説明

赤外用多層膜、赤外反射防止膜及び赤外レーザ用反射ミラー

【課題】耐久性ないしは耐環境性に優れるとともに良好な光学特性を備えた赤外用多層膜を提供する。
【解決手段】赤外光学用基板2、12に形成される赤外用多層膜3、13。この赤外用多層膜3、13は、前記基板側から、屈折率の低い低屈折層4、14、この低屈折層4、14よりも屈折率の高い中間屈折層5、15、この中間屈折層5、15よりも屈折率の高い高屈折層6、16、中間屈折層7、17、低屈折層8、18、及び非酸化物材料からなる保護層9、19がこの順に積層された積層体からなっている。前記低屈折層4、14、8、18はフッ化物膜からなり、前記中間屈折層5、15、7、17はZnS膜又はZnSe膜からなり、且つ前記高屈折層6、16はGe膜からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外用多層膜、赤外反射防止膜及び赤外レーザ用反射ミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外光を利用した光学機器の開発が盛んに行われ、特に8〜14μm領域の赤外光の利用が注目されている。これに伴い、この領域の赤外光に有効な赤外線用光学部品が種々提案されている。かかる赤外線用光学部品は、透過部材又は反射部材からなる基板の表面にコーティング膜が形成されたものであるが、このコーティング膜は、多層構造(多層膜)であることから、層間の剥離や、この剥離に起因する耐久性ないしは耐環境性の低下という問題を有している。
【0003】
そこで、多層膜の耐久性ないしは耐環境性を向上させるために、当該多層膜の構成や膜材料について、従来、種々の工夫がなされている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0004】
特許文献1には、ZnSeからなる基板上に形成される赤外反射防止膜が開示されており、この赤外反射防止膜は、基板側から順に中間屈折率のZnS膜、低屈折率のYF3膜、中間屈折率のZnS膜及び低屈折率のYF3膜が積層されている。また、Al23、Y23、Ti23、TiO及びTiO2からなる群より選ばれる密着力強化層を設けること、最外層にY23からなる耐磨耗性強化層を設けることが記載されている。そして、特許文献1記載の構成によれば、膜全体の内部応力の不均衡を緩和し、膜剥離などを生じることのない、耐久性に優れた赤外反射防止膜が得られる、とされている。
【0005】
また、特許文献2には、8〜12μm帯の赤外線を透過する赤外光学用基板上に設けられる赤外域用反射防止膜が開示されており、この赤外域用反射防止膜は、基板側から順にZnS層、Ge層、CeF3層及びCeO2層が積層されている。そして、特許文献2記載の構成によれば、耐環境性、特に耐水性に優れた赤外域用反射防止膜が得られる、とされている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−149606号公報
【特許文献2】特開2006−72031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜2記載の反射防止膜によれば、一定の耐久性向上の効果が得られるものの、層間の密着力を強化するための層や耐磨耗性を強化するための最外層として、金属酸化物を用いているので、良好な光学特性を得るのが困難である。すなわち、Al23、CeO2などの金属酸化物は赤外域での吸収が大きいことから、この部分で赤外光が吸収されてしまい、照射した赤外光の透過率が低下してしまう。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐久性ないしは耐環境性に優れるとともに良好な光学特性を備えた赤外用多層膜、赤外反射防止膜及び赤外レーザ用反射ミラーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の赤外用多層膜は、赤外光学用基板に形成される赤外用多層膜であって、
この赤外用多層膜は、前記基板側から、屈折率の低い低屈折層、この低屈折層よりも屈折率の高い中間屈折層、この中間屈折層よりも屈折率の高い高屈折層、中間屈折層、低屈折層、及び非酸化物材料からなる保護層がこの順に積層された積層体からなっており、
前記低屈折層はフッ化物膜からなり、
前記中間屈折層はZnS膜又はZnSe膜からなり、且つ
前記高屈折層はGe膜からなることを特徴としている(請求項1)。
【0010】
本発明の赤外用多層膜では、Ge膜をZnS膜又はZnSe膜で挟持する構造を有しているので、膜の耐剥離性、ひいては耐湿・耐水性を向上させることができ、また最外層に保護層を設けているので膜の耐磨耗性を向上させることができる。この場合に、本発明の赤外用多層膜では、密着性を強化したり、耐磨耗性を強化したりするための膜材料として、赤外域での吸収の大きい酸化物材料を用いていないので、所望の光学特性を実現させることができる。
【0011】
前記赤外用多層膜において、基板から遠い方の低屈折層を構成するフッ化物膜の膜厚が、1200nm以下で所望の光学特性が得られるように設定されているが好ましい。この場合、所望の光学特性を確保しつつ、引っ張り応力が大きいフッ化物膜の膜厚を制限することで、引っ張り応力を緩和して、膜の剥離を抑制することができる。
【0012】
前記赤外用多層膜において、前記フッ化物膜が、YF3又はYbF3からなるのが好ましい。YF3又はYbF3は、透過率が大きいので膜全体としての透過率を高めることができる。
【0013】
また、本発明の赤外反射防止膜は、Ge、ZnSe、ZnS及びGaAsのいずれかからなる基板上に請求項1記載の赤外用多層膜が形成されてなることを特徴としている(請求項4)。
【0014】
本発明の赤外反射防止膜では、Ge膜をZnS膜又はZnSe膜で挟持する構造を有しているので、膜の耐剥離性、ひいては耐湿・耐水性を向上させることができ、また最外層に保護層を設けているので膜の耐磨耗性を向上させることができる。この場合に、本発明の赤外反射防止膜では、密着性を強化したり、耐磨耗性を強化したりするための膜材料として、赤外域での吸収の大きい酸化物材料を用いていないので、所望の光学特性を実現させることができる。
【0015】
前記赤外反射防止膜において、基板から遠い方の低屈折層を構成するフッ化物膜の膜厚が、1200nm以下で所望の光学特性が得られるように設定されているが好ましい。この場合、所望の光学特性を確保しつつ、引っ張り応力が大きいフッ化物膜の膜厚を制限することで、引っ張り応力を緩和して、膜の剥離を抑制することができる。
【0016】
前記赤外反射防止膜において、前記フッ化物膜が、YF3又はYbF3からなるのが好ましい。YF3又はYbF3は、透過率が大きいので膜全体としての透過率を高めることができる。
【0017】
さらに、本発明の赤外レーザ用反射ミラーは、表面にAuがコーティングされたSi又はCuからなる基板上に請求項1記載の赤外用多層膜が形成されてなることを特徴としている(請求項7)。
【0018】
本発明の赤外レーザ用反射ミラーでは、Ge膜をZnS膜又はZnSe膜で挟持する構造を有しているので、膜の耐剥離性、ひいては耐湿・耐水性を向上させることができ、また最外層に保護層を設けているので膜の耐磨耗性を向上させることができる。この場合に、本発明の赤外反射防止膜では、密着性を強化したり、耐磨耗性を強化したりするための膜材料として、赤外域での吸収の大きい酸化物材料を用いていないので、所望の光学特性を実現させることができる。
【0019】
前記赤外レーザ用反射ミラーにおいて、基板から遠い方の低屈折層を構成するフッ化物膜の膜厚が、1200nm以下で所望の光学特性が得られるように設定されているが好ましい。この場合、所望の光学特性を確保しつつ、引っ張り応力が大きいフッ化物膜の膜厚を制限することで、引っ張り応力を緩和して、膜の剥離を抑制することができる。
【0020】
前記赤外レーザ用反射ミラーにおいて、前記フッ化物膜が、YF3又はYbF3からなるのが好ましい。YF3又はYbF3は、透過率が大きいので膜全体としての透過率を高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の赤外用多層膜、赤外反射防止膜及び赤外レーザ用反射ミラーによれば、耐久性ないしは耐環境性を向上させることができるとともに、光学特性を良好なものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の赤外用多層膜、赤外反射防止膜及び赤外レーザ用反射ミラーの実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態に係る赤外反射防止膜1の断面説明図であり、この赤外反射防止膜1は、赤外光学用基板2に赤外用多層膜3が形成された構成を備えている。赤外光学用基板2としては、厚さ2〜10mm程度のGe、ZnSe、ZnS、又はGaAsからなる基板を用いることができるが、耐久性の点より、Geからなる基板を用いるのが好ましい。
【0024】
また、前記赤外用多層膜3は、前記赤外光学用基板2側から、屈折率の低い低屈折層4、この低屈折層4よりも屈折率の高い中間屈折層5、この中間屈折層5よりも屈折率の高い高屈折層6、中間屈折層7、低屈折層8、及び保護層9がこの順に積層された積層体からなっている。
【0025】
前記低屈折層4及び低屈折層8は、YF3膜、YbF3膜等のフッ化物膜からなり、前記中間屈折層5及び中間屈折層7はZnS膜又はZnSe膜からなり、また前記高屈折層6はGe膜からなっている。保護層9は、主に耐磨耗性を向上させるために赤外用多層膜3の最外層に設けられ、前記中間屈折層5及び中間屈折層7と同じZnS膜又はZnSe膜からなっている。赤外用多層膜3を構成する各膜の形成方法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の、従来公知の真空薄膜堆積技術を用いることができる。
【0026】
また、各膜の厚さは、所望の透過率を満たすように、例えば市販されている膜設計ソフトを用いて決定することができるが、赤外光学用基板2から遠い方の低屈折層8を構成するフッ化物膜については、所望の透過率(光学特性)を満たす範囲において1200nm以下とするのが好ましい。YF3膜、YbF3膜等のフッ化物膜は、取り扱いの容易な低屈折率材料であることから、所望の光学特性を得るのに好適な材料であるが、一方において、フッ化物膜は引っ張り応力が大きいので、その膜厚を1200nm以下とすることで引っ張り応力を緩和し、膜の剥離を抑制することができる。
【0027】
図2は、本発明の一実施の形態に係る赤外レーザ用反射ミラー11の断面説明図であり、この赤外レーザ用反射ミラー11は、表面にAuのコーティング膜20及びZnSeからなる付着力強化層21がこの順に形成された赤外光学用基板12に赤外用多層膜13が形成された構成を備えている。赤外光学用基板12としては、厚さ2〜25mm程度のSi又はCuからなる基板を用いることができる。
【0028】
また、前記赤外用多層膜13は、前記赤外光学用基板12側から、屈折率の低い低屈折層14、この低屈折層14よりも屈折率の高い中間屈折層15、この中間屈折層15よりも屈折率の高い高屈折層16、中間屈折層17、低屈折層18、及び保護層19がこの順に積層された積層体からなっている。
【0029】
前記低屈折層14及び低屈折層18は、YF3膜、YbF3膜、CaF3膜又はBaF2膜等のフッ化物膜からなり、前記中間屈折層15及び中間屈折層17はZnS膜又はZnSe膜からなり、また前記高屈折層16はGe膜からなっている。保護層19は、主に耐磨耗性を向上させるために赤外用多層膜3の最外層に設けられ、前記中間屈折層15及び中間屈折層17と同じZnS膜又はZnSe膜からなっている。赤外用多層膜13を構成する各膜の形成方法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の、従来公知の真空薄膜堆積技術を用いることができる。また、各膜の厚さは、所望の透過率を満たすように、例えば市販されている膜設計ソフトを用いて決定することができる。なお、付着力強化層21としては、ZnSeに代えてZnSからなる層を用いることができる。
【0030】
つぎに実施例に基づいて、本発明の赤外反射防止膜及び赤外レーザ用反射ミラーを説明するが、本発明はもとよりかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【0031】
実施例1
赤外広域において高透過率を必要とする赤外広域反射防止膜を作製した。
厚さ5mmのGe製基板の上に以下の第1〜第6層からなる6層構造の赤外用多層膜を形成した。各層は、真空蒸着法により形成した。中心波長はλ=10μmであり、所望の透過率を満たすように、市販の膜設計ソフト(ソフトウェア スペクトラ社(Software Spectra,Inc.)のTFCalC)を用いて各層の厚さを決めた。ただし、第5層については、中心波長にかかわらず、所望の透過率を満たす範囲において1200nm以下の最低限の膜厚に設定した。
【0032】
材料 厚さ
第1層(低屈折層) YbF3 0.075λ
第2層(中屈折層) ZnSe 0.05λ
第3層(高屈折層) Ge 0.25λ
第4層(中屈折層) ZnSe 0.66λ
第5層(低屈折層) YbF3 0.66λ
第6層(保護層) ZnSe 0.85λ
【0033】
比較例1
実施例1における第2層及び第4層を省略し、且つGe膜の上に設けるYbF3の膜厚には制限をかけず所望の透過率を満たすように、市販の膜設計ソフト(ソフトウェア スペクトラ社(Software Spectra,Inc.)のTFCalC)を用いて他の各層の厚さを決めた以外は、実施例1と同様にして赤外広域反射防止膜を作製した。中心波長はλ=10μmであった。膜厚設計において、第3層のYbF3の膜厚は1425nmとなった。
【0034】
材料 厚さ
第1層(低屈折層) YbF3 0.17λ
第2層(高屈折層) Ge 0.40λ
第3層(低屈折層) YbF3 0.79λ
第4層(保護層) ZnSe 0.11λ
【0035】
比較例2
第2層のGe膜上に設ける第3層のYbF3に1200nmという制限を付した以外は、比較例1と同様にして膜設計ソフトを用いて所望の透過率を満たすように膜設計を行った。中心波長はλ=10μmであった。膜厚設計において、第3層のYbF3の膜厚は1200nmとなった。
【0036】
材料 厚さ
第1層(低屈折層) YbF3 0.17λ
第2層(高屈折層) Ge 0.42λ
第3層(低屈折層) YbF3 0.66λ
第4層(保護層) ZnSe 0.17λ
【0037】
実施例1及び比較例1で得られた試料(反射防止膜)の付着力及び耐環境性について、以下の方法と同等の方法で試験を行った。結果を表1に示す。
付着力試験(MIL−C−13508C 4.4.6):得られた反射防止膜にセロハンテープを貼り付け、これを剥がしたときに膜が剥がれるかどうかを目視にて観察する。
硬度試験:ダイヤモンド圧子に荷重をかけて膜面に押し付け、圧入痕の大きさ、クラック、剥離の有無を目視にて観察する。
耐湿試験(MIL−C−675C 4.5.8):50±2℃、湿度95%の環境下に24時間反射防止膜を放置した後、膜の剥離がないかどうかを目視にて観察するとともに、透過率の変化を確認する。
耐水試験(MIL−C−675C 4.5.7):室温の純水に反射防止膜を24時間浸漬した後、膜の剥離がないかどうかを目視にて観察するとともに、透過率の変化を確認する。
【0038】
【表1】

【0039】
表1より分かるように、実施例1における第2層及び第4層を省略した比較例1〜2の反射防止膜では、膜の剥離が生じており、実施例1の反射防止膜に比べて、耐剥離性、耐久性に劣っている。
【0040】
比較例3
密着力を強化するために実施例1における第1層のYbF3に代えてTiO2を採用し、耐磨耗性を強化するために実施例1における第6層のZnSeに代えてY23を採用し、所望の透過率を満たすように、市販の膜設計ソフト(ソフトウェア スペクトラ社(Software Spectra,Inc.)のTFCalC)を用いて各層の厚さを決めた以外は、実施例1と同様にして赤外広域反射防止膜を作製した。中心波長はλ=7.5μmであった。
【0041】
材料 厚さ
第1層 TiO2 100nm
第2層(中屈折層) ZnSe 0.055λ
第3層(高屈折層) Ge 0.109λ
第4層(中屈折層) ZnSe 0.270λ
第5層(低屈折層) YbF3 0.250λ
第6層(保護層) Y23 160nm
【0042】
実施例1及び比較例3で得られた試料(反射防止膜)について、赤外分光光度計により透過率を調べた。結果を図3に示す。図3において、実線は実施例1、破線は比較例3の透過率を示している。図3より分かるように、密着力強化又は耐磨耗性強化のために金属酸化物膜を用いた比較例3の反射防止膜は、実施例1の反射防止膜に比べて、全波長域において透過率が数%劣っている。
【0043】
実施例2
スパッタリング法によりAuを300nmの厚さで積層したSi基板(厚さ6mm)上に付着力強化層として厚さ50nmのZnSe膜を真空蒸着法により形成し、ついでこのZnSe膜の上に、以下の第1〜第6層からなる6層構造の赤外用多層膜を形成した。各層は、真空蒸着法により形成した。中心波長はλ=10.6μmであり、所望の透過率を満たすように、市販の膜設計ソフト(ソフトウェア スペクトラ社(Software Spectra,Inc.)のTFCalC)を用いて各層の厚さを決めた。
【0044】
材料 厚さ
第1層(低屈折層) YbF3 0.4λ
第2層(中屈折層) ZnSe 0.6λ
第3層(高屈折層) Ge 0.6λ
第4層(中屈折層) ZnSe 0.12λ
第5層(低屈折層) YbF3 0.04λ
第6層(保護層) ZnSe 0.08λ
得られた赤外レーザ用反射ミラーの炭酸ガスレーザ(10μm光)の反射率は99.77%であった。
【0045】
実施例3
スパッタリング法によりAuを300nmの厚さで積層したSi基板(厚さ6mm)上に付着力強化層として厚さ50nmのZnSe膜を真空蒸着法により形成し、ついでこのZnSe膜の上に、以下の第1〜第8層からなる8層構造の赤外用多層膜を形成した。各層は、真空蒸着法により形成した。中心波長はλ=10.6μmであり、所望の透過率を満たすように、市販の膜設計ソフト(ソフトウェア スペクトラ社(Software Spectra,Inc.)のTFCalC)を用いて各層の厚さを決めた。
【0046】
材料 厚さ
第1層(低屈折層) YbF3 0.6λ
第2層(中屈折層) ZnSe 0.2λ
第3層(高屈折層) Ge 0.57λ
第4層(中屈折層) ZnSe 0.2λ
第5層(低屈折層) YbF3 0.06λ
第6層(高屈折層) ZnSe 0.05λ
第7層(低屈折層) YbF3 0.06λ
第8層(保護層) ZnSe 0.05λ
【0047】
得られた赤外レーザ用反射ミラーは、実施例2の第6層上にさらにYbF3とZnSeの交互層を形成した構成であり(ただし、各層の厚さは異なっている)、炭酸ガスレーザ(10μm光)の反射率は99.7%であった。さらに、レーザ加工機を調整する際には可視光が用いられるが、実施例3の膜構造では可視光(633nm)の反射率として90.14%の値を得ることができた。
【0048】
図4は、実施例2及び実施例3についての10μm付近の赤外光反射率を示しており、図5は、同じく可視633nm付近の反射率を示している。図4〜5において、太線は実施例2、細線は実施例3を示している。
【0049】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点において単なる例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、前記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の赤外反射防止膜の一実施の形態の断面説明図である。
【図2】本発明の赤外レーザ用反射ミラーの一実施の形態の断面説明図である。
【図3】実施例1と比較例3の透過率を示す図である。
【図4】実施例2及び実施例3についての10μm付近の赤外光反射率を示す図である。
【図5】実施例2及び実施例3についての可視633nm付近の反射率を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 赤外反射防止膜
2 赤外光学用基板
3 赤外用多層膜
4 低屈折層
5 中間屈折層
6 高屈折層
7 中間屈折層
8 低屈折層
9 保護層
11 赤外レーザ用反射ミラー
12 赤外光学用基板
13 赤外用多層膜
14 低屈折層
15 中間屈折層
16 高屈折層
17 中間屈折層
18 低屈折層
19 保護層
20 Auコーティング膜
21 密着力強化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光学用基板に形成される赤外用多層膜であって、
この赤外用多層膜は、前記基板側から、屈折率の低い低屈折層、この低屈折層よりも屈折率の高い中間屈折層、この中間屈折層よりも屈折率の高い高屈折層、中間屈折層、低屈折層、及び非酸化物材料からなる保護層がこの順に積層された積層体からなっており、
前記低屈折層はフッ化物膜からなり、
前記中間屈折層はZnS膜又はZnSe膜からなり、且つ
前記高屈折層はGe膜からなることを特徴とする赤外用多層膜。
【請求項2】
基板から遠い方の低屈折層を構成するフッ化物膜の膜厚が、1200nm以下で所望の光学特性が得られるように設定された請求項1に記載の赤外用多層膜。
【請求項3】
前記フッ化物膜が、YF3又はYbF3からなる請求項1又は2に記載の赤外用多層膜。
【請求項4】
Ge、ZnSe、ZnS及びGaAsのいずれかからなる基板上に請求項1記載の赤外用多層膜が形成されてなることを特徴とする赤外反射防止膜。
【請求項5】
基板から遠い方の低屈折層を構成するフッ化物膜の膜厚が、1200nm以下で所望の光学特性が得られるように設定された請求項4に記載の赤外反射防止膜。
【請求項6】
前記フッ化物膜が、YF3又はYbF3からなる請求項4又は5に記載の赤外反射防止膜。
【請求項7】
表面にAuがコーティングされたSi又はCuからなる基板上に請求項1記載の赤外用多層膜が形成されてなることを特徴とする赤外レーザ用反射ミラー。
【請求項8】
基板から遠い方の低屈折層を構成するフッ化物膜の膜厚が、1200nm以下で所望の光学特性が得られるように設定された請求項7に記載の赤外レーザ用反射ミラー。
【請求項9】
前記フッ化物膜が、YF3又はYbF3からなる請求項7又は8に記載の赤外レーザ用反射ミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−86533(P2009−86533A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258938(P2007−258938)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】