説明

車両用制御装置

【課題】運転者の飲酒状態を検出する装置と、飲酒状態が検出された場合にエンジンの始動を禁止する装置とを備えて、両装置の間で通信をおこなう形態において、通信に操作を加えて飲酒状態検出装置になりすますことが困難な車両用制御装置を提供する。
【解決手段】車両の運転者のアルコールを検出するアルコール検出器と、それがアルコールを検出したらエンジンの始動を禁止するインターロックECUとを備えて、インターロックECUから数値を送信し(S110)、それを受信したアルコール検出器が所定の演算を施して(S210)、演算結果を返信する(S220)。インターロックECUは、演算結果が適切でないならば(S120:NO)、アルコール検出器の認証が失敗したと判断して、アルコール検査を指令しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飲酒運転が大きな社会問題となるなかで、自動車の車両に飲酒運転を防止するシステムを組み込む技術の提案がなされてきている。例えば下記特許文献1には、ステアリングホイールに設けられて、運転者の煩わしさが抑制された飲酒運転防止装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−078708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の飲酒運転防止装置には、運転者の例えば呼気からアルコールを検出する装置と、アルコールが検出された場合にエンジンの始動を禁止する制御装置とを備えて、両装置の間で通信をおこなうといった形態のものがあった。この形態の場合、ノートパソコン等を制御装置に接続して、アルコール検出装置になりすまして飲酒していないとの情報を制御装置に送信することによって、飲酒した人間が自動車を運転してしまう可能性があった。従来の飲酒運転防止装置では、この種のなりすましに対する対策はとられていなかった。
【0005】
そこで本発明が解決しようとする課題は、上記問題点に鑑み、運転者の飲酒状態を検出する装置と、飲酒状態が検出された場合にエンジンの始動を禁止する装置とを備えて、両装置の間で通信をおこなう形態において、通信に操作を加えて飲酒状態検出装置になりすますことが困難な車両用制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明に係る車両用制御装置は、車両の運転者が飲酒状態にあるか否かを検出する検出手段と、前記車両のエンジンが停止した状態において、前記検出手段の検出結果の情報を通信を介して取得した場合に、その検出結果が運転者が飲酒状態にあるとの情報であれば、前記車両のエンジンの始動を禁止する禁止手段と、前記禁止手段が受信した情報が前記検出手段から送信された情報でない場合には、前記禁止手段が、運転者が飲酒状態にないとの情報である非飲酒状態情報を取得しないように制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
これにより本発明に係る車両用制御装置では、運転者の飲酒状態を検出する検出手段と、飲酒状態が検出された場合にエンジンの始動を禁止する禁止手段とを備えて、両手段の間で通信をおこなう形態において、禁止手段が受信した情報が検出手段から送信された情報でない場合には、禁止手段が、運転者が飲酒状態にないとの情報を取得しないように制御するので、検出手段になりすました装置からの飲酒していないとの虚偽の情報によって、飲酒運転が行われてしまうことが抑制される。したがって飲酒運転を適切に抑制できる。
【0008】
前記制御手段は、前記検出手段による飲酒状態の検出に先立って、前記検出手段から認証用の情報を含む信号を送信する第1送信手段と、前記禁止手段に備えられ、信号を受信して、その信号の発信元が前記検出手段であるか否かを認証し、前記信号の発信元が前記検出手段であると認証されない場合には、前記非飲酒状態情報を受信しない第1認証手段と、を備えたとしてもよい。
【0009】
これにより、検出手段による飲酒状態検出の前に、禁止手段の側から検出手段の認証を行い、認証成功とならなかった場合には非飲酒状態情報を受信しないので、検出手段になりすました装置からの飲酒していないとの虚偽の情報によって、飲酒運転が行われてしまうことが抑制される。したがって認証という手段を用いて飲酒運転を適切に抑制できる。
【0010】
また前記第1送信手段が送信する前記認証用の情報を含む信号は、前記禁止手段から前記検出手段に送信された数値に所定の演算を施した数値であるとしてもよい。
【0011】
これにより禁止手段の側から数値を送信し、検出手段の方で所定の演算を施して返信することにより認証を行うので、簡易な認証方法によって確実に飲酒運転を抑制できる。
【0012】
また前記制御手段は、前記検出手段による飲酒状態の検出に先立って、前記禁止手段から認証用の情報を含む信号を送信する第2送信手段と、前記検出手段に備えられ、信号を受信して、その信号の発信元が前記禁止手段であるか否かを認証し、前記信号の発信元が前記禁止手段であると認証されない場合には、前記検出を実行しない第2認証手段と、を備えたとしてもよい。
【0013】
これにより禁止手段の側から検出手段の認証を行うのみでなく、検出手段の側からの禁止手段の認証も行う相互認証とするので、より厳格な認証となり、より確実に飲酒運転を抑制できる。
【0014】
また前記第2送信手段が送信する前記認証用の情報を含む信号は、前記検出手段から前記禁止手段に送信された数値に所定の演算を施した数値であるとしてもよい。
【0015】
これにより検出手段の側から禁止手段を認証する場合にも、検出手段の側から数値を送信し、禁止手段の方で所定の演算を施して返信することにより認証を行うので、簡易な認証方法によって確実に飲酒運転を抑制できる。
【0016】
また前記制御手段は、前記検出結果の情報を暗号化された信号に変換したうえで前記検出手段から送信する暗号化手段と、前記禁止手段によって受信された信号を、前記暗号化手段によって暗号化された前の情報に復号化する復号化手段と、を備えたとしてもよい。
【0017】
これにより、運転者の飲酒状態を検出する検出手段と、飲酒状態が検出された場合にエンジンの始動を禁止する禁止手段とを備えて、両手段の間で通信をおこなう形態において、飲酒状態に関する検査結果を暗号化して禁止手段へ送り、それを復号化して運転者が飲酒状態にあるとの情報を取得したらエンジンの始動を禁止するので、検出手段になりすました装置からの飲酒していないとの虚偽の情報によって、飲酒運転が行われてしまうことが抑制される。したがって暗号化という手段を用いて飲酒運転を適切に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1における車両用制御装置の構成図。
【図2】実施例1における飲酒運転抑制処理のフローチャート。
【図3】実施例2における飲酒運転抑制処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。まず図1は、本発明に係る車両用制御装置1の実施例1における装置構成の概略図である。
【0020】
車両用制御装置1は、エンジン2、スタータモータ3、スタータリレー4、インターロックECU5、エンジンECU6、アルコール検出器7を備える。
【0021】
スタータリレー4はコイル部40、接点部41を備える。スタータリレー4は、接点部41が通常はオープン(開状態)であるノーマルオープン(常開)タイプとして、コイル40を電流が流れると、電磁力の作用によって接点部41がクローズ(閉状態)となるとすればよい。
【0022】
インターロックECU5は、スイッチ部50を備える。スイッチ部50はキーシリンダ60、リレー4のコイル40と直列に接続される。さらにインターロックECU5は、通常のコンピュータと同様の装備を有するとし、具体的には各種演算などの情報処理を行うCPU51、その作業領域としての一時記憶部のRAM52、不揮発性の記憶部であるメモリ53、外部機器との間の情報の入出力を行う入出力部(I/O)54を備える。
【0023】
エンジンECU6はエンジン2の各種制御を司る。エンジンECU6は、インターロックECU5と同様に通常のコンピュータと同様の装備を有するとする。またエンジンECU6は、キーシリンダ60と接続されて、キーシリンダ60に車両のキー61が挿入されてイグニションオン操作がなされたことを検知する。図1のとおり、インターロックECU5(のI/O54)とエンジンECU6とはバスを介して接続されて、情報の受け渡しが可能となっている。
【0024】
アルコール検出器7は、通常のコンピュータと同様の装備を有するとし、具体的には各種演算などの情報処理を行うCPU70、その作業領域としての一時記憶部のRAM71、不揮発性の記憶部であるメモリ72、外部機器との間の情報の入出力を行う入出力部(I/O)73を備える。またアルコール検出器7は、運転者の呼気からアルコール成分を検出するための各種センサ74を備える。
【0025】
以上の構成のもとで制御装置1は、図2に示された処理手順を実行する。図2(及び後述の図3)の手順はプログラム化されてインターロックECU5のメモリ53とアルコール検出器7のメモリ72とに記憶しておき、CPU51、70が呼び出して自動的に実行するとすればよい。
【0026】
図2の処理ではまず、乗員がキー61をキーシリンダ60に挿入してイグニションオン操作を行ったことを受けて、インターロックECU5、アルコール検出器7が起動する(S100、S200)。
【0027】
次にインターロックECU5とアルコール検出器7とは相互認証の手順に移る。まずインターロックECU5のCPU51が、乱数を生成して、それをアルコール検出器7に送信する(S110)。アルコール検出器7では、これを受信して、その乱数に対して所定の演算を施す(S210)。この手順での演算は例えば、インターロックECU5側から送信された乱数を前半のビットと後半のビットとに分けて、その2数値間の各ビット毎の論理和と論理積とを求め、前半のビットを論理和、後半のビットを論理積としてまとめた数値を演算結果とすればよい。
【0028】
アルコール検出器7のCPU70は、その演算結果をインターロックECU5へ送信する(S220)。インターロックECU5はそれを受信して、演算結果を確認する(S120)。すなわち受信した演算結果が、自らが送信した乱数に対する所定の演算結果であることが確認された場合は、通信相手がアルコール検出器7であると認証し、その場合(S120:YES)はS130へ進む。受信した演算結果が、自らが送信した乱数に対する所定の演算結果でない場合は(S120:NO)、アルコール検出器7の認証が失敗したとして、図2の処理を終了する。その場合当然アルコール検査も行われない。このとき、認証されなかった旨を車室内の何らかの表示部に表示してもよい。
【0029】
さらにインターロックECU5のCPU51は、受信した演算結果に対してさらに所定の演算を施して、その演算結果をアルコール検出器7へ送信する(S130)。この手順での演算も、例えば受信した信号を前半のビットと後半のビットとに分けて、その2数値間の各ビット毎の論理和と論理積とを求め、前半のビットを論理和、後半のビットを論理積としてまとめた数値を演算結果とすればよい。
【0030】
アルコール検出器7のCPU70は、その演算結果を受信して結果を確認する(S230)。すなわち受信した演算結果が、自らが送信した数値に対する所定の演算結果であることが確認された場合は、通信相手がインターロックECU5であると認証し、その場合(S230:YES)はS240へ進む。受信した演算結果が、自らが送信した数値に対する所定の演算結果でない場合は(S230:NO)、インターロックECU5の認証が失敗したとして、図2の処理を終了する。当然アルコール検査も行われない。このとき、認証されなかった旨を車室内の何らかの表示部に表示してもよい。
【0031】
アルコール検出器7のCPU70は認証が完了したことをインターロックECU5に送信し(S240)、インターロックECU5はこれを受信して、相互認証が終了したことを確認する(S140)。以上が相互認証の段階である。次に運転者のアルコール検査の実行へ移行する。
【0032】
まずインターロックECU5のCPU51は、アルコール検出器7にアルコ−ル検査の開始を指令する(S150)。アルコール検出器7のCPU70は、この指令を受けてアルコール検査を開始する(S250)。そしてアルコール検査が終了したら、アルコール検出器7のCPU70は、インターロックECU5に検査結果を送信する(S260)。
【0033】
インターロックECU5のCPU51は、これを受信して(S160)、検査結果を確認する(S170)。そして検査結果をインターロックECU5アルコール検知器7に送信する(S270)。なおS170あるいはS270の手順は省略してもよい。インターロックECU5のCPU51は、検査結果に応じてスイッチ制御を実行する(S180)。
【0034】
スイッチ制御では、運転者の呼気からアルコール成分が検出された場合には、スイッチ50をオープンのままにする。これにより飲酒状態の運転者がイグニションスイッチ60をオンにしても、コイル40に電流が流れず、エンジン2は始動しない。また運転者の呼気からアルコール成分が検出されなかった場合には、直ちにスイッチ50をクローズする。これによりイグニションスイッチ60をオンにすれば、エンジン2が始動する。以上が図2の処理である。
【0035】
なお図2において、手順S130、S140、S230、S240を省略してもよい。この場合、相互認証ではなく、インターロックECU5の側からアルコール検出器7を認証するのみの片側認証となる。一般にインターロックECU5は取り外しにくい場所に装備されているので、別のものがインターロックECU5に成りすますことは困難であるとみなされる。したがってこうした片側認証のみで実用上充分であると判断してもよい。この場合、認証手順をより簡易にできるとの利点がある。
【0036】
次に実施例2を説明する。実施例1では、アルコール検査の前に(相互)認証を実行したが、実施例2では通信内容を暗号化する。実施例2では実施例1の図2が図3に変更される。他は実施例1と同じでよい。
【0037】
図3の手順ではまず、乗員によるイグニションオン操作を受けて、インターロックECU5、アルコール検出器7が起動する(S300、S400)。次にインターロックECU5のCPU51が、アルコール検査開始の指令を暗号化して(S310)、送信する(S320)。暗号化の具体的な方法は後述する。
【0038】
アルコール検出器7のCPU70は、それを受信して(S410)、復号化(あるいは復号)する(S420)。そしてアルコール検出器7のCPU70は、復号化された信号の意味内容、すなわちアルコール検査開始の指令に従ってアルコール検査を開始する(S430)。
【0039】
そしてアルコール検査が終了したらアルコール検出器7のCPU70は、検査結果を暗号化して(S440)、送信する(S450)。それを受信(S330)したインターロックECU5のCPU51は、その信号を復号化して(S340)、結果を確認する。そして結果内容を暗号化して(S350)、送信する(S360)。それを受信(S460)したアルコール検出器7のCPU70は、復号化して(S470)、結果を確認する。なおS350以降は省略してもよい。以上が図3の処理手順である。
【0040】
暗号化の手法は、具体的には例えば以下のように比較的簡素なものとすればよい。まず鍵信号を予め定めておいて、インターロックECU5のメモリ53と、アルコール検出器7のメモリ72とに記憶しておく。そして暗号化においては、送りたい情報(信号)と鍵信号との間の各ビット毎の排他的論理和を実行し、これを暗号化された信号とする。
【0041】
復号化の場合は、送られてきた信号と鍵信号との間の各ビット毎の排他的論理和を実行し、これを復号化された信号とする。公知のとおり、同一の数値との間で排他的論理和を2度繰り返すともとの数値に戻るので、上記暗号化と復号化で最初の信号に戻る。
【0042】
なお鍵信号は、アルコール検査の実行を1回実行する毎に、異なる数値に自動的に変更するとしてもよい。この場合、例えばアルコール検査が1回終了する毎に、鍵信号の数値を1増加させる(あるいは所定の数だけ増加させる)とすればよい。
【0043】
あるいは鍵信号は、例えば日付から所定の演算で生成される数値としてもよい。この場合、インターロックECU5と、アルコール検出器7には、日付を算出するためのタイマと、所定の演算を実行するためのプログラムとを備える。このように鍵信号を変化させるようにすれば、常に同じ鍵信号を用い続ける場合よりもなりすましが困難になり、飲酒運転抑制のために好適となる。
【符号の説明】
【0044】
1 車両用制御装置
2 エンジン
3 スタータモータ
4 リレー
5 インターロックECU
6 エンジンECU
7 アルコール検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者が飲酒状態にあるか否かを検出する検出手段と、
前記車両のエンジンが停止した状態において、前記検出手段の検出結果の情報を通信を介して取得した場合に、その検出結果が運転者が飲酒状態にあるとの情報であれば、前記車両のエンジンの始動を禁止する禁止手段と、
前記禁止手段が受信した情報が前記検出手段から送信された情報でない場合には、前記禁止手段が、運転者が飲酒状態にないとの情報である非飲酒状態情報を取得しないように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記検出手段による飲酒状態の検出に先立って、前記検出手段から認証用の情報を含む信号を送信する第1送信手段と、
前記禁止手段に備えられ、信号を受信して、その信号の発信元が前記検出手段であるか否かを認証し、前記信号の発信元が前記検出手段であると認証されない場合には、前記非飲酒状態情報を受信しない第1認証手段と、
を備えた請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記第1送信手段が送信する前記認証用の情報を含む信号は、前記禁止手段から前記検出手段に送信された数値に所定の演算を施した数値である請求項2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記検出手段による飲酒状態の検出に先立って、前記禁止手段から認証用の情報を含む信号を送信する第2送信手段と、
前記検出手段に備えられ、信号を受信して、その信号の発信元が前記禁止手段であるか否かを認証し、前記信号の発信元が前記禁止手段であると認証されない場合には、前記検出を実行しない第2認証手段と、
を備えた請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記第2送信手段が送信する前記認証用の情報を含む信号は、前記検出手段から前記禁止手段に送信された数値に所定の演算を施した数値である請求項4に記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、
前記検出結果の情報を暗号化された信号に変換したうえで前記検出手段から送信する暗号化手段と、
前記禁止手段によって受信された信号を、前記暗号化手段によって暗号化された前の情報に復号化する復号化手段と、
を備えた請求項1に記載の車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−51402(P2011−51402A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200159(P2009−200159)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】