説明

車両下部構造

【課題】高速走行車両の後面衝突によってバッテリが車両前方側へ変位してしまってもシートバックに衝撃を加えるのを抑制又は防止することができる車両下部構造を得る。
【解決手段】シート下部20Aのシートクッション22は、キャビン16の底部を構成する車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18の入り込み可能な空間のない通常位置22Xから、衝突に伴うバッテリ18の車両前方側への変位時に車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18が入り込まれた上昇位置へ移動可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラゲージルームのフロア部にバッテリが搭載された車両における車両下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車等の車両においては、ラゲージルームのリヤフロアにバッテリを搭載する場合がある(例えば、特許文献1参照)。このような車両では、例えば、高速走行している大型車が後面衝突(追突)した場合等にバッテリが車両前方側に変位してしまうと、バッテリの移動状態によっては該バッテリからの荷重によってリヤシートバックに衝撃が加わってしまう恐れがある。
【特許文献1】特開2005−247063公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記事実を考慮して、高速走行車両の後面衝突によってバッテリが車両前方側へ変位してしまってもシートバックに衝撃を加えるのを抑制又は防止することができる車両下部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載する本発明の車両下部構造は、ラゲージルームの底部を構成する第1フロア部と、前記第1フロア部に搭載されるバッテリと、前記第1フロア部の車両前方側においてキャビンの底部を構成する第2フロア部と、車両用シートの一部を構成し、前記バッテリの車両前方側においてシートバックの下端部に後端部が隣接して配置されて乗員着座用とされ、前記第2フロア部の車両上方側でかつシート下方側に前記バッテリの入り込み可能な空間のない通常位置から、衝突に伴う前記バッテリの車両前方側への変位時に前記第2フロア部の車両上方側でかつシート下方側に前記バッテリが入り込んだ上昇位置へ移動可能なシートクッションを備えたシート下部と、を有することを特徴とする。
【0005】
請求項1に記載する本発明の車両下部構造によれば、シート下部のシートクッションは、キャビンの底部を構成する第2フロア部の車両上方側でかつシート下方側にバッテリの入り込み可能な空間のない通常位置から、衝突に伴うバッテリの車両前方側への変位時に第2フロア部の車両上方側でかつシート下方側にバッテリが入り込んだ上昇位置へ移動可能となっている。このため、通常時(衝突に伴うバッテリの車両前方側への変位時以外)においては、シートクッションが通常位置に配置されて着座位置の高さが抑えられる。一方、衝突に伴うバッテリの車両前方側への変位時においては、シートクッションが上昇位置に配置されてバッテリが第2フロア部の車両上方側でかつシート下方側に入り込むので、変位したバッテリからシートバックへの荷重が抑えられる。
【0006】
請求項2に記載する本発明の車両下部構造は、請求項1記載の構成において、前記バッテリにおける車両前後方向の前部には、車両前方へ向けて車両下方側に傾斜する傾斜部が形成されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載する本発明の車両下部構造によれば、バッテリにおける車両前後方向の前部には、車両前方へ向けて車両下方側に傾斜する傾斜部が形成されているので、衝突に伴うバッテリの車両前方側への変位時には、この傾斜部がシートクッションのシート下方側への入り込み抵抗を低減する。このため、バッテリがスムーズにシートクッションのシート下方側へ入り込みながら、シートクッションを徐々に押し上げる。
【0008】
請求項3に記載する本発明の車両下部構造は、請求項1又は請求項2に記載の構成において、一端部が前記シートクッション側に車両幅方向の軸回りに相対回転可能に取り付けられると共に他端部が前記第2フロア部側に車両幅方向の軸回りに相対回転可能に取り付けられる複数のリンク部材を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載する本発明の車両下部構造によれば、複数のリンク部材は、一端部がシートクッション側に車両幅方向の軸回りに相対回転可能に取り付けられると共に他端部が第2フロア部側に車両幅方向の軸回りに相対回転可能に取り付けられているので、後面衝突時にバッテリからシートクッションの後端部に車両前方側への所定値以上の荷重が付与されると、複数のリンク部材によってシートクッションがシート上方側の上昇位置へ安定的に変位し、バッテリがシートクッションのシート下方側に入り込む。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車両下部構造によれば、高速走行車両の後面衝突によってバッテリが車両前方側へ変位してしまってもシートバックに衝撃を加えるのを抑制又は防止することができるという優れた効果を有する。
【0011】
請求項2に記載の車両下部構造によれば、高速走行車両の後面衝突によってバッテリが車両前方側へ変位してしまってもシートバックに衝撃を加えるのを抑制又は防止することができると共に、バッテリによるシートクッションへの衝撃も抑えることができる。
【0012】
請求項3に記載の車両下部構造によれば、高速走行車両が後面衝突した場合にシートクッションをシート上方側の上昇位置へ安定的に変位させながらシート下方側にバッテリの入り込み空間を形成することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[第1実施形態]
本発明における車両下部構造の第1の実施形態を図面に基づき説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印UPは車両上方側、矢印FRは車両前方側、矢印Wは車両幅方向をそれぞれ示している。
【0014】
図1に示されるように、本実施形態における車両下部構造12は、ラゲージルーム(ラゲージスペースともいう)14の底部を構成する第1フロア部としてのリヤフロア部15にバッテリ18が搭載される車両10(例えば、ハイブリッド車、及び電気自動車等のような車両)に適用されている。
【0015】
図2に示されるように、バッテリ18が搭載されるラゲージルーム14は、ラゲージルーム14よりも車両前方側に設けられたキャビン16との間が車両用シートとしてのリヤシート20のシート後部で区切られている。バッテリ(バッテリパック)18は、バッテリ本体と、該バッテリ本体を収納する筐体と、を含んで構成されている。リヤフロア部15に搭載されたバッテリ18には、バッテリパックアッパカバー17が被覆され、バッテリパックアッパカバー17の下端部がラゲージルーム14のリヤフロア部15に固定されている。また、バッテリ18及びバッテリパックアッパカバー17の車両幅方向の両側には、バッテリキャリアブラケット19が配設され、バッテリパックアッパカバー17とリヤホイールハウス部(図示省略)とを連結している。これらにより、バッテリパックアッパカバー17を骨格部の一部として機能させると共に、バッテリ18が容易には外れない(例えば、50km/hで走行する車両に追突されても外れない)構造にしている。
【0016】
なお、リヤフロア部15の下面両サイドには、図3に示されるように、車両前後方向に延在するリヤサイドメンバ44が接合されている。リヤサイドメンバ44は、リヤフロア部15と接合されることにより、閉断面部を構成している。これにより、リヤサイドメンバ44は、リヤフロア部15を補強しており、ボデー剛性を高めている。また、リヤサイドメンバ44の車両後方側の端部には、車両幅方向を長手方向とするリヤバンパリインフォース46が配置されている。リヤバンパリインフォース46は、長尺状かつ高強度で高剛性の金属製とされ、略矩形断面形状に形成されており、後面衝突時には衝突荷重が入力されてリヤサイドメンバ44に荷重を伝達することになる。
【0017】
図2に示されるように、リヤフロア部15の車両前方側においては、キャビン16の底部を構成する第2フロア部としての車室フロア部32がリヤフロア部15に連続して設けられている。車室フロア部32上に配設されるリヤシート20は、バッテリ18の車両前方側に配置されて乗員Pが着座するシートクッション22と、シートクッション22の後端部22A(車両後方側に配置される端部)に下端部24Aが隣接して配置されて乗員Pの背面を支持するシートバック24と、シートバック24の上端部に上下調節可能に設けられて乗員Pの頭部を支持するヘッドレスト26と、シートクッション22の車両前後方向へのスライド移動用とされるスライド機構28と、シートクッション22の上昇移動用とされるリンク機構36と、を備えている。シートクッション22の後端部22Aとシートバック24の下端部24Aとは、シートバック24の傾倒角度の調節用とされるリクライナ(リクライニング装置)23を介して連結されている。なお、本実施形態のシート下部20Aは、シートバック24の下端部24A、シートクッション22、スライド機構28及びリンク機構36を含んで構成されている。
【0018】
シートバック24は、シート後部を構成しており、シートバック24の骨格部を構成するシートバックフレーム(図示省略)と、前記シートバックフレームに取り付けられてシートバック24の形状を作り出すと共に弾性変形可能とされるシートバックパッド(図示省略)と、前記シートバックパッドの表面を覆う表皮材24Bと、を備えている。シートバック24の背面下部には、鋼材パネルから成る剛体ガード25Aが固定されており、衝突に伴ってバッテリ18が車両前方側へ変位する場合に万一バッテリ18がやや車両上方側へ移動するようなことがあったとしても、剛体ガード25Aによってバッテリ18が直接シートバック24に当らないようになっている。
【0019】
シートバック24の下端部24Aに後端部22Aが隣接して配置された乗員着座用のシートクッション22は、シートクッション22内に配設された骨格部材として機能するシートクッションフレーム(図示省略)と、前記シートクッションフレームに掛け渡されたシートクッションスプリング(図示省略)と、前記シートクッションスプリング上に配置されてシートクッションスプリングを介して前記シートクッションフレームに支持されるクッション部(図示省略)と、前記クッション部の表面に接着されてクッション部を被覆する表皮材22Bと、を含んで構成されている。
【0020】
シートクッション22の上面部は、乗員Pが着座する着座部22Cとされており、着座部22Cで乗員Pの臀部及び大腿部を支持するようになっている。ちなみに、本実施形態では、着座部22Cの高さ位置は、バッテリ18の上面18Cの高さ位置に比べて若干高く設定されている。図3に示されるように、シートクッション22の下面部略全域には、鋼材パネルから成る剛体ガード25Bが固定されており、衝突に伴ってバッテリ18が車両前方側へ変位する場合にバッテリ18が直接シートクッション22の下面部に当るのを防止している。
【0021】
シートクッション22は、スライド機構28によって車両前後方向にスライド移動可能に支持されている。スライド機構28は、シートクッション22の下面側において車両幅方向(シート幅方向)の両サイドに車両前後方向に延在すると共にチャンネル状に形成された長尺状のロアレール30と、このロアレール30と車室フロア部32とを連結する前側及び後側ブラケット(固定プレート)29と、シートクッションフレーム(図示省略)に固定されると共にロアレール30に車両前後方向へスライド可能に挿嵌されてガイドされる左右一対のアッパレール(図示省略)と、を備えている。
【0022】
シートクッション22及びロアレール30のシート下方側には、リンク機構36が設けられており、シートクッション22には、ロアレール30を介してリンク機構36を構成する複数のリンク部材34、35が取り付けられている。リンク部材34、35は、シートクッション22の下面側において左右両側に前後一対配設されている(図中では、前側のリンク部材を符号34、後側のリンク部材を符号35でそれぞれ示す。)。各リンク部材34、35は、一端部34C、35C(図3では左側端部)がシートクッション22側となるロアレール30の下向きブラケット30Aに車両幅方向のリンク軸(リンクピン)34A、35A回りに相対回転可能に取り付けられると共に、他端部34D、35D(図3では右側端部)が車室フロア部32に固定されたブラケット33(すなわち、車室フロア部32側)に車両幅方向のリンク軸(リンクピン)34B、35B回りに相対回転可能に取り付けられている。
【0023】
また、リンク部材34、35は、車両後方側から車両前方側へ向けての荷重が作用した場合に回転移動し易くするために、その長手方向が水平方向ではなく車両前方へ向けて車両下方側に傾斜する方向となるように配設されている。さらに、後側のリンク部材35のリンク長は、前側のリンク部材34のリンク長に比べて若干長く設定されている。なお、シートクッション22のシート下方側には、リンク部材34、35の回動角を制限するストッパが設けられてもよい。
【0024】
これらによって、シートクッション22は、車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18の入り込み可能な空間のない通常位置22Xから、図4に示されるように、衝突に伴うバッテリ18の車両前方側への変位時に車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18が入り込んだ上昇位置22Yへ移動可能となっている。
【0025】
すなわち、リンク部材34、35は、衝突に伴うバッテリ18の車両前方側への変位時にバッテリ18からシートクッション22の後端部22A(場合によってはシートバック24の下端部24A)に対して車両前方側へ作用する所定値以上の荷重fによって、シートクッション22をシート上方側に変位させてシートクッション22のシート下方側にバッテリ18が入り込み可能な空間40(換言すれば、バッテリ18を退避させるためのスペース)を形成するようになっている。
【0026】
また、バッテリ18のシートクッション22のシート下方側への入り込みを容易にするために、本実施形態では、バッテリ18における車両前後方向の前部18Aには、車両前方へ向けて車両下方側に傾斜する傾斜部18Bが形成されている。なお、シートクッション22の前端部のシート下方側には、バッテリ18が車両前方側へ移動した場合にシートクッション22の前端部よりも車両前方側へ変位するのを制限するためのストッパ42が設けられている。
【0027】
(作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0028】
図3に示されるように、シート下部20Aのシートクッション22は、キャビン16の底部を構成する車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18の入り込み可能な空間のない通常位置22Xから、図4に示されるように、衝突に伴うバッテリ18の車両前方側への変位時に車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18が入り込んだ上昇位置22Yへ移動可能となっている。
【0029】
このため、通常時(衝突に伴うバッテリ18の車両前方側への変位時以外)においては、図3に示されるシートクッション22が通常位置22Xに配置されて着座位置の高さが抑えられる。補足すると、シートクッション22のシート下方側の範囲における車室フロア部32の下面側には、通常燃料タンク等が配設されているので、この範囲での車室フロア部32の高さやシートクッション22の着座部22Cの高さはある程度高くせざるを得ない。仮に、バッテリを車室フロア部の車両上方側でかつシートクッションのシート下方側に予め配置しておくような対比構造の場合、シートクッションの着座部の高さが一層高くなってしまう。これに対して、本実施形態では、通常時には、シートクッション22がシート下方側にバッテリ18の入り込み可能な空間のない通常位置22Xに配置されるので、着座位置の高さが抑えられる。
【0030】
一方、図4に示されるように、衝突に伴うバッテリ18の車両前方側への変位時においては、シートクッション22が上昇位置22Yに配置されてバッテリ18が車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側に入り込むので(後面衝突時のバッテリの退避及び保持)、変位したバッテリ18からシートバック24への荷重が抑えられる。
【0031】
より具体的に説明すると、例えば、高速走行している大型車が後面衝突した場合(激しい後突時)に、車両後方側から大きな衝突荷重Fがリヤバンパリインフォース46に入力される。この入力された衝突荷重Fがリヤサイドメンバ44へ伝達されると、リヤサイドメンバ44は、軸圧縮変形しながら衝突時の所定エネルギーを吸収する。このとき、衝突荷重によってバッテリパックアッパカバー17(図2参照)がリヤフロア部15から外れてバッテリ18が車両前方側へ強制変位させられると、バッテリ18は、シートクッション22の後端部22A(場合によってはシートバック24の下端部24A)を押圧する。この押圧力(荷重f)が大きいと、リヤシート20の前側及び後側ブラケット29が破断する。
【0032】
ここで、バッテリ18における車両前後方向の前部18Aには、車両前方へ向けて車両下方側に傾斜する傾斜部18Bが形成されているので、衝突に伴うバッテリ18の車両前方側への変位時には、傾斜部18Bがシートクッション22のシート下方側への入り込み抵抗を低減する。このため、バッテリ18がスムーズにシートクッション22のシート下方側へ入り込みながら、シートクッション22を徐々に押し上げる。
【0033】
また、シート下部20Aに設けられた複数のリンク部材34、35は、一端部34C、35Cがロアレール30の下向きブラケット30A(すなわち、シートクッション22側)に車両幅方向のリンク軸34A、35A回りに相対回転可能に取り付けられると共に他端部34D、35Dが車室フロア部32に固定されたブラケット33(すなわち、車室フロア部32側)に車両幅方向のリンク軸34B、35B回りに相対回転可能に取り付けられているので、後面衝突時にバッテリ18からシートクッション22の後端部22Aに車両前方側への所定値以上の荷重fが付与されると、複数のリンク部材34、35の動きによってシートクッション22がシート上方側の上昇位置22Yへ安定的に変位してバッテリ18の入り込み空間40を形成し、バッテリ18がシートクッション22のシート下方側に入り込む。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る車両下部構造12によれば、高速走行車両の後面衝突によってバッテリ18が車両前方側へ変位してしまってもシートバック24に衝撃を加えるのを抑制又は防止することができると共に、バッテリ18によるシートクッション22への衝撃も抑えることができる。また、バッテリ18自体の受ける衝撃も抑えられるので、バッテリ18のリサイクル化を図ることもできる。
【0035】
さらに、本実施形態では、後側のリンク部材35のリンク長は、前側のリンク部材34のリンク長に比べて若干長く設定されているので、後面衝突時においてバッテリ18がシートバック24のシート下方側に退避される際にシートバック24及びヘッドレスト26がやや前傾することになり、乗員頭部をより早く支持することができる。
【0036】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る車両下部構造50について、図5に基づいて説明する。第2の実施形態に係る車両下部構造50は、図3等に示される第1の実施形態に係る車両下部構造12のスライド機構28及びリンク機構36に代えて図5に示されるように、高い荷重で伸びるシート脚部52を配設している点が特徴である。他の構成については、第1の実施形態とほぼ同様の構成である。よって、第1の実施形態と実質的に同様の構成部については、同一符号を付して説明を省略する。
【0037】
図5に示されるシート脚部52は、シート下部20Aの一部を構成してシートクッション22の下面側における車両幅方向(シート幅方向)の両サイドに左右一対設けられ、シートクッション22と車室フロア部32とを連結している。一対のシート脚部52は、鋼材製とされ、それぞれシートクッション22の下面に沿って車両前後方向に延在すると共に、車両前後方向の前端側及び後端側が車両下方側へ屈曲されて前脚部52A及び後脚部52Bとされている。前脚部52Aは、車室フロア部32に固定されたブラケット33に車両幅方向のピン軸52C回りに相対回転可能に取り付けられている。後脚部52Bは、側面視で波状に形成されており、所定値以上の張力が作用すると、塑性変形して図5(B)に示されるように側面視で略直線状に伸びる構成とされている。
【0038】
これにより、シートクッション22は、図5(A)に示されるように、車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18の入り込み可能な空間のない通常位置22Xから、図5(B)に示されるように、衝突に伴うバッテリ18の車両前方側への変位時に車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18が入り込んだ上昇位置22Yへ移動可能となっている。
【0039】
すなわち、このような構成によれば、高速走行車両の後面衝突によってバッテリ18が車両前方側へ変位してしまっても、車両前方側へ変位したバッテリ18の傾斜部18Bがシートクッション22を徐々に押し上げ、これに伴って側面視で波状に形成された後脚部52Bが側面視で略直線状に塑性変形し、シートクッション22が上昇位置22Yへ移動する。
【0040】
このため、高速走行車両の後面衝突によってバッテリ18が車両前方側へ変位してしまってもシートバック24に衝撃を加えるのを抑制又は防止することができると共に、後脚部52Bが塑性変形しつつバッテリ18の変位に伴う衝撃エネルギーを吸収するので(エネルギー吸収機能の発揮)、バッテリ18によるシートクッション22への衝撃も効果的に抑えることができる。また、本実施形態では、前脚部52Aは伸びず、後脚部52Bのみが伸びるので、後面衝突時においてバッテリ18がシートバック24のシート下方側に退避される際にシートバック24及びヘッドレスト26がやや前傾することになり、乗員頭部をより早く支持することができる。
【0041】
なお、本実施形態の変形例として、第1の実施形態のシート後方側の後側ブラケット29(図3等参照)に代えて、又は、該後側ブラケット29及び後側のリンク部材35(図3等参照)に代えて、後脚部52Bに相当する高い荷重で伸びる側面視で波状に形成された連結部材を配設してシートクッション22側と車室フロア部32側とを連結してもよい。
【0042】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態に係る車両下部構造60について、図6に基づいて説明する。第3の実施形態に係る車両下部構造60は、通常状態において、リヤシート20のシート後下部がバッテリ18の前部18Aに支持されている点が特徴である。他の構成については、第1の実施形態とほぼ同様の構成である。よって、第1の実施形態と実質的に同様の構成部については、同一符号を付して説明を省略する。
【0043】
図6に示されるように、第3の実施形態に係る車両下部構造60は、図3等に示される第1の実施形態に係る車両下部構造12のスライド機構28及びリンク機構36に代えて図6(A)に示されるように、前脚部62及び後脚部64が配設されている。前脚部62及び後脚部64は、ブラケット状に形成され、シート下部20Aの一部を構成してシートクッション22の下面側における車両幅方向(シート幅方向)の両サイドに左右一対設けられている。前脚部62は、車室フロア部32に固定されたブラケット33に車両幅方向のピン軸62A回りに相対回転可能に取り付けられている。後脚部64は、バッテリ18の前部18Aにおいて傾斜部18Bの側方となる側壁部18Dにボルト66で固定されている。
【0044】
これにより、シートクッション22は、車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18の入り込み可能な空間のない通常位置22Xから、図6(B)に示されるように、衝突に伴うバッテリ18の車両前方側への変位時に車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18が入り込んだ上昇位置22Yへ移動可能となっている。
【0045】
すなわち、このような構成によれば、高速走行車両の後面衝突によってバッテリ18が車両前方側へ変位してしまった場合に、バッテリ18の車両前方側への押圧力(荷重f)によってボルト66が抜け、車両前方側へ変位したバッテリ18の傾斜部18Bがシートクッション22を徐々に押し上げ、シートクッション22が上昇位置22Yへ移動する。
【0046】
このため、高速走行車両の後面衝突によってバッテリ18が車両前方側へ変位してしまってもシートバック24に衝撃を加えるのを抑制又は防止することができると共に、バッテリ18によるシートクッション22への衝撃も抑えることができる。また、本実施形態では、シートクッション22がピン軸62A回りに回転移動するので、後面衝突時においてバッテリ18がシートバック24のシート下方側に退避される際にシートバック24及びヘッドレスト26がやや前傾することになり、乗員頭部をより早く支持することができる。
【0047】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態に係る車両下部構造70について、図7に基づいて説明する。第4の実施形態に係る車両下部構造70は、図6に示される第3の実施形態のように後脚部64をボルト66でバッテリ18の側壁部18Dに固定する代わりに、図7に示されるように、後脚部64の下部前方側に切欠部72を形成してバッテリ18の側壁部18Dから突出するピン部74に係止させる点が特徴である。他の構成については、第3の実施形態とほぼ同様の構成である。よって、第3の実施形態と実質的に同様の構成部については、同一符号を付して説明を省略する。図7(A)に示されるように、切欠部72の下辺部72Aは、車両前方へ向けて車両下方側に傾斜しており、傾斜部18Bの傾斜角度と同様の角度設定がされている。これによって、バッテリ18が車両前方側へ変位した際にピン部74が切欠部72から抜け易くなっている。このような構成によっても、第3の実施形態とほぼ同様の作用及び効果が得られる。
【0048】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5の実施形態に係る車両下部構造80について、図8に基づいて説明する。なお、第5の実施形態は、以下に説明する点を除き、第1〜第4の実施形態とほぼ同様の構成である。よって、第1〜第4の実施形態と実質的に同様の構成部については、同一符号を付して説明を省略する。
【0049】
図8(A)に示されるように、リヤシート20は、シート下部20Aにおいて車両幅方向(シート幅方向)の両サイドにシートフレーム82を備えている。シートフレーム82と車室フロア部32とは、前側及び後側ブラケット84によって連結されている。シートフレーム82のシート後端部側となるフレーム後端部82Aは、シート上方側へ立ち上がっており、シートバック24の下端部24Aと接続されて該シートバック24を傾倒可能に支持している。また、シートフレーム82のシート前端部側となるフレーム前端部82Bも、シート上方側へ立ち上がっており、シートクッション22の前端下部22Dに配設されたピン86を車両幅方向のピン軸回りに回転可能に支持している。なお、本実施形態のシートクッション22内にはシートパン(図示省略)が配設されており、このシートパンによってシートクッション22のシート幅方向における剛性が確保されている。
【0050】
シートフレーム82のシート後端部寄り部位とシートクッション22の後端部22Aとは、高荷重によって伸びる鋼材製の連結部材88によって連結されている。連結部材88は、側面視で波状に形成されており、所定値以上の張力が作用すると、塑性変形して図8(B)に示されるように側面視で略直線状に伸びる構成とされている。
【0051】
これにより、シートクッション22は、図8(A)に示されるように、車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18の入り込み可能な空間のない通常位置22Xから、図8(B)に示されるように、衝突に伴うバッテリ18の車両前方側への変位時に車室フロア部32の車両上方側でかつシート下方側にバッテリ18が入り込んだ上昇位置22Yへ移動可能となっている。
【0052】
すなわち、このような構成によれば、高速走行車両の後面衝突によってバッテリ18が車両前方側へ変位してしまった場合に、車両前方側へ変位したバッテリ18の傾斜部18Bがシートクッション22を徐々に押し上げ、これに伴って側面視で波状に形成された連結部材88が側面視で略直線状に塑性変形し、シートクッション22が上昇位置22Yへ移動する。
【0053】
このため、高速走行車両の後面衝突によってバッテリ18が車両前方側へ変位してしまってもシートバック24に衝撃を加えるのを抑制又は防止することができると共に、連結部材88が塑性変形しつつバッテリ18の変位に伴う衝撃エネルギーを吸収するので(エネルギー吸収機能の発揮)、バッテリ18によるシートクッション22への衝撃も効果的に抑えることができる。
【0054】
[実施形態の補足説明]
なお、第1の実施形態では、図4に示されるように、衝突時におけるバッテリ18の車両前方側への押圧力(荷重f)によって前側及び後側ブラケット29が破断する構成となっており、第3の実施形態では、前記押圧力(荷重f)によって図6に示されるボルト66が抜ける構成となっているが、例えば、衝突に伴うバッテリの車両前方側へ変位を検知するセンサと、シートクッション側を固定対象側(例えば、車室フロア部やバッテリ)に固定すると共に前記センサの検知結果に基づいてシートクッション側の固定対象側への固定を解除する固定手段と、を有するような構成としてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、バッテリ18における車両前後方向の前部18Aに傾斜部18Bを形成し、衝突に伴うバッテリ18の車両前方側へ向けての荷重fを利用してシートクッション22を上昇位置22Yへ移動させる構成となっているが、例えば、衝突に伴うバッテリの車両前方側へ変位を検知するセンサと、前記センサの検知結果に基づいて通常位置にあるシートクッションを上昇位置へ移動させる電動変位手段と、前記バッテリの車両前方側への変位量を制限する移動制限手段と、を有するような構成としてもよい。
【0056】
さらに、例えば、バッテリの車両前方側への移動とシートクッションの上昇位置への移動とを連動させる連動手段を設け、前記連動手段が、衝突に伴うバッテリの車両前方側へ移動力を利用することで、バッテリの車両前方側への移動にシートクッションを連動させて、バッテリによるシートクッションの後端部への衝突前にシートクッションを通常位置から上昇位置へ移動させる構成としてもよい。
【0057】
さらにまた、例えば、車両前方側へ変位するバッテリをシートクッションのシート下方側へ導くために、シートクッションの後端部に、車両前方へ向けて車両下方側に傾斜する傾斜部分を設けてもよい。
【0058】
なお、例えば、シートクッションの下面側(例えば、図3に示される剛体ガード25Bの下面側)に衝突に伴って略車両前方側へ変位するバッテリを車両前方側へ導くガイド部を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両下部構造が適用された車両を斜め後方から見た状態で示す斜視図である(車両外観は二点鎖線で示す。)。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車両下部構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る車両下部構造を後面衝突前の状態で示す概略側面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る車両下部構造を後面衝突時の状態で示す概略側面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る車両下部構造を示す概略側面図である。図5(A)は、後面衝突前の状態で示す。図5(B)は、後面衝突時の状態で示す。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る車両下部構造を示す概略側面図である。図6(A)は、後面衝突前の状態で示す。図6(B)は、後面衝突時の状態で示す。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る車両下部構造を示す概略側面図である。図7(A)は、後面衝突前の状態で示す。図7(B)は、後面衝突時の状態で示す。
【図8】本発明の第5の実施形態に係る車両下部構造を示す概略側面図である。図8(A)は、後面衝突前の状態で示す。図8(B)は、後面衝突時の状態で示す。
【符号の説明】
【0060】
12 車両下部構造
14 ラゲージルーム
15 リヤフロア部(第1フロア部)
16 キャビン
18 バッテリ
18A 前部
18B 傾斜部
20 リヤシート(車両用シート)
20A シート下部
22 シートクッション
22A シートクッションの後端部
22X 通常位置
22Y 上昇位置
24 シートバック
24A シートバックの下端部
32 車室フロア部(第2フロア部)
34、35 リンク部材
34C、35C 一端部
34D、35D 他端部
50、60、70、80 車両下部構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラゲージルームの底部を構成する第1フロア部と、
前記第1フロア部に搭載されるバッテリと、
前記第1フロア部の車両前方側においてキャビンの底部を構成する第2フロア部と、
車両用シートの一部を構成し、前記バッテリの車両前方側においてシートバックの下端部に後端部が隣接して配置されて乗員着座用とされ、前記第2フロア部の車両上方側でかつシート下方側に前記バッテリの入り込み可能な空間のない通常位置から、衝突に伴う前記バッテリの車両前方側への変位時に前記第2フロア部の車両上方側でかつシート下方側に前記バッテリが入り込んだ上昇位置へ移動可能なシートクッションを備えたシート下部と、
を有することを特徴とする車両下部構造。
【請求項2】
前記バッテリにおける車両前後方向の前部には、車両前方へ向けて車両下方側に傾斜する傾斜部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両下部構造。
【請求項3】
一端部が前記シートクッション側に車両幅方向の軸回りに相対回転可能に取り付けられると共に他端部が前記第2フロア部側に車両幅方向の軸回りに相対回転可能に取り付けられる複数のリンク部材を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−307992(P2008−307992A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156723(P2007−156723)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】