説明

車両方向特定装置、車両方向特定方法、及びそのプログラム

【課題】風切り音などの雑音によって車両音が埋れてしまう状況下でも、車両の存在する方向を特定する。
【解決手段】各々が、接続された検知用マイク101、102で取得された他車両音と雑音との混合音と、検知用マイク101、102の各々で取得される風雑音よりも低い音圧の風雑音が取得される位置に設置された参照用マイク103で取得された他車両音のフィルタ通過後の音信号との差が最小になるようにフィルタを生成しながら、参照用マイク103で取得された他車両音のフィルタ通過後の音信号を算出することにより、検知用マイク101、102で取得された他車両音が強調された音を抽出する複数の他車両音強調フィルタ部104、105と、複数の他車両音強調フィルタ部104、105で抽出された音の到達時間差又は音圧差から、自車両の進行方向に対する他車両が存在する方向を特定する他車両方向特定部108とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両音によって車両が存在する方向を特定する車両方向特定装置等に関する。特に、車両が走行することにより発生する風切り音などの雑音によって、車両音が埋れてしまう状況下でも、車両音を抽出することで車両の存在する方向を特定する車両方向特定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
第1の従来技術として、車両音の到達時間差から車両の存在する方向を特定する手法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
第2の従来技術として、2つの入力信号の相関をとることで相関信号を抽出する手法がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−92767号公報
【特許文献2】特開2009−27388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、第1の従来技術の構成では、雑音が存在する状況下では、車両音が雑音に埋もれてしまい、車両音を検出することが困難である。特に風雑音や自車両が走行することでタイヤから生じる音(タイヤ走行音)などがある場合、雑音に対して車両のエンジン音などのSN比が非常に低い場合には、車両音を検出することは困難である。このため、車両の存在する方向を正確に特定することができないという問題がある。
【0006】
また、第2の従来技術は、画像やデータを送信する際、相関のある正弦波を強調することで画像の歪みを補正することを目的としている。このため、車両音の検出や、雑音の中から特定の信号を抽出することは困難である。このため、車両の存在する方向を正確に特定することができないという問題がある。
【0007】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、特に、車両が走行することにより発生する風切り音などの雑音によって、車両音が埋れてしまう状況下でも、車両音を抽出することで車両の存在する方向を特定することができる車両方向特定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある局面に係る車両方向特定装置は、自車両の周辺に存在する他車両の車両音である他車両音から、前記他車両が存在する方向を特定する車両方向特定装置であって、他車両音と雑音との混合音を取得する複数の検知用マイクと、前記複数の検知用マイクの各々で取得される風雑音よりも低い音圧の風雑音が取得される位置に設置され、他車両音を取得する参照用マイクと、前記複数の検知用マイクにそれぞれ接続され、各々が、接続された検知用マイクで取得された前記混合音と、前記参照用マイクで取得された前記他車両音のフィルタ通過後の音信号との差が最小になるように前記フィルタを生成しながら、前記参照用マイクで取得された前記他車両音のフィルタ通過後の音信号を算出することにより、前記検知用マイクで取得された前記他車両音が強調された音を抽出する複数の他車両音強調フィルタ部と、前記複数の他車両音強調フィルタ部で抽出された音の到達時間差又は音圧差から、前記自車両の進行方向に対する前記他車両が存在する方向を特定する他車両方向特定部とを備える。
【0009】
この構成によると、複数の検知用マイクが取得する音の方が参照用マイクが取得する音よりも風雑音の音圧が高い。このため、複数の検知用マイクは、雑音の影響はあるものの、音の反射や回折、残響などの影響を受けていない混合音を取得する。一方、参照用マイクは、音の反射や回折、残響などの影響を受けているが、雑音の少ない他車両音を取得する。他車両音強調フィルタ部においては、いわゆる適応フィルタ処理により、検知用マイクで取得された混合音と参照用マイクで取得された他車両音とから、音の反射や回折、残響などの影響を受けておらず、かつ雑音の少ない音が抽出される。このため、車両が走行することにより発生する風切り音などの雑音によって、車両音が埋れてしまう状況下でも、車両音を抽出することで車両の存在する方向を特定することができる。
【0010】
好ましくは、前記複数の検知用マイクは、前記自車両の前方から見て遮蔽のない位置に取り付けられている。
【0011】
このような位置に複数の検知用マイクを取り付けることにより、音の反射や回折、残響などの影響を受けていない混合音が取得される。
【0012】
さらに好ましくは、前記参照用マイクは、前記自車両の前方から見て遮蔽される位置に取り付けられている。
【0013】
具体的には、前記参照用マイクは、前記自車両の車内に取り付けられている。
【0014】
このような位置に複数の検知用マイクを取り付けることにより、雑音が少ない混合音が取得される。
【0015】
また、前記参照用マイクは、前記風雑音及び前記自車両が走行することでタイヤから生じる音が前記複数の検知用マイクの各々で取得される音圧よりも低い音圧で取得される位置に設置されていてもよい。
【0016】
この構成によると、タイヤ走行音について、複数の検知用マイクが取得する音の方が参照用マイクが取得する音よりも音圧が高い。このため、複数の検知用マイクは、雑音の影響はあるものの、音の反射や回折、残響などの影響を受けていない混合音を取得する。一方、参照用マイクは、音の反射や回折、残響などの影響を受けているが、タイヤ走行音の少ない他車両音を取得する。他車両音強調フィルタ部においては、いわゆる適応フィルタ処理により、検知用マイクで取得された混合音と参照用マイクで取得された他車両音とから、音の反射や回折、残響などの影響を受けておらず、かつタイヤ走行音の少ない音が抽出される。このため、車両が走行することにより発生するタイヤ走行音などの雑音によって、車両音が埋れてしまう状況下でも、車両音を抽出することで車両の存在する方向を特定することができる。
【0017】
好ましくは、上述の車両方向特定装置は、さらに、前記複数の検知用マイクで取得された前記混合音のうち、所定の周波数帯域の混合音のみを通過させる複数の第1帯域通過フィルタ部と、前記参照用マイクで取得された前記他車両音のうち、前記所定の周波数帯域の他車両音のみを通過させる第2帯域通過フィルタ部とを備え、前記複数の他車両音強調フィルタ部は、前記複数の第1帯域通過フィルタ部にそれぞれ接続され、各々が、接続された第1帯域通過フィルタ部を通過した前記混合音と、前記第2帯域通過フィルタ部を通過した前記他車両音のフィルタ通過後の音信号との差が最小になるように前記フィルタを生成しながら、前記第2帯域通過フィルタ部を通過した前記他車両音のフィルタ通過後の音信号を算出することにより、前記第1帯域通過フィルタ部を通過した前記混合音に含まれる前記他車両音が強調された音を抽出する。
【0018】
この構成によると、例えば他車両音の検知に用いられない数千Hz以上の音をカットすることで、フィルタを高速に収束させることが可能となる。また、使い方や状況によって、他車両音の検知に用いられる周波数帯域を変更することも可能となる。
【0019】
また、上述の車両方向特定装置は、さらに、前記複数の他車両音強調フィルタ部にそれぞれ接続され、各々が、接続された他車両音強調フィルタ部で抽出された音から、当該音に含まれる前記他車両音を判定する複数の他車両音判定部を備え、前記他車両方向特定部は、前記複数の他車両音判定部で判定された複数の前記他車両音の到達時間差又は音圧差から、前記自車両の進行方向に対する前記他車両が存在する方向を特定し、前記複数の他車両音判定部の各々は、接続された前記他車両音強調フィルタ部で抽出された音を周波数分析することにより周波数信号を算出する周波数分析部と、前記周波数分析部が算出した前記周波数信号の位相の時間変化を近似する近似曲線を算出する位相近似曲線算出部と、前記近似曲線と前記周波数信号の位相との誤差に基づいて、前記他車両音強調フィルタ部で抽出された音が前記他車両音であるか否かを判定する車両音判定部とを有していてもよい。
【0020】
他車両音は主にエンジン音からなるため周期性を有する音である。このため、他車両が等速走行をしている場合には、他車両音の周波数が一定となるため位相も一定となる。また、他車両が加減速を行っている場合には、他車両音の周波数が時間とともに変化するため位相も時間とともに変化する。このような位相の時間変化を位相曲線として表し、位相曲線との誤差を判定することにより、周期音である他車両音と非周期音である雑音とを区別して判定することができる。
【0021】
また、上述の車両方向特定装置は、さらに、前記参照用マイクで取得された前記他車両音から、前記他車両音に雑音が含まれるか否かを判定する雑音判定部と、前記雑音判定部において雑音が含まれないと判定された場合にのみ、前記複数の他車両音強調フィルタ部を動作させるフィルタ動作切替部とを備え、前記雑音判定部は、前記参照用マイクで取得された前記他車両音を周波数分析することにより周波数信号を算出する周波数分析部と、前記周波数分析部が算出した前記周波数信号の位相の時間変化を近似する近似曲線を算出する位相近似曲線算出部と、前記近似曲線と前記周波数信号の位相との誤差に基づいて、前記参照用マイクで取得された前記他車両音に雑音が含まれるか否かを判定する判定部とを有していてもよい。
【0022】
他車両音は主にエンジン音からなるため周期性を有する音である。このため、他車両が等速走行をしている場合には、他車両音の周波数が一定となるため位相も一定となる。また、他車両が加減速を行っている場合には、他車両音の周波数が時間とともに変化するため位相も時間とともに変化する。このような位相の時間変化を位相曲線として表し、位相曲線との誤差を閾値判定することにより、周期音である他車両音と非周期音である雑音とを区別して判定することができる。また、フィルタ動作切替部では雑音が含まれない場合にのみ複数の他車両音強調フィルタ部を動作させるようにしているため、他車両が存在しないにも関わらず、誤って他車両が存在する方向を特定してしまうことを防ぐことができる。
【0023】
また、上述の車両方向特定装置は、さらに、前記参照用マイクで取得された前記他車両音から、前記他車両音に話し声が含まれるか否かを判定する話し声判定部と、前記話し声判定部において話し声が含まれないと判定された場合にのみ、前記複数の他車両音強調フィルタ部を動作させるフィルタ動作切替部とを備え、前記話し声判定部は、前記参照用マイクで取得された前記他車両音を周波数分析することにより周波数信号を算出する周波数分析部と、前記周波数分析部が算出した前記周波数信号の位相の時間変化を近似する近似曲線を算出する位相近似曲線算出部と、前記近似曲線と前記周波数信号の位相との誤差に基づいて、前記参照用マイクで取得された前記他車両音に話し声が含まれるか否かを判定する判定部とを有していてもよい。
【0024】
他車両音は主にエンジン音からなるため周期性を有する音である。このため、他車両が等速走行をしている場合には、他車両音の周波数が一定となるため位相も一定となる。また、他車両が加減速を行っている場合には、他車両音の周波数が時間とともに変化するため位相も時間とともに変化する。一方、話し声も周期性を有する音ではあるが、声帯等の振動により、その周波数は短い時間間隔で変動し、その分散も大きい。このため、位相も時間とともに急激に変化し、分散も大きく、話し声の位相の時間変化を近似曲線で近似するのが困難である。このため、位相の時間変化を位相曲線として表し、位相曲線との誤差を閾値判定した場合に、他車両音は所定の閾値未満となるが、話し声は所定の閾値以上となる。そのため、他車両音と話し声とを区別して判定することができる。また、フィルタ動作切替部では話し声が含まれない場合にのみ複数の他車両音強調フィルタ部を動作させるようにしているため、他車両が存在しないにも関わらず、誤って他車両が存在する方向を特定してしまうことを防ぐことができる。
【0025】
本発明の他の局面に係る車両方向特定装置は、自車両の周辺に存在する他車両の車両音である他車両音から、前記他車両が存在する方向を特定する車両方向特定装置であって、複数の検知用マイクにそれぞれ接続され、各々が、接続された検知用マイクで取得された他車両音と雑音との混合音と、前記複数の検知用マイクの各々で取得される風雑音よりも低い音圧の風雑音が取得される位置に設置された参照用マイクで取得された他車両音のフィルタ通過後の音信号との差が最小になるように前記フィルタを生成しながら、前記参照用マイクで取得された前記他車両音のフィルタ通過後の音信号を算出することにより、前記検知用マイクで取得された前記他車両音が強調された音を抽出する複数の他車両音強調フィルタ部と、前記複数の他車両音強調フィルタ部で抽出された音の到達時間差又は音圧差から、前記自車両の進行方向に対する前記他車両が存在する方向を特定する他車両方向特定部とを備える。
【0026】
この構成によると、複数の検知用マイクが取得する音の方が参照用マイクが取得する音よりも風雑音の音圧が高い。このため、複数の検知用マイクは、雑音の影響はあるものの、音の反射や回折、残響などの影響を受けていない混合音を取得する。一方、参照用マイクは、音の反射や回折、残響などの影響を受けているが、雑音の少ない他車両音を取得する。他車両音強調フィルタ部においては、いわゆる適応フィルタ処理により、検知用マイクで取得された混合音と参照用マイクで取得された他車両音とから、音の反射や回折、残響などの影響を受けておらず、かつ雑音の少ない音が抽出される。このため、車両が走行することにより発生する風切り音などの雑音によって、車両音が埋れてしまう状況下でも、車両音を抽出することで車両の存在する方向を特定することができる。
【0027】
本発明のさらに他の局面に係る車両方向特定システムは、上述の車両方向特定装置を複数備え、前記所定の周波数帯域は、複数の前記車両方向特定装置間で互いに異なる。
【0028】
この構成によると、複数の周波数帯域のそれぞれにおいて車両音を特定することができる。このため、周波数の異なる車両が複数存在する場合にも、車両が存在する方向を特定することができる。また、一般的にエンジン音には低周波数の音成分が多く含まれる。このため、1つの周波数帯域のみの音に基づいてフィルタを生成すると、フィルタが低周波数の音成分の影響を強く受けすぎてしまう場合がある。しかし、複数の周波数帯域を用いることによって、高い周波数の音からも方向を特定することが可能となる。
【0029】
好ましくは、複数の前記車両方向特定装置間で互いに異なる前記所定の周波数帯域は、0〜100Hzの周波数帯域と、150〜400Hzの周波数帯域と、700〜1200Hzの周波数帯域とを含む。
【0030】
0〜100Hzの周波数帯域には主にエンジン音の基本周波数成分と2倍の倍音とが含まれる。150〜400Hzの周波数帯域には主にエンジン音の3倍以上の倍音が含まれる。700〜1200Hzの周波数帯域にはエンジン音以外の音が含まれる。このため、このように所定の周波数帯域を設定することにより、周波数の異なる車両が複数存在する場合にも、車両が存在する方向を特定することができる。また、エンジン音以外の音からも車両が存在する方向を特定することが可能となる。
【0031】
また、上述の車両方向特定システムは、さらに、複数の前記車両方向特定装置において特定された前記他車両が存在する方向の平均値又は最頻値を算出する方向特定部を備える。
【0032】
平均値または最頻値は、複数の周波数帯域で求められた他車両が存在する方向から特定される1つの方向を示している。このように、複数の他車両が存在する方向から1つの他車両が存在する方向を求めることができるため、信頼性の高い他車両が存在する方向を特定することができる。
【0033】
なお、本発明は、このような特徴的な処理部を備える車両方向特定装置として実現することができるだけでなく、車両方向特定装置に含まれる特徴的な処理部をステップとする車両方向特定方法として実現したり、車両方向特定方法に含まれる特徴的なステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現したりすることもできる。そして、そのようなプログラムは、CD−ROM(Compact Disc-Read Only Memory)等の記録媒体やインターネット等の通信ネットワークを介して流通させることができるのは言うまでもない。
【発明の効果】
【0034】
本発明によると、車両が走行することにより発生する風切り音などの雑音によって、車両音が埋れてしまう状況下でも、車両音を抽出することで車両の存在する方向を特定することができる車両方向特定装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態1における車両方向特定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】車両音を説明するための図である。
【図3A】自車両の上面から見た検知用マイクの設置位置を説明するための図である。
【図3B】自車両の上面から見た検知用マイクの設置位置を説明するための図である。
【図3C】自車両の上面から見た検知用マイクの設置位置を説明するための図である。
【図3D】自車両の上面から見た検知用マイクの設置位置を説明するための図である。
【図3E】自車両の上面から見た検知用マイクの設置位置を説明するための図である。
【図3F】自車両の右側面から見た検知用マイクの設置位置を説明するための図である。
【図4】車両音及び雑音からなる混合音のスペクトログラムである。
【図5A】自車両の上面から見た参照用マイクの設置位置について説明するための図である。
【図5B】自車両の上面から見た参照用マイクの設置位置について説明するための図である。
【図5C】自車両の右側面から見た参照用マイクの設置位置について説明するための図である。
【図5D】自車両の上面から見た参照用マイクの設置位置について説明するための図である。
【図5E】自車両の上面から見た参照用マイクの設置位置について説明するための図である。
【図5F】自車両の上面から見た参照用マイクの設置位置について説明するための図である。
【図6】自車両内の天井に設置された参照用マイクで検知された実際の車両のエンジン音を周波数分析した結果を示すスペクトログラムである。
【図7A】検知用マイクと参照用マイクとの設置位置の位置関係を説明するための図である。
【図7B】検知用マイクと参照用マイクとの設置位置の位置関係を説明するための図である。
【図7C】検知用マイクと参照用マイクとの設置位置の位置関係を説明するための図である。
【図7D】検知用マイクと参照用マイクとの設置位置の位置関係を説明するための図である。
【図8A】他車両音強調フィルタ部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図8B】実際の他車両音を参照用マイクで検知した音のスペクトログラムを示す図である。
【図8C】実際の他車両音を検知用マイクで検知した音のスペクトログラムを示す図である。
【図8D】他車両音強調フィルタ部を通過した後の音信号のスペクトログラムを示す図である。
【図9】本発明の実施の形態1における車両音判定部の構成図である。
【図10】位相の補正処理について説明するための図である。
【図11】基底波形をずらさずに畳み込み演算を行うことにより求められる位相を説明するための図である。
【図12】位相の近似曲線の算出方法を説明するための図である。
【図13】他車両音判定処理を説明するための図である。
【図14】車両音の判定結果を説明するための図である。
【図15】他車両の存在する方向の特定方法を説明するための図である。
【図16A】他車両音部分と判定された部分を示す図である。
【図16B】0秒から1秒の間の方向の頻度分布を示す図である。
【図16C】1秒から2秒の間の方向の頻度分布を示す図である。
【図16D】2秒から3秒の間の方向の頻度分布を示す図である。
【図17】実施の形態1に係る車両方向特定装置の動作を説明するフローチャートである。
【図18】図17のステップS103の詳細な動作フローチャートである。
【図19】図17のステップS104の詳細な動作フローチャートである。
【図20】図17のステップS105の詳細な動作フローチャートである。
【図21】本発明を実施するための車両方向特定装置の最小構成を示す図である。
【図22】実施の形態1の変形例1に係る車両方向特定装置の構成を示すブロック図である。
【図23】実施の形態1の変形例2に係る車両方向特定システムの構成を示すブロック図である。
【図24】実施の形態2に係る車両方向特定装置の構成を示すブロック図である。
【図25】実施の形態2に係る雑音判定部の構成を示すブロック図である。
【図26】判定部による雑音判定処理を説明するための図である。
【図27】実施の形態2に係る車両方向特定装置の動作を説明するフローチャートである。
【図28】実施の形態2に係る車両方向特定装置の動作を説明するフローチャートである。
【図29】実施の形態2の変形例に係る車両方向特定装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の特徴は、車両音と雑音との混合音を取得する検知用マイクに対し、風雑音またはタイヤ走行音の遮蔽度合が高い位置に参照用マイクを設置し、参照用マイクで取得された車両音によって検知用マイクで取得された混合音の中から車両音を抽出することで、車両の存在する方向を特定することである。
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0038】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る車両方向特定装置について説明する。
【0039】
図1は、本発明の実施の形態1における車両方向特定装置の構成を示すブロック図である。
【0040】
図1において、車両方向特定装置190は、自車両の周辺に存在する他車両の車両音である他車両音から、他車両が存在する方向を特定する装置であって、検知用マイク101、102と、参照用マイク103と、他車両音強調フィルタ部104、105と、他車両音判定部106、107と、他車両方向特定部108とを含む。
【0041】
検知用マイク101、102は、他車両のエンジン音、モーター音、走行音等、他車両から発せられる車両音を検知する手段である。検知用マイク101、102として自車両に搭載されたマイクロホンを用いる場合、風切り音などの雑音も同時に検知されるため、検知用マイク101、102は、車両音と雑音の混合音を検知する手段となる。
【0042】
図2(a)は、マイクで検知された実際の車両のエンジン音を周波数分析した結果を示すスペクトログラムである。縦軸を周波数、横軸を時間とする。色の濃度は周波数信号のパワーの大きさを示しており、色の濃い部分はパワーが大きい部分を示す。車両音はエンジンやマフラーが周期的に振動することにより発せられる音である。したがって、人の声又は正弦波と同様に、一定の周波数成分を有していることがわかる。また、周波数が倍になる部分でも、同様にパワーが大きいため、車両音は倍音を有していることがわかる。
【0043】
また、エンジンの回転数が増加すれば周波数が高くなり、エンジンの回転数が減少すれば周波数が低くなる。このように、エンジンの回転数に応じて、周波数は一定の変化を示す。
【0044】
例えば、破線1011で囲った部分はエンジンの回転数が減少している部分であり、図2(b)に示すように周波数は減少している。一方、破線1012で囲った部分は回転数が増加している部分であり、図2(c)に示すように周波数は増加している。破線1013で囲った部分は回転数がほぼ一定の部分であり、図2(d)に示すように周波数も一定である。
【0045】
本実施の形態では、このような他車両音を検知用マイク101、102で検出し、他車両の存在する方向を特定する。したがって、検知用マイク101、102は他車両音が検知できる位置に設置する必要がある。また、複数のマイクに対する音の到達時間差や、音圧差などで方向を特定するため、他車両音がなるべく直接的に検知できる位置に設置する必要がある。これは、他車両音を直接的に検知できない位置に検知用マイク101、120を設置した場合、音の反射や回折、残響などが多く影響し、これらがさらに到達時間差や、音圧差などに影響し、他車両の存在する方向の特定が困難となるからである。以下、検知用マイク101、102の設置位置について図を用いて説明する。
【0046】
図3A〜図3Eは、自車両の上面から見た検知用マイクの設置位置を説明するための図である。図3Fは、自車両の右側面から見た検知用マイクの設置位置を説明するための図である。
【0047】
図3Aに示すように、自車両41の前方のバンパーに、2つの検知用マイク101、102を設置してもよい。同図及びそれ以降の図において、矢印42は自車両41の進行方向を示している。
【0048】
図3Aのように、バンパーなどに検知用マイク101、102を設置した場合、両方の検知用マイク101、102は、他車両音を直接的に取得できる。また、交差点進入時に左右に壁や家やビルなど遮蔽物がある場合も、検知用マイク101、102が前方にあるほど回折の影響が少なくなる。したがって、他車両の存在を検知するために、車の前方のバンパーは検知用マイク101、102の望ましい設置位置と考えられる。
【0049】
一方、バンパーに検知用マイク101、102を設置した場合、自車両41の走行時には、正面から風を受けるので、検知用マイク101、102が検知する音に風切り音が混入する。この風切り音は、自車両41の速度によっては、他車両音に対して同等以上に入る場合も多い。そのため、風切り音により、検知用マイク101、102が取得した音だけから他車両音を検知することは困難となる。
【0050】
図3Bに示すように、自車両41の天井外に、2つの検知用マイク101、102を設置してもよい。この場合、バンパー位置に検知用マイク101、102を設置する場合に比べて、検知用マイク101、102は自車両41のエンジンから離れた位置に設置される。このため、自車両41のエンジン音の影響は少なくなる。
【0051】
また、天井外に検知用マイク101、102を設置した場合、他車両音も直接的に検知できるため、他車両の存在を検知するためには望ましい位置と考えられる。一方、バンパーにマイクを設置した場合と同様に、自車両41が走行したとき、正面から風を受けることになる。そのため、検知用マイク101、102が検知する音に風切り音が混入することとなり、このままでは他車両音の検知は困難となる。
【0052】
なお、天井外の2つの検知用マイク101、102の取付け位置は、図3Bに示すように天井外の前方であっても良いし、図3Cに示すように天井外の中ほどであっても良いし、図3Dに示すように天井外の後方であっても良い。
【0053】
図3Eに示すように、自車両41の2つのサイドミラーにそれぞれ2つの検知用マイク101、102を設置しても良い。また、図3Fに示すように自車両41の2つのサイドのボディ(Aピラー(フロントピラー))にそれぞれ2つの検知用マイク101、102を設置しても良い。なお、図3Fでは自車両41の右側面を示しているため、左側面に位置する検知用マイク101は図示していない。サイドミラーや、Aピラーに検知用マイク101、102を設置した場合も他車両音を直接的に検知することができる。また、当該位置は、バンパーや天井外以上に検知用マイク101と検知用マイク102とを離して設置することができる。他車両の存在方向を音の到達時間差や音圧差で特定する場合、左右の設置位置が離れる程、方向の精度を高めることができる。このため、このような設置位置に検知用マイク101、102を設置することにより、方向の精度を高めることができる。ただし、周波数及び音源からの距離に応じて、折り返し現象が生じる。
【0054】
しかしながら、このような設置位置であってもやはり風雑音などの雑音が混入してしまい、他車両音を検知することは困難となる。このように、自車両41に検知用マイク101、102を設置し、直接的に他車両音を検知しようとした場合、雑音が混入してしまい、直接的に他車両音のみを検知することはできない。
【0055】
図4は、例えばバンパーに設置された検知用マイク101で検知された実際の車両のエンジン音と風雑音等、雑音が混入した音を周波数分析した結果を示すスペクトログラムである。縦軸を周波数、横軸を時間とする。色の濃度は周波数信号のパワーの大きさを示しており、色の濃い部分はパワーが大きい部分を示す。図2(a)と比較して、全体的に黒くなっていることが分かる。つまり、図2(a)の周波数の分析結果では特定することができたエンジン音部分が、図4の周波数分析結果ではできないことが分かる。これは風や暗騒音等の雑音によって様々な周波数に音が混入してしまい、他車両音が区別できなくなっていることを示す。
【0056】
再度、図1を参照して、参照用マイク103は、他車両の車両音を検知する手段である。参照用マイク103は、検知用マイク101、102とは異なる場所に設置される。つまり、参照用マイク103は、検知用マイク101、102の各々で取得される風雑音またはタイヤ走行音よりも低い音圧の風雑音またはタイヤ走行音が取得される位置に設置され、混合音を取得する。具体的には、参照用マイク103は、例えば自車両のボディを物理的な遮蔽とし、風雑音またはタイヤ走行音などの雑音などが混入しにくい位置に設置される。
【0057】
図5A、図5B、図5D〜図5Fは、自車両の上面から見た参照用マイクの設置位置について説明するための図である。図5Cは、自車両の右側面から見た参照用マイクの設置位置について説明するための図である。
【0058】
図5Aに示すように、自車両41内の天井に参照用マイク103を設置しても良い。この場合、自車両41が走行しても、風をうけることはなく、風雑音およびタイヤ走行音はほぼ混入しない。また、自車両のタイヤに対し、自車両ボディを物理遮蔽としているため、タイヤ走行音も軽減される。また、数百Hz等の低い周波数の他車両音は、車のボディを伝わり伝播するため、たとえ自車両41内に参照用マイク103を設置したとしても検知することができる。特に20Hz〜300Hz等の低い周波数の他車両音は、外に設置されたマイクとほぼ同程度の音圧で他車両音を検知することができる。一方で1000Hz以上の高い周波数は、自車両41のボディで反射され、自車両41内では検知することは困難となる。しかしながら、自車両41内に参照用マイク103を設置した場合、他車両音は必ずしも直接的に検知できるわけではない。つまり、自車両41のボディで反射や共振が生じる。このため、参照用マイク103を複数設置したとしても、複数の参照用マイク103で検知された他車両音の到達時間差や音圧差には誤差が生じてしまう。したがって、当該位置に設置した参照用マイク103が取得した音のみで他車両の存在する方向を特定することは困難となる。
【0059】
図6は、自車両41内の天井に設置された参照用マイク103で検知された実際の車両のエンジン音を周波数分析した結果を示すスペクトログラムである。縦軸を周波数、横軸を時間とする。色の濃度は周波数信号のパワーの大きさを示しており、色の濃い部分はパワーが大きい部分を示す。図4に示す検知用マイク101で検知した音のスペクトログラムと比較すると、風雑音などはほぼ抑制され、他車両音が検知できていることが分かる。
【0060】
なお、参照用マイク103の設置位置は、図5Aに示すような自車両41内の天井に限定されるものではなく、検知用マイク101、102の各々で取得される風雑音よりも低い音圧の風雑音が取得される位置であれば、他の位置であっても良い。例えば、自車両41の前方から見て遮蔽される位置に取り付けられていてもよい。つまり、自車両41の走行に伴う風雑音が入らず、かつ、自車両41のボディの振動の影響を受けない位置に取り付けるのが好ましい。
【0061】
より具体的には、図5B及び図5Cに示すように、自車両41の車外の車両後部の窓に参照用マイク103を設置しても良い。車両後部の窓に設置する場合、バンパーや天井外等と比較して、自車両41が走行しても風をうけることは比較的少なく、風雑音およびタイヤ走行音の混入はある程度抑制できる。また、低い周波数の音は、自車両41のボディの天井や横から回折してくるので、検知することができる。しかしながら、バンパーや天井外にマイクを設置する場合と比較すると、自車両41のボディで反射や共振が生じる。このため、参照用マイク103を複数設置したとしても、複数の参照用マイク103で検知された他車両音の到達時間差や音圧差には誤差が生じてしまい、他車両音を直接的に検知することは困難となる。したがって、当該位置に設置した参照用マイク103が取得した音のみで他車両の存在する方向を特定することは困難となる。
【0062】
また、図5Dに示すように、参照用マイク103は、自車両41のシート43に設置されても良い。また、図5Eに示すように、参照用マイク103は、自車両41のダッシュボードの中に設置されても良い。さらに、図5Fに示すように、参照用マイク103は、自車両41のハンドル44に設置されても良い。いずれの場合であっても、図5A〜図5Cに示した設置位置に設置した場合と同様に、風雑音やタイヤ走行音の混入はある程度抑制できる。ただし、これらの位置に設置された参照用マイク103を複数用いたとしても、複数の参照用マイク103で検知された他車両音の到達時間差や音圧差には誤差が生じてしまい、他車両音を直接的に検知することは困難となる。したがって、当該位置に設置した参照用マイク103が取得した音のみで他車両の存在する方向を特定することは困難となる。
【0063】
そこで本実施の形態では、参照用マイク103が取得した他車両音と、検知用マイク101、102が取得した混合音とに基づいて、他車両音を強調して抽出することで、他車両の存在する方向を特定する。まず、検知用マイク101、102は図3A〜図3Fに示したように、直接的に他車両音を検知できる位置に設置する。しかし、検知用マイク101、102を自車両41に設置しようとした場合、直接的に他車両音のみを検知することはできず、その結果、雑音も混入してしまう位置に設置することとなる。一方、参照用マイク103は雑音が混入しにくい位置であるが、そのために直接的には他車両音を検知することが困難な位置に設置する。
【0064】
図7A〜図7Dは、検知用マイク101、102と、参照用マイク103との設置位置の位置関係について説明するための図である。図7Aに示すように、検知用マイク101、102をバンパーに設置し、参照用マイク103を自車両41内に設置してもよい。この場合、検知用マイク101、102は他車両音を直接的に検知することができるが、取得した音には風雑音などの雑音も混入する。一方、参照用マイク103には、風雑音などの雑音は混入せず、参照用マイク103は、他車両音を検知することができるが、自車両41内で反射や共鳴などが生じ、直接的な他車両音は検知できないこととなる。
【0065】
図7Bに示すように、検知用マイク101、102を自車両41の天井外に設置し、参照用マイク103を自車両41の車両後方窓に設置してもよい。この場合も、検知用マイク101、102は他車両音を直接的に検知することができるが、取得した音には風雑音などの雑音も混入する。一方、参照用マイク103が取得した音では、風雑音などの雑音は自車両が壁となって抑制されるため、参照用マイク103は他車両音を検知することができる。しかし、回折や共鳴などが生じるため、直接的な他車両音の検知は困難となる。
【0066】
図7Cに示すように、検知用マイク101、102を自車両41車両の左右のサイドミラーにそれぞれ設置し、参照用マイク103を自車両41内に設置しても良い。この場合、検知用マイク101、102では他車両音を直接的に検知することができるが、風雑音などの雑音も混入する。一方、参照用マイク103には、風雑音などの雑音は混入せず、参照用マイク103は、他車両音を検知することができるが、自車両41内で反射や共鳴などが生じ、直接的な他車両音は検知できないこととなる。
【0067】
図7Dに示すように、検知用マイク101、102を自車両41の両サイドのピラー部にそれぞれ設置し、参照用マイク103を自車両41の車両後方窓に設置してもよい。なお、図7Dでは自車両41の右側面を示しているため、左側面に位置する検知用マイク101は図示していない。この場合も、検知用マイク101、102では他車両音を直接的に検知することができるが、風雑音などの雑音も混入する。一方、参照用マイク103が取得した音では、風雑音などの雑音は自車両が壁となって抑制されるため、参照用マイク103は他車両音を検知することができる。しかし、回折や共鳴などが生じるため、直接的な他車両音の検知は困難となる。
【0068】
なお、検知用マイク101、102と参照用マイク103との設置位置の位置関係は、図7A〜図7Dに示した4通りに限られるものではない。例えば、図3A〜図3Fのいずれかに示した検知用マイク101、102の設置位置と、図5A〜図5Fのいずれかに示した参照用マイク103の設置位置とを任意に組み合わせるものであっても良い。
【0069】
ただし、後述するように検知用マイク101、102のいずれかが取得した混合音と参照用マイク103が取得した車両音とを用いて、両音のうち相関する音を強調する処理が行なわれる。
【0070】
したがって、検知用マイク101、102と参照用マイク103が近接した場合には、振動や、雑音にも相関が生じて、雑音をも強調して抽出してしまう可能性がある。そのため、精度良く他車両音を強調して抽出することができない場合も生じる。例えば道路の段差などによる突発的な振動や、タイヤ走行音などの雑音にも相関が生じてしまう可能性がある。そこで、検知用マイク101、102と参照用マイク103は、これらのように、雑音による相関が生じにくい物理的にやや離れた位置に設置することが望ましい。これにより、相関のない雑音が強調されにくくなるからである。
【0071】
再度、図1を参照して、他車両音強調フィルタ部104、105は、参照用マイク103が取得した車両音を参照することにより、それぞれ検知用マイク101、102で検知された混合音に含まれる他車両音を強調するフィルタである。つまり、他車両音強調フィルタ部104、105は、検知用マイク101、検知用マイク102にそれぞれ接続され、各々が、接続された検知用マイクで取得された混合音と、参照用マイク103が取得した他車両音のフィルタ通過後の音信号との差が最小になるようにフィルタを生成しながら、参照用マイク103が取得した他車両音のフィルタ通過後の音信号を算出することにより、検知用マイクで取得された他車両音が強調された音を抽出する。
【0072】
図8Aは、他車両音強調フィルタ部104、105の詳細な構成を示すブロック図である。他車両音強調フィルタ部104、105は、タップ数M個のフィルタ係数W={w1、w2…、wM}を時刻ごとに補正することで他車両音を強調して抽出する。以下、一般的なLMS(Least Mean Square)アルゴリズムについて説明する。
【0073】
時刻nにおける出力をy(n)とすると、y(n)は以下となる。
【0074】
【数1】

【0075】
このとき、時刻nにおける目的関数をd(n)とし、d(n)とy(n)との誤差をe(n)とする。
【0076】
【数2】

【0077】
ここで、最適なフィルタ係数Wを算出するためにe(n)2を最小化するフィルタ係数Wを算出する。リアルタイムで適応的にフィルタ係数Wを決定するために、最急降下法の考えを用いる。e(n)2は、フィルタ係数Wの二次関数となるため、ある点での勾配は、
【数3】

となる。以下の式で逐次的にフィルタ係数Wを補正することとなる。
【0078】
【数4】

【0079】
μは一般的にはステップサイズと呼び、過学習や学習の収束を考慮し、調整される値である。μを大きくすると収束速度は向上するが、過学習が生じる。一方、μを小さくすると学習の収束速度が遅くなる。また、入力音のパワーの変動を考慮し、以下の式に従いフィルタ係数Wを修正する等(NLMS(Normalized Least Mean Square)法)も可能である。
【0080】
【数5】

【0081】
この他、RLS(Recursive Least Square)法など、フィルタ係数の学習法についてはこれに限られるものではない。
【0082】
他車両音強調フィルタ部104、105では、検知用マイク101、102で検知された音をd(n)とする。また、参照用マイク103で検知された車両音をx(n)とする。x(n)に学習されたフィルタ係数Wを畳み込み、y(n)を算出する。
【0083】
この処理について概念的に説明する。算出されたy(n)は、d(n)とx(n)との相関のある音であり、かつ、y(n)の位相はd(n)で検知された位相と等しい。つまり、他車両音強調フィルタ部104、105は、風雑音などの雑音が混入してしまい、他車両音が埋れてしまっているd(n)から、x(n)を用いて他車両音のみを抽出し、かつ、位相は検知用マイクで検知したd(n)のままで他車両音を抽出することにより、y(n)を算出する。なお、上記式で示すように、フィルタ係数を誤差をもとに逐次的に補正する。
【0084】
図8Bは、実際の他車両音を参照用マイク103で検知した音のスペクトログラムを示す図である。横軸を時間、縦軸を周波数とする。色の濃度は周波数信号のパワーの大きさを示しており、色の濃い部分はパワーが大きい部分を示している。他車両は一定の速度で走行している。このスペクトログラムより、所定の周波数に一定のパワーを有することが分かる。また、他車両音は倍音構造を有していることが分かる。
【0085】
図8Cは、同様に、実際の他車両音を検知用マイク101又は102で検知した音のスペクトログラムを示している。横軸を時間、縦軸を周波数とする。色の濃度は周波数信号のパワーの大きさを示しており、色の濃い部分はパワーが大きい部分を示している。図8Bに示したスペクトログラムと同様に、他車両は一定の速度で走行している。しかし、この音には風雑音などの雑音が多く混入し、周波数全体に所定のパワーを有していることが分かる。このスペクトログラムからではどの時間のどの周波数が他車両音であるかを見分けることが困難であることが分かる。これは他車両音が風雑音等に埋れてしまっているからである。
【0086】
図8Dは、他車両音強調フィルタ部104又は105を通過した後の音信号のスペクトログラムを示している。横軸を時間、縦軸を周波数とする。色の濃度は周波数信号のパワーの大きさを示しており、色の濃い部分はパワーが大きい部分を示している。最初の数ms秒後に徐々にパワーが大きい部分が現れ、図8Bに示したスペクトログラムと同様に、所定の周波数に一定のパワーを有することが分かる。また、他車両音強調フィルタ部104又は105を通過した後の音信号は倍音構造を有していることが分かる。これはフィルタの係数の補正が行われ、徐々に相関のある他車両音が強調され抽出されていることを示す。また、位相は検知用マイクにおける位相と同じ値になるように抽出される。これにより、他車両の存在する方向を特定することが可能となる。
【0087】
再度、図1を参照して、他車両音判定部106、107は、他車両音強調フィルタ部104、105にそれぞれ接続され、各々が、接続された他車両音強調フィルタ部で抽出された音から、当該音に含まれる他車両音を判定する。つまり、他車両音判定部106、107は、他車両音強調フィルタ部104、105をそれぞれ通過した音信号の周波数分析を行い、位相の時間変化を考慮することで他車両音を時間、周波数ごとに判定する手段である。
【0088】
図9は、他車両音判定部106、107の構成を示すブロック図である。他車両音判定部106、107はそれぞれ、DFT分析部201、位相補正部202(j)(j=1〜M)、位相近似曲線算出部203(j)(j=1〜M)、車両音判定部204(j)(j=1〜M)を含む。
【0089】
DFT分析部201は、他車両音強調フィルタ部104又は105を通過した音信号に対してフーリエ変換処理を施し、その音の周波数信号を求める。なお、DFT分析部201が行うフーリエ変換処理は、高速フーリエ変換、離散コサイン変換、又はウェーブレット変換などの別の周波数変換方法による周波数変換でも良い。DFT分析部201により求められた周波数信号は、M個の周波数帯域を有する。このM個の周波数帯域を指定する番号を記号j(j=1〜M)で表す。
【0090】
位相補正部202(j)(j=1〜M)は、DFT分析部201が求めた周波数帯域jの周波数信号に対して、時刻tの周波数信号の位相をψ(t)(ラジアン)とするときに、ψ´(t)=mod2π(ψ(t)−2πft)(fは分析周波数)に位相を補正する処理部である。図10は位相の補正処理を説明するための図である。
【0091】
図10(a)には、取得したエンジン音(他車両音)の例が模式的に示されている。横軸は時間を表しており、縦軸は振幅を表している。
【0092】
また、図10(b)には、フーリエ変換を用いて周波数分析を行う場合の基底波形である周波数fの正弦波(ここではエンジン音の周波数と同じ値を所定の周波数fとしている)が示されている。横軸と縦軸は図10(a)と同じである。この基底波形と取得した音との畳み込み処理を行うことで周波数信号(位相)を求める。この例では、基底波形を時間軸方向に移動させながら、取得したエンジン音と畳み込み処理を行うことで、時刻ごとの周波数信号(位相)を求めている。
【0093】
この処理で求めた結果を図10(c)に示す。横軸は時間を表しており、縦軸は位相を表している。取得したエンジン音は周波数fであるため、周波数fでの位相のパターンは、1/fの時刻の周期で規則的に繰り返されることとなる。そこで算出された位相ψ(t)から規則的に繰り返される位相を補正(ψ´(t)=mod2π(ψ(t)−2πft)(fは分析周波数))すること図10(d)に示すような位相が得られる。
【0094】
図10に示すように、一般的に周波数分析は正弦波や、ウェーブレット変換の場合のマザー関数など、基底波形をずらしながら、畳み込み演算を行うことで振幅と位相を算出する。すなわち、一般的に位相とは基底波形に対してどれくらい回転しているか(位相)をいう。そこで、上記演算によってこの回転分を減算し、位相を補正することで、位相の時間に伴う変化を算出することが可能となる。以下、減算後の位相を補正後の位相と定義する。
【0095】
なお、基底波形をずらさずに畳み込み演算を行う場合、算出された位相は、既に時間に伴う変化を考慮した値となっているので上記補正は不要であり、位相補正部202(j)(j=1〜M)を介さなくてもよい。算出された位相がそのまま補正後の位相の値となっている。このため、このような位相の算出方法を行うのであれば、位相補正部202(j)(j=1〜M)は不要である。
【0096】
図11は、基底波形をずらさずに畳み込み演算を行うことにより求められる位相を説明するための図である。
【0097】
図11(a)には、取得したエンジン音(他車両音)の例が模式的に示されている。横軸は時間を表しており、縦軸は振幅を表している。ここではエンジンの回転数が時刻に対して一定であり、エンジン音の周波数が変化しない場合の例が示されている。
【0098】
また、図11(b)には、フーリエ変換を用いて周波数分析を行う場合の基底波形である周波数fの正弦波(ここではエンジン音の周波数と同じ値を所定の周波数fとしている)が示されている。横軸と縦軸は図11(a)と同じである。この基底波形と取得した音との畳み込み処理を行うことで周波数信号(位相)を求める。この例では、基底波形を時間軸方向に移動させずに固定し、取得したエンジン音と畳み込み処理を行うことで、時刻ごとの周波数信号(位相)を求めている。
【0099】
この処理で求めた結果を図11(c)に示す。横軸は時間を表しており、縦軸は位相を表している。この例では、エンジンの回転数が時刻に対して一定であり、取得したエンジン音の周波数が時刻に対して一定である。
【0100】
図11のように基底波形をずらさず、そのまま畳み込みを行い位相を算出する場合、算出された位相は、既に時間に伴う変化を考慮した値となっている。このため、正弦波等の周期音の場合、位相は一定の値となる。そこで、このような方法を用いて位相を算出する場合には、位相近似曲線算出部203(j)(j=1〜M)は、DFT分析部201より出力された周波数信号の位相をそのまま利用する。
【0101】
位相近似曲線算出部203(j)(j=1〜M)は、所定の時間幅における補正後の位相から、位相の時間変化を近似する直線や近似曲線を算出する手段である。例えば、位相近似曲線算出部203(j)(j=1〜M)は、最小二乗法や全体最小二乗法等により回帰曲線を算出し、算出した回帰曲線を位相の近似曲線とする。
【0102】
図12は、位相の近似曲線の算出方法を説明するための図である。本実施の形態において他車両音の判定は所定範囲の周波数と所定の時間幅ごとに判定することとする。例えば周波数は10Hz間隔、時間区間は192ms間隔とする。図12(a)及び図12(b)は、周波数100Hzで分析した時間幅192msにおける、周波数信号の補正後の位相ψ´(t)を模式的に示した図である。横軸は時間tである。縦軸は位相補正された位相ψ´(t)である。黒丸印や白丸印は時刻ごとの補正後の位相を示す。まず、複数の時刻の位相ψ´(t)を用いて回帰曲線を算出する。太い破線は算出された回帰曲線である。
【0103】
各点をもとに回帰曲線が算出されていることが分かる。細い破線は誤差の閾値(例えば2π×20/360°とする)である。
【0104】
車両音判定部204(j)(j=1〜M)は、算出された近似曲線と、補正後の位相との誤差をもとに車両音の判定を行う手段である。車両音判定部204(j)(j=1〜M)は、時刻ごとの位相と、対応する時刻の回帰曲線との誤差を算出する。そして誤差が閾値(2π×20/360°)未満である時刻の割合が、所定の割合閾値以上(例えば80%以上)の場合は、他車両音判定部106又は107に入力された音が他車両音と判定する。
【0105】
図12(a)において、黒丸印で示す時刻の位相は、回帰曲線からの誤差が閾値未満であることが分かる。一方、図12(b)において、黒丸印で示す時刻の位相は、回帰曲線からの誤差が閾値以上であることが分かる。ここで、例えば閾値未満の割合が80%以上の場合、当該区間は他車両音部分であると判定することとなる。図12の場合、80%以上の時刻の位相が、曲線との誤差の閾値内に収まっているため、他車両音であると判定されることとなる。
【0106】
これらの処理を、所定の時間幅の時刻を移動させながら行うことにより、時間‐周波数領域ごとに車両音の判定を行うことができる。
【0107】
図13は、他車両音判定処理を説明するための図である。
【0108】
図13(a)は、他車両音判定部106又は107に入力される音のスペクトログラムである。縦軸を周波数、横軸を時間とする。色の濃度は周波数信号のパワーの大きさを示しており、色の濃い部分はパワーが大きい部分を示す。
【0109】
図13(b)〜図13(e)にそれぞれ示すグラフは、横軸が時間、縦軸が位相を示す。白い丸印は実際の分析された周波数信号であり、太い破線は算出された近似曲線、細い破線は閾値である。
【0110】
図13(b)は、エンジンの回転数が下がっているときの音を周波数分析し、補正後の位相を示したグラフである。当該区間の周波数信号の位相はほぼ回帰曲線の閾値以内に収まっていることが分かる。
【0111】
図13(c)は、エンジンの回転数が上がっているときの音を周波数分析し、補正後の位相を示したグラフである。当該区間の周波数信号の位相はほぼ回帰曲線の閾値以内に収まっていることが分かる。
【0112】
図13(d)は、エンジンの回転数が一定のときの音を周波数分析し、補正後の位相を示したグラフである。当該区間の周波数信号の位相はほぼ回帰曲線の閾値以内に収まっていることが分かる。
【0113】
一方、図13(e)は、車両音以外の部分の補正後の位相を示したグラフである。雑音は位相がばらばらであるため、二次の近似曲線を算出したとしても、その曲線からの誤差が大きく、閾値以内である信号部分はほとんどないことが分かる。
【0114】
このように、算出された曲線と曲線からの誤差をもとに精度良く他車両音部分を判定することが可能となる。
【0115】
図14は他車両音の判定結果を説明するための図である。横軸は時間であり、縦軸は周波数である。図14(a)は、他車両音強調フィルタ部104又は105を通過した後の音信号を周波数分析したスペクトログラムである。色の濃さはパワーの大きさを表しており、濃いほどパワーが大きいことを示している。図14(b)は他車両音判定部106又は107で他車両音を判定した結果を示すグラフである。黒い部分が他車両音として判定された部分である。これにより、適切に他車両音が判定できていることが分かる。
【0116】
なお、他車両音の抽出は、これに限られるものではない。つまり、必ずしも回帰曲線を求めるのではなく、回帰直線を算出し、直線からの誤差が所定の値より大きい場合は雑音、所定の値未満の場合は車両音としてもよい。これにより、計算量の削減になる。
【0117】
さらに簡易的な方法として、所定区間の位相の平均と分散を求め、分散が所定の値より大きい場合は雑音、所定の値未満の場合は車両音としてもよい。この方法によると、回帰線を算出する必要がないので計算量の削減になる。
【0118】
また、他車両音強調フィルタ部104、105で抽出された音を、それぞれ他車両音判定部106、107に入力するのではなく、一方の音を一方の他車両音判定部のみに入力して他車両音部分を判定することとしてもよい。一方の検知用マイクから入力された音のうち他車両音部分と判定された部分は、他方の検知用マイクから入力された音においても他車両音部分と考えることができるからである。
【0119】
さらには、当該他車両音判定部106、107を介さず、他車両音強調フィルタ部104、105で抽出された音をそのまま他車両方向特定部108で用いることとしてよい。他車両音強調フィルタ部104、105で抽出された音は、前述のように他車両音のみが抽出されている可能性が高い。したがって、さらに他車両音判定部106、107を介さず、例えば所定のパワーの閾値以上の部分はそのまま用いて方向を特定することも可能だからである。
【0120】
再度、図1を参照して、他車両方向特定部108は、音の到達時間差をもとに他車両の存在する方向を特定する手段である。図15は、他車両の存在する方向の特定方法を説明するための図である。図15に示すように、自車両41のバンパーに検知用マイク101、102が設置されている。当該マイクに車両音が到達したとき、自車両41の進行方向に対する他車両151の存在する方向によって音の到達する時間に差が生じる。マイクの間隔をd(m)とする。他車両151が自車両41の進行方向に対して方向θ(ラジアン)から検出されるとする。マイク間での到達時間差をΔt(s)とし、音速をc(m/s)とすると、方向θ(ラジアン)は以下の式で表すことができる。
【0121】
【数6】

【0122】
図16A〜図16Dは、他車両の存在する方向を特定した結果を説明するための図である。図16Aは、図14(b)と同様、他車両音部分と判定された部分を黒い塗りつぶしで示している。各区間において、他車両が存在する方向が算出されている。例えば区間1071は自車両に対して左60度(右をプラス、左をマイナスとすると−60度となる)と算出されている。区間1072は自車両に対して左50度(−50度)と算出されている。このように各区間において方向が特定される。そして所定時間幅(例えば1秒)ごとに頻度を算出し、存在する方向が多い方向を他車両が存在する方向として特定する。図16Bは0秒から1秒の間の方向の頻度分布を示す図である。頻度は左60度が最も高く、よってこの時間幅では左60度方向に他車両が存在すると特定することとなる。図16Cは1秒から2秒の間の方向の頻度分布を示す図である。頻度は中央0度が最も高く、よってこの時間幅では0度方向に他車両が存在すると特定することとなる。図16Dは2秒から3秒の間の方向の頻度分布を示す図である。頻度は右60度が最も高く、よってこの時間幅では右60度方向に他車両が存在すると特定することとなる。すなわち、左から右へ他車両が移動したことが分かる。なお、他車両方向の特定方法はこれに限られるものではない。周波数ごとに頻度分布を算出し、他車両の存在する方向を特定しても良い。複数の他車両が混在する場合、車両ごとに周波数が異なり、周波数ごとに分布を算出することで複数台の他車両の存在する方向を特定することが可能となる。
【0123】
次に、以上のように構成された車両方向特定装置190の動作について説明する。
【0124】
図17、図18、図19は車両方向特定装置190の動作を示すフローチャートである。
【0125】
図17を参照して、検知用マイク101、102において他車両音を検知する(ステップS101)。検知用マイクは、図3A〜図3Fに示すように他車両音が直接的に検知できる位置に設置してあるため、風雑音などの雑音も混入してしまう。したがって、他車両音と雑音の混合音を検知することとなる。
【0126】
次に参照用マイク103で他車両音を検知する(ステップS102)。なお、参照用マイク103は、図7A〜図7Dに示すように雑音が混入しにくい位置に設置してあるため、回折や共振の影響を受けるが、雑音の混入は抑制することが可能となる。
【0127】
次に他車両音強調フィルタ部104、105において、他車両音を強調して抽出する(ステップS103)。
【0128】
図18は、図17のステップS103の詳細な動作フローチャートである。他車両音強調フィルタ部104、105は、検知用マイク101、102で検知された混合音をそれぞれ入力する(ステップS201)。なお、タップ数分のデータを一時的に蓄積することなる。他車両音強調フィルタ部104、105は、参照用マイク103で検知された他車両音を入力する(ステップS202)。他車両音強調フィルタ部104、105は、車両音x(n)にフィルタ係数Wを乗算して、抽出音y(n)を算出する(ステップS203)。その結果、両マイクで相関がある他車両音が強調して算出されることとなる。そして、他車両音強調フィルタ部104、105は、抽出音y(n)を出力する(ステップS204)。出力後は、ステップS104へと戻る。一方、適宜フィルタ係数を補正するために、他車両音強調フィルタ部104、105は、誤差e(n)を算出する(ステップS205)。他車両音強調フィルタ部104、105は、誤差e(n)をもとにフィルタ係数Wを補正する(ステップS206)。ステップS201に戻り、他車両音強調フィルタ部104、105は、補正したフィルタ係数Wで逐次的に他車両音を抽出することとなる。
【0129】
再度、図17を参照して、他車両音判定部106、107は、抽出された音y(n)を用いて他車両音部分の判定を行う(ステップS104)。図19は、図17のステップS104の詳細な動作フローチャートである。DFT分析部201で入力音を周波数分析する(ステップS301)。位相補正部202(j)(j=1〜M)において位相補正を行う(ステップS302(j))。位相近似曲線算出部203(j)において位相の回帰曲線を算出する(ステップS303(j))。車両音判定部204(j)で回帰曲線からの誤差を算出する(ステップS304(j))。車両音判定部204(j)は、所定の区間における誤差が所定の閾値未満の割合が所定の割合閾値以上の場合に、その区間の音は車両音と判定する(ステップS305(j))。
【0130】
再度、図17を参照して、他車両方向特定部108は、車両音と判定された区間及び周波数における他車両音を用いて、他車両の存在する方向を特定する(ステップS105)。図20は、図17のステップS105の詳細な動作フローチャートである。他車両方向特定部108は、他車両音判定部106、107で他車両が存在するとされた時間及び周波数(分析区間)の音を入力する(ステップS401)。他車両方向特定部108は、分析区間ごとの到達時間差を算出する(ステップS402)。他車両方向特定部108は、分析区間ごとに他車両の存在する方向を特定する(ステップS403)。他車両方向特定部108は、所定時間幅ごとに方向を算出し(ステップS404)、所定時間幅ごとに頻度が最も高くなる方向を他車両が存在する方向と特定する(ステップS405)。
【0131】
(最小構成図)
なお、前述の通り、他車両音判定部106、107は、所定の時間と周波数ごとに他車両音である部分を精度良く判定することが可能となる。特に、検知用マイク101、102と、参照用マイク103に雑音が混入し、かつ、両マイクの雑音にも相関がある場合、雑音も抽出される可能性が生じるが、他車両音判定部106、107を介することで、さらに精度よく、他車両音部分を判定する事が可能となる。また、所定の時間と周波数ごとに分析できるため、複数台車両が存在する場合には車両ごとに存在する方向を特定することが可能となる。
【0132】
しかし、状況や車両方向特定装置の使い方によっては、必ずしも他車両音判定部106、107を介する必要はない。例えば、参照用マイク103における雑音の混入が少ない場合、他車両音強調フィルタ部104、105を通過後の音信号は、ほぼ他車両音のみが抽出されることとなる。したがって他車両音強調フィルタ部104、105を通過後の音信号をそのまま用いることも可能である。また、他車両が多数存在しない場合や、複数台のそれぞれの方向を特定する必要が必ずしもない場合もある。例えば複数台が同一方向から接近してくる場合、それらを分けて方向を提示する必要はなく、車両がある方向から接近してくるという情報のみをユーザに通知することで、安全走行支援にもつながる。また、前述の通り、周波数ごとの音の到達時間差を用いるのではなく、音圧の差で他車両の存在する方向を特定することも可能である。
【0133】
したがって、本発明を実施するための最小構成要素は以下となる。
【0134】
図21は、本発明を実施するための車両方向特定装置191の最小構成を示す図である。図21において、車両方向特定装置191は、検知用マイク101、102と、参照用マイク103と、他車両音強調フィルタ部104、105と、他車両方向特定部108とを含む。他車両音強調フィルタ部104、105を通過後の音信号を用い、他車両方向特定部108において他車両音の存在する方向を特定することとなる。なお、検知用マイク101及び102、並びに参照用マイク103は必ずしも必要はなく、車両方向特定装置191の外部に設けられていても良い。
【0135】
以上説明したように、本発明の実施の形態1によると、複数の検知用マイクは、雑音の影響はあるものの、音の反射や回折、残響などの影響を受けていない混合音を取得する。一方、参照用マイクは、音の反射や回折、残響などの影響を受けているが、雑音の少ない他車両音を取得する。また、他車両音強調フィルタ部においては、いわゆる適応フィルタ処理により、検知用マイクで取得された混合音と参照用マイクで取得された他車両音とから、音の反射や回折、残響などの影響を受けておらず、かつ雑音の少ない音が抽出される。このため、車両が走行することにより発生する風切り音などの雑音によって、車両音が埋れてしまう状況下でも、車両音を抽出することで車両の存在する方向を特定することができる。
【0136】
他車両音は主にエンジン音からなるため周期性を有する音である。このため、他車両が等速走行をしている場合には、他車両音の周波数が一定となるため位相も一定となる。また、他車両が加減速を行っている場合には、他車両音の周波数が時間とともに変化するため位相も時間とともに変化する。実施の形態1では、このような位相の時間変化を位相曲線として表し、位相曲線との誤差を判定することにより、周期音である他車両音と非周期音である雑音とを区別して方向を判定することができる。
【0137】
(実施の形態1の変形例1)
なお、実施の形態1に示した車両方向特定装置の構成において、検知用マイク101、102、及び参照用マイク103の出力を帯域通過フィルタを通過させるように構成してもよい。図22は、実施の形態1の変形例1に係る車両方向特定装置の構成を示すブロック図である。
【0138】
車両方向特定装置192は、図21に示した車両方向特定装置191の構成要素に加え、帯域通過フィルタ部109、110、111が新たに加えてられている。帯域通過フィルタ部109、110、111は、検知した音から任意の周波数成分のみを通過させるフィルタである。例えば他車両音の検知に用いられない数千Hz以上の音をカットすることで、後の他車両音強調フィルタ部104、105における学習をより高速に収束させることが可能となる。また、使い方や状況によって、他車両音の検知に用いられる周波数帯域を変更することも可能となる。
【0139】
他車両音は、例えばエンジン音の基本周波数の音からその倍音や、走行に伴う音等、車両から発せられる音は周波数上広範囲に渡る。例えば20Hzから数百Hz等の低い周波数の音は、回折の影響が大きく、他車両が遮蔽の陰に隠れている場合や、遠くにいる場合でも検知することができる場合がある。一方、数百Hzから千数百Hzなどの音を用いることによって、より精度良く方向を特定することができる場合もある。これらを状況や使い方に応じ、予め用いる周波数帯域を設定したり、あるいは動的に変更することとしてもよい。
【0140】
この構成によると、例えば他車両音の検知に用いられない数千Hz以上の音をカットすることで、フィルタを高速に収束させることが可能となる。また、使い方や状況によって、他車両音の検知に用いられる周波数帯域を変更することも可能となる。
【0141】
なお、車両方向特定装置192は、他車両音判定部106、107を備えないが、他車両音判定部106、107を備える構成であってもよい。この場合には、図1の車両方向特定装置190と同様に、他車両音強調フィルタ部104、105と他車両方向特定部108との間に他車両音判定部106、107が設けられる。
【0142】
(実施の形態1の変形例2)
図23は、実施の形態1の変形例2に係る車両方向特定システムの構成を示すブロック図である。車両方向特定システム2000は、3つの車両方向特定装置192と、方向特定部221とを含む。
【0143】
車両方向特定装置192は、実施の形態1の変形例1で示したものと同様の構成を有する。ただし、3つの車両方向特定装置192間で、帯域通過フィルタ部が通過させる周波数帯域が異なる。例えば、1つ目の車両方向特定装置192の帯域通過フィルタ部109、110、111は、0〜100Hzの周波数帯域の音を通過させる。2つ目の車両方向特定装置192の帯域通過フィルタ部109、110、111は、50〜400Hzの周波数帯域の音を通過させる。3つめの車両方向特定装置192の帯域通過フィルタ部109、110、111は、700〜1200Hzの周波数帯域の音を通過させる。
【0144】
方向特定部221は、3つの車両方向特定装置192で求められた他車両音の方向からそれらの他車両音の方向を代表する方向を算出する。例えば、方向特定部221は、3つの方向の平均値を代表方向として算出しても良いし、3つの方向の最頻値を代表方向として算出しても良い。
【0145】
0〜100Hzの周波数帯域には主にエンジン音の基本周波数成分と2倍の倍音とが含まれる。150〜400Hzの周波数帯域には主にエンジン音の3倍以上の倍音が含まれる。700〜1200Hzの周波数帯域にはエンジン音以外の音が含まれる。このため、このように所定の周波数帯域を設定することにより、周波数の異なる車両が複数存在する場合にも、車両が存在する方向を特定することができる。また、エンジン音以外の音からも車両が存在する方向を特定することが可能となる。
【0146】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る車両方向特定装置について説明する。
【0147】
図24は、本発明の実施の形態2に係る車両方向特定装置の構成を示すブロック図である。
【0148】
車両方向特定装置193は、検知用マイク101、102と、参照用マイク103と、他車両音強調フィルタ部104、105と、雑音判定部112と、フィルタ動作切替部113と、他車両方向特定部108とを含む。実施の形態1と同様の構成要素には同じ符号を付与し、説明を省略する。
【0149】
雑音判定部112は、参照用マイク103が取得した音の周波数分析を行い、位相の時間変化を考慮することで雑音を時間、周波数ごとに判定する手段である。
【0150】
図25は、雑音判定部112の構成を示すブロック図である。雑音判定部123は、DFT分析部301、位相補正部302(j)(j=1〜M)、位相近似曲線算出部303(j)、判定部304(j)で構成される。
【0151】
DFT分析部301は、入力された音に対してフーリエ変換処理等を施し、入力された音の周波数信号を求める。なお、DFT分析部301が行うフーリエ変換処理は、高速フーリエ変換、離散コサイン変換、又はウェーブレット変換などの別の周波数変換方法による周波数変換でも良い。DFT分析部301により求められた周波数信号は、M個の周波数帯域を有する。このM個の周波数帯域を指定する番号を記号j(j=1〜M)で表す。
【0152】
位相補正部302(j)(j=1〜M)は、DFT分析部301が求めた周波数帯域jの周波数信号に対して、時刻tの周波数信号の位相をψ(t)(ラジアン)とするときに、ψ´(t)=mod2π(ψ(t)−2πft)(fは分析周波数)に位相を補正する処理部である。位相の補正方法については、実施の形態1に示した位相補正部202(j)(j=1〜M)と同様である。このため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0153】
位相近似曲線算出部303(j)(j=1〜M)は、所定の時間幅における補正後の位相から、位相の時間変化を近似する直線や近似曲線を算出する手段である。例えば、位相近似曲線算出部303(j)(j=1〜M)は、最小二乗法や全体最小二乗法等により回帰曲線を算出し、算出した回帰直線を位相の近似曲線とする。位相の近似曲線の算出方法については実施の形態1に示した位相近似曲線算出部203(j)(j=1〜M)と同様である。このため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0154】
判定部304(j)(j=1〜M)は、算出された近似曲線と、補正後の位相との誤差をもとに雑音の判定を行う手段である。判定部304(j)(j=1〜M)は時刻ごとの位相と、対応する時刻の回帰曲線との誤差を算出する。
【0155】
実施の形態1の車両音判定部204(j)では、近似曲線との誤差を元に他車両音部分を判定していた。具体的には誤差が閾値(2π×20/360°)未満である時刻の割合が、所定の割合閾値以上(例えば80%以上)の場合は他車両音と判定していた。これは、車両から発せられるエンジン音などの周期音は、一定の位相変化を示すこととなり、近似曲線からの誤差が小さくなるため、所定の閾値(例えば2π×20/360°)とすることで精度良く車両音部分を判定することができるからである。
【0156】
一方、風雑音などの雑音は瞬間的な突発的な音の集まりであり、位相がばらばらとなる。そこで所定の閾値を設け、誤差が閾値以上である部分は雑音と判定することで、雑音部分を判定することが可能となる。具体的には、判定部304(j)(j=1〜M)は、誤差が閾値(例えば2π×20/360°)以上である時刻の割合が、所定の割合閾値以上(例えば80%以上)の場合は雑音と判定する。
【0157】
図26は、判定部304(j)(j=1〜M)による雑音判定処理を説明するための図である。図26(a)は、風速最大6m毎秒のときの音を集音した実際の音を周波数分析したスペクトログラムである。縦軸を周波数、横軸を時間としている。図26(b)は所定の時間及び所定の周波数の風雑音などの雑音部分を周波数分析し、補正後の位相を示したグラフである。図26(b)では横軸が時間、縦軸が位相を示す。白い丸印は実際の分析された周波数信号であり、太い破線は算出された近似曲線、細い破線は閾値である。雑音は位相がばらばらであるため、二次の近似曲線を算出したとしても、その曲線からの誤差が大きく、閾値以内である信号部分はほとんどないことが分かる。上記閾値より当該部分は雑音と判定される。図26(c)は、同様に周波数ごと及び時間区間ごとに判定した図である。黒く塗りつぶした部分は風雑音と判定された部分を示している。
【0158】
このように、算出された曲線と曲線からの誤差をもとに精度良く雑音部分を判定することが可能となる。
【0159】
フィルタ動作切替部113は、雑音判定部112における雑音の度合いに応じてフィルタ動作を切り替える手段である。例えば所定の割合閾値(30%等)を設け、雑音が割合閾値未満の場合、他車両音強調フィルタ部104、105において他車両音を抽出させ、割合閾値以上の場合は他車両音の抽出を抑制させる(停止させる)。前述の通り、他車両音強調フィルタ部104、105は、参照用マイク103が取得した他車両音をもとに、検知用マイク101、102が取得した混合音から他車両音を抽出する。しかしながら、参照用マイク103に雑音が混入した場合、精度良く他車両音を抽出することが困難となる。したがって、雑音判定部112における判定された雑音の度合いに応じてフィルタ制御を切り替えることで効率良く他車両音の抽出が可能となる。
【0160】
次に、以上のように構成された車両方向特定装置193の動作について説明する。
【0161】
図27、図28は本発明の動作のフローチャートである。前記実施の形態1と同様の動作については同じ符号を付与する。
【0162】
検知用マイク101、102において他車両音を検知する(ステップS101)。検知用マイクは、図3A〜図3Fに示すように他車両音が直接的に検知できる位置に設置してあるため、風雑音などの雑音も混入してしまう。したがって、他車両音と雑音の混合音を検知することとなる。
【0163】
次に参照用マイク103で他車両音を検知する(ステップS102)。なお、参照用マイク103は、図7に示すように雑音が混入しにくい位置に設置してあるため、回折や共振の影響を受けるが、雑音の混入は抑制することが可能となる。
【0164】
次に雑音判定部112において雑音を判定する(ステップS501)。図28は、ステップS501の詳細の動作フローチャートである。DFT分析部301で入力音を周波数分析する(ステップS601)。位相補正部302(j)(j=1〜M)において位相補正を行う(ステップS602(j))。位相近似曲線算出部303(j)において位相の回帰曲線を算出する(ステップS603(j))。判定部304(j)で回帰曲線からの誤差を算出する(ステップS604(j))。判定部304(j)は、誤差が所定の閾値以上か否かを判定し、閾値以上の場合、雑音として判定する(ステップS605(j))。
【0165】
再度、図27を参照して、フィルタ動作切替部113は、所定の区間における雑音の割合が所定の割合閾値未満か否かの判定を行う(ステップS502)。雑音の割合が割合閾値(30%)未満の場合(ステップS502でYES)、他車両音を抽出するために、ステップS103へ進む。
【0166】
雑音の割合が割合閾値(30%)以上の場合は(ステップS502でNO)、例えばフィルタ制御を行わず、終了することとなる。
【0167】
他車両音強調フィルタ部104、105において、他車両音を強調して抽出する(ステップS103)。そして他車両の存在する方向を特定することとなる(ステップS105)。
【0168】
以上説明したように、実施の形態2によると、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
【0169】
また、他車両音は主にエンジン音からなるため周期性を有する音である。このため、他車両が等速走行をしている場合には、他車両音の周波数が一定となるため位相も一定となる。また、他車両が加減速を行っている場合には、他車両音の周波数が時間とともに変化するため位相も時間とともに変化する。このような位相の時間変化を位相曲線として表し、位相曲線との誤差を閾値判定することにより、周期音である他車両音と非周期音である雑音とを区別して判定することができる。また、フィルタ動作切替部では雑音が含まれない場合にのみ複数の他車両音強調フィルタ部を動作させるようにしているため、他車両が存在しないにも関わらず、誤って他車両が存在する方向を特定してしまうことを防ぐことができる。
【0170】
なお、図5Dに示すようにシート43に参照用マイク103を設置することにより、人の乗降時の音を雑音と判断することができる。また、図5Eに示すようにダッシュボードに参照用マイク103を設置することにより、ダッシュボードの開閉音を雑音と判断することができる。
【0171】
(実施の形態2の変形例)
実施の形態2では、車両方向特定装置193に雑音判定部112を設け、フィルタ動作切替部113は、雑音が含まれる音については、他車両音強調フィルタ部104、105を動作させないようにした。実施の形態2の変形例では、雑音判定部112の代わりに話し声判定部を設け、話し声が含まれる音については、他車両音強調フィルタ部104、105を動作させないようにする。
【0172】
図29は、実施の形態2の変形例に係る車両方向特定装置の構成を示すブロック図である。
【0173】
車両方向特定装置194は、図24に示した車両方向特定装置193の構成において、雑音判定部112の代わりに話し声判定部412を設けたものである。ただし、話し声判定部412が実行する処理は雑音判定部112と同様である。つまり、話し声判定部412は、図25に示した雑音判定部112と同様の構成を有する。実施の形態2の判定部304(j)(j=1〜M)は、誤差が閾値(例えば2π×20/360°)以上である時刻の割合が、所定の割合閾値以上(例えば80%以上)の場合は雑音と判定する。これに対して、実施の形態2の変形例の判定部304(j)(j=1〜M)は、誤差が閾値(例えば2π×20/360°)以上である時刻の割合が、所定の割合閾値以上(例えば80%以上)の場合は話し声と判定する。
【0174】
他車両音は主にエンジン音からなるため周期性を有する音である。このため、他車両が等速走行をしている場合には、他車両音の周波数が一定となるため位相も一定となる。また、他車両が加減速を行っている場合には、他車両音の周波数が時間とともに変化するため位相も時間とともに変化する。一方、話し声も周期性を有する音ではあるが、声帯等の振動により、その周波数は短い時間間隔で変動し、その分散も大きい。このため、位相も時間とともに急激に変化し、分散も大きく、話し声の位相の時間変化を近似曲線で近似するのが困難である。このため、位相の時間変化を位相曲線として表し、位相曲線との誤差を閾値判定した場合に、他車両音は所定の閾値未満となるが、話し声は所定の閾値以上となる。そのため、他車両音と話し声とを区別して判定することができる。また、フィルタ動作切替部では話し声が含まれない場合にのみ複数の他車両音強調フィルタ部を動作させるようにしているため、他車両が存在しないにも関わらず、誤って他車両が存在する方向を特定してしまうことを防ぐことができる。
【0175】
なお、図5Fに示すようにハンドル44に参照用マイク103を設置することにより、人の話し声を判断することができる。
【0176】
以上、本発明の実施の形態に係る車両方向特定装置及び車両方向特定方法について説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0177】
例えば、上述の実施の形態及び変形例では、検知用マイクの数を2つとし、参照用マイクの数を1つとしたが、この数に限定されるものではない。つまり、検知用マイクは2つ以上あればよく、参照用マイクは少なくとも1つあればよい。
【0178】
検知用マイクが3つ以上ある場合には、そのうちの2つの検知用マイクを用いて、到達時間差又は音圧差から他車両が存在する方向を検知するようにしてもよい。なお、2つの検知用マイクの組合せが複数ある場合には、各組合せから得られる方向をそのまま他車両が存在する方向としても良いし、各組合せから得られる方向の平均値又は最頻値を他車両が存在する方向としても良い。また、全ての組み合わせについて方向を特定する必要はなく、所定の組み合わせについてのみ方向を特定しても良い。
【0179】
参照用マイクが複数ある場合には、そのうちの1つの参照用マイクで取得された音を用いて、他車両が存在する方向を特定するための処理を行なうようにしても良い。例えば、複数の参照用マイクで取得された音のうち、最も雑音が小さい音を用いるようにしても良い。
【0180】
また、上記の各装置は、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクドライブ、ディスプレイユニット、キーボード、マウスなどから構成されるコンピュータシステムとして構成されても良い。RAM又はハードディスクドライブには、コンピュータプログラムが記憶されている。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムに従って動作することにより、各装置は、その機能を達成する。ここでコンピュータプログラムは、所定の機能を達成するために、コンピュータに対する指令を示す命令コードが複数個組み合わされて構成されたものである。
【0181】
さらに、上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしても良い。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。RAMには、コンピュータプログラムが記憶されている。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムに従って動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0182】
さらにまた、上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、各装置に脱着可能なICカード又は単体のモジュールから構成されているとしても良い。ICカード又はモジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。ICカード又はモジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしても良い。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムに従って動作することにより、ICカード又はモジュールは、その機能を達成する。このICカード又はこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしても良い。
【0183】
また、本発明は、上記に示す方法であるとしても良い。また、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしても良いし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしても良い。
【0184】
さらに、本発明は、上記コンピュータプログラム又は上記デジタル信号をコンピュータ読み取り可能な不揮発性の記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu-ray Disc(登録商標))、半導体メモリなどに記録したものとしても良い。また、これらの不揮発性の記録媒体に記録されている上記デジタル信号であるとしても良い。
【0185】
また、本発明は、上記コンピュータプログラム又は上記デジタル信号を、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしても良い。
【0186】
また、本発明は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、上記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、上記マイクロプロセッサは、上記コンピュータプログラムに従って動作するとしても良い。
【0187】
また、上記プログラム又は上記デジタル信号を上記不揮発性の記録媒体に記録して移送することにより、又は上記プログラム又は上記デジタル信号を上記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしても良い。
【0188】
さらに、上記実施の形態及び上記変形例をそれぞれ組み合わせるとしても良い。
【0189】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明は、車両音によって車両が存在する方向を特定する車両方向特定装置等に関し、特に、車両が走行することにより発生する風切り音などの雑音によって、車両音が埋れてしまう状況下でも、車両音を抽出することで車両の存在する方向を特定する車両方向特定装置に関する発明であり、カーナビや、モバイル端末、車々間通信システム等、車両の存在を知らせる安全支援システムに適応することが可能である。
【符号の説明】
【0191】
101、102 検知用マイク
103 参照用マイク
104、105 他車両音強調フィルタ部
106、107 他車両音判定部
108 他車両方向特定部
109、110、111 帯域通過フィルタ部
112 雑音判定部
113 フィルタ動作切替部
190、191、192、193 車両方向特定装置
201、301 DFT分析部
202(j)(j=1〜M)、302(j)(j=1〜M) 位相補正部
203(j)(j=1〜M)、303(j)(j=1〜M)、 位相近似曲線算出部
204(j)(j=1〜M) 車両音判定部
304(j)(j=1〜M) 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周辺に存在する他車両の車両音である他車両音から、前記他車両が存在する方向を特定する車両方向特定装置であって、
他車両音と雑音との混合音を取得する複数の検知用マイクと、
前記複数の検知用マイクの各々で取得される風雑音よりも低い音圧の風雑音が取得される位置に設置され、他車両音を取得する参照用マイクと、
前記複数の検知用マイクにそれぞれ接続され、各々が、接続された検知用マイクで取得された前記混合音と、前記参照用マイクで取得された前記他車両音のフィルタ通過後の音信号との差が最小になるように前記フィルタを生成しながら、前記参照用マイクで取得された前記他車両音のフィルタ通過後の音信号を算出することにより、前記検知用マイクで取得された前記他車両音が強調された音を抽出する複数の他車両音強調フィルタ部と、
前記複数の他車両音強調フィルタ部で抽出された音の到達時間差又は音圧差から、前記自車両の進行方向に対する前記他車両が存在する方向を特定する他車両方向特定部と
を備える車両方向特定装置。
【請求項2】
前記複数の検知用マイクは、前記自車両の前方から見て遮蔽のない位置に取り付けられている
請求項1記載の車両方向特定装置。
【請求項3】
前記参照用マイクは、前記自車両の前方から見て遮蔽される位置に取り付けられている
請求項1又は2記載の車両方向特定装置。
【請求項4】
前記参照用マイクは、前記自車両の車内に取り付けられている
請求項3記載の車両方向特定装置。
【請求項5】
前記参照用マイクは、前記風雑音及び前記自車両が走行することでタイヤから生じる音が前記複数の検知用マイクの各々で取得される音圧よりも低い音圧で取得される位置に設置されている
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両方向特定装置。
【請求項6】
さらに、
前記複数の検知用マイクで取得された前記混合音のうち、所定の周波数帯域の混合音のみを通過させる複数の第1帯域通過フィルタ部と、
前記参照用マイクで取得された前記他車両音のうち、前記所定の周波数帯域の他車両音のみを通過させる第2帯域通過フィルタ部とを備え、
前記複数の他車両音強調フィルタ部は、前記複数の第1帯域通過フィルタ部にそれぞれ接続され、各々が、接続された第1帯域通過フィルタ部を通過した前記混合音と、前記第2帯域通過フィルタ部を通過した前記他車両音のフィルタ通過後の音信号との差が最小になるように前記フィルタを生成しながら、前記第2帯域通過フィルタ部を通過した前記他車両音のフィルタ通過後の音信号を算出することにより、前記第1帯域通過フィルタ部を通過した前記混合音に含まれる前記他車両音が強調された音を抽出する
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両方向特定装置。
【請求項7】
さらに、
前記複数の他車両音強調フィルタ部にそれぞれ接続され、各々が、接続された他車両音強調フィルタ部で抽出された音から、当該音に含まれる前記他車両音を判定する複数の他車両音判定部を備え、
前記他車両方向特定部は、前記複数の他車両音判定部で判定された複数の前記他車両音の到達時間差又は音圧差から、前記自車両の進行方向に対する前記他車両が存在する方向を特定し、
前記複数の他車両音判定部の各々は、
接続された前記他車両音強調フィルタ部で抽出された音を周波数分析することにより周波数信号を算出する周波数分析部と、
前記周波数分析部が算出した前記周波数信号の位相の時間変化を近似する近似曲線を算出する位相近似曲線算出部と、
前記近似曲線と前記周波数信号の位相との誤差に基づいて、前記他車両音強調フィルタ部で抽出された音が前記他車両音であるか否かを判定する車両音判定部とを有する
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両方向特定装置。
【請求項8】
さらに、
前記参照用マイクで取得された前記他車両音から、前記他車両音に雑音が含まれるか否かを判定する雑音判定部と、
前記雑音判定部において雑音が含まれないと判定された場合にのみ、前記複数の他車両音強調フィルタ部を動作させるフィルタ動作切替部とを備え、
前記雑音判定部は、
前記参照用マイクで取得された前記他車両音を周波数分析することにより周波数信号を算出する周波数分析部と、
前記周波数分析部が算出した前記周波数信号の位相の時間変化を近似する近似曲線を算出する位相近似曲線算出部と、
前記近似曲線と前記周波数信号の位相との誤差に基づいて、前記参照用マイクで取得された前記他車両音に雑音が含まれるか否かを判定する判定部とを有する
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両方向特定装置。
【請求項9】
さらに、
前記参照用マイクで取得された前記他車両音から、前記他車両音に話し声が含まれるか否かを判定する話し声判定部と、
前記話し声判定部において話し声が含まれないと判定された場合にのみ、前記複数の他車両音強調フィルタ部を動作させるフィルタ動作切替部とを備え、
前記話し声判定部は、
前記参照用マイクで取得された前記他車両音を周波数分析することにより周波数信号を算出する周波数分析部と、
前記周波数分析部が算出した前記周波数信号の位相の時間変化を近似する近似曲線を算出する位相近似曲線算出部と、
前記近似曲線と前記周波数信号の位相との誤差に基づいて、前記参照用マイクで取得された前記他車両音に話し声が含まれるか否かを判定する判定部とを有する
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両方向特定装置。
【請求項10】
自車両の周辺に存在する他車両の車両音である他車両音から、前記他車両が存在する方向を特定する車両方向特定装置であって、
複数の検知用マイクにそれぞれ接続され、各々が、接続された検知用マイクで取得された他車両音と雑音との混合音と、前記複数の検知用マイクの各々で取得される風雑音よりも低い音圧の風雑音が取得される位置に設置された参照用マイクで取得された他車両音のフィルタ通過後の音信号との差が最小になるように前記フィルタを生成しながら、前記参照用マイクで取得された前記他車両音のフィルタ通過後の音信号を算出することにより、前記検知用マイクで取得された前記他車両音が強調された音を抽出する複数の他車両音強調フィルタ部と、
前記複数の他車両音強調フィルタ部で抽出された音の到達時間差又は音圧差から、前記自車両の進行方向に対する前記他車両が存在する方向を特定する他車両方向特定部と
を備える車両方向特定装置。
【請求項11】
請求項6記載の車両方向特定装置を複数備え、
前記所定の周波数帯域は、複数の前記車両方向特定装置間で互いに異なる
車両方向特定システム。
【請求項12】
複数の前記車両方向特定装置間で互いに異なる前記所定の周波数帯域は、0〜100Hzの周波数帯域と、150〜400Hzの周波数帯域と、700〜1200Hzの周波数帯域とを含む
請求項11記載の車両方向特定システム。
【請求項13】
さらに、
複数の前記車両方向特定装置において特定された前記他車両が存在する方向の平均値又は最頻値を算出する方向特定部を備える
請求項11記載の車両方向特定システム。
【請求項14】
自車両の周辺に存在する他車両の車両音である他車両音から、前記他車両が存在する方向を特定する車両方向特定方法であって、
複数の検知用マイクのそれぞれについて、当該検知用マイクで取得された他車両音と雑音との混合音と、前記複数の検知用マイクの各々で取得される風雑音よりも低い音圧の風雑音が取得される位置に設置された参照用マイクで取得された他車両音のフィルタ通過後の音信号との差が最小になるように前記フィルタを生成しながら、前記参照用マイクで取得された前記他車両音のフィルタ通過後の音信号を算出することにより、前記検知用マイクで取得された前記他車両音が強調された音を抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップにおいて抽出された音の到達時間差又は音圧差から、前記自車両の進行方向に対する前記他車両が存在する方向を特定する特定ステップと
を含む車両方向特定方法。
【請求項15】
請求項14記載の車両方向特定方法に含まれる各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項16】
自車両の周辺に存在する他車両の車両音である他車両音から、前記他車両が存在する方向を特定する集積回路であって、
複数の検知用マイクにそれぞれ接続され、各々が、接続された検知用マイクで取得された他車両音と雑音との混合音と、前記複数の検知用マイクの各々で取得される風雑音よりも低い音圧の風雑音が取得される位置に設置された参照用マイクで取得された他車両音のフィルタ通過後の音信号との差が最小になるように前記フィルタを生成しながら、前記参照用マイクで取得された前記他車両音のフィルタ通過後の音信号を算出することにより、前記検知用マイクで取得された前記他車両音が強調された音を抽出する複数の他車両音強調フィルタ部と、
前記複数の他車両音強調フィルタ部で抽出された音の到達時間差又は音圧差から、前記自車両の進行方向に対する前記他車両が存在する方向を特定する他車両方向特定部と
を備える集積回路。

【図1】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8A】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図13】
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【図14】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−242343(P2011−242343A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116761(P2010−116761)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】