説明

車両のフェンダシールド加熱装置

【課題】
車室内を暖房するために加熱した空気の一部を利用して、フェンダシールドに雪が付着しないようにしたフェンダシールド加熱装置を備えた車両を提供する。
【解決手段】
車輪93とフェンダ91との間に中空部が形成されたフェンダシールドと、エンジンの冷却水を利用して車室内に送風する空気を加熱するヒータユニット2と、ヒータユニット2とフェンダシールド1の中空部12とを連結しヒータユニット2からの送風を前記フェンダシールド1の中空部に導くダクト16とを設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を覆うフェンダを備えた車両に関するものであり、特に、降雪のある地域を走行する際に、雪、氷などがフェンダシールドに内につかないようにした、フェンダシールド加熱装置に関するものである。

【背景技術】
【0002】
一般に、降雪地域では車両の走行する道路は、除雪を行なったり、あるいは地下水や電気ヒータ等を利用した融雪装置などが設置され、道路上の雪を取り除くようにしている。ところが、全ての道路を完全に除雪することはできず、あるいは、降雪の状態によっては除雪作業も追いつかないため、道路上に雪が残ったままの場合も多い。したがって、このように道路上に雪があっても、車両を走行させなければならないことも多い。このような状態で走行すると、図6に示すように、車輪にかきあげられた雪Sがフェンダの内側(フェンダシールド1’)に付着することとなる。付着した雪は徐々に大きな塊になり、場合によっては氷のように硬い塊となってしまう。このような塊が、フェンダの内側に付着していると、操舵操作やブレーキ操作の妨げになるおそれがある。また、塊が剥がれ落ちる際に、フェンダを破損したり、後方に飛んでいってしまい後続車にとって危険な場合もある。このような場合に、フェンダの内側に付着した雪を解かして取り除くものとして、例えば特開2005−297882号公報等に記載されるものがあげられる。そして、このものは冷却水の配管をフェンダシールド内に設け、冷却水の熱によって、雪を解かすことができるようになっているものである。
【特許文献1】特開2005−297882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記従来のものにおいては、通常の冷却水の配管を分岐して別途フェンダシールドまで延長して配置し、フェンダシールドを冷却水で加熱するものである。したがって、冷却水の配管の取り回しが複雑となり、さらに、冷却水の漏れはエンジンの破損につながるので、フェンダシールドまで配管を延長する際には、完全に漏れを防止する対策が必要となる。また、車両の走行中に車輪に跳ね上げられた石などの異物が衝突したとしても、配管を損傷することがないようにしなくてはならず、コストがかさむおそれがある。さらに、冷却水はエンジンが運転状態にあるときには常に循環しているので、降雪の心配のない暖かい季節においてもフェンダシールドのところまで循環するため効率的ではない。このような問題点を解決するために、車室内を暖房するために加熱した空気の一部を利用して、フェンダシールドに雪が付着しないようにしたフェンダシールド加熱装置を提供しようとするのが、本発明の目的(課題)である。

【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明においては次のような手段を講ずることとした。すなわち、請求項1記載の発明においては、車輪を覆う位置に設けられるフェンダと、前記車輪と前記フェンダとの間に設けられるものであって当該フェンダの内側を覆うように設けられるとともに中空部が形成されたフェンダシールドと、エンジンの冷却水を利用して車室内に送風する空気を加熱するヒータユニットと、前記ヒータユニットと前記フェンダシールドの中空部とを連結し前記ヒータユニットからの送風を前記フェンダシールドの中空部に導くダクトと、を備えた構成を採ることとした。

【0005】
次に、請求項2記載の発明について説明する。このものも、その基本的な点は前記請求項1記載のものと同じである。すなわち、請求項1記載の車両のフェンダシールド加熱装置に関して、前記フェンダシールドには前記ヒータユニットからの送風を排出する排出口が設けられるとともに、当該排出口は車両のバンパ装置の裏側に配置した構成を採ることとした。

【0006】
次に、請求項3記載の発明について説明する。このものも、その基本的な点は前記請求項1ないし請求項2記載ものと同じである。すなわち、請求項1ないし請求項2記載の車両のフェンダシールド加熱装置に関して、前記排出口には送風がないときには当該排出口を閉塞するシール部材を備えた構成を採ることとした。

【発明の効果】
【0007】
第一の発明によれば、ヒータユニットで加熱した空気がフェンダシールド内の中空部に導かれフェンダシールドを暖め、付着した雪を解かして落とすことができる。しかも、もともと車室内暖房用の空気の一部を利用しているので、特別な加熱手段を設けることなく、エンジンの熱を効率的に使うことができる。そして、ヒータユニットからフェンダシールドにかけて、完全に密閉されている必要はなく、多少空気が漏れたとしても、エンジンなどの破損につながるおそれはない。したがって、比較的簡単な構造とすることができる。さらに、降雪の心配のない暖かい季節においては車室内の暖房も必要がなくヒータを使わないので、フェンダシールドのところまで加熱した空気が導かれることがなく、無駄なエネルギーを使用することなく効率的に使用することができる。したがって、燃料消費量が増大することがなく環境への負荷も最小限に抑えることができる。

【0008】
また、第二の発明によれば、車両のバンパ装置の裏側は、走行時にゴミ、水、降雪時であれば雪などが最も入りにくい位置であるので、排出口からフェンダシールドの中空部内に侵入して、堆積することを防止することができる。

【0009】
また、第三の発明によれば、その特徴とするところは、フェンダシールドの排出口には送風がないとき、すなわち使用していないときには、排出口を閉じてしまうことができるので、ゴミなどが排出口からフェンダシールドの中空部内に侵入し、堆積することを確実に防止することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態について、図1ないし図5を基に説明する。本実施の形態に関するものの、その構成は、図1に示すように、車両9のフェンダ91に設けられた中空部12が形成されたフェンダシールド1と、車室内暖房用のヒータユニット2と、ヒータユニット2とフェンダシールド1の中空部12とを接続するダクト16とからなることを基本とするものである。そして、これら構成からなるフェンダシールド加熱装置は、ヒータユニット2により加熱された空気をダクト16を通してフェンダシールド1の中空部12内に導くことでフェンダシールド1を加熱し、付着した雪を解かすことができるものである。

【0011】
このような構成からなるものにおいて、前記フェンダシールド1は図1、ないし図2に示すように、ヒータユニット2からの温風を導くダクト16と連結される導入部13と、全体的に円弧状でフェンダ91の内側に沿う形状の円弧部14と、バンパ92に向かって水平に伸びるように形成された排出部15とからなるものである。そして、これら導入部13、円弧部14、排出部15は、それぞれ所定の幅を有するように、かつ連続的に、さらに、全体にわたって中空部12を有するようにブロー成形等の手段により形成されている。そして、排出部15のところには、中空部12を流れた空気が排出される排出口151が設けられている。

【0012】
ダクト16は、一方の端部がフェンダシールド1の導入部13と略同一断面形状となるように形成され、導入部13に差し込んで係合させるようになっている。この係合部分は、ダクト16内を流れる空気が全く漏れることのないように完全にシールをする必要がなく、多少であれば空気がもれても、暖房への影響も少なくエンジン、及び冷却系が損傷することもないので、簡素なシール装置を用いることができる。したがって、係合部分の構造を簡略化し、コストアップを最小限に抑えることができる。さらに、ダクト16のもう一方の端部は、ヒータユニット2のフェンダシールド側吹出口282(図4参照)と接続されるが、この場合もダクト16と、フェンダシールド側吹出口282との断面形状と略同一となるように形成して、係合するようになっている。この係合部分も、流れる空気が全く漏れることのないように完全にシールをする必要がなく、比較的簡素なシール装置を用いることができる。

【0013】
次に、ヒータユニット2について、図4をもとに説明する。ヒータユニット2は、送風用のファン23と、冷房用熱交換器であるエバポレータ24と、暖房用の熱交換器であるヒータコア25と、これらを収納するケース21とからなることを基本とするものである。このような構成からなるものにおいて、ファン23が回転することによって、吸気口22から空気が取り込まれ、コンプレッサCに接続されたエパポレータ24を通過することで所定の温度に調整される。また、ヒータコア25を通過した空気は加熱される。そして、温度調整ダンパ26の開度によって、エバポレータ24、ヒータコア25を通過した空気を混ぜ合わせ、所定の温度に調整するようになっている。ヒータコア25はエンジンEの冷却系に接続され、冷却水の熱により通過する空気を加熱するようになっているものである。

【0014】
所定の温度に調整された空気は、吹出口切換ダンパ27、28の開度を調整、あるいは切換えることによって、車室内の所定の吹出口からの吹出量を調整することができる。吹出口切換ダンパ27は、その開度により車室内のフェイス位置の吹出口へ接続されたフェイス側吹出口271への吹出量を調整するものであり、吹出口切換ダンパ28は、その開度により車室内のフット位置の吹出口へ接続されたフット側吹出口281、及び、フェンダシールド1に加熱した空気を導くフェンダシールド側吹出口282への吹出量を調整するものである。

【0015】
フェンダシールド側吹出口282から吹出された加熱された空気は、ダクト16を通って、フェンダシールド1の導入部13に導かれ、円弧部14から排出部15へと中空部12を通ってフェンダシールド1全体を加熱しながら、最終的に排出口151から排出される(図3参照)。これによって、フェンダシールド1に付着していた雪は温められて解けることとなりフェンダシールド1から剥がれ落ちることとなる。

【0016】
また、排出口151は、図2に示すように、少しずつ絞るような形状とすると、排出口151からの排出圧力を多少高くすることができ、ゴミ、水、雪等の浸入を阻止することができる。さらに、排出口151の位置をバンパ92の裏側とすることで、走行中に、ゴミ、水、雪等が排出口151に直接あたることがないので、中空部12内への浸入を防止することができる。

【0017】
さらに、図5(a)に示すように、排出部15の底面に、車両の進行方向に向けて跳ね上げるような形状に排出口151を形成してもよい。これによって、走行風が排出部15の下面を流れることによる排出口151からの吸出効果が期待でき、効率よく排出できるとともに、ゴミ、水、雪等が浸入しにくくなる。また、図5(b)に示すように、排出口151のところに、常時は排出口151を閉塞し、中空部12内を空気が流れているときのみ、排出口151を開口することができる(図5(c)参照)ような、一方向弁の作用をするシール部材152を設けるようにしてもよい。これによって、中空部12内を空気が流れていない、駐車中、あるいは、ヒータを使用する必要のない時期の運転中であっても、中空部12内へのゴミ、水、雪等の浸入を確実に防止することができる。

【0018】
次に、このようなフェンダシールド加熱装置の使用方法について説明する。降雪のある地域を走行する場合には、一般的に気温が低いので車室内を暖房するためヒータ装置を作動させる。ヒータ装置が作動すると、ヒータコア25を通過した空気が加熱され、フット側吹出口281から、車室内の運転者の足元にむけて導かれるとともに、同時にフェンダシールド側吹出口282から、ダクト16を通ってフェンダシールド1に導かれることとなる。これによって、特別な操作をすることなくフェンダシールド1を加熱し、付着した雪等を解かして落とすことができる。また、降雪の心配のない暖かい季節においては車室内の暖房も必要がなくヒータを使わないので、切換ダンパ28によりフット側吹出口281、フェンダシールド側吹出口282は閉じられ、フェンダシールド1のところまで加熱した空気が導かれることはない。また、1つの切換ダンパ28により、フット側吹出口281、フェンダシールド側吹出口282の両方の開閉を調整するようにしたが、フット側吹出口281、フェンダシールド側吹出口282を別々に開閉できるように、それぞれに切換ダンパを設けるようにしてもよい。

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の全体構成を示す図である。
【図2】本発明にかかるフェンダシールドを示す斜視図である。
【図3】本発明にかかるフェンダシールドの配置状態を示す斜視図である。
【図4】本発明にかかるヒータユニットからフェンダシールドへ加熱した空気を送るための構成を示す図である。
【図5】本発明にかかるフェンダシールドの排出口を示す断面図である。
【図6】従来例にかかる雪等が付着した状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0020】
1 フェンダシールド
1’ フェンダシールド
12 中空部
13 導入部
14 円弧部
15 排出部
151 排出口
152 シール部材
16 ダクト
2 ヒータユニット
21 ケース
22 吸気口
23 ファン
24 エバポレータ
25 ヒータコア
26 温度調整ダンパ
27 吹出口切換ダンパ
271 フェイス側吹出口271
28 吹出口切換ダンパ
281 フット側吹出口
282 フェンダシールド側吹出口
9 車両
9’ 車両
91 フェンダ
92 バンパ
93 車輪
93’ 車輪
C コンプレッサ
E エンジン
S 雪



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を覆う位置に設けられるフェンダと、前記車輪と前記フェンダとの間に設けられるものであって当該フェンダの内側を覆うように設けられるとともに中空部が形成されたフェンダシールドと、エンジンの冷却水を利用して車室内に送風する空気を加熱するヒータユニットと、前記ヒータユニットと前記フェンダシールドの中空部とを連結し前記ヒータユニットからの送風を前記フェンダシールドの中空部に導くダクトと、を備えたことを特徴とする車両のフェンダシールド加熱装置。

【請求項2】
請求項1記載の車両のフェンダシールド加熱装置において、前記フェンダシールドには前記ヒータユニットからの送風を排出する排出口が設けられるとともに、当該排出口は車両のバンパ装置の裏側に配置されていることを特徴とする車両のフェンダシールド加熱装置。

【請求項3】
請求項1記載ないし請求項2記載の車両のフェンダシールド加熱装置において、前記排出口には送風がないときには当該排出口を閉塞するシール部材を備えたことを特徴とする車両のフェンダシールド加熱装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−238897(P2008−238897A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80473(P2007−80473)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】