説明

超硬合金工具材料、およびその製造方法

【課題】 カーボンナノチューブを添加した超硬合金工具材料、およびその製造方法に関するものであり、切削工具、耐摩耗、耐衝撃工具等、より一層の高靱性と高硬度の素材が望まれている切削加工用素材を提供する。
【解決手段】 炭化タングステン粉末85〜95重量%、コバルト粉末残部からなるものとした原料粉末に、カーボンナノチューブを0.01〜1.00重量%添加し、液相焼結して得られた抗折力が2700MPa以上であることを特徴とする炭化タングステン−コバルト系超硬合金工具材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーボンナノチューブを添加した超硬合金工具材料、およびその製造方法に関するものであり、切削工具、耐摩耗、耐衝撃工具等、より一層の高靱性と高硬度の素材が望まれている切削加工処理用金属素材の提供に係る分野は固よりのこと、その素材を使って、より効率的且つ長寿命金型など素材の分野に属するものである。
【0002】
従来の高硬度合金工具材料としては、WC−Co系超硬合金や、TiCーTi系、WCーTi系などのサーメットに代表される分散硬質型合金が広く用いられている。WC−Co系超硬合金は硬度90.5〜92.5(HRA)、抗折力1400〜2500(MPa)、ヤング率450〜600(GPa)程度、サーメットは、硬度90〜92.7(HRA)、抗折力1700〜2100(MPa)程度である。
【0003】
超硬合金またはサーメットは、周期律表の4a,5a,6a族の金属元素の炭化物または炭窒化物からなる硬質相をFe、Co、Niなどの鉄系金属を結合材として焼結した複合材料である。機械的特性が最も秀れるものはWC−Co系合金であり、この合金を狭義には超硬合金と呼んでいる。何れの合金も低温硬さは勿論、高温硬さが秀れ、高強度で諸物性が安定であることを特徴としている。WC−Co系超硬合金以外に、切削工具として、耐酸化性を向上させた、WC−Co−TiC−Co系超硬合金、WC−Co−TaC−Co系超硬合金、
WC−TiC−TaC−Co系超硬合金が用いられている。一方、結合相をNiとするWC−Ni系超硬合金は、Ni中へのWの固溶量が一定以上で磁性を失い、非強磁性となること、Crの添加により、さらに耐食性が向上する特徴を有し、WC−Ni−Cr系超硬合金も実用化されている。
【0004】
超硬合金の抗折力を高める手段として、高温焼結中のWCの粒成長抑制成分を添加することが知られており、この手段によって抗折力の大きな超微粒子超硬合金が開発されている(例えば、特許文献1)。また、Coレス金型用超硬合金としてカーボンナノチューブを粒径0.54μm以下のWC微粒子中に分散させてパルス通電加熱焼結法によりバルク化した材料が開発されている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−346370号公報
【非特許文献1】長野県工業試験場研究報告No.24−2004,p.28−33
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超硬合金は、CVD(化学気相蒸着)法によるコーティング技術によってさらに耐摩耗性が改善されたが、材料の基本的な剛性、靱性については十分でない。工具材料、特に切削工具材料として、超硬合金の最も高い硬度を有し、超微粒子超硬合金を上回る靱性のある材料の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明者らは、カーボンナノチューブの物理的特性を利用し、工具材料、特に切削工具材料として秀れた特性を兼ね備えた材料の開発に成功した。
【0007】
即ち、この発明の超硬合金工具材料は、原料粉末にカーボンナノチューブを0.01〜1.00重量%添加して液相焼結して得られた抗折強度が2700MPa以上であることを特徴とする炭化タングステン−コバルト系超硬合金工具材料である。この焼結超硬合金工具材料は、炭化タングステン粉末とコバルト粉末とに、全量に占める重量割合が0.01〜1.00重量%となるようにカーボンナノチューブを添加した粉末を、ボールミルで湿式混合して成形した後、不活性ガス雰囲気、または真空中で1200〜1500℃で液相焼結することによって製造することができる。
【0008】
超硬合金材料は、一般には粉末冶金法にて製造される。成形は、金型を用いたプレス成形法や、原料粉末に有機バインダーを配合、混練することによってコンパウンドを作り、これを加熱流動化させて射出成形や押し出し成形する方法などが用いられている。
【0009】
成形体は、通常600〜1000℃で予備焼結し、次いで液相出現温度以上、通常1300〜1550℃程度で本焼結する。昇温と共にWとCとがCo中に固溶すると共にCo粉末同士の固相焼結が進む。この際、合金炭素量が規定値を超えると遊離炭素を生じ、合金炭素量が不足するとη相(CoC)を生じ機械的性質が劣化する。
【0010】
よって、超硬合金の製造に於いて最も重要な事は、η相や遊離炭素を生じない健全組織を得ることである。しかし、η相や遊離炭素が生じない健全組織において、Co液相中のW溶解度、または凝固温度における結合相中へのW固溶量は、合金炭素量によって変化することから、健全組織においても厳密な炭素量の調節が必要とされていた。このため、一般的には炭素量の調節にカーボンブラックを所定量添加している。
【0011】
この発明において、カーボンナノチューブは、焼結超硬合金の組織中に分散含有され、カーボンナノチューブの物理的特性を利用して、超硬質粒子であるWC粒子と結合材のCo金属との結合力の強い超硬合金工具材料を提供することができる。
【0012】
抗折力を著しく大きくすることができる理由は明らかではないが、WC粉末、Co粉末にカーボンナノチューブを添加して混合し均質に共存させることにより、カーボンナノチューブの物理特性である高靭性によって、靭性強化材として働き、著しく大きな靭性をもたらしたものと推察される。
【発明の効果】
【0013】
従来の超微粒超硬合金の抗折力は2600〜2700MPaであり、本発明は、それを上回る2700MPa程度以上、より好ましくは3000MPa以上の抗折力を持つ超硬合金工具材料が提供できる。切削工具の刃先の先端は、シャープエッジになっていて靭性が乏しいと欠け易いが、この発明の工具材料を用いることによって工具寿命を著しく延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、この発明の工具材料の製造方法を説明する。この発明の工具材料の主な原料となるものは炭化タングステン粉末であり、結合材としてのコバルト金属粉末を混合したものにカーボンナノチューブを添加、混合する。
【0015】
この発明で使用されるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブのいずれかに限ったものではない。またカーボンナノチューブの直径と長さも限定されるものではないが、製造の容易性や機能発現性などの点から、カーボンナノチューブの直径は1〜20nm、長さは1〜20μmの範囲が好ましく、より好ましくは、直径1〜2nm、長さ1〜2μmの単層カーボンナノチューブ、または直径1〜20nm、長さ1〜20μmの多層カーボンナノチューブを用いる。
【0016】
カーボンナノチューブの見掛密度は、0.78〜1.8(g/cm)程度であり、同じ重さでは鉄鋼の100倍の強度を持つ。酸やアルカリと反応せず、耐食性が高く、ヤング率400〜500GPa程度のものから1000GPaを超えるものもあるが、本発明では、1000GPaを超えるものを用いることが好ましい。
【0017】
WC粉末の平均粒径は0.5〜12μm、より好ましくは、0.5〜1.0μm、Co金属粉末の平均粒径は0.5〜1.9μm、より好ましくは0.5〜1.0μmのものを使用する。なお、平均粒径は、フィッシャー法JIS
H 2116による装置で測定した平均粒径のことである。これらの粉末およびカーボンナノチューブについては、市販の材料として入手できる。
【0018】
原料粉末の混合物中のカーボンナノチューブは、全量に占める重量割合が0.01〜1.00重量%, より好ましくは0.1〜0.5重量%となる割合が好ましい。カーボンナノチューブ粉末が0.01重量%未満では物理的特性は発揮できず、1.00重量%を超えると均一分散ができなくなるので、良好な焼結体が得られなくなるので好ましくない。原料粉末の混合物中の結合材のCo粉末は5〜15重量%とすることが好ましい。Co粉末が5重量%未満では結合強度が低下し、15重量%を超えると超硬合金の硬度が低下する。より好ましくは8〜12重量%とする。WC−Co系超硬合金以外に、従来公知のWCーTiC−Co系超硬合金、
WC−TaC−Co系超硬合金、WC−TiC−TaC−Co系超硬合金のようにWCの一部を他の硬質粒子に置換してもよい。
【0019】
原料粉末は、溶媒としてアセトン、アルコールなどを用い、ボールミルによって湿式粉砕、混合することが望ましい。カーボンナノチューブの物理的特性を利用し、硬質粒子の界面に接合するよう十分に混合を行うようにするのが望ましい。混合粉末を減圧乾燥機に入れて5〜8時間乾燥を行って取り出し、継ぎ目型メッシュラーで分級し、平均粒径0.4〜1.5μmの粉体とするのが望ましい。
【0020】
次に、混合物は、粉体圧縮プレスまたは冷間静水圧プレスなどによって成形体とする。そして、引き続き、成形体を1200〜1500℃で焼結する。1200℃未満では、Coが十分に液相化せず、1500℃を超えるとWCが異常粒成長するので不適当である。より好ましくは、1350〜1450℃で焼結する。この高温焼結前に700〜900℃程度で仮焼結し、未硬化状態の時に所望の形状に切削加工によって仮成形およびブランク成形を行うこともできる。仮焼結の温度が700℃未満では切削加工時に脆性破壊を発生し易く、900℃を超えてしまうと硬度が出始め、切削加工がし難くなるので不適当である。
【0021】
焼結は、不活性ガス雰囲気または真空中で行わなければならない。10−2Torr程度の真空度での仮焼成、10−3〜10−5Torr程度の真空度での本焼成を行うのが望ましい。大気中の場合、カーボンナノチューブは1200℃位で昇華してしまう。真空焼成において、窒素ガス注入によって炉内の酸化防止対策を行った上、真空バキュームによって焼成中に発生する不純物を吸収すると共に、焼成終了後の高温からの冷却速度をコントロールするようにするのが望ましい。なお、焼結にはホットプレスや熱間等方圧加圧プレス、熱間粉末押し出し成形を用いることもできる。
【実施例】
【0022】
炭化タングステン(日本新金属製 WC−F(C)粒度0.45〜0.75μm)、コバルト(umicore製ULTRAFINE、粒度0.8〜0.9μm)にカーボンナノチューブ(本庄ケミカル製:SWNTφ1〜1.2nm、長さ1〜1.5μm、ヤング率1060GPa)を添加し、超硬合金ボール(Φ6〜9)を使用し、ボールミルで約72時間ウェット(アルコール)粉砕混合後、これを減圧乾燥機に入れて5〜8時間乾燥を行って取り出し、継ぎ目型メッシュラーで分級し、表1に示す実施例1〜3の組成割合の平均粒径0.5μmの粉体を用意した。
【0023】
均一に混合された粉体混合物をφ80mm、深さ50mmの金型に充填し、立ち型粉体圧縮プレスにより1000(kg/cm)の圧力でプレス、または冷間静水圧プレスにより、1000(kg/cm)のプレス圧力によって所定寸法の成形体とした。この成形体をバッチ式真空炉内で、仮焼結(温度800℃)、外径厚さ余肉1〜1.5(mm)の所定寸法にブランク成形した後、本焼結(温度1380℃、1時間保持)を行った。 また、比較例としてカーボンナノチューブに代えてカーボンブラックを0.14重量%添加した超硬合金を製作した。
【0024】
得られた焼結体を平面研削盤のダイヤモンド砥石により、試験片寸法に精密に加工を行った。焼結体のテストピースの3点曲げ強度は、旧超硬合金JIS B−4104により、試験片寸法は幅8、厚み4(mm)、支点間距離は20(mm)とし、n=5本とした。硬さ試験はAKASHI製マイクロビッカース硬度計、試験荷重1(kg)、6箇所測定とした。3点曲げ強度はHIP処理無しの値である。表1に、得られた特性を比較例、従来の超硬合金、サーメットと比較して示す。本発明の超硬合金は、比較例、従来の超硬合金、サーメットと比べて、抗折力が大幅に秀れていることが分かる。

【表1】

【0025】
図1に、試験片の組織を観察した走査型電子顕微鏡写真を示す。図1から焼結原料粒子の分散が非常に良好なことが分かる。また、図2に、3点曲げ強度試験後の破断面を観察した走査型電子顕微鏡写真を示す。そして、図3に、破断面を更に拡大して示す走査型電子顕微鏡写真を示す。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明の工具材料は、従来、サーメットや超硬合金が使用されている切削工具、耐摩耗性、耐衝撃工具など、より一層の高靱性、高硬度の素材が望まれている切削加工用の金属素材の提供に関わる分野は固よりのこと、その素材を使ってより効率的且つ長寿命金型など素材の分野において特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例3で得られた試験片について、合金の組織を示す図面代用走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例3で得られた試験片について、3点曲げ強度試験後の破断面を示す図面代用走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で得られた試験片について、破断面を更に拡大して示す図面代用走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末にカーボンナノチューブを0.01〜1.00重量%添加し、液相焼結して得られた抗折力が2700MPa以上であることを特徴とする炭化タングステン−コバルト系超硬合金工具材料。
【請求項2】
原料粉末が、炭化タングステン粉末85〜95重量%、コバルト粉末残部からなるものとした、請求項1記載の炭化タングステン−コバルト系超硬合金工具材料。
【請求項3】
カーボンナノチューブが直径1〜2nm、長さ1〜2μm、ヤング率1000GPa以上の単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1記載の焼結超硬合金工具材料。
【請求項4】
炭化タングステン粉末とコバルト粉末とに、全量に占める重量割合が0.01〜1.00重量%となるようにカーボンナノチューブを添加した粉末を、ボールミルで湿式混合して成形した後、不活性ガス雰囲気、または真空中で1200〜1500℃で液相焼結することを特徴とする請求項1記載の超硬合金工具材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−257467(P2006−257467A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74138(P2005−74138)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度地域新生コンソーシアム研究開発事業「高機能CBN新合金を用いた超精密・微細加工用工具の開発」、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505095811)財団法人 山形県産業技術振興機構 (3)
【出願人】(391002225)株式会社片桐製作所 (1)
【Fターム(参考)】