説明

距離測定装置

【課題】移動体と対象物との間の相対的な位置関係が変動した場合でも、高精度な距離の測定が可能となる距離測定装置を提供する。
【解決手段】投光部11より、上端部を有し、且つ、水平方向に広がる発光領域を有する第1投光パルスを照射する。そして、測定対象物31にて反射する領域光をカメラ12にて撮像し、この画像を同期検波して第1投光パルスの上端部に対応する上端エッジを検出する。また、第1投光パルスがオフとされているときに撮像される測定対象物の画像から該測定対象物31の形状エッジを検出し、形状エッジと上端エッジが一致する場合については、この上端エッジを除去し、両者が一致する場合の上端エッジを用いて三角測量の原理を用いて、測定対象物31までの距離を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の移動体に設けられ、該移動体の周囲に存在する対象物までの距離を測定する距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の移動体の周辺に存在する対象物までの距離を測定する距離測定装置として、例えば、特開2008−157718号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。該特許文献1では、基線長を有する一対の発光素子、及び受光素子を有し、測定対象物までの距離、及び方向を三角測量方式により検出する。また、トロイダルレンズにより集光されたシートビームを複数回パルス発光させ、発光のタイミングに同期して受光素子から受光位置を抽出し、シートビームの照射方向と反射光の受光素子への入射方向、及び発光素子と受光素子の基線長に基づいて対象までの距離を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−157718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された従来例では、移動体と対象物との間の相対的な位置関係が変動すると、パルス光を照射した際に、対象物による反射信号を検出できない場合があり、三角測量に使用する位置情報に誤差を生じることとなり、正確な距離計測を実施することができない虞があった。
【0005】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、移動体と対象物との間の相対的な位置関係が変動した場合でも、高精度な距離の測定が可能となる距離測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、略水平な上端部を有し、且つ水平方向に広がる発光領域を有する第1パルス光を投光する第1投光手段と、対象物を撮像する撮像手段と、第1投光手段により、第1パルス光の上端部が対象物にかかるように第1パルス光が投光された際に、撮像手段で撮像された画像から第1パルス光を検波する検波手段と、検波手段による検波を制御する制御手段と、検波手段にて検波された第1パルス光に基づき、対象物にかかった第1パルス光の上端エッジを検出する上端エッジ検出手段と、対象物に対する特定発光状態のときに、撮像手段で撮像された画像から対象物の形状エッジを検出する形状エッジ検出手段と、上端エッジと形状エッジに基づいて、対象物までの距離を算出する距離算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る距離測定装置では、第1投光手段により、対象物にその上端部がかかるように第1パルス光を投光し、このとき撮像手段にて撮像される画像を検波して上端エッジを検出する。また、特定発光状態ときに撮像手段で撮像される画像から、対象物の形状エッジを検出する。そして、上端エッジと形状エッジに基づいて、移動体と対象物との距離を算出する。従って、移動体と対象物との相対的な位置関係が変動する場合であっても、高精度に両者間の距離を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置で用いられる同期検波処理部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置で用いられる同期検波処理部における各信号の変化を示すタイミングチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置により測定対象物までの距離を測定する様子を示す説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置のカメラで撮像された画像を示す説明図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置により、測定対象物までの距離を測定する原理を示す説明図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置により測定対象物までの距離を測定する様子の、他の例を示す説明図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置のカメラで撮像された画像の、他の例を示す説明図である。
【図9】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置のカメラで撮像された画像からエッジを抽出した様子を示す説明図である。
【図10】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置で、2つの投光部を用いて測定対象物までの距離を測定する様子を示す説明図である。
【図11】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置で、2つの投光部でパルス光を投光した場合にカメラで撮像される画像を示す説明図である。
【図12】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置による距離測定処理の手順を示すフローチャートである。
【図13】本発明の第1実施形態に係る距離測定装置による同期検波処理の手順を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第2実施形態に係る距離測定装置の構成を示すブロック図である。
【図15】本発明の第2実施形態に係る距離測定装置により測定対象物までの距離を測定する様子を示す説明図である。
【図16】本発明の第2実施形態に係る距離測定装置のカメラで撮像された画像を示す説明図である。
【図17】本発明の第2実施形態に係る距離測定装置による距離測定処理の手順を示すフローチャートである。
【図18】本発明の実施形態に係る距離測定装置によるカメラの俯角が0°の場合の、距離分解能を示す説明図である。
【図19】本発明の実施形態に係る距離測定装置によるカメラの俯角がα°の場合の、距離分解能を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
[第1実施形態の説明]
図1は、本発明の第1実施形態に係る距離測定装置100の構成を示すブロック図である。図1に示すように、第1実施形態に係る距離測定装置100は、車両等の移動体に搭載されるものであり、車両周囲の距離測定の対象となる測定対象物に向けて領域光を照射する投光部(第1投光手段)11と、領域光が照射された測定対象物の映像を撮像するカメラ(撮像手段)12と、投光部11による領域光の照射を制御する投光制御部(制御手段)14と、カメラ12で撮像された画像信号に対して同期検波処理を加える同期検波処理部(検波手段)13と、同期検波された画像から測定対象物の上端エッジ(詳細は後述)を検出する上端エッジ検出部(エッジ検出手段)15と、カメラ12で撮像された画像から測定対象物の形状エッジ(詳細は後述)を検出する形状エッジ検出部17と、上端エッジ検出部15で検出された上端エッジ及び形状エッジ検出部17で検出された形状エッジに基づいて、測定対象物までの距離を求める距離算出部(距離算出手段)16と、を備えている。
【0011】
投光部11は、例えば、プロジェクタヘッドライトやリフレクタを備えたヘッドライトであり、水平方向に広がる発光領域を形成する配光特性を有する領域光(第1パルス光)を照射する。この水平方向に形成された領域光は、BPSK変調(詳細は後述)され、且つPWM制御されて測定対象物に照射され、該測定対象物上に照射領域と非照射領域の輝度境界を鮮明に映し出す配光を実現する。例えば、図5に示す符号Yで示す輝度境界を有する配光特性を有する。また、該投光部11は、可視光、赤外光、及び紫外光のうちのいずれか、或いはその組み合わせの光を照射する。
【0012】
カメラ12は、例えば、CDDやCMOS等の撮像素子を備えており、車両周囲の各種画像を撮像すると共に、投光部11より照射された領域光の、測定対象物による反射光を受光する。また、該カメラ12は、投光部11より投光される可視光、赤外光、及び紫外光のうちのいずれか、或いはその組み合わせの光に検出の感度を有している。
【0013】
同期検波処理部13は、カメラ12より時系列的に取得される複数の画像を用い、画像中の全画素、或いは画像中に処理領域を制限した場合は、この処理領域中の全画素において、投光部11より照射される領域光の、PWM制御に同期した光のみを抽出する。即ち、PWM制御されてオン(点灯)、オフ(消灯)を繰り返す領域光の、オン時における光のみを抽出する。
【0014】
投光制御部14は、投光部11をPWM制御する際のパルスのオン、及びオフのタイミングのトリガ信号を出力する。更に、カメラ12による撮像タイミングのトリガ信号、及び該カメラ12のシャッター時間の制御信号を出力する。また、上述のBPSK変調にて使用した搬送波(キャリア周波数;後述するsin(ωt))信号を同期検波処理部13に出力する。
【0015】
上端エッジ検出部15は、同期検波処理部13により抽出された領域光抽出画像に基づき、領域光の上端エッジを検出する。具体的には、図5に示すように測定対象物31に領域光が照射された場合に、該測定対象物31上の領域光の境界となる線r0を上端エッジとして検出する。詳細については後述する。
【0016】
形状エッジ検出部17は、投光部11による光照射の無いタイミング(PWMのオフのタイミング)を示す信号を、投光制御部14より取得し、投光部11による領域光の照射が無い状況下(特定発光状態)でカメラ12にて撮像された画像を用いて、例えば、sobelフィルタ等の周知の画像処理を用いて、撮像範囲内に存在する測定対象物の形状を抽出する。例えば、図4に示すように、車両の前方に測定対象物31が存在する場合には、この測定対象物31の形状(輪郭)を抽出する。
【0017】
距離算出部16は、上端エッジ検出部15にて検出されたエッジのうち、形状エッジ検出部17で検出される形状エッジと異なる部分の画素を抽出し、更に、この抽出した画素について三角測量の原理を用いて、領域光の上端エッジの照射方向と、カメラ12の視軸がなす角度、及びレイアウトに基づいて測定対象物までの距離を算出する。詳細な算出手順については後述する。
【0018】
次に、同期検波処理部13における同期検波の基本原理を、図2に示すブロック図、及び図3に示すタイミングチャートを参照して説明する。照射した領域光のみを頑健に検出する処理として、一般的に同期検波が用いられる。本実施形態では、カメラ12により撮像された画像の全画素、或いは処理領域として設定された画像領域中の全画素について、この同期検波処理を施し、各画素にて照射光の抽出を行う。以下、図2を参照して説明する。
【0019】
図2に示すように、送信信号をバイナリ信号とし、S(t)(tは時間)で示す。このバイナリ信号S(t)は、例えば、図3(a)に示すように、一定の時間間隔で「1」、「0」で変化する。このバイナリ信号S(t)を送出する際に、バイナリ信号S(t)に対して十分高い周波数ωを持つ搬送波sin(ωt)をバイナリ信号S(t)で位相変調して、BPSK(Binary Phase Shift Keying:二位相偏移変調)送信信号を生成する。その結果、図3(b)に示す如くの波形が生成され、投光される(図2の符号q1参照)。上記の搬送波としては一般的には正弦波が用いられ、送出される振幅変調信号は、2×(S(t)−0.5)×sin(ωt)となる。
【0020】
一方、受光側では、測定対象物で反射したBPSK信号を受光し(図2の符号q2参照)、送信に使用した搬送波sin(ωt)の情報を用いることで、受光した信号からバイナリ信号S(t)を抽出する。即ち、バイナリ信号S(t)を同期検波する。
【0021】
また、受光された信号からバイナリ信号S(t)を抽出する際に、受信信号に対して搬送波sin(ωt)が乗算される(図2の符号q3参照)。この乗算後の信号は、図3(c)に示す如くの波形となる。更に、搬送波sin(ωt)を乗算することにより、搬送波周波数ωの2倍の周波数の信号成分が生成されるので、その影響を除去するため、LPF(低域通過フィルタ)を用いて高周数成分を除去し、その後、正負判定することにより、図3(d)に示すように、復号信号(an)として、送信されたバイナリ信号S(t)を取り出すことができる。
【0022】
そして、状態エッジ検出部15では、送信信号(バイナリ信号S(t))と復号信号(an)との対比により、上端エッジを検出する。なお、上記では搬送波sin(ωt)をバイナリ信号S(t)で位相変調する例について説明したが、振幅変調、周波数変調等の他の変調方式を用いることも可能である。
【0023】
次に、投光部11より投光される領域光の投光パターンについて説明する。上述したように、車両Qに搭載される投光部11は、投光領域の上端部に明暗が鮮明な水平パターンを有する領域光を照射する。以下、この配光パターンについて、図4,図5を参照して説明する。図4は、車両Qに搭載される投光部11より、測定対象物31に向けて領域光を照射する様子を示す説明図であり、図5は、領域光を測定対象物31に照射した際の、カメラ12により撮像された画像を示す説明図である。
【0024】
車両Qの姿勢が変化することや、測定対象物31が移動することにより、車両Qと測定対象物31との間の相対的な位置関係に変化が生じる場合であっても、安定的に領域光を抽出するためには、前述したように、検波に必要な時系列的な画像フレームにおいて、照射パターンが測定対象物上の同一箇所に連続して観測される必要がある。
【0025】
現実的には、車両及び測定対象物31の動きに制約を設けることはできないので、車両及び測定対象物31が任意の動きをした場合でも、安定した照射光抽出を実現するために十分な照射光の領域を設定する必要がある。そこで、本実施形態では、図5に示すように、水平方向に広がる(水平方向に長い)発光領域を有し、下方領域にも投光領域51を有する投光パターンを用いている。
【0026】
次に、領域光の上端エッジを用いて、対象物までの距離を計測する原理について、図6に示す模式図を参照して説明する。図6に示すように、投光部11より照射される領域光の広がり方向(横方向)とは垂直な方向(縦方向)にオフセットした位置に、カメラ12が配置される。投光部11から投光される領域光が測定対象物31に照射され、カメラ12では、測定対象物31の表面で反射した領域光を撮像する。ここで、投光部11の領域光上端部の照射角度(図6の例では0度)、投光部11とカメラ12との距離(高低差)Dy、カメラ12の俯角αに基づき、測定対象物31までの距離Zに応じて、領域光の上端部が観測される上下方位βが変化する。従って、カメラ12で観測される照射領域上端の上下位置yを用いて、三角測量の原理により測定対象物31までの距離Zを算出することができる。
【0027】
上記の原理により、測定対象物31に向けて上端エッジを有する領域光を照射し、この反射光を受光することにより、車両Qのカメラ設置位置から測定対象物31までの距離Zを求めることができる。但し、上記の測定手法を用いる場合では、下記に示すような計測誤差が生じる場合があるので、本実施形態では、形状エッジ検出部17により測定対象物31の形状エッジを検出し、この形状エッジを用いて測定対象物31までの距離を測定する手法を採用している。
【0028】
まず、上記の手法を用いて距離を算出する際に、計測誤差を生じる例について図7,図8を参照して説明する。図7は、領域光を投光する方向に、領域光上端部より高い測定対象物31aと、領域光上端部よりも低い測定対象物31bが同じ距離に存在している場合を示している。この状態で、カメラ12で撮像される画像は、図8のようになる。測定対象物31aについては、投光部11より投光される領域光の上端部が上端エッジr1として同期検波されているが、測定対象物31bについては、領域光の上端部ではなく測定対象物31bの上端部が上端エッジr2として同期検波されている。この同期検波画像を用いて距離を測定すると、測定対象物31aと測定対象物31bは同一の距離に存在するにもかかわらず、測定対象物31bの方がより近い距離に存在すると誤計測されることとなる。
【0029】
そこで、本発明においては、投光部11より投光される領域光がオフの時間帯(オン、オフが繰り返されるパターン光のオフとなる時間帯)にカメラ12で撮像された画像に基づいて通常の画像処理を実行し、測定対象物31a,31bの形状エッジ(輪郭線)を検出し、この形状エッジから横エッジを抽出し、該横エッジと上端エッジ検出部15で検出される上端エッジとの比較により測定対象物31a,31bまでの距離を測定する。
【0030】
例えば、図9に示す如くの測定対象物31a,31bが存在する画像が撮像された場合には、形状エッジ検出部17は各測定対象物31a,31bの形状エッジを検出することにより、その輪郭が特定され、更に、形状エッジから横エッジを抽出する。その結果、測定対象物31aについては、横エッジr3,r5が抽出され、測定対象物31bについては、横エッジr4,r6が抽出される。
【0031】
そして、形状エッジ検出部17で検出された測定対象物31a,31bの形状エッジと、同期検波され上端エッジ検出部15で検出された上端エッジとが一致する場合は、距離計測値に誤差を含んでいる可能性があると判定することができるようになる。即ち、図8に示した測定対象物31aの上端エッジr1と、図9に示した測定対象物31aの横エッジr3は一致しない(高さが異なる)ので、図8の上端エッジr1を用いて距離を測定する場合には誤差を含まないものと判断できる。一方、図8に示した測定対象物31bの上端エッジr2と、図9に示した測定対象物31bの横エッジr4は一致する(高さが同じである)ので、図8の上端エッジr1を用いて距離を測定する場合には誤差を含む可能性があるものと判断する。
【0032】
この場合、測定対象物31bが存在するという情報は出力するが、距離計測値には、誤差が含まれるとし、参考値として出力され、その後の車両制御には使用しない。
【0033】
次に、本発明の第1実施形態に係る距離測定装置の動作を、図12に示すフローチャートを参照して説明する。
【0034】
初めに、ステップS1において、カメラ12により車両周囲に存在する測定対象物31の画像を取得する。
【0035】
ステップS2において、ステップS1の処理で取得した画像が、投光部11よりPWM制御で照射される領域光が照射されないタイミングで撮像された画像であるか否かを判断し、照射されていないとき(特定発光状態)の撮像画像であればステップS8に処理を進め、照射されているときの撮像画像であればステップS3に処理を進める。
【0036】
ステップS8において、形状エッジ検出部17により、通常の画像処理の形状エッジ検出処理を行い、更にこの形状エッジのデータを、図1の距離算出部16に転送する。
【0037】
ステップS3において、同期検波処理フローを実行する。その後、ステップS4に処理を進める。なお、同期検波処理フローについては、図13に示すフローチャートを参照して後述する。
【0038】
ステップS4において、上端エッジ検出部15により、同期検出された領域の上端エッジ部を抽出する。
【0039】
ステップS5において、上記のステップS4の処理で検出された上端エッジのうち、ステップS8の処理で抽出された形状エッジ、即ち、形状エッジ検出部17で抽出された形状エッジと同一である部分を除去する。即ち、前述したように、図8のr2と図9のr4は一致するのでこれを除去する。
【0040】
ステップS6において、距離算出部16は、三角測量による距離算出演算処理を行い、車両Qと測定対象物31との間の距離を算出し、この距離データを上位システムに出力する。
【0041】
次に、図13に示すフローチャートを参照して、図12のステップS3の処理で実行される同期検波処理について説明する。
【0042】
初めに、ステップS11において同期検波処理を開始し、ステップS12において、取得された画像(カメラ12で撮像された画像)に対して、投光制御部14により規定される搬送波sin(ωt)(図2参照)をミキシング(乗算)する。具体的には、画像中の処理領域に設定された全画素に対して、取得タイミングに応じた位相における正弦波を掛け合わせる。
【0043】
ステップS13において、搬送波sin(ωt)をミキシングした画像を、同期検波処理部13が有するフレームメモリ(図示省略)に蓄積する。同期検波処理を実施する際に、連続するnフレームの画像が必要な場合には、nフレーム分のフレームメモリが確保され、例えば、リングバッファ構造により、最も古い画像データを最新の画像データにより更新する。
【0044】
ステップS14において、フレームメモリに蓄積された画像データより、所定アドレスの画素データの時系列データを読み出す。例えば、最新の時刻tに取得された画素位置(xi,yj)の画素データをI(xi,yj,t)とすると、同期検波に用いる最新n画素分のデータ、I(xi,yj,t),I(xi,yj,t−1),…,I(xi,yj,t−n+1)を読み出す。
【0045】
ステップS15において、ローパスフィルタ(図2のLPF参照)を適用する。
【0046】
ステップS16において、ローパスフィルタを適用した画素の時系列データに対して、正負判定を行う。例えば、画素値が正の値であれば「1」、負の値であれば「0」を割り当て、送信した信号列(ビット列)anを復元する。
【0047】
ステップS17において、処理領域中のすべての画素について、検波が終了したか否かを判定し、処理領域中のすべての画素について検波処理が終了していなければ(ステップS17でNO)、ステップS14に処理を戻し、次の画素位置(例えば、(xi+1、yj))の時系列画素データを読み出し、ステップS15以下の処理を繰り返す。
【0048】
そして、全ての画素について検波処理が終了していれば(ステップS17でYES)、ステップS18において、同期検波画像を出力して終了する。こうして、上端エッジ検出部15で検出される上端エッジに基づいて、車両Qと測定対象物31との間の距離を求めることができるのである。
【0049】
このようにして、本実施形態に係る距離測定装置では、投光部11より、水平方向に広がる発光領域を有する発光パターンを有する領域光を投光し、カメラ12にて、測定対象物31で反射する領域光を撮像し、更に、撮像した領域光を同期検波することにより、発光パターンがオンのときに撮像された測定対象物31の画像から上端エッジを抽出する。そして、この上端エッジに基づいて、三角測量の原理を用いて車両Qと測定対象物31との間の距離を算出する。従って、車両Qと測定対象物31が相対的に移動した場合であっても、水平方向に広がる発光パターンを用いているので、上端エッジを高い確率で検出することができ、高精度な距離の測定が可能となる。
【0050】
また、形状エッジ検出部17により、測定対象物31の形状を検出し、更に形状エッジを抽出し、この形状エッジと上端エッジ検出部15で検出される上端エッジとが一致する場合には、この上端エッジは測定対象物31の形状を示すエッジである可能性が高く、誤差を含む可能性が高いので、この上端エッジを用いた距離の測定を行わない。従って、誤差を含む可能性の高いデータを排除することができ、より高精度な距離の測定が可能となる。
【0051】
また、投光部11及び同期検波処理部13で用いる同期信号として、振幅変調や位相変調、周波数変調を用いることも可能であり、更に、振幅変調と位相変調の組み合わせであるBPSK等を用いることにより、頑健性を向上させることができる。
【0052】
更に、投光部11に具備される発光源は、赤外光或いは紫外光を発するので、カメラ12に特定スペクトルの光を高効率で透過するフィルタを構成することにより、照射光をより頑健に検出することが可能となる。また、パルス光照射によって他者の視認を妨げず、幻惑を防止することも可能となる。
【0053】
[変形例の説明]
次に、上述した第1実施形態の変形例について説明する。第1実施形態では、1つの投光部11より単一の投光パターンを有する領域光を投光する例について説明したが、該変形例では、俯角が相違する2つの領域光を測定対象物31a,31bに向けて投光することにより、距離の測定精度をより一層向上させる。以下、図10,図11を参照して説明する。
【0054】
図10は、変形例に係る距離計測装置の投光部11から測定対象物31a,31bに向けて領域光を投光する様子を示す説明図であり、投光部11は、俯角がほぼ水平な第1領域光u1と、俯角を有する第2領域光u2を照射する。その結果、同期検波される画像は図11に示すようになり、測定対象物31aより2つの上端エッジr11,r12が抽出され、測定対象物31bより2つの上端エッジr13,r14が抽出されることになる。
【0055】
そして、図11から理解されるように、俯角の異なる複数(この例では2つ)の領域光を照射する投光部11を用いることにより、少なくとも一つの領域光において、その上端部が上記形状エッジと異なり、正確な距離計測を実施することができるようになる。
【0056】
具体的には、領域光u1を投光することにより得られる上端エッジr11とr13は一致していないので、この上端エッジを用いた距離の測定は誤差を含む可能性が高く、領域光u2を投光することにより得られる上端エッジr12とr14は一致するので、距離の測定に用いることが可能となる。
【0057】
このように、変形例に係る距離測定装置では、俯角が異なる2つの領域光を投光して車両Qと測定対象物31a,31bとの間の距離を測定するので、より一層精度の高い距離の測定が可能となる。
【0058】
次に、カメラ12の視軸が上端エッジが照射される方向に対して所定の俯角を有するように設定することにより、分解能を向上させることができることについて説明する。
【0059】
1個のカメラ12で広域を観測するためには、通常、広角レンズが用いられる。一般的な広角レンズは、射影方式として等距離射影レンズ(いわゆる、fθレンズ)を採用しており、周辺視野では中心視野に比べて分解能が劣る。このような広角レンズとの組み合わせにおいては、カメラ視軸に俯角(或いは仰角)を持たせ、分解能が高い領域を監視したい領域に向けて適切に設定することが肝要となる。
【0060】
以下、fθレンズとの組み合せにおいて、簡単のために、照射光の上端エッジが路面に対して水平である場合を仮定し、カメラ視軸の俯角がある場合に、被観測対象までの距離計測値の分解能が向上することを、図18,図19を参照して説明する。カメラ視軸に俯角が無い場合を図18に示し、俯角が有る場合を図19に示す。
【0061】
図18,図19で、視軸方向の画素位置をy(j)とし、y(j)の下に隣接する画素位置をy(j+1)とする。このとき、図18に示すように、俯角(仰角)が0度の場合において、画素位置y(j)とy(j+1)で決定される1画素の角度分解能は、実空間距離での距離分解能dD(0)であるとする。一方、図19に示すように、俯角(仰角)がα度の場合において、画素位置y(j)とy(j+1)で決定される1画素の角度分解能は、実空間距離での距離分解能dD(α)であるとする。この場合、dD(α)<dD(0)が成立するので、カメラ視軸に俯角(仰角)を持たせた場合、1画素の角度分解能に対する実空間分解能が高くなる。即ち、俯角αを設けることにより、上端エッジを抽出する際の実空間分解能を高くすることが可能となる。
【0062】
このように、投光部11により投光される領域光の上端エッジは、カメラ12に対して横方向に領域が形成され、カメラ12は上端エッジ照射方向に対して鉛直な方向にオフセットして配置されると共に、上端エッジ照射方向と視軸が所定角度をなすようにすれば、一般的な広角レンズ(魚眼レンズ)を使用した際においても、三角測量の原理に基づき距離計測する際の計測精度が向上する。
【0063】
[第2実施形態の説明]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図14は、本発明の第2実施形態に係る距離測定装置101の構成を示すブロック図である。第2実施形態に係る距離測定装置101は、前述した図1に示した装置と対比して、2つの投光部、即ち、Hiビーム投光部(第2投光手段)18及びLoビーム投光部(第1投光手段)19を備えた点、及びHiビーム投光制御部21を設けた点で相違する。それ以外の構成は、図1と同一であるので、同一符号を付して構成説明を省略する。
【0064】
Hiビーム投光部18は、仰角を有する領域光を投光して、カメラ12の観測領域全体に光を照射する。また、Hiビーム投光制御部21は、1回の同期検波処理に必要なフレーム数毎に、1回以上の投光回数となるように、Hiビーム投光部18を制御する。
【0065】
形状エッジ検出部17は、Hiビーム投光部18より測定対象物に光が照射されているとき(特定発光状態)に、カメラ12で撮像される画像から測定対象物の形状エッジを検出する。
【0066】
Loビーム投光部19は、図1に示した投光部11と同様に俯角が0°或いは俯角を有する領域光を投光する。
【0067】
そして、形状エッジ検出部17で検出される形状エッジを、前述した第1実施形態の形状エッジ検出部17(図1参照)で検出された形状エッジとして用いる。つまり、図14に示す形状エッジ検出部17で検出される形状エッジと、上端エッジ検出部15で検出される上端エッジとの一致、不一致を考慮して、距離の測定を行う。
【0068】
また、前述したように、Hiビーム投光部18による領域光の投光は、1回の同期検波処理に必要なフレーム数毎に、1回以上の割合とすることで、第一の実施の形態と同等の誤差検出が実現できるようになる。
【0069】
図15は、Hiビーム投光部18より、測定対象物31a,31bに向けて領域光を照射したときの様子を示す説明図である。図示のように、Hiビーム投光部18より投光される光パターンは、仰角を有しており、カメラ12で撮像される領域のほぼ全域に亘って領域光を照射している。
【0070】
図16は、Hiビームが照射されたときにカメラ12により撮像された画像を示す説明図であり、測定対象物31a,31bのそれぞれの横エッジr21,r22を検出することができる。そして、この横エッジr21,r22と、前述した図8の上端エッジr1,r2を対比することにより、一致、不一致を認識することができることとなる。
【0071】
次に、第2実施形態に係る距離測定装置101の作用について、図17に示すフローチャートを参照して説明する。なお、図17に示すステップS1〜S4、及びステップS5,S6は前述した図13と同一の処理であるので、その説明を省略する。
【0072】
図17に示すステップS4において、同期検波画像の上端エッジが抽出されると、ステップS21において、同期検波処理に使用した画像取得時間内にHiビーム投光部18より投光された光パターンの画像が存在するか否かを判定する。
【0073】
そして、存在する場合にはステップS5に処理を進め、存在しない場合には、ステップS22に処理を進める。ステップS5では、図13と同様の処理を実行する。
【0074】
ステップS22において、Hiビーム投光部18は、Hiビーム投光制御部21の制御により仰角を有する領域光を投光する。ステップS23において、カメラ12で撮像された画像から形状エッジを抽出する。
【0075】
ステップS24において、抽出した形状エッジを保存する。その後、ステップS5に処理を進める。ステップS5において、同期検波した上端エッジからステップS24の処理で保存された形状エッジを除去する。即ち、測定対象物31a,31bの形状を示すエッジを除去することにより、領域光の上端部を示す上端エッジのみを残し、この上端エッジを用いて車両Qと測定対象物31a,31bとの間の距離を算出する。
【0076】
このようにして、第2実施形態に係る距離測定装置101では、Hiビーム投光部18より投光する領域光を用いて測定対象物31a,31bの形状エッジを検出するので、周囲が暗い状況下の場合や、カメラ12の感度が悪い場合等においても測定対象物31a,31bの形状エッジを高精度に検出することができ、頑健で正確な距離の測定が可能となる。
【0077】
なお、投光部11より投光する光の波長としては、可視光、赤外光等を使用することが考えられ、その場合、カメラ12は投光する波長を観測できるような素子を使用したものとすれば良い。
【0078】
以上、本発明の距離測定装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【0079】
例えば、上述した各実施形態では、移動体として自動車を例に挙げて説明したが、鉄道車両や船舶等の他の移動体についても適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、測定対象物までの距離を高精度に測定することに利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
11 投光部
12 カメラ
13 同期検波処理部
14 投光制御部
15 上端エッジ検出部
16 距離算出部
17 形状エッジ検出部
18 Hiビーム投光部
19 Loビーム投光部
21 Hiビーム投光制御部
31,31a,31b 測定対象物
51 投光領域
100,101 距離測定装置
Q 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、略水平な上端部を有し、且つ水平方向に広がる発光領域を有する第1パルス光を投光する第1投光手段と、
前記移動体に搭載され、対象物を撮像する撮像手段と、
前記第1投光手段により、前記第1パルス光の上端部が前記対象物にかかるように第1パルス光が投光された際に、前記撮像手段で撮像された画像から前記第1パルス光を検波する検波手段と、
前記検波手段による検波を制御する制御手段と、
前記検波手段にて検波された第1パルス光に基づき、前記対象物にかかった第1パルス光の上端エッジを検出する上端エッジ検出手段と、
前記対象物に対する特定発光状態のときに、前記撮像手段で撮像された画像から前記対象物の形状エッジを検出する形状エッジ検出手段と、
前記上端エッジと前記形状エッジに基づいて、対象物と移動体との距離を算出する距離算出手段と、
を備えたことを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
前記特定発光状態は、前記第1パルス光が投光されていない状態であることを特徴とする請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項3】
前記対象物に光を照射する第2投光手段を更に備え、前記特定発光状態は、前記第2投光手段にて前記対象物に光が照射された状態であることを特徴とする請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項4】
前記制御手段及び前記検波手段は、検波信号として、振幅変調、位相変調、及び周波数変調のうちの少なくとも1つを用いて、前記第1投光手段と前記撮像手段を制御することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の距離測定装置。
【請求項5】
前記第1投光手段は、可視光、赤外光、及び紫外光のうちの少なくとも1つを照射する光源を具備し、前記撮像手段は、前記光源に応じて、可視光領域、赤外領域、及び紫外領域のうちの少なくとも1つに感度を有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の距離測定装置。
【請求項6】
前記撮像手段は、前記第1投光手段に対して鉛直方向に設けられ、撮影方向が所定の俯角を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の距離測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図5】
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【図8】
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【図11】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−24636(P2013−24636A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157810(P2011−157810)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】