説明

車両用スタビライザバー取付機構

【課題】スタビライザブッシュに形成されたスリットの開口を禁止するとともに、スタビライザバーの車体への取り付けが容易なスタビライザバー取付機構を提供する。
【解決手段】(A)スタビライザバー50が貫通した状態でそれが嵌入する内周面63を有する中空形状のゴム製の部材であって、内周面から外周面にかけて切り割られることでスリット68が形成されるとともに、スタビライザバーをスリットを通って内周面に嵌入させて、その内周面においてスタビライザバーを保持する緩衝部材60と、(B)緩衝部材を車体に支持させるブラケット62とを備えた車両用スタビライザバー取付機構において、挟み込み部材70によって、緩衝部材の外周面へのスリットの切れ目をまたいで緩衝部材のスリットの両側を挟み込むように構成する。このように構成することで、スリットの開口を禁止するとともに、スタビライザバーを容易に車体へ取り付けることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタビライザバーを車体に取り付けるための車両用スタビライザバー取付機構に関する。
【背景技術】
【0002】
スタビライザバーは、通常、それのトーションバー部においてゴム製の緩衝部材、つまり、スタビライザブッシュを介して車体に取り付けられる。スタビライザブッシュは、トーションバー部が貫通した状態でそのトーションバー部が嵌入する内周面を有している。また、スタビライザブッシュの多くには、内周面から外周面にかけて切り割られることでスリットが形成されており、そのスリットを通ってトーションバー部をスタビライザブッシュの内周面に嵌入させている。下記特許文献には、スリットが形成されたスタビライザブッシュを備えたスタビライザバー取付機構が記載されており、そのような取付機構においては、スタビライザバーとスタビライザブッシュとの組み付けが比較的容易になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−207709号公報
【特許文献2】特開平7−91473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スタビライザバーは、車両の旋回時等において、トーションバー部が捩られて、そのトーションバー部の捩りによって生じる力がロール抑制力として作用する構造とされている。車両旋回時等において、トーションバー部には、それを捩る方向の力が作用するだけでなく、それの両端部の一方には上方への力が作用するとともに他方には下方への力が作用する。このため、スリットが形成されたスタビライザブッシュを備えた取付機構によって車体にスタビライザバーが取り付けられている場合には、そのトーションバー部への上下方向の力によってスリットが開口する虞がある。スリットが開口すると、その開口から砂利,泥水等が浸入し、スタビライザバーの腐食の原因となる。また、砂利等によって異音等が発生する虞が生じる。さらに、車両旋回時等において、トーションバー部への上下方向の力によってスリットが開口すると、トーション部50が車体に対して揺動し、車両のロール剛性が低下する虞がある。
【0005】
以上のことに鑑みて、上記特許文献1に記載されているスタビライザバー取付機構は、スタビライザブッシュのスリットの両側に肉厚部を設けて、その肉厚部を圧縮することでスリットの開口を禁止する構造とされている。ただし、そのような構造の取付機構においては、肉厚部を圧縮するべく、スタビライザブッシュを車体に支持させるスタビライザブラケット等と車体との間でブッシュを挟圧する必要があり、スタビライザバーの車体への取り付けに手間取ることになる。本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、スタビライザブッシュに形成されたスリットの開口を禁止するとともに、スタビライザバーの車体への取り付けが容易なスタビライザバー取付機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両用スタビライザバー取付機構は、
左右の車輪の各々を保持する1対の車輪保持部材に両端部が連結されるスタビライザバーのトーションバー部が貫通した状態でそのトーションバー部が嵌入する内周面を有する中空形状のゴム製の部材であって、その内周面から外周面にかけて切り割られることでスリットが形成されるとともに、前記トーションバー部をそのスリットを通って前記内周面に嵌入させて、その内周面において前記スタビライザバーを保持する緩衝部材と、
その緩衝部材の外周面への前記スリットの切れ目をまたいでその緩衝部材の前記スリットの両側を挟み込んで、そのスリットの開口を禁止する挟込部材と、
その挟込部材によって前記スリットの両側が挟み込まれた状態の前記緩衝部材を車体に支持させるスタビライザブラケットと
を備え、
前記スタビライザバーを車体に取り付けるように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスタビライザバー取付機構においては、挟込部材によってスタビライザブッシュのスリットの両側が挟み込まれており、その挟込部材によってスリットの開口が禁止されている。このため、スタビライザブッシュに形成された肉厚部をスタビライザブラケット等で挟圧する必要もなく、挟込部材によってスリットの両側が挟み込まれた状態のスタビライザブッシュをスタビライザブラケットで車体に支持させればよい。したがって、本発明のスタビライザバー取付機構によれば、スタビライザブッシュに形成されたスリットの開口を適切に禁止するとともに、スタビライザバーを容易に車体へ取り付けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例である車両用スタビライザバー取付機構によって車体に取り付けられたスタビライザバー、および、そのスタビライザバーが連結されるサスペンション装置を車両上方からの視点において示す模式図である。
【図2】本発明の実施例である車両用スタビライザバー取付機構によって車体に取り付けられたスタビライザバー、および、そのスタビライザバーが連結されるサスペンション装置を車両前方からの視点において示す模式図である。
【図3】図1および図2の車両用スタビライザバー取付機構を示す斜視図である。
【図4】図3に示すAA’線における断面図である。
【図5】本発明の変形例である車両用スタビライザバー取付機構を示す斜視図である。
【図6】図5に示すBB’線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、本発明の実施例およびそれの変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例,変形例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0010】
図1および図2に、本発明の実施例である車両用スタビライザバー取付機構10によって車体の一部であるサスペンションメンバ12に取り付けられたスタビライザバー20、および、そのスタビライザバー20が連結されるサスペンション装置22を示す。図1は、車両上方からの視点においてスタビライザバー20、および、サスペンション装置22を示したものであり、図2は、車両前方からの視点においてスタビライザバー20、およびサスペンション装置22を示したものである。
【0011】
スタビライザバー20は、両端部において左右の車輪30のそれぞれに対応して設けられた1対のサスペンション装置22に連結されている。サスペンション装置22は、マルチリンク式サスペンション装置とされており、それぞれが車輪30を保持する車輪保持部材としての第1アッパアーム32,第2アッパアーム34,第1ロアアーム36,第2ロアアーム38,トーコントロールアーム40を備えている。5本のアーム32,34,36,38,40のそれぞれの一端部は、車体に回動可能に連結され、他端部は、車輪30を回転可能に保持するアクスルキャリア42に回動可能に連結されている。それら5本のアーム32,34,36,38,40により、アクスルキャリア42は、車体に対して略一定の軌跡を描くような上下動が可能とされている。
【0012】
また、サスペンション装置22は、コイルスプリング44と液圧式のショックアブソーバ46とを備えており、それらは、それぞれ、タイヤハウジングに設けられたマウント部48と、第2ロアアーム38との間に、互いに並列的に配設されている。つまり、サスペンション装置22は、車輪30と車体とを弾性的に相互支持するとともに、それらの接近離間に伴う振動に対する減衰力を発生させているのである。
【0013】
スタビライザバー20はそれぞれ、概して車幅方向に延びるトーションバー部50と、そのトーションバー部50の両端の各々と一体をなして各々と交差して概ね車両の前方に延びる1対のアーム部52とに区分することができる。スタビライザバー20のトーションバー部50は、各アーム部52に近い箇所において、後に詳しく説明するように、スタビライザバー取付機構10によってサスペンションメンバ12の下面に取り付けられている。一方、各アーム部52の端部(トーションバー部50側とは反対側の端部)は、リンクロッド56を介して車輪保持部材としての第2ロアアーム38に連結されている。第2ロアアーム38には、リンクロッド連結部58が設けられ、リンクロッド56の一端部は、そのリンクロッド連結部58に、他端部はスタビライザバー20のアーム部52の端部に、それぞれ遥動可能に連結されている。
【0014】
スタビライザバー取付機構10は、図3および、図3におけるA−A’断面図である図4に示すように、スタビライザバー20のトーションバー部50を嵌入させた状態でそのスタビライザバー20を保持する中空形状のスタビライザブッシュ60と、そのスタビライザブッシュ60をサスペンションメンバ12の下面に支持させるスタビライザブラケット(サドルとも言う)62とを有している。スタビライザブッシュ60は、ゴム製の緩衝部材として機能しており、スタビライザバー20のトーション部50が貫通する内周面63と外周面とを有している。その外周面は、矩形の平面部64と、その平面部64の対向する両辺から連続するアーチ形状のアーチ部66とに区分することができる。
【0015】
さらに、スタビライザブッシュ60には、内周面63から外周面の平面部64にわたってトーションバー部50の軸線方向に延びるようにスリット68が形成されている。スタビライザバー20をスタビライザブッシュ60の内周面63に嵌入させる際に、そのスリット68を開口し、その開口されたスリット68からトーションバー部50を嵌入させるのである。スタビライザバー取付機構10は、さらに、そのスリット68の両側をスタビライザブッシュ60の平面部64において挟み込む挟込部材70をも有しており、その挟込部材70はスリット68の平面部64への切れ目を塞いでいる。
【0016】
挟込部材70は、略正方形の板状の板部72と、その板部72の対向する両辺に立設された1対の立設部74とを含んで構成されている。スタビライザブッシュ60の外周面の平面部64には、その挟込部材70を嵌め合わせることが可能な切欠部76が形成されており、その切欠部76に挟込部材70が嵌合されている。スタビライザブッシュ60に形成された切欠部76の1対の立設部74の一方が嵌め合わされる部分と他方が嵌め合わされる部分との間の距離は、1対の立設部74の間の距離より僅かに長くされており、その切欠部76に挟込部材70が嵌合された状態において、スリット68の1対のスリット面が挟込部材70の1対の立設部74によって互いに圧着されている。なお、スタビライザブッシュ60の内周面63には低摩擦加工が施されており、1対のスリット面が互いに圧着された状態であっても、スタビライザバー20はスタビライザブッシュ60の内周面63において軸線まわり回転可能とされている。
【0017】
スタビライザブラケット62は、断面が概してU字形状とされてスタビライザブッシュ60をそれの外周面のアーチ部66において保持する保持部78と、その保持部78の両端部から互いに反対の方向に延びる1対の取付部80とを含んで構成されている。スタビライザブラケット62は、挟込部材70が嵌合されたスタビライザブッシュ60を保持部78において保持した状態で、1対の取付部80においてサスペンションメンバ12の下面にボルト82によって締結されている。
【0018】
上述のような構造によって、スタビライザバー20は、スタビライザバー取付機構10によって車体に軸線周りに回転可能に取り付けられている。車両の旋回時等には、スタビライザバー20の1対のアーム52が互いに反対の方向に回動させられ、その回動に伴ってトーションバー部50が捩られる。そのトーションバー部50の捩りによって生じる力がロール抑制力として作用することで、車体のロールが効果的に抑制されるのである。ただし、車両旋回時等において、トーションバー部50には、それを捩る方向の力が作用するだけでなく、トーションバー部50の両端の一方に上方への力が作用するとともに他方に下方の力が作用し、その上下方向の力がスリット68を開口させようとする力として作用する。
【0019】
トーションバー部50への上下方向の力によってスタビライザブッシュ60のスリット68が開口すると、その開口から砂利,泥水等が浸入し、スタビライザバー20の腐食の原因となる場合がある。また、車両旋回時等において、トーション部50への上下方向の力によってスリット68が開口すると、トーションバー部50が車体に対して傾いて、車両のロール剛性が低下する虞がある。本スタビライザバー取付機構10においては、スラビライザブッシュ60のスリット68が挟込部材70によって圧着されており、トーションバー部50に上下方向の力が作用してもスリット68が開口され難くされている。また、挟込部材70の1対の立設部74の各々の先端部が内側に屈曲されており、スリット68がさらに開口され難くされている。したがって、本取付機構10によってスタビライザバー20を車体に取付けることで、スリット68への砂利,泥水等の浸入を抑制し、スリット68の開口によるロール剛性の低下を抑制することが可能となる。
【変形例】
【0020】
上記スタビライザバー取付機構10においては、スリット68の平面部64への切れ目全体を塞ぐように挟込部材70が設けられているが、スリット68の平面部64への切れ目の両端を塞ぐように挟込部材が設けられてもよい。具体的にいえば、図5および、図5におけるB−B’断面図である図6に示すように、1対のコの字型の挟込部材90によって、スリット68の平面部64への切れ目の両端において、スタビライザブッシュ60のスリット68の両側を挟み込んでもよい。挟込部材90は、棒状の本体部92と、その本体部92の両端部から垂直に延びだすとともに先端のとがった1対の楔部96とを含んで構成されており、スリット68の1対のスリット面が互いに圧着された状態で、それら1対の楔部96がスリット68の両側に挿し込まれている。このような構造の挟込部材90によっても、スリット68の開口を禁止することが可能となる。
【符号の説明】
【0021】
10:車両用スタビライザバー取付機構 12:サスペンションメンバ(車体) 20:スタビライザバー 30:車輪 38:第2ロアアーム(車輪保持部材) 50:トーションバー部 60:スタビライザブッシュ(緩衝部材) 62:スタビライザブラケット 63:内周面 68:スリット 70:挟込部材 90:挟込部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の車輪の各々を保持する1対の車輪保持部材に両端部が連結されるスタビライザバーのトーションバー部が貫通した状態でそのトーションバー部が嵌入する内周面を有する中空形状のゴム製の部材であって、その内周面から外周面にかけて切り割られることでスリットが形成されるとともに、前記トーションバー部をそのスリットを通って前記内周面に嵌入させて、その内周面において前記スタビライザバーを保持する緩衝部材と、
その緩衝部材の外周面への前記スリットの切れ目をまたいでその緩衝部材の前記スリットの両側を挟み込んで、そのスリットの開口を禁止する挟込部材と、
その挟込部材によって前記スリットの両側が挟み込まれた状態の前記緩衝部材を車体に支持させるスタビライザブラケットと
を備え、
前記スタビライザバーを車体に取り付ける車両用スタビライザバー取付機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−241349(P2010−241349A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94265(P2009−94265)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】