説明

路面状態判定方法

【課題】 サスペンション装置のバネ上上下加速度に基づいて路面状態を精度良く判定する。
【解決手段】 バネ上上下加速度センサで検出したサスペンション装置のバネ上上下加速度をバンドパスフィルタでフィルタリングし、0.7Hz〜1.0Hzのバネ上共振周波数領域の振動の実効値と、バネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域の中間の3.0Hz〜8.0Hzの中間周波数領域の振動の実効値とを算出し、(バネ上共振周波数領域の振動の実効値)/(中間周波数領域の振動の実効値)で表される比を閾値と比較することで、波状路、コブ状路、良路、簡易舗装路等を判定するので、路面状態の判定精度を高めることができる。そして判定した路面状態に応じてダンパーの減衰力を制御することで、種々の路面状態における乗り心地を両立させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション装置のバネ上上下加速度に基づいて路面状態を判定する路面状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪速度から推定車体速度を減算した速度差信号をバネ上とバネ下とについてバンドパスフィルタ処理し、その結果得られたバネ上共振周波数領域の振動やバネ下共振周波数領域の振動に基づいて路面状態を判定し、判定した路面状態に応じてダンパーの減衰力を制御することで車両の乗り心地を高めるものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開平5−229328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来のものは、バネ上共振周波数領域の振動やバネ下共振周波数領域の振動に基づいて路面状態を判定しており、その際にバネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域の中間の中間周波数領域の振動を考慮していないため、路面状態の判定精度を更に高める余地を残していた。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、サスペンション装置のバネ上上下加速度に基づいて路面状態を精度良く判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、サスペンション装置のバネ上上下加速度を検出する工程と、検出したバネ上上下加速度をフィルタリングしてバネ上共振周波数領域の振動の実効値を算出する工程と、検出したバネ上上下加速度をフィルタリングしてバネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域の中間の中間周波数領域の振動の実効値を算出する工程と、バネ上共振周波数領域の振動の実効値および中間周波数領域の振動の実効値を比較して路面状態を判定する工程とを含むことを特徴とする路面状態判定方法が提案される。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の構成によれば、サスペンション装置のバネ上上下加速度をフィルタリングしてバネ上共振周波数領域の振動の実効値と、バネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域の中間の中間周波数領域の振動の実効値とを算出し、それらバネ上共振周波数領域の振動の実効値および中間周波数領域の振動の実効値を比較して路面状態を判定するので、路面状態の判定精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0008】
図1〜図7は本発明の一実施例を示すもので、図1は車両のサスペンション装置の正面図、図2は可変減衰力ダンパーの拡大断面図、図3はバネ上上下加速度からバネ上共振周波数領域、中間周波数領域およびバネ下共振周波数領域の振動の実効値を求める手法を説明する図、図4は簡易舗装路の各周波数領域での振動の実効値を示すグラフ、図5は良路の各周波数領域での振動の実効値を示すグラフ、図6は波状路、コブ状路、良路および簡易舗装路の各周波数領域での振動の実効値を示すグラフ、図7は各周波数領域でのダンパーのゲインの変化に対する上下加速度の変化を示すグラフである。
【0009】
図1に示すように、四輪の自動車の車輪Wを懸架するサスペンション装置Sは、車体11にナックル12を上下動自在に支持するサスペンションアーム13と、サスペンションアーム13および車体11を接続する可変減衰力のダンパー14と、サスペンションアーム13および車体11を接続するコイルバネ15とを備える。ダンパー14の減衰力を制御する電子制御ユニットUには、バネ上上下加速度を検出するバネ上上下加速度センサSaからの信号と、ダンパー14の変位(ストローク)を検出するダンパー変位センサSbからの信号と、車両の横加速度を検出する横加速度センサScからの信号と、車両の前後加速度を検出する前後加速度センサSdからの信号とが入力される。
【0010】
図2に示すように、ダンパー14は、下端がサスペンションアーム13に接続されたシリンダ21と、シリンダ21に摺動自在に嵌合するピストン22と、ピストン22から上方に延びてシリンダ21の上壁を液密に貫通し、上端を車体に接続されたピストンロッド23と、シリンダの下部に摺動自在に嵌合するフリーピストン24とを備えており、シリンダ21の内部にピストン22により仕切られた上側の第1流体室25および下側の第2流体室26が区画されるとともに、フリーピストン24の下部に圧縮ガスが封入されたガス室27が区画される。
【0011】
ピストン22にはその上下面を連通させるように複数の流体通路22a…が形成されており、これらの流体通路22a…によって第1、第2流体室25,26が相互に連通する。第1、第2流体室25,26および流体通路22a…に封入される磁気粘性流体は、オイルのような粘性流体に鉄粉のような磁性体微粒子を分散させたもので、磁界を加えると磁力線に沿って磁性体微粒子が整列することで粘性流体が流れ難くなり、見かけの粘性が増加する性質を有している。ピストン22の内部にコイル28が設けられており、電子制御ユニットUによりコイル28への通電が制御される。コイル28に通電されると矢印で示すように磁束が発生し、流体通路22a…を通過する磁束により磁気粘性流体の粘性が変化する。
【0012】
ダンパー14が収縮してシリンダ21に対してピストン22が下動すると、第1流体室25の容積が増加して第2流体室26の容積が減少するため、第2流体室26の磁気粘性流体がピストン22の流体通路22a…を通過して第1流体室25に流入し、逆にダンパー14が伸長してシリンダ21に対してピストン22が上動すると、第2流体室26の容積が増加して第1流体室25の容積が減少するため、第1流体室25の磁気粘性流体がピストン22の流体通路22a…を通過して第2流体室26に流入し、その際に流体通路22a…を通過する磁気粘性流体の粘性抵抗によりダンパー14が減衰力を発生する。
【0013】
このとき、コイル28に通電して磁界を発生させると、ピストン22の流体通路22a…に存在する磁気粘性流体の見かけの粘性が増加して該流体通路22aを通過し難くなるため、ダンパー14の減衰力が増加する。この減衰力の増加量は、コイル28に供給する電流の大きさにより任意に制御することができる。
【0014】
尚、ダンパー14に衝撃的な圧縮荷重が加わって第2流体室26の容積が減少するとき、ガス室27を縮小させながらフリーピストン24が下降することで衝撃を吸収する。またダンパー14に衝撃的な引張荷重が加わって第2流体室26の容積が増加するとき、ガス室27を拡張させながらフリーピストン24が上昇することで衝撃を吸収する。更に、ピストン22が下降してシリンダ21内に収納されるピストンロッド23の容積が増加したとき、その容積の増加分を吸収するようにフリーピストン24が下降する。
【0015】
しかして、電子制御ユニットUは、バネ上上下加速度センサSaで検出したバネ上上下加速度、ダンパー変位センサSbで検出したダンパー変位、横加速度センサScで検出した横加速度および前後加速度センサSdで検出した前後加速度に基づいて、各車輪W…の合計4個のダンパー14…の減衰力を個別に制御することで、路面の凹凸を乗り越える際の車両の動揺を抑えて乗り心地を高めたり、車両の旋回時のローリングを抑えて操安性能を高めたり、車両の急加速時や急減速時のピッチングを抑えて操安性能を高めたりすることができる。
【0016】
ところで、路面の状態に応じてダンパー14の減衰力を制御すれば、状態の異なる複数の路面に対してそれぞれ適した制御を行って乗り心地を高めることができる。そこで本実施例ではバネ上上下加速度センサSaで検出したバネ上上下加速度に基づいて路面状態の判定を行うようになっている。
【0017】
図3に示すように、バネ上上下加速度センサSaで検出したバネ上上下加速度を三つのバンドパスフィルタでフィルタリングし、特定周波数領域の振動を抽出する。第1のバンドパスフィルタは0.7Hz〜2.0Hzの周波数の振動を通過させるもので、バネ上共振周波数領域の振動を検出する。第3のバンドパスフィルタは10Hz〜20Hzの周波数の振動を通過させるもので、バネ下共振周波数領域の振動を検出する。第2のバンドパスフィルタは3.0Hz〜8.0Hzの周波数の振動を通過させるもので、バネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域の中間の中間周波数領域の振動を検出する。
【0018】
検出されたバネ上共振周波数領域、中間周波数領域およびバネ下共振周波数領域の振動は、それぞれ絶対値処理された後にローパスフィルタでフィルタリングされて実効値処理され、バネ上共振周波数領域、中間周波数領域およびバネ下共振周波数領域の振動の実効値が求められる。
【0019】
バネ上共振周波数領域の振動はドライバーに「ふわふわ感」として感じられ、中間周波数領域の振動はドライバーに「ひょこひょこ感」として感じられ、バネ下共振周波数領域の振動はドライバーに「ぶるぶる感」として感じられるもので、いずれの乗り心地性能を損ねるものである。
【0020】
判定すべき路面には、例えばバウンス路、スタビリティ路、良路、簡易舗装路等があり、バウンス路とはサイン波状の路面表面が連続的に続く道路を意味し、スタビリティ路とは角の取れたでこぼこのコブ状の路面表面がランダムに連なる道路を意味し、良路とは路面表面の凹凸が殆どない道路を意味し、簡易舗装路とは路面表面がでこぼこでアスファルトが崩れていたり、表面をアスファルトの塗り重ねで補修してある道路を意味する。以下、バウンス路を波状路、スタビリティ路をコブ状路と呼ぶ。
【0021】
図4のグラフは、簡易舗装路を50km/hで走行した際の、バネ上共振周波数領域の振動の実効値A、中間周波数領域の振動の実効値Bおよびバネ下共振周波数領域の振動の実効値Cを示すものである、また図5のグラフは、良路を80km/hで走行した際の、バネ上共振周波数領域の振動の実効値A、中間周波数領域の振動の実効値Bおよびバネ下共振周波数領域の振動の実効値Cを示すものである、このグラフから、路面の状態に応じてバネ上共振周波数領域、中間周波数領域およびバネ下共振周波数領域の振動の実効値に特徴が現れることが分かる。
【0022】
図6のグラフは、波状路、コブ状路、良路および簡易舗装路に関して、バネ上共振周波数領域、中間周波数領域およびバネ下共振周波数領域の振動の実効値の典型的なパターンを示すものである。
【0023】
波状路、コブ状路、良路および簡易舗装路の全てについて、バネ上共振周波数領域の振動の実効値が最も大きく、それに次いでバネ下共振周波数領域の振動の実効値が大きく、中間周波数領域の振動の実効値が最も小さくなっているが、その比率は路面の種類によって異なっている。ここで注目すべきなのは、バネ上共振周波数領域の振動の実効値および中間周波数領域の振動の実効値の比率であり、その比率が路面の種類により特徴的に異なっていることである。
【0024】
即ち、(バネ上共振周波数領域の振動の実効値)/(中間周波数領域の振動の実効値)で表される比Rが波状路では約6.0であり、コブ状路では約2.1であり、簡易舗装路では約1.5であり、良路では約1.0である。従って、前記比Rに第1〜第3の閾値を設け、比Rが第1閾値以上のときは波状路、第1閾値未満第2閾値以上のときはコブ状路、第2閾値未満第3閾値以上のときは簡易舗装路、第3閾値未満のときは良路と判定することができる。
【0025】
尚、バネ下共振周波数領域の振動の実効値は、簡易舗装路→コブ状路→波状路→良路の順で減少する特性を有することから、バネ下共振周波数領域の振動の実効値を併せて考慮すれば路面の判定精度を更に高めることができる。
【0026】
図7から明らかなように、ダンパー14のゲイン(減衰力)を増加させると、0.7Hz〜2.0Hzのバネ上共振周波数領域および3.0Hz〜8.0Hzの中間周波数領域での上下加速度の絶対値が減少して制振効果が高くなるが、逆に10Hz〜20Hzのバネ下共振周波数領域での上下加速度の絶対値が増加して制振効果が低くなってしまう。
【0027】
そこで、バネ上共振周波数領域の振動が最も大きくなる波状路が判定されたとき(図6参照)、電子制御ユニットUからの指令でダンパー14の減衰力を増加させることによりバネ上共振周波数領域の振動を効果的に抑制して乗り心地を高めることができる。またバネ下共振周波数領域の振動が大きくなる簡易舗装路やコブ状路が判定されたとき(図6参照)、電子制御ユニットUからの指令でダンパー14の減衰力を減少させることによりバネ下共振周波数領域の振動を効果的に抑制して乗り心地を高めることができる。
【0028】
このように、路面の判定を的確に行い、判定した路面の状態に応じてダンパー14の減衰力を制御することにより、性質の異なる複数の路面における乗り心地を両立させることができる。
【0029】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0030】
例えば、実施例では波状路、コブ状路、良路および簡易舗装路の4種類の路面状態を例示したが、路面状態の種類はそれらに限定されるものではない。
【0031】
また実施例では磁気粘性流体を使用したダンパー14を備えたサスペンション装置Sについて説明したが、本発明は磁気粘性流体でない一般の粘性流体を使用したダンパーを備えたサスペンション装置に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】車両のサスペンション装置の正面図
【図2】可変減衰力ダンパーの拡大断面図
【図3】バネ上上下加速度からバネ上共振周波数領域、中間周波数領域およびバネ下共振周波数領域の振動の実効値を求める手法を説明する図
【図4】簡易舗装路の各周波数領域での振動の実効値を示すグラフ
【図5】良路の各周波数領域での振動の実効値を示すグラフ
【図6】波状路、コブ状路、良路および簡易舗装路の各周波数領域での振動の実効値を示すグラフ
【図7】各周波数領域でのダンパーのゲインの変化に対する上下加速度の変化を示すグラフ
【符号の説明】
【0033】
14 ダンパー
S サスペンション装置
Sa バネ上上下加速度センサ
U 電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンション装置のバネ上上下加速度を検出する工程と、
検出したバネ上上下加速度をフィルタリングしてバネ上共振周波数領域の振動の実効値を算出する工程と、
検出したバネ上上下加速度をフィルタリングしてバネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域の中間の中間周波数領域の振動の実効値を算出する工程と、
バネ上共振周波数領域の振動の実効値および中間周波数領域の振動の実効値を比較して路面状態を判定する工程と、
を含むことを特徴とする路面状態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−82755(P2006−82755A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271308(P2004−271308)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】