説明

超音波探査方法および超音波探査装置

【課題】溶接部等の探査対象領域を探査し、該探査対象領域の断面画像を正確かつ安定して得られる超音波探査方法および超音波探査装置を提案する。
【解決手段】超音波を送受信する送受波位置を所定ピッチ間隔で位置変換する探査作動を、複数の入射角毎に行うと共に、反射波の高調波から取得したエコー信号を表示する非線形画像を、各入射角毎に生成し、探査対象領域の断面形状に合わせて各非線形画像をフレーム変換画像に夫々変換し、配向欠陥で発生したエコー信号を除去するための信号強度閾値を予め定めて、該信号強度閾値以上のエコー信号41aのみによる各フレーム変換画像を重ね合わせることにより非線形探査画像35を生成する。溶接部23を探査した場合には、溶接部23の界面25の形状を正確かつ明確化した非線形探査画像35を安定して得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材同士を溶接した構成等の被探査金属体を、非破壊により探査することによって、該被探査金属体の断面形状の探査画像を得ることのできる超音波探査方法および超音波探査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、スチール製の自動車用ホイールにあっては、ホイールリムとホイールディスクとを溶接した、所謂2ピース製のものが主流である。そして、ホイールディスクのフランジ部端縁とホイールリムの内周面とを隅肉溶接することにより、両者を接合してなるものが知られている。この自動車用ホイールは、重要保安部品であることから、所定の強度や耐久性等の力学的特性を充分に発揮できることが求められている。ここで、ホイールリムとホイールディスクとの溶接部にあっては、ホイールリムとホイールディスクとへの溶け込み深さを調べることによって、適正な接合力を有しているか否かの判定を行うことが可能である。
【0003】
上記した自動車用ホイールの製造現場にあって、その溶接部の溶け込み深さを調べる方法としては、通常、抜き取り検査により、自動車用ホイールの溶接部を切断し、この切断面の溶け込み深さを実測している。しかし、この方法では、検査に使用した自動車用ホイールを廃却することとなるため、抜き取る割合に応じて、この分の費用が生産コストに上乗せされる。また、この方法では、自動車用ホイールの切断作業、切断面の研磨作業、溶け込み深さを実測する作業を順次行うこととなるため、これら作業に比較的多くの時間と労力とを要する。
【0004】
また、上記の溶接部を検査として、本発明の発明者らは、特許文献1のように、超音波を用いた非破壊検査方法を提案している。かかる方法は、溶接部に超音波を発信して受信した反射波に含まれる二次高調波を取り出し、溶接部の界面で反射した界面反射波を二次高調波から割り出すことにより、溶接部の界面深さを測定するようにした方法である。この方法によれば、溶接部の界面深さを正確に測定することにより、溶接部が最も溶け込んでいる溶け込み深さを非破壊により検査することができる。さらに、超音波の発信と反射波を受信する測定位置を位置変換して、各測定位置で溶接部の界面深さを夫々に測定し、各界面深さの測定値に基づいて溶接部の界面形状を知ることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007 −101329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、製品(例えば自動車用ホイール)の溶接部の検査方法にあって、溶接部を切断して実測する検査方法では、溶接部の断面形状(切断面形状)を写真撮影することにより断面画像を得ることができるため、検査結果としての有用性が高い。これは、前記断面画像(写真)により溶接部の溶け込んでいる形状を一目で理解することができ、この溶け込み形状によっても溶接の適否を判定することができるためである。このようなことから、溶接部の検査には、該溶接部の断面形状を表す断面画像が求められている。
【0007】
一方、上記した特許文献1の非破壊検査方法では、複数の測定位置で夫々測定した溶接部の界面深さに基づいて溶接部の界面形状を知ることが可能であるが、該界面形状を安定して得ることに限界がある。これは、溶接部の界面深さを測定するために各測定位置毎に超音波の入射角が変わっていることから、測定位置によって、二次高調波に、溶接界面で反射した界面反射波の他の反射波も含まれており、界面反射波のみを正確かつ安定して抽出することが難しいためである。このように二次高調波に様々な反射波が含まれている場合には、測定者が界面反射波を選定して界面深さを測定することから、測定者のスキルによって界面深さの測定値が変わってしまうこともあり得る。さらに、各測定位置で超音波の入射角の設定には、測定者のスキルが影響することから、前記のように界面深さを安定して測定することが難しい要因ともなっている。
【0008】
本発明は、溶接部等の探査対象領域を探査し、該探査対象領域の断面画像を正確かつ安定して得ることができる超音波探査方法および超音波探査装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被探査金属体の探査対象領域に向けて所定周波数の超音波を発信して該超音波の反射波を受信する送受信位置を所定ピッチ間隔により順次位置変換させる探査作動を、予め設定した複数の超音波の入射角毎に実行すると共に、各入射角毎に前記反射波に含まれる高調波を取り出して、該高調波から取得されるエコー信号を超音波の発信からその反射波の受信までの応答時間に基づいて表示する前記探査対象領域の非線形画像を、前記各入射角毎に夫々生成する探査処理と、各入射角毎の非線形画像を、その入射角により発信した超音波が被探査金属体内を進行する屈折角と、該屈折角および超音波の音速により規定されるデータ数とに基づいて、前記探査対象領域の断面形状に合致するフレーム形態に夫々変換することにより、各入射角毎のフレーム変換画像を生成する画像変換処理と、被探査金属体の結晶構造が有する不整な結晶方位により生じている配向欠陥で発生したエコー信号を除去するための信号強度閾値を予め定め、該信号強度閾値以上のエコー信号のみによる各フレーム変換画像を重ね合わせることにより、前記探査対象領域の非線形探査画像を生成する探査画像生成処理とを実行するようにしていることを特徴とする超音波探査方法である。
【0010】
ここで、本発明の発明者らが従前に発明した特許文献1の探査方法に基づいて、反射波に含まれる高調波から取得されるエコー信号により非線形画像を生成し、該非線形画像を、探査対象領域の断面形状に合わせるように補正した方法を用いた場合にあっても、探査対象領域の断面形状を表す所望の画像を得ることができない。例えば、上述した金属板同士を溶接した溶接部を探査対象領域として探査した場合、前記非線形画像には、溶接部の界面で発生したエコー信号以外のエコー信号も多く表示されており、溶接部の界面形状を明確化すること難しい。さらに、超音波の入射角を様々に変化して、夫々の入射角毎に前記非線形画像を生成した場合にあっても、各画像毎に異なるエコー信号が表れており、溶接部の界面で発生したエコー信号を明確化することが一層難しくなる。このような問題を解決し、溶接部の断面形状を明確化した画像を得ることを目的として、本発明者らが鋭意研鑽した結果、高調波に、金属の結晶構造が有する不整な結晶方位により生ずる配向欠陥で反射した欠陥反射波が含まれているために、溶接部の界面で反射した界面反射波を特定し難くなっていることを突き止めた。詳述すると、金属の結晶構造は、不完全結晶であるために、その母材内の偏析等によって不整な結晶方位により生じた配向欠陥が存在し、この配向欠陥で反射した欠陥反射波が高調波に含まれている。そして、この配向欠陥は、結晶方位の違いによって生じているものであり、様々な結晶方位のものが存在するため、それぞれの結晶方位毎に、超音波が当たる角度(屈折角)によって欠陥反射波が発生する場合と発生しない場合とがある。このように高調波には、配向欠陥で反射した欠陥反射波と溶接部の界面で反射した界面反射波とが混在する場合があるために、該溶接部の界面で発生した界面反射波を明確化することが難しくなっている。尚、このような配向欠陥は、溶接の際に加えられる熱により生じることもあるため、溶接部を探査する場合には、該溶接部の界面形状を明確化し難くする要因ともなる。
【0011】
本発明は、上記した知見に基づいて発明した超音波探査方法であって、複数の入射角毎に、高調波のエコー信号を表示する非線形画像を生成し、各非線形画像を屈折角とデータ数とにより探査対象領域の断面形状に合うフレーム変換画像に夫々変換し、上記した配向欠陥により発生したエコー信号を除去する信号強度閾値を定めて、該信号強度閾値以上のエコー信号のみにより各フレーム変換画像を表して重ね合わせることにより、所望の探査対象領域の断面画像として非線形探査画像を生成する方法である。ここで、本発明者らは、上記した配向欠陥で高調波が発生する知見を得たことに伴い、該配向欠陥で反射した高調波から得るエコー信号の信号強度が、例えば、結晶粒界のような面欠陥に比して小さいという知見も得ている。これは、配向欠陥が上述したように不整な結晶方位によって生じていることから、該配向欠陥での反射波が散乱し、その一部を欠陥反射波として受信するためであると考えられる。そして、配向欠陥により発生するエコー信号の強度を調べることによって、この上限を信号強度閾値として定め、該信号強度閾値以上のエコー信号のみを有効な信号として、この信号強度閾値より小さいエコー信号を除去する。これにより、配向欠陥により発生したエコー信号を除去できるため、例えば、探査対象領域として溶接部を探査する場合に、該溶接部の界面で発生したエコー信号が正確かつ安定して表示された当該溶接部の断面画像を得ることができる。
【0012】
また、本発明にあって、探査処理では、所定の入射角で保持しつつ送受信位置を位置変換する探査作動を、予め設定した複数の入射角毎に繰り返し行い、各入射角毎に非線形画像を夫々生成する。そして、各非線形画像を画像変換処理した後に、信号強度閾値より小さいエコー信号を除去して重ね合わせるようにしている。本方法によれば、例えば、曲面状の界面を有する溶接部のように、界面で反射する反射波が散乱して比較的弱い反射波しか受信できない部位が生じる場合にあっても、複数の入射角毎に生成した各フレーム変換画像を重ね合わせることによって、界面形状の断面画像を正確に示す非線形探査画像を得ることができる。
【0013】
また、各入射角毎の探査作動では、夫々の入射角により定まる屈折角に沿って超音波が進むことから、各入射角毎の非線形画像では、反射波の応答時間により得られる該反射波(エコー信号)の位置情報が、超音波の進行方向に沿った深さ(超音波の発信位置からの距離)として表現されると共に、前記超音波の進行方向に沿ったデータ数が、夫々の屈折角と、被探査金属体内での超音波の音速とにより決まっている。そのため、各入射角毎の非線形画像を前記したように重ね合わせるためには、画像変換処理により、各非線形画像をその屈折角とデータ数とに基づいて探査対象領域の断面形状に合わせたフレーム形態に夫々変換し、各入射角毎のフレーム変換画像を生成している。ここで、探査対象領域の断面形状に合致するフレーム形態としては、前記断面形状と寸法サイズとが共に一致する形態だけでなく、前記断面形状を所定の寸法比率により拡大又は縮小した相似形態であっても良い。
【0014】
尚、上記した探査画像生成処理にあって、信号強度閾値以上のエコー信号を有効とする前に、各入射角のフレーム変換画像を、フーリエ変換する処理、高速フーリエ変換する処理、最大エントロピー法の処理のいずれかを行うようにしても良い。これら処理により、配向欠陥によるエコー信号を一層明確に差別化し易くなるため、該配向欠陥によるエコー信号を除去するための信号強度閾値を定め易くなる。また、各入射角のフレーム変換画像で、同じ位置にあるエコー信号を加算または乗算し、この算出値が信号強度閾値以上となるエコー信号を有効とするようにしても良い。配向欠陥によるエコー信号は、上述したように超音波の入射角によって発生する場合と発生しない場合とがあるため、前記のように加算または乗算することにより、さらに差別化し易くなる。さらにまた、前記したフーリエ変換する処理、高速フーリエ変換する処理、最大エントロピー法の処理のいずれかと、同じ位置にあるエコー信号を加算または乗算する処理とを適宜組合せることにより、配向欠陥によるエコー信号を差別化する精度が一層向上する。尚、信号強度閾値は、前記した各処理に応じて適宜変更して用いられる。
【0015】
尚、本発明で示す高調波としては、二次高調波、三次高調波、四次高調波などの多次高調波を包括した意味としており、いずれか一つ又は複数を適宜選択して用いることができる。
【0016】
上述した超音波探査方法にあって、画像変換処理は、各入射角の非線形画像毎に、超音波の送受信位置のピッチ間隔により規定されるデータ数と、屈折角および超音波の音速により規定されるデータ数とに基づいて、非線形画像を表すフレームの縦横比を補正する処理を行った後に、夫々の屈折角に従って、探査対象領域の断面形状と合わせて角度補正する変換処理を行うことにより、各入射角毎のフレーム変換画像を生成するようにしている方法が提案される。
【0017】
ここで、探査処理により生成する非線形画像は、長方形状のフレームにより表現され、該フレームの短辺と長辺とが、超音波の送受信位置を位置変換する方向(以下、走査方向)と、被探査金属体の内部を超音波が進行する方向(以下、超音波進行方向)とにより夫々構成される。そして、非線形画像では、走査方向に沿ったデータ数が、ピッチ間隔により規定されていると共に、超音波進行方向に沿ったデータ数が、該超音波の屈折角と音速とにより規定されており、両者のデータ数が異なっている。この走査方向のデータ数と超音波進行方向のデータ数との比率に従って、非線形画像のフレームの縦横比を補正する。これにより、非線形画像の、走査方向と屈折方向との長さ比を、探査対象領域の断面形状における、前記走査方向と屈折方向との長さ比と合わせる。ここで、送受信位置のピッチ間隔としては、その精度や効率化等を考慮すれば限界があることから、走査方向のデータ数に比して、通常、超音波進行方向のデータ数が多くなる。そのため、非線形画像のフレームを、その超音波進行方向を基準として、走査方向の長さを補正する処理が好適に用い得る。これにより、データ数の多い超音波進行方向の長さが維持されるため、超音波進行方向のデータ数低減を生じず、画像処理精度を維持することができる。
【0018】
次に、上記した縦横比の補正を行った各非線形画像を、それぞれの屈折角に合うように角度補正する。ここで、各非線形画像は、上記のように長方形状のフレームで表現されており、その一辺(長辺)が超音波進行方向に沿って形成されていることから、当該一辺を屈折角に合わせるように角度補正して平行四辺形状のフレームとする。これにより、探査対象領域の断面形状との方向性を一致させることができる。
【0019】
このように画像変換処理により、探査処理で生成した各非線形画像から、探査対象領域の断面形状にフレームの縦横比および方向性を合わせたフレーム形態のフレーム変換画像を夫々生成する。そして、この画像変換処理は、上記した超音波の音速や屈折角に基づく定量的な変換処理であるため、各非線形画像で示されるエコー信号の位置情報が、夫々のフレーム変換画像でも定量値(座標位置データ)により定まる。さらに、各フレーム変換画像間で、各エコー信号の位置情報の相関もとれる。
【0020】
上述した超音波探査方法にあって、探査画像生成処理は、各フレーム変換画像を重ね合わせる前に、最もデータ数の多いフレーム変換画像にフレームサイズを合わせるように、その他のフレーム変換画像をサイズ補正する変換処理とを行うようにしている方法が提案される。
【0021】
ここで、画像変換処理により生成した各フレーム変換画像は、上記した各超音波進行方向のデータ数に応じた縦横比の補正により各入射角(屈折角)毎にフレームサイズが異なることから、重ね合わせる前にフレームサイズを合わせるように夫々にサイズ補正する。ここで、最もデータ数の多いフレーム変換画像のフレームサイズに合わせるように、その他の各フレーム変換画像をサイズ補正することにより、最もデータ数の多いフレーム変換画像のデータ数の低減を生じず、画像処理精度を維持することができる。そして、サイズ補正した各フレーム変換画像を重ね合わせることにより、高精度の非線形探査画像を得ることができる。
【0022】
尚、この探査画像生成処理としては、このようなフレームサイズをサイズ補正した後に、信号強度閾値以上のエコー信号による各フレーム変換画像を生成するようにしても良いし、又は、信号強度閾値以上のエコー信号による各フレーム変換画像を生成した後に、フレームサイズをサイズ補正するようにしても良い。
【0023】
一方、上述した本発明の超音波探査方法を適用し得る超音波探査装置にあっては、所定周波数の超音波を発生する超音波発生手段と、該超音波発生手段により発生した超音波を発信する発信部と該超音波の反射波を受信する受信部とを具備する探触子と、超音波を発信して反射波を受信する送受信位置を可変するように、該探触子を移動する探触子走査手段と、被探査金属体に入射する超音波の入射角を角度調整可能とするように、探触子を傾動する探触子傾動手段と、前記探触子走査手段と探触子傾動手段とを作動制御することにより、探触子を所定入射角に保持し且つ前記送受信位置を所定ピッチ間隔で順次位置変換する探査作動を、予め設定した複数の入射角毎に行う走査制御手段と、各入射角毎に、探触子により受信した反射波から該反射波に含まれる高調波を取り出して、前記高調波から取得されるエコー信号を超音波の発信からその反射波を受信するまでの応答時間に基づいて表示する非線形画像を、各入射角毎に夫々生成する画像生成処理内容と、各入射角毎の非線形画像を、その入射角により発信した超音波が被探査金属体内を進行する屈折角と、該屈折角および前記超音波の音速により規定されるデータ数とに基づいて、被探査金属体の断面形状に合致するフレーム形態に夫々変換することにより、各入射角毎のフレーム変換画像を生成する画像変換処理内容と、被探査金属体の結晶構造が有する不整な結晶方位により生じている配向欠陥で発生したエコー信号を除去するための信号強度閾値を予め定め、該信号強度閾値以上のエコー信号のみによる各フレーム変換画像を重ね合わせることにより、前記探査対象領域の非線形探査画像を生成する探査画像生成処理内容とを備えた探査画像処理手段とを備えていることを特徴とする構成である。
【0024】
かかる構成にあっては、上述したように、高調波に、配向欠陥により発生した欠陥反射波が含まれていることにより、該高調波から取得したエコー信号を表示する非線形画像では例えば溶接部の界面形状を明確化し難いという知見を得たことによって成し得たものである。かかる装置では、超音波を発信してその反射波を受信する送受信位置を所定ピッチ間隔で位置変換するように可変させる探触子の探査作動に伴って、探査画像処理手段の画像生成処理内容により各入射角毎の非線形画像を生成し、画像変換処理内容により各非線形画像をフレーム変換画像に夫々変換し、探査画像生成処理内容により信号強度閾値以上のエコー信号のみによるフレーム変換画像を重ね合わせて、探査対象領域の断面画像として所望の非線形探査画像を得るようにしている。このように得られる非線形探査画像は、上述した方法と同様に、例えば溶接部の界面形状を明確に表現したものとなり得ることから、該溶接部の非破壊検査として、その溶け込み形状を容易且つ正確に判定することができる。このように、本構成によれば、上述した本発明の超音波探査方法と同様の作用効果を奏し得る。
【0025】
また、本構成にあっては、走査制御手段により行う探査作動に従って、上記した画像生成処理内容により非線形画像を得る。ここで、走査制御手段が、予めセットしたピッチ間隔と複数の入射角とにより探触子を作動制御するようにした構成とすることによって、各入射角毎の非線形画像を自動的に得ることができ得る。
【0026】
また、本構成の探触子にあっては、その発信部と受信部とが夫々別部材として、それぞれ別々に配置する構成としても良いし、この両者を一体的に設けた構成としても良い。一方、本構成にあって、探査作動に伴って生成する非線形画像、画像変換処理内容により生成するフレーム変換画像、探査画像生成処理内容により生成する非線形探査画像等を出力表示するモニターを設けることもできる。さらに、画像変換処理内容の処理行程や探査画像生成処理内容の処理行程などを、前記モニターに出力表示し、測定者により操作することができるようにしても良い。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、上述したように、超音波を送受信する送受波位置を所定ピッチ間隔で位置変換する探査作動を、複数の入射角毎に行うと共に、各入射角毎に、反射波の高調波から取得したエコー信号を超音波の応答時間に基づいて表示する非線形画像を、夫々に生成し、探査対象領域の断面形状に合わせて各非線形画像をフレーム変換画像に夫々変換し、配向欠陥で発生したエコー信号を除去するために定めた信号強度閾値以上のエコー信号のみによる各フレーム変換画像を重ね合わせることにより、前記探査対象領域の非線形探査画像を生成するようにした超音波探査方法であって、反射波の高調波に、配向欠陥で発生した欠陥反射波が含まれるという知見を得たことにより達成した方法である。かかる方法により、前記した欠陥反射波のエコー信号を信号強度閾値により除去することができるため、該除去後のフレーム変換画像を重ね合わせることにより、探査対象領域の断面形状を明確に表現する非線形探査画像を安定して得ることができる。したがって、本発明の超音波探査方法によれば、例えば、上述した自動車用ホイールの溶接部の断面画像を、該溶接部の界面形状を正確に表現する非線形探査画像として得ることができるため、溶接部を容易かつ正確に検査することができ得る。
【0028】
また、上述した超音波探査方法にあって、各入射角の非線形画像のフレームの縦横比を、ピッチ間隔により規定されるデータ数と屈折角および超音波の音速により規定されるデータ数とにより補正した後に、各屈折角に従って角度補正することにより、各フレーム変換画像を生成するようにした方法の場合には、各フレーム変換画像が、そのエコー信号の位置情報を定量値(座標位置データ)により定め且つ各フレーム変換画像間でのエコー信号の位置情報の相関もとれるものとなる。
【0029】
また、上述した超音波探査方法にあって、各フレーム変換画像を重ね合わせる前に、最もデータ数の多いフレーム変換画像にフレームサイズを合わせるように、その他のフレーム変換画像をサイズ補正するようにした方法とした場合には、最も多いデータ数が維持されるため、データ数の欠落を防ぎ、画像処理精度を維持することができる。そのため、サイズ補正後に各フレーム変換画像を重ね合わせることにより高精度の非線形探査画像を生成することができ得る。
【0030】
一方、本発明の超音波探査装置としては、超音波発生手段と、発信部と受信部とを具備する探触子と、探触子を移動する探触子走査手段と、探触子を傾動する探触子傾動手段と、複数の入射角毎に、探触子を所定ピッチ間隔で位置変換する探査作動を行うように、探触子走査手段と探触子傾動手段とを作動制御する走査制御手段とを備えると共に、探査画像処理手段が、各入射角毎に、反射波の高調波から取得したエコー信号を超音波の応答時間に基づいて表示する非線形画像を、夫々に生成し、探査対象領域の断面形状に合わせて各非線形画像をフレーム変換画像に夫々変換し、配向欠陥で発生したエコー信号を除去するために定めた信号強度閾値以上のエコー信号のみによる各フレーム変換画像を重ね合わせることにより、前記探査対象領域の非線形探査画像を生成する制御内容を備えた構成としたものであって、反射波の高調波に、配向欠陥で発生した欠陥反射波が含まれるという知見を得たことに基づいて成し得た装置である。かかる構成によれば、上述した方法と同様に、探査対象領域の断面形状を明確に表現する非線形探査画像を安定して得ることができる。そして、例えば、上述した自動車用ホイールの溶接部の検査に適用することにより、その非線形探査画像により前記溶接部の適否を正確かつ安定して判定することができ得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の超音波探査装置1を表す概略図である。
【図2】超音波を発信する探触子4と被探査金属体20との関係を表す説明図である。
【図3】入射角θa=+20度とした場合の、(A)探査処理により生成した非線形画像31と、(B)画像変換処理によりフレームの縦横比を補正した後の補正画像31’と、(C)画像変換処理により角度補正した後のフレーム変換画像32aである。
【図4】画像変換処理により生成した、(A)入射角θa=+20度のフレーム変換画像32aと、(B)入射角θa=18度のフレーム変換画像32bと、(C)入射角θa=16度のフレーム変換画像32cと、(D)入射角θa=4度のフレーム変換画像32dである。
【図5】画像変換処理により生成した、(E)入射角θa=0度のフレーム変換画像32eと、(F)入射角θa=−16度のフレーム変換画像32fと、(G)入射角θa=−18度のフレーム変換画像32gと、(H)入射角θa=−20度のフレーム変換画像32hである。
【図6】(A)信号強度閾値以上のエコー信号のみよる各フレーム変換画像を重ね合わせた非線形探査画像35と、(B)被探査金属体20の断面写真である。
【図7】超音波探査装置1による被探査金属体20を探査する行程を表すフロー図である。
【図8】図7から続く、被探査金属体20を探査する行程を表すフロー図である。
【図9】(A)図4,5の各フレーム変換画像32a〜32hを重ね合わせた比較画像37と、(B)該比較画像37と被探査金属体20の断面写真とを重ねた画像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施例を、添付図面を用いて詳述する。
図1は、本発明にかかる超音波探査装置1の概略図である。この超音波探査装置1は、被探査金属体20を配置する配置台3が設けられた水槽2を備えており、この水槽2の水中に被探査金属体20が配置される。また、この超音波探査装置1は、この水槽2の水中で、被探査金属体20に所定の超音波を発信すると共に、該超音波の反射波を受信する探触子4を備えている。
【0033】
この超音波探査装置1には、上記した探触子4を、垂直方向に昇降移動すると共に、水平方向に沿って前後左右(水平方向に沿った前後移動の機構については図示省略)に移動する探触子走査装置11が配設されている。ここで、探触子4は、探触子走査装置11による垂直方向および水平方向への移動制御により、上下方向、水平方向および斜め方向の可変方向へ移動可能となっている。また、この超音波探査装置1には、探触子4を、その垂直軸線に対して一方向(紙面の左右方向)へ傾動する探触子傾動装置12が配設されている。ここで、探触子4は、探触子傾動装置12を介して探触子走査装置11に取り付けられており、前記可変方向へ可変可能であると共に、傾動可能となっている。
【0034】
上記した探触子4は、超音波を発信する発信部4aと該超音波の反射波を受信する受信部4bとを一体的に備えてなるものである。すなわち、超音波を発信する発信位置と、反射波を受信する受信位置とは、ほぼ同位置となる。そのため、本実施例にあっては、探触子4の水平方向および垂直方向の位置を、超音波を発信してその反射波を受信する送受信位置pとしている。さらに、探触子4は、上記した探触子傾動装置12により探触子4を傾動させることによって、発信部4aから発信する超音波の発信方向を適宜変更可能である。ここで、探触子4の受信部4bは、発信部4aから発信された超音波の向きと逆向きの反射波を受信するようになっている。このため、受信部4bは、探触子4の向きが変更されても、発信部4aから発信された超音波の進行方向と逆向きに進んでくる反射波を常に受信し易くなっている。また、探触子4の発信部4aから超音波を垂直下向きに発信する方向を、探触子4の基準発信方向(図2中に記載のX方向)とし、実際に発信部4aから発信した超音波の発信方向が、この基準発信方向となす角度を超音波の入射角θa(図2参照)としている。
【0035】
さらに、超音波探査装置1は、高周波発生器5、増幅器6、増幅器10、ハイパスフィルタ7、A/Dコンバータ8、及び制御処理装置9も備えている。探触子4は、制御処理装置9により制御された高周波発生器5から発生した超音波を所定周波数に増幅する増幅器6に接続されており、該増幅器6から入力した所定周波数の超音波を発信部4aから発信する。ここで、本実施例にあっては、高周波発生器5及び増幅器6により、周波数20MHz以上の超音波を発生することができるようになっている。さらに、本発明では、反射波の二次高調波や三次高調波などの高調波を活用することから、入射した超音波の周波数の二倍、三倍となる40MHzや60MHzの高調波を受信可能とすることを要する。したがって、この探触子4の発信部4aは、20MHz以上の超音波を発信可能なものであると共に、探触子4の受信部4bは40MHz以上の高調波を確実に受信可能なものである。
【0036】
さらに、この探触子4は、増幅器10およびハイパスフィルタ7を介してA/Dコンバータ8に接続されており、受信部4bにより受信した反射波が増幅器10およびハイパスフィルタ7を経てA/Dコンバータ8に入力される。ここで、A/Dコンバータ8は、ハイパスフィルタ7から入力した反射波をデジタルデータに変換処理するものである。そして、A/Dコンバータ8によりデジタル化した反射波データは、制御処理装置9に入力される。
【0037】
上記した制御処理装置9は、当該超音波探査装置1を統括的に制御処理するものであり、測定者が所定の探査条件を入力する各種入力キー(図示省略)や、該探査条件や探査結果を出力するモニター(図示省略)等を備えている。さらに、この制御処理装置9は、図示しない中央制御装置CPU、記憶装置RAM、記憶装置ROM等も備えている。ここで、記憶装置ROMには、上述した高周波発生器5、増幅器6、探触子走査装置11、探触子傾動装置12を夫々に駆動制御する各動作プログラムや、A/Dコンバータ8を介して入力した反射波データを演算処理して画像処理するための演算プログラム等が格納されている。そして、中央制御装置CPUは、これら各動作プログラムや演算プログラムを随時実行する。
【0038】
ここで、制御処理装置9は、探触子走査装置11を駆動制御することにより、探触子4を水平方向および垂直方向に位置変換制御すると共に、該探触子4の位置を、予め設定した基準位置(例えば、後述する走査初期位置O)に対する離間位置として、水平方向および垂直方向の三次元座標データにより検出して処理するようにしている。さらに、制御処理装置9は、探触子傾動装置12を駆動制御することにより、探触子4を傾動制御すると共に、超音波の入射角θaを角度データとして検出して処理するようにしている。尚、本実施例にあっては、探触子4の水平方向および垂直方向の位置を検出するセンサ(図示省略)と、探触子4の傾斜角度(入射角θa)を検出するセンサ(図示省略)とが夫々に配設されており、これら各センサから入力信号に基づいて、制御処理装置9は、探触子走査装置11と探触子傾動装置12との作動制御を精度良くかつ安定して行っている。
【0039】
尚、上述した探触子4の受信部4bで受信した反射波は、所定周期の波が多数連続して構成されてなるものであるから、この波の周期を表す時間経過に従って入力される。すなわち、上記した制御処理装置9により、反射波を、その振幅と経過時間を示す時間軸とによる波形として処理している。そのため、制御処理装置9には、所定単位時間毎にカウントする時間カウンター(図示省略)を備えており、該時間カウンターのカウント数により時間経過を計測可能としている。そして、この制御処理装置9は、時間カウンターのカウント数に従って、探触子4の発信部4aから超音波を発信した時点から、受信部4bで反射波を受信するまでに経過した時間(以下、応答時間)を連続して計測する処理を行っている。
【0040】
このように制御処理装置9は、上述した高周波発生器5、増幅器6、探触子走査装置11、探触子傾動装置12、増幅器10、ハイパスフィルタ7、A/Dコンバータ8、及び探触子4と夫々に接続している。そして、探触子走査装置11が、本発明にかかる探触子走査手段であり、探触子傾動装置12が、本発明にかかる探触子傾動手段である。また、高周波発生器5及び増幅器6が、本発明にかかる超音波発生手段であり、この制御処理装置9により、本発明にかかる走査制御手段と探査画像処理手段を構成している。
【0041】
次に、本実施例の超音波探査装置1による、被探査金属体20を探査する制御処理について説明する。
ここで、本実施例では、二枚のスチール鋼板21,22を重ね継ぎ手溶接したものを被探査金属体20として、以下の説明に用いている。尚、この被探査金属体20について詳述すると、一方のスチール鋼板22の板端と他方のスチール鋼板21の表面21aとが隅肉溶接され、その溶接部23がスチール鋼板22の板端に沿って形成されている(図2参照)。この被探査金属体20を、溶接部23の溶接方向(長手方向)に対して略直交する横断方向(図2中のY方向)に沿って切断し、この溶接部23の切断面を観察すると、図2のように、溶接部23は、スチール鋼板21内に比較的大きく溶け込んだ状態で形成されている。この溶接部23は、スチール鋼板21内で、該スチール鋼板21の裏面21bの方向へ膨らむ形状に形成されている。そして、スチール鋼板21の、該溶接部23の形成されていない領域と、溶接部23との境界である界面25も、スチール鋼板21の裏面方向へ膨らんだ曲面形状となっている。尚、本実施例にあっては、被探査金属体20の溶接部23を、本発明にかかる探査対象領域としている。
【0042】
上記の被探査金属体20を、水を満たした水槽2内の配置台3に、スチール鋼板21をスチール鋼板22より上側としかつこの裏面21bがほぼ水平方向に沿うようにして配置する(図1,2参照)。この時、被探査金属体20は、水槽2内で水没した状態となっている。
【0043】
この後、制御処理装置9により、超音波の入射角θa、探触子4の走査初期位置O、探触子4の走査範囲T、送受信位置pのピッチ間隔t等の設定を行う。ここで、超音波の入射角θaは、被探査金属体20内に適正に入射する角度範囲に設定すると共に、反射波に縦波と横波とが混在しない角度範囲に設定する。このような角度範囲は、金属材料に応じて異なることから、探査対象を構成する金属材料に従って夫々に設定する。
【0044】
また、探触子4の走査初期位置Oと走査範囲Tとは、上記した水槽2内に配置した被探査金属体20に応じて設定する。そのため、被探査金属体20の大きさや探査対象である溶接部23の大きさ、および配置台3上での被探査金属体20の配置によって適宜設定する。本実施例にあっては、図2のように、探触子4を、被探査金属体20の溶接部23の溶接方向に対して直交する方向(横方向Y)へ水平移動させるように、走査初期位置Oと、該走査初期位置Oから前記横方向Yに所定長さ進行する走査範囲Tとを設定している。また、送受信位置pのピッチ間隔tを設定することにより、前記した走査範囲Tで送受信位置pの位置数が決まる。このピッチ間隔tは、短い間隔に設定すると送受信位置pが増加するために探査精度は向上するが、探査に要する時間も長くなることから、探査精度と効率化とを考慮して設定することが好適である。
【0045】
尚、上述した超音波の入射角θa、探触子4の走査初期位置O、探触子4の走査範囲T、送受信位置pのピッチ間隔t等の設定は、例えば自動車用ホイールなどの製品の場合、そのサイズや規格に合わせて予め設定して記憶し、該当する設定値を選択して用いることもできる。
【0046】
この後、探触子4を、水槽2の水中に入れて上記の走査初期位置Oに位置決めする。そして、制御処理装置9は、探触子傾動装置12を作動制御することにより、予め設定した複数の入射角θaから選択した一の角度に探触子4を傾動して保持する。その後、探触子走査装置11を作動制御することにより、探触子4を、被探査金属体20の溶接部23の溶接方向に対して直交する横方向Yへ、上記したピッチ間隔tに従って断続的に水平移動する。さらに、制御処理装置9は、前記探触子走査装置11の作動制御に伴って、探触子4を上記のピッチ間隔tで一端停止した送受信位置pで、高周波発生器5により発生して増幅器6により増幅した20MHzの超音波を探触子4の発信部4aから送信し、この超音波の反射波を探触子4の受信部4bから受信して増幅器10、ハイパスフィルタ7およびA/Dコンバータ8を介して入力する。このように、制御処理装置9は、上記の各送受信位置pで探触子4を所定時間停止するように制御し、超音波の発信とその反射波の受信とを充分に行い得るようにしている。
【0047】
そして、探触子4を、上記のピッチ間隔tで一時停止と移動とを繰り返すことにより上記した走査範囲Tを移動させると、被探査金属体20から離れるように上昇させて走査初期位置Oに戻す作動を行う。さらに、制御処理装置9は、所定の入射角θaに保持しつつ、送受信位置pをピッチ間隔tで位置変換する一連の作動に伴って、各送受信位置pで超音波を発信する制御とその反射波を受信して入力する制御も行っている。ここで、送受信位置pをピッチ間隔tで位置変換する作動は、予め設定した複数の入射角θa毎に繰り返し実行され、各入射角θa毎に、夫々の送受信位置pで入力した反射波のデータを記憶する。
【0048】
さらに、制御処理装置9は、探触子4の受信部4bを介して反射波を入力すると、各入射角θa毎に、それぞれの送受信位置pで夫々入力した反射波から高調波(二次高調波、三次高調波、四次高調波、・・・等の多次高調波)を取り出し、各高調波からエコー信号41を取得し、該エコー信号41を表示した非線形画像31(入射角θa=20度以外のものは図示省略)を生成する(図3(A)参照)。詳述すれば、各送受信位置pで入力した反射波は、基本周波数の整数倍の周波数の波が重なり合って、該基本周波数の波形が歪んだ非線形超音波として表現される。制御処理装置9は、A/Dコンバータ8によりデジタルデータ化した反射波を入力すると、この反射波をフーリエ解析することによって、基本周波数の波、二次高調波、三次高調波、四次高調波、・・・に分解する。そして、基本周波数の二倍、三倍、四倍、・・・の周波数の高調波を取り出す。さらに、この高調波を構成している波形信号を、その周波数に従って発生する複数のエコー信号41として取得する。また、超音波の発信からその反射波の受信までに要する応答時間を計測し、該応答時間と超音波の音速とに基づいて、各エコー信号41が夫々発生した深さを探触子4からの距離として算出する。そして、各送受信位置pで取得した複数のエコー信号41を夫々の発生深さにより表示した非線形画像31(図3(A)参照)を生成する。ここで、各エコー信号41は、その信号強度(波エネルギー)を表すものであることから、その信号強度を複数段階の色表現により非線形画像31に表示している。この非線形画像31は、長方形状のフレームにより構成されており、その横方向Yが上記した送受信位置pの走査方向(溶接方向に対して直交する横方向Y)であり、縦方向Wがエコー信号41の発生する深さ方向(後述する超音波進行方向W)である(図3(A)参照)。すなわち、非線形画像31は、縦方向Wに一列に複数のエコー信号41が表示されており、このエコー信号41の列を、送受信位置pの位置数だけ横方向Yに並べた画像となっている。
【0049】
このように非線形画像31を生成する処理を、各入射角θa毎に行い、各入射角θa毎の非線形画像31を生成する(入射角θa=20度以外のものは図示省略)。尚、超音波は、被探査金属体20内に入ると屈折することから、その入射角θaに従って屈折角θbが定まる。そして、この屈折角θbの方向に沿って超音波が進行し、該屈折角θbの方向に沿って返ってくる反射波を受信することから、前記応答時間と音速とに基づいて算出する各エコー信号41の発生深さは、屈折角θbの方向(超音波進行方向と同じ)Wに沿った探触子4からの距離として算出される。そのため、各入射角θa毎に生成した非線形画像31はそれぞれ、そのフレームの縦方向Wが異なっている。尚、応答時間と音速とに基づいて各エコー信号41の深さを算出する演算処理については、従前(例えば、上述した特許文献1の特開2007−101329号公報)と同様の処理方法を適用できるため、その説明を省略する。
【0050】
このように、探触子4を各入射角θa毎に探査作動し、各入射角θa毎に非線形画像31を生成する処理が、本発明にかかる探査処理であり、制御処理装置9が、この探査処理を実行する探査処理内容としての演算プログラムやデータ等を記憶保持しており、適宜読み込むことにより実行するようにしている。
【0051】
次に、制御処理装置9は、各入射角θa毎の非線形画像31(入射角θa=20度以外のものは図示省略)を、被探査金属体20の溶接部23の断面形状に合うフレーム形態に夫々変換する処理を行う(図3(A),(B)参照)。この処理が、本発明にかかる画像変換処理であり、この画像変換処理を実行する画像変換処理内容としての演算プログラムやデータ等を、制御処理装置9が記憶保持しており、これらプログラムやデータを読み込むことによって実行する。
【0052】
この画像変換処理では、先ず、各入射角θaの非線形画像31を成す長方形状フレームの縦横比を、超音波の送受信位置pのピッチ間隔tにより規定される横方向(走査方向)の画素数と、屈折角および被探査金属体20内での超音波の音速により規定される縦方向(超音波進行方向)の画素数とに基づいて補正する処理を行う(図3(B)参照)。ここで、本実施例にあっては、本発明にかかるデータ数として画素数を適用している。詳述すれば、非線形画像31(図3(A)参照)にあって、その単位平方面積当りに占める縦方向と横方向との各画素数を算出する。横方向の画素数は、上記したピッチ間隔tにより定まるため、本実施例では全ての非線形画像31(入射角θa=20度以外のものは図示省略)で横方向の画素数が同じである。一方、縦方向の画素数は、超音波の周波数と、被探査金属体20内での超音波の屈折角θbと、被探査金属体20内での超音波の音速Vbとにより算出される。ここで、屈折角θbは、下記の式(1)の「snellの法則」に従って算出する。縦方向の画素数は、下記の式(2)に従って求める。このように算出する縦方向の画素数は、各入射角θa毎に異なることから、各非線形画像31毎に求める。
(sinθa/Va)=(sinθb/Vb) ・・・(1)
(画素数/S)=周波数/(Vb/2×cosθb×1000)[単位:画素数/mm]
・・・(2)
【0053】
尚、上記した式(1)のVaは、水中での超音波の音速であり、式(2)のSは、単位平方面積の一辺長さである。また、被探査金属体20内での超音波の音速Vbは、その金属材料により異なることから、予め実測して求めている。ここで、音速Vbは、超音波の入射角θaに応じて、その反射波が縦波または横波により受信されることから、縦波の音速と横波の音速とを夫々に実測して求め、適宜用いている。
【0054】
このように各入射角θaの非線形画像31毎に縦方向の画素数と横方向の画素数とを求めると、各非線形画像31毎に、それぞれの長方形状のフレームの縦横比を、その縦方向の画素数と横方向の画素数の比率に合わせて補正する。これにより、当該補正後の補正画像31’(図3(B)参照)のフレームの縦横比を、被探査金属体20の溶接部23の断面形状の縦横比と合うようにしている。ここで、前記の縦横比を補正する処理としては、縦方向の画素数が横方向の画素数に比して多いことから、フレームの縦方向を基準として該縦方向長さを維持し、フレームの横方向長さを補正するようにしている。これは、画素数の多い縦方向に合わせることにより、該縦方向の画素数を欠落しないようにするためである。これにより、縦横比の補正後の画像では、非線形画像31の縦方向の画素数が維持されるため、高精度の画像処理を行い得る。
【0055】
上述したように各非線形画像31の縦横比を補正した後に、夫々の屈折角θbに従って角度補正する処理を行う。各非線形画像31の縦横比を補正した補正画像31’(図3(B)参照)は、上述したように、その縦方向Wが各屈折角θbに沿った方向(超音波進行方向)となっているため、該縦方向Wを夫々の屈折角θbに従って傾ける。この処理により、前記した縦横比を補正した画像を、その長方形状のフレームから平行四辺形状のフレームに変換し、各フレームの縦方向(垂直方向)Xを、被探査金属体20の溶接部23の断面形状の垂直方向Xと合うようにする。
【0056】
このように、各非線形画像31毎にその縦横比を補正する処理と、夫々の屈折角θbに角度変換する処理とを行うことによって、各非線形画像31(図3(A)参照)を、被探査金属体20の溶接部23の断面形状と合わせたフレーム形態に夫々変換する。これにより、各入射角θa毎のフレーム変換画像32a(図3(C)参照)を得る。
【0057】
次に、制御処理装置9は、各入射角θa毎のフレーム変換画像32a〜32hを重ね合わせることにより、被探査金属体20の溶接部23の断面画像となる非線形探査画像35(図6(A)参照)を生成する処理を行う。この処理が、本発明にかかる探査画像生成処理であり、この探査画像生成処理を実行する探査画像生成処理内容として演算プログラムやデータ等を、制御処理装置9が記憶保持しており、これらプログラムやデータを読み込むことによって実行する。
【0058】
この探査画像生成処理としては、先ず、各入射角θa毎のフレーム変換画像32a〜32h(図4,5参照)をそれぞれ高速フーリエ変換する処理を行う。その後、任意の二つのフレーム変換画像(32a〜32h)について、同じ座標位置にあるエコー信号41同士を乗算し、この乗算値が予め定めた信号強度閾値以上となるエコー信号41aのみを抽出し、それ以外のエコー信号41を除去する。ここで、上記した探査作動により生成した非線形画像31では、各エコー信号41の位置情報が、その縦方向(超音波進行方向)の深さ(探触子4からの距離)と横方向(走査方向)の位置(送受信位置p)とにより示されている。そして、各非線形画像31(入射角θa=20度以外のものは図示省略)をフレーム変換画像32a〜32hに変換する画像変換処理では、フレームの縦横比を補正する処理と角度補正する処理とが定量的な数値に従って実行されている。このため、各フレーム変換画像32a〜32hにあっても、夫々のエコー信号41の位置情報が、水平方向と垂直方向との二次元座標における定量的な位置データ(以下、座標位置データという)として表されている。
【0059】
上記の信号強度閾値について詳述する。非線形画像31(図3(A)参照)やフレーム変換画像32a〜32h(図4,5参照)には、被探査金属体20の裏面21bで発生したエコー信号41や溶接部23の界面25で発生したエコー信号41が表示されていると共に、その他のエコー信号41も表示されている。そのため、各フレーム変換画像32a〜32h(図4,5参照)から溶接部23の界面25を特定することが難しく、仮に特定しようとする場合には、測定者のスキルに頼らねば成らず、溶接部23の界面25を示す画像の精度と安定性とに限界があった。このような状況に鑑み、本発明の発明者らが鋭意研鑽を行った結果、金属母材の結晶構造には不整な結晶方位を有する配向欠陥が存在し、この配向欠陥で反射した欠陥反射波が高調波に含まれていることを確認した。さらに研鑽を重ねた結果、配向欠陥が結晶方位の違いにより生じており、該配向欠陥で乱反射した反射波の一部(欠陥反射波)を受信していることから、配向欠陥で反射する欠陥反射波は、超音波の当たる角度(屈折角θb)によって発生する場合と発生しない場合とがあることを突き止めた。ここで、配向欠陥としては、金属母材内の偏析や溶接熱の影響等により生じており、いずれも結晶方位の違いによるものである。ちなみに、従来のパルスエコー方式の超音波探査方法にあっては、例えば微細な空隙等の欠陥で反射した信号を反射波として検出していることから、前記のような配向欠陥で反射する信号が表示されることは無かった。すなわち、高調波に前記の配向欠陥で反射した欠陥反射波が含まれているという知見は、本発明に達する過程で始めて確認されたものである。このような知見によって、前記のフレーム変換画像32a〜32h(図4,5参照)により溶接部23の界面画像を得るために、欠陥反射波を示すエコー信号41を除去する必要性が生じた。そして、配向欠陥で発生したエコー信号41を除去するために、該エコー信号41の信号強度の閾値を示す信号強度閾値を定めた。尚、配向欠陥で発生したエコー信号41は、該配向欠陥で乱反射した一部であることから、信号強度も比較的小さい。これに基づいて、配向欠陥で発生したエコー信号41を除去できる信号強度閾値を定めている。この信号強度閾値は、経験的に得られる値として定めることが好適であり、上記したフレーム変換画像32a〜32hと実際の断面写真等とを比較した経験に基づいて理論的に定めたものを用い得る。
【0060】
このように定めた信号強度閾値により、図4,5に示す任意の二つのフレーム変換画像(32a〜32h)で同じ座標位置にあるエコー信号41同士を乗算した乗算値を判定する。そして、信号強度閾値以上の乗算値を算出したエコー信号41aのみを有効として、それ以外のエコー信号41を全て当該フレーム変換画像(32a〜32h)から除去する処理を行う。ここで、同じ座標位置の一方にエコー信号41が無い場合には、その乗算値は「0」として算出する。この処理後のフレーム変換画像(図示省略)では、上記した配向欠陥で発生したエコー信号41が除去されている。このように任意の二つのフレーム変換画像(32a〜32h)で、同じ座標位置のエコー信号41を乗算して信号強度閾値以上となるエコー信号41aのみを有効とする処理を、全てのフレーム変換画像(32a〜32h)の組合せで実行する。
【0061】
その後、エコー信号41aのみによるフレーム変換画像(図示省略)を全て、同じフレームサイズに合わせる処理を行う。これら各フレーム変換画像は、その入射角θa毎に超音波進行方向の画素数が異なることから、それぞれのフレームサイズが異なっている。これは、各入射角θaに応じて、反射波の縦波から取得したエコー信号41により画像生成した場合と、横波から取得したエコー信号41により画像生成した場合とがあること、および、屈折角θbが異なることにより、音速Vbが同じでも、一定時間中での超音波の移動量が異なることによって生ずる。このようにフレームサイズが異なる各フレーム変換画像を、最も画素数の多いフレーム変換画像のフレームサイズに合わせる。すなわち、最も画素数の多いフレーム変換画像のフレームサイズに、その他のフレーム変換画像のフレームサイズを合わせるように拡大する。これは、画素数の最も多いフレーム変換画像のフレームサイズが最も大きいことから、当該フレームサイズを維持することにより、当該フレーム変換画像の画素数を欠落しないようにするためである。これにより、最も多い画素数が欠落しないことから、高精度の画像処理を行い得る。
【0062】
このようにサイズ補正した全てのフレーム変換画像(図示省略)を重ね合わせることにより、非線形探査画像35を生成する(図6(A)参照)。この非線形探査画像35は、上記した配向欠陥で発生したエコー信号41が除去されており、溶接部23の界面形状が明確に表示されている。そして、本実施例では、上述した画像変換処理における縦横比の補正処理およびフレームサイズの補正処理により、最も画素数の多い要素に他の要素を合わせるようにして変換処理していることから、画像精度が高く、溶接部23の界面形状が精度良く表現されている。さらに、この非線形探査画像35は、上記したように超音波の応答時間に基づく座標位置データにより各エコー信号41aが表示されていることから、溶接部23の溶け込み深さも定量的に求めることができる。
【0063】
そして、このような非線形探査画像35(図6(A)参照)をプリントアウトして、検査書類とすることにより、溶接部23の界面形状が一目で確認できると共に、溶け込み深さも分かるため、溶接部23の品質管理として高い精度と有用性とを有する。そして、この超音波探査装置1による検査は、非破壊検査であることから、製品を破壊する必要がなく、製造コストを抑制することもできる。
【0064】
本実施例の超音波探査装置1により、上記した二枚のスチール鋼板21,22を溶接してなる被探査金属体20を探査する行程について説明する。尚、この探査行程は、図7,8のフロー図に従って進行する。
被探査金属体20は、上述したように、二枚のスチール鋼板21,22をアーク溶接により隅肉溶接してなるものであり(図2、図6(B)参照)、このスチール鋼板21,22はSPFH590(自動車構造用熱間圧延鋼板)である。そして、このスチール鋼板21,22内を通過する超音波の音速を測定した結果、その縦波の音速が6000m/secであり、横波の音速が3300m/secであった。また、上述した制御処理装置9により制御する探査作動にあって、超音波の入射角θa、探触子4の走査初期位置O、探触子4の走査範囲T、送受信位置pのピッチ間隔t等の設定を行う。ここで、探触子4の走査範囲Tは、溶接部23と直交する方向に沿って10mmとし、これに伴い、探触子4の走査初期位置Oを図2のように設定している。これにより、探触子4が溶接部23を横断するように移動する。また、送受信位置pのピッチ間隔tは0.1mmと設定し、前記走査範囲T内で送受信位置pを100箇所としている。また、超音波の入射角θaは、垂直方向(基準発信方向)に対する探触子4の進行方向に沿った角度として、0度(垂直方向)、±4度、±16度、±18度、±20度の合計九種類の角度に設定している。ここで、このスチール鋼板21,22の場合、入射角θaが0度(垂直方向)〜±8度の範囲では縦波による検査を行い、±14度〜±27度の範囲では横波による検査を行っている。尚、入射角θaが±8度より大きく且つ±14度未満の範囲では、その反射波に縦波と横波とが混在しているため正確な探査が難しい。また、入射角θaが±27度を越える範囲では、超音波がスチール鋼板21内に入っていかず、その裏面21bを伝わるために探査ができない。
【0065】
この被探査金属体20を、上述したように、水を満たした水槽2内の配置台3に、スチール鋼板21をスチール鋼板22より上側としかつこの裏面21bがほぼ水平方向に沿うようにして配置する(図1,2参照)。そして、測定者により制御処理装置9を起動されて、被探査金属体20の溶接部23の探査作動を開始する。制御処理装置9により上述した探査処理を実行し、探触子4を、上記設定角度のいずれかの入射角θa(例えば+20度)に傾動して保持し、上記の走査初期位置Oからピッチ間隔tに従って断続的に位置変換する探査作動を行う。ここで、探触子4を1ピッチ間隔t移動して送受信位置pとする毎に、該探触子4から周波数20Hzの超音波を発信し、その反射波を受信する。そして、この受信した反射波をデータ処理し、そのデータを、前記送受信位置pの位置情報と共に、記憶装置RAMに記憶する。このように超音波の発信と反射波の受信とを、探触子4を1ピッチ間隔t移動する毎に行い、100箇所の位置情報と各送受信位置pにおける夫々の反射波のデータとを得る。そして、上述したように、この反射波のデータをフーリエ変換して高調波を取り出し、該高調波から複数のエコー信号41を取得する。各エコー信号41は、夫々の信号強度を表していると共に、夫々の発生した位置を、超音波の発信から受信までの応答時間と音速とに従って算出した超音波進行方向の距離(深さ)と送受信位置pとによる位置情報(座標位置データ)として定めている。そして、上記した走査範囲Tで取得した全てのエコー信号41を、横方向を探触子4の走査方向とし且つ縦方向を前記の超音波進行方向とする長方形状フレーム上に表示した非線形画像31を生成する(図3(A)参照)。尚、この非線形画像31では、各エコー信号41の信号強度を表示色により段階的に区別して表示しており、エコー信号41の強さも確認できるようにしている。
【0066】
このように探触子4を所定入射角θaに保持してピッチ間隔tで断続的に位置変換する探査作動を、上記した入射角θaの設定角度毎に行い、各入射角θa毎の非線形画像31を得る。すなわち、本実施例の場合には、九種類の非線形画像31(入射角θa=20度以外のものは図示省略)を生成する。そして、各非線形画像31を構成するデータ(エコー信号41、該エコー信号41の座標位置データなど)が記憶装置RAMに記憶される。
【0067】
このように各入射角θa毎の非線形画像31(入射角θa=20度以外のものは図示省略)を得ると、制御処理装置9は、上述した画像演算処理により、各非線形画像31を、被探査金属体20の溶接部23の断面形状に合致するフレーム形態に変換する処理を行う。これは、各非線形画像31毎に、上記した式(1)および式(2)により、屈折角θbと縦方向(超音波進行方向)の画素数とを求める。ここで、入射角θaが0度および±4度の場合には、スチール鋼板21,22内の音速Vbを6000m/secとして、屈折角θbを求める。また、入射角θaが±16度、±18度、±20度の場合には、前記音速Vbを3300m/secとして、屈折角θbを求める。尚、水中の超音波の音速は1500m/secとしている。そして、上述したように、各非線形画像31のフレームの縦横比を、その縦方向の画素数と横方向の画素数との比率により補正する。これにより、各非線形画像31のフレームの縦横比を、被探査金属体20の溶接部23の断面形状の縦横比に合わせている。
【0068】
この縦横比を夫々補正した各補正画像31’(図3(B)参照)をそれぞれの屈折角θbに従って角度補正する処理を行う。各非線形画像31のフレームは、上述したように、その縦方向が超音波進行方向となっており、横方向が走査方向(水平方向)となっている。そのため、この処理により、横方向を水平方向に保持しつつ、縦方向のみを各屈折角θbにより傾ける。これにより、各補正画像31’(入射角θa=20度以外のものは図示省略)を、長方形状のフレームから平行四辺形状のフレーム(フレーム変換画像32a〜32h)に変換し、変換後の垂直方向が、被探査金属体20の垂直方向と一致する。
【0069】
ここで、入射角θa=+20度の場合について例示する。この入射角θa=+20度の非線形画像31を図3(A)に示す。入射角θa=+20度では、式(1)により屈折角θb=48.8度と算出される。さらに、1mm平方当りについての縦方向Wの画素数が、式(2)により184と算出される。そして、1mm平方当りの横方向Yの画素数は、ピッチ間隔tが0.1mmであることから10となる。縦方向Wの画素数が横方向Yに比して多く、縦方向Wと横方向Yの画素数の比率は、18.4:1となる。この画素数の比率に応じて、非線形画像31の横方向Yの幅を、縦横の画素数の比率に従って18.4倍となるように引き延ばす補正を行う。このように補正された補正画像31’を図3(B)に示す。ここで、画素数の多い縦方向Wの幅を維持して、横方向の幅を引き延ばすことによって、縦方向Wの幅を維持してその画素数の欠落を防止できるため、画像処理の精度を縦方向の画素数によって定まる精度に維持できる。
【0070】
その後、フレームの縦横比を補正した補正画像31’を、上記した屈折角θb=48.8度に従って角度補正する。この処理では、補正画像31’を、その横方向Yを水平方向に保持しつつ、縦方向Wのみを屈折角θb=48.8度と同じだけ傾ける。これにより、補正画像31’を、変換後の縦方向Xを垂直方向とする平行四辺形状のフレームに変換し、図3(C)に示すフレーム変換画像32aを得る。
【0071】
このような入射角θa=+20度の場合と同様に、他の入射角θaについても、それぞれの非線形画像(図示省略)を、フレームの縦横比の補正と屈折角θbによる角度補正とを行う画像変換処理により、被探査金属体20の溶接部23の断面形状に合わせたフレーム形態に変換し、図4,5に示す各入射角θa毎のフレーム変換画像32a〜32hを夫々生成する。
【0072】
このように入射角θa毎のフレーム変換画像32a〜32hを得ると、制御処理装置9は上述した探査画像生成処理を行う。この処理では、各フレーム変換画像32a〜32hを高速フーリエ変換した後に、任意の二つのフレーム変換画像(32a〜32h)を選択し、両者で同じ座標位置に存在するエコー信号41同士を乗算する。これにより算出された乗算値は、二つのエコー信号41の強度がかけ合わされた値となる。このように全てのエコー信号41について、前記した乗算する処理を行う。そして、このように算出した各乗算値を、配向欠陥で生じたエコー信号41を除去するために予め定めた信号強度閾値に従って判定し、当該信号強度閾値より小さい乗算値を構成する全てのエコー信号41を、当該二つのフレーム変換画像(32a〜32h)から除去する。この処理後のフレーム変換画像(図示省略)は、当該信号強度閾値以上の乗算値となるエコー信号41aのみによって表示されるものである。このように任意の二つのフレーム変換画像(32a〜32h)を選択して、信号強度閾値より小さい乗算値となるエコー信号41を除去する処理を、全てのフレーム変換画像(32a〜32h)の組合せについて実行し、信号強度閾値以上の乗算値となるエコー信号41aのみによって表示した各フレーム変換画像(図示省略)を生成する。
【0073】
この後、エコー信号41aのみによる各フレーム変換画像を、全て同じフレームサイズとするようにサイズ補正する処理を行う。この処理では、超音波進行方向の画素数が最も多い入射角θa=+20度のフレーム変換画像(図示省略)に、その他のフレーム変換画像(図示省略)のフレームサイズを合わせる。すなわち、入射角θa=+20度のフレーム変換画像での超音波進行方向の画素数と、その他のフレーム変換画像での超音波進行方向の画素数との比率に従って、その他のフレーム変換画像のフレームサイズを拡大する。例えば、入射角θa=+20度の場合、その超音波進行方向の画素数が184であり、入射角θa=16度の場合、その超音波進行方向の画素数が152であることから、入射角θa=16度のフレーム変換画像(図示省略)のフレームサイズを「184/152」倍する。
【0074】
このように各フレーム変換画像(図示省略)のフレームサイズを合わせた後に、これら各フレーム変換画像を重ね合わせることにより、被探査金属体20の溶接部23の断面画像として、図6(A)に示す非線形探査画像35を得る。ここで、当該被探査金属体20を、探触子4を位置変換した方向に沿って切断した断面写真を図6(B)に示す。この断面写真と、本実施例の超音波探査装置1により生成した非線形探査画像35とを比較すると、該非線形探査画像35により溶接部23の界面形状が精度良く且つ明確に表れていることがわかる。すなわち、本実施例の超音波探査装置1により非線形探査画像35を生成することにより、溶接部23の界面形状を正確に探査する非破壊検査を行い得る。そして、本実施例の超音波探査装置1によれば、溶接部23の界面形状を精度良くかつ明確に表示する非線形探査画像35を安定して得ることができる。
【0075】
尚、仮に、画像変換処理により生成した各フレーム変換画像32a〜32hを、上記した信号強度閾値による除去処理をせずに重ね合わせた場合について、この重ね合わせ処理後の比較画像37を図9(A)に示す。この比較画像37では、上記した図6(B)の断面写真と比して、溶接部23の界面形状を判別することが難しい。この比較画像37と断面写真(図6(B))とを重ね合わせて表示しても、図9(B)のように、溶接部23の界面形状が分かり難い。これにより、本実施例にあって、配向欠陥で生じたエコー信号41を除去するための信号強度閾値を用いる重要性が認識できる。
【0076】
このような本実施例の超音波探査装置1により、例えば、ディスクとリムとを溶接してなる自動車用ホイールの溶接部を非破壊検査することもできる。この自動車用ホイールにあっては、上述したように、重要保安製品であることから、その溶接部の品質管理は重要である。この場合には、自動車ホイールを水没可能な水槽(図示省略)を備える構成とする。そして、水槽内にセットした後に、探触子4がホイール軸方向と平行に移動するように設定した該探触子4の走査方向に従って探触子走査装置11を駆動制御することにより、上記した探査作動を行う。また、自動車用ホイールは、その溶接部が複数箇所形成されているため、それぞれについて探査作動を行なって非線形探査画像を得るようにしても良い。そして、この非線形探査画像によって溶接部の品質管理を行うことにより、該溶接部の溶け込みが正常か否かの判断を容易かつ正確に行うことができる。
【0077】
一方、上述した実施例の構成にあって、制御処理装置により実行する探査画像生成処理は、高速フーリエ変換した後に任意の二つのフレーム変換画像の同じ座標位置のエコー信号を乗算して、信号強度閾値により判定する処理方法として設定しているが、その他の処理方法を用いることも可能である。例えば、高速フーリエ変換した後に、任意の二つのフレーム変換画像を選択して、同位置のエコー信号を加算して、この加算値を予め定めた信号強度閾値により判定するようにした処理とすることもできる。また、高速フーリエ変換に代えて、フーリエ変換や最大エントロピー法の処理を行い、その後、任意の二つのフレーム変換画像を選択して同位置のエコー信号を加算または乗算して、加算値又は乗算値を信号強度閾値により判定する処理としても良い。さらにまた、高速フーリエ変換した後に、各フレーム変換画像毎に、各エコー信号を予め定めた信号強度閾値により判定するようにした処理とすることもできる。同様に、高速フーリエ変換に代えて、フーリエ変換や最大エントロピー法の処理を行い、各フレーム変換画像毎に、各エコー信号を信号強度閾値により判定する処理としても良い。尚、これらいずれの処理を用いる場合にあっても、それぞれに適する信号強度閾値を、配向欠陥で発生したエコー信号を除去できる閾値として夫々に定めることが必要である。
【0078】
また、上述した実施例にあっては、探査画像生成処理で、信号強度閾値以上のエコー信号による各フレーム変換画像を生成した後に、各フレーム変換画像のフレームサイズを変換するサイズ補正を行うようにした構成であるが、その他の構成として、画像変換処理で生成した各フレーム変換画像のフレームサイズを変換した後に、信号強度閾値以上のエコー信号による各フレーム変換画像を生成するようにしても良い。
【0079】
また、上述した実施例にあっては、スチール鋼板を溶接したものを被探査金属体として用いているが、その他の金属同士を溶接したものを被探査金属体として、その溶接部を探査することもできる。このように他の金属材料からなる被探査金属体の場合には、該金属内を進行する超音波の音速が異なるため、該音速を予め測定する必要がある。また、入射角についても、金属材料によって縦波や横波が生じる場合が異なることから、適宜設定する必要が生じる。例えば、アルミ合金同士を溶接したものを被探査金属体として検査する場合には、超音波の入射角を、0度〜±8度の範囲と±17度〜±28度の範囲とから適宜設定する。±8度より大きく且つ±17度未満の範囲では縦波と横波が混在するために適正な検査ができず、±28度を超えると、超音波が被探査金属体内に入っていかず、検査ができない。さらに、当該被探査金属体内を進行する超音波の縦波および横波の音速も実測して使用する。
【0080】
一方、上述した実施例では、超音波探査装置1を、二つのスチール鋼板を溶接した溶接部を探査することに用いた場合について説明したが、これ以外の場合にも用いることが可能である。例えば、鋼材を焼入れ処理した場合に、その焼入れ深さを検査することにも適用できる。具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼を焼入れ処理した場合に、焼入れ処理が不充分であると、焼入れ処理によって生成したマルテンサイト組織と焼入れ処理されずに残ったオーステナイト組織とが存在する。マルテンサイト組織の結晶構造は体心立方格子であり、オーステナイト組織の結晶構造は面心立方格子であるから、本実施例の超音波探査装置1により、それぞれの組織の界面で反射する界面反射波が高調波に含まれることから、この高調波からエコー信号を取得することにより、当該界面形状を表す非線形探査画像を得ることができる。この場合にあっても、各組織内の配向欠陥で発生したエコー信号が取得されるが、当該エコー信号を除去するための信号強度閾値以下のものを除去することにより、前記した界面形状が精度良くかつ明確に表示され得る。
【0081】
本発明にあっては、上述した実施例に限定されるものではなく、その他の構成についても、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 超音波探査装置
4 探触子
4a 発信部
4b 受信部
5 高周波発生器(超音波発生手段)
6 増幅器(超音波発生手段)
9 制御処理装置(走査制御手段、探査画像処理手段)
11 探触子走査装置(探触子走査手段)
12 探触子傾動装置(探触子傾動手段)
20 被探査金属体
23 溶接部(探査対象領域)
31 非線形画像(入射角θa=+20度の場合)
32a〜32h フレーム変換画像
35 非線形探査画像
41,41a エコー信号
p 送受信位置
t ピッチ間隔
θa 入射角
θb 屈折角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被探査金属体の探査対象領域に向けて所定周波数の超音波を発信して該超音波の反射波を受信する送受信位置を所定ピッチ間隔により順次位置変換させる探査作動を、予め設定した複数の超音波の入射角毎に実行すると共に、各入射角毎に前記反射波に含まれる高調波を取り出して、該高調波から取得されるエコー信号を超音波の発信からその反射波の受信までの応答時間に基づいて表示する前記探査対象領域の非線形画像を、前記各入射角毎に夫々生成する探査処理と、
各入射角毎の非線形画像を、その入射角により発信した超音波が被探査金属体内を進行する屈折角と、該屈折角および超音波の音速により規定されるデータ数とに基づいて、前記探査対象領域の断面形状に合致するフレーム形態に夫々変換することにより、各入射角毎のフレーム変換画像を生成する画像変換処理と、
被探査金属体の結晶構造が有する不整な結晶方位により生じている配向欠陥で発生したエコー信号を除去するための信号強度閾値を予め定め、該信号強度閾値以上のエコー信号のみによる各フレーム変換画像を重ね合わせることにより、前記探査対象領域の非線形探査画像を生成する探査画像生成処理と
を実行するようにしていることを特徴とする超音波探査方法。
【請求項2】
画像変換処理は、各入射角の非線形画像毎に、
超音波の送受信位置のピッチ間隔により規定されるデータ数と、屈折角および超音波の音速により規定されるデータ数とに基づいて、非線形画像を表すフレームの縦横比を補正する処理を行った後に、夫々の屈折角に従って、探査対象領域の断面形状と合わせて角度補正する変換処理を行うことにより、各入射角毎のフレーム変換画像を生成するようにしていることを特徴とする請求項1に記載の超音波探査方法。
【請求項3】
探査画像生成処理は、
各フレーム変換画像を重ね合わせる前に、最もデータ数の多いフレーム変換画像にフレームサイズを合わせるように、その他のフレーム変換画像をサイズ補正する変換処理とを行うようにしていることを特徴とする請求項2に記載の超音波探査方法。
【請求項4】
所定周波数の超音波を発生する超音波発生手段と、
該超音波発生手段により発生した超音波を発信する発信部と該超音波の反射波を受信する受信部とを具備する探触子と、
超音波を発信して反射波を受信する送受信位置を可変するように、該探触子を移動する探触子走査手段と、
被探査金属体に入射する超音波の入射角を角度調整可能とするように、探触子を傾動する探触子傾動手段と、
前記探触子走査手段と探触子傾動手段とを作動制御することにより、探触子を所定入射角に保持し且つ前記送受信位置を所定ピッチ間隔で順次位置変換する探査作動を、予め設定した複数の入射角毎に行う走査制御手段と、
各入射角毎に、探触子により受信した反射波から該反射波に含まれる高調波を取り出して、前記高調波から取得されるエコー信号を超音波の発信からその反射波を受信するまでの応答時間に基づいて表示する非線形画像を、各入射角毎に夫々生成する画像生成処理内容と、各入射角毎の非線形画像を、その入射角により発信した超音波が被探査金属体内を進行する屈折角と、該屈折角および超音波の音速により規定されるデータ数とに基づいて、被探査金属体の断面形状に合致するフレーム形態に夫々変換することにより、各入射角毎のフレーム変換画像を生成する画像変換処理内容と、被探査金属体の結晶構造が有する不整な結晶方位により生じている配向欠陥で発生したエコー信号を除去するための信号強度閾値を予め定め、該信号強度閾値以上のエコー信号のみによる各フレーム変換画像を重ね合わせることにより、前記探査対象領域の非線形探査画像を生成する探査画像生成処理内容とを備えた探査画像処理手段と
を備えていることを特徴とする超音波探査装置。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−230630(P2010−230630A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81304(P2009−81304)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【出願人】(504327306)有限会社超音波材料診断研究所 (12)
【Fターム(参考)】