説明

車両の後輪の方向付けを制御する方法

本発明は、後輪(12、12’)の偏角aを前輪(11、11’)の偏角aの関数として計算するモジュール(20)を備えたコンピュータ化された制御システム(2)により、車両(1)の後輪(12、12’)の方向を制御する方法に関する。本発明によれば、車両(1)が内側及び外側を有する湾曲した軌道T1を辿るように、前輪(11、11’)が一定の時間に亘って方向付けられる場合、計算モジュール(20)によって決定されるように後方の偏角aを修正し、瞬間的に計算される最大値a20に制限することにより、後角隅E2は、前角隅E1が以前に辿った軌道T1内に留まる軌道T3、更にはT1の接線を辿る。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明の主題は、2組の方向付け可能な車輪を有する車両の後輪の方向付けを制御する方法であり、これらの車輪の組はそれぞれ、少なくとも1つの操舵される前輪及び少なくとも1つのやはり操舵可能な後輪であり、本方法は車両の最小回転半径を低減させる。
【0002】
一般に、陸上車、特に自動車は、車室を有し、通常4つの車輪を介して地面に置かれるボディを備えており、4つの車輪は、運転者によって制御される2つの操舵される前輪と、通常車両の長手方向に沿って配向する2つの後輪である。しかしながら、場合によっては、特に全地形型車両では、車両の後輪も方向付けできると有利である。
このような後輪の方向付けは、車両の速度を考慮して運転者によって制御される前輪の操舵角度の関数として決定される。これは、比較的低速の場合、例えば車庫又は駐車場において、或いは平坦でない地面の上で、前輪の操舵角度が低速度では大きな角度になり得ることから、前輪とは反対方向に後輪を旋回させることによって最小回転半径を小さくすることが有利だからである。反対に、高速では、前輪の操舵角度は極めて小さくなるので、後輪を前輪と同じ方向に旋回させることによって、実質的に直線走行させるため又は場合によっては「オーバーステア」作用も得られるように、後輪を車両に整列させて保持することが好ましい。
【0003】
従って、後輪を方向付けすることができれば、特定の利点が得られる。しかしながら、後輪を前輪と反対の方向に旋回させることは、車両の後部が、前部が辿った軌道を外れてしまうという危険をもたらす。このような状況は、特にリヤオーバーハングが比較的長い場合、運転者が障害物を回避しようとするときに、車両の後部が前部と同じように障害物を回避するかどうかが分からず、後部の軌跡を予測するのが難しいので、危険となり得ることが知られている。
同様に、車両を駐車スペースから出す時、ステアリングの固定の度合いが比較的大きい場合、後輪を反対方向へ旋回させて最小回転半径を小さくすることにより、無事にスペースから車を出すことが容易となるが、他方、この駐車スペースに沿って位置する障害物、例えば案内標識にリヤオーバーハングが衝突する可能性がある。
【0004】
本発明の課題は、後輪の方向付けを制御するために使用されるコンピュータ化されたシステムを過度に複雑にすることなく、上記のような不都合な点を克服することである。
従って、本発明は、概括的には、少なくとも1つの操舵される前輪と少なくとも1つの方向付け可能な後輪とを有する車両の後輪の方向付けを制御する方法に関し、本方法では、後輪の方向付けが、運転者によって制御される前輪の操舵角度の関数として後輪の操舵角度を計算するモジュールを備えたンピュータ化された制御システムによって制御され、この車両の形状が、前輪の前方に張り出した2つの前角隅と後輪の後ろに張り出した2つの後角隅とを有するほぼ長方形である。
【0005】
本発明によれば、所定の時間に亘って車両が内側及び外側を有する曲線軌跡を辿るように、運転者によって前輪が方向付けられた場合、計算モジュールによって決定される後輪の操舵角度を補正して、各時点で計算される最大値に制限することにより、リヤオーバーハングの外側角隅は、同じ所定の時間に亘り、フロントオーバーハングの外側角隅が以前に辿った軌跡の内側に留まる軌跡を辿り、最大でもその軌跡に接する程度である。
特に有利には、車両がその軌跡に沿って移動している時、コンピュータ化された制御システムは、各時点の、前進方向を正とした現在の長手方向の車両速度、及び時計回り方向を正符号とした前輪及び後輪の方向付け角度を少なくとも含む、変位を表すパラメータ群を測定し、軌跡に沿って同じ基本変位によって互いに離間している一連の基本位置に対し、各基本位置と以前の基本位置との間の基本変位について計算された上記パラメータの平均値をメモリに記憶する。よって、基本位置に続く基本変位の間に、制御システムは、各時点で、補正された後輪操舵角度を計算することができ、よって、車両の長さ及びメモリに保存されたパラメータの平均値を考慮したうえで結果として得られる後角隅の軌跡は、車両の長さに相当する距離だけ前角隅の軌跡の後方で、前角隅が以前に辿った軌跡の内部に留まる。
【0006】
このために、前角隅が基本位置に進入すると、制御システムは、車両の重心を座標原点とし、車両の縦軸を横座標とする車両の正規直交座標系を定義し、前記基本位置に対してメモリに保存された代表的なパラメータの平均値を基に、前記座標系において、前角隅が以前に辿った軌跡と等価な仮想軌跡であって、前角隅後方の車両の長さに相当する長さに亘る軌跡の式を構築し、次の基本変位において、前角隅が前記仮想軌跡を前方に延長した部分を辿ること且つ前輪操舵角度が維持されることを考慮して、前記前輪角度から結果として得られる後角隅の予測軌跡を決定し、後角度を補正する。これにより、この後角隅の予測軌跡は、車両の長さに相当する距離だけ前記前角隅の後方で、前記前角隅の内側に留まり、最大でも前角隅が以前に通過した軌跡と等価な軌跡に接する程度である。
【0007】
好ましい実施形態では、2つの基本位置間の基本変位は、前角隅の軌跡において車両の長さが整数個の基本変位と等しくなるように決定され、前角隅の軌跡と等価な軌跡の式は、同じ数の以前の基本位置についてメモリに保存されたパラメータの平均値に基づいて構築される。この場合、車両の長さに実質的に等しい距離だけ基本位置の後方に位置する以前の位置へと戻って作業する。
特に有利には、前角隅の等価な以前の軌跡の等式を、各基本位置にする前角隅の横方向方速度の平均値及びヨーレートの平均値の関数として構築する。前記平均値は、平均縦方向速度及び平均の前輪操舵角度、並びに関連する基本位置についてメモリに保存されている後輪操舵角度に基づいて計算される。
【0008】
同様に、基本変位の間の、基本位置に続く後角隅の予測軌跡は、上記のように計算された、以前の基本変位の間の前角隅の横方向速度及びヨーレートの両平均値に基づいて決定される。
好ましくは、基本位置に続く基本変位の間に、制御システムは、前角隅が辿った軌跡の一部を、等価な以前の軌跡の延長と同じとみなし、各時点での、関連する基本位置に対応する車両の座標系における後角隅の縦軸値を決定し、これにより、後輪操舵角度を計算する。その場合、後角隅の前記瞬間的縦軸値が、前記関連する基本位置の座標系における等価な軌跡上で同じ横軸値を有する点の縦軸値を越えないようにする。
【0009】
別の特定の有利な特徴によれば、前角隅が辿った軌跡と等価な以前の軌跡は円の弧であり、前角隅の基本位置に続く基本変位に亘って、制御システムは、各時点での、車両の長さだけ瞬間位置の後方に位置する前角隅の以前の位置が辿った軌跡部分を、前角隅及びその以前の位置を通過する円の前記弧の弦の対応する部分と同じとみなし、これにより、各時点で、前記以前の位置の未来の変位を予測し、それに従って後輪操舵角度を補正する。これにより、後角隅が辿る軌跡は前記弦から離れて維持され、最大でもこの弦に接する程度となる。
【0010】
好ましい別の特徴によれば、本制御システムは、各基本位置について、この基本位置に対応する座標系における等価な以前の軌跡の式を構築し、同じ座標系及び同じ等価な軌跡を維持して、次の基本変位における後輪操舵角度を補正する。この場合、前記座標系及び前記等価な軌跡の式は、次の基本位置において、この位置でメモリに保存されているパラメータの平均値に応じて再調節される。これにより、次の変位の間に、補正された等価な軌跡の式に基づいて、新たな座標軸における後輪角度の補正を計算することができる。
【0011】
特に使用される式及び補正値を計算する方法に関する本発明の他の有利な特徴は、添付の図面を参照して非限定的な例示として提示される1つの特定の実施形態に関する後述の説明により、更に明らかになる。
【0012】
図1は、サスペンション機構(図示せず)によってボディ10のシャーシに接続されている方向付け可能な4つの車輪、つまり操舵される2つの前輪11、11’及び2つの後輪12、12’によって担持されているほぼ長方形のボディ10を備えた車両1を概略的に示す。
前輪11、11’は、例えば、ステアリングラック13により、運転者が操作するステアリングホイール(図示せず)から機械的又は電気的に受信されたコマンドの関数として方向付けされる。
【0013】
後輪12、12’の方向付けは、前輪の操舵角度αの関数として、制御ユニット2を含むコンピュータ化された制御システムによって制御され、この制御ユニット2は、車両の変位を表すパラメータ群に対応する情報であって、様々なセンサ、即ち前輪11、11’に適用されるステアリングの固定度合いを感知するセンサ21、車両の縦方向速度Vを決定するために前輪の回転速度を感知するセンサ22、ヨーレートΨ、つまり車両が、その重心と見なされる点Gを通る垂直軸の周りを旋回する速度を感知するセンサ23、並びに重心における横方向の加速度を感知するセンサ24によって供給される情報を受信する。
後輪12、12’の方向付けは、制御システム2の制御下でアクチュエータ25によって制御される。制御システム2は、後輪の操舵角度αを、受信した情報の関数、特に前輪の操舵角度αの関数として計算することにより、最小回転半径をできるだけ小さくする手段を備えている。
【0014】
後輪の操舵角度αは、センサ26によって測定される。
上記の様々な位置及び速度センサは、光学式又は磁気式とすることができ、例えばホール効果センサである。
【0015】
制御ユニット2は、ランダムアクセスメモリ、読出し専用メモリ、中央処理装置並びに入力/出力インターフェースを備えたマイクロプロセッサの形態で製造することができるので、様々なセンサから情報を受信してアクチュエータ25に指示を送ることができる。
有利には、車両の縦方向速度Vを、前輪又は後輪の平均速度を計算することによって得ることができ、そのような速度はABSシステムのセンサによって測定することができる。
【0016】
一般に、車両ボディは通常、重心Gの前方に距離Lだけ離れて位置する2つの前角隅E、F及び重心Gの後方に距離Lだけ離れて位置する2つの後角隅E、Fを有するほぼ長方形の形状を有しており、一方前輪及び後輪は、ボディ10の内側に配置されて、それぞれ重心から距離l及びlだけ離れて位置しており、これらの距離l及びlは、当然ながらそれぞれL及びLより短い。従って、フロントオーバーハングL−l及びリヤオーバーハングL−lが存在し、これらのオーバーハングの大きさは、車両の種類に応じて様々である。
一般に、運転者は、通常の運転時、或いは駐車スペースに出入りする時、カーブの外側に位置する車両の前角隅Eが障害物を回避するように前輪を方向付ける。
【0017】
方向付け可能な2つの前輪と縦軸に沿って配向する2つの後輪のみを備える車両においては、外側後角隅Eの軌跡は、常に前角隅Eの軌跡の内側に位置する。反対に、最小回転半径を小さくするために後輪が前輪と反対に方向付けられている場合、後角隅Eの軌跡が前角隅Eの軌跡と交差する場合があり、よって、運転者が前端で回避した障害物に車両の後部が衝突する危険がある。
本発明によれば、制御システム2は、簡単な手段を使用して上記のような問題を解決するように設計されている。
【0018】
図2は、例として、前輪11、11’で正の方向付け角度αだけ左に旋回している車両1を示し、この車両の右の前角隅Eの軌跡Tを示す。
上述のように、制御システム2は、各時点で、様々なセンサによって供給されるパラメータ群であって、符号を有する現在の縦方向速度V、前輪の方向付け角度α及び後輪の方向付けの角度αを少なくとも含むパラメータ群を測定する。
【0019】
更に、制御システムは、軌跡Tにおいて、長さDの一連の連続する基本変位に亘って上述のように測定された瞬間的値の平均を計算し、これらの平均値を、各基本変位の終端にそれぞれ対応する一連の基本位置に対応させてメモリに保存する。好ましくは、この基本変位Dは、車両の長さに等しい距離Lが整数n個分の基本変位に相当するように選択される。
軌跡Tにおいて、Pは、基本変位Dの端で前角隅Eが占める基本位置を表し、Pは、それ以前に前角隅Eが占めていた後方位置であって、車両のボディ10の長さに等しい距離Lだけ点Pの後方に位置する後方位置を表す。
【0020】
よって、軌跡Tの基本位置Pに到達する前に、まず車両の前角隅Eが車両の長さに相当する距離に亘って基本距離Dだけ互いに離間する一連の基本位置P、Pn−1、…、P、P、Pを通過し、これらの各基本位置について、制御システムが、以前の基本変位の間に計算されたパラメータの平均値を保存する。
計算手段は、かなり短い基本変位、例えば30〜50センチメートル毎に測定を行うことができ、よって車両の長さLに相当する基本変位の個数nが、15〜20のオーダーとなり、この値はコンピュータによる計算能とも調和する。
【0021】
よって、図2に示す実施形態の場合、外側前角隅Eは、問題とする時刻に基本位置Pにあり、システムは、メモリ内に、以前の基本変位D、D、…、Dの間に計算されたパラメータの平均値を有する。
計算を実施するため、制御システムは、有利には公知の種類の2輪モデルを利用する。
【0022】
各基本位置Pにおいて、前輪角度、後輪角度及び縦方向速度の平均値はそれぞれ、α1m、α2m及びVで表され、これらを利用して、軸G、Gによって定義される車両の座標系において、平均横方向速度Vym及び平均ヨーレートΨを再構築することができ、それらは次式によって求められる。
(1)Vym=V*(lα1m+lα2m)/(l+l
(2)Ψ=V*((α1m−α2m)/(l+l
これらの式から、前角隅Eが、軌跡Tに沿って車両の長さLに亘って移動する時、前角隅Eが占める様々な位置P、Pn−1、…、P、Pのできるだけ近くを通る数学的な線からなる平均軌跡Tを定義することができ、そのための二輪モデルにより、座標系のG、Gにおける式を構築することができる。
【0023】
この数学的な線Tは、基本位置Pまで前角隅Eが実際に辿った軌跡Tと等価な平均の軌跡と考えることができる。
二輪モデルによって構築されるこの式から、制御システムは、等価な線T上に後方位置Qの縦軸値を決定する。この後方位置Qは、等価な軌跡上で、車両の長さに等しい距離Lだけ基本位置Pの後方にあり、よって、基本位置Pよりもn個の基本変位分だけ過去の、前角隅の以前の位置Pに対応している。
【0024】
実際に、上記のようにして計算された縦軸値は、次式に表わすことができる。
(3)Y=V/Ψ−[(L+Vym/Ψ+(V/ψ−(L+Vym/Ψ1/2
式中、
は、変位Dの間の平均縦方向速度であり、
Ψは、平均ヨーレートであり、
は、座標系G、Gにおける前角隅Eの横軸値であり、
ymは、前角隅の平均横方向速度であり、
は、後角隅の横軸値である。
基本位置Pに対応する車両の座標系G、Gを維持することによって、二輪モデルは、前角隅Eが次の基本変位D’を行う間の、後角隅Eの、この座標系における未来の軌跡Tの式を決定することができる。このために、Pにおいてメモリに保存されているパラメータの平均値が維持され、従って、前述の平均縦方向速度V及び平均ヨーレートΨも維持される。
【0025】
軌跡Tにおいて、前角隅の各瞬間位置P’には、この瞬間的な位置P’から車両の長さだけ後方に位置する以前の位置P’が対応する。
近似によって、以前の後方位置P’がn個分の変位Dを辿った軌跡を、等価な軌跡Tの弦Pと同じとみなす。
【0026】
更に、平均前輪角度α1m、縦方向速度V、横方向速度Vym及びヨーレートΨが、変位D’の間維持されると考慮されるので、後角隅Eは、座標系G、Gにおいて円の弧Tの一部である近似の軌跡を辿ると考えることができる。
よって、これらの近似を利用して、制御システムは、各瞬間の、後輪操舵角度αに適用すべき補正α’を計算することができる。このとき、座標系G、Gにおいて、この瞬間における後角隅E’の縦軸値が等価な軌跡Tの弦P上の対応点Q’の縦軸値を超えないように計算を行うので、円の弧Tは、最大でも弦Pと接する程度である。
【0027】
弦Pが、常に前角隅Eが辿った実際の軌跡Tと等価な円の弧Tの内側に位置しているのであれば、後角隅Eは、常にこの実際の軌跡T内に留まり、よって運転者が前輪11、11’を旋回させることによって既に回避した障害物を回避する。
実際には、各瞬間に後輪角度αに対して行われるべき補正α’は、以下のパラメータを順次計算することによって得ることができる。
=−1/α;b=l/α
=YP’n/(L−L);b=−L/(L−L
=(1+a)/(1+a);b=(b−b)a/(1+a
=a;b=b+b
=(a−1)+(a−a−1−a
=L+(a−1)b+(a−a)(b−b)−a
=b+(b−b−L−b
A=[−b−2[b−a1/2]/2a
後輪角度αに対して行われる補正は、
(4)α’=−a(L+A)/(L−A)である。
【0028】
本発明による方法を実施するために、制御システム2は従来の種類とすることができる。本制御システムは、図3に概略的に示すように変更されており、一般に、前輪角度αの関数として後輪角度αを計算するモジュール20、及びモジュール20によって決定される後輪角度αの補正α’を計算する3つのユニットの作動又は作動解除を制御する監視ユニット3を備えており、3つのユニットの各々はそれぞれが1つの方針、即ち直線方針のためのモジュール31、コーナリング方針のためのモジュール32及び後輪角度を制限しない方針のためのモジュール33に対応している。
監視モジュール3は、様々なセンサ22、23、24、26によって発信された信号であって、車両の変位、即ち、
− 車両の現在の縦方向速度V、
− 前輪の現在の操舵角度α及び後輪の現在の操舵角度α
− 前進ギアでの運転時は正、後進ギアでの運転時は負である、縦方向速度Vの符号
を表すパラメータに対応する信号を受信する入力部を備えている。
【0029】
上記の方式で二輪モデルを利用することにより、監視モジュール3は、2つの連続する基本位置間の各基本変位Dについて、軌跡Tにおける外側前角隅Eの縦方向速度V、横方向速度Vym及びヨーレートΨの平均値を計算する。
こうして計算された平均値を、予め記録した制限値と比較する。これらの制限値はそれぞれ以下の通りである。
− この値に満たない場合、車両が停止していると見なされる最小縦方向速度Vmin
− 方針を作動することが可能な最大速度Vmax
− この値に満たない場合、再構築された軌跡が直線であると見なされる最小ヨーレートΨ
− この値に満たない場合、後操舵角度に何の制限も適用されない最大前輪角度α
【0030】
従って、各基本変位の端において、その瞬間に到達された基本位置でのメモリに保存されているパラメータの平均値を、記録された制限値と比較する。
平均縦方向速度Vが制限値Vmaxを上回っている場合、速度が大きすぎて後輪に作用することは不可能であり、監視モジュール3は非制限モジュール33を実行する。従来の方法では、このような場合後輪は車両に整列したままであるか、又はむしろ、ロードホールディングを向上させるためにわずかに前輪と同じ方向に向けられている。
【0031】
更に、現在の前輪角度の絶対値が制限値αを下回る場合、軌跡は直線であると見なされ、この場合にも、非制限モジュール33が実行される。
基本位置で、平均縦方向速度の符号が負である場合、先行の基本変位の一部が後進ギアで実施されたことを意味し、よって非制限モジュール33が実行される。
【0032】
縦方向速度Vが制限値Vminを超えない場合、車両は停止していると見なされる。従って、この瞬間の基本位置での速度及び角度が初期化され、よって以下の駐車スペースを出て行く条件が得られる。
=Vmin; α1m=0; α2m=0
上述のように、運動中、平均値α1m、α2m、Vにより、平均横方向速度及び平均ヨーレートを再構築することができ、これらの値により、前角隅Eの軌跡Tと等価な平均の軌跡Tが定義される。
【0033】
ヨーレートΨの絶対値が、制限値Ψを上回る場合、等価な軌跡Tは、円形の軌跡と考えられる。しかしながら、監視モジュール3は、式(2)から得られるΨの符号も考慮する。関連する基本位置Pに先行する変位Dの間の平均ヨーレートΨ及び平均の操舵角度α1mが同じ符号であれば、監視モジュール3は、「コーナリング方針」モジュール31を実行し、このモジュール31が、上述の方法で後輪角度αに対して行うべき補正α’を計算する。
反対に、Ψ及びα1mが逆の符号を有する、つまり、直前の変位Dにおいて、運転者が操舵の方向を変えた場合、監視モジュール3は、「非制限」モジュール33を実行し、このモジュール33は、後輪操舵角度αを、計算モジュール21によって計算された値に何ら補正を加えることなく維持する。
【0034】
式(1)から得られた横方向速度Vymが、前操舵角度αとは反対の符号を有している場合も同様である。この場合も、運転者は操舵の方向を変えており、「非制限」モジュール33を実行する。
しかしながら、平均ヨーレートΨの絶対値が、制限値Ψを下回る場合、軌跡は直線であると考えられる。この場合、横方向速度Vymが前操舵角度αと同じ符号を有していれば、監視モジュール3は、「直線方針」モジュール31を実行し、このモジュール31は、「コーナリング方針」に関して上述した方法で、各瞬間において測定した現在の角度α、並びに直前の変位Dにおける縦方向速度V及び横方向速度Vymの平均値に同じ順次的計算(4)を適用することによって、角度α’に対する制限を計算する。計算モジュール20によって計算された後輪角度αに適用すべき補正α’は、次式によって得られる。
(4)α’=−α(L+A)/(L−A)
【0035】
前輪角度αが正であるとき、計算された補正α’も正であることが判明したら、車輪は車両の軸と整列した状態に戻り、補正された後輪角度α20はゼロとなる。これと反対に、補正α’が負である場合、補正された後輪角度α20は、初期に計算され且つ補正α’である角度αの最大値に等しい。
反対に、前操舵角度αが負であり、計算された補正α’も負であれば、補正された後輪角度α20はゼロであり、車輪は車両の軸と整列する。
【0036】
補正α’が負である場合、補正された後輪角度α20は初期角度α及び補正α’の最小値に等しい。
監視モジュール3が「非制限」モジュール33を実行しなくてはならない上述の全ての場合において、計算された後輪角度αは不変に維持される。
【0037】
従って、本発明によって、制御システムを過度に複雑にすることなく、瞬時に後輪操舵角度を補正することにより、リヤオーバーハングが運転者によって選択された軌跡を逸脱することを防止できる。
【0038】
当然ながら、本発明は、上述の好ましい実施形態に限定されず、反対に、請求の範囲に含まれ、且つ均等な手段を利用する全ての変形例を包含する。
例えば、軌跡T及びTに関する式は、公知の種類の二輪モデルを利用して構築されるが、他のモデル及び他の式も使用することができる。
【0039】
同様に、実際の軌跡と等価な数学的な線は、円の弧である必要はなく、その弧の弦を利用することは特に有利であるが、他の計算手段も可能である。
更に、他の典型的なパラメータを使用して、車両の変位を式の形態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】四輪操舵方式の車両を示す図である。
【図2】コーナリング時の、車両の挙動を示す図である。
【図3】コンピュータ化された制御システムを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦軸(x’、x)を有するボディ(10)を備え、前記軸の両側で方向付け可能な車輪によって担持されている車両(1)の、後輪(12、12’)の方向付けを制御する方法であって、前記車輪がそれぞれ少なくとも1つの操舵される前輪及び少なくとも1つの後輪であって、前輪(11、11’)の方向付けが、軌跡(T)を辿るように運転者によって制御され、後輪(12、12’)の方向付けが、後輪(12、12’)の操舵角度(α)を前輪(11、11’)の操舵角度(α)の関数として計算するモジュール(20)を備えるコンピュータ化された制御システム(2)によって制御され、車両のボディ(10)が、前輪(11、11’)の前方及び後輪(12、12’)の後方にそれぞれ張り出している2つの前角隅(E、F)及び2つの後角隅(E、F)を有する実質的な長方形の形状を有しており、本方法では、車両(1)が内側及び外側を有する軌跡を辿るように前輪(11、11’)が所定の時間に亘って方向付けられた場合、コンピュータ化された制御システム(2)が、基本位置(P)にそれぞれ対応する連続的な期間について、前角隅(E)が前記前角隅(E)に関連する基本位置(P)の後方で、車両の長さに相当する長さに亘って以前に辿った軌跡(T)に対応する仮想の軌跡(T)を決定し、車両の長さ(L)を考慮して、後角隅(E)が描く軌跡が常に仮想軌跡(T)の内側に留まるように、補正された後輪操舵角度(α20)を計算し、本方法は、基本位置(P)後方の仮想軌跡(T)を決定するために、コンピュータ化された制御システム(2)が、各瞬間に、前進方向を正符号とする車両の少なくとも現在の縦方向速度(V)、並びに時計回り方向を正符号とする車両の縦軸(x’、x)に対する前輪の方向付け角度(α)及び後輪の方向付けの角度(α)を含む、変位を表すパラメータ群を測定し、車両が移動する際に、前角隅(E)が辿った軌跡(T)を、一連の基本位置(P)の間の一連の基本変位(D)に分割し、前角隅(E)が基本位置(P)に進入した時、重心Gを座標原点とし、車両の縦軸を横軸に、縦軸と直交する軸を縦軸とする車両の正規直交座標系を定義すること、並びに、前記基本位置(P)に関してメモリに保存された代表的なパラメータの平均値に基づき、制御システム(2)が、前記車両の座標系において、前角隅(E)の等価な軌跡(T)の式を構築し、次の基本変位(D’)の間に、前角隅(E)が仮想軌跡(T)を前方へと辿ること、及び前輪操舵角度(α)が維持されることを前提として、後角隅(E)の予測軌跡(T)を決定し、後角隅(E)の予測軌跡(T)が、車両の長さに相当する距離だけ前角隅(E)の後方で、前角隅(E)の等価な軌跡(T)の内部に留まり、最大でも軌跡(T)に接するように、後輪操舵角度(α)を補正することを特徴とする、方法。
【請求項2】
基本変位(D)の長さが、前角隅(E)の軌跡(T)において、車両の長さ(L)が整数個(n)の基本変位と等しくなるように決定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前角隅(E)の軌跡(T)と等価な軌跡(T)の式を、n個の以前の基本位置(P、P、…、P)についてメモリに保存されているパラメータの平均値から構築し、車両(1)の長さ(L)に実質的に等しい距離だけ基本位置(P)の後方に位置する以前の位置(P)に戻って作業することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各基本位置(P)に対し、前角隅(E)の横方向速度の平均値(Vym)及びヨーレートの平均値(Ψ)の関数として前角隅の等価な軌跡の式を構築し、その際、前記平均値(Vym、Ψ)は、関連する各基本位置(P)に関してメモリに保存されている平均縦方向速度(V)、平均前輪操舵角度(α1m)及び平均後輪操舵角度(α2m)に基づいて計算することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
基本位置(P)に続く基本変位(D’)の間の後角隅(E)の予測軌跡(T)を、直前の基本変位(D)の間の横方向速度の平均値及び前角隅のヨーレートの平均値に基づいて決定することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
基本位置(P)に続く基本変位(D’)において、制御システム(2)が、前角隅(E)が辿った軌跡の一部を以前の等価な軌跡(T)の延長と同じとみなし、各時点の、車両の座標系における基本位置(P)に対応する後角隅(E)の縦軸値を決定することにより、後角隅(E)の瞬時の縦軸値が、基本位置(P)の座標系における等価な軌跡(T)上で同じ横軸値を有する点の縦軸値を超えないように、後輪操舵角度(α20)を計算することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前角隅(E)が辿った軌跡(T)と等価な以前の軌跡(T)が円の弧であること、並びに、前角隅(E)の基本位置(P)に続く基本変位(D’)において、制御システムが、各時点の、車両の長さだけ瞬間の位置(P’)の後方に位置する以前の位置(P’)が辿った軌跡の一部を、前記円の弧の弦(P)の対応する部分と同じとみなし、これにより、各時点での、以前の位置(P’)の未来の変位を予測して、後角隅(E)が辿る軌跡が、前記弦(P)から離れるか、最大でも弦(P)に接するように、後輪操舵角度を補正することを特徴とする、請求項2ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
各基本位置(P)に対して、制御システムが、前記位置(P)に対応する座標系における等価な以前の軌跡(T)の式を構築し、同じ座標系及び同じ等価な軌跡を維持しながら次の基本変位(D)の間に後輪操舵角度を補正すること、並びに、次の基本位置(P’)において、制御システムが、車両の座標系を再調節し、前記次の位置(P’)でのメモリに保存されたパラメータの平均値の関数として等価な軌跡の式を補正することにより、次の変位(D’)の間に、位置(P’)の新たな座標系において、補正された等価な軌跡の式に基づき、後輪角度の補正を計算することを特徴とする、請求項2ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
基本位置(P)と以前の基本位置(P)との間の基本変位(D)における、外側前角隅(E)の横方向速度の平均値(Vym)及びヨーレートの平均値(Ψ)が、式
ym=V*(lα1m+lα2m)/l
ψ=V*(α1m−α2m)/l
で与えられ、式中、
が、平均縦方向速度であり、
α1mが、前輪の平均方向付け角度であり、
α2mが、後輪の平均方向付け角度であり、
が、前輪と重心の間の距離であり、
が、後輪と重心の間の距離であり、
l=l+lが車両のホイールベースである
ことを特徴とする、請求項4ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前角隅(E)の横方向速度の平均値(Vym)及びヨーレートの平均値(Ψ)に基づいて、制御システムが、式
=V/Ψ−[(L+Vym/Ψ+(V/Ψ−(L+Vym/Ψ1/2
を利用して、車両の座標系における、前角隅の基本位置(P)の後方の位置(Q)の縦軸値を決定し、上式において、
が、変位Dの間の平均縦方向速度であり、
Ψが、平均ヨーレートであり、
が、前角隅の横軸値であり、
ymが、前角隅の平均横方向速度であり、
が、後角隅の横軸値であり、
後輪操舵角度を補正して、前角隅(E)及び後角隅(E)の未来の軌跡と、瞬間的な後方の以前の位置(P’)の未来の軌跡を考慮に入れ、この未来の軌跡を、等価な軌跡(T)の弦(P)と同じとみなすことにより、前角隅(E)の次の基本変位(D’)の間に、後角隅(E)の縦軸値が、前記以前の位置(P’)に対応する弦(P)の点(Q’)の、このようにして計算された縦軸値以下とすることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
制御システムが、前輪操舵角度(α)及び後輪操舵角度(α)、前角隅の横軸値(L)及び後角隅(E)の横軸値(L)、前輪から重心(G)までの距離(l)及び後輪から重心(G)までの距離(l)、並びに後方の位置の縦軸値(Y)の関数として、以下のパラメータ
=−1/α;b=l/α
=Y/(L−L);b=−L/(L−L
=(1+a)/(1+a);b=(b−b)d/(1+a
=a;b=b+b
=(a−1)+(a−a−1−a
=L+(a−1)b+(a−a)(b−b)−a
=b+(b−b−L−b
A=[−b−2[b1/2]/2a
を順次計算することによって、後輪操舵角度に対して行うべき補正を決定し、
後輪角度αに行うべき補正が、
α’=−α(L+A)/(L−A)
であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
制御システムが、各時点で測定される、縦方向速度並びに前輪及び後輪操舵角度、並びに横方向速度及びヨーレートの平均値の関数として、少なくとも3つの後輪操舵角度の補正方針からいずれか1つを選択すること、即ち、
− 以下の場合のいずれか1つに該当する場合、非補正方針、
*平均縦方向速度が負である場合、
*平均縦方向速度が所与の制限値Vmaxを超える場合、
*前輪操舵角度の絶対値が所与の制限値αを下回る場合、及び
*平均ヨーレート及び/又は平均横方向速度が前輪操舵角度と反対の符号を有する場合、
− 平均ヨーレートΨの絶対値が所与の制限値Ψを下回る場合、直線方針
− 平均ヨーレートの絶対値が制限値Ψを上回る場合、コーナリング方針
を選択することを特徴とする、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−526621(P2008−526621A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551712(P2007−551712)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050018
【国際公開番号】WO2006/077341
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】