説明

車両の流体温度推定装置及びその流体温度推定方法

【課題】車両の流体温度の推定精度を向上させる。
【解決手段】本発明は、車両の流体温度推定装置であって、流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁32、35、36と、複数の電磁弁32、35、36のうち流体との接触面積が最大の電磁弁32、35、36を選択し、選択された電磁弁32、35、36の温度に基づいて流体の温度を推定する流体温度推定手段S11〜S14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の流体温度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、例えば自動変速機には、変速機構の作動に供する油圧を発生させるため、また変速機構の潤滑及び冷却のため、作動油が充填される。作動油は温度によって粘性が変化するので、変速機を所望の作動状態に制御するためには作動油の油温を検出する必要がある。しかし、油温を検出する油温センサを設けるとコストが上昇する。
【0003】
そこで、特許文献1には、自動変速機への供給油圧を制御するソレノイドのコイル抵抗値を検出し、コイル抵抗値からソレノイドのコイル温度を推定して作動油の油温を推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−316848公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の技術では、ソレノイドのコイル温度と作動油の温度との乖離が生じることを考慮していないので、作動油の温度推定精度が低い。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであり、車両の流体温度の推定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、車両の流体温度推定装置であって、流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁と、複数の電磁弁のうち流体との接触面積が最大の電磁弁を選択し、選択された電磁弁の温度に基づいて流体の温度を推定する流体温度推定手段と、を備えることを特徴とする車両の流体温度推定装置が提供される。
【0008】
また、本発明の別の態様によれば、車両の流体温度推定装置であって、流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁と、複数の電磁弁のうち流体との間の伝熱係数が最大の電磁弁を選択し、選択された電磁弁の温度に基づいて流体の温度を推定する流体温度推定手段と、を備えることを特徴とする車両の流体温度推定装置が提供される。
【0009】
さらに、本発明の別の態様によれば、車両の流体温度推定装置であって、流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁と、複数の電磁弁のうち発熱量の変化が最小の電磁弁を選択し、選択された電磁弁の温度に基づいて流体の温度を推定する流体温度推定手段と、を備えることを特徴とする車両の流体温度推定装置が提供される。
【0010】
さらに、本発明の別の態様によれば、車両の流体温度推定装置であって、流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁と、電磁弁の電流値をIとし、電磁弁の抵抗値をRとし、電磁弁と流体との間の伝熱係数をhとし、電磁弁と流体との接触面積をAとした場合に、複数の電磁弁のうち、(I^2×R)/(h×A)の値が最小の電磁弁を選択し、選択された電磁弁の温度に基づいて流体の温度を推定する流体温度推定手段と、を備えることを特徴とする車両の流体温度推定装置が提供される。
【0011】
さらに、本発明の別の態様によれば、流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁を備える車両の流体温度推定方法であって、複数の電磁弁のうち流体との接触面積が最大の電磁弁を選択し、選択された電磁弁の温度に基づいて流体の温度を推定する手順、を備えることを特徴とする車両の流体温度推定方法が提供される。
【0012】
さらに、本発明の別の態様によれば、流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁を備える車両の流体温度推定方法であって、複数の電磁弁のうち流体との間の伝熱係数が最大の電磁弁を選択し、選択された電磁弁の温度に基づいて流体の温度を推定する手順、を備えることを特徴とする車両の流体温度推定方法が提供される。
【0013】
さらに、本発明の別の態様によれば、流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁を備える車両の流体温度推定方法であって、複数の電磁弁のうち発熱量の変化が最小の電磁弁を選択し、選択された電磁弁の温度に基づいて流体の温度を推定する手順、を備えることを特徴とする車両の流体温度推定方法が提供される。
【0014】
さらに、本発明の別の態様によれば、流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁を備える車両の流体温度推定方法であって、電磁弁の電流値をIとし、電磁弁の抵抗値をRとし、電磁弁と流体との間の伝熱係数をhとし、電磁弁と流体との接触面積をAとした場合に、複数の電磁弁のうち、(I^2×R)/(h×A)の値が最小の電磁弁を選択し、選択された電磁弁の温度に基づいて流体の温度を推定する手順、を備えることを特徴とする車両の流体温度推定方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
これらの態様によれば、電磁弁の温度と流体の温度との乖離が最小となる電磁弁を選択して流体の温度推定に用いるので、電磁弁の温度に基づいて推定される流体の温度の推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る車両の流体温度推定装置の概略構成図である。
【図2】変速機ケースの断面を簡略化して示す断面図である。
【図3】コントロールバルブの断面を示す断面図である。
【図4】第1実施形態における作動油の温度推定手順を説明するフローチャートである。
【図5】第2実施形態における作動油の温度推定手順を説明するフローチャートである。
【図6】第3実施形態における作動油の温度推定手順を説明するフローチャートである。
【図7】第4実施形態における作動油の温度推定手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0018】
初めに、第1実施形態について説明する。
【0019】
以下では図面等を参照して本発明の実施の形態について詳しく説明する。図1は、本実施形態における車両の駆動系を示す概略構成図である。無段変速機10は、プライマリプーリ11と、セカンダリプーリ12と、ベルト13と、CVTコントロールユニット20(以下「CVTCU」という)と、油圧コントロールユニット30とを備え、ライン圧を元圧として変速動作を行う。
【0020】
プライマリプーリ11は、この無段変速機10にエンジン1の回転を入力する入力軸側のプーリである。プライマリプーリ11は、入力軸11dと一体となって回転する固定円錐板11bと、この固定円錐板11bに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成するとともに、プライマリプーリシリンダ室11cへ作用する油圧によって軸方向へ変位可能な可動円錐板11aとを備える。プライマリプーリ11は、前後進切り替え機構3、ロックアップクラッチ41を備えたトルクコンバータ2を介してエンジン1に連結され、そのエンジン1の回転を入力する。プライマリプーリ11の回転速度は、プライマリプーリ回転速度センサ26によって検出される。
【0021】
ベルト13は、プライマリプーリ11及びセカンダリプーリ12に巻き掛けられ、プライマリプーリ11の回転をセカンダリプーリ12に伝達する。ベルト13は、リンクやピンによって多数のブロックを帯状に連結して構成されるチェーンベルトであり、以下の明細書中では単に「ベルト」と記載する。なお、チェーンベルトに限らず、帯状のリングによって多数のエレメントを連結したVベルト等であってもよい。
【0022】
セカンダリプーリ12は、ベルト13によって伝達された回転をディファレンシャル4に出力する。セカンダリプーリ12は、出力軸12dと一体となって回転する固定円錐板12bと、この固定円錐板12bに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成するとともに、セカンダリプーリシリンダ室12cへ作用する油圧に応じて軸方向へ変位可能な可動円錐板12aとを備える。なお、セカンダリプーリシリンダ室12cの受圧面積は、プライマリプーリシリンダ室11cの受圧面積と略等しく設定されている。
【0023】
セカンダリプーリ12は、アイドラギア14、アイドラシャフト15、及びデフリングギア16を介してディファレンシャル4に連結されており、このディファレンシャル4に回転を出力する。セカンダリプーリ12の回転速度は、セカンダリプーリ回転速度センサ27によって検出される。なお、このセカンダリプーリ12の回転速度から車速を算出することができる。
【0024】
CVTCU20は、インヒビタスイッチ23、アクセルペダルストローク量センサ24、加速度センサ25、プライマリプーリ回転速度センサ26、セカンダリプーリ回転速度センサ27等からの信号や、エンジンコントロールユニット21からの入力トルク情報に基づいて、予め記憶されている変速線を参照してプーリ比(セカンダリプーリ12の有効半径をプライマリプーリ11の有効半径で除した値)や接触摩擦力を決定し、油圧コントロールユニット30に指令を送信して、無段変速機10を制御する。
【0025】
油圧コントロールユニット30は、CVTCU20からの指令に基づいてコントロールバルブ31に対し、プライマリプーリ11及びセカンダリプーリ12のソレノイド制御信号、並びにライン圧ソレノイド制御信号を指令する。
【0026】
コントロールバルブ31は、プライマリプーリ圧を制御するプライマリ圧制御用ソレノイド32と、セカンダリプーリ圧を制御するセカンダリ圧制御用ソレノイド33と、ライン圧を制御するライン圧制御用ソレノイド35と、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ圧を制御するロックアップクラッチ制御用ソレノイド36とを有する。コントロールバルブ31は、油圧コントロールユニット30から指令された制御信号に基づいて、オイルポンプ34から供給される油圧を所望のライン圧として調整し、各プーリ11、12及びロックアップクラッチ41への供給油圧を制御する。オイルポンプ34はエンジン1の出力によって駆動される。
【0027】
コントロールバルブ31から供給される各プーリ11、12への供給油圧によって、可動円錐板11a及び可動円錐板12aが回転軸方向に往復移動する。可動円錐板11a及び可動円錐板12aが移動するとプーリ溝幅が変化する。すると、ベルト13が、プライマリプーリ11及びセカンダリプーリ12上で移動する。これによって、ベルト13のプライマリプーリ11及びセカンダリプーリ12に対する接触半径が変わり、変速比及びベルト13の接触摩擦力がコントロールされる。
【0028】
図2は、上述の無段変速機10を収容する変速機ケース40の断面を簡略化して示す断面図であり、変速機ケース40を各プーリ11、12の軸に垂直な方向に切断した断面を示している。図2の線Aより左側はデフリングギア16における切断面を示し、線Aより右側はコントロールバルブ31における切断面を示す。図3は、図2に示される定常時の油面に平行なコントロールバルブ31における切断面を図2の上方から見た断面図である。
【0029】
なお、図2及び図3では、変速機ケース40、デフリングギア16、コントロールバルブ31、プライマリ圧制御用ソレノイド32、ライン圧制御用ソレノイド35、及びロックアップクラッチ制御用ソレノイド36のみを示している。
【0030】
変速機ケース40内には作動油としてのATFが充填されており、変速機ケース40の下部には重力によってATFが一時的に溜まる油溜りが形成される。ATFの上面は、例えば図2に点線で示す油面の位置まで達する。ここで、油溜りは、変速機ケースの下部内壁面と油面を示す点線との間に画成される空間を指している。
【0031】
また、車両が勾配路を走行中には油面が勾配に応じて、例えば図2に示すように変化する。さらに、車両の加減速時や旋回時にも同様に、加速度の作用する向きに応じて油面が変化する。
【0032】
エンジン1の回転に伴ってオイルポンプ34が駆動されると、油溜りに滞留するATFが吸い込まれ、加圧されてコントロールバルブ31を介して各プーリ11、12へと供給される。車両走行時にはデフリングギア16の回転によって油溜りのATFが攪拌され、各部の潤滑及び冷却に供される。
【0033】
次に、図4を参照しながらCVTCU20で行うATF温度の推定について説明する。本実施形態では以下の手順をCVTCU20において行っているが、油圧コントロールユニット30で行ってもよく、また専用のコントロールユニットを備えていてもよい。
【0034】
ステップS11においてCVTCU20は、ATFとソレノイド32、35、36との接触面積に基づいて複数のソレノイド32、35、36のうち一つを油温推定用ソレノイドとして選択する。ATFとソレノイドとの接触面積は、油面より下方へ深く油没しているソレノイドほど大きくなる。
【0035】
そこで、複数のソレノイド32、35、36のうち鉛直方向最も下方に配置されるソレノイド32を油温推定用ソレノイドとすることで、温度推定精度を向上させることができる。
【0036】
また、ATFの油面の傾きを車両に搭載された加速度センサ25によって推定し、油面の傾きを考慮してより深く油没するソレノイドを選択するようにしてもよい。この場合には、車両の加減速中や旋回中により適切なソレノイドが油温推定用ソレノイドとして選択されることから油温推定精度を向上させることができる。
【0037】
また、加減速中や旋回中とは異なり、油面が一定時間以上継続して傾斜する場合に車両が勾配路を走行していると判定し、このような場合に選択する油温推定用ソレノイドを切り換えるようにしてもよい。勾配路を走行中であることは、加速度センサ25以外に、GPSなどによって検出される車両位置情報から判断してもよい。
【0038】
例えば、車両の急加速によって一時的に油面が変化するような場合には、油面の変化に応じて選択したソレノイドが、最も温度の乖離が小さいソレノイドであるとは限らない。そこで、上記のように車両が勾配路を走行している場合にのみ油温推定用ソレノイドを切り換えることで、より精度よく油温を推定することができる。
【0039】
勾配路走行時のソレノイドの選択は図2に示されるように、油面が定常時には油面より最も下方へと離れているプライマリ圧制御用ソレノイド32が選択されるが、勾配路走行によって油面が傾くと油面より最も下方へと離れているライン圧制御用ソレノイド35が選択される。なお、図2は一例であり、油面の傾きが変化してもソレノイド32、35、36全体が油没したままである場合には油面の傾きに応じて選択する油温推定用ソレノイドを切り替えなくてもよい。
【0040】
ステップS12においてCVTCU20は、選択した油温推定用ソレノイドの温度Tsを推定する。油温推定用ソレノイドの温度Tsは、例えば油温推定用ソレノイドの抵抗値Rに基づいて抵抗値Rが大きいほど高くなるように推定される。抵抗値Rは、油温推定用ソレノイドの電圧、電流、及びデューティ比から演算される。
【0041】
ステップS13においてCVTCU20は、油温推定用ソレノイドの温度TsとATFの温度Taとの乖離量を、以下の(1)式に基づいて推定する。
【0042】
(乖離量)=(I^2×R)/(h×A) ・・・(1)
ここで、Iは油温推定用ソレノイドの電流値、Rは油温推定用ソレノイドの抵抗値、hは油温推定用ソレノイドとATFとの伝熱係数、Aは油温推定用ソレノイドとATFとの接触面積である。油温推定用ソレノイドとATFとの接触面積Aは、搭載位置、形状、大きさ等によって決定される値であり、ソレノイド32、35、36毎に予めCVTCU20に記憶されている。
【0043】
ステップS14においてCVTCU20は、ATFの温度Taを推定する。ATFの温度Taは、以下の(2)式に基づいて演算される。
【0044】
Ta=Ts−(I^2×R)/(h×A) ・・・(2)
ATFの温度変化はソレノイドの温度変化に比べて緩慢であるので、ATFの温度Taとソレノイドの温度Tsとの間には乖離が生じる。乖離量は、ソレノイドとATFとの接触面積Aが大きいほど小さくなる。接触面積Aは、ソレノイドがATFの油面に対してより深く油没しているほど大きくなる。そこで、ステップS11では、接触面積Aに基づいて油温推定用ソレノイドを選択し、本ステップで当該ソレノイドに基づいてATFの温度を推定することで、油温の推定精度を向上させることができる。
【0045】
以上のように本実施形態では、ATFとの接触面積が最大となるソレノイドを選択してATFの温度推定に用いるので、ATFとの温度の乖離量が最小となるソレノイドに基づいてATFの温度を推定することができ、ATFの温度推定精度を向上させることができる(請求項1、12に対応)。
【0046】
また、鉛直方向最も下方に配置されるソレノイドを油温推定用ソレノイドとして選択するので、ATFとの温度の乖離量が最小となるソレノイドをより確実に選択することができ、ATFの温度推定精度をさらに向上させることができる(請求項2に対応)。
【0047】
さらに、ATFの油面の傾きに応じて選択するソレノイドを切り換えるので、油面の傾きが変化してもATFとの接触面積が最大のソレノイドを選択することができ、流体の温度推定精度をさらに向上させることができる(請求項3に対応)。
【0048】
さらに、車両が勾配路を走行することによってATFの油面が傾いていると判断できる場合に、選択するソレノイドを切り換えるので、一時的な油面の変化の影響を受けることなく、ATFとの温度の乖離量が最小となるソレノイドを選択することができ、流体の温度推定精度をさらに向上させることができる(請求項4に対応)。
【0049】
次に、第2実施形態について説明する。
【0050】
図5は、本実施形態においてCVTCU20がATFの温度を推定する手順を示すフローチャートである。本実施形態では、油温推定用ソレノイドの選択手順が第1実施形態と異なる。
【0051】
ステップS21においてCVTCU20は、ATFとソレノイド32、35、36との伝熱係数hに基づいて伝熱係数hが最大のソレノイドを油温推定用ソレノイドとして選択する。ATFとソレノイドとの伝熱係数hは、ある温度における単位面積当たり及び単位時間当たりの伝熱量を表わす係数であり、伝熱係数hが大きいほど熱が伝達しやすい。
【0052】
伝熱係数hは、ソレノイド32、35、36の形状、材質、ソレノイド32、35、36周りのATFの流量、流れ場(層流、乱流など)によって変化する値であり、予め実験などによってソレノイド32、35、36毎に求めておく。伝熱係数hが最大のソレノイドとして、例えばプライマリ圧制御用ソレノイド32が選択される。
【0053】
ステップS22〜S24は、第1実施形態のステップS12〜S14と同一である。
【0054】
ATFの温度Taとソレノイドの温度Tsとの乖離量は、ソレノイドとATFとの伝熱係数hが大きいほど小さくなる。そこで、ステップS21において伝熱係数hが最大のソレノイド32を油温推定用ソレノイドとして選択し、ステップS24において当該ソレノイド32に基づいてATFの温度を推定することで、油温の推定精度を向上させることができる。
【0055】
以上のように本実施形態では、ATFとの伝熱係数hが最大となるソレノイド32を選択してATFの温度推定に用いるので、ATFとの温度の乖離量が最小となるソレノイドに基づいてATFの温度を推定することができ、ATFの温度推定精度を向上させることができる(請求項5、13に対応)。
【0056】
次に、第3実施形態について説明する。
【0057】
図6は、本実施形態においてCVTCU20がATFの温度を推定する手順を示すフローチャートである。本実施形態では、油温推定用ソレノイドの選択手順が第1実施形態と異なる。
【0058】
ステップS31においてCVTCU20は、ソレノイド32、35、36の発熱量の変化に基づいて複数のソレノイド32、35、36のうち発熱量の変化が最も小さいソレノイドを油温推定用ソレノイドとして選択する。
【0059】
一時的にソレノイドの発熱量が大きくなった場合、ソレノイドとATFとの間の温度の乖離量が大きくなり、その後時間の経過とともに乖離量は安定する。したがって、ソレノイドの発熱量の変化が小さければソレノイドとATFとの温度の乖離量も安定していると判断できる。
【0060】
また、ソレノイドの発熱量の変化は、ソレノイドの電流値Iに基づいて判断してもよい。ソレノイドの電流値Iが小さければ発熱量の変化も小さくなるので、電流値Iが最小のソレノイドを油温推定用ソレノイドとして選択する。電流値Iが小さければ、そもそもソレノイドの発熱量は小さいと判断できるので、ソレノイドとATFとの温度の乖離量も安定していると判断できる。
【0061】
また、ソレノイドの発熱量の変化は、ソレノイドの電流値Iの変化率に基づいて判断してもよい。ソレノイドの電流値Iの変化率が小さければ発熱量の変化も小さくなるので、電流値Iの変化率が最小のソレノイドを油温推定用ソレノイドとして選択する。ソレノイドに流れる電流Iの変化率が大きいほど、ソレノイドとATFとの温度の乖離が安定するまでの期間が長くなるので、電流Iの変化率が最小のソレノイドを油温推定用ソレノイドとして選択することで、電流Iが変化しても最短で乖離が収束することになる。
【0062】
発熱量の変化が最小のソレノイドとして、例えばロックアップクラッチ制御用ソレノイド36が選択される。特に、無段変速機10搭載車両では、車両発進後すぐにロックアップクラッチ41を締結し、ロックアップ状態で走行する領域が大きく、ソレノイド36の電流値Iの変化が小さい。よって、ロックアップクラッチ制御用ソレノイド36を油温推定用ソレノイドとして選択することで発熱量が最小のソレノイドに基づいて油温を推定することができる。また、車両発進時などのロックアップクラッチ制御用ソレノイド36よりもライン圧制御用ソレノイド35の電流値Iの変化が小さくなる場合は、ライン圧制御用ソレノイド35を油温推定用ソレノイドとして選択することで、発熱量が最小のソレノイドに基づいて油温を推定することができる。
【0063】
ステップS32〜S34は、第1実施形態のステップS12〜S14と同一である。
【0064】
上記のように本実施形態では、ステップS31において、ソレノイドの発熱量の変化が最小のソレノイドを油温推定用ソレノイドとして選択し、ステップS34において当該ソレノイドに基づいてATFの温度を推定することで、油温の推定精度を向上させることができる。
【0065】
以上のように本実施形態では、発熱量の変化が最小のソレノイドを選択してATFの温度推定に用いるので、ATFとの温度の乖離量が最小となるソレノイドに基づいてATFの温度を推定することができ、流体の温度推定精度を向上させることができる(請求項6、14に対応)。
【0066】
また、電流値Iが最小のソレノイドを選択してATFの温度推定に用いるので、発熱量が小さいソレノイドに基づいてATFの温度を推定することができ、流体の温度推定精度をさらに向上させることができる(請求項7に対応)。
【0067】
さらに、電流値Iの変化率が最小のソレノイドを選択してATFの温度推定に用いるので、ソレノイドとATFとの温度の乖離量が最小となるソレノイドに基づいてATFの温度を推定することができ、ATFの温度推定精度をさらに向上させることができる(請求項8に対応)。
【0068】
さらに、電流値Iの変化に応じて選択するソレノイドを切り換えるので、電流Iが変化してもソレノイドとATFとの温度の乖離量が小さく安定しているソレノイドを選択することができ、ATFの温度推定精度をさらに向上させることができる(請求項9に対応)。
【0069】
次に、第4実施形態について説明する。
【0070】
図7は、本実施形態においてCVTCU20がATFの温度を推定する手順を示すフローチャートである。本実施形態では、油温推定用ソレノイドの選択手順が第1実施形態と異なる。
【0071】
ステップS41においてCVTCU20は、ソレノイド32、35、36とATFとの温度の乖離量を表わす上述の式(1)の値を各ソレノイド32、35、36について演算し、演算された乖離量が最小となるソレノイドを油温推定用ソレノイドとして選択する。ソレノイドとATFとの温度の乖離量は、ソレノイドの状態や車両の走行状況に応じて変化するので、変化する乖離量に応じて選択するソレノイドを切り換える。
【0072】
また、伝熱係数hは、予め設定された固定値であるが、車両走行中に変化する推定値であってもよい。
【0073】
ステップS42〜S44は、第1実施形態のステップS12〜S14と同一である。
【0074】
上記のように本実施形態では、ステップS41において、ATFとの温度の乖離量が最小となるソレノイドを油温推定用ソレノイドとして選択し、ステップS44において当該ソレノイドに基づいてATFの温度を推定することで、油温の推定精度を向上させることができる。
【0075】
以上のように本実施形態では、ソレノイドとATFとの間の乖離量をソレノイド32、35、36毎に推定し、乖離量が最小となるソレノイドを選択して温度推定に用いるので、流体の温度推定精度を向上させることができる(請求項10、15に対応)。
【0076】
また、ソレノイドとATFとの間の乖離量の変化に応じて選択するソレノイドを切り換えるので、走行状況によって上記(1)式の値が変化しても、乖離量が最小となるソレノイドを選択でき、より確実に流体の温度推定精度を向上させることができる(請求項11に対応)。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0078】
例えば、上記の各実施形態では、選択する油温推定用ソレノイド32、35、36をそれぞれ例示したが、ソレノイド32、35、36とATFとの接触面積A、伝熱係数h、ソレノイド32、35、36の発熱量の変化、及びソレノイド32、35、36とATFとの温度の乖離量は、変速機の構造によって異なるので、各実施形態で選択されるソレノイドは上記したものに限定されないことは言うまでもない。
【0079】
また、上記の各実施形態では、選択された油温推定用ソレノイドのみに基づいて油温を推定しているが、複数のソレノイド32、35、36でそれぞれ油温を推定し、選択されたソレノイドから推定される油温の重みを大きくするように加重平均して油温を推定してもよい。
【0080】
さらに、上記の各実施形態では、温度を推定する対象を無段変速機10の作動油(ATF)として説明したが、有段変速機などその他の変速機の作動油についても適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
10 無段変速機(自動変速機)
20 CVTCU(流体温度推定手段)
32 プライマリ圧制御用ソレノイド(電磁弁)
35 ライン圧制御用ソレノイド(電磁弁)
36 ロックアップクラッチ制御用ソレノイド(電磁弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の流体温度推定装置であって、
流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁と、
前記複数の電磁弁のうち前記流体との接触面積が最大の電磁弁を選択し、選択された前記電磁弁の温度に基づいて流体の温度を推定する流体温度推定手段と、
を備えることを特徴とする車両の流体温度推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体温度推定装置であって、
前記車両は、前記流体を作動油とする自動変速機を備え、
前記電磁弁は、前記自動変速機内の油溜りに少なくとも一部が油没する電磁弁であり、
前記流体温度推定手段は、前記自動変速機が前記車両に搭載された状態で鉛直方向最も下側に配置される電磁弁を選択する、
ことを特徴とする車両の流体温度推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の流体温度推定装置であって、
前記車両は、前記流体を作動油とする自動変速機を備え、
前記電磁弁は、前記自動変速機内の油溜りに少なくとも一部が油没する電磁弁であり、
前記流体温度推定手段は、油溜りの油面の傾きに応じて選択する電磁弁を切り換える、
ことを特徴とする車両の流体温度推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の流体温度推定装置であって、
前記流体温度推定手段は、前記車両が勾配路を走行することによって前記油溜りの油面が傾いた場合に、選択する前記電磁弁を切り換える、
ことを特徴とする車両の流体温度推定装置。
【請求項5】
車両の流体温度推定装置であって、
流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁と、
前記複数の電磁弁のうち前記流体との間の伝熱係数が最大の電磁弁を選択し、選択された前記電磁弁の温度に基づいて前記流体の温度を推定する流体温度推定手段と、
を備えることを特徴とする車両の流体温度推定装置。
【請求項6】
車両の流体温度推定装置であって、
流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁と、
前記複数の電磁弁のうち発熱量の変化が最小の電磁弁を選択し、選択された前記電磁弁の温度に基づいて前記流体の温度を推定する流体温度推定手段と、
を備えることを特徴とする車両の流体温度推定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の流体温度推定装置であって、
前記流体温度推定手段は、前記複数の電磁弁のうち電流が最小の電磁弁を選択する、
ことを特徴とする車両の流体温度推定装置。
【請求項8】
請求項6に記載の流体温度推定装置であって、
前記流体温度推定手段は、前記複数の電磁弁のうち電流の変化率が最小の電磁弁を選択する、
ことを特徴とする車両の流体温度推定装置。
【請求項9】
請求項6から請求項8までのいずれか一項に記載の流体温度推定装置であって、
前記流体温度推定手段は、前記車両の走行中に前記電磁弁の電流を測定し、測定した電流に応じて選択する前記電磁弁を切り換える、
ことを特徴とする車両の流体温度推定装置。
【請求項10】
車両の流体温度推定装置であって、
流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁と、
前記電磁弁の電流値をIとし、前記電磁弁の抵抗値をRとし、前記電磁弁と前記流体との間の伝熱係数をhとし、前記電磁弁と前記流体との接触面積をAとした場合に、前記複数の電磁弁のうち、(I^2×R)/(h×A)の値が最小の電磁弁を選択し、選択された前記電磁弁の温度に基づいて前記流体の温度を推定する流体温度推定手段と、
を備えることを特徴とする車両の流体温度推定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の流体温度推定装置であって、
前記流体温度推定手段は、車両の走行中に、(I^2×R)/(h×A)を演算し、演算された値に応じて選択する前記電磁弁を切り換える、
ことを特徴とする車両の流体温度推定装置。
【請求項12】
流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁を備える車両の流体温度推定方法であって、
前記複数の電磁弁のうち前記流体との接触面積が最大の電磁弁を選択し、選択された前記電磁弁の温度に基づいて前記流体の温度を推定する手順、
を備えることを特徴とする車両の流体温度推定方法。
【請求項13】
流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁を備える車両の流体温度推定方法であって、
前記複数の電磁弁のうち前記流体との間の伝熱係数が最大の電磁弁を選択し、選択された前記電磁弁の温度に基づいて前記流体の温度を推定する手順、
を備えることを特徴とする車両の流体温度推定方法。
【請求項14】
流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁を備える車両の流体温度推定方法であって、
前記複数の電磁弁のうち発熱量の変化が最小の電磁弁を選択し、選択された前記電磁弁の温度に基づいて前記流体の温度を推定する手順、
を備えることを特徴とする車両の流体温度推定方法。
【請求項15】
流体に少なくとも一部が接する複数の電磁弁を備える車両の流体温度推定方法であって、
前記電磁弁の電流値をIとし、前記電磁弁の抵抗値をRとし、前記電磁弁と前記流体との間の伝熱係数をhとし、前記電磁弁と前記流体との接触面積をAとした場合に、前記複数の電磁弁のうち、(I^2×R)/(h×A)の値が最小の電磁弁を選択し、選択された前記電磁弁の温度に基づいて前記流体の温度を推定する手順、
を備えることを特徴とする車両の流体温度推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−202439(P2012−202439A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65446(P2011−65446)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】