説明

車両の乗員保護装置

【課題】側方からの飛散物から乗員を保護すると共に、乗員に対する衝撃を軽減しながら、乗員をシートに確実に拘束することにある。
【解決手段】
車両Aの側面衝突に対する乗員の保護動作を実行するか否かを判定する保護動作判定部30と、前部シート1のシートクッション1a及びシートバック1bの車幅方向両端部にそれぞれ格納され、保護動作判定部30が保護動作を実行すると判定した場合に、シートクッション1a及びシートバック1bの表面側にエアバッグ51、53を展開するエアバッグ展開部50と、展開時のエアバッグ51、53が車幅方向外方へ変位することを、エアバッグ51、53の車幅方向外方側から規制する規制部60と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員保護技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
側面衝突対策として、3席のシートをトライアングル型に配置した車両において、前席及び後席に対して共用のエアバッグを車体側壁側から展開する技術がある(特許文献1)。また、シートクッションとシートバックに架けてエアバッグをL字状に格納し、側面衝突時に車体側壁側に展開する技術がある(特許文献2)。さらに、シートクッション及びシートバックの側部にL字状にワイヤを配設して、側面衝突時にシートクッションとシートバックとの間に張設し、ワイヤの引出動作に連動してエアバッグを展開させる技術がある(特許文献3)。
【特許文献1】特開2000−79863号公報
【特許文献2】特開平03−281455号公報
【特許文献3】特開2007−8194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1で開示されている技術は、例えば、前席のように、車体側壁から離れた位置に配されたシートに対してエアバッグを展開して乗員を拘束させるためには、大容量のエアバッグと大型のインフレータが必要となる。また、特許文献2で開示されている技術は、エアバッグをシート外方から支持していないため、エアバッグが車幅方向の荷重に弱い。このため、乗員の衝突荷重を支持しきれない可能性がある。また、特許文献3で開示されている技術は、ワイヤによって、乗員の衝突荷重を支持し、エアバッグによって、側方からの飛散物から乗員を保護することができる点で望ましいが、乗員の衝突荷重がワイヤによって支持されるため、乗員がワイヤから大きな衝撃を受けてしまう。
【0004】
従って、本発明の目的は、側方からの飛散物から乗員を保護すると共に、乗員に対する衝撃を軽減しながら、乗員をシートに確実に拘束することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明においては、車両の側面衝突に対する乗員の保護動作を実行するか否かを判定する保護動作判定手段と、シートのシートクッション及びシートバックの車幅方向両端部にそれぞれ格納され、前記判定手段が前記保護動作を実行すると判定した場合に、前記シートクッション及びシートバックの表面側にエアバッグを展開するエアバッグ展開手段と、展開時の前記エアバッグが車幅方向外方へ変位することを、前記エアバッグの車幅方向外方側から規制する規制手段と、を備えたことを特徴とする車両の乗員保護装置が提供される。
【0006】
本発明によれば、展開時の前記エアバッグが車幅方向外方へ変位することを、前記エアバッグの車幅方向外方側から規制する規制手段を備えたため、乗員が車幅方向に倒れ込んだ場合であっても、前記エアバッグが受ける荷重を支持して、前記シートに着座する乗員を確実に拘束して保護することができる。また、前記エアバッグによって、側方からの飛散物から乗員を保護することができる。
【0007】
また、本発明においては、前記車両は、前部シートと、前記前部シートに対して車幅方向外方であって、前記車両の前後方向後方にずれて配設された後部シートと、を有し、前記エアバッグ展開手段は、前記前部シートのシートクッション及びシートバックの車幅方向両端部にそれぞれ格納される構成であってもよい。この構成によれば、前記エアバッグ展開手段は、前記前部シートのシートクッション及びシートバックの車幅方向両端部にそれぞれ格納されるため、前記前部シートに着座する乗員に近接する位置に前記エアバッグを展開することができる。
【0008】
また、本発明においては、前記シートは、前記シートバックの傾倒角度を調整する角度調整手段を備え、前記シートクッションに格納された前記エアバッグは、前記シートバックに格納された前記エアバッグよりも内側に展開される構成であってもよい。この構成によれば、前記シートクッションに格納された前記エアバッグが前記シートバックに格納された前記エアバッグよりも内側に展開されるため、前記シートバックの傾倒角度が小さい場合には、前記エアバッグが重なることによって、乗員の拘束力を大きくすることができる一方、前記シートバックの傾倒角度が大きい場合には、前記エアバッグが重ならないが、前記シートクッションに格納された前記エアバッグ及び前記シートバックに格納された前記エアバッグによって側面視における保護領域が広がるため、側方からの飛来物から乗員をより確実に保護することができる。
【0009】
また、本発明においては、前記シートは、前記シートクッションの内部に前記シートクッションの形状に沿って設けられるシートクッションフレームと、前記シートバックの内部に前記シートバックの形状に沿って設けられるシートバックフレームと、を有しており、前記規制手段は、ベルトと、前記判定手段が前記保護動作を実行すると判定した場合に、格納状態にある前記ベルトの端部を引き込むことにより、前記ベルトを、展開時の前記エアバッグが車幅方向外方へ変位することを前記エアバッグの車幅方向外方側から規制する規制状態にするアクチュエータと、を含み、前記ベルトは、その一方端部が前記シートクッションフレーム又は前記シートバックフレームに支持され、その他方端部が前記ベルトの引き込み方向を変更する方向変更手段を介して前記アクチュエータに連結された構成であってもよい。この構成によれば、前記ベルトが前記アクチュエータに連結されているため、前記アクチュエータを作動させることによって、前記ベルトを引き込んで前記エアバッグを規制状態にすることができる。
【0010】
また、本発明においては、前記エアバッグは、その車幅方向外方側の側部が前記ベルトと連結されており、前記アクチュエータは、前記判定手段が前記保護動作を実行すると判定した場合に、前記エアバッグが展開される前に前記ベルトの引き込みを開始する構成であってもよい。この構成によれば、前記エアバッグが展開される前に前記ベルトの引き込みを開始するため、前記エアバッグが車幅方向外方へ変位することを確実に規制することができる。
【0011】
また、本発明においては、前記判定手段は、前記車両の側面衝突の発生を予知する衝突予知手段により、当該側面衝突の発生が予知された場合に前記保護動作を実行すると判定する構成であってもよい。この構成によれば、前記保護動作を実行するか否かを乗員を保護すべき実行タイミングに遅れないよう、容易に判定することができる。
【0012】
また、本発明においては、前記判定手段は、前記車両の側面衝突の発生を検出する衝突検出手段により、当該側面衝突の発生が検出された場合に前記保護動作を実行すると判定する構成であってもよい。この構成によれば、前記保護動作を実行するか否かを容易かつ正確に判定することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上述べた通り、本発明によれば、側方からの飛散物から乗員を保護すると共に、乗員に対する衝撃を軽減しながら、乗員をシートに確実に拘束することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る車両Aの斜視図である。車両Aは、フロア6上に、前部シート1と、前部シート1に対して車幅方向外方であって、車両Aの前後方向後方にずれて配設された後部シート2、3と、を有する。すなわち、フロア6上に、3つのシートがトライアングル型に配設されており、前部シート1のシートクッション1aの側方には、後部シート2、3に着座する乗員の足置きスペースSが形成される。前部シート1は、ドライバが着座する運転席であり、後部シート2及び後部シート3は、その助手席である。なお、前部シート1及び後部シート2、3は、いわゆるベンチシートではなく、それぞれが分離されたシートである。
【0015】
図2は、一実施形態に係る車両Aの乗員保護装置100の平面図である。乗員保護装置100は、乗員保護動作を制御するECU4と、ECU4に接続される衝突荷重センサ11及び側方距離検出センサ21と、ECU4によって制御されるエアバッグ展開部50及び規制部60と、を備える。
【0016】
衝突荷重センサ11は、車両Aの側部5a、5bにそれぞれ配設されており、車両Aの側部5a、5bからの衝突荷重を検出する。また、側方距離検出センサ21は、車両Aの側部5a、5bにそれぞれ配設されており、車両Aの側方を走行する他車両、又は側壁等の固定物からの距離を検出する。
【0017】
エアバッグ展開部50は、前部シート1のシートクッション1a及びシートバック1bの車幅方向両端部にそれぞれ格納され、シートクッション1a及びシートバック1bの表面側にエアバッグ51、53を展開する。
【0018】
規制部60は、エアバッグ展開部50と同様に、通常時には、前部シート1のシートクッション1a及びシートバック1bの車幅方向両端部に格納され、側面衝突時には、展開時のエアバッグ51、53が車幅方向外方へ変位することを、エアバッグ51、53の車幅方向外方側から規制する。
【0019】
<乗員保護装置100の詳細構成>
図3は、乗員保護装置100の概略的な断面図である。また、図4において、(a)は図3のS−S線に沿った乗員保護装置100の断面図、(b)は図3のT−T線に沿った乗員保護装置100の断面図である。また、図5は、図3のU−U線に沿った乗員保護装置100の断面図であり、図6は、図3のV−V線に沿った乗員保護装置100の断面図である。
【0020】
前部シート1は、シートクッション1aの内部にシートクッション1aの形状に沿って設けられるシートクッションフレーム1a’と、シートバック1bの内部にシートバック1bの形状に沿って設けられるシートバックフレーム1b’と、を有する。また、前部シート1は、シートバック1bの傾倒角度(リクライニング角度)を調整する角度調整部1cを備える。
【0021】
規制部60は、ベルト61と、乗員の保護動作を実行するべき場合に、格納状態にあるベルト61の端部61aを引き込むことにより、ベルト61を、展開時のエアバッグ51、53が車幅方向外方へ変位することをエアバッグ51、53の車幅方向外方側から規制する規制状態にするアクチュエータ62と、を含む。
【0022】
ベルト61は、その一方端部61bがシートバックフレーム1b’に支持される。本実施形態では、図4(a)で示すように、シートバックフレーム1b’に溶接により固定されたブラケット1dにベルト支持部1eがボルト1fで固定されており、このベルト支持部1eによって、ベルト61が支持される。また、他方端部61aは、ベルト61の引き込み方向を変更する方向変更部1a”を介してアクチュエータ62に連結される。すなわち、ベルト61は、通常時にはシートクッション1aからシートバック1bにかけて、L字状に格納されている。方向変更部1a”は、例えば滑車であり、シートクッションフレーム1a’に回転可能に取り付けられる。なお、方向変更部1a”は、本実施形態では滑車を用いたが、円筒部材(丸棒)等であっても構わない。また、本実施形態では、ベルト61の一方端部61bをシートバックフレーム1b’の上端部に支持し、方向変更部1a”をシートクッションフレーム1a’の前端部に配設することによってベルト61の拘束領域を長くしてエアバッグ51、53の側方変位を効果的に規制しているが、エアバッグ51、53を拘束するのに適した部位に合わせてベルト61が張設されるように配設しても構わない。エアバッグ51、53を拘束するのに適した部位とは、エアバッグ51、53が乗員から大きな側方荷重を受ける部位を意味し、例えば、乗員の腰部付近が挙げられる。この場合には、ベルト61bの一方端部61bは、本実施形態よりも下方におけるシートバックフレーム1b’に支持されることになる。
【0023】
なお、ベルト61は、本実施形態では、その一方端部61bがシートバックフレーム1b’に支持され、他方端部61aがシートクッション1aに格納されたアクチュエータ62に連結される構成としたが、その一方端部61bがシートバック1bに格納されたアクチュエータ62に連結され、他方端部61aがシートクッションフレーム1a’に支持される構成としてもよい。
【0024】
シートバック1bに格納されるエアバッグ展開部50は、図4(b)で示すように、例えば布等の低伸張材料からなる袋体であるエアバッグ53と、エアバッグ53の内部にガスを吹き込むことによってエアバッグ53を膨らませるインフレータ54と、を有する。エアバッグ53は、リアクションカン53a内に蛇腹状に折り畳まれて格納されている。リアクションカン53aは、エアバッグ53を展開するために一部に開口部53a’を有する筺体であり、ブラケット1dに溶接等によって固定される。これにより、開口部53a’の向き、すなわち、エアバッグ53の展開方向が決定される。本実施形態では、リアクションカン53aは、エアバッグ53がシートバック1bの表面側、すなわち、シートバック1bの前方に展開されるように固定される。リアクションカン53aの開口部53a’前方には、シートバック1bのクッション材1gに切込溝部1hが設けられる。クッション材1gの周囲には、布状の表皮及び低伸張材1iが配設されているが、切込溝部1hの前方には、表皮と低伸張材1iとの縫製部が配設されているため、切込溝部1h及び縫製部が容易に裂けることによってエアバッグ53を円滑に展開させることができる。
【0025】
一方、シートクッション1aに格納されるエアバッグ展開部50は、シートバック1bに格納されるエアバッグ展開部50とほぼ同様の構成であるため、相違点を中心に説明する。なお、シートクッション1aの構成については、シートバック1bで用いた符号と同一の符号を用いるものとする。
【0026】
シートクッション1aに格納されるエアバッグ展開部50は、図6で示すように、エアバッグ51と、インフレータ52と、を有する。エアバッグ51は、シートクッション1aの表面側、すなわち、シートクッション1aの上方に展開されるようにリアクションカン51aに格納される。リアクションカン51aは、シート1の脚部1jに溶接等により固定されており、脚部1jはシートクッションフレーム1a’にねじや溶接等により固定されている。
【0027】
図7において、(a)は点火前のアクチュエータ62を示す断面図であり、(b)は点火後のアクチュエータ62を示す断面図である。アクチュエータ62は、アクチュエータ62本体をシート1の脚部1jに固定する固定部62aと、一方端部に開口部62b’を有し、この開口部62b’に固定部62aが接合されて塞がれる円筒状のシリンダ62bと、シリンダ62b内に挿入されたピストン62cと、一方端部62kがピストン62cに接合され、他方端部62lが固定部62aに設けられた孔部62dから突出しているロッド62eと、シリンダ62b内に充填された火薬62fと、導線62gによってECU4と接続され、先端が火薬62f内に挿入された信管62hと、を有する。
【0028】
アクチュエータ62は、ベルト61をシートクッション1aとシートバック1bとの間に張設する場合には、信管62hによって火薬62fに着火させて爆発させる。この爆発の圧力によって、ピストン62eが固定部62aから離れる方向に移動する。ここで、アクチュエータ62本体は、固定部62aによってシート1の脚部1jに固定されており、ベルト61は、ロッド62eの端部62lに接続されている。このため、ベルト61は、ロッド62eによって、アクチュエータ62の方向へ引き込まれ、シートクッション1aとシートバック1bとの間に張設されることになる。
【0029】
なお、シリンダ62bの端部62iには、連通孔62jが設けられているため、乗員保護処理時にピストン62eをシリンダ62bの端部62i近傍まで移動させることができるが、連通孔62jの径を小さく設定することによって、高圧でピストン62eを押し出さなければ移動不可能となっている。すなわち、ベルト61は、通常時には張設されることはないが、乗員保護処理時には、火薬62fの爆発により強制的に張設させることができる。
【0030】
図8は、乗員保護装置100の動作手順を段階的に示す模式図であり、(a)は乗員保護処理前の状態を示す図、(b)は乗員保護処理中の状態を示す図、(c)は乗員保護処理後の状態を示す図である。
【0031】
ここで、エアバッグ51は、図8(a)で示すように、その車幅方向外方側の側部が、低伸縮性の布等からなる連結帯51bを介して、ベルト61と連結されている。連結帯51bは、一方端部近傍において、エアバッグ51に縫製されており、他方端部近傍において、ベルト61に縫製されている。すなわち、エアバッグ51とベルト61との位置関係がずれた場合であっても、エアバッグ51とベルト61とが直接縫製されていないため、エアバッグ51が捩れたり破れたりすることが抑制される。アクチュエータ62は、図8(b)で示すように、エアバッグ51が展開される前にベルト61の引き込みを開始する。その後、インフレータ52、54は、図8(c)で示すように、エアバッグ51内にガスを吹き込む。
【0032】
図9は、一実施形態に係るECU4の機能ブロック図である。ECU4は、側面衝突の発生を検出する側面衝突検出部10と、側面衝突の発生を予知する側面衝突予知部20と、車両Aの側面衝突に対する乗員Bの保護動作を実行するか否かを判定する保護動作判定部30と、保護動作判定部30の判定結果に基づいて、エアバッグ展開部50及び規制部60の動作を制御する制御部40と、を備える。
【0033】
側面衝突検出部10には、車両Aの側面からの衝突荷重を検出する衝突荷重センサ11が接続され、衝突荷重センサ11によって検出された衝突荷重が閾値よりも大きい場合には、側面衝突が発生したことを検出する。
【0034】
側面衝突予知部20には、車両Aの側方を走行する他車両、又は側壁等の固定物からの距離を電波や音波等を用いて検出する側方距離検出センサ21が接続され、側方距離検出センサ21によって検出された側方の検出物からの距離が閾値以下であり、かつ、検出された距離が前回検出された距離よりも小さい場合には、検出物との距離が接近しているため、側面衝突が生じる可能性が高いことを予知する。
【0035】
なお、側面衝突検出部10、側面衝突予知部20に接続されるセンサは、衝突荷重センサ11、側方距離検出センサ21に限定されるものではなく、例えば、レーザやカメラを用いて、他車両等との衝突を検出又は予知することができる。
【0036】
保護動作判定部30は、車両Aの側面衝突に対する乗員Bの保護動作を実行するか否かを判定するCPUである。例えば、保護動作判定部30は、車両Aの側面衝突の発生を検出する側面衝突検出部10により、側面衝突の発生が検出された場合に保護動作を実行すると判定する。また、保護動作判定部30は、車両Aの側面衝突の発生を予知する側面衝突予知部20により、側面衝突の発生が予知された場合に保護動作を実行すると判定する。
【0037】
制御部40は、エアバッグ展開部50及び規制部60の動作を制御するCPUであり、保護動作判定部30が保護動作を実行すると判定した場合に、規制部60にベルト61を張設させると共に、エアバッグ展開部50にエアバッグ51、53を展開させる
図10は、通常状態の前部シート1における乗員保護装置100の側面図であり、図11は、リクライニング状態の前部シート1における乗員保護装置100の側面図である。また、図12は、車両Aの乗員保護装置100の正面図である。
【0038】
図10で示すように、展開時のエアバッグ51、53が車幅方向外方へ変位することを、エアバッグの車幅方向外方側から規制する規制部60を備えたため、乗員が車幅方向に倒れ込んだ場合であっても、エアバッグ51、53が受ける荷重を支持して、前部シート1に着座する乗員を確実に保護することができる。
【0039】
また、図10で示すように、本実施形態では、シートクッション1aに格納されたエアバッグ51は、シートバック1bに格納されたエアバッグ53よりも内側に展開される。ここで、本実施形態では、前部シート1が傾倒自在であるリクライニングシートであるため、どのような傾倒角度であっても乗員を保護できるように、エアバッグ51、53を展開させることが問題となる。
【0040】
しかし、シートクッション1aに格納されたエアバッグ51がシートバック1bに格納されたエアバッグ53よりも内側に展開されるため、シートバック1bの傾倒角度が小さい場合(通常状態の場合)には、エアバッグ51、53が重なることによって、エアバッグ51とエアバッグ53との間の干渉を抑制して円滑に展開することができると共に、乗員の拘束力を大きくすることができる。その一方で、シートバック1bの傾倒角度が大きい場合には、エアバッグ51、53が重ならないが、シートクッション1aに格納されたエアバッグ51とシートバック1bに格納されたエアバッグ53との間に隙間ができないようにレイアウトされているため、側方からの飛来物から乗員をより確実に保護することができる。
【0041】
また、図12で示すように、エアバッグ51、53によって、側方からの飛散物から乗員を保護することができる。なお、本実施形態では、エアバッグ53が乗員の肩部付近までの範囲で展開させるものであったが、エアバッグ53を乗員の頭部までの範囲で展開させても構わない。これにより、側方からの飛散物から乗員を確実に保護することができる。
【0042】
上述の構成によれば、側方からの飛散物から乗員を保護すると共に、乗員に対する衝撃を軽減しながら、乗員を前部シート1に確実に拘束することができる。
【0043】
<乗員保護装置100の動作手順>
図13において、(a)は一実施形態に係る乗員保護装置100の動作手順を示すフローチャート、(b)は保護動作判定処理(ステップS120)の詳細な動作手順を示すフローチャート、(c)は制御処理(ステップS130)の詳細な動作手順を示すフローチャートである。
【0044】
図13(a)を参照して、乗員保護装置100の全体的な動作手順について説明する。まず、ステップS110において、ECU4が各センサから種々の情報を取得する。次に、ステップS120において、保護動作判定部30が、車両Aの側面衝突に対する乗員の保護動作を実行するか否かを判定する。最後に、ステップS130において、制御部40がエアバッグ展開部50及び規制部60の動作を制御して、一連の処理を終了する。
【0045】
次に、図13(b)を参照して、保護動作判定処理(ステップS120)の詳細な動作手順を説明する。まず、ステップS121において、側面衝突予知部20によって、側面衝突の発生が予知されたか否かを判定する。ステップS121で側面衝突の発生が予知されたと判定された場合には、ステップS124において、保護動作を実行すると判定する。一方、ステップS121で側面衝突の発生が予知されなかったと判定された場合には、ステップS122に進み、側面衝突検出部10によって、側面衝突の発生が検出されたか否かを判定する。ステップS122で側面衝突検出部10によって、側面衝突の発生が検出されたと判定された場合には、ステップS124において、保護動作を実行すると判定する。一方、ステップS122で側面衝突検出部10によって、側面衝突の発生が検出されなかったと判定された場合には、ステップS123において、保護動作を実行しないと判定する。このようにして、保護動作判定部30は、保護動作を実行するか否かを判定する。
【0046】
次に、図13(c)を参照して、制御処理(ステップS130)の詳細な動作手順を説明する。まず、ステップS131において、ステップS120の保護動作判定処理で保護動作を実行すると判定されたか否かを判定する。ステップS131において、保護動作を実行しないと判定された場合には、エアバッグ展開部50及び規制部60による保護動作を実行せずに、制御処理を終了する。一方、ステップS131において、保護動作を実行すると判定された場合には、ステップS132において、規制部60のアクチュエータ62の信管62hに点火信号を送信する。最後に、ステップ133において、エアバッグ展開部50のインフレータ52、54にエアバッグ51へのガスの供給開始信号を送信して、制御処理の一連の処理を終了する。
【0047】
なお、アクチュエータ62は、保護動作判定部30が保護動作を実行すると判定した場合に、ベルト61の引き込みを開始して所定時間(例えば、0.05秒)経過後にエアバッグ51、53が展開される。これにより、ベルト61が緊張状態で張設された後に、エアバッグ51、53へのガスの供給が完了するため、展開時のエアバッグ51、53が車幅方向外方へ変位することを確実に規制することができる。また、エアバッグ51、53の内部にガスの供給が完了する前に、エアバッグ51、53をベルト61によって引き出す。このため、その段階におけるエアバッグ51、53は、車幅方向に薄いため、乗員とエアバッグ51、53との間の干渉を抑制して円滑にエアバッグ51、53及びベルト61を展開することができる。
【0048】
また、本発明は、前部シート1に着座する乗員を保護するものであるため、本実施形態では、後部シート2、3の乗員を保護する点については言及しなかったが、車幅方向に配設されたレール上に後部シート2、3を配設して、前述のアクチュエータ62と同様のものを用いて、保護動作判定部30が保護動作を実行すると判定した場合に、後部シート2、3を足置きスペースSが確保される範囲で車幅方向内方へ移動させる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両Aの斜視図である。
【図2】一実施形態に係る車両Aの乗員保護装置100の平面図である。
【図3】乗員保護装置100の概略的な断面図である。
【図4】(a)は図3のS−S線に沿った乗員保護装置100の断面図、(b)は図3のT−T線に沿った乗員保護装置100の断面図である。
【図5】図3のU−U線に沿った乗員保護装置100の断面図である。
【図6】図3のV−V線に沿った乗員保護装置100の断面図である。
【図7】(a)は点火前のアクチュエータ62を示す断面図であり、(b)は点火後のアクチュエータ62を示す断面図である。
【図8】乗員保護装置100の動作手順を段階的に示す模式図であり、(a)は乗員保護処理前の状態を示す図、(b)は乗員保護処理中の状態を示す図、(c)は乗員保護処理後の状態を示す図である。
【図9】一実施形態に係るECU4の機能ブロック図である。
【図10】通常状態の前部シート1における乗員保護装置100の側面図である。
【図11】リクライニング状態の前部シート1における乗員保護装置100の側面図である。
【図12】車両Aの乗員保護装置100の正面図である。
【図13】(a)は一実施形態に係る乗員保護装置100の動作手順を示すフローチャート、(b)は保護動作判定処理(ステップS120)の詳細な動作手順を示すフローチャート、(c)は制御処理(ステップS130)の詳細な動作手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
A 車両
1 前部シート
1a シートクッション
1b シートバック
2、3 後部シート
10 側面衝突検出部
20 側面衝突予知部
30 保護動作判定部
50 エアバッグ展開部
51、53 エアバッグ
60 規制部
100 乗員保護装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の側面衝突に対する乗員の保護動作を実行するか否かを判定する保護動作判定手段と、
シートのシートクッション及びシートバックの車幅方向両端部にそれぞれ格納され、前記判定手段が前記保護動作を実行すると判定した場合に、前記シートクッション及びシートバックの表面側にエアバッグを展開するエアバッグ展開手段と、
展開時の前記エアバッグが車幅方向外方へ変位することを、前記エアバッグの車幅方向外方側から規制する規制手段と、
を備えたことを特徴とする車両の乗員保護装置。
【請求項2】
前記車両は、前部シートと、前記前部シートに対して車幅方向外方であって、前記車両の前後方向後方にずれて配設された後部シートと、を有し、
前記エアバッグ展開手段は、前記前部シートのシートクッション及びシートバックの車幅方向両端部にそれぞれ格納されることを特徴とする請求項1に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項3】
前記シートは、前記シートバックの傾倒角度を調整する角度調整手段を備え、
前記シートクッションに格納された前記エアバッグは、前記シートバックに格納された前記エアバッグよりも内側に展開されることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項4】
前記シートは、前記シートクッションの内部に前記シートクッションの形状に沿って設けられるシートクッションフレームと、前記シートバックの内部に前記シートバックの形状に沿って設けられるシートバックフレームと、を有しており、
前記規制手段は、
ベルトと、
前記判定手段が前記保護動作を実行すると判定した場合に、格納状態にある前記ベルトの端部を引き込むことにより、前記ベルトを、展開時の前記エアバッグが車幅方向外方へ変位することを前記エアバッグの車幅方向外方側から規制する規制状態にするアクチュエータと、を含み、
前記ベルトは、その一方端部が前記シートクッションフレーム又は前記シートバックフレームに支持され、その他方端部が前記ベルトの引き込み方向を変更する方向変更手段を介して前記アクチュエータに連結されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項5】
前記エアバッグは、その車幅方向外方側の側部が前記ベルトと連結されており、
前記アクチュエータは、前記判定手段が前記保護動作を実行すると判定した場合に、前記エアバッグが展開される前に前記ベルトの引き込みを開始することを特徴とする請求項4に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項6】
前記判定手段は、前記車両の側面衝突の発生を予知する衝突予知手段により、当該側面衝突の発生が予知された場合に前記保護動作を実行すると判定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記車両の側面衝突の発生を検出する衝突検出手段により、当該側面衝突の発生が検出された場合に前記保護動作を実行すると判定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車両の乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−29182(P2009−29182A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192640(P2007−192640)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】