説明

車両のフロントガラス構造

【課題】前方の視界が良好で、万一の事故の際にも歩行者が受ける損傷をより軽減できる車両のフロントガラスを提供すること。
【解決手段】車両の室内空間の前面を覆う前面ガラスと、前面ガラスの左右端縁にそれぞれモール部を介して連結されて、車両の進行方向に沿って配置される側面ガラスとから構成され、前面ガラスと側面ガラスとを連結させたモール部の内部に、車両の前方側から所定以上の荷重が作用した際に側面ガラスに当接して側面ガラスを破砕させる破砕部材を具えて車両のフロントガラス構造を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突時歩行者の損傷を軽減できる車両のフロントガラス構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の室内空間前方には、フロントガラスが設けられている。フロントガラスの両側には、フロントピラーが設けてあり、フロントピラーによりフロントガラスは左右両端が保持されている。
【0003】
フロントピラーは、車両のフロント部の後方とルーフ部の前端の間に設けてあり、ルーフ部の前端部分を支持するとともに、万一の際に乗員の生存空間を確保するため、所定の強度をもって形成されている。したがってフロントピラーは比較的断面が太く、かつ車室内にいる運転者より前方に配置されていることから、運転者の斜め前方に死角を生じさせることがある。
【0004】
そこでフロントピラーの位置を車両後方側に移動させ、車両前方の視界を向上させることを目的としたフロントガラスの発明がなされている。例えば、国際公開WO2002/100671には、フロントガラスを、車両前面から車両側方部分にまで連続して一体に、ほぼコの字状に形成し、かつフロントピラーを車両後方側に移動させて、前方視界を良好にさせた例が記載してある。
【0005】
また、フロントピラーは強度が確保されているため、万一歩行者がフロントピラーに当接する事故が発生すると、歩行者に重大なダメージを与える恐れがあり、このような観点から見てもフロントピラーの位置を車両後方に移動させることは、有効であると考えられる。
【特許文献1】WO2002/100671
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら現在では多くの場合、車両のフロントガラスは合わせガラスを使用することとなっている。合わせガラスは、樹脂膜を挟んで2枚のガラスを貼り合わせて形成してあるため、小さい曲率半径では屈曲させにくいという性質を有している。したがって、上述したようなコの字状をしたフロントガラスを、合わせガラスによって安価に量産することは、現実的に無理であった。
【0007】
仮に、コの字状のフロントガラスを採用したとしても、屈曲させた部位が他の部位より強固になり、しかも車両側方に位置する部位は車両前方からの衝突に対して強く割れ難いため、歩行者がフロントガラスの屈曲部位に当接するような事故が発生した場合、衝撃を有効に吸収できず歩行者にダメージを与える虞がある。すなわちフロントピラーの位置を後方に移動させたとしてもそれによる効果が非常に薄いものであると考えられる。
【0008】
本発明は上記課題を解決し、前方の視界が良好で、万一の事故の際にも歩行者が受ける損傷をより軽減できる、車両のフロントガラス構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため車両のフロントガラス構造を次のように構成した。
【0010】
1、 車両の室内空間の前面を覆う前面ガラスと、該前面ガラスの左右端縁にそれぞれモール部を介して連結されて、車両の進行方向に沿って配置される側面ガラスとから構成され、前面ガラスと側面ガラスとを連結させたモール部の内部に、車両前方から所定以上の荷重が作用した際に側面ガラスに当接して該側面ガラスを破砕させる破砕部材を具えたことを特徴とする。
【0011】
2、 1に記載の車両のフロントガラス構造において、破砕部材を、モール部内に設けられた補強部材から延出させ、その先端を前記側面ガラスの端面に向けたことを特徴とする。
【0012】
3、 1に記載の車両のフロントガラス構造において、破砕部材を、側面ガラスの端面に取り付けたことを特徴とする。
【0013】
4、 1〜3に記載の車両のフロントガラス構造において、側面ガラスは、強化ガラスであることを特徴とする。
【0014】
5、 1〜4に記載のフロントガラス構造において、車両のフロントピラーは、少なくとも側面ガラスが配置された部分においては、側面ガラスの車両後方側の端縁に沿うように屈曲されており、側面ガラスの車両後方側の端縁は、フロントピラーに固着されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる車両のフロントガラス部構造は、次の効果を有している。
【0016】
フロントガラスを前面ガラスと同前面ガラスの左右端縁にそれぞれモール部を介して連結される側面ガラスとから構成したので、フロントピラーよりも前面側にフロントガラスが配置されるため、万一歩行者と衝突した場合でも、フロントピラーへの当接を回避することができ、フロントガラスのモール部に当接したとしても、フロントピラーに比べて大幅に損傷の程度を低下させることができる。
【0017】
更にモール部に車両前方側から所定以上の荷重が作用した際に側面ガラスを破砕する破砕部材が設けられていることから、破砕部材により側面ガラスが容易に破砕され、歩行者が受ける損傷をより効果的に軽減させることができる。
【0018】
即ち、フロントピラーを車両後方側に屈曲または移動させてフロントピラーによる死角を減少させた車両であっても、容易に略コ字状のフロントガラスを形成でき、運転席や助手席からの斜め前方の視界を良好にするとともに衝突による歩行者への衝撃を軽減することがきる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明にかかる車両のフロントガラス構造の一実施形態について、図を参照して説明する。図1に、本発明のフロントガラスを備えた車両2を示す。
【0020】
車両2は乗用車タイプで、進行方向(矢印Aで示す。)前方よりフロント部4と、フロント部4に続く室内空間としての車室6とを備えている。車室6の前方には、フロント部4の後方端からルーフ部8の前端の間に取り付けられたフロントガラス10が設けてある。また車室6の側方には、ドア9が設けてあり、後方にはリアドア(図示せず。)が設けてある。
【0021】
車両2の前方には、フロント部4の後方端からルーフ部8の前端の間に、フロントピラー(Aピラーとも言う。)12が左右に設けられている。フロントピラー12は、車両2の骨格を形成する構造部材であり、ルーフ部8の前部を支持するとともにフロントガラス10の両端部を固定している。尚通常フロントピラー12は、車両2の下端に設けられているフロア(図示せず。)まで延びているが、ここではフロント部4とルーフ部8の間の部材をフロントピラーと呼び、フロントピラー12の上半部と言った場合、フロント部4とルーフ部8の間のほぼ中間部分を境としてその上方部分を指す。
【0022】
フロントピラー12は、ルーフ部8の前端から車両2の進行方向前方に向けて斜め下方に延び、そして高さ方向の中間位置付近で下方に屈曲し、下半部がなだらかに弧を描きながらその下端がフロント部4の後端部分に連結している。すなわちフロントピラー12は、ほぼ平坦に形成された上半部Bと屈曲形成された下半部Cからなる略S字状に形成されている。
【0023】
フロントガラス10は、図2に示すように車両2の車室6(室内空間)前面を覆うように取り付けられる前面ガラス14と、車両2の進行方向Aに沿って取り付けられる側面ガラス16から構成してあり、前面ガラス14と側面ガラス16は、モール部20により連結されて一体に固定されている。
【0024】
前面ガラス14は、通常の車両用フロントガラスに使用されている合わせガラスからなり、図3に示すように表裏2枚のガラスの間に樹脂製の中間膜18を有している。中間膜18としては、例えばPVB(ポリビニルブチラール)樹脂膜である。側面ガラス16は、強化ガラスで形成されている。
【0025】
具体的には前面ガラス14は、図1において、ルーフ部8の前端とフロント部4の後方の間で、ルーフ部8の前端の左端部とフロント部4の後方の左端部を結ぶ線と、ルーフ部8の前端の右端部とフロント部4の後方の右端部を結ぶ線とで囲まれた部分であり、側面ガラス16は、前面ガラス14の左右の端縁とフロントピラー12の下半部Cで囲まれた部分である。
【0026】
モール部20は、図3に示すように、補強部材22と、樹脂部24から構成されている。補強部材22は、円弧状の断面形状を有する細長い金属製部材であり、幅方向中央に破砕部材としての突起3が所定の間隔で形成してある。突起3は図4に示すように三角形の突片であり、補強部材22がモール部20の内部に固定されると、その先端が側面ガラス16の端面に向くように形成されている。例えば突起3は、プレス加工により形成する。
【0027】
樹脂部24は、補強部材22を含めて前面ガラス14と側面ガラス16を所定の角度で固定している。例えば樹脂部24は、前面ガラス14と側面ガラス16とを所定の角度で突き合わせた状態で型内に保持し、型内に樹脂材を射出して成形する。
【0028】
尚、補強部材22や樹脂部24の材質、強度、厚み、幅、あるいは突起3の形状や大きさ、設置間隔などは、モール部20が所望の強度を有し前面ガラス14と側面ガラス16とを保持でき、かつモール部20に車両前方側から歩行者が当接した場合、所定の荷重以上で側面ガラス16が破砕されるように選択、あるいは設定されている。
【0029】
フロントガラス10は、周縁に塗布された接着剤により車両2に貼り付けてある。つまり、前面ガラス14の上縁とルーフ部8の前端部分、前面ガラス14の下縁とフロント部4の後端部分、前面ガラス14の左右端縁の上半部とフロントピラー12の上半部B、側面ガラス16の後方端縁とフロントピラー12の下半部Cの各々に塗布された接着剤により接着されて固定されている。
【0030】
即ち、フロントピラー12は、フロントガラス10の前面ガラス14の左右端縁の上半部に沿うとともに、少なくとも側面ガラス16が配置された部分においては、側面ガラス16の車両後方側の端縁に沿うように屈曲されてフロントガラス10の側部を支持している。図5に、前面ガラス14の左右端縁の上半部とフロントピラー12の上半部Bの接合部分の断面を示す。
【0031】
次に、フロントガラス10の作用について説明する。
【0032】
車両2は、フロントガラス10における前面ガラス14の左右端縁の下半部Cに沿ってモール部20が設けられていることから、フロントピラー12による死角が発生せず、運転者の斜め前方への視界を良好にできる。また、万一フロントガラス10の左右方向のいずれかのモール部20に歩行者が当接した場合でも、モール部20は剛性が低いことから歩行者が当接した衝撃力で容易にモール部20が破砕し、歩行者が受ける損傷を軽減できる。
【0033】
更に、補強部材22には破砕部材としての突起3が設けてあることから、モール部20が車両前方側から衝撃を受けて変形すると突起3が側面ガラス16の端面に直ちに当接し、突起3の先端で側面ガラス16を破砕させる。したがって側面ガラス16の厚みを厚くするなど強固に形成することができる一方、衝撃を受けたときは、小さな力で側面ガラス16が容易に破砕され、歩行者が受ける損傷を効率良く軽減できる。
【0034】
またフロントガラス10は、少なくとも前面ガラス14が中間膜18を有する合わせガラスで形成されているので、万一事故が発生し乗員がフロントガラス10に衝突しても、乗員が車外に飛び出すことを防ぐことができ乗員は確実に保持される。
【0035】
また、中間膜18により適度な弾性が得られ、これによりフロントガラス10に衝突して乗員が受ける損傷を軽減できる。
【0036】
なお、側面ガラス16については、歩行者の当接に対して破砕しやすく、より有効に衝撃を吸収することができる強化ガラスを採用しているが、前面ガラス14と同様合わせガラスを採用してもよい。
【0037】
次に、破砕部材の他の例について図6を用いて説明する。この破砕部材30は細長い金属片で、本体部32の両側に脚部34をコの字状に具え、更に本体部32に突起36を破砕部材30の内側に向けて形成してある。対向した脚部34は、側面ガラス16を適度な弾性力で厚み方向から挟む間隔に形成してある。また各脚部34の間には隙間38が設けてあり、隙間38により破砕部材30は屈曲自在に形成されているとともに、モール部20を形成する際、射出した樹脂材が側面ガラス16に十分に付着するようになっている。
【0038】
突起36は、本体部32にプレス加工等を行い、本体部32に対してほぼ垂直に立ち上がる三角形に形成してある。突起36の先端は、破砕部材30を側面ガラス16の端縁に取り付けると、側面ガラス16の端面の厚み方向の中央に向き合うように形成してある。
【0039】
フロントガラス10は、次のようにして形成する。脚部34で側面ガラス16を挟み、側面ガラス16の端縁に破砕部材30を、突起36と側面ガラス16の端面との間に若干の間隙を設けて組み付ける。そして破砕部材30を組み付けた状態で側面ガラス16を前面ガラス14と突き合わせ、突き合わせ部分に補強部材(図示せず。)を配置し、例えば型内で樹脂材を射出してモール部20を形成する。このようにして、前面ガラス14と側面ガラス16とを一体に固定し、フロントガラス10を形成する。フロントガラス10が形成されたら、フロントガラス10を車両2の前方に接着固定する。
【0040】
車両2のモール部20に衝突等により万一歩行者が当接し、モール部20が変形して破砕部材30を押圧すると、破砕部材30は脚部34が側面ガラス16に対して滑り、側面ガラス16に深く嵌合する。すると突起36が側面ガラス16の端面に食い込み、側面ガラス16を破砕させる。
【0041】
このように破砕部材30を形成すると、上述したと同様歩行者が衝突した際容易に側面ガラス16を破砕することができ、歩行者の損傷を軽減できる。破砕部材30を側面ガラス16の端縁に直接固定できることから、位置ずれが生じることがなく、取り付け作業が容易となる。また、補強部材に突起を形成する必要がなくなる。
【0042】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明にかかるフロントガラスの一実施形態をあらわす車両の斜視図。
【図2】本発明にかかるフロントガラスを示す斜視図。
【図3】モール部を示す断面図。
【図4】突起を示す斜視図。
【図5】フロントピラーを示す断面図。
【図6】破砕部材の他の例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0044】
2…車両
3…突起(破砕部材)
4…フロント部
6…車室
8…ルーフ部
10…フロントガラス
12…フロントピラー
14…前面ガラス
16…側面ガラス
18…中間膜
20…モール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の室内空間の前面を覆う前面ガラスと、該前面ガラスの左右両端縁にそれぞれモール部を介して連結されて、前記車両の進行方向に沿って配置される側面ガラスとから構成され、
前記前面ガラスと前記側面ガラスとを連結させたモール部の内部に、車両前方側から所定以上の荷重が作用した際に前記側面ガラスに当接して該側面ガラスを破砕させる破砕部材を具えたことを特徴とする車両のフロントガラス構造。
【請求項2】
前記破砕部材を、前記モール部内に設けられた補強部材から延出させ、その先端を前記側面ガラスの端面に向けたことを特徴とする請求項1に記載の車両のフロントガラス構造。
【請求項3】
前記破砕部材を、前記側面ガラスの端縁に取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の車両のフロントガラス構造。
【請求項4】
前記側面ガラスは、強化ガラスである請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両のフロントガラス構造。
【請求項5】
前記車両のフロントピラーは、少なくとも前記側面ガラスが配置された部分においては、前記側面ガラスの車両後方側の端縁に沿うように屈曲されており、前記側面ガラスの車両後方側の端縁は、前記フロントピラーに固着されることを特徴とする請求項1〜4に記載の車両のフロントガラス構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−189096(P2008−189096A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24570(P2007−24570)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】