説明

車両用フロントサブフレーム構造

【課題】 ステアリングギヤボックスの操舵トルクセンサを収納する開口が形成されたフロントサブフレームの剛性を高める。
【解決手段】 フロントサブフレーム12の前部クロスメンバ13にステアリングギヤボックス16が支持され、左右両側部にロアアーム22が支持される。フロントサブフレーム12の前部クロスメンバ13に形成した一部開放の開口29にステアリングギヤボックス16の操舵トルクセンサ16bを収納すると、開口29によりフロントサブフレーム12の剛性が低下してロアアーム22から大きな荷重が入力すると変形する虞があるが、開口29の開放部をロアアーム22の支持部15bに接続される連結部30A,30Bにより閉じたので、部品点数や重量を増加させることなく開口29近傍のフロントサブフレーム12の剛性を高めて変形を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の前部下面に取り付けられるフロントサブフレームの前縁部にステアリングギヤボックスを支持するとともに、前記フロントサブフレームの左右両側部にサスペンションアームを支持する車両用フロントサブフレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントサスペンション装置およびステアリングギヤボックスを予め組付けたアルミニウムダイキャスト製のフロントサブフレーム(フロントサスペンションメンバ)を、サブアセンブリとして車体フレームに一括して搭載するものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4206840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤボックスは、ラックバーを左右摺動自在に支持するギヤボックス本体と、ギヤボックス本体の左右方向一端側から車室に向かって斜め後上方に突出する操舵トルクセンサとを備えており、操舵トルクセンサにはラックバーに噛合するピニオンに接続されたピニオンシャフトが支持される。かかるステアリングギヤボックスのギヤボックス本体をフロントサブフレームの前縁部に沿って固定したとき、操舵トルクセンサをフロントサブフレームの前縁部と干渉せずに配置すべく、フロントサブフレームには下面が開放する逆U字状の開口が形成される。
【0005】
しかしながら、フロントサブフレームの開口の近傍にはフロントサスペンション装置のサスペンションアームが支持されるため、前記開口により剛性が低下したフロントサブフレームがサスペンションアームから入力される荷重で変形する虞があった。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ステアリングギヤボックスの操舵トルクセンサを収納する開口が形成されたフロントサブフレームの剛性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車体の前部下面に取り付けられるフロントサブフレームの前縁部にステアリングギヤボックスを支持するとともに、前記フロントサブフレームの左右両側部にサスペンションアームを支持する車両用フロントサブフレーム構造であって、前記前縁部の左右一端側に、前記ステアリングギヤボックスの操舵トルクセンサが収納される一部開放の開口を形成し、前記開口の開放部を前記サスペンションアームの支持部に接続される連結部により閉じたことを特徴とする車両用フロントサブフレーム構造が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記連結部は前記フロントサブフレームと一体にダイキャスト成形され、前記フロントサブフレームの開口および前記サスペンションアームの支持部は略同じ高さに配置され、前記連結部は前記開口に臨む部分に円弧状の補強リブを備えることを特徴とする車両用フロントサブフレーム構造が提案される。
【0009】
尚、実施の形態の前部クロスメンバ13は本発明の前縁部に対応し、実施の形態のサイドメンバ15は本発明の側部に対応し、実施の形態の取付ブラケット15bは本発明の支持部に対応し、実施の形態のロアアーム22は本発明のサスペンションアームに対応し、実施の形態の下部開口29は本発明の開口に対応する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の構成によれば、フロントサブフレームの前縁部にステアリングギヤボックスが支持され、フロントサブフレームの左右両側部にサスペンションアームが支持される。フロントサブフレームの前縁部に形成した一部開放の開口にステアリングギヤボックスの操舵トルクセンサを収納すると、開口によりフロントサブフレームの剛性が低下してサスペンションアームから大きな荷重が入力すると変形する虞があるが、開口の開放部をサスペンションアームの支持部に接続される連結部により閉じたので、部品点数や重量を増加させることなく開口近傍のフロントサブフレームの剛性を高めて変形を防止することができる。
【0011】
また請求項2の構成によれば、連結部をフロントサブフレームと一体にダイキャスト成形したので、連結部を別部材で構成してフロントサブフレームに結合する場合に比べて部品点数を削減することができる。またフロントサブフレームの開口およびサスペンションアームの支持部を略同じ高さに配置したので、サスペンションアームの支持部に入力される荷重をフロントサブフレームの本体部および連結部に分散して伝達することができるだけでなく、連結部が開口に臨む部分に円弧状の補強リブを設けたので、連結部の破断強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フロントサブフレームを斜め下方から見た斜視図。
【図2】図1の2方向矢視図(フロントサブフレームの下面図)。
【図3】図1の3方向矢視図(フロントサブフレームの正面図)。
【図4】図2の4部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜図4に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1〜図4に示すように、自動車の車体前部の左右両側に前後方向に配置される左右一対のフロントサイドフレーム11,11の下面に、フロントサブフレーム12が着脱自在に支持される。フロントサブフレーム12は四角枠状の部材であって、車幅方向に延びる前部クロスメンバ13と、前部クロスメンバ13の後方において車幅方向に延びる後部クロスメンバ14と、前部クロスメンバ13および後部クロスメンバ14の車幅方向外側を前後方向に延びる左右一対のサイドメンバ15,15とを備える。フロントサブフレーム12は、左右のサイドメンバ15,15の前部および前後方向中間部の4カ所に設けた車体取付部15a…において、フロントサイドフレーム11,11にボルトにより締結される。
【0015】
フロントサブフレーム12には、図示せぬエンジンおよび図示せぬトランスミッションの他に、その前部クロスメンバ13の前面にラックアンドピニオン式のステアリングギヤボックス16が2本のボルト31,31で固定されるとともに、その左右両側部にフロントサスペンション装置17,17が支持される。ステアリングギヤボックス16はラックバーが左右摺動自在に支持されたギヤボックス本体部16aと、ギヤボックス本体部16aの左端(左ハンドル車の場合)から斜め後上方に突出する操舵トルクセンサ16bと、ギヤボックス本体部16aの内部に収納されたラックバーから左右に延出して左右の前輪18,18を転舵するタイロッド19,19とを備える。操舵トルクセンサ16bには、ラックバーに噛合するピニオンから延びるピニオンシャフト16cが収納されており、ピニオンシャフト16cは車室に向かって延びるステアリングシャフト20にカルダンジョイント21を介して接続される。
【0016】
各々のフロントサスペンション装置17はダブルウィシュボーン式のもので、A型のロアアーム22およびA型のアッパーアーム(図示せず)を備える。ロアアーム22の基端側前部は、サイドメンバ15の前部に二股に形成された取付ブラケット15b,15cの間にゴムブッシュジョイント32を介して枢支されるとともに、ロアアーム22の基端側後部は、サイドメンバ15の後部にゴムブッシュジョイント33を介して枢支される。前記ロアアーム22の先端と、基端側をフロントサブフレーム12の側部に支持されたアッパーアーム(図示せず)の先端と、タイロッド19の先端とが前輪18のナックル26にボールジョイントを介して枢支される。またスタビライザ27の端部が上下方向に配置されたリンク(図示せず)を介してナックル26に接続される。
【0017】
フロントサブフレーム12のサイドメンバ15には上部開口28が上下方向に貫通し、フロントサブフレーム12の前部クロスメンバ13およびサイドメンバ15の接続部には下部開口29が略前後方向に貫通する。アルミニウムダイキャスト製のフロントサブフレーム12は概ね水平面内に延びる平坦な部材であるため、それを成形する金型は上下に分割される(図3の金型分割線参照)。よって上部開口28は中子を用いずに上型および下型だけで成形可能であるが、下部開口29は金型に対して前後方向にスライドする中子を用いて成形される。
【0018】
前記下部開口29は、本来はフロントサブフレーム12のダイキャスト時の型割りの都合で一部が開放する形状のものであるが、本実施の形態では、その開放部がL字状に連なる板状の連結部30A,30Bにより覆われて閉断面となっている。即ち、水平方向に延びる連結部30Aは、左右方向外側に延びてロアアーム22の基端側前部を支持する前側の取付ブラケット15aに接続される。また前記連結部30Aは左右方向外端から上方に延びる連結部30Bは、下部開口29と前記取付ブラケット15aとの間に介在する。
【0019】
図3に明瞭に示すように、正面視で下部開口29の中心と取付ブラケット15bにロアアーム22の基端側前部が枢支される位置(ボルト孔15d参照)とは略同じ高さにある。また連結部30A,30Bが下部開口29に臨む部分、具体的には下部開口29の下面および車幅方向外側面には板状の補強リブ29aが円弧状に形成される。
【0020】
尚、フロントサブフレーム12には、前記上部開口28および前記下部開口29とは別個の使用されない上部開口28′および前記下部開口29′が左右対称に形成されているが、これは同じフロントサブフレーム12を左ハンドル車両と右ハンドル車両とに兼用するためのものである。
【0021】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0022】
ステアリングギヤボックス16をフロントサブフレーム12の前部クロスメンバ13に固定すると、ステアリングギヤボックス16のギヤボックス本体部16aから後上方に突出する操舵トルクセンサ16bが、フロントサブフレーム12の下部開口29の内部に収納される。操舵トルクセンサ16bから後上方に突出するピニオンシャフト16cは下部開口29を貫通し、その上端にカルダンジョイント21を介して接続されたステアリングシャフト20は、サイドメンバ15の上部開口28を下から上に貫通して車室内に延出する。
【0023】
さて、前輪18が路面から受ける荷重の一部は、ナックル26、ロアアーム22およびサイドメンバ15の二股状の取付ブラケット15b,15cを介してフロントサブフレーム12のサイドメンバ15に伝達され、そこから前部クロスメンバ13に伝達される。このとき、サイドメンバ15および前部クロスメンバ13の接続部に一部開放した下部開口29が形成されていると仮定すると、その下部開口29によってフロントサブフレーム12の剛性が低下して変形し易くなる問題がある。しかしながら、本実施の形態によれば、下部開口29の開放部が連結部30A,30Bによって覆われることで、下部開口29が開放部を持たない閉断面構造となり、しかも連結部30A,30Bはロアアーム22の二股になった取付ブラケット15b,15cの一方の取付ブラケット15bに接続されるので、下部開口29の近傍の剛性を高めてロアアーム22から入力される荷重に対するフロントサブフレーム12の変形を効果的に防止することができる。
【0024】
また下部開口29の中心と取付ブラケット15bにロアアーム22の基端側前部を枢支する位置(図3のボルト孔15d参照)とは略同じ高さにあるため、取付ブラケット15bに入力された荷重を、下部開口29の上側の経路(連結部30A,30Bを通らない経路)と、下部開口29の下側の経路(連結部30A,30Bを通る経路)とに略均等に配分して前部クロスメンバ13に伝達することができ、前記荷重の一部を連結部30A,30Bに分担させてフロントサブフレーム12の変形を一層効果的に抑制することができる。しかも下部開口29に臨む連結部30A,30Bに円弧状の補強リブ29aを設けたので、その補強リブ29aで下部開口29の周囲の剛性を更に高めることができる。
【0025】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0026】
例えば、実施の形態では連結部30A,30Bをフロントサブフレーム12と一体に成形しているが、連結部30A,30Bをフロントサブフレーム12と別部材で構成してフロントサブフレーム12に溶接やボルト締めで結合しても良い。
【0027】
また実施の形態ではフロントサブフレーム12はアルミニウムダイキャスト製であるが、板金プレス製であっても良い。
【符号の説明】
【0028】
12 フロントサブフレーム
13 前部クロスメンバ(前縁部)
15 サイドメンバ(側部)
15b 取付ブラケット(支持部)
16 ステアリングギヤボックス
16b 操舵トルクセンサ
22 ロアアーム(サスペンションアーム)
29 下部開口(開口)
29a 補強リブ
30A 連結部
30B 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部下面に取り付けられるフロントサブフレーム(12)の前縁部(13)にステアリングギヤボックス(16)を支持するとともに、前記フロントサブフレーム(12)の左右両側部(15)にサスペンションアーム(22)を支持する車両用フロントサブフレーム構造であって、
前記前縁部(13)の左右一端側に、前記ステアリングギヤボックス(16)の操舵トルクセンサ(16b)が収納される一部開放の開口(29)を形成し、前記開口(29)の開放部を前記サスペンションアーム(22)の支持部(15b)に接続される連結部(30A,30B)により閉じたことを特徴とする車両用フロントサブフレーム構造。
【請求項2】
前記連結部(30A,30B)は前記フロントサブフレーム(12)と一体にダイキャスト成形され、前記フロントサブフレーム(12)の開口(29)および前記サスペンションアーム(22)の支持部(15b)は略同じ高さに配置され、前記連結部(30A,30B)は前記開口(29)に臨む部分に円弧状の補強リブ(29a)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の車両用フロントサブフレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−20464(P2011−20464A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164516(P2009−164516)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】