説明

車両用サスペンション装置

【課題】 車両姿勢制御及び車高調整制御が可能な車両用サスペンション装置において、液圧回路の簡素化を図る。
【解決手段】 一対のクッションユニット2,3におけるコイルスプリング6の上端側に油圧式ジャッキ13をそれぞれ配置し、該各油圧式ジャッキ13間に切り替え弁30及び油圧式アクチュエータ20を備えたサスペンション装置1であって、各油圧式ジャッキ13の上段主油室16a同士を連通させると共に下段主油室16b同士を連通させた状態にあるときには車両姿勢制御を行い、車両停止状態であって各主油室16a,16bを互い違いに連通させた状態にあるときには車高調整制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両姿勢制御及び車高調整制御が可能な車両用サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用サスペンション装置において、車輪を懸架する複数のクッションユニットにそれぞれ液圧(油圧)機構を設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。これは、コイルスプリングを挟み込む一対のスプリングシートの少なくとも一方を、前記液圧機構を用いてコイルスプリングのバネ力に抗して移動可能な構成とし、該液圧機構内の液圧を増減させてスプリングシートを移動させることで、車両の車高を調整可能としたものである。
【特許文献1】実開平6−67942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記サスペンション装置においては、前記各液圧機構に外部の液圧ポンプからの液圧を供給可能として車両姿勢制御を行うことも可能である。
この場合、液圧機構内の液圧を増加させる際には液圧ポンプから液圧を供給し、液圧機構内の液圧を減少させる際にはその余剰液圧をオイルタンク内に放出することが考えられる。またこのとき、液圧ポンプと各液圧機構との間にはそれぞれ逆止弁が設けられると共に、各液圧機構にはそれぞれアキュムレータ及び減衰器等が接続されることが一般的である。
しかしながら、上述のような構成では、液圧放出によるロスが多く、かつ液圧回路の構成部品増による損失及び重量増もあることから、このような点の改善が要望されている。
そこでこの発明は、車両姿勢制御及び車高調整制御が可能な車両用サスペンション装置において、液圧回路の簡素化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、一対のクッションユニット(例えば実施例の各クッションユニット2,3)に、主ピストン(例えば実施例の主ピストン14)により区画された第一主液室と第二主液室(例えば実施例の各主油室16A,16B)とを有して前記主ピストンの移動により各主液室の液圧を増減させると共に車両を上下動させる液圧式シリンダ(例えば実施例の油圧式ジャッキ13)をそれぞれ配置し、かつ該各液圧式シリンダ間に、これらの第一主液室同士を連通させると共に第二主液室同士を連通させた状態と各主液室を互い違いに連通させた状態とを切り替える切り替え弁(例えば実施例の切り替え弁31)と、副シリンダ(例えば実施例の副シリンダ21)内の副ピストン(例えば実施例の副ピストンユニット22)を軸方向に移動させて該副ピストン両端側にそれぞれ設けられた副液室(例えば実施例の各副油室25,26)の一方を加圧すると共に他方を減圧して前記主ピストンを移動させる液圧式アクチュエータ(例えば実施例の油圧式アクチュエータ20)とを備えた車両用サスペンション装置(例えば実施例のサスペンション装置1)であって、前記各液圧式シリンダの第一主液室同士を連通させると共に第二主液室同士を連通させた状態にあるときには車両姿勢制御を行い、各主液室を互い違いに連通させた状態にあるときには車高調整制御を行うことを特徴とする。
【0005】
請求項2に記載した発明は、前記各液圧式シリンダが、前記各クッションユニットにおけるコイルスプリング(例えば実施例のコイルスプリング6)の一端側に配置されることを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、切り替え弁が各液圧式シリンダの第一主液室同士を連通させると共に第二主液室同士を連通させた状態にあるときに、液圧式アクチュエータの副ピストンが移動すると、一方の液圧式シリンダの例えば第一主液室が加圧されると共に他方の液圧式シリンダの第一主液室が減圧される。換言すれば、前記一方の液圧式シリンダの第一主液室に前記他方の液圧式シリンダの第一主液室からの油圧が供給される。またこのとき、前記一方の液圧式シリンダの第二主液室からの余剰油圧が前記他方の液圧式シリンダの第二主液室に供給される。
これにより、各液圧式シリンダの主ピストンが互いに反対となる方向へ移動し、もって前記一方の液圧式シリンダが備えるクッションユニットが車体を例えば上昇させると共に前記他方の液圧式シリンダを備えるクッションユニットが車体を例えば下降させる。すなわち、車両姿勢制御を行うことが可能となる。
【0007】
また、切り替え弁が各液圧式シリンダの各主液室を互い違いに連通させた状態にあるときに、液圧式アクチュエータの副ピストンが移動すると、一方の液圧式シリンダの例えば第一主液室が加圧されると共に他方の液圧式シリンダの第二主液室が減圧される。換言すれば、前記一方の液圧式シリンダの第一主液室に前記他方の液圧式シリンダの第二主液室からの油圧が供給される。またこのとき、前記一方の液圧式シリンダの第二主液室からの余剰油圧が前記他方の液圧式シリンダの第一主液室に供給される。
これにより、各液圧式シリンダの主ピストンが互いに同一となる方向に移動し、もって各クッションユニットが車体を上昇あるいは下降させる。すなわち、車高調整制御を行うことが可能となる。
【0008】
さらに、液圧式アクチュエータは、各主油室間の液圧の差分に対応できればよいことから、該液圧式アクチュエータの出力を下げることが可能となり、かつこれに伴い液圧回路におけるアキュムレータや減衰器を廃止することが可能となる。すなわち、液圧回路における部品点数増による損失や重量増を抑えることが可能となる。
【0009】
ここで、前記車高調整制御を車両姿勢制御と区別して正確に行うために、請求項3に記載した発明のように、前記車高調整制御が、当該車両が停止状態にあるときにのみ行われることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1,2に記載した発明によれば、単一の液圧式アクチュエータにより各クッションユニットの液圧式シリンダ間で液圧を供給し合って車両姿勢制御をロスなく行うことができると共に、切り替え弁により液圧回路を切り替えることで車高調整制御を行うこともできる。すなわち、車両姿勢制御と車高調整制御とを両立させつつ液圧回路の簡素化を図ることができる。
請求項3に記載した発明によれば、車高調整を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施例を図面を参照して説明する。
図1は、この発明を四輪の自動車(車両)における前輪又は後輪に適用した例を示す構成図であり、本図に示すように、サスペンション装置1は、各車輪位置にそれぞれ配置された右及び左のクッションユニット2,3と、該各クッションユニット2,3間に配される油圧回路4とを有してなる。
【0012】
各クッションユニット2,3は、例えば油圧式のダンパー5とその周囲を巻回するように配されたコイルスプリング6とを一体的に設けてなるもので、車両搭載状態において、その軸方向(長手方向)が例えば上下方向に沿うようにして配置される。なお、各クッションユニット2,3における軸方向とは、ダンパー5及びコイルスプリング6の軸方向(長手方向)でもある。
【0013】
ダンパー5は、その下側に円筒状のシリンダ7が位置し、該シリンダ7の上方にシリンダ7内を摺動する不図示のピストンから上方に延びるピストンロッド8が位置するように配置される。
シリンダ7の中間部には、コイルスプリング6の下端部を支持するロアスプリングシート12が固定される。一方、ピストンロッド8の上部には、油圧式ジャッキ(液圧式シリンダ)13を介してコイルスプリング6の上端部を支持するアッパスプリングシート11が固定される。これら各スプリングシート11,12に挟み込まれるようにコイルスプリング6が保持されることで、該コイルスプリング6がダンパー5と共に伸縮可能とされる。
【0014】
ピストンロッド8の上端部は、その外周にねじ山が刻設されたねじ部8aとされ、該ねじ部8a及びこれに螺着されるナット等を用いて、各クッションユニット2,3の上端部が車体側のサスペンション支持部にそれぞれ連結される。一方、ダンパー5のシリンダ7の下端部には、その軸方向に直交するようにボルト等を挿通可能な円筒部7aが設けられ、該円筒部7a及びその内周側に配されるゴムブッシュ等を用いて、各クッションユニット2,3の下端部が車輪側のサスペンションアームにそれぞれ連結される。すなわち、ダンパー5のピストンロッド8及びアッパスプリングシート11は車体側に、シリンダ7及びロアスプリングシート12は車輪側にそれぞれ連結されている。
【0015】
このような各クッションユニット2,3を車両の各車輪位置にそれぞれ設けることで、車体に対する車輪の上下動がコイルスプリング6により弾性的に受け止められると共に、コイルスプリング6の伸縮エネルギーがダンパー5により減衰される。換言すれば、路面から車輪に入力される衝撃等の荷重が、コイルスプリング6とダンパー5との協働により緩やかに吸収される。
【0016】
油圧式ジャッキ13は、ダンパー5のシリンダ7を貫通させるように設けられる円筒状のもので、アッパスプリングシート11に固定される主シリンダ15内に、ダンパー5の軸方向に移動可能な主ピストン14を配置してなる。主ピストン14はオイルシール等を介して主シリンダ15に内接しており、もって主シリンダ15内における主ピストン14の上下両端側には、上段及び下段主油室(第一及び下段主液室)16a,16bがそれぞれ形成される。すなわち、油圧式ジャッキ13は、複動シリンダとしての様相を呈するものである。
【0017】
主ピストン14からは、主シリンダ15の上下壁を貫通する円筒状の上段及び下段ピストンガイド14a,14bがそれぞれ延出され、これらの内の下段ピストンガイド14bの下端部には、コイルスプリング6の上端部に当接するスプリング支持部14cが設けられる。また、主シリンダ15の外側部には、各主油室16a,16b内への主油圧流出入ポート18がそれぞれ設けられる。
【0018】
このような油圧式ジャッキ13において、各主油室16a,16b内の油圧(液圧)を増減させることで、主ピストン14と共にスプリング支持部14cが主シリンダ15(ダンパー5)に対してダンパー5の軸方向に沿って移動可能とされる。そして、上段主油室16a内の油圧が増加すると共に下段主油室16b内の油圧が減少してスプリング支持部14cが下方(車輪側)に移動することで、相対的にアッパスプリングシート11及びピストンロッド8が上昇し、もって車体における当該クッションユニット2又は3が配置された部位がジャッキアップされる。
【0019】
また、上段主油室16a内の油圧が減少すると共に下段主油室16b内の油圧が増加してスプリング支持部14cが上方(車体側)に移動することで、相対的にアッパスプリングシート11及びピストンロッド8が下降し、もって車体における当該クッションユニット2又は3が配置された部位がジャッキダウンされる。
【0020】
油圧回路4は、各クッションユニット2,3における油圧式ジャッキ13の各主油室16a,16bを、上段及び下段油圧配管29a,29b、油圧式アクチュエータ(以下、単にアクチュエータという)20、及び切り替え弁30を介して適宜連通させるものである。
アクチュエータ20は例えば上段油圧配管29a途中に設けられるもので、複動シリンダとしての様相をなすものである。すなわち、アクチュエータ20は、円筒状の副シリンダ21内にその軸方向に摺動可能な副ピストンユニット22を配置し、該副ピストンユニット22の左右両端側には右及び左の副油室25,26がそれぞれ形成されると共に、副シリンダ21の左右両端部には各副油室25,26内への副油圧流出入ポート27が設けられる。以下、アクチュエータ20(副シリンダ21)の軸方向が図示の如く左右方向に沿うものとして説明する。
【0021】
アクチュエータ20における右側の副油圧流出入ポート27は、同じく右側のクッションユニット2における油圧式ジャッキ13の主油圧流出入ポート18に上段油圧配管29aを介して接続される。同様に、アクチュエータ20における左側の副油圧流出入ポート27は、同じく左側のクッションユニット3における油圧式ジャッキ13の主油圧流出入ポート18に下段油圧配管29bを介して接続される。
【0022】
副ピストンユニット22は、その両端部にオイルシール等を介して副シリンダ21に内接する右及び左の副ピストン本体23,24を備え、かつ該各副ピストン本体23,24間には、これらを所定間隔を有した状態で連結するラック22aが設けられる。
ラック22aは、モータ28により駆動されるピニオンギヤ22bに噛み合っており、モータ28が正逆回転駆動することで、該ラック22aと共に副ピストンユニット22全体が副シリンダ21の軸方向に沿って移動する。モータ28の駆動は、ECU(エレクトロニックコントロールユニット)33により制御されている。
【0023】
切り替え弁30は、ソレノイドコイル31への通電により作動する電動式のもので、各油圧配管29a,29bに跨るように配置される。この切り替え弁30が、通常時である非通電時(OFF時)には、上段及び下段油圧配管29a,29b同士を連通させ、もって各クッションユニット2,3の油圧式ジャッキ13における上段主油室16a同士をアクチュエータ20を介して連通させると共に下段主油室16b同士を連通させる。
【0024】
また、切り替え弁30への通電時には、自身を境にして上段油圧配管29aと下段油圧配管29bとを互い違いに連通させ、もって各クッションユニット2,3の油圧式ジャッキ13における上段主油室16aと下段主油室16bとを一部アクチュエータ20を介して互い違いに連通させる。このような切り替え弁30の作動も、前記ECU33により制御されている。
ここで、ECU33は、ステアリング操作角及び車速等の情報を車両状態(停車時かあるいは旋回時か等)情報として読み取り、該情報に基づいてモータ28及びソレノイドコイル31を駆動制御している。
【0025】
そして、図2に示すように、切り替え弁30が上段主油室16a同士を連通させると共に下段主油室16b同士を連通させた状態において、副ピストンユニット22が例えば右に移動すると、右側の副油室25内の作動油が右側のクッションユニット2における油圧式ジャッキ13の上段主油室16a内に流入し、スプリング支持部14cを下降させて車体をジャッキアップすると共に、左側の副油室26内に左側のクッションユニット3における油圧式ジャッキ13の上段主油室16a内の作動油が流入し、スプリング支持部14cを上昇させて車体をジャッキダウンする。
【0026】
このとき、右側のクッションユニット2の油圧式ジャッキ13においては、その下段主油室16bの容積が減少することで、該下段主油室16b内の作動油が左側のクッションユニット3の油圧式ジャッキ13における下段主油室16b内に流入する。このようにして、各油圧式ジャッキ13における上段及び下段主油室16a,16b間の油圧の均衡が保たれると共に、車体をジャッキアップする側のスプリング支持部14cの移動が補助される。
【0027】
すなわち、上述のようなアクチュエータ20の作動により、車体における左右一方の車輪位置での車高が増加すると共に他方の車輪位置での車高が減少する。
換言すれば、アクチュエータ20におけるモータ28の回転数に応じた量だけ、車体が左右に揺動する。これを車両の旋回走行時等に行うことで、車体のロールを制御(すなわち車両姿勢を制御)することが可能となっている。
【0028】
また、図3に示すように、切り替え弁30が各主油室16a,16bを互い違いに練通させた状態において、副ピストンユニット22が例えば右側に移動することで、右側の副油室25内の作動油が右側のクッションユニット2における油圧式ジャッキ13の上段主油室16a内に流入し、スプリング支持部14cを下降させて車体をジャッキアップすると共に、左側の副油室26内に左側のクッションユニット3における油圧式ジャッキ13の下段主油室16b内の作動油が流入し、同じくスプリング支持部14cを下降させて車体をジャッキアップする。
【0029】
このとき、右側のクッションユニット2の油圧式ジャッキ13においては、その下段主油室16bの容積が減少することで、該下段主油室16b内の作動油が左側のクッションユニット3の油圧式ジャッキ13における上段主油室16a内に流入する。このようにして、各油圧式ジャッキ13における上段及び下段主油室16a,16b間の油圧の均衡が保たれると共に、車体をジャッキアップする両油圧式ジャッキ13におけるスプリング支持部14cの移動が補助される。
【0030】
すなわち、上述のようなアクチュエータ20の作動により、そのモータ28の回転数に応じた量だけ、車体における各車輪位置での車高が左右均等に増減する。これを例えば車両停止時等に行うことで、車高の調整を行うことが可能となっている。
【0031】
次に、上記サスペンション装置1により車両の姿勢制御を行う際のECU33における処理手順について、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
まず、ステアリング操作角及び車速等の情報に基づいて車両の旋回状態の測定が行われると共に(ステップS1)、車体の左右方向での傾きすなわちロール量の予測がなされる(ステップS2)。
【0032】
次いで、予測されたロール量が所定値以上であるか否かの判定がなされ(ステップS3)、該ロール量が所定値以上である(Yes)と判定された場合には、各クッションユニット2,3の作動により車体の姿勢変化を抑えるべく前記ロール量に応じたモータ28の目標回転数(すなわち車体の左右への揺動量)が決定されると共に(ステップS4)、ステアリング操作角等の情報に基づいて車両が例えば左旋回中であるか否かの判定がなされる(ステップS5)。なお、ステップS3において、ロール量が所定値以下である(No)と判定された場合には、一旦処理を終了して再度ステップS1から処理を開始する。
【0033】
このとき、車両が左旋回中である(Yes)と判定された場合には、モータ28を例えば正回転駆動させつつ(ステップS6)、該モータ28の回転数が前記目標回転数に達したか否かの判定がなされる(ステップS7)。ここで、モータ28の回転数が前記目標回転数に達していない(No)と判定された場合には、ステップS6に戻り引き続きモータ28を正回転駆動させ、モータ28の回転数が前記目標回転数に達した(Yes)と判定された場合には、モータ28をロック(駆動停止)して(ステップS8)処理を終了する。
【0034】
また、ステップS5において、車両が右旋回中である(No)と判定された場合には、モータ28を例えば逆回転駆動させつつ(ステップS9)、該モータ28の回転数が前記目標回転数に達したか否かの判定がなされる(ステップS10)。ここで、モータ28の回転数が前記目標回転数に達していない(No)と判定された場合には、ステップS9に戻り引き続きモータ28を逆回転駆動させ、モータ28の回転数が前記目標回転数に達した(Yes)と判定された場合には、モータ28をロックして(ステップS8)処理を終了する。
【0035】
次に、上記サスペンション装置1により車高調整を行う際のECU33における処理手順について、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
まず、車速情報等に基づいて車両が停止しているか否かの判定がなされ(ステップS11)、車両が停止している(Yes)と判定された場合には、各クッションユニット2,3に設けたセンサ等からの信号に基づいて該各クッションユニット2,3のストローク量を測定すると共に(ステップS12)、該ストローク量が基準範囲内にあるか否かの判定がなされる(ステップS13)。なお、ステップS1において、車両が走行中である(No)と判定された場合には、一旦処理を終了して再度ステップS11から処理を開始する。
【0036】
このとき、各クッションユニット2,3のストローク量が基準範囲外にある(No)と判定された場合には、切り替え弁30をONすなわちソレノイドコイル31への通電状態とし(ステップS14)、各主油室16a,16bを互い違いに連通させると共に、さらに前記ストローク量が例えば基準範囲以下であるか否かの判定がなされる(ステップS15)。このとき、前記ストローク量が基準値以下である(Yes)と判定された場合には、各クッションユニット2,3の作動によりストローク量を基準範囲内に抑えるべく(すなわち車高を適正範囲内に抑えるべく)、モータ28を例えば正回転駆動させつつ(ステップS16)、各クッションユニット2,3のストローク量が基準範囲内になったか否かの判定がなされる(ステップS17)。ここで、前記ストローク量が基準範囲外である(No)と判定された場合には、ステップS16に戻り引き続きモータ28を正回転駆動させ、前記ストローク量が基準範囲内になった(Yes)と判定された場合には、モータ28をロックすると共に(ステップS18)、切り替え弁30をOFFすなわちソレノイドコイル31への通電を遮断して(ステップS19)処理を終了する。
【0037】
また、ステップS15において、ストローク量が基準範囲以上である(No)と判定された場合には、モータ28を例えば逆回転駆動させつつ(ステップS20)、各クッションユニット2,3のストローク量が基準範囲内になったか否かの判定がなされる(ステップS21)。ここで、前記ストローク量が基準範囲外である(No)と判定された場合には、ステップS18に戻り引き続きモータ28を逆回転駆動させ、前記ストローク量が基準範囲内になった(Yes)と判定された場合には、モータ28をロックすると共に切り替え弁30をOFFにして処理を終了する。
【0038】
以上説明したように、上記実施例におけるサスペンション装置1は、一対のクッションユニット2,3におけるコイルスプリング6の上端側に、主ピストン14により区画された上段主油室16aと下段主油室16bとを有して主ピストン14の移動により各主油室16a,16bの油圧を増減させると共に車体を上下動させる油圧式ジャッキ13をそれぞれ配置し、かつ該各油圧式ジャッキ13間に、これらの上段主油室16a同士を連通させると共に下段主油室16b同士を連通させた状態と各主油室16a,16bを互い違いに連通させた状態とを切り替える切り替え弁30と、副シリンダ21内の副ピストンユニット22を軸方向に移動させて該副ピストンユニット22両端側にそれぞれ設けられた各副油室25,26の一方を加圧すると共に他方を減圧して主ピストン14を移動させる油圧式アクチュエータ20とを備えたものであって、各油圧式ジャッキ13の上段主油室16a同士を連通させると共に下段主油室16b同士を連通させた状態にあるときには車両姿勢制御を行い、車両停止状態であって各主油室16a,16bを互い違いに連通させた状態にあるときには車高調整制御を行うものである。
【0039】
この構成によれば、切り替え弁30が各油圧式ジャッキ13の上段主油室16a同士を連通させると共に下段主油室16b同士を連通させた状態にあるときに、油圧式アクチュエータ20の副ピストンが移動すると、一方の油圧式ジャッキ13の例えば上段主油室16aが加圧されると共に他方の油圧式ジャッキ13の上段主油室16aが減圧される。換言すれば、前記一方の油圧式ジャッキ13の上段主油室16aに前記他方の油圧式ジャッキ13の上段主油室16aからの油圧が供給される。またこのとき、前記一方の油圧式ジャッキ13の下段主油室16bからの余剰油圧が前記他方の油圧式ジャッキ13の下段主油室16bに供給される。
これにより、各油圧式ジャッキ13の主ピストン14が互いに反対となる方向へ移動し、もって前記一方の油圧式ジャッキ13が備えるクッションユニット2又は3が車体を例えば上昇させると共に前記他方の油圧式ジャッキ13を備えるクッションユニット2又は3が車体を例えば下降させる。すなわち、車両姿勢制御を行うことが可能となる。
【0040】
また、切り替え弁30が各油圧式ジャッキ13の各主油室16a,16bを互い違いに連通させた状態にあるときに、油圧式アクチュエータ20の副ピストンが移動すると、一方の油圧式ジャッキ13の例えば上段主油室16aが加圧されると共に他方の油圧式ジャッキ13の下段主油室16bが減圧される。換言すれば、前記一方の油圧式ジャッキ13の上段主油室16aに前記他方の油圧式ジャッキ13の下段主油室16bからの油圧が供給される。またこのとき、前記一方の油圧式ジャッキ13の下段主油室16bからの余剰油圧が前記他方の油圧式ジャッキ13の上段主油室16aに供給される。
これにより、各油圧式ジャッキ13の主ピストン14が互いに同一となる方向に移動し、もって各クッションユニット2,3が車体を上昇あるいは下降させる。すなわち、車高調整制御を行うことが可能となる。
【0041】
したがって、単一の油圧式アクチュエータ20により各クッションユニット2,3の主油圧式ジャッキ13間で油圧を供給し合って車両姿勢制御をロスなく行うことができると共に、切り替え弁30により油圧回路4を切り替えることで車高調整制御を行うこともできる。すなわち、車両姿勢制御と車高調整制御とを両立させつつ油圧回路4の簡素化を図ることができる。
また、車高調整制御が停車状態でのみ行われることで、車両調整を正確に行うことができる。
さらに、油圧式アクチュエータ20は、各主油室16a,16b間の油圧の差分に対応できればよいことから、該油圧式アクチュエータ20の出力を下げることが可能となり、かつこれに伴い油圧回路4におけるアキュムレータや減衰器を廃止することが可能となる。すなわち、油圧回路4における部品点数増による損失や重量増を抑えることが可能となる。
【0042】
なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、例えば、車両の前後輪位置に配置されるクッションユニット間で油圧を供給し合う構成とすることで、車体のピッチ(前後方向での揺動)を制御するようにしてもよい。
また、ロアスプリングシート12を油圧式ジャッキにより移動可能とした構成であってもよい。
さらに、ダンパーとコイルスプリングとが別体とされたサスペンション装置であってもよい。
そして、上記実施例における構成は一例であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の実施例におけるサスペンション装置の主要構成図である。
【図2】上記サスペンション装置の第一作用説明図である。
【図3】上記サスペンション装置の第二作用説明図である。
【図4】上記サスペンション装置において車両姿勢制御を行う際の処理手順を示すフローチャート図である。
【図5】上記サスペンション装置において車高調整制御を行う際の処理手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0044】
1 サスペンション装置(車両用サスペンション装置)
2,3 クッションユニット
6 コイルスプリング
13 油圧式ジャッキ(液圧式シリンダ)
14 主ピストン
16a 上段主油室(第一主液室)
16b 下段主油室(第二主液室)
20 油圧式アクチュエータ(液圧式アクチュエータ)
21 副シリンダ
22 副ピストンユニット(副ピストン)
25,26 副油室(副液室)
30 切り替え弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のクッションユニットに、主ピストンにより区画された第一主液室と第二主液室とを有して前記主ピストンの移動により各主液室の液圧を増減させると共に車両を上下動させる液圧式シリンダをそれぞれ配置し、かつ該各液圧式シリンダ間に、これらの第一主液室同士を連通させると共に第二主液室同士を連通させた状態と各主液室を互い違いに連通させた状態とを切り替える切り替え弁と、副シリンダ内の副ピストンを軸方向に移動させて該副ピストン両端側にそれぞれ設けられた副液室の一方を加圧すると共に他方を減圧して前記主ピストンを移動させる液圧式アクチュエータとを備えた車両用サスペンション装置であって、
前記各液圧式シリンダの第一主液室同士を連通させると共に第二主液室同士を連通させた状態にあるときには車両姿勢制御を行い、各主液室を互い違いに連通させた状態にあるときには車高調整制御を行うことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】
前記各主液圧式シリンダが、前記各クッションユニットにおけるコイルスプリングの一端側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項3】
前記車高調整制御が、当該車両が停止状態にあるときにのみ行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用サスペンション装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−131183(P2006−131183A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325119(P2004−325119)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】