車両用液圧ブレーキシステム
【課題】ABS制御実行時におけるABS弁装置の作動による供給圧の変動を抑制することが可能な車両用液圧ブレーキシステムを提供する。
【解決手段】ブレーキ操作に応じて決定された目標供給圧P*に基づいて液圧源装置が有する増圧用電磁弁および減圧用電磁弁への供給電流が制御されるように構成され、ABS制御が実行されている場合において、実行されていない場合に比較して、増圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、例えば、ブレーキ操作に応じた目標供給圧P*に補正圧αpを加えて補正して、その補正された目標供給圧P*+αpに基づいて増圧用電磁弁と減圧用電磁弁とへの供給電流が制御されるようにすることで、その増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成する。ABS実行中において高圧源の液圧と供給圧Prとの差圧を小さくするため、ABS弁装置の作動による供給圧の変動を抑制することができる。
【解決手段】ブレーキ操作に応じて決定された目標供給圧P*に基づいて液圧源装置が有する増圧用電磁弁および減圧用電磁弁への供給電流が制御されるように構成され、ABS制御が実行されている場合において、実行されていない場合に比較して、増圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、例えば、ブレーキ操作に応じた目標供給圧P*に補正圧αpを加えて補正して、その補正された目標供給圧P*+αpに基づいて増圧用電磁弁と減圧用電磁弁とへの供給電流が制御されるようにすることで、その増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成する。ABS実行中において高圧源の液圧と供給圧Prとの差圧を小さくするため、ABS弁装置の作動による供給圧の変動を抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動液の液圧によって作動して車輪に制動力を付与する液圧式のブレーキ装置を備えた車両用液圧ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される液圧ブレーキシステムとして、従来より、運転者によってブレーキ操作部材に加えられる操作力に依らず、液圧源装置から供給される作動液に依拠して制動力を発生させるシステム、いわゆる電子制御式のブレーキシステムが知られている。そのようなシステムでは、下記特許文献に記載されたシステムのように、液圧源装置が有する増圧用電磁弁および減圧用電磁弁への供給電流を制御することで、その液圧源装置が供給する作動液の液圧である供給圧を制御可能に変更し、運転者によるブレーキ操作に応じた適切な制動力を発生させることが可能となっている。また、液圧源装置とブレーキ装置との間に、車輪のロック,横滑り等に対処するためのABS弁装置が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−61816号公報
【特許文献2】特開2009−292176号公報
【特許文献3】特開2007−137281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載されたブレーキシステムのように、液圧源装置とABS弁装置とを備えたシステムにおいてABS制御が実行されると、ABS弁装置の作動によって、ブレーキ装置の液圧であるブレーキ圧の増圧,減圧,保持が繰り返し行われる。つまり、ABS弁装置によって、液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給を許容する状態と遮断した状態との切り換えが繰り返し行われることになり、そのことによって供給圧が変動してしまうという問題がある。また、ブレーキ圧を増圧させる場合、その増圧勾配を制御すべく、液圧源装置からの作動液の供給を許容した状態と遮断した状態とが、より短い時間間隔で繰り返し切り換えられる。そのことによって供給圧が振動的に変動して、供給圧が安定しないという問題がある。そして、上記の特許文献に記載された液圧ブレーキシステムは、ABS弁装置の作動による供給圧の変動に対処するための制御を実行可能に構成されている。本発明は、そのABS弁装置の作動による供給圧の変動に対処するためになされたものであり、特に、ABS制御実行時におけるABS弁装置の作動による供給圧の変動を抑制することが可能な車両用液圧ブレーキシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両用液圧ブレーキシステムは、ブレーキ操作に応じて決定された目標供給圧に基づいて、液圧源装置が有する増圧用電磁弁および減圧用電磁弁への供給電流が制御されるように構成され、ABS制御が実行されている場合において、実行されていない場合に比較して、増圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、その増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の車両用液圧ブレーキシステムにおいては、増圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように供給電流が変更されることで、実際の供給圧が高められることになる。つまり、本発明のシステムによれば、ABS実行中において高圧源の液圧と供給圧との差が小さくされるため、ABS弁装置の作動による供給圧の変動を、特に、液圧源装置からの作動液の供給が遮断された場合における供給圧の増加を、抑制することが可能とされている。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(11)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項2に(12)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに(14)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項4に(15)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項4または請求項5に(16)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項6に(17)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項7に、請求項1ないし請求項7のいずれか1つに(18)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項8に、請求項1ないし請求項8のいずれか1つに(5)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項9に、請求項9に(6)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項10に、請求項1ないし請求項10のいずれか1つに(3)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項11に、請求項1ないし請求項11のいずれか1つに(21)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項12に、請求項12に(22)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項13に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)運転者によって操作されるブレーキ操作部材と、
車輪に対応して設けられ、自身に供給される作動液の液圧によって作動して車輪に制動力を付与するブレーキ装置と、
そのブレーキ装置に作動液を調圧された供給する装置であって、(a)高圧の液圧を発生させる高圧源と、(b)自身に供給される電流に応じて開弁圧が変更され、供給する作動液の液圧を増圧する増圧用電磁弁と、(c)自身に供給される電流に応じて開弁圧が変更され、供給する作動液の液圧を減圧する減圧用電磁弁とを有する液圧源装置と、
その液圧源装置と前記ブレーキ装置との間に設けられ、前記車輪のロックに対処するためのABS制御の実行時に作動させられるABS弁装置と、
(A)前記ブレーキ操作部材の操作に基づいて、前記液圧源装置によって供給される作動液の液圧である供給圧の目標となる目標供給圧を決定する目標供給圧決定部と、(B)前記目標供給圧に基づいて、前記液圧源装置が有する前記増圧用電磁弁および前記減圧用電磁弁への供給電流を制御する供給圧制御部と、(C)前記ABS制御を実行すべく前記ABS弁装置を制御するABS制御実行部と、(D)そのABS制御実行部によって前記ABS制御が実行されている場合において、実行されていない場合に比較して、前記増圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するABS時供給電流変更部とを有する制御装置と
を備えた車両用液圧ブレーキシステム。
【0010】
上記のような液圧源装置とABS弁装置とを備えた車両用液圧ブレーキシステムは、通常の制動時において、ABS弁装置は液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給を許容し、液圧源装置が有する増圧用電磁弁および減圧用電磁弁の制御によって供給圧が制御されることで、ブレーキ装置の液圧であるブレーキ圧(ブレーキ装置がホイールシリンダを有する場合、ホイールシリンダ圧である)がブレーキ操作に応じた大きさに制御される。
【0011】
一方、車輪のロックに対処するためのABS制御が実行されると、ABS弁装置の作動が制御され、液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給を許容してブレーキ装置の液圧であるブレーキ圧を増圧する増圧モードと、液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給を禁止するとともに低圧源への作動液の流れを許容してブレーキ圧を減圧する減圧モードと、液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給および低圧源への作動液の流れの両者を禁止してブレーキ圧を保持する保持モードとが、繰り返し実現されることになる。つまり、液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給を許容する状態と遮断した状態との切り換えによって、具体的に言えば、それらの状態を切り換えるABS弁装置が有するABS保持弁の開閉によって、供給圧が変動してしまうという問題がある。また、上記の増圧モードにおいては、ブレーキ圧の増圧勾配を制御すべく、液圧源装置からの作動液の供給を許容した状態と遮断した状態とが、つまり、ABS保持弁の開閉状態が、より短い時間間隔で繰り返し切り換えられる場合がある。そのABS保持弁の制御によって、供給圧が振動的に変動して、供給圧が安定しないという問題がある。特に、ABS制御においては、上記の増圧モードにおいて、ブレーキ圧の増圧勾配を制御するために供給圧が用いられる場合があり、供給圧が安定しなければ、目標の増圧勾配を実現することも困難となる。つまり、ABS制御時においては、供給圧が安定しないことによって、停止距離の延長に繋がるという問題が生じるのである。
【0012】
なお、本項に記載の車両用液圧ブレーキシステムは、「液圧源装置」が、「供給圧制御部」によって、例えば、通常時において、目標供給圧に対してある程度マージンをもつ範囲内に供給圧が収まるように、増圧用電磁弁の開弁圧がその範囲の下限値となるように増圧用電磁弁の供給電流が制御されるとともに、減圧用電磁弁の開弁圧がその範囲の上限値となるように減圧用電磁弁の供給電流が制御されるように構成することが可能である。ちなみに、増圧用電磁弁の開弁圧とは、電磁弁が有する弁体に作用するすべての力がつり合っている状態における流出側の圧力である供給圧をいい、減圧用電磁弁の開弁圧とは、電磁弁が有する弁体に作用するすべての力がつり合っている状態における流入側の圧力である供給圧をいう。
【0013】
そして、本項に記載の車両用液圧ブレーキシステムは、ABS制御が実行されている場合に、増圧用電磁弁の開弁圧が通常時より高くなるように、その増圧用電磁弁への供給電流が変更される。つまり、増圧用電磁弁の開弁圧が高められて、その開弁圧と実際の供給圧との差が大きくされ、高圧源からブレーキ装置への供給流量が多くされることになる。そのことにより、例えば、ABS制御の実行開始時において、実際の供給圧と目標供給圧とに比較的大きな差があるような場合に、供給圧を早急に増圧させることが可能となる。
【0014】
また、換言すれば、供給圧が通常時より高くならなければ閉弁しないのであって、供給圧が目標供給圧より高められることになる。したがって、高圧源の液圧と供給圧との差が小さくされるため、ABS弁装置の作動による供給圧の変動を抑制することが可能である。詳しく言えば、ABS弁装置がABS制御における増圧モードから減圧モードへ移行した場合や、増圧モードにおいて増圧勾配の制御等によりABS弁装置が有するABS保持弁が閉状態となった場合であっても、高圧源の液圧と供給圧との差が小さいため、供給圧の増加勾配が緩くなる。また、そのことにより、減圧用電磁弁が開弁する頻度を減らすことができる。したがって、本項に記載のシステムは、ABS実行中において、供給圧を安定させることが可能とされてる。先にも述べたように、ABS制御においては、増圧モードにおいて、ブレーキ圧の増圧勾配を制御するために供給圧が用いられる場合がある。本項の態様によれば、その供給圧を高めた状態で安定させることが可能であるため、増圧モードにおいて適切な増圧勾配を実現し、効率的に車両に制動力を付与することが可能である。
【0015】
ちなみに、供給圧を高めた状態で維持するには、減圧用電磁弁の開弁圧が、供給圧制御部によって制御される場合に比較して高くなるように、その減圧用電磁弁への供給電流をも変更することが望ましい。なお、本項に記載の態様において、増圧用電磁弁および減圧用電磁弁への供給電流を変更する手法は、目標となる供給電流を直接変更する態様に限定されず、後に詳しく説明するが、目標供給圧を補正することによって、供給電流が変更されるような態様であってもよい。また、供給電流を変更する大きさについては、後に詳しく説明するが、種々の指標に基づいて決定することが可能である。
【0016】
本項に記載の「ABS弁装置」は、車輪のロック,横滑り,空転等に対処するべく、ブレーキ装置に供給される作動液の圧力であるブレーキ圧を増減可能な構造であればよく、例えば、液圧源装置が供給する作動液のブレーキ装置への流入を許容する状態と禁止する状態とを切換可能なABS保持弁と、ブレーキ装置に供給された作動液の低圧源への流出を許容する状態と禁止する状態とを切換可能なABS減圧弁とを有し、ABS保持弁が開弁されるとともにABS減圧弁が閉弁されることで、ブレーキ圧を増圧させ、ABS保持弁が閉弁されるとともにABS減圧弁が開弁されることで、ブレーキ圧を減圧させる構造とすることができる。
【0017】
(2)前記増圧用電磁弁が、自身に供給される電流が大きくなるほど開弁圧がより高くされるものとされ、
前記ABS時供給電流変更部が、前記ABS制御が実行されている場合に、実行されていない場合に比較して、前記増圧用電磁弁に供給する電流を増加させるように構成された(1)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0018】
本項に記載の態様は、増圧用電磁弁が、電流が供給されていない状態において閉弁している構造のものに限定されている。
【0019】
(3)前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されている場合に、実行されていない場合に比較して、前記減圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、前記減圧用電磁弁に供給する電流をも変更するように構成された(1)項または(2)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0020】
(4)前記減圧用電磁弁が、自身に供給される電流が小さくなるほど開弁圧がより高くされるものとされ、
前記ABS時供給電流変更部が、前記ABS制御が実行されている場合に、実行されていない場合に比較して、前記減圧用電磁弁に供給する電流を低下させるように構成された(3)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0021】
上記2つの項に記載の態様は、減圧用電磁弁への供給電流も変更されるようになっている。上記2つの項の態様は、先にも述べたように、供給圧を目標供給圧より高めに維持するのに、望ましい態様である。なお、後者の態様は、減圧用電磁弁が、電流が供給されていない状態において閉弁している構造のものに限定されている。
【0022】
(5)前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されている場合に、前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧をその目標供給圧より高くなるように補正し、前記供給圧制御部がその補正した目標供給圧に基づいて前記増圧用電磁弁および前記減圧用電磁弁への供給電流を制御することを許容することで、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成された(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0023】
本項に記載の態様は、増圧用電磁弁への供給電流を変更するために、供給圧制御部が目標とする供給圧を、目標供給圧決定部により決定された目標供給圧より高い値に変更するように構成されている。本項の態様においては、減圧用電磁弁の開弁圧も同時に高められることになる。本項の態様は、先に述べた態様である、減圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、減圧用電磁弁に供給する電流をも変更する態様の一態様と考えることもできる。
【0024】
(6)前記ABS時供給電流変更部が、
自身が補正した前記目標供給圧を前記供給圧が超えた場合に、前記増圧用電磁弁に供給する電流の変更を禁止するように構成された(5)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0025】
本項に記載の態様は、例えば、供給圧が補正された目標供給圧を超えた場合に、供給圧制御における目標供給圧を、目標供給圧決定部によって決定された元の目標供給圧に戻すように構成することができる。本項の態様によれば、高められた供給圧を低下させることになり、供給圧のオーバーシュートを抑制することが可能である。
【0026】
(7)前記供給圧制御部が、
前記供給圧が前記目標供給圧より第1設定差だけ低い増圧閾値以下となった場合に前記増圧用電磁弁が開弁するような大きさの電流を、前記増圧用電磁弁に供給し続けるとともに、前記供給圧が前記目標供給圧より第2設定差だけ高い減圧閾値以上となった場合に前記減圧用電磁弁が開弁するような大きさの電流を、前記減圧用電磁弁に供給し続けることで、前記供給圧が、前記増圧閾値と前記減圧閾値との間に収まるようにする(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0027】
本項に記載のシステムは、供給圧の制御手法が具体化されており、いわゆる開弁電流を2つの電磁リニア弁に供給し続けるように構成されている。本項の態様は、増圧用電磁弁の開弁圧が増圧閾値とされるとともに、減圧用電磁弁の開弁圧が減圧閾値とされている。つまり、供給圧がその増圧閾値以下になると、増圧用電磁弁が機械的に開弁して増圧し、供給圧が減圧閾値以上になると、減圧用電磁弁が機械的に開弁して減圧するように構成される。したがって、増圧用電磁弁の開弁圧を下限値とし、減圧用電磁弁の開弁圧を上限値とする範囲内に、供給圧が収まるように制御される。なお、本項に記載の「第1設定差」および「第2設定差」は、正の値に限定されず、0や負の値をも含む。換言すれば、本項に記載の「増圧閾値」および「減圧閾値」は、目標供給圧より高い値であっても、低い値であっても、目標供給圧と同じ高さであってもよい。ただし、減圧閾値は、増圧閾値より高めに設定されることが望ましい。
【0028】
なお、本項に記載の「目標供給圧」は、目標供給圧決定部によって決定された目標供給圧に限定されない。つまり、本項の態様を先に述べた目標供給圧を補正する態様と併せた場合には、本項に記載の「目標供給圧」は、ABS時供給電流変更部によって補正された目標供給圧となる場合もある。
【0029】
(8)前記供給圧制御部が、
前記供給圧が前記増圧閾値以下となった場合に、その場合に前記増圧用電磁弁が開弁するような大きさの電流成分と、前記供給圧と前記目標供給圧との差に応じた電流成分とを足し合わせた電流を、前記増圧用電磁弁に供給し、前記供給圧が前記減圧閾値以上となった場合に、その場合に前記減圧用電磁弁が開弁するような大きさの電流成分と、前記供給圧と前記目標供給圧との差に応じた電流成分とを足し合わせた電流を、前記減圧用電磁弁に供給する(7)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0030】
本項に記載のシステムは、供給圧の制御において、供給圧が目標となる範囲から外れた場合に、フィードバック制御が行われるように構成されている。本項に記載の「供給圧と目標供給圧との差に応じた電流成分」とは、例えば、供給圧と目標供給圧との差に比例する電流成分、つまり、その供給圧と目標供給圧との差が大きくなるほど、より大きくなるものとすることができる。本項の態様によれば、供給圧と目標供給圧とのズレを早急になくすことが可能である。なお、本項の態様は、先に述べた目標供給圧を補正する態様と併せた場合、その補正された目標供給圧と供給圧との差分に応じた電流成分を加えることとなり、作動液の流量をより多くすることができるため、先に述べたような、ABS制御の実行開始時において実際の供給圧と目標供給圧とに比較的大きな差があるような場合に、特に有効である。
【0031】
(9)当該車両用液圧ブレーキシステムが、
前記液圧源装置と前記ABS弁装置との間に設けられ、作動液の液圧を検出する液圧検出器を備え、
前記制御装置が、その液圧検出器によって検出される液圧を前記供給圧とみなすように構成された(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0032】
例えば、当該ブレーキシステムが複数のブレーキ装置を備え、それらのうちの少なくとも1つを除くものにおいてABS制御が開始された場合を考える。ABS制御が実行されたブレーキ装置の液圧が供給圧とともに上昇するのに対し、ABS制御が実行されていないブレーキ装置の液圧はABS弁装置によって増圧勾配が比較的緩やかに制御される。そして、ABS制御が実行されているブレーキ装置に対応するABS保持弁がすべて閉状態となると、上記の液圧検出器によって検出される液圧は、ABS制御が実行されているブレーキ装置の液圧が反映されず、ABS制御が実行されていないブレーキ装置の液圧が検出されて、比較的高い値を示すこととなる。つまり、目標となる供給圧と液圧検出器によって検出された供給圧との差が小さくなり、供給圧制御部が、先に述べたフィードバック制御の電流成分を加えても、ABS制御が実行されているブレーキ装置への作動液の供給量が不足する虞がある。したがって、供給電流変更部による増圧用電磁弁への供給電流の変更によって供給流量が多くされるため、その増圧用電磁弁への供給電流の変更が、本項の態様にとって、特に有効である。
【0033】
(11)前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧と前記ブレーキ装置の液圧であるブレーキ圧との差に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0034】
本項に記載の態様は、目標供給圧とブレーキ圧との差に基づいて、増圧用電磁弁への供給電流の変更量や、先に述べた態様の補正圧等が決定されるように構成されている。本項に記載の「ブレーキ圧」は、例えば、センサ等により直接的に検出されたものに限られず、他の指標値等から推定されたものであってもよい。ABS弁装置が作動している状態において、そのABS制御が実行されているブレーキ装置の液圧は、供給圧とは異なり、その供給圧より低い液圧となる。本項の態様によれば、増圧用電磁弁への供給電流を、ブレーキ圧に応じた適切な大きさに変更することが可能である。ちなみに、当該システムが複数のブレーキ装置を備える場合においては、ブレーキ圧として、例えば、複数のブレーキ装置の各々のブレーキ圧の最大値,最小値,平均値や、それらの各々に重み付けをして算出した値等を用いることができる。
【0035】
(12)前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧と前記ブレーキ圧との差が大きいほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(11)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0036】
目標供給圧とブレーキ圧との差が大きいほど、供給圧が高められるため、ブレーキ圧を効果的に増圧させることが可能である。
【0037】
(13)前記制御装置が、
前記ABS弁装置が作動し始めてからの前記ABS弁装置の作動状況に基づいて前記ブレーキ圧を推定するブレーキ圧推定部を有し、
前記ABS時供給電流変更部が、
そのブレーキ圧推定部によって推定された前記ブレーキ圧である推定ブレーキ圧と、前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧との差に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(11)項または(12)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0038】
一般的には、ブレーキ圧としては、先に述べた液圧検出器の検出値が用いられ、ABS弁装置が作動していない状態においては、ブレーキ圧は供給圧と同じ大きさであるため、その検出値がブレーキ圧とされる。しかしながら、ABS弁装置が作動している状態においては、そのABS制御が実行されているブレーキ装置の液圧は、その液圧検出器の検出値とは異なる。ABS弁装置の作動状況、例えば、先に述べたABS保持弁およびABS減圧弁の各々の作動履歴、具体的にいえば、ABS弁装置が作動し始めてからのABS保持弁およびABS減圧弁の開弁時間等に基づいてブレーキ圧の変化量を演算することが可能である。したがって、ABS弁装置が作動する直前の供給圧に対して、ABS保持弁およびABS減圧弁の各々の作動履歴に基づいて演算されるブレーキ圧の変化量を考慮することで、ABS弁装置作動時のブレーキ圧を適切に推定することが可能である。本項に記載の態様によれば、そのように推定されたブレーキ圧を用いているため、増圧用電磁弁への供給電流を適切な大きさに変更することが可能である。
【0039】
(14)前記ABS時供給電流変更部が、
前記ブレーキ装置に供給すべき作動液の液量である必要液量を推定し、その必要液量に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(1)項ないし(13)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0040】
(15)前記ABS時供給電流変更部が、
前記必要液量が多いほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(14)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0041】
上記2つの項に記載の態様は、ブレーキ装置が必要としている作動液の量、換言すれば、高圧源からブレーキ装置への必要な流量を推定するように構成されている。ABS制御の実行中においては、ABS弁装置がブレーキ装置の液圧を減圧,保持する時があり、その時には作動液の供給を受ける必要がない。したがって、上記2つの項に記載の態様によれば、ブレーキ圧を増圧させる必要がある時のみ供給圧を高めるようにすることが可能とされている。また、上記2つの項に記載の態様によれば、目標供給圧への追従性をも確保しつつ、ABS制御の増圧モードにおいて適切な増圧勾配を実現させることが可能である。
【0042】
上記2つの項に記載の「必要流量」は、例えば、現時点でのブレーキ圧と目標となるブレーキ圧との差に基づいて推定することが可能である。例えば、ブレーキ装置が有するホイールシリンダには、ブレーキ圧と作動液量とに定められた関係があり、それを考慮して、その必要流量を推定することが可能である。また、その目標となるブレーキ圧は、ABS制御が実行されているブレーキ装置においては、目標となる増圧勾配を実現するように制御されるため、その増圧勾配に基づいて、現時点のブレーキ圧から決定するようにすることができる。
【0043】
(16)当該車両用液圧ブレーキシステムが、複数の車輪に対応してそれぞれが前記ブレーキ装置である複数のブレーキ装置を備え、
前記ABS時供給電流変更部が、
それら複数のブレーキ装置の各々の前記必要液量を推定し、それら複数のブレーキ装置の各々の必要液量の合計に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(14)項または(15)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0044】
本項に記載の態様においては、複数のブレーキ装置のうちにABS制御を実行していないものがあることや、ABS制御を実行中であってもブレーキ圧を減圧,保持しているものがあること等を考慮して、増圧用電磁弁への供給電流が決定される。そのため、本項の態様によれば、供給圧のオーバーシュートや、ABS制御が実行されていなものへの供給過多を抑制することが可能となる。
【0045】
(17)前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS弁装置が前記複数のブレーキ装置のすべてに対して作動液の供給を遮断した場合に、自身が高くした前記増圧用電磁弁の開弁圧と、前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧に対して定まる前記増圧用電磁弁の開弁圧との圧力差が、低下することを禁止する(16)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0046】
ABS弁装置が複数のブレーキ装置のすべてに対して作動液の供給を遮断した場合には、必要流量が0となって開弁圧が元の高さに戻ってしまい、ABS制御の増圧モードにおいて、供給圧がその開弁圧を超えて増圧用電磁弁が閉弁してしまう虞がある。本項の態様おいては、必要液量が0となっても、現時点における増圧用電磁弁へ供給する電流を保持して、増圧用電磁弁が閉弁しないようにすることができる。つまり、本項の態様によれば、ABS制御の増圧モード中において、作動液の供給を遮断した後の作動液の供給に遅れを生じさせないようにすることが可能である。
【0047】
(18)前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧が低いほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(1)項ないし(17)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0048】
目標供給圧が低いほど、高圧源と供給圧との差圧は大きい。そのため、ABS弁装置が有するABS保持弁の開閉に伴う供給圧の変動も大きくなる。本項に記載の態様は、目標供給圧決定部によって決定された目標供給圧に基づいて、増圧用電磁弁の変更する電流量を決定するように構成される。したがって、本項の態様によれば、目標供給圧の大きさに応じて、効果的にその供給圧の変動を抑制することが可能である。
【0049】
(21)当該車両用液圧ブレーキシステムが、複数の車輪に対応してそれぞれが前記ブレーキ装置である複数のブレーキ装置を備え、
前記ABS時供給電流変更部が、
それら複数のブレーキ装置のうちの2つ以上のものにおいて前記ABS制御が実行されていた状態から、それら前記ABS制御が実行されているもののうちの少なくとも1つにおいて前記ABS制御が終了する場合において、前記増圧用電磁弁の開弁圧がその時点の開弁圧より低くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成された(1)項ないし(18)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0050】
(22)前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されているもののうちの少なくとも1つにおいて前記ABS制御が終了する場合に、前記減圧用電磁弁の開弁圧がその時点の開弁圧より低くなるように、前記減圧用電磁弁に供給する電流をも変更するように構成された(21)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0051】
ABS制御が実行されているブレーキ装置のうちの少なくとも1つのブレーキ装置においてABS制御が終了すると、そのブレーキ装置へ作動液が供給され、オーバーシュートする虞がある。上記2つの項に記載の態様は、少なくとも増圧用電磁弁の開弁圧が、上述のように高められていた開弁圧より低くなるように、その増圧用電磁弁への供給電流が変更される。したがって、上記2つの項の態様によれば、ABS制御が終了すると推定される状況下にある場合、あるいは、ABS制御が終了した場合に、作動液の供給量が減らされ、オーバーシュートを抑制することが可能である。なお、後者の態様によれば、減圧用電磁弁の開弁圧をも低下させて、供給圧を積極的に減少させることで、オーバーシュートをより抑制することが可能である。ちなみに、上記の「ABS制御が終了すると推定される状況下」にあるか否かは、公知の種々の方法を用いて推定するものとすることが可能である。
【0052】
(23)当該車両用液圧ブレーキシステムが搭載される車両が、
車輪に駆動力を付与するための電磁モータを備え、その電磁モータが車輪の回転に伴って発生させる電力を回生することで、その電磁モータを回生ブレーキ装置として機能させるように構成され、
当該車両用液圧ブレーキシステムが、
前記ブレーキ操作部材の操作に応じた制動力を、通常時は、回生ブレーキとの協調制御によって発生させ、前記ABS制御の実行中においては、当該車両用液圧ブレーキシステムのみによって発生させるように構成された(1)項ないし(22)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0053】
本項に記載の車両用液圧ブレーキシステムは、例えば、ハイブリッド車両あるいは電気自動車に搭載されている。そのような車両においては、一般的に、回生ブレーキと液圧ブレーキとの協調制御が行われており、通常の制動時においては、回生ブレーキを主体として、液圧ブレーキは回生ブレーキの不足分を補うようにして、ブレーキ操作に応じた制動力を発生させるように構成される。一方、ABS制御が実行されると、緻密な制動力の制御が必要となるため、液圧ブレーキのみによって制動力を発生させる。つまり、ABS制御が実行された直後に、目標供給圧が急激に上昇することになり、目標供給圧とブレーキ圧との差が大きく、先にも述べたように、フィードバック制御の電流成分のみでは、作動液の供給が遅れる虞がある。したがって、ブレーキ圧をより早く増圧させることが可能なABS時供給電流変更部を有する本ブレーキシステムが、本項の態様には、特に有効である。また、複数のブレーキ装置を備えるシステムにおいては、それらのうちにABS制御が実行されていないものが存在する場合に、そのブレーキ装置のブレーキ圧は、より早く増圧させることが望ましい。そのような場合であっても、ABS時供給電流変更部を有する本ブレーキシステムによれば、ABS制御が実行されていないブレーキ装置のブレーキ圧をより早く増圧させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】請求可能発明の実施例である車両用液圧ブレーキシステムが搭載されたハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを表す模式図である。
【図2】請求可能発明の実施例である車両用液圧ブレーキシステムが備えるブレーキ回路の概略図である。
【図3】図2に示す増圧用リニア弁および減圧用リニア弁を示す概略断面図である。
【図4】供給圧と減圧用リニア弁の開弁電流との関係を示すグラフである。
【図5】高圧源液圧と供給圧との差圧と増圧用リニア弁の開弁電流との関係を示すグラフである。
【図6】目標供給圧と推定ブレーキ圧との差圧と、補正圧との関係を示すグラフである。
【図7】電磁リニア弁への供給電流と流量との関係との関係を示すグラフであり、理電磁リニア弁の差圧による供給電流と流量との関係の相違を示すグラフである。
【図8】図6に示した関数の傾きと目標供給圧との関係を示すグラフである。
【図9】供給電流変更制御が実行されている場合,実行されていない場合の各々における供給圧,ブレーキ圧,増圧用リニア弁への供給電流,減圧用リニア弁への供給電流の時間経過に対する変化を示す図である。
【図10】ABS制御が実行される前後における供給圧,ブレーキ圧の時間経過に対する変化を示す図である。
【図11】目標供給圧と減圧用開弁圧低下量との関係を示すグラフである。
【図12】目標供給圧と増圧用開弁圧低下量との関係を示すグラフである。
【図13】2つの電磁リニア弁の供給電流が、開弁圧が低くなるように変更された場合(図13(b))と、変更されなかった場合(図13(a))とにおけるABS制御非実行輪に対応するブレーキ装置のブレーキ圧の時間経過に対する変化を示す図である。
【図14】目標供給圧に応じて減圧用開弁圧低下量および増圧用開弁圧低下量γを変化させた場合(図14(c))と、それらを一定の値とした場合(図14(a),(b))とにおけるABS制御非実行輪に対応するブレーキ装置のブレーキ圧の時間経過に対する変化を示す図である。
【図15】ブレーキ装置のホイールシリンダにおけるブレーキ圧と作動液量との関係を示すグラフであり、必要流量を求める過程を示すグラフである。
【図16】4つのブレーキ装置が必要な総必要流量と補正電流成分との関係を示すグラフである。
【図17】供給圧と流量との関係を示すグラフであり、総必要流量に基づいて仮上昇圧を求める過程を示すグラフである。
【図18】増圧用リニア弁170への供給電流が総必要流量に基づいて制御された場合における、実供給圧,4つのブレーキ装置のブレーキ圧,総必要流量,補正電流成分の時間経過に対する変化を示す図である。
【図19】請求可能発明の実施例である車両用液圧ブレーキシステムの制御を司る制御装置であるブレーキ電子制御ユニットによって実行される供給圧制御プログラムを表すフローチャートである。
【図20】供給圧制御プログラムにおいて実行される目標範囲制御サブルーチンを示すフローチャートである。
【図21】目標範囲制御サブルーチンにおいて実行される差圧依拠電流変更サブルーチンを示すフローチャートである。
【図22】目標範囲制御サブルーチンにおいて実行される必要流量依拠電流変更サブルーチンを示すフローチャートである。
【図23】請求可能発明の実施例である車両用液圧ブレーキシステムの制御を司る制御装置の機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、請求可能発明の代表的な実施形態を、実施例として、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0056】
<車両の構成>
図1に、本実施例の車両用液圧ブレーキシステムを搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを模式的に示す。車両には、動力源として、エンジン10と電磁モータである駆動用モータ12とが搭載されており、また、エンジン10の出力により発電を行うジェネレータ14も搭載されている。これらエンジン10、駆動用モータ、ジェネレータ14は、動力分割機構16によって互いに接続されている。この動力分割機構16を制御することで、エンジン10の出力をジェネレータ14を作動させるための出力と、4つの車輪18のうちの駆動輪となるものを回転させるための出力とに振り分けたり、駆動用モータからの出力を駆動輪に伝達させることができる。つまり、動力分割機構16は、減速機20および駆動軸22を介して駆動輪に伝達される駆動力に関する変速機として、機能するのである。なお、「車輪18」等のいくつかの構成要素は、総称として使用するが、4つの車輪のいずれかに対応するものであることを示す場合には、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪にそれぞれ対応して、添え字「FL」,「FR」,「RL」,「RR」を付すこととする。この表記に従えば、本車両における駆動輪は、車輪18RL,および車輪18RRである。
【0057】
駆動用モータは、交流同期電動機であり、交流電力によって駆動される。車両にはインバータ24が備えられており、インバータ24は、電力を、直流から交流、あるいは、交流から直流に変換することができる。したがって、インバータ24を制御することで、ジェネレータ14によって出力される交流の電力を、HVバッテリ26に蓄えるための直流の電力に変換させたり、HVバッテリ26に蓄えられている直流の電力を、駆動用モータを駆動するための交流の電力に変換させることができる。ジェネレータ14は、駆動用モータと同様に、交流同期電動機としての構成を有している。つまり、本実施例の車両では、交流同期電動機が2つ搭載されていると考えることができ、一方が、駆動用モータとして、主に駆動力を出力するために使用され、他方が、ジェネレータ14として、主にエンジン10の出力により発電するために使用されている。
【0058】
また、駆動用モータは、車両の走行に伴う車輪18RL、18RRの回転を利用して、発電(回生発電)を行うことも可能である。このとき、車輪18RL、18RRに連結される駆動用モータでは、電力が発生するとともに、駆動用モータの回転を制止するための抵抗力が発生する。したがって、その抵抗力を、車両を制動する制動力として利用することができる。つまり、駆動用モータは、電力を発生させつつ車両を制動するための回生ブレーキの手段として利用される。したがって、本車両は、回生ブレーキがエンジンブレーキや後述する液圧ブレーキとともに制御されることで、制動されるのである。
【0059】
本車両において、上記のブレーキの制御や、その他の車両に関する各種の制御は、複数の電子制御ユニット(ECU)によって行われる。複数のECUのうち、メインECU40は、それらの制御を統括する機能を有している。例えば、ハイブリッド車両は、エンジン10の駆動および駆動用モータの駆動によって走行することが可能とされているが、それらエンジン10の駆動と駆動用モータの駆動は、メインECU40によって総合的に制御される。具体的に言えば、メインECU40によって、エンジン10の出力と駆動用モータによる出力の配分が決定され、その配分に基づき、エンジン10を制御するエンジンECU42、駆動用モータ及びジェネレータ14を制御するモータECU44に各制御についての指令が出力される。また、メインECU40には、HVバッテリ26を制御するバッテリECU46も接続されている。
【0060】
さらに、メインECU40には、ブレーキを制御するブレーキECU48も接続されている。当該車両には、運転者によって操作されるブレーキ操作部材が設けられており、ブレーキECU48は、そのブレーキ操作部材の操作量に基づいて目標制動力を決定し、メインECU40に対してこの目標制動力を出力する。メインECU40は、モータECU44にこの目標制動力を出力し、モータECU44は、その目標制動力に基づいて回生ブレーキを制御するとともに、それの実行値、つまり、発生させている回生制動力をメインECU40に出力する。メインECU40では、目標制動力から回生制動力が減算され、その減算された値によって、車両に搭載される液圧ブレーキシステム100において発生すべき目標液圧制動力が決定される。メインECU40は、目標液圧制動力をブレーキECU48に出力し、ブレーキECU48は、通常時において、液圧ブレーキシステム100が発生させる液圧制動力が目標液圧制動力となるように制御するのである。
【0061】
<車両用液圧ブレーキシステムの構成>
図2に、車両が備える液圧ブレーキシステム100を概念的に示す。本液圧ブレーキシステム100は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル110と、マスタシリンダ装置112と、ブレーキアクチュエータ114とを備えている。マスタシリンダ装置112は、ブレーキペダル110の踏込みに基づいて作動液(ブレーキ液)を加圧するマスタシリンダ116を備えている。マスタシリンダ116は、2つの加圧室118,120を備えており、加圧室118は主液通路122の一端に、加圧室120は主液通路122の一端に、それぞれ接続されている。主液通路122の他端は、左前輪18FLの回転を制動するブレーキ装置126FLのホイールシリンダ128FLと接続され、主液通路124の他端は、右前輪18FRの回転を制動するブレーキ装置126FRのホイールシリンダ128FRと接続されている。
【0062】
主液通路122の途中にはマスタカット弁130が設けられており、主液通路124の途中にはマスタカット弁132が設けられている。各マスタカット弁130,132は、常開の電磁式開閉弁であり、開状態でマスタシリンダ116からホイールシリンダ128へ向かう作動液の流れを許容するとともに、閉状態でマスタシリンダ116からホイールシリンダ128へ向かう作動液の流れを禁止するものとされている。また、マスタシリンダ装置112には、作動液が大気圧で蓄えられるリザーバ134が設けられており、そのリザーバ134からマスタシリンダ116の加圧室118,120の各々に作動液が供給される。なお、主液通路122には、常閉の電磁式開閉弁であるシュミレータ制御弁136を介してストロークシミュレータ138が接続されている。
【0063】
ブレーキアクチュエータ114は、上記ホイールシリンダ128FL,FR、左後輪18RLの回転を制動するブレーキ装置126RLのホイールシリンダ128RL、右後輪18RRの回転を制動するブレーキ装置126RRのホイールシリンダ128RRの各液圧を制御するものであり、動力式液圧源装置140(単に、「液圧源装置140」と呼ぶ場合がある)と、液圧調整装置としてのABS弁装置142とを備えている。
【0064】
動力式液圧源装置140は、高圧の液圧を発生させる高圧源装置148を有している。その高圧源装置148は、リザーバ134に一端が接続される高圧通路150に設けられている。高圧源装置148は、高圧通路150を介してリザーバ134から作動液を汲み上げるポンプ152と、そのポンプ152を駆動するポンプモータ154と、ポンプ152から吐出された作動液を加圧された状態で蓄えるアキュムレータ156と、ポンプ152の吐出圧を設定値以下に規制するリリーフ弁158とを有している。高圧通路150の他端は共通通路160に接続されており、高圧源装置148が発生させる高圧の作動液を共通通路160に流すことが可能となっている。また、共通通路160には、低圧通路162の一端が接続されており、その低圧通路162の他端はリザーバ134に接続されている。このため、共通通路160内の作動液を、低圧通路162を介して、リザーバ134に流すことが可能となっている。
【0065】
液圧源装置140は、高圧通路150の高圧源装置148の下流側に設けられた常閉の電磁式リニア弁(以下、「増圧用リニア弁」という場合がある)170と、低圧通路162に設けられた常閉の電磁式リニア弁(以下、「減圧用リニア弁」という場合がある)172とを有している。増圧用リニア弁170は、高圧源装置148が発生させる高圧の作動液の共通通路160への流入を制御することが可能となっており、一方、減圧用リニア弁172は、共通通路160内の作動液のリザーバ134への流出を制御することが可能となっている。増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172は、高圧側の作動液と低圧側の作動液との液圧差と供給電流との間に予め定められた一定の関係があり、供給電流の増減に応じて開弁圧を変えることが可能となっている。したがって、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172は、供給電流の制御により、液圧源装置140が共通通路160に供給する液圧である供給圧を連続的に変化させることができ、供給圧を容易に任意の高さに制御することが可能となっている。
【0066】
具体的にいえば、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172は、図3に示すように、いずれも、弁体180と弁座182とを含むシーティング弁と、スプリング184と、ソレノイド186とを備えている。スプリング184の付勢力F1は、弁体180を弁座182に接近させる向きに作用し、ソレノイド186に電流が供給されることにより駆動力F2が弁体180を弁座182から離間させる向きに作用する。また、増圧用リニア弁170においては、高圧源装置148によって加圧された作動液の液圧と供給圧との差圧に応じた差圧作用力F3が弁体180を弁座182から離間させる向きに作用し、減圧用リニア弁172においては、リザーバ134に貯留される作動液の液圧、つまり、大気圧と供給圧との差圧に応じた差圧作用力F3が弁体180を弁座182から離間させる向きに作用する。このため、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172のいずれにおいても、ソレノイド186への通電量を制御することによって、差圧作用力F3を制御し、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172の開弁圧を制御することが可能となっている。つまり、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172を差圧弁として機能させて、供給圧を制御可能に変化させることが可能となっている。
【0067】
また、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172を流量調整弁として機能させて、供給圧を制御することも可能となっている。供給圧の目標となる目標供給圧と実際の供給圧である実供給圧との差が大きい場合には、ソレノイド186への通電量を多くして、高圧側から低圧側への作動液の流量を多くし、一方、目標供給圧と実供給圧との差が小さくなるほど、ソレノイド186への通電量を少なくなくすることで、実供給圧を目標供給圧まで変化させるのである。つまり、目標供給圧と実供給圧との差に応じた電流をソレノイド186へ供給して、実供給圧を目標供給圧まで変化させることが可能となっている。
【0068】
なお、高圧通路150のポンプ152と増圧用リニア弁170との間には、高圧源装置148が発生させる高圧の作動液の液圧を検出する高圧源液圧センサ190が設けられており、共通通路160には、その液通路としての共通通路160内の作動液の液圧、つまり、供給圧を検出する検出器としての共通通路液圧センサ192が設けられている。
【0069】
また、共通通路160には、ABS弁装置142を介して上記4つのホイールシリンダ128が接続されている。ABS弁装置142は、ホイールシリンダ128の液圧を増圧及び保持するためのABS保持弁200と、ホイールシリンダ128の液圧を減圧するためのABS減圧弁202とを、各車輪に対応して有している。ABS保持弁200は、ホイールシリンダ128と共通通路160とに接続される個別通路204の途中に設けられており、電磁式の開閉弁とされている。左前輪18FLに対応するABS保持弁200FLは常開弁とされており、他の3つのABS保持弁200FR,RL,RRは常閉弁とされている。また、ABS減圧弁202は、個別通路204のABS保持弁200の下流側と低圧通路162とに接続される個別低圧通路206の途中に設けられており、電磁式の開閉弁とされている。前輪18FL,FRに対応する2つのABS減圧弁202FL、FRは常閉弁とされており、後輪18RL,RRに対応する2つのABS減圧弁202RL、RRは常開弁とされている。
【0070】
本システム10では、図1に示すように、ブレーキECU48が設けられている。ブレーキECU48は、各種電磁弁130,132,136,170,172,200,202、およびポンプ152の作動を制御する制御装置であり、各ブレーキ装置126のホイールシリンダ128に作用させる作動液の液圧を制御するものである。ブレーキECU48は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されたコントローラ210と、ポンプ152を駆動するポンプモータ154に対応する駆動回路212と、各種電磁弁130,132,136,170,172,200,202のそれぞれに対応する複数の駆動回路214,216,218,220,222,224,226とを有している(図23参照)。それら複数の駆動回路212等には、補機バッテリ228が接続されており、ポンプモータ154,各種制御弁130等に、そのバッテリ228から電力が供給される。
【0071】
さらに、複数の駆動回路212等には、コントローラ210が接続されており、コントローラ210が、それら複数の駆動回路212等に各制御信号を送信する。詳しくは、コントローラ210は、ポンプモータ154の駆動回路212にモータ駆動信号を送信し、マスタカット弁130,132,シュミレータ制御弁136のそれぞれの駆動回路214,216,218に各種電磁弁を開閉するための制御信号を送信する。さらに、増圧用リニア弁170,減圧用リニア弁172の駆動回路220,222には、各リニア弁170,172の有するソレノイド186の発生させる磁気力を制御するための電流制御信号を送信し、ABS保持弁200,ABS減圧弁202の駆動回路224,226には、各種電磁弁の開閉時間を制御するための電流制御信号を送信する。このように、コントローラ210が各駆動回路212等に各制御信号を送信することで、ポンプモータ154、各種電磁弁130等の作動を制御する。なお、コントローラ210には、上記高圧源液圧センサ190および共通通路液圧センサ192とともに、ブレーキペダル110の操作量を検出するストロークセンサ232、各車輪18に対して設けられて各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ234等が接続されており、各センサ,スイッチによる検出値は、後に説明するブレーキシステム100の制御において利用される。
【0072】
<車両用液圧ブレーキシステムの制御>
上述した構造によって、本ブレーキシステム100では、ブレーキペダル110が運転者によって操作された場合に、そのブレーキペダル100に加えられた操作力によってマスタシリンダ116の加圧室118,120内の作動液が加圧され、その加圧された作動液に依拠してブレーキ装置126のホイールシリンダ128を作動させることで、制動力を発生させることが可能となっている。ただし、本システム10では、通常時に、マスタシリンダ116によって加圧された作動液に依拠することなく、液圧源装置140によって調圧される作動液に依拠してブレーキ装置126のホイールシリンダ128を作動させる電子制動制御が実行される。
【0073】
電子制動制御では、マスタシリンダ116によって加圧された作動液がホイールシリンダ128に作用しないように、マスタカット弁130,132が励磁されて閉弁状態とされる。そして、液圧源装置140によって調圧された作動液に依拠してホイールシリンダ128を作動させるべく、左前輪18FLに対応するABS保持弁200FLを消磁状態とするとともに、他の3つのABS保持弁200FR,RL,RRを励磁状態とすることで、全てのABS保持弁200が開弁状態とされる。また、前輪18FL,FRに対応する2つのABS減圧弁202FL、FRを消磁状態とするとともに、後輪18RL,RRに対応する2つのABS減圧弁202RL、RRを励磁状態とすることで、全てのABS減圧弁202が閉弁状態とされる。このように各種電磁弁を制御することで、液圧源装置140が供給する作動液によってホイールシリンダ128が作動するのである。つまり、液圧源装置140が供給する作動液の液圧である供給圧が、ホイールシリンダ128へ供給される作動液の液圧であるブレーキ圧(ホイールシリンダ圧)となるのである。
【0074】
i)ABS弁装置の制御
本ブレーキシステム100においては、ABS弁装置142の作動を制御することで、車両の挙動を安定化させるための制御、いわゆるABS(Anti-lock Brake System)制御,VSC(Vehicle Stability Control)制御,TRC(Traction Control)制御が実行されるようになっている。ABS制御は、急ブレーキ時等において車輪のロックを抑制するための制御であり、VSC制御は、車両旋回時における車輪の横滑りを抑制するための制御である。また、TRC制御は、車両発進時,急加速時等に駆動輪の空転を抑制するための制御である。それらABS制御,VSC制御,TRC制御が実行され、ABS制御弁装置142が作動させられる場合には、上述した回生ブレーキと液圧ブレーキとの協調制御から、液圧ブレーキのみの制御に切り換えられる。
【0075】
ABS制御,VSC制御,TRC制御では、各ブレーキ装置126に対応して設けられたABS保持弁200とABS減圧弁202とが制御されることで、各ブレーキ装置126のブレーキ圧が個別に制御される。ABS制御等は、公知の制御であることから、本請求可能発明に関係するABS制御についてのみ簡単に説明し、VSC制御およびTRC制御についての説明は省略するものとする。ABS制御は、制動時において、車輪速センサ234によって各車輪18の回転速度を検出し、それから得られる車輪速,車輪減速度,車輪のスリップ率等に基づき、ブレーキECU48のコントローラ210によって、実行するか否かの判定が行われている。ABS制御を実行する必要があると判定されたブレーキ装置126がある場合には、そのブレーキ装置126のブレーキ圧の減圧,保持,増圧が繰り返し行われるように、そのブレーキ装置126に対応するABS保持弁200とABS減圧弁202とが制御される。具体的には、ABS制御においては、ABS保持弁200が閉弁されるとともにABS減圧弁202が開弁され、液圧源装置140からブレーキ装置126への作動液の供給を禁止するとともにリザーバ134への作動液の流れを許容してブレーキ圧を減圧する減圧モードと、ABS保持弁200およびABS減圧弁202の両者が閉弁され、液圧源装置140からブレーキ装置126への作動液の供給およびリザーバ134への作動液の流れの両者を禁止してブレーキ圧を保持する保持モードと、ABS保持弁200が開弁されるとともにABS減圧弁202が閉弁され、液圧源装置140からブレーキ装置126への作動液の供給を許容してブレーキ圧を増圧する増圧モードとが、車輪減速度やスリップ率等に基づいて切り換えられるようになっている。そのことにより、車輪18のロックが防止されつつ、安定した制動力を発生させるようになっている。
【0076】
それらABS保持弁200およびABS減圧弁202の制御は、特に増圧モードにおけるブレーキ圧の増圧を緻密に制御するために、それらABS保持弁200およびABS減圧弁202の開弁時間と閉弁時間との比(デューティ比)を変更することによって行われるようになっている。そのデューティ比は、目標となるブレーキ圧や、実際のブレーキ圧等に基づいて演算される。ちなみに、本システム100では、実際のブレーキ圧PWCは、ABS弁装置142の作動状況に基づいて推定される。ブレーキ圧PWCの推定方法は、公知の方法であることから簡単に説明するが、まず、ABS制御が実行されてからのABS保持弁200とABS減圧弁202との各々のデューティ比,それらABS保持弁200とABS減圧弁202との各々の開弁時間等に基づいて、ブレーキ圧PWCの変化量が演算される。そして、ABS制御が実行される直前の実供給圧Prと、その演算されたブレーキ圧PWCの変化量とに基づいて、ブレーキ圧PWCが推定される。また、増圧モードにおいて目標となるブレーキ圧は、目標となる増圧勾配でブレーキ圧が増圧するように決定される。なお、その目標となる増圧勾配を決定する際には、共通通路液圧センサ192によって検出された実供給圧Prが用いられる。
【0077】
ii)液圧源装置による供給圧の制御
A)通常時の制御(目標供給圧制御)
電子制動制御においてブレーキ装置126が発生させるべき目標液圧制動力は、上述したように、上記メインECU40によって演算されており、その目標液圧制動力を発生可能な供給圧が目標供給圧P*として、ブレーキECU48のコントローラ210において演算される。そして、ABS装置140が作動させられていない通常時においては、その演算された目標供給圧P*と、上記共通通路液圧センサ192によって検出される実供給圧Prとが比較されて、実供給圧Prが目標供給圧P*より設定差ΔP以上高い場合には実供給圧Prを低減させるべく液圧源装置140が制御され、実供給圧Prが目標供給圧P*より設定差ΔP以上低い場合には実供給圧Prを増加させるべく液圧源装置140が制御される。
【0078】
詳しくいえば、実供給圧Prが目標供給圧P*に設定差ΔPを加えた減圧閾値P+*以上となった場合には、増圧用リニア弁170を閉弁させるべく、増圧用リニア弁170は消磁状態とされる。つまり、増圧用リニア弁170のソレノイド186への通電量が0とされる。そして、実供給圧Prが目標供給圧P*まで低下するように、減圧用リニア弁172のソレノイド186への通電量が制御される。本システム100において、減圧用リニア弁172のソレノイド186への通電量、つまり。目標供給電流iSLRは、実供給圧Prに応じて定まる減圧用リニア弁172の開弁電流成分idwと、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に応じたフィードバック電流成分iFB_SLRとに基づいて、次式に従って決定される。
iSLR=idw−iFB_SLR
詳しく言えば、開弁電流成分idwは、減圧用リニア弁172の弁体180に作用する実供給圧Prとリザーバ134に貯留される作動液の液圧との差圧、つまり、実供給圧Prに応じて定まる電流である。その減圧用リニア弁172の開弁電流成分idwは、供給圧Pkと一定の関係があり、次式に従って決定される。
idw=f(Pk)=Idw−Kdw・Pk
ここで、f(Pk)は、供給圧Pkに依拠した関数であり、図4に示すように、供給圧Pkの増加に伴って直線的に減少するような関数とされている。また、フィードバック電流成分は、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に基づくフィードバック制御の手法を利用して決定されるものであり、次式に従って決定される。
iFB_SLR=KSLR・(P*−Pr) (KSLR:減圧用ゲイン)
したがって、減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRは、次式で表される。
iSLR=Idw−Kdw・P*−KSLR・(P*−Pr)
【0079】
一方、実供給圧Prが目標供給圧P*から設定差ΔPを減じた増圧閾値P-*以下となった場合には、減圧用リニア弁172を閉弁させるべく、減圧用リニア弁172のソレノイド186への通電量が0とされる。そして、実供給圧Prが目標供給圧P*まで増加するように、増圧用リニア弁170のソレノイド186への通電量が制御される。増圧用リニア弁170のソレノイド186への目標供給電流iSLAは、実供給圧Prに応じて定まる増圧用リニア弁172の開弁電流成分iupと、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に応じたフィードバック電流成分iFB_SLAとに基づいて、次式に従って決定される。
iSLA=iup+iFB_SLA
詳しく言えば、開弁電流成分iupは、高圧源液圧センサ190によって検出される高圧源液圧Phと実供給圧Prとの差圧(Ph−Pr)に応じて定まる電流である。その増圧用リニア弁170の開弁電流成分iupは、高圧源液圧Phと供給圧Pkとの差圧(Ph−Pk)と一定の関係があり、次式に従って決定される。
iup=g(Ph−Pk)=Iup−Kup・(Ph−Pk)
ここで、g(Ph−Pk)は、高圧源液圧Phと供給圧Pkとの差圧(Ph−Pk)に依拠した関数であり、図5に示すように、その差圧(Ph−Pk)の増加に伴って直線的に減少するような関数とされている。また、フィードバック電流成分は、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に基づくフィードバック制御の手法を利用して決定されるものであり、次式に従って決定される。
iFB_SLA=KSLA・(P*−Pr) (KSLA:増圧用ゲイン)
したがって、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAは、次式で表される。
iSLA=Iup−Kup・(Ph−P*)+KSLR・(P*−Pr)
【0080】
なお、実供給圧Prと目標供給圧P*とが概ね等しい場合、つまり、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差がΔPより小さい場合には、その実供給圧Prを維持するべく、増圧用リニア弁170のソレノイド186への通電量と、減圧用リニア弁172のソレノイド186への通電量とは、それぞれ0とされる。このように、通常時において、増圧用リニア弁170のソレノイド186、あるいは、減圧用リニア弁172の各ソレノイド186への供給電流を制御することで、供給圧を目標供給圧とし、各ブレーキ装置126が発生させる制動力を目標液圧制動力とするようになっている。
【0081】
B)ABS装置作動時の制御(目標範囲制御)
ただし、上記のように通常時の供給圧の制御(以下、「目標供給圧制御」という場合がある)が実行されている状態で、ABS制御等によりABS弁装置142が作動すると、各ABS保持弁200および各ABS減圧弁202が開閉状態が頻繁に切り換えられるため、液圧源装置140によって供給される作動液が流入する共通通路160等の液通路内の容積が頻繁に変化し、供給圧が急に変動することになる。つまり、その供給圧の変動によって、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172の通電状態が頻繁に切り換えられ、目標供給圧に追従し難くなる場合がある。
【0082】
そこで、本ブレーキシステム100では、ABS弁装置142が作動させられている場合には、実供給圧Prと目標供給圧P*とが概ね等しい場合、つまり、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差がΔPより小さい場合であっても、供給圧が目標範囲内に収まるように液圧源装置140を制御する目標範囲制御が実行されるようになっている。具体的には、供給圧が減圧閾値P+*(=P*+ΔP)以上となった場合に減圧用リニア弁172が開弁するような大きさの電流を、減圧用リニア弁172に供給し続け、供給圧が増圧閾値P-*(=P*−ΔP)以下となった場合に増圧用リニア弁170が開弁するような大きさの電流を、増圧用リニア弁170に供給し続けることで、供給圧を目標範囲内に維持するようになっている。換言すれば、減圧閾値P-*が減圧用リニア弁172の開弁圧となるような電流を減圧用リニア弁172に供給し続け、増圧閾値P+*が増圧用リニア弁170の開弁圧となるような電流を増圧用リニア弁170に供給し続けることで、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172を差圧弁として機能させて、供給圧を目標範囲内に維持するようになっている。
【0083】
上述したように、減圧用リニア弁172のソレノイド186への目標供給電流iSLRは、減圧閾値P+*に相当する圧力において減圧用リニア弁172が開弁するように決定される。具体的には、減圧用リニア弁172の開弁電流idwと供給圧Pkとの関係を示した図4に示す関数に従って決定される。つまり、目標供給電流iSLRは、減圧閾値P+*に対応する開弁電流であり、次式に従って決定される。
iSLR=f(P+*)=Idw−Kdw・P+*
【0084】
一方、増圧用リニア弁170のソレノイド186への目標供給電流iSLAは、増圧閾値P-*に相当する圧力において増圧用リニア弁170が開弁するように決定される。具体的には、高圧源液圧Phと供給圧Pkとの差圧(Ph−Pk)と増圧用リニア弁170の開弁電流iupとの関係を示した図5に示す関数に従って決定される。つまり、目標供給電流iSLAは、高圧源液圧Phと増圧閾値P-*との差圧(Ph−P-*)に対応する開弁電流であり、次式に従って決定される。
iSLA=g(Ph−P-*)=Iup−Kup・(Ph−P-*)
【0085】
ABS弁装置142が作動させられている場合には、上述したように、増圧用リニア弁170と減圧用リニア弁172との各ソレノイド186への供給電流を制御することで、供給圧を目標範囲内に収めるように制御される。このため、ABS弁装置142の作動によって、ABS保持弁200およびABS減圧弁202が頻繁に開閉している状況下において、供給圧を敢えて目標供給圧に追従させることなく、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172の通電状態の頻繁な切換を抑制することが可能となっている
【0086】
なお、目標供給圧P*の急変,ブレーキ圧の急変等によって供給圧が目標範囲から外れる場合があり、このような場合には、供給圧を早急に目標範囲内に収めることが望ましい。先に述べたフィードバック電流成分が加えられるようになっている。つまり、供給圧が減圧閾値P+*以上となった場合には、減圧用リニア弁172への目標供給電流iSLRは、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に応じたフィードバック電流成分iFB_SLRが減じられる。また、供給圧が増圧閾値P-*以下となった場合には、増圧用リニア弁170への目標供給電流iSLAは、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に応じたフィードバック電流成分iFB_SLAが加えられる。
iSLR=f(P+*)−KSLR・(P*−Pr)
iSLA=g(Ph−P-*)+KSLA・(P*−Pr)
【0087】
C)ABS制御実行時の供給電流変更
a)供給電流変更制御の概要
上述したように、ABS制御が実行されると、ABS弁装置の作動によって、ブレーキ圧の増圧,減圧,保持が繰り返し行われる。つまり、ABS弁装置によって、液圧源装置140からブレーキ装置126への作動液の供給を許容する状態と遮断した状態との切り換えが繰り返し行われることになり、そのことによって供給圧が変動してしまうという問題がある。また、ブレーキ圧を増圧させる場合、その増圧勾配を制御すべく、液圧源装置140からブレーキ装置126への作動液の供給を許容する状態と遮断した状態とが、より短い時間間隔で繰り返し切り換えられる。そのことによって供給圧が振動的に変動して、供給圧が安定しないという問題がある。そして、先にも述べたように、共通通路液圧センサ192によって検出された供給圧がブレーキ圧の増圧勾配の決定に用いられるため、供給圧が安定しなければ、ブレーキ圧を適切に増圧させることができない虞がある。
【0088】
上記の問題に対処するために、本システム100においては、ABS制御の実行によりABS弁装置142が作動させられている場合に、上述した目標範囲制御によって決定された増圧用リニア弁170への供給電流が、その増圧用リニア弁170の開弁圧が高くなるように変更されるようになっている。また、目標範囲制御によって決定された減圧用リニア弁172への供給電流も、減圧用リニア弁172の開弁圧が高くなるように変更される。具体的には、増圧用リニア弁170の開弁圧を高めるために、その増圧用リニア弁170への供給電流iSLAに補正電流を加えて目標供給電流を大きくする、あるいは、目標範囲制御における目標供給圧P*に補正圧を加えて、目標となる供給圧を高めに設定するようになっている。なお、目標範囲制御における目標供給圧P*に補正圧を加えて、目標となる供給圧を高めに設定すれば、減圧用リニア弁172の開弁圧も同時に高められる。ちなみに、減圧用リニア弁172への供給電流iSLRからある程度の電流を減じて目標供給電流を小さくすることで、減圧用リニア弁172の開弁圧を高めることができる。以下に、それらリニア弁200,202への供給電流の変更について、さらに詳しく説明する。
【0089】
b)四輪ABS制御実行時の制御
まず、4つの車輪18のすべてに対応するブレーキ装置126において、ABS制御が実行された場合には、目標範囲制御における目標供給圧P*に補正圧αpを加えた補正目標供給圧P*+αpに変更することで、目標となる供給圧を高めに設定し、増圧用リニア弁170の開弁圧および減圧用リニア弁172の開弁圧を高めるようにされている。つまり、増圧用リニア弁170への補正目標供給電流i'SLAおよび減圧用リニア弁172への補正目標供給電流i'SLRが、次式に従って決定される。
i'SLA=Iup−Kup・{Ph−(P-*+αp)}
i'SLR=Idw−Kdw・(P+*+αp)
また、その補正圧αpは、ブレーキ操作に応じて上述したように決定された目標供給圧P*と、ABS弁装置142の作動状況に基づいて推定された4つのブレーキ装置126の各々に対応する推定ブレーキ圧PWCとに基づいて決定される。まず、補正圧αpの決定の前に、4つのブレーキ装置126の各々の推定ブレーキ圧PWCから、その補正圧αpの決定に用いられる基準ブレーキ圧PWCSが演算される。具体的には、その基準ブレーキ圧PWCSは、前輪18FL,FRに対応するブレーキ装置126のホイールシリンダ128の油量剛性(圧力に対する必要な液量)と、後輪18RL,RRに対応するブレーキ装置126のホイールシリンダ128の油量剛性とに関する重み付けを行って、次式に従って演算される。
PWCS={KF・(PWC_FL+PWC_FR)+KR・(PWC_RL+PWC_RR)}/4
なお、この基準ブレーキ圧は、例えば、4つのブレーキ装置126の各々に対応する推定ブレーキ圧PWCの平均値,最大値,最小値等であってもよい。
【0090】
そして、この演算された基準ブレーキ圧PWCSと目標供給圧P*との差に応じ、図6に示す関数に従って、補正圧αpの大きさが決定される。つまり、補正圧αpは、基準ブレーキ圧PWCSと目標供給圧P*との差が大きくなるほど、大きくなるように決定される。また、補正圧αpは、目標供給圧P*の大きさに応じた大きさに決定されるようになっている。図7に、リニア弁200、202の供給電流と流量との関係を示し、差圧による供給電流と流量との関係の相違を示す。ある開弁電流I1,I2,I3から電流を増加させた場合における流量の変化を示している。開弁電流は、I1,I2,I3 の順に小さい。換言すれば、その順に差圧が大きい。図7から分かるように、開弁電流が小さいときほど(差圧が大きいときほど)、電流の増加に対する流量の増加が小さい。つまり、増圧用リニア弁170においては、開弁圧(≒目標供給圧P*)が低いときほど、電流の増加に対する流量の増加が小さい。したがって、本システム100においては、そのことを考慮して、目標供給圧P*が低いほど、補正圧αpが大きくなるように決定される。具体的には、本システム100においては、図6に示した関数の傾きSを目標供給圧に応じて変更することで、目標供給圧P*が低いほど、補正圧αpが大きくされる。図8に、目標供給圧P*と傾きSとの関係を示している。つまり、目標供給圧P*が低いほど傾きSが大きくされ、目標供給圧P*が低いほど補正圧αpが大きくされる。また、目標供給圧P*が低いほど補正目標供給圧P*+αpが大きくされ、増圧用リニア弁170への供給電流が大きくされ、作動液の流量が増加するようになっているのである。
【0091】
また、ABS制御実行時においても、先に述べた目標範囲制御と同様に、供給圧が目標範囲から外れている場合、詳しく言えば、目標範囲以下となっている場合には、供給圧を早急に目標範囲内に収めるべく、フィードバック電流成分が加えられるようになっている。つまり、供給圧が補正目標供給圧P*+αPに応じた目標範囲の下限値(P-*+αP−ΔP)以下となっている場合には、増圧用リニア弁170への目標供給電流i'SLAに、補正目標供給圧P*+αPと実供給圧Prとの差に応じたフィードバック電流成分が加えられる。
i'SLA=Iup−Kup・{Ph−(P-*+αp)}+KSLA・(P*+αP−Pr)
一方、供給圧が補正目標供給圧P*+αPを超えてしまった場合には、昇圧過多を防止すべく、上記の供給電流変更制御が禁止される。つまり、供給圧の目標となる値が、補正目標供給圧P*+αPから、ブレーキ操作に応じた目標供給圧P*に戻され、先に述べた目標範囲制御が実行されることになる。
【0092】
図9および図10を参照しつつ、上記の供給電流変更制御が実行されている場合と、実行されていない場合とを比較する。図9は、供給電流変更制御が実行されている場合,実行されていない場合の各々における供給圧,ブレーキ圧の時間経過に対する変化を示している。図9(a)は、実行されていない場合のものであり、この場合には、供給圧が振動的に変動していることが分かる。また、その振動的に変動している供給圧を用いてブレーキ圧の増圧勾配を決定しているため、ブレーキ圧が保持モードから増圧モードへ切り換わった際に急激に増圧するなどして、適切な増圧勾配で増圧できていないことが分かる。それに対して、図9(b)に示すように、本システムにおいては、供給電流変更制御によって、目標となる供給圧が高められることによって、増圧用リニア弁170の差圧が小さくされて、供給圧の増圧する際の勾配が緩くなり、減圧用リニア弁172が開弁する回数も少なくなっている。つまり、本システム100は、供給圧を安定させることが可能となっているのである。また、本システム100は、そのように安定した供給圧を用いて、ブレーキ圧を制御しているため、ABS制御におけるブレーキ圧の減圧,保持,増圧を適切に行うことができるのである。
【0093】
図10は、ABS制御が実行される前後における供給圧,ブレーキ圧の時間経過に対する変化を示すものである。この図にも示すように、本システム100においては、ABS制御実行時に、ブレーキ操作に応じた目標供給圧P*より高い値が供給圧の目標とされ、実際の供給圧が、供給電流変更制御が実行されていない場合に比較して、高い値に維持されている。そのことにより、本システム100は、ABS制御における増圧モードにおいて、ブレーキ圧を効率よく適切に増圧することが可能となっている。
【0094】
c)少なくとも1つのブレーキ装置においてABS制御が終了する場合の制御
次に4つのブレーキ装置126においてABS制御が実行されて上記の供給電流変更制御が実行されている場合において、そのうちの少なくとも1つのブレーキ装置126において、ABS制御が終了した場合を考える。そのような場合には、供給圧が高められているために、そのABS制御が終了したブレーキ装置126に作動液が供給され、オーバーシュートする虞がある。そこで、本システム100においては、少なくとも1つのブレーキ装置126においてABS制御が終了すると推定された場合において、減圧用リニア弁172の開弁圧が低くなるように減圧用リニア弁172の供給電流を変更するとともに、増圧用リニア弁170の開弁圧も低くなるように増圧用リニア弁170の供給電流をも変更するようになっている。ちなみに、ABS制御が終了するか否かは、従来から種々の方法で行われており、それら種々の方法のうち少なくとも1つにおいて行われているものとし、ここでの詳細な説明は省略するものとする。
【0095】
具体的には、少なくとも1つのブレーキ装置126においてABS制御が終了すると推定された場合には、減圧用リニア弁172の開弁圧が、先に述べた目標範囲制御を行っている場合の開弁圧より低くなるように、が決定される。つまり、減圧用リニア弁172の開弁圧が、目標範囲制御時の開弁圧P+*から減圧用開弁圧低下量βを減じた圧力P+*−βとなるように、減圧用リニア弁172への目標供給電流i'SLRが、次式に従って決定されるのである。
i'SLR=Idw−Kdw・(P+*−β)
なお、減圧用開弁圧低下量βは、目標供給圧P*に基づいて決定されるようにっている。目標供給圧P*が高い場合には、減圧用リニア弁172においては、上流側と下流側との差圧が大きく、図7に示した特性から分かるように、差圧が大きいときほど、電流の増加に対する流量の増加が小さい。つまり、減圧用リニア弁172においては、開弁圧(≒目標供給圧P*)が高いときほど、電流の増加に対する流量の増加が小さい。したがって、本システム100においては、そのことを考慮して、目標供給圧P*が高いほど、リザーバ134への流量を増やすべく、減圧用開弁圧低下量βが大きくなるように決定される。ちなみに、図11に、目標供給圧P*と減圧用開弁圧低下量βとの関係を示している。
【0096】
一方、増圧用リニア弁170の開弁圧は、それが先に述べた目標範囲制御を行っている場合の開弁圧より低くなるように、増圧用開弁圧低下量γが決定される。つまり、増圧用リニア弁170の開弁圧が、目標範囲制御時の開弁圧P-*から増圧用開弁圧低下量γを減じた圧力P-*−γとなるように、増圧用リニア弁170への目標供給電流i'SLAが、次式に従って決定されるのである。
i'SLA=Iup−Kup・{Ph−(P-*−γ)}
その増圧用開弁圧低下量γも、目標供給圧P*に基づいて決定されるようになっている。
増圧用リニア弁170は、開弁圧(≒目標供給圧P*)が高いときほど、作動液の供給量を減らすべく、増圧用開弁圧低下量γが大きくなるように決定される。ちなみに、図12に、目標供給圧P*と増圧用開弁圧低下量γとの関係を示している。
【0097】
図13,14を参照しつつ、上述した、少なくとも1つのブレーキ装置126においてABS制御が終了すると推定された場合の制御の効果について説明する。図13には、リニア弁170,172の供給電流が、開弁圧が低くなるように変更された場合(図13(b))と、変更されなかった場合(図13(a))とにおけるABS制御非実行輪に対応するブレーキ装置126のブレーキ圧の時間経過に対する変化を示している。この図13(b)から分かるように、ABS制御非実行輪に対応するブレーキ圧のオーバーシュートが抑制されている。
【0098】
また、図14は、目標供給圧P*に応じて変化させた減圧用開弁圧低下量βおよび増圧用開弁圧低下量γを、それらを一定値とした場合と比較した図である。図14(a),(b)は、減圧用開弁圧低下量βおよび増圧用開弁圧低下量γを一定とした場合のものであり、図14(b)は、図14(a)より目標供給圧が高い場合のものである。図14(a)には、ABS制御非実行輪に対応するブレーキ圧がオーバーシュートを抑制できているのに対し、目標供給圧が比較的高い場合を示す図14(b)では、ABS制御非実行輪に対応するブレーキ圧がオーバーシュートしてしまっている。つまり、開弁圧が低くなるようにリニア弁170,172の供給電流を変更したものの、その変更量が不十分だったと考えられる。それに対して、減圧用開弁圧低下量βおよび増圧用開弁圧低下量γを目標供給圧P*に応じて変化させた本システム100においては、目標供給圧が比較的高い場合であっても、ABS制御非実行輪に対応するブレーキ圧がオーバーシュートを抑制することができている。
【0099】
d)ABS制御非実行輪がある場合の制御
次に、4つのブレーキ装置126のうち、ABS制御が実行されていないものが存在する場合、つまり、ABS制御実行されているものが1つないし3つである場合の制御について説明する。ABS制御非実行輪が存在する場合には、先に述べた目標範囲制御において決定された増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAに補正電流成分αiを加えることで、増圧用リニア弁170の開弁圧を高めるようにされている。つまり、基本的には、増圧用リニア弁170への供給電流i'SLAが、次式に従って決定される。
i'SLA=Iup−Kup・(Ph−P-*)+αi
【0100】
上記の補正電流成分αiは、4つのブレーキ装置126の各々に必要な流量の合計QABSに基づいて決定される。詳しく言えば、4つのブレーキ装置126の各々において、前述の推定ブレーキ圧PWCと、対応するABS保持弁200の作動状況(具体的には、ABS保持弁200の開閉状態や、増圧モードである場合には目標となる増圧勾配など)から演算される目標ブレーキ圧とに基づいて、必要な流量Q(作動液の必要流速である)が推定される。なお、各ブレーキ装置126のホイールシリンダ128におけるブレーキ圧と作動液量との関係を図15に示す。そして、それら推定された必要流量が合計されて、総必要流量QABSが演算される。そして、図16示す増圧用リニア弁170における流量と電流との関係に従って、総必要流量QABSを実現する電流が求められ、その電流が補正電流成分αiとされるようになっている。
【0101】
また、供給圧が目標供給圧P*となっている状態から上記の総必要流量QABS分の作動液が共通通路160に流れ込んだと仮定した場合に、その場合における供給圧の仮上昇圧pが演算される。具体的には、その仮上昇圧pは、図17に示した、4つのブレーキ装置126のホイールシリンダ128を考慮した場合の供給圧と作動液量との関係に従って演算される。そして、目標供給圧P*にその仮上昇圧pを加えた仮目標供給圧P*+pと、実供給圧Prとを比較し、実供給圧Prがその仮目標供給圧P*+p以下である場合に、供給電流の変更が行われるようになっている。換言すれば、実供給圧Prが仮目標供給圧P*+pを超えた場合には、供給電流変更制御が禁止され、先に述べた目標範囲制御が実行されることになる。なお、この場合においても、先に述べた目標範囲制御と同様に、目標範囲以下となっている場合には、供給圧を早急に目標範囲内に収めるべく、フィードバック電流成分が加えられるようになっている。以上のことから、ABS制御非実行輪がある場合には、増圧用リニア弁170への供給電流i'SLAは、次式に従って決定される。
i'SLA=g(Ph−P-*) (P*+p<Pr)
i'SLA=g(Ph−P-*)+αi (P-*<Pr≦P*+p)
i'SLA=g(Ph−P-*)+αi+KSLA・(P*−Pr) (Pr≦P-*)
【0102】
例えば、本システム100においては、ABS保持弁200が比較的短い時間間隔で制御されているために、増圧モードであっても目標となる増圧勾配を実現するためにABS保持弁200を閉状態とすることがあり、4つのABS保持弁200のすべてが閉状態となる場合がある。上記のように、総必要流量QABSに基づいて補正電流成分αiが決定されるため、4つのABS保持弁200のすべてが閉状態となると、総必要流量QABSが0となり、補正電流成分αiも0となる。つまり、増圧用リニア弁170の高められていた開弁圧が低下して、増圧用リニア弁170が閉弁してしまう虞がある。例えば、4つのブレーキ装置126のうちに増圧モードのものが存在する場合において、増圧用リニア弁170が閉弁してしまうと、その直後の作動液の供給に遅れが生じることになる。そこで、本システム100においては、4つのABS保持弁200が閉状態となった場合には、その直前の補正電流成分αiを保持するようになっている。
【0103】
図18に、上記のように増圧用リニア弁170への供給電流が制御された場合における、実供給圧Pr,4つのブレーキ装置126のブレーキ圧PWC,総必要流量QABS,補正電流成分αiの時間経過に対する変化を示している。上記のように、現時点で必要な作動液の流量を実現するように増圧用リニア弁170への供給電流が大きくされるため、この図からも分かるように、例えば、ABS制御において増圧モードが開始される場合に必要流量が大きく、補正電流成分αiも大きくなる。また、ブレーキ圧は、低いときほど増圧に必要な流量は大きいため(図9参照)、その場合には、補正電流成分αiがより大きくなっている。さらに、上記のような制御によって、ABS制御非実行輪に対応するブレーキ装置126への作動液の供給過多が防止される。さらに、供給圧のオーバーシュートも抑制し、供給圧を目標供給圧P*へ収束させることが可能である。
【0104】
<制御プログラム>
本システム100において液圧源装置140が発生させる作動液の液圧である供給圧の制御は、図19にフローチャートを示す供給圧制御プログラムが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、設定された時間間隔ΔtをおいてブレーキECU48のコントローラ210により繰り返し実行されることによって行われる。以下に、その供給圧制御プログラムによる制御処理のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0105】
供給圧制御プログラムによる処理では、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、上記メインECU40において演算されている目標液圧制動力に基づいて目標供給圧P*が決定される。コントローラ210内には、目標液圧制動力をパラメータとする目標供給圧P*に関するマップデータが格納されており、目標供給液圧P*は、そのマップデータを参照することによって決定される。そして、S2において、共通通路液圧センサ192によって、実供給圧Prが検出され、S3において、高圧源液圧センサ190によって、高圧源液圧Phが検出される。
【0106】
次いで、S4において、ABS弁装置142が作動しているか否かが判定される。つまり、ABS制御,VSC制御,TRC制御が実行されている場合に、ABS弁装置142が作動していると判定される。ABS弁装置142が作動していない場合には、S6以下の目標供給圧制御が実行される。具体的には、まず、S6において、実供給圧Prが減圧閾値P+*(=P*+ΔP)より大きいか否かが判定される。実供給圧Prが減圧閾値P+*より大きいと判定された場合には、S7において、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAが0に決定され、減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRが、開弁電流成分とフィードバック電流成分とを足し合わせた前述の式に従って決定される。次いで、S8において、実供給圧Prが増圧閾値P-*(=P*−ΔP)より低いか否かが判定される。実供給圧Prが増圧閾値P-*(=P*−ΔP)より低いと判定された場合には、S9において、減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRが0に決定され、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAが、開弁電流成分とフィードバック電流成分とを足し合わせた前述の式に従って決定される。なお、S8において、実供給圧Prが増圧閾値P-*(=P*−ΔP)以上であると判定された場合、つまり、実供給圧Prと目標供給圧P*とが概ね一致している場合には、S10において、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAおよび減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRが0に決定される。
【0107】
また、S4において、ABS弁装置142が作動していると判定された場合には、S5において、目標範囲制御が実行される。その目標範囲制御は、図20にフローチャートを示す目標範囲制御サブルーチンが実行されることによって行われる。その図20にフローチャートを示す目標範囲制御サブルーチンによる処理では、まず、S21において、ABS制御が実行されているか否かが判定される。ABS制御実行されていない場合には、S22以下において、通常の目標範囲制御が実行される。つまり、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAには、増圧閾値P-*を開弁圧とする大きさの開弁電流成分が常に加えられ、減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRには、減圧閾値P+*を開弁圧とする大きさの開弁電流成分が常に加えられる。そして、S22において、実供給圧Prが減圧閾値P+*より高いと判定された場合には、S25において、減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRが、上記開弁電流成分とフィードバック電流成分とを足し合わせて決定される。また、S23において、実供給圧Prが増圧閾値P-*より低いと判定された場合には、S26において、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAが、上記開弁電流成分とフィードバック電流成分とを足し合わせて決定される。
【0108】
また、S21において、ABS制御実行されていると判定された場合には、S27以下において、ABS制御時供給電流変更制御が実行される。S27において、4つの車輪18のすべてに対応するブレーキ装置126においてABS制御が実行されているか否かが判定される。4つのブレーキ装置126のすべてにおいてABS制御が実行されていると判定された場合には、S28において、目標供給圧P*と推定ブレーキ圧PWCとの差に基づいて、目標供給電流を変更するための処理が行われる。一方、4つのブレーキ装置126のすべてにおいてABS制御が実行されていないと判定された場合、つまり、ABS制御が実行されているのが1輪ないし3輪である場合には、S29において、ブレーキ装置126が必要とする作動液の量に基づいて、目標供給電流を変更するための処理が行われる。
【0109】
S28における目標供給圧P*と推定ブレーキ圧PWCとの差に基づいて目標供給電流を変更するための処理は、図21にフローチャートを示す差圧依拠電流変更サブルーチンが実行されることによって行われる。この差圧依拠電流変更サブルーチンによる処理では、まず、S31において、4つのブレーキ装置126のうちにABS制御が終了すると推定されるものがあるか否かが判定される。ABS制御が終了するブレーキ装置126がないと判定された場合には、S32以下において、目標供給圧P*と推定ブレーキ圧PWCとの差に基づいて、2つのリニア弁170,172の開弁圧が高くなるように、供給電流を変更するための処理が行われる。具体的には、S32において、4つのブレーキ装置126の推定ブレーキ圧PWCが取得され、S33において、それらに基づいて前述の式に従って基準ブレーキ圧PWCSが演算される。そして、S34において、目標供給圧P*、および、目標供給圧P*と基準ブレーキ圧PWCSとの差に基づいて、図6および図8に示すように設定されているマップデータを参照し、補正圧αpが決定される。
【0110】
次いで、S35において、目標供給圧P*と補正圧αpとを足し合わせた値が、実供給圧Prとが比較される。実供給圧Prが目標供給圧P*と補正圧αpとを足し合わせた値より低い場合には、S36において、2つのリニア弁170,172を制御するための目標が、上記の目標供給圧P*から、目標供給圧P*と補正圧αpとを足し合わせた補正目標供給圧P*+αpに変更される。そして、S37〜S41において、先に説明した目標範囲制御サブルーチンのS22〜S26と同様の処理が行われ、2つのリニア弁170,172の目標供給電流iSLA,iSLRが決定される。なお、実供給圧Prが目標供給圧P*と補正圧αpとを足し合わせた値より高い場合には、供給電流の変更を禁止すべく、目標供給圧P*で、S37〜S41の処理が行われる。
【0111】
また、S31において、4つのブレーキ装置126のうちにABS制御が終了すると推定されるものがあると判定された場合には、S42以下において、2つのリニア弁170,172の開弁圧が低くなるように、供給電流を変更するための処理が行われる。S42において、図11および図12に示すように設定されているマップデータを参照しつつ、目標供給圧P*に応じた減圧用開弁圧低下量β,増圧用開弁圧低下量γが決定される。そして、S43において、2つのリニア弁170,172開弁圧が減圧用開弁圧低下量β,増圧用開弁圧低下量γを考慮した大きさとなるように、それら2つのリニア弁170,172の目標供給電流iSLA,iSLRが決定される。以上のように、2つのリニア弁170,172の目標供給電流iSLA,iSLRが決定された後に、この差圧依拠電流変更サブルーチンの1回の処理が終了する。
【0112】
一方、目標範囲制御サブルーチンのS29におけるブレーキ装置126が必要とする作動液の量に基づいて目標供給電流を変更するための処理は、図22にフローチャートを示す必要液量依拠電流変更サブルーチンが実行されることによって行われる。この必要液量依拠電流変更サブルーチンによる処理では、まず、S51において、図15に示すように設定されたマップデータを参照しつつ、4つのブレーキ装置126の各々の、次回プログラム実行時までに必要となる作動液の量(必要流量Q)が推定される。次いで、S52において、それれ4つのブレーキ装置126の各々の必要流量Qを合計して、総必要流量QABS、つまり、増圧用リニア弁170が実現すべき流量が演算される。そして、S53において、図16に示すように設定されているマップデータを参照しつつ、補正電流成分αiが決定される。また、それとともに、図17に示すように設定されているマップデータを参照しつつ、目標供給圧P*にある状態から総必要流量QABSの作動液が共通通路160に流れ込んだ場合の上昇圧pが推定される。
【0113】
次いで、S54以下において、2つのリニア弁170,172の目標供給電流iSLA,iSLRが決定される。簡単に説明するが、この必要液量依拠電流変更サブルーチンによる処理では、目標供給圧P*に仮上昇圧pを加えた値(仮目標供給圧P*+p)より実供給圧prが低い場合に、目標範囲制御サブルーチンのS22〜S26の処理によって決定される増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAに、補正電流成分αiを加えた値に決定される。以上のように、2つのリニア弁170,172の目標供給電流iSLA,iSLRが決定された後に、この必要流量依拠電流変更サブルーチンの1回の処理が終了する。
【0114】
そして、供給圧制御プログラムのS11において、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAに基づく制御信号が駆動回路220に送信され、決定された減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRに基づく制御信号が駆動回路222に送信された後、本プログラムの1回の実行が終了する。
【0115】
<制御装置の機能構成>
上述したような制御を実行して制御装置として機能するブレーキECU48は、前述した各種の処理を実行する各種の機能部を有していると考えることができる。詳しく言えば、図23に示すように、ブレーキECU48は、供給圧制御プログラムのS1を実行して、液圧源装置140によって供給される作動液の液圧である目標供給圧P*を決定する目標供給圧決定部250と、供給圧制御プログラムのS2以下を実行して、目標供給圧に基づいて増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172への供給電流を制御する供給圧制御部252とを有している。また、ブレーキECU48は、その他にも、ABS制御制御を実行するABS制御実行部254と、そのABS制御等のABS弁装置142が作動している場合において、各ブレーキ装置126のブレーキ圧を推定するブレーキ圧推定部256とを有している。
【0116】
さらに、ブレーキECU48は、目標範囲制御サブルーチンのS27〜S28を実行し、ABS制御が実行されている場合において、実行されていない場合に比較して2つのリニア弁170,172の開弁圧が高くなるように、それらへの供給電流を変更するABS制御時供給電流変更部260を有している。そのABS制御時供給電流変更部260は、目標供給圧決定部250によって決定された目標供給圧に補正圧を加えて補正目標供給圧を決定する補正目標供給圧決定部262と、目標供給電流に加える補正電流成分を決定する補正目標供給電流決定部264とを有している。なお、その補正目標供給圧決定部262は、差圧依拠電流変更サブルーチンのS32〜S34,S36の処理を実行する部分を含んで構成され、補正目標供給電流決定部264は、必要依拠電流変更サブルーチンのS51〜S53の処理を実行する部分を含んで構成されている。
【符号の説明】
【0117】
12:駆動用モータ(電磁モータ) 18:車輪 48:ブレーキECU(制御装置) 100:液圧ブレーキシステム 110:ブレーキペダル(ブレーキ操作部材) 126:ブレーキ装置 128:ホイールシリンダ 134:リザーバ 140:動力式液圧源装置(液圧源装置) 142:ABS弁装置 148:高圧源装置 160:共通通路 170:増圧用リニア弁(増圧用電磁弁) 172:減圧用リニア弁(減圧用電磁弁) 192:共通通路液圧センサ(液圧検出器) 200:ABS保持弁 202:ABS減圧弁 210:コントローラ 234:車輪速センサ 250:目標供給圧決定部 252:供給圧制御部 254:ABS制御制御実行部 256:ブレーキ圧推定部 260:ABS制御時供給電流変更部 262:補正目標圧決定部 264:補正目標供給電流決定部
【0118】
PWC:推定ブレーキ圧 P*:目標供給圧 Pr:実供給圧 P+*:減圧閾値 iSLR:目標供給電流(減圧用リニア弁) idw:開弁電流成分(減圧用リニア弁) iFB_SLR:フィードバック電流成分(減圧用リニア弁) Pk:供給圧 P-*:増圧閾値 iSLA:目標供給電流(増圧用リニア弁) iup:開弁電流成分(増圧用リニア弁) iFB_SLA:フィードバック電流成分(増圧用リニア弁) αp:補正圧 P*+αp:補正目標供給圧 PWCS:基準ブレーキ圧 β:減圧用開弁圧低下量 γ:増圧用開弁圧低下量 αi:補正電流成分 QABS:総必要流量
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動液の液圧によって作動して車輪に制動力を付与する液圧式のブレーキ装置を備えた車両用液圧ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される液圧ブレーキシステムとして、従来より、運転者によってブレーキ操作部材に加えられる操作力に依らず、液圧源装置から供給される作動液に依拠して制動力を発生させるシステム、いわゆる電子制御式のブレーキシステムが知られている。そのようなシステムでは、下記特許文献に記載されたシステムのように、液圧源装置が有する増圧用電磁弁および減圧用電磁弁への供給電流を制御することで、その液圧源装置が供給する作動液の液圧である供給圧を制御可能に変更し、運転者によるブレーキ操作に応じた適切な制動力を発生させることが可能となっている。また、液圧源装置とブレーキ装置との間に、車輪のロック,横滑り等に対処するためのABS弁装置が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−61816号公報
【特許文献2】特開2009−292176号公報
【特許文献3】特開2007−137281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載されたブレーキシステムのように、液圧源装置とABS弁装置とを備えたシステムにおいてABS制御が実行されると、ABS弁装置の作動によって、ブレーキ装置の液圧であるブレーキ圧の増圧,減圧,保持が繰り返し行われる。つまり、ABS弁装置によって、液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給を許容する状態と遮断した状態との切り換えが繰り返し行われることになり、そのことによって供給圧が変動してしまうという問題がある。また、ブレーキ圧を増圧させる場合、その増圧勾配を制御すべく、液圧源装置からの作動液の供給を許容した状態と遮断した状態とが、より短い時間間隔で繰り返し切り換えられる。そのことによって供給圧が振動的に変動して、供給圧が安定しないという問題がある。そして、上記の特許文献に記載された液圧ブレーキシステムは、ABS弁装置の作動による供給圧の変動に対処するための制御を実行可能に構成されている。本発明は、そのABS弁装置の作動による供給圧の変動に対処するためになされたものであり、特に、ABS制御実行時におけるABS弁装置の作動による供給圧の変動を抑制することが可能な車両用液圧ブレーキシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両用液圧ブレーキシステムは、ブレーキ操作に応じて決定された目標供給圧に基づいて、液圧源装置が有する増圧用電磁弁および減圧用電磁弁への供給電流が制御されるように構成され、ABS制御が実行されている場合において、実行されていない場合に比較して、増圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、その増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の車両用液圧ブレーキシステムにおいては、増圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように供給電流が変更されることで、実際の供給圧が高められることになる。つまり、本発明のシステムによれば、ABS実行中において高圧源の液圧と供給圧との差が小さくされるため、ABS弁装置の作動による供給圧の変動を、特に、液圧源装置からの作動液の供給が遮断された場合における供給圧の増加を、抑制することが可能とされている。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(11)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項2に(12)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに(14)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項4に(15)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項4または請求項5に(16)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項6に(17)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項7に、請求項1ないし請求項7のいずれか1つに(18)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項8に、請求項1ないし請求項8のいずれか1つに(5)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項9に、請求項9に(6)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項10に、請求項1ないし請求項10のいずれか1つに(3)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項11に、請求項1ないし請求項11のいずれか1つに(21)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項12に、請求項12に(22)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項13に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)運転者によって操作されるブレーキ操作部材と、
車輪に対応して設けられ、自身に供給される作動液の液圧によって作動して車輪に制動力を付与するブレーキ装置と、
そのブレーキ装置に作動液を調圧された供給する装置であって、(a)高圧の液圧を発生させる高圧源と、(b)自身に供給される電流に応じて開弁圧が変更され、供給する作動液の液圧を増圧する増圧用電磁弁と、(c)自身に供給される電流に応じて開弁圧が変更され、供給する作動液の液圧を減圧する減圧用電磁弁とを有する液圧源装置と、
その液圧源装置と前記ブレーキ装置との間に設けられ、前記車輪のロックに対処するためのABS制御の実行時に作動させられるABS弁装置と、
(A)前記ブレーキ操作部材の操作に基づいて、前記液圧源装置によって供給される作動液の液圧である供給圧の目標となる目標供給圧を決定する目標供給圧決定部と、(B)前記目標供給圧に基づいて、前記液圧源装置が有する前記増圧用電磁弁および前記減圧用電磁弁への供給電流を制御する供給圧制御部と、(C)前記ABS制御を実行すべく前記ABS弁装置を制御するABS制御実行部と、(D)そのABS制御実行部によって前記ABS制御が実行されている場合において、実行されていない場合に比較して、前記増圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するABS時供給電流変更部とを有する制御装置と
を備えた車両用液圧ブレーキシステム。
【0010】
上記のような液圧源装置とABS弁装置とを備えた車両用液圧ブレーキシステムは、通常の制動時において、ABS弁装置は液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給を許容し、液圧源装置が有する増圧用電磁弁および減圧用電磁弁の制御によって供給圧が制御されることで、ブレーキ装置の液圧であるブレーキ圧(ブレーキ装置がホイールシリンダを有する場合、ホイールシリンダ圧である)がブレーキ操作に応じた大きさに制御される。
【0011】
一方、車輪のロックに対処するためのABS制御が実行されると、ABS弁装置の作動が制御され、液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給を許容してブレーキ装置の液圧であるブレーキ圧を増圧する増圧モードと、液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給を禁止するとともに低圧源への作動液の流れを許容してブレーキ圧を減圧する減圧モードと、液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給および低圧源への作動液の流れの両者を禁止してブレーキ圧を保持する保持モードとが、繰り返し実現されることになる。つまり、液圧源装置からブレーキ装置への作動液の供給を許容する状態と遮断した状態との切り換えによって、具体的に言えば、それらの状態を切り換えるABS弁装置が有するABS保持弁の開閉によって、供給圧が変動してしまうという問題がある。また、上記の増圧モードにおいては、ブレーキ圧の増圧勾配を制御すべく、液圧源装置からの作動液の供給を許容した状態と遮断した状態とが、つまり、ABS保持弁の開閉状態が、より短い時間間隔で繰り返し切り換えられる場合がある。そのABS保持弁の制御によって、供給圧が振動的に変動して、供給圧が安定しないという問題がある。特に、ABS制御においては、上記の増圧モードにおいて、ブレーキ圧の増圧勾配を制御するために供給圧が用いられる場合があり、供給圧が安定しなければ、目標の増圧勾配を実現することも困難となる。つまり、ABS制御時においては、供給圧が安定しないことによって、停止距離の延長に繋がるという問題が生じるのである。
【0012】
なお、本項に記載の車両用液圧ブレーキシステムは、「液圧源装置」が、「供給圧制御部」によって、例えば、通常時において、目標供給圧に対してある程度マージンをもつ範囲内に供給圧が収まるように、増圧用電磁弁の開弁圧がその範囲の下限値となるように増圧用電磁弁の供給電流が制御されるとともに、減圧用電磁弁の開弁圧がその範囲の上限値となるように減圧用電磁弁の供給電流が制御されるように構成することが可能である。ちなみに、増圧用電磁弁の開弁圧とは、電磁弁が有する弁体に作用するすべての力がつり合っている状態における流出側の圧力である供給圧をいい、減圧用電磁弁の開弁圧とは、電磁弁が有する弁体に作用するすべての力がつり合っている状態における流入側の圧力である供給圧をいう。
【0013】
そして、本項に記載の車両用液圧ブレーキシステムは、ABS制御が実行されている場合に、増圧用電磁弁の開弁圧が通常時より高くなるように、その増圧用電磁弁への供給電流が変更される。つまり、増圧用電磁弁の開弁圧が高められて、その開弁圧と実際の供給圧との差が大きくされ、高圧源からブレーキ装置への供給流量が多くされることになる。そのことにより、例えば、ABS制御の実行開始時において、実際の供給圧と目標供給圧とに比較的大きな差があるような場合に、供給圧を早急に増圧させることが可能となる。
【0014】
また、換言すれば、供給圧が通常時より高くならなければ閉弁しないのであって、供給圧が目標供給圧より高められることになる。したがって、高圧源の液圧と供給圧との差が小さくされるため、ABS弁装置の作動による供給圧の変動を抑制することが可能である。詳しく言えば、ABS弁装置がABS制御における増圧モードから減圧モードへ移行した場合や、増圧モードにおいて増圧勾配の制御等によりABS弁装置が有するABS保持弁が閉状態となった場合であっても、高圧源の液圧と供給圧との差が小さいため、供給圧の増加勾配が緩くなる。また、そのことにより、減圧用電磁弁が開弁する頻度を減らすことができる。したがって、本項に記載のシステムは、ABS実行中において、供給圧を安定させることが可能とされてる。先にも述べたように、ABS制御においては、増圧モードにおいて、ブレーキ圧の増圧勾配を制御するために供給圧が用いられる場合がある。本項の態様によれば、その供給圧を高めた状態で安定させることが可能であるため、増圧モードにおいて適切な増圧勾配を実現し、効率的に車両に制動力を付与することが可能である。
【0015】
ちなみに、供給圧を高めた状態で維持するには、減圧用電磁弁の開弁圧が、供給圧制御部によって制御される場合に比較して高くなるように、その減圧用電磁弁への供給電流をも変更することが望ましい。なお、本項に記載の態様において、増圧用電磁弁および減圧用電磁弁への供給電流を変更する手法は、目標となる供給電流を直接変更する態様に限定されず、後に詳しく説明するが、目標供給圧を補正することによって、供給電流が変更されるような態様であってもよい。また、供給電流を変更する大きさについては、後に詳しく説明するが、種々の指標に基づいて決定することが可能である。
【0016】
本項に記載の「ABS弁装置」は、車輪のロック,横滑り,空転等に対処するべく、ブレーキ装置に供給される作動液の圧力であるブレーキ圧を増減可能な構造であればよく、例えば、液圧源装置が供給する作動液のブレーキ装置への流入を許容する状態と禁止する状態とを切換可能なABS保持弁と、ブレーキ装置に供給された作動液の低圧源への流出を許容する状態と禁止する状態とを切換可能なABS減圧弁とを有し、ABS保持弁が開弁されるとともにABS減圧弁が閉弁されることで、ブレーキ圧を増圧させ、ABS保持弁が閉弁されるとともにABS減圧弁が開弁されることで、ブレーキ圧を減圧させる構造とすることができる。
【0017】
(2)前記増圧用電磁弁が、自身に供給される電流が大きくなるほど開弁圧がより高くされるものとされ、
前記ABS時供給電流変更部が、前記ABS制御が実行されている場合に、実行されていない場合に比較して、前記増圧用電磁弁に供給する電流を増加させるように構成された(1)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0018】
本項に記載の態様は、増圧用電磁弁が、電流が供給されていない状態において閉弁している構造のものに限定されている。
【0019】
(3)前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されている場合に、実行されていない場合に比較して、前記減圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、前記減圧用電磁弁に供給する電流をも変更するように構成された(1)項または(2)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0020】
(4)前記減圧用電磁弁が、自身に供給される電流が小さくなるほど開弁圧がより高くされるものとされ、
前記ABS時供給電流変更部が、前記ABS制御が実行されている場合に、実行されていない場合に比較して、前記減圧用電磁弁に供給する電流を低下させるように構成された(3)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0021】
上記2つの項に記載の態様は、減圧用電磁弁への供給電流も変更されるようになっている。上記2つの項の態様は、先にも述べたように、供給圧を目標供給圧より高めに維持するのに、望ましい態様である。なお、後者の態様は、減圧用電磁弁が、電流が供給されていない状態において閉弁している構造のものに限定されている。
【0022】
(5)前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されている場合に、前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧をその目標供給圧より高くなるように補正し、前記供給圧制御部がその補正した目標供給圧に基づいて前記増圧用電磁弁および前記減圧用電磁弁への供給電流を制御することを許容することで、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成された(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0023】
本項に記載の態様は、増圧用電磁弁への供給電流を変更するために、供給圧制御部が目標とする供給圧を、目標供給圧決定部により決定された目標供給圧より高い値に変更するように構成されている。本項の態様においては、減圧用電磁弁の開弁圧も同時に高められることになる。本項の態様は、先に述べた態様である、減圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、減圧用電磁弁に供給する電流をも変更する態様の一態様と考えることもできる。
【0024】
(6)前記ABS時供給電流変更部が、
自身が補正した前記目標供給圧を前記供給圧が超えた場合に、前記増圧用電磁弁に供給する電流の変更を禁止するように構成された(5)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0025】
本項に記載の態様は、例えば、供給圧が補正された目標供給圧を超えた場合に、供給圧制御における目標供給圧を、目標供給圧決定部によって決定された元の目標供給圧に戻すように構成することができる。本項の態様によれば、高められた供給圧を低下させることになり、供給圧のオーバーシュートを抑制することが可能である。
【0026】
(7)前記供給圧制御部が、
前記供給圧が前記目標供給圧より第1設定差だけ低い増圧閾値以下となった場合に前記増圧用電磁弁が開弁するような大きさの電流を、前記増圧用電磁弁に供給し続けるとともに、前記供給圧が前記目標供給圧より第2設定差だけ高い減圧閾値以上となった場合に前記減圧用電磁弁が開弁するような大きさの電流を、前記減圧用電磁弁に供給し続けることで、前記供給圧が、前記増圧閾値と前記減圧閾値との間に収まるようにする(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0027】
本項に記載のシステムは、供給圧の制御手法が具体化されており、いわゆる開弁電流を2つの電磁リニア弁に供給し続けるように構成されている。本項の態様は、増圧用電磁弁の開弁圧が増圧閾値とされるとともに、減圧用電磁弁の開弁圧が減圧閾値とされている。つまり、供給圧がその増圧閾値以下になると、増圧用電磁弁が機械的に開弁して増圧し、供給圧が減圧閾値以上になると、減圧用電磁弁が機械的に開弁して減圧するように構成される。したがって、増圧用電磁弁の開弁圧を下限値とし、減圧用電磁弁の開弁圧を上限値とする範囲内に、供給圧が収まるように制御される。なお、本項に記載の「第1設定差」および「第2設定差」は、正の値に限定されず、0や負の値をも含む。換言すれば、本項に記載の「増圧閾値」および「減圧閾値」は、目標供給圧より高い値であっても、低い値であっても、目標供給圧と同じ高さであってもよい。ただし、減圧閾値は、増圧閾値より高めに設定されることが望ましい。
【0028】
なお、本項に記載の「目標供給圧」は、目標供給圧決定部によって決定された目標供給圧に限定されない。つまり、本項の態様を先に述べた目標供給圧を補正する態様と併せた場合には、本項に記載の「目標供給圧」は、ABS時供給電流変更部によって補正された目標供給圧となる場合もある。
【0029】
(8)前記供給圧制御部が、
前記供給圧が前記増圧閾値以下となった場合に、その場合に前記増圧用電磁弁が開弁するような大きさの電流成分と、前記供給圧と前記目標供給圧との差に応じた電流成分とを足し合わせた電流を、前記増圧用電磁弁に供給し、前記供給圧が前記減圧閾値以上となった場合に、その場合に前記減圧用電磁弁が開弁するような大きさの電流成分と、前記供給圧と前記目標供給圧との差に応じた電流成分とを足し合わせた電流を、前記減圧用電磁弁に供給する(7)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0030】
本項に記載のシステムは、供給圧の制御において、供給圧が目標となる範囲から外れた場合に、フィードバック制御が行われるように構成されている。本項に記載の「供給圧と目標供給圧との差に応じた電流成分」とは、例えば、供給圧と目標供給圧との差に比例する電流成分、つまり、その供給圧と目標供給圧との差が大きくなるほど、より大きくなるものとすることができる。本項の態様によれば、供給圧と目標供給圧とのズレを早急になくすことが可能である。なお、本項の態様は、先に述べた目標供給圧を補正する態様と併せた場合、その補正された目標供給圧と供給圧との差分に応じた電流成分を加えることとなり、作動液の流量をより多くすることができるため、先に述べたような、ABS制御の実行開始時において実際の供給圧と目標供給圧とに比較的大きな差があるような場合に、特に有効である。
【0031】
(9)当該車両用液圧ブレーキシステムが、
前記液圧源装置と前記ABS弁装置との間に設けられ、作動液の液圧を検出する液圧検出器を備え、
前記制御装置が、その液圧検出器によって検出される液圧を前記供給圧とみなすように構成された(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0032】
例えば、当該ブレーキシステムが複数のブレーキ装置を備え、それらのうちの少なくとも1つを除くものにおいてABS制御が開始された場合を考える。ABS制御が実行されたブレーキ装置の液圧が供給圧とともに上昇するのに対し、ABS制御が実行されていないブレーキ装置の液圧はABS弁装置によって増圧勾配が比較的緩やかに制御される。そして、ABS制御が実行されているブレーキ装置に対応するABS保持弁がすべて閉状態となると、上記の液圧検出器によって検出される液圧は、ABS制御が実行されているブレーキ装置の液圧が反映されず、ABS制御が実行されていないブレーキ装置の液圧が検出されて、比較的高い値を示すこととなる。つまり、目標となる供給圧と液圧検出器によって検出された供給圧との差が小さくなり、供給圧制御部が、先に述べたフィードバック制御の電流成分を加えても、ABS制御が実行されているブレーキ装置への作動液の供給量が不足する虞がある。したがって、供給電流変更部による増圧用電磁弁への供給電流の変更によって供給流量が多くされるため、その増圧用電磁弁への供給電流の変更が、本項の態様にとって、特に有効である。
【0033】
(11)前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧と前記ブレーキ装置の液圧であるブレーキ圧との差に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0034】
本項に記載の態様は、目標供給圧とブレーキ圧との差に基づいて、増圧用電磁弁への供給電流の変更量や、先に述べた態様の補正圧等が決定されるように構成されている。本項に記載の「ブレーキ圧」は、例えば、センサ等により直接的に検出されたものに限られず、他の指標値等から推定されたものであってもよい。ABS弁装置が作動している状態において、そのABS制御が実行されているブレーキ装置の液圧は、供給圧とは異なり、その供給圧より低い液圧となる。本項の態様によれば、増圧用電磁弁への供給電流を、ブレーキ圧に応じた適切な大きさに変更することが可能である。ちなみに、当該システムが複数のブレーキ装置を備える場合においては、ブレーキ圧として、例えば、複数のブレーキ装置の各々のブレーキ圧の最大値,最小値,平均値や、それらの各々に重み付けをして算出した値等を用いることができる。
【0035】
(12)前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧と前記ブレーキ圧との差が大きいほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(11)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0036】
目標供給圧とブレーキ圧との差が大きいほど、供給圧が高められるため、ブレーキ圧を効果的に増圧させることが可能である。
【0037】
(13)前記制御装置が、
前記ABS弁装置が作動し始めてからの前記ABS弁装置の作動状況に基づいて前記ブレーキ圧を推定するブレーキ圧推定部を有し、
前記ABS時供給電流変更部が、
そのブレーキ圧推定部によって推定された前記ブレーキ圧である推定ブレーキ圧と、前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧との差に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(11)項または(12)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0038】
一般的には、ブレーキ圧としては、先に述べた液圧検出器の検出値が用いられ、ABS弁装置が作動していない状態においては、ブレーキ圧は供給圧と同じ大きさであるため、その検出値がブレーキ圧とされる。しかしながら、ABS弁装置が作動している状態においては、そのABS制御が実行されているブレーキ装置の液圧は、その液圧検出器の検出値とは異なる。ABS弁装置の作動状況、例えば、先に述べたABS保持弁およびABS減圧弁の各々の作動履歴、具体的にいえば、ABS弁装置が作動し始めてからのABS保持弁およびABS減圧弁の開弁時間等に基づいてブレーキ圧の変化量を演算することが可能である。したがって、ABS弁装置が作動する直前の供給圧に対して、ABS保持弁およびABS減圧弁の各々の作動履歴に基づいて演算されるブレーキ圧の変化量を考慮することで、ABS弁装置作動時のブレーキ圧を適切に推定することが可能である。本項に記載の態様によれば、そのように推定されたブレーキ圧を用いているため、増圧用電磁弁への供給電流を適切な大きさに変更することが可能である。
【0039】
(14)前記ABS時供給電流変更部が、
前記ブレーキ装置に供給すべき作動液の液量である必要液量を推定し、その必要液量に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(1)項ないし(13)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0040】
(15)前記ABS時供給電流変更部が、
前記必要液量が多いほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(14)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0041】
上記2つの項に記載の態様は、ブレーキ装置が必要としている作動液の量、換言すれば、高圧源からブレーキ装置への必要な流量を推定するように構成されている。ABS制御の実行中においては、ABS弁装置がブレーキ装置の液圧を減圧,保持する時があり、その時には作動液の供給を受ける必要がない。したがって、上記2つの項に記載の態様によれば、ブレーキ圧を増圧させる必要がある時のみ供給圧を高めるようにすることが可能とされている。また、上記2つの項に記載の態様によれば、目標供給圧への追従性をも確保しつつ、ABS制御の増圧モードにおいて適切な増圧勾配を実現させることが可能である。
【0042】
上記2つの項に記載の「必要流量」は、例えば、現時点でのブレーキ圧と目標となるブレーキ圧との差に基づいて推定することが可能である。例えば、ブレーキ装置が有するホイールシリンダには、ブレーキ圧と作動液量とに定められた関係があり、それを考慮して、その必要流量を推定することが可能である。また、その目標となるブレーキ圧は、ABS制御が実行されているブレーキ装置においては、目標となる増圧勾配を実現するように制御されるため、その増圧勾配に基づいて、現時点のブレーキ圧から決定するようにすることができる。
【0043】
(16)当該車両用液圧ブレーキシステムが、複数の車輪に対応してそれぞれが前記ブレーキ装置である複数のブレーキ装置を備え、
前記ABS時供給電流変更部が、
それら複数のブレーキ装置の各々の前記必要液量を推定し、それら複数のブレーキ装置の各々の必要液量の合計に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(14)項または(15)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0044】
本項に記載の態様においては、複数のブレーキ装置のうちにABS制御を実行していないものがあることや、ABS制御を実行中であってもブレーキ圧を減圧,保持しているものがあること等を考慮して、増圧用電磁弁への供給電流が決定される。そのため、本項の態様によれば、供給圧のオーバーシュートや、ABS制御が実行されていなものへの供給過多を抑制することが可能となる。
【0045】
(17)前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS弁装置が前記複数のブレーキ装置のすべてに対して作動液の供給を遮断した場合に、自身が高くした前記増圧用電磁弁の開弁圧と、前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧に対して定まる前記増圧用電磁弁の開弁圧との圧力差が、低下することを禁止する(16)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0046】
ABS弁装置が複数のブレーキ装置のすべてに対して作動液の供給を遮断した場合には、必要流量が0となって開弁圧が元の高さに戻ってしまい、ABS制御の増圧モードにおいて、供給圧がその開弁圧を超えて増圧用電磁弁が閉弁してしまう虞がある。本項の態様おいては、必要液量が0となっても、現時点における増圧用電磁弁へ供給する電流を保持して、増圧用電磁弁が閉弁しないようにすることができる。つまり、本項の態様によれば、ABS制御の増圧モード中において、作動液の供給を遮断した後の作動液の供給に遅れを生じさせないようにすることが可能である。
【0047】
(18)前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧が低いほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する(1)項ないし(17)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0048】
目標供給圧が低いほど、高圧源と供給圧との差圧は大きい。そのため、ABS弁装置が有するABS保持弁の開閉に伴う供給圧の変動も大きくなる。本項に記載の態様は、目標供給圧決定部によって決定された目標供給圧に基づいて、増圧用電磁弁の変更する電流量を決定するように構成される。したがって、本項の態様によれば、目標供給圧の大きさに応じて、効果的にその供給圧の変動を抑制することが可能である。
【0049】
(21)当該車両用液圧ブレーキシステムが、複数の車輪に対応してそれぞれが前記ブレーキ装置である複数のブレーキ装置を備え、
前記ABS時供給電流変更部が、
それら複数のブレーキ装置のうちの2つ以上のものにおいて前記ABS制御が実行されていた状態から、それら前記ABS制御が実行されているもののうちの少なくとも1つにおいて前記ABS制御が終了する場合において、前記増圧用電磁弁の開弁圧がその時点の開弁圧より低くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成された(1)項ないし(18)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0050】
(22)前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されているもののうちの少なくとも1つにおいて前記ABS制御が終了する場合に、前記減圧用電磁弁の開弁圧がその時点の開弁圧より低くなるように、前記減圧用電磁弁に供給する電流をも変更するように構成された(21)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0051】
ABS制御が実行されているブレーキ装置のうちの少なくとも1つのブレーキ装置においてABS制御が終了すると、そのブレーキ装置へ作動液が供給され、オーバーシュートする虞がある。上記2つの項に記載の態様は、少なくとも増圧用電磁弁の開弁圧が、上述のように高められていた開弁圧より低くなるように、その増圧用電磁弁への供給電流が変更される。したがって、上記2つの項の態様によれば、ABS制御が終了すると推定される状況下にある場合、あるいは、ABS制御が終了した場合に、作動液の供給量が減らされ、オーバーシュートを抑制することが可能である。なお、後者の態様によれば、減圧用電磁弁の開弁圧をも低下させて、供給圧を積極的に減少させることで、オーバーシュートをより抑制することが可能である。ちなみに、上記の「ABS制御が終了すると推定される状況下」にあるか否かは、公知の種々の方法を用いて推定するものとすることが可能である。
【0052】
(23)当該車両用液圧ブレーキシステムが搭載される車両が、
車輪に駆動力を付与するための電磁モータを備え、その電磁モータが車輪の回転に伴って発生させる電力を回生することで、その電磁モータを回生ブレーキ装置として機能させるように構成され、
当該車両用液圧ブレーキシステムが、
前記ブレーキ操作部材の操作に応じた制動力を、通常時は、回生ブレーキとの協調制御によって発生させ、前記ABS制御の実行中においては、当該車両用液圧ブレーキシステムのみによって発生させるように構成された(1)項ないし(22)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0053】
本項に記載の車両用液圧ブレーキシステムは、例えば、ハイブリッド車両あるいは電気自動車に搭載されている。そのような車両においては、一般的に、回生ブレーキと液圧ブレーキとの協調制御が行われており、通常の制動時においては、回生ブレーキを主体として、液圧ブレーキは回生ブレーキの不足分を補うようにして、ブレーキ操作に応じた制動力を発生させるように構成される。一方、ABS制御が実行されると、緻密な制動力の制御が必要となるため、液圧ブレーキのみによって制動力を発生させる。つまり、ABS制御が実行された直後に、目標供給圧が急激に上昇することになり、目標供給圧とブレーキ圧との差が大きく、先にも述べたように、フィードバック制御の電流成分のみでは、作動液の供給が遅れる虞がある。したがって、ブレーキ圧をより早く増圧させることが可能なABS時供給電流変更部を有する本ブレーキシステムが、本項の態様には、特に有効である。また、複数のブレーキ装置を備えるシステムにおいては、それらのうちにABS制御が実行されていないものが存在する場合に、そのブレーキ装置のブレーキ圧は、より早く増圧させることが望ましい。そのような場合であっても、ABS時供給電流変更部を有する本ブレーキシステムによれば、ABS制御が実行されていないブレーキ装置のブレーキ圧をより早く増圧させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】請求可能発明の実施例である車両用液圧ブレーキシステムが搭載されたハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを表す模式図である。
【図2】請求可能発明の実施例である車両用液圧ブレーキシステムが備えるブレーキ回路の概略図である。
【図3】図2に示す増圧用リニア弁および減圧用リニア弁を示す概略断面図である。
【図4】供給圧と減圧用リニア弁の開弁電流との関係を示すグラフである。
【図5】高圧源液圧と供給圧との差圧と増圧用リニア弁の開弁電流との関係を示すグラフである。
【図6】目標供給圧と推定ブレーキ圧との差圧と、補正圧との関係を示すグラフである。
【図7】電磁リニア弁への供給電流と流量との関係との関係を示すグラフであり、理電磁リニア弁の差圧による供給電流と流量との関係の相違を示すグラフである。
【図8】図6に示した関数の傾きと目標供給圧との関係を示すグラフである。
【図9】供給電流変更制御が実行されている場合,実行されていない場合の各々における供給圧,ブレーキ圧,増圧用リニア弁への供給電流,減圧用リニア弁への供給電流の時間経過に対する変化を示す図である。
【図10】ABS制御が実行される前後における供給圧,ブレーキ圧の時間経過に対する変化を示す図である。
【図11】目標供給圧と減圧用開弁圧低下量との関係を示すグラフである。
【図12】目標供給圧と増圧用開弁圧低下量との関係を示すグラフである。
【図13】2つの電磁リニア弁の供給電流が、開弁圧が低くなるように変更された場合(図13(b))と、変更されなかった場合(図13(a))とにおけるABS制御非実行輪に対応するブレーキ装置のブレーキ圧の時間経過に対する変化を示す図である。
【図14】目標供給圧に応じて減圧用開弁圧低下量および増圧用開弁圧低下量γを変化させた場合(図14(c))と、それらを一定の値とした場合(図14(a),(b))とにおけるABS制御非実行輪に対応するブレーキ装置のブレーキ圧の時間経過に対する変化を示す図である。
【図15】ブレーキ装置のホイールシリンダにおけるブレーキ圧と作動液量との関係を示すグラフであり、必要流量を求める過程を示すグラフである。
【図16】4つのブレーキ装置が必要な総必要流量と補正電流成分との関係を示すグラフである。
【図17】供給圧と流量との関係を示すグラフであり、総必要流量に基づいて仮上昇圧を求める過程を示すグラフである。
【図18】増圧用リニア弁170への供給電流が総必要流量に基づいて制御された場合における、実供給圧,4つのブレーキ装置のブレーキ圧,総必要流量,補正電流成分の時間経過に対する変化を示す図である。
【図19】請求可能発明の実施例である車両用液圧ブレーキシステムの制御を司る制御装置であるブレーキ電子制御ユニットによって実行される供給圧制御プログラムを表すフローチャートである。
【図20】供給圧制御プログラムにおいて実行される目標範囲制御サブルーチンを示すフローチャートである。
【図21】目標範囲制御サブルーチンにおいて実行される差圧依拠電流変更サブルーチンを示すフローチャートである。
【図22】目標範囲制御サブルーチンにおいて実行される必要流量依拠電流変更サブルーチンを示すフローチャートである。
【図23】請求可能発明の実施例である車両用液圧ブレーキシステムの制御を司る制御装置の機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、請求可能発明の代表的な実施形態を、実施例として、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0056】
<車両の構成>
図1に、本実施例の車両用液圧ブレーキシステムを搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを模式的に示す。車両には、動力源として、エンジン10と電磁モータである駆動用モータ12とが搭載されており、また、エンジン10の出力により発電を行うジェネレータ14も搭載されている。これらエンジン10、駆動用モータ、ジェネレータ14は、動力分割機構16によって互いに接続されている。この動力分割機構16を制御することで、エンジン10の出力をジェネレータ14を作動させるための出力と、4つの車輪18のうちの駆動輪となるものを回転させるための出力とに振り分けたり、駆動用モータからの出力を駆動輪に伝達させることができる。つまり、動力分割機構16は、減速機20および駆動軸22を介して駆動輪に伝達される駆動力に関する変速機として、機能するのである。なお、「車輪18」等のいくつかの構成要素は、総称として使用するが、4つの車輪のいずれかに対応するものであることを示す場合には、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪にそれぞれ対応して、添え字「FL」,「FR」,「RL」,「RR」を付すこととする。この表記に従えば、本車両における駆動輪は、車輪18RL,および車輪18RRである。
【0057】
駆動用モータは、交流同期電動機であり、交流電力によって駆動される。車両にはインバータ24が備えられており、インバータ24は、電力を、直流から交流、あるいは、交流から直流に変換することができる。したがって、インバータ24を制御することで、ジェネレータ14によって出力される交流の電力を、HVバッテリ26に蓄えるための直流の電力に変換させたり、HVバッテリ26に蓄えられている直流の電力を、駆動用モータを駆動するための交流の電力に変換させることができる。ジェネレータ14は、駆動用モータと同様に、交流同期電動機としての構成を有している。つまり、本実施例の車両では、交流同期電動機が2つ搭載されていると考えることができ、一方が、駆動用モータとして、主に駆動力を出力するために使用され、他方が、ジェネレータ14として、主にエンジン10の出力により発電するために使用されている。
【0058】
また、駆動用モータは、車両の走行に伴う車輪18RL、18RRの回転を利用して、発電(回生発電)を行うことも可能である。このとき、車輪18RL、18RRに連結される駆動用モータでは、電力が発生するとともに、駆動用モータの回転を制止するための抵抗力が発生する。したがって、その抵抗力を、車両を制動する制動力として利用することができる。つまり、駆動用モータは、電力を発生させつつ車両を制動するための回生ブレーキの手段として利用される。したがって、本車両は、回生ブレーキがエンジンブレーキや後述する液圧ブレーキとともに制御されることで、制動されるのである。
【0059】
本車両において、上記のブレーキの制御や、その他の車両に関する各種の制御は、複数の電子制御ユニット(ECU)によって行われる。複数のECUのうち、メインECU40は、それらの制御を統括する機能を有している。例えば、ハイブリッド車両は、エンジン10の駆動および駆動用モータの駆動によって走行することが可能とされているが、それらエンジン10の駆動と駆動用モータの駆動は、メインECU40によって総合的に制御される。具体的に言えば、メインECU40によって、エンジン10の出力と駆動用モータによる出力の配分が決定され、その配分に基づき、エンジン10を制御するエンジンECU42、駆動用モータ及びジェネレータ14を制御するモータECU44に各制御についての指令が出力される。また、メインECU40には、HVバッテリ26を制御するバッテリECU46も接続されている。
【0060】
さらに、メインECU40には、ブレーキを制御するブレーキECU48も接続されている。当該車両には、運転者によって操作されるブレーキ操作部材が設けられており、ブレーキECU48は、そのブレーキ操作部材の操作量に基づいて目標制動力を決定し、メインECU40に対してこの目標制動力を出力する。メインECU40は、モータECU44にこの目標制動力を出力し、モータECU44は、その目標制動力に基づいて回生ブレーキを制御するとともに、それの実行値、つまり、発生させている回生制動力をメインECU40に出力する。メインECU40では、目標制動力から回生制動力が減算され、その減算された値によって、車両に搭載される液圧ブレーキシステム100において発生すべき目標液圧制動力が決定される。メインECU40は、目標液圧制動力をブレーキECU48に出力し、ブレーキECU48は、通常時において、液圧ブレーキシステム100が発生させる液圧制動力が目標液圧制動力となるように制御するのである。
【0061】
<車両用液圧ブレーキシステムの構成>
図2に、車両が備える液圧ブレーキシステム100を概念的に示す。本液圧ブレーキシステム100は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル110と、マスタシリンダ装置112と、ブレーキアクチュエータ114とを備えている。マスタシリンダ装置112は、ブレーキペダル110の踏込みに基づいて作動液(ブレーキ液)を加圧するマスタシリンダ116を備えている。マスタシリンダ116は、2つの加圧室118,120を備えており、加圧室118は主液通路122の一端に、加圧室120は主液通路122の一端に、それぞれ接続されている。主液通路122の他端は、左前輪18FLの回転を制動するブレーキ装置126FLのホイールシリンダ128FLと接続され、主液通路124の他端は、右前輪18FRの回転を制動するブレーキ装置126FRのホイールシリンダ128FRと接続されている。
【0062】
主液通路122の途中にはマスタカット弁130が設けられており、主液通路124の途中にはマスタカット弁132が設けられている。各マスタカット弁130,132は、常開の電磁式開閉弁であり、開状態でマスタシリンダ116からホイールシリンダ128へ向かう作動液の流れを許容するとともに、閉状態でマスタシリンダ116からホイールシリンダ128へ向かう作動液の流れを禁止するものとされている。また、マスタシリンダ装置112には、作動液が大気圧で蓄えられるリザーバ134が設けられており、そのリザーバ134からマスタシリンダ116の加圧室118,120の各々に作動液が供給される。なお、主液通路122には、常閉の電磁式開閉弁であるシュミレータ制御弁136を介してストロークシミュレータ138が接続されている。
【0063】
ブレーキアクチュエータ114は、上記ホイールシリンダ128FL,FR、左後輪18RLの回転を制動するブレーキ装置126RLのホイールシリンダ128RL、右後輪18RRの回転を制動するブレーキ装置126RRのホイールシリンダ128RRの各液圧を制御するものであり、動力式液圧源装置140(単に、「液圧源装置140」と呼ぶ場合がある)と、液圧調整装置としてのABS弁装置142とを備えている。
【0064】
動力式液圧源装置140は、高圧の液圧を発生させる高圧源装置148を有している。その高圧源装置148は、リザーバ134に一端が接続される高圧通路150に設けられている。高圧源装置148は、高圧通路150を介してリザーバ134から作動液を汲み上げるポンプ152と、そのポンプ152を駆動するポンプモータ154と、ポンプ152から吐出された作動液を加圧された状態で蓄えるアキュムレータ156と、ポンプ152の吐出圧を設定値以下に規制するリリーフ弁158とを有している。高圧通路150の他端は共通通路160に接続されており、高圧源装置148が発生させる高圧の作動液を共通通路160に流すことが可能となっている。また、共通通路160には、低圧通路162の一端が接続されており、その低圧通路162の他端はリザーバ134に接続されている。このため、共通通路160内の作動液を、低圧通路162を介して、リザーバ134に流すことが可能となっている。
【0065】
液圧源装置140は、高圧通路150の高圧源装置148の下流側に設けられた常閉の電磁式リニア弁(以下、「増圧用リニア弁」という場合がある)170と、低圧通路162に設けられた常閉の電磁式リニア弁(以下、「減圧用リニア弁」という場合がある)172とを有している。増圧用リニア弁170は、高圧源装置148が発生させる高圧の作動液の共通通路160への流入を制御することが可能となっており、一方、減圧用リニア弁172は、共通通路160内の作動液のリザーバ134への流出を制御することが可能となっている。増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172は、高圧側の作動液と低圧側の作動液との液圧差と供給電流との間に予め定められた一定の関係があり、供給電流の増減に応じて開弁圧を変えることが可能となっている。したがって、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172は、供給電流の制御により、液圧源装置140が共通通路160に供給する液圧である供給圧を連続的に変化させることができ、供給圧を容易に任意の高さに制御することが可能となっている。
【0066】
具体的にいえば、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172は、図3に示すように、いずれも、弁体180と弁座182とを含むシーティング弁と、スプリング184と、ソレノイド186とを備えている。スプリング184の付勢力F1は、弁体180を弁座182に接近させる向きに作用し、ソレノイド186に電流が供給されることにより駆動力F2が弁体180を弁座182から離間させる向きに作用する。また、増圧用リニア弁170においては、高圧源装置148によって加圧された作動液の液圧と供給圧との差圧に応じた差圧作用力F3が弁体180を弁座182から離間させる向きに作用し、減圧用リニア弁172においては、リザーバ134に貯留される作動液の液圧、つまり、大気圧と供給圧との差圧に応じた差圧作用力F3が弁体180を弁座182から離間させる向きに作用する。このため、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172のいずれにおいても、ソレノイド186への通電量を制御することによって、差圧作用力F3を制御し、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172の開弁圧を制御することが可能となっている。つまり、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172を差圧弁として機能させて、供給圧を制御可能に変化させることが可能となっている。
【0067】
また、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172を流量調整弁として機能させて、供給圧を制御することも可能となっている。供給圧の目標となる目標供給圧と実際の供給圧である実供給圧との差が大きい場合には、ソレノイド186への通電量を多くして、高圧側から低圧側への作動液の流量を多くし、一方、目標供給圧と実供給圧との差が小さくなるほど、ソレノイド186への通電量を少なくなくすることで、実供給圧を目標供給圧まで変化させるのである。つまり、目標供給圧と実供給圧との差に応じた電流をソレノイド186へ供給して、実供給圧を目標供給圧まで変化させることが可能となっている。
【0068】
なお、高圧通路150のポンプ152と増圧用リニア弁170との間には、高圧源装置148が発生させる高圧の作動液の液圧を検出する高圧源液圧センサ190が設けられており、共通通路160には、その液通路としての共通通路160内の作動液の液圧、つまり、供給圧を検出する検出器としての共通通路液圧センサ192が設けられている。
【0069】
また、共通通路160には、ABS弁装置142を介して上記4つのホイールシリンダ128が接続されている。ABS弁装置142は、ホイールシリンダ128の液圧を増圧及び保持するためのABS保持弁200と、ホイールシリンダ128の液圧を減圧するためのABS減圧弁202とを、各車輪に対応して有している。ABS保持弁200は、ホイールシリンダ128と共通通路160とに接続される個別通路204の途中に設けられており、電磁式の開閉弁とされている。左前輪18FLに対応するABS保持弁200FLは常開弁とされており、他の3つのABS保持弁200FR,RL,RRは常閉弁とされている。また、ABS減圧弁202は、個別通路204のABS保持弁200の下流側と低圧通路162とに接続される個別低圧通路206の途中に設けられており、電磁式の開閉弁とされている。前輪18FL,FRに対応する2つのABS減圧弁202FL、FRは常閉弁とされており、後輪18RL,RRに対応する2つのABS減圧弁202RL、RRは常開弁とされている。
【0070】
本システム10では、図1に示すように、ブレーキECU48が設けられている。ブレーキECU48は、各種電磁弁130,132,136,170,172,200,202、およびポンプ152の作動を制御する制御装置であり、各ブレーキ装置126のホイールシリンダ128に作用させる作動液の液圧を制御するものである。ブレーキECU48は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されたコントローラ210と、ポンプ152を駆動するポンプモータ154に対応する駆動回路212と、各種電磁弁130,132,136,170,172,200,202のそれぞれに対応する複数の駆動回路214,216,218,220,222,224,226とを有している(図23参照)。それら複数の駆動回路212等には、補機バッテリ228が接続されており、ポンプモータ154,各種制御弁130等に、そのバッテリ228から電力が供給される。
【0071】
さらに、複数の駆動回路212等には、コントローラ210が接続されており、コントローラ210が、それら複数の駆動回路212等に各制御信号を送信する。詳しくは、コントローラ210は、ポンプモータ154の駆動回路212にモータ駆動信号を送信し、マスタカット弁130,132,シュミレータ制御弁136のそれぞれの駆動回路214,216,218に各種電磁弁を開閉するための制御信号を送信する。さらに、増圧用リニア弁170,減圧用リニア弁172の駆動回路220,222には、各リニア弁170,172の有するソレノイド186の発生させる磁気力を制御するための電流制御信号を送信し、ABS保持弁200,ABS減圧弁202の駆動回路224,226には、各種電磁弁の開閉時間を制御するための電流制御信号を送信する。このように、コントローラ210が各駆動回路212等に各制御信号を送信することで、ポンプモータ154、各種電磁弁130等の作動を制御する。なお、コントローラ210には、上記高圧源液圧センサ190および共通通路液圧センサ192とともに、ブレーキペダル110の操作量を検出するストロークセンサ232、各車輪18に対して設けられて各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ234等が接続されており、各センサ,スイッチによる検出値は、後に説明するブレーキシステム100の制御において利用される。
【0072】
<車両用液圧ブレーキシステムの制御>
上述した構造によって、本ブレーキシステム100では、ブレーキペダル110が運転者によって操作された場合に、そのブレーキペダル100に加えられた操作力によってマスタシリンダ116の加圧室118,120内の作動液が加圧され、その加圧された作動液に依拠してブレーキ装置126のホイールシリンダ128を作動させることで、制動力を発生させることが可能となっている。ただし、本システム10では、通常時に、マスタシリンダ116によって加圧された作動液に依拠することなく、液圧源装置140によって調圧される作動液に依拠してブレーキ装置126のホイールシリンダ128を作動させる電子制動制御が実行される。
【0073】
電子制動制御では、マスタシリンダ116によって加圧された作動液がホイールシリンダ128に作用しないように、マスタカット弁130,132が励磁されて閉弁状態とされる。そして、液圧源装置140によって調圧された作動液に依拠してホイールシリンダ128を作動させるべく、左前輪18FLに対応するABS保持弁200FLを消磁状態とするとともに、他の3つのABS保持弁200FR,RL,RRを励磁状態とすることで、全てのABS保持弁200が開弁状態とされる。また、前輪18FL,FRに対応する2つのABS減圧弁202FL、FRを消磁状態とするとともに、後輪18RL,RRに対応する2つのABS減圧弁202RL、RRを励磁状態とすることで、全てのABS減圧弁202が閉弁状態とされる。このように各種電磁弁を制御することで、液圧源装置140が供給する作動液によってホイールシリンダ128が作動するのである。つまり、液圧源装置140が供給する作動液の液圧である供給圧が、ホイールシリンダ128へ供給される作動液の液圧であるブレーキ圧(ホイールシリンダ圧)となるのである。
【0074】
i)ABS弁装置の制御
本ブレーキシステム100においては、ABS弁装置142の作動を制御することで、車両の挙動を安定化させるための制御、いわゆるABS(Anti-lock Brake System)制御,VSC(Vehicle Stability Control)制御,TRC(Traction Control)制御が実行されるようになっている。ABS制御は、急ブレーキ時等において車輪のロックを抑制するための制御であり、VSC制御は、車両旋回時における車輪の横滑りを抑制するための制御である。また、TRC制御は、車両発進時,急加速時等に駆動輪の空転を抑制するための制御である。それらABS制御,VSC制御,TRC制御が実行され、ABS制御弁装置142が作動させられる場合には、上述した回生ブレーキと液圧ブレーキとの協調制御から、液圧ブレーキのみの制御に切り換えられる。
【0075】
ABS制御,VSC制御,TRC制御では、各ブレーキ装置126に対応して設けられたABS保持弁200とABS減圧弁202とが制御されることで、各ブレーキ装置126のブレーキ圧が個別に制御される。ABS制御等は、公知の制御であることから、本請求可能発明に関係するABS制御についてのみ簡単に説明し、VSC制御およびTRC制御についての説明は省略するものとする。ABS制御は、制動時において、車輪速センサ234によって各車輪18の回転速度を検出し、それから得られる車輪速,車輪減速度,車輪のスリップ率等に基づき、ブレーキECU48のコントローラ210によって、実行するか否かの判定が行われている。ABS制御を実行する必要があると判定されたブレーキ装置126がある場合には、そのブレーキ装置126のブレーキ圧の減圧,保持,増圧が繰り返し行われるように、そのブレーキ装置126に対応するABS保持弁200とABS減圧弁202とが制御される。具体的には、ABS制御においては、ABS保持弁200が閉弁されるとともにABS減圧弁202が開弁され、液圧源装置140からブレーキ装置126への作動液の供給を禁止するとともにリザーバ134への作動液の流れを許容してブレーキ圧を減圧する減圧モードと、ABS保持弁200およびABS減圧弁202の両者が閉弁され、液圧源装置140からブレーキ装置126への作動液の供給およびリザーバ134への作動液の流れの両者を禁止してブレーキ圧を保持する保持モードと、ABS保持弁200が開弁されるとともにABS減圧弁202が閉弁され、液圧源装置140からブレーキ装置126への作動液の供給を許容してブレーキ圧を増圧する増圧モードとが、車輪減速度やスリップ率等に基づいて切り換えられるようになっている。そのことにより、車輪18のロックが防止されつつ、安定した制動力を発生させるようになっている。
【0076】
それらABS保持弁200およびABS減圧弁202の制御は、特に増圧モードにおけるブレーキ圧の増圧を緻密に制御するために、それらABS保持弁200およびABS減圧弁202の開弁時間と閉弁時間との比(デューティ比)を変更することによって行われるようになっている。そのデューティ比は、目標となるブレーキ圧や、実際のブレーキ圧等に基づいて演算される。ちなみに、本システム100では、実際のブレーキ圧PWCは、ABS弁装置142の作動状況に基づいて推定される。ブレーキ圧PWCの推定方法は、公知の方法であることから簡単に説明するが、まず、ABS制御が実行されてからのABS保持弁200とABS減圧弁202との各々のデューティ比,それらABS保持弁200とABS減圧弁202との各々の開弁時間等に基づいて、ブレーキ圧PWCの変化量が演算される。そして、ABS制御が実行される直前の実供給圧Prと、その演算されたブレーキ圧PWCの変化量とに基づいて、ブレーキ圧PWCが推定される。また、増圧モードにおいて目標となるブレーキ圧は、目標となる増圧勾配でブレーキ圧が増圧するように決定される。なお、その目標となる増圧勾配を決定する際には、共通通路液圧センサ192によって検出された実供給圧Prが用いられる。
【0077】
ii)液圧源装置による供給圧の制御
A)通常時の制御(目標供給圧制御)
電子制動制御においてブレーキ装置126が発生させるべき目標液圧制動力は、上述したように、上記メインECU40によって演算されており、その目標液圧制動力を発生可能な供給圧が目標供給圧P*として、ブレーキECU48のコントローラ210において演算される。そして、ABS装置140が作動させられていない通常時においては、その演算された目標供給圧P*と、上記共通通路液圧センサ192によって検出される実供給圧Prとが比較されて、実供給圧Prが目標供給圧P*より設定差ΔP以上高い場合には実供給圧Prを低減させるべく液圧源装置140が制御され、実供給圧Prが目標供給圧P*より設定差ΔP以上低い場合には実供給圧Prを増加させるべく液圧源装置140が制御される。
【0078】
詳しくいえば、実供給圧Prが目標供給圧P*に設定差ΔPを加えた減圧閾値P+*以上となった場合には、増圧用リニア弁170を閉弁させるべく、増圧用リニア弁170は消磁状態とされる。つまり、増圧用リニア弁170のソレノイド186への通電量が0とされる。そして、実供給圧Prが目標供給圧P*まで低下するように、減圧用リニア弁172のソレノイド186への通電量が制御される。本システム100において、減圧用リニア弁172のソレノイド186への通電量、つまり。目標供給電流iSLRは、実供給圧Prに応じて定まる減圧用リニア弁172の開弁電流成分idwと、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に応じたフィードバック電流成分iFB_SLRとに基づいて、次式に従って決定される。
iSLR=idw−iFB_SLR
詳しく言えば、開弁電流成分idwは、減圧用リニア弁172の弁体180に作用する実供給圧Prとリザーバ134に貯留される作動液の液圧との差圧、つまり、実供給圧Prに応じて定まる電流である。その減圧用リニア弁172の開弁電流成分idwは、供給圧Pkと一定の関係があり、次式に従って決定される。
idw=f(Pk)=Idw−Kdw・Pk
ここで、f(Pk)は、供給圧Pkに依拠した関数であり、図4に示すように、供給圧Pkの増加に伴って直線的に減少するような関数とされている。また、フィードバック電流成分は、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に基づくフィードバック制御の手法を利用して決定されるものであり、次式に従って決定される。
iFB_SLR=KSLR・(P*−Pr) (KSLR:減圧用ゲイン)
したがって、減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRは、次式で表される。
iSLR=Idw−Kdw・P*−KSLR・(P*−Pr)
【0079】
一方、実供給圧Prが目標供給圧P*から設定差ΔPを減じた増圧閾値P-*以下となった場合には、減圧用リニア弁172を閉弁させるべく、減圧用リニア弁172のソレノイド186への通電量が0とされる。そして、実供給圧Prが目標供給圧P*まで増加するように、増圧用リニア弁170のソレノイド186への通電量が制御される。増圧用リニア弁170のソレノイド186への目標供給電流iSLAは、実供給圧Prに応じて定まる増圧用リニア弁172の開弁電流成分iupと、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に応じたフィードバック電流成分iFB_SLAとに基づいて、次式に従って決定される。
iSLA=iup+iFB_SLA
詳しく言えば、開弁電流成分iupは、高圧源液圧センサ190によって検出される高圧源液圧Phと実供給圧Prとの差圧(Ph−Pr)に応じて定まる電流である。その増圧用リニア弁170の開弁電流成分iupは、高圧源液圧Phと供給圧Pkとの差圧(Ph−Pk)と一定の関係があり、次式に従って決定される。
iup=g(Ph−Pk)=Iup−Kup・(Ph−Pk)
ここで、g(Ph−Pk)は、高圧源液圧Phと供給圧Pkとの差圧(Ph−Pk)に依拠した関数であり、図5に示すように、その差圧(Ph−Pk)の増加に伴って直線的に減少するような関数とされている。また、フィードバック電流成分は、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に基づくフィードバック制御の手法を利用して決定されるものであり、次式に従って決定される。
iFB_SLA=KSLA・(P*−Pr) (KSLA:増圧用ゲイン)
したがって、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAは、次式で表される。
iSLA=Iup−Kup・(Ph−P*)+KSLR・(P*−Pr)
【0080】
なお、実供給圧Prと目標供給圧P*とが概ね等しい場合、つまり、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差がΔPより小さい場合には、その実供給圧Prを維持するべく、増圧用リニア弁170のソレノイド186への通電量と、減圧用リニア弁172のソレノイド186への通電量とは、それぞれ0とされる。このように、通常時において、増圧用リニア弁170のソレノイド186、あるいは、減圧用リニア弁172の各ソレノイド186への供給電流を制御することで、供給圧を目標供給圧とし、各ブレーキ装置126が発生させる制動力を目標液圧制動力とするようになっている。
【0081】
B)ABS装置作動時の制御(目標範囲制御)
ただし、上記のように通常時の供給圧の制御(以下、「目標供給圧制御」という場合がある)が実行されている状態で、ABS制御等によりABS弁装置142が作動すると、各ABS保持弁200および各ABS減圧弁202が開閉状態が頻繁に切り換えられるため、液圧源装置140によって供給される作動液が流入する共通通路160等の液通路内の容積が頻繁に変化し、供給圧が急に変動することになる。つまり、その供給圧の変動によって、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172の通電状態が頻繁に切り換えられ、目標供給圧に追従し難くなる場合がある。
【0082】
そこで、本ブレーキシステム100では、ABS弁装置142が作動させられている場合には、実供給圧Prと目標供給圧P*とが概ね等しい場合、つまり、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差がΔPより小さい場合であっても、供給圧が目標範囲内に収まるように液圧源装置140を制御する目標範囲制御が実行されるようになっている。具体的には、供給圧が減圧閾値P+*(=P*+ΔP)以上となった場合に減圧用リニア弁172が開弁するような大きさの電流を、減圧用リニア弁172に供給し続け、供給圧が増圧閾値P-*(=P*−ΔP)以下となった場合に増圧用リニア弁170が開弁するような大きさの電流を、増圧用リニア弁170に供給し続けることで、供給圧を目標範囲内に維持するようになっている。換言すれば、減圧閾値P-*が減圧用リニア弁172の開弁圧となるような電流を減圧用リニア弁172に供給し続け、増圧閾値P+*が増圧用リニア弁170の開弁圧となるような電流を増圧用リニア弁170に供給し続けることで、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172を差圧弁として機能させて、供給圧を目標範囲内に維持するようになっている。
【0083】
上述したように、減圧用リニア弁172のソレノイド186への目標供給電流iSLRは、減圧閾値P+*に相当する圧力において減圧用リニア弁172が開弁するように決定される。具体的には、減圧用リニア弁172の開弁電流idwと供給圧Pkとの関係を示した図4に示す関数に従って決定される。つまり、目標供給電流iSLRは、減圧閾値P+*に対応する開弁電流であり、次式に従って決定される。
iSLR=f(P+*)=Idw−Kdw・P+*
【0084】
一方、増圧用リニア弁170のソレノイド186への目標供給電流iSLAは、増圧閾値P-*に相当する圧力において増圧用リニア弁170が開弁するように決定される。具体的には、高圧源液圧Phと供給圧Pkとの差圧(Ph−Pk)と増圧用リニア弁170の開弁電流iupとの関係を示した図5に示す関数に従って決定される。つまり、目標供給電流iSLAは、高圧源液圧Phと増圧閾値P-*との差圧(Ph−P-*)に対応する開弁電流であり、次式に従って決定される。
iSLA=g(Ph−P-*)=Iup−Kup・(Ph−P-*)
【0085】
ABS弁装置142が作動させられている場合には、上述したように、増圧用リニア弁170と減圧用リニア弁172との各ソレノイド186への供給電流を制御することで、供給圧を目標範囲内に収めるように制御される。このため、ABS弁装置142の作動によって、ABS保持弁200およびABS減圧弁202が頻繁に開閉している状況下において、供給圧を敢えて目標供給圧に追従させることなく、増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172の通電状態の頻繁な切換を抑制することが可能となっている
【0086】
なお、目標供給圧P*の急変,ブレーキ圧の急変等によって供給圧が目標範囲から外れる場合があり、このような場合には、供給圧を早急に目標範囲内に収めることが望ましい。先に述べたフィードバック電流成分が加えられるようになっている。つまり、供給圧が減圧閾値P+*以上となった場合には、減圧用リニア弁172への目標供給電流iSLRは、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に応じたフィードバック電流成分iFB_SLRが減じられる。また、供給圧が増圧閾値P-*以下となった場合には、増圧用リニア弁170への目標供給電流iSLAは、目標供給圧P*と実供給圧Prとの差に応じたフィードバック電流成分iFB_SLAが加えられる。
iSLR=f(P+*)−KSLR・(P*−Pr)
iSLA=g(Ph−P-*)+KSLA・(P*−Pr)
【0087】
C)ABS制御実行時の供給電流変更
a)供給電流変更制御の概要
上述したように、ABS制御が実行されると、ABS弁装置の作動によって、ブレーキ圧の増圧,減圧,保持が繰り返し行われる。つまり、ABS弁装置によって、液圧源装置140からブレーキ装置126への作動液の供給を許容する状態と遮断した状態との切り換えが繰り返し行われることになり、そのことによって供給圧が変動してしまうという問題がある。また、ブレーキ圧を増圧させる場合、その増圧勾配を制御すべく、液圧源装置140からブレーキ装置126への作動液の供給を許容する状態と遮断した状態とが、より短い時間間隔で繰り返し切り換えられる。そのことによって供給圧が振動的に変動して、供給圧が安定しないという問題がある。そして、先にも述べたように、共通通路液圧センサ192によって検出された供給圧がブレーキ圧の増圧勾配の決定に用いられるため、供給圧が安定しなければ、ブレーキ圧を適切に増圧させることができない虞がある。
【0088】
上記の問題に対処するために、本システム100においては、ABS制御の実行によりABS弁装置142が作動させられている場合に、上述した目標範囲制御によって決定された増圧用リニア弁170への供給電流が、その増圧用リニア弁170の開弁圧が高くなるように変更されるようになっている。また、目標範囲制御によって決定された減圧用リニア弁172への供給電流も、減圧用リニア弁172の開弁圧が高くなるように変更される。具体的には、増圧用リニア弁170の開弁圧を高めるために、その増圧用リニア弁170への供給電流iSLAに補正電流を加えて目標供給電流を大きくする、あるいは、目標範囲制御における目標供給圧P*に補正圧を加えて、目標となる供給圧を高めに設定するようになっている。なお、目標範囲制御における目標供給圧P*に補正圧を加えて、目標となる供給圧を高めに設定すれば、減圧用リニア弁172の開弁圧も同時に高められる。ちなみに、減圧用リニア弁172への供給電流iSLRからある程度の電流を減じて目標供給電流を小さくすることで、減圧用リニア弁172の開弁圧を高めることができる。以下に、それらリニア弁200,202への供給電流の変更について、さらに詳しく説明する。
【0089】
b)四輪ABS制御実行時の制御
まず、4つの車輪18のすべてに対応するブレーキ装置126において、ABS制御が実行された場合には、目標範囲制御における目標供給圧P*に補正圧αpを加えた補正目標供給圧P*+αpに変更することで、目標となる供給圧を高めに設定し、増圧用リニア弁170の開弁圧および減圧用リニア弁172の開弁圧を高めるようにされている。つまり、増圧用リニア弁170への補正目標供給電流i'SLAおよび減圧用リニア弁172への補正目標供給電流i'SLRが、次式に従って決定される。
i'SLA=Iup−Kup・{Ph−(P-*+αp)}
i'SLR=Idw−Kdw・(P+*+αp)
また、その補正圧αpは、ブレーキ操作に応じて上述したように決定された目標供給圧P*と、ABS弁装置142の作動状況に基づいて推定された4つのブレーキ装置126の各々に対応する推定ブレーキ圧PWCとに基づいて決定される。まず、補正圧αpの決定の前に、4つのブレーキ装置126の各々の推定ブレーキ圧PWCから、その補正圧αpの決定に用いられる基準ブレーキ圧PWCSが演算される。具体的には、その基準ブレーキ圧PWCSは、前輪18FL,FRに対応するブレーキ装置126のホイールシリンダ128の油量剛性(圧力に対する必要な液量)と、後輪18RL,RRに対応するブレーキ装置126のホイールシリンダ128の油量剛性とに関する重み付けを行って、次式に従って演算される。
PWCS={KF・(PWC_FL+PWC_FR)+KR・(PWC_RL+PWC_RR)}/4
なお、この基準ブレーキ圧は、例えば、4つのブレーキ装置126の各々に対応する推定ブレーキ圧PWCの平均値,最大値,最小値等であってもよい。
【0090】
そして、この演算された基準ブレーキ圧PWCSと目標供給圧P*との差に応じ、図6に示す関数に従って、補正圧αpの大きさが決定される。つまり、補正圧αpは、基準ブレーキ圧PWCSと目標供給圧P*との差が大きくなるほど、大きくなるように決定される。また、補正圧αpは、目標供給圧P*の大きさに応じた大きさに決定されるようになっている。図7に、リニア弁200、202の供給電流と流量との関係を示し、差圧による供給電流と流量との関係の相違を示す。ある開弁電流I1,I2,I3から電流を増加させた場合における流量の変化を示している。開弁電流は、I1,I2,I3 の順に小さい。換言すれば、その順に差圧が大きい。図7から分かるように、開弁電流が小さいときほど(差圧が大きいときほど)、電流の増加に対する流量の増加が小さい。つまり、増圧用リニア弁170においては、開弁圧(≒目標供給圧P*)が低いときほど、電流の増加に対する流量の増加が小さい。したがって、本システム100においては、そのことを考慮して、目標供給圧P*が低いほど、補正圧αpが大きくなるように決定される。具体的には、本システム100においては、図6に示した関数の傾きSを目標供給圧に応じて変更することで、目標供給圧P*が低いほど、補正圧αpが大きくされる。図8に、目標供給圧P*と傾きSとの関係を示している。つまり、目標供給圧P*が低いほど傾きSが大きくされ、目標供給圧P*が低いほど補正圧αpが大きくされる。また、目標供給圧P*が低いほど補正目標供給圧P*+αpが大きくされ、増圧用リニア弁170への供給電流が大きくされ、作動液の流量が増加するようになっているのである。
【0091】
また、ABS制御実行時においても、先に述べた目標範囲制御と同様に、供給圧が目標範囲から外れている場合、詳しく言えば、目標範囲以下となっている場合には、供給圧を早急に目標範囲内に収めるべく、フィードバック電流成分が加えられるようになっている。つまり、供給圧が補正目標供給圧P*+αPに応じた目標範囲の下限値(P-*+αP−ΔP)以下となっている場合には、増圧用リニア弁170への目標供給電流i'SLAに、補正目標供給圧P*+αPと実供給圧Prとの差に応じたフィードバック電流成分が加えられる。
i'SLA=Iup−Kup・{Ph−(P-*+αp)}+KSLA・(P*+αP−Pr)
一方、供給圧が補正目標供給圧P*+αPを超えてしまった場合には、昇圧過多を防止すべく、上記の供給電流変更制御が禁止される。つまり、供給圧の目標となる値が、補正目標供給圧P*+αPから、ブレーキ操作に応じた目標供給圧P*に戻され、先に述べた目標範囲制御が実行されることになる。
【0092】
図9および図10を参照しつつ、上記の供給電流変更制御が実行されている場合と、実行されていない場合とを比較する。図9は、供給電流変更制御が実行されている場合,実行されていない場合の各々における供給圧,ブレーキ圧の時間経過に対する変化を示している。図9(a)は、実行されていない場合のものであり、この場合には、供給圧が振動的に変動していることが分かる。また、その振動的に変動している供給圧を用いてブレーキ圧の増圧勾配を決定しているため、ブレーキ圧が保持モードから増圧モードへ切り換わった際に急激に増圧するなどして、適切な増圧勾配で増圧できていないことが分かる。それに対して、図9(b)に示すように、本システムにおいては、供給電流変更制御によって、目標となる供給圧が高められることによって、増圧用リニア弁170の差圧が小さくされて、供給圧の増圧する際の勾配が緩くなり、減圧用リニア弁172が開弁する回数も少なくなっている。つまり、本システム100は、供給圧を安定させることが可能となっているのである。また、本システム100は、そのように安定した供給圧を用いて、ブレーキ圧を制御しているため、ABS制御におけるブレーキ圧の減圧,保持,増圧を適切に行うことができるのである。
【0093】
図10は、ABS制御が実行される前後における供給圧,ブレーキ圧の時間経過に対する変化を示すものである。この図にも示すように、本システム100においては、ABS制御実行時に、ブレーキ操作に応じた目標供給圧P*より高い値が供給圧の目標とされ、実際の供給圧が、供給電流変更制御が実行されていない場合に比較して、高い値に維持されている。そのことにより、本システム100は、ABS制御における増圧モードにおいて、ブレーキ圧を効率よく適切に増圧することが可能となっている。
【0094】
c)少なくとも1つのブレーキ装置においてABS制御が終了する場合の制御
次に4つのブレーキ装置126においてABS制御が実行されて上記の供給電流変更制御が実行されている場合において、そのうちの少なくとも1つのブレーキ装置126において、ABS制御が終了した場合を考える。そのような場合には、供給圧が高められているために、そのABS制御が終了したブレーキ装置126に作動液が供給され、オーバーシュートする虞がある。そこで、本システム100においては、少なくとも1つのブレーキ装置126においてABS制御が終了すると推定された場合において、減圧用リニア弁172の開弁圧が低くなるように減圧用リニア弁172の供給電流を変更するとともに、増圧用リニア弁170の開弁圧も低くなるように増圧用リニア弁170の供給電流をも変更するようになっている。ちなみに、ABS制御が終了するか否かは、従来から種々の方法で行われており、それら種々の方法のうち少なくとも1つにおいて行われているものとし、ここでの詳細な説明は省略するものとする。
【0095】
具体的には、少なくとも1つのブレーキ装置126においてABS制御が終了すると推定された場合には、減圧用リニア弁172の開弁圧が、先に述べた目標範囲制御を行っている場合の開弁圧より低くなるように、が決定される。つまり、減圧用リニア弁172の開弁圧が、目標範囲制御時の開弁圧P+*から減圧用開弁圧低下量βを減じた圧力P+*−βとなるように、減圧用リニア弁172への目標供給電流i'SLRが、次式に従って決定されるのである。
i'SLR=Idw−Kdw・(P+*−β)
なお、減圧用開弁圧低下量βは、目標供給圧P*に基づいて決定されるようにっている。目標供給圧P*が高い場合には、減圧用リニア弁172においては、上流側と下流側との差圧が大きく、図7に示した特性から分かるように、差圧が大きいときほど、電流の増加に対する流量の増加が小さい。つまり、減圧用リニア弁172においては、開弁圧(≒目標供給圧P*)が高いときほど、電流の増加に対する流量の増加が小さい。したがって、本システム100においては、そのことを考慮して、目標供給圧P*が高いほど、リザーバ134への流量を増やすべく、減圧用開弁圧低下量βが大きくなるように決定される。ちなみに、図11に、目標供給圧P*と減圧用開弁圧低下量βとの関係を示している。
【0096】
一方、増圧用リニア弁170の開弁圧は、それが先に述べた目標範囲制御を行っている場合の開弁圧より低くなるように、増圧用開弁圧低下量γが決定される。つまり、増圧用リニア弁170の開弁圧が、目標範囲制御時の開弁圧P-*から増圧用開弁圧低下量γを減じた圧力P-*−γとなるように、増圧用リニア弁170への目標供給電流i'SLAが、次式に従って決定されるのである。
i'SLA=Iup−Kup・{Ph−(P-*−γ)}
その増圧用開弁圧低下量γも、目標供給圧P*に基づいて決定されるようになっている。
増圧用リニア弁170は、開弁圧(≒目標供給圧P*)が高いときほど、作動液の供給量を減らすべく、増圧用開弁圧低下量γが大きくなるように決定される。ちなみに、図12に、目標供給圧P*と増圧用開弁圧低下量γとの関係を示している。
【0097】
図13,14を参照しつつ、上述した、少なくとも1つのブレーキ装置126においてABS制御が終了すると推定された場合の制御の効果について説明する。図13には、リニア弁170,172の供給電流が、開弁圧が低くなるように変更された場合(図13(b))と、変更されなかった場合(図13(a))とにおけるABS制御非実行輪に対応するブレーキ装置126のブレーキ圧の時間経過に対する変化を示している。この図13(b)から分かるように、ABS制御非実行輪に対応するブレーキ圧のオーバーシュートが抑制されている。
【0098】
また、図14は、目標供給圧P*に応じて変化させた減圧用開弁圧低下量βおよび増圧用開弁圧低下量γを、それらを一定値とした場合と比較した図である。図14(a),(b)は、減圧用開弁圧低下量βおよび増圧用開弁圧低下量γを一定とした場合のものであり、図14(b)は、図14(a)より目標供給圧が高い場合のものである。図14(a)には、ABS制御非実行輪に対応するブレーキ圧がオーバーシュートを抑制できているのに対し、目標供給圧が比較的高い場合を示す図14(b)では、ABS制御非実行輪に対応するブレーキ圧がオーバーシュートしてしまっている。つまり、開弁圧が低くなるようにリニア弁170,172の供給電流を変更したものの、その変更量が不十分だったと考えられる。それに対して、減圧用開弁圧低下量βおよび増圧用開弁圧低下量γを目標供給圧P*に応じて変化させた本システム100においては、目標供給圧が比較的高い場合であっても、ABS制御非実行輪に対応するブレーキ圧がオーバーシュートを抑制することができている。
【0099】
d)ABS制御非実行輪がある場合の制御
次に、4つのブレーキ装置126のうち、ABS制御が実行されていないものが存在する場合、つまり、ABS制御実行されているものが1つないし3つである場合の制御について説明する。ABS制御非実行輪が存在する場合には、先に述べた目標範囲制御において決定された増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAに補正電流成分αiを加えることで、増圧用リニア弁170の開弁圧を高めるようにされている。つまり、基本的には、増圧用リニア弁170への供給電流i'SLAが、次式に従って決定される。
i'SLA=Iup−Kup・(Ph−P-*)+αi
【0100】
上記の補正電流成分αiは、4つのブレーキ装置126の各々に必要な流量の合計QABSに基づいて決定される。詳しく言えば、4つのブレーキ装置126の各々において、前述の推定ブレーキ圧PWCと、対応するABS保持弁200の作動状況(具体的には、ABS保持弁200の開閉状態や、増圧モードである場合には目標となる増圧勾配など)から演算される目標ブレーキ圧とに基づいて、必要な流量Q(作動液の必要流速である)が推定される。なお、各ブレーキ装置126のホイールシリンダ128におけるブレーキ圧と作動液量との関係を図15に示す。そして、それら推定された必要流量が合計されて、総必要流量QABSが演算される。そして、図16示す増圧用リニア弁170における流量と電流との関係に従って、総必要流量QABSを実現する電流が求められ、その電流が補正電流成分αiとされるようになっている。
【0101】
また、供給圧が目標供給圧P*となっている状態から上記の総必要流量QABS分の作動液が共通通路160に流れ込んだと仮定した場合に、その場合における供給圧の仮上昇圧pが演算される。具体的には、その仮上昇圧pは、図17に示した、4つのブレーキ装置126のホイールシリンダ128を考慮した場合の供給圧と作動液量との関係に従って演算される。そして、目標供給圧P*にその仮上昇圧pを加えた仮目標供給圧P*+pと、実供給圧Prとを比較し、実供給圧Prがその仮目標供給圧P*+p以下である場合に、供給電流の変更が行われるようになっている。換言すれば、実供給圧Prが仮目標供給圧P*+pを超えた場合には、供給電流変更制御が禁止され、先に述べた目標範囲制御が実行されることになる。なお、この場合においても、先に述べた目標範囲制御と同様に、目標範囲以下となっている場合には、供給圧を早急に目標範囲内に収めるべく、フィードバック電流成分が加えられるようになっている。以上のことから、ABS制御非実行輪がある場合には、増圧用リニア弁170への供給電流i'SLAは、次式に従って決定される。
i'SLA=g(Ph−P-*) (P*+p<Pr)
i'SLA=g(Ph−P-*)+αi (P-*<Pr≦P*+p)
i'SLA=g(Ph−P-*)+αi+KSLA・(P*−Pr) (Pr≦P-*)
【0102】
例えば、本システム100においては、ABS保持弁200が比較的短い時間間隔で制御されているために、増圧モードであっても目標となる増圧勾配を実現するためにABS保持弁200を閉状態とすることがあり、4つのABS保持弁200のすべてが閉状態となる場合がある。上記のように、総必要流量QABSに基づいて補正電流成分αiが決定されるため、4つのABS保持弁200のすべてが閉状態となると、総必要流量QABSが0となり、補正電流成分αiも0となる。つまり、増圧用リニア弁170の高められていた開弁圧が低下して、増圧用リニア弁170が閉弁してしまう虞がある。例えば、4つのブレーキ装置126のうちに増圧モードのものが存在する場合において、増圧用リニア弁170が閉弁してしまうと、その直後の作動液の供給に遅れが生じることになる。そこで、本システム100においては、4つのABS保持弁200が閉状態となった場合には、その直前の補正電流成分αiを保持するようになっている。
【0103】
図18に、上記のように増圧用リニア弁170への供給電流が制御された場合における、実供給圧Pr,4つのブレーキ装置126のブレーキ圧PWC,総必要流量QABS,補正電流成分αiの時間経過に対する変化を示している。上記のように、現時点で必要な作動液の流量を実現するように増圧用リニア弁170への供給電流が大きくされるため、この図からも分かるように、例えば、ABS制御において増圧モードが開始される場合に必要流量が大きく、補正電流成分αiも大きくなる。また、ブレーキ圧は、低いときほど増圧に必要な流量は大きいため(図9参照)、その場合には、補正電流成分αiがより大きくなっている。さらに、上記のような制御によって、ABS制御非実行輪に対応するブレーキ装置126への作動液の供給過多が防止される。さらに、供給圧のオーバーシュートも抑制し、供給圧を目標供給圧P*へ収束させることが可能である。
【0104】
<制御プログラム>
本システム100において液圧源装置140が発生させる作動液の液圧である供給圧の制御は、図19にフローチャートを示す供給圧制御プログラムが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、設定された時間間隔ΔtをおいてブレーキECU48のコントローラ210により繰り返し実行されることによって行われる。以下に、その供給圧制御プログラムによる制御処理のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0105】
供給圧制御プログラムによる処理では、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、上記メインECU40において演算されている目標液圧制動力に基づいて目標供給圧P*が決定される。コントローラ210内には、目標液圧制動力をパラメータとする目標供給圧P*に関するマップデータが格納されており、目標供給液圧P*は、そのマップデータを参照することによって決定される。そして、S2において、共通通路液圧センサ192によって、実供給圧Prが検出され、S3において、高圧源液圧センサ190によって、高圧源液圧Phが検出される。
【0106】
次いで、S4において、ABS弁装置142が作動しているか否かが判定される。つまり、ABS制御,VSC制御,TRC制御が実行されている場合に、ABS弁装置142が作動していると判定される。ABS弁装置142が作動していない場合には、S6以下の目標供給圧制御が実行される。具体的には、まず、S6において、実供給圧Prが減圧閾値P+*(=P*+ΔP)より大きいか否かが判定される。実供給圧Prが減圧閾値P+*より大きいと判定された場合には、S7において、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAが0に決定され、減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRが、開弁電流成分とフィードバック電流成分とを足し合わせた前述の式に従って決定される。次いで、S8において、実供給圧Prが増圧閾値P-*(=P*−ΔP)より低いか否かが判定される。実供給圧Prが増圧閾値P-*(=P*−ΔP)より低いと判定された場合には、S9において、減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRが0に決定され、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAが、開弁電流成分とフィードバック電流成分とを足し合わせた前述の式に従って決定される。なお、S8において、実供給圧Prが増圧閾値P-*(=P*−ΔP)以上であると判定された場合、つまり、実供給圧Prと目標供給圧P*とが概ね一致している場合には、S10において、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAおよび減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRが0に決定される。
【0107】
また、S4において、ABS弁装置142が作動していると判定された場合には、S5において、目標範囲制御が実行される。その目標範囲制御は、図20にフローチャートを示す目標範囲制御サブルーチンが実行されることによって行われる。その図20にフローチャートを示す目標範囲制御サブルーチンによる処理では、まず、S21において、ABS制御が実行されているか否かが判定される。ABS制御実行されていない場合には、S22以下において、通常の目標範囲制御が実行される。つまり、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAには、増圧閾値P-*を開弁圧とする大きさの開弁電流成分が常に加えられ、減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRには、減圧閾値P+*を開弁圧とする大きさの開弁電流成分が常に加えられる。そして、S22において、実供給圧Prが減圧閾値P+*より高いと判定された場合には、S25において、減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRが、上記開弁電流成分とフィードバック電流成分とを足し合わせて決定される。また、S23において、実供給圧Prが増圧閾値P-*より低いと判定された場合には、S26において、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAが、上記開弁電流成分とフィードバック電流成分とを足し合わせて決定される。
【0108】
また、S21において、ABS制御実行されていると判定された場合には、S27以下において、ABS制御時供給電流変更制御が実行される。S27において、4つの車輪18のすべてに対応するブレーキ装置126においてABS制御が実行されているか否かが判定される。4つのブレーキ装置126のすべてにおいてABS制御が実行されていると判定された場合には、S28において、目標供給圧P*と推定ブレーキ圧PWCとの差に基づいて、目標供給電流を変更するための処理が行われる。一方、4つのブレーキ装置126のすべてにおいてABS制御が実行されていないと判定された場合、つまり、ABS制御が実行されているのが1輪ないし3輪である場合には、S29において、ブレーキ装置126が必要とする作動液の量に基づいて、目標供給電流を変更するための処理が行われる。
【0109】
S28における目標供給圧P*と推定ブレーキ圧PWCとの差に基づいて目標供給電流を変更するための処理は、図21にフローチャートを示す差圧依拠電流変更サブルーチンが実行されることによって行われる。この差圧依拠電流変更サブルーチンによる処理では、まず、S31において、4つのブレーキ装置126のうちにABS制御が終了すると推定されるものがあるか否かが判定される。ABS制御が終了するブレーキ装置126がないと判定された場合には、S32以下において、目標供給圧P*と推定ブレーキ圧PWCとの差に基づいて、2つのリニア弁170,172の開弁圧が高くなるように、供給電流を変更するための処理が行われる。具体的には、S32において、4つのブレーキ装置126の推定ブレーキ圧PWCが取得され、S33において、それらに基づいて前述の式に従って基準ブレーキ圧PWCSが演算される。そして、S34において、目標供給圧P*、および、目標供給圧P*と基準ブレーキ圧PWCSとの差に基づいて、図6および図8に示すように設定されているマップデータを参照し、補正圧αpが決定される。
【0110】
次いで、S35において、目標供給圧P*と補正圧αpとを足し合わせた値が、実供給圧Prとが比較される。実供給圧Prが目標供給圧P*と補正圧αpとを足し合わせた値より低い場合には、S36において、2つのリニア弁170,172を制御するための目標が、上記の目標供給圧P*から、目標供給圧P*と補正圧αpとを足し合わせた補正目標供給圧P*+αpに変更される。そして、S37〜S41において、先に説明した目標範囲制御サブルーチンのS22〜S26と同様の処理が行われ、2つのリニア弁170,172の目標供給電流iSLA,iSLRが決定される。なお、実供給圧Prが目標供給圧P*と補正圧αpとを足し合わせた値より高い場合には、供給電流の変更を禁止すべく、目標供給圧P*で、S37〜S41の処理が行われる。
【0111】
また、S31において、4つのブレーキ装置126のうちにABS制御が終了すると推定されるものがあると判定された場合には、S42以下において、2つのリニア弁170,172の開弁圧が低くなるように、供給電流を変更するための処理が行われる。S42において、図11および図12に示すように設定されているマップデータを参照しつつ、目標供給圧P*に応じた減圧用開弁圧低下量β,増圧用開弁圧低下量γが決定される。そして、S43において、2つのリニア弁170,172開弁圧が減圧用開弁圧低下量β,増圧用開弁圧低下量γを考慮した大きさとなるように、それら2つのリニア弁170,172の目標供給電流iSLA,iSLRが決定される。以上のように、2つのリニア弁170,172の目標供給電流iSLA,iSLRが決定された後に、この差圧依拠電流変更サブルーチンの1回の処理が終了する。
【0112】
一方、目標範囲制御サブルーチンのS29におけるブレーキ装置126が必要とする作動液の量に基づいて目標供給電流を変更するための処理は、図22にフローチャートを示す必要液量依拠電流変更サブルーチンが実行されることによって行われる。この必要液量依拠電流変更サブルーチンによる処理では、まず、S51において、図15に示すように設定されたマップデータを参照しつつ、4つのブレーキ装置126の各々の、次回プログラム実行時までに必要となる作動液の量(必要流量Q)が推定される。次いで、S52において、それれ4つのブレーキ装置126の各々の必要流量Qを合計して、総必要流量QABS、つまり、増圧用リニア弁170が実現すべき流量が演算される。そして、S53において、図16に示すように設定されているマップデータを参照しつつ、補正電流成分αiが決定される。また、それとともに、図17に示すように設定されているマップデータを参照しつつ、目標供給圧P*にある状態から総必要流量QABSの作動液が共通通路160に流れ込んだ場合の上昇圧pが推定される。
【0113】
次いで、S54以下において、2つのリニア弁170,172の目標供給電流iSLA,iSLRが決定される。簡単に説明するが、この必要液量依拠電流変更サブルーチンによる処理では、目標供給圧P*に仮上昇圧pを加えた値(仮目標供給圧P*+p)より実供給圧prが低い場合に、目標範囲制御サブルーチンのS22〜S26の処理によって決定される増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAに、補正電流成分αiを加えた値に決定される。以上のように、2つのリニア弁170,172の目標供給電流iSLA,iSLRが決定された後に、この必要流量依拠電流変更サブルーチンの1回の処理が終了する。
【0114】
そして、供給圧制御プログラムのS11において、増圧用リニア弁170の目標供給電流iSLAに基づく制御信号が駆動回路220に送信され、決定された減圧用リニア弁172の目標供給電流iSLRに基づく制御信号が駆動回路222に送信された後、本プログラムの1回の実行が終了する。
【0115】
<制御装置の機能構成>
上述したような制御を実行して制御装置として機能するブレーキECU48は、前述した各種の処理を実行する各種の機能部を有していると考えることができる。詳しく言えば、図23に示すように、ブレーキECU48は、供給圧制御プログラムのS1を実行して、液圧源装置140によって供給される作動液の液圧である目標供給圧P*を決定する目標供給圧決定部250と、供給圧制御プログラムのS2以下を実行して、目標供給圧に基づいて増圧用リニア弁170および減圧用リニア弁172への供給電流を制御する供給圧制御部252とを有している。また、ブレーキECU48は、その他にも、ABS制御制御を実行するABS制御実行部254と、そのABS制御等のABS弁装置142が作動している場合において、各ブレーキ装置126のブレーキ圧を推定するブレーキ圧推定部256とを有している。
【0116】
さらに、ブレーキECU48は、目標範囲制御サブルーチンのS27〜S28を実行し、ABS制御が実行されている場合において、実行されていない場合に比較して2つのリニア弁170,172の開弁圧が高くなるように、それらへの供給電流を変更するABS制御時供給電流変更部260を有している。そのABS制御時供給電流変更部260は、目標供給圧決定部250によって決定された目標供給圧に補正圧を加えて補正目標供給圧を決定する補正目標供給圧決定部262と、目標供給電流に加える補正電流成分を決定する補正目標供給電流決定部264とを有している。なお、その補正目標供給圧決定部262は、差圧依拠電流変更サブルーチンのS32〜S34,S36の処理を実行する部分を含んで構成され、補正目標供給電流決定部264は、必要依拠電流変更サブルーチンのS51〜S53の処理を実行する部分を含んで構成されている。
【符号の説明】
【0117】
12:駆動用モータ(電磁モータ) 18:車輪 48:ブレーキECU(制御装置) 100:液圧ブレーキシステム 110:ブレーキペダル(ブレーキ操作部材) 126:ブレーキ装置 128:ホイールシリンダ 134:リザーバ 140:動力式液圧源装置(液圧源装置) 142:ABS弁装置 148:高圧源装置 160:共通通路 170:増圧用リニア弁(増圧用電磁弁) 172:減圧用リニア弁(減圧用電磁弁) 192:共通通路液圧センサ(液圧検出器) 200:ABS保持弁 202:ABS減圧弁 210:コントローラ 234:車輪速センサ 250:目標供給圧決定部 252:供給圧制御部 254:ABS制御制御実行部 256:ブレーキ圧推定部 260:ABS制御時供給電流変更部 262:補正目標圧決定部 264:補正目標供給電流決定部
【0118】
PWC:推定ブレーキ圧 P*:目標供給圧 Pr:実供給圧 P+*:減圧閾値 iSLR:目標供給電流(減圧用リニア弁) idw:開弁電流成分(減圧用リニア弁) iFB_SLR:フィードバック電流成分(減圧用リニア弁) Pk:供給圧 P-*:増圧閾値 iSLA:目標供給電流(増圧用リニア弁) iup:開弁電流成分(増圧用リニア弁) iFB_SLA:フィードバック電流成分(増圧用リニア弁) αp:補正圧 P*+αp:補正目標供給圧 PWCS:基準ブレーキ圧 β:減圧用開弁圧低下量 γ:増圧用開弁圧低下量 αi:補正電流成分 QABS:総必要流量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって操作されるブレーキ操作部材と、
車輪に対応して設けられ、自身に供給される作動液の液圧によって作動して車輪に制動力を付与するブレーキ装置と、
そのブレーキ装置に作動液を調圧された供給する装置であって、(a)高圧の液圧を発生させる高圧源と、(b)自身に供給される電流に応じて開弁圧が変更され、供給する作動液の液圧を増圧する増圧用電磁弁と、(c)自身に供給される電流に応じて開弁圧が変更され、供給する作動液の液圧を減圧する減圧用電磁弁とを有する液圧源装置と、
その液圧源装置と前記ブレーキ装置との間に設けられ、前記車輪のロックに対処するためのABS制御の実行時に作動させられるABS弁装置と、
(A)前記ブレーキ操作部材の操作に基づいて、前記液圧源装置によって供給される作動液の液圧である供給圧の目標となる目標供給圧を決定する目標供給圧決定部と、(B)前記目標供給圧に基づいて、前記液圧源装置が有する前記増圧用電磁弁および前記減圧用電磁弁への供給電流を制御する供給圧制御部と、(C)前記ABS制御を実行すべく前記ABS弁装置を制御するABS制御実行部と、(D)そのABS制御実行部によって前記ABS制御が実行されている場合において、実行されていない場合に比較して、前記増圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するABS時供給電流変更部とを有する制御装置と
を備えた車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧と前記ブレーキ装置の液圧であるブレーキ圧との差に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項1に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項3】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧と前記ブレーキ圧との差が大きいほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項2に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項4】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記ブレーキ装置に供給すべき作動液の液量である必要液量を推定し、その必要液量に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項5】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記必要液量が多いほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項4に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項6】
当該車両用液圧ブレーキシステムが、複数の車輪に対応してそれぞれが前記ブレーキ装置である複数のブレーキ装置を備え、
前記ABS時供給電流変更部が、
それら複数のブレーキ装置の各々の前記必要液量を推定し、それら複数のブレーキ装置の各々の必要液量の合計に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項4または請求項5に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項7】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS弁装置が前記複数のブレーキ装置のすべてに対して作動液の供給を遮断した場合に、自身が高くした前記増圧用電磁弁の開弁圧と、前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧に対して定まる前記増圧用電磁弁の開弁圧との圧力差が、低下することを禁止する請求項6に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項8】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧が低いほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項9】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されている場合に、前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧をその目標供給圧より高くなるように補正し、前記供給圧制御部がその補正した目標供給圧に基づいて前記増圧用電磁弁および前記減圧用電磁弁への供給電流を制御することを許容することで、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成された請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項10】
前記ABS時供給電流変更部が、
自身が補正した前記目標供給圧を前記供給圧が超えた場合に、前記増圧用電磁弁に供給する電流の変更を禁止するように構成された請求項9に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項11】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されている場合に、実行されていない場合に比較して、前記減圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、前記減圧用電磁弁に供給する電流をも変更するように構成された請求項1ないし請求項10のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項12】
当該車両用液圧ブレーキシステムが、複数の車輪に対応してそれぞれが前記ブレーキ装置である複数のブレーキ装置を備え、
前記ABS時供給電流変更部が、
それら複数のブレーキ装置のうちの2つ以上のものにおいて前記ABS制御が実行されていた状態から、それら前記ABS制御が実行されているもののうちの少なくとも1つにおいて前記ABS制御が終了する場合において、前記増圧用電磁弁の開弁圧がその時点の開弁圧より低くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成された請求項1ないし請求項11のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項13】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されているもののうちの少なくとも1つにおいて前記ABS制御が終了する場合に、前記減圧用電磁弁の開弁圧がその時点の開弁圧より低くなるように、前記減圧用電磁弁に供給する電流をも変更するように構成された請求項12に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項1】
運転者によって操作されるブレーキ操作部材と、
車輪に対応して設けられ、自身に供給される作動液の液圧によって作動して車輪に制動力を付与するブレーキ装置と、
そのブレーキ装置に作動液を調圧された供給する装置であって、(a)高圧の液圧を発生させる高圧源と、(b)自身に供給される電流に応じて開弁圧が変更され、供給する作動液の液圧を増圧する増圧用電磁弁と、(c)自身に供給される電流に応じて開弁圧が変更され、供給する作動液の液圧を減圧する減圧用電磁弁とを有する液圧源装置と、
その液圧源装置と前記ブレーキ装置との間に設けられ、前記車輪のロックに対処するためのABS制御の実行時に作動させられるABS弁装置と、
(A)前記ブレーキ操作部材の操作に基づいて、前記液圧源装置によって供給される作動液の液圧である供給圧の目標となる目標供給圧を決定する目標供給圧決定部と、(B)前記目標供給圧に基づいて、前記液圧源装置が有する前記増圧用電磁弁および前記減圧用電磁弁への供給電流を制御する供給圧制御部と、(C)前記ABS制御を実行すべく前記ABS弁装置を制御するABS制御実行部と、(D)そのABS制御実行部によって前記ABS制御が実行されている場合において、実行されていない場合に比較して、前記増圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するABS時供給電流変更部とを有する制御装置と
を備えた車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧と前記ブレーキ装置の液圧であるブレーキ圧との差に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項1に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項3】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧と前記ブレーキ圧との差が大きいほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項2に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項4】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記ブレーキ装置に供給すべき作動液の液量である必要液量を推定し、その必要液量に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項5】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記必要液量が多いほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項4に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項6】
当該車両用液圧ブレーキシステムが、複数の車輪に対応してそれぞれが前記ブレーキ装置である複数のブレーキ装置を備え、
前記ABS時供給電流変更部が、
それら複数のブレーキ装置の各々の前記必要液量を推定し、それら複数のブレーキ装置の各々の必要液量の合計に基づいて、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項4または請求項5に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項7】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS弁装置が前記複数のブレーキ装置のすべてに対して作動液の供給を遮断した場合に、自身が高くした前記増圧用電磁弁の開弁圧と、前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧に対して定まる前記増圧用電磁弁の開弁圧との圧力差が、低下することを禁止する請求項6に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項8】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧が低いほど前記増圧用電磁弁の開弁圧がより高くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更する請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項9】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されている場合に、前記目標供給圧決定部によって決定された前記目標供給圧をその目標供給圧より高くなるように補正し、前記供給圧制御部がその補正した目標供給圧に基づいて前記増圧用電磁弁および前記減圧用電磁弁への供給電流を制御することを許容することで、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成された請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項10】
前記ABS時供給電流変更部が、
自身が補正した前記目標供給圧を前記供給圧が超えた場合に、前記増圧用電磁弁に供給する電流の変更を禁止するように構成された請求項9に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項11】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されている場合に、実行されていない場合に比較して、前記減圧用電磁弁の開弁圧が高くなるように、前記減圧用電磁弁に供給する電流をも変更するように構成された請求項1ないし請求項10のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項12】
当該車両用液圧ブレーキシステムが、複数の車輪に対応してそれぞれが前記ブレーキ装置である複数のブレーキ装置を備え、
前記ABS時供給電流変更部が、
それら複数のブレーキ装置のうちの2つ以上のものにおいて前記ABS制御が実行されていた状態から、それら前記ABS制御が実行されているもののうちの少なくとも1つにおいて前記ABS制御が終了する場合において、前記増圧用電磁弁の開弁圧がその時点の開弁圧より低くなるように、前記増圧用電磁弁に供給する電流を変更するように構成された請求項1ないし請求項11のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【請求項13】
前記ABS時供給電流変更部が、
前記ABS制御が実行されているもののうちの少なくとも1つにおいて前記ABS制御が終了する場合に、前記減圧用電磁弁の開弁圧がその時点の開弁圧より低くなるように、前記減圧用電磁弁に供給する電流をも変更するように構成された請求項12に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−192767(P2012−192767A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56462(P2011−56462)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]