説明

車両制御装置

【課題】大型化を回避しつつ音振性能を確保し、安価でありながら適切な回生協調制御を達成可能な車両制御装置を提供すること。
【解決手段】モータを駆動源とする車両において、制動時にモータによる回生制動力と油圧による摩擦制動力とを協調させる回生協調制動力の制御において、回生協調制御により回生制動力から摩擦制動力にすり替えるときは、設定したすり替え速度範囲において、ギヤポンプの能力や音振性能への影響を及ぼさない範囲で、各制動力の変化勾配を最大変化勾配より小さな所定勾配以下に制限することで所望の制動力を得るととした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動源とする車両において、回生制動力から摩擦制動力に切り換えるときのすり替え制御を行う車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータを駆動源とする車両にあっては、制動時にモータによる回生制動力と油圧による摩擦制動力とを協調させる回生協調制御が用いられている。この回生協調制御では、アキュムレータや高価な制御負圧ブースタを利用したシステムであり、小型かつ安価なシステムが求められている。そこで、特許文献1では、従来から車両挙動制御に用いられるビークルダイナミクスコントロールシステム(以下、VDCと記載する。)を用い、油圧調整ポンプとバルブ制御によって回生協調制御を実現することで、簡素かつ安価な構成によるシステムを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−130350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、ポンプアップによって得られる昇圧勾配はアキュムレータや負圧ブースタに比べて小さな勾配しか得られない。仮に、昇圧勾配を大きくすると作動音が大きくなる場合があり、また、性能向上のためにポンプシステムが大型化するというおそれがあった。
本発明の目的は、大型化を回避しつつ安価でありながら適切な回生協調制御を達成可能な車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、回生協調制御により回生制動力から摩擦制動力にすり替えるときは、各制動力の変化勾配を最大変化勾配より小さな所定勾配以下に制限することとした。
【発明の効果】
【0006】
よって、大型化を回避しつつ音振性能を確保した安価な回生協調制御を達成する車両制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の車両制御装置が適用された電気自動車の制御ブロック図である。
【図2】実施例1のブレーキ制御装置の液圧回路構成を示す図である。
【図3】実施例1のブレーキ制御装置の制御内容を表す表である。
【図4】実施例1のブレーキ制御装置において実行されるすり替え制御の内容を説明するタイムチャートである。
【図5】実施例1の応答保証減速度とすり替え速度範囲との関係を表す特性図である。
【図6】実施例1の車速と回生制動力との関係を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]
図1は実施例1の車両制御装置が適用された電気自動車の制御ブロック図である。実施例1の車両制御装置が搭載される車両は、モータと電池を動力源とする電気自動車であるが、回生協調制御を行うハイブリッド車両等であってもよい。
統合コントローラ30は、アクセルペダル開度に基づいて要求駆動力を演算する要求駆動力演算部301と、要求駆動力と後述する回生トルク要求とに基づいてモータトルクを演算するモータトルク演算部302とを有する。モータトルク演算部302は、モータMの駆動状態を制御するモータ制御部50に対し、モータトルク指令を出力すると共に、モータ制御部50から実モータトルク情報を入力する。モータ制御部50では、モータトルク指令を達成するように電流制御が行われ、モータMがモータトルク指令値を達成するように制御される。
バッテリ制御部40は、統合コントローラ30及びモータ制御部50との間でバッテリ状態(State of charge等)信号を送受信し、出力可能な電力情報及びモータMへの電力供給を行なう。
【0009】
ブレーキコントローラ20は、ブレーキペダルストローク量や、マスタシリンダ圧、もしくはブレーキスイッチ信号等を入力して目標減速度を算出する目標減速度算出部201と、車輪速センサ(インホイルモータの場合はモータ回転角センサでもよい)の信号に基づいて車両速度を算出する車両速度算出部202とを有する。また、算出された目標減速度及び車両速度に基づいて回生制動力を算出する回生制動力算出部203を有する。回生制動力算出部203は、モータトルク演算部302に対し回生トルク要求信号を出力すると共に、協調制御部204に回生トルク要求信号を出力する。
協調制御部204は、回生トルクに基づいて目標減速度を達成するために、ブレーキ制御装置による摩擦制動力を制御する。また、協調制御部204は、回生トルクの減少に伴って摩擦制動力の割合を徐々に増大させる、又は回生トルクの増大に伴って摩擦制動力の割合を徐々に減少させるすり替え制御部205を有する。すり替え制御部205は、すり替えるときの摩擦制動力の減少勾配、もしくは増加勾配を制限する勾配制限部206を有する。
ブレーキコントローラ20では、上記各種演算処理に基づいてブレーキ制御装置に対して制御信号を出力し、所望の摩擦制動力が得られるように制御する。
【0010】
図2は実施例1のブレーキ制御装置の液圧回路構成を示す図である。実施例1の車両制御装置が搭載される車両は、電動機と電池を動力源とする電気自動車、すなわち負圧を全く発生しない車両を想定したものである。そのため実施例1のブレーキ制御装置では、ブレーキ負圧ブースタを備えない構成である。
【0011】
以下の説明において、4つの車輪FL,FR,RL,RRのそれぞれに対応して設けられている構成については、a,b,c,dの記号を添えて区別する。つまり、aは前左輪FL、bは前右輪FR、cは後左輪RL、dは後右輪RRに対応する構成を示す。ブレーキペダル1は、運転者の操作力(踏力)により作動し、運転者のブレーキ操作をマスタシリンダ3へ伝達する。マスタシリンダ3は、ブレーキペダル1から加わる力に比例したブレーキ液圧をマスタシリンダ圧として発生させ、2系統の液路101p,101sによりそれぞれホイルシリンダ5へブレーキ液を送る。なお、この2系統をp系統、s系統とし、この2系統に対応して設けられる構成については、p,sの記号を添えて区別する。リザーバタンク4は、ブレーキ液を貯留するタンクであり、マスタシリンダ3に接続する。
【0012】
マスタシリンダ3からのブレーキ液路101p,101sは、ブレーキ液路108p,108sを介してギアポンプ10(10p,10s)へ接続する。ブレーキ液路102p,102sは、ギアポンプ10(10p,10s)の上流のブレーキ液路101p,101sとブレーキ液路108p,108sとの接続点に分岐させるように接続する。ブレーキ液路102pは、ブレーキ液路103a,103dに分岐する。ブレーキ液路103aはブレーキ液路106aを介してホイルシリンダ5aへ接続する。また、ブレーキ液路103dはブレーキ液路106dを介してホイルシリンダ5dへ接続する。
ブレーキ液路102sはブレーキ液路103b,103cに分岐する。ブレーキ液路103bはブレーキ液路106bを介してホイルシリンダ5bへ接続する。また、ブレーキ液路103cはブレーキ液路106cを介してホイルシリンダ5cへ接続する。
【0013】
マスタシリンダ3からのブレーキ液路101p,101sには、ゲートアウト弁8(8p,8s)を設ける。ゲートアウト弁8は、ブレーキコントローラ20からの指令電流により開閉動作を行う常開の比例制御弁である。ゲートアウト弁8は、その開閉動作によりマスタシリンダ3とギアポンプ10の吐出側及び増圧制御弁6の間を、遮断、接続及び中間開度により接続する動作を行う。また、ゲートアウト弁8に並列してチェック弁9(9p,9s)を設ける。チェック弁9は、(マスタシリンダ圧)>(ギアポンプ10の吐出側の液圧)となった場合に、マスタシリンダ圧をギアポンプ10の吐出側及び増圧制御弁6の側へ伝える弁である。
ブレーキ液路103(103a〜103d)には、増圧制御弁6(6a〜6d)をそれぞれ設ける。増圧制御弁6は、ブレーキコントローラ20からの指令電流により開閉動作を行う常開の制御弁である。増圧制御弁6は、この開閉動作により、増圧制御弁6に供給されるマスタシリンダ圧又はポンプ圧をホイルシリンダ5へ供給又は遮断する。また増圧制御弁6に並列してチェック弁110(110a〜110d)を設ける。チェック弁110は、ホイルシリンダ圧>マスタシリンダ圧となった場合に、ホイルシリンダ圧をマスタシリンダ3へ抜く弁である。
【0014】
ギアポンプ10(10p,10s)は、共通する駆動手段として設けられるモータ11により駆動され、内部リザーバ12(12p,12s)のブレーキ液をマスタシリンダ3の側へ掻き出す動作、又はマスタシリンダ3からブレーキ液を吸入して、ホイルシリンダ5の側へ吐出する。モータ11は、ブレーキコントローラ20からの指令電流により回転数制御され、ギアポンプ10を駆動する。
ギアポンプ10の吐出側は、それぞれブレーキ液路108p,108sに接続される。ギアポンプ10の吐出側のブレーキ液路108p,108sには、チェック弁14(14p,14s)を設ける。チェック弁14(14p,14s)は、ギアポンプ10からマスタシリンダ側へのブレーキ液の流れを許可し、マスタシリンダ側からギアポンプ10への流れを防止する弁である。
ギアポンプ10の吸入側は、ブレーキ液路105p,105sに接続する。ブレーキ液路105p,105sには、内部リザーバ12(12p,12s)を設ける。そして、内部リザーバ12とゲートアウト弁8のマスタシリンダ側のブレーキ液路101を接続するブレーキ液路104p,104sを設ける。
内部リザーバ12は、減圧制御弁7を介して送られるブレーキ液を貯留するとともに、後述する構成とその作用によりポンプ吸入側の圧を所定値以下に保ち、且つポンプ作動時には、マスタシリンダ圧を吸入・吐出しホイルシリンダ圧を昇圧することを可能とする。
【0015】
ブレーキ液路103(103a〜103d)は、ホイルシリンダ5へ接続するブレーキ液路106(106a〜106d)と、ブレーキ液路107(107a〜107d)に分岐させる。ブレーキ液路107b,107cはブレーキ液路105sに合流させ、内部リザーバ12sを介してギアポンプ10sの吸入側に接続する。また、ブレーキ液路107a,107dはブレーキ液路105pに合流させ、内部リザーバ12pを介してギアポンプ10pの吸入側に接続する。
ブレーキ液路107(107a〜107d)には、減圧制御弁7(7a〜7d)をそれぞれ設ける。減圧制御弁7(7a〜7d)は、ブレーキコントローラ20からの指令電流により開閉動作を行う常閉の制御弁である。減圧制御弁7は、この開閉動作により、ホイルシリンダ圧を内部リザーバ12に供給、又は遮断する動作を行う。
マスタシリンダ圧センサ13は、ブレーキ液路101pに設けられ、マスタシリンダ圧を検出し、検出値をブレーキコントローラ20へ送る。
ブレーキペダルストロークセンサ15は、ブレーキペダル1のストロークを検出し、検出した値をブレーキコントローラ20へ送る。
ポンプ圧センサ16(16p,16s)は、チェック弁14とゲートアウト弁8の間のブレーキ液路101,108の間にそれぞれ設けられ、ギアポンプ10の吐出圧を検出し、検出した値をブレーキコントローラ20へ送る。
リザーバ液面センサ17は、リザーバタンク4の内部に蓄えられるブレーキ液の液面高さ、すなわち、タンク内のブレーキ液量を検出し、検出した値をブレーキコントローラ20へ送る。
ブレーキコントローラ20は、マスタシリンダ圧センサ13、ブレーキペダルストロークセンサ15、リザーバ液面センサ17から送られる検出値、及び車両から送られる走行状態に関する情報が入力され、内蔵されるプログラムに基づき、増圧制御弁6、減圧制御弁7、ゲートアウト弁8、モータ11を制御する。
【0016】
次に、通常制動時の作用について説明する。図3は実施例1のブレーキ制御装置の制御内容を表す表である。実施例1ではp系統、s系統の2系統により、ブレーキ液制御を行い、その際のゲートアウト弁8、モータ11の制御内容は図3のようになる。各系統において、増圧の場合には、ゲートアウト弁8が閉状態にされ、モータ11がオン状態となることにより、ギアポンプ10から吐出されるブレーキ液がブレーキ液路102によりホイルシリンダ5へ送られることになる。
次に各系統において、減圧の場合には、ゲートアウト弁8が開状態にされる。モータ11は、他方の系統の状態により決定される。つまり他方の系統が増圧の場合にはオン状態となり、他方の系統が保持又は減圧の状態の場合にはオフの状態となる。これによりブレーキ液路106,102,101により、ホイルシリンダ5からマスタシリンダ3へブレーキ液が戻り、減圧を行うことが可能となる。
【0017】
次に各系統において、保持の場合には、他方の系統が保持及び減圧の場合には、ゲートアウト弁8が閉状態にされ、モータ11がオフ状態となることにより、ホイルシリンダ5の側の液圧を保持する。これに対して、他方の系統が増圧の場合には、その増圧のためモータ11がオン状態にされる。この場合にはゲートアウト弁8は中間開度にして、マスタシリンダ3の側とホイルシリンダ5の側の圧力差(あるいは圧力比)が所定値となるように調圧を行うようにして、ホイルシリンダ5の側の液圧を保持する制御を行う。このゲートアウト弁8の中間開度の制御は、開度として制御を行ってもよいし、ブレーキコントローラ20からの指令電流を、所定の開度を目標として制御するのではなく、ゲートアウト弁8における前後圧、つまりマスタシリンダ圧とギアポンプ10の吸入側圧の差圧を所定圧につり合わせるようゲートアウト弁8のアーマチュアへ与える電磁力を制御してもよい。その際にはゲートアウト弁8の弁体に加わる電磁力、液圧力、ばね力のつりあいを制御することになる。このようにして、実施例1では2系統を増圧・保持・減圧の組み合わせ状態に制御する。
【0018】
次に、すり替え制御の詳細について説明する。図4は実施例1のブレーキ制御装置において実行されるすり替え制御の内容を説明するタイムチャートである。この例では、運転者の要求制動力全てを回生制動力により達成している状態で、車速の低下に伴い、回生制動力から摩擦制動力にすり替える状態を表す。一般に、すり替え制御は、車速をトリガにして行なわれており、減速によりすり替え開始車速に到達すると、回生制動力の減少を開始するとともに摩擦制動力の増大を開始する。このとき、すり替え速度範囲が予め決められている場合、すり替え終了車速は予め分かっていることから、現在の減速度からすり替え終了車速に到達するまでの時間を求め、その時間内にすり替えが終了するように、すり替え制御時における回生制動力の減少勾配及び摩擦制動力の増加勾配(以下、これら減少勾配及び増加勾配の絶対値は同じ値であることから、総称してすり替え勾配と記載する。)を設定し、すり替え制御を行っている。このことは、言い換えると、すり替え速度範囲が一定の場合、すり替えにかかる時間が短くなり、減速度が大きいとすり替え勾配が大きくなることを意味する。
【0019】
図5は実施例1の応答保証減速度とすり替え速度範囲との関係を表す特性図である。ギアポンプ10の音振性能を満足する最大昇圧勾配(音振性能を考慮すると、これ以上の勾配は設定できないことを意味する。)を決定した場合、横軸に応答を保証する目標減速度を表し、縦軸に最大昇圧勾配で必要なすり替え速度範囲を表すと、図のような特性となる。尚、具体的な数値を記載しているが、これらはあくまでも一例である。この例からも、すり替え勾配が一定の場合、減速度が高まるに連れてすり替え速度範囲が広くなり、より早い段階ですり替え制御を開始する必要があることが分かる。言い換えると、すり替え速度範囲を一定とした場合、減速度によっては最大昇圧勾配以上の勾配を設定する必要があり、音振性能に影響を与える場面がある。これを回避するためには、最大昇圧勾配以下の範囲ですり替え速度範囲を設定する必要がある。
【0020】
図6は実施例1の車速と回生制動力との関係を表す特性図である。図6中の点線は、モータMやインバータ等の規格による出力制限線であり、この点線より大きな回生制動力を発生することができないことを意味する。尚、実施例1の車両は、車速7km/hに到達したときに、回生制動力が0となるように設定されている。これは、低回転で回生制動力を発生すると、インバータのスイッチング素子等に過大な電流が流れるおそれがあるためであり、搭載されるモータやインバータもしくは車両重量等に応じて適宜設定される値である。この7km/hはすり替えを終了する車速であることから、以下すり替え終了車速と記載する。
【0021】
また、図6中の実線のうち、各種マークでプロットされた線は、それぞれの目標減速度を達成するときに、最大昇圧勾配ですり替え制御を行った場合における回生制動力の変化を表す特性図である。図5において説明したように、最大昇圧勾配となるすり替え速度範囲は減速度に応じて決定されていることから、このすり替え速度範囲をすり替え終了車速(7km/h)に上乗せした範囲において回生制動力が変化することが分かる。
【0022】
図6を見ると、0.6Gでの減速度を達成する場合は、出力制限線の範囲内で行なうことが可能であるが、0.7Gでの減速度を達成する場合には、一部領域(概ね車速55km/h〜60km/hの範囲)において出力制限線の範囲外となるため、この車速領域では0.7Gを回生制動力のみで発生することは困難である。そこで、実施例1では、0.65Gより大きな減速度を発生させる場合にはモータMによる回生制動を禁止し、摩擦制動力のみで減速度を達成する。一方、0.65G以下の減速度を発生させる場合には、回生制動力を用いると共に、勾配制限部206において、この0.65Gを達成する場合のすり替え勾配を用いてすり替え制御を行うこととした。言い換えると、図5に示すように、0.65Gを達成するすり替え速度範囲が仮に47km/hだとした場合、これにすり替え終了車速を加えた54km/hに到達したときは、すり替え制御を開始し、すり替え終了車速に到達するときに回生制動力がゼロとなるように制御するものである。例えば、0.3Gの減速度を発生させる場合であっても、0.65Gを達成するときと同じすり替え車速範囲ですり替え制御を行うため、最大昇圧勾配が設定されることがなく、それよりも小さな昇圧勾配を設定することで、十分に音振性能を確保することができる。
【0023】
ここで、上記関係を式で表すと、下記のように表される。
減速度をax、すり替え勾配をΔPmax、すり替え速度範囲をΔV、4輪分のブレーキ係数をKB、すり替え開始車速をVs、すり替え終了車速をVfとすると、
ΔV=Vs-Vf=(3.6/(ΔPmax・KB))・ax2
減速度axのときのすり替えるモータトルクをTm、車両重量をm、タイヤ動半径をRdr、ギヤ比をKgearとすると、
Tm=(mRdr/Kgear)・ax
すると、減速度axのときの、速度―トルク制限勾配kは次の式で表される。
k=Tm/ΔV=(m・Rdr・KB・ΔPmax)/(3.6Kgear・ax)
車速Vcarにて制限すべきトルクTmlimは以下となる。
Tmlim(Vcar,ax)=k(Vcar−Vf) ただし、Tmlim≦0、ax≠0)
【0024】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)車両の目標減速度を算出する目標減速度算出部201と、算出された目標減速度を発生するために車両に搭載されたモータM(回生制動装置)とブレーキ制御装置(摩擦制動装置)を作動させる協調制御部204を備えた車両制御装置において、車両の速度を算出する車両速度算出部202と、モータMによって発生させる回生制動力を算出された車両速度と算出された目標減速度に基づき算出する回生制動力算出部203と、協調制御部204に設けられ算出された回生制動力を減少し摩擦制動力を増加させるすり替え制御部205と、を備え、すり替え制御部205は、回生制動力を減少させる減少勾配を最大減少勾配より小さな所定減少勾配以下に制限する勾配制限部206(回生制動力減少勾配制限部)を有する。言い換えると、すり替え制御部205は、摩擦制動力を増加させる増加勾配を最大増加勾配より小さな所定増加勾配以下に制限する勾配制限部206(摩擦制動力増加勾配制限部)を有する。
これにより、目標減速度が小さくなると、最大昇圧勾配よりも小さな勾配で摩擦制動力を増加するため、ギアポンプ10の音振性能を十分に確保することができ、また、ポンプ性能の向上を図る必要も無いため、システムの大型化を回避することができる。
[実施例2]
【0025】
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。実施例1では、0.65G以下の減速度が要求された場合、0.65Gを達成するときの最大昇圧勾配にて設定されるすり替え速度範囲を用いて、全ての目標減速度に対応することとした。これに対し、実施例2では、勾配制限部206に代えてすり替え制御速度範囲変更部2061(図示省略)を有し、目標減速度に応じてすり替え速度範囲を変更する点が異なる。
【0026】
図5で説明したように、目標減速度ごとに最大昇圧勾配に応じたすり替え速度範囲が設定されていることから、現在の車速を読み込み、目標減速度に応じた特性を図6から選択することで、最大昇圧勾配を利用可能なすり替え速度範囲を設定するものである。これにより、目標減速度に応じて回生制動力を大きく使用する範囲を拡大することができ、音振性能を確保しつつ燃費の向上を図ることができる。
【0027】
以上説明したように、実施例2にあっては下記の作用効果を得ることができる。
(2)車両の目標減速度を算出する目標減速度算出部201と、算出された目標減速度を発生するために車両に搭載されたモータM(回生制動装置)とブレーキ制御装置(摩擦制動装置)を作動させる協調制御部204とを備えた車両制御装置において、車両の速度を算出する車両速度算出部202と、モータMによって発生させる回生制動力を算出された車両速度と算出された目標減速度とに基づき算出する回生制動力算出部203と、算出された回生制動力を減少し摩擦制動力を増加させるすり替え制御を行うすり替え制御部205と、すり替え制御を開始する車両速度を算出された目標減速度に応じて変更するすり替え制御速度範囲変更部2061と、を備えた。
【0028】
よって、目標減速度に応じて回生制動力を大きく使用する範囲を拡大することができ、音振性能を確保しつつ燃費の向上を図ることができる。
【0029】
(他の実施例)
【0030】
以上実施例1,2に基づいて説明したが、他の構成であっても本発明に含まれる。例えば、実施例1では、ギアポンプの音振性能に着目して勾配を設定したが、回生制動力の変化勾配によって駆動系の振動が生じることが分かっている場合には、これら振動を回避可能な勾配を設定するようにしてもよい。また、ギアポンプもしくは駆動系の一方の振動ではなく、ギアポンプの音振性能を確保するマップと、駆動系の振動回避を確保するマップの両方を備え、それらから選択された勾配のうち、より小さな勾配となる値を選択するように設定してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 ブレーキペダル
3 マスタシリンダ
5 ホイルシリンダ
6 増圧制御弁
7 減圧制御弁
8 ゲートアウト弁
10 ギアポンプ
11 モータ
20 ブレーキコントローラ
30 統合コントローラ
40 バッテリ制御部
50 モータ制御部
201 目標減速度算出部
202 車両速度算出部
203 回生制動力算出部
204 協調制御部
205 すり替え制御部
206 勾配制限部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の目標減速度を算出する目標減速度算出部と、
前記算出された目標減速度を発生するために車両に搭載された回生制動装置と摩擦制動装置を作動させる協調制御部を備えた車両制御装置において、
車両の速度を算出する車両速度算出部と、
前記回生制動装置によって発生させる回生制動力を前記算出された車両速度と前記算出された目標減速度に基づき算出する回生制動力算出部と、
前記協調制御部に設けられ前記算出された回生制動力を減少し前記摩擦制動力を増加させるすり替え制御部と、
を備え、
前記すり替え制御部は、前記回生制動力を減少させる減少勾配を最大減少勾配より小さな所定減少勾配以下に制限する回生制動力減少勾配制限部を有することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
車両の目標減速度を算出する目標減速度算出部と、
前記算出された目標減速度を発生させるために車両に搭載された回生制動装置と摩擦制動装置を作動させる協調制御部とを備えた車両制御装置において、
車両の速度を算出する車両速度算出部と、
前記回生制動装置によって発生させる回生制動力を前記算出された車両速度と前記算出された目標減速度に基づき算出する回生制動力算出部と、
前記協調制御部は、前記算出された回生制動力を減少し前記摩擦制動力を増加させるすり替え制御部を備え、
前記すり替え制御部は、前記摩擦制動力を増加させる増加勾配を最大増加勾配より小さな所定増加勾配以下に制限する摩擦制動力増加勾配制限部を有することを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
車両の目標減速度を算出する目標減速度算出部と、
前記算出された目標減速度を発生するために車両に搭載された回生制動装置と摩擦制動装置を作動させる協調制御部とを備えた車両制御装置において、
車両の速度を算出する車両速度算出部と、
前記回生制動装置によって発生させる回生制動力を前記算出された車両速度と前記算出された目標減速度とに基づき算出する回生制動力算出部と、
前記算出された回生制動力を減少し前記摩擦制動力を増加させるすり替え制御を行うすり替え制御部と、
前記すり替え制御を開始する車両速度を前記算出された目標減速度に応じて変更するすり替え制御速度範囲変更部と、
を備えたことを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−18411(P2013−18411A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154380(P2011−154380)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】