説明

車両のアイドルストップ制御装置

【課題】 アイドルストップ車両において、登坂路におけるずり下がり防止を図る。
【解決手段】 運転者のブレーキ操作と車速がアイドルストップ移行条件車速閾値以下となることを含む所定のアイドルストップ条件が成立した際にエンジンを自動停止する車両のアイドルストップ制御装置において、路面勾配の大きさを検出する勾配センサ25と、運転者のブレーキ踏み込み量に応じた制動力に対し制動力増加量を付与するブレーキユニットBUFL,BUFR,BURL,BURRと、登坂路でエンジンEが自動停止した場合、検出された路面勾配が大きいほど制動力増加量をより大きくする制動力増加量設定部10cと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のアイドルストップ制御装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両のアイドルストップ制御装置では、車速がゼロとなる前のある閾値以下となったところで、エンジンを自動停止させるアイドルストップへと移行するものがある。つまり、車輪速センサが検出可能な最低車速(≒0km/h)ではなく、この最低車速よりも高い車速の時点で運転者の停車意図を判定し、エンジンを自動停止させることで、燃費の向上を図ろうとするものである(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−183546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、車両が完全停止する前にエンジンを自動停止させるため、登坂路走行中に車両停止のため運転者が緩制動を行っている際、車速が閾値以下となってエンジンが停止した後、車両が完全停止したところで制動力が車両の自重による下降力以下である場合、車両のずり下がりが発生するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、登坂路におけるずり下がり防止を図ることができる車両のアイドルストップ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明では、登坂路でエンジンが自動停止した場合、路面勾配が大きいほど、運転者のブレーキ踏み込み量に応じた制動力に加算する制動力増加量を大きくする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、登坂路で停止した際、路面勾配が大きいほど車両の自重による下降力が大きくなるのに対し、路面勾配が大きいほどブレーキ踏み込み量に対する制動力をより大きくするため、登坂路で緩制動からアイドルストップへと移行する際、制動力不足による車両のずり下がりを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のアイドルストップ制御ブロック図である。
【図3】実施例1の統合コントローラ10で実行される登坂路におけるアイドルストップ制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図3のステップS3で実行されるアイドルストップ移行条件車速閾値算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1の勾配−車速閾値テーブルである。
【図6】実施例2のアイドルストップ制御ブロック図である。
【図7】実施例2の統合コントローラ10で実行される登坂路におけるアイドルストップ制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】図7のステップS21で実行される制動力増加量算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施例2の勾配−制動力増加量テーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例1,2に基づいて説明する。
〔実施例1〕
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1の後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、フライホイールFWと、モータジェネレータMGと、クラッチCLと、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0010】
エンジンEは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。なお、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0011】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0012】
クラッチCLは、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結とスリップ解放を含み締結・解放が制御される。
【0013】
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機であり、クラッチCLは、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。なお、詳細については後述する。
【0014】
そして、自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。なお、クラッチCLには、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0015】
このハイブリッド駆動系では、エンジンEの動力とモータジェネレータMGの動力とを合わせた動力を動力源として走行する走行モードと、エンジンEの動力のみを動力源とし、モータジェネレータMGを発電機として機能させる走行モードとを切り替えて走行する。
【0016】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、ATコントローラ7と、クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0017】
エンジンコントローラ1は、エンジン水温センサ1aからのエンジン水温や、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(エンジン回転数Ne,エンジントルクTe)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。エンジン回転数Neの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0018】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(モータ回転数Nm,モータトルクTm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いるとともに、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0019】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17とクラッチ油圧センサ18とからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からのクラッチ制御指令に応じ、クラッチCLの締結・解放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内のクラッチ油圧ユニット8に出力する。なお、アクセルペダル開度APOと車速VSPの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0020】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力のみでは不足する場合、その不足分を摩擦制動力で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて各車輪に設けられたブレーキユニット(制動力増加手段)BUFL,BUFR,BURL,BURRを駆動する回生協調ブレーキ制御を行う。
【0021】
各ブレーキユニットBUFL,BUFR,BURL,BURRとしては、運転者に操作されるブレーキペダル(不図示)と電気的に接続された、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤシステムを用いている。これにより、運転者のブレーキペダル踏み込み量にかかわらず所望の摩擦制動力を発生させることができる。
【0022】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nm(=ωmg)を検出するモータ回転数センサ21と、クラッチ出力回転数Noutを検出するクラッチ出力回転数センサ22と、クラッチトルクTCLを検出するクラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、路面勾配を検出する勾配センサ(路面勾配検出手段)25とからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0023】
統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、ATコントローラ7への制御指令によるクラッチCLの締結・解放制御とを行う。
【0024】
また、統合コントローラ10は、運転者のブレーキ操作と車速がアイドルストップ移行条件車速閾値以下となることを含む所定のアイドルストップ条件に基づいてエンジンEの自動停止および自動再始動を行うアイドルストップを実行する。
【0025】
図2は、実施例1のアイドルストップ制御ブロック図であり、統合コントローラ10は、アイドルストップ制御部10aと、車速閾値設定部(車速閾値設定手段)10bとを備えている。
【0026】
アイドルストップ制御部10aは、ブレーキコントローラ9を介して入力されたブレーキストロークセンサ20の検出値と、ATコントローラ17を介して入力された車速センサ17の検出値とからの信号とに基づいて、エンジンコントローラ1に対し、エンジンEを自動停止または再始動する指令を出力する。
【0027】
車速閾値設定部10bは、登坂路走行時、勾配センサ25の検出値に基づいて、アイドルストップの開始条件であるアイドルストップ条件の成立を判定するためのアイドルストップ移行条件車速閾値を設定する。
【0028】
以下、実施例1のアイドルストップ制御の詳細について説明する。
[アイドルストップ制御処理]
図3は、実施例1の統合コントローラ10で実行される登坂路におけるアイドルストップ制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、この制御処理は、所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
【0029】
ステップS1では、アイドルストップ制御部10aにおいて、アイドルストップが許可される状態であるか否かを判定する。具体的には、エンジン水温センサ1aが検出したエンジン水温が所定値以上で、かつ、バッテリ4の充電状態を示すバッテリSOCが所定値以上の場合に、アイドルストップ許可状態となる。YESの場合にはステップS2へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
【0030】
ステップS2では、アイドルストップ制御部10aにおいて、ブレーキストロークセンサ20からの信号を入力し、ブレーキON、すなわち、運転者がブレーキ操作を行っているか否かを判定する。YESの場合にはステップS2へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
【0031】
ステップS3では、車速閾値設定部10bにおいて、車速閾値を設定する算出するアイドルストップ移行条件車速閾値算出処理を実行し、ステップS4へ移行する。アイドルストップ移行条件車速閾値算出処理については後述する。
【0032】
ステップS4では、アイドルストップ制御部10aにおいて、車速センサ17からの信号を入力し、車速がステップS3で算出した車速閾値以下であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS5へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
【0033】
ステップS5では、アイドルストップ制御部10aにおいて、エンジンコントローラ1に対し、エンジンEを停止する指令を出力し、ステップS6へ移行する。
【0034】
ステップS6では、アイドルストップ制御部10aにおいて、ブレーキストロークセンサ20からの信号を入力し、ブレーキOFF、すなわち、運転者がブレーキ操作を解除したか否かを判定する。YESの場合にはステップS8へ移行し、NOの場合にはステップS7へ移行する。
【0035】
ステップS7では、アイドルストップ制御部10aにおいて、ステップS1と同様にアイドルストップ許可状態か否かを判定する。YESの場合にはステップS5へ移行し、NOの場合にはステップS8へ移行する。
【0036】
ステップS8では、アイドルストップ制御部10aにおいて、エンジンコントローラ1に対し、エンジンEを再始動する指令を出力し、リターンへ移行する。
【0037】
[アイドルストップ移行条件車速閾値算出処理]
図4は、図3のステップS3で実行されるアイドルストップ移行条件車速閾値算出処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0038】
ステップS11では、車速閾値設定部10bにおいて、勾配センサ25からのセンサ値を入力し、勾配センサ25が正常であるか否かを判定する(異常判定手段に相当)。YESの場合にはステップS12へ移行し、NOの場合にはステップS13へ移行する。ここで、勾配センサ25の異常判定方法としては、例えば、あらかじめ実験等により求めた勾配センサ25の異常判定閾値とセンサ値とを比較し、センサ値が異常判定閾値以下である場合には正常と判定し、センサ値が異常判定閾値を超えている場合には異常と判定する方法が挙げられる。
【0039】
ステップS12では、車速閾値設定部10bにおいて、ステップS11で入力した勾配センサ値に基づき、図5に示すテーブルを参照して車速閾値を設定し、本制御を終了する。図5の勾配−車速閾値テーブルにおいて、車速閾値は、路面勾配が5deg以下の場合には一定の10km/h、路面勾配が5deg超10deg未満の場合には路面勾配が大きくなるに従って徐々に小さくなり、路面勾配が10deg以上で一定の5km/hとなるように設定されている。
【0040】
ステップS13では、車速閾値設定部10bにおいて、車速閾値を平坦路における値(勾配0deg相当の値であって、例えば、10km/h以上の車速)とし、本制御を終了する。
【0041】
次に、作用を説明する。
[路面勾配に応じたアイドルストップ条件変更作用]
アイドルストップが許可された状態で登坂路を走行中、車両を停止させるためにブレーキペダルをゆっくりと踏み込んだ場合、車速がステップS3で設定されたアイドルストップ移行条件車速閾値以下となるまでの間は、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4へと進む流れが繰り返される。ここで、ステップS3で設定されるアイドルストップ移行条件車速閾値は、勾配センサ25により検出された路面勾配が大きいほど、より小さな値に設定される。
【0042】
車速がアイドルストップ移行条件車速閾値以下となり、アイドルストップ条件が成立した場合、ステップS4→ステップS5へと進んでアイドルストップへと移行し、エンジンEを自動停止させるため、車両の駆動力はゼロとなる。
【0043】
このとき、路面勾配が大きいほど車両の自重による下降力が大きくなるのに対し、実施例1では、路面勾配が大きいほど制動力がより立ち上がった状態でエンジンEを停止させることができる。これにより、登坂路で緩制動からアイドルストップへと移行する際、制動力不足による車両のずり下がりを防止することができる。一方、路面勾配が小さく制動力不足によるずり下がりのおそれがない場合には、より早期にエンジンを停止させることができるため、燃費の向上を図ることができる。
【0044】
アイドルストップ中は、アイドルストップ条件が不成立となるまで、すなわち、アイドルストップ解除条件が成立するまでの間、ステップS5→ステップS6→ステップS7の処理が繰り返され、エンジン停止が維持される。そして、アイドルストップ中に運転者がブレーキペダルから足を放した場合、またはエンジン水温の低下やバッテリSOCの低下により、アイドルストップが許可されない状態となった場合には、アイドルストップ解除条件が成立したため、ステップS6またはステップS7からステップS8へと進み、エンジンEが再始動されてアイドルストップが解除される。
【0045】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両のアイドルストップ制御装置にあっては、路面勾配の大きさを検出する勾配センサ25と、登坂路走行時、検出された路面勾配が大きいほどアイドルストップ移行条件車速閾値をより小さな値に設定する車速閾値設定部10bと、を備える。これにより、燃費の向上と登坂路におけるずり下がり防止との両立を図ることができる。
【0046】
勾配センサ25の異常を判定する異常判定手段(ステップS11)を備え、車速閾値設定部10bは、勾配センサ25が異常と判定された場合には、アイドルストップ移行条件車速閾値を平坦路相当の固定値(勾配0deg相当の値であって、例えば、10km/h以上の車速)とする。これにより、センサ異常に伴い不適切なアイドルストップ移行条件車速閾値が設定されるのを回避することができる。
【0047】
〔実施例2〕
実施例2は、運転者のブレーキ踏み込み量に応じた制動力に対し制動力増加量を付与可能な車両において、登坂路の路面勾配が大きいほどアイドルストップ中の制動力増加量をより大きくする例である。
なお、全体システムについては、図1に示した実施例1と同様であるため、図示ならびに説明を省略する。また、実施例2では、アイドルストップ移行条件車速閾値は路面勾配にかかわらず一定値(例えば、10km/h)とする。
【0048】
図6は、実施例2のアイドルストップ制御ブロック図であり、統合コントローラ10は、アイドルストップ制御部10aと、制動力増加量設定部(制動力増加量設定手段)10cとを備えている。
【0049】
アイドルストップ制御部10aは、ブレーキコントローラ9を介して入力されたブレーキストロークセンサ20の検出値と、ATコントローラ17を介して入力された車速センサ17の検出値と、アイドルストップSW26からの信号とに基づいて、エンジンコントローラ1に対し、エンジンEを自動停止または再始動する指令を出力する。また、アイドルストップ制御部10aは、アイドルストップ中、ブレーキコントローラ9に対し、運転者のブレーキアシストを行う指令を出力する。
【0050】
制動力増加量設定部10cは、登坂路でアイドルストップへと移行し、エンジンEが自動停止した場合、勾配センサ25の検出値に基づいて、運転者のブレーキ踏み込み量に応じた制動力に対し制動力増加量を設定する。
【0051】
[アイドルストップ制御処理]
図7は、実施例2の統合コントローラ10で実行される登坂路におけるアイドルストップ制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、図3に示した実施例1と同一の処理を行うステップには、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0052】
ステップS21では、制動力増加量設定部10cにおいて、制動力増加量を算出する制動力増加量算出処理を実行し、ステップS6へ移行する。制動力増加量算出処理については後述する。
【0053】
ステップS22では、アイドルストップ制御部10aにおいて、ブレーキコントローラ9に対し、ステップS21で算出した制動力増加量を加えた制動力を発生させる指令を出力し、ステップS7へ移行する。
【0054】
[制動力増加量算出処理]
図8は、図7のステップS21で実行される制動力増加量算出処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0055】
ステップS31では、制動力増加量設定部10cにおいて、勾配センサ25からのセンサ値を入力し、勾配センサ25が正常であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS32へ移行し、NOの場合にはステップS33へ移行する。
【0056】
ステップS32では、制動力増加量設定部10cにおいて、ステップS31で入力した勾配センサ値に基づき、図9に示すテーブルを参照して制動力増加量を設定し、本制御を終了する。図9の勾配−制動力増加量テーブルにおいて、制動力増加量は、路面勾配が大きくなるほど増加するように設定されている。
【0057】
ステップS33では、制動力増加量設定部10cにおいて、制動力増加量をゼロとし、本制御を終了する。
【0058】
次に、作用を説明する。
[路面勾配に応じた制動力変更作用]
アイドルストップが許可された状態で登坂路を走行中、車両を停止させるためにブレーキペダルをゆっくりと踏み込んだ場合、車速があらかじめ設定されたアイドルストップ移行条件車速閾値以下となるまでの間は、図7のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS4へと進む流れが繰り返される。
【0059】
車速がアイドルストップ移行条件車速閾値以下となり、アイドルストップ条件が成立した場合、ステップS4→ステップS5へと進み、アイドルストップへと移行し、エンジンEを自動停止させるため、車両の駆動力はゼロとなる。
【0060】
このとき、路面勾配が大きいほど車両の自重による下降力が大きくなるのに対し、実施例2では、路面勾配が大きいほど制動力増加量をより大きな値に設定し、ブレーキ踏み込み量に対する制動力をより大きくする。これにより、登坂路で緩制動からアイドルストップへと移行する際、制動力不足による車両のずり下がりを防止することができる。また、実施例2では、登坂路の路面勾配にかかわらずアイドルストップ移行条件車速閾値を一定としているため、アイドルストップ時間を長く取ることができ、燃費の向上を図ることができる。
【0061】
アイドルストップ中は、アイドルストップ条件が不成立となるまで、すなわち、アイドルストップ解除条件が成立するまでの間、ステップS5→ステップS21→ステップS6→ステップS22→ステップS7の処理が繰り返され、エンジン停止および路面勾配に応じた制動力増加が継続される。そして、アイドルストップ中に運転者がブレーキペダルから足を放した場合、またはエンジン水温の低下やバッテリSOCの低下により、アイドルストップが許可されない状態となった場合には、アイドルストップ解除条件が成立したため、ステップS6またはステップS7からステップS8へと進み、エンジンEが再始動されてアイドルストップが解除される。
【0062】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両のアイドルストップ制御装置にあっては、路面勾配の大きさを検出する勾配センサ25と、運転者のブレーキ踏み込み量に応じた制動力に対し制動力増加量を付与するブレーキユニットBUFL,BUFR,BURL,BURRと、登坂路でエンジンEが自動停止した場合、検出された路面勾配が大きいほど制動力増加量をより大きくする制動力増加量設定部10cと、を備える。これにより、燃費の向上と登坂路におけるずり下がり防止との両立を図ることができる。
【0063】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための形態を、図面に基づく実施例1,2により説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例1,2に示したものに限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない程度の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0064】
実施例1,2では、エンジンとモータジェネレータを駆動源とし、両者が駆動軸と直結されたハイブリッド車両を例に説明したが、本発明は、少なくとも駆動源としてエンジンを備えた車両に適用することができ、実施例1,2と同様の作用効果を得ることができる。
【0065】
実施例2では、制動力増加手段としてブレーキ・バイ・ワイヤシステムを用いた例を示したが、制動力増加手段は、運転者のブレーキ踏み込み量に応じた制動力に対し制動力増加量を付与可能であればよい。例えば、ブレーキペダルと各ホイルシリンダとが油圧回路で接続された通常のブレーキユニットの場合、ABSユニット等のようにブレーキ踏み込み量と独立して各ホイルシリンダへ油圧を供給可能な構成、または倍力装置の加圧率を任意に調整可能な構成等を付加されていれば、本発明の制動力増加手段として適用することができる。
【0066】
実施例1と実施例2を合わせた構成、すなわち、登坂路の路面勾配が大きいほどアイドルストップ移行条件車速閾値をより小さくし、さらに路面勾配が大きいほど制動力増加量をより大きくする構成としてもよい。これにより、車両のずり下がり防止がより確実となる。
【符号の説明】
【0067】
E エンジン
FW フライホイール
MG モータジェネレータ
CL クラッチ
AT 自動変速機
PS プロペラシャフト
DF ディファレンシャル
DSL 左ドライブシャフト
DSR 右ドライブシャフト
RL 左後輪(駆動輪)
RR 右後輪(駆動輪)
FL 左前輪
FR 右前輪
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
7 ATコントローラ
8 クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10 統合コントローラ
24 ブレーキ油圧センサ
100 目標駆動力演算部
200 モード選択部
300 目標充放電演算部
400 動作点指令部
500 変速制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のブレーキ操作と車速がアイドルストップ移行条件車速閾値以下となることを含む所定のアイドルストップ条件が成立した際にエンジンを自動停止する車両のアイドルストップ制御装置において、
路面勾配の大きさを検出する路面勾配検出手段と、
運転者のブレーキ踏み込み量に応じた制動力に対し制動力増加量を付与する制動力増加手段と、
登坂路でエンジンが自動停止した場合、検出された路面勾配が大きいほど前記制動力増加量をより大きくする制動力増加量設定手段と、
を備えることを特徴とする車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、
前記路面勾配検出手段の異常を判定する異常判定手段を備え、
前記制動力増加量設定手段は、前記路面勾配検出手段が異常と判定された場合には、前記制動力増加量をゼロとすることを特徴とする車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、
登坂路走行時、検出された路面勾配が大きいほど前記アイドルストップ移行条件車速閾値をより小さな値に設定する車速閾値設定手段を備えることを特徴とする車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、
前記アイドルストップ移行条件車速閾値を一定値としたことを特徴とする車両のアイドルストップ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−46182(P2012−46182A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224453(P2011−224453)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【分割の表示】特願2007−189036(P2007−189036)の分割
【原出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】