説明

車両の前部構造

【課題】前突時においてマウントを分離させ、車体とエンジンとの結合を解除し、エンジンを被衝撃体との干渉を避ける位置へ脱落させることによって、フロントフレームの持つクラッシャブルゾーンを完全に圧壊させ、衝撃吸収機能をより効率的に作用させる。
【解決手段】強度部材として車両の前後方向に延在し、前面衝突時にはその衝撃を吸収する機能を有するフロントフレーム14と、フロントフレーム14と並行するサブフレーム15と、パワーユニット11の側方を支持するマウント12とを有する車両の前部構造において、マウント12はフロントフレーム14と結合される第1部材121と、サブフレーム15と結合され、パワーユニット11を側方から支持する第2部材122とで構成され、前面衝突時にフロントフレーム14からマウント12へと衝撃荷重が加わった際に接合部がピール破断によって第1部材121と第2部材122との接続を切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部構造に関し、特に、前面衝突時(以下、「前突時」という)におけるフロントフレームによる効率的な衝撃吸収効果を図る車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両ではエンジンルーム内でエンジンの側方に車両前後方向に延在する左右一対のフロントフレームを強度部材として設け、左右のフロントフレーム上にマウントを介してエンジンを搭載する構造が一般的である。また、前突時にはフロントフレームを積極的に圧壊させることで衝撃荷重を吸収し車室側へと伝達しないように構成している。
【0003】
しかしながら、上記のような従来の構造では前突時にフロントフレームの圧壊され易く構成された部分(以下これをクラッシャブルゾーンと呼ぶ)が完全に圧壊され終わるまでに被衝突物がエンジンに衝突するとクラッシャブルゾーンの圧壊を妨げるので、フロントフレームの衝撃吸収機能を十分に作用させるためには、エンジンをフロントフレームから分離させることが求められる。
【0004】
これに対し、従来、エンジンを支持するマウントと、車体取付側とエンジン取付側の間との連結部に開口を設けてその断面積を部分的に小さく形成し、大きな衝撃荷重の入力により破断され得る強度に設定することによって、前突時にはエンジンを車体から脱落させる構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−231018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術のように、前突時にパワーユニットを脱落させる従来技術は、脱落の再現性をよくしてフレームによる衝撃吸収効果をより確実に発揮させることが求められている。
本発明の課題は、前突時にパワーユニットを再現性よく脱落させることができる車両の前部構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、車両の前部に搭載されるパワーユニットと、前記パワーユニットに隣接して配置され、前記車両の前後方向に延在するとともに、その前方側の領域に前記車両の前後方向における圧縮荷重に対する破壊強度が他の部分よりも低いクラッシャブルゾーンが設けられたフロントフレームと、前記フロントフレームに対して前記パワーユニットを支持するパワーユニット支持部とを備える車両の前部構造において、前記パワーユニット支持部は、前記フロントフレーム側に固定される第1の部材に設けられ、前記車両の後方側に面して配置されたフレーム側接合面と、前記パワーユニット側に固定される第2の部材に設けられ、前記車両の前方側に面して配置されたパワーユニット側接合面とをスポット溶接によって接合したものであって、前記フレーム側接合面と前記パワーユニット側接合面との少なくとも一方は、前記第1の部材、前記第2の部材に対して、前記スポット溶接の打点の片側において片持ち支持されることを特徴とする車両の前部構造である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両の前部構造において、前記パワーユニット支持部は、前記車両の前後方向に延在し、前記第2の部材が固定されるとともに、その前記第2の部材との接合部が前記車両の前突時に前記フロントフレームの前記第1の部材との接合部に対して相対的に後退するサブフレームを含むことを特徴とする車両の前部構造である。
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両の前部構造において、前記第1の部材は、前記車両の前後方向に離間して配置され、前記第1の部材から相互に異なった方向に突き出した複数のフレーム接合面を備え、前記第2の部材は、前記車両の前後方向に離間して配置され、前記第2の部材から相互に異なった方向に突き出した複数のパワーユニット側接合面を備え、前記第1の部材の前記複数のフレーム側接合面の間の領域と、前記第2の部材の前記複数のパワーユニット側接合面の間の領域とは、相互に間隔を隔てて対向して配置されることを特徴とする車両の前部構造である。
請求項4の発明は、請求項3に記載の車両の前部構造において、前記第1の部材の前記複数のフレーム側接合面の間の領域と、前記第2の部材の前記複数のパワーユニット側接合面の間の領域との少なくとも一方に、前記第1の部材又は前記第2の部材の前記車両の前後方向における圧縮荷重に対する座屈強度を、前記スポット溶接のピール破壊による破断強度よりも大きくする座屈防止部を設けたことを特徴とする車両の前部構造である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)車両後方側に面したフレーム側接続面と車両前方側に面したパワーユニット側接続面とをスポット溶接し、その少なくとも一方がスポット溶接の打点の片側において片持ち支持される構成としたから、パワーユニットがフロントフレームに対して後退する方向の入力が作用すると、片持ち支持された面の倒れによってスポット溶接箇所をその片側から剥離させる力が発生し、このスポット溶接箇所がいわゆるピール破壊によって破断される。このようなピール破壊は、その破壊強度が材質や板厚による影響を受けにくく安定していることから、本発明によれば、パワーユニット脱落の再現性を向上することができる。
また、スポット溶接箇所におけるせん断破断強度及び剥離強度は、ピール破断強度に対して大きいため、前突時以外の車両の通常使用時においては、十分な接合強度を得ることができる。
(2)パワーユニット支持部の第2の部材を、前突時にフロントフレームの第1の部材との接合部に対して相対的に後退するサブフレームの一部に固定することによって、スポット溶接箇所をピール破壊させる力を確実に発生させ、パワーユニット脱落の再現性をより向上することができる。
(3)複数のフレーム側接合面、複数のパワーユニット側接合面がそれぞれ第1の部材、第2の部材から相互に異なった方向に突き出したクランク型等に形成し、第1の部材、第2の部材の中間部分が間隔を隔てて対向して配置することによって、間隔の設定によりピール破壊の生じるタイミングを容易にチューニングすることができる。この場合、間隔を小さくすることによって、ピール破壊を早期に発生させることができる。
(4)第1の部材の複数のフレーム側接合面の間の領域と、第2の部材の複数のパワーユニット側接合面の間の領域との少なくとも一方に、この部分における座屈を防止する座屈防止部を設けることによって、座屈によるスポット溶接箇所への入力伝達ロスを低減することができ、ピール破壊が妨げられることを防ぎ、パワーユニット脱落の再現性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、前突時にパワーユニットを再現性よく脱落させることができる車両の前部構造を提供するという課題を、パワーユニットを支持するマウントを、フロントフレームに固定される第1部材と、パワーユニット及びサブフレームに固定される第2部材とをスポット溶接して構成し、このスポット溶接を前突時にピール破壊によって破断させることによって解決した。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明を適用した車両の前部構造の実施例1を、図1から図7を用いて説明する。実施例1において、車両は、例えばフロントエンジンのセダン型、ステーションワゴン型等の乗用車である。なお、本発明はこの実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく限りにおいて適宜に変形することが可能である。
図1は、実施例1の車両の前部構造において、前突前の状態を側方からみた状態を示す図である。
図2は、実施例1の車両の前部構造において、前突後の状態を側方から見た状態を示す図である。
図3は、実施例1の車両の前部構造の斜視図である。
【0011】
車両の前部構造は、パワーユニット11、マウント12、バンパービーム13、フロントフレーム14、サブフレーム15を備えている。
パワーユニット11は、車両前方のエンジンルームに配置されたエンジン11aと、エンジン11aの後方に配置され、エンジン11aからの動力を伝達するトランスミッション11bとを備え、これらはそのクランクシャフト、メインシャフト、ドリブンシャフト等の中心軸方向を、車両の前後方向にほぼ沿って配置したいわゆる縦置き式のものである。パワーユニット11は、その側方をマウント12によって支持されており、車体と間接的に接合されている。
【0012】
バンパービーム13は、エンジン11aの前方に設けられ、車両幅方向に延在する構造部材であって、左右のフロントフレーム14の前端部にそれぞれ固定されている。
フロントフレーム14は、エンジンルームの左右にそれぞれ設けられ、車両の前後方向に延在する構造部材である。フロントフレーム14は、例えば鋼板プレス部材を接合することによって、車両の前後方向から見た断面が閉断面となるように形成された中空の梁状の部材であって、その後端部は図示しないキャビンの前端部に設けられ、キャビンとエンジンルームとを区画するトーボードに接合されている。
【0013】
また、フロントフレーム14は、あらかじめ他の部分よりも車両の前後方向における圧縮荷重に対する破壊強度が低くされ、圧壊され易く構成されたクラッシャブルゾーン14aを有する。クラッシャブルゾーン14aは、フロントフレーム14が前後方向に圧縮される方向の入力を受けた際に、蛇腹状(アコーディオン状)に圧縮変形する部分であって、フロントフレーム14のマウント12との接合部よりも前方側に設けられている。このクラッシャブルゾーン14aは、例えば、フロントフレーム14の表面部に、曲げの起点となる凹凸部であるクラッシュビードを設けること等によって形成されている。
【0014】
サブフレーム15は、車両の前後方向に延在する構造部材であって、左右のフロントフレーム14の下側にそれぞれ配置されている。サブフレーム15も上述したフロントフレーム14と同様に、例えば鋼板プレス部材を接合することによって、車両の前後方向から見た断面が閉断面となるように形成された中空の梁状の部材である。サブフレーム15は、その前後方向における中間部において、マウント12を介してフロントフレーム14の中間部に接続されている。
車両の前突時にはバンパービーム13、フロントフレーム14、サブフレーム15の三部材に衝撃荷重が入力される。
【0015】
次に、上述したマウント12の詳細な構成について説明する。図4は、マウント12の外観斜視図である。
マウント12は、第1部材121、第2部材122を備えている。
第1部材121は、フロントフレーム14の下部に図示しないボルトによって締結される部分である。
第2部材122は、第1部材121に対して接合されるとともに、パワーユニット11のエンジン11aを図示しないフロントクロスメンバを介して支持する部分である。また、第2部材122は、その下部において、サブフレーム15と図示しないボルトによって締結される。
【0016】
図5は、図4のV−V部矢視断面における構造を示す模式図である。
第1部材121は、縦壁部121a、横壁部121b,121cを備え、これらは例えば鋼板をプレス加工して一体に形成されている。
縦壁部121aは、車幅方向に対してほぼ直交して配置され、車両の前後方向に延在する平面状に形成されている。
横壁部121b,121cは、車両の前後方向に対してほぼ直交して配置された面部を備え、縦壁部121aの前端部及び後端部とそれぞれ連続して形成されている。
横壁部121bは、縦壁部121aの前端部から、車幅方向内側に折り曲げられて形成されている。また、横壁部121cは、縦壁部121aの後端部から、車幅方向外側に折り曲げられて形成されている。
また、第1部材121は、その上端部から車幅方向内側に突き出して形成され、ほぼ水平に配置された上面部を有するフレーム固定部121dが設けられている。第1部材121は、フレーム固定部121dの上面部がフロントフレーム14の下面部と当接した状態で、フレーム固定部121dに形成された開口からボルトを挿入することによって、フロントフレーム14に締結される。
【0017】
第2部材122は、縦壁部122a、横壁部122b,122cを備え、これらは例えば鋼板をプレス加工して一体に形成されている。
縦壁部122aは、車幅方向に対してほぼ直交して配置され、車両の前後方向に延在する平面状に形成されている。
横壁部122b,122cは、車両の前後方向に対してほぼ直交して配置された面部を備え、縦壁部122aの前端部及び後端部とそれぞれ連続して形成されている。
横壁部122bは、縦壁部122aの前端部から、車幅方向内側に折り曲げられて形成されている。また、横壁部122cは、縦壁部122aの後端部から、車幅方向外側に折り曲げられて形成されている。
また、第2部材122は、その下端部から車幅方向内側に突き出して形成され、ほぼ水平に配置された上面部を有するフロントクロスメンバ固定部122dが設けられている。フロントクロスメンバは、左右のフロントクロスメンバ固定部122dの間にわたして設けられる梁状の部材であって、エンジン11aは、フロントクロスメンバに対して、防振ゴムであるクッションラバーを有するエンジンマウントを介してフローティングマウントされている。
【0018】
第1部材121と第2部材122とは、第1部材121の横壁部121bの後面(フレーム側接合面)と第2部材122の横壁部122bの前面(パワーユニット側接合面)、及び、第1部材121の横壁部121cの後面(フレーム側接合面)と第2部材122の横壁部122cの前面(パワーユニット側接合面)とがそれぞれ当接した状態で、これらの当接した壁部間をスポット溶接(抵抗溶接)することによって固定されている。このスポット溶接は、その打点(ナゲット部)Sが上下方向に離間して複数個所設けられる。
このとき、第1部材121の縦壁部121aと第2部材122の縦壁部122aとは、相互に車幅方向に間隔を隔てて対向した状態で、ほぼ平行に配置されている。
【0019】
次に、実施例1における前突時の衝撃吸収機能について説明する。
まず、前突が生じた場合には図1に示す通り前方からの衝撃力はバンパービーム13へと入力する。バンパービーム13はそれ自体が衝撃吸収部材として構成されているので自己が圧壊されながら衝撃力を吸収する。
【0020】
次に、衝撃力はフロントフレーム14とサブフレーム15へと入力し、これらを車両の前後方向にそれぞれ圧縮する。この時、フロントフレーム14は、他の部分よりも圧縮破壊強度を低くされたクラッシャブルゾーン14aを有するので、クラッシャブルゾーン14aが蛇腹状(アコーディオン状)に圧壊されながら衝撃力を吸収する。
【0021】
フロントフレーム14は、クラッシャブルゾーン14aを持つので、クラッシャブルゾーン14aが圧壊されていく間はそれ以後におけるフロントフレーム14の変位は、クラッシャブルゾーン14aの変形に対して無視できる程度に小さい。よってフロントフレーム14と結合されているマウント第1部材121の変位も無視することができる。
【0022】
一方、サブフレーム15は、前方側から圧縮される衝撃力の入力があった際は、座屈による曲げ変形が生じ、マウント12との結合部は、フロントフレーム14に対して相対的に後方へと変位していく。よって、その変位に伴ってサブフレーム15と結合されているマウント12の第2部材122も、フロントフレーム14に対して、後方へと変位させる方向の力が作用する。
【0023】
従って、マウント12の第1部材121と第2部材122の間においてそれらの部材の接続を解除させる力が働く。その力によって図5の状態で接続されていたマウント12は、第2部材122が、第1部材121に対して後方へ相対的に変位する。
【0024】
図6は、図5の構造において前突時に第1部材と第2部材との接合部がピール破断される状態を示す模式図である。また、図7は、図5の構造において前突後に第1部材と第2部材との接合が完全に破断された状態を示す模式図である。
前突時において、第2部材122の縦壁部122aが第1部材の縦壁部121aに対して車両後方側に相対移動すると、横壁部121bと横壁部122b、及び、横壁部121cと横壁部122cとの間には、これらを剥離する方向の力が作用する。ここで、各横壁部は、第1部材121及び第2部材122に対して、それぞれスポット溶接の打点Sに対して片側でのみ第1部材121、第2部材122に支持されているので、各打点Sは、各横壁部が支持されている側に剥離方向の荷重が集中的に作用する。
【0025】
打点Sは、図6に示すように、この荷重が集中する側の端部から逐次ピール破壊する。このとき、各横壁部は、縦壁部に対して倒れ込みながら、破壊箇所Pを広げる挙動を示す。このとき、第1部材121と第2部材122との間には、クリアランスCが設けられているので、このような挙動が妨げられにくい。クリアランスCは、ピール破壊の進展及び各横壁部の倒れ込みに伴い、徐々に狭くなる。そして、打点Sは、最終的には、図7に示すように、ピール破壊によって破断する。
マウントが分離するとパワーユニット11とフロントフレーム14との間接的接合が解除されることになるのでパワーユニット11は車体から脱落し、クラッシャブルゾーン14aの圧壊を妨げることはない。
【0026】
次に、図8、図9を用いて各種溶接部破断方法について説明する。
図8は、スポット溶接におけるピール破断、剥離及びせん断破断を模式的に表した図であり、図8(a)、図8(b)、図8(c)は、それぞれせん断破断、剥離、ピール破断の方法を示している。
せん断破断は、スポット溶接箇所に対して、その接合面に対して平行な方向の引っ張り荷重を負荷し、打点をせん断応力によって破壊し、破断させるものである。
剥離は、スポット溶接箇所に対して、その接合面に対してほぼ垂直な方向の引っ張り荷重を一様に負荷し、打点を引張応力によって破壊し、破断させるものである。
ピール破断は、スポット溶接箇所に対して、その接合面に対して交わる方向の引っ張り荷重を、スポット溶接箇所の片側に対してのみ負荷し、ピール破壊によって破断させるものである。
【0027】
図9は実験により求めた材料毎の溶接強度と板厚の関係より近似式を出し、その近似式をグラフ化したものである。
図9によるとピール破断は同じ板厚での材料毎の破断が生じる溶接強度のばらつきが他の剥離、せん断破断に対して少ない。従って、実施例1のようにピール破断を用いることが再現性良くマウントを破断させるのに適しているといえる。
【0028】
以上のように、実施例1によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第1部材121の横壁部121b,121cと第2部材122の横壁部122b,122cとをスポット溶接し、各横壁部がスポット溶接の打点Sの片側において第1部材121及び第2部材122に片持ち支持される構成としたから、パワーユニット11がフロントフレーム14に対して後退する方向の入力が作用すると、スポット溶接の打点Sを剥離させる力がその片側に集中的に負荷され、このスポット溶接箇所がいわゆるピール破壊によって破断される。このようなピール破壊は、その破壊強度が材質や板厚による影響を受けにくく安定していることから、本発明によれば、パワーユニット11の脱落の再現性を向上することができる。
また、スポット溶接箇所におけるせん断破断強度及び剥離強度は、ピール破断強度に対して大きいため、前突時以外の車両の通常使用時においては、十分な接合強度を得ることができる。例えば、サブフレームやフロントクロスメンバにサスペンションが装着される場合であっても、そのストローク時に発生する荷重はスポット溶接箇所に対してせん断方向に負荷されるから、十分な強度を確保することが容易である。
(2)第2部材122を、前突時にフロントフレーム14の第1部材121との接合部に対して相対的に後退するサブフレーム15の一部に固定することによって、スポット溶接箇所をピール破壊させる力を確実に発生させ、パワーユニット11の脱落の再現性をより向上することができる。
(3)第1部材121及び第2部材122を、複数の横壁部121b,121c,122b,122cが縦壁部121a,122aから車幅方向外側、内側にそれぞれ突き出したクランク型に形成し、縦壁部121a,122aがクリアランスCを隔てて対向して配置されることによって、クリアランスCの設定によりピール破壊が生じるタイミングを容易にチューニングすることができる。例えば、クリアランスCを小さくすることによって、ピール破壊を早期に発生させることができる。
(4)第1部材121及び第2部材122の板厚を変更し、また、スポット溶接の打点Sの数を増減することによって、破断強度を容易にチューニングすることができるから、車両の前突時における衝撃吸収性能を最適化することができる。
【実施例2】
【0029】
次に、本発明を適用した車両の前部構造の実施例2について説明する。以下説明する各実施例において、上述した実施例1と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図10は、実施例2におけるマウント12Aの斜視図である。
実施例2のマウント12Aは、第1部材121の縦壁部121a、及び、第2部材122の縦壁部122aに、これらの面部をプレス加工してリブ状に張り出させて形成され、車両の前後方向に延在する補剛用のビード123を形成したものである。ビード123は、縦壁部121a,122aに、それぞれ上下方向に分散して2本ずつ形成されている。
【0030】
これらのビード123は、これを形成したことによって、縦壁部121a,122aの車両の前後方向における圧縮荷重に対する座屈強度を、各横壁部間を接合するスポット溶接のピール破断強度の和よりも大きくする座屈防止部である。
実施例2によれば、上述した実施例1と同様の効果に加えて、マウント第1部材121、マウント第2部材122にこのようなビード123を設けることによって、衝撃力が入力した際の車両前後方向での座屈を防止でき、座屈によるスポット溶接箇所への入力ロスを低減し、より再現性良くマウント12をピール破断させることができる。
【実施例3】
【0031】
最後に、本発明を適用した車両の前部構造の実施例3について説明する。
図11は、実施例3におけるマウント12Bの斜視図である。
実施例3のマウント12Bは、第1部材121の縦壁部121a及び前方側の横壁部121bの内面側に、補剛用の当て板であるリンホースメント124を添付している。
実施例3においても、上述した実施例2と同様の効果を得ることができる。
【0032】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)各部材の構造や形状等は、実施例のものに限定されることなく、適宜変更することができる。例えば、実施例はフレーム側接合面、パワーユニット側接合面がともにスポット溶接箇所の片側において支持されているが、いずれか一方のみが片側で支持される構成としても、この面の倒れ込みによってピール破断を生じさせることが可能であり、本発明の効果を得ることができる。
また、実施例の第1部材、第2部材は、それぞれ車幅方向と直交して配置された縦壁部の前端部、後端部から、車幅方向に沿って縦壁部(各接合面)を突き出した構成としたが、これに限らず、例えば前後の接合面間の部分をほぼ水平に配置し、接合面を上下方向に突き出してもよい。また、これらを任意の傾斜角において傾けて配置してもよい。
(2)支持対象となるパワーユニットは、実施例のようなエンジン、トランスミッション等に限らず、例えば電気自動車、ハイブリッド電気自動車、燃料電池自動車におけるバッテリ、燃料電池スタック、インバータやコントローラ等の補器類、モータ、ジェネレータ等であってもよい。
(3)実施例は、第1部材及び第2部材によってマウントを構成したが、本発明はこれに限らず、パワーユニットをサブフレームに対して固定し、サブフレームとフロントフレームとの接続部に第1部材及び第2部材を設けてもよい。
(4)実施例2及び実施例3は、座屈防止部としてそれぞれビード及びリンホースメントを設けているが、これに限らず、例えばこのような領域における板厚を増加させたり、また、他の部材と結合して座屈強度を向上した構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を適用した車両の前部構造の実施例1における車両の前部構造の側面図である。
【図2】図1の車両の前部構造において車両の前突が生じた際の部品の挙動を示した側面図である。
【図3】図1の車両の前部構造の斜視図である。
【図4】図1の車両の前部構造におけるマウントの外観斜視図である。
【図5】図4のV−V断面における構造を示す模式図である。
【図6】図5の構造において前突時に第1部材と第2部材との接合部がピール破断される状態を示す模式図である。
【図7】図5の構造において前突後に第1部材と第2部材との接合が完全に破断された状態を示す模式図である。
【図8】スポット溶接におけるピール破断、剥離及びせん断破断を模式的に表した図である。
【図9】スポット溶接のピール破断、剥離及びせん断破断における溶接強度と板厚との関係を表したグラフである。
【図10】本発明を適用した車両の前部構造の実施例2におけるマウントの斜視図である。
【図11】本発明を適用した車両の前部構造の実施例3におけるマウントの斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
11 パワーユニット
11a エンジン
11b トランスミッション
12,12A,12B マウント
121 第1部材
121a 縦壁部
121b,121c 横壁部
122 第2部材
122a 縦壁部
122b,122c 横壁部
123 ビード
124 リンホースメント
13 バンパービーム
14 フロントフレーム
14a クラッシャブルゾーン
15 サブフレーム
C クリアランス
S スポット溶接の打点



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に搭載されるパワーユニットと、
前記パワーユニットに隣接して配置され、前記車両の前後方向に延在するとともに、その前方側の領域に前記車両の前後方向における圧縮荷重に対する破壊強度が他の部分よりも低いクラッシャブルゾーンが設けられたフロントフレームと、
前記フロントフレームに対して前記パワーユニットを支持するパワーユニット支持部と
を備える車両の前部構造において、
前記パワーユニット支持部は、前記フロントフレーム側に固定される第1の部材に設けられ、前記車両の後方側に面して配置されたフレーム側接合面と、前記パワーユニット側に固定される第2の部材に設けられ、前記車両の前方側に面して配置されたパワーユニット側接合面とをスポット溶接によって接合したものであって、
前記フレーム側接合面と前記パワーユニット側接合面との少なくとも一方は、前記第1の部材、前記第2の部材に対して、前記スポット溶接の打点の片側において片持ち支持されること
を特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の前部構造において、
前記パワーユニット支持部は、前記車両の前後方向に延在し、前記第2の部材が固定されるとともに、その前記第2の部材との接合部が前記車両の前突時に前記フロントフレームの前記第1の部材との接合部に対して相対的に後退するサブフレームを含むこと
を特徴とする車両の前部構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の前部構造において、
前記第1の部材は、前記車両の前後方向に離間して配置され、前記第1の部材から相互に異なった方向に突き出した複数のフレーム側接合面を備え、
前記第2の部材は、車両の前後方向に離間して配置され、前記第2の部材から相互に異なった方向に突き出した複数のパワーユニット側接合面を備え、
前記第1の部材の前記複数のフレーム側接合面の間の領域と、前記第2の部材の前記複数のパワーユニット側接合面の間の領域とは、相互に間隔を隔てて対向して配置されること
を特徴とする車両の前部構造。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の前部構造において、
前記第1の部材の前記複数のフレーム側接合面の間の領域と、前記第2の部材の前記複数のパワーユニット側接合面の間の領域との少なくとも一方に、前記第1の部材又は前記第2の部材の前記車両の前後方向における圧縮荷重に対する座屈強度を、前記スポット溶接のピール破壊による破断強度よりも大きくする座屈防止部を設けたこと
を特徴とする車両の前部構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−326398(P2007−326398A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157525(P2006−157525)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】