車両の駆動力制御装置
【課題】未来の運転者操作量(換言すれば運転負担)と未来の燃料消費量を予測し、状況の変化に応じてそれらを同時に最小化あるいは最適化することを可能とするようにした車両の駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンでフューエルカットが実行されるときと否とに分けてモデリングされると共に、状態方程式で記述された、エンジンから車体までを制御対象として変速比とエンジン回転数を車速に基づいて算出される代表目標変速比と燃費最適作動線に従って算出される目標エンジン回転数にフィードバック制御する変速比制御系とを備え、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度の現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数などに従って状態xの変化が最適となるように予めオフラインで生成された最適解群を検索して代表変速比を修正し、操作量として制御対象に加える。
【解決手段】エンジンでフューエルカットが実行されるときと否とに分けてモデリングされると共に、状態方程式で記述された、エンジンから車体までを制御対象として変速比とエンジン回転数を車速に基づいて算出される代表目標変速比と燃費最適作動線に従って算出される目標エンジン回転数にフィードバック制御する変速比制御系とを備え、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度の現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数などに従って状態xの変化が最適となるように予めオフラインで生成された最適解群を検索して代表変速比を修正し、操作量として制御対象に加える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両の駆動力制御装置に関し、より詳しくは未来の燃料消費量および未来の運転者の操作量、即ち、運転負担を予測し、状況の変化に応じてそれらを最小にすることを可能とする車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動力制御装置としては、下記の特許文献1,2記載の技術が知られている。特許文献1記載の技術は、運転者を特定し、過去の同状況における運転者の不満足度、即ち、運転者の修正操作情報に基づいて今回の駆動力制御を修正する技術を開示する。
【0003】
特許文献2記載の技術は、ACC(Adaptive Auto Cruise。適応定速走行あるいは車間制御)においてモデル予測制御を適用する場合に制御誤差を抑制するための手法と、その手法に伴う応答時間の劣化を抑えるオンライン計算手法を開示すると共に、制御目的を表現した一つの標準的な評価関数と、実際の操作量算出に用いられる参照評価関数とを有し、この参照評価関数に基づいてシステムの動作に適した候補解に対する補正を行う技術を開示する。
【特許文献1】特開2007−313925号公報
【特許文献2】特開2005−339241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の駆動力制御装置において、運転者の運転特性や走行環境の変化に自動的に適応し、運転者の運転負担を低減する制御が求められている。従来は開発者が様々な走行環境や運転者特性のサンプルデータを計測し、経験と知識に基づき発見的な手法でマップコントローラの設定を行ってきた。この手法では開発に膨大な工数が必要である上に運転者と状況の変化に応じた適応的な制御が困難であった。
【0005】
その問題を解決するため、上記した特許文献1記載のような手法が提案されている。この手法では、過去の状況と運転者操作に対する記録と今回の状況と運転者操作の比較によって今回の制御を決定するため、初めて運転する運転者や初めて走る場所(状況)のように比較対象がない場合には初期値が用いられることになり、データの蓄積が十分でない場合には期待される性能が発揮できない。
【0006】
また、上記した特許文献1記載の手法以外では、特許文献2記載の技術のようにモデル予測制御を用いる手法が提案されているが、モデル予測制御はオンラインで最適解を算出する必要があり、状況の変化に応じた迅速な対応、即ち、制約条件を常に満足する解を得るのが困難なため、車両への応用例としても比較的ダイナミクスの遅いシステムであるACCへの適用に限られ、駆動力、例えば変速比制御への適用は実現されていない。
【0007】
更に、いずれの手法においても、運転者の運転負担低減と、環境負担の低減、具体的には低燃費性の実現を同時に考慮することは実現されていない。
【0008】
従って、この発明の目的は上記した不都合を解消し、未来の運転者操作量(換言すれば運転負担)と未来の燃料消費量を予測し、状況の変化に応じてそれらを同時に最小化あるいは最適化することを可能とするようにした車両の駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1項にあっては、エンジンと、前記エンジンの出力を変速する変速機と、前記エンジンと変速機が搭載される車体とを少なくとも備え、運転者によるアクセルペダル操作を示すアクセルペダル開度とブレーキペダル操作を示すブレーキペダル開度に応じて車両の駆動力を制御する装置において、前記エンジンでフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされると共に、少なくとも目標変速比と前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度とを入力uとし、少なくともエンジン回転数と変速比とを状態xとする状態方程式で記述された、前記エンジンから前記車体までを制御対象として前記変速比と前記エンジン回転数を、車速に基づいて算出される代表目標変速比と、前記エンジンの出力トルクに対して燃費が最適となるように設定された燃費最適作動線に従って算出される目標エンジン回転数とにフィードバック制御する変速比制御系と、少なくとも前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度の現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数と、前記目標エンジン回転数について現時刻からnステップ未来までの前記燃費最適作動線と実際のエンジン運転点との差の総和を評価する燃費評価関数に従って前記状態xの変化が最適となるように、予めオフラインで生成された入力uの最適解群を前記状態xから検索自在に格納する格納手段と、前記入力uの最適解群を前記状態xから検索して前記代表目標変速比を修正した目標変速比を算出し、前記変速比制御系から前記制御対象に操作量として印加させる操作量印加手段とを備える如く構成した。
【0010】
請求項2に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記格納手段は、前記入力uの最適解群を、前記入力uを状態xと最適ゲインKの積からなるu=Kxで記述されるコントローラ群からなる如く構成した。
【0011】
請求項3に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記評価関数Jは、前記評価関数に重みQ,Rを乗じて得た積QJ,RJの総和として定義される如く構成した。
【0012】
請求項4に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記エンジン回転数と前記変速比と前記目標変速比とに制約条件が設けられる如く構成した。
【0013】
請求項5に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記操作量印加手段は、前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を除く、前記目標変速比を前記変速比制御系から前記制御対象に操作量として印加させる如く構成した。
【0014】
請求項6に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記操作量印加手段は、前記状態xが予め設定された拘束条件内にあるときは、前記コントローラに基づいて前記目標変速比を算出すると共に、前記状態xが前記拘束条件外にあるときは、前記状態xを前記拘束条件に復帰させる第2のコントローラに基づいて前記目標変速比を算出する如く構成した。
【発明の効果】
【0015】
請求項1項に係る車両の駆動力制御装置にあっては、エンジンでフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされ、目標変速比とアクセルペダル開度とブレーキペダル開度などを入力uとし、エンジン回転数と変速比などを状態xとする状態方程式で記述されたエンジンから前記車体までを制御対象として変速比とエンジン回転数を代表目標変速比と燃費最適作動線に従って算出される目標エンジン回転数とにフィードバック制御する変速比制御系を備えると共に、現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数と燃費最適作動線と実際のエンジン運転点との差の総和を評価する燃費評価関数などに従って状態xの変化が最適となるように、予めオフラインで生成された入力uの最適解群を前記状態xから検索して代表目標変速比を修正した目標変速比を算出して制御系から制御対象に操作量として印加させる如く構成したので、例えばモデル予測制御を用いて評価関数を介して未来の運転者操作量(換言すれば運転負担)と未来の燃料消費量を予測することができると共に、例えばマルチパラメトリック計画法などの系統的な解法を適用し、予めオフラインで入力uの最適解群を生成しておくことで計算時間が短縮され、状況の変化に応じてそれらを同時に最小化あるいは最適化することができる。
【0016】
従って、運転者の運転負担を低減すると共に、環境負担の低減、具体的には低燃費性を実現することができる。
【0017】
また、制御対象は、エンジンでフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされる如く構成したので、エンジンの特性を正確に把握することができ、制御対象を的確にモデリングすることができる。
【0018】
請求項2に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記入力uの最適解群は入力uを状態xと最適ゲインKの積からなるu=Kxで記述されるコントローラ群として格納される如く構成したので、上記した効果に加え、入力uの最適解群を容易に格納することができる。
【0019】
請求項3に係る車両の駆動力制御装置にあっては、評価関数Jは、評価関数に重みQ,Rを乗じて得た積QJ,RJの総和として定義される如く構成したので、上記した効果に加え、トレードオフの関係にある目標量、即ち、未来の運転者操作量と燃料消費量を状況の変化に応じて同時かつ最適に調整することができる。
【0020】
即ち、例えば長時間にわたって加速しようとした場合、運転者操作量を低減させるには、変速比を減少させて駆動力を確保する必要があるが、燃費最適作動線から離れたエンジン運転点で運転し続けると、燃費が悪化する。このように目標量が相反する関係にあるときも、それらを同時にかつ最適に調整することができる。
【0021】
請求項4に係る車両の駆動力制御装置にあっては、エンジン回転数と変速比と目標変速比とに制約条件が設けられる如く構成したので、かかる制約条件を設けることで、エンジン回転数がレブリミットを超えないなどの機械的な保護のための制限、あるいは乗り心地を確保するために変速比を急激に変化させないなどの制限を容易に追加することができる。
【0022】
請求項5に係る車両の駆動力制御装置にあっては、操作量印加手段は、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を除く、目標変速比を変速比制御系から制御対象に操作量として印加させる如く構成したので、上記した効果に加え、制御対象をモデル化して状態方程式で表現するときの入力にアクセルペダル開度とブレーキペダル開度からなる運転者操作量を含めることで、運転者操作量評価関数に組み込んで最適解を求めることで、運転者操作量を低減することができる。
【0023】
他方、運転者操作量は運転者が行う行為であって制御対象とはならないことから、運転者操作量を制御対象への入力から除去することで、運転者の行為を装置の動作から除外することができる。
【0024】
請求項6に係る車両の駆動力制御装置にあっては、状態xが予め設定された拘束条件内にあるときは、コントローラに基づいて目標変速比を算出すると共に、拘束条件外にあるときは、状態xを拘束条件に復帰させる第2のコントローラに基づいて目標変速比を算出する如く構成したので、上記した効果に加え、状態xが拘束条件内にないときの不都合を回避することができる。
【0025】
即ち、例えば一般的な最適制御設計によってコントローラを求めた場合、操作量は無限時間区間における最適解となるので、コントローラが生成した操作量を両方とも制御対象に反映しないと、最適性が保証されないことはおろか、安定性も保てないおそれがある。
【0026】
しかし、予測制御の場合、最適化の範囲は無限時間区間ではなく有限のホライゾン区間であり、有限のホライゾン区間の各ステップにおける操作量ベクトルが得られるが、実際には現在時刻の操作量のみを使用し、次ステップ以降の操作量は次ステップに進んでから再度算出し直して求めるというように、逐次最新の情報に応じて最適な操作量を求め直すアルゴリズムとなっている。
【0027】
この考え方を拡張すれば、コントローラが生成したアクセルペダル開度とブレーキペダル開度は制御対象には反映しないことが可能となる。ただし、設定した拘束条件を破らずに制御できることが保証されるのは双方の操作量を使用した場合であり、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を使用しなかった場合は拘束条件を破るおそれがあるため、拘束条件外の領域に状態を拘束条件内に戻すための別のコントローラを配置することで、破綻のない制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、添付図面に即してこの発明に係る車両の駆動力制御装置を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例】
【0029】
図1は、この発明の実施例に係る車両の駆動力制御装置を全体的に示す概略図である。
【0030】
図1において、符号10はエンジン(内燃機関)を示す。エンジン10は4気筒などの複数の気筒を備える火花点火式の水冷ガソリンエンジンであり、車両(駆動輪Wなどで部分的に示す)14の車体(図示せず)に搭載される。
【0031】
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は車両運転席に配置されるアクセルペダル(図示せず)との機械的な接続が絶たれ、電動モータなどのアクチュエータからなるDBW(Drive By Wire)機構16が接続されて駆動される。
【0032】
スロットルバルブで調量された吸気はインテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ(燃料噴射弁)20から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストン(図示せず)を駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
【0033】
エンジン10のクランクシャフト22の回転は、トルクコンバータ24を介して変速機26に入力される。変速機26はエンジン10の出力を変速する。
【0034】
即ち、クランクシャフト22はトルクコンバータ24のポンプインペラ24aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービンランナ24bはメインシャフト(ミッション入力軸)MSに接続される。トルクコンバータ24はロックアップクラッチ(図示せず)を備える。
【0035】
変速機26はCVT(Continuous Variable Transmission)からなり、メインシャフトMSに配置されたドライブプーリ26aと、メインシャフトMSに平行なカウンタシャフトCSに配置されたドリブンプーリ26bと、その間に掛け回される金属製のベルト26cと、可動プーリ半体(後述)のピストン室に作動油を供給する油圧機構26dとからなる。
【0036】
ドライブプーリ26aは、メインシャフトMSに配置された固定プーリ半体26a1と、固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2からなる。ドリブンプーリ26bは、カウンタシャフトCSに固定された固定プーリ半体26b1と、固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2からなる。
【0037】
CVT26は、前後進切換装置30に接続される。前後進切換装置30は、フォワード(前進)クラッチ30aと、後進ブレーキ30bと、その間に配置されるプラネタリギヤ機構30cからなる。
【0038】
プラネタリギヤ機構30cにおいて、サンギヤ30c1はメインシャフトMSに固定されると共に、リングギヤ30c2はフォワードクラッチ30aを介してドライブプーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定される。
【0039】
サンギヤ30c1とリングギヤ30c2の間には、ピニオン30c3が配置される。ピニオン30c3は、キャリア30c4でサンギヤ30c1に連結される。キャリア30c4は、後進ブレーキ30bが作動させられると、それによって固定(ロック)される。
【0040】
カウンタシャフトCSの回転は減速ギヤ34,36を介してセカンダリシャフトSSに伝えられると共に、セカンダリシャフトSSの回転はギヤ40とディファレンシャルDを介して左右の駆動輪(タイヤ。右側のみ示す)Wに伝えられる。駆動輪Wの付近にはディスクブレーキ42が配置される。
【0041】
フォワードクラッチ30aと後進ブレーキ30bの切換は、車両運転席に設けられた、例えばP,R,N,D,S,Lのポジションを備えるシフトレバー44を運転者が操作することによって行われる。即ち、運転者によってシフトレバー44のいずれかのポジションが選択されたとき、その選択動作は油圧機構(図示せず)のマニュアルバルブ(図示せず)に伝えられる。
【0042】
例えばD,S,Lポジションが選択されると、それに応じてマニュアルバルブのスプールが移動し、後進ブレーキ30bのピストン室から作動油(油圧)が排出される一方、フォワードクラッチ30aのピストン室に油圧が供給されてフォワードクラッチ30aが締結される。フォワードクラッチ30aが締結されると、全ギヤがメインシャフトMSと一体に回転し、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSと同方向(前進方向)に駆動される。
【0043】
他方、Rポジションが選択されると、フォワードクラッチ30aのピストン室から作動油が排出される一方、後進ブレーキ30bのピストン室に油圧が供給されて後進ブレーキ30bが作動する。それによってキャリア30c4が固定されてリングギヤ30c2はサンギヤ30c1とは逆方向に駆動され、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSとは逆方向(後進方向)に駆動される。
【0044】
また、PあるいはNポジションが選択されると、両方のピストン室から作動油が排出されてフォワードクラッチ30aと後進ブレーキ30bが共に開放され、前後進切換装置30を介しての動力伝達が断たれ、エンジン10とCVT26のドライブプーリ26aとの間の動力伝達が遮断される。
【0045】
CVT26においては油圧機構26dから可動プーリ半体26a2,26b2のピストン室に作動油が供給され、可動プーリ半体26a2,26b2を軸方向に移動させるプーリ側圧(ベルト伝達トルク)が発生させられると、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのプーリ幅が変化し、ベルト26cの巻掛け半径が変化する。
【0046】
このように、プーリ側圧を調整、換言すればベルト伝達トルク指令値を変更することで、エンジン10の出力を駆動輪Wに伝達する変速比を無段階に変化させることができる。
【0047】
エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ48が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブの下流の適宜位置には絶対圧センサ50が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
【0048】
DBW機構16のアクチュエータにはスロットル開度センサ52が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THLに比例した信号を出力すると共に、アクセルペダル付近にはアクセル開度センサ54が設けられ、運転者のアクセルペダル操作量(アクセルペダル踏み込み量)に相当するアクセルペダル開度APに比例する信号を出力する。
【0049】
さらに、エンジン10の冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ56が設けられ、エンジン冷却水温TW、換言すればエンジン10の温度に応じた出力を生じると共に、吸気系には吸気温センサ58が設けられ、エンジン10に吸入される吸気温(外気温)に応じた出力を生じる。
【0050】
上記したクランク角センサ48などの出力は、エンジンコントローラ60に送られる。エンジンコントローラ60はCPU,ROM,RAMなどを有するマイクロコンピュータを備え、それらセンサ出力に基づいて燃料噴射量を決定してインジェクタ20を駆動すると共に、アクセルペダル開度APに応じてスロットルバルブの開度THLを制御する。
【0051】
メインシャフトMSにはNTセンサ(回転数センサ)62が設けられ、タービンランナ24bの回転数、具体的にはメインシャフトMSの回転数、より具体的にはフォワードクラッチ30aの入力軸回転数を示すパルス信号を出力する。
【0052】
CVT26のドライブプーリ26aの付近の適宜位置にはNDRセンサ(回転数センサ)64が設けられてドライブプーリ26aの回転数、換言すればフォワードクラッチ30aの出力軸回転数に応じたパルス信号を出力すると共に、ドリブンプーリ26bの付近の適宜位置にはNDNセンサ(回転数センサ)66が設けられ、ドリブンプーリ26bの回転数を示すパルス信号を出力する。
【0053】
セカンダリシャフトSSのギヤ36の付近にはVELセンサ(回転数センサ)68が設けられ、ギヤ36の回転数を通じてCVT26の出力回転数あるいは車速VELを示すパルス信号を出力する。前記したシフトレバー44の付近にはシフトレバーポジションセンサ70が設けられ、運転者によって選択されたR,N,Dなどのポジションに応じたPOS信号を出力する。
【0054】
またブレーキペダル付近にはブレーキ開度センサ72が設けられ、運転者のブレーキペダル操作量(ブレーキペダル踏み込み量)に相当するブレーキペダル開度BRKに比例する信号を出力する。
【0055】
上記したNTセンサ62などの出力(ならびに前記したアクセル開度センサ54の出力)は、図示しないその他のセンサの出力も含め、シフトコントローラ74に送られる。シフトコントローラ74もCPU,ROM,RAMなどを有するマイクロコンピュータを備えると共に、エンジンコントローラ60と通信自在に構成される。
【0056】
入力されたセンサ出力のうち、NTセンサ62とNDRセンサ64とVELセンサ68の出力はシフトコントローラ74において波形整形回路に入力される。シフトコントローラ74は波形整形回路の出力をカウントして回転数と車速Vを検出する。
【0057】
シフトコントローラ74はそれら検出値に基づき、油圧機構の電磁ソレノイド(図示せず)を励磁・非励磁してトルクコンバータ24とCVT26の動作を制御すると共に、フォワードクラッチ30aの締結を判断して操作量を決定する。
【0058】
CVT26の動作の制御については、シフトコントローラ74は、目標変速比(レシオ)を決定し、決定した目標変速比となるように、可動プーリ半体26a2,26b2を駆動し、変速比を制御する。
【0059】
以下、シフトコントローラ74およびエンジンコントローラ60の設計について説明する。
【0060】
シフトコントローラ74を制御理論に基づいたコントローラとして設計するため、まず制御対象の物理モデリングを行い、状態方程式を導出する。
【0061】
後述するように、変速比を適切に制御することによる運転者操作の低減も目的の一つであるので、アクセルペダル開度AP、ブレーキペダル開度BRKも含め、図2に示すように、車両14の全体、即ち、車両システム全体を制御対象としてモデリングする。
【0062】
また、エンジン10とトルクコンバータ24については、フューエルカットOFF(フューエルカット(燃料供給停止)が実行されない)の場合とON(フューエルカットが実行される)場合で特性が異なるので、それぞれの場合についてモデリングを行う。
【0063】
以下、エンジンコントローラ60、エンジン10、トルクコンバータ24、変速機(CVT)26、車体のそれぞれのモデリングについて説明する。
【0064】
エンジンコントローラ60のモデリングについて説明する。
【0065】
前記した如く、エンジンコントローラ60は、図3に示すように運転者が操作するアクセルペダル開度APを基に、DBWマップに従い、スロットルバルブの開度THLを制御する。DBWマップの特性の図示は省略するが、APとTHLの関係は概ね線形と見做せるので、数1に示すようにアクセルペダル開度APに係数kaを乗じることで線形近似して扱う。
【0066】
【数1】
【0067】
エンジン10のモデリングについて説明する。
【0068】
エンジン10はフューエルカットがOFFのときとONのときとで特性が異なるので、それぞれの場合についてモデリングする。まず、フューエルカットがOFFのときは、図4に示すように、スロットル開度THLとエンジン回転数ωENGに依存して、エンジントルクTENGを出力するものとしてモデル化する。数2に示すようにフューエルカットがOFFのときのエンジントルクをNormalTrqと示す。
【0069】
【数2】
【0070】
フューエルカットがONのときは、図5に示すようにエンジン回転数ωENGに依存してフリクショントルクFrictionTrqを出力するものとしてモデル化する。
【0071】
【数3】
【0072】
トルクコンバータ24のモデリングについて説明する。
【0073】
トルクコンバータ24は、図6に示すように、エンジントルクTENGとトルクコンバータの出力軸回転数ωTCを入力とし、トルクコンバータ24の出力トルクTTCとエンジン回転数ωENG(=トルクコンバータ24の入力軸回転数)を出力とするモデルとしてモデリングする。
【0074】
トルクコンバータ24の入力軸回転数、即ち、エンジン回転数ωENGは次のようにして求める。
【0075】
即ち、トルクコンバータ24のポンプインペラ24aへの入力トルクはエンジントルクであり、出力トルクはポンプトルクTpumpとロックアップクラッチトルクTLCである。従って、入出力トルクの差をエンジン10とポンプインペラ24aのイナーシャIENG_pumpで除すことによってエンジン回転加速度ωENGdotが求まるので、それを積分することでエンジン回転数ωENGを得る。
【0076】
【数4】
【0077】
また、ポンプトルクTpumpとタービントルクTturbineはフューエルカットがOFFのときとONのときとで特性が異なるので、それぞれの場合についてモデル化する。
【0078】
まずフューエルカットOFFのときは、ポンプトルクTpumpはエンジン回転数ωENGの2乗とトルクコンバータ24の容量係数τTCの積で与えられる。またタービントルクTturbineは、ポンプトルクTpumpにトルク比KTCを乗じることで得られる。尚、容量係数τTCとトルク比KTCは、トルクコンバータ24の速度比eに依存することから、速度eを乗じて求める。
【0079】
【数5】
【0080】
ここで速度比eとは、次式に示す如く、トルクコンバータの出力軸回転数ωTCを入力軸回転数ωENGで除した値である。
【0081】
【数6】
【0082】
次に、フューエルカットONのときは、ポンプインペラ24aとタービンランナ24bの関係が逆になる。即ち、タービントルクTturbineは、出力軸回転数ωTCの2乗とトルクコンバータ容量係数τTCと速度比eの積にマイナス1を乗じたもので与えられ、ポンプトルクTpumpはタービントルクTturbineにトルク比KTCと速度比eを乗じることで得られる。
【0083】
【数7】
【0084】
また、ロックアップクラッチトルクは、ロックアップクラッチの最大伝達トルクTLCMAXに、トルクコンバータ24の入出力軸回転数ωENGとωTCの差を乗じ、係数λLCを掛けることで与えられるものとしてモデル化する。
【0085】
【数8】
【0086】
トルクコンバータ24の出力トルクTTCは、タービントルクTturbineとロックアップクラッチトルクTLCの和により与えられる。
【0087】
【数9】
【0088】
変速機(CVT)26のモデリングについて説明する。
【0089】
ここでは、変速機26は、(前後進切換装置30の)フォワードクラッチ30a、プーリ(ドライブ・ドリブンプーリ)26a,26b、セカンダリギヤ(減速ギヤ34,36)、ファイナルギヤ(ギヤ40)によって構成されるものとする。図7に示すように、変速機26は、トルクコンバータ24の出力トルクとタイヤ(駆動輪)Wの回転数を入力とし、ドライブシャフトトルクTDSとトルクコンバータ回転数ωTCを出力するモデルとしてモデリングする。
【0090】
トルクコンバータ24の出力軸回転数ωTCは、以下のようにして求める。
【0091】
まず、タービン回転数はフォワードクラッチ回転数に等しいと仮定する。フォワードクラッチ30aへの入力トルクは、トルクコンバータ24の出力トルクTTCからオイルポンプによるフリクションロストルクTpumploss(=Oilpumploss)を引き去り、フォワードギヤ効率ηFWDRVSを乗じたものである。尚、オイルポンプによるフリクションロストルクOilpumplossは、トルクコンバータ24の出力軸回転数ωTCに依存して与えられるものとする。
【0092】
一方、出力トルクは、フォワードクラッチ30aの出力トルクTFWDRVSである。従って、入出力トルクの差をフォワードクラッチ30aのイナーシャIFWDRVSで除すことによってトルクコンバータ24の出力軸回転加速度ωTCdotが求まるので、それを積分することによりトルクコンバータ24の出力軸回転数ωTCを得る。
【0093】
【数10】
【0094】
フォワードクラッチトルクTFWDRVSは、フォワードクラッチ30aの最大伝達トルクTFWDMAXに、フォワードクラッチ30aの入出力軸回転数ωTCとωFWDRVSの差を乗じ、係数λFWDを掛けることで与えられるものとしてモデル化する。
【0095】
【数11】
【0096】
次に、回転数の伝達について説明する。
【0097】
ドリブンプーリ26bの回転数ωDNは、タイヤ回転数ωtireにファイナルギヤレシオρFとセカンダリギヤレシオρSを掛けることで得られる。ドライブプーリ26aの回転数ωDRは、ドリブンプーリ回転数ωDNにプーリ変速比ρpulleyを乗じることで得られる。フォワードクラッチ30aの回転数ωFWDRVSは、ドライブプーリ回転数ωDRにフォワードギヤレシオρFWDを乗ずることで求まる。
【0098】
以上を整理すると、フォワードクラッチ回転数ωFWDRVSは、タイヤ回転数ωtireにフォワードギヤレシオρFWD、プーリ変速比ρpulley、セカンダリギヤレシオρS、ファイナルギヤレシオρFを乗ずることで得られる。
【0099】
【数12】
【0100】
またプーリ変速比ρpulley、より具体的には変速比ρpulleyは、目標プーリ変速比、より具体的には目標変速比ρpulleytgtに対して1次遅れで追従するものとする。
【数13】
【0101】
次に、トルクの伝達について説明する。
【0102】
ドライブプーリトルクTDRは、フォワードクラッチトルクTFWDRVSにフォワードギヤレシオρFWDを掛けることで得られる。ドリブンプーリトルクTDNは、ドライブプーリトルクTDRにプーリレシオρpulleyとCVT効率ηCVTを掛けることで得られる。ドライブシャフトトルクTDSは、ドリブンプーリトルクTDNにセカンダリギヤレシオρSとファイナルギヤレシオρFを乗ずることで得られる。
【0103】
以上を整理すると、ドライブシャフトトルクTDRは、フォワードクラッチトルクTFWDRVSにセカンダリギヤレシオρS、ファイナルギヤレシオρF、CVT効率ηCVT、プーリ変速比ρpulley、フォワードギヤレシオρFWDを乗ずることで得られる。
【0104】
【数14】
【0105】
車体のモデリングについて説明する。
【0106】
図8に示すように、車体はドライブシャフトトルクTDSと制動力FBRKを入力とし、タイヤ回転数ωtireを出力とするモデルとしてモデル化する。尚、ここでは前後方向についてのみ扱う。車体加速度Vdotは、駆動力から各走行抵抗と制動力FBRKを引き去り、車重mbodyで除すことで得られる。駆動力は、ドライブシャフトトルクTDSをタイヤ半径Rtireで除すことで得られる。車速Vは車体加速度Vdotを積分することで得られる。
【0107】
走行抵抗については、ここでは勾配抵抗Fslope、転がり抵抗Froad、空気抵抗Fairを考慮する。勾配抵抗Fslopeは、車重mbodyに重力加速度gを掛け、勾配θslopeの正弦を乗ずることで与えられる。転がり抵抗Froadは、車重mbodyに転がり抵抗係数μroadと重力加速度gを掛け、勾配の余弦を乗ずることで得られる。空気抵抗Fairは、車速Vの2乗値に空気抵抗係数μairを掛けることで得られる。
【0108】
また制動力FBRKについては、簡単のためブレーキペダル開度BRKに係数Fbrakemaxを乗じることでブレーキペダル開度に対して線形で得られるものとする。
【0109】
【数15】
【0110】
タイヤ回転数ωtireは、車速Vをタイヤ半径Rtireで割ることにより求まる。
【0111】
【数16】
【0112】
以上でエンジン10、トルクコンバータ24、変速機(CVT)26、車体の数式モデルを記述したので、ここではそれらを結合した状態方程式を導出する。
【0113】
フューエルカットOFFの場合、入力uを[AP,ρpulleytgt]、状態xを[Vdot,ωENG,ωTC,ρpulley]としてモデルを導出する。
【0114】
【数17】
【0115】
同様に、フューエルカットONの場合、入力uを[BRK,ρpulleytgt]、状態xを[Vdot,ωENG,ωTC,ρpulley]としてモデルを導出する。このように、状態方程式の入力uを目標変速比ρpulleyとアクセルペダル開度APまたは目標変速比ρpulleyとブレーキペダル開度BRKとすると共に、状態xを車体加速度Vdotとエンジン回転数ωENGとトルクコンバータ出力軸回転数ωTCと変速比ρpulleyとする。
【0116】
【数18】
【0117】
上記から明らかなように、この制御対象は、フューエルカットOFF/ONによって切替わるという特徴がある。従って、この制御対象を、フューエルカットOFF/ONによってモデルが切替わるハイブリッドシステムと捉える。換言すれば、この制御対象は、フューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされる。
【0118】
次に、変速比制御系(シフトコントローラ74)の設計について説明する。
【0119】
ここでは、変速比制御系を図9に示すように構成する。まず同図下部の表に示すように、車速V、より正確には参照車速Vrefに基づいて代表的な目標変速比ρpulley-refを設定する。その後段に、その値に対して後述する制約条件や評価関数を考慮した、即ち、修正した目標変速比を制御対象に与える、という構成とする。
【0120】
ここで、目標変速比を決定するための参照車速としては、現在の車速そのものか、アクセルペダル開度あるいはブレーキペダル開度と現在の変速比を考慮した未来の目標車速を与えれば良い。
【0121】
また、後述するように、変速比を適切に制御することにより燃費の向上を図るため、燃費最適作動線から求められるエンジン回転数も目標値として与え、目標エンジン回転数も考慮して目標変速比を生成する。
【0122】
変速比制御系に対する要求仕様について説明する。
【0123】
まず、変速比をフィードバックする構成であることから、代表目標変速比ρpulley-refと変速比ρpulleyの差を評価する評価関数Jρpulleyを設定する。
【0124】
【数19】
【0125】
変速比制御への要求の一つとして、運転者操作量の低減がある。例えば大きく加速したい時に、変速比が変わらないままアクセルペダルだけで加速しようとすると、アクセルペダルを大きく踏込まなければならないが、一時的に変速比をロー側に変化させることで、少ないアクセルペダルの踏込みで同じ加速力を得ることができる。このように、変速比を適切に変化させることで、運転者操作量の低減、すなわち運転負担の低減を図ることができる。
【0126】
これを実現するため、つぎのような運転者操作量に対する評価関数JAPBRKを設定する。
【0127】
【数20】
【0128】
ここでΔAP(k+1|k)あるいはΔBRK(k+1|k)は、現時刻をkとしたときのiステップ未来の予測値を表す。従って、上式は、現時刻kのΔAPあるいはΔBRKからHu−1ステップ未来までの各ステップのΔAPあるいはΔBRKの予測値の二乗和を求めることを意味する。つまり、現時刻からHu−1ステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する関数であり、この値を最小化するように変速比を制御することにより、運転者操作量、つまり運転負担の低減を可能とする。
【0129】
また、別の要求として、燃費の向上が挙げられる。良好な燃費効率とするためには、変速比を適切に制御することにより、エンジンを図10に示すような燃費最適作動線に沿って運転させれば良いことが知られている。
【0130】
そのための一つの手法として、現在のエンジントルクに応じて、燃費最適作動線の特性から目標とする燃費最適なエンジン回転数を求め、実エンジン回転数がそれに一致するように変速比を制御することが考えられる。しかし、常に燃費最適作動線に追従させようとすると、乗り心地に違和感が生じる不都合があり、加速要求があっても十分な加速力が得られないなどの別の問題が生じてしまう。
【0131】
そこで、常に燃費最適作動線に追従させようとするのではなく、燃費最適作動線と実際のエンジンの運転点との差が、ある時間範囲での総和としてなるべく小さくなるように制御する。このようにすることで、例えば加速要求があった場合は一時的に燃費最適作動線から離れた運転点で運転させ、加速が終了次第、速やかに燃費最適作動線近傍に戻すことにより、運転者の要求を満足しつつ燃費も向上させることを可能とする。これを実現するため、次のような評価関数JENGを設定する。
【0132】
【数21】
【0133】
上式は、現時刻からHp−1ステップ未来までの燃費最適作動線と実際のエンジン運転点の差ωENG-refの総和を評価する関数JENGであり、この評価関数を最小化するように変速比を制御することにより、先の要求を実現することを可能とする。
【0134】
また、不用意に変速比を変化させることは、乗り心地などの観点から好ましくない。そこで、目標変速比ρpulleytgtに対しても評価関数Jρpulleyを設定する。
【0135】
【数22】
【0136】
以上により、変速比、運転者操作量、燃費(エンジン回転数)、目標変速比のそれぞれを評価する評価関数を設定した。しかし、例えば長時間にわたり加速しようとした場合、運転者操作量を低減するためには変速比をロー側に保って駆動力を確保する必要があるが、一方で燃費最適作動線から離れた運転点で作動し続けると燃費が大きく悪化してしまうため、変速比をロー側にし続けることはできない。
【0137】
このように、それぞれの評価関数はトレードオフの関係となるケースがある。そこで、個々の評価関数を評価するのではなく、それぞれの評価関数に重み付けをして足し合わせた評価関数を新たに設定する。
【0138】
【数23】
【0139】
このようにして、重みQ,Rの調整によってどの特性をより重視したいかを考慮しつつ、それぞれの評価関数を同時に最適化することを可能とする。
【0140】
変速比を変化させると同じ車速に対してエンジン回転数が変化する。例えば車速が非常に高いときに変速比をロー側へ変化させると、エンジン回転数は非常に高くなってしまう。しかしエンジン回転数にはレブリミット回転数が設けられており、この回転数を超える運転はエンジン保護のため避けなければならない。
【0141】
逆に、車速が非常に低いときに変速比をハイ側へ変化させたとき、エンジンからタイヤまでが直結したままである場合、エンジン回転数は非常に低くなり、エンジンストールの恐れがあるので、これも避けなければならない。
【0142】
また変速比自体も、変速可能な範囲が限られており、その範囲内で変速させる必要がある。
【0143】
さらに、乗り心地や変速機保護などの観点から、あまり急激に変速比を変化させるのも好ましくない。以上のことを実現するため、エンジン回転数ωENG、変速比ρpulley、目標変速比の変化速度Δρpulleytgtのそれぞれに制約条件を設けることとする。
【0144】
【数24】
【0145】
即ち、目標変速比ρpulleyは、現在の変速比とエンジン回転数に依存して与える制限値(目標変速比の変化速度)Δρpulleytgtによって制限するものとする。このようにすることで、上記問題を考慮した変速比制御を可能とする。
【0146】
この実施例における変速比制御系の設計上の特徴を整理すると、以下のようになる。
1.未来の操作量および状態を予測できるようにする。
2.操作量や状態の動作範囲などに拘束が設けられる。
3.制御対象はフューエルカットOFF/ONによって切替わるハイブリッドシステムとする。
【0147】
1.に対する適当な手段の一つとして、モデル予測制御がある。モデル予測制御は、図11に示すように逐次未来の状態軌道を予測し、ある評価指標の基で予測軌道をオンラインで最適化しながら操作量を生成する手法であり、拘束条件も陽に考慮することができる。
【0148】
しかし、オンラインで最適制御問題を解く必要があるため計算時間の問題で適用が困難な場合が多くあり、主に化学プラントの操業などの利用に限定されている。車両への適用としても、特許文献2に見られる車両の車間制御のように比較的ダイナミクスの遅いシステムが対象である。
【0149】
近年、これに代わる制御手法として、マルチパラメトリック計画法という最適化手法によって、オフラインで最適制御問題を解く手法が注目されている。最適解は、初期状態に依存した形で陽に得ることができるため、実装の際にはサンプリング時刻おきに状態を得るだけで、ただちに最適値を生成することができる。
【0150】
この実施例においては、マルチパラメトリック計画法を用いることによって、先に述べた拘束条件や評価関数を考慮したシフトコントローラ74を設計する。
【0151】
また、マルチパラメトリック計画法の枠組みによりハイブリッドシステムを取り扱うことも可能であるため、フューエルカットOFF/ONによるモデルの切替わりも考慮に入れてコントローラを設計することとする。
【0152】
マルチパラメトリック計画法によるハイブリッド予測制御は、線形離散モデルに対してコントローラを設計する手法である。先に導出した状態方程式は非線形項を含むため、線形化を行う必要がある。線形化は元の非線形方程式の平衡点周りにおいて行うため、まず平衡状態における各変数の対応関係を求める必要がある。
【0153】
平衡状態においては各入力、状態は変化しないため、非線形方程式の左辺は各状態の微分値であることから、0となる。例えば変速比ρpulleyについて見ると、以下のようにして、実変速比ρpulleyと目標変速比ρpulleytgtの対応関係を求める。
【0154】
【数25】
【0155】
尚、添え字のeは平衡状態における値であることを意味する。他の式についても同様にして対応関係を求めて整理すると、車速と変速比の平衡点を与えれば、他の状態、入力は一意に決定できる。
【0156】
次に、車速と変速比の平衡点の与え方について説明する。すでに説明したように、参照車速に対応する代表変速比を求めているので、これを利用し、参照車速を車速の平衡点として与えることで対応する変速比の平衡点を決定する。以上のようにして、車速の平衡点のみを与えて他の全ての平衡点を一意に決める。
【0157】
平衡点周りの線形モデル導出について説明すると、先の変速比を例にとれば、δρpulley=ρpulley-ρpulleyeとし、平衡点ρpulleyeからの変化分δρpulleyについての線形モデルを求める。他の変数についても同様である。
【0158】
以上より、フューエルカットOFF/ONそれぞれの線形モデルを求める。また、フューエルカットOFFのときはエンジンが回す側であることからωENG≧ωTCであり、フューエルカットONのときはエンジンが回される側であることからωENG<ωTCであるので、ωENGとωTCの大小関係からフューエルカットOFF/ONの切替わりを判断し、以下のような線形モデルを得る。
【0159】
【数26】
【数27】
【0160】
ここで、a11a〜a44a,b21a,b42a,a11b〜a44b,b11b,b42bは物理パラメータおよび平衡点周りでの線形化による線形化係数によって与えられる。さらにハイブリッド予測制御は離散系の設計手法であるので、上記線形モデルを離散化する。
【0161】
以上の設定に基づき、シフトコントローラ74としてマルチパラメトリック計画法によるハイブリッド予測コントローラを求める。いま扱っている問題は、時変な目標値に追従させるサーボ系のコントローラを設計することであり、そのままではマルチパラメトリック計画法に適用できないため、問題をマルチパラメトリック計画法に適用可能な形式に変更する。
【0162】
Δu(k)=u(k)−u(k−1)を新たな入力とし、状態を[δx(k);δu(k−1);δyref(k)]とする拡大系を構成する。
【0163】
【数28】
【0164】
この拡大系に対し、先に述べた評価関数と拘束条件を設定した上で、マルチパラメトリック計画問題を解くことにより、ホライゾン区間にわたる操作量のベクトルを得る。ハイブリッド予測制御の場合、得られた操作量ベクトルのうち初期ステップの操作量Δu(k)のみをシステムへ加えるが、これは以下のように陽に得ることができる。
【0165】
【数29】
【0166】
ここでFi,Giはそれぞれコントローラゲインである。Δu(k)は現在時刻における前ステップからの入力の差分なので、実際にシステムへ加える操作量は以下の通りとする。
【0167】
【数30】
【0168】
フューエルカットOFFのとき、制御対象の入力は[AP,ρpulleytgt]であるため、先の操作量算出式に当てはめると、以下のようになり、目標変速比だけでなくアクセルペダル開度も算出される。
【0169】
【数31】
【0170】
同様に、フューエルカットONのとき、制御対象の入力は[BRK,ρpulleytgt]であるため、目標変速比だけでなくブレーキペダル開度も算出される。
【0171】
【数32】
【0172】
入力にアクセルペダル開度とブレーキペダル開度を含んでいる理由は、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を入力として扱い、これを評価関数に組み込んで最小化することにより、運転者操作量を低減するような変速比制御を可能とするためである。しかし、この実施例においてアクセルペダル操作とブレーキペダル開度は運転者が行うため、コントローラが生成したアクセルペダル開度とブレーキペダル開度を実際に制御対象に反映させることはしない。
【0173】
例えば一般的な最適制御設計によってコントローラを求めた場合、操作量は無限時間区間における最適解となるので、コントローラが生成した操作量を両方とも制御対象に反映しないと、最適性が保証されないことはおろか、安定性も保てないおそれがある。
【0174】
しかし、予測制御の場合、最適化の範囲は無限時間区間ではなく有限のホライゾン区間であり、有限のホライゾン区間の各ステップにおける操作量ベクトルΔU=[Δu(k),Δu(k+1),…,Δu(k+Hu−1)]が得られるが、実際には現在時刻の操作量Δu(k)のみを使用し、次ステップ以降の操作量は次ステップに進んでから再度算出し直して求めるというように、逐次最新の情報に応じて最適な操作量を求め直すアルゴリズムとなっている。
【0175】
この考え方を拡張し、コントローラが生成したアクセルペダル開度とブレーキペダル開度は制御対象には反映しないこととする。従って、実際のアクセルペダル操作とブレーキペダル開度は運転者が行うが、次ステップには運転者の操作による状態の変化も含めた最新の情報に応じて最適な操作量を算出し直すことが可能であり、これを逐次繰り返せば良い。
【0176】
ただし、設定した拘束条件を破らずに制御できることが保証されるのは双方の操作量を使用した場合であり、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を使用しなかった場合は拘束条件を破るおそれがある。
【0177】
しかし、マルチパラメトリック計画法では、拘束条件内の領域にしかコントローラを配置できず、拘束条件外の領域にはコントローラが存在しない。従って、ひとたび拘束条件外の領域に出てしまうと、操作量は0となり、発散してしまうおそれがある。
【0178】
そこで、拘束条件外の領域に別の(第2の)安定化コントローラを配置する。このコントローラは、あくまで状態を拘束条件内に戻すためのものであるので単純なもので良い。例えば、変速比を操作量とし、各状態を原点に戻す最適レギュレータを配置すれば良い。
【0179】
従って、拘束条件内ではハイブリッド予測コントローラを使用し、拘束条件外に出たら別の安定化コントローラに切り替えて制御を続行する。安定化コントローラによって再び拘束条件内に戻ったら、再びハイブリッド予測コントローラを使用する。このようにすることで、破綻のない制御を可能とする。
【0180】
以上により、運転者操作量の低減を考慮した変速比制御を可能とする。
【0181】
ここからは、具体的な数値例を用いて説明する。ここでは、車速と対応する変速比の平衡点を(20,0.60)と設定する。この平衡点周りの線形モデルを導出し、さらに離散化をおこなった結果、以下のようになる。ここでは0次ホールドを用いて離散化したが、1次ホールドや双1次変換などを用いても良い。
【0182】
【数33】
【0183】
【数34】
【0184】
次に、評価関数に対する重みQ,Rの設定を行う。ここでは次のように設定する。
R1=10,R2=1000,Q1=1,Q2=300
【0185】
また、制御ホライゾンHc、予測ホライゾンHpを次のように設定する。
Hc=Hp=3
【0186】
更に、拘束条件の設定を以下の通り行う。
【0187】
【数35】
【0188】
以上の設定のもとで、マルチパラメトリック計画法によって求めたハイブリッド予測コントローラを示す。ハイブリッド予測コントローラは、各状態の組み合わせによって得られる多面体領域に定義される。
【0189】
図13は、状態のうちエンジン回転数、トルクコンバータ出力軸回転数、車速の3つの状態に関して、領域がどのように分割されているかを表した図である。図13を見ると、状態に応じて領域が細かく分割されていることが分かる。図示例では、3397の領域に分割されている。また図14の表に示すように、コントローラは各領域毎に設定される。
【0190】
従って、フューエルカットのOFF/ONや、他の状態変化に応じてコントローラを適宜切り替えることにより、設定した評価関数や拘束条件を考慮した最適な変速比制御を行うことが可能となる。
【0191】
尚、図示の如く、コントローラの制御則は入力uの最適解群を、入力uが状態xと最適ゲインKの積(u=Kx)で与えられるように記載される。図14に示すコントローラの制御則は、図13に示す状態空間領域から検索自在に、シフトコントローラ74のマイクロコンピュータのROMに格納される。
【0192】
以上述べた如く、この実施例にあっては、エンジン10と、前記エンジンの出力を変速する変速機(CVT)26と、前記エンジンと変速機が搭載される車体とを少なくとも備え、運転者によるアクセルペダル操作を示すアクセルペダル開度APとブレーキペダル操作を示すブレーキペダル開度BRKに応じて車両14の駆動力を制御する装置(シフトコントローラ74)において、前記エンジン10でフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされると共に、少なくとも目標変速比ρpulleyと前記アクセルペダル開度APとブレーキペダル開度BRKとを入力uとし、少なくともエンジン回転数ωENGと変速比ρpulley、より具体的には前記車体の前後方向の車体加速度Vdotとエンジン回転数ωENGとトルクコンバータ出力軸回転数ωTCと変速比ρpulleyとを状態xとする状態方程式(数17,18)で記述された、前記エンジンから前記車体までを制御対象として前記変速比と前記エンジン回転数を、車速、より具体的には参照車速に基づいて算出される代表目標変速比と、前記エンジンの出力トルクに対して燃費が最適となるように設定された燃費最適作動線(図10)に従って算出される目標エンジン回転数とにフィードバック制御する変速比制御系(図9)と、前記変速比と前記代表変速比の差を評価する変速比評価関数Jpulley(数19)と、少なくとも前記アクセルペダル開度の現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数Japbrk(数20)と、前記アクセルペダル開度と前記ブレーキペダル開度の現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数Japbrk(数20)と、前記目標エンジン回転数について現時刻からnステップ未来までの前記燃費最適作動線と実際のエンジン運転点との差の総和を評価する燃費評価関数JENG(数21)(さらには目標変速比に対する評価関数Jρpulley(数22))に従って前記状態xの変化が最適となるように、予めオフラインで生成された入力uの最適解群(図14のコントローラの制御則)を前記状態xから検索自在に格納する格納手段(シフトコントローラ74のマイクロコンピュータのROM)と、前記入力uの最適解群を前記状態xから検索して前記代表目標変速比を修正した目標変速比を算出し、前記変速比制御系から前記制御対象に操作量として印加させる操作量印加手段(数28から数31に従って行なわれる処理)と、を備える如く構成した。
【0193】
これにより、モデル予測制御を用いて評価関数を介して未来の運転者操作量(換言すれば運転負担)と未来の燃料消費量を予測することができると共に、マルチパラメトリック計画法などの系統的な解法を適用し、予めオフラインで入力uの最適解群を生成しておくことで計算時間が短縮され、状況の変化に応じてそれらを同時に最小化あるいは最適化することができる。
【0194】
従って、運転者の運転負担を低減すると共に、環境負担の低減、具体的には低燃費性を実現することができる。
【0195】
図15と図16は、上記した構成のシミュレーション結果を示すデータ図である。シミュレーションにおいては、同一の車速パターンで走行し、従来のシフトスケジューリングマップによる変速比制御と比較した。
【0196】
図15はそれぞれのアクセルペダル開度を示しているが、青い点線の部分で示す如く、アクセルペダル操作(運転負担)を低減できていることが分かる。
【0197】
また、図16はブレーキペダル開度を示しているが、同様に青い点線の部分で示す如く、ブレーキペダル操作(運転負担)を低減できていることが理解できよう。
【0198】
また、前記制御対象は、前記エンジン10でフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされる如く構成したので、エンジン10の特性を正確に把握することができ、制御対象を的確にモデリングすることができる。
【0199】
また、前記格納手段は、前記入力uの最適解群を、前記入力uを状態xと最適ゲインKの積からなるu=Kxで記述されるコントローラ群(図14)からなる如く構成したので、上記した効果に加え、入力uの最適解群を容易に格納することができる。
【0200】
また、前記評価関数Jは、前記評価関数に重みQ,Rを乗じて得た積QJ,RJの総和として定義される(数23)如く構成したので、上記した効果に加え、トレードオフの関係にある目標量、即ち、未来の運転者操作量と燃料消費量を状況の変化に応じて同時かつ最適に調整することができる。
【0201】
また、前記エンジン回転数と前記変速比と前記目標変速比とに制約条件が設けられる如く構成したので、かかる制約条件を設けることで、エンジン回転数がレブリミットを超えないなどの機械的な保護のための制限、あるいは乗り心地を確保するために変速比を急激に変化させないなどの制限を容易に追加することができる。
【0202】
また、前記操作量印加手段は、前記アクセルペダル開度と前記ブレーキペダル開度を除く、前記目標変速比を前記変速比制御系から前記制御対象に操作量として印加させる如く構成したので、上記した効果に加え、制御対象をモデル化して状態方程式で表現するときの入力にアクセルペダル開度とブレーキペダル開度からなる運転者操作量を含めることで、運転者操作量評価関数に組み込んで最適解を求めることで、運転者操作量を低減することができる。
【0203】
また、前記操作量印加手段は、前記状態xが予め設定された拘束条件内にあるときは、前記コントローラに基づいて前記目標変速比を算出すると共に、前記状態xが前記拘束条件外にあるときは、前記状態xを前記拘束条件に復帰させる第2のコントローラに基づいて前記目標変速比を算出する如く構成したので、上記した効果に加え、状態xが拘束条件内にないときの不都合を回避することができる。
【0204】
即ち、例えば長時間にわたって加速しようとした場合、運転者操作量を低減させるには、変速比を減少させて駆動力を確保する必要があるが、燃費最適作動線から離れたエンジン運転点で運転し続けると、燃費が悪化する。このように目標量が相反する関係にあるときも、それらを同時にかつ最適に調整することができる。
【0205】
他方、運転者操作量は運転者が行う行為であって制御対象とはならないことから、運転者操作量を制御対象への入力から除去することで、運転者の行為を装置の動作から除外することができる。
【0206】
例えば一般的な最適制御設計によってコントローラを求めた場合、操作量は無限時間区間における最適解となるので、コントローラが生成した操作量を両方とも制御対象に反映しないと、最適性が保証されないことはおろか、安定性も保てないおそれがある。
【0207】
しかし、予測制御の場合、最適化の範囲は無限時間区間ではなく有限のホライゾン区間であり、有限のホライゾン区間の各ステップにおける操作量ベクトルが得られるが、実際には現在時刻の操作量のみを使用し、次ステップ以降の操作量は次ステップに進んでから再度算出し直して求めるというように、逐次最新の情報に応じて最適な操作量を求め直すアルゴリズムとなっている。
【0208】
この考え方を拡張すれば、コントローラが生成したアクセルペダル開度は制御対象には反映しないことが可能となる。ただし、設定した拘束条件を破らずに制御できることが保証されるのは双方の操作量を使用した場合であり、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を使用しなかった場合は拘束条件を破るおそれがあるため、拘束条件外の領域に状態を拘束条件内に戻すための別のコントローラを配置することで、破綻のない制御が可能となる。
【0209】
尚、上記において変速機としてCVT26を使用したが、有段変速機であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0210】
【図1】この発明の実施例に係る車両の駆動力制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す装置のシフトコントローラなどの設計を説明する、制御対象のモデリングを全体的に示すブロック図である。
【図3】図2に示すエンジンコントローラモデルのブロック図である。
【図4】図2に示すエンジンモデルのフューエルカットOFFのときのブロック図である。
【図5】図2に示すエンジンモデルのフューエルカットONのときのブロック図である。
【図6】図2に示すトルクコンバータモデルのブロック図である。
【図7】図2に示す変速機(CVT)モデルのブロック図である。
【図8】図2に示す車体モデルのブロック図である。
【図9】図2に示す構成を制御対象とする変速比制御系(シフトコントローラ)の構成を示すブロック図である。
【図10】図9に示す構成で使用される燃費最適作動線の特性を示す説明グラフである。
【図11】図9に示す構成が適用されるモデル予測制御を説明する説明図である。
【図12】図9に示す構成が適用されるマルチパラメトリック計画法によるモデル予測制御を示す説明図である。
【図13】図12に示すマルチパラメトリック計画法のコントローラの状態空間領域を示す説明図である。
【図14】図13に示すコントローラの制御則などの説明図である。
【図15】図9などに示す構成のシミュレーション結果を示すデータ図である。
【図16】同様に、図9などに示す構成のシミュレーション結果を示すデータ図である。
【符号の説明】
【0211】
10 エンジン(内燃機関)、14 車両、16 DBW機構、24 トルクコンバータ、26 変速機(CVT)、30 前後進切換装置、30a フォワードクラッチ、60 エンジンコントローラ、74 シフトコントローラ、W 駆動輪(タイヤ)
【技術分野】
【0001】
この発明は車両の駆動力制御装置に関し、より詳しくは未来の燃料消費量および未来の運転者の操作量、即ち、運転負担を予測し、状況の変化に応じてそれらを最小にすることを可能とする車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動力制御装置としては、下記の特許文献1,2記載の技術が知られている。特許文献1記載の技術は、運転者を特定し、過去の同状況における運転者の不満足度、即ち、運転者の修正操作情報に基づいて今回の駆動力制御を修正する技術を開示する。
【0003】
特許文献2記載の技術は、ACC(Adaptive Auto Cruise。適応定速走行あるいは車間制御)においてモデル予測制御を適用する場合に制御誤差を抑制するための手法と、その手法に伴う応答時間の劣化を抑えるオンライン計算手法を開示すると共に、制御目的を表現した一つの標準的な評価関数と、実際の操作量算出に用いられる参照評価関数とを有し、この参照評価関数に基づいてシステムの動作に適した候補解に対する補正を行う技術を開示する。
【特許文献1】特開2007−313925号公報
【特許文献2】特開2005−339241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の駆動力制御装置において、運転者の運転特性や走行環境の変化に自動的に適応し、運転者の運転負担を低減する制御が求められている。従来は開発者が様々な走行環境や運転者特性のサンプルデータを計測し、経験と知識に基づき発見的な手法でマップコントローラの設定を行ってきた。この手法では開発に膨大な工数が必要である上に運転者と状況の変化に応じた適応的な制御が困難であった。
【0005】
その問題を解決するため、上記した特許文献1記載のような手法が提案されている。この手法では、過去の状況と運転者操作に対する記録と今回の状況と運転者操作の比較によって今回の制御を決定するため、初めて運転する運転者や初めて走る場所(状況)のように比較対象がない場合には初期値が用いられることになり、データの蓄積が十分でない場合には期待される性能が発揮できない。
【0006】
また、上記した特許文献1記載の手法以外では、特許文献2記載の技術のようにモデル予測制御を用いる手法が提案されているが、モデル予測制御はオンラインで最適解を算出する必要があり、状況の変化に応じた迅速な対応、即ち、制約条件を常に満足する解を得るのが困難なため、車両への応用例としても比較的ダイナミクスの遅いシステムであるACCへの適用に限られ、駆動力、例えば変速比制御への適用は実現されていない。
【0007】
更に、いずれの手法においても、運転者の運転負担低減と、環境負担の低減、具体的には低燃費性の実現を同時に考慮することは実現されていない。
【0008】
従って、この発明の目的は上記した不都合を解消し、未来の運転者操作量(換言すれば運転負担)と未来の燃料消費量を予測し、状況の変化に応じてそれらを同時に最小化あるいは最適化することを可能とするようにした車両の駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1項にあっては、エンジンと、前記エンジンの出力を変速する変速機と、前記エンジンと変速機が搭載される車体とを少なくとも備え、運転者によるアクセルペダル操作を示すアクセルペダル開度とブレーキペダル操作を示すブレーキペダル開度に応じて車両の駆動力を制御する装置において、前記エンジンでフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされると共に、少なくとも目標変速比と前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度とを入力uとし、少なくともエンジン回転数と変速比とを状態xとする状態方程式で記述された、前記エンジンから前記車体までを制御対象として前記変速比と前記エンジン回転数を、車速に基づいて算出される代表目標変速比と、前記エンジンの出力トルクに対して燃費が最適となるように設定された燃費最適作動線に従って算出される目標エンジン回転数とにフィードバック制御する変速比制御系と、少なくとも前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度の現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数と、前記目標エンジン回転数について現時刻からnステップ未来までの前記燃費最適作動線と実際のエンジン運転点との差の総和を評価する燃費評価関数に従って前記状態xの変化が最適となるように、予めオフラインで生成された入力uの最適解群を前記状態xから検索自在に格納する格納手段と、前記入力uの最適解群を前記状態xから検索して前記代表目標変速比を修正した目標変速比を算出し、前記変速比制御系から前記制御対象に操作量として印加させる操作量印加手段とを備える如く構成した。
【0010】
請求項2に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記格納手段は、前記入力uの最適解群を、前記入力uを状態xと最適ゲインKの積からなるu=Kxで記述されるコントローラ群からなる如く構成した。
【0011】
請求項3に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記評価関数Jは、前記評価関数に重みQ,Rを乗じて得た積QJ,RJの総和として定義される如く構成した。
【0012】
請求項4に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記エンジン回転数と前記変速比と前記目標変速比とに制約条件が設けられる如く構成した。
【0013】
請求項5に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記操作量印加手段は、前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を除く、前記目標変速比を前記変速比制御系から前記制御対象に操作量として印加させる如く構成した。
【0014】
請求項6に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記操作量印加手段は、前記状態xが予め設定された拘束条件内にあるときは、前記コントローラに基づいて前記目標変速比を算出すると共に、前記状態xが前記拘束条件外にあるときは、前記状態xを前記拘束条件に復帰させる第2のコントローラに基づいて前記目標変速比を算出する如く構成した。
【発明の効果】
【0015】
請求項1項に係る車両の駆動力制御装置にあっては、エンジンでフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされ、目標変速比とアクセルペダル開度とブレーキペダル開度などを入力uとし、エンジン回転数と変速比などを状態xとする状態方程式で記述されたエンジンから前記車体までを制御対象として変速比とエンジン回転数を代表目標変速比と燃費最適作動線に従って算出される目標エンジン回転数とにフィードバック制御する変速比制御系を備えると共に、現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数と燃費最適作動線と実際のエンジン運転点との差の総和を評価する燃費評価関数などに従って状態xの変化が最適となるように、予めオフラインで生成された入力uの最適解群を前記状態xから検索して代表目標変速比を修正した目標変速比を算出して制御系から制御対象に操作量として印加させる如く構成したので、例えばモデル予測制御を用いて評価関数を介して未来の運転者操作量(換言すれば運転負担)と未来の燃料消費量を予測することができると共に、例えばマルチパラメトリック計画法などの系統的な解法を適用し、予めオフラインで入力uの最適解群を生成しておくことで計算時間が短縮され、状況の変化に応じてそれらを同時に最小化あるいは最適化することができる。
【0016】
従って、運転者の運転負担を低減すると共に、環境負担の低減、具体的には低燃費性を実現することができる。
【0017】
また、制御対象は、エンジンでフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされる如く構成したので、エンジンの特性を正確に把握することができ、制御対象を的確にモデリングすることができる。
【0018】
請求項2に係る車両の駆動力制御装置にあっては、前記入力uの最適解群は入力uを状態xと最適ゲインKの積からなるu=Kxで記述されるコントローラ群として格納される如く構成したので、上記した効果に加え、入力uの最適解群を容易に格納することができる。
【0019】
請求項3に係る車両の駆動力制御装置にあっては、評価関数Jは、評価関数に重みQ,Rを乗じて得た積QJ,RJの総和として定義される如く構成したので、上記した効果に加え、トレードオフの関係にある目標量、即ち、未来の運転者操作量と燃料消費量を状況の変化に応じて同時かつ最適に調整することができる。
【0020】
即ち、例えば長時間にわたって加速しようとした場合、運転者操作量を低減させるには、変速比を減少させて駆動力を確保する必要があるが、燃費最適作動線から離れたエンジン運転点で運転し続けると、燃費が悪化する。このように目標量が相反する関係にあるときも、それらを同時にかつ最適に調整することができる。
【0021】
請求項4に係る車両の駆動力制御装置にあっては、エンジン回転数と変速比と目標変速比とに制約条件が設けられる如く構成したので、かかる制約条件を設けることで、エンジン回転数がレブリミットを超えないなどの機械的な保護のための制限、あるいは乗り心地を確保するために変速比を急激に変化させないなどの制限を容易に追加することができる。
【0022】
請求項5に係る車両の駆動力制御装置にあっては、操作量印加手段は、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を除く、目標変速比を変速比制御系から制御対象に操作量として印加させる如く構成したので、上記した効果に加え、制御対象をモデル化して状態方程式で表現するときの入力にアクセルペダル開度とブレーキペダル開度からなる運転者操作量を含めることで、運転者操作量評価関数に組み込んで最適解を求めることで、運転者操作量を低減することができる。
【0023】
他方、運転者操作量は運転者が行う行為であって制御対象とはならないことから、運転者操作量を制御対象への入力から除去することで、運転者の行為を装置の動作から除外することができる。
【0024】
請求項6に係る車両の駆動力制御装置にあっては、状態xが予め設定された拘束条件内にあるときは、コントローラに基づいて目標変速比を算出すると共に、拘束条件外にあるときは、状態xを拘束条件に復帰させる第2のコントローラに基づいて目標変速比を算出する如く構成したので、上記した効果に加え、状態xが拘束条件内にないときの不都合を回避することができる。
【0025】
即ち、例えば一般的な最適制御設計によってコントローラを求めた場合、操作量は無限時間区間における最適解となるので、コントローラが生成した操作量を両方とも制御対象に反映しないと、最適性が保証されないことはおろか、安定性も保てないおそれがある。
【0026】
しかし、予測制御の場合、最適化の範囲は無限時間区間ではなく有限のホライゾン区間であり、有限のホライゾン区間の各ステップにおける操作量ベクトルが得られるが、実際には現在時刻の操作量のみを使用し、次ステップ以降の操作量は次ステップに進んでから再度算出し直して求めるというように、逐次最新の情報に応じて最適な操作量を求め直すアルゴリズムとなっている。
【0027】
この考え方を拡張すれば、コントローラが生成したアクセルペダル開度とブレーキペダル開度は制御対象には反映しないことが可能となる。ただし、設定した拘束条件を破らずに制御できることが保証されるのは双方の操作量を使用した場合であり、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を使用しなかった場合は拘束条件を破るおそれがあるため、拘束条件外の領域に状態を拘束条件内に戻すための別のコントローラを配置することで、破綻のない制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、添付図面に即してこの発明に係る車両の駆動力制御装置を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例】
【0029】
図1は、この発明の実施例に係る車両の駆動力制御装置を全体的に示す概略図である。
【0030】
図1において、符号10はエンジン(内燃機関)を示す。エンジン10は4気筒などの複数の気筒を備える火花点火式の水冷ガソリンエンジンであり、車両(駆動輪Wなどで部分的に示す)14の車体(図示せず)に搭載される。
【0031】
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は車両運転席に配置されるアクセルペダル(図示せず)との機械的な接続が絶たれ、電動モータなどのアクチュエータからなるDBW(Drive By Wire)機構16が接続されて駆動される。
【0032】
スロットルバルブで調量された吸気はインテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ(燃料噴射弁)20から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストン(図示せず)を駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
【0033】
エンジン10のクランクシャフト22の回転は、トルクコンバータ24を介して変速機26に入力される。変速機26はエンジン10の出力を変速する。
【0034】
即ち、クランクシャフト22はトルクコンバータ24のポンプインペラ24aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービンランナ24bはメインシャフト(ミッション入力軸)MSに接続される。トルクコンバータ24はロックアップクラッチ(図示せず)を備える。
【0035】
変速機26はCVT(Continuous Variable Transmission)からなり、メインシャフトMSに配置されたドライブプーリ26aと、メインシャフトMSに平行なカウンタシャフトCSに配置されたドリブンプーリ26bと、その間に掛け回される金属製のベルト26cと、可動プーリ半体(後述)のピストン室に作動油を供給する油圧機構26dとからなる。
【0036】
ドライブプーリ26aは、メインシャフトMSに配置された固定プーリ半体26a1と、固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2からなる。ドリブンプーリ26bは、カウンタシャフトCSに固定された固定プーリ半体26b1と、固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2からなる。
【0037】
CVT26は、前後進切換装置30に接続される。前後進切換装置30は、フォワード(前進)クラッチ30aと、後進ブレーキ30bと、その間に配置されるプラネタリギヤ機構30cからなる。
【0038】
プラネタリギヤ機構30cにおいて、サンギヤ30c1はメインシャフトMSに固定されると共に、リングギヤ30c2はフォワードクラッチ30aを介してドライブプーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定される。
【0039】
サンギヤ30c1とリングギヤ30c2の間には、ピニオン30c3が配置される。ピニオン30c3は、キャリア30c4でサンギヤ30c1に連結される。キャリア30c4は、後進ブレーキ30bが作動させられると、それによって固定(ロック)される。
【0040】
カウンタシャフトCSの回転は減速ギヤ34,36を介してセカンダリシャフトSSに伝えられると共に、セカンダリシャフトSSの回転はギヤ40とディファレンシャルDを介して左右の駆動輪(タイヤ。右側のみ示す)Wに伝えられる。駆動輪Wの付近にはディスクブレーキ42が配置される。
【0041】
フォワードクラッチ30aと後進ブレーキ30bの切換は、車両運転席に設けられた、例えばP,R,N,D,S,Lのポジションを備えるシフトレバー44を運転者が操作することによって行われる。即ち、運転者によってシフトレバー44のいずれかのポジションが選択されたとき、その選択動作は油圧機構(図示せず)のマニュアルバルブ(図示せず)に伝えられる。
【0042】
例えばD,S,Lポジションが選択されると、それに応じてマニュアルバルブのスプールが移動し、後進ブレーキ30bのピストン室から作動油(油圧)が排出される一方、フォワードクラッチ30aのピストン室に油圧が供給されてフォワードクラッチ30aが締結される。フォワードクラッチ30aが締結されると、全ギヤがメインシャフトMSと一体に回転し、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSと同方向(前進方向)に駆動される。
【0043】
他方、Rポジションが選択されると、フォワードクラッチ30aのピストン室から作動油が排出される一方、後進ブレーキ30bのピストン室に油圧が供給されて後進ブレーキ30bが作動する。それによってキャリア30c4が固定されてリングギヤ30c2はサンギヤ30c1とは逆方向に駆動され、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSとは逆方向(後進方向)に駆動される。
【0044】
また、PあるいはNポジションが選択されると、両方のピストン室から作動油が排出されてフォワードクラッチ30aと後進ブレーキ30bが共に開放され、前後進切換装置30を介しての動力伝達が断たれ、エンジン10とCVT26のドライブプーリ26aとの間の動力伝達が遮断される。
【0045】
CVT26においては油圧機構26dから可動プーリ半体26a2,26b2のピストン室に作動油が供給され、可動プーリ半体26a2,26b2を軸方向に移動させるプーリ側圧(ベルト伝達トルク)が発生させられると、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのプーリ幅が変化し、ベルト26cの巻掛け半径が変化する。
【0046】
このように、プーリ側圧を調整、換言すればベルト伝達トルク指令値を変更することで、エンジン10の出力を駆動輪Wに伝達する変速比を無段階に変化させることができる。
【0047】
エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ48が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブの下流の適宜位置には絶対圧センサ50が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
【0048】
DBW機構16のアクチュエータにはスロットル開度センサ52が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THLに比例した信号を出力すると共に、アクセルペダル付近にはアクセル開度センサ54が設けられ、運転者のアクセルペダル操作量(アクセルペダル踏み込み量)に相当するアクセルペダル開度APに比例する信号を出力する。
【0049】
さらに、エンジン10の冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ56が設けられ、エンジン冷却水温TW、換言すればエンジン10の温度に応じた出力を生じると共に、吸気系には吸気温センサ58が設けられ、エンジン10に吸入される吸気温(外気温)に応じた出力を生じる。
【0050】
上記したクランク角センサ48などの出力は、エンジンコントローラ60に送られる。エンジンコントローラ60はCPU,ROM,RAMなどを有するマイクロコンピュータを備え、それらセンサ出力に基づいて燃料噴射量を決定してインジェクタ20を駆動すると共に、アクセルペダル開度APに応じてスロットルバルブの開度THLを制御する。
【0051】
メインシャフトMSにはNTセンサ(回転数センサ)62が設けられ、タービンランナ24bの回転数、具体的にはメインシャフトMSの回転数、より具体的にはフォワードクラッチ30aの入力軸回転数を示すパルス信号を出力する。
【0052】
CVT26のドライブプーリ26aの付近の適宜位置にはNDRセンサ(回転数センサ)64が設けられてドライブプーリ26aの回転数、換言すればフォワードクラッチ30aの出力軸回転数に応じたパルス信号を出力すると共に、ドリブンプーリ26bの付近の適宜位置にはNDNセンサ(回転数センサ)66が設けられ、ドリブンプーリ26bの回転数を示すパルス信号を出力する。
【0053】
セカンダリシャフトSSのギヤ36の付近にはVELセンサ(回転数センサ)68が設けられ、ギヤ36の回転数を通じてCVT26の出力回転数あるいは車速VELを示すパルス信号を出力する。前記したシフトレバー44の付近にはシフトレバーポジションセンサ70が設けられ、運転者によって選択されたR,N,Dなどのポジションに応じたPOS信号を出力する。
【0054】
またブレーキペダル付近にはブレーキ開度センサ72が設けられ、運転者のブレーキペダル操作量(ブレーキペダル踏み込み量)に相当するブレーキペダル開度BRKに比例する信号を出力する。
【0055】
上記したNTセンサ62などの出力(ならびに前記したアクセル開度センサ54の出力)は、図示しないその他のセンサの出力も含め、シフトコントローラ74に送られる。シフトコントローラ74もCPU,ROM,RAMなどを有するマイクロコンピュータを備えると共に、エンジンコントローラ60と通信自在に構成される。
【0056】
入力されたセンサ出力のうち、NTセンサ62とNDRセンサ64とVELセンサ68の出力はシフトコントローラ74において波形整形回路に入力される。シフトコントローラ74は波形整形回路の出力をカウントして回転数と車速Vを検出する。
【0057】
シフトコントローラ74はそれら検出値に基づき、油圧機構の電磁ソレノイド(図示せず)を励磁・非励磁してトルクコンバータ24とCVT26の動作を制御すると共に、フォワードクラッチ30aの締結を判断して操作量を決定する。
【0058】
CVT26の動作の制御については、シフトコントローラ74は、目標変速比(レシオ)を決定し、決定した目標変速比となるように、可動プーリ半体26a2,26b2を駆動し、変速比を制御する。
【0059】
以下、シフトコントローラ74およびエンジンコントローラ60の設計について説明する。
【0060】
シフトコントローラ74を制御理論に基づいたコントローラとして設計するため、まず制御対象の物理モデリングを行い、状態方程式を導出する。
【0061】
後述するように、変速比を適切に制御することによる運転者操作の低減も目的の一つであるので、アクセルペダル開度AP、ブレーキペダル開度BRKも含め、図2に示すように、車両14の全体、即ち、車両システム全体を制御対象としてモデリングする。
【0062】
また、エンジン10とトルクコンバータ24については、フューエルカットOFF(フューエルカット(燃料供給停止)が実行されない)の場合とON(フューエルカットが実行される)場合で特性が異なるので、それぞれの場合についてモデリングを行う。
【0063】
以下、エンジンコントローラ60、エンジン10、トルクコンバータ24、変速機(CVT)26、車体のそれぞれのモデリングについて説明する。
【0064】
エンジンコントローラ60のモデリングについて説明する。
【0065】
前記した如く、エンジンコントローラ60は、図3に示すように運転者が操作するアクセルペダル開度APを基に、DBWマップに従い、スロットルバルブの開度THLを制御する。DBWマップの特性の図示は省略するが、APとTHLの関係は概ね線形と見做せるので、数1に示すようにアクセルペダル開度APに係数kaを乗じることで線形近似して扱う。
【0066】
【数1】
【0067】
エンジン10のモデリングについて説明する。
【0068】
エンジン10はフューエルカットがOFFのときとONのときとで特性が異なるので、それぞれの場合についてモデリングする。まず、フューエルカットがOFFのときは、図4に示すように、スロットル開度THLとエンジン回転数ωENGに依存して、エンジントルクTENGを出力するものとしてモデル化する。数2に示すようにフューエルカットがOFFのときのエンジントルクをNormalTrqと示す。
【0069】
【数2】
【0070】
フューエルカットがONのときは、図5に示すようにエンジン回転数ωENGに依存してフリクショントルクFrictionTrqを出力するものとしてモデル化する。
【0071】
【数3】
【0072】
トルクコンバータ24のモデリングについて説明する。
【0073】
トルクコンバータ24は、図6に示すように、エンジントルクTENGとトルクコンバータの出力軸回転数ωTCを入力とし、トルクコンバータ24の出力トルクTTCとエンジン回転数ωENG(=トルクコンバータ24の入力軸回転数)を出力とするモデルとしてモデリングする。
【0074】
トルクコンバータ24の入力軸回転数、即ち、エンジン回転数ωENGは次のようにして求める。
【0075】
即ち、トルクコンバータ24のポンプインペラ24aへの入力トルクはエンジントルクであり、出力トルクはポンプトルクTpumpとロックアップクラッチトルクTLCである。従って、入出力トルクの差をエンジン10とポンプインペラ24aのイナーシャIENG_pumpで除すことによってエンジン回転加速度ωENGdotが求まるので、それを積分することでエンジン回転数ωENGを得る。
【0076】
【数4】
【0077】
また、ポンプトルクTpumpとタービントルクTturbineはフューエルカットがOFFのときとONのときとで特性が異なるので、それぞれの場合についてモデル化する。
【0078】
まずフューエルカットOFFのときは、ポンプトルクTpumpはエンジン回転数ωENGの2乗とトルクコンバータ24の容量係数τTCの積で与えられる。またタービントルクTturbineは、ポンプトルクTpumpにトルク比KTCを乗じることで得られる。尚、容量係数τTCとトルク比KTCは、トルクコンバータ24の速度比eに依存することから、速度eを乗じて求める。
【0079】
【数5】
【0080】
ここで速度比eとは、次式に示す如く、トルクコンバータの出力軸回転数ωTCを入力軸回転数ωENGで除した値である。
【0081】
【数6】
【0082】
次に、フューエルカットONのときは、ポンプインペラ24aとタービンランナ24bの関係が逆になる。即ち、タービントルクTturbineは、出力軸回転数ωTCの2乗とトルクコンバータ容量係数τTCと速度比eの積にマイナス1を乗じたもので与えられ、ポンプトルクTpumpはタービントルクTturbineにトルク比KTCと速度比eを乗じることで得られる。
【0083】
【数7】
【0084】
また、ロックアップクラッチトルクは、ロックアップクラッチの最大伝達トルクTLCMAXに、トルクコンバータ24の入出力軸回転数ωENGとωTCの差を乗じ、係数λLCを掛けることで与えられるものとしてモデル化する。
【0085】
【数8】
【0086】
トルクコンバータ24の出力トルクTTCは、タービントルクTturbineとロックアップクラッチトルクTLCの和により与えられる。
【0087】
【数9】
【0088】
変速機(CVT)26のモデリングについて説明する。
【0089】
ここでは、変速機26は、(前後進切換装置30の)フォワードクラッチ30a、プーリ(ドライブ・ドリブンプーリ)26a,26b、セカンダリギヤ(減速ギヤ34,36)、ファイナルギヤ(ギヤ40)によって構成されるものとする。図7に示すように、変速機26は、トルクコンバータ24の出力トルクとタイヤ(駆動輪)Wの回転数を入力とし、ドライブシャフトトルクTDSとトルクコンバータ回転数ωTCを出力するモデルとしてモデリングする。
【0090】
トルクコンバータ24の出力軸回転数ωTCは、以下のようにして求める。
【0091】
まず、タービン回転数はフォワードクラッチ回転数に等しいと仮定する。フォワードクラッチ30aへの入力トルクは、トルクコンバータ24の出力トルクTTCからオイルポンプによるフリクションロストルクTpumploss(=Oilpumploss)を引き去り、フォワードギヤ効率ηFWDRVSを乗じたものである。尚、オイルポンプによるフリクションロストルクOilpumplossは、トルクコンバータ24の出力軸回転数ωTCに依存して与えられるものとする。
【0092】
一方、出力トルクは、フォワードクラッチ30aの出力トルクTFWDRVSである。従って、入出力トルクの差をフォワードクラッチ30aのイナーシャIFWDRVSで除すことによってトルクコンバータ24の出力軸回転加速度ωTCdotが求まるので、それを積分することによりトルクコンバータ24の出力軸回転数ωTCを得る。
【0093】
【数10】
【0094】
フォワードクラッチトルクTFWDRVSは、フォワードクラッチ30aの最大伝達トルクTFWDMAXに、フォワードクラッチ30aの入出力軸回転数ωTCとωFWDRVSの差を乗じ、係数λFWDを掛けることで与えられるものとしてモデル化する。
【0095】
【数11】
【0096】
次に、回転数の伝達について説明する。
【0097】
ドリブンプーリ26bの回転数ωDNは、タイヤ回転数ωtireにファイナルギヤレシオρFとセカンダリギヤレシオρSを掛けることで得られる。ドライブプーリ26aの回転数ωDRは、ドリブンプーリ回転数ωDNにプーリ変速比ρpulleyを乗じることで得られる。フォワードクラッチ30aの回転数ωFWDRVSは、ドライブプーリ回転数ωDRにフォワードギヤレシオρFWDを乗ずることで求まる。
【0098】
以上を整理すると、フォワードクラッチ回転数ωFWDRVSは、タイヤ回転数ωtireにフォワードギヤレシオρFWD、プーリ変速比ρpulley、セカンダリギヤレシオρS、ファイナルギヤレシオρFを乗ずることで得られる。
【0099】
【数12】
【0100】
またプーリ変速比ρpulley、より具体的には変速比ρpulleyは、目標プーリ変速比、より具体的には目標変速比ρpulleytgtに対して1次遅れで追従するものとする。
【数13】
【0101】
次に、トルクの伝達について説明する。
【0102】
ドライブプーリトルクTDRは、フォワードクラッチトルクTFWDRVSにフォワードギヤレシオρFWDを掛けることで得られる。ドリブンプーリトルクTDNは、ドライブプーリトルクTDRにプーリレシオρpulleyとCVT効率ηCVTを掛けることで得られる。ドライブシャフトトルクTDSは、ドリブンプーリトルクTDNにセカンダリギヤレシオρSとファイナルギヤレシオρFを乗ずることで得られる。
【0103】
以上を整理すると、ドライブシャフトトルクTDRは、フォワードクラッチトルクTFWDRVSにセカンダリギヤレシオρS、ファイナルギヤレシオρF、CVT効率ηCVT、プーリ変速比ρpulley、フォワードギヤレシオρFWDを乗ずることで得られる。
【0104】
【数14】
【0105】
車体のモデリングについて説明する。
【0106】
図8に示すように、車体はドライブシャフトトルクTDSと制動力FBRKを入力とし、タイヤ回転数ωtireを出力とするモデルとしてモデル化する。尚、ここでは前後方向についてのみ扱う。車体加速度Vdotは、駆動力から各走行抵抗と制動力FBRKを引き去り、車重mbodyで除すことで得られる。駆動力は、ドライブシャフトトルクTDSをタイヤ半径Rtireで除すことで得られる。車速Vは車体加速度Vdotを積分することで得られる。
【0107】
走行抵抗については、ここでは勾配抵抗Fslope、転がり抵抗Froad、空気抵抗Fairを考慮する。勾配抵抗Fslopeは、車重mbodyに重力加速度gを掛け、勾配θslopeの正弦を乗ずることで与えられる。転がり抵抗Froadは、車重mbodyに転がり抵抗係数μroadと重力加速度gを掛け、勾配の余弦を乗ずることで得られる。空気抵抗Fairは、車速Vの2乗値に空気抵抗係数μairを掛けることで得られる。
【0108】
また制動力FBRKについては、簡単のためブレーキペダル開度BRKに係数Fbrakemaxを乗じることでブレーキペダル開度に対して線形で得られるものとする。
【0109】
【数15】
【0110】
タイヤ回転数ωtireは、車速Vをタイヤ半径Rtireで割ることにより求まる。
【0111】
【数16】
【0112】
以上でエンジン10、トルクコンバータ24、変速機(CVT)26、車体の数式モデルを記述したので、ここではそれらを結合した状態方程式を導出する。
【0113】
フューエルカットOFFの場合、入力uを[AP,ρpulleytgt]、状態xを[Vdot,ωENG,ωTC,ρpulley]としてモデルを導出する。
【0114】
【数17】
【0115】
同様に、フューエルカットONの場合、入力uを[BRK,ρpulleytgt]、状態xを[Vdot,ωENG,ωTC,ρpulley]としてモデルを導出する。このように、状態方程式の入力uを目標変速比ρpulleyとアクセルペダル開度APまたは目標変速比ρpulleyとブレーキペダル開度BRKとすると共に、状態xを車体加速度Vdotとエンジン回転数ωENGとトルクコンバータ出力軸回転数ωTCと変速比ρpulleyとする。
【0116】
【数18】
【0117】
上記から明らかなように、この制御対象は、フューエルカットOFF/ONによって切替わるという特徴がある。従って、この制御対象を、フューエルカットOFF/ONによってモデルが切替わるハイブリッドシステムと捉える。換言すれば、この制御対象は、フューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされる。
【0118】
次に、変速比制御系(シフトコントローラ74)の設計について説明する。
【0119】
ここでは、変速比制御系を図9に示すように構成する。まず同図下部の表に示すように、車速V、より正確には参照車速Vrefに基づいて代表的な目標変速比ρpulley-refを設定する。その後段に、その値に対して後述する制約条件や評価関数を考慮した、即ち、修正した目標変速比を制御対象に与える、という構成とする。
【0120】
ここで、目標変速比を決定するための参照車速としては、現在の車速そのものか、アクセルペダル開度あるいはブレーキペダル開度と現在の変速比を考慮した未来の目標車速を与えれば良い。
【0121】
また、後述するように、変速比を適切に制御することにより燃費の向上を図るため、燃費最適作動線から求められるエンジン回転数も目標値として与え、目標エンジン回転数も考慮して目標変速比を生成する。
【0122】
変速比制御系に対する要求仕様について説明する。
【0123】
まず、変速比をフィードバックする構成であることから、代表目標変速比ρpulley-refと変速比ρpulleyの差を評価する評価関数Jρpulleyを設定する。
【0124】
【数19】
【0125】
変速比制御への要求の一つとして、運転者操作量の低減がある。例えば大きく加速したい時に、変速比が変わらないままアクセルペダルだけで加速しようとすると、アクセルペダルを大きく踏込まなければならないが、一時的に変速比をロー側に変化させることで、少ないアクセルペダルの踏込みで同じ加速力を得ることができる。このように、変速比を適切に変化させることで、運転者操作量の低減、すなわち運転負担の低減を図ることができる。
【0126】
これを実現するため、つぎのような運転者操作量に対する評価関数JAPBRKを設定する。
【0127】
【数20】
【0128】
ここでΔAP(k+1|k)あるいはΔBRK(k+1|k)は、現時刻をkとしたときのiステップ未来の予測値を表す。従って、上式は、現時刻kのΔAPあるいはΔBRKからHu−1ステップ未来までの各ステップのΔAPあるいはΔBRKの予測値の二乗和を求めることを意味する。つまり、現時刻からHu−1ステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する関数であり、この値を最小化するように変速比を制御することにより、運転者操作量、つまり運転負担の低減を可能とする。
【0129】
また、別の要求として、燃費の向上が挙げられる。良好な燃費効率とするためには、変速比を適切に制御することにより、エンジンを図10に示すような燃費最適作動線に沿って運転させれば良いことが知られている。
【0130】
そのための一つの手法として、現在のエンジントルクに応じて、燃費最適作動線の特性から目標とする燃費最適なエンジン回転数を求め、実エンジン回転数がそれに一致するように変速比を制御することが考えられる。しかし、常に燃費最適作動線に追従させようとすると、乗り心地に違和感が生じる不都合があり、加速要求があっても十分な加速力が得られないなどの別の問題が生じてしまう。
【0131】
そこで、常に燃費最適作動線に追従させようとするのではなく、燃費最適作動線と実際のエンジンの運転点との差が、ある時間範囲での総和としてなるべく小さくなるように制御する。このようにすることで、例えば加速要求があった場合は一時的に燃費最適作動線から離れた運転点で運転させ、加速が終了次第、速やかに燃費最適作動線近傍に戻すことにより、運転者の要求を満足しつつ燃費も向上させることを可能とする。これを実現するため、次のような評価関数JENGを設定する。
【0132】
【数21】
【0133】
上式は、現時刻からHp−1ステップ未来までの燃費最適作動線と実際のエンジン運転点の差ωENG-refの総和を評価する関数JENGであり、この評価関数を最小化するように変速比を制御することにより、先の要求を実現することを可能とする。
【0134】
また、不用意に変速比を変化させることは、乗り心地などの観点から好ましくない。そこで、目標変速比ρpulleytgtに対しても評価関数Jρpulleyを設定する。
【0135】
【数22】
【0136】
以上により、変速比、運転者操作量、燃費(エンジン回転数)、目標変速比のそれぞれを評価する評価関数を設定した。しかし、例えば長時間にわたり加速しようとした場合、運転者操作量を低減するためには変速比をロー側に保って駆動力を確保する必要があるが、一方で燃費最適作動線から離れた運転点で作動し続けると燃費が大きく悪化してしまうため、変速比をロー側にし続けることはできない。
【0137】
このように、それぞれの評価関数はトレードオフの関係となるケースがある。そこで、個々の評価関数を評価するのではなく、それぞれの評価関数に重み付けをして足し合わせた評価関数を新たに設定する。
【0138】
【数23】
【0139】
このようにして、重みQ,Rの調整によってどの特性をより重視したいかを考慮しつつ、それぞれの評価関数を同時に最適化することを可能とする。
【0140】
変速比を変化させると同じ車速に対してエンジン回転数が変化する。例えば車速が非常に高いときに変速比をロー側へ変化させると、エンジン回転数は非常に高くなってしまう。しかしエンジン回転数にはレブリミット回転数が設けられており、この回転数を超える運転はエンジン保護のため避けなければならない。
【0141】
逆に、車速が非常に低いときに変速比をハイ側へ変化させたとき、エンジンからタイヤまでが直結したままである場合、エンジン回転数は非常に低くなり、エンジンストールの恐れがあるので、これも避けなければならない。
【0142】
また変速比自体も、変速可能な範囲が限られており、その範囲内で変速させる必要がある。
【0143】
さらに、乗り心地や変速機保護などの観点から、あまり急激に変速比を変化させるのも好ましくない。以上のことを実現するため、エンジン回転数ωENG、変速比ρpulley、目標変速比の変化速度Δρpulleytgtのそれぞれに制約条件を設けることとする。
【0144】
【数24】
【0145】
即ち、目標変速比ρpulleyは、現在の変速比とエンジン回転数に依存して与える制限値(目標変速比の変化速度)Δρpulleytgtによって制限するものとする。このようにすることで、上記問題を考慮した変速比制御を可能とする。
【0146】
この実施例における変速比制御系の設計上の特徴を整理すると、以下のようになる。
1.未来の操作量および状態を予測できるようにする。
2.操作量や状態の動作範囲などに拘束が設けられる。
3.制御対象はフューエルカットOFF/ONによって切替わるハイブリッドシステムとする。
【0147】
1.に対する適当な手段の一つとして、モデル予測制御がある。モデル予測制御は、図11に示すように逐次未来の状態軌道を予測し、ある評価指標の基で予測軌道をオンラインで最適化しながら操作量を生成する手法であり、拘束条件も陽に考慮することができる。
【0148】
しかし、オンラインで最適制御問題を解く必要があるため計算時間の問題で適用が困難な場合が多くあり、主に化学プラントの操業などの利用に限定されている。車両への適用としても、特許文献2に見られる車両の車間制御のように比較的ダイナミクスの遅いシステムが対象である。
【0149】
近年、これに代わる制御手法として、マルチパラメトリック計画法という最適化手法によって、オフラインで最適制御問題を解く手法が注目されている。最適解は、初期状態に依存した形で陽に得ることができるため、実装の際にはサンプリング時刻おきに状態を得るだけで、ただちに最適値を生成することができる。
【0150】
この実施例においては、マルチパラメトリック計画法を用いることによって、先に述べた拘束条件や評価関数を考慮したシフトコントローラ74を設計する。
【0151】
また、マルチパラメトリック計画法の枠組みによりハイブリッドシステムを取り扱うことも可能であるため、フューエルカットOFF/ONによるモデルの切替わりも考慮に入れてコントローラを設計することとする。
【0152】
マルチパラメトリック計画法によるハイブリッド予測制御は、線形離散モデルに対してコントローラを設計する手法である。先に導出した状態方程式は非線形項を含むため、線形化を行う必要がある。線形化は元の非線形方程式の平衡点周りにおいて行うため、まず平衡状態における各変数の対応関係を求める必要がある。
【0153】
平衡状態においては各入力、状態は変化しないため、非線形方程式の左辺は各状態の微分値であることから、0となる。例えば変速比ρpulleyについて見ると、以下のようにして、実変速比ρpulleyと目標変速比ρpulleytgtの対応関係を求める。
【0154】
【数25】
【0155】
尚、添え字のeは平衡状態における値であることを意味する。他の式についても同様にして対応関係を求めて整理すると、車速と変速比の平衡点を与えれば、他の状態、入力は一意に決定できる。
【0156】
次に、車速と変速比の平衡点の与え方について説明する。すでに説明したように、参照車速に対応する代表変速比を求めているので、これを利用し、参照車速を車速の平衡点として与えることで対応する変速比の平衡点を決定する。以上のようにして、車速の平衡点のみを与えて他の全ての平衡点を一意に決める。
【0157】
平衡点周りの線形モデル導出について説明すると、先の変速比を例にとれば、δρpulley=ρpulley-ρpulleyeとし、平衡点ρpulleyeからの変化分δρpulleyについての線形モデルを求める。他の変数についても同様である。
【0158】
以上より、フューエルカットOFF/ONそれぞれの線形モデルを求める。また、フューエルカットOFFのときはエンジンが回す側であることからωENG≧ωTCであり、フューエルカットONのときはエンジンが回される側であることからωENG<ωTCであるので、ωENGとωTCの大小関係からフューエルカットOFF/ONの切替わりを判断し、以下のような線形モデルを得る。
【0159】
【数26】
【数27】
【0160】
ここで、a11a〜a44a,b21a,b42a,a11b〜a44b,b11b,b42bは物理パラメータおよび平衡点周りでの線形化による線形化係数によって与えられる。さらにハイブリッド予測制御は離散系の設計手法であるので、上記線形モデルを離散化する。
【0161】
以上の設定に基づき、シフトコントローラ74としてマルチパラメトリック計画法によるハイブリッド予測コントローラを求める。いま扱っている問題は、時変な目標値に追従させるサーボ系のコントローラを設計することであり、そのままではマルチパラメトリック計画法に適用できないため、問題をマルチパラメトリック計画法に適用可能な形式に変更する。
【0162】
Δu(k)=u(k)−u(k−1)を新たな入力とし、状態を[δx(k);δu(k−1);δyref(k)]とする拡大系を構成する。
【0163】
【数28】
【0164】
この拡大系に対し、先に述べた評価関数と拘束条件を設定した上で、マルチパラメトリック計画問題を解くことにより、ホライゾン区間にわたる操作量のベクトルを得る。ハイブリッド予測制御の場合、得られた操作量ベクトルのうち初期ステップの操作量Δu(k)のみをシステムへ加えるが、これは以下のように陽に得ることができる。
【0165】
【数29】
【0166】
ここでFi,Giはそれぞれコントローラゲインである。Δu(k)は現在時刻における前ステップからの入力の差分なので、実際にシステムへ加える操作量は以下の通りとする。
【0167】
【数30】
【0168】
フューエルカットOFFのとき、制御対象の入力は[AP,ρpulleytgt]であるため、先の操作量算出式に当てはめると、以下のようになり、目標変速比だけでなくアクセルペダル開度も算出される。
【0169】
【数31】
【0170】
同様に、フューエルカットONのとき、制御対象の入力は[BRK,ρpulleytgt]であるため、目標変速比だけでなくブレーキペダル開度も算出される。
【0171】
【数32】
【0172】
入力にアクセルペダル開度とブレーキペダル開度を含んでいる理由は、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を入力として扱い、これを評価関数に組み込んで最小化することにより、運転者操作量を低減するような変速比制御を可能とするためである。しかし、この実施例においてアクセルペダル操作とブレーキペダル開度は運転者が行うため、コントローラが生成したアクセルペダル開度とブレーキペダル開度を実際に制御対象に反映させることはしない。
【0173】
例えば一般的な最適制御設計によってコントローラを求めた場合、操作量は無限時間区間における最適解となるので、コントローラが生成した操作量を両方とも制御対象に反映しないと、最適性が保証されないことはおろか、安定性も保てないおそれがある。
【0174】
しかし、予測制御の場合、最適化の範囲は無限時間区間ではなく有限のホライゾン区間であり、有限のホライゾン区間の各ステップにおける操作量ベクトルΔU=[Δu(k),Δu(k+1),…,Δu(k+Hu−1)]が得られるが、実際には現在時刻の操作量Δu(k)のみを使用し、次ステップ以降の操作量は次ステップに進んでから再度算出し直して求めるというように、逐次最新の情報に応じて最適な操作量を求め直すアルゴリズムとなっている。
【0175】
この考え方を拡張し、コントローラが生成したアクセルペダル開度とブレーキペダル開度は制御対象には反映しないこととする。従って、実際のアクセルペダル操作とブレーキペダル開度は運転者が行うが、次ステップには運転者の操作による状態の変化も含めた最新の情報に応じて最適な操作量を算出し直すことが可能であり、これを逐次繰り返せば良い。
【0176】
ただし、設定した拘束条件を破らずに制御できることが保証されるのは双方の操作量を使用した場合であり、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を使用しなかった場合は拘束条件を破るおそれがある。
【0177】
しかし、マルチパラメトリック計画法では、拘束条件内の領域にしかコントローラを配置できず、拘束条件外の領域にはコントローラが存在しない。従って、ひとたび拘束条件外の領域に出てしまうと、操作量は0となり、発散してしまうおそれがある。
【0178】
そこで、拘束条件外の領域に別の(第2の)安定化コントローラを配置する。このコントローラは、あくまで状態を拘束条件内に戻すためのものであるので単純なもので良い。例えば、変速比を操作量とし、各状態を原点に戻す最適レギュレータを配置すれば良い。
【0179】
従って、拘束条件内ではハイブリッド予測コントローラを使用し、拘束条件外に出たら別の安定化コントローラに切り替えて制御を続行する。安定化コントローラによって再び拘束条件内に戻ったら、再びハイブリッド予測コントローラを使用する。このようにすることで、破綻のない制御を可能とする。
【0180】
以上により、運転者操作量の低減を考慮した変速比制御を可能とする。
【0181】
ここからは、具体的な数値例を用いて説明する。ここでは、車速と対応する変速比の平衡点を(20,0.60)と設定する。この平衡点周りの線形モデルを導出し、さらに離散化をおこなった結果、以下のようになる。ここでは0次ホールドを用いて離散化したが、1次ホールドや双1次変換などを用いても良い。
【0182】
【数33】
【0183】
【数34】
【0184】
次に、評価関数に対する重みQ,Rの設定を行う。ここでは次のように設定する。
R1=10,R2=1000,Q1=1,Q2=300
【0185】
また、制御ホライゾンHc、予測ホライゾンHpを次のように設定する。
Hc=Hp=3
【0186】
更に、拘束条件の設定を以下の通り行う。
【0187】
【数35】
【0188】
以上の設定のもとで、マルチパラメトリック計画法によって求めたハイブリッド予測コントローラを示す。ハイブリッド予測コントローラは、各状態の組み合わせによって得られる多面体領域に定義される。
【0189】
図13は、状態のうちエンジン回転数、トルクコンバータ出力軸回転数、車速の3つの状態に関して、領域がどのように分割されているかを表した図である。図13を見ると、状態に応じて領域が細かく分割されていることが分かる。図示例では、3397の領域に分割されている。また図14の表に示すように、コントローラは各領域毎に設定される。
【0190】
従って、フューエルカットのOFF/ONや、他の状態変化に応じてコントローラを適宜切り替えることにより、設定した評価関数や拘束条件を考慮した最適な変速比制御を行うことが可能となる。
【0191】
尚、図示の如く、コントローラの制御則は入力uの最適解群を、入力uが状態xと最適ゲインKの積(u=Kx)で与えられるように記載される。図14に示すコントローラの制御則は、図13に示す状態空間領域から検索自在に、シフトコントローラ74のマイクロコンピュータのROMに格納される。
【0192】
以上述べた如く、この実施例にあっては、エンジン10と、前記エンジンの出力を変速する変速機(CVT)26と、前記エンジンと変速機が搭載される車体とを少なくとも備え、運転者によるアクセルペダル操作を示すアクセルペダル開度APとブレーキペダル操作を示すブレーキペダル開度BRKに応じて車両14の駆動力を制御する装置(シフトコントローラ74)において、前記エンジン10でフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされると共に、少なくとも目標変速比ρpulleyと前記アクセルペダル開度APとブレーキペダル開度BRKとを入力uとし、少なくともエンジン回転数ωENGと変速比ρpulley、より具体的には前記車体の前後方向の車体加速度Vdotとエンジン回転数ωENGとトルクコンバータ出力軸回転数ωTCと変速比ρpulleyとを状態xとする状態方程式(数17,18)で記述された、前記エンジンから前記車体までを制御対象として前記変速比と前記エンジン回転数を、車速、より具体的には参照車速に基づいて算出される代表目標変速比と、前記エンジンの出力トルクに対して燃費が最適となるように設定された燃費最適作動線(図10)に従って算出される目標エンジン回転数とにフィードバック制御する変速比制御系(図9)と、前記変速比と前記代表変速比の差を評価する変速比評価関数Jpulley(数19)と、少なくとも前記アクセルペダル開度の現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数Japbrk(数20)と、前記アクセルペダル開度と前記ブレーキペダル開度の現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数Japbrk(数20)と、前記目標エンジン回転数について現時刻からnステップ未来までの前記燃費最適作動線と実際のエンジン運転点との差の総和を評価する燃費評価関数JENG(数21)(さらには目標変速比に対する評価関数Jρpulley(数22))に従って前記状態xの変化が最適となるように、予めオフラインで生成された入力uの最適解群(図14のコントローラの制御則)を前記状態xから検索自在に格納する格納手段(シフトコントローラ74のマイクロコンピュータのROM)と、前記入力uの最適解群を前記状態xから検索して前記代表目標変速比を修正した目標変速比を算出し、前記変速比制御系から前記制御対象に操作量として印加させる操作量印加手段(数28から数31に従って行なわれる処理)と、を備える如く構成した。
【0193】
これにより、モデル予測制御を用いて評価関数を介して未来の運転者操作量(換言すれば運転負担)と未来の燃料消費量を予測することができると共に、マルチパラメトリック計画法などの系統的な解法を適用し、予めオフラインで入力uの最適解群を生成しておくことで計算時間が短縮され、状況の変化に応じてそれらを同時に最小化あるいは最適化することができる。
【0194】
従って、運転者の運転負担を低減すると共に、環境負担の低減、具体的には低燃費性を実現することができる。
【0195】
図15と図16は、上記した構成のシミュレーション結果を示すデータ図である。シミュレーションにおいては、同一の車速パターンで走行し、従来のシフトスケジューリングマップによる変速比制御と比較した。
【0196】
図15はそれぞれのアクセルペダル開度を示しているが、青い点線の部分で示す如く、アクセルペダル操作(運転負担)を低減できていることが分かる。
【0197】
また、図16はブレーキペダル開度を示しているが、同様に青い点線の部分で示す如く、ブレーキペダル操作(運転負担)を低減できていることが理解できよう。
【0198】
また、前記制御対象は、前記エンジン10でフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされる如く構成したので、エンジン10の特性を正確に把握することができ、制御対象を的確にモデリングすることができる。
【0199】
また、前記格納手段は、前記入力uの最適解群を、前記入力uを状態xと最適ゲインKの積からなるu=Kxで記述されるコントローラ群(図14)からなる如く構成したので、上記した効果に加え、入力uの最適解群を容易に格納することができる。
【0200】
また、前記評価関数Jは、前記評価関数に重みQ,Rを乗じて得た積QJ,RJの総和として定義される(数23)如く構成したので、上記した効果に加え、トレードオフの関係にある目標量、即ち、未来の運転者操作量と燃料消費量を状況の変化に応じて同時かつ最適に調整することができる。
【0201】
また、前記エンジン回転数と前記変速比と前記目標変速比とに制約条件が設けられる如く構成したので、かかる制約条件を設けることで、エンジン回転数がレブリミットを超えないなどの機械的な保護のための制限、あるいは乗り心地を確保するために変速比を急激に変化させないなどの制限を容易に追加することができる。
【0202】
また、前記操作量印加手段は、前記アクセルペダル開度と前記ブレーキペダル開度を除く、前記目標変速比を前記変速比制御系から前記制御対象に操作量として印加させる如く構成したので、上記した効果に加え、制御対象をモデル化して状態方程式で表現するときの入力にアクセルペダル開度とブレーキペダル開度からなる運転者操作量を含めることで、運転者操作量評価関数に組み込んで最適解を求めることで、運転者操作量を低減することができる。
【0203】
また、前記操作量印加手段は、前記状態xが予め設定された拘束条件内にあるときは、前記コントローラに基づいて前記目標変速比を算出すると共に、前記状態xが前記拘束条件外にあるときは、前記状態xを前記拘束条件に復帰させる第2のコントローラに基づいて前記目標変速比を算出する如く構成したので、上記した効果に加え、状態xが拘束条件内にないときの不都合を回避することができる。
【0204】
即ち、例えば長時間にわたって加速しようとした場合、運転者操作量を低減させるには、変速比を減少させて駆動力を確保する必要があるが、燃費最適作動線から離れたエンジン運転点で運転し続けると、燃費が悪化する。このように目標量が相反する関係にあるときも、それらを同時にかつ最適に調整することができる。
【0205】
他方、運転者操作量は運転者が行う行為であって制御対象とはならないことから、運転者操作量を制御対象への入力から除去することで、運転者の行為を装置の動作から除外することができる。
【0206】
例えば一般的な最適制御設計によってコントローラを求めた場合、操作量は無限時間区間における最適解となるので、コントローラが生成した操作量を両方とも制御対象に反映しないと、最適性が保証されないことはおろか、安定性も保てないおそれがある。
【0207】
しかし、予測制御の場合、最適化の範囲は無限時間区間ではなく有限のホライゾン区間であり、有限のホライゾン区間の各ステップにおける操作量ベクトルが得られるが、実際には現在時刻の操作量のみを使用し、次ステップ以降の操作量は次ステップに進んでから再度算出し直して求めるというように、逐次最新の情報に応じて最適な操作量を求め直すアルゴリズムとなっている。
【0208】
この考え方を拡張すれば、コントローラが生成したアクセルペダル開度は制御対象には反映しないことが可能となる。ただし、設定した拘束条件を破らずに制御できることが保証されるのは双方の操作量を使用した場合であり、アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を使用しなかった場合は拘束条件を破るおそれがあるため、拘束条件外の領域に状態を拘束条件内に戻すための別のコントローラを配置することで、破綻のない制御が可能となる。
【0209】
尚、上記において変速機としてCVT26を使用したが、有段変速機であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0210】
【図1】この発明の実施例に係る車両の駆動力制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す装置のシフトコントローラなどの設計を説明する、制御対象のモデリングを全体的に示すブロック図である。
【図3】図2に示すエンジンコントローラモデルのブロック図である。
【図4】図2に示すエンジンモデルのフューエルカットOFFのときのブロック図である。
【図5】図2に示すエンジンモデルのフューエルカットONのときのブロック図である。
【図6】図2に示すトルクコンバータモデルのブロック図である。
【図7】図2に示す変速機(CVT)モデルのブロック図である。
【図8】図2に示す車体モデルのブロック図である。
【図9】図2に示す構成を制御対象とする変速比制御系(シフトコントローラ)の構成を示すブロック図である。
【図10】図9に示す構成で使用される燃費最適作動線の特性を示す説明グラフである。
【図11】図9に示す構成が適用されるモデル予測制御を説明する説明図である。
【図12】図9に示す構成が適用されるマルチパラメトリック計画法によるモデル予測制御を示す説明図である。
【図13】図12に示すマルチパラメトリック計画法のコントローラの状態空間領域を示す説明図である。
【図14】図13に示すコントローラの制御則などの説明図である。
【図15】図9などに示す構成のシミュレーション結果を示すデータ図である。
【図16】同様に、図9などに示す構成のシミュレーション結果を示すデータ図である。
【符号の説明】
【0211】
10 エンジン(内燃機関)、14 車両、16 DBW機構、24 トルクコンバータ、26 変速機(CVT)、30 前後進切換装置、30a フォワードクラッチ、60 エンジンコントローラ、74 シフトコントローラ、W 駆動輪(タイヤ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの出力を変速する変速機と、前記エンジンと変速機が搭載される車体とを少なくとも備え、運転者によるアクセルペダル操作を示すアクセルペダル開度とブレーキペダル操作を示すブレーキペダル開度に応じて車両の駆動力を制御する装置において、
a.前記エンジンでフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされると共に、少なくとも目標変速比と前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度とを入力uとし、少なくともエンジン回転数と変速比とを状態xとする状態方程式で記述された、前記エンジンから前記車体までを制御対象として前記変速比と前記エンジン回転数を、車速に基づいて算出される代表目標変速比と、前記エンジンの出力トルクに対して燃費が最適となるように設定された燃費最適作動線に従って算出される目標エンジン回転数とにフィードバック制御する変速比制御系と、
b.少なくとも前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度の現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数と、前記目標エンジン回転数について現時刻からnステップ未来までの前記燃費最適作動線と実際のエンジン運転点との差の総和を評価する燃費評価関数に従って前記状態xの変化が最適となるように、予めオフラインで生成された入力uの最適解群を前記状態xから検索自在に格納する格納手段と、
c.前記入力uの最適解群を前記状態xから検索して前記代表目標変速比を修正した目標変速比を算出し、前記制御系から前記制御対象に操作量として印加させる操作量印加手段と、
を備えたことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記格納手段は、前記入力uの最適解群を、前記入力uを状態xと最適ゲインKの積からなるu=Kxで記述されるコントローラ群からなることを特徴とする請求項1記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記評価関数Jは、前記評価関数に重みQ,Rを乗じて得た積QJ,RJの総和として定義されることを特徴とする請求項1または2記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記エンジン回転数と前記変速比と前記目標変速比とに制約条件が設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記操作量印加手段は、前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を除く、前記目標変速比を前記制御系から前記制御対象に操作量として印加させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記操作量印加手段は、前記状態xが予め設定された拘束条件内にあるときは、前記コントローラに基づいて前記目標変速比を算出すると共に、前記状態xが前記拘束条件外にあるときは、前記状態xを前記拘束条件に復帰させる第2のコントローラに基づいて前記目標変速比を算出することを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの出力を変速する変速機と、前記エンジンと変速機が搭載される車体とを少なくとも備え、運転者によるアクセルペダル操作を示すアクセルペダル開度とブレーキペダル操作を示すブレーキペダル開度に応じて車両の駆動力を制御する装置において、
a.前記エンジンでフューエルカットが実行されるときと実行されないときとに分けてモデリングされると共に、少なくとも目標変速比と前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度とを入力uとし、少なくともエンジン回転数と変速比とを状態xとする状態方程式で記述された、前記エンジンから前記車体までを制御対象として前記変速比と前記エンジン回転数を、車速に基づいて算出される代表目標変速比と、前記エンジンの出力トルクに対して燃費が最適となるように設定された燃費最適作動線に従って算出される目標エンジン回転数とにフィードバック制御する変速比制御系と、
b.少なくとも前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度の現時刻からnステップ未来までの運転者操作量の総和を評価する運転者操作量評価関数と、前記目標エンジン回転数について現時刻からnステップ未来までの前記燃費最適作動線と実際のエンジン運転点との差の総和を評価する燃費評価関数に従って前記状態xの変化が最適となるように、予めオフラインで生成された入力uの最適解群を前記状態xから検索自在に格納する格納手段と、
c.前記入力uの最適解群を前記状態xから検索して前記代表目標変速比を修正した目標変速比を算出し、前記制御系から前記制御対象に操作量として印加させる操作量印加手段と、
を備えたことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記格納手段は、前記入力uの最適解群を、前記入力uを状態xと最適ゲインKの積からなるu=Kxで記述されるコントローラ群からなることを特徴とする請求項1記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記評価関数Jは、前記評価関数に重みQ,Rを乗じて得た積QJ,RJの総和として定義されることを特徴とする請求項1または2記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記エンジン回転数と前記変速比と前記目標変速比とに制約条件が設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記操作量印加手段は、前記アクセルペダル開度とブレーキペダル開度を除く、前記目標変速比を前記制御系から前記制御対象に操作量として印加させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記操作量印加手段は、前記状態xが予め設定された拘束条件内にあるときは、前記コントローラに基づいて前記目標変速比を算出すると共に、前記状態xが前記拘束条件外にあるときは、前記状態xを前記拘束条件に復帰させる第2のコントローラに基づいて前記目標変速比を算出することを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図13】
【公開番号】特開2010−12889(P2010−12889A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173732(P2008−173732)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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