説明

車両の変速装置

【課題】変速機に設けられているシンクロ機構の摩耗の進行を抑制することが可能な車両の変速装置を提供する。
【解決手段】変速時に摩擦力を利用して軸とギアとを同期させるシンクロ機構27が変速段毎に設けられた変速機10が内燃機関2と駆動輪4との間の動力伝達経路中に配置され、車両1の走行状態と変速線図とに基づいて変速機10の変速段を切り替える車両の変速装置において、変速機10の各シンクロ機構27が摩耗しているか否か診断し、いずれかのシンクロ機構27が摩耗していると診断された場合にはシンクロ機構27が摩耗していると診断された変速段に切り替えられる頻度が少なくなるように変速線図を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンクロ機構が設けられた変速機を備えた車両の変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されて走行用動力源と駆動輪との間の動力伝達経路中に配置され、互いに変速比が相違する複数の変速段を切替可能に構成された変速機が知られている。また、このような変速機において、変速段の切替時に切替後の変速段のギアとそのギアが設けられた軸とを摩擦力を利用して同期させるシンクロ機構を備えた変速機が知られている。このシンクロ機構を備えた変速機に適用され、ギアと軸とのシンクロ動作中に変速段を切り替えるためのシフトストロークが所定値になった際にその軸の回転数が所定値以上にならなかった場合にはシンクロ機構が摩耗していると判断するシンクロ機構の摩耗検出装置が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2、3が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−111218号公報
【特許文献2】特開2004−125114号公報
【特許文献3】特開2010−208518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置では、シンクロ機構が摩耗しているか否か診断できるが、摩耗していると診断されたシンクロ機構に対してどのような対応をするか開示も示唆もされていない。そのため、診断後も車両の走行中にシンクロ機構が摩耗している変速段に頻繁に切り替えられ、摩耗がさらに進行する可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、変速機に設けられているシンクロ機構の摩耗の進行を抑制することが可能な車両の変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の変速装置は、走行用動力源として内燃機関が搭載された車両に適用され、前記内燃機関と前記車両の駆動輪との間の動力伝達経路中に配置され、互いに変速比が相違する複数の変速段を切替可能に構成され、かつ変速段の切替時に切替後の変速段のギアとそのギアが設けられた軸とを摩擦力を利用して同期させるシンクロ機構が変速段毎に設けられた変速機と、前記車両の速度と前記車両のアクセルの開度とで定義されて変速段の切替パターン毎に変速線が設定された変速線図を有し、前記車両の走行状態と前記変速線図とに基づいて前記変速機の変速段の切替を制御する制御手段と、を備えた変速装置において、前記変速機の各シンクロ機構が摩耗しているか否か診断する摩耗診断手段と、前記摩耗診断手段により少なくともいずれか1つのシンクロ機構が摩耗していると診断された場合に、シンクロ機構が摩耗していると診断された変速段に切り替えられる頻度がそのシンクロ機構が摩耗していないと診断されていたときよりも少なくなるように前記変速線図を変更する変速線図変更手段と、を備えている(請求項1)。
【0007】
本発明の変速装置によれば、摩耗診断手段によりシンクロ機構が摩耗していると診断された場合には変速線図が変更されてそのシンクロ機構が設けられている変速段に切り替えられる頻度が少なくなる。そのため、シンクロ機構の摩耗の進行を抑制できる。
【0008】
本発明の変速装置の一形態において、前記車両には、前記駆動輪に対して動力を入出力可能なモータ・ジェネレータが設けられ、前記変速線図変更手段が前記変速線図を変更したことにより前記車両の速度及び前記車両のアクセルの開度が同じである走行状態において前記内燃機関から前記駆動輪に伝達される動力が変化した場合には、その動力の変化が補償されるように前記モータ・ジェネレータの動作を制御するMG制御手段をさらに備えていてもよい(請求項2)。この形態によれば、変速線図が変更されたことにより内燃機関から駆動輪に伝達される動力が変化した場合でもその動力の変化がモータ・ジェネレータで補償される。そのため、変速線図を変更しても運転者に違和感を殆ど与えることなく車両を走行させることができる。
【0009】
なお、本発明の「補償」の概念には、内燃機関から駆動輪に伝達される動力の変化をモータ・ジェネレータで完全に相殺すること、及びその動力の変化をモータ・ジェネレータで部分的に補うことの両方が含まれる。
【発明の効果】
【0010】
以上に説明したように、本発明の変速装置によれば、シンクロ機構が摩耗していると診断された場合にはそのシンクロ機構が設けられている変速段に切り替えられる頻度が少なくなる。そのため、シンクロ機構の摩耗の進行を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一形態に係る変速装置が組み込まれた車両を模式的に示す図。
【図2】シンクロ機構の周囲の断面を拡大して示す図。
【図3】変速途中のシンクロ機構の周囲の断面を示す図。
【図4】変速完了後のシンクロ機構の周囲の断面を示す図。
【図5】制御装置が変速機の制御に使用する変速線図の一例を示す図。
【図6】制御装置が実行する摩耗診断ルーチンを示すフローチャート。
【図7】制御装置が実行する変速線図変更ルーチンを示すフローチャート。
【図8】3速のシンクロ機構が摩耗していると診断された場合に使用される摩耗時変速線図を示す図。
【図9】3速のシンクロ機構が摩耗していると診断された場合に使用される摩耗時変速線図の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の一形態に係る変速装置が組み込まれた車両を模式的に示している。車両1には、走行用動力源として内燃機関2が搭載されている。また、この車両1には、モータ・ジェネレータ(以下、MGと略称する。)3が搭載されている。MG3は、電動機及び発電機として機能する周知のものであり、ロータ軸3aと一体回転するロータ3bと、ロータ3bの外周に同軸に配置されて不図示のケースに固定されたステータ3cとを備えている。
【0013】
この図に示すように車両1は、変速機10を備えている。変速機10は内燃機関2と駆動輪4との間の動力伝達経路中に設けられている。変速機10は、入力軸11と、出力軸12と、入力軸11と出力軸12との間に設けられた常時噛み合い式の第1〜第5変速ギア対G1〜G5とを備えている。第1変速ギア対G1は互いに噛み合う第1ドライブギア13及び第1ドリブンギア14にて構成され、第2変速ギア対G2は互いに噛み合う第2ドライブギア15及び第2ドリブンギア16にて構成されている。第3変速ギア対G3は互いに噛み合う第3ドライブギア17及び第3ドリブンギア18にて構成され、第4変速ギア対G4は互いに噛み合う第4ドライブギア19及び第4ドリブンギア20にて構成されている。第5変速ギア対G5は互いに噛み合う第5ドライブギア21及び第5ドリブンギア22にて構成されている。各変速ギア対G1〜G5には互いに異なる変速比が設定されている。変速比は、第1変速ギア対G1、第2変速ギア対G2、第3変速ギア対G3、第4変速ギア対G4、第5変速ギア対G5の順に小さくなるように設定されている。そのため、第1変速ギア対G1が1速に対応し、第2変速ギア対が2速に対応する。また、第3変速ギア対G3が3速に対応し、第4変速ギア対G4が4速に対応する。そして、第5変速ギア対G5が5速に対応する。
【0014】
第1〜第5ドライブギア13、15、17、19、21は、入力軸11に対して相対回転可能なように入力軸11に設けられている。この図に示したようにこれらのギアは、第1ドライブギア13、第2ドライブギア15、第3ドライブギア17、第4ドライブギア19、第5ドライブギア21の順番で軸線方向に並ぶように配置されている。第1〜第5ドリブンギア14、16、18、20、22は、出力軸12と一体に回転するように出力軸12に固定されている。
【0015】
変速機10には、入力軸11と第1〜第5ドライブギア13、15、17、19、21のうちのいずれか1つとを選択的に接続するための変速段切替機構23が設けられている。変速段切替機構23は、第1スリーブ24、第2スリーブ25、及び第3スリーブ26を備えている。第1〜第3スリーブ24〜26は、入力軸11と一体に回転し、かつ軸線方向に移動可能なように入力軸11に支持されている。この図に示すように第1スリーブ24は第1ドライブギア13と第2ドライブギア15との間に設けられている。第2スリーブ25は第3ドライブギア17と第4ドライブギア19との間に設けられている。第3スリーブ26は第4ドライブギア19と第5ドライブギア21との間に設けられている。
【0016】
第1スリーブ24は、入力軸11と第1ドライブギア13とが一体に回転するように第1ドライブギア13と噛み合う1速位置と、入力軸11と第2ドライブギア15とが一体に回転するように第2ドライブギア15と噛み合う2速位置と、第1ドライブギア13及び第2ドライブギア15のいずれとも噛み合わない解放位置とに切り替え可能に設けられている。第2スリーブ25は、入力軸11と第3ドライブギア17とが一体に回転するように第3ドライブギア17と噛み合う3速位置と、入力軸11と第4ドライブギア19とが一体に回転するように第4ドライブギア19と噛み合う4速位置と、第3ドライブギア17及び第4ドライブギア19のいずれとも噛み合わない解放位置とに切り替え可能に設けられている。第3スリーブ26は、入力軸11と第5ドライブギア21とが一体に回転するように第5ドライブギア21と噛み合う5速位置と、その噛み合いが解除される解放位置とに切り替え可能に設けられている。
【0017】
入力軸11には、第1〜第3スリーブ24〜26と第1〜第5ドライブギア13、15、17、19、21とを噛み合わせる際にこれらの回転を同期させるシンクロ機構27が変速段毎に設けられている。図2〜図4を参照してシンクロ機構27について説明する。シンクロ機構27はいわゆるキー式シンクロメッシュ機構として構成されている。なお、各変速段のシンクロ機構27はいずれも同様に構成されているため、以下では第1スリーブ24と第1ドライブギア13との間に設けられているシンクロ機構27について説明し、その他のシンクロ機構27の説明は省略する。
【0018】
図2は、第1ドライブギア13、第2ドライブギア15、第1スリーブ24、及びシンクロ機構27の断面を拡大して示している。なお、この図に示すように1速のシンクロ機構27と2速のシンクロ機構27とは一部の部品が共有されている。シンクロ機構27は、クラッチハブ28と、キー29と、シンクロナイザリング30とを備えている。クラッチハブ28は、軸線方向Axに移動可能かつ入力軸11と一体回転するように入力軸11にスプライン嵌合されている。クラッチハブ28の外周には、キー29が設けられている。クラッチハブ28とキー29との間にはスプリング31が設けられている。スプリング31は、クラッチハブ28に固定されており、キー29を外周側に付勢している。クラッチハブ28の外周には、軸線方向Axに移動可能かつクラッチハブ28と一体回転するように第1スリーブ24がスプライン嵌合されている。第1スリーブ24の外周面には、第1スリーブ24を軸線方向Axに駆動するためのシフトフォーク32が係合されている。この図に示すように第1ドライブギア13及び第2ドライブギア15には、クラッチハブ28に近付くにつれて半径が小さくなるコーン部13a、15aが設けられている。シンクロナイザリング30は、ドライブギア13、15に対して相対回転可能かつ軸線方向Axに相対移動可能なようにコーン部13a、15aの外周面に設けられている。この図に示すようにシンクロナイザリング30は、それぞれのクラッチハブ28側の端部がキー29とコーン部13a、15aとの間に配置されている。各シンクロナイザリング30の外周面には、第1スリーブ24がスライドしてきたときに第1スリーブ24のスプラインと噛み合うスプライン30aが設けられている。また、各ドライブギア13、15には、シンクロナイザリング30の外側を通過してきた第1スリーブ24のスプラインと噛み合うスプライン部13b、15bが設けられている。
【0019】
図3に示すようにシフトフォーク32によって第1スリーブ24が第1ドライブギア13側に駆動されると、第1スリーブ24とともにキー29及びクラッチハブ28も同様に駆動される。そして、この図に示すように第1スリーブ24によってキー29が内周側に押し下げられると、キー29がシンクロナイザリング30をコーン部13aに押し付ける。これによりシンクロナイザリング30とコーン部13aとが摩擦係合し、入力軸11と第1ドライブギア13の同期が開始される。その後、入力軸11の回転数と第1ドライブギア13の回転数とが略等しくなると同期が終了し、第1スリーブ24がさらに第1ドライブギア13側に駆動される。そして、図4に示すように第1スリーブ24のスプラインがシンクロナイザリング30のスプライン30a及び第1ドライブギア13のスプライン部13bとそれぞれ噛み合う。これにより入力軸11が第1ドライブギア13と接続される。
【0020】
なお、上述した説明では、第1ドライブギア13と接続する場合について説明したが、第2ドライブギア15と接続する場合は図2の左側に示した2速のシンクロ機構27が同様に摩擦力にて入力軸11と第2ドライブギア15とを同期させ、その後これらを接続する。このようにシンクロ機構27では、摩擦力を利用して入力軸11とドライブギア13、15とを同期させている。なお、このように各ドライブギアのコーン部も入力軸11とドライブギアとの同期に使用されるため、このコーン部も本発明のシンクロ機構に含まれる。
【0021】
図1に戻って変速機10の説明を続ける。この図に示すように変速機10は、第1〜第3スリーブ24〜26を駆動するためのアクチュエータ33を備えている。アクチュエータ33は、各スリーブ24〜26に係合しているシフトフォーク32を駆動し、これにより各スリーブ24〜26を駆動する。
【0022】
この図に示すように入力軸11には、第1クラッチ34を介して内燃機関2の出力軸2aが接続されている。第1クラッチ34は、内燃機関2と入力軸11との間で動力が伝達される係合状態と、その動力伝達が遮断される解放状態とに切り替え可能な周知のものである。
【0023】
MG3のロータ軸3aには、第2クラッチ35が設けられている。ロータ軸3aと出力軸12との間には、常時噛み合い式のギア対36が設けられている。ギア対36は、出力軸12に固定された第1ギア37と、ロータ軸3aに設けられて第1ギア37と噛み合う第2ギア38とを備えている。第2クラッチ35は、ロータ軸3aと入力軸11とが相互に動力伝達可能に接続される第1係合状態と、ロータ軸3aと出力軸12とがギア対36を介して相互に動力伝達可能に接続される第2係合状態と、ロータ軸3aが入力軸11及び出力軸12のいずれとも切り離される解放状態とに切り替え可能に構成されている。第2クラッチ35には、例えばスリーブの位置を変更することにより接続先を切り替え可能な周知のドグクラッチが使用される。そのため、第2クラッチ35の詳細な説明は省略する。
【0024】
出力軸12には、出力ギア39が一体回転するように設けられている。出力ギア39は、デファレンシャル機構5のリングギア5aと噛み合っている。デファレンシャル機構5は、リングギア5aに入力された動力を左右の駆動輪4に伝達する周知の機構である。
【0025】
内燃機関2、MG3、変速機10の動作は、制御装置40にて制御される。制御装置40は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットとして構成されている。制御装置40は、車両1を適切に走行させるための各種制御プログラムを保持している。制御装置40は、これらのプログラムを実行することにより内燃機関2、MG3等の制御対象に対する制御を行っている。制御装置40は、例えば車両1の走行状態に応じて第2クラッチ35の状態を切り替える。また、制御装置40は、車両1に対して変速が要求された場合には変速機10の変速が完了するまで第1クラッチ34を解放状態に切り替える。制御装置40には、車両1に係る情報を取得するための種々のセンサが接続されている。例えば、アクセル開度に対応した信号を出力するアクセル開度センサ41、及び車両1の速度(車速)に対応した信号を出力する車速センサ42等が接続されている。この他にも種々のセンサが接続されているが、それらの図示は省略した。
【0026】
制御装置40は、車速及びアクセル開度にて特定される車両1の走行状態に応じて変速段が切り替えられるように変速機10を制御する。制御装置40のROMには、図5に示す変速線図がマップとして記憶されている。制御装置40は、車両1の走行状態がこのマップのいずれの位置に対応するか判定し、その位置の変速段に切り替える。このように変速段を切り替えることにより、制御装置40が本発明の制御手段として機能する。
【0027】
上述したように各シンクロ機構27は、シンクロナイザリング30と各ドライブギア13、15、17、19、21とを摩擦係合させることにより入力軸11と各ドライブギア13、15、17、19、21を同期させる。そのため、シンクロナイザリング30や各ドライブギア13、15、17、19、21のコーン部が摩耗する。そして、この摩耗が過度に進行すると入力軸11とドライブギアとを同期させる際にギア鳴り等が発生する可能性がある。そこで、制御装置40は、変速機10の各シンクロ機構27が摩耗しているか否か診断する。また、制御装置40は、その診断結果に応じて変速線図を変更する。
【0028】
図6は、制御装置40がシンクロ機構27が摩耗しているか否か診断するために実行する摩耗診断ルーチンを示している。このルーチンは、車両1の走行中に所定の周期で繰り返し実行される。このルーチンを実行することにより制御装置40が摩耗診断手段として機能する。
【0029】
このルーチンにおいて制御装置40は、まずステップS11で車両1の走行状態に基づいて変速段の切り替えが必要か否か判定する。変速段の切り替えが必要か否かは、図5に示した変速線図に基づいて判定すればよい。例えば、現在の変速段が2速で、現在の車速及びアクセル開度から特定される走行状態が変速線図の3速の領域内である場合には2速から3速への切り替えが必要と判定される。変速段の切り替えが不要と判定した場合には今回のルーチンを終了する。
【0030】
一方、変速段の切り替えが必要と判定した場合にはステップS12に進み、制御装置40はシンクロ機構27のシンクロナイザリング30等が摩耗しているか否か診断する。この摩耗診断は、例えば変速時の第1〜第3スリーブ24〜26のストローク量、入力軸11の回転数、及び出力軸12の回転数に基づいて行えばよい。一例として1速のシンクロ機構27が摩耗しているか否か診断する場合について説明する。シンクロナイザリング30やコーン部13aが摩耗していない場合、第1スリーブ24が図3に示した位置まで動かされるとシンクロナイザリング30とコーン部13aとが接触して同期が開始される。これにより入力軸11と第1ドライブギア13との回転数差が小さくなる。第1ドライブギア13は、第1ドリブンギア14と常に噛み合っている。そのため、第1スリーブ24が第1ドライブギア13と摩擦係合すると入力軸11の回転数は、第1変速ギア対G1の変速比及び出力軸12の回転数に応じた回転数とほぼ同じになる。
【0031】
これに対してシンクロナイザリング30やコーン部13aが摩耗している場合には、第1スリーブ24が図3に示した位置まで動かされてもシンクロナイザリング30とコーン部13aとが十分に摩擦係合しない。そのため、同期が行われず、第1変速ギア対G1の変速比及び入力軸11の回転数に基づいて求められる回転数と出力軸12の回転数との差が大きいままに維持される。そのため、この場合にはシンクロ機構27が摩耗していると判断できる。そこで、例えば第1スリーブ24が所定の位置まで動かされたときに、第1変速ギア対G1の変速比及び入力軸11の回転数から求められた回転数と出力軸12の回転数との差が予め設定した許容範囲外の場合に、1速のシンクロ機構27が摩耗していると診断すればよい。2〜5速のシンクロ機構27についても同様に診断すればよい。
【0032】
次のステップS13において制御装置40は、摩耗診断の結果に基づいて変速機10のいずれかのシンクロ機構27が摩耗しているか否か判定する。摩耗していると判定した場合にはステップS14に進み、制御装置40はいずれかのシンクロ機構27が摩耗していることを示す摩耗フラグをオンに切り替える。また、この際に制御装置40は、シンクロ機構27が摩耗していると診断された変速段を記憶する。その後、今回のルーチンを終了する。一方、摩耗していないと判定した場合にはステップS15に進み、制御装置40は摩耗フラグをオフに切り替える。その後、今回のルーチンを終了する。なお、摩耗フラグ及びシンクロ機構27が摩耗していると診断された変速段は制御装置40のRAMに記憶され、制御装置40が実行する他のルーチンで使用される。
【0033】
図7は、制御装置40が上述した摩耗診断の結果に応じて変速線図を変更するために実行する変速線図変更ルーチンを示している。この制御ルーチンは車両1の走行中に所定の周期で繰り返し実行される。この制御ルーチンを実行することにより制御装置40が本発明の変速線図変更手段として機能する。
【0034】
このルーチンにおいて制御装置40は、まずステップS21において摩耗フラグがオンか否か判定する。摩耗フラグがオフと判定した場合にはステップS22に進み、制御装置40は変速機10の制御に使用する変速線図として図5に示した変速線図を変更する。その後、今回のルーチンを終了する。なお、図5に示した変速線図は1速〜5速の全てのシンクロ機構27が摩耗していないと診断された場合に用いられる変速線図である。以下、この変速線図を通常変速線図と称する。
【0035】
一方、摩耗フラグがオンと判定した場合にはステップS23に進み、制御装置40は変速機10の制御に使用する変速線図を摩耗時変速線図に変更する。摩耗時変速線図は、通常変速線図と比較してシンクロ機構27が摩耗していると診断された変速段に切り替えられる頻度が少なくなるように各変速段の領域が設定された変速線図である。図8は、3速のシンクロ機構27が摩耗していると診断された場合に使用される摩耗時変速線図を示している。この図に示すように3速の摩耗時変速線図では通常変速線図と比較して3速に切り替えるべき領域が狭い。そのため、3速に切り替えられる頻度が少なくなる。なお、この図に示したように通常変速線図において3速が設定されていた領域A1、A2には、2速又は4速が設定される。摩耗時変速線図は、変速段毎に用意されて制御装置40のROMに記憶されている。各摩耗時変速線図は、それぞれ対応する変速段に切り替えるべき領域が通常変速線図と比較して狭くなっている。すなわち、1速の摩耗時変速線図であれば1速に切り替えるべき領域が、2速の摩耗時変速線図であれば2速に切り替えるべき領域が狭くなっている。上述したようにシンクロ機構27が摩耗していると診断された変速段は、摩耗フラグの状態とともに制御装置40のRAMに記憶されている。そのため、この処理ではその記憶されている変速段の摩耗時変速線図をROMから読み出して変速機10の制御に使用する変速線図に設定すればよい。その後、今回のルーチンを終了する。
【0036】
以上に説明したように本発明の変速装置によれば、変速機10のいずれかのシンクロ機構27が摩耗していると診断された場合にはそのシンクロ機構27の変速段に切り替わる頻度が少なくなるように変速線図が変更される。図8に示したように摩耗時変速線図では、通常変速線図においてシンクロ機構27が摩耗していると診断された変速段が設定されていた領域にはその変速段の1つ上又は1つ下の変速段が設定される。これによりシンクロ機構27の摩耗の進行を抑制しつつ車両1を走行させることができる。
【0037】
なお、図8に示した摩耗時変速線図ではアクセル開度が小さいときだけ3速を使用しないように3速の領域を設定したが、摩耗時変速線図はこの図に示した変速線図に限定されない。例えば、シンクロ機構27が摩耗していると診断された変速段の領域を削除した変速線図を摩耗時変速線図として使用してもよい。例えば、3速の摩耗時変速線図では、図9に示したように3速の領域を全て無くしてもよい。また、摩耗時変速線図では、シンクロ機構27が摩耗していると診断された変速段の領域をシンクロ機構27の摩耗の進行度に応じて変化させてもよい。例えば、シンクロ機構27の摩耗が進行するほど変速段の領域を徐々に小さくしてもよい。
【0038】
上述したように摩耗時変速線図では、通常変速線図においてシンクロ機構27が摩耗していると診断された変速段が設定されていた領域にはその変速段の1つ上又は1つ下の変速段が設定される。この場合、同じ車速で同じアクセル開度でも内燃機関2から駆動輪4に伝達される動力が変化する。そこで、制御装置40は、この動力の変化が補償されるようにMG3の動作を制御してもよい。このようにMG3を制御することにより、制御装置40が本発明のMG制御手段として機能する。
【0039】
図8を参照して具体的に説明する。図8において2速が設定されている領域A1は、通常変速線図では3速が設定されていた。そのため、摩耗時変速線図では、同じ車速で同じアクセル開度でも1つ下の変速段になり通常変速線図のときよりも駆動輪4に伝達される動力が大きくなる。そこで、このような場合にはMG3を発電機として機能させ、駆動輪4に伝達される動力の一部を回生する。そして、これにより内燃機関2から駆動輪4に伝達される動力を小さくする。また、図8において4速が設定されている領域A2は、通常変速線図では3速が設定されていた。そのため、摩耗時変速線図では同じ車速で同じアクセル開度でも1つ上の変速段に切り替えられて内燃機関2の回転数が低くなる。従って、通常変速線図のときよりも駆動輪4に伝達される動力が小さくなり運転者が駆動力不足を感じるおそれがある。そこで、このような場合にはMG3を電動機として機能させ、MG3から駆動輪4に動力を出力する。そして、これにより駆動輪4に伝達される動力を大きくする。すなわち、このような場合にはMG3で駆動輪4の駆動をアシストする。
【0040】
MG3で補償すべき動力は、運転者からの要求トルクと内燃機関2の出力トルクとの差である、そこで、運転者からの要求トルクをアクセル開度等から通常時と同様に算出し、内燃機関2の出力トルクを摩耗時変速線図に基づいて算出する。そして、それら要求トルクと内燃機関2のトルクとの差をMG3で補償すればよい。
【0041】
このようにMG3で動力を補償することにより、変速機10を摩耗時変速線図で制御しても通常変速線図で制御していたときと同じ動力で駆動輪4を駆動できる。そのため、変速機10の制御に使用する変速線図を摩耗時変速線図に変更しても運転者に違和感を殆ど与えることなく車両1を走行させることができる。
【0042】
なお、図8の領域A1等の摩耗時変速線図において通常変速線図よりも1つ下の変速段を使用することになった領域では、通常変速線図のときよりも駆動力が大きくなる。この場合、アクセル開度で駆動力を調整できるので、MG3で動力の補償をしなくてもよい。これにより制御を簡略化できる。
【0043】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明に設けられる変速機のシンクロ機構は、キー式シンクロメッシュ機構に限定されない。本発明に設けられる変速機には、変速時に摩擦力を利用して回転軸とギアとの同期を行う種々のシンクロ機構を設けてよい。また、本発明に設けられる変速機は、シンクロ機構が入力軸に設けられた変速機に限定されない。例えば、各ドライブギアが入力軸に一体回転するように設けられるとともに各ドリブンギアが出力軸に相対回転可能に支持され、かつ出力軸とドリブンギアとの間にシンクロ機構が設けられた変速機であってもよい。
【0044】
モータ・ジェネレータによる動力の補償が不要の場合には、内燃機関のみが走行用動力源として搭載された車両に本発明を適用してもよい。この場合にも変速機に設けられているシンクロ機構の摩耗の進行を抑制することができる。
【0045】
シンクロ機構のシンクロナイザリングやギアのコーン部が摩耗しているか否か診断する方法は、上述した形態で示した方法に限定されない。これらの部分の摩耗を検出可能な種々の方法を用いてよい。
【符号の説明】
【0046】
1 車両
2 内燃機関
3 モータ・ジェネレータ
4 駆動輪
10 変速機
11 入力軸
13 第1ドライブギア
15 第2ドライブギア
17 第3ドライブギア
19 第4ドライブギア
21 第5ドライブギア
27 シンクロ機構
40 制御装置(制御手段、摩擦診断手段、変速線図変更手段、MG制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用動力源として内燃機関が搭載された車両に適用され、
前記内燃機関と前記車両の駆動輪との間の動力伝達経路中に配置され、互いに変速比が相違する複数の変速段を切替可能に構成され、かつ変速段の切替時に切替後の変速段のギアとそのギアが設けられた軸とを摩擦力を利用して同期させるシンクロ機構が変速段毎に設けられた変速機と、
前記車両の速度と前記車両のアクセルの開度とで定義されて変速段の切替パターン毎に変速線が設定された変速線図を有し、前記車両の走行状態と前記変速線図とに基づいて前記変速機の変速段の切替を制御する制御手段と、を備えた変速装置において、
前記変速機の各シンクロ機構が摩耗しているか否か診断する摩耗診断手段と、前記摩耗診断手段により少なくともいずれか1つのシンクロ機構が摩耗していると診断された場合に、シンクロ機構が摩耗していると診断された変速段に切り替えられる頻度がそのシンクロ機構が摩耗していないと診断されていたときよりも少なくなるように前記変速線図を変更する変速線図変更手段と、を備えている変速装置。
【請求項2】
前記車両には、前記駆動輪に対して動力を入出力可能なモータ・ジェネレータが設けられ、
前記変速線図変更手段が前記変速線図を変更したことにより前記車両の速度及び前記車両のアクセルの開度が同じである走行状態において前記内燃機関から前記駆動輪に伝達される動力が変化した場合には、その動力の変化が補償されるように前記モータ・ジェネレータの動作を制御するMG制御手段をさらに備えている請求項1に記載の変速装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−79686(P2013−79686A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220367(P2011−220367)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】