説明

走行装置

【課題】運転者の望む性能を確保して、ドライバビリティを向上させること。
【解決手段】この走行装置100は、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l、右後側電動機11rにより、左側前輪2l、右側前輪2r、左側後輪3l、右側後輪3rそれぞれの駆動力を独立して制御することができる。そして、走行装置100が搭載される車両1のヨー方向における目標モーメント及び前記車両のロール方向における目標モーメントと、各駆動輪の総駆動力と、各駆動輪の駆動反力とに基づいて、車両1の各駆動輪の駆動力が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、少なくとも一対の左右の駆動輪の間において、それぞれの駆動力を異ならせることができる走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車やトラック等の車両が旋回する際には、旋回方向外側に向かう旋回慣性力が車両に作用して、車両にロールが発生する。特許文献1には、4輪を独立に駆動できる駆動装置を備え、各駆動輪の駆動力を制御することにより、車両のロールを抑制する技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−306152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている技術は、ロールを抑制する制御のみを行うため、旋回に必要なヨーモーメントが不足したり、旋回に必要なヨーモーメントよりも大きいヨーモーメントが発生したりする等によって、車両のドライバビリティが低下するおそれがある。その結果、運転者の望む性能を十分に発揮できないおそれがある。そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、運転者の望む性能を確保して、ドライバビリティを向上させることができる走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る走行装置は、車両が備える少なくとも一対の左右の駆動輪の間において、それぞれの駆動力を異ならせることができ、かつ、前記車両のヨー方向において要求される目標モーメント又は前記車両のロール方向において要求される目標モーメント又は前記車両のピッチ方向において要求される目標モーメントのうち少なくとも2方向における目標モーメントと、前記駆動輪の総駆動力と、前記駆動輪の駆動反力とに基づいて求められた前記左右の駆動輪の駆動力で、前記左右の駆動輪が駆動されることを特徴とする。
【0006】
この走行装置は、車両のヨー方向における目標モーメント又は車両のロール方向における目標モーメント又は車両のピッチ方向における目標モーメントのうち少なくとも2方向における目標モーメントと、駆動輪の総駆動力と、前記駆動輪の駆動反力とに基づいて左右の駆動輪の駆動力を求める。そして、少なくとも2方向における目標モーメントを同時に満たすことができるように、各輪の駆動力を制御する。これによって、運転者の望む性能を確保して、ドライバビリティを向上させることができる。
【0007】
次の本発明に係る走行装置は、前記本発明に係る走行装置において、前記車両のヨー方向における目標モーメントと前記左右の駆動輪の間における駆動力差との関係、又は前記車両のロール方向における目標モーメントと前記左右の駆動輪の間における駆動反力差との関係、又は前記車両のピッチ方向における目標モーメントと前記左右の駆動輪の駆動反力との関係のうち少なくとも二つの関係に基づいて、前記左右の駆動輪の駆動力が求められることを特徴とする。
【0008】
次の本発明に係る走行装置は、前記本発明に係る走行装置において、前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントと、前記車両のピッチ方向の目標モーメントとを用いて前記左右の駆動輪の駆動力を求めることを特徴とする。
【0009】
次の本発明に係る走行装置は、前記本発明に係る走行装置において、前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントとを用いて前記左右の駆動輪の駆動力を求めることを特徴とする。
【0010】
次の本発明に係る走行装置は、前記本発明に係る走行装置において、前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントと、前記車両のピッチ方向における目標モーメントとを同時に満たすことができない場合には、前記車両のヨー方向における目標モーメント又は前記車両のロール方向における目標モーメントのうち、少なくとも一方を満たすようにすることを特徴とする。
【0011】
次の本発明に係る走行装置は、前記本発明に係る走行装置において、前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントとを同時に満たすことができない場合において、前記車両のロールを制御するための駆動力を前記左右の駆動輪が発生することによって前記車両に発生するヨーモーメントが、前記車両の限界のヨーモーメントを超えるときには、前記車両のヨー方向における目標モーメントを満たすように制御することを特徴とする。
【0012】
次の本発明に係る走行装置は、前記本発明に係る走行装置において、前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントとを同時に満たすことができない場合には、前記車両のロール方向における目標モーメントを満たすようにすることを特徴とする。
【0013】
次の本発明に係る走行装置は、前記本発明に係る走行装置において、前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントとを同時に満たすことができない場合には、前記車両のヨー方向における目標モーメントを満たすようにすることを特徴とする。
【0014】
次の本発明に係る走行装置は、前記本発明に係る走行装置において、前記車両の操舵輪の操舵角と、前記操舵角の速度とに基づいて、前記車両のヨー方向における目標モーメントを満たすようにするか、又は前記車両のロール方向における目標モーメントを満たすようにするかを切り替えることを特徴とする。
【0015】
次の本発明に係る走行装置は、前記本発明に係る走行装置において、前記操舵角が所定の閾値以内であり、かつ前記操舵角の速度が0でない場合には、前記車両のロール方向における目標モーメントを満たすようにすることを特徴とする。
【0016】
次の本発明に係る走行装置は、前記本発明に係る走行装置において、前記操舵角が所定の閾値よりも大きいか、又は前記操舵角の速度が0である場合には、前記車両のヨー方向における目標モーメントを満たすようにすることを特徴とする。
【0017】
次の本発明に係る走行装置は、前記本発明に係る走行装置において、前記駆動輪の動力発生源は、前記駆動輪に取り付けられる電動機であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係る走行装置は、運転者の望む性能を確保して、ドライバビリティを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。以下においては、いわゆる電気自動車に本発明を適用した場合を主として説明するが、本発明の適用対象はこれに限られるものではなく、少なくとも一対の左右の駆動輪の間で駆動力が変更できればよい。少なくとも一対の左右の駆動輪の間における駆動力は、少なくとも一対の左右の駆動輪が発生する駆動力を、それぞれ独立に制御してもよいし、少なくとも一対の左右の駆動輪間における駆動力の配分比を制御してもよい。
【0020】
(実施形態1)
実施形態1は、車両のヨー方向において要求されるモーメント(目標ヨーモーメント)又は車両のロール方向において要求される目標モーメント(目標ロールモーメント)又は車両のピッチ方向において要求される目標モーメント(目標ピッチモーメント)のうち少なくとも2方向における目標モーメントと、駆動輪の総駆動力と、前記駆動輪の駆動反力とに基づいて左右の駆動輪の駆動力を求める。そして、少なくとも2方向における目標モーメントを同時に満たすことができるように、各輪の駆動力を制御する点に特徴がある。なお、実施形態1では、目標ヨーモーメントと目標ロールモーメントとが両立するように制御する例を説明するが、目標ヨーモーメントと目標ピッチモーメントとの両立や、目標ロールモーメントと目標ピッチモーメントとの両立を図ってもよい。
【0021】
図1は、実施形態1に係る走行装置を備える車両の構成を示す概略図である。図2は、実施形態1に係る走行装置が備える前輪用懸架装置の構成例を示す説明図である。図3は、実施形態1に係る走行装置が備える後輪用懸架装置の構成例を示す説明図である。この車両1は、電動機のみを動力発生源とする走行装置100を備える。走行装置100は、左側前輪2l、右側前輪2r、左側後輪3l、右側後輪3rの駆動力の駆動反力と、車両1の総駆動力と、目標ヨーモーメント又は目標ロールモーメント又は目標ピッチモーメントのうち少なくとも二つとに基づいて、左側前輪2l、右側前輪2r、左側後輪3l、右側後輪3rの駆動力を決定する動力発生手段と、車両1に取り付けられて左側前輪2l、右側前輪2rを支持する前輪用懸架装置8と、車両1に取り付けられて左側後輪3l、右側後輪3rを支持する後輪用懸架装置9とを含んで構成される。
【0022】
この実施形態において、動力発生手段は、左側前輪2lを駆動する左前側電動機10lと、右側前輪2rを駆動する右前側電動機10rと、左側後輪3lを駆動する左後側電動機11lと、右側後輪3rを駆動する右後側電動機11rとを含む。そして、前輪の駆動力と後輪の駆動力は、ECU(Electronic Control Unit)50に組み込まれる車両挙動制御装置30によって変更される。すなわち、この実施形態においては、車両挙動制御装置30が、車両1が備える各駆動輪の駆動力を変更する駆動力変更手段としての機能を有する。
【0023】
ここで、左右の区別は、車両1の前進する方向(図1の矢印X方向)を基準とする。すなわち、「左」とは、車両1の前進する方向に向かって左側をいい、「右」とは、車両1の前進する方向に向かって右側をいう。また、車両1が前進する方向を前とし、車両1が後進する方向、すなわち前進する方向とは反対の方向を後とする。
【0024】
この走行装置100において、左側前輪2l、右側前輪2r、左側後輪3l及び右側後輪3rは、それぞれ異なる電動機で駆動される。このように、車両1は、すべての車輪が駆動輪となる。すなわち、車両1の駆動輪は、左側前輪2l、右側前輪2r、左側後輪3l及び右側後輪3rである。また、この走行装置100においては、左側前輪2l、右側前輪2r、左側後輪3l及び右側後輪3rは、それぞれ異なる電動機によって直接駆動される。そして、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l及び右後側電動機11rは、左側前輪2l、右側前輪2r、左側後輪3l及び右側後輪3rのホイール内に配置される、いわゆるインホイール形式の構成となっている。
【0025】
なお、電動機と車輪との間に減速機構を設け、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l及び右後側電動機11rの回転数を減速して、左側前輪2l、右側前輪2r、左側後輪3l及び右側後輪3rに伝達してもよい。一般に、電動機は小型化するとトルクが低下するが、減速機構を設けることによって電動機のトルクを増加させることができる。その結果、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11r及び右後側電動機11rを小型化することができる。
【0026】
左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11r及び右後側電動機11rは、ECU50によって制御されて、各駆動輪の駆動力が調整される。この実施形態においては、アクセル開度センサ42によって検出されるアクセル5の開度により走行装置100の総駆動力F、及び左側前輪2l、右側前輪2r、左側後輪3l、右側後輪3r各輪の駆動力が制御される。
【0027】
左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11r及び右後側電動機11rは、左前側レゾルバ40l、右前側レゾルバ41r、左後側レゾルバ41l、右後側レゾルバ41rによって回転角度や回転速度が検出される。左前側レゾルバ40l、右前側レゾルバ41r、左後側レゾルバ41l及び右後側レゾルバ41rの出力は、ECU50に取り込まれて、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11r及び右後側電動機11rの制御に用いられる。
【0028】
左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11r及び右後側電動機11rは、インバータ6に接続されている。インバータ6には、例えばニッケル−水素電池や鉛蓄電池等の車載電源7が接続されており、必要に応じてインバータ6を介して左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11r及び右後側電動機11rへ供給される。これらの出力は、ECU50からの指令によってインバータ6を制御することで制御される。なお、この実施形態においては、1台のインバータで1台の電動機を制御する。左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11r及び右後側電動機11rを制御するため、インバータ6は、それぞれの電動機に対応した4台のインバータで構成される。
【0029】
左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11r及び右後側電動機11rが走行装置100の動力発生源として用いられる場合、車載電源7の電力がインバータ6を介して供給される。また、例えば車両1の減速時には、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11r及び右後側電動機11rが発電機として機能して回生発電を行い、これによって回収したエネルギーを車載電源7に蓄える。これは、ブレーキ信号やアクセルオフ等の信号に基づいて、ECU50がインバータ6を制御することにより実現される。
【0030】
図2に示すように、左前側電動機10lは、前輪用懸架装置8に取り付けられる。これによって、左前側電動機10lは、前輪用懸架装置8を介して車両1に取り付けられて、前輪用懸架装置8によって車両1に支持される。なお、右前側電動機10rの支持構造も左前側電動機10lの支持構造と同様の構成である(以下同様)。また、図3に示すように、右後側電動機11rは、後輪用懸架装置9に取り付けられる。これによって、右後側電動機11rは、後輪用懸架装置9を介して車両1に取り付けられて、後輪用懸架装置9によって車両1に支持される。なお、左後側電動機11lの支持構造も、右後側電動機11rの支持構造と同様の構成である(以下同様)。次に、図2、図3を用いて、前輪用懸架装置8及び後輪用懸架装置9の構成をより詳細に説明する。
【0031】
図2に示すように、この実施形態において、前輪用懸架装置8は、いわゆるストラット形式が用いられている。ダンパー20の一方の端部にはアッパーマウント20Uが設けられ、これを介してダンパー20が車両本体1Bに取り付けられる。ダンパー20の他方の端部には、電動機固定用ブラケット20Bが設けられている。電動機固定用ブラケット20Bは、左前側電動機10lの本体部に設けられる電動機側ブラケット10lbに取り付けられて、ダンパー20と左前側電動機10lとを固定する。ここで、左前側電動機10lの駆動軸(電動機駆動軸)10lsには、電動機駆動軸10lsの回転角度を知るための回転角度検出手段として、左前側レゾルバ40lが取り付けられている。左前側レゾルバ40lによって検出された信号を処理することにより、左前側電動機10lの回転速度を知ることができる。
【0032】
電動機駆動軸10lsに対して電動機側ブラケット10lbと対称となる位置には、ピボット部10lpが設けられている。ピボット部10lpは、トランスバースリンク(ロワーアーム)22のピボット受け28と組み合わされ、ピン結合される。トランスバースリンク22は、車両取付部27で車両本体1Bに取り付けられている。そして、左前側電動機10lの上下運動(図2中のY方向)により、車両取付部27の揺動軸Zsfを中心として揺動運動する。ここで、上下方向とは、重力の作用方向と平行な方向である。
【0033】
電動機駆動軸10lsには、前輪用ブレーキローター15及び前輪用ホイール13が取り付けられる。そして、前輪用ホイール13にタイヤが取り付けられて、左側前輪2l(図1)となる。路面から左前前輪2lへの入力によって、前輪用ホイール13は上下運動する。前輪用ホイール13は電動機駆動軸10lsに取り付けられているので、前輪用ホイール13の上下運動とともに、左前側電動機10lも上下運動する。左前側電動機10lの上下運動は、前輪用懸架装置8のスプリング20S及びダンパー20で吸収される。
【0034】
左前側電動機10lとトランスバースリンク22とは、ピボット部10lpとピボット受け28とでピン結合されているので、左前側電動機10lの上下運動とともにトランスバースリンク22は揺動軸Zsfを中心として揺動運動できる。また、左前側電動機10lは、ハンドル4の操作によって前輪用ホイール13及びタイヤとともに操舵されるが、このときピボット部10lpはピボット受け28に支持されながら回転する。次に、後輪用懸架装置9について説明する。
【0035】
図3に示すように、この実施形態において、後輪用懸架装置9は、いわゆるトーションビーム形式が用いられている。右後側電動機11rは、トーションビーム24と一体に構成されるアーム25の一端に取り付けられる。右後側電動機11rの取付側とは反対側におけるアーム25の端部には、車両取付部26が設けられている。アーム25は、車両取付部26を介して車両本体1Bに取り付けられる。そして、アーム25は、車両取付部26の揺動軸Zsrを中心として揺動運動する。トーションビーム24には、スプリング・ダンパー受け21が設けられている。そして、後輪用懸架装置9のスプリング及びダンパーは、スプリング・ダンパー受け21と車両本体1Bとの間に取り付けられる。なお、この実施形態において、スプリング及びダンパーは、両者が一体となったスプリング/ダンパー構造体29である。
【0036】
右後側電動機11rの駆動軸(電動機駆動軸)11rsには、電動機駆動軸11rsの回転角度を知るための回転角度検出手段として、右後側レゾルバ41rが取り付けられている。右後側レゾルバ41rによって検出された信号を処理することにより、右後側電動機11rの回転速度を知ることができる。また、電動機駆動軸11rsには、後輪用ブレーキローター16及び後輪用ホイール14が取り付けられる。そして、後輪用ホイール14にタイヤが取り付けられて、右側後輪3r(図1)となる。
【0037】
路面から右側後輪3rへの入力によって、後輪用ホイール14は上下運動する。後輪用ホイール14は電動機駆動軸11rsに取り付けられているので、後輪用ホイール14の上下運動とともに、右後側電動機11rも上下運動する。右後側電動機11rの上下運動は、スプリング・ダンパー受け21を介して後輪用懸架装置9のスプリング/ダンパー構造体29に伝えられ、ここで吸収される。前輪用及び後輪用懸架装置8、9は上記例に限られず、例えばマルチリンク式、ダブルウィッシュボーン式その他の形式を用いることができる。
【0038】
この実施形態に係る走行装置100のように、動力発生手段である左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l及び右後側電動機11rが懸架装置に固定されている方式では、各電動機によって生み出される各駆動輪の駆動力の反力(駆動反力)は、ほとんどすべて懸架装置に入力される。このため、各電動機によって生み出される各駆動輪の上下方向における成分は、ほとんど損失なくばね上に作用する駆動反力成分に変換される。次に、この実施形態に係る走行装置の他の例を説明する。
【0039】
図4は、実施形態1に係る走行装置の変形例を示す説明図である。この走行装置101は、内燃機関を動力発生源とし、かつ、前後輪間の駆動力配分、及び前輪間、後輪間の駆動力配分が可能としたものである。車両1aが備える走行装置101は、内燃機関60を備える。内燃機関60の出力は、前輪用駆動力配分装置を備えるトランスミッション61に導かれ、左側前輪駆動軸65l及び右側前輪駆動軸65rを介して左側前輪2l及び右側前輪2rを駆動する。また、内燃機関60の出力は、前後駆動力配分装置62を介してプロペラシャフト63に出力される。プロペラシャフト63に出力された内燃機関60の出力は後輪用駆動力配分装置64に入力され、左側後輪駆動軸66l及び右側後輪駆動軸66rを介して左側後輪3l及び右側後輪3rを駆動する。
【0040】
前輪用駆動力配分装置を備えるトランスミッション61、前後駆動力配分装置62及び後輪用駆動力配分装置64は、ECU50が備える車両挙動制御装置30によって左側前輪2l、右側前輪2r、左側後輪3l及び右側後輪3rの駆動力の配分比が決定され、内燃機関60の出力は、その駆動力配分比で各車輪に配分される。この変形例において、動力発生手段は、内燃機関60と前後駆動力配分装置62と後輪用駆動力配分装置64とで構成される。次に、この実施形態に係る車両挙動制御において各輪の駆動力を決定する手法を説明する。
【0041】
図5−1〜図5−3は、実施形態1に係る車両挙動制御を説明するための概念図である。図中のGは車両1の重心、hは車両1の重心高さ、ORfは前輪用懸架装置の瞬間回転中心、ORrは後輪用懸架装置の瞬間回転中心、hfsは前輪用懸架装置の瞬間回転中心高さ、hfrは後輪用懸架装置の瞬間回転中心高さ、Dfは前輪のトレッド幅、Drは後輪のトレッド幅を表す。また、Lは、左側及び右側前輪2l、2rの車軸(前輪側車軸)Zfと、左側及び右側後輪3l、3rの車軸(後輪側車軸)Zrとの距離(前後車軸軸間距離)、Lfは重心Gと前輪側車軸Zfとの水平距離、Lrは重心Gと後輪側車軸Zrとの水平距離を表す。
【0042】
なお、瞬間回転中心は、懸架装置の側面視、すなわち、車輪側(左側前輪2lや右側後輪3r)から懸架装置(前輪用懸架装置8や後輪用懸架装置9)を見た場合における懸架装置の瞬間回転中心である。これは、車両1の進行方向に対して直交する方向から懸架装置(前輪用懸架装置8や後輪用懸架装置9)を見た場合の瞬間回転中心である。
【0043】
この実施形態に係る車両1は、車両1の重心高さhよりも前輪用懸架装置の瞬間回転中心高さhfs及び後輪用懸架装置の瞬間回転中心高さhfrが低く、また、前輪用懸架装置の瞬間回転中心ORf及び後輪用懸架装置の瞬間回転中心ORrは、前輪側車軸Zfと、後輪側車軸Zrとの間にある。また、この実施形態に係る車両1は、前輪用懸架装置の瞬間回転中心ORf及び後輪用懸架装置の瞬間回転中心ORrが、前輪側車軸Zfと後輪側車軸Zrとの間にある。なお、前輪用懸架装置の瞬間回転中心ORf及び後輪用懸架装置の瞬間回転中心ORrの位置は、上記位置に限定されるものではない。
【0044】
この実施形態に係る車両挙動制御では、車両1の駆動輪が発生する駆動力を制御することによって、車両1のヨー運動(Z軸周りの運動)、ロール運動(X軸周りの運動)を制御する。各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrと、ヨー運動を制御するために要求される目標ヨーモーメントMzref、同じく各輪の駆動力の反力と、ロール運動を制御するために要求される目標ロールモーメントMxref、さらに、前後方向における車両1の総駆動力(走行装置100の総駆動力、以下総駆動力という)F及び総駆動力Fの前後配分比(前後駆動力配分比という)iから、数式(1)で示す連立方程式が得られる。
【0045】
なお、目標ヨーモーメントMzrefは、左側前輪2lの駆動力Fflと右側前輪2rの駆動力Ffrとの差、及び左側後輪3lの駆動力Frlと右側後輪3rの駆動力Frrとの差、すなわち、車両1の左右における駆動輪の駆動力差を用いて表現できる。また、目標ロールモーメントMxrefは、左側前輪2lの駆動力Fflの反力と右側前輪2rの駆動力Ffrの反力との差、及び左側後輪3lの駆動力Frlの反力と右側後輪3rの駆動力Frrの反力との差、すなわち、車両1の左右における駆動輪の駆動反力差を用いて表現できる。
【0046】
ここで、駆動力Fflは左側前輪2lの駆動力(左側前輪駆動力)、駆動力Ffrは右側前輪2rの駆動力(右側前輪駆動力)、駆動力Frlは左側後輪3lの駆動力(左側後輪駆動力)、駆動力Frrは右側後輪3rの駆動力(右側後輪駆動力)である。数式(1)で表現される連立方程式を各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrについて解くことによって、目標ヨーモーメントMzref及び目標ロールモーメントMxrefを満足する各輪の駆動力を得ることができる。
【0047】
【数1】

【0048】
ここで、αflは左側前輪2lを支持する前輪用懸架装置8の瞬間回転中心角、αfrは右側前輪2rを支持する前輪用懸架装置8の瞬間回転中心角、αrlは左側後輪3lを支持する後輪用懸架装置9の瞬間回転中心角、αrrは右側後輪3rを支持する後輪用懸架装置9の瞬間回転中心角である。また、Ffl×tanαflは、左側前輪2lの駆動力Fflの反力(左側前輪駆動反力)、Ffr×tanαfrは、右側前輪2rの駆動力Ffrの反力(右側前輪駆動反力)、Frl×tanαrlは、左側後輪3lの駆動力Frlの反力(左側後輪駆動反力)、Frr×tanαrrは、右側後輪3rの駆動力Frrの反力(右側後輪駆動反力)を表す。
【0049】
車両の駆動形式によって、数式(1)は適宜変更される。例えば前輪駆動の走行装置を備える車両や、左右の前輪間のみで駆動力の変更が可能である走行装置を備える車両を対象とする場合、数式(1)中の左側後輪駆動力Frl、右側後輪駆動力Frr、後輪のトレッド幅Dr、左側後輪駆動反力Frl×tanαrl、右側後輪駆動反力Frr×tanαrr、及び前後駆動力配分比iを0とする。また、後輪駆動の走行装置を備える車両や、左右の後輪間のみで駆動力の変更が可能である走行装置を備える車両を対象とする場合、数式(1)中の左側前輪駆動力Ffl、右側前輪駆動力Ffr、前輪のトレッド幅Df、左側前輪駆動反力Ffl×tanαfl、右側前輪駆動反力Ffr×tanαfr、及び前後駆動力配分比iを0とする。
【0050】
数式(1)を行列式で表現すると、数式(2)のようになる。ここで、右辺の第1行列をAとすると、前後駆動力配分比i≠0.5である場合、rank(A)=4となって行列Aは正則となり、数式(1)で示す連立方程式は解くことが可能(可解)であることがわかる。この場合、数式(3)に示すように、数式(2)の両辺に、左側からAの逆行列A-1を乗ずることで、目標ヨーモーメントMzref及び目標ロールモーメントMxrefを満たす各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを求めることができる。
【0051】
【数2】

【0052】
【数3】

【0053】
例えば、前後駆動力配分比i=0.5である場合、rank(A)≠4となり、数式(1)で示す連立方程式は解くことができない。この場合、目標ヨーモーメントMzref及び目標ロールモーメントMxrefを満たす各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrは求めることができない。したがって、目標ヨーモーメントMzref又は目標ロールモーメントMxrefのうちいずれか一方を満たすように、各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを決定する。車両1のロールを制御するための目標ロールモーメントMxrefを満たす各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを求める場合には、数式(4)を用いる。また、車両1のヨーを制御するための目標ヨーモーメントMzrefを満たす各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを求める場合には、数式(5)を用いる。
【0054】
ここで、数式(4)中のjは、左右駆動力差前後配分比であり、動的前後荷重配分比に準ずる配分比をいう。この実施形態において、左右駆動力差前後配分比jは、車両1の左側における車輪(左側前輪2l及び左側後輪3l)で発生する駆動力(左側駆動力)と、車両1の右側における車輪(右側前輪2r及び右側後輪3r)で発生する駆動力(右側駆動力)との差を、車両1の前輪(左側前輪2l及び右側前輪2r)と後輪(左側後輪3l及び右側後輪3r)とで割り振るための比率となる。例えば、左側駆動力と右側駆動力との駆動力差が10必要であるときに、前輪で6の駆動力差を、後輪で4の駆動力差を発生させるような場合に、左右駆動力差前後配分比jを設定する。
【0055】
【数4】

【0056】
【数5】

【0057】
数式(3)〜数式(5)を用いることによって、車両1に対する目標ヨーモーメントMzref又は目標ロールモーメントMxrefのうち少なくとも一方を満足できる各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを求めることができる。そして、前後駆動力配分比iや車両1の状態、あるいは運転状況に基づいて、車両のヨー又はロールのうち少なくとも一方を制御する。次に、この実施形態に係る車両挙動制御を実現するための車両挙動制御装置について説明する。
【0058】
図6は、実施形態1に係る車両挙動制御装置の構成例を示す説明図である。図6に示すように、車両挙動制御装置30は、ECU50に組み込まれて構成されている。ECU50は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)50pと、記憶部50mと、入力ポート55及び出力ポート56と、入力インターフェース57及び出力インターフェース58とから構成される。
【0059】
なお、ECU50とは別個に、この実施形態に係る車両挙動制御装置30を用意し、これをECU50に接続してもよい。そして、この実施形態に係る車両挙動制御を実現するにあたっては、ECU50が備える走行装置100等に対する制御機能を、前記車両挙動制御装置30が利用できるように構成してもよい。
【0060】
車両挙動制御装置30は、駆動力演算部31と、制御判定部32と、駆動力制御部33とを含んで構成される。これらが、この実施形態に係る車両挙動制御を実行する部分となる。この実施形態において、車両挙動制御装置30は、ECU50を構成するCPU50pの一部として構成される。
【0061】
車両挙動制御装置30の駆動力演算部31と、制御判定部32と、駆動力制御部33とは、バス541、バス542、及び入力ポート55及び出力ポート56を介して接続される。これにより、車両挙動制御装置30を構成する駆動力演算部31と制御判定部32と、駆動力制御部33とは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。また、CPU50pが備える車両挙動制御装置30と、記憶部50mとは、バス543を介して接続される。これによって、車両挙動制御装置30は、ECU50が有する走行装置100の運転制御データを取得し、これを利用することができる。また、車両挙動制御装置30は、この実施形態に係る車両挙動制御を、ECU50が予め備えている運転制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。
【0062】
入力ポート55には、入力インターフェース57が接続されている。入力インターフェース57には、左前側レゾルバ40l、右前側レゾルバ40r、左後側レゾルバ41l、右後側レゾルバ41r、アクセル開度センサ42、操舵角センサ43、車速センサ44、前後加速度センサ45、横方向加速度センサ46、その他の、走行装置100の運転制御に必要な情報を取得するセンサ類が接続されている。これらのセンサ類から出力される信号は、入力インターフェース57内のA/Dコンバータ57aやディジタル入力バッファ57dにより、CPU50pが利用できる信号に変換されて入力ポート55へ送られる。これにより、CPU50pは、走行装置100の運転制御や、この実施形態に係る車両挙動制御に必要な情報を取得することができる。
【0063】
出力ポート56には、出力インターフェース58が接続されている。出力インターフェース58には、車両挙動制御に必要な制御対象が接続されている。この実施形態では、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l及び右後側電動機11rを制御するためのインバータ6が、この実施形態に係る車両挙動制御に必要な制御対象である。出力インターフェース58は、制御回路581、582等を備えており、CPU50pで演算された制御信号に基づき、前記制御対象を動作させる。このような構成により、前記センサ類からの出力信号に基づき、ECU50のCPU50pは、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l及び右後側電動機11rの駆動力を制御することができる。
【0064】
記憶部50mには、この実施形態に係る車両挙動制御の処理手順を含むコンピュータプログラムや制御マップ、あるいはこの実施形態に係る車両挙動制御に用いる駆動力配分比のデータ等が格納されている。ここで、記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0065】
上記コンピュータプログラムは、CPU50pへ既に記録されているコンピュータプログラムと組み合わせによって、この実施形態に係る車両挙動制御の処理手順を実現できるものであってもよい。また、この車両挙動制御装置30は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、駆動力演算部31、制御判定部32及び駆動力制御部33の機能を実現するものであってもよい。次に、この実施形態に係る車両挙動制御を説明する。次の説明では、適宜図1〜図6を参照されたい。
【0066】
図7、図8は、実施形態1に係る車両制御の手順を示すフローチャートである。この実施形態に係る車両挙動制御を実行するにあたって、車両挙動制御装置30の駆動力演算部31は、目標ヨーモーメントMzref、目標ロールモーメントMxref及び前後駆動力配分比iを取得する(ステップS101)。目標ヨーモーメントMzrefは数式(6)で示す目標ヨーレートγrefにヨー慣性モーメントIzを乗ずることによって、また、目標ロールモーメントMxrefは数式(7)で示す目標ロールレートφref'にロール慣性モーメントIxを乗ずることによって求めることができる。
【0067】
数式(6)、数式(7)に示すように、目標ヨーレートγref及び目標ロールレートφref'は、車両1の速度Vと車両1の操舵輪(前輪)の操舵角θとを制御パラメータとして取得することによって求めることができる。なお、車両1の速度Vは車速センサ44から、操舵角θは操舵角センサ43から求めることができる。
【0068】
ここで、Vは車両の速度、Kφは車両のロール剛性、hsは車両のロール軸から重心までの高さ、gは重力加速度、nはステアリングのギヤ比、γはヨーレート、φはロール角、Kfは前輪のコーナーリングパワー、Krは後輪のコーナーリングパワー、khは車両のスタビリティファクター、Msは車両のばね上質量、θは車両の操舵輪の操舵角、βは車両のスリップ角、Ixはロール慣性モーメント、Izはヨー慣性モーメント、Ixzはヨー/ロール慣性モーメントである。
【0069】
【数6】

【0070】
【数7】

【0071】
ここで、目標ロールレートφref'の導出方法を説明する。入力をヨーレートγ、車両1のスリップ角(車体スリップ角)をβとしたときにおけるロール角φの応答φ(S)は、数式(8)で表すことができる。ここで、Gφ(0)は数式(9)で、ξφは数式(10)で、ωφは数式(11)で、Tφは数式(12)で表される。
【0072】
【数8】

【0073】
【数9】

【0074】
【数10】

【0075】
【数11】

【0076】
【数12】

【0077】
また、入力を車両1の操舵輪(前輪)の操舵角(以下単に操舵角という)θとしたときにおけるヨーレートγの応答γ(S)は数式(13)で、入力を操舵角θとしたときにおける車体スリップ角βの応答β(S)は数式(14)で表すことができる。ここで、Gγ(0)は数式(15)で、Gβ(0)は数式(16)で、ξは数式(17)で、ωは数式(18)で表される。数式(9)〜数式(18)を用いて、数式(8)を整理すると、車体スリップ角をβとしたときにおけるロール角φの応答φ(S)は、数式(19)のように表される。
【0078】
【数13】

【0079】
【数14】

【0080】
【数15】

【0081】
【数16】

【0082】
【数17】

【0083】
【数18】

【0084】
【数19】

【0085】
数式(19)より、入力される操舵角θに対するロール角φの応答を知ることができる。ここで、数式(19)の定常ゲイン部Gφ(0)Gγ(0)と操舵角θとを乗じたものを、目標ロール角φrefと定義する。すなわち、目標ロール角φrefは、数式(20)で表される。数式(20)からわかるように、目標ロール角φrefは、入力される操舵角θに対し、伝達関数によって遅れを考慮しないで求めることができるロール角である。
【0086】
【数20】

【0087】
目標ロールレートは、目標ロール角φrefを微分したものとする。つまり、数式(20)の定常ゲイン部Gφ(0)Gγ(0)を定数として扱い、入力される操舵角θを微分したものが、数式(21)で表される目標ロールレートφref'である。数式(21)のGφ(0)を数式(9)に、Gγ(0)を数式(15)に置き換えると、数式(7)の目標ロールレートφref'である。
【0088】
【数21】

【0089】
車両挙動制御装置30の制御判定部32は、駆動力演算部31が取得した前後駆動力配分比iを取得して数式(2)の行列Aに与え、数式(1)の連立方程式が可解であるか否かを判定する(ステップS102)。すなわち、rank(A)=4である場合に、数式(1)の連立方程式は可解となる。数式(1)の連立方程式は可解である場合(ステップS102:Yes)、目標ヨーモーメントMzrefと目標ロールモーメントMxrefとをともに満足させることができる。
【0090】
この場合、駆動力演算部31は、車両1の総駆動力Fを取得するとともに、数式(3)に、ステップS101で取得した目標ヨーモーメントMzref、目標ロールモーメントMxref、前後駆動力配分比i及び総駆動力Fを与えて、各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを求める。車両挙動制御装置30の駆動力制御部33は、決定された各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを車両1の各輪が発生できるように、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l及び右後側電動機11rの出力を決定する。そして、駆動力制御部33は、決定された出力となるように左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l及び右後側電動機11rを駆動する。これによって、車両1のヨーとロールとを同時に制御して(ステップS103)、ロールを抑制しつつ運転者が望む旋回性能を確保する。なお、車両1の総駆動力Fは、車両1が備える各電動機に供給する電力に基づいて求めることができる。
【0091】
数式(1)の連立方程式が可解でない場合(ステップS102:No)、すなわち、rank(A)≠4である場合には、目標ヨーモーメントMzrefと目標ロールモーメントMxrefとをともに満足させることはできない。この場合、目標ヨーモーメントMzref又は目標ロールモーメントMxrefのいずれか一方を満たすように制御する。ここで、目標ヨーモーメントMzrefを満たす制御をヨー制御(又はヨーの制御)といい、目標ロールモーメントMxrefを満たす制御をロール制御(又はロールの制御)という(以下同様)。
【0092】
目標ヨーモーメントMzref又は目標ロールモーメントMxrefのいずれか一方を満たすように制御するにあたり、目標ロールモーメントMxrefを満たすように制御する。これにより、車両1のロールを抑制する。このとき、車両1のロールを制御するための目標ロールモーメントMxrefを発生させるために必要な各輪の駆動力によって、車両1に発生するヨーモーメントMxzが車両1として上限のヨーモーメント(ヨーモーメント上限値)Mz_maxを超える場合、車両1はスピンに陥るおそれが極めて高い。このため、Mxz>Mz_maxである場合には、目標ヨーモーメントMzrefを優先して満たすことができるようにする。これによって、車両1の挙動の安定化を図る。
【0093】
式(1)の連立方程式が可解でない場合(ステップS102:No)、駆動力演算部31は、数式(4)を解いて目標ロールモーメントMxrefを満足できる各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを求める。そして、制御判定部32は、駆動力演算部31が求めた各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrによって車両1に発生するヨーモーメントMxzを求め、ヨーモーメント上限値Mz_maxと比較する(ステップS104)。
【0094】
Mxz>Mz_maxである場合(ステップS104:Yes)、車両1はスピンに陥るおそれが極めて高いので、制御判定部32は、目標ロールモーメントMxrefではなく、目標ヨーモーメントMzrefを満たすように制御すると判定する。この判定を受けて、駆動力演算部31は、数式(5)を解くことによって、目標ヨーモーメントMzrefを満たす各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを求める。そして、駆動力制御部33は、決定された各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを車両1の各輪が発生できるように、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l及び右後側電動機11rを駆動する。これによって、車両1のヨーを制御して(ステップS105)、車両1がスピンに陥る危険性を回避し、車両1を安定して旋回させる。
【0095】
Mxz≦Mz_maxである場合(ステップS104:No)、ロール制御又はヨー制御を選択する(ステップS106)。この場合、車両1の運転状況を考慮して、ロール制御とするかヨー制御とするかを判定する。次に、図8を用いて、この判定について説明する。車両1の運転状況は、操舵角θの大きさと、操舵の状態とから判定する。このようにすることで、車両1の運転者の意思に沿って、車両1の運動や姿勢を制御することができる。
【0096】
制御判定部32は、操舵角センサ43から操舵角θを取得し、前記操舵角θが中立付近、かつ操舵が過渡状態であるか否かを判定する(ステップS201)。操舵角θが中立付近であるか否かは、例えば操舵角θが所定の閾値(例えば±5度程度)以内の値であれば、操舵角θが中立付近であると判定する。また、操舵の状態は、例えば、操舵角θを時間で微分した時間微分値dθ/dtが0でない場合(dθ/dt≠0)に、操舵が過渡状態にあると判定する。なお、操舵角の時間微分値dθ/dtは、操舵角の速度である。
【0097】
操舵角θが中立付近、かつ操舵が過渡状態である場合(ステップS201:Yes)、ロール制御を実行する(ステップS202)。これによって、微小な操舵領域における車両1のロールを抑制することによって、旋回初期に発生するロールや、いわゆるレーンチェンジ時等に発生するロールを抑制して、車両1の挙動を安定させることができる。
【0098】
操舵角θが中立付近でない場合(すなわち操舵角θが所定の閾値を超えた場合)、又は操舵が過渡状態でない場合(dθ/dt=0)、すなわち操舵角θが一定値を保っている場合(ステップS201:No)、ヨー制御を実行する(ステップS203)。これによって、操舵角θに対する車両1のヨーゲインを確保して、操舵角θが大きい場合における運転者の車両1を旋回させる意思を反映させることができる。
【0099】
上記判定によってロール制御とするかヨー制御とするかを切り替えると、不連続的にロール制御又はヨー制御が切り替えられて、ドライバビリティを悪化させたり、車両1の挙動が不安定になったりするおそれがある。このため、この実施形態では、各輪の駆動力に重み係数を乗ずることによって、ロール制御とヨー制御とが連続的に切り替えられるようにする。重み係数Yは、ヨー制御の割合を決定するための係数であり、0以上1以下の範囲で変化する。ここで、ロール制御の割合は、重み係数Yが決定されれば(1−Y)で求めることができる。
【0100】
図9は、重み係数Yを記述した重み係数マップの一例を示す説明図である。重み係数マップ70はECU50の記憶部50mに格納されており、操舵角θの大きさと操舵の過渡状態(すなわち操舵角θの時間微分値dθ/dt)とに基づいて決定された重み係数Yが記述されている。ここで、β0(=0)<β1<β2<β3<β4<β5、β0'(=0)<β1'<β2'<β3'<β4'<β5'であり、重み係数Yは、Y1(=0)<Y2<Y3<Y4(=1)となっている。すなわち、操舵角θが大きくなるにしたがって、かつdθ/dt=θ'が0に近づくにしたがってヨー制御の割合が多くなるようになっている。
【0101】
重み係数Yを用いた駆動力は、次のように決定される。例えば左側前輪駆動力Fflを決定する場合、目標ロールモーメントを発生させるための駆動力(数式(4)を解くことによって得られた駆動力)をFfl_rとし、目標ヨーモーメントを発生させるための駆動力(数式(5)を解くことによって得られた駆動力)をFfl_yとする。
【0102】
重み係数Yは、を用いて左側前輪駆動力Fflを表すと、Ffl=(1−Y)×Ffl_r+Y×Ffl_yとなる。他の駆動輪の駆動力Ffr、Frl、Frrについても同様に決定する。このようにすれば、ロール制御とヨー制御とを連続的に切り替えることができるので、ドライバビリティが悪化したり、車両1の挙動が不安定になったりするおそれを低減できる。
【0103】
ロール制御とするか、ヨー制御とするかが決定されたら(ステップS202又はステップS203)、駆動力演算部31は、操舵角θ及びその時間微分値θ'(=dθ/dt)を取得し、これらを重み係数マップ70に参照する(ステップS204)。そして、駆動力演算部31は、前記操舵角θ及びその時間微分値θ'から決定される重み係数Yを取得し(ステップS205)、取得した重み係数Yを用いて各輪の駆動力を演算する(ステップS206)。
【0104】
ステップS106においては、上述したステップS201〜ステップS206の手順によってロール制御とするか、ヨー制御とするかが決定される。ロール制御とする場合(ステップS106:Yes、ステップS201:Yes)、ステップS204〜S206で決定された各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを車両1の各輪が発生できるように、駆動力制御部33は、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l及び右後側電動機11rを駆動する(ステップS107)。ヨー制御とする場合(ステップS106:No、ステップS201:No)、ステップS204〜S206で決定された各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを車両1の各輪が発生できるように、駆動力制御部33は、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l及び右後側電動機11rを駆動する(ステップS108)。
【0105】
以上、実施形態1では、車両のヨー方向における目標モーメント又は車両のロール方向における目標モーメント又は車両のピッチ方向における目標モーメントのうち少なくとも2方向における目標モーメントと、駆動輪の総駆動力と、前記駆動輪の駆動反力とに基づいて左右の駆動輪の駆動力を求める。そして、少なくとも2方向における目標モーメントを同時に満たすことができるように、各輪の駆動力を制御する。これによって、運転者の望む性能を確保して、ドライバビリティを向上させることができる。特に、実施形態1のように、目標ヨーモーメントと目標ロールモーメントとを両立できるように制御すると、ロールを抑制しつつ運転者が望む旋回性能を確保できる。なお、実施形態1で開示した構成を備えるものは、実施形態1及びその変形例と同様の作用、効果を奏する。また、実施形態1の構成は、以下の実施形態においても適宜適用することができる。
【0106】
(実施形態2)
実施形態2は、実施形態1と同様であるが、ヨー運動、ロール運動に加え、車両のピッチ運動も制御対象とする点が異なる。実施形態2に係る車両挙動制御の原理的な考え方は実施形態1に係る車両挙動制御と同様である。実施形態2では、実施形態1に係る走行装置100を搭載した車両1の車両挙動制御を説明する。まず、実施形態2に係る車両挙動制御において各輪の駆動力を決定する手法を説明する。
【0107】
この実施形態に係る車両挙動制御では、車両1の駆動輪が発生する駆動力を制御することによって、車両1のヨー(Z軸周りの回転)、ロール(X軸周りの回転)、及びピッチ運動(Y軸周りの運動)を制御する。ピッチ慣性モーメントをIp、目標ピッチレートをP_ref、前輪荷重(左側前輪2l及び右側前輪2rの荷重)をWf、後輪荷重(左側後輪3l及び右側後輪3rの荷重)をWr、静的前輪荷重(左側前輪2l及び右側前輪2rの静的な荷重)をWf0、静的後輪荷重(左側後輪3l及び右側後輪3rの静的な荷重)をWr0とすると、ピッチングの運動方程式は、数式(22)〜数式(24)のように記述することができる。なお、ピッチ慣性モーメントIpと目標ピッチレートP_refとの積は、目標ピッチモーメントMyrefとなる。
【0108】
ここで、Ff1は前輪駆動反力であり、数式(25)に示すように、左側前輪駆動反力Ffl×tanαflと右側前輪駆動反力Ffr×tanαfrとの和で表される。また、Fr1は後輪駆動反力であり、数式(26)に示すように、左側後輪駆動反力Frl×tanαrlと右側後輪駆動反力Frr×tanαrrとの和で表される。そして、数式(22)〜数式(24)及び数式(25)、数式(26)をまとめて表現すると、数式(27)のようになる。なお、数式(27)の左辺に示すIp×P_refは、目標ピッチモーメントMyrefである。
【0109】
【数22】

【0110】
【数23】

【0111】
【数24】

【0112】
【数25】

【0113】
【数26】

【0114】
【数27】

【0115】
各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrとヨー運動を制御するために要求される目標ヨーモーメントMzref、同じく各輪の駆動反力とロール運動を制御するために要求される目標ロールモーメントMxref、総駆動力F、さらに各輪の駆動反力の関係で表現できる目標ピッチモーメントMyrefから、数式(28)で示す連立方程式が得られる。数式(28)で表現される連立方程式を、各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrについて解くことによって、目標ヨーモーメントMzref、目標ロールモーメントMxref及び目標ピッチモーメントMyrefすべてを満足する各輪の駆動力を得ることができる。
【0116】
【数28】

【0117】
数式(28)を行列式で表現すると、数式(29)のようになる。ここで、右辺の第1行列をAとすると、rank(A)=4の場合に行列Aは正則となり、数式(29)で示す連立方程式は解くことが可能(可解)であることがわかる。この場合、数式(30)に示すように、数式(29)の両辺に、左側からAの逆行列A-1を乗ずることで、目標ヨーモーメントMzref、目標ロールモーメントMxref及び目標ピッチモーメントMyrefを満たす各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを求めることができる。次に、この実施形態に係る車両挙動制御を説明する。なお、実施形態2に係る車両挙動制御は、実施形態1に係る車両挙動制御装置(図6参照)によって実現できる。次の説明においては、適宜図1〜6を参照されたい。
【0118】
【数29】

【0119】
【数30】

【0120】
図10は、実施形態2に係る車両制御の手順を示すフローチャートである。この実施形態に係る車両挙動制御を実行するにあたって、車両挙動制御装置30の駆動力演算部31は、目標ヨーモーメントMzref、目標ロールモーメントMxref及び目標ピッチモーメントMyrefを取得する(ステップS301)。ここで、目標ピッチモーメントMyrefは、上述したように、ピッチ慣性モーメントIpと目標ピッチレートP_refとの積で求めることができ、目標ピッチレートP_refは数式(31)によって表される。数式(31)中のP_ref_tepは、数式(32)によって表される。なお、数式31はSの領域で記述されており、左辺の目標ピッチレートP_refに付される(S)は、Sの領域で記述していることを示すものである。数式(31)を時間領域へ変換することにより、時間領域における目標ピッチレートP_refを得ることができる。
【0121】
【数31】

【0122】
【数32】

【0123】
ここで、Goはピッチ角ゲインであり実験等から求める。また、DF_refは、ドライバが要求する駆動力、Sはラプラス演算子である。数式(32)のままでは、微分要素によって速いアクセル踏み込み時においては駆動力が高ゲインとなり、駆動力が急激に増減することによって車両1の前後加速度の変動が大きく、ドライバビリティと車両1の挙動抑制との両立が難しくなる。したがって、数式(31)のように、一次遅れをプレフィルタとして数式(32)へ追加して目標ピッチレートP_refとすることにより、ドライバビリティと車両1の挙動抑制との両立を図っている。
【0124】
車両挙動制御装置30の制御判定部32は、数式(28)の連立方程式が可解であるか否かを判定する(ステップS302)。すなわち、rank(A)=4である場合に、数式(28)の連立方程式は可解となる。数式(28)の連立方程式は可解である場合(ステップS302:Yes)、目標ヨーモーメントMzrefと目標ロールモーメントMxrefと目標ピッチモーメントMyrefをともに満足させることができる。
【0125】
この場合、駆動力演算部31は、車両1の総駆動力Fを取得するとともに、数式(30)に、ステップS301で取得した目標ヨーモーメントMzref、目標ロールモーメントMxref、目標ピッチモーメントMyref及び総駆動力Fを与えて、各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを求める。車両挙動制御装置30の駆動力制御部33は、決定された各輪の駆動力Ffl、Ffr、Frl、Frrを車両1の各輪が発生できるように、左前側電動機10l、右前側電動機10r、左後側電動機11l及び右後側電動機11rを駆動する。これによって、車両1のヨーとロールとピッチとを同時に制御する(ステップS303)。ここで、ピッチの制御(ピッチ制御)とは、目標ピッチモーメントMyrefとなるように、車両1の各輪の駆動力を制御することをいう。
【0126】
数式(28)の連立方程式が可解でない場合(ステップS302:No)、すなわち、rank(A)≠4である場合には、目標ヨーモーメントMzrefと目標ロールモーメントMxrefと目標ピッチモーメントMyrefとをともに満足させることはできない。この場合、目標ヨーモーメントMzref又は目標ロールモーメントMxrefのうち、少なくとも一方を満たすようにする制御へ変更される(ステップS304)。
【0127】
目標ヨーモーメントMzref又は目標ロールモーメントMxrefのうち、少なくとも一方を満たす制御へ変更されたら(ステップS304)、駆動力演算部31は、前後駆動力配分比iを取得する(ステップS305)。そして、車両挙動制御装置30の制御判定部32は、駆動力演算部31が取得した前後駆動力配分比iを取得して数式(29)の行列Aに与え、数式(28)の連立方程式が可解であるか否かを判定する(ステップS306)。ステップS307〜ステップS312は、実施形態1におけるステップS103からステップS108と同様なので、説明を省略する。
【0128】
以上、実施形態2では、車両のヨー方向における目標モーメント又は車両のロール方向における目標モーメント又は車両のピッチ方向における目標モーメントのうち少なくとも2方向における目標モーメントと、駆動輪の総駆動力と、前記駆動輪の駆動反力とに基づいて左右の駆動輪の駆動力を求める。そして、少なくとも2方向における目標モーメントを同時に満たすことができるように、各輪の駆動力を制御する。これによって、運転者の望む性能を確保して、ドライバビリティを向上させることができる。なお、実施形態2で開示した構成を備えるものは、実施形態1及びその変形例と同様の作用、効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0129】
以上のように、本発明に係る走行装置は、少なくとも一対の左右の駆動輪間において、それぞれの駆動力を異ならせることができる走行装置に対して有用であり、特に、運転者の望む性能を確保して、ドライバビリティを向上させることに適している。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】実施形態1に係る走行装置を備える車両の構成を示す概略図である。
【図2】実施形態1に係る走行装置が備える前輪用懸架装置の構成例を示す説明図である。
【図3】実施形態1に係る走行装置が備える後輪用懸架装置の構成例を示す説明図である。
【図4】実施形態1に係る走行装置の変形例を示す説明図である。
【図5−1】実施形態1に係る車両挙動制御を説明するための概念図である。
【図5−2】実施形態1に係る車両挙動制御を説明するための概念図である。
【図5−3】実施形態1に係る車両挙動制御を説明するための概念図である。
【図6】実施形態1に係る車両挙動制御装置の構成例を示す説明図である。
【図7】実施形態1に係る車両制御の手順を示すフローチャートである。
【図8】実施形態1に係る車両制御の手順を示すフローチャートである。
【図9】重み係数Yを記述した重み係数マップの一例を示す説明図である。
【図10】実施形態2に係る車両制御の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0131】
1、1a 車両
1B 車両本体
2l 左側前輪
2r 右側前輪
3l 左側後輪
3r 右側後輪
4 ハンドル
5 アクセル
6 インバータ
7 車載電源
8 前輪用懸架装置
9 後輪用懸架装置
10l 左前側電動機
10r 右前側電動機
11r 右後側電動機
11l 左後側電動機
30 車両挙動制御装置
31 駆動力演算部
32 制御判定部
33 駆動力制御部
42 アクセル開度センサ
43 操舵角センサ
44 車速センサ
45 前後加速度センサ
46 横方向加速度センサ
60 内燃機関
61 トランスミッション
62 駆動力配分装置
62 前後駆動力配分装置
63 プロペラシャフト
64 後輪用駆動力配分装置
70 重み係数マップ
100、101 走行装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が備える少なくとも一対の左右の駆動輪の間において、それぞれの駆動力を異ならせることができ、かつ、
前記車両のヨー方向において要求される目標モーメント又は前記車両のロール方向において要求される目標モーメント又は前記車両のピッチ方向において要求される目標モーメントのうち少なくとも2方向における目標モーメントと、前記駆動輪の総駆動力と、前記駆動輪の駆動反力とに基づいて求められた前記左右の駆動輪の駆動力で、前記左右の駆動輪が駆動されることを特徴とする走行装置。
【請求項2】
前記車両のヨー方向における目標モーメントと前記左右の駆動輪の間における駆動力差との関係、又は前記車両のロール方向における目標モーメントと前記左右の駆動輪の間における駆動反力差との関係、又は前記車両のピッチ方向における目標モーメントと前記左右の駆動輪の駆動反力との関係のうち少なくとも二つの関係に基づいて、前記左右の駆動輪の駆動力が求められることを特徴とする請求項1に記載の走行装置。
【請求項3】
前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントと、前記車両のピッチ方向の目標モーメントとを用いて前記左右の駆動輪の駆動力を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行装置。
【請求項4】
前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントとを用いて前記左右の駆動輪の駆動力を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行装置。
【請求項5】
前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントと、前記車両のピッチ方向における目標モーメントとを同時に満たすことができない場合には、前記車両のヨー方向における目標モーメント又は前記車両のロール方向における目標モーメントのうち、少なくとも一方を満たすようにすることを特徴とする請求項3に記載の走行装置。
【請求項6】
前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントとを同時に満たすことができない場合において、前記車両のロールを制御するための駆動力を前記左右の駆動輪が発生することによって前記車両に発生するヨーモーメントが、前記車両の限界のヨーモーメントを超えるときには、前記車両のヨー方向における目標モーメントを満たすように制御することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項7】
前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントとを同時に満たすことができない場合には、前記車両のロール方向における目標モーメントを満たすようにすることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項8】
前記車両のヨー方向における目標モーメントと、前記車両のロール方向における目標モーメントとを同時に満たすことができない場合には、前記車両のヨー方向における目標モーメントを満たすようにすることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項9】
前記車両の操舵輪の操舵角と、前記操舵角の速度とに基づいて、前記車両のヨー方向における目標モーメントを満たすようにするか、又は前記車両のロール方向における目標モーメントを満たすようにするかを切り替えることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項10】
前記操舵角が所定の閾値以内であり、かつ前記操舵角の速度が0でない場合には、前記車両のロール方向における目標モーメントを満たすようにすることを特徴とする請求項9に記載の走行装置。
【請求項11】
前記操舵角が所定の閾値よりも大きいか、又は前記操舵角の速度が0である場合には、前記車両のヨー方向における目標モーメントを満たすようにすることを特徴とする請求項9に記載の走行装置。
【請求項12】
前記駆動輪の動力発生源は、前記駆動輪に取り付けられる電動機であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の走行装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−5635(P2008−5635A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173156(P2006−173156)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】