説明

車両用交流回転電機

【課題】
抵抗値を小さくしたまま冷却効率のよい車両用交流発電機を提供することである。
【解決手段】
1つの固定子磁極17に固定子巻線5が連続して巻装される集中巻き構造の固定子4と、固定子4にギャップを介して対向配置され、複数の爪形磁極13を有する回転子3とを有し、回転子3は、回転と同期して回転する冷却ファン7を有し、固定子4は、固定子巻線5に電気的に接続する接続部を有し、接続端部は、冷却ファン7によって発生する冷却風が当たるように固定子4の軸方向端部に配置されている車両用交流回転電機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用交流回転電機の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1は集中巻で構成されるモータにおいてロータの軸端面に設けたファンにより冷却風を発生させ、コイル間の隙間に風を流して冷却する構造が開示されている。特許文献2は1つのファンで文献1と同様にコイルの隙間に風を流して冷却する構造と、更に外扇ファンと併用して冷却効果を上げるものが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−20490号公報
【特許文献2】特開2004−274800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
集中巻は、コイルエンド長を短くできるため抵抗値削減に効果のある巻線方法である。しかし、コイルエンドが短いためコイルエンドを用いた冷却効果が期待できないことから固定子巻線間に風を通して冷却を促進することが考えられている。しかし、風の通路を造るためには巻線の占積率を高めることができず、巻線の占積率と冷却性はトレードオフの関係となっている。そのため風を通すためには抵抗値が大きくなる問題点があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、抵抗値を小さくしたまま冷却効率のよい車両用交流発電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では主冷却手段を巻線間に風を流して冷却するのではなく、巻線部から軸方向に電気的に接続された接続板を設け、その接続板を冷却板として用いることで巻線の冷却を促進させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、巻線部の占積率を高めて抵抗値を小さくできるように固定子巻線を並列接続で構成し、並列接続を電気的に接続する連結板を設け、その連結板を冷却板として用いることで、抵抗値を小さく、また、冷却用に新たな冷却板を用いることなくコンパクトな固定子巻線冷却手段を提供することができ、高効率の車両用回転電機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施例について図1〜図22を用いて説明する。
【0009】
図1は本発明の一実施例の車両用交流回転電機100について示したものである。
【0010】
回転子3はシャフトの中心部に爪形磁極13とその中心部に界磁巻線12が配置され、シャフトの先端にプーリ1が取り付けられており、その反対側には前記界磁巻線12に給電するためのスリップリング9から構成されている。更に回転子3の爪形磁極13の両端面には回転と同期して回転する冷却ファンのフロントファン7Fとリアファン7Rが設けられている。また、爪磁極間には永久磁石16が界磁巻線磁束を増加させる補助励磁の役目を果たしている。一方、固定子4は固定子磁極17と固定子巻線5から構成され、前記回転子3と僅かなギャップを介して対向配置されている。固定子4はフロントブラケット14とリアブラケット15によって保持され、両ブラケットと回転子3はベアリング2Fおよび2Rで回転可能に支持されている。先に述べたスリップリング9はブラシ8と接触し電力を給電できる構成となっている。固定子巻線5は3相巻線で構成されており、中性点はプーリ側に設けた中性点連結板20に接続され、更に各コイルの口出し線は、各相の連結板21に一旦接続され整流回路11には各相連結板21からの口出し線が接続されている。整流回路11はダイオード等の整流素子から構成され、全波整流回路を構成している。例えばダイオードの場合、カソード端子はターミナル6に接続されている。また、アノード側の端子は車両用交流回転電機本体に電気的に接続されている。リアカバー10は整流回路11の保護カバーの役割を果たしている。
【0011】
次に、発電動作について説明する。エンジン(図示せず)と車両用交流回転電機は一般的にはベルトで連結されている。車両用交流回転電機はプーリ1でエンジン側とベルトで接続され、エンジンの回転と共に回転子3は回転する。回転子3の爪形磁極13の中心部に設けられた界磁巻線12に電流が流れることで、この爪形磁極13が磁化され、回転することで固定子巻線5に3相の誘導起電力を発生する。その電圧は先に述べた整流回路11で全波整流され、直流電圧が発生する。この直流電圧のプラス側はターミナル6と接続されており、更にバッテリー(図示せず)と接続されている。詳細は省略するが、整流後の直流電圧はバッテリーを充電するのに適した電圧となるように、界磁電流は制御されている。
【0012】
前記冷却ファンであるフロントファン7Fとリアファン7Rの外径側には、固定子巻線5から接続される中性点連結板20および各相連結板21が配置されている。中性点連結板20及び各相連結板21はリング状に構成されたものであるために、ファンの風は軸方向から吸入された後、中性点連結板20及び相連結板21の隙間を通って外径方向に吹き出される。しかし、コイルエンドとの風の干渉がなく通風抵抗が変わらないため、風音を小さくすることができる構造となっている。
【0013】
図2を用いて固定子4の構成について詳細に説明する。固定子4には中心方向に向いて固定子磁極17が設けられている。この固定子磁極17には1つの固定子磁極17に対して1つの固定子巻線5が巻装されている。固定子巻線5は図に示したように電気的な位相によって3相に分けて接続されている。同相巻線はこの図の場合10個の固定子巻線5が並列に接続されている。この巻線と電気角で120度の位相差を持つ他の相巻線も同様に並列に接続されている。これらの巻線の中性点は固定子巻線5の軸方向に中性点連結板20で電気的に繋がっている。接続部は溶接や加締め半田付け等で行われ、中性点連結板20は電気的に各巻線を繋ぐ役割の他、冷却板としての機能を持たせるために銅板やアルミといった電気抵抗の低いものを使用する。また、中性点連結板20は図示したようにリング状の形状を持ったものである。更に、固定子巻線5のコイルエンド上部に固定されても良い。この場合、中性点連結板20と固定子巻線5の接触面は電気的な短絡を防止できるように中性点連結板20に絶縁処理を施すことが望ましい。更に、冷却効果を促進できるようにフィンを設けても良い。また、中性点連結板20と反対側には、各相の固定子巻線5の口出し線が各相を電気的に接続するU相連結板21U,V相連結板21V,W相連結板21Wに設けられている。固定子巻線5は各相の巻線が並列に接続されるように、電気角で同位相の巻線同士が各相の連結板に接続されている。この場合の各相連結板は電気的な接続と共に巻線の冷却を促進できる放熱板としての機能も持っている。各相連結板はリング状に構成されていることから整流ダイオードが配置された位置に合うように口出し線を周方向にどこでも設けることができるため、今までのコイルエンドの上を配線が渡る様な必要が無くなっている。この図では、例えばW相口出し線22Wは近い場所に2つ設けているが、各相連結板の電流バランスを考えた場合にはなるべく機械的な角度で180度とすることが望ましい。
【0014】
以上説明したように、中性点連結板20,U相連結板21U,V相連結板21V,W相連結板21Wはそれぞれが同一電位であると共に、固定子巻線5の熱を軸方向に引き出し冷却する機能を持ったものとなっている。また、それぞれの連結板はリング状の形状で構成されており、回転子3に設けられたフロントファン7F,リアファン7Rの回転によって発生する風の流れを均一に通すことができる。このため、固定子磁極数に起因する次数の騒音が発生しない。各相連結板21も中性点連結板20と同様に銅板やアルミ板で電気抵抗が低くて熱伝導の良いもので構成されており、中性点連結板21と各相連結板21とは、プーリ側と反プーリ側に分けて配置されている。これにより両面からの冷却が可能になり冷却効率の向上が図れる。また、どちらの連結板にも冷却効果を促進できるフィンや冷却面積が増加できる穴を設けることで冷却効果を高めることができる。
【0015】
図3に、先に述べた固定子巻線5の並列接続図を示す。同相巻線を全て並列に接続した構成を採用している。この様に、各相の固定子巻線を並列に接続することの有効性について説明する。
【0016】
まず、第一の効果としては、この図の場合U相巻線はU1〜U10の巻線で構成されているが、例えば、この図ではU10巻線が何らかの理由により断線が発生した場合、残りの9個の巻線で発電が可能である。例えば、U相巻線を直列に接続して構成した一般的な巻線の場合には、1つの巻線に断線が発生した場合には、U相巻線の発電が停止してしまうため発電機としての機能が停止する可能性がある。しかし、並列接続の場合には残りの巻線に流れる電流分担が増加するが発電機能を維持することができる効果が有る。
【0017】
第二の効果としては、直列巻線で構成する場合には1つの巻線数が3ターンの場合、同相巻線数が10個となる場合直列巻数は30ターンとなる。1つの巻線数を4ターンにした場合には直列巻数が40ターンとなり1.3倍の巻数比となってしまう。従来の分布巻で構成される12Vの車両用交流回転電機ではバッテリー電圧の関係から一磁極あたりの巻数はY結線換算で3〜6ターンの間で発電電流の大きさから決定される。そのために、選択できる巻数は整数となるため3,4,5,6と△結線を採用しY結線換算の3.46,4.04,4.62,5.2,5.77の中から選ばなければならない制約があった。しかし、本実施例で採用した全巻線を並列接続した場合には、1つの磁極に巻装した巻数が30ターンの場合にはY結線換算で3ターンに相当し、更に巻数を29ターンとすることで、Y結線換算の巻数を2.9ターンに設計することが可能になる。よって、この実施例では20極30スロットの集中巻で構成される巻線方式では、0.1ターン毎の巻線仕様が選択でき巻線設計の選択肢が大幅に改善される効果がある。
【0018】
図4にその様子を示す。図4では横軸が回転数、縦軸が発電電流である。例えば、図中に示した星印の発電電流が要求値の場合A〜Eの巻数に対する発電電流の様子の例を示したものである。例えば、Y結線の5ターンで構成されたEの波形の場合、低速のN1回転では目標電流I1をクリアーしているが、高速側のN2回転数では、巻数が多いためインダクタンスの増加で発電電流が低く抑えられる特性となっている。また、Y結線4ターンで構成した場合のBの曲線では、N2回転数の電流は目標値をクリアーするが、巻線数が少ないため、低速側のN1回転数での発電電流が不足することになる。そこで、従来の場合Y結線換算で4ターンと5ターンの中間の巻数となる△結線の8ターンを採用した場合、Y結線換算で4.62ターンとすることができ、図中に示すDの曲線とすることができる。しかし、この場合において、低速側N1回転数での電流はクリアーしているが、高速側N2で若干の電流不足が発生してしまう。この様に、Y結線と△接線で選択できないような巻線を今回示した全並列巻線を採用することで発電電流の要求値にマッチングしたCの曲線に示したような巻線仕様を選択できるようになる。
【0019】
以上の説明では、発電時の特性についてのみ言及したが、車両用回転電機ではアイドルストップ時にエンジン始動も行うためモータ特性も要求される。そのため、モータ特性と発電特性のどちらにも適した巻数に設定する必要があり従来の巻線方法では離散的な巻数選択しかできなかった。本提案の全並列方式を採用すれば自由度の高い巻線の選択が可能になる。
【0020】
第三の効果について図5を用いて説明する。今回採用した集中巻で中性点をプーリ側、相の連結板を反プーリ側とすることで0.5ターンの巻数を設定できる。今回示した全並列巻線と併用することで更に0.05ターン毎の巻数選択が可能になる。よって、要求性能に最も近い巻線数を設定できることから設計が簡略化される。
【0021】
第四の効果について図6を用いて説明する。今回固定子巻線5を全並列巻線とすることで1コイルの線径を細くすることが可能になる。よって、固定子巻線を固定子磁極に直巻きする場合スロット開口部幅を狭くすることができる。図6の点線で示したものは回転子側の磁気回路が均一の場合にギャップ中心の磁束密度の分布を模式的に示したものである。この様に、スロット開口部が広い場合と狭い場合では磁束密度の変動幅に差ができる。スロット開口部が狭い場合には変動幅が小さくなるため固定子が受ける力の変動も小さくなり結果的に磁気音と呼ばれるスロット数に起因する電磁音を低減することができる。また、図では示さなかったが、巻線内で発生する渦電流損に関しても細線を採用したことで低減できる効果が有る。
【0022】
図7はプーリ側のフロントファンに軸流ファン7A、反プーリ側に遠心ファンを採用した構成について示したものである。フロントファン7Aは羽根枚数が11枚で不等ピッチで翼が配置されたものである。枚数に11枚を採用したのは回転子の極数や固定子の個数等の数と一致させないようにしたためで、更に翼ピッチを均一にしないことで風音に11次成分の次数を和らげるためである。また、反プーリ側のファンは遠心ファンであり、同様に翼ピッチは不等ピッチとなっている。例えば、回転子3が図中に示した方向に回転した場合、矢印で示す風が発生する。フロントファン7Aは回転子の外径よりも大きく、固定子巻線5の近辺に翼が配置される構成となっており、冷却風は巻線間の隙間を通って反プーリ側に風が流れるようになっている。また、反プーリ側のファンは遠心ファンなので回転により軸方向からの風を外周方向に吹き出す様になっている。フロントファン7Aは中性点連結板20の内周側にあるため回転により中性点連結板20も同時に冷却できるようになっている。図示していないが、中性点連結板20を軸方向に延ばせば風のガイドと兼用することができるため更なる冷却向上が可能になる。図7に示した第二の実施例は反プーリ側に配置された各相連結板をラッパ状に構成したものを示したものである。この様に、風の向きを変えることができると共に冷却面積の拡大が図れるため良好な冷却効果が期待できる。また、図示していないが、このラッパ形状の板に穴を開けたり、メッシュ状の金属で構成することで冷却面積の拡大が図れる。
【0023】
次に回転子3のファンの形状について詳細に説明する。図7に示した各ファンは図8に示した構造となっている。フロントファン7Aは先にも述べたように回転子3の外径よりも大きく、翼面が固定子巻線の径とほぼ同等な位置に配置されている。回転子3の爪磁極間には永久磁石16が配置されているため、爪磁極間に風を通すことが難しいため、固定子巻線間の隙間を通す構造とした。固定子巻線が高密度に巻かれて風の通る隙間が無い場合には、コイルエンド表面に風を当てる役割を果たすと同時に、中性点連結板20を冷やす構造になっている。リアファン7Rは回転子外径とほぼ等しい円盤状のベースプレート7Raに複数のフィン7Rbを設けた遠心ファン構造となっている。ベースプレート7Raはフロントファン7Aとリアファン7Rのフィン7Rbが発生する風の流れが干渉しないように設けたものである。その結果、2つの風の干渉による風音の低減が図れるものである。
【0024】
図9は回転子の爪磁極形状について示したものである。本実施例の車両用回転電機はエンジン始動時にモータ動作を行い、エンジン始動後に発電機として動作する機能を持ったものである。そのためには、爪磁極間に永久磁石を配置して出力トルク、発電電流の増加を実現する必要がある。磁石の種類に関してはフェライト磁石やネオジム磁石を要求される性能から決定することになる。また、永久磁石16に過度の衝撃が加わった場合には割れや欠けが発生する可能性があるため、永久磁石16の外周側を磁石カバー27で囲んだ構成である。磁石カバー27に覆われた永久磁石16は爪磁極の側面に設けられた溝加工部25に沿って挿入されるようになっている。磁石カバー27には内周側に配置される部分に2つの爪部27a,27bが設けられており、挿入後にこの爪部が磁石保持部26と反対側の磁石保持部26の隙間に位置決めできるようになっている。永久磁石16の径方向厚みに関しては爪磁極に磁石保持部26が残せる厚みとすることで、最大応力が発生する部分の強度が下がらないように外径側の爪幅W1と内径側の爪幅W2を同じ幅で確保できるようにした。
【0025】
次に、図10を用いて固定子4とブラケットとの固定について説明する。固定子4の外径側の両軸端部には段付き部が設けられている。この段付き部23は、ブラケットとの位置決め用に設けたもので固定子4の薄板鉄板の厚み単位で軸方向の長さが決定されている。ブラケットと固定子4の突き合わせ面は固定子4の軸方向長さの最も長い部分で固定され最外周部のブラケットと固定子4の間には隙間を設けて組みたてられている。発電動作時には固定子4は回転子3に設けられた爪形磁極13Nと13Sから径方向に力の変動を受けることになる。そのときに、固定子4は径方向や軸方向に変形し、その変形によりブラケットに振動が伝わり騒音の発生源となっている。今回、その変形による振動をブラケットに伝わりにくくするために、先に述べたようにブラケットと固定子の嵌合部に隙間を設けることにした。更に、回転子3と固定子4のギャップ面に固定子の最外周に設けた段付き部に相当する内周面にも主ギャップ長に相当する長さの段付き部23を設け、固定子端部での力の変動を受けにくいようにしたものである。これにより、ブラケットに伝わる振動を低減でき騒音の発生を低く抑えることができる。
【0026】
図11は別の方式で固定子巻線を構成した実施例を示す。この場合も、固定子巻線は集中巻で構成されることは同じで、巻線を同相巻線直列接続することで1磁極あたりの巻数を減らした場合である。図面では1磁極あたりの巻数を3ターンとしプーリ側から見た正面図を示す。構成については今までに述べたものと同様なため詳細な説明は省略する。回転部としてはシャフトを中心に回転子3がCW方向に回転し軸流ファンであるフロントファン7Aが回転することで冷却風が固定子巻線5間の隙間を通るようにフロントファン7Aの最外径が固定子巻線5のエンドコイル表面を旋回する位置関係で構成されている。回転子3はN極に励磁される爪形磁極13NとS極に励磁される13Sおよび爪磁極間に永久磁石16が設けられている。そのために、爪形磁極間には風が通りにくくなっているため先に述べたように、フロントファン7Aの冷却風を固定子巻線5間の隙間もしくは巻線表面での旋回風による冷却が有効な手段である。
【0027】
図12は図11に示した巻線の接続部を示した図である。固定子巻線5は各相の巻線が直列に接続されるように反プーリ側で各磁極をループするように接続されている。また、3相巻線の各相の口出し線および中性点(図示せず)が設けられている。図13に固定子巻線5の接続部の拡大図を示す。本実施例の固定子巻線5はプーリ側からU字状の電線を1つの極に対して径方向に3段重ねて挿入し、中心部の長さが等しい巻線を上下の巻線と接続する。また、外径側と内径側に挿入したU字状の足の長さの異なる電線で、長い方の電線を周方向に折り曲げて同相巻線と接続することで連続した直列巻線を構成することができる。
【0028】
この場合、それぞれの接続に関して図13に示した第一接続部51と第二接続部52が長さの等しい電線同士の接続箇所となる。製作上では、この第一接続部51と第二接続部52をまず溶接で固定した後、その接続部の軸方向で第一接続部51と第二接続部52を跨ぐ格好で第三接続部53により渡り部が構成される様になっている。この接続方法によりコイルエンド部の干渉を低減しコイルエンド部の長さを極力短くできるようになっている。その結果、1磁極に巻き付けられた巻線の3個の内、上下の2巻線のコイルエンドが軸方向に接続部として飛び出し、回転子に設けたリアファン7Rによって冷却される構成である。
【0029】
図14は回転子の極数が20極で固定子磁極17の数が24で構成される集中巻の他の実施例である。固定子磁極17の電気的な位相は150度間隔で配置されている。その結果、例えば、1番の固定子巻線に対して2番で示した固定子巻線は巻き方向を逆にすれば結果的に1番巻線に対して電気角で30度の位相差を持たせることができる。そこで、奇数巻線から構成される第一巻線グループと偶数巻線で構成される第二巻線グループで、電気的に位相が同相となる巻線を並列に接続し、それぞれの巻線で3相スター結線で繋いだものを示した。第一巻線と第二巻線は中性点が独立した3相スター結線でそれぞれ整流ブリッジ31で整流され直流側で接続されている。また、直流側にはバッテリー30が接続されている。図中巻線にドットを示しているがこのドットは巻き方向を示したもので同方向を示しているものは同じ方向に巻線が巻かれている。この図の場合、独立した中性点が2つとなるために中性点連結板20は2つ必要になる。また、3相巻線も独立して2つ必要になるため計8個の連結板が必要となる。
【0030】
図15は先に説明した20極24スロットで第一巻線と電気角で30度の位相差を持つ第二巻線を直列に接続して3相スター結線を構成した場合を示したものである。この場合は、整流素子は3相となるが連結板はU相で2個、V相で2個、W相で2個に加え中性点連結板20の計7個が必要になる。
【0031】
図16にその様子を示す。その他の構成に関しては今までの構成と同様なため詳細な説明は省略する。プーリ側には21U1,21V1,21W1の相連結板が配置され、反プーリ側に中性点連結板、21U2,21V2,21W2の接続板が軸方向に配置されている。この様に、連結板を多く用いる配線の場合にはプーリ側のフロントファンを遠心ファンとすることで良好な冷却効果を得ることができる。
【0032】
また、図17に示したように、各巻線を2個単位で直列に接続しそれらを連結板で接続することで連結板の数を減らせることができる。図ではスター結線で示したが△結線とすることで中性点連結板20を省略することもできる。△結線の良いところは相電圧の波形がそのまま線間電圧となるため、相電圧波形が台形状になるような集中巻の磁極コンビネーションで構成した場合、線間電圧のリプルを低減できる効果がある。そのため、△結線を用いることで電流リプルも低減でき全波整流による騒音次数の低減を図ることができる。
【0033】
図18に△接線の場合の構成図を示す。その他の構成は今まで述べてきた構成なので構成に関する説明は省略する。図示したように、△結線で接続し反プーリ側に各相の連結板21を設けたことで、プーリ側には連結板が不要になる。その結果、フロントファン7Fを図16に示した遠心ファンからファンの羽根方向を逆に向けた構成とすることで、図に示した矢印の冷却風を得ることができ固定子巻線5の冷却性の向上効果が期待できる。
【0034】
図19は本実施例で使用する回転子3の構成について示したものである。回転子3にはフロントファン7Aとリアファン7Rが設けられている。フロントファン7Aは軸流ファンで構成され回転子の回転により矢印で示した方向に冷却風が流れるような羽根で構成されている。そこで、回転に伴って流れる冷却風が爪磁極表面を流れやすくなるように回転軸に対して爪磁極表面に斜めに溝105を設けたものである。溝の形や本数に関しては性能に影響を及ぼすことから冷却性能と電気的な出力性能のバランスから決めている。冷却風はこの溝105に沿ってプーリ側から反プーリ側に流れる。
【0035】
図20は今まで述べてきた相連結板21や中性点連結板20以外に固定子巻線5の冷却を促進できる冷却促進フィン19をコイルエンド上部に設けた構成を示したものである。冷却促進フィン19はアルミや銅の熱伝導率の高いもので構成され、コイルエンドの端部に熱伝導樹脂18を介して配置されている。冷却促進フィン19には複数のフィンが設けられており、この図では中性点連結板20の内径側に別部材として配置されている。このフィンに冷却風を当てるようにフロントファン7Fが設けられる。今回、中性点連結板20と冷却促進フィン19を別体としたが、冷却促進フィン19を中性点連結板20として一体化しても良い。また、図に示した様にフィンの傾きは、軸の中心に傾けたものではなく、回転子の回転に伴って発生する風に対して冷却風が通りやすいようにフィンの中心軸に対して少し回転子の回転方向とは逆方向に傾けて配置したものとなっている。
【0036】
図21に冷却促進フィン19をプーリ側のコイルエンドに設けた場合を示す。冷却促進フィン19はフロントブラケット14と固定子巻線5の接する部分に熱伝導樹脂18を介して配置されている。熱伝導樹脂18が振動の緩衝材となることで振動による信頼性の低下を防止し更に熱伝導による冷却促進も図れる。
【0037】
図22に最後の実施例について説明する。今まで述べてきた実施例では相連結板21および中性点連結板20は冷却風により主に冷却を行う実施例を示してきた。図22は固定子巻線5を含む中性点連結板20及び相連結板21を熱伝導率の高い樹脂で固め、固定子巻線5で発生した熱を熱伝導樹脂18を介して固定子4の外周部に設けられた冷却水路110に伝える構造を示したものである。主立った構成は空冷式の構造と何も変わるところはなく、固定子外周部に冷却用の水路110が設けられただけである。水冷式の場合には回転子3にファンを設ける必要はないが、設けることで回転子3の冷却効果は向上する。その結果、界磁電流の低下分が少なくなり温時の発電電流が増加する。
【0038】
本実施例によると、固定子巻線の抵抗を低減できる集中巻き構造の車両用交流回転電機において、コイルエンドの冷却性の悪化に対して軸方向に熱の伝達が可能な連結板を設けることで冷却効率の低下を改善できる効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】空冷式車両用回転電機を示す軸方向の断面図。
【図2】固定子の構造を示す斜視図。
【図3】固定子巻線の接続図。
【図4】回転数と発電電流の関係を示すグラフ。
【図5】固定子巻線の口出し位置を説明する図。
【図6】固定子のスロット開口部幅に対するギャップの磁束密度波形を説明する模式図。
【図7】固定子と回転子が組み合わさった斜視図と側面図。
【図8】回転子全体を示した斜視図。
【図9】1つの爪形磁極形状を示した斜視図。
【図10】回転子と固定子の部分断面図。
【図11】回転子と固定子のプーリ側から見た正面図。
【図12】固定子巻線を直列接続した斜視図。
【図13】固定子巻線を直列接続した場合の接続について説明する斜視図。
【図14】電気角で30度の位相差を持った巻線の接続図1。
【図15】電気角で30度の位相差を持った巻線の接続図2。
【図16】空冷式車両用回転電機を示す軸方向の断面図。
【図17】電気角で30度の位相差を持った巻線の接続図3。
【図18】空冷式車両用回転電機を示す軸方向の断面図。
【図19】回転子の爪磁極表面に溝を設けた斜視図。
【図20】固定子巻線の端部に冷却促進ファンを設けた斜視図。
【図21】空冷式車両用回転電機を示す軸方向の断面図。
【図22】水冷式車両用回転電機を示す軸方向の断面図。
【符号の説明】
【0040】
3 回転子
4 固定子
5 固定子巻線
7F フロントファン
7R リアファン
17 固定子磁極
20 中性点連結板
21 相連結板
100 車両用交流回転電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの固定子磁極に固定子巻線が連続して巻装される集中巻き構造の固定子と、
前記固定子にギャップを介して対向配置され、複数の爪形磁極を有する回転子とを有し、
前記回転子は、回転と同期して回転する冷却ファンを有し、
前記固定子は、前記固定子巻線に電気的に接続する接続部を有し、
前記接続部は、前記冷却ファンによって発生する冷却風が当たるように前記固定子の軸方向端部に配置されている車両用交流回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用交流回転電機において、
前記接続部は、前記回転子の一方側に中性点接続部が、他方側に各相接続部が設けられ、前記各相接続部は軸方向に並列に配置されている車両用交流回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用交流回転電機において、
前記接続部は、前記固定子巻線の各相巻線を並列接続するために、電気角で同位相の巻線同士を電気的に接続する各相連結板である車両用交流回転電機。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用交流回転電機において、
前記各相連結板は、前記固定子巻線の口出し線が設けられている車両用交流回転電機。
【請求項5】
請求項3に記載の車両用交流回転電機において、
前記各相連結板は、冷却風の風向を変える機能を持たせた構造としたことを特徴とする車両用交流回転電機。
【請求項6】
請求項1に記載の車両用交流回転電機において、
前記回転子に設けられた前記冷却ファンは、一方側が前記固定子巻線間の風を発生する軸流ファンで、他方側が遠心ファンである車両用交流回転電機。
【請求項7】
請求項6に記載の車両用交流回転電機において、
前記遠心ファンは、複数のフィンが設けられたベースプレートを有し、前記ベースプレートの外径が前記回転子の外径とほぼ同等である車両用交流回転電機。
【請求項8】
請求項1に記載の車両用交流回転電機において、
前記回転子は、前記爪形磁極の側面に溝加工部が設けられており、前記爪形磁極間に外周を磁石カバーで覆われた永久磁石が前記溝加工部に沿って配置され、
前記爪形磁極の内周側には磁石保持部が設けられており、
前記磁石カバーの内周側には爪部が設けられおり、
前記爪部と前記磁石保持部で前記永久磁石の位置決めができる車両用交流回転電機。
【請求項9】
請求項8に記載の車両用交流回転電機において、
前記磁石カバーは非磁性体の薄板を曲げて構成される車両用交流回転電機。
【請求項10】
請求項1に記載の車両用交流回転電機において、
前記固定子磁極は、軸方向端面の内周側及び外周側に段付き部を有する車両用交流回転電機。
【請求項11】
請求項1に記載の車両用交流回転電機において、
前記固定子巻線は、隣り合う前記固定子磁極との電気的位相が30度を実現できる極数とスロット数で構成されており、
基準の磁極に対して電気角で120度と240度の位相をもつ第一巻線群と、基準の磁極に対して30度の位相差をもった第二巻線群とはそれぞれ独立した3相巻線を構成すると共に、それぞれの巻線は並列に接続されている車両用交流回転電機。
【請求項12】
請求項1に記載の車両用交流回転電機において、
前記回転子の前記爪形磁極は、冷却ファンにより発生する風を爪磁極表面に沿って流れやすくするために表面に溝部を設けた車両用交流回転電機。
【請求項13】
請求項1に記載の車両用交流回転電機において、
前記固定子巻線の軸方向端面に冷却促進フィンを設けた車両用交流回転電機。
【請求項14】
請求項13に記載の車両用交流回転電機において、
前記冷却促進フィンは、アルミや銅の熱伝導率の高いもので構成され、熱伝導性の良い樹脂を介して前記固定子巻線の軸方向端面に固定され、
前記冷却促進フィンの傾斜は、冷却ファンの回転方向によって風の流れがスムーズになる方向に傾けて配置されている車両用交流回転電機。
【請求項15】
複数の爪形磁極から構成される回転子と、
1つの固定子磁極に固定子巻線が連続して巻装される集中巻き構造の固定子と、
前記固定子磁極の外周部に設けられた水路とを有し、
前記固定子の軸方向端部は、前記固定子巻線と電気的に接続される接続部を有し、
前記固定子巻線と前記接続部を一体的に熱伝導樹脂で固めた車両用交流回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−136459(P2010−136459A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306949(P2008−306949)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】