説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】IR寿命に優れ、定格電圧の高い(たとえば100V以上)中高圧用途に好適に用いることができる誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】BaTiOと、BaZrOと、R酸化物(Rは希土類元素)とを有する誘電体磁器組成物であって、BaTiO 100モルに対して、BaZrOの含有量をAモル、R酸化物の含有量をCモルとした場合に、40≦A≦65モル、4≦C≦15モルで、かつ、式(1)および(2)を同時に満足する誘電体磁器組成物。式(1)…0.0038A−0.147≦B≦0.004A+0.04(Bは、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するBaZrOのX線最大ピーク強度の比)、式(2)…0.0041C−0.0115≦D≦0.0046C+0.084(Dは、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するR酸化物のX線最大ピーク強度の比)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐還元性を有する誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層に有する電子部品に係り、さらに詳しくは、定格電圧の高い(たとえば100V以上)中高圧用途に好適に用いられる誘電体磁器組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例である積層セラミックコンデンサは、たとえば、所定の誘電体磁器組成物からなるセラミックグリーンシートと、所定パターンの内部電極層とを交互に重ね、その後一体化して得られるグリーンチップを、同時焼成して製造される。積層セラミックコンデンサの内部電極層は、焼成によりセラミック誘電体と一体化されるために、セラミック誘電体と反応しないような材料を選択する必要があった。このため、内部電極層を構成する材料として、従来では白金やパラジウムなどの高価な貴金属を用いることを余儀なくされていた。
【0003】
しかしながら、近年ではニッケルや銅などの安価な卑金属を用いることができる誘電体磁器組成物が開発され、大幅なコストダウンが実現した。
【0004】
一方、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が急速に進んでいる。それに伴い、積層セラミックコンデンサにおける1層あたりの誘電体層の薄層化が進み、薄層化してもコンデンサとしての信頼性を維持できる誘電体磁器組成物が求められている。特に、高い定格電圧(たとえば、100V以上)で使用される中高圧用コンデンサの小型・大容量化には、誘電体層を構成する誘電体磁器組成物に対して非常に高い信頼性が要求される。
【0005】
これに対して、たとえば、特許文献1には、高周波・高電圧交流下で使用されるコンデンサ用の誘電体磁器組成物として、組成式:ABO+aR+bM(ただし、ABOはチタン酸バリウム系固溶体、RはLa等の金属元素の酸化物、MはMn等の金属元素の酸化物)で表わされる主成分に対し、副成分として、B元素およびSi元素のうち少なくとも1種を含む焼結助材を含有してなる誘電体磁器組成物が開示されている。そして、この特許文献1では、主成分中の添加成分として、XZrO(ただし、XはBa,Sr,Caから選ばれる少なくとも1種の金属元素)を、主成分中のABOで表わされるチタン酸バリウム固溶体1モルに対して、0.35モル以下の範囲で添加する点が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、耐還元性に優れ、比誘電率を向上させた誘電体磁器組成物の製造方法として、出発原料であるBaTiOとBaZrOとを、BaZrOのX線最大ピーク強度に対するBaTiOのX線最大ピーク強度比が5以下となるように仮焼することが開示されている。
【0007】
しかしながら、この特許文献1では、耐圧(破壊電圧)が低く、寿命特性(絶縁抵抗の加速寿命)が不十分であり、そのため、信頼性に劣るという問題があった。特に、この問題は、積層セラミックコンデンサを小型・大容量化した場合に顕著となるため、小型・大容量化を達成するためには、耐圧および寿命特性(絶縁抵抗の加速寿命)の向上が望まれていた。なお、特許文献2では、製造された積層セラミックコンデンサの寿命特性(絶縁抵抗の加速寿命)は何ら開示されておらず、この問題を解決するものではなかった。
【特許文献1】特許第3567759号公報
【特許文献2】特許第3139444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、還元性雰囲気中での焼成が可能であり、電圧印加時における電歪量が低く、比誘電率、DCバイアス特性、耐圧(破壊電圧)および容量温度特性を良好に保ちながら、絶縁抵抗(IR)の加速寿命を向上できる誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層として有する電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、特定成分のX線最大強度ピークが、その成分の含有量に対して特定の関係にある場合に、比誘電率、容量温度特性等の諸特性を良好に保ちながら、高温負荷寿命(IR寿命)を向上できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明の誘電体磁器組成物は、
BaTiO2+m (ただし、mは、0.99≦m≦1.01)と、
BaZrO2+n (ただし、nは、0.99≦n≦1.01)と、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)と、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記BaTiO2+m 100モルに対して、前記BaZrO2+nの含有量をAモル、前記Rの酸化物の含有量をCモルとした場合に、前記Aが、BaZrO2+n 換算で、40≦A≦65モル、前記Cが、R換算で、4≦C≦15モルであり、かつ、下記式(1)および(2)を同時に満足することを特徴とする。
式(1)…0.0038A−0.147≦B≦0.004A+0.04(ただし、Bは、前記BaTiO2+mのX線最大ピーク強度に対する前記BaZrO2+nのX線最大ピーク強度の比である)
式(2)…0.0041C−0.0115≦D≦0.0046C+0.084(ただし、Dは、前記BaTiO2+mのX線最大ピーク強度に対する前記Rの酸化物のX線最大ピーク強度の比である)
【0011】
本発明の誘電体磁器組成物は、BaTiO2+m、BaZrO2+nおよびRの酸化物を有しており、焼成後の状態において、BaZrO2+nおよびRの酸化物は、BaTiO2+mに固溶していると考えられる。BaZrO2+nおよび希土類元素酸化物が全てBaTiO2+mに固溶している場合には、この誘電体磁器組成物のX線回折ピークは、BaTiO2+mのピークのみが観察されることとなる。しかしながら、BaZrO2+nおよび希土類元素酸化物がBaTiO2+mに固溶しきれない場合には、BaTiO2+mのX線回折ピークだけではなく、未固溶のBaZrO2+nおよび希土類元素酸化物のX線回折ピークが観察される。すなわち、BaTiO2+mのX線最大ピーク強度に対するBaZrO2+nのX線最大ピーク強度(B)は、BaTiO2+mへのBaZrO2+nの固溶度の指標となり、BaTiO2+mのX線最大ピーク強度に対するRの酸化物のX線最大ピーク強度(D)は、BaTiO2+mへのRの酸化物の固溶度の指標となる。本発明では、BおよびDを上記の範囲内、すなわち、未固溶のBaZrO2+nおよびR酸化物を、上記の範囲内で誘電体磁器組成物中に存在させることにより、特に、高温負荷寿命を向上させることができる。
【0012】
好ましくは、Mgの酸化物と、Mn、Cr、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1つの酸化物と、Si、Li、Al、GeおよびBから選ばれる少なくとも1つの酸化物と、をさらに有し、
前記BaTiO2+m 100モルに対して、各成分の酸化物または複合酸化物換算での比率が、
Mgの酸化物:4〜12モル、
Mn、Cr、CoおよびFeの酸化物:0.5〜3モル、
Si、Li、Al、GeおよびBの酸化物:3〜9モルである。
【0013】
本発明によれば、誘電体層と内部電極層とを有する電子部品であって、前記誘電体層が、上記のいずれかの誘電体磁器組成物で構成された電子部品が提供される。
【0014】
本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の誘電体磁器組成物においては、BaTiO2+mに固溶しきれないBaZrO2+nおよび希土類元素酸化物を未固溶の状態で存在させ、しかも、ピーク強度比とBaZrO2+nおよび希土類元素酸化物の含有量とが特定の関係を満足させている。その結果、比誘電率、耐圧(破壊電圧)、容量温度特性等の特性を良好に保ちながら、高温負荷寿命(IR寿命)を向上させることができる。
【0016】
そのため、積層セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に、このような本発明の誘電体磁器組成物を適用することにより、たとえば、誘電体層を20μm程度と薄層化し、定格電圧の高い(たとえば100V以上、特に250V以上)中高圧用途に用いた場合においても、高い信頼性を実現することができる。すなわち、小型・大容量化対応で、しかも高い信頼性を有する中高圧用途の電子部品を提供することができる。
【0017】
このような本発明の電子部品は、たとえば、各種自動車関連用途(ECM(エンジンエレクトロニックコンピュータモジュール)、燃料噴射装置、電子制御スロットル、インバータ、コンバータ、HIDランプ、ハイブリッドエンジンのバッテリーコントロールユニットなど)やデジタルスチールカメラ用途などに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図、
図2はBaTiO、BaZrOおよびGdのX線最大ピーク強度を示すX線回折チャート図、
図3はBaZrOの含有量(A)と、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するBaZrOのX線最大ピーク強度の比(B)と、の関係を示すグラフであり、
図4はGdの含有量(C)と、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するGdのX線最大ピーク強度の比(D)と、の関係を示すグラフである。
【0019】
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0020】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。また、一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0021】
誘電体層2
誘電体層2は、本発明の誘電体磁器組成物を含有する。
本発明の誘電体磁器組成物は、少なくとも、BaTiO2+m (ただし、mは、0.99≦m≦1.01)と、BaZrO2+n (ただし、nは、0.99≦n≦1.01)と、Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)と、を有する。この際、酸素(O)量は、上記式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0022】
BaTiO2+mは強誘電性を有しており、高い比誘電率を示す。BaTiO2+m における、mは0.99≦m≦1.01である。BaTiO2+m は主として母材として誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0023】
BaZrO2+n の含有量(A)は、BaTiO2+m 100モルに対して、BaZrO2+n 換算で、40〜65モルであり、好ましく40〜55モル、より好ましくは40〜50モルである。また、BaZrO2+n における、nは0.99≦n≦1.01である。BaZrO2+n を上記範囲で添加することにより、容量温度特性および耐圧の向上を図ることができる。BaZrO2+n の含有量が少なすぎると、容量温度特性および耐圧の低下に加えて、寿命特性が悪化する傾向にある。一方、多すぎると、比誘電率が低下する傾向にある。
【0024】
Rの酸化物の含有量(C)は、BaTiO2+m 100モルに対して、R換算で、4〜15モルであり、好ましくは6〜12モル、より好ましくは7〜11モルである。Rの酸化物は、主に、BaTiO2+m の強誘電性を抑制する効果を有する。Rの酸化物の含有量が少なすぎると、耐圧が低下したり、電圧印加時における電歪量が大きくなる傾向にある。一方、多すぎると、比誘電率が低下する傾向にある。なお、上記Rの酸化物を構成するR元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種であり、これらのなかでも、Gdが特に好ましい。
【0025】
本発明では、さらに、BaTiO2+mおよびBaZrO2+nのX線最大ピーク強度の比と、BaTiO2+mおよびRの酸化物のX線最大ピーク強度の比と、を同時に制御し、特定の範囲としている。具体的には、BaTiO2+mのX線最大ピーク強度に対するBaZrO2+nのX線最大ピーク強度の比をBとし、BaTiO2+mのX線最大ピーク強度に対するRの酸化物のX線最大ピーク強度の比をDとした場合に、下記の式(1)および(2)を満足する。
式(1)…0.0038A−0.147≦B≦0.004A+0.04
式(2)…0.0041C−0.0115≦D≦0.0046C+0.084
【0026】
Bは、BaTiO2+mに対するBaZrO2+nの固溶度の指標であり、未固溶のBaZrO2+nが多くなるほど、Bも大きくなる。また、Dは、BaTiO2+mに対するRの固溶度の指標であり、未固溶のRが多くなるほど、Dも大きくなる。
【0027】
本発明では、BおよびDは、必ず、0よりも大きい値を示す。すなわち、本発明の誘電体磁器組成物中には、BaTiO2+mに固溶しきれなかったBaZrO2+nおよびR酸化物が存在していることを示している。このように、BaZrO2+nおよびR酸化物が固溶したBaTiO2+mと、未固溶のBaZrO2+nおよびR酸化物と、が誘電体磁器組成物中に存在することにより、諸特性(比誘電率、容量温度特性など)を良好に保ちながら、高温負荷寿命(IR寿命)を向上させることができる。この理由としては、BaZrO2+nおよびR酸化物そのものがBaTiO2+mやMgの酸化物やMn、Cr、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種の酸化物やSi、Li、Al、GeおよびBから選ばれる少なくとも1種の酸化物、さらにはこれら酸化物の化合物または複合酸化物よりも優れた高温負荷寿命を有しているためであると考えられる。
【0028】
なお、後述するが、上記のピーク強度比(B)および(D)は、原料の仮焼条件や焼成条件を変化させることにより、制御することができる。
【0029】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、さらに、Mgの酸化物を有していることが好ましい。Mgの酸化物の含有量は、BaTiO2+m 100モルに対して、MgO換算で、好ましくは4〜12モルであり、より好ましくは6〜10モルである。Mgの酸化物は、BaTiO2+m の強誘電性を抑制する効果を有する。Mgの酸化物の含有量が少なすぎると、容量温度特性や耐圧の低下に加えて、電圧印加時における電歪量が大きくなる傾向にある。一方、多すぎると、比誘電率の低下に加えて、寿命特性および耐圧が悪化する傾向にある。
【0030】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、さらに、Mn、Cr、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種の酸化物を有していることが好ましい。これらの含有量は、BaTiO2+m 100モルに対して、MnO、Cr、CoまたはFe換算で、好ましくは0.5〜3モルであり、より好ましくは0.5〜2.5モルである。これらの酸化物の含有量が少なすぎると、寿命特性が悪化する傾向にある。一方、多すぎると、比誘電率が低下するとともに、容量温度特性が悪化する傾向にある。
【0031】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、さらに、Si、Li、Al、GeおよびBから選ばれる少なくとも1種の酸化物を有していることが好ましい。これらの含有量は、BaTiO2+m 100モルに対して、SiO、LiO、Al、GeOまたはB換算で、好ましくは3〜9モルであり、より好ましくは3〜5モルである。これらの酸化物の含有量が少なすぎると、比誘電率が低下するとともに、寿命特性が悪化する傾向にある。一方、多すぎると、容量温度特性が悪化する傾向にある。なお、上記各酸化物のなかでも、特性の改善効果が大きいという点より、Siの酸化物を用いることが好ましい。
【0032】
なお、本明細書では、各成分を構成する各酸化物または複合酸化物を化学量論組成で表しているが、各酸化物または複合酸化物の酸化状態は、化学量論組成から外れるものであってもよい。ただし、各成分の上記比率は、各成分を構成する酸化物または複合酸化物に含有される金属量から上記化学量論組成の酸化物または複合酸化物に換算して求める。
【0033】
誘電体層2の厚みは、特に限定されず、積層セラミックコンデンサ1の用途に応じて適宜決定すれば良い。
【0034】
内部電極層3
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0035】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0036】
積層セラミックコンデンサ1の製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0037】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体原料(誘電体磁器組成物粉末)を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0038】
誘電体原料としては、上記した各成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。例を挙げると、BaTiO2+mの原料として、BaTiO2+mを用いてもよいし、BaCOおよびTiOを用いてもよい。また、BaZrO2+nの原料として、BaZrO2+nを用いてもよいし、BaCOおよびZrOを用いてもよい。誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。塗料化する前の状態で、誘電体原料の粒径は、通常、平均粒径0.1〜1μm程度である。
【0039】
本実施形態では、上記各成分の原料として、BaTiO2+m 以外の原料のうち少なくとも一部については、各酸化物または複合酸化物、焼成により各酸化物または複合酸化物となる化合物を、そのまま用いても良いし、あるいは、予め仮焼し、焙焼粉として用いても良い。あるいは、BaZrO2+n およびRの酸化物以外の原料のうち、一部については、BaTiO2+m とともに仮焼しても良い。ただし、BaTiO2+m と、BaZrO2+n および/またはRの酸化物と、を仮焼すると、本発明の効果が得難くなるため、このような組み合わせで仮焼することは好ましくない。また、仮焼する場合には、800〜1100℃で行うことが好ましい。
【0040】
BaTiO2+m の原料としては、平均粒子径が、好ましくは0.2〜1μmのものを用いることが好ましい。また、BaZrO2+n を始めとするその他の成分の原料としては、平均粒子径が、好ましくは0.2〜1μmのものを用いることが好ましい。なお、これらを予め仮焼し、焙焼粉とする場合にも、その平均粒子径は上記範囲とすることが好ましい。
【0041】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0042】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0043】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0044】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0045】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0046】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0047】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0048】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、焼成雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0049】
グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−14〜10−10MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0050】
また、焼成時の保持温度は、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1360℃である。保持温度が上記範囲未満であると緻密化が不十分となり、前記範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0051】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。本実施形態では、焼成時の保持温度、保持時間等の焼成条件を制御することにより、BaTiO2+mに対するBaZrO2+nおよびR酸化物の固溶を制御することができる。たとえば、焼成温度が低い場合には、固溶しにくいため、X線回折チャートにおいて、BaTiO2+mに未固溶の原料に起因するピークが生じ、ピーク強度比(B)および(D)が大きくなる傾向にある。
【0052】
還元性雰囲気中で焼成した後、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0053】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−5MPaとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層の酸化が進行する傾向にある。
【0054】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に500〜1100℃とすることが好ましい。保持温度が上記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、高温負荷寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、高温負荷寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0055】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、より好ましくは2〜10時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0056】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。また、脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0057】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0058】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0060】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成の誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0062】
実施例1
まず、BaTiO(m=1.000)、BaZrO(n=1.000) 、MgCO、Gd、MnO、およびSiOを準備した。誘電体原料は、以下の2種類の方法により準備した。第1の方法としては、まず、BaZrO、MgCO、Gd、MnO、およびSiOをボールミルで混合し、得られた混合粉を1000℃で予め仮焼して、平均粒子径0.2μmの焙焼粉を調製した。次いで、得られた焙焼粉に、BaTiOを加えて、ボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、平均粒径0.15μmの誘電体原料を得た。
第2の方法としては、予め、BaTiOおよびBaZrOをボールミルにて混合し、得られた混合粉を1000℃で予め仮焼して、平均粒子径0.2μmの焙焼粉を調製した。この焙焼粉においては、BaZrOがBaTiOに完全に固溶している。次いで、得られた焙焼粉に、MgCO、Gd、MnO、およびSiOを加えて、ボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、平均粒径0.15μmの誘電体原料を得た。
なお、いずれの方法であっても、MgCOは、焼成後には、MgOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0063】
BaTiO100モルに対するBaZrO成分の添加量(A)を表1に示す。Gd成分の添加量(C)は、BaTiO100モルに対して10モルとした。試料番号2および7では、上記の第2の方法により調製した誘電体原料を用いた。すなわち、BaZrOがBaTiOに完全に固溶している。試料番号1、3〜6、8〜18では、上記の第1の方法により調製した誘電体原料を用いた。表1において、各成分の添加量は、BaTiO100モルに対して、複合酸化物または各酸化物換算での添加量である。
なお、BaTiO100モルに対して、MgCO成分の添加量は8モル、MnO成分の添加量は1.5モル、SiO成分の添加量は4.5モルであった。
【0064】
次いで、得られた誘電体材料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジブチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0065】
また、上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0066】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが30μmとなるようにグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0067】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼成体を得た。
【0068】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0069】
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1220〜1380℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス(酸素分圧:10−12MPa)とした。
【0070】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1000〜1100℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:7.5×10−8〜2.3×10−7MPa)とした。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0071】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。本実施例では、表1に示すように、誘電体層をそれぞれ組成の異なる複数の誘電体磁器組成物から構成した複数のコンデンサ試料(試料番号1〜19)を作製した。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×3.2mmであり、誘電体層の厚み20μm、内部電極層の厚み1.5μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は10とした。
【0072】
得られた積層セラミックコンデンサの誘電体層に対して、下記に示すX線回折を行った。また、得られた各コンデンサ試料について、比誘電率(εs)、容量温度特性(TC)、DCバイアス特性、高温加速寿命(HALT)、破壊電圧(耐圧)、および電圧印加による電歪量を下記に示す方法により測定した。
【0073】
X線回折
X線回折は、X線源にCu−Kα線を用い、その測定条件は、電圧50kV、電流300mAで、2θ=10°〜80°の範囲を、走査速度1/16 deg/min、積算時間1secであった。得られたX線回折チャートからBaTiO、BaZrOおよびGdの最大ピークを同定し、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するBaZrOのX線最大ピーク強度の比(B)と、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するGdのX線最大ピーク強度の比(D)と、を求めた。たとえば、図2に示す2θ=27°〜35°の範囲におけるX線回折チャートにおいて、BaTiOの最大X線ピーク強度を1とする。そうすると、このときのBaZrOのX線最大ピーク強度は0.08、GdのX線最大ピーク強度は0.03と求められる。すなわち、Bが0.08、Dが0.03である。得られたピーク強度比の結果を表1に示す。また、BaZrOの含有量(A)とピーク強度比(B)との関係を示すグラフを図3に示す。
【0074】
比誘電率εs
コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、静電容量Cを測定した。そして、比誘電率εs(単位なし)を、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では、250以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0075】
容量温度特性(TC)
コンデンサ試料に対し、125℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件で静電容量を測定し、基準温度25℃における静電容量に対する変化率を算出した。本実施例では、±15%以内を良好とした。結果を表1に示す。
【0076】
DCバイアス特性
コンデンサ試料に対し、25℃にて、10V/μmの電界下で直流電圧の印可状態に保持し、容量変化率を算出した。本実施例では、−10%以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0077】
高温加速寿命(HALT)
コンデンサ試料に対し、200℃にて、40V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、寿命時間を測定することにより、高温加速寿命(HALT)を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命と定義した。また、この高温加速寿命は、10個のコンデンサ試料について行った。本実施例では、20時間以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0078】
破壊電圧(耐圧)
コンデンサ試料に対し、温度25℃において、直流電圧を昇温速度100V/sec.で印加し、10mAの電流が流れた時の誘電体層厚みに対する電圧値(単位:V/μm)を破壊電圧とし、破壊電圧を測定することにより、コンデンサ試料の耐圧を評価した。本実施例では、破壊電圧50V/μm以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0079】
電圧印加による電歪量
まず、コンデンサ試料を、所定パターンの電極がプリントしてあるガラスエポキシ基板にハンダ付けすることにより固定した。次いで、基板に固定したコンデンサ試料に対して、AC:10Vrms/μm、周波数3kHzの条件で電圧を印加し、電圧印加時におけるコンデンサ試料表面の振動幅を測定し、これを電歪量とした。なお、コンデンサ試料表面の振動幅の測定には、レーザードップラー振動計を使用した。また、本実施例では、10個のコンデンサ試料を用いて測定した値の平均値を電歪量とした。電歪量は低いほうが好ましく、本実施例では、10ppm未満を良好とした。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1および図3より、BaZrOの含有量(A)およびGdの含有量(C)を本発明の所定の範囲とし、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するBaZrOのX線最大ピーク強度の比(B)と、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するGdのX線最大ピーク強度の比(D)とが、式(1)および(2)を同時に満足することにより、比誘電率(εs)、容量温度特性(TC)、DCバイアス特性、破壊電圧および電歪量を良好に保ちながら、高温加速寿命(HALT)の向上が可能となることが確認できる。
これに対して、上記の(A)〜(D)のいずれか1つでも本発明の範囲外である場合には、高温負荷寿命が悪化する結果となった。たとえば、試料番号2および7では、BaZrOがBaTiOに完全に固溶しており、未固溶のBaZrOが存在していないため、Bが0となってしまい、高温負荷寿命が悪化していることが確認できる。なお、図3においては、本発明の範囲を斜線で表し、表1の実施例を黒丸、比較例を白三角で示してある。
【0082】
実施例2
誘電体原料の組成は、Gdの含有量(C)を表2に示す量とした以外は、試料番号10と同様にした。試料番号20、22〜25、27〜37では、上記の第1の方法により調製した誘電体原料を用いた。
また、試料番号21および26では、以下の第3の方法により調製した誘電体原料を用いた。第3の方法としては、予め、BaTiOおよびGdをボールミルにて混合し、得られた混合粉を1000℃で予め仮焼して、平均粒子径0.2μmの焙焼粉を調製した。すなわち、GdがBaTiOに完全に固溶している。次いで、得られた焙焼粉に、BaZrO、MgCO、MnO、およびSiOを加えて、ボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、誘電体原料を得た。
得られた誘電体原料から、実施例1と同様にして、積層セラミックコンデンサを製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。また、Gdの含有量(C)とピーク強度比(D)との関係を示すグラフを図4に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2および図4より、BaZrOの含有量(A)およびGdの含有量(C)を本発明の所定の範囲とし、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するBaZrOのX線最大ピーク強度の比(B)と、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するGdのX線最大ピーク強度の比(D)とが、式(1)および(2)を同時に満足することにより、比誘電率(εs)、容量温度特性(TC)、DCバイアス特性、破壊電圧および電歪量を良好に保ちながら、高温加速寿命(HALT)の向上が可能となることが確認できる。
これに対して、上記の(A)〜(D)のいずれか1つでも本発明の範囲外である場合には、高温負荷寿命が悪化する結果となった。実施例1と同様に、試料番号21および26では、Dが0となり、高温負荷寿命が悪化していることが確認できる。なお、図4においては、本発明の範囲を斜線で表し、表2の実施例を黒丸、比較例を白三角とした。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2はBaTiO、BaZrOおよびGdのX線最大ピーク強度を示すX線回折チャート図である。
【図3】図3はBaZrOの含有量(A)と、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するBaZrOのX線最大ピーク強度の比(B)と、の関係を示すグラフである。
【図4】図4はGdの含有量(C)と、BaTiOのX線最大ピーク強度に対するGdのX線最大ピーク強度の比(D)と、の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0086】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiO2+m (ただし、mは、0.99≦m≦1.01)と、
BaZrO2+n (ただし、nは、0.99≦n≦1.01)と、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)と、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記BaTiO2+m 100モルに対して、前記BaZrO2+nの含有量をAモル、前記Rの酸化物の含有量をCモルとした場合に、前記Aが、BaZrO2+n 換算で、40≦A≦65モル、前記Cが、R換算で、4≦C≦15モルであり、かつ、下記式(1)および(2)を同時に満足することを特徴とする誘電体磁器組成物。
式(1)…0.0038A−0.147≦B≦0.004A+0.04(ただし、Bは、前記BaTiO2+mのX線最大ピーク強度に対する前記BaZrO2+nのX線最大ピーク強度の比である)
式(2)…0.0041C−0.0115≦D≦0.0046C+0.084(ただし、Dは、前記BaTiO2+mのX線最大ピーク強度に対する前記Rの酸化物のX線最大ピーク強度の比である)
【請求項2】
Mgの酸化物と、Mn、Cr、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種の酸化物と、Si、Li、Al、GeおよびBから選ばれる少なくとも1種の酸化物と、をさらに有し、
前記BaTiO2+m 100モルに対して、各成分の酸化物または複合酸化物換算での比率が、
Mgの酸化物:4〜12モル、
Mn、Cr、CoおよびFeの酸化物:0.5〜3モル、
Si、Li、Al、GeおよびBの酸化物:3〜9モル、
である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物からなる誘電体層と、内部電極層と、を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−84110(P2009−84110A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255598(P2007−255598)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】