説明

読み出し専用の光情報記録媒体および該光情報記録媒体の反射膜形成用スパッタリングターゲット

【課題】製造時に必要とされる光透過性を確保しつつ、十分高い反射率を有し、かつ、光情報記録媒体に用いた場合に再生安定性に優れると共に耐久性にも優れる反射膜を備えた、青色レーザーを使用する読み出し専用の光情報記録媒体(例えば2層BD−ROM)を提供する。
【解決手段】基板上に反射膜および光透過層の積層が複数形成された構造を含み、青色レーザーにより情報の再生が行われる読み出し専用の光情報記録媒体であって、前記反射膜のうち基板に最も近い反射膜が、Tiを0.5〜3.0%(特記しない限り、成分において、%は原子%を意味する。以下同じ。)含有するAl基合金からなり、且つその膜厚が10nm以上30nm以下であることを特徴とする読み出し専用の光情報記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色レーザーを使用して再生を行う読み出し専用型のBD(ブルーレイディスク)等の光情報記録媒体、および該光情報記録媒体の反射膜形成用スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光情報記録媒体(光ディスク)は、記録再生原理に基づき、読み出し専用型、追記型、書き換え型の3種類に大別される。
【0003】
図1に、読み出し専用の光情報記録媒体(1層光ディスク)の代表的な構成を模式的に示す。図1に示すように、読み出し専用の光情報記録媒体は、透明プラスチックなどの基板1の上に、Ag、Al、Auなどを主成分とする反射膜2と、光透過層3とが順次積層された構造を有している。基板1には、ランド・ピットと呼ばれる凹凸の組み合わせによる情報が記録されており、例えば、厚さ1.1mm、直径12cmのポリカーボネート製基板が用いられる。光透過層3は、例えば光透過性樹脂の塗布・硬化によって形成される。記録データの再生は、光ディスクに照射されたレーザー光の位相差や反射差を検出することによって行われる。
【0004】
図1には、ランド・ピット(記録データ)の組み合わせによる情報が記録された基板1上に、反射膜2および光透過層3がそれぞれ1層ずつ形成された1層光ディスクを示しているが、例えば図2に示すように、第1の情報記録面11および第2の情報記録面12を備えた2層光ディスクも用いられる。詳細には、図2の2層光ディスクは、凹凸のランド・ピット(記録データ)の組み合わせによる情報が記録された基板1上に、第1の反射膜2A、第1の光透過層3A、第2の反射膜2B、および第2の光透過層3Bが順次積層された構成を有しており、第1の光透過層3Aには、基板1とは別の情報がランド・ピットの組み合わせによって記録されている。
【0005】
光ディスクに用いられる前記反射膜としては、これまで、Au、Cu、Ag、Al及びこれらを主成分とする合金が汎用されてきた。
【0006】
このうち、Auを主成分とする反射膜は、化学的安定性に優れ、記録特性の経時変化が少ないという利点を有するが、極めて高価であり、また、例えばBDの記録再生に使用される青色レーザー(波長405nm)に対し、十分高い反射率が得られないという問題がある。また、Cuを主成分とする反射膜は安価であるが、従来の反射膜材料のなかで最も化学的安定性に劣っているほか、Auと同様、青色レーザーに対する反射率が低いという欠点があり、用途が制限されている。これに対し、Agを主成分とする反射膜では、実用波長領域である400〜800nmの範囲で充分高い反射率を示しており、高い化学的安定性を持つことから、現在、青色レーザーを使用する光ディスクにおいて広く利用されている。
【0007】
Alは波長405nmにおいて十分高い反射率を示し、Ag、Auに比べ価格が安価であるものの、Ag系やAu系の反射膜より化学的安定性に劣っている。よって、耐久性を確保すべく、反射膜の厚みを十分厚くする必要があり、例えばDVD−ROMでは、Al系反射膜の膜厚を40nm程度と十分厚くすることで耐久性を確保している。
【0008】
しかし、例えば2層BD−ROMの製造工程では、前記図2の基板1に最も近い反射膜である反射膜2A(以下、この様に基板に最も近い反射膜を、特に「第1反射膜」ということがある)が形成された後、その上に光透過層3Aを形成する際、光硬化樹脂を均一に塗布後、基板1側から光を、反射膜2Aを介して前記塗布した光硬化樹脂に照射することで、該樹脂を硬化させて上記光透過層3Aを形成する場合がある。この場合、前記第1反射膜は、ある程度の光透過性を示す必要があり、そのためには、第1反射膜の膜厚を例えば30nm以下と薄くする必要がある。しかしながら、Al系反射膜の膜厚をこの様に薄くすると、作製直後は良好な特性が得られるものの、反射膜の経時変化により、ジッター(再生信号の時間軸上のゆらぎ)が大きくなったり、反射率が低下するといった問題がある。
【0009】
光ディスクの反射膜にAl系合金を用いた技術として、例えば特許文献1には、希土類元素を0.05〜3原子%含むAl合金からなる反射膜が開示されており、希土類元素として、Y、Nd、Gdが挙げられている。
【0010】
特許文献2には、光記録媒体用反射膜として、Mgを0.1〜15質量%含有し、さらに必要に応じて希土類元素の内の1種または2種以上を合計で0.1〜10質量%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、該不可避不純物が100ppm以下であるAl合金からなるものが示されている。また特許文献3には、温度や湿度が急激に変化する条件下でも良好な耐久性を有する再生専用型光ディスクとして、4%Taを含有するAl反射膜(厚さ100nm)を備えた光ディスクが実施例の欄に開示されている。
【0011】
しかし、特許文献1の実施例に示された反射膜は膜厚が40nmであり、また特許文献2に開示された反射膜も膜厚が100nmであり、いずれも厚いものとなっている。更に、特許文献3において、実施例で成膜した反射膜の膜厚は100nmであることから、いずれにおいても、上述した様な製造工程での光透過性が要求される第1反射膜を想定したものではない。
【0012】
また特許文献4では、半透明反射層として、所定の透過率と反射率を有すると共に、耐食性及び耐凝集性といった化学的安定性にも良好なものを得るべく、Al基合金の組成について検討されている。しかし、この特許文献4は、上記の通り半透明反射層を対象とするものであって、十分な反射率を必要とする第1反射膜に関するものではない。
【特許文献1】米国特許第5,643,650号公報
【特許文献2】特開2007−66417号公報
【特許文献3】特公平7−62919号公報
【特許文献4】特開2003−173576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、製造時に必要とされる光透過性を確保しつつ、十分高い反射率を有し、かつ、光情報記録媒体に用いた場合に再生安定性に優れると共に耐久性にも優れる反射膜(第1反射膜)を備えた、青色レーザーを使用する読み出し専用の光情報記録媒体(例えばBD−ROM)を提供すること、およびその反射膜形成用スパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る読み出し専用の光情報記録媒体とは、基板上に反射膜および光透過層の積層が複数形成された構造を含み、青色レーザーにより情報の再生が行われる読み出し専用の光情報記録媒体であって、前記反射膜のうち前記基板に最も近い反射膜(第1反射膜)が、(a)Tiを0.5〜3.0%(特記しない限り、成分において、%は原子%を意味する。以下同じ。)含有するAl基合金からなり、且つその膜厚が10nm以上30nm以下であるところに特徴を有する。
【0015】
前記第1反射膜としては、上記(a)Tiを0.5〜3.0%含有すると共に、更に(b)Ge、LaおよびAgよりなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.1〜1.5%含むAl基合金からなるものが好ましい。
【0016】
本発明には、前記第1反射膜形成用のスパッタリングターゲット、即ち、基板上に反射膜および光透過層の積層が複数形成された構造を含み、青色レーザーにより情報の再生が行われる読み出し専用の光情報記録媒体における、前記基板に最も近い反射膜形成用のスパッタリングターゲットであって、Tiを0.5〜3.0%含有するAl基合金からなる点に特徴を有するスパッタリングターゲットも含まれる。
【0017】
前記スパッタリングターゲットは、必要に応じて、更に、Ge、LaおよびAgよりなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.1〜1.5%含むAl基合金からなるものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、読み出し専用の光情報記録媒体の製造工程において、光透過層形成時の樹脂硬化を良好に行えると共に、該光情報記録媒体として、高反射率および低ジッターを示し、信号の書込み・読み取り特性(再生安定性)に非常に優れたものが得られる。また、本発明の好ましい態様によれば、加速環境試験後も高反射率かつ低ジッターを示すため、耐久性に優れた読み出し専用の光情報記録媒体を提供することができる。更に、従来のAg合金を使用した光情報記録媒体と比較して製造コストの抑えられた読み出し専用の光情報記録媒体を提供することができる。
【0019】
本発明の光情報記録媒体は、特に、青色レーザーを用いて再生を行うBD−ROM(特には2層BD−ROM)などの光情報記録媒体(光ディスク)に好適に用いられる。
【0020】
尚、本明細書において、「再生安定性に優れる」とは、後述する実施例で示す通り、初期ジッターが9%以下であることを意味する。また「耐久性に優れる」とは、後述する実施例で示す通り、温度80℃、相対湿度約85%の環境下で192時間保持する加速環境試験を行ったときの、加速環境試験前後の反射率の低下量(試験後の反射率−試験前の反射率)が5.0%以下(絶対値)であり、かつ加速環境試験前後のジッターがいずれも9%以下であることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者は、前記情報記録面を複数層備えた光ディスクにおける、基板に最も近い位置の反射膜(第1反射膜)として、
・全反射膜としてある程度の反射率を示す;と共に、
・該第1反射膜上の光透過層形成の際、基板側から第1反射膜を介して光を照射したときに、光透過層の形成に用いられる樹脂の光硬化が十分行われる程度の光透過性を示す;
反射膜を得るべく、まず、その膜厚について検討した。
【0022】
その結果、第1反射膜の膜厚が薄すぎると、透過光が大きくなり、相対的に反射光が小さくなるため、ディスクの再生に必要な信号強度が得られなくなる。本発明では、後述する実施例で示す通り初期反射率70.0%以上を確保すべく、第1反射膜の膜厚を10nm以上とする。一方、膜厚が30nmを超えると、第1反射膜の光透過率が小さくなり、上記光透過層形成の際、基板側からの光(例えば紫外線)が該反射膜を十分透過せず、結果として、上記光透過層を構成する樹脂を十分に硬化することができない。また、光情報記録媒体の作製初期におけるジッターが大きくなるといった問題も生じる。よって本発明では、第1反射膜の膜厚の上限を30nmとする。好ましくは25nm以下、更に好ましくは20nm以下である。
【0023】
本発明者は、上記観点から、第1反射膜の膜厚を10〜30nmと決定した上で、この様に反射膜の膜厚が薄い場合には、上述した通り耐久性が劣化し易いことに鑑みて、特にその耐久性を高めるべく、該反射膜を構成するAl基合金の成分組成について鋭意研究を行った。まず、新規Al基合金を開発するに当たり、反射膜の膜厚と再生安定性および耐久性との相関について、純Al膜の挙動を調査した。
【0024】
具体的には、純Alスパッタリングターゲットを用い、厚さの異なる純Al膜を成膜して、各純Al膜の初期反射率を測定すると共に、加速環境試験を行った後の反射率を測定し、純Al膜の経時変化による反射率・透過率の変化(耐久性)を調べた。また、純Alスパッタリングターゲットを用い、ランド・ピットが形成されたポリカーボネート基板上にスパッタリング法によって厚さの異なる純Al膜を成膜した後、紫外線硬化樹脂の光透過層を成膜した1層BD−ROMディスクを作製した。次いで、ディスク作製後のジッターを測定すると共に、加速環境試験を行った後のジッターを測定し、ジッターの観点から耐久性を評価した。
【0025】
その結果、BD−ROMの反射膜として純Al膜を形成した場合、該反射膜の膜厚を15nm以上とすると、ジッターが増大することが判明した。一方、反射膜の厚さが約15nm以下では、低ジッターが得られる反面、反射率が低下した。また、耐久性試験(温度80℃、相対湿度約85%の高温高湿環境下に保持する加速環境試験)後には、ジッターが増大すると共に反射率が大きく低下することが判明した。
【0026】
本発明者は、上記結果をふまえ、反射膜の厚さを上記の通り薄くしても、再生安定性および耐久性に優れる反射膜を実現すべく、該反射膜の成分組成について鋭意検討を行った結果、AlにTiを添加すれば、純Al膜が示す高い初期反射率を維持できると共に、経時変化によるジッターの増大と反射率の低下を抑制できる(特に、ジッターの増大を抑制できる)ことを見出した。
【0027】
この様にTiを添加することでジッターの増大を十分に抑制できた理由について明らかではないが、純AlにTiを添加することで、Al系薄膜の結晶組織の微細化に寄与し、光情報記録媒体の作製初期におけるジッター値を良好に保ち、かつAl原子の相互拡散が抑制され、Alの粒成長に伴う表面粗度の増大が抑制されて、ジッター値の経時変化が抑制されているものと考えられる。
【0028】
この様な効果を十分に発揮させるには、Tiを0.5%以上含有させる必要がある。これよりも少ないと、ジッター値の増大抑制の効果が不十分であり、経時変化によりジッターが増大するため好ましくない。Ti量は好ましくは1.0%以上である。
【0029】
一方、Ti量が3.0%を超えると、膜の吸収率が増加して、光透過層の光硬化のための十分な透過率が得られなくなる。よって、Ti量の上限を3.0%とした。好ましい上限は2.5%である。
【0030】
本発明の第1反射膜として、更に、Ge、LaおよびAgから選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜1.5%含むAl基合金からなるものとすれば、経時変化による反射率の低下をより抑制でき、結果として、光ディスクの耐久性をより高めることができる。
【0031】
上記元素(Ge、La、Ag)が、上記作用効果を発揮する機構について定かではないが、これらの元素が酸化/または表面に濃化することにより、酸素のAl中への侵入を抑制し、Alの酸化を抑制しているものと考えられる。この様な効果を十分発揮させるには、上記元素を合計で0.1%以上含有させることが好ましい。より好ましくは合計で0.2%以上である。一方、上記元素量が合計で1.5%を超えると、反射率がかえって低下し易くなるため好ましくない。これは、添加元素の酸化による透過率の上昇やAlとの化合物の形成による反射膜の吸収率の増加が生じるためと思われる。より好ましくは合計で1.0%以下である。
【0032】
本発明の読み出し専用の光情報記録媒体の製造方法は、特に問わないが、例えば2層BD−ROMの製造工程において、本発明の第1反射膜として、例えば前記図2の反射膜2Aを形成後、その上に積層される光透過層3Aを形成する際、光硬化樹脂を均一に塗布後、基板1側から光(例えば紫外線)を、前記第1反射膜を介して前記光硬化樹脂に照射することによって上記光透過層を形成する工程を含む方法によれば、本発明の効果が存分に発揮されるので好ましい。
【0033】
本発明の読み出し専用の光情報記録媒体は、前記図2の様に複数の情報記録面を有する光ディスクにおける複数の反射膜のうち、基板に最も近い反射膜に、上記Al基合金を用いたところに特徴がある。よって、複数の情報記録面を有する光ディスクにおける複数の反射膜のうち、第1反射膜以外の反射膜については、その成分等について特に問わず、必要とされる特性を満たすものであればよい。また、光ディスクにおけるその他の構成部分(光透過層、基板などの種類)についても特に限定されず、通常、用いられるものを採用することができる。
【0034】
例えば基板としては、光ディスク用基板に汎用される樹脂、具体的には、例えばポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂などを用いることができる。価格や機械的特性などを考慮すると、ポリカーボネートの使用が好ましい。
【0035】
基板の厚さは、おおむね、0.5〜1.2mmの範囲内であることが好ましい。また、基板上に形成されるピットの深さは、おおむね、50〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0036】
光透過層の種類も限定されず、例えば、紫外線硬化樹脂、ポリカーボネート樹脂等を用いることができる。光透過層の厚さは、1層光ディスクでは約100μm程度であることが好ましく、2層光ディスクでは、第1の光透過層の厚さは約25μm程度、第2の光透過層の厚さは約75μmであることが好ましい。
【0037】
本発明の第1反射膜は、例えば、スパッタリング法、蒸着法などによって成膜することができるが、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法によれば、上記の合金元素がAlマトリックス中に均一に分散するので均質な膜が得られ、安定した光学特性や耐久性が得られるからである。
【0038】
スパッタリング時における成膜条件は特に限定されないが、例えば、以下のような条件を採用することが好ましい。
・基板温度:室温〜50℃
・到達真空度:1×10−5Torr以下(1×10−3Pa以下)
・成膜時のガス圧:1〜4mTorr
・DCスパッタリングパワー密度(ターゲットの単位面積当たりのDCスパッタリングパワー):1.0〜20W/cm
【0039】
スパッタリング法に使用するスパッタリングターゲットは、溶解・鋳造法、粉末焼結法、スプレーフォーミング法などのいずれの方法によっても製造することができるが、特に、真空溶解・鋳造法、またはスプレーフォーミング法を用いて製造することが好ましい。真空溶解・鋳造法によって製造されたAl基合金スパッタリングターゲットは、窒素や酸素などの不純物成分の含有量が少なく、該スパッタリングターゲットを成膜に用いると、スパッタリング速度の安定性を確保でき、また該スパッタリングターゲットを用いて成膜された薄膜は、組成の均一性に優れている。また、スプレーフォーミング法で製造されたスパッタリングターゲットも組成の均一性が高く、該スパッタリングターゲットを成膜に用いると、厚みや組成の均一性に優れた薄膜を形成することができる。
【0040】
前記第1反射膜の形成に用いるスパッタリングターゲットとして、前記(a)の成分組成を満たす反射膜を成膜する場合には、Tiを0.5〜3.0%含むAl基合金からなるもの;更に前記(b)の通り第3元素を含む場合には、前記Tiを0.5〜3.0%含むと共に、Ge、LaおよびAgよりなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.1〜1.5%含むAl基合金からなるもの;であって、反射膜の合金組成と基本的に同一であるものを用いるのがよい。このようなスパッタリングターゲットを用いることで、所望の成分組成の第1反射膜を容易に成膜することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは本発明の技術的範囲に包含される。即ち、下記の実施例では、反射膜と光透過層を1層ずつのみ形成したサンプルを作製しているが、これは、2層光ディスクにおける第1反射膜の特性を評価するため形成したものである。
【0042】
(1)初期反射率および加速環境試験前後の反射率の変化について
鏡面をもつポリカーボネート基板上に、DCマグネトロンスパッタリング法により膜厚約18nmの純Al反射膜またはAl基合金反射膜を形成し、反射率測定用のサンプルを作製した。スパッタリング装置には、複数のターゲットの同時放電が可能な多元スパッタリング装置((株)アルバック製 CS−200)を用いた。ターゲットとしては、純Al、Al−Ti合金、Al−Ti−Ge合金、または純Alターゲット上に各種合金添加用の純金属を配置した複合ターゲットを用いた。
【0043】
スパッタリング条件は、Arガス流量:20sccm、Arガス圧:約0.1Pa、成膜パワー:2〜5W/cm、到達真空度:2.0×10−6Torr以下とした。成膜したAl基合金膜の成分組成(表1)は、ICP発光分光法とICP質量分析法によって求めた。
【0044】
上記作製したサンプルを用いて、分光光度計(日本分光(株)製 V−570)により波長405nmにおける初期の反射率を測定した。その後、温度80℃、相対湿度85%の大気雰囲気中で192時間保持する恒温恒湿試験(加速環境試験)を行って試験後の反射率を測定した。そして、反射率の低下量[(試験後の反射率)−(試験前の反射率)]を求めた。上記反射率の低下量が5.0%以下(絶対値)であり、かつ、初期反射率(試験前の反射率)が70.0%以上であり、かつ、試験後の反射率が68.0%以上であるものを合格とした。
【0045】
(2)加速環境試験前後のジッター値について
まず、ランド・ピットを有する厚さ1.1mmのポリカーボネートBD−ROM基板上に、純Alターゲット、純Alターゲット上に各種合金添加用の純金属を配置した複合ターゲット、またはAl合金ターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により、厚さ18nmの表1に示す各成分組成の純Al反射膜とAl基合金反射膜を形成した。尚、成膜用の装置や成膜条件は、上記(1)と同様とした。
【0046】
次いで、上記の様にして得られた反射膜の上に、スピンコート法により厚さ100μmとなるよう紫外線硬化樹脂を塗布し、基板側から紫外線を照射して樹脂の硬化を行い、光透過層を形成した。このようにして各種組成の反射膜をもつ1層BD−ROMを作製した。
【0047】
そして、パルステック社製ODU−1000および横河電機社製TA−810を用い、以下の条件でジッターを測定した。
再生レーザーパワー:0.35mW
ディスク回転速度:4.92m/s
【0048】
次いで、上記(1)と同様にして加速環境試験を行い、試験後のジッターを求めた。そして、試験前のジッターと試験後のジッターが共に9%以下である場合を「耐久性に優れる」(長期間に亘って再生安定性に優れる)と評価した。
【0049】
尚、表1におけるNo.19〜21については、初期反射率、前記試験後の反射率、および前記反射率の低下量の全てが上記評価基準を満たしていないため、該ジッター値の測定は行わなかった。
これらの結果を表1に併記する。
【0050】
【表1】

【0051】
表1より次の様に考察できる。即ち、本発明で規定する成分を規定量含むAl基合金からなる反射膜は、初期反射率が高く、かつ加速環境試験後も反射率がほとんど低下しておらず耐久性に優れている。また、初期ジッターが低く再生安定性に優れており、かつ加速環境試験後のジッターも小さく耐久性に優れており、長期間に亘って優れた再生安定性を発揮することがわかる。
【0052】
これに対し、純Al膜や、本発明で規定する成分を含まないAl基合金膜、本発明で規定する成分を含むがその含有量が規定範囲を外れているものは、高反射率を得られないか、加速環境試験により反射率が低下したり、加速環境試験後のジッターが大きくなるなど、耐久性の劣化が生じる結果となった。
【0053】
具体的にNo.1は、反射膜が純Al膜からなるため耐久性に劣っており、加速環境試験後は反射率が著しく低下し、かつジッターが増大する結果となった。
【0054】
No.16は、第3元素としてGeを含むものであるが、その含有量が過剰であるため、初期反射率が低めとなった。No.17は、第3元素としてLaを含むものであるが、その含有量が過剰であるため、加速環境試験後の反射率が低めとなった。またNo.18は、本発明で規定する成分でないNdやTaを含むものであるため、反射率の低下量が著しい結果となった。No.19〜21は、本発明で規定する成分を含んでいない(即ち、少なくとも合金元素としてTiを0.5〜3.0%含んでいない)ため、初期反射率が低く、かつ反射率の低下量も大きくなる結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、読み出し専用の光情報記録媒体(1層光ディスク)の円周方向の要部を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、他の読み出し専用の光情報記録媒体(2層光ディスク)の円周方向の要部を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 基板
2 反射膜
3 光透過層
2A 第1の反射膜
2B 第2の反射膜
3A 第1の光透過層
3B 第2の光透過層
11 第1の情報記録面
12 第2の情報記録面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に反射膜および光透過層の積層が複数形成された構造を含み、青色レーザーにより情報の再生が行われる読み出し専用の光情報記録媒体であって、
前記反射膜のうち前記基板に最も近い反射膜が、Tiを0.5〜3.0%(特記しない限り、成分において、%は原子%を意味する。以下同じ。)含有するAl基合金からなり、且つその膜厚が10nm以上30nm以下であることを特徴とする読み出し専用の光情報記録媒体。
【請求項2】
前記Al基合金は、更に、Ge、LaおよびAgよりなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.1〜1.5%含むものである請求項1に記載の読み出し専用の光情報記録媒体。
【請求項3】
基板上に反射膜および光透過層の積層が複数形成された構造を含み、青色レーザーにより情報の再生が行われる読み出し専用の光情報記録媒体における、前記基板に最も近い反射膜形成用のスパッタリングターゲットであって、Tiを0.5〜3.0%含有するAl基合金からなることを特徴とする読み出し専用の光情報記録媒体の反射膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
更に、Ge、LaおよびAgよりなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.1〜1.5%含むAl基合金からなる請求項3に記載の読み出し専用の光情報記録媒体の反射膜形成用スパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−67320(P2010−67320A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233917(P2008−233917)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】