説明

誘電体磁器組成物の製造方法、電子部品及び積層セラミックコンデンサ

【課題】 積層セラミックコンデンサの誘電体層として使用し、微細な粒子から構成され、かつコンデンサを薄層化した場合においても、良好な電気特性(例えば高い誘電率、CR積、IR寿命など)や温度特性(例えばX5Rを満足するなど)を有する誘電体磁器組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 チタン酸バリウムと、ガラス成分と、添加物成分とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、ICP法により測定した不純物としてのSiOの存在量が60ppm以下に制御されたチタン酸バリウム原料を用いて、前記誘電体磁器組成物を製造することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層などとして用いられる誘電体磁器組成物の製造方法と、該方法により製造される誘電体磁器組成物と、該誘電体磁器組成物を誘電体層として用いる積層セラミックコンデンサなどの電子部品とに、関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例である積層セラミックコンデンサは、近年、ますます小型大容量化が進んでおり、その取得容量を大きくするためには、積層セラミックコンデンサにおける1層あたりの誘電体層を薄層化することが求められる。
【0003】
しかしながら、何らの方策を講じることなしに誘電体層を薄層化していくと、電界強度の増加に伴って積層セラミックコンデンサの信頼性が低下し、またショート不良が多発するため、歩留まりが悪くなる傾向がある。
【0004】
こうした問題を解決する一つとして、誘電体層を構成する誘電体粒子(グレイン)を微細化する方法が考えられる。誘電体層は、誘電体粒子と粒界とで構成されているから、誘電体粒子のサイズが大きいと、おのずと薄層化に限界が出てくるからである。その一方で、誘電体粒子の微細化が図れても、誘電率などの電気特性が悪ければ、電子部品市場からの要求に応えることはできない。
【0005】
従って、誘電体粒子を単に微細化するだけでなく、微細化した際においても、良好な電気特性(例えば高い誘電率や静電容量の温度特性など)を維持することが必要である。
【0006】
ところで、積層セラミックコンデンサは、通常、内部電極層用のペーストと誘電体層用のペーストとを、シート法や印刷法等により積層し、一体同時焼成して製造される。内部電極層の導電材には、比較的安価なNiやNi合金等の卑金属が使用されている。内部電極層の導電材として卑金属を用いる場合、大気中で焼成を行なうと内部電極層が酸化してしまうため、誘電体層と内部電極層との同時焼成を、還元性雰囲気中で行なう必要がある。しかし、還元性雰囲気中で焼成すると、誘電体層が還元され、比抵抗が低くなってしまうため、非還元性の誘電体材料が提案されている。
【0007】
非還元性の誘電体材料として、現在、EIAJ(日本電子機械工業会規約)で規定するX7R特性(−55℃〜125℃の温度範囲で、25℃を基準に静電容量変化率が±15%以内)やX5R特性(−55℃〜85℃の温度範囲で、25℃を基準に静電容量変化率が±15%以内)、またはJIS規格で規定するB特性(−25〜85℃の温度範囲で、20℃を基準に静電容量変化率が±10%以内)を満足する静電容量の温度安定性の良好なものが主流であり、種々の提案が為されている。
【0008】
非還元性誘電体材料の一つである、チタン酸バリウムを含有する誘電体磁器組成物に関し、例えば、特許文献1では、誘電体粒子の微細化が図られた誘電体磁器組成物を得る方法が提案されている。特許文献1に記載の技術によれば、チタン酸バリウム原料に対して、添加物成分原料としてのMgOを7モル%と非常に多く添加している。MgOを添加することで誘電体粒子の微細化を図るためには極めて有効であると考えられている。
【0009】
しかしながら、MgOの添加量が多すぎると、温度特性の劣化や絶縁抵抗の低下などの不都合を生じることがあった。
【0010】
従って、MgOなどの誘電体粒子の微細化を促進できる添加物成分原料の添加量をできる限り抑え、上述した各種電気特性を劣化させない技術を開発することが望まれている。
【特許文献1】特開2001−316176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、積層セラミックコンデンサの誘電体層として使用し、必要以上に添加物成分を含有せず、微細な粒子から構成され、かつコンデンサを薄層化した場合においても、良好な電気特性(例えば高い誘電率、CR積、IR寿命など)や温度特性(例えばX5Rを満足するなど)を有する誘電体磁器組成物の製造方法と、その製造方法により得られる誘電体磁器組成物と、該誘電体磁器組成物を用いて製造され、良好な電気特性や温度特性を有し、信頼性の高い積層セラミックコンデンサなどの電子部品とを、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によれば、
チタン酸バリウムと、ガラス成分と、添加物成分とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
ICP法により測定した不純物としてのSiOの存在量が60ppm以下に制御されたチタン酸バリウム原料を用いて、前記誘電体磁器組成物を製造することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法が提供される。
【0013】
ICP(誘導結合プラズマ)法としては、ICP発光分光分析装置を用いたICP発光分光分析法や、ICP質量分析装置を用いたICP質量分析法が例示される。特にICP発光分光分析法を用いることが好ましい。
【0014】
好ましくは、前記チタン酸バリウム原料は、窒素吸着法により測定した比表面積(SSA)が10〜50m/gである。用いるチタン酸バリウム原料のSSAを適正範囲に調整することで、焼成後の誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子の微細化がより一層促進される傾向がある。
【0015】
好ましくは、前記添加物成分原料が、少なくともMg化合物を含有し、該Mg化合物をMgOに換算したときの前記チタン酸バリウム原料100モルに対する比率が、Mg化合物:2モル以下(但し、0モルを除く)である。
【0016】
Mg化合物を添加することで誘電体粒子の微細化が図れるものではあるが、上述した特許文献1に記載のように添加物成分としてのMgO添加量が7モル%と多すぎると、誘電体粒子の微細化は図れるものの、温度特性の劣化や絶縁抵抗の低下などの不都合を生じることがある。従って、このような各種電気特性を劣化させない範囲で、MgO添加量を少なくすることが望ましい。本発明では、Mg化合物の添加量が少なくても、十二分に誘電体粒子の微細化が図れるものである。しかも添加量を抑えることができるので、電気特性が劣化することもない。
【0017】
好ましくは、前記添加物成分原料が、さらに、
Mn化合物及びCr化合物の一方又は双方と、
V化合物、W化合物、Ta化合物及びNb化合物から選ばれる1種または2種以上と、
R(但し、Rは、Sc、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Dy、Ho、Tb、Gd及びEuから選ばれる1種又は2種以上)の化合物とを含有し、
Mn化合物をMnOに、Cr化合物をCrに、V化合物をVに、W化合物をWOに、Ta化合物をTaに、Nb化合物をNbに、Rの化合物をRに換算したときの前記チタン酸バリウム原料100モルに対する比率が、
Mn化合物+Cr化合物:0.5モル以下(但し、0モルを除く)、
V化合物+W化合物+Ta化合物+Nb化合物:0.5モル以下(但し、0モルを除く)、
Rの化合物:5モル以下(但し、0モルを除く)である。
【0018】
好ましくは、前記ガラス成分原料が、Ba化合物、Ca化合物及びSi化合物を含有し、
Ba化合物をBaOに、Ca化合物をCaOに、Si化合物をSiOに換算したときの前記チタン酸バリウム原料100モルに対する比率が、
Ba化合物+Ca化合物:0.5〜12モル、
Si化合物:0.5〜12モルである。
【0019】
好ましくは、前記ガラス成分原料が、(Ba1−x Ca)SiO(但し、x=0.3〜0.7)である。
【0020】
特に好ましい本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法は、上記全ての条件を満足するケースである。
【0021】
本発明によれば、上記いずれかの方法で製造された誘電体磁器組成物が提供される。
【0022】
本発明に係る電子部品は、上記いずれかの誘電体磁器組成物で構成されている誘電体層を有する。電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【0023】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、上記いずれかの誘電体磁器組成物で構成されている誘電体層と、内部電極層とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体を有する。内部電極層に含まれる導電材としては、特に限定されないが、例えばNiまたはNi合金である。
【発明の効果】
【0024】
現在の高度な粉末精製技術をもってしても、各種電子部品の誘電体層などとして使用される誘電体磁器組成物を製造する際に使用されるチタン酸バリウム原料中には極微量の不可避的不純物の含有が避けられない。不純物の存在量が多く、あまり純度の高くないチタン酸バリウム原料を用いると、電気特性などに影響を与えることがある。従って、この種の不純物の存在をできる限り排除した高純度のチタン酸バリウム原料を用いることが望まれる。なお、本発明で用いるチタン酸バリウム原料に含まれ得る不可避的不純物としては、SiO、SrO、ZrO、Feなどが例示される。
【0025】
本発明者らは、これらの不可避的不純物が、焼成後の焼結体の粒径と何らかの関係があるのではないかと考え、実験を進めた結果、上記不純物のうちの特定物の存在量如何により、焼成後の誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子の微細化が図れたり図れなかったりするとの知見、つまり相関関係があることを見出した。より具体的には、SiOの存在量が所定値以下に制御されたチタン酸バリウム原料を用いることにより、その存在量が制御されていないチタン酸バリウム原料を用いた場合と比較して、焼成後の誘電体粒子(グレイン)の微細化を図ることができ(例えば誘電体粒子の平均粒径を0.25μm以下にできる)、ひいては誘電体層の薄層化(例えば誘電体層の一層あたりの厚みを3μm以下にできる)に寄与できる。しかも誘電体層を薄層化した場合においても、良好な電気特性(例えば高い誘電率、CR積、IR寿命など)や、良好な温度特性(例えばX5Rを満足する)を有する積層セラミックコンデンサなどの電子部品を得ることができる。
【0026】
すなわち、本発明によれば、積層セラミックコンデンサの誘電体層として使用し、必要以上に添加物成分を含有せず、微細な粒子から構成され、かつコンデンサを薄層化した場合においても、良好な電気特性や温度特性を有する誘電体磁器組成物の製造方法と、その製造方法により得られる誘電体磁器組成物と、該誘電体磁器組成物を用いて製造され、良好な電気特性や温度特性を有し、信頼性の高い積層セラミックコンデンサなどの電子部品とを、提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図、図2は図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図である。
【0028】
本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法について説明する前に、まず、電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサについて説明する。
【0029】
積層セラミックコンデンサ
図1に示すように、本発明の電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両側端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。内部電極層3は、各側端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。
【0030】
一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0031】
コンデンサ素子本体10の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、寸法は通常、縦(0.4〜5.6mm)×横(0.2〜5.0mm)×高さ(0.2〜1.9mm)程度とすることができる。
【0032】
誘電体層2は、本発明の製造方法により得られる誘電体磁器組成物を含有する。本発明の製造方法により得られる誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムと、ガラス成分と、添加物成分とを有する。
【0033】
チタン酸バリウムは、組成式(BaO)・TiOで表され、前記式中のモル比mが、好ましくは0.990〜1.035である。
【0034】
ガラス成分は、本実施形態ではBa酸化物、Ca酸化物及びSi酸化物を含有する場合を例示する。好ましくは、前記ガラス成分は、(Ba1−x Ca)SiO(但し、x=0.3〜0.7)で表される。
【0035】
添加物成分は、本実施形態では、Ba酸化物と、Mg酸化物と、Mn酸化物及びCr酸化物の一方又は双方と、V酸化物、W酸化物、Ta酸化物及びNb酸化物から選ばれる1種または2種以上と、R(但し、Rは、Sc、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Dy、Ho、Tb、Gd及びEuから選ばれる1種又は2種以上、好ましくはY、Dy及びHoから選ばれる1種または2種以上)の酸化物とを、含有する場合を例示する。
【0036】
図2に示すように、本実施形態の誘電体層2を構成する誘電体磁器組成物は、複数の誘電体粒子(グレイン)2aと、隣接する複数の誘電体粒子2a間に形成された粒界相2bとを含んで構成される。
【0037】
誘電体粒子2aは、上述したチタン酸バリウムを主成分とする。誘電体粒子2aの平均粒径(=グレインサイズG.S.)は、0.25μm以下、好ましくは0.24μm以下、さらに好ましくは0.23μm以下と微細化されている。微細化されることで、CR積や信頼性(IR寿命)が向上する。平均粒径の下限は特に限定されないが、通常0.02μm程度である。
【0038】
粒界相2bは、誘電体材料(ガラス成分中のSiOの大半、BaO及びCaOの極一部、添加物成分の一部)あるいは内部電極材料を構成する材質の酸化物や、別途添加された材質の酸化物、さらには工程中に不純物として混入する材質の酸化物を成分とし、通常は主としてガラスないしガラス質で構成される。
【0039】
なお、チタン酸バリウムに対して添加してあるガラス成分中のSiについては、誘電体粒子2a内へ固溶し難い性質を持っており、焼成の際に、粒界相2bへと押し出され、その大半が粒界相2b中に収まるものと考えられる。本実施形態での粒界相2bには、ガラス成分中のSiがSiOに換算して0.5〜20重量%程度、含有される。
【0040】
本明細書では、誘電体磁器組成物を構成する各酸化物を化学量論組成で表しているが、各酸化物の酸化状態は、化学量論組成から外れるものであってもよい。ただし、各成分の比率は、各成分を構成する酸化物に含有される金属量から上記化学量論組成の酸化物に換算して求める。
【0041】
誘電体層2の積層数や厚み等の諸条件は、目的や用途に応じ適宜決定すればよいが、本実施形態では、一対の内部電極層3に挟まれる誘電体層2の厚みは、4.5μm以下、好ましくは3.0μm以下、より好ましくは2.5μm以下と薄層化されている。本実施形態では、このように誘電体層2の厚みを薄層化したときでも、コンデンサ1の各種電気特性、特に十分な温度特性を保持しつつも、CR積やIR寿命が改善されている。
【0042】
内部電極層3は、実質的に電極として作用する卑金属の導電材で構成されることが好ましい。導電材として用いる卑金属としては、Ni又はNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,Co,CuおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.05〜3μm、特に0.1〜2.0μm程度であることが好ましい。
【0043】
外部電極4は、通常Ni,Pd,Ag,Au,Cu,Pt,Rh,Ru,Ir等の少なくとも1種又はそれらの合金で構成される。通常は、Cu,Cu合金、Ni又はNi合金等や、Ag,Ag−Pd合金、In−Ga合金等が使用される。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定されればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0044】
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1を製造する方法の一例を説明する。
【0045】
(1)本実施形態では、焼成後に図1に示す誘電体層2を形成するための焼成前誘電体層を構成することとなる誘電体層用ペーストと、焼成後に図1に示す内部電極層3を形成するための焼成前内部電極層を構成することとなる内部電極層用ペーストを準備する。また、外部電極用ペーストも準備する。
【0046】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0047】
(1−1)本実施形態で用いる誘電体原料は、上述した誘電体磁器組成物を構成する各原料を所定の組成比で含有する。このため、まずは、上記各原料たるチタン酸バリウム原料と、ガラス成分原料と、添加物成分原料とを準備する。
【0048】
チタン酸バリウム原料
チタン酸バリウム原料としては、ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有し、A/B値(組成式ABOにおけるAサイトを構成する成分のモル数を、Bサイトを構成する成分のモル数で除した値)が、好ましくは0.990〜1.035、より好ましくは0.995〜1.02、さらに好ましくは1.000〜1.009であるものが用いられる。
【0049】
A/B値が小さすぎると、粒成長を生じ、高温負荷寿命(IR寿命)が悪化する傾向にあり、A/B値が大きすぎると、焼結性が低下し、焼成が困難になる傾向にある。
【0050】
A/B値の測定は、ガラスビード法、蛍光X線分析法、ICP法などにより行うことができる。
【0051】
チタン酸バリウム原料中には、極微量(合計で例えば500ppm程度)ではあるが、不可避的不純物が含まれていることが多い。不可避的不純物としては、SiO、SrO、ZrO、Feなどが例示される。
【0052】
本発明では、上記不可避的不純物の中で、特にSiOの存在量を制御することにより、焼成後の誘電体粒子2aの平均粒径を0.25μm以下と微細化でき、
ひいては誘電体層2の一層あたりの厚みを3μm以下と薄層化できる。しかも誘電体層2を薄層化した場合においても、良好な電気特性(例えば高い誘電率、CR積、IR寿命など)や、良好な温度特性(例えばX5Rを満足する)を有する積層セラミックコンデンサ1を得ることができる。
【0053】
すなわち、本発明では、ICP法により測定した不可避的不純物としてのSiOの存在量が60ppm以下、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは40ppm以下に制御されたチタン酸バリウム原料を用いる。SiOの存在量の下限は、ICP法による検出下限から、0.1ppm程度である。なお、SiOの存在量は、Ba原料とTi原料を高純度化し、あるいはチタン酸バリウムの合成の際に制御することができるが、本発明ではその制御方法に限定はない。
【0054】
ICP(誘導結合プラズマ)法としては、ICP発光分光分析法やICP質量分析法などがあるが、不純物の測定に際しては、特にICP発光分光分析法を用いることが好ましい。ICP発光分光分析法とは、ICP発光分光分析装置中で発生させた高温常圧下の状態にあるプラズマ中に、チタン酸バリウム原料溶液を噴霧し、高いエネルギー状態に励起した原子が発する光の強度を測定してチタン酸バリウム原料中の各不純物の含有濃度(存在量)を測定する方法であり、ICP質量分析法とは、ICP質量分析装置中に発生させた誘導結合プラズマによってイオン化されたチタン酸バリウム原料試料を質量分析計に結合し、各不純物の含有濃度を測定する方法である。
【0055】
さらに本発明では、比表面積(SSA)が10〜50m/g、好ましくは10〜45m/gであるチタン酸バリウム原料を用いることが望ましい。用いるチタン酸バリウム原料のSSAが適正範囲に調節されることにより、焼成後の誘電体粒子2aの微細化がより一層促進される傾向がある。SSAが小さすぎると焼成後の誘電体粒子2aの微細化が困難となる傾向にあり、大きすぎると原料粉末が非常に微細であるため、製造時における原料粉末の分散が著しく困難となり分散不良が発生し、コンデンサとしての性能の低下の原因となる傾向にある。
【0056】
チタン酸バリウム原料のSSAの制御方法は、たとえば固相法でチタン酸バリウム原料を得ようとする際の、仮焼後の仮焼済粉末を適正条件で粉砕する方法や、チタン酸バリウムを製造する原料であるBaCOやTiOに関して微細なものを用いる方法などが挙げられる。
【0057】
本発明で用いるチタン酸バリウム原料は、いわゆる固相法の他、いわゆる液相法によっても得ることができる。固相法(仮焼法)は、BaCO、TiOを出発原料として用いる場合、これらを所定量秤量して混合、仮焼、粉砕することにより、原料を得る方法である。液相法としては、しゅう酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法などが挙げられる。
【0058】
ガラス成分原料
ガラス成分原料としては、Ba化合物、Ca化合物及びSi化合物を含有するものが用いられる。ガラス成分原料中のSi化合物は焼結助剤として作用し、Ca化合物及びBa化合物は静電容量の温度特性(温度に対する静電容量の変化率)を改善する効果を示す。
【0059】
本実施形態で用いるガラス成分原料は、混合物の形態でもよいし、あるいは複合酸化物の形態で用いてもよい。ただし、本実施形態では、混合物の形態よりも融点が低くなる複合酸化物の形態で用いることが好ましい。
【0060】
混合物の形態としては、Ca化合物(CaOやCaCOなど)+Si化合物(SiOなど)+Ba化合物(BaOやBaCOなど)などが例示される。複合酸化物の形態としては、(Ba1−x Ca)SiOなどが例示される。上記式中のxは、好ましくは0.3〜0.7であり、さらに好ましくは0.35〜0.50である。xが小さすぎると温度特性が劣化する傾向があり、xが大きすぎると誘電率が低下する傾向がある。
【0061】
添加物成分原料
本実施形態では、添加物成分原料としては、
Mg化合物と、
Mn化合物及びCr化合物の一方又は双方と、
V化合物、W化合物、Ta化合物及びNb化合物から選ばれる1種または2種以上と、
R(但し、Rは、Sc、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Dy、Ho、Tb、Gd及びEuから選ばれる1種又は2種以上、好ましくはY、Dy及びHoから選ばれる1種または2種以上)の化合物とを、用いる。
【0062】
Mg化合物は、容量温度特性を平坦化させる効果および粒成長を抑制する効果がある。Mn化合物及びCr化合物は、焼結を促進する効果と、IR(絶縁抵抗)を高くする効果と、高温負荷寿命を向上させる効果とがある。V化合物、W化合物、Ta化合物及びNb化合物は、高温負荷寿命を向上させる効果がある。Rの化合物は、主として、高温負荷寿命を向上させる効果を示す。
【0063】
なお、Mg化合物とは酸化マグネシウム及び/又は焼成後に酸化マグネシウムになる化合物を意味し、Mn化合物とは酸化マンガン及び/又は焼成後に酸化マンガンになる化合物を意味し、Cr化合物とは酸化クロム及び/又は焼成後に酸化クロムになる化合物を意味する。
【0064】
V化合物とは酸化バナジウム及び/又は焼成後に酸化バナジウムになる化合物を意味し、W化合物とは酸化タングステン及び/又は焼成後に酸化タングステンになる化合物を意味し、Ta化合物とは酸化タンタル及び/又は焼成後に酸化タンタルになる化合物を意味し、Nb化合物とは酸化ニオブ及び/又は焼成後に酸化ニオブになる化合物を意味する。
【0065】
Rの化合物とはR酸化物及び/又は焼成後にR酸化物になる化合物を意味する。
【0066】
(1−2)次に、チタン酸バリウム原料と、ガラス成分原料と、添加物成分原料とを混合して、最終組成にする。
【0067】
前記チタン酸バリウム原料100モルに対するガラス成分原料の混合量(比率)は、次の通りである。
【0068】
Ba化合物をBaOに、Ca化合物をCaOに、Si化合物をSiOに換算したとき、
好ましくは、
Ba化合物+Ca化合物:0.5〜12モル、
Si化合物:0.5〜12モルであり、
より好ましくは、
Ba化合物+Ca化合物:0.5〜6モル、
Si化合物:0.5〜6モルである。
【0069】
Ba化合物、Ca化合物及びSi化合物の添加量が少なすぎると、比較的低温での緻密化が困難であり、しかも温度特性に悪影響を与えることがある。
【0070】
前記チタン酸バリウム原料100モルに対する添加物成分原料の混合量(比率)は、次の通りである。
【0071】
Mg化合物をMgOに、Mn化合物をMnOに、Cr化合物をCrに、V化合物をVに、W化合物をWOに、Ta化合物をTaに、Nb化合物をNbに、Rの化合物をRに換算したとき、
好ましくは、
Mg化合物:2モル以下(但し、0モルを除く)、
Mn化合物+Cr化合物:0.5モル以下(但し、0モルを除く)、
V化合物+W化合物+Ta化合物+Nb化合物:0.5モル以下(但し、0モルを除く)、
Rの化合物:5モル以下(但し、0モルを除く)であり、
より好ましくは、
Mg化合物:0.5〜2モル、
Mn化合物+Cr化合物:0.25モル以下(但し、0モルを除く)、
V化合物+W化合物+Ta化合物+Nb化合物:0.01〜0.1モル、
Rの化合物:1〜3.5モルである。
【0072】
Mg化合物の添加量が少なすぎると異常粒成長が生じる傾向にあり、多すぎると比誘電率が低下する傾向にある。Mn化合物及びCr化合物の合計添加量が多すぎると比誘電率が低下する傾向にある。V化合物、W化合物、Ta化合物及びNb化合物の合計添加量が多すぎると、IRが著しく低下する傾向にある。Rの化合物の添加量が多すぎると焼結性が悪化する傾向にある。
【0073】
その後、この混合粉末を、必要に応じて、ボールミルなどで、純水などの分散媒とともに混合し、乾燥することによって、誘電体原料を得ることができる。
【0074】
なお、上記成分で構成される誘電体原料は、上記した酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0075】
なお、誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。
【0076】
塗料化する前の状態で、誘電体原料の平均粒径は、好ましくは0.25μm以下、より好ましくは0.02〜0.25μm程度とされる。
【0077】
有機ビヒクルは、バインダおよび溶剤を含有するものである。バインダとしては、例えばエチルセルロース、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂などの通常の各種バインダを用いることができる。溶剤も、特に限定されるものではなく、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン、キシレン、エタノールなどの有機溶剤が用いられる。
【0078】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と、水中に水溶性バインダを溶解させたビヒクルを混練して、形成することもできる。水溶性バインダは、特に限定されるものではなく、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、水溶性アクリル樹脂、エマルジョンなどが用いられる。
【0079】
内部電極層用ペーストは、上述した各種導電性金属や合金からなる導電材料あるいは焼成後に上述した導電材料となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上述した有機ビヒクルとを混練して調製される。
【0080】
外部電極用ペーストも、この内部電極層用ペーストと同様にして調製される。
【0081】
各ペーストの有機ビヒクルの含有量は、特に限定されず、通常の含有量、例えば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されても良い。
【0082】
(2)次に、上記誘電体原料を含有する誘電体層用ペーストと、内部電極層用ペーストとを用いて、焼成前誘電体層と焼成前内部電極層とが積層されたグリーンチップを作製し、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を経て形成された、焼結体で構成されるコンデンサ素子本体10に、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成して、積層セラミックコンデンサ1が製造される。
【0083】
本実施形態では、不可避的不純物としてのSiOの存在量が適正に制御されたチタン酸バリウム原料を含む誘電体原料を用いて、誘電体磁器組成物で構成される誘電体層2を形成する。その結果、焼成後の誘電体粒子(グレイン)2aの微細化が可能となり、ひいては誘電体層2の薄層化に寄与できる。しかも誘電体層2を薄層化した場合においても、良好な電気特性(例えば高い誘電率、CR積、IR寿命など)や、X5R特性を満足する良好な温度特性を有する積層セラミックコンデンサ1を得ることができる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0085】
例えば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記組成の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0087】
実施例1
誘電体原料の作製
まず、チタン酸バリウム原料、ガラス成分原料及び添加物成分原料を用意した。
【0088】
チタン酸バリウム原料としては、比表面積(SSA)が10〜15m/g付近にあるが、不可避的不純物としてのSiOの存在量が表1に示すように異なる、複数の(BaO)m’・TiO(但し、m’=1.003または1.008)を用いた。なお、SiOの存在量は、ICP発光分光分析法により求めた値である。本実施例で用いたチタン酸バリウム原料中には、SiO以外にも、表1に示すように、SrO、ZrOが存在していることが、前記ICP発光分光分析法により確認できた。なお、表中の「ND」は検出できなかったことを示す。SSAは、窒素吸着法により測定した値であり、m’はガラスビード法により求めた。
【0089】
ガラス成分原料としては、BaCO,CaCO及びSiOを所定割合でボールミルにより16時間湿式混合し、乾燥後、1150℃で空気中で焼成し、さらに、ボールミルにより100時間湿式粉砕することにより得られた複合酸化物としての(Ba0.6 Ca0.4 )SiO(以下、BCGともいう)を用いた。
【0090】
添加物成分原料としては、平均粒径が0.01〜0.1μmの、MgO、MnO、Y及びVを用いた。
【0091】
次に、100モルのチタン酸バリウム原料に対して、ガラス成分原料としてのBCGと、添加物成分原料としてのMgO、MnO、Y、Vを添加し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合(水粉砕)した。その後130℃で熱風乾燥させて誘電体原料を得た。
【0092】
誘電体原料は、100モルのチタン酸バリウム原料に対して、BCG:3モル、MgO:0.5モル、MnO:0.2モル、Y:2モル、V:0.03モルが含有してあった。
【0093】
次に、得られた誘電体原料にポリビニルブチラール樹脂およびエタノール系の有機溶媒を添加し、再度ボールミルで混合し、ペースト化して誘電体層用ペーストを得た。
【0094】
次に、Ni粒子44.6重量部と、テルピネオール52重量部と、エチルセルロース3重量部と、ベンゾトリアゾール0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極用ペーストを得た。
【0095】
焼結体の作製
得られた誘電体層用ペーストを用いてドクターブレード法により、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。この上に内部電極用ペーストをスクリーン印刷法により印刷した。その後、ふたとなるグリーンシートをPETフィルムから剥離し、厚さが約300μmとなるように複数枚積層し、その上に内部電極用ペーストを印刷したシートをPETフィルムから剥離しつつ所望の枚数(この場合は5枚)積層し、更に再びふたとなるグリーンシートを積層し、圧着して、グリーンチップを得た。なお、このとき、グリーン状態の誘電体層の厚みは、3μmとした。
【0096】
次に、グリーンチップを所定サイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、チップ焼結体を得た。脱バインダ処理条件は、昇温速度:32.5℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200℃前後(1180〜1240℃)、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガスとした。アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1050℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガスとした。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、水温を20℃としたウェッターを用いた。
【0097】
得られた焼結体のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4であった。
【0098】
焼結体(誘電体磁器組成物)中の誘電体粒子の平均粒径
得られた焼結体を研磨し、エッチングを施した後、走査型電子顕微鏡(SEM)にて研磨面の観察を行い、コード法によって、誘電体粒子2aの形状を球と仮定して、該誘電体粒子の平均粒径を測定した。平均粒径は、測定点数250点の平均値とした。評価基準は、グレインサイズG.S.が0.25μm以下である場合を良好とした。結果を表1に示す。
【0099】
誘電体層の厚み
得られた焼結体を内部電極に垂直な面で切断し、その切断面を研磨し、その研磨面の複数箇所を金属顕微鏡で観察した。次に、金属顕微鏡で観察した画像についてデジタル処理を行うことにより焼結後の誘電体層の平均厚みを求めた。各試料の誘電体層の平均厚みは2.5μmであった。
【0100】
コンデンサ試料の作製及び特性評価
得られたチップ焼結体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。
【0101】
得られた各コンデンサ試料について、誘電体粒子1μmあたりの比誘電率ε、静電容量の温度特性(TC)、CR積及び高温負荷寿命(IR寿命)を評価した。
【0102】
誘電体粒子1μmあたりの比誘電率ε(ε/G.S.)については、まず、得られたコンデンサ試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータ(横河電機(株)製 YHP4284)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1Vrms/μmの条件下で、静電容量Cを測定した。そして、得られた静電容量から、比誘電率ε(単位なし)を算出した。次に、得られた比誘電率εを、上記方法によって測定した誘電体粒子の平均粒径で除し、誘電体粒子1μmあたりの比誘電率εを求めた。誘電体粒子1μmあたりの比誘電率は大きいほど好ましい。本実施例での評価基準は、誘電体粒子1μmあたりの比誘電率が10000以上である場合を良好とした。
【0103】
静電容量の温度特性(TC)については、EIAJ規格のX5R特性について評価した。つまり、コンデンサ試料に対し、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件下で、静電容量を測定し、基準温度を25℃としたとき、−55〜85℃の温度範囲内で、温度に対する静電容量変化率(ΔC/C)がX5R特性を満足する(±15%以内)かどうかを調べ、満足する場合を○、満足しない場合を×とした。
【0104】
CR積については、上記測定の静電容量C(μF)と、絶縁抵抗IR(MΩ)との積で表した。絶縁抵抗IRは、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて、25℃においてDC4V/μmを、得られた各コンデンサ試料に60秒間印加した後に測定した値である。本実施例での評価基準は、CR積が5000Ω・F以上である場合を良好とした。
【0105】
高温負荷寿命(IR寿命)については、コンデンサ試料に対し、180℃で16V/μmの直流電圧の印加状態に保持することにより、高温負荷寿命を測定した。この高温負荷寿命は、誘電体層を薄層化する際に特に重要となるものである。本実施例では印加開始から抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命と定義し、これを10個のコンデンサ試料に対して行い、その平均寿命時間を算出した。本実施例での評価基準は、IR寿命が5時間以上である場合を良好とした。
【0106】
これらの結果を表1に示す。
【表1】

【0107】
表1に示すように、不可避的不純物としてのSiO存在量が多すぎるチタン酸バリウム原料を用いたケース(試料1,3)では、X5R特性は満足するが、微細な焼結体が得られず(0.25μm超)、しかも電気特性に悪影響を与えていることが確認できる。
【0108】
これに対し、SiO存在量が適正値以下に制御されたチタン酸バリウム原料を用いたケース(試料1−1,2,2−1,4,5)では、、X5R特性を満足するとともに、微細な焼結体が得られている(0.25μm以下)。これに伴い、さらに測定した誘電率を焼結体粒径で除すことにより求められる焼結体1μmあたりの誘電率(ε/G.S.)についても高い値が得られた。さらに微細な焼結体が得られたことにより、CR積及びIR寿命についても優れていることが確認できる。
【0109】
つまり、SiO存在量が少ないチタン酸バリウム原料であればあるほど、それを用いた場合に微細な焼結体が得られ、特に内在するSiO存在量が60ppm以下である場合に焼結体粒径0.25μm以下と、微細化に関して顕著な効果が得られた。
【0110】
なお、表1に示すように、SiOと同様に不純物として多く存在していた、SrOやZrOについては、上記電気特性との間に明確な相関は見受けられなかった。
【0111】
チタン酸バリウム原料中のSiO存在量と、焼結体粒径との間に相関関係が見られた原因として、検出された不純物としてのSiOはチタン酸バリウム原料中に固溶した状態で存在すると考えられ、そのSiOが基点となって粒成長がおこっていると考えられる。また添加物としてSiOを添加しているが(ガラス成分中に)、これは焼成後のチタン酸バリウム(グレイン)に固溶しているわけではなく、粒成長には寄与しないものと考えられる。
【0112】
実施例2
チタン酸バリウム原料として、不可避的不純物としてのSiOの存在量が60ppm以下であるが、SSAが表2に示すように異なる、複数の(BaO)m’・TiO(但し、m’=1.003)を用いた以外は、実施例1と同様にし、その後も同様に試料を作製して評価した。結果を表2に示す。
【表2】

【0113】
表2に示すように、チタン酸バリウム原料のSiOの存在量が60ppm以下に制御され、かつSSAが適正範囲にあるチタン酸バリウム原料を用いた場合、X5R特性を満足するとともに、より一層微細な焼結体が得られることが確認できた(0.23μm以下)。これに伴い、焼結体1μmあたりの誘電率(ε/G.S.)についてもより高い値が得られた。さらにより微細な焼結体が得られたことにより、CR積及びIR寿命についても優れていることが確認できる。
【0114】
実施例3
チタン酸バリウム原料として、比表面積(SSA)が10〜15m/g付近にあり、不可避的不純物としてのSiOの存在量が60ppm以下であるが、A/B値としてのモル比m’がm’=1.000〜1.009の、複数の(BaO)m’・TiOを用いた以外は、実施例1と同様にし、その後も同様に試料を作製して評価した。
【0115】
その結果、チタン酸バリウム原料のSiOの存在量が60ppm以下に制御されており、SSAが適正範囲にあり、かつモル比m’が適正範囲にあるチタン酸バリウム原料を用いた場合、X5R特性を満足するとともに、より一層微細な焼結体が得られることが確認できた(0.23μm以下)。これに伴い、焼結体1μmあたりの誘電率(ε/G.S.)についてもより高い値が得られた。さらにより微細な焼結体が得られたことにより、CR積及びIR寿命についても優れていることが確認できた。
【0116】
実施例4
100モルのチタン酸バリウム原料に対するMgOの添加量を1モル、1.5モル、2モル、2.5モル、3モルと変化させた以外は、実施例1(MgO量0.5モル)と同様にし、その後も同様に試料を作製し、それぞれの試料を評価した。その結果、Mg量が多くなるにつれて、焼結体粒径が減少していくが、温度特性(特に高温側の容量変化率)が悪化していく傾向にあることが確認できた。ちなみに、MgO:3モルのケースでは、X5R特性を満足しなくなることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0118】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
2a… 誘電体粒子(グレイン)
2b… 粒界相
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムと、ガラス成分と、添加物成分とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
ICP法により測定した不純物としてのSiOの存在量が60ppm以下に制御されたチタン酸バリウム原料を用いて、前記誘電体磁器組成物を製造することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項2】
前記チタン酸バリウム原料は、窒素吸着法により測定した比表面積(SSA)が10〜50m/gである請求項1に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項3】
前記添加物成分原料が、少なくともMg化合物を含有し、
該Mg化合物をMgOに換算したときの前記チタン酸バリウム原料100モルに対する比率が、Mg化合物:2モル以下(但し、0モルを除く)である請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項4】
前記添加物成分原料が、さらに、
Mn化合物及びCr化合物の一方又は双方と、
V化合物、W化合物、Ta化合物及びNb化合物から選ばれる1種または2種以上と、
R(但し、Rは、Sc、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Dy、Ho、Tb、Gd及びEuから選ばれる1種又は2種以上)の化合物とを含有し、
Mn化合物をMnOに、Cr化合物をCrに、V化合物をVに、W化合物をWOに、Ta化合物をTaに、Nb化合物をNbに、Rの化合物をRに換算したときの前記チタン酸バリウム原料100モルに対する比率が、
Mn化合物+Cr化合物:0.5モル以下(但し、0モルを除く)、
V化合物+W化合物+Ta化合物+Nb化合物:0.5モル以下(但し、0モルを除く)、
Rの化合物:5モル以下(但し、0モルを除く)である請求項3に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス成分原料が、Ba化合物、Ca化合物及びSi化合物を含有し、
Ba化合物をBaOに、Ca化合物をCaOに、Si化合物をSiOに換算したときの前記チタン酸バリウム原料100モルに対する比率が、
Ba化合物+Ca化合物:0.5〜12モル、
Si化合物:0.5〜12モルである請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス成分原料が、(Ba1−x Ca)SiO(但し、x=0.3〜0.7)である請求項5に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの方法で製造された誘電体磁器組成物。
【請求項8】
誘電体層を有する電子部品であって、前記誘電体層が、請求項7に記載の誘電体磁器組成物で構成されている電子部品。
【請求項9】
誘電体層と、内部電極層とが交互に積層してあるコンデンサ素子本体を有する積層セラミックコンデンサであって、前記誘電体層が、請求項7に記載の誘電体磁器組成物で構成されている積層セラミックコンデンサ。
【請求項10】
前記内部電極層は、ニッケルまたはニッケル合金を主成分とする請求項9に記載の積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−117459(P2006−117459A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305810(P2004−305810)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】