車両の駆動システムおよびその制御方法
【課題】電動機のロック時にインバータ素子の温度が低減され、かつ運転者の快適満足性を向上させた車両の駆動システムおよびその制御方法を提供する。
【解決手段】車両の駆動システムは、電動機(モータジェネレータMG2)と、電動機を駆動するインバータ14と、インバータ14に対して周期的にトルク指令値を出力することによって電動機を制御する制御装置30とを含む。制御装置30は、現在のトルク指令値の大きさが連続許容値より大きく、かつ電動機の回転数が所定数より大きく、かつ電動機に流れる電流が所定値よりも大きい場合に、現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定する。
【解決手段】車両の駆動システムは、電動機(モータジェネレータMG2)と、電動機を駆動するインバータ14と、インバータ14に対して周期的にトルク指令値を出力することによって電動機を制御する制御装置30とを含む。制御装置30は、現在のトルク指令値の大きさが連続許容値より大きく、かつ電動機の回転数が所定数より大きく、かつ電動機に流れる電流が所定値よりも大きい場合に、現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の駆動システムおよびその制御方法に関し、特に電動機とインバータとを搭載する車両の駆動システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平11−215687号公報(特許文献1)は、登坂時にモータがロック状態に陥ってもロック状態から容易に脱出し得るとともにスイッチング素子の破損を防止し得る電気自動車の過負荷防止装置を開示する。
【0003】
電気自動車が登坂時に停止状態からゆっくりと発進しようとするとモータのロック状態が長くなる。モータのロック状態が長くなるとスイッチング素子を保護するためにモータの出力が制限される。このため、更にアクセルを踏み込んでもモータの出力制限によりなかなか発進できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−215687号公報
【特許文献2】特開2007−329982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開平11−215687号公報に開示された技術では、モータがロック状態にあると判定された場合には、インバータ回路のスイッチング素子の接合温度最大値に対応する制限トルクを演算し、この制限トルクから変位トルクを減算して、リミットトルクを変異トルクずつ低減し、これにより位相領域を変化させ、ロック状態を解除している。
【0006】
しかし、インバータ素子温度低減、および運転者の快適満足性の点においてさらに改善する余地がある。
【0007】
この発明の目的は、電動機のロック時にインバータ素子の温度が低減され、かつ運転者の快適満足性を向上させた車両の駆動システムおよびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、要約すると、車両の駆動システムであって、電動機と、電動機を駆動するインバータと、インバータに対して周期的にトルク指令値を出力することによって電動機を制御する制御装置とを含む。制御装置は、現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定する。
【0009】
好ましくは、制御装置は、低トルク領域でのトルク指令値の下降時の変化率を高トルク領域でのトルク指令値の下降時の変化率よりも緩やかに設定して次回のトルク指令値を決定する。
【0010】
より好ましくは、制御装置は、高トルク領域でのトルク指令値の上昇時の変化率を低トルク領域でのトルク指令値の上昇時の変化率よりも緩やかに設定して次回のトルク指令値を決定する。
【0011】
好ましくは、制御装置は、現在のトルク指令値の大きさが連続許容値より大きく、かつ電動機の回転数が所定数より大きく、かつ電動機に流れる電流が所定値よりも大きい場合に、電動機に対する現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定する。
【0012】
この発明は他の局面においては、電動機と、電動機を駆動するインバータとを含む車両の駆動システムの制御方法であって、電動機に対する現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、現在のトルク指令値が高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するか否かを判断するステップと、現在のトルク指令値が属する領域に基づいてトルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電動機のロック時にインバータ素子の温度が低減されることによりインバータ素子の保護が強化され、かつ運転者の快適満足性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両100の主たる構成を示す図である。
【図2】三相のコイルに流れる電流について説明するための波形図である。
【図3】ロータ位置が図2のF1に有るときに各コイルに流れる電流を示した図である。
【図4】素子温度の変化について説明するための図である。
【図5】モータロック時の保護処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】トルク指令の下降速度を2段階に切り替える処理を説明するためのフローチャートである。
【図7】ロック判定時にトルク制限が行なわれる様子を説明するための動作波形図である。
【図8】トルク指令の下降レートを2段階に切り替えることによってインターバル時間を増やすことを説明するための図である。
【図9】トルク指令の上昇および下降速度を2段階に切り替える処理を説明するためのフローチャートである。
【図10】実施の形態2においてロック判定時にトルク制限が行なわれる様子を説明するための動作波形図である。
【図11】トルク指令値の上昇レートおよび下降レートを途中で変更する処理を説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0016】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態に係る車両100の主たる構成を示す図である。なお車両100は、モータとエンジンとを車両の駆動に併用するハイブリッド自動車であるが、本発明は、モータで車輪を駆動する電気自動車、燃料電池自動車等に対しても適用することができる。
【0017】
図1を参照して、車両100は、バッテリBと、昇圧コンバータ12と、平滑用コンデンサC1、C2と、電圧センサ13,21と、負荷回路23と、エンジン4と、モータジェネレータMG1,MG2と、動力分割機構3と、車輪2と、制御装置30とを含む。
【0018】
車両100は、さらに、電源ラインPL1,PL2と、接地ラインSLと、バッテリBの端子間の電圧VBを検出する電圧センサ10と、バッテリBに流れる電流IBを検出する電流センサ11とを含む。バッテリBとしては、たとえば、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の二次電池を用いることができる。
【0019】
コンデンサC1は、図示しないシステムメインリレーが導通しているときにバッテリBに接続され、バッテリBの端子間電圧を平滑化する。コンデンサC1は、電源ラインPL1と接地ラインSL間に接続される。また、電源ラインPL1と接地ラインSL間には、負荷回路である図示しない電動エアコンが接続されている。
【0020】
電圧センサ21は、コンデンサC1の両端間の電圧VLを検知して制御装置30に対して出力する。昇圧コンバータ12は、コンデンサC1の端子間電圧を昇圧する。コンデンサC2は、昇圧コンバータ12によって昇圧された電圧を平滑化する。電圧センサ13は、平滑用コンデンサC2の端子間電圧VHを検知して制御装置30に出力する。
【0021】
負荷回路23は、インバータ14および22を含む。インバータ14は、昇圧コンバータ12から与えられる直流電圧を三相交流に変換してモータジェネレータMG2に出力する。
【0022】
動力分割機構3は、エンジン4とモータジェネレータMG1,MG2に結合されて、これらの間で動力を分配する機構である。たとえば動力分割機構としては図示しないサンギヤ、プラネタリキャリヤ、リングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構を用いることができる。この3つの回転軸がエンジン4、モータジェネレータMG1,MG2の各回転軸にそれぞれ接続される。
【0023】
なおモータジェネレータMG2の回転軸は、図示しない減速ギヤおよび差動ギヤによって車輪2に結合されている。また動力分割機構3の内部にモータジェネレータMG2の回転軸に対する減速機をさらに組み込んでもよい。また、この減速機の減速比を切り替え可能に構成しても良い。
【0024】
昇圧コンバータ12は、一方端が電源ラインPL1に接続されるリアクトルL1と、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列に接続されるIGBT素子Q1,Q2と、IGBT素子Q1,Q2にそれぞれ並列に接続されるダイオードD1,D2とを含む。
【0025】
リアクトルL1の他方端はIGBT素子Q1のエミッタおよびIGBT素子Q2のコレクタに接続される。ダイオードD1のカソードはIGBT素子Q1のコレクタと接続され、ダイオードD1のアノードはIGBT素子Q1のエミッタと接続される。ダイオードD2のカソードはIGBT素子Q2のコレクタと接続され、ダイオードD2のアノードはIGBT素子Q2のエミッタと接続される。
【0026】
インバータ14は、電源ラインPL2と接地ラインSLに接続されている。インバータ14は、車輪2を駆動するモータジェネレータMG2に対して昇圧コンバータ12の出力する直流電圧を三相交流に変換して出力する。またインバータ14は、回生制動に伴い、モータジェネレータMG2において発電された電力を昇圧コンバータ12に戻す。このとき昇圧コンバータ12は、降圧回路として動作するように制御装置30によって制御される。
【0027】
インバータ14は、U相アーム15と、V相アーム16と、W相アーム17とを含む。U相アーム15,V相アーム16,およびW相アーム17は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に並列に接続される。
【0028】
U相アーム15は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子Q3,Q4と、IGBT素子Q3,Q4とそれぞれ並列に接続されるダイオードD3,D4とを含む。ダイオードD3のカソードはIGBT素子Q3のコレクタと接続され、ダイオードD3のアノードはIGBT素子Q3のエミッタと接続される。ダイオードD4のカソードはIGBT素子Q4のコレクタと接続され、ダイオードD4のアノードはIGBT素子Q4のエミッタと接続される。
【0029】
V相アーム16は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子Q5,Q6と、IGBT素子Q5,Q6とそれぞれ並列に接続されるダイオードD5,D6とを含む。ダイオードD5のカソードはIGBT素子Q5のコレクタと接続され、ダイオードD5のアノードはIGBT素子Q5のエミッタと接続される。ダイオードD6のカソードはIGBT素子Q6のコレクタと接続され、ダイオードD6のアノードはI
GBT素子Q6のエミッタと接続される。
【0030】
W相アーム17は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子Q7,Q8と、IGBT素子Q7,Q8とそれぞれ並列に接続されるダイオードD7,D8とを含む。ダイオードD7のカソードはIGBT素子Q7のコレクタと接続され、ダイオードD7のアノードはIGBT素子Q7のエミッタと接続される。ダイオードD8のカソードはIGBT素子Q8のコレクタと接続され、ダイオードD8のアノードはIGBT素子Q8のエミッタと接続される。
【0031】
各相のアームの中間点は、モータジェネレータMG2の各相のコイルの一端に接続されている。すなわち、モータジェネレータMG2は、三相の永久磁石同期モータであり、U,V,W相の3つのコイルUL,VL,WLは各々一方端が中点に共に接続されている。そして、U相コイルULの他方端がIGBT素子Q3,Q4の接続ノードに接続される。またV相コイルVLの他方端がIGBT素子Q5,Q6の接続ノードに接続される。またW相コイルWLの他方端がIGBT素子Q7,Q8の接続ノードに接続される。
【0032】
なお、以上のIGBT素子Q1〜Q8に代えてパワーMOSFET等の他の電力スイッチング素子を用いても良い。
【0033】
電流センサ24は、モータジェネレータMG2に流れる電流をモータ電流値MCRT2として検出し、モータ電流値MCRT2を制御装置30へ出力する。電流センサ24は、U相コイルULに流れる電流を検出するセンサ24Uと、V相コイルVLに流れる電流を検出するセンサ24Vとを含む。W相コイルWLに流れる電流はセンサ24U,24Vの出力から計算により求めることができる。このため、W相コイルWLには電流センサは設けられていない。
【0034】
インバータ22は、昇圧コンバータ12から昇圧された電圧を受けて、たとえばエンジン4を始動させるために、モータジェネレータMG1を駆動する。また、インバータ22は、エンジン4から伝達される動力によってモータジェネレータMG1で発電された電力を昇圧コンバータ12に戻す。このとき昇圧コンバータ12は、降圧回路として動作するように制御装置30によって制御される。
【0035】
なお、インバータ22の内部の構成は、図示しないがインバータ14と同様であり、詳細な説明は繰返さない。
【0036】
電流センサ25は、モータジェネレータMG1に流れる電流をモータ電流値MCRT1として検出し、モータ電流値MCRT1を制御装置30へ出力する。電流センサ25は、U相コイルに流れる電流を検出するセンサ25Uと、V相コイルに流れる電流を検出するセンサ25Vとを含む。W相コイルに流れる電流はセンサ25U,25Vの出力から計算により求めることができる。このため、W相コイルWLには電流センサは設けられていない。
【0037】
制御装置30は、トルク指令値TR1,TR2、モータ回転数MRN1,MRN2、電圧VB,VH、電流IBの各値、モータ電流値MCRT1,MCRT2および起動指示IGONを受ける。そして制御装置30は、昇圧コンバータ12に対して昇圧指示PWU,降圧指示PWDおよび動作禁止を指示する信号CSDNを出力する。
【0038】
モータ回転数MRN1は、回転センサ46で検出される。モータ回転数MRN2は、回転センサ44で検出される。回転センサ44,46としては、ロータの回転速度と絶対位
置が検出可能なレゾルバを用いることができる。
【0039】
さらに、制御装置30は、インバータ22に対して、駆動指示PWMI1と回生指示PWMC1とを出力する。駆動指示PWMI1は、昇圧コンバータ12の出力である直流電圧を、モータジェネレータMG1を駆動するための交流電圧に変換させる指示である。また、回生指示PWMC1は、モータジェネレータMG1で発電された交流電圧を直流電圧に変換して昇圧コンバータ12側に戻すための指示である。
【0040】
同様に制御装置30は、インバータ14に対して、駆動指示PWMI2と回生指示PWMC2とを出力する。駆動指示PWMI2は、モータジェネレータMG2を駆動するための交流電圧に直流電圧を変換させる指示である。また回生指示PWMC2は、モータジェネレータMG2で発電された交流電圧を直流電圧に変換して昇圧コンバータ12側に戻すための指示である。
【0041】
図2は、三相のコイルに流れる電流について説明するための波形図である。
図3は、ロータ位置が図2のF1に有るときに各コイルに流れる電流を示した図である。
【0042】
図2、図3を参照して、U相コイル、V相コイル、W相コイルには120°ずつ位相がずれた電流が流される。そして、ロータ位置が図2のF1に有るときには、図3に示すようにU相コイルULに流れる電流をiuとすると、V相コイルVLに流れる電流iv、W相コイルWLに流れる電流iwは、ともに−0.5iuとなる。
【0043】
熱損失は一般に電流値の2乗に比例するので、U相コイルに電流を流すインバータ素子の発熱量はW相コイルに電流を流すインバータ素子の発熱量の4倍になる。
【0044】
一定以上の速度で車両が走行している場合には、ロータ位置は図2のF1〜F6まで順に回転するので1相のコイルに電流が集中することはない。しかし、縁石や車止めなどの障害物に車輪が当接しているときにアクセルペダルを踏込んでいる場合(ロック状態)や、上り坂の途中で渋滞等のため停止している際にブレーキを踏まずにアクセルペダルの加減で停止状態を維持させるような場合には、たとえばロータ位置が図2のF1に固定された状態で電流が流れ続ける。すると、1相のコイルに電流を流すインバータ素子が他のインバータ素子よりも多く発熱する状態となってしまう。
【0045】
図4は、素子温度の変化について説明するための図である。
図3のようにU相コイルに多くの電流が集中する状態が継続すると、図4に示すように電流集中状態となったインバータ素子の初期温度がT0とするとW相コイルに電流を流す素子の昇温幅ΔTwに対してU相コイルに電流を流す素子の昇温幅ΔTuは大きくなっている。このような状態が続くことは好ましくない。
【0046】
しかし、ロックすることを前提としてモータやインバータ素子を設計すると、耐熱性を過剰に求めることになり、製造コストが高くなってしまう。そこで、トルク指令値に対して連続許容トルクを設定する。連続許容トルクは、連続して要求してもモータやインバータ素子が耐えられるトルク指令値である。
【0047】
モータが適度に回転していれば、各相に要求されるトルクは周期的に増減するので瞬間的なトルク指令値が連続許容トルクを超えることについては問題ない。しかし、モータがロック判定条件を満たした状態が所定の判定時間継続するとU,V,Wのいずれかの相に電流が集中するのでインバータ素子が過熱するおそれがある。そこで、モータがロック状態となったときのために、ロック判定を行い、ロック判定がON状態の間はトルク指令値を連続許容トルクより低くなるように制限する。なお、制限した瞬間にトルクが不連続に変化すると不快な振動等の原因になるので、制限後のトルク指令はあまり急激に変化しない下降速度(下降レート)で連続許容トルクより低いトルクまで減少する。
【0048】
本実施の形態では、トルク指令を制限により減少させる際の下降速度を途中で変化させる。この下降速度の変化を説明するために、モータロック時の保護処理と、下降速度の切換処理について説明する。
【0049】
図5は、モータロック時の保護処理を説明するためのフローチャートである。図6は、トルク指令の下降速度を2段階に切り替える処理を説明するためのフローチャートである。図5、図6のフローチャートは、それぞれ対応するメインルーチンから呼び出され、実行される。
【0050】
図7は、ロック判定時にトルク制限が行なわれる様子を説明するための動作波形図である。
【0051】
図5、図7を参照して、まず処理が開始されると、ステップS1においてトルク指令値が連続許容トルク以上であるか否かが判断される。トルク指令値≧連続許容トルクが成立した場合にはステップS2に処理が進み、成立しなければステップS7に処理が進む。
【0052】
ステップS2では、モータ回転数が判定しきい値より低いか否かが判断される。モータ回転数<判定しきい値が成立すればステップS3に処理が進み、成立しなければステップS7に処理が進む。
【0053】
ステップS3では、モータ電流が判定しきい値より大きいか否かが判断される。モータ電流は、U相、V相、W相のいずれか1つでも判定しきい値より大きければ電流集中が発生しているのでインバータ素子を保護する必要がある。ステップS3において、U相、V相、W相のいずれかのモータ電流>判定しきい値が成立した場合にはステップS4に処理が進み、成立しなければステップS7に処理が進む。
【0054】
ステップS4では、ステップS1〜S3に示した3条件の同時成立が一定時間以上であるか否かが判断される。この一定時間は、図7では電流集中判定時間として示されている。短時間であれば、連続許容トルクを超えるトルク指令が与えられてもインバータ素子が過熱することはないが、一定時間を超えるとインバータ素子を保護するため電流を下げる必要がある。
【0055】
ステップS4において、3条件の同時成立が一定時間以上であるという条件が成立した場合には、ステップS5に処理が進み、成立しない場合にはステップS7に処理が進む。
【0056】
ステップS5では、ロック判定=ON、すなわちモータがロックしていると判断される。一方ステップS7では、ロック判定=OFF、すなわちモータのロックが解除されたと判断される。
【0057】
ステップS5においてロック判定=ONに設定された場合には、ステップS6に処理が進み、トルク指令値を制限する処理が行なわれる。図7のロック判定=ON期間の開始とともに、トルク指令値は、トルク要求が大きくても制限され、一定のトルク下降レートで減少する。すると電流が低減し、ロック判定=OFFに変化する。すると再びトルク要求に基づいてトルク指令値が元通りに増加されていく。以降は、同様にトルク指令値の増減とインバータ出力電流の増減が繰返される。
【0058】
このとき、繰り返しロック時のインターバル時間は、素子の冷却期間になる。したがって、インターバルが長いほうが素子保護の観点からは有利である。
【0059】
図8は、トルク指令の下降レートを2段階に切り替えることによってインターバル時間を増やすことを説明するための図である。
【0060】
図8に示すように、トルク指令値がしきい値Trfより大きい領域では、下降レートをF1に設定し、トルク指令値がしきい値Trfより小さい領域では、下降レートをF2に設定する。下降レートF1よりも下降レートF2のほうがゆっくりとした下降レートとなる。
【0061】
下降レートF2の部分を設けることにより、繰返しロック時のインターバル時間が長くなるので、素子の冷却時間が確保され、インバータ素子を保護する点で有利である。また、高トルク領域では、モータ回転数を上げて早くロックを解除したいので電流やトルク指令値を高めにする。
【0062】
このときロックが解除されモータが回転すればよいが、ロック解除できなかったとしても、下降レートを早くするので電流が速やかに減少するため、ある値以上の大電流を素子に流し続ける時間を短くすることができる。ここでロック解除できなかったときとは、例えば坂道や段差など進行方向と逆向きの反力が車両に作用し、出力トルクと反力が釣り合っている状況が想定される。このときに高トルク領域において下降レートを早くすれば、出力トルクが早く小さくなり反力が勝り、反力による加速度によってわずかに車両が後退する。これによってモータに回転が生じるので、ロック判定がOFFとなりトルク指令値の制限が解除される可能性もある。
【0063】
このような下降レートの切り替えを行なうために、図6に示すフローチャートの制御が行なわれる。図6を参照して、このフローチャートの処理は、図5でステップS1〜S3において判定されたロック判定のための3条件が成立した時に、処理が開始される。
【0064】
まず処理が開始されるとステップS10において、運転者からのトルク要求値とトルク指令値の制限の有無からトルク指令値を仮決定する。そしてステップS11において、トルク指令値が減少するのか否かを判断する。たとえば、トルク要求値自体が前回のトルク指令値よりも減少した場合はトルク指令値が減少すると判断されるが、図5のステップS6においてトルク指令値を制限するような場合もトルク指令値が減少すると判断される。
【0065】
ステップS11においてトルク指令値が減少すると判断されなかった場合には、ステップS16に処理が進み制御はメインルーチンに戻される。一方、ステップS11においてトルク指令値が減少すると判断された場合には、ステップS12に処理が進む。
【0066】
ステップS12では、前回のトルク指令値がしきい値Trfよりも大きいか否かが判断される。これにより、図8で説明したように、下降レートを早い下降レートF1にするかゆっくりした下降レートF2するかを決定する。ステップS12において、前回トルク指令値>しきい値Trfが成立した場合にはステップS13に処理が進み、下降レートはF1に設定される。一方、ステップS12において、前回トルク指令値>しきい値Trfが成立しなかった場合にはステップS14に処理が進み、下降レートはF2に設定される。ここで、F1の絶対値>F2の絶対値であり、F2の方がF1よりもゆっくりした下降レートである。
【0067】
ステップS13またはステップS14において下降レートが設定された後には、ステップS15において今回のトルク指令値が決定される。なお、トルク指令値は、制御装置30に搭載されたCPUの処理サイクルによって繰り返し設定が行なわれている。自然数をnとして、前回のトルク指令値が第n回目に設定されたトルク指令値であれば、今回のトルク指令値は第n+1回目に設定されたトルク指令値である。そして、設定間隔はたとえば10msecごとなど等間隔であってもよいし、等間隔でなくてもよい。
【0068】
ステップS15において今回のトルク指令値が決定されると、ステップS16に処理が進み、制御はメインルーチンに戻される。
【0069】
以上説明したように、実施の形態1では、モータロック時にトルク指令値が下降する場合にトルク指令値が高い領域では早い下降レートとし、トルク指令値が低い領域では遅い下降レートとした。これにより、トルク制限とトルク制限の解除とが繰返されるような場合に繰返しのインターバルが長くなるので、インバータ素子温度が低減され、車両の走行性能を向上させることができる。
【0070】
[実施の形態2]
実施の形態1では、トルク下降レートを低トルク領域で下げるように制御した。実施の形態2では、これに加えて、トルク上昇レートもトルク領域によって変化させる。すなわち、後に図11に示すようにトルク上昇時およびトルク下降時にそれぞれ上昇レート、下降レートに変曲点を持たせる。
【0071】
図9は、トルク指令の上昇および下降速度を2段階に切り替える処理を説明するためのフローチャートである。図9のフローチャートは、それぞれ対応するメインルーチンから呼び出され、実行される。実施の形態2では、実施の形態1の図6のフローチャートの処理に代えて図9のフローチャートの処理が実行される。図5のフローチャートのトルク指令値の制限処理については、実施の形態2でも共通に実行されるが、すでに説明しているのでここでは説明は繰返さない。
【0072】
図10は、実施の形態2においてロック判定時にトルク制限が行なわれる様子を説明するための動作波形図である。
【0073】
図9、図10を参照して、このフローチャートの処理は、図5でステップS1〜S3において判定されたロック判定のための3条件が成立した時に、処理が開始される。図10においてインバータ出力電流が電流集中判定しきい値を超えた時点で上記3条件が成立する。ただし、まだこの時点では電流集中判定時間が経過していないのでロック判定はONにならず、トルク指令の制限は行なわれていないのでトルク指令値は上昇している。
【0074】
まず処理が開始されるとステップS20において、運転者からのトルク要求値とトルク指令値の制限の有無からトルク指令値を仮決定する。そしてステップS21において、トルク指令値が増加するのか否かを判断する。たとえば、トルク要求値自体が前回のトルク指令値よりも増加した場合はトルク指令値が増加すると判断されるが、トルク要求値が同じであってトルク指令値より大きくかつ図5のステップS8においてトルク指令値の制限を解除したような場合(図10ではロック判定がONとなった後OFFになった時点)もこのような場合に含まれる。
【0075】
ステップS21においてトルク指令値が増加すると判断されなかった場合には、ステップS25に処理が進み、一方、ステップS21においてトルク指令値が増加すると判断された場合には、ステップS22に処理が進む。
【0076】
ステップS22では、前回のトルク指令値がしきい値Trrよりも小さいか否かが判断される。
【0077】
図11は、トルク指令値の上昇レートおよび下降レートを途中で変更する処理を説明するための波形図である。図11に示すように、ステップS22においては、しきい値Trrを境に上昇レートを早い上昇レートR2にするかゆっくりした上昇レートR1にするかを決定する。なお、下降レートの変更については、図8で説明しているのでここでは説明は繰返さない。
【0078】
再び図9を参照して、ステップS22において、前回トルク指令値<しきい値Trrが成立した場合にはステップS24に処理が進み、上昇レートはR2に設定される。一方、ステップS22において、前回トルク指令値<しきい値Trrが成立しなかった場合にはステップS23に処理が進み、上昇レートはR1に設定される。ここで、R1<R2であり、R1の方がR2よりもゆっくりした上昇レートである。
【0079】
一方、ステップS21からステップS25に処理が進んだ場合には、トルク指令値が減少するのか否かが判断される。たとえば、トルク要求値自体が前回のトルク指令値よりも減少した場合はトルク指令値が減少すると判断されるが、図5のステップS6においてトルク指令値を制限するような場合もトルク指令値が減少すると判断される。
【0080】
ステップS25においてトルク指令値が減少すると判断されなかった場合には、ステップS30に処理が進み制御はメインルーチンに戻される。一方、ステップS25においてトルク指令値が減少すると判断された場合には、ステップS26に処理が進む。
【0081】
ステップS26では、前回のトルク指令値がしきい値Trfよりも大きいか否かが判断される。これにより、図11で説明したように、下降レートを早い下降レートF1にするかゆっくりした下降レートF2にするかを決定する。ステップS26において、前回トルク指令値>しきい値Trfが成立した場合にはステップS27に処理が進み、下降レートはF1に設定される。一方、ステップS26において、前回トルク指令値>しきい値Trfが成立しなかった場合にはステップS28に処理が進み、下降レートはF2に設定される。ここで、F1の絶対値>F2の絶対値であり、F2の方がF1よりもゆっくりした下降レートを示す。
【0082】
ステップS23もしくはステップS24において上昇レートが設定されたか、またはステップS27もしくはステップS28において下降レートが設定された後には、ステップS29において今回のトルク指令値が決定される。なお、トルク指令値は、制御装置30に搭載されたCPUの処理サイクルによって繰り返し設定が行なわれている。自然数をnとして、前回のトルク指令値が第n回目に設定されたトルク指令値であれば、今回のトルク指令値は第n+1回目に設定されたトルク指令値である。そして、設定間隔はたとえば10msecごとなど等間隔であってもよいし、等間隔でなくてもよい。
【0083】
ステップS29において今回のトルク指令値が決定されると、ステップS30に処理が進み、制御はメインルーチンに戻される。
【0084】
以上説明したように、実施の形態2では、モータロック時にトルク指令値が上昇する場合にトルク指令値が低い領域では早い上昇レートとし、トルク指令値が高い領域では遅い上昇レートとした。これにより、大電流が流れる時間が減るのでインバータ素子温度を低減させることができる。また、高トルク領域のトルク出力パータンを変えることで、ユーザに車両限界点を知らせ、早期のロック状態の解除を促すことができる。
【0085】
さらに、高トルク領域の下降レートを早くすることで、モータ回転数を早く上げて早くロックを解除させる。このため高トルク領域のトルクを出せる時間が長くなる。また登坂性能を向上させることができる。
【0086】
そして、低トルク領域での下降レートを緩やかにすることで、低トルクからのトルク制限を行なう際のショックを低減できる。
【0087】
さらに同じく低トルク領域の下降レートを緩くすることで、ロックが解除され再びトルクが上昇した際のショックが低減される。
【0088】
また、実施の形態1と同様に、トルク制限とトルク制限の解除とが繰り返されるような場合に繰り返しのインターバルが長くなるので、インバータ素子温度が低減され、車両の走行性能を向上させることができる。また高トルク領域において早くトルクを減少させるので、反力によって車輪が回転することも期待できる。
【0089】
なお、実施の形態1,2においては、上昇レート、下降レートを2段階に切り替える例を示したが、さらに変曲点を増やして多段階に変更してもよく、連続的に変更してもよい。
【0090】
最後に実施の形態1,2について、再び図面を参照しながら総括する。図1を参照して、車両の駆動システムは、電動機(モータジェネレータMG2)と、電動機を駆動するインバータ14と、インバータ14に対して周期的にトルク指令値を出力することによって電動機を制御する制御装置30とを含む。制御装置30は、現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定する。
【0091】
好ましくは、制御装置30は、図8または図11に示すように、しきい値Trfより低い低トルク領域でのトルク指令値の下降時の変化率F2をしきい値Trfより高い高トルク領域でのトルク指令値の下降時の変化率F1よりも緩やかに設定して次回のトルク指令値を決定する。
【0092】
より好ましくは、制御装置30は、図11に示すようにしきい値Trrより高い高トルク領域でのトルク指令値の上昇時の変化率R1をしきい値Trrより低い低トルク領域でのトルク指令値の上昇時の変化率R2よりも緩やかに設定して次回のトルク指令値を決定する。
【0093】
好ましくは、制御装置30は、現在のトルク指令値の大きさが連続許容値より大きく、かつ電動機の回転数が所定数より大きく、かつ電動機に流れる電流が所定値よりも大きい場合に、図6または図9の処理を開始させ、電動機に対する現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定する。
【0094】
この発明は他の局面においては、電動機と、電動機を駆動するインバータとを含む車両の駆動システムの制御方法であって、電動機に対する現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、現在のトルク指令値が高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するか否かを判断するステップ(図6のステップS12または、図9のステップS22、S26)と、現在のトルク指令値が属する領域に基づいてトルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定するステップ(図6のステップS13,S14または図9のステップS23,S24,S27,S28)とを含む。
【0095】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0096】
2 車輪、3 動力分割機構、4 エンジン、10,13,21 電圧センサ、11 電流センサ、12 昇圧コンバータ、14,22 インバータ、15 U相アーム、16 V相アーム、17 W相アーム、23 負荷回路、24,24U,24V,25,25U,25V 電流センサ、30 制御装置、44,46 回転センサ、100 車両、B バッテリ、C1,C2 平滑用コンデンサ、D1〜D8 ダイオード、L1 リアクトル、MG1,MG2 モータジェネレータ、MRN1,MRN2 モータ回転数、PL1,PL2 電源ライン、Q1〜Q8 IGBT素子、SL 接地ライン、UL,VL,WL コイル。
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の駆動システムおよびその制御方法に関し、特に電動機とインバータとを搭載する車両の駆動システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平11−215687号公報(特許文献1)は、登坂時にモータがロック状態に陥ってもロック状態から容易に脱出し得るとともにスイッチング素子の破損を防止し得る電気自動車の過負荷防止装置を開示する。
【0003】
電気自動車が登坂時に停止状態からゆっくりと発進しようとするとモータのロック状態が長くなる。モータのロック状態が長くなるとスイッチング素子を保護するためにモータの出力が制限される。このため、更にアクセルを踏み込んでもモータの出力制限によりなかなか発進できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−215687号公報
【特許文献2】特開2007−329982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開平11−215687号公報に開示された技術では、モータがロック状態にあると判定された場合には、インバータ回路のスイッチング素子の接合温度最大値に対応する制限トルクを演算し、この制限トルクから変位トルクを減算して、リミットトルクを変異トルクずつ低減し、これにより位相領域を変化させ、ロック状態を解除している。
【0006】
しかし、インバータ素子温度低減、および運転者の快適満足性の点においてさらに改善する余地がある。
【0007】
この発明の目的は、電動機のロック時にインバータ素子の温度が低減され、かつ運転者の快適満足性を向上させた車両の駆動システムおよびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、要約すると、車両の駆動システムであって、電動機と、電動機を駆動するインバータと、インバータに対して周期的にトルク指令値を出力することによって電動機を制御する制御装置とを含む。制御装置は、現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定する。
【0009】
好ましくは、制御装置は、低トルク領域でのトルク指令値の下降時の変化率を高トルク領域でのトルク指令値の下降時の変化率よりも緩やかに設定して次回のトルク指令値を決定する。
【0010】
より好ましくは、制御装置は、高トルク領域でのトルク指令値の上昇時の変化率を低トルク領域でのトルク指令値の上昇時の変化率よりも緩やかに設定して次回のトルク指令値を決定する。
【0011】
好ましくは、制御装置は、現在のトルク指令値の大きさが連続許容値より大きく、かつ電動機の回転数が所定数より大きく、かつ電動機に流れる電流が所定値よりも大きい場合に、電動機に対する現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定する。
【0012】
この発明は他の局面においては、電動機と、電動機を駆動するインバータとを含む車両の駆動システムの制御方法であって、電動機に対する現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、現在のトルク指令値が高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するか否かを判断するステップと、現在のトルク指令値が属する領域に基づいてトルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電動機のロック時にインバータ素子の温度が低減されることによりインバータ素子の保護が強化され、かつ運転者の快適満足性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両100の主たる構成を示す図である。
【図2】三相のコイルに流れる電流について説明するための波形図である。
【図3】ロータ位置が図2のF1に有るときに各コイルに流れる電流を示した図である。
【図4】素子温度の変化について説明するための図である。
【図5】モータロック時の保護処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】トルク指令の下降速度を2段階に切り替える処理を説明するためのフローチャートである。
【図7】ロック判定時にトルク制限が行なわれる様子を説明するための動作波形図である。
【図8】トルク指令の下降レートを2段階に切り替えることによってインターバル時間を増やすことを説明するための図である。
【図9】トルク指令の上昇および下降速度を2段階に切り替える処理を説明するためのフローチャートである。
【図10】実施の形態2においてロック判定時にトルク制限が行なわれる様子を説明するための動作波形図である。
【図11】トルク指令値の上昇レートおよび下降レートを途中で変更する処理を説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0016】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態に係る車両100の主たる構成を示す図である。なお車両100は、モータとエンジンとを車両の駆動に併用するハイブリッド自動車であるが、本発明は、モータで車輪を駆動する電気自動車、燃料電池自動車等に対しても適用することができる。
【0017】
図1を参照して、車両100は、バッテリBと、昇圧コンバータ12と、平滑用コンデンサC1、C2と、電圧センサ13,21と、負荷回路23と、エンジン4と、モータジェネレータMG1,MG2と、動力分割機構3と、車輪2と、制御装置30とを含む。
【0018】
車両100は、さらに、電源ラインPL1,PL2と、接地ラインSLと、バッテリBの端子間の電圧VBを検出する電圧センサ10と、バッテリBに流れる電流IBを検出する電流センサ11とを含む。バッテリBとしては、たとえば、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の二次電池を用いることができる。
【0019】
コンデンサC1は、図示しないシステムメインリレーが導通しているときにバッテリBに接続され、バッテリBの端子間電圧を平滑化する。コンデンサC1は、電源ラインPL1と接地ラインSL間に接続される。また、電源ラインPL1と接地ラインSL間には、負荷回路である図示しない電動エアコンが接続されている。
【0020】
電圧センサ21は、コンデンサC1の両端間の電圧VLを検知して制御装置30に対して出力する。昇圧コンバータ12は、コンデンサC1の端子間電圧を昇圧する。コンデンサC2は、昇圧コンバータ12によって昇圧された電圧を平滑化する。電圧センサ13は、平滑用コンデンサC2の端子間電圧VHを検知して制御装置30に出力する。
【0021】
負荷回路23は、インバータ14および22を含む。インバータ14は、昇圧コンバータ12から与えられる直流電圧を三相交流に変換してモータジェネレータMG2に出力する。
【0022】
動力分割機構3は、エンジン4とモータジェネレータMG1,MG2に結合されて、これらの間で動力を分配する機構である。たとえば動力分割機構としては図示しないサンギヤ、プラネタリキャリヤ、リングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構を用いることができる。この3つの回転軸がエンジン4、モータジェネレータMG1,MG2の各回転軸にそれぞれ接続される。
【0023】
なおモータジェネレータMG2の回転軸は、図示しない減速ギヤおよび差動ギヤによって車輪2に結合されている。また動力分割機構3の内部にモータジェネレータMG2の回転軸に対する減速機をさらに組み込んでもよい。また、この減速機の減速比を切り替え可能に構成しても良い。
【0024】
昇圧コンバータ12は、一方端が電源ラインPL1に接続されるリアクトルL1と、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列に接続されるIGBT素子Q1,Q2と、IGBT素子Q1,Q2にそれぞれ並列に接続されるダイオードD1,D2とを含む。
【0025】
リアクトルL1の他方端はIGBT素子Q1のエミッタおよびIGBT素子Q2のコレクタに接続される。ダイオードD1のカソードはIGBT素子Q1のコレクタと接続され、ダイオードD1のアノードはIGBT素子Q1のエミッタと接続される。ダイオードD2のカソードはIGBT素子Q2のコレクタと接続され、ダイオードD2のアノードはIGBT素子Q2のエミッタと接続される。
【0026】
インバータ14は、電源ラインPL2と接地ラインSLに接続されている。インバータ14は、車輪2を駆動するモータジェネレータMG2に対して昇圧コンバータ12の出力する直流電圧を三相交流に変換して出力する。またインバータ14は、回生制動に伴い、モータジェネレータMG2において発電された電力を昇圧コンバータ12に戻す。このとき昇圧コンバータ12は、降圧回路として動作するように制御装置30によって制御される。
【0027】
インバータ14は、U相アーム15と、V相アーム16と、W相アーム17とを含む。U相アーム15,V相アーム16,およびW相アーム17は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に並列に接続される。
【0028】
U相アーム15は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子Q3,Q4と、IGBT素子Q3,Q4とそれぞれ並列に接続されるダイオードD3,D4とを含む。ダイオードD3のカソードはIGBT素子Q3のコレクタと接続され、ダイオードD3のアノードはIGBT素子Q3のエミッタと接続される。ダイオードD4のカソードはIGBT素子Q4のコレクタと接続され、ダイオードD4のアノードはIGBT素子Q4のエミッタと接続される。
【0029】
V相アーム16は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子Q5,Q6と、IGBT素子Q5,Q6とそれぞれ並列に接続されるダイオードD5,D6とを含む。ダイオードD5のカソードはIGBT素子Q5のコレクタと接続され、ダイオードD5のアノードはIGBT素子Q5のエミッタと接続される。ダイオードD6のカソードはIGBT素子Q6のコレクタと接続され、ダイオードD6のアノードはI
GBT素子Q6のエミッタと接続される。
【0030】
W相アーム17は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子Q7,Q8と、IGBT素子Q7,Q8とそれぞれ並列に接続されるダイオードD7,D8とを含む。ダイオードD7のカソードはIGBT素子Q7のコレクタと接続され、ダイオードD7のアノードはIGBT素子Q7のエミッタと接続される。ダイオードD8のカソードはIGBT素子Q8のコレクタと接続され、ダイオードD8のアノードはIGBT素子Q8のエミッタと接続される。
【0031】
各相のアームの中間点は、モータジェネレータMG2の各相のコイルの一端に接続されている。すなわち、モータジェネレータMG2は、三相の永久磁石同期モータであり、U,V,W相の3つのコイルUL,VL,WLは各々一方端が中点に共に接続されている。そして、U相コイルULの他方端がIGBT素子Q3,Q4の接続ノードに接続される。またV相コイルVLの他方端がIGBT素子Q5,Q6の接続ノードに接続される。またW相コイルWLの他方端がIGBT素子Q7,Q8の接続ノードに接続される。
【0032】
なお、以上のIGBT素子Q1〜Q8に代えてパワーMOSFET等の他の電力スイッチング素子を用いても良い。
【0033】
電流センサ24は、モータジェネレータMG2に流れる電流をモータ電流値MCRT2として検出し、モータ電流値MCRT2を制御装置30へ出力する。電流センサ24は、U相コイルULに流れる電流を検出するセンサ24Uと、V相コイルVLに流れる電流を検出するセンサ24Vとを含む。W相コイルWLに流れる電流はセンサ24U,24Vの出力から計算により求めることができる。このため、W相コイルWLには電流センサは設けられていない。
【0034】
インバータ22は、昇圧コンバータ12から昇圧された電圧を受けて、たとえばエンジン4を始動させるために、モータジェネレータMG1を駆動する。また、インバータ22は、エンジン4から伝達される動力によってモータジェネレータMG1で発電された電力を昇圧コンバータ12に戻す。このとき昇圧コンバータ12は、降圧回路として動作するように制御装置30によって制御される。
【0035】
なお、インバータ22の内部の構成は、図示しないがインバータ14と同様であり、詳細な説明は繰返さない。
【0036】
電流センサ25は、モータジェネレータMG1に流れる電流をモータ電流値MCRT1として検出し、モータ電流値MCRT1を制御装置30へ出力する。電流センサ25は、U相コイルに流れる電流を検出するセンサ25Uと、V相コイルに流れる電流を検出するセンサ25Vとを含む。W相コイルに流れる電流はセンサ25U,25Vの出力から計算により求めることができる。このため、W相コイルWLには電流センサは設けられていない。
【0037】
制御装置30は、トルク指令値TR1,TR2、モータ回転数MRN1,MRN2、電圧VB,VH、電流IBの各値、モータ電流値MCRT1,MCRT2および起動指示IGONを受ける。そして制御装置30は、昇圧コンバータ12に対して昇圧指示PWU,降圧指示PWDおよび動作禁止を指示する信号CSDNを出力する。
【0038】
モータ回転数MRN1は、回転センサ46で検出される。モータ回転数MRN2は、回転センサ44で検出される。回転センサ44,46としては、ロータの回転速度と絶対位
置が検出可能なレゾルバを用いることができる。
【0039】
さらに、制御装置30は、インバータ22に対して、駆動指示PWMI1と回生指示PWMC1とを出力する。駆動指示PWMI1は、昇圧コンバータ12の出力である直流電圧を、モータジェネレータMG1を駆動するための交流電圧に変換させる指示である。また、回生指示PWMC1は、モータジェネレータMG1で発電された交流電圧を直流電圧に変換して昇圧コンバータ12側に戻すための指示である。
【0040】
同様に制御装置30は、インバータ14に対して、駆動指示PWMI2と回生指示PWMC2とを出力する。駆動指示PWMI2は、モータジェネレータMG2を駆動するための交流電圧に直流電圧を変換させる指示である。また回生指示PWMC2は、モータジェネレータMG2で発電された交流電圧を直流電圧に変換して昇圧コンバータ12側に戻すための指示である。
【0041】
図2は、三相のコイルに流れる電流について説明するための波形図である。
図3は、ロータ位置が図2のF1に有るときに各コイルに流れる電流を示した図である。
【0042】
図2、図3を参照して、U相コイル、V相コイル、W相コイルには120°ずつ位相がずれた電流が流される。そして、ロータ位置が図2のF1に有るときには、図3に示すようにU相コイルULに流れる電流をiuとすると、V相コイルVLに流れる電流iv、W相コイルWLに流れる電流iwは、ともに−0.5iuとなる。
【0043】
熱損失は一般に電流値の2乗に比例するので、U相コイルに電流を流すインバータ素子の発熱量はW相コイルに電流を流すインバータ素子の発熱量の4倍になる。
【0044】
一定以上の速度で車両が走行している場合には、ロータ位置は図2のF1〜F6まで順に回転するので1相のコイルに電流が集中することはない。しかし、縁石や車止めなどの障害物に車輪が当接しているときにアクセルペダルを踏込んでいる場合(ロック状態)や、上り坂の途中で渋滞等のため停止している際にブレーキを踏まずにアクセルペダルの加減で停止状態を維持させるような場合には、たとえばロータ位置が図2のF1に固定された状態で電流が流れ続ける。すると、1相のコイルに電流を流すインバータ素子が他のインバータ素子よりも多く発熱する状態となってしまう。
【0045】
図4は、素子温度の変化について説明するための図である。
図3のようにU相コイルに多くの電流が集中する状態が継続すると、図4に示すように電流集中状態となったインバータ素子の初期温度がT0とするとW相コイルに電流を流す素子の昇温幅ΔTwに対してU相コイルに電流を流す素子の昇温幅ΔTuは大きくなっている。このような状態が続くことは好ましくない。
【0046】
しかし、ロックすることを前提としてモータやインバータ素子を設計すると、耐熱性を過剰に求めることになり、製造コストが高くなってしまう。そこで、トルク指令値に対して連続許容トルクを設定する。連続許容トルクは、連続して要求してもモータやインバータ素子が耐えられるトルク指令値である。
【0047】
モータが適度に回転していれば、各相に要求されるトルクは周期的に増減するので瞬間的なトルク指令値が連続許容トルクを超えることについては問題ない。しかし、モータがロック判定条件を満たした状態が所定の判定時間継続するとU,V,Wのいずれかの相に電流が集中するのでインバータ素子が過熱するおそれがある。そこで、モータがロック状態となったときのために、ロック判定を行い、ロック判定がON状態の間はトルク指令値を連続許容トルクより低くなるように制限する。なお、制限した瞬間にトルクが不連続に変化すると不快な振動等の原因になるので、制限後のトルク指令はあまり急激に変化しない下降速度(下降レート)で連続許容トルクより低いトルクまで減少する。
【0048】
本実施の形態では、トルク指令を制限により減少させる際の下降速度を途中で変化させる。この下降速度の変化を説明するために、モータロック時の保護処理と、下降速度の切換処理について説明する。
【0049】
図5は、モータロック時の保護処理を説明するためのフローチャートである。図6は、トルク指令の下降速度を2段階に切り替える処理を説明するためのフローチャートである。図5、図6のフローチャートは、それぞれ対応するメインルーチンから呼び出され、実行される。
【0050】
図7は、ロック判定時にトルク制限が行なわれる様子を説明するための動作波形図である。
【0051】
図5、図7を参照して、まず処理が開始されると、ステップS1においてトルク指令値が連続許容トルク以上であるか否かが判断される。トルク指令値≧連続許容トルクが成立した場合にはステップS2に処理が進み、成立しなければステップS7に処理が進む。
【0052】
ステップS2では、モータ回転数が判定しきい値より低いか否かが判断される。モータ回転数<判定しきい値が成立すればステップS3に処理が進み、成立しなければステップS7に処理が進む。
【0053】
ステップS3では、モータ電流が判定しきい値より大きいか否かが判断される。モータ電流は、U相、V相、W相のいずれか1つでも判定しきい値より大きければ電流集中が発生しているのでインバータ素子を保護する必要がある。ステップS3において、U相、V相、W相のいずれかのモータ電流>判定しきい値が成立した場合にはステップS4に処理が進み、成立しなければステップS7に処理が進む。
【0054】
ステップS4では、ステップS1〜S3に示した3条件の同時成立が一定時間以上であるか否かが判断される。この一定時間は、図7では電流集中判定時間として示されている。短時間であれば、連続許容トルクを超えるトルク指令が与えられてもインバータ素子が過熱することはないが、一定時間を超えるとインバータ素子を保護するため電流を下げる必要がある。
【0055】
ステップS4において、3条件の同時成立が一定時間以上であるという条件が成立した場合には、ステップS5に処理が進み、成立しない場合にはステップS7に処理が進む。
【0056】
ステップS5では、ロック判定=ON、すなわちモータがロックしていると判断される。一方ステップS7では、ロック判定=OFF、すなわちモータのロックが解除されたと判断される。
【0057】
ステップS5においてロック判定=ONに設定された場合には、ステップS6に処理が進み、トルク指令値を制限する処理が行なわれる。図7のロック判定=ON期間の開始とともに、トルク指令値は、トルク要求が大きくても制限され、一定のトルク下降レートで減少する。すると電流が低減し、ロック判定=OFFに変化する。すると再びトルク要求に基づいてトルク指令値が元通りに増加されていく。以降は、同様にトルク指令値の増減とインバータ出力電流の増減が繰返される。
【0058】
このとき、繰り返しロック時のインターバル時間は、素子の冷却期間になる。したがって、インターバルが長いほうが素子保護の観点からは有利である。
【0059】
図8は、トルク指令の下降レートを2段階に切り替えることによってインターバル時間を増やすことを説明するための図である。
【0060】
図8に示すように、トルク指令値がしきい値Trfより大きい領域では、下降レートをF1に設定し、トルク指令値がしきい値Trfより小さい領域では、下降レートをF2に設定する。下降レートF1よりも下降レートF2のほうがゆっくりとした下降レートとなる。
【0061】
下降レートF2の部分を設けることにより、繰返しロック時のインターバル時間が長くなるので、素子の冷却時間が確保され、インバータ素子を保護する点で有利である。また、高トルク領域では、モータ回転数を上げて早くロックを解除したいので電流やトルク指令値を高めにする。
【0062】
このときロックが解除されモータが回転すればよいが、ロック解除できなかったとしても、下降レートを早くするので電流が速やかに減少するため、ある値以上の大電流を素子に流し続ける時間を短くすることができる。ここでロック解除できなかったときとは、例えば坂道や段差など進行方向と逆向きの反力が車両に作用し、出力トルクと反力が釣り合っている状況が想定される。このときに高トルク領域において下降レートを早くすれば、出力トルクが早く小さくなり反力が勝り、反力による加速度によってわずかに車両が後退する。これによってモータに回転が生じるので、ロック判定がOFFとなりトルク指令値の制限が解除される可能性もある。
【0063】
このような下降レートの切り替えを行なうために、図6に示すフローチャートの制御が行なわれる。図6を参照して、このフローチャートの処理は、図5でステップS1〜S3において判定されたロック判定のための3条件が成立した時に、処理が開始される。
【0064】
まず処理が開始されるとステップS10において、運転者からのトルク要求値とトルク指令値の制限の有無からトルク指令値を仮決定する。そしてステップS11において、トルク指令値が減少するのか否かを判断する。たとえば、トルク要求値自体が前回のトルク指令値よりも減少した場合はトルク指令値が減少すると判断されるが、図5のステップS6においてトルク指令値を制限するような場合もトルク指令値が減少すると判断される。
【0065】
ステップS11においてトルク指令値が減少すると判断されなかった場合には、ステップS16に処理が進み制御はメインルーチンに戻される。一方、ステップS11においてトルク指令値が減少すると判断された場合には、ステップS12に処理が進む。
【0066】
ステップS12では、前回のトルク指令値がしきい値Trfよりも大きいか否かが判断される。これにより、図8で説明したように、下降レートを早い下降レートF1にするかゆっくりした下降レートF2するかを決定する。ステップS12において、前回トルク指令値>しきい値Trfが成立した場合にはステップS13に処理が進み、下降レートはF1に設定される。一方、ステップS12において、前回トルク指令値>しきい値Trfが成立しなかった場合にはステップS14に処理が進み、下降レートはF2に設定される。ここで、F1の絶対値>F2の絶対値であり、F2の方がF1よりもゆっくりした下降レートである。
【0067】
ステップS13またはステップS14において下降レートが設定された後には、ステップS15において今回のトルク指令値が決定される。なお、トルク指令値は、制御装置30に搭載されたCPUの処理サイクルによって繰り返し設定が行なわれている。自然数をnとして、前回のトルク指令値が第n回目に設定されたトルク指令値であれば、今回のトルク指令値は第n+1回目に設定されたトルク指令値である。そして、設定間隔はたとえば10msecごとなど等間隔であってもよいし、等間隔でなくてもよい。
【0068】
ステップS15において今回のトルク指令値が決定されると、ステップS16に処理が進み、制御はメインルーチンに戻される。
【0069】
以上説明したように、実施の形態1では、モータロック時にトルク指令値が下降する場合にトルク指令値が高い領域では早い下降レートとし、トルク指令値が低い領域では遅い下降レートとした。これにより、トルク制限とトルク制限の解除とが繰返されるような場合に繰返しのインターバルが長くなるので、インバータ素子温度が低減され、車両の走行性能を向上させることができる。
【0070】
[実施の形態2]
実施の形態1では、トルク下降レートを低トルク領域で下げるように制御した。実施の形態2では、これに加えて、トルク上昇レートもトルク領域によって変化させる。すなわち、後に図11に示すようにトルク上昇時およびトルク下降時にそれぞれ上昇レート、下降レートに変曲点を持たせる。
【0071】
図9は、トルク指令の上昇および下降速度を2段階に切り替える処理を説明するためのフローチャートである。図9のフローチャートは、それぞれ対応するメインルーチンから呼び出され、実行される。実施の形態2では、実施の形態1の図6のフローチャートの処理に代えて図9のフローチャートの処理が実行される。図5のフローチャートのトルク指令値の制限処理については、実施の形態2でも共通に実行されるが、すでに説明しているのでここでは説明は繰返さない。
【0072】
図10は、実施の形態2においてロック判定時にトルク制限が行なわれる様子を説明するための動作波形図である。
【0073】
図9、図10を参照して、このフローチャートの処理は、図5でステップS1〜S3において判定されたロック判定のための3条件が成立した時に、処理が開始される。図10においてインバータ出力電流が電流集中判定しきい値を超えた時点で上記3条件が成立する。ただし、まだこの時点では電流集中判定時間が経過していないのでロック判定はONにならず、トルク指令の制限は行なわれていないのでトルク指令値は上昇している。
【0074】
まず処理が開始されるとステップS20において、運転者からのトルク要求値とトルク指令値の制限の有無からトルク指令値を仮決定する。そしてステップS21において、トルク指令値が増加するのか否かを判断する。たとえば、トルク要求値自体が前回のトルク指令値よりも増加した場合はトルク指令値が増加すると判断されるが、トルク要求値が同じであってトルク指令値より大きくかつ図5のステップS8においてトルク指令値の制限を解除したような場合(図10ではロック判定がONとなった後OFFになった時点)もこのような場合に含まれる。
【0075】
ステップS21においてトルク指令値が増加すると判断されなかった場合には、ステップS25に処理が進み、一方、ステップS21においてトルク指令値が増加すると判断された場合には、ステップS22に処理が進む。
【0076】
ステップS22では、前回のトルク指令値がしきい値Trrよりも小さいか否かが判断される。
【0077】
図11は、トルク指令値の上昇レートおよび下降レートを途中で変更する処理を説明するための波形図である。図11に示すように、ステップS22においては、しきい値Trrを境に上昇レートを早い上昇レートR2にするかゆっくりした上昇レートR1にするかを決定する。なお、下降レートの変更については、図8で説明しているのでここでは説明は繰返さない。
【0078】
再び図9を参照して、ステップS22において、前回トルク指令値<しきい値Trrが成立した場合にはステップS24に処理が進み、上昇レートはR2に設定される。一方、ステップS22において、前回トルク指令値<しきい値Trrが成立しなかった場合にはステップS23に処理が進み、上昇レートはR1に設定される。ここで、R1<R2であり、R1の方がR2よりもゆっくりした上昇レートである。
【0079】
一方、ステップS21からステップS25に処理が進んだ場合には、トルク指令値が減少するのか否かが判断される。たとえば、トルク要求値自体が前回のトルク指令値よりも減少した場合はトルク指令値が減少すると判断されるが、図5のステップS6においてトルク指令値を制限するような場合もトルク指令値が減少すると判断される。
【0080】
ステップS25においてトルク指令値が減少すると判断されなかった場合には、ステップS30に処理が進み制御はメインルーチンに戻される。一方、ステップS25においてトルク指令値が減少すると判断された場合には、ステップS26に処理が進む。
【0081】
ステップS26では、前回のトルク指令値がしきい値Trfよりも大きいか否かが判断される。これにより、図11で説明したように、下降レートを早い下降レートF1にするかゆっくりした下降レートF2にするかを決定する。ステップS26において、前回トルク指令値>しきい値Trfが成立した場合にはステップS27に処理が進み、下降レートはF1に設定される。一方、ステップS26において、前回トルク指令値>しきい値Trfが成立しなかった場合にはステップS28に処理が進み、下降レートはF2に設定される。ここで、F1の絶対値>F2の絶対値であり、F2の方がF1よりもゆっくりした下降レートを示す。
【0082】
ステップS23もしくはステップS24において上昇レートが設定されたか、またはステップS27もしくはステップS28において下降レートが設定された後には、ステップS29において今回のトルク指令値が決定される。なお、トルク指令値は、制御装置30に搭載されたCPUの処理サイクルによって繰り返し設定が行なわれている。自然数をnとして、前回のトルク指令値が第n回目に設定されたトルク指令値であれば、今回のトルク指令値は第n+1回目に設定されたトルク指令値である。そして、設定間隔はたとえば10msecごとなど等間隔であってもよいし、等間隔でなくてもよい。
【0083】
ステップS29において今回のトルク指令値が決定されると、ステップS30に処理が進み、制御はメインルーチンに戻される。
【0084】
以上説明したように、実施の形態2では、モータロック時にトルク指令値が上昇する場合にトルク指令値が低い領域では早い上昇レートとし、トルク指令値が高い領域では遅い上昇レートとした。これにより、大電流が流れる時間が減るのでインバータ素子温度を低減させることができる。また、高トルク領域のトルク出力パータンを変えることで、ユーザに車両限界点を知らせ、早期のロック状態の解除を促すことができる。
【0085】
さらに、高トルク領域の下降レートを早くすることで、モータ回転数を早く上げて早くロックを解除させる。このため高トルク領域のトルクを出せる時間が長くなる。また登坂性能を向上させることができる。
【0086】
そして、低トルク領域での下降レートを緩やかにすることで、低トルクからのトルク制限を行なう際のショックを低減できる。
【0087】
さらに同じく低トルク領域の下降レートを緩くすることで、ロックが解除され再びトルクが上昇した際のショックが低減される。
【0088】
また、実施の形態1と同様に、トルク制限とトルク制限の解除とが繰り返されるような場合に繰り返しのインターバルが長くなるので、インバータ素子温度が低減され、車両の走行性能を向上させることができる。また高トルク領域において早くトルクを減少させるので、反力によって車輪が回転することも期待できる。
【0089】
なお、実施の形態1,2においては、上昇レート、下降レートを2段階に切り替える例を示したが、さらに変曲点を増やして多段階に変更してもよく、連続的に変更してもよい。
【0090】
最後に実施の形態1,2について、再び図面を参照しながら総括する。図1を参照して、車両の駆動システムは、電動機(モータジェネレータMG2)と、電動機を駆動するインバータ14と、インバータ14に対して周期的にトルク指令値を出力することによって電動機を制御する制御装置30とを含む。制御装置30は、現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定する。
【0091】
好ましくは、制御装置30は、図8または図11に示すように、しきい値Trfより低い低トルク領域でのトルク指令値の下降時の変化率F2をしきい値Trfより高い高トルク領域でのトルク指令値の下降時の変化率F1よりも緩やかに設定して次回のトルク指令値を決定する。
【0092】
より好ましくは、制御装置30は、図11に示すようにしきい値Trrより高い高トルク領域でのトルク指令値の上昇時の変化率R1をしきい値Trrより低い低トルク領域でのトルク指令値の上昇時の変化率R2よりも緩やかに設定して次回のトルク指令値を決定する。
【0093】
好ましくは、制御装置30は、現在のトルク指令値の大きさが連続許容値より大きく、かつ電動機の回転数が所定数より大きく、かつ電動機に流れる電流が所定値よりも大きい場合に、図6または図9の処理を開始させ、電動機に対する現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定する。
【0094】
この発明は他の局面においては、電動機と、電動機を駆動するインバータとを含む車両の駆動システムの制御方法であって、電動機に対する現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、現在のトルク指令値が高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するか否かを判断するステップ(図6のステップS12または、図9のステップS22、S26)と、現在のトルク指令値が属する領域に基づいてトルク変化率を異ならせて次回のトルク指令値を決定するステップ(図6のステップS13,S14または図9のステップS23,S24,S27,S28)とを含む。
【0095】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0096】
2 車輪、3 動力分割機構、4 エンジン、10,13,21 電圧センサ、11 電流センサ、12 昇圧コンバータ、14,22 インバータ、15 U相アーム、16 V相アーム、17 W相アーム、23 負荷回路、24,24U,24V,25,25U,25V 電流センサ、30 制御装置、44,46 回転センサ、100 車両、B バッテリ、C1,C2 平滑用コンデンサ、D1〜D8 ダイオード、L1 リアクトル、MG1,MG2 モータジェネレータ、MRN1,MRN2 モータ回転数、PL1,PL2 電源ライン、Q1〜Q8 IGBT素子、SL 接地ライン、UL,VL,WL コイル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機を駆動するインバータと、
前記インバータに対して周期的にトルク指令値を出力することによって前記電動機を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、現在の前記トルク指令値が高トルク領域に属するか、前記高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回の前記トルク指令値を決定する、車両の駆動システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記低トルク領域での前記トルク指令値の下降時の変化率を前記高トルク領域での前記トルク指令値の下降時の変化率よりも緩やかに設定して次回の前記トルク指令値を決定する、請求項1に記載の車両の駆動システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記高トルク領域での前記トルク指令値の上昇時の変化率を前記低トルク領域での前記トルク指令値の上昇時の変化率よりも緩やかに設定して次回の前記トルク指令値を決定する、請求項2に記載の車両の駆動システム。
【請求項4】
前記制御装置は、現在の前記トルク指令値の大きさが連続許容値より大きく、かつ前記電動機の回転数が所定数より大きく、かつ前記電動機に流れる電流が所定値よりも大きい場合に、前記電動機に対する現在の前記トルク指令値が前記高トルク領域に属するか前記低トルク領域に属するかによって、前記トルク変化率を異ならせて次回の前記トルク指令値を決定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の駆動システム。
【請求項5】
電動機と、前記電動機を駆動するインバータとを含む車両の駆動システムの制御方法であって、
前記電動機に対する現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、現在の前記トルク指令値が前記高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するか否かを判断するステップと、
現在の前記トルク指令値が属する領域に基づいてトルク変化率を異ならせて次回の前記トルク指令値を決定するステップとを備える、車両の駆動システムの制御方法。
【請求項1】
電動機と、
前記電動機を駆動するインバータと、
前記インバータに対して周期的にトルク指令値を出力することによって前記電動機を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、現在の前記トルク指令値が高トルク領域に属するか、前記高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するかによって、トルク変化率を異ならせて次回の前記トルク指令値を決定する、車両の駆動システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記低トルク領域での前記トルク指令値の下降時の変化率を前記高トルク領域での前記トルク指令値の下降時の変化率よりも緩やかに設定して次回の前記トルク指令値を決定する、請求項1に記載の車両の駆動システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記高トルク領域での前記トルク指令値の上昇時の変化率を前記低トルク領域での前記トルク指令値の上昇時の変化率よりも緩やかに設定して次回の前記トルク指令値を決定する、請求項2に記載の車両の駆動システム。
【請求項4】
前記制御装置は、現在の前記トルク指令値の大きさが連続許容値より大きく、かつ前記電動機の回転数が所定数より大きく、かつ前記電動機に流れる電流が所定値よりも大きい場合に、前記電動機に対する現在の前記トルク指令値が前記高トルク領域に属するか前記低トルク領域に属するかによって、前記トルク変化率を異ならせて次回の前記トルク指令値を決定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の駆動システム。
【請求項5】
電動機と、前記電動機を駆動するインバータとを含む車両の駆動システムの制御方法であって、
前記電動機に対する現在のトルク指令値が高トルク領域に属するか、現在の前記トルク指令値が前記高トルク領域よりも低い領域である低トルク領域に属するか否かを判断するステップと、
現在の前記トルク指令値が属する領域に基づいてトルク変化率を異ならせて次回の前記トルク指令値を決定するステップとを備える、車両の駆動システムの制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−170247(P2012−170247A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29800(P2011−29800)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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