の炭化水素基と1〜2の水酸基とを有する化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基と1のカルボキシ基とを有する化合物及び炭素数4〜24の炭化水素基と1の水酸基とを有する化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることがさらに好ましい。
【0051】
炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物は、1種単独でも又は2種以上を混合して使用することもできる。
また、炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を1含む化合物と、使用するアルコール性水酸基やカルボキシ基を有する有機化合物の一部にアルコール基やカルボキシ基を多数有している化合物を用いることにより複合粒子表面の極性を制御することができ、樹脂への分散性を調整することができる。
【0052】
表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と、炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物(特定化合物)とを接触させる方法としては、通常用いられる方法を特に制限なく用いることができる。例えば、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を特定化合物又はその溶液に浸漬する方法、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を特定化合物又はその溶液を塗布する方法、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を特定化合物のガスと接触させる方法等を挙げることができる。本発明においては、反応性の観点から、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を特定化合物又はその溶液に浸漬する方法であることが好ましい。
【0053】
表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を特定化合物の溶液に浸漬する場合、特定化合物の濃度は特に制限されないが、反応性及び分散性の観点から、0.1質量%〜20質量%であることが好ましく、0.5質量%〜5質量%であることがより好ましい。
また特定化合物の溶液を構成する溶媒は特に制限されないが、有機溶剤であることが好ましい。有機溶剤としては例えば、トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の炭化水素系溶剤、クロロホルム、ジクロルメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化アルキル系溶剤、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、THF等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤などを挙げることができる。中でも含水量及び特定化合物との相容性の観点から、炭化水素系溶剤、エーテル系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、炭化水素系溶剤であることがより好ましい。
【0054】
また表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と特定化合物とを接触させる時間は特に制限されず、特定化合物の種類や接触温度等に応じて適宜選択することができる。例えば、10分〜12時間とすることができ、熱伝導性と耐水性の観点から、1〜4時間であることが好ましく、2〜4時間であることがより好ましい。
【0055】
さらにまた表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と特定化合物とを接触させる温度は特に制限されず、特定化合物の種類や接触時間等に応じて適宜選択することができる。例えば、25℃〜150℃とすることができ、熱伝導性と耐水性の観点から、30℃〜120℃であることが好ましく、50℃〜120℃であることがより好ましい。
【0056】
本発明における有機物層形成工程は、熱伝導性と耐水性の観点から、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物から選ばれる特定化合物中に浸漬して、温度25℃〜150℃で、1〜12時間接触させる工程であることが好ましく、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物から選ばれる特定化合物中に浸漬して、温度50℃〜120℃で、2〜4時間接触させる工程であることがより好ましい。
【0057】
表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と特定化合物とを接触させて得られた複合粒子に対しては、必要に応じて洗浄や乾燥等の後処理を行ってもよい。
【0058】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、前記複合粒子の少なくとも1種と、エポキシ樹脂の少なくとも1種と、硬化剤の少なくとも1種とを含み、必要に応じてその他の成分を含んで構成される。
前記複合粒子の少なくとも1種を含むことで、熱伝導性と成形性に優れる熱硬化性の樹脂組成物を構成することができる。
【0059】
(複合粒子)
樹脂組成物は、既述の窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部の領域を被覆し、αアルミナを含む第一の被覆層と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の前記第一の被覆層以外の領域を被覆し、有機物を含む第二の被覆層とを有する複合粒子の少なくとも1種を含む。
【0060】
樹脂組成物に含まれる複合粒子の好ましい態様は既述の通りである。
樹脂組成物中における複合粒子の含有率は特に制限されないが、熱伝導性と成形性の観点から、樹脂組成物の固形分中における含有率が60〜98質量%であることが好ましく、80〜95質量%であることがより好ましい。
ここで、固形分とは、樹脂組成物を構成する成分のうちの不揮発性成分の総量を意味する。
【0061】
尚、樹脂組成物に含まれる複合粒子は1種単独でもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の複合粒子を組み合わせて用いる場合、2種以上の複合粒子としては、例えば、粒子径が互いに異なるもの、有機物の含有率が互いに異なる、有機物の構造が互いに異なる、αアルミナを含む被覆層の層厚が互いに異なるもの、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0062】
(エポキシ樹脂)
樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂は、熱硬化性樹脂組成物に通常用いられるエポキシ樹脂から目的に応じて適宜選択することができる。
エポキシ樹脂として具体的には例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン骨格を有するエポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したものを挙げることができる。
【0063】
また、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンとフェノール類の共縮合樹脂のエポキシ化物、ナフタレン環を有するエポキシ樹脂、フェノール・アラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を含有するフェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、テルペン変性エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、硫黄原子含有エポキシ樹脂なども挙げられる。
これらのエポキシ樹脂は単独で用いても2種以上を組み合わせて併用して用いてもよい。
【0064】
樹脂組成物中におけるエポキシ樹脂の含有率は特に制限されないが、熱伝導性と成形性の観点から、樹脂組成物の固形分中における含有率が2〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。
【0065】
(硬化剤)
樹脂組成物に含まれる硬化剤は、エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物に通常用いられる硬化剤から目的に応じて適宜選択することができる。
具体的には例えば、ノボラック樹脂、芳香族アミン系硬化剤、脂肪族アミン系硬化剤、メルカプタン系硬化剤、酸無水物硬化剤、イソシアネート系硬化剤等の重付加型硬化剤や、イミダゾール、TPP、ブロックイソシアネート系硬化剤等の潜在性硬化剤などを挙げることができる。
【0066】
硬化剤の樹脂組成物の固形分中における含有量は、硬化剤の種類や樹脂組成物を熱硬化して形成される樹脂成形体の物性を考慮して適宜設定すればよい。
具体的には、硬化剤の樹脂組成物の固形分中における含有量は、エポキシ基1モルに対して硬化剤の化学当量が0.005〜5当量となる含有量であることが好ましく、0.01〜3当量であることがより好ましくは、0.5〜1.5当量であることがさらに好ましい。
この硬化剤の含有量が、エポキシ基1モルに対して0.005当量以上であると、エポキシ樹脂を速やかに硬化することができる傾向にある。一方、5当量以下であると、硬化反応が速くなりすぎることを抑制できる。
なお、ここでの化学当量は、例えば硬化剤としてアミン系硬化剤を使用した際は、エポキシ基1モルに対するアミンの活性水素のモル数を表す。
【0067】
本発明の樹脂組成物は上記必須成分に加えて、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては例えば、溶剤、分散剤、沈降防止剤等を挙げることができる。
前記溶剤としては樹脂組成物の硬化反応を阻害しないものであれば特に制限なく、通常用いられる有機溶剤を適宜選択して用いることができる。
【0068】
<Bステージシート>
本発明のBステージシートは、前記樹脂組成物に由来する半硬化樹脂組成物からなり、シート状の形状を有する。
Bステージシートは、例えば、前記樹脂組成物を離型フィルム上に塗布・乾燥して樹脂組成物層を形成する工程と、前記樹脂組成物層をBステージ状態まで加熱処理する工程とを含む製造方法で製造できる。
前記樹脂組成物を加熱処理して形成されることで、熱伝導率に優れ、Bステージシートとしての可とう性および可使時間に優れる。
本発明のBステージシートとは樹脂シートの粘度として、における常温(25℃)においては10〜10Pa・sであるのに対して、100℃で10〜10Pa・sに粘度が低下するものである。また、後述する硬化後の硬化樹脂層は加温によっても溶融することはない。尚、上記粘度は、動的粘弾性測定(周波数1ヘルツ、荷重40g、昇温速度3℃/分)によって測定されうる。
【0069】
具体的には例えば、PETフィルム等の離型フィルム上に、メチルエチルケトンやシクロヘキサンノン等の溶剤を添加したワニス状の樹脂組成物を、塗布後、乾燥することで樹脂組成物層を形成することができる。
塗布は、公知の方法により実施することができる。塗布方法として、具体的には、コンマコート、ダイコート、リップコート、グラビアコート等の方法が挙げられる。所定の厚みに樹脂組成物層を形成するための塗布方法としては、ギャップ間に被塗工物を通過させるコンマコート法、ノズルから流量を調整した樹脂ワニスを塗布するダイコート法等を適用することができる。例えば、乾燥前の樹脂組成物層の厚みが50μm〜500μmである場合、コンマコート法を用いることが好ましい。
【0070】
塗工後の樹脂組成物層は硬化反応がほとんど進行していないため、可とう性を有するものの、シートとしての柔軟性に乏しく、支持体である前記PETフィルムを除去した状態ではシート自立性に乏しく、取り扱いが困難である。そこで、本発明は後述する加熱処理により樹脂組成物をBステージ化する。
本発明において、得られた樹脂組成物層を加熱処理する条件は、樹脂組成物をBステージ状態にまで半硬化することができれば特に制限されず、樹脂組成物の構成に応じて適宜選択することができる。本発明において加熱処理には、塗工の際に生じた樹脂層中の空隙(ボイド)をなくす目的から、熱真空プレス、および、熱ロールラミネート等から選択される加熱処理方法が好ましい。これにより平坦なBステージシートを効率よく製造することができる。
具体的には例えば、加熱温度80℃〜130℃で、1〜30秒間、真空下(例えば、1MPa)で加熱プレス処理することで樹脂組成物層をBステージ状態に半硬化することができる。
【0071】
前記Bステージシートの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、50μm以上200μm以下とすることができ、熱伝導率およびシート可とう性の観点から、60μm以上150μm以下であることが好ましい。また、2層以上の樹脂フィルムを積層しながら熱プレスすることにより作製することもできる。
【0072】
<樹脂付金属箔>
本発明の樹脂付金属箔は、金属箔と、前記金属箔上に配置された前記樹脂組成物に由来する半硬化樹脂層とを備える。前記樹脂組成物に由来する半硬化樹脂層を有することで、熱伝導率、電気絶縁性、可とう性に優れる。
前記半硬化樹脂層は前記樹脂組成物をBステージ状態になるように加熱処理して得られるものである。
【0073】
前記金属箔としては、金箔、銅箔、アルミニウム箔など特に制限されないが、一般的には銅箔が用いられる。
前記金属箔の厚みとしては、1μm〜35μmであれば特に制限されないが、20μm以下の金属箔を用いることで可とう性がより向上する。
また、金属箔として、ニッケル、ニッケル−リン、ニッケル−スズ合金、ニッケル−鉄合金、鉛、鉛−スズ合金等を中間層とし、この両面に0.5〜15μmの銅層と10〜300μmの銅層を設けた3層構造の複合箔、又はアルミニウムと銅箔とを複合した2層構造複合箔を用いることもできる。
【0074】
樹脂付金属箔は、前記樹脂組成物を金属箔上に塗布・乾燥することにより樹脂組成物層を形成し、前記樹脂組成物層がBステージ状態(半硬化状態)になるように加熱処理することで製造することができる。
【0075】
樹脂付金属箔の製造条件は特に制限されないが、乾燥後の樹脂組成物層において、樹脂ワニスに使用した有機溶媒が80質量%以上揮発していることが好ましい。乾燥温度は80〜180℃程度であり、乾燥時間はワニスのゲル化時間との兼ね合いで決めることができ、特に制限はない。樹脂ワニスの塗布量は、乾燥後の樹脂層の厚みが50〜200μmとなるように塗布することが好ましく、60〜150μmとなることがより好ましい。
尚、樹脂組成物層の形成方法、加熱処理条件は既述の通りである。
【0076】
<樹脂シート>
本発明の樹脂シートは、前記樹脂組成物を加熱加圧処理し、熱硬化させて形成される。前記樹脂組成物の硬化物であることで、熱伝導性に優れる。
樹脂組成物を加熱加圧処理する条件は、樹脂組成物を硬化することができれば特に制限されず、樹脂組成物の構成に応じて適宜選択することができる。例えば、温度120〜180℃、圧力0.5〜20MPaで、10〜300分間とすることができる。
【0077】
樹脂シートの厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば50〜5000μmとすることができ、熱伝導性と絶縁性の観点から、50〜1000μmであることが好ましく、100〜500μmであることがより好ましい。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0079】
<実施例1>
体積平均粒子径30μmの窒化アルミニウム焼結粒子5gを、高温管状炉(35mmφ×1200mm)に入れ、Arガスを0.5L/分で流しながら、室温から1200℃まで100分で昇温させた。1200℃で2時間保持した後、1200℃から室温まで240分で降温させて焼成処理し、表面にαアルミナ被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を得た。
得られた表面にαアルミナ被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を脱水トルエンに加え、ステアリン酸0.25gを加えた後、2時間加熱還流して複合粒子化した。得られた複合粒子をトルエンで洗浄した後、室温で乾燥させて有機物被覆処理することにより、表面にαアルミナを含む被覆層と有機物を含む被覆層が形成された複合粒子1を得た。
【0080】
(樹脂組成物)
得られた複合粒子1に、エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER828)と硬化剤(日本化薬社製、カヤハードAA)を加えて混合し、樹脂ワニスとして樹脂組成物1を得た。
エポキシ樹脂と硬化剤の混合比率は、エポキシ/アミン当量比で1:1、複合粒子の混合割合は、エポキシ樹脂、硬化剤、複合粒子を含めた樹脂組成物全体に対する体積比率で、60体積%になるように配合した。
【0081】
得られた樹脂ワニスを、片面(上面)が粗化された銅箔(厚み70μm)を基材として、キャスティングにより所定の厚さに塗布した後、加熱乾燥して樹脂組成物層を形成して、樹脂付金属箔を得た。この樹脂付金属箔を、樹脂組成物層を上にして置き、片面が粗化された銅箔を粗化面が樹脂組成物層に接するように積層した後、145℃、2MPaで真空加熱プレスを行い、熱硬化して接着させた。これを更に、温度205℃、2時間の加熱により完全硬化させて、シート状の樹脂硬化物1を得た。
【0082】
<評価>
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について以下のような評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0083】
(X線回折)
X線回折装置(リガク社製、RINT2500HL)を用い、CuKα線を線源としてX線回折スペクトルを測定し、αアルミナの(100)面に対応するピークの窒化アルミニウムの(113)面に対応するピークに対する面積基準の強度比(以下、「XRD強度比」ともいう)を測定し、これに基づいてαアルミナを含む被覆層の厚み(被覆層厚)を算出した。
得られたX線回折スペクトルの一例を図5に示す。
【0084】
(耐水性)
耐水性は、得られた複合粒子2gを60℃の水200mLに加え、30分後及び60分後の水溶液のpHをそれぞれ測定して、加水分解により生じるアンモニアの影響を評価した。
【0085】
(熱伝導率)
得られた樹脂硬化物1から試験片を切出し、両面の銅箔を酸エッチングにより除去し、シート状の硬化樹脂層のみを取り出した。フラッシュ法装置(NETZSCH(Bruker)、nanoflash LFA447)を用いて、硬化樹脂層の熱拡散率を測定し、これにアルキメデス法により測定した密度とDSC法により測定した比熱を乗じて、厚さ方向の熱伝導率を求めた。
【0086】
<実施例2>
実施例1において、窒化アルミニウム焼結粒子を焼成する際の雰囲気を大気に代えて密閉状態で行なったこと以外は実施例1と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0087】
<実施例3>
実施例1において、ステアリン酸に代えてオクタン酸を用いたこと以外は実施例1と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0088】
<実施例4>
実施例2において、ステアリン酸に代えてオクタン酸を用いたこと以外は実施例1と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0089】
<実施例5>
実施例1において、ステアリン酸に代えてラウリルアルコールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0090】
<実施例6>
実施例2において、ステアリン酸に代えてラウリルアルコールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0091】
<実施例7>
実施例1において、ステアリン酸に代えてプロピルアルコールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0092】
<実施例8>
実施例2において、ステアリン酸に代えてプロピルアルコールを用いたこと以外は実施例2と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0093】
<実施例9>
実施例1において体積平均粒子径30μmの窒化アルミニウム焼結粒子に代えて体積平均粒子径1μmの窒化アルミニウム焼結粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして、複合粒子を得た。
得られた複合粒子について、実施例1と同様にして評価を行なった。
XRD強度比は0.04であり、αアルミナの被覆層厚は20nmであった。また耐水性評価におけるpHは30分後、60分後ともに7.4であった。
【0094】
<実施例10>
実施例9において、ステアリン酸に代えてプロピルアルコールを用いたこと以外は実施例9と同様にして、複合粒子を得た。
得られた複合粒子について、実施例1と同様にして評価を行なった。
XRD強度比は0.04であり、αアルミナの被覆層厚は20nmであった。また耐水性評価におけるpHは30分後、60分後ともに7.5であった。
【0095】
<比較例1>
実施例1において、複合粒子の代わりに未処理の体積平均粒子径30μmの窒化アルミニウム焼結粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0096】
<比較例2>
実施例1において、焼成処理後の有機物被覆処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0097】
<比較例3>
実施例1において、焼成処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0098】
<比較例4>
体積平均粒子径30μmの窒化アルミニウム焼結粒子5gを高温管状炉(35
mmφ×1200mm)に入れ、Arガスを0.5L/分で流しながら、室温から1000℃まで90分で昇温させた。1000℃で2時間保持した後、1000℃から室温まで240分で降温させて焼成処理して、表面にαアルミナ以外の酸化アルミニウムであるγアルミナ被覆層を形成した窒化アルミニウム粒子を得た。
得られた表面にγアルミナ被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を脱水トルエンに加え、ステアリン酸0.25gを加えた後、2時間加熱還流して複合粒子化した。得られた複合粒子をトルエンで洗浄した後、室温で乾燥させて有機物被覆処理することにより、表面にγアルミナを含む被覆層と有機物を含む被覆層が形成された複合粒子を得た。
【0099】
得られた複合粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0100】
<比較例5>
比較例4において、窒化アルミニウム焼結粒子を焼成する際の雰囲気を大気に代えて密閉状態で行なったこと以外は比較例4と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0101】
<比較例6>
比較例4において、窒化アルミニウム焼結粒子を焼成する際の乾燥空気を0.1L/分で流しながら焼成を行ったこと以外は比較例5と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0102】
<比較例7>
実施例1において、有機物被覆処理をステアリン酸に代えてnプロピルジメチルエトキシシランを用いて行なったこと以外は実施例1と同様にして、複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物を得た。
得られた複合粒子、樹脂組成物、樹脂硬化物について、実施例1と同様にして評価を行なった。
【0103】
【表1】

【0104】
(SEM−EDX分析)
実施例1で得られた複合粒子について、SEM−EDX(SEM:日立ハイテクノロジーズ社製、SEM−S3400N)(EDX:アメテック社製、Genesis XM2)を用いて、複合粒子表面の炭素原子、酸素原子、アルミニウム原子の分布を分析した。
図1〜図4に、本発明の複合粒子をSEM−EDX(SEM:日立ハイテクノロジーズ社製、SEM−S3400N)(EDX:アメテック社製、Genesis XM2)を用いて分析した結果の一例を示す。図1〜図4はすべて同一視野の画像であり、図1は炭素原子の分布を、図2は酸素原子の分布を、図3はアルミニウム原子の分布をそれぞれ示し、図4は対応するSEM画像を示す。
【0105】
(熱重量分析TG)
実施例1で得られた複合粒子について、熱重量分析装置(TA Instruments社製、Q500)を用いて測定条件25〜800℃、昇温速度10℃/min、大気下で、熱重量分析を行なった。
その結果、有機物の分解に伴う複合粒子の重量減少から、複合粒子には有機物が0.05質量%含まれていることが分かった。
【0106】
以上から、本発明の複合粒子は耐水性に優れることが分かる。また本発明の複合粒子を含む樹脂組成物は熱伝導性に優れる樹脂硬化物を形成可能であることが分かる。
【0107】
日本出願2010−033050号の開示はその全体を本明細書に援用する。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム粒子と、
前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部の領域を被覆し、αアルミナを含む第一の被覆層と、
前記窒化アルミニウム粒子の表面の前記第一の被覆層以外の領域を被覆し、窒化アルミニウム及び窒化アルミニウムと選択的に反応する化合物の反応生成物である有機物を含む第二の被覆層と、を有する複合粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の複合粒子と、エポキシ樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物。
【請求項3】
金属箔と、前記金属箔上に配置された請求項2に記載の樹脂組成物に由来する半硬化樹脂層と、を備える樹脂付金属箔。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂組成物を加熱加圧処理した硬化物である樹脂シート。
【請求項5】
窒化アルミニウム粒子を1100℃以上で熱処理して、前記窒化アルミニウム粒子の表面にαアルミナを含む被覆層を形成する工程と、
前記表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と、窒化アルミニウムと選択的に反応する化合物とを接触させる工程と、
を有する請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項6】
前記窒化アルミニウムと選択的に反応する化合物は、炭素数1〜24の炭化水素基と、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方とを含む化合物である請求項5に記載の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−176886(P2012−176886A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−60756(P2012−60756)
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【分割の表示】特願2011−546495(P2011−546495)の分割
【原出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】