説明

複合誘電体材料及びこれを用いたプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板、多層基板

【課題】 誘電体セラミックスが有する高い比誘電率εrを十分に反映させることができ、これまでにない高い比誘電率εrを実現することができ、しかも高いQを有する低損失な複合誘電体材料を提供する。
【解決手段】 誘電体セラミックスと有機高分子材料とを含有する複合誘電体材料である。誘電体セラミックスとして、一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.90である。)で表される組成を有する酸化物からなる第1の誘電体セラミックスと、Q≧1000の第2の誘電体セラミックスとを含有する。この場合、第1の誘電体セラミックスを一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.45である。)で表される組成を有し比誘電率の温度変化係数が正である酸化物とし、第2の誘電体セラミックスの比誘電率の温度変化係数を負とすることで、複合誘電体材料全体の比誘電率の温度変化が抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミックスと有機高分子材料とを複合化した複合誘電体材料に関するものであり、誘電体セラミックスとしてNb,TaとAgの酸化物を用いた新規な複合誘電体材料に関する。さらには、係る複合誘電体材料を用い回路基板材料に適したプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板、及び多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、情報通信分野においては、使用周波数帯域が高周波数に移行する傾向にあり、衛星放送や衛星通信、携帯電話や自動車電話等の移動体通信では、ギガヘルツ(GHz)帯の高周波が使用されている。
【0003】
前述のような高周波帯域で使用される機器に搭載される回路基板や電子部品等では、使用する誘電体材料は、Qが高く高周波伝送特性に優れた低損失材料であることが必要である。さらに、回路基板や電子部品の高性能化や小型化を図るためには、使用周波数帯域において高比誘電率εrを有する誘電体材料が必要である。特に小型化の点については、誘電体材料中の電磁波の波長が1/√εrによって短縮されるという原理に基づくものであり、比誘電率εrの大きい誘電体材料ほど回路基板や電子部品の小型化が可能である。また、コンデンサ機能を持たせた基板の要求もあることから、そのような誘電体材料を用いた高誘電率基板も必要とされている。
【0004】
誘電体材料としては、無機材料である誘電体セラミックスが広く用いられており、必要な特性に応じて様々な組成を有する誘電体セラミックスが開発されている。ただし、前記誘電体セラミックスを回路基板や電子部品に用いる場合、バルク焼結体の形態で用いるのが一般的であり、高温での焼成が必要なことから、適用範囲が制約されるという問題がある。また、高温での焼成工程で生ずる収縮や変形、さらには例えば内部導体の酸化による特性劣化等も問題になる。
【0005】
このような状況から、誘電体セラミックス粉末と有機高分子材料とを組み合わせた複合誘電体材料が提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2等を参照)。複合誘電体材料は、高温での焼成が不要であることから、広範な用途に使用可能であり、バルク焼結体の製造工程の一つにある焼成工程において収縮や変形、内部導体の特性劣化の問題もない。また、有機高分子材料を含有することから形状加工性の自由度が増し、軽量で、誘電体セラミックス粉末の配合割合により比誘電率εr等を任意に変えることができる等の利点を有する。
【0006】
例えば、特許文献1記載の発明には、樹脂(ポリビニルベンジルエーテル化合物)中にBaTiO系等のセラミックスを分散した複合誘電体が開示されている。特許文献1記載の発明においては、セラミックスの含有量を30体積%以上とすることで、10MHz以上の高周波数帯域で比誘電率10以上が実現されている。
【0007】
一方、特許文献2は、誘電体起電流型アンテナ用複合材料に関するものであり、比誘電率の温度変化特性が正の誘電体セラミックスと、比誘電率の温度変化特性が負の誘電体セラミックスと、高分子材料とを、全体の比誘電率の温度変化が±50ppm/℃以下となるように混合した誘電体起電流型アンテナ用複合材料が開示されている。
【特許文献1】特開2001−181027号公報
【特許文献2】特開平4−161461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、複合誘電体材料に要求される特性としては、比誘電率εrが高いことの他、損失の指標となるQ値が高いこと、温度係数が小さいこと等を挙げることができる。そして、回路基板や電子部品のさらなる高性能化を実現するためには、用いる複合誘電体材料は、これらの特性のいずれもが基準を満たすことが必要になる。
【0009】
このような観点から見たときに、例えば高い比誘電率εrを実現しながら高いQ値を得ることは困難であり、いずれかの特性を犠牲にせざるを得ないのが実情である。例えば、特許文献1記載の発明では、ある程度の比誘電率εrは得られているが、Q値については検討されていない。特許文献2記載の発明では、温度係数が重視されており、比誘電率εrについては、いずれの試料でも10以下である。Q値についても検討されていない。例えばアンテナ等の利得が重要なものには、高いQを有する低損失な誘電体材料が必要とされており、その改善が望まれる。
【0010】
また、複合誘電体材料では、複合化後の比誘電率εrをできる限り高くすることが必要であるが、比誘電率εrの高いセラミックス粉末を用いても、必ずしもそれが反映されるとは限らない。複合化する有機高分子材料の特性等との兼ね合いで、セラミックス粉末との最適な組み合わせが求められるが、従来この種の複合誘電体材料に用いられてきた誘電体セラミックスでは、有機高分子材料との組み合わせにおいて前記特性の両立は実現されていないのが実情である。
【0011】
本発明は、前述の実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、本発明は、誘電体セラミックスが有する高い比誘電率εrを十分に反映させることができ、これまでにない高い比誘電率εrを実現できるとともに、高いQ値を有する新規な複合誘電体材料を提供することを目的とする。また、本発明は、比誘電率の温度変化率の小さな複合誘電体材料を提供することを目的とする。さらに、本発明は、前記複合誘電体材料の特性向上を利用して、例えば回路基板に使用した場合にこれを高性能化することが可能なプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板、多層基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前述の課題を解決するために長期に亘り鋭意研究を行ってきた。その結果、銀(Ag)、ニオブ(Nb)、及びタンタル(Ta)を含有する酸化物を、複合誘電体材料において有機高分子材料と組み合わせる誘電体セラミックスとして用いることで、前記酸化物が有する優れた誘電特性を十分に発揮させることができ、これまで実現されたことがないような高い比誘電率が実現されるとの知見を得るに至った。さらには、Qの大きな誘電体セラミックスを前記酸化物と併用することで、高い比誘電率を維持しながらQを大きくすることができるとの知見を得るに至った。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、誘電体セラミックスと有機高分子材料とを含有する複合誘電体材料であって、前記誘電体セラミックスとして、一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.90である。)で表される組成を有する酸化物からなる第1の誘電体セラミックスと、500MHz以上の高周波帯域でQ≧1000の第2の誘電体セラミックスとを含有することを特徴とする。
【0014】
本発明においては、用いる誘電体セラミックスに大きな特徴があり、第1の誘電体セラミックスとして、前記一般式で表される組成を有する酸化物(銀ニオブタンタル酸塩)を用いている。この酸化物は、NbとTaの比を調節することにより、高周波域(特にマイクロ波域)で非常に高い比誘電率εrを実現できる材料組成系である。また、有機高分子材料と組み合わせたときにも、前記酸化物が有する高い比誘電率εrが十分に反映され、さらに低損失(高いQ)も発現する。
【0015】
一方、第2の誘電体セラミックスは、500MHz以上の高周波帯域でQが1000以上と大きい誘電体材料からなるものであり、前記第1の誘電体セラミックスのみでは不足するQ値を補う役割を果たす。したがって、前記2種類の誘電体セラミックスを組み合わせて用い、これを有機高分子材料と組み合わせて複合誘電体材料とすることで、これまでにない高い比誘電率εrが実現されるとともに、高いQとの両立が実現される。
【0016】
ところで、第1の誘電体セラミックスとして用いる酸化物自体は、例えば特表2004−507432号公報や特表2004−507433号公報等において、誘電性セラミックス材料として開示される材料であり、特表2004−508672号公報や特表2004−508704号公報、特表2004−522320号公報等には、この誘電性セラミックス材料を用いた各種デバイス(マイクロ波デバイス等)も開示されている。しかしながら、これら公知文献に記載される技術では、いずれもセラミックス焼結体作製プロセスを用いており、セラミックス粉末を高温で焼成することで緻密化を図りバルク焼結体を作製したものについての技術となっている。
【0017】
バルク焼結体を得るためには、前記の通り、高温で焼成することにより、組成物を所望の結晶相にすると同時に、焼結反応を十分に起こし、緻密にすることが必要である。ところが、前記組成を有する銀ニオブタンタル酸塩からなるセラミックスの作製では、蒸気圧が高いAgが焼成過程中に蒸発することが作製上の大きな問題となっている。このAgの蒸発は、セラミックスの組成を変化させ、焼結体の密度低下や誘電特性の劣化を引き起こす。
【0018】
Agの蒸発を抑える方法としては、前記各公報等にも記載されるように、できるだけ低い温度で焼結させるために、焼結助剤を添加することも提案されている。例えば、前記各公報では、HBOやV等を焼結助剤として用いることが開示されている。しかしながら、一般的に高周波用誘電体材料では、不純物、格子欠陥、粒界の存在等が損失を増加する要因とされており、そのため、高周波用誘電体材料の開発においては、高純度原料を使用すること、他の元素成分が結晶相中に含まれないこと、結晶相と組成が大きく異なる別の相を粒界領域に存在させないこと等が指針となっている。
【0019】
したがって、前記銀ニオブタンタル酸塩は、バルク焼結体としての使用を考えた場合には、その性能を十分に生かし切れておらず、未だ開発途上の材料と言わざるを得ない。本願発明は、一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.90である。)で表される酸化物(銀ニオブタンタル酸塩)の本来の誘電特性を発揮させる一つの方法として、低誘電損失を有する有機高分子材料と共に構成される複合誘電体材料への適応を提案するものであり、この点において大きな意義を有する。
【0020】
また、本発明においては、前記に加えて、第1の誘電体セラミックス及び第2の誘電体セラミックスの温度変化係数を考慮することで、比誘電率の温度変化率が小さな値に抑えられる。これを規定したのが請求項3記載の発明であって、前記複合誘電体材料において、第1の誘電体セラミックスが一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.45である。)で表される組成を有し比誘電率の温度変化係数が正である酸化物からなり、前記第2の誘電体セラミックスの比誘電率の温度変化係数が負であることを特徴とする。
【0021】
前記一般式Ag(Nb1−xTa)Oで表される酸化物は、NbとTaの比率を選定することで比誘電率εrの温度変化係数が正の値となる稀少な材料系である。通常、誘電体セラミックスと組み合わされる有機高分子材料は比誘電率εrの温度変化係数が負であり、前記温度変化係数が負である誘電体セラミックスと組み合わせると温度変化率が大きくなる傾向にあるが、前記正の温度変化係数を有する酸化物と組み合わせることで、温度変化係数が互いに相殺され、複合誘電体材料全体の温度変化係数が小さな値に抑えられる。さらに、第2の誘電体セラミックスの温度変化係数を負とすれば、複合誘電体材料全体の温度変化係数の制御における自由度が高まり、温度変化率が抑えられる。
【0022】
なお、前記第1の誘電体セラミックスとして用いられる銀ニオブタンタル酸塩の比誘電率εrの温度変化係数について言えば、前記銀ニオブタンタル酸塩は比誘電率εrの温度変化係数が大きすぎ、バルク焼結体としての使用を考えた場合には、1組成からなる誘電体では温度により特性が大きく変化してしまうため、これを使用するのが難しいのが実情である。そこで、例えば、特表2004−507432号公報や特表2004−508672号公報、特表2004−508704号公報等に見られるように、前記温度変化係数が「正」の組成と「負」の組成の混晶形態として使用することが提案されている。
【0023】
しかしながら、温度変化係数制御のために、比誘電率εrの温度変化係数が「正」である結晶相と「負」である結晶相を均一に存在させた混晶状態のバルク焼結体を作製するのは極めて難しい。これは、前記温度変化係数が「正」の結晶相と「負」の結晶相とが焼結時に互いに反応してしまい、それぞれ別の相として維持したままバルク焼結体を安定して得ることが難しいからである。
【0024】
本発明の請求項3記載の発明では、比誘電率εrの温度変化係数が「正」であるAg(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス(第1の誘電体セラミックス)と、「負」である第2の誘電体セラミックスを組み合わせているが、本発明の複合誘電体材料では、「正」の結晶相と「負」の結晶相の誘電体セラミックス粉末を別々に作製して有機高分子材料と混ぜ合わせ、200℃程度の温度で成形するため、両者の結晶相が互いに反応することはない。したがって、本発明の複合誘電体材料では、それぞれの結晶相の特性を発揮でき、この点においても前記公報に開示される従来技術とは大きく異なる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高温での焼成が必要ないため、一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.90である。)で表される酸化物において、Agの蒸発や焼結助剤の添加等により誘電特性が劣化することがない。したがって、前記酸化物を第1の誘電体セラミックスとして用いることにより、当該酸化物が有する優れた誘電特性、特に極めて高い比誘電率εrを十分に反映させることが可能であり、さらにQの高い第2の誘電体セラミックスと組み合わせることで、これまでにない高い比誘電率εrを有し、高いQ値を有する複合誘電体材料を提供することが可能である。
【0026】
さらに、本発明においては、比誘電率εrの温度変化係数が「正」である第1の誘電体セラミックスと、前記温度変化係数が「負」である第2の誘電体セラミックス及び有機高分子材料とを組み合わせることで、複合誘電体材料全体の温度変化係数を精密に制御することができる。したがって、例えば前記温度変化係数の値をゼロに近づけることができ、これにより比誘電率εrの温度変化率が非常に小さな複合誘電体材料を実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る複合誘電体材料について詳細に説明する。
【0028】
本発明の複合誘電体材料は、誘電体セラミックスと有機高分子材料(樹脂)とを複合化したものである。ここで、先ず、誘電体セラミックスと組み合わせる有機高分子材料としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を挙げることができる。これら樹脂の中から所望の特性等に応じて任意の樹脂を選択すればよいが、例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、液晶ポリマー、及びこれらの混合物等を挙げることができる。前記熱可塑性樹脂は、高周波域において比較的低損失(高Q)の樹脂群である。
【0029】
熱硬化性樹脂としては、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、マレイミド系樹脂、ポリフェノールのポリシアナート樹脂、ビニルベンジル系樹脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。これらの樹脂も、高周波域において比較的低損失(高Q)の樹脂群であるが、熱硬化性樹脂を用いた場合、はんだプロセス等での耐熱性に優れた複合誘電体材料となる。特に、ポリビニルベンジルエーテル化合物等のビニルベンジル系樹脂は、温度や吸湿性に依存しにくい誘電特性を有し、耐熱性にも優れた材料である。なお、熱硬化性樹脂を硬化させる際には硬化剤を存在させてもよく、例えば、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0030】
一方、誘電体セラミックスとしては、Ag(Nb1−xTa)O系誘電体セラミックス(第1の誘電体セラミックス)と、Q≧1000の第2の誘電体セラミックスを組み合わせて用いる。ここで、第1の誘電体セラミックスとしては、前記の通り一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.90である。)で表される組成を有する酸化物を用いるが、この酸化物は、強誘電性を示すAgNbOと、常誘電性を示すAgTaOの固溶体であり、NbとTaの比を変更することにより、比誘電率εrやQ等の誘電特性を任意に変化させることが可能な材料系である。ただし、AgNbO単独(前記一般式において、x=0)では、Taが含まれないため、高周波での低損失(高Q)に寄与する常誘電性が発現せず、高周波用複合誘電体材料には適さない。一方、AgTaO単独(前記一般式において、x=1)では、Nbが含まれないため、高い比誘電率εrを示す強誘電性が発現せず、有機高分子材料と複合化した場合にも高い比誘電率εrを示す複合誘電体材料にはならない。
【0031】
これらの観点から、前記酸化物においては、Taの比率xを適正な範囲に設定する必要があり、0.10≦x≦0.90とすることで、高い比誘電率εrを有し、高いQ値を有する複合誘電体材料とすることが可能である。なお、前記Taの比率xは、重要視する誘電特性に応じて最適範囲が異なり、例えば比誘電率εrを重視する場合には、0.10≦x≦0.50とすることが好ましい。xの値を前記範囲とすれば、Nbが多い領域であるので、高い比誘電率εrを示す強誘電性が強く発現し、特に比誘電率εrの高い複合誘電体材料を実現できる。逆に、Q値を重視する場合には、0.50<x≦0.90とすることが好ましい。この場合には、Taが多い組成領域であるので、低損失(高いQ)を示す常誘電性が強く発現し、Nbが多い場合に比べて低下するものの、なお比較的高い比誘電率εrを有し、且つ、より低損失(高いQ)の複合誘電体材料を実現することができる。
【0032】
ところで、前記酸化物は、非常に高い比誘電率εrを有する材料であるが、蒸気圧の高いAgが焼成過程中に蒸発することが大きな問題となる。本発明者らの検討によれば、Ag(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末の結晶相、さらには高温で焼成することにより得られるバルク焼結体の相対密度は、作製時の焼成温度によって表1に示すように変化するとの結果を得た。
【0033】
【表1】

【0034】
Ag(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末は、ペロブスカイト構造で誘電特性を発現するが、前記表1に示す通り、600℃以上の温度で誘電特性を示すペロブスカイト構造が生成することを確認している。また、図1は、前記Ag(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末においてx=0.5であるAg(Nb0.5Ta0.5)O組成における異相生成のX線回折例であるが、図1(a)に示すように1150℃以上の温度では異相が出現している。図1(b)に示すように、熱処理温度1100℃では、異相の出現はほとんど認められない。バルク焼結体として使用する場合には、緻密にするために1150℃以上の温度が必要であるが、この温度では異相が生成し、誘電特性が劣化する。
【0035】
したがって、本発明においては、作製に際して異相の生成が抑えられる1100℃以下の温度でペロブスカイト生成の熱処理を行った酸化物を用いることが好ましく、そのようにして作製したAg(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末を有機高分子材料と複合し複合誘電体材料を作製することが好ましいと言える。より好ましくは、600℃〜1100℃で熱処理を行った酸化物を用いることである。
【0036】
また、用いるAg(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末は、誘電特性、特に高周波域(例えばマイクロ波域)での比誘電率εrができる限り高いことが好ましい。具体的には、前記誘電体セラミックス粉末のマイクロ波域での比誘電率εrは、200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましい。これにより、複合誘電体材料のマイクロ波域での比誘電率εrを12以上とすることができる。
【0037】
第2の誘電体セラミックスは、Qの値を重視して選択され、本発明においては500MHz以上の高周波帯域でQ≧1000の誘電体セラミックス材料を用いる。具体的には、TiO、CaTiO、SrTiO、BaO−TiO系(BaTiやBaTi20等)、BaO−Nd−TiO系、Bi−BaO−Nd−TiO系、Ba(Ti,Sn)20系、MgO−TiO系、ZnO−TiO系、MgO−SiO系、Al、BaTiO、SrZrO、BaO−SmO−TiO系、Nd−TiO系、La−TiO系、BaO−MgO−Ta系、 BaO−ZnO−Ta系、BaO−ZnO−Nb系、SrO−ZnO−Nb系から選ばれる少なくとも1種である。
【0038】
本発明の複合誘電体材料においては、前記第1の誘電体セラミックスと第2の誘電体セラミックスとを組み合わせ、比誘電率εr及びQのいずれもが高い値となるように制御するが、さらに温度変化係数を抑え温度変化率を小さなものとするために、前記第1の誘電体セラミックスとして一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.45である。)で表される組成を有し比誘電率εrの温度変化係数が正である酸化物を用い、第2の誘電体セラミックスとして前記温度係数が負である誘電体セラミックス用いることも有効である。
【0039】
第1の誘電体セラミックスとして用いる酸化物では、NbとTaの割合により、比誘電率εrの温度変化係数が正から負に変化し、温度変化係数自体も大きい。一般に、高周波用の低損失な有機高分子材料は、比誘電率εrの温度変化係数が負の材料がほとんどであり、例えば前述の有機高分子材料のうち、ビニルベンジル系樹脂の温度変化係数は−76ppm/℃、ポリフェニレンエーテル樹脂の温度変化係数は−92ppm/℃、ポリオレフィン樹脂の温度変化係数は−151ppm/℃である。したがって、複合誘電体材料の温度変化係数を調整するためには、正の温度変化係数を持つ誘電体セラミックスが含まれる必要がある。したがって、前記の通り、一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.45である。)で表される組成を有し比誘電率εrの温度変化係数が正である酸化物を誘電体セラミックスとして用いれば、複合誘電体材料全体の温度変化係数を抑えることができるものと考えられる。
【0040】
各種誘電体セラミックス材料の中で、高周波域で低損失(高Q)、且つ比誘電率εr≧200を示し、温度変化係数τε>0を示す材料は限られている。例えば、BaO−SmO−Bi−TiO系材料は、温度変化係数τε=−28〜+34ppm/℃であり、温度変化係数が正である組成を有するが、比誘電率εrは66〜108程度である。ジルコン酸鉛系材料も、温度変化係数τεは+2000ppm/℃であるが、比誘電率εrは120程度である。CaO−BaO−TiO系材料は、温度変化係数τε=+1,630ppm/℃と正であり、比誘電率εrも209と高い値を示すが、複合誘電体材料にすると温度変化係数τε=−240ppm/℃と負の値を示す。
【0041】
これに対して、一般式Ag(Nb1−xTa)Oで表される酸化物は、表2に示すように、Taの比率xを変えることによって温度変化係数τεが変化し、0.10≦x≦0.45で正の温度変化係数τεを示し、比誘電率εrも200以上となる。
【0042】
【表2】

【0043】
本発明では、前記組成を有し温度変化係数τεが正の酸化物を第1の誘電体セラミックスとして有機高分子材料と組み合わせることで、温度変化係数を相殺し、さらに比誘電率εrの温度変化係数が負である第2の誘電体セラミックスを組み合わせることで、より精密な温度変化係数の制御を行うことも可能である。この場合、組み合わせる第2の誘電体セラミックスは、500MHz以上の高周波帯域でQ≧1000であり、且つ比誘電率の温度変化係数が負である誘電体セラミックスということになる。
【0044】
温度変化係数が正負異なる結晶相の存在を維持しながら緻密なバルク焼結体を安定して作製することは難しいが、有機高分子材料との複合化の手法では、それぞれの組成相を前もって作製し、その後、有機高分子材料と混合して200℃程度の低温で誘電体材料を成形することから、正負異なる組成相が反応することはなく、それぞれの組成相の特性が発揮される。
【0045】
本発明の複合誘電体材料において、用いる誘電体セラミックス(第1の誘電体セラミックス及び第2の誘電体セラミックス)の粒径については、特に制限はないが、有機高分子材料との混合を考えると、適正に選定することが好ましい。例えば、使用する誘電体セラミックスの粒径が小さくなりすぎると、有機高分子材料との混練が困難になるおそれがある。逆に、誘電体セラミックスの粒径が大きくなりすぎると、有機高分子材料との混合状態が不均一になり、誘電特性も不均一になるおそれがある。また、誘電体セラミックスの含有量が多い場合には、緻密な複合誘電体材料が得られなくなる可能性がある。これらの事項を考慮して、誘電体セラミックス粉末の平均粒子径は、0.2μm以上、100μm以下とすることが好ましい。
【0046】
本発明の複合誘電体材料は、前述の2種類の誘電体セラミックスと有機高分子材料(樹脂)とを混合することにより得られる。このとき、誘電体セラミックスの混合割合は、任意に設定することができるが、20体積%以上、70体積%未満とすることが好ましい。有機高分子材料の混合割合は、30体積%以上、80体積%未満である。誘電体セラミックスの割合が20体積%未満であると、比誘電率εrが高い前記酸化物を含有させることの効果を十分に発現させることができなくなるおそれがある。逆に、誘電体セラミックスの割合が70体積%以上になると、得られる複合誘電体材料の緻密性が悪くなり、例えば水分の侵入が容易となって誘電特性が劣化する等の問題が生ずるおそれがある。
【0047】
また、誘電体セラミックス粉末と有機高分子材料の混合に際しては、最終的に得られる複合誘電体材料の比誘電率εrを考慮して、その配合を設定することが好ましい。具体的には、複合誘電体材料のマイクロ波域での比誘電率εrが12以上となるように配合比を調整することが好ましく、誘電体セラミックス粉末の割合は、40体積%以上、70体積%未満であることがより好ましい。これにより、第1の誘電体セラミックスが有する誘電特性を十分に発揮させ、非常に高い比誘電率εrを有する複合誘電体材料を実現することが可能である。
【0048】
さらに、誘電体セラミックス粉末と有機高分子材料の混合に際しては、複合誘電体材料全体の比誘電率εrの温度変化係数τεを考慮してその配合を決めることが好ましい。例えば、一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.45である。)で表される組成を有し比誘電率εrの温度変化係数τεが正である酸化物(第1の誘電体セラミックスと、比誘電率εrの温度変化係数τεが負である第2の誘電体セラミックスとを併用し、これらを有機高分子材料と組み合わせて複合誘電体材料とする場合には、これらの配合比を変えることにより、複合誘電体材料全体の比誘電率εrの温度変化係数τεをより精密に制御することが可能であり、前記温度変化係数τεをゼロに近づけることが可能である。したがって、例えば、前記配合比を変えることにより、+20℃の比誘電率を基準として、複合誘電体材料全体の比誘電率の温度変化率が、−30℃〜+85℃の温度範囲において±2%以内(|τε|≦348ppm/℃に相当)とすることが好ましい。さらには、前記温度変化率が±1%以内(|τε|≦174ppm/℃に相当)となるように配合比を制御することが好ましい。
【0049】
本発明の複合誘電体材料は、誘電体セラミックスのみからなるバルク焼結体とは異なり、誘電体セラミックスの粉末を有機高分子材料と複合化することにより構成される。したがって、比重を小さくすることができ、材料の軽量化を図ることが可能である。また、200℃程度の低温で複合誘電体材料を作製できることから、高温での焼成によって生ずる収縮や変形等は見られず、例えば銀や銅等からなる内部導体の特性劣化も防ぐことができる。
【0050】
以上の構成を有する複合誘電体材料は、例えば回路基板や回路基板用プリプレグ、各種電子部品等に用いることができる。例えば、回路基板に用いる場合には、いわゆるベースとなる基板に前記複合誘電体材料を用い、この上に配線パターンを形成し、必要な部品を実装することで、高周波用回路基板を構築することができる。また、前記複合誘電体材料からなる基板を複数層積層することで、多層基板とすることも可能である。例えば、前記複合誘電体材料をプリプレグとして用い、これを介して複合誘電体材料からなる基板を積層すれば、高性能な多層基板を構築することが可能である。
【0051】
以下、本発明の複合誘電体材料の使用形態としてのプリプレグや金属箔塗工物、成形体、さらにはこれらを用いた複合誘電体基板、多層基板について説明する。
【0052】
先ず、プリプレグを作製する場合についての好ましい方法について述べる。プリプレグを作製するには、有機高分子材料として、例えばポリビニルベンジルエーテル化合物を用い、質量百分率で表して、40〜60%の溶液を調製する。この時に使用する溶剤はトルエン、キシレン、メチルエチルケトン等の揮発性溶剤が好ましい。その後、混合攪拌機にて前記誘電体セラミックス粉末を添加混合する。混合はボールミル等での混合も可能で、最終的には粘度調整のためにトルエン等の揮発性溶剤を加え、混合攪拌機にて10〜20分撹拌する。この時、脱気しながら撹拌することが望ましい。これにより、複合誘電体基板材料組成溶液(スラリー)を得ることができる。
【0053】
このようにして得られた複合誘電体材料組成物溶液(スラリー)をガラスクロス等のクロス基材に塗工する。特に、クロス基材としては、ガラスクロスの使用が好ましい。ガラスクロスは市販されている布質量40g/m以下、厚み50μm以下のもの(例えば、商品名旭シュエーベル等)が、誘電体セラミックス粉末の充填率を向上する上で好ましい。布質量の下限及び厚みの下限に特に制限はないが、それぞれ25g/m及び30μm程度である。
【0054】
前記ガラスクロスは、電気的な特性に応じてEガラスクロス、Dガラスクロス、Hガラスクロス等を使い分けることができる。また、層間密着力向上等の目的で、ガラスクロスに対してカップリング処理等を行ってもよい。なお、クロス基材としては、前記ガラスクロスの他に、ヤーンを織ったアラミドやポリエステル等の不織布等を用いて強化材としてもよい。この場合、厚み等はガラスクロスと同様とすればよい。
【0055】
前記塗工の際の塗工厚みとしては、現実的には、Bステージ化した後の厚みで50〜200μmとすることが好ましいが、板厚、フィラー含有率に従い適時選択することが可能である。また、塗工方法は、縦型塗工機で所定の厚みに塗工する方法、ドクターブレードコート法によりクロス基材に塗工する方法等、公知のいずれの方法であってもよく、用途に応じた生産法を選択することができる。このため生産性が高い。このような方法でフィルム化されたものを100〜120℃、0.5〜3時間熱処理し、プリプレグ(Bステージ)を得る。この際の条件は、樹脂コンテスト、所望の流動性等によって適時選択すればよい。
【0056】
ここで得られたプリプレグを使用し、例えば両面銅箔基板を作製する場合について説明すると、所定厚みとなるように、プリプレグを重ね、その積層体の両面を銅箔で挟持して成形する。成形方法は、熱プレス等の公知の方法にて行う。成形条件は100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.5〜10時間が好ましく、必要に応じてステップキュアしてもよい。
【0057】
このときに使用する金属箔は、一般的には銅を用いるが、これに限らず、例えば金、銀、アルミ等から選択することも可能である。また、ピール強度を確保したい場合は電解箔を、高周波特性を重視したい場合は表面凹凸による表皮効果の少ない圧延箔を使用することが好ましい。金属箔の厚みに関しては、8〜70μmであり、用途、要求特性(パターン幅及び精度、直流抵抗等)に応じて適正な厚さのものを選定して使用すればよい。
【0058】
また、前述のような銅箔等の金属箔上に前記の複合誘電体材料組成物溶液をドクターブレードコート法等により塗工し、乾燥し、金属箔塗工物を得てもよく、これにより複合誘電体基板を作製してもよい。この場合の塗工厚みは、前記のプリプレグと同様にすればよい。乾燥は、100〜120℃で0.5〜3時間程度とすればよい。
【0059】
また、プレス成形によって板状の成形体を作製する場合は、混合方法等は前述した方法と同じであるが、混合したスラリーを90〜120℃で乾燥し、混合体の固まりを作製する。さらに、この固まりを乳鉢または公知の方法で粉砕し、混合体の粉末を得る。この混合粉末を金型にて100〜150℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.1〜3時間でプレス成形し板状成形体を得る。板状成形体の厚みとしては、0.05〜5mmであることが好ましく、所望の板厚、誘電体セラミックス粉末含有率に応じて適時選択する。この成形体を100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.5〜10時間硬化させる。また、必要に応じてステップキュアしてもよい。
【0060】
以上のようにして作製したプリプレグ、銅箔等の金属箔塗工物、板状の成形体や、銅箔等の金属箔、ガラスクロス等のクロス基材等を適宜組み合わせて成形を行い、複合誘電体基板を作製する。成形条件は、100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、30〜120分とする。あるいは、前記プリプレグ、金属箔塗工物、成形体や、銅箔等の金属箔、ガラスクロス等のクロス基材等、さらにはこれらによって作製される複合誘電体基板等を積層要素とし、多層に重ねて積層することで、多層基板を構築することも可能である。
【0061】
以上の他、本発明の複合誘電体材料は、多層コンデンサや共振器、インダクタ、アンテナ等、種々の電子部品にも使用することが可能である。例えば、共振器の場合、前記複合誘電体材料からなる積層体の表面や積層体間に、ストリップ線路やグランドプレーン、外部導体、内部導体等を形成し、必要箇所を電気的に接続すればよい。本発明の複合誘電体材料を用いた共振器は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドエリミネーションフィルタ等の各種フィルタや、これらフィルタを組み合わせた分波フィルタ、ディプレクサ、電圧制御発振器等に応用が可能である。なお、本発明の複合誘電体材料をこれら電子部品に使用する場合、誘電体セラミックスと有機高分子材料の配合比を調整することにより、使用環境に合わせて比誘電率εrの温度変化係数τεを制御することも可能である。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0063】
Ag(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末の作製
一般式Ag(Nb1−xTa)Oにおいて、xの値が所望の値となるように、AgO(高純度化学研究所製、純度99%)、Nb(高純度化学研究所製、純度99.9%)、Ta(高純度化学研究所製、純度99.9%)の各原料粉末を秤量し、ボールミルを使用してエタノール中で16時間混合した。これを乾燥した後、得られた原料混合粉末を酸素雰囲気中、1000℃〜1100℃で10時間熱処理を行い、Ag(Nb1−xTa)O相を生成させた。なお、Ag(Nb1−xTa)O相の生成確認は、X線回折測定装置(リガク社製、商品名RINT2500)を使用して行った。
【0064】
再びボールミルを使用してエタノール中で粉砕し粒径調節を行った後に、乾燥して複合誘電体材料の作製に使用する粉末状のAg(Nb1−xTa)O誘電体セラミックスを得た。得られた誘電体セラミックスの平均粒子径の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製、商品名MICROTRAC HRA model:9320-X100)を用いて行った。
【0065】
複合誘電体材料の作製
Ag(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末と有機高分子材料(ポリビニルベンジルエーテル化合物)の体積比が所定の比率(誘電体セラミックス粉末40体積%)となるように、先に作製したAg(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス(平均粒子径2.5μm〜3.6μm)とポリビニルベンジルエーテル化合物を秤量し、トルエン中で十分に混合した。これを110℃で乾燥した後に粉砕して、Ag(Nb1−xTa)O誘電体セラミックスとポリビニルベンジルエーテル化合物の混合粉末を得た。この粉末を金型に入れて、200℃で熱硬化し、板状の複合誘電体を作製した。そして、棒状試料(1mm×1mm×9mm)を切り出し、測定試料とした。
【0066】
評価
作製した各試料について、空洞共振器摂動法(使用測定器:ヒューレットパッカード社製、商品名83620A、8757C、及び恒温槽デスパッチ製900シリーズ)により、2GHzでの比誘電率εrとQを温度20℃で測定した。また、比誘電率εrについて、−30℃〜+85℃の温度範囲で測定を行った。
【0067】
実施例1:Ag(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末とCaTiOの組み合わせ
誘電体セラミックス粉末として、Ag(Nb0.75Ta0.25)O粉末(x=0.25、平均粒子径3.6μm)及びCaTiO(Q=8650、平均粒子径2.0μm)を用い、その配合割合を変えて試料1〜試料4を作製した。なお、Ag(Nb0.75Ta0.25)O粉末は、温度1100℃、酸素雰囲気中で熱処理したものを用いた。
【0068】
これら試料について、温度−30℃、+20℃、+85℃での比誘電率εrを測定し、20℃の比誘電率εrを基準として変化率(Δεr/εr)を算出した。なお、比誘電率εrの変化率(Δεr/εr)は、温度20℃での比誘電率をεr+20、温度T℃における比誘電率をεrとしたときに、下記数1によって算出した。さらに、複合誘電体のQ値を測定した。結果を表3に示す。また、各試料における比誘電率εrの変化率を図2に示す。
【0069】
【数1】

【0070】
【表3】

【0071】
表3や図2から明らかな通り、2種類の誘電体セラミックスを組み合わせることで、高比誘電率(εr≧12)、及び高いQ値が達成されている。また、温度変化係数τεが正のAg(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末と負の誘電体セラミックス(CaTiO)を組み合わせることで、複合誘電体材料全体の比誘電率εrの温度変化を小さくすることができ、例えば変化率(Δεr/εr)±2%以下、さらには±1%以下が実現されている。
【0072】
実施例2:Ag(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末とTiOの組み合わせ
誘電体セラミックス粉末として、実施例1で使用したAg(Nb0.75Ta0.25)O粉末(x=0.25、平均粒子径3.6μm)及びTiO(Q=15000、平均粒子径1.8μm)を用い、その配合割合を変えて試料5〜試料7を作製した。なお、Ag(Nb0.75Ta0.25)O粉末は、温度1100℃、酸素雰囲気中で熱処理したものを用いた。
【0073】
これら試料について、温度−30℃、+20℃、+85℃での比誘電率εrを測定し、20℃の比誘電率εrを基準として変化率(Δεr/εr)を算出した。さらに、複合誘電体のQ値を測定した。結果を表4に示す。また、各試料における比誘電率εrの変化率を図3に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
表4や図3から明らかな通り、第2の誘電体セラミックスとしてTiOを用いた場合にも、高比誘電率(εr≧12)、及び高いQ値が達成されている。また、温度変化係数τεが正のAg(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末と負の誘電体セラミックス(TiO)を組み合わせることで、複合誘電体材料全体の比誘電率εrの温度変化を小さくすることができ、例えば変化率(Δεr/εr)±2%以下、さらには±1%以下が実現されている。
【0076】
実施例3:クロス基材塗工プリプレグ及びこれを用いた複合誘電体基板の作製
実施例1で使用した誘電体セラミックス粉末Ag(Nb0.75Ta0.25)O(x=0.25、平均粒子径3.6μm)及びCaTiO(Q=8650、平均粒子径2.0μm)と有機高分子材料(ポリビニルベンジルエーテル化合物)を体積比が所定の比率となるように、トルエン中で十分に混合した。このスラリーを布質量40g/m、厚み50μmのガラスクロス(旭シュエーベル製)に塗工機で塗工し、110℃で乾燥した後、これをプリプレグとした。このプリプレグの厚みは160μmであった。
【0077】
次に、作製したプリプレグ10枚を重ねて150℃でプレス圧4.0×10Paの加圧をした後、200℃で熱硬化を行い、厚み1.4mmの複合誘電体基板を作製した。そして、棒状試料(1.4mm×1.4mm×9mm)を切り出し、測定試料(試料8〜試料11:実施例に相当)とした。
【0078】
これら試料について、温度−30℃、+20℃、+85℃での比誘電率εrを測定し、+20℃の比誘電率εrを基準として変化率(Δεr/εr)を算出した。さらに、Q値を測定した。結果を表5に示す。
【0079】
【表5】

【0080】
プリプレグを用いて作製された複合誘電体基板においても、温度変化係数τεが正のAg(Nb1−xTa)O誘電体セラミックスと負の誘電体セラミックス(CaTiO)を組み合わせることで、比誘電率εrの温度変化が抑えられている。また、誘電体セラミックスがAg(Nb1−xTa)Oのみの場合と比較してCaTiOを組み合わせることによって、Q値が改善され、より低損失な複合誘電体基板となっていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】Ag(Nb0.5Ta0.5)O組成におけるX線回折チャートであり、(a)は1150℃で熱処理した場合のX線回折チャート、(b)は1100℃で熱処理した場合のX線回折チャートである
【図2】温度変化係数τεが正のAg(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末と負の誘電体セラミックス粉末(CaTiO)を組み合わせた場合の比誘電率εrの変化率を示す特性図である。
【図3】温度変化係数τεが正のAg(Nb1−xTa)O誘電体セラミックス粉末と負の誘電体セラミックス粉末(TiO)を組み合わせた場合の比誘電率εrの変化率を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体セラミックスと有機高分子材料とを含有する複合誘電体材料であって、
前記誘電体セラミックスとして、一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.90である。)で表される組成を有する酸化物からなる第1の誘電体セラミックスと、500MHz以上の高周波帯域でQ≧1000の第2の誘電体セラミックスとを含有することを特徴とする複合誘電体材料。
【請求項2】
前記第2の誘電体セラミックスは、TiO、CaTiO、SrTiO、BaO−TiO系、BaO−Nd−TiO系、Bi−BaO−Nd−TiO系、Ba(Ti,Sn)20系、MgO−TiO系、ZnO−TiO系、MgO−SiO系、Al、BaTiO、SrZrO、BaO−SmO−TiO系、Nd−TiO系、La−TiO系、BaO−MgO−Ta系、 BaO−ZnO−Ta系、BaO−ZnO−Nb系、SrO−ZnO−Nb系から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の複合誘電体材料。
【請求項3】
前記第1の誘電体セラミックスが一般式Ag(Nb1−xTa)O(ただし、0.10≦x≦0.45である。)で表される組成を有し比誘電率の温度変化係数が正である酸化物からなり、前記第2の誘電体セラミックスの比誘電率の温度変化係数が負であることを特徴とする請求項1または2記載の複合誘電体材料。
【請求項4】
複合誘電体材料全体の比誘電率の温度変化係数が所定の値となるように、前記第1の誘電体セラミックス、第2の誘電体セラミックス、及び有機高分子材料の配合比が設定されていることを特徴とする請求項3記載の複合誘電体材料。
【請求項5】
+20℃の比誘電率を基準として、複合誘電体材料全体の比誘電率の温度変化率が、−30℃〜+85℃の温度範囲において±2%以内とされていることを特徴とする請求項3または4記載の複合誘電体材料。
【請求項6】
前記温度変化率が±1%以内とされていることを特徴とする請求項5記載の複合誘電体材料。
【請求項7】
500MHz以上の高周波帯域で比誘電率εrが12以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項8】
前記誘電体セラミックスの割合が、20体積%以上、70体積%未満であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項9】
前記酸化物は、1100℃以下の温度で熱処理されたものであることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項10】
前記酸化物の500MHz以上の高周波帯域で比誘電率εrが200以上であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項11】
前記酸化物の平均粒子径が0.2μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項12】
前記有機高分子材料が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項13】
前記有機高分子材料が熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項14】
前記熱硬化性樹脂がビニルベンジル系樹脂であることを特徴とする請求項13記載の複合誘電体材料。
【請求項15】
前記ビニルベンジル系樹脂は、ポリビニルベンジルエーテル化合物を主体とするものであることを特徴とする請求項14記載の複合誘電体材料。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項記載の複合誘電体材料を溶剤に分散させたスラリーがクロス基材に塗工され、乾燥されてなるプリプレグ。
【請求項17】
前記クロス基材がガラスクロスであることを特徴とする請求項16記載のプリプレグ。
【請求項18】
前記ガラスクロスは、布質量が40g/m以下であり、厚みが50μm以下であることを特徴とする請求項17記載のプリプレグ。
【請求項19】
請求項1から15のいずれか1項記載の複合誘電体材料を溶剤に分散させたスラリーが金属箔上に塗工され、乾燥されてなる金属箔塗工物。
【請求項20】
前記金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項19記載の金属箔塗工物。
【請求項21】
請求項1から15のいずれか1項記載の複合誘電体材料を溶剤に分散させたスラリーを乾燥し、成形したことを特徴とする成形体。
【請求項22】
請求項1から15のいずれか1項記載の複合誘電体材料を用いたことを特徴とする複合誘電体基板。
【請求項23】
請求項16から18のいずれか1項記載のプリプレグを加熱及び加圧することにより形成されたことを特徴とする請求項22記載の複合誘電体基板。
【請求項24】
請求項16から18のいずれか1項記載のプリプレグを金属箔間に挟み込んだ状態で加熱及び加圧することにより形成され、両面に金属箔を有することを特徴とする請求項22記載の複合誘電体基板。
【請求項25】
前記金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項24記載の複合誘電体基板。
【請求項26】
請求項19または20記載の金属箔塗工物がクロス基材の両面にそれぞれ塗工面が接するように貼り合わされ、この状態で加熱及び加圧することにより形成され、両面に金属箔を有することを特徴とする請求項22記載の複合誘電体基板。
【請求項27】
前記クロス基材がガラスクロスであることを特徴とする請求項26記載の複合誘電体基板。
【請求項28】
前記ガラスクロスは、布質量が40g/m以下であり、厚みが50μm以下であることを特徴とする請求項27記載の複合誘電体基板。
【請求項29】
請求項21記載の成形体を加熱及び加圧することにより形成されたことを特徴とする請求項22記載の複合誘電体基板。
【請求項30】
請求項21記載の成形体を金属箔間に挟み込んだ状態で加熱及び加圧することにより形成され、両面に金属箔を有することを特徴とする請求項22記載の複合誘電体基板。
【請求項31】
前記金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項30記載の複合誘電体基板。
【請求項32】
500MHz以上の高周波帯域で用いられることを特徴とする請求項22から31のいずれか1項記載の複合誘電体基板。
【請求項33】
請求項16から18のいずれか1項記載のプリプレグ、請求項19または20記載の金属箔塗工物、請求項21記載の成形体、請求項22から31のいずれか1項記載の複合誘電体基板から選択される少なくとも1種を積層要素とし、当該積層要素を含む多層構造を有することを特徴とする多層基板。
【請求項34】
500MHz以上の高周波帯域で用いられることを特徴とする請求項33記載の多層基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−260895(P2006−260895A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75227(P2005−75227)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】