説明

走行台車とそのシステム

【課題】滑りを解消するように駆動モータをフィードバック制御することにより、目標とする速度パターンからの遅れを抑制した走行台車を提供する。
【解決手段】走行台車2の走行車輪8,9の回転数から走行距離をエンコーダ11,12で求め、台車2の絶対位置をリニアセンサ13,14で求める。所定の時間間隔でのエンコーダ値の変化分とリニアセンサ値の変化分との差を滑りとし、滑りを解消する側に走行制御部16,17を介して走行モータ6,7を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は走行台車とそのシステムに関し、特に台車の車輪の滑りを検出して、滑りを減らすように駆動モータにフィードバックするシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
走行台車システムでは、目的地まで短時間で走行し、かつ目的地への停止精度を高くするように、走行台車の速度パターンを定めることが行われている。しかしながら、走行台車の車輪に滑りが生じると、速度パターンに対する追従遅れが生じ、走行時間が延びる。また滑りを目的地に停止するまでに解消できないと、走行時間はさらに延びる。そこで滑りが生じても目的地に停止できるように余裕を持たせて速度パターンを定めることになり、減速から停止時にかけての制動距離が長くなり、走行時間が延びる。以上のように、滑りは走行台車を速度パターンから逸脱させ、走行時間を長くする。
【0003】
特許文献1は、走行台車がドグを検出する毎に、エンコーダから求めた座標と比較し、滑り量を検出することを開示している。特許文献1では走行台車はドグの座標を記憶し、検出した滑り量により残走行距離を補正して、速度パターンを修正する。しかしながら特許文献1は滑りを解消する側に走行モータにフィードバックすることは検討していないし、仮に滑りの解消を目的とした場合でも、飛び飛びに設けたドグでは滑り量を連続的に検出できないので、フィードバック制御は困難である。
【特許文献1】特開2004−287555
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、滑りを解消するように駆動モータをフィードバック制御することにより、目標とする速度パターンからの遅れを抑制した走行台車を提供することにある。
請求項2の発明での追加の課題は、走行台車が車輪の空転や滑走から速やかに抜け出せるようにすることにある。
請求項3の発明の課題は、走行台車の絶対位置を連続的に高精度で迅速に検出して、走行台車が滑りを解消できるように正確なフィードバック制御を施せるようにした、走行台車システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の走行台車は、走行台車の駆動輪の駆動量とその時間当たりの変化分とを求めるための手段と、走行台車の絶対位置とその時間当たりの変化分とを求めるための手段と、駆動量の変化分と絶対位置の変化分とを比較して、走行台車の時間当たりの滑り量を求めるための検出手段と、求めた滑り量を解消する側に前記駆動輪の駆動モータを制御するための制御手段、とを設けたものである。
【0006】
好ましくは、前記制御手段では、駆動量の変化分が絶対位置の変化分よりも所定値以上大きい場合、駆動モータの回転数を低下させ、駆動量の変化分が絶対位置の変化分よりも所定値以上小さい場合、駆動モータの回転数を増加させる。
【0007】
この発明の走行台車システムは、走行台車の走行経路に沿ってマークを少なくとも2列に離散的に設けると共に、走行台車には、その駆動輪の駆動量とその時間当たりの変化分とを求めるための手段と、前記少なくとも2列のマークを検出するための少なくとも2個のリニアセンサと、前記少なくとも2個のリニアセンサの出力から、走行台車の絶対位置とその時間当たりの変化分とを求めるための手段と、駆動量の変化分と絶対位置の変化分とを比較して、走行台車の時間当たりの滑り量を求めるための手段と、求めた滑り量を解消する側に前記駆動輪の駆動モータを制御するための制御手段とを設けたものである。
【0008】
なおこの発明での駆動量は、走行車輪等の車輪を駆動した距離であり、その時間当たりの変化分は車輪の回転を監視する内界センサの側から見た速度、もしくは時間当たりの移動距離である。
この明細書で、走行台車に関する記載はそのまま走行台車システムにも当てはまり、逆に走行台車システムに関する記載はそのまま走行台車にも当てはまる。
【発明の効果】
【0009】
この発明では、駆動輪の駆動量の時間当たりの変化分と走行台車の絶対位置の時間当たりの変化分とを比較し、この間に発生した滑り量を求める。次にこの滑り量を解消する側に、駆動モータにフィードバックする。このため走行台車の滑りを解消して、目標の速度パターンに追従して走行できるので、移動時間を短くし、かつ目的地に正確に停止できる。 滑りには空転と滑走とがあり、好ましくは、駆動量の変化分が絶対位置の変化分よりも大きいことから空転を検出して駆動モータの回転数を低下させ、駆動量の変化分が絶対位置の変化分よりも小さいことから滑走を検出して、駆動モータの回転数を増加させる。
【0010】
好ましくは、走行台車の走行経路に沿ってマークを少なくとも2列に離散的に設け、少なくとも2列のマークを少なくとも2個のリニアセンサで検出して、走行台車の絶対位置とその時間当たりの変化分とを求める。すると走行台車の絶対位置とその変化分とを正確にかつ迅速に求めることができる。そして求めた変化分を駆動輪の駆動量の変化分と比較すると、高速応答で正確なフィードバック制御により、滑りを解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0012】
図1〜図5に、実施例の走行台車システムを示す。図において2は走行台車で、有軌道でも無軌道でもよく、例えばスタッカークレーンや有軌道台車,無人搬送車,天井走行車などとする。また走行台車には水平走行以外の運動をするものも含まれる。走行台車2は、図示しない走行速度パターンの生成部で出発点から目的地までの走行速度パターンを生成し、この速度パターンに従って走行する。4は走行経路で、走行台車2は走行経路4に沿って周回あるいは往復動し、走行台車2は例えば前後の走行モータ6,7を備え、それぞれ走行車輪8,9を駆動する。10は駆動軸で、走行モータ6,7と走行車輪8,9とを接続し、駆動軸10に沿ってエンコーダ11,12を設けて、その回転量、即ち走行車輪8,9の駆動量を検出する。実施例での駆動量は、エンコーダ11,12等の内界センサから見た、走行車輪8,9等の延べ回転数である。
【0013】
走行経路4の例えば左右両側に、磁気マークL1〜L5,R1〜R5を例えば2列に設ける。なお磁気マークは3列以上、例えば4列に設けても良く、走行経路4の左右両側ではなく、左右一方に2列以上に設けても良い。走行台車2には少なくとも2個のリニアセンサ13,14を設け、リニアセンサ13で磁気マークL1〜L5を検出し、リニアセンサ14で磁気マークR1〜R5を検出する。なお実際の磁気マークの数は図1に示した10個よりも多い。リニアセンサ13,14は、磁気マークL1〜L5,R1〜R5を基準とする相対座標を出力し、その検出エリアは部分的に重なっており、例えば図1のリニアセンサ13では磁気マークL3が検出エリアから離れようとしており、この時、磁気マークR3がリニアセンサ14の検出エリアに入っている。なおリニアセンサ13,14の種類は任意で、マークを基準とする相対座標を連続的にかつリニアに出力するものであればよい。実施例では磁気マークL1〜L5,R1〜R5として磁石を用いるが、他の磁性体でも良く、磁気以外のマークを用いてもよい。
【0014】
走行台車2は滑り検出部15を備え、リニアセンサ13,14の信号(センサ値)とエンコーダ11,12の信号(エンコーダ値)とを用いて、前後の走行車輪8,9のそれぞれの滑り量を検出する。滑り検出部15は例えば所定の時間当たりのエンコーダ値の変化分、即ちエンコーダ値の差分や時間微分を求め、同様にリニアセンサ13,14のセンサ値の時間当たりの差分や時間微分を求める。差分等を求める時間間隔は一定でも、可変でも良い。そして滑り検出部15は、エンコーダ11のエンコーダ値の差分や時間微分と、リニアセンサ13,14から求めた走行台車2の絶対位置の差分や時間微分とを比較し、走行モータ6側の、走行車輪8で前記の所定時間当たりに発生する滑り量を検出する。同様に滑り検出部15はエンコーダ12のエンコーダ値の時間当たりの差分や時間微分と、リニアセンサ13,14から求めた絶対位置の差分や時間微分とを比較し、走行車輪9の時間当たりの滑り量を検出する。
【0015】
走行台車2は出発地から目的まで走行するための走行速度パターンの生成部を備えており、走行制御部16は走行速度パターンに従って走行モータ6を制御すると共に、滑り検出部15で求めた時間当たりの滑り量により、走行速度パターンを修正する。走行速度パターンは、目的地まで短時間でかつ振動を抑制しながら走行でき、目的地に正確に停止できるように、定められている。同様に走行制御部17は、走行速度パターンに従って走行モータ7を制御すると共に、滑り検出部15で求めた走行車輪9の滑り量に従って、走行速度パターンを修正する。言い換えると、滑りを解消するための制御ループは、走行速度パターンによる制御のマイナーループに相当する。滑り量によるフィードバック制御では、時間当たりに発生した滑り量を用い、これ以外に時間当たりの滑り量の積分値や時間当たりの滑り量の変化率を制御入力に加えて、時間当たりの滑り量を制御入力の比例項Pとした際の、一種のPID制御を施しても良い。
【0016】
図2にリニアセンサ13(14)の構成を示すと、20は交流電源で、出力電流の位相をsinωtとする。21は複数個直列に接続されたコイルで、各コイルに加わる電圧を演算回路22に入力し、リニアセンサ13の検出エリア(−A〜+A)に対する磁気マークLi(Ri)の相対位置を求める。検出エリア(幅2A)に対する磁気マークの位相をθとすると、演算回路22は磁気マークの位置によって個別のコイルのインダクタンスが変化することを利用し、sinθ・sinωt及びcosθ・cosωtなどの信号を出力する。演算回路24はこれから位相θを求めて、検出エリアに対する磁気マークの位置をセンサ値として出力する。リニアセンサ13,14では、検出エリアの中央部がセンサ原点となり、この位置からの変位がセンサ値となる。
【0017】
図3に、左右の磁気マークを用いた走行台車の絶対位置検出を示す。滑り検出部は現在どの磁気マークを検出しているかを認識しており、各磁気マークに対するセンサ原点(リニアセンサ値が0の点)の絶対位置(絶対座標)をオフセットとして記憶している。そこでセンサ原点の絶対座標にリニアセンサからのセンサ値を加算すると、走行台車の絶対位置が判明する。この処理を実行するには、現在どの磁気マークを検出しているかを認識する必要がある。例えば走行台車が所定の位置から起動するものとすると、起動時の磁気マークの番号は既知である。次に走行台車の走行方向は既知なので、検出する磁気マークを切り替える毎に、次に検出する磁気マークの番号を求めて記憶する。すると常時検出中の磁気マークの番号を認識できる。
【0018】
図4に滑り検出部15の構成を示す。41は処理部で、42はオフセットテーブル、43はトラッキングテーブルである。オフセットテーブル42は各磁気マークに対するセンサ原点の絶対座標が記載され、これにリニアセンサ値を加算して絶対座標を求める。また磁気マークを切り替える毎に、新たな磁気マーの番号をトラッキングする。トラッキングテーブル43には現在検出中の磁気マークの番号並びにその磁気マークに関するセンサ値と、これを基に定めた絶対座標の時系列データが記載されている。なお簡単のため、トラッキングテーブル43で時系列データを更新するのと同時に、エンコーダ値の差分を求めるものとする。処理部41は前後のエンコーダ11,12のセンサ値の差分と、トラッキングテーブル43の前回の絶対座標と今回の絶対座標の差分を検出する。なお前回と今回との間の単純な差分に代えて、例えば過去数回の差分の重み付き平均値などを用いてもよい。処理部41はエンコーダ値の差分と、絶対座標の差分とを比較し、走行車輪8,9の時間当たりの滑り量を検出する。
【0019】
図5に走行台車のスリップ制御のアルゴリズムを示す。滑り検出部はリニアセンサからセンサ値を取得し、これを絶対座標に変換して記憶する。またエンコーダ値を取得して記憶する。リニアセンサからの絶対座標並びにエンコーダ値について、今回のデータと前回のデータとの差分を求める。エンコーダ値の差分と絶対座標の差分とを比較し、滑りの有無を検出する。例えばこれらの差が所定値以下の場合、滑りがないものとする。エンコーダ値の差分が絶対座標の差分よりも所定値以上大きい場合、空転があるものとし、モータ回転数を下げるためにトルクを低下させる。絶対座標の差分がエンコーダ値の差分よりも所定値以上大きい場合、走行車輪が滑走しているものとして、モータ回転数を上げてトルクを低下させる。これらの処理は前後の走行車輪について独立して行う。また空転や滑走の有無の検出に用いる所定値は、単なる一定値でもよく、あるいは走行台車の速度や加速度などによって変化する値でも良い。そして目的位置に停止するまでスリップ制御を繰り返す。
【0020】
実施例では以下の効果が得られる。
(1) 時間当たりに発生している滑り量を検出できる。
(2) これによって走行モータをフィードバック制御し、滑りを解消できる。
(3) 滑りの検出は前後の走行車輪に対して独立して行えるので、滑りが生じている走行車輪に対して的確な制御を施すことができる。
(4) これらの結果、走行速度パターンに対する走行台車の遅れを抑制し、所定の走行時間で、目的地まで正確に走行して正確に停止できる。
(5) 走行速度パターンに追随して走行できるので、滑りが生じ難いように最大加速度を制限したり、滑りが生じても目的地に停止できるように制動距離を長くしたりする必要がない。
(6) 一般に走行速度パターンは走行台車の振動を抑制するように定められているので、走行速度パターンからの遅れを小さくすることにより、走行台車の振動を小さくできる。

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例の走行台車システムのブロック図
【図2】実施例で用いるリニアセンサのブロック図
【図3】実施例でのリニアセンサ値から絶対位置への変換を示す図
【図4】実施例での滑り検出部のブロック図
【図5】実施例でのスリップ制御アルゴリズムを示すフローチャート
【符号の説明】
【0022】
2 走行台車
4 走行経路
6,7 走行モータ
8,9 走行車輪
10 駆動軸
11,12 エンコーダ
13,14 リニアセンサ
15 滑り検出部
16,17 走行制御部
20 交流電源
21 コイル
22,24 演算回路
41 処理部
42 オフセットテーブル
43 トラッキングテーブル

L1〜L5,R1〜R5 磁気マーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行台車の駆動輪の駆動量とその時間当たりの変化分とを求めるための手段と、
走行台車の絶対位置とその時間当たりの変化分とを求めるための手段と、
駆動量の変化分と絶対位置の変化分とを比較して、走行台車の時間当たりの滑り量を求めるための検出手段と、
求めた滑り量を解消する側に前記駆動輪の駆動モータを制御するための制御手段、とを設けた、走行台車。
【請求項2】
前記制御手段では、駆動量の変化分が絶対位置の変化分よりも所定値以上大きい場合、前記駆動モータの回転数を低下させ、駆動量の変化分が絶対位置の変化分よりも所定値以上小さい場合、駆動モータの回転数を増加させるようにしたことを特徴とする、請求項1の走行台車。
【請求項3】
走行台車の走行経路に沿ってマークを少なくとも2列に離散的に設けると共に、
走行台車には、その駆動輪の駆動量とその時間当たりの変化分とを求めるための手段と、前記少なくとも2列のマークを検出するための少なくとも2個のリニアセンサと、前記少なくとも2個のリニアセンサの出力から、走行台車の絶対位置とその時間当たりの変化分とを求めるための手段と、駆動量の変化分と絶対位置の変化分とを比較して、走行台車の時間当たりの滑り量を求めるための手段と、求めた滑り量を解消する側に前記駆動輪の駆動モータを制御するための制御手段とを設けた、走行台車システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−140144(P2008−140144A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325713(P2006−325713)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】