説明

車両のアイドルストップ制御装置

【課題】実際に右左折やUターン等が行われる可能性を精度良く判断して不要なアイドルストップのみを適切に抑制してアイドルストップによる燃費の低減や、排気ガスの低減の効果を十分に得る。
【解決手段】通常、アイドルストップ実行条件が成立した場合に、エンジン1のアイドル運転を停止してエンジン1を自動停止させるアイドルストップを行わせるが、この際、白線上に投影した位置から交差ポイントまでの距離Lcrossが予め設定する距離Lcより短い場合は、エンジン1の自動停止を禁止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め設定しておいた運転条件が成立している場合にエンジンのアイドル運転を停止してエンジンを自動停止させるアイドルストップ機能を備えた車両のアイドルストップ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、燃費の低減や、排気ガスの低減を目的として、信号待ちや、電車通過待ち、人待ち等をしている際の車両停止時等のエンジンの作動が不要の時には自動的にエンジンを停止して、エンジンの作動が必要になった時には再びエンジンを始動するアイドルストップ機能についての様々な技術が種々提案され実用化されている。
【0003】
交差点内での右左折時や直進道路でのUターン時のように停車状態からの他車の合間を縫った急発進が必要な場合には、アイドルストップ状態からの急発進となりやすく、発進時のエンジン始動遅れによって運転性が悪化する虞がある。そこで、このようなアイドルストップ機能の問題を解決するため、例えば、特開2002−4909号公報(以下、特許文献1)では、ハンドル角が所定の値を超えている場合、車速が零であり、且つ、ブレーキON状態が検出された場合でも、アイドルストップ機能によるエンジンの自動停止を禁止させるアイドルストップ制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−4909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されるアイドルストップ制御装置では、単純にハンドル角の値で、アイドルストップ機能によるエンジンの自動停止を禁止させるようになっているため、実際には右左折やUターン等でないにも関わらず、アイドルストップ機能によるエンジンの自動停止が禁止され、アイドルストップが有効に行われず、アイドルストップの実行頻度が大幅に減少してアイドルストップの優れた効果を十分得られなくなるという課題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、実際に右左折やUターン等が行われる可能性を精度良く判断して不要なアイドルストップのみを適切に抑制してアイドルストップによる燃費の低減や、排気ガスの低減の効果を十分に得ることができる車両のアイドルストップ制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両のアイドルストップ制御装置の一態様は、予め設定しておいた運転条件が成立する場合にエンジンのアイドル運転を停止して上記エンジンを自動停止させる車両のアイドルストップ制御装置において、カメラによる撮像画像を基に走行路の白線を認識する白線認識手段と、自車進行路を推定する自車進行路推定手段と、上記白線と上記自車進行路とが交差する交差ポイントを検出し、現在の自車両位置を上記白線上に投影した位置から上記交差ポイントまでの距離が予め設定する距離より短い場合は上記エンジンの自動停止を禁止させるアイドルストップ禁止手段とを備えた。
【発明の効果】
【0008】
本発明による車両のアイドルストップ制御装置によれば、実際に右左折やUターン等が行われる可能性を精度良く判断して不要なアイドルストップのみを適切に抑制してアイドルストップによる燃費の低減や、排気ガスの低減の効果を十分に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の一形態に係る、車両に搭載されるアイドルストップ制御装置の全体構成説明図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る、アイドルストップ制御プログラムのフローチャートである。
【図3】本発明の実施の一形態に係る、エンジン自動停止許可判定処理ルーチンのフローチャートである。
【図4】本発明の実施の一形態に係る、現在の自車両位置を白線上に投影した位置から交差ポイントまでの距離Lcrossと予め設定する距離Lcの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1はエンジンを示し、このエンジン1はスタータモータ2により始動され、これらエンジン1及びスタータモータ2はエンジン制御部3により制御される。
【0011】
エンジン制御部3はアイドルストップ制御部4からの信号が入力されて、この入力信号によってアイドルストップに係る、エンジン1の自動停止、及び、自動停止状態からの再始動を実行する。
【0012】
アイドルストップ制御部4には、ステレオカメラ11aによる撮像画像を基に自車両の前方環境情報(走行路の白線データ)を認識し、図4に示すように、自車進行路(本実施の形態では、自車両が略停止した際に、発進時に、そのまま自車両が直進すると仮定した自車進行路)を推定して、白線と自車進行路とが交差する交差ポイントPcrossを検出し、現在の自車両位置を白線上に投影した位置から交差ポイントPcrossまでの距離Lcrossを算出する白線認識手段、自車進行路推定手段、アイドルストップ禁止手段の一部機能を有する前方環境認識装置11が接続されている。尚、自車進行路が白線と遠方まで平行であり、白線と自車進行路とが交差する交差ポイントPcrossが検出できない場合は、Pcrossには、予め設定しておいた遠方を示す距離値が設定される。
【0013】
ステレオカメラ11aは、ステレオ光学系として例えば電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を用いた1組の(左右の)CCDカメラで構成される。これら左右のCCDカメラは、それぞれ車室内の天井前方に一定の間隔をもって取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像し、画像データを前方環境認識装置11に出力する。
【0014】
前方環境認識装置11は、例えば、ステレオカメラ11aで撮像した自車進行方向の1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって距離情報を生成し、例えば、以下のようにして白線データの取得を行う。白線は道路面と比較して高輝度であるという知得に基づき、前方環境認識装置11は、道路の幅方向の輝度変化を評価して、画像平面における左右の白線の位置を画像平面上で特定する。この白線の実空間上の位置(x,y,z)は、画像平面上の位置(i,j)とこの位置に関して算出された視差dとに基づいて、すなわち、距離情報に基づいて、周知の座標変換式より算出される。自車両の位置を基準に設定された実空間の座標系は、ステレオカメラ11aの中央真下の道路面を原点として、車幅方向をx軸、車高方向をy軸、車長方向(距離方向)をz軸とする。このとき、x−z平面(y=0)は、道路が平坦な場合、道路面と一致する。道路モデルは、道路上の自車線を距離方向に複数区間に分割し、各区間における左右の白線を三次元の直線で近似し、これらを折れ線状に連結することによって表現される。尚、白線データの取得方法は、上述のものに限るものではなく、また、ステレオカメラ11aではなく単眼カメラ等を用いて検出する方法であっても良い。
【0015】
更に、アイドルストップ制御部4には、ハンドル角センサ12、車速センサ13、シフトレバー位置センサ14、ブレーキペダル踏み込み量センサ15、アクセルペダル踏み込み量センサ16等からの信号が入力される。
【0016】
そして、アイドルストップ制御部4は、通常、予め設定しておいた運転条件(エンジン自動停止条件:アイドルストップ実行条件)が成立した場合に、エンジン制御部3に信号を出力して、エンジン1のアイドル運転を停止してエンジン1を自動停止させるアイドルストップを行わせるが、この際、白線上に投影した位置から交差ポイントまでの距離Lcrossが予め設定する距離Lc(予め実験、計算等により設定しておいた値)より短い場合は、エンジン1の自動停止を禁止させるようになっている。ここで、アイドルストップ実行条件とは、例えば、ブレーキペダルが踏み込まれ、アクセルペダルが踏まれておらず、シフトレバー位置が「P」、「N」、「D」、「3速」、「2速」、「1速」の何れかで、車速が略0であり、バッテリ容量が十分にある等の条件を全て満足する場合である。
【0017】
また、アイドルストップ制御部4は、アイドルストップによりエンジンを自動停止させている際、予め設定しておいたエンジンの再始動条件が成立した場合に、エンジン制御部3に信号を出力してエンジン1を再始動させる。ここで、エンジンの再始動条件とは、例えば、上述のアイドルストップ実行条件が非成立となった場合である。このように、アイドルストップ制御部4は、アイドルストップ禁止手段としての機能を有している。
【0018】
次に、上述のアイドルストップ制御部4で実行されるアイドルストップ制御を、図2のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、必要なパラメータ、すなわち、前方環境認識装置11で算出した現在の自車両位置を白線上に投影した位置から交差ポイントまでの距離Lcross、ハンドル角センサ12からのハンドル角、車速センサ13からの車速、シフトレバー位置センサ14からのシフトレバー位置、ブレーキペダル踏み込み量センサ15からのブレーキペダル踏み込み量、アクセルペダル踏み込み量センサ16からのアクセルペダル踏み込み量等の信号が読み込まれる。
【0019】
次に、S102に進み、上述のエンジン自動停止条件(アイドルストップ実行条件)が成立しているか否か判定し、アイドルストップ実行条件が成立している場合は、S103に進んで、後述の図3のフローチャートで説明するエンジン自動停止許可判定処理を実行し、S104に進んで、エンジン自動停止許可状態か判定する。
【0020】
このS104の結果、エンジン自動停止許可状態の場合は、S105に進んで、エンジン制御部3に信号を出力し、エンジン1のアイドル運転を停止してエンジン1を自動停止させるアイドルストップを行わせてプログラムを抜ける。
【0021】
一方、上述のS102で、アイドルストップ実行条件が成立していない場合は、S106に進み、エンジン自動停止中(アイドルストップ中)か否か判定し、アイドルストップ中ではない場合は、そのままプログラムを抜ける。また、アイドルストップ中の場合は、S107に進んで、エンジン制御部3に信号を出力してエンジン1を再始動させてプログラムを抜ける。
【0022】
次に、上述のS103で実行されるエンジン自動停止許可判定処理を図3のフローチャートで説明する。
【0023】
まず、S201では、白線・自車進行路情報、すなわち、前方環境認識装置11で算出した現在の自車両位置を白線上に投影した位置から交差ポイントまでの距離Lcrossを取得する。
【0024】
次に、S202に進み、現在の自車両位置を白線上に投影した位置から交差ポイントまでの距離Lcrossと予め設定する距離Lc(予め実験、計算等により設定しておいた値)とを比較する。
【0025】
S202の比較の結果、LcrossがLc以上(Lcross≧Lc)であれば(図4(a)、及び、図4(b)の場合)、自車両が右左折やUターンをする可能性が低く、そのままアイドルストップを実行しても運転性を悪化させることはないと判断し、S203に進んで、エンジン1の自動停止を許可してルーチンを抜ける。
【0026】
逆に、LcrossがLcよりも短い(Lcross<Lc)のであれば(図4(c)の場合)、自車両が右左折やUターンをする可能性が高く、そのままアイドルストップを実行した場合、急発進等により運転性を悪化させる虞があると判断し、S204に進んで、エンジン1の自動停止を禁止してルーチンを抜ける。
【0027】
このように本発明の実施形態によれば、通常、アイドルストップ実行条件が成立した場合に、エンジン1のアイドル運転を停止してエンジン1を自動停止させるアイドルストップを行わせるが、この際、白線上に投影した位置から交差ポイントまでの距離Lcrossが予め設定する距離Lc(予め実験、計算等により設定しておいた値)より短い場合は、エンジン1の自動停止を禁止させるようになっている。このため、実際に右左折やUターン等が行われる可能性を精度良く判断して不要なアイドルストップのみを適切に抑制してアイドルストップによる燃費の低減や、排気ガスの低減の効果を十分に得ることができる。
【0028】
尚、白線上に投影した位置から交差ポイントまでの距離Lcrossは、自車両が停止したときのハンドル角で補正して求めるようにしても良い。具体的には、ハンドル角が交差する白線側に切られている場合、予め実験・計算等により設定しておいたマップ等を参照して、そのハンドル角に応じて、Lcrossを短く補正し、逆に、ハンドル角が交差する白線側と反対側に切られている場合、予め実験・計算等により設定しておいたマップ等を参照して、そのハンドル角に応じて、長く補正する。
【0029】
また、本発明の実施の形態では、自車進行路を自車両が略停止した際に、発進時に、そのまま自車両が直進すると仮定した自車進行路で実現するようにしているが、時々刻々、自車速、ヨーレート、ハンドル角等の情報を基に、公知の車両の運動方程式に基づいて自車両の進行路を推定し、自車両が停止する直前に算出されていた自車進行路を自車進行路として採用し、該自車進行路と白線とが公差する公差ポイントを用いて、本願の制御を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0030】
1 エンジン
2 スタータモータ
3 エンジン制御部
4 アイドルストップ制御部(アイドルストップ禁止手段)
11 前方環境認識装置(白線認識手段、自車進行路推定手段、アイドルストップ禁止手段)
11a ステレオカメラ
12 ハンドル角センサ
13 車速センサ
14 シフトレバー位置センサ
15 ブレーキペダル踏み込み量センサ
16 アクセルペダル踏み込み量センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定しておいた運転条件が成立する場合にエンジンのアイドル運転を停止して上記エンジンを自動停止させる車両のアイドルストップ制御装置において、
カメラによる撮像画像を基に走行路の白線を認識する白線認識手段と、
自車進行路を推定する自車進行路推定手段と、
上記白線と上記自車進行路とが交差する交差ポイントを検出し、現在の自車両位置を上記白線上に投影した位置から上記交差ポイントまでの距離が予め設定する距離より短い場合は上記エンジンの自動停止を禁止させるアイドルストップ禁止手段と、
を備えたことを特徴とする車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項2】
上記自車進行路推定手段は、自車両が略停止した際に、発進時に、そのまま自車両が直進すると仮定した自車進行路を推定することを特徴とする請求項1記載の車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項3】
上記推定した自車進行路は、停車した際のハンドル角に応じて補正することを特徴とする請求項2記載の車両のアイドルストップ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−117431(P2012−117431A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266954(P2010−266954)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】