説明

車両のサスペンション装置

【課題】簡素な機構で車両重量に応じてばね特性を非線形に変化させる。
【解決手段】中間部にアクスルハウジング20が固定されるリーフスプリング12と、リーフスプリング12の一端部を車体フレーム10に揺動可能に固定するスプリングブラケット14と、リーフスプリング12の他端部を車体フレーム10に揺動可能に固定するシャックル16及びスプリングブラケット18と、リーフスプリング12の撓みが所定値以上のときに、その上面に可動部22Bの先端が当接し、可動部22Bの往復動作に応じて内部空間の容積が増減するエアシリンダ22と、エアシリンダ22の内部空間と連通するエアリザーバ26と、を含んで車両のサスペンション装置を構成する。そして、エアシリンダ22を空気ばねとして機能させることで、車両重量に応じてばね特性を非線形に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンション装置において、車両重量に応じてばね特性を非線形に変化させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックなどの商用車では、空車時と積車時との荷重変動が大であるため、空車時の乗心地と積車時の荷重支持とを両立させるべく、特開2003−211931号公報(特許文献1)に記載されるような親子ばね式サスペンション装置が搭載されることがある。親子ばね式サスペンション装置は、図5に示すように、中間部がアクスルハウジング1に固定されつつ、上下方向に配置される主ばね2A及び補助ばね2Bからなる親子ばね2と、主ばね2Aの両端部を夫々車体フレーム3に固定するスプリングブラケット4及びシャックル5と、主ばね2Aの撓みが所定値以上になると、補助ばね2Bの両端部上面と当接するコンタクトシートが一体化されたヘルパブラケット6と、親子ばね2のストロークエンドでその上面と当接し部品間の干渉を防止するバンパラバー7と、を含んで構成される。そして、空車時のような軽荷重のときには、主ばね2Aのみが作用して乗心地の向上が図られる一方、積車時のような重荷重のときには、補助ばね2Bの両端部上面がヘルパブラケット6と当接して、主ばね2A及び補助ばね2Bが協働して重荷重が支持される。
【特許文献1】特開2003−211931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、親子ばね式サスペンション装置では、車両重量に応じてばね特性が非線形に変化し、乗心地の向上及び重荷重の支持が両立されるが、親子ばねが大掛かりであることに加え、ヘルパブラケットを設けなければならず、車両重量の増加を来たしてしまうという問題点があった。一方、板ばねを複数枚重ね合わせて一体化したリーフスプリングを使用したサスペンション装置では、ヘルパブラケットが不要なことから車両重量の増加を来たさないが、そのばね特性が線形に変化するため、乗心地の向上及び重荷重の支持を両立させることは困難であった。
【0004】
そこで、本発明は以上のような従来の問題点に鑑み、サスペンション装置の必須構成部品であるバンパラバーを工夫することで、簡素な機構で車両重量に応じてばね特性を非線形に変化させ、乗心地の向上及び重荷重の支持を両立した車両のサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、本発明に係る車両のサスペンション装置では、中間部にアクスルハウジングが固定されるリーフスプリングと、リーフスプリングの両端部を夫々車体フレームに揺動可能に固定するスプリングブラケットと、リーフスプリングの撓みが所定値以上のときに、その上面に可動部の先端が当接し、可動部の往復動作に応じて内部空間の容積が増減するエアシリンダと、エアシリンダの内部空間と連通するエアリザーバと、を含んで構成されたこと特徴とする。
【0006】
ここで、エアシリンダの内部空間にエアを導入する方向にのみ開弁する逆止弁と、エアリザーバ内の圧力が所定値以上になったときに、その内部を大気開放するリリーフ弁と、をさらに備えるようにすれば、エアシリンダがポンプとして機能するため、エアポンプなどを搭載しない車両であっても、本発明の効果を享受することができる。
また、水平面に対する車両前後方向の傾斜角度が所定値以上となったときに、エアシリンダの内部空間とエアリザーバとを連通する連通路を閉鎖するようにすれば、車両が傾斜路に差し掛かったときに、その後部が路面と干渉することを防止することができる。このとき、常開式の電磁開閉弁で連通路を開閉することで、例えば、その制御回路に故障が生じたときであっても、本発明の基本的な効果を享受することができる。
【0007】
さらに、エアシリンダの可動部先端にバンパラバーを固着させるようにすれば、リーフスプリングとエアシリンダとのメタルコンタクトが防止され、異音発生などを抑制することができる。その他、エアシリンダに、可動部を突出方向に付勢するコイルばねを内蔵するようにすれば、重荷重状態において、可動部がリーフスプリングの変形動作に追従するため、両者の当接状態が途切れることがなく、当接音発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両のサスペンション装置によれば、リーフスプリングの撓みが所定値未満である軽荷重状態では、その上面がエアシリンダの可動部に当接しないため、リーフスプリングのみにより緩衝作用が奏される。このため、リーフスプリングのばね定数を適切に設定することで、軽荷重状態における乗心地の向上を図ることができる。一方、リーフスプリングの撓みが所定値以上である重荷重状態では、その上面がエアシリンダの可動部と当接するため、リーフスプリングの変形動作に応じて可動部が往復動作して内部空間の容積が増減する。このため、エアシリンダが非線形のばね特性を有する空気ばねとして機能し、リーフスプリングと空気ばねとの協働により緩衝作用が奏され、重荷重を支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1は、本発明に係る車両のサスペンション装置を具現化した第1実施形態を示す。
車体前後方向に延びる車体フレーム10の側方には、少なくとも1枚の板ばねからなるリーフスプリング12が配設される。リーフスプリング12の一端部は、車体フレーム10に固定されたスプリングブラケット14に揺動可能に固定される。一方、リーフスプリング12の他端部は、シャックル16を介して、車体フレーム10に固定されたスプリングブラケット18に揺動可能に固定される。また、リーフスプリング12の中間部には、例えば、Uボルト及びナットからなる公知の締結手段を用いて、アクスルハウジング20が固定される。
【0010】
本発明の特徴として、車体フレーム10には、リーフスプリング12の撓みが所定値(空車と積車とを判別する閾値)以上のときに、その変形動作に応じて内部空間の容積が増減するエアシリンダ22が固定される。エアシリンダ22は、具体的には、車体フレーム10に固定される固定部22Aと、リーフスプリング12の上面と当接しつつ、固定部22Aの内部に形成されたシリンダに沿って往復動する可動部22Bと、可動部22Bの先端に固着されたバンパラバー22Cと、を含んで構成される。ここで、可動部22Bの先端にバンパラバー22Cを固着することで、リーフスプリング12とエアシリンダ22とのメタルコンタクトが防止され、異音発生などを抑制することができる。
【0011】
また、エアシリンダ22の内部空間は、チューブ,鋼管などからなる連通路24を介して、エアリザーバ26に連通される。エアリザーバ26には、内部圧力が所定値以上になったときにその内部を大気開放し、内部圧力を略一定に維持するリリーフ弁28が取り付けられる。さらに、エアシリンダ22の固定部22Aには、その内部空間にエアを導入する方向にのみ開弁するチェック弁,リード弁などからなる逆止弁30が取り付けられる。
【0012】
かかる車両のサスペンション装置によれば、リーフスプリング12の撓みが所定値未満である軽荷重状態では、その上面がエアシリンダ22の可動部22Bに当接しないため、リーフスプリング12のみにより緩衝作用が奏される。このため、リーフスプリング12のばね定数を適切に設定することで、軽荷重状態における乗心地の向上を図ることができる。
【0013】
一方、リーフスプリング12の撓みが所定値以上である重荷重状態では、その上面がエアシリンダ22の可動部22Bと当接するため、リーフスプリング12の変形動作に応じて可動部22Bが往復動作し、固定部22Aのシリンダ及び可動部22Bにより画定される内部空間の容積が増減する。内部空間の容積が増加するときには、逆止弁30を通って内部空間にエアが導入され、内部空間の容積が減少するときには、圧縮されて高圧となった高圧エアが連通路24を通ってエアリザーバ26に供給される。そして、エアリザーバ26の内部圧力が所定値以上になると、リリーフ弁28が開弁してその内部が大気開放され、エアリザーバ26の内部は所定圧力に維持される。このため、エアシリンダ22が非線形のばね特性を有する空気ばねとして機能し、リーフスプリング12と空気ばねとの協働により緩衝作用が奏され、重荷重を支持することができる。ここで、リリーフ弁28の作動圧力を変更可能とすることで、空気ばねの特性を任意に設定することができる。
【0014】
図2は、本発明に係る車両のサスペンション装置を具現化した第2実施形態を示す。なお、先の第1実施形態と同一構成については、同一符号を付してその説明を省略又は簡単とする。
エアシリンダ22の内部空間とエアリザーバ26とを連通する連通路24には、その通路を開閉する常開式の電磁開閉弁32が介装される。また、水平面に対する車両前後方向の傾斜角度θを検出する傾斜角度センサ34(傾斜角度検出手段)が設けられる。そして、傾斜角度センサ34からの出力は、コンピュータを内蔵したコントロールユニット36に入力され、そのROM(Read Only Memory)などに記憶された制御プログラムによって電磁開閉弁32が適宜制御される。
【0015】
図3は、イグニッションスイッチのONを契機として、コントロールユニット36において所定時間ごとに繰り返し実行される制御プログラムの内容を示す。なお、かかる制御プログラムを実行することで、制御手段が実現される。
ステップ1(図では「S1」と略記する。以下同様)では、傾斜角度センサ34から傾斜角度θを読み込む。
【0016】
ステップ2では、傾斜角度θが所定値以上であるか否かを判定する。ここで、所定値は、車両後部が路面と干渉する可能性があるか否かを判定するための閾値であって、例えば、図4(A)に示すように、車両後部に装着されたスペアタイヤキャリアが路面と接触する可能性がある角度に設定される。そして、傾斜角度θが所定値以上であればステップ3へと進む一方(Yes)、傾斜角度θが所定値未満であれば処理を終了する(No)。
【0017】
ステップ3では、電磁開閉弁32に作動信号を出力して連通路24を閉鎖する。すると、エアシリンダ22,連通路24及びエアリザーバ26からなるエア回路の容積が減少するため、エアシリンダ22により奏される空気ばねのばね定数が急激に大きくなり、リーフスプリング12の撓みが減少する。このため、図4(B)に示すように、車両後部の沈み込みが小さくなり、これが路面と干渉することが抑制される。
【0018】
なお、他の作用及び効果については、先の第1実施形態と同様であるので、その説明を参照されたい。
ここで、エアシリンダ22は、リーフスプリング12の変形動作に応じてポンプとして機能するため、小型トラックのように、エアポンプなどの高圧エア供給源を搭載しない車両であっても、本発明の効果を享受することができる。また、エアシリンダ22,連通路24及びエアリザーバ26からなるエア回路の機密性を長期間に亘って確保可能であるときには、定期的にエアリザーバ26に所定圧力の高圧エアを適宜補充することで、リリーフ弁28及び逆止弁30を不要とすることができる。
【0019】
さらに、エアシリンダ22に、可動部22Bを突出方向に付勢するコイルばねを内蔵するようにすれば、重荷重状態において、可動部22Bがリーフスプリング12の変形動作に追従するため、両者の当接状態が途切れることがなく、当接音発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るサスペンション装置の第1実施形態を示す構成図
【図2】本発明に係るサスペンション装置の第2実施形態を示す構成図
【図3】同上における電磁開閉弁の制御内容を示すフローチャート
【図4】同上の作用及び効果を示し、(A)は車両後部が路面と干渉する不具合を示す説明図、(B)は本発明の効果を示す説明図
【図5】親子ばね式サスペンション装置の構成図
【符号の説明】
【0021】
10 車体フレーム
12 リーフスプリング
14 スプリングブラケット
16 シャックル
18 スプリングブラケット
20 アクスルハウジング
22 エアシリンダ
22A 固定部
22B 可動部
22C バンパラバー
24 連通路
26 エアリザーバ
28 リリーフ弁
30 逆止弁
32 電磁開閉弁
34 傾斜角度センサ
36 コントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間部にアクスルハウジングが固定されるリーフスプリングと、
前記リーフスプリングの両端部を夫々車体フレームに揺動可能に固定するスプリングブラケットと、
前記リーフスプリングの撓みが所定値以上のときに、その上面に可動部の先端が当接し、該可動部の往復動作に応じて内部空間の容積が増減するエアシリンダと、
前記エアシリンダの内部空間と連通するエアリザーバと、
を含んで構成されたこと特徴とする車両のサスペンション装置。
【請求項2】
前記エアシリンダの内部空間にエアを導入する方向にのみ開弁する逆止弁と、
前記エアリザーバ内の圧力が所定値以上になったときに、その内部を大気開放するリリーフ弁と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の車両のサスペンション装置。
【請求項3】
前記エアシリンダの内部空間とエアリザーバとを連通する連通路を開閉する開閉弁と、
水平面に対する車両前後方向の傾斜角度を検出する傾斜角度検出手段と、
前記傾斜角度検出手段により検出された傾斜角度が所定値以上となったときに、前記開閉弁を閉弁させる制御手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項4】
前記開閉弁は、常開式の電磁開閉弁であることを特徴とする請求項3記載の車両のサスペンション装置。
【請求項5】
前記エアシリンダの可動部先端には、前記リーフスプリングの上面と当接するバンパラバーが固着されたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の車両のサスペンション装置。
【請求項6】
前記エアシリンダには、前記可動部を突出方向に付勢するコイルばねが内蔵されたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の車両のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−176406(P2007−176406A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379075(P2005−379075)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(504334865)日産ライトトラック株式会社 (60)
【Fターム(参考)】