説明

車両用制御装置および車両用制御方法

【課題】異音の発生および燃費の悪化を抑制する。
【解決手段】エンジンECUは、第2MGに対するトルク指令値Tm=0であると判定した場合(S100にてYES)、第1MGの回転数の変化量ΔNgを算出するステップ(S102)と、エンジンの目標エンジン回転数および目標トルクを決定するステップ(S104)と、第2MGに対するトルク指令値Tm≠0であると判定した場合(S100にてNO)、予め定められた動作線を用いてエンジンの目標エンジン回転数および目標トルクを決定するステップ(S108)と、決定された目標エンジン回転数および目標トルクに基づいてエンジンを制御するステップ(S106)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と回転電機を含むトランスミッションとを搭載した車両の制御に関し、特に、トランスミッション内に設けられる複数のギヤにおける連続的な歯打ち音の発生の程度に応じて内燃機関の出力を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題対策の1つとして、内燃機関および駆動用電動機からの駆動力により走行するハイブリッド車などが注目されている。このようなハイブリッド車においては、車両の走行状態によっては、駆動用電動機を含むトランスミッションに設けられるギヤの歯打ち音等の異音が発生する場合がある。
【0003】
このような問題に鑑みて、特開2008−201351号公報(特許文献1)は、モータに接続された減速ギヤの歯打ちによる違和感を運転者に与えないようにするとともに燃費の向上を図る車両を開示する。この車両は、第2電動機から入出力される駆動力が所定駆動力範囲内にないと判定されたときには設定された要求パワーと内燃機関に対して課した所定の制約とに基づいて内燃機関から出力すべきトルクおよび回転数からなる目標運転ポイントを設定し設定した目標運転ポイントで内燃機関が運転されるとともに設定された要求駆動力に基づく駆動力が前駆動軸に出力されるよう内燃機関と第1電動機と第2電動機とを制御する制御手段を含む。制御手段は、第2電動機から入出力される駆動力が所定駆動力範囲内にあると判定されたときには設定された要求パワーと内燃機関に対して課した所定の制約とに基づいて設定される運転ポイントからギヤ式動力伝達手段の異音が抑制される方向に移動させた目標運転ポイントを設定し、設定した目標運転ポイントで内燃機関が運転されるとともに設定された要求駆動力に基づく駆動力が駆動軸に出力されるよう内燃機関と第1電動機と前記第2電動機とを制御する。
【0004】
上述した公報に開示された車両によると、ギヤ式動力伝達手段の異音によって運転者に違和感を与えることを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−201351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、内燃機関およびトランスミッションのあらゆる作動のばらつきを考慮して異音の発生を抑制するように内燃機関の目標運転ポイントを設定する場合には、実際には異音の発生の程度が小さいにも関わらず、不必要に内燃機関の目標運転ポイントを燃費特性の良い最適なポイントからずれた位置に設定されるという問題がある。そのため、燃費が悪化する可能性がある。
【0007】
上述した公報に開示された車両においては、このような問題について何ら考慮されておらず、解決することができない。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、異音の発生および燃費の悪化を抑制する車両用制御装置および車両用制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のある局面に係る車両用制御装置は、内燃機関と、内燃機関の動力を用いて発電するための第1回転電機と、車輪に駆動力を発生させるための第2回転電機と、内燃機関と第1回転電機と第2回転電機とを連結する複数のギヤとを含む車両の車両用制御装置である。この車両用制御装置は、複数のギヤにおける連続的な歯打ち音の発生に関連した内燃機関の作動状態、第1回転電機の作動状態および複数のギヤの振動状態のうちのいずれかを示す物理量を検出するための検出部と、物理量に基づいて内燃機関の目標回転数を決定して、目標回転数と内燃機関に対する要求パワーとに基づいて内燃機関の目標トルクを決定するための決定部と、内燃機関の実回転数および実トルクのそれぞれが目標回転数および目標トルクになるように内燃機関を制御するための制御部とを含む。
【0010】
好ましくは、決定部は、物理量と予め定められた関係とに基づいて目標回転数を決定する。予め定められた関係は、物理量が第1の値である場合に決定される第1の目標回転数が、物理量が第1の値よりも大きい第2の値である場合に決定される第2の目標回転数よりも大きくなる関係である。
【0011】
さらに好ましくは、車両用制御装置は、第2回転電機に対するトルク指令値の絶対値が予め定められた値以下であるか否かを判定するための判定部をさらに含む。制御部は、絶対値が予め定められた値以下である場合に、実回転数および実トルクのそれぞれが目標回転数および目標トルクになるように内燃機関を制御し、絶対値が予め定められた値よりも大きい場合に、要求パワーと他の動作線に沿って内燃機関を動作させる場合よりも燃費特性が良くなるように設定された予め定められた動作線とに基づいて内燃機関を制御する。
【0012】
さらに好ましくは、検出部は、物理量として第1回転電機の回転数の変化量を検出する。
【0013】
さらに好ましくは、検出部は、物理量として内燃機関の回転数の変化量を検出する。
さらに好ましくは、検出部は、物理量として複数のギヤを収納する筐体の振動の強度を検出する。
【0014】
この発明の他の局面に係る車両用制御方法は、内燃機関と、内燃機関の動力を用いて発電するための第1回転電機と、車輪に駆動力を発生させるための第2回転電機と、内燃機関と第1回転電機と第2回転電機とを連結する複数のギヤとを含む車両の車両用制御方法である。この車両用制御方法は、複数のギヤにおける連続的な歯打ち音の発生に関連した内燃機関の作動状態、第1回転電機の作動状態および複数のギヤの振動状態のうちのいずれかを示す物理量を検出するステップと、物理量に基づいて内燃機関の目標回転数を決定して、目標回転数と内燃機関に対する要求パワーとに基づいて内燃機関の目標トルクを決定するステップと、内燃機関の実回転数および実トルクのそれぞれが目標回転数および目標トルクになるように内燃機関を制御するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態におけるハイブリッド車両の全体構成を示す図である。
【図2】エンジンの予め定められた動作線を示す図である。
【図3】トルク指令値Tm=0であると判定するための判定幅を示す。
【図4】エンジンの予め定められた動作線とガラ音回避動作線とを示す図である。
【図5】本実施の形態に係る車両用制御装置であるエンジンECUの機能ブロック図である。
【図6】第1MGの回転数の変化量ΔNgと目標回転数Netagとの関係を示す図である。
【図7】振動の強度Vpと目標回転数Netagとの関係を示す図である。
【図8】本実施の形態に係る車両用制御装置であるエンジンECU304で実行されるプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図9】本実施の形態に係る車両用制御装置であるエンジンECU304の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0017】
図1に示すように、車両40は、エンジン2と、トランスミッション8と、駆動輪12と、インバータ16と、蓄電装置18と、第1回転数センサ30と、第2回転数センサ32と、エンジン回転数センサ34と、HV−ECU(Electronic Control Unit)302と、エンジンECU304とを含む。
【0018】
トランスミッション8は、発電および始動用の第1モータジェネレータ(以下、第1MGと記載する)4と、駆動用の第2モータジェネレータ(以下、第2MGと記載する)6と、リダクションギヤ14と、振動ピックアップ36と、動力分割機構100と、リダクションプラネタリギヤ200とを含む。
【0019】
本実施の形態において、車両40は、少なくともエンジン2と駆動用の第2MG6とを搭載した車両であって、エンジン2および駆動用の第2MG6のそれぞれが動力分割機構100およびリダクションプラネタリギヤ200を経由して駆動輪12に直結するハイブリッド車両である。
【0020】
エンジン2は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する内燃機関であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。その制御は、たとえば、マイクロコンピュータを主体とするエンジンECU304によって行なわれる。
【0021】
第1MG4および第2MG6の各々は、たとえば、三相交流回転電機であって、電動機(モータ)としての機能と発電機(ジェネレータ)としての機能とを有する。
【0022】
HV−ECU302には、第1回転数センサ30と、第2回転数センサ32とが接続される。第1回転数センサ30は、第1MG4の回転数Ngを検出する。第1回転数センサ30は、検出した第1MG4の回転数Ngを示す信号をHV−ECU302に送信する。第2回転数センサ32は、第2MG6の回転数Nmを検出する。第2回転数センサ32は、検出した第2MG6の回転数Nmを示す信号をHV−ECU302に送信する。
【0023】
第1MG4および第2MG6の各々は、インバータ16を経由してバッテリやキャパシタなどの蓄電装置18に接続されている。HV−ECU302は、インバータ16を制御することによって、エンジン2の始動時およびエンジン2を動力源とした発電時に第1MG4の出力トルクTaを制御する。さらに、HV−ECU302は、インバータ16を制御することによって、車両40の力行走行時または回生制動時に第2MG6の出力トルクTbを制御する。
【0024】
具体的には、HV−ECU302は、第1MG4の回転数Ng、第2MG6の回転数Nm、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量あるいは車速等に基づいて第1MG4に対するトルク指令値Tgおよび第2MG6に対するトルク指令値Tmを生成する。HV−ECU302は、生成したトルク指令値TgおよびTmが実現されるようにインバータ16を制御することによって、出力トルクTaおよび出力トルクTbの各々を制御する。
【0025】
なお、蓄電装置18とインバータ16との間には、蓄電装置18の電力を昇圧したり、インバータ16の電力を降圧したりするコンバータを設けるようにしてもよい。
【0026】
動力分割機構100は、エンジン2と第1MG4との間に設けられるプラネタリギヤである。動力分割機構100は、たとえば、エンジン2から入力された動力を、第1MG4への動力とドライブシャフト164を介在させて駆動輪12に連結されるリダクションギヤ14への動力とに分割する。
【0027】
動力分割機構100は、第1リングギヤ102と、第1ピニオンギヤ104と、第1キャリア106と、第1サンギヤ108とを含む。第1サンギヤ108は、第1MG4の出力軸に連結された外歯歯車である。第1リングギヤ102は、第1サンギヤ108に対して同心円上に配置された内歯歯車であって、リダクションギヤ14に連結される。第1ピニオンギヤ104は、第1リングギヤ102および第1サンギヤ108のそれぞれに噛合う。第1キャリア106は、第1ピニオンギヤ104を自転かつ公転自在に保持し、エンジン2の出力軸に連結される。
【0028】
すなわち、第1キャリア106が入力要素であって、第1サンギヤ108が反力要素であって、第1リングギヤ102が出力要素である。
【0029】
エンジン2の作動中においては、第1キャリア106に入力されるエンジン2が出力するトルクに対して、第1MG4による反力トルクを第1サンギヤ108に入力すると、これらのトルクを加減算した大きさのトルクが、出力要素である第1リングギヤ102に現れる。その場合、第1MG4のロータがそのトルクによって回転し、第1MG4は発電機として機能する。また、第1リングギヤ102の回転数(出力回転数)を一定とした場合、第1MGの回転数を大小させることにより、エンジン2の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン2の回転数をたとえば燃費が最もよい回転数に設定する制御を、第1MG4を制御することによって行なうことができる。その制御は、HV−ECU302によって行われる。
【0030】
車両40の走行中にエンジン2を停止させている場合には、第1MG4が逆回転しており、その状態から第1MG4を電動機として機能させて正回転方向にトルクを出力させると、第1キャリア106に連結されているエンジン2にこれを正回転させる方向のトルクが作用し、第1MG4によってエンジン2を始動(モータリングもしくはクランキング)させることができる。その場合、リダクションギヤ14にはその回転を止める方向のトルクが作用する。したがって、車両40を走行させるための駆動トルクは、第2MG6の出力するトルクを制御することにより維持でき、同時にエンジン2の始動を円滑に行なうことができる。このようなハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0031】
リダクションプラネタリギヤ200は、リダクションギヤ14と第2MG6との間に設けられるプラネタリギヤである。リダクションプラネタリギヤ200は、第2MG6の回転速度を変速してリダクションギヤ14に伝達する。なお、リダクションプラネタリギヤ200を省略し、第2MG6の出力軸をリダクションギヤ14に直結する構成としてもよい。
【0032】
リダクションプラネタリギヤ200は、第2リングギヤ202と、第2ピニオンギヤ204と、第2キャリア206と、第2サンギヤ208とを含む。第2サンギヤ208は、第2MG6の出力軸に連結された外歯歯車である。第2リングギヤ202は、第2サンギヤ208に対して同心円上に配置された内歯歯車であって、リダクションギヤ14に連結される。第2ピニオンギヤ204は、第2リングギヤ202および第2サンギヤ208のそれぞれに噛合う。第2キャリア206は、第2ピニオンギヤ204を自転かつ公転自在に保持し、回転しないように固定される。
【0033】
リダクションプラネタリギヤ200は、HV−ECU302からの制御信号に基づいて摩擦係合要素を用いてプラネタリギヤの各要素の回転を制限したり、回転を同期させたり、回転の制限や同期を解除したりすることによって、第2MG6の回転速度を1段階あるいは複数の段階で変速してリダクションギヤ14に伝達するものであってもよい。
【0034】
エンジンECU304には、エンジン回転数センサ34が接続される。エンジン回転数センサ34は、エンジン2の回転数を検出して、検出されたエンジン2の回転数を示す信号をエンジンECU304に送信する。
【0035】
HV−ECU302と、エンジンECU304とは、通信バス310を用いて相互に通信可能に接続される。本実施の形態においては、HV−ECU302と、エンジンECU304とは、別個のECUとして説明したが、これらを統合したECUとしてもよい。
【0036】
このような車両40において、エンジンECU304は、予め定められた動作線に沿ってエンジン2が動作するようにエンジン2を制御する。
【0037】
予め定められた動作線は、エンジン2のトルクを縦軸とし、エンジン2の回転数を横軸とした座標平面上に設定された図2の太実線に示す動作線である。予め定められた動作線は、エンジン2のトルクの目標値(以下、目標トルクと記載する)と、エンジン2の回転数の目標値(以下、目標回転数と記載する)との関係を示し、エンジン2を他の動作線で動作させた場合よりも燃費特性が良くなるように設定される。
【0038】
以下に予め定められた動作線を用いたエンジン2の制御について説明する。HV−ECU302は、アクセルペダルの踏み込み量、ブレーキペダルの踏み込み量、車両の速度等に基づいてエンジン2に対する要求パワーPreqを決定して、エンジンECU304に送信する。エンジンECU304は、HV−ECU302から受信した車両40に対する要求パワーPreqの等パワー線(図2の一点鎖線)と、予め定められた動作線との交点Aを特定する。エンジンECU304は、交点Aに対応するトルクTe(0)を目標トルクとして決定し、交点Aに対応する回転数を目標回転数Ne(0)として決定する。エンジンECU304は、エンジン2の実トルクおよび実回転数のそれぞれが決定された目標トルクおよび目標回転数になるようにエンジン2を制御する。
【0039】
なお、エンジンECU304は、決定された目標トルクおよび目標回転数が実現するように、スロットル開度、燃料噴射量および点火時期のうちの少なくともいずれか一つを調整してエンジン2を制御するようにしてもよいし、エンジンECU304によるエンジン2の制御に加えてまたは代えてHV−ECU302を経由して第1MG4の出力トルクTaを制御することによって、決定された目標トルクおよび目標回転数が実現するようにエンジン2を制御するようにしてもよい。
【0040】
しかしながら、このような車両40において、第2MG6に対するトルク指令値Tmがゼロ付近(すなわち、トルク指令値Tm=0を中心とした予め定められた範囲内)になる場合に、トランスミッション8に設けられる複数のギヤにおいて連続的な歯打ち音(以下の説明においては、「ガラ音」と記載する)等の異音が発生する場合がある。
【0041】
このようなガラ音の発生を抑制するために、トルク指令値Tmが予め定められた範囲内である場合と、トルク指令値Tmが予め定められた範囲内でない場合とで、エンジン2の動作線を分けてエンジン2を制御することが考えられる。
【0042】
たとえば、図3に示すように、第2MG6のトルク指令値Tm=0であると判定する判定幅の上限値としてトルク指令値Tm_hを設定し、下限値としてトルク指令値Tm_lを設定する。なお、図3の縦軸は、第2MG6のトルク指令値Tmを示し、図3の横軸は、車速を示す。すなわち、HV−ECU302は、車速の変化に関わらず、第2MG6のトルク指令値Tmが上限値Tm_hと下限値Tm_lとの間である場合に、トルク指令値Tm=0であると判定し、トルク指令値Tmが上限値Tm_hと下限値Tm_lとの間にない場合には、トルク指令値Tm≠0であると判定する。
【0043】
図4に示すように、エンジンECU304は、HV−ECU302においてトルク指令値Tm≠0であると判定された場合には、図4の太実線に示す予め定められた動作線に沿ってエンジン2が動作するようにエンジン2を制御する。なお、図4に示す予め定められた動作線は、図2に示す予め定められた動作線と同一であり、その詳細な説明は繰返さない。
【0044】
一方、エンジンECU304は、HV−ECU302においてトルク指令値がTm=0であると判定された場合には、図4の太破線に示すガラ音回避動作線に沿ってエンジン2が動作するようにエンジン2を制御する。
【0045】
図4の太破線に示すガラ音回避動作線は、トルク指令値Tm=0であると判定された場合に、予め定められた動作線に沿ってエンジン2を動作させる場合よりもガラ音の発生が抑制されるように設定された動作線であって、内燃機関およびトランスミッションのあらゆる作動のばらつきを考慮して設定された動作線である。
【0046】
ガラ音回避動作線は、予め定められた動作線と比較して、エンジン2の回転数がNe(2)以上となる領域においては、エンジン2の回転数の変化に対するエンジン2のトルクの変化が同様になるように設定され、エンジンの回転数がNe(2)よりも小さい領域においては、同一の回転数に対してトルクが小さくなるように設定される。
【0047】
エンジンECU304は、トルク指令値がTm=0であると判定された場合、要求パワーPreqが決定された場合に、要求パワーPreqの等パワー線(図4の一点鎖線)と、ガラ音回避動作線との交点Bを特定する。エンジンECU304は、交点Bに対応するトルクTe(1)を目標トルクとして決定し、交点Bに対応する回転数を目標回転数Ne(1)として決定する。
【0048】
このようにトルク指令値Tm=0であるか否かに応じてエンジン2の2つの動作線のうちのいずれか一方を決定して、決定された動作線に基づいてエンジン2を制御した場合、トルク指令値Tm=0と判定されたときに実際に生じたガラ音の程度が小さいにも関わらず、エンジン2が不必要に予め定められた動作線からずれた動作点で動作されることとなる場合がある。そのため、燃費を悪化させる場合がある。
【0049】
そこで本実施の形態においては、エンジンECU304が、トランスミッション8内の複数のギヤにおける連続的な歯打ち音の発生に関連したエンジン2の作動状態および第1MG4の作動状態および複数のギヤの振動状態のうちのいずれかを示す物理量に基づいてエンジン2の目標回転数Netagを決定して、決定された目標回転数Netagと要求パワーPreqとに基づいてエンジン2の目標トルクTetagを決定して、エンジン2の実回転数Neおよび実トルクTeのそれぞれが目標回転数Netagおよび目標トルクTetagになるようにエンジン2を制御する点に特徴を有する。本実施の形態に係る車両用制御装置は、エンジンECU304によって実現される。
【0050】
本実施の形態においては、上述の物理量が第1MG4の回転数の変化量ΔNgであるとして説明するが、第1MG4の回転数の変化量ΔNgは、上述の物理量の一例であり、特にこれに限定されるものではない。たとえば、上述の物理量は、エンジン2の回転数の変化量ΔNeであってもよいし、トランスミッション8の振動の強度Vpであってもよい。トランスミッション8の振動の強度Vpは、たとえば、トランスミッション8の筐体に設けられる振動ピックアップ36によって検出される。
【0051】
図5に、本実施の形態に係る車両用制御装置であるエンジンECU304の機能ブロック図を示す。エンジンECU304は、トルク判定部350と、変化量算出部352と、第1目標動作点決定部354と、第2目標動作点決定部356と、エンジン制御部358とを含む。
【0052】
トルク判定部350は、第2MG6のトルク指令値Tm=0であるか、Tm≠0であるかを判定する。本実施の形態においては、トルク判定部350は、HV−ECU302からトルク指令値Tmを受信して、受信したトルク指令値Tmに基づいてTm=0であるか、Tm≠0であるかを判定するとして説明するが、たとえば、トルク判定部350は、HV−ECU302から判定結果を受信して、受信した判定結果に基づいてトルク指令値Tm=0であるか、Tm≠0であるかを判定するようにしてもよい。なお、判定方法については、図3を用いて説明したとおりであるため、その詳細な説明は繰返さない。また、トルク判定部350は、たとえば、トルク指令値Tm=0であると判定した場合に、トルク判定フラグをオンするようにしてもよい。
【0053】
変化量算出部352は、トルク判定部350においてトルク指令値Tm=0であると判定された場合に、HV−ECU302から受信する第1MG4の回転数Ngに基づいて第1MG4の回転数の変化量ΔNgを算出する。
【0054】
変化量算出部352は、第1MG4の回転数の単位時間当たりの変化量を変化量ΔNgとして算出するようにしてもよいし、予め定められた時間(たとえば、エンジンECU304の計算サイクルに対応した時間)の変化量を変化量ΔNgとして算出するようにしてもよい。なお、変化量算出部352は、たとえば、トルク判定フラグがオンである場合に、第1MG4の回転数の変化量ΔNgを算出するようにしてもよい。
【0055】
第1目標動作点決定部354は、トルク判定部350においてトルク指令値Tm≠0であると判定された場合に、HV−ECU302から受信するエンジン2の要求パワーPreqと図2の太実線に示した予め定められた動作線とに基づいて目標回転数Netagおよび目標トルクTetagを決定する。具体的には、第1目標動作点決定部354は、要求パワーPreqの等パワーラインと予め定められた動作線との交点に対応する回転数を目標回転数Netagとして決定し、交点に対応するトルクを目標トルクTetagとして決定する。
【0056】
第2目標動作点決定部356は、トルク判定部350においてトルク指令値Tm=0であると判定された場合、変化量算出部352において算出された第1MG4の回転数の変化量ΔNgに基づいて目標回転数Netagを決定する。
【0057】
第2目標動作点決定部356は、第1MG4の回転数の変化量ΔNgと予め定められた関係とに基づいて目標回転数Netagを決定する。予め定められた関係は、図6に示すような第1MG4の回転数の変化量ΔNgと目標回転数Netagとの関係を示すマップである。
【0058】
図6の縦軸は目標回転数Netagを示し、図6の横軸は第1MG4の回転数の変化量ΔNgを示す。すなわち、予め定められた関係は、第1MG4の回転数の変化量ΔNgがΔNg(0)である場合に決定される目標回転数Netag(0)が、第1MG4の回転数の変化量ΔNgがΔNg(0)よりも大きいΔNg(1)である場合に決定される目標回転数Netag(1)よりも大きくなるような関係である。
【0059】
なお、エンジン2の回転数の変化量ΔNeを上述の物理量として検出する場合も同様に変化量ΔNeに基づいて目標回転数Netagを決定することができる。この場合、第2目標動作点決定部356は、たとえば、エンジン2の回転数の変化量ΔNeと予め定められた関係とに基づいて目標回転数Netagを決定することができる。予め定められた関係は、図6に示すマップのうちの縦軸をΔNeに置き換えたようなエンジン2の回転数の変化量ΔNeと目標回転数Netagとの関係を示すマップである。
【0060】
また、トランスミッション8の振動の強度Vpを上述の物理量として検出する場合も同様に振動の強度Vpに基づいて目標回転数Netagを決定することができる。この場合、第2目標動作点決定部356は、振動の強度Vpと予め定められた関係とに基づいて目標回転数Netagを決定することができる。予め定められた関係は、図7に示すような振動の強度Vpと目標回転数Netagとの関係を示すマップである。
【0061】
図7の縦軸は目標回転数Netagを示し、図7の横軸は振動の強度Vpを示す。すなわち、予め定められた関係は、振動の強度VpがVp(0)である場合に決定される目標回転数Netag(2)が、振動の強度VpがVp(0)よりも大きいVp(1)である場合に決定される目標回転数Netag(3)よりも大きくなるような関係である。
【0062】
第2目標動作点決定部356は、目標回転数Netagが決定された場合に、決定された目標回転数Netagとエンジン2に対する要求パワーPreqとに基づいて目標トルクTetagを決定する。具体的には、第2目標動作点決定部356は、要求パワーPreqを目標回転数Netagで除算することによって目標トルクTetagを決定する。
【0063】
エンジン制御部358は、決定された目標回転数Netagと目標トルクTetagとに基づいてエンジン2を制御する。すなわち、エンジン制御部358は、エンジン2の実回転数および実トルクのそれぞれが目標回転数および目標トルクになるようにエンジン2を制御する。エンジン制御部358は、スロットル開度、燃料噴射量、点火時期等を調整したり、HV−ECU302を経由して第1MG4の出力トルクを制御したりすることによって、目標回転数Netagおよび目標トルクTetagが実現されるようにエンジン2を制御する。
【0064】
本実施の形態において、トルク判定部350と、変化量算出部352と、第1目標動作点決定部354と、第2目標動作点決定部356と、エンジン制御部358とは、いずれもエンジンECU304のCPUがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現される、ソフトウェアとして機能するものとして説明するが、ハードウェアにより実現されるようにしてもよい。なお、このようなプログラムは記憶媒体に記録されて車両に搭載される。
【0065】
図8を参照して、本実施の形態に係る車両用制御装置であるエンジンECU304で実行されるプログラムの制御構造について説明する。
【0066】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、エンジンECU304は、トルク指令値Tm=0であるか、Tm≠0であるかを判定する。なお、トルク指令値Tmの判定方法については、上述の図3を用いて説明したとおりであるため、その詳細な説明は繰返さない。トルク指令値Tm=0である場合(S100にてYES)、処理はS102に移される。もしそうでない場合(S100にてNO)、処理はS108に移される。
【0067】
S102にて、エンジンECU304は、第1MG4の回転数の変化量ΔNgを算出する。S104にて、エンジンECU304は、算出された変化量ΔNgに基づいて目標回転数Netagを決定し、決定された目標回転数Netagと要求パワーPreqとに基づいて目標トルクTetagを決定する。エンジンECU304は、図6に示すマップを用いて第1MG4の回転数の変化量ΔNgに基づいてエンジン2の目標回転数Netagを決定する。変化量ΔNgに基づく目標回転数Netagの決定方法については、図6を用いて説明した通りである。そのため、その詳細な説明は繰返さない。
【0068】
S106にて、エンジンECU304は、決定された目標回転数Netagと目標トルクTetagとに基づいてエンジン2を制御する。
【0069】
S108にて、エンジンECU304は、要求パワーPreqと予め定められた動作線との交点に対応するエンジン2の回転数を目標回転数Netagとし、交点に対応するエンジン2のトルクを目標トルクTetagとして決定する。
【0070】
以上のような構造およびフローチャートに基づく本実施の形態に係る車両用制御装置であるエンジンECU304の動作について図9を用いて説明する。
【0071】
図9に示すように、トルク指令値Tm≠0であると判定された場合(S100にてNO)、エンジンECU304は、要求パワーPreqの等パワーライン(図9の一点鎖線)と図9の太実線に示す予め定められた動作線との交点Aに対応する回転数Ne(0)を目標回転数Netagとし、交点Aに対応するトルクTe(0)を目標トルクTetagとして決定する(S108)。エンジンECU304は、エンジン2の実回転数Neおよび実トルクTeのそれぞれが目標回転数Netagおよび目標トルクTetagになるようにエンジン2を制御する(S106)。なお、図9の太実線に示す予め定められた動作線は、図2の太実線に示す予め定められた動作線と同一であるため、その詳細な説明は繰返さない。
【0072】
一方、トルク指令値Tm=0であると判定された場合(S100にてYES)、エンジンECU304は、第1MG4の回転数の変化量ΔNgを算出する(S102)。エンジンECU304は、変化量ΔNgと図6に示すマップから算出される回転数Ne(3)を目標回転数Netagとして決定し、要求パワーPreqと決定された目標回転数Netagとに基づいて算出されるトルクTe(3)を目標トルクTetagとして決定する(S104)。エンジンECU304は、エンジン2の実回転数Neおよび実トルクTeのそれぞれが目標回転数Netagおよび目標トルクTetagになるようにエンジン2を制御する(S106)。
【0073】
トルク指令値Tm=0であると判定された場合に第1MG4の回転数の変化量ΔNgに基づいて目標回転数Netagおよび目標トルクTetagとして決定された動作点Cは、要求パワーPreqの等パワーラインに沿って交点Aと交点Bとの間に位置する。
【0074】
交点Bは、要求パワーPreqの等パワーラインと図9の太破線に示すガラ音回避動作線との交点である。なお、図9の太破線に示すガラ音回避動作線および交点Bは、図4の太破線に示すガラ音回避動作線および交点Bと同一であるため、その詳細な説明は繰返さない。
【0075】
図9に示す複数の楕円形状の領域は、等燃費線であって、内側になるほど燃費特性が良い領域となる。すなわち、動作点Cは、動作点Bよりも燃費特性が良い位置となる。
【0076】
以上のようにして、本実施の形態に係る車両用制御装置によると、第1MGの回転数の変化量ΔNgに基づいてエンジンの目標回転数Netagを決定することによって、ガラ音の発生を抑制するとともに、ガラ音回避動作線に沿ってエンジンを動作させる場合よりも燃費特性の良い動作点でエンジンを動作させることができる。そのため、異音の発生を抑制しつつ、燃費の悪化を抑制する車両用制御装置および車両用制御方法を提供することができる。
【0077】
なお、本実施の形態においてはトルク指令値Tm=0であると判定された場合に第1MGの回転数の変化量ΔNgに基づいて目標回転数Netagを決定するようにしたが、特にこれに限定されるものではなく、トルク指令値Tm=0であるか否かに関わらず第1MGの回転数の変化量ΔNgに基づいて目標回転数Netagを決定するようにしてもよい。
【0078】
また、本実施の形態においては、第1MGの回転数の変化量ΔNgに基づいて目標回転数Netagを決定するとして説明したが、たとえば、第1MGの回転数の変化量ΔNgに基づいて、要求パワーPreqの等パワーラインと予め定められた動作線との交点に対応する回転数に対する補正量を算出して、当該交点に対応する回転数に補正量を加算した値を目標回転数Netagとして決定するようにしてもよい。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
2 エンジン、4,6 MG、8 トランスミッション、12 駆動輪、14 リダクションギヤ、16 インバータ、18 蓄電装置、30,32 回転数センサ、34 エンジン回転数センサ、40 車両、100 動力分割機構、102,202 リングギヤ、104,204 ピニオンギヤ、106,206 キャリア、108,208 サンギヤ、164 ドライブシャフト、200 リダクションプラネタリギヤ、302 HV−ECU、304 エンジンECU、310 通信バス、350 トルク判定部、352 変化量算出部、354,356 目標動作点決定部、358 エンジン制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関の動力を用いて発電するための第1回転電機と、車輪に駆動力を発生させるための第2回転電機と、前記内燃機関と前記第1回転電機と前記第2回転電機とを連結する複数のギヤとを含む車両の車両用制御装置であって、
前記車両用制御装置は、
前記複数のギヤにおける連続的な歯打ち音の発生に関連した前記内燃機関の作動状態、前記第1回転電機の作動状態および前記複数のギヤの振動状態のうちのいずれかを示す物理量を検出するための検出部と、
前記物理量に基づいて前記内燃機関の目標回転数を決定して、前記目標回転数と前記内燃機関に対する要求パワーとに基づいて前記内燃機関の目標トルクを決定するための決定部と、
前記内燃機関の実回転数および実トルクのそれぞれが前記目標回転数および前記目標トルクになるように前記内燃機関を制御するための制御部とを含む、車両用制御装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記物理量と予め定められた関係とに基づいて前記目標回転数を決定し、
前記予め定められた関係は、前記物理量が第1の値である場合に決定される第1の目標回転数が、前記物理量が前記第1の値よりも大きい第2の値である場合に決定される第2の目標回転数よりも大きくなる関係である、請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記車両用制御装置は、前記第2回転電機に対するトルク指令値の絶対値が予め定められた値以下であるか否かを判定するための判定部をさらに含み、
前記制御部は、前記絶対値が前記予め定められた値以下である場合に、前記実回転数および前記実トルクのそれぞれが前記目標回転数および前記目標トルクになるように前記内燃機関を制御し、前記絶対値が前記予め定められた値よりも大きい場合に、前記要求パワーと他の動作線に沿って前記内燃機関を動作させる場合よりも燃費特性が良くなるように設定された予め定められた動作線とに基づいて前記内燃機関を制御する、請求項1または2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記検出部は、前記物理量として前記第1回転電機の回転数の変化量を検出する、請求項1〜3のいずれかに記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記物理量として前記内燃機関の回転数の変化量を検出する、請求項1〜3のいずれかに記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記物理量として前記複数のギヤを収納する筐体の振動の強度を検出する、請求項1〜3のいずれかに記載の車両用制御装置。
【請求項7】
内燃機関と、前記内燃機関の動力を用いて発電するための第1回転電機と、車輪に駆動力を発生させるための第2回転電機と、前記内燃機関と前記第1回転電機と前記第2回転電機とを連結する複数のギヤとを含む車両の車両用制御方法であって、
前記車両用制御方法は、
前記複数のギヤにおける連続的な歯打ち音の発生に関連した前記内燃機関の作動状態、前記第1回転電機の作動状態および前記複数のギヤの振動状態のうちのいずれかを示す物理量を検出するステップと、
前記物理量に基づいて前記内燃機関の目標回転数を決定して、前記目標回転数と前記内燃機関に対する要求パワーとに基づいて前記内燃機関の目標トルクを決定するステップと、
前記内燃機関の実回転数および実トルクのそれぞれが前記目標回転数および前記目標トルクになるように前記内燃機関を制御するステップとを含む、車両用制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−235810(P2011−235810A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110329(P2010−110329)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】