説明

超音波探触子及び超音波探傷装置

【課題】測定対象物から離すことなく任意の方向に移動させて高S/N比で厚さ又は亀裂深さを測定する。
【解決手段】超音波探触子10は、超音波振動子11と、前記超音波振動子と測定対象物100との間に配置され、超音波が通過する球体12と、前記球体を回転可能に保持する保持機構と、前記超音波振動子と前記球体との間で超音波を伝播させる液状媒体17とを備える。球体は、外殻12aと、外殻の内部に充填された液体12bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷試験等に好ましく使用することができる超音波探触子及び超音波探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の分野において、金属部品等の厚さを測定するため、あるいは、表面または内部のき裂の発生やその大きさを調べるため、超音波を用いた探傷試験が行われている。超音波による厚さの測定は図7に示すようにして行うことができ、また、超音波による亀裂深さの測定は、図8に示すようにして行うことができる(例えば、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)。
【0003】
図7は、従来の超音波による厚さ測定方法を示す図である。図7に示すように、超音波探触子90を測定対象物100の一方の表面上に配置し、次いで、超音波探触子90から測定対象物100内に超音波を入射する。さらに、測定対象物100の他方の表面で反射した超音波を超音波探触子90で受信し、超音波の送信から受信までの時間を計測する。この測定した時間から超音波の進んだ距離が算出される。この距離の1/2が測定対象物100の厚さとなる。
【0004】
図8は、従来の超音波による亀裂深さの測定方法を示す図である。図8に示すように、送信用探触子91と受信用探触子92とをあらかじめ定めた距離を隔てて測定対象物100の表面上に配置する。このとき、送信用探触子91と受信用探触子92との間を測定対象物100の表面に形成されている亀裂101が横切るように、探触子91,92の位置を調整する。
【0005】
次いで、送信用探触子91から測定対象物100内に超音波を入射する。さらに、亀裂101の底部101aを回折して送信用探触子91とは反対側に進む超音波を受信用探触子92で受信し、超音波の送信から受信までの時間を計測する。この測定した時間から超音波の進んだ距離が算出される。その後、算出した距離と、送信用探触子91から受信用探触子92までの距離とから、亀裂101の深さが算出される。
【0006】
また、特許文献2には、一対の車輪の内部に送信用探触子及び受信用探触子をそれぞれ内蔵した超音波探傷装置が開示されている。この超音波探傷装置によれば、一対の車輪を回転させることにより送信用探触子及び受信用探触子を測定対象物から離すことなくその位置を移動させることができるので、効率よく連続して測定を行うことができる。
【0007】
更に、特許文献3には、超音波振動子と測定対象物との間に球体を介在させた超音波探触子が記載されている。この超音波探触子によれば、探触子を測定対象物から離すことなく所望する位置に自由に移動させることができるので、測定対象物の厚さや亀裂深さを更に効率よく連続して測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭54−150188号公報
【特許文献2】特開2005−315800号公報
【特許文献3】特開2008−51557号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「ブリティッシュ・スタンダード(BRITISH STANDARD)」、1993年、BS7706
【非特許文献2】ジョセフ・クラウトクレーマ(Josef Krautkramer)、ヘルベルト・クラウトクレーマ(Herbert Krautkramer)著、「ウルトラソニック・テスティング・オブ・マテリアルズ(Ultrasonic Testing of Materials)」、スプリンガー・ベルラーグ(Springer Verlag)、1990年、p.323
【非特許文献3】「超音波探傷試験III」、社団法人日本非破壊検査協会、1989年2月1日、p133−134
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図7及び図8に示した測定方法においては、厚さの連続した変化を測定する場合あるいは多数の亀裂深さをそれぞれ測定する場合には、探触子の移動及び位置決めに多大な時間を要する。
【0011】
また、特許文献2に示された超音波探傷装置では、探触子を測定対象物から離すことなく厚さや亀裂深さを連続して測定することができるが、一対の車輪の回転軸方向は固定されているので、超音波探傷装置を任意の方向に移動させながら連続して測定することはできない。
【0012】
特許文献3に示された超音波探触子では、特許文献2の上記の問題は解消されるものの、ゴム等で構成される球体の内部で超音波の横波によってノイズが発生するとともに、超音波の縦波が減衰してしまうのでS/N比が低いという問題がある。
【0013】
本発明は、任意の方向に自由に移動させることができるという特許文献3の超音波探触子の特徴を備えながら、球体の内部での横波によるノイズを低減し、且つ、縦波の減衰を抑えることによりS/N比を向上させ、測定精度が改善された超音波探触子及び超音波探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の超音波探触子は、測定対象物に超音波を入射させ及び/又は前記測定対象物からの超音波を受信する超音波探触子であって、超音波振動子と、前記超音波振動子と前記測定対象物との間に配置され、超音波が通過する球体と、前記球体を回転可能に保持する保持機構と、前記超音波振動子と前記球体との間で超音波を伝播させる液状媒体とを備える。そして、前記球体は、外殻と、前記外殻の内部に充填された液体とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の超音波探傷装置は、一対の超音波探触子と、前記一対の超音波探触子を保持するホルダとを備え、前記一対の超音波探触子のうちの一方が測定対象物に超音波を入射させ、他方が前記測定対象物からの超音波を受信する超音波探傷装置であって、前記一対の超音波探触子のそれぞれが上記の本発明の超音波探触子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、球体の外殻内に充填された液体が、横波によるノイズを取り除き、且つ、縦波の減衰を抑える。従って、S/N比が向上し、測定精度が改善される。
【0017】
また、超音波振動子と測定対象物との間に球体が配置されているので、超音波探触子を測定対象物に接触させたまま任意の方向に自由に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る超音波探触子の概略構成を示した断面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る超音波探触子の概略構成を示した外観斜視図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る超音波探触子の概略構成を示した分解斜視図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置の概略構成を示した外観斜視図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置において、測定対象物と球体と超音波振動子との相対的位置関係を示した概念図である。
【図6】図6は、本発明の別の実施形態に係る超音波探傷装置の概略構成を示した断面図である。
【図7】図7は、従来の超音波による厚さの測定方法を示した図である。
【図8】図8は、従来の超音波による亀裂深さの測定方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の超音波探触子において、球体の前記外殻がゴム系材料を含むことが好ましい。特に、外殻の外表面がゴム系材料を含むことが好ましい。これにより、球体と測定対象物の表面とが面積を有する接触領域にて密着する。従って、超音波探傷において通常必要である接触媒質を用いることなく、球体と測定対象物との間での超音波の伝播が容易になる。
【0020】
また、球体の外殻内に充填される液体は水又は油であることが好ましい。これにより、探傷性能が長期に安定した超音波探触子を安価に提供することができる。
【0021】
以下、本発明を、好適な実施形態を用いて詳細に説明する。但し、以下に示す実施形態は例示に過ぎず、本発明は当該実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0022】
図1は本発明の一実施形態に係る超音波探触子10の概略構成を示した断面図、図2はその外観斜視図、図3はその分解斜視図である。
【0023】
超音波探触子10は、超音波を放出し及び/又は超音波を受信する超音波振動子11と、超音波振動子11と測定対象物100との間に配置される球体12とを備える。
【0024】
超音波振動子11は、吸音材などを含む振動子ホルダ13の下端に固定されている。振動子ホルダ13から導出された配線ケーブル14を介して超音波振動子11に対して電気信号の授受が行われる。振動子ホルダ13は、略円柱状の第1支持部材21の中心軸にほぼ沿って形成された貫通孔21a内に挿入され、固定ネジ15を用いて第1支持部材21に固定される。
【0025】
中空円筒形状の第2支持部材22の一方の側の開口から、球体12及び複数の支持ボール16が順に挿入され、更に第1支持部材21が嵌入される。第2支持部材22の他方の側の開口近傍の内壁面にはシール23が環状に突出して形成されている。シール23が、この他方の側の開口から球体12が脱落するのを防止している。複数の支持ボール16及びシール23により、球体12は第1支持部材21及び第2支持部材22により形成されたカップ状の空間内に任意の方向に自由に回転可能に保持される。
【0026】
図1に示すように、超音波振動子11と球体12とは互いに近接し且つ対向して配置されている。超音波振動子11と球体12との間の隙間を含む、球体12が収納されたカップ状の空間内には液状媒体17が充填されている。液状媒体17は、第2支持部材22の側壁に形成された貫通孔に挿入された注入パイプ18を介して注入される。シール23は液状媒体17が漏出するのを防止している。
【0027】
球体12は、外殻12aと、外殻12a内に充填された液体12bとを備える。
【0028】
外殻12aの外面及び内面はいずれも球面であり、両者の中心は一致する。外殻12aの材料は特に限定されないが、例えばゴム系材料、樹脂材料、金属系材料などを用いることができるが、ゴム系材料が好ましい。ゴム系材料は容易に変形し得るので、測定に際して球体12が測定対象物100の表面に押し付けられると、球体12が変形して測定対象物100の表面に密着してある面積を有する接触領域110が形成される。これにより、接触領域110を介して測定対象物100と球体12との間での超音波の伝播が容易になり、超音波探傷において通常必要である超音波探触子と測定対象物との間に付与される接触媒質が不要になる。
【0029】
ゴム系材料としては、例えばシリコンゴム、BRゴム、NBRゴム、ウレタンゴム、バイトンゴムなどを使用することができる。樹脂材料としては、ポリエステル系樹脂(例えばPET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、アクリル系樹脂などを使用することができる。金属系材料としては、ステンレス鋼、アルミニウム、銅などを使用することができる。
【0030】
外殻12aは、単一材料から構成されていてもよいが、厚さ方向(即ち、半径方向)に複数の層が積層されていてもよい。この場合、最外層にゴム系材料を用いると、球体12を測定対象物100の表面に押し付けたときに、最外層が変形してある面積を有する接触領域110を容易に形成することができるので好ましい。一方、内層には金属系材料や樹脂材料等の相対的に硬い材料を用いることにより、球体12のマクロ的な変形を抑えることができる。
【0031】
液体12bの材料は特に制限はないが、長期間にわたって安定した特性を維持し得る材料、例えば、水、油などを用いることができる。油としては、特に制限はないが、例えば潤滑、冷却、防錆等に用いられる公知の油、好ましくは鉱物油が好ましい。液体12bは、2種以上の液体この混合物であってもよく、また、各種添加剤等を含んでいてもよい。液体12bは、超音波探触子10の使用温度において液体であればよい。
【0032】
外殻12a内に液体12bが充填された球体12の製造方法は特に制限はない。例えば以下の方法で製造できる。最初に、外殻12aの材料で作成した中実の球体を2つの半球体に分割する。次いで、各半球体の分割面にフライス盤等を用いて半球状の凹部を形成するとともに、少なくとも一方の半球体に液体12bの注入孔を形成する。次いで、2つの半球体を熱融着、接着等の方法により接合して外殻12bを得る。そして、注入孔を介して外殻12b内に液体12aを注入し、注入孔を封止する。このとき、外殻12a内に気泡が残存しないように注意する。
【0033】
外殻12a内に液体12bが充填された球体12による作用を説明する。
【0034】
一般に、超音波は媒質中を縦波及び/又は横波として伝播する。特許文献3に記載された従来の超音波探触子では、ゴム等からなる中実の球体を使用する。この場合、超音波の横波は、球体内を伝播可能であるが、球体12と測定対象物100の表面との接触領域110に集束されない。従って、球体内で多重反射を繰り返し、これがノイズとして検出されてしまう。一方、超音波の縦波は、球体がゴム等の圧縮性の材料からなるので、球体内で減衰されやすい。従って、S/N比が低下するという問題があった。
【0035】
これに対して、本発明では、球体12の内部には液体12bが充填されている。この場合、超音波の縦波は液体12b中を伝播可能であるが、超音波の横波は液体12b中を伝播されない。しかも、液体12bは、ゴムに比べて概して非圧縮性であるので、縦波の減衰は少ない。従って、縦波を用いて測定対象物の厚さや亀裂深さ等を測定することにより、S/N比が向上し、測定精度が向上するのである。
【0036】
超音波振動子11から放出された超音波は、球体12と測定対象物100の表面との接触領域110内又はその近傍にビーム状に集束されることが好ましい。これにより、超音波エネルギーの無駄を少なくし、より強い超音波を測定対象物100内に入射させることができる。また、測定対象物100に入射せず、球体12の表面で反射することで発生するノイズを抑制することができる。これらにより、S/N比が更に向上し、測定精度が更に改善される。
【0037】
超音波を集束するための方法は特に限定されない。例えば、図1に示すように、超音波振動子11としてコンポジット振動子を用い、その球体12に対向する面が凹曲面となるようにコンポジット振動子を変形させてもよい。コンポジット振動子とは、ポリマーなどのシート状物に多数の微小な圧電セラミックを格子点状に埋め込んだ複合振動子である。コンポジット振動子は可撓性を有し、球体12の曲率半径に応じて任意の3次元曲面に容易且つ高精度に成形することができる。コンポジット振動子はエネルギー変換効率が高いので、高感度の超音波探触子を実現できる。また、吸音材を軽量化できる。特に1−3コンポジット振動子はエネルギー変換効率が高く、高感度であるので好ましい。コンポジット振動子の球体12に対向する面が凹曲面となるようにコンポジット振動子を変形させることにより、球体12に対する超音波の入射角が小さくなるので、球体12の表面で反射され、球体12内に入射しない超音波を低減できるという効果も得られる。また、後述する音響レンズが不要になるので、部品点数を削減できる。
【0038】
コンポジット振動子の球体12に対向する面の曲率半径は、球体12の外表面の曲率半径よりやや大きいことが好ましい。これにより、集束された超音波ビームの焦点位置を、球体12と測定対象物100の表面との接触領域110にほぼ一致させることができる。
【0039】
超音波を集束するための方法としては、上記に限定されず、例えば後述する図6に示すように、超音波振動子41と球体12との間に音響レンズ42を配置する方法を用いることもできる。
【0040】
液状媒体17は、超音波振動子11と球体12との間での超音波の伝播を容易にする。液状媒体17の材料は特に制限はないが、例えばグリース、グリセリンなどを使用することができる。液状媒体17中を伝播する超音波の伝播速度が球体12中を伝播する超音波の伝播速度及び/又は支持部材中を伝播する超音波の伝播速度と同じになるように液状媒体17の材料を選択すれば、超音波探触子10の各部での超音波の反射によるノイズを低減することができる。
【0041】
支持ボール16は球体12より小径の球状体である。支持ボール16の材料は特に制限はないが例えばステンレス鋼を用いることができる。支持ボール16の個数も特に制限はない。なお、球体12を自由に回転させることができれば、複数の支持ボール16以外の方法により球体12を支持してもよい。
【0042】
次に、本発明の超音波探触子10を用いた測定対象物100の厚さ測定方法を説明する。図7で説明したのと同様に、厚さ測定では1つの超音波探触子10を用いる。図1に示すように、接触領域110での測定対象物100の表面に対する法線上に超音波振動子11がほぼ位置するように、超音波探触子10を測定対象物100に押し付ける。次いで、超音波振動子11を振動させると、これから放出された超音波は、液状媒体17、球体12を順に通過して、接触領域110を介して測定対象物100に入射する。入射した超音波は測定対象物100の入射面とは反対側の面に到達し、ここで反射されて、上記と逆の経路を通って超音波振動子11に入射してこれを振動させる。超音波振動子11はこの振動を電気信号に変換して出力する。超音波振動子11による超音波の送信から受信までの時間を計測すれば、測定対象物100の厚さを計算することができる。
【0043】
測定対象物100上の測定位置を変えるには、超音波探触子10を測定対象物100に押し付けたままで超音波探触子10を任意の方向に移動させればよい。移動中、球体12は測定対象物100の表面との密着状態を維持しながら測定対象物100上を転がる。従って、移動中も超音波の送信と受信とを繰り返し行えば、厚さ測定を次々に連続的に行うことができる。
【0044】
次に、本発明の超音波探触子10を用いた、測定対象物100上に形成された亀裂深さの測定方法を説明する。図8で説明したのと同様に、亀裂深さ測定では2つの超音波探触子10を備えた超音波探傷装置を用いる。2つの超音波探触子10のうちの一方を超音波を送信する送波子とし、他方を超音波を受信する受波子とする。
【0045】
2つの超音波探触子10を測定対象物100に同時に押し付ける。このとき、測定対象物100に対する超音波探触子10の角度は、垂直、即ち、図1に示すように接触領域110での測定対象物100の表面に対する法線上に超音波振動子11が位置する角度であってもよい。しかしながら、2つの超音波探触子10の間の亀裂に向かって超音波が送信され、且つこの亀裂からの超音波が受信されるように、図4に示すように、測定対象物100の表面に対して2つの超音波探触子10を互いに反対方向に傾斜させることが好ましい。測定中に2つの超音波探触子10の相対的位置関係(間隔及び傾斜角度など)が一定に維持されるように、2つの超音波探触子10はホルダ(図示せず)で一体に保持されていることが好ましい。
【0046】
図5に一方の超音波探触子10についての測定対象物100と球体12と超音波振動子11との相対的位置関係を示す。図1と異なり、図5に示すように超音波探触子10を傾斜させると、接触領域110での測定対象物100の表面に対する法線からずれた位置に超音波振動子11が配置される。このとき、図5に示した超音波振動子11と球体12との間の間隔d1,d2がd1<d2を満足すると、超音波振動子11から放出された超音波を接触領域110内に集束させやすくなるので好ましい。亀裂の深さが相対的に深い場合には超音波の減衰が大きくなるので、図4のように超音波探触子10を傾斜させること、更に、超音波振動子11から放出された超音波を接触領域110内に集束させることは、亀裂深さを正確に測定するのに効果的である。
【0047】
送波子から超音波を放出させながら、2つの超音波探触子10を測定対象物100に同時に押し付けたまま移動させる。2つの超音波探触子10間に亀裂がなければ受波子は測定対象物100の表面に沿って直進する超音波を受信し、2つの超音波探触子10間に亀裂があれば受波子は亀裂の底部(図8の底部101aを参照)を回折した超音波を受信する。亀裂が深いほど受波子が受信する超音波のエネルギーは小さくなるので、受信した超音波の振幅から亀裂の深さを測定することができる。また、深い亀裂であれば、超音波が送波子から送信された後、亀裂の底部を回折して受波子に受信されるまでの時間が長くなるので、厚さ測定の場合と同様に、超音波の送信から受信までの時間を計測することにより、亀裂の深さを算出することもできる。
【0048】
また、測定対象物100の裏面で反射した超音波を受波子で受信し、超音波の送信から受信までの時間を計測することにより、2つの超音波探触子10を用いて測定対象物100の厚さを測定することもできる。
【0049】
図6は本発明の別の実施形態に係る超音波探傷装置の概略構成を示した断面図である。図6の超音波探傷装置は、図4の超音波探傷装置と同様に、測定対象物100の厚さ及び亀裂101の深さを測定することができる。図6の超音波探傷装置は、2つの超音波探触子10a,10bと、2つの超音波探触子10a,10b間で超音波が直接伝播するのを防止するための音響隔離壁31と、2つの超音波探触子10a,10bを一体に保持するホルダ30とを備える。2つの超音波探触子10a,10bの構成は同じであり、一方は超音波を送信する送波子として使用され、他方は超音波を受信する受波子として使用される。図6において、図1〜図4と同じ構成部材には同じ符号を付してそれらの説明を省略する。
【0050】
超音波振動子から放出された超音波を集束させるために、図1では超音波振動子11として曲面成形されたコンポジット振動子を用いたが、図4では超音波振動子41と球体12との間に音響レンズ42を用いている。音響レンズ42の球体12に対向する面に形成された凹曲面が超音波振動子41から放出された超音波を球体12と測定対象物100の表面との接触領域内又はその近傍に集束させる。音響レンズ42は、超音波を集束させる機能を有していれば特に制限はないが、例えば高密度ポリスチレン樹脂の板材を削り出し加工して製作することができる。音響レンズ42は、超音波の伝播を容易にするために超音波振動子41に密着されている。
【0051】
音響レンズ42を用いて超音波を集束させる場合、超音波振動子41としては、圧電セラミック材料からなる一般的なセラミック振動子を用いることができる。セラミック振動子を用いた場合、コンポジット振動子を用いた場合に比べて、超音波の周波数帯域を拡大することができるという利点を有する反面、多くの吸音材を設ける必要があること、また概して感度が低いという欠点を有する。
【0052】
図6では図示を簡略化しているが、球体12は図1と同様の保持機構により回転可能に保持されている。また、音響レンズ42と球体12とは互いに近接して配置され、音響レンズ42と球体12との間の隙間には図1と同様に液状媒体(図示せず)が充填されている。
【0053】
図6では、ホルダ30は2つの超音波探触子10a,10bをほぼ平行に保持しているが、図4と同様に、2つの超音波探触子10a,10bを互いに傾斜させて保持していても良い。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の利用分野は特に制限はなく、超音波を用いた探傷試験として広く利用することができる。特に、超音波探触子又は超音波探傷装置を測定対象物から離すことなく任意の方向に移動させて連続的に厚さ又は亀裂深さを高精度で測定することができるので、厚さが連続的に変化する場合や多数の亀裂が存在する場合に、効率よい測定を行うことができる。例えば、配管やタンクの肉厚測定、ガスタービン動翼や溶接部の亀裂測定などに利用できる。
【符号の説明】
【0055】
10,10a,10b 超音波探触子
11 超音波振動子
12 球体
12a 外殻
12b 液体
13 振動子ホルダ
14 配線ケーブル
15 固定ネジ
16 支持ボール
17 液状媒体
18 注入パイプ
21 第1支持部材
21a 貫通孔
22 第2支持部材
23 シール
30 ホルダ
31 音響隔離壁
41 超音波振動子
42 音響レンズ
100 測定対象物
101 亀裂
110 接触領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に超音波を入射させ及び/又は前記測定対象物からの超音波を受信する超音波探触子であって、
超音波振動子と、前記超音波振動子と前記測定対象物との間に配置され、超音波が通過する球体と、前記球体を回転可能に保持する保持機構と、前記超音波振動子と前記球体との間で超音波を伝播させる液状媒体とを備え、
前記球体は、外殻と、前記外殻の内部に充填された液体とを備えることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記外殻はゴム系材料を含む請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記液体が、水又は油である請求項1又は2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
一対の超音波探触子と、前記一対の超音波探触子を保持するホルダとを備え、前記一対の超音波探触子のうちの一方が測定対象物に超音波を入射させ、他方が前記測定対象物からの超音波を受信する超音波探傷装置であって、前記一対の超音波探触子のそれぞれが請求項1〜3のいずれかに記載の超音波探触子である超音波探傷装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−127996(P2011−127996A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286415(P2009−286415)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】