説明

車両用無段変速機の変速制御装置

【課題】車速上昇に応じて入力軸回転速度が増加するように変速制御を行う加速変速モードにおいて、市街地走行等の短時間加速でも高速道路等の長時間加速でも運転者の要求に合致した優れた加速フィーリングが得られるようにする。
【解決手段】加速変速モードにおいて、所定の切換タイミング(点C)に達したら、車速Vの上昇に対する増加割合が小さくされるようにした。このため、切換タイミング(点C)に達する前の増加割合を比較的大きく設定すれば、高加速度の優れた加速性能が得られるようになり、市街地走行等の短時間加速において高加速度の優れた加速フィーリングが得られる一方、切換タイミング(点C)に達したら増加割合が小さくされるため、目標回転速度NINTが上限値NINTmax に達することなく高車速まで連続的に変速しながら滑らかに加速することが可能で、滑らかで延びのある加速フィーリングが得られるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用無段変速機の変速制御装置に係り、特に、高加速要求時に車速の上昇に応じて入力軸回転速度が増加するように変速制御を行う加速変速モードを有する変速制御装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転者の加速要求が大きい高加速要求時に車速の上昇に応じて入力軸回転速度が増加するように変速制御を行なう加速変速モードを有する車両用無段変速機の変速制御装置が提案されている。特許文献1に記載の変速制御装置はその一例で、加速要求値を表すアクセル操作量に基づいて加速変速モードと通常変速モードとが切り換えられるようになっているとともに、加速変速モードでは、アクセル操作量に応じた入力軸回転速度の増大を制限し、車速の上昇に応じて入力軸回転速度が一定の増加割合で増加するように変速制御が行われ、優れた加速フィーリングが得られるようになっている。すなわち、加速要求でアクセル操作量が大きくなった場合(キックダウン時)に、そのアクセル操作量に応じて定められる目標回転速度まで入力軸回転速度、更には原動機の回転速度を一気に上昇させようとすると、その上昇に時間が掛かって車速増加までの応答性が悪い一方、入力軸回転速度がその目標回転速度に達した後は、その回転速度に維持され、車速増加に伴って変速比が減少(アップシフト)させられるため、原動機の騒音が大きくて乗り心地が悪いとともに加速フィーリングが必ずしも良くないのである。
【0003】
また、特許文献1では、車速上昇に伴う入力軸回転速度の増加で、その入力軸回転速度がアクセル操作量に応じて定められる上限値に達すると、アップシフトにより入力軸回転速度を低下させ、その後再び車速の上昇に応じて入力軸回転速度を一定の増加割合で増加させるようになっており、恰も有段変速機と同じような加速フィーリングが得られる。これに対し、特許文献2では、特許文献1と同様にアクセル操作量に応じた入力軸回転速度の増大を制限し、車速の上昇に応じて入力軸回転速度が増加するように変速制御が行われるが、その増加割合が車速偏差(アクセル操作量に応じた先読み車速と実際の車速との差)に応じて徐々に小さくされ、特許文献1に比べて瞬間的な加速性能は劣るものの、高車速まで滑らかに変速制御が行われて優れた乗り心地が得られる。
【特許文献1】特開2004−125072号公報
【特許文献2】特開2004−162800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、市街地走行等における短時間加速と、高速道路等における長時間加速では、運転者が要求する加速フィーリングが異なり、短時間加速では特許文献1のように車速上昇に伴って入力軸回転速度、更には原動機回転速度が比例的に増加する高加速度の加速フィーリングが望まれるのに対し、長時間加速では、特許文献2のように高車速まで連続的に加速する滑らかな延びのある加速フィーリングが望まれる。すなわち、特許文献1に記載の装置では、長時間加速において有段変速機のような変速ショックが生じて滑らかな加速フィーリングが得られない一方、特許文献2に記載の装置では、短時間加速において必ずしも十分に満足できる高加速度の加速フィーリングが得られ難いのである。
【0005】
図10は、車速Vと入力軸回転速度の目標回転速度NINTとの関係を示す図で、破線で示す比較例1の場合、特許文献1のように車速Vの上昇に対して目標回転速度NINTが一定の増加割合で増加するように変速制御が行われるが、入力軸回転速度が所定の上限値NINTmax に達したら、その上限値NINTmax に保持されるようになっており、上限値NINTmax に達するまでは優れた加速性能が得られるものの、上限値NINTmax に達した後の加速性能や加速フィーリングは必ずしも良くない。このため、市街地走行などでの短時間加速では有効であるが、高速道路等の長時間加速では必ずしも十分に満足できない。特許文献1では、入力軸回転速度が上限値NINTmax に達したら、アップシフトにより低下させられるため、優れた加速性能が得られるものの、有段変速機と同様な変速ショックが生じるため、高速道路等の長時間加速では必ずしも十分に満足できない。
【0006】
一方、図10において一点鎖線で示す比較例2は、比較例1と同様に車速Vの上昇に対して目標回転速度NINTが一定の増加割合で増加するように変速制御が行われるが、その増加割合が比較的小さく、比較例1に比較して高加速度の加速フィーリングは劣るものの、入力軸回転速度が上限値NINTmax に達することなく高車速まで連続的に加速できて、滑らかな延びのある加速フィーリングが得られる。このため、高速道路等の長時間加速では有効であるが、市街地走行などでの短時間加速では必ずしも十分に満足できない。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、車速上昇に応じて入力軸回転速度が増加するように変速制御を行う加速変速モードにおいて、市街地走行等の短時間加速でも高速道路等の長時間加速でも運転者の要求に合致した優れた加速フィーリングが得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、第1発明は、運転者の加速要求が大きい高加速要求時に車速の上昇に応じて入力軸回転速度が増加するように変速制御を行なう加速変速モードを有する車両用無段変速機の変速制御装置において、前記入力軸回転速度が予め定められた上限値に達する前の所定の切換タイミングで、その入力軸回転速度を低下させることなく前記車速の上昇に対する入力軸回転速度の増加割合を小さくすることを特徴とする。
【0009】
第2発明は、第1発明の車両用無段変速機の変速制御装置において、(a) 前記加速変速モードでは、前記車速の上昇に対する前記入力軸回転速度の増加割合を規定する車速変化補正値を用いて変速制御が行われる一方、(b) 前記車速の上昇に対する前記入力軸回転速度の増加割合が小さくなるように前記車速変化補正値を切り換える増加割合切換手段と、(c) 前記加速変速モードによる変速制御の経過時間、前記車速の上昇幅、前記入力軸回転速度の上昇幅、その入力軸回転速度から前記上限値までの回転速度差、および運転者のアクセル操作量の変化、の少なくとも一つを用いて前記切換タイミングを判定する切換タイミング判定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このような車両用無段変速機の変速制御装置においては、車速の上昇に応じて入力軸回転速度が増加するように変速制御を行なう加速変速モードで、入力軸回転速度が予め定められた上限値に達する前の所定の切換タイミングに達したら、その入力軸回転速度を低下させることなく車速の上昇に対する入力軸回転速度の増加割合が小さくされるため、切換タイミングに達する前の増加割合を比較的大き目に設定することにより、高加速度の優れた加速性能が得られるようにすることが可能で、市街地走行等の短時間加速において運転者の要求に合致した高加速度の加速フィーリングが得られるようにできる。一方、切換タイミングに達したら増加割合が小さくされるため、入力軸回転速度が上限値に達することなく高車速まで連続的に変速しながら滑らかに加速することが可能で、高速道路等の長時間加速において運転者の要求に合致した滑らかで延びのある加速フィーリングが得られるようにできる。
【0011】
第2発明では、加速変速モードによる変速制御の経過時間、車速の上昇幅、入力軸回転速度の上昇幅、入力軸回転速度から上限値までの回転速度差、および運転者のアクセル操作量の変化、の少なくとも一つを用いて切換タイミングが判定されるため、運転者の要求に合致した加速フィーリングが得られるようにすることができる。すなわち、加速変速モードによる変速制御の経過時間が所定値以上となった場合、車速の上昇幅が所定値以上となった場合、或いは入力軸回転速度の上昇幅が所定値以上となった場合には、加速要求時間が長くて長時間加速を要求しているものと考えられるため、入力軸回転速度の増加割合が小さくされることにより、運転者の要求に合致した滑らかな延びのある加速フィーリングが得られるようになる。また、入力軸回転速度から上限値までの回転速度差が所定値以下になった場合には、そのまま入力軸回転速度が変化して上限値に達すると加速性能が損なわれるため、入力軸回転速度の増加割合が小さくされることにより、良好な加速フィーリングを持続させることができる。また、運転者のアクセル操作量が減少した場合は、高加速に対する要求の程度が低くて滑らかな延びのある加速を求めていると考えられるため、入力軸回転速度の増加割合が小さくされることにより、運転者の要求に合致した加速フィーリングが得られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
無段変速機は、変速比を無段階に変化させることが可能な変速機であり、V溝幅が可変すなわち有効径が可変の一対の可変プーリと、それら一対の可変プーリの間に巻き掛けられた伝動ベルトとを備え、それら一対の可変プーリの有効径が相反的に変化させられることによって変速比が連続的に変化させられる形式のベルト式無段変速機が好適に用いられるが、例えば、同心で相対回転可能に配置された一対のコーン部材とそれらの間に挟圧状態で配置された複数個のローラとを備え、そのローラの回転軸心が一対のコーン部材の回転軸心を含む面内で回動させられることによって変速比が連続的に変化させられる形式のトロイダル型無段変速機など、種々の無段変速機の変速制御装置に適用され得る。
【0013】
無段変速機の変速制御により入力軸回転速度が変化すると、それに伴って車両走行用の原動機の回転速度も変化させられるが、この原動機の種類は特に限定されるものではなく、燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン、電気ネルギーで回転駆動される電動モータが広く用いられているが、複数種類の原動機を備えているハイブリッド車両等にも本発明は適用され得る。
【0014】
運転者の加速要求が大きい高加速要求時か否かは、運転者が車両に要求する出力量を表す加速要求値、すなわちアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)や、そのアクセル操作量に応じて制御されるスロットル弁開度、エンジンの吸気管に設けられたチャンバ内或いはシリンダ内へ噴射される燃料の噴射量を示す燃料噴射量、エンジンの吸気管により吸入される吸入空気量などが所定値以上か否か、或いはそれ等の変化速度が所定値以上か否か、等によって判断することができる。
【0015】
加速要求値が所定の加速要求判定値以上か否かによって高加速要求時か否かを判断する場合、同じアクセル操作量であっても加速を欲しているか否かは車速によって異なるため、車速或いは車速に対して一定の関係を有する物理量をパラメータとして判定値を設定することが望ましい。アクセル操作量以外の加速要求値を用いる場合も同様である。また、路面勾配などもアクセル操作量に影響し、加速を欲しているか否かの判断に影響するため、車速以外に路面勾配等も考慮して加速要求判定値を定めることもできる。
【0016】
加速変速モードの他に通常変速モードを備えているのが普通であり、その通常変速モードは、例えばアクセル操作量(出力要求量に相当)および車速をパラメータとして定められた通常時変速条件に従って求められる目標回転速度に対して入力軸回転速度を一致させるように変速制御を行なうように構成され、加速要求でアクセル操作量が急に大きくなった場合には、目標回転速度が一気に高められて入力軸回転速度、更には原動機の回転速度が一気に上昇させられるが、その回転速度の上昇に時間が掛かって車速増加までの応答性が悪い場合があるとともに、原動機が高回転の状態に維持されて車速増加に伴って変速比が減少(アップシフト)させられるため、騒音が大きくて乗り心地が悪く、加速フィーリングも必ずしも良くない。このため、加速要求時には、通常変速モードとは異なる加速変速モードで変速制御を行なうように構成される。
【0017】
ここで、車速(出力軸回転速度)は急に変化しないため、変速制御においては一定と見做すことが可能で、入力軸回転速度は無段変速機の変速比(入力軸回転速度/出力軸回転速度)に対応し、入力軸回転速度の代わりに変速比を変速制御量として用いるとともに、目標回転速度の代わりに目標変速比を求めて変速制御を行なうことも可能である。これは、加速変速モードでも同様で、結果的に入力軸回転速度が車速の上昇に応じて所定の増加割合で増加させられるように変速制御が行われれば良い。
【0018】
加速変速モードは、通常変速モードによる変速制御をそのまま用いて変速する場合に比較して、加速性能や加速フィーリング、或いは騒音等に優れた変速制御を行なうものである。例えば、通常変速モードでアクセル操作量に応じた入力軸回転速度すなわち原動機の回転速度の増大を制限し、加速要求値等に応じて定められる所定の初期値まで入力軸回転速度を上昇させた後、車速の上昇に対して入力軸回転速度が比例的に増加するように変速制御を行なうように構成されるが、必ずしも車速に対して完全に比例させる、すなわち変速比を一定とする必要はなく、車速変化に対し所定の係数を掛け算して入力軸回転速度を増加させるようになっていても良い。
【0019】
上記加速変速モードは、例えば車速の上昇に対する入力軸回転速度の増加割合を規定する車速変化補正値を用いて変速制御を行うように構成され、所定の切換タイミングに達したら、その増加割合が小さくなるように車速変化補正値が切り換えられるようにすれば良い。車速変化補正値は、例えば車速Vの変化速度ΔVに所定の補正係数αを掛け算した値を逐次加算して求められ、その補正係数αの値を変更することによって上記増加割合を変化させることができる。変化速度ΔVをパラメータとして予め定められたマップから車速変化補正値を求めるようにすることも可能で、その場合は、増加割合が異なる2種類のマップを予め用意しておけば良い。
【0020】
車速の上昇に対する入力軸回転速度の増加割合の変更は、上記のように車速変化補正値を切り換えることによって実施することができるが、例えば上記補正係数αが異なる2種類の加速変速モードを用意しておき、その加速変速モードを切り換えるようにしても良いなど、種々の態様が可能である。第2発明の増加割合切換手段は、補正係数α等により車速変化補正値そのものを切り換えるだけでなく、車速変化補正値が異なる2種類の加速変速モードを切り換える場合も含む。
【0021】
車速の上昇に対する入力軸回転速度の増加割合は、切換タイミングの前後でそれぞれ一定、すなわち車速上昇に対して直線的に変化し、その変化勾配(変化率)が切り換えられるものでも良いが、前記特許文献2のように非線形に変化させることも可能である。切換タイミングに達する前は増加割合が一定で、車速上昇に対して入力軸回転速度が直線的に変化させられ、切換タイミングに達したら増加割合が連続的に低下させられ、車速上昇に対して入力軸回転速度が非線形に変化させられるように変速制御を行うなど、種々の態様が可能である。なお、この入力軸回転速度の変化は、あくまでも車速上昇に対するもので、車速の上昇率が時間的に変化すれば、それに伴って入力軸回転速度の増加割合も時間的に変化し、車速上昇に対する増加割合が一定であっても、タイムチャートなどで入力軸回転速度が直線的に変化することを意味するものではない。
【0022】
入力軸回転速度の増加割合を小さくする切換タイミングは、少なくとも入力軸回転速度が予め定められた上限値に達する前であれば良い。この上限値は、例えばアクセル操作量が最大である場合を想定して、原動機の最大回転速度等に基づいて一定値が定められても良いが、アクセル操作量が最大でない場合を考慮して、そのアクセル操作量すなわち運転者の出力要求量をパラメータとして予め定められたマップ等により設定されるようになっていても良い。
【0023】
上記切換タイミングは、基本的には今回の加速要求が高速道路等の長時間加速か否かを判定するためのもので、例えば加速変速モードによる変速制御の経過時間が所定値以上となった場合、車速の上昇幅が所定値以上となった場合、或いは入力軸回転速度の上昇幅が所定値以上となった場合には、加速要求時間が長くて長時間加速を要求しているものと考えられるため、入力軸回転速度の増加割合が小さくなるように切り換えることが望ましい。これ等の何れか一つに基づいて切換タイミングを判定しても良いが、複数の条件を定めて判定するが望ましい。車速や入力軸回転速度と一定の関係を有する他の回転速度を用いることもできるが、実質的に同じである。
【0024】
また、入力軸回転速度から上限値までの回転速度差が所定値以下になった場合には、そのまま入力軸回転速度が変化して上限値に達すると加速フィーリングが損なわれるため、入力軸回転速度の増加割合が小さくなるように切り換えて、良好な加速フィーリングを持続させることが望ましい。運転者のアクセル操作量(出力要求量)が減少した場合は、高加速に対する要求の程度が低くて滑らかな延びのある加速を求めていると考えられるため、この場合も入力軸回転速度の増加割合が小さくなるように切り換えることが望ましい。したがって、これ等の条件も、切換タイミングの判定条件に加えることが望ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の駆動源(原動機)として内燃機関であるガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等のエンジン12を備えている。エンジン12の出力は、トルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車機構20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0026】
トルクコンバータ14は流体式伝動装置に相当し、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられ、それ等を一体的に連結して一体回転させることができるようになっている。上記ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ28が設けられている。
【0027】
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに連結されている。そして、キャリア16cとサンギヤ16sとの間に配設された前進用クラッチC1が係合させられると、前後進切換装置16は一体回転させられてタービン軸34が入力軸36に直結され、前進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。また、リングギヤ16rとハウジング30との間に配設された後進用ブレーキB1が係合させられるとともに上記前進用クラッチC1が解放されると、入力軸36はタービン軸34に対して逆回転させられ、後進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。
【0028】
無段変速機18は、上記入力軸36に設けられた有効径が可変のプライマリシーブ(入力側可変プーリ)38と、出力軸40に設けられた有効径が可変のセカンダリシーブ(出力側可変プーリ)42と、それ等のプライマリシーブ38、セカンダリシーブ42に巻き掛けられた伝動ベルト44とを備えており、両シーブ38、42と伝動ベルト44との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。プライマリシーブ38、セカンダリシーブ42はそれぞれV溝幅が可変で、油圧シリンダ38s、42sを備えて構成されており、プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sの油圧(プライマリシーブ圧)Pinが変速制御回路50(図2参照)によって制御されることにより、両シーブ38、42のV溝幅が変化して伝動ベルト44の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sの油圧(セカンダリシーブ圧)Pout は、伝動ベルト44が滑りを生じないように挟圧力制御回路70(図2参照)によって調圧制御される。上記変速制御回路50および挟圧力制御回路70は、例えば図2に示す電子制御装置80により出力油圧が連続的に制御されるリニアソレノイドバルブやデューティソレノイドバルブ、およびそれ等の出力油圧に応じてプライマリシーブ圧Pin、セカンダリシーブ圧Pout を調圧制御するコントロールバルブ等を有して構成されている。
【0029】
図2において、電子制御装置80はマイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、無段変速機18の変速制御や挟圧力制御、エンジン12の出力制御等を行うもので、必要に応じてエンジン制御用やCVT制御用等に分けて別々に構成される。電子制御装置80には、シフトポジションセンサ82、アクセル操作量センサ84、エンジン回転速度センサ86、車速センサ88、入力軸回転速度センサ90などが接続され、シフトレバー81のシフトポジションSFTP、アクセルペダル83の操作量(アクセル操作量)PAP、エンジン回転速度NE、車速V(出力軸40の回転速度(出力軸回転速度)NOUTに対応)、入力軸回転速度NIN(入力軸36の回転速度)など、各種の制御に必要な種々の情報を表す信号が供給されるようになっている。アクセルペダル83は、運転者の出力要求に応じて操作される出力要求操作部材で、アクセル操作量PAPは出力要求量を表しており、本実施例では加速要求値に相当する。なお、油圧制御回路32は、前記変速制御回路50および挟圧力制御回路70の他、ライン圧PLを調圧制御するライン圧制御回路や、ロックアップクラッチ26の係合解放制御、スリップ制御等を行なうロックアップクラッチ制御回路等を備えている。
【0030】
図3は、上記電子制御装置80が無段変速機18の変速制御に関して備えている各種の機能を説明するブロック線図で、変速制御手段100は、変速モード切換手段102、通常変速手段104、およびリニアシフト手段110を備えている。通常変速手段104は通常変速モードで変速制御を行なうもので、リニアシフト手段110は加速変速モードで変速制御を行なうもので、変速モード切換手段102は、運転者の加速要求に応じて通常変速手段104による通常変速モードとリニアシフト手段110による加速変速モードとを切り換えるものである。加速変速モードで変速制御を行なうリニアシフト手段110は加速変速手段である。
【0031】
上記通常変速手段104によって実行される通常変速モードによる変速制御について具体的に説明すると、例えば図4に示すようにアクセル操作量PAPおよび車速Vをパラメータとして予め定められた変速マップから入力側の目標回転速度NINTを算出するとともに、実際の入力軸回転速度NINが目標回転速度NINTと一致するように、それ等の偏差等に応じて変速制御回路50のデューティソレノイドバルブのデューティ比、或いはリニアソレノイドバルブの駆動電流等をフィードバック制御することにより、プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sに対する作動油の供給、排出を制御する。図4のマップは通常時変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル操作量PAPが大きい程大きな変速比γになる目標回転速度NINTが設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標回転速度NINTは目標変速比に対応し、無段変速機18の最小変速比γmin と最大変速比γmax の範囲内で定められている。上記変速マップは、電子制御装置80のマップ記憶装置(ROMなどの記憶手段)94に予め記憶されている。なお、アクセル操作量PAPをそのまま用いる代わりに、車速V等を考慮して求めた運転者の要求出力(パワー)等をパラメータとして上記変速マップを設定することも可能である。
【0032】
ここで、このような通常変速モードでは、運転者の加速要求でアクセル操作量PAPが急に大きくなった場合には、目標回転速度NINTが一気に高められて入力軸回転速度NIN、更にはエンジン12の回転速度NEが一気に上昇させられるが、エンジン回転速度NEの上昇に時間が掛かって車速Vが増加し始めるまでの応答性が悪い。また、エンジン12が高回転に達した後はその高回転の状態に維持され、車速Vの増加に伴って変速比γが滑らかに減少(アップシフト)させられるため、騒音が大きくて乗り心地が悪いとともに、加速フィーリングも必ずしも良くない。このため、運転者が所定の加速を欲していると考えられる加速要求時には、前記変速モード切換手段102によりリニアシフト手段110による変速制御に切り換えられ、加速走行に適した加速変速モードで変速制御が行なわれる。
【0033】
加速要求に応じて変速モードを切り換える変速モード切換手段102は、例えば図5のフローチャートに従って信号処理を行なうことにより加速要求か否かを判断し、変速モードを切り換える。図5は、所定のサイクルタイムで繰り返し実行されるもので、ステップS1では、アクセル操作量PAPに基づいて加速要求か否かを判断するための加速要求判定値PAPLを設定する。具体的には、図6に示すように車速Vをパラメータとして予め定められたマップから、実際の車速Vに応じて加速要求判定値PAPLを設定する。すなわち、車速Vが高くなると、加速を欲していない場合でもアクセル操作量PAPは大きくなるため、この加速要求判定値マップは、車速Vをパメラータとして車速Vが大きくなる程加速要求判定値PAPLが大きくなるように設定されている。この図6の加速要求判定値PAPLに関するマップは、前記図4の変速マップと同様に電子制御装置80のマップ記憶装置94に予め記憶されている。
【0034】
図5に戻って、ステップS2では、上記加速要求判定値PAPLと実際のアクセル操作量PAPとを比較する。そして、PAP<PAPLであれば運転者が加速を欲していないと判断して、ステップS3で通常変速モードを選択し、前記通常変速手段104に変速制御を実行させる一方、PAP≧PAPLの場合は運転者が加速を欲していると判断して、ステップS4で加速変速モードを選択し、前記リニアシフト手段110に変速制御を実行させる。
【0035】
リニアシフト手段110によって実行される加速変速モードによる変速制御について具体的に説明すると、先ず、次式(1) に示すように目標回転速度基準値NINTLBとアクセル踏込み補正値NINTLPAPと車速変化補正値NINTLSPDとを加算して目標回転速度NINTを算出する。目標回転速度基準値NINTLBは、図7に示すように車速Vをパラメータとしてマップや演算式で設定されており、車速Vが小さい程大きな変速比γになるように定められている。この目標回転速度基準値NINTLBは、前記加速要求判定値PAPLをアクセル操作量PAPとして前記図4の変速マップに従って目標回転速度NINTを求めたものと同じ値で、加速変速モードの基準値になるものであり、一連の加速変速モードでの変速制御の継続中は、加速変速モードへ移行した時に最初に求めた一定値がそのまま用いられる。すなわち、アクセルペダル83がフルストローク(開度100%)で踏込み操作された場合でも、そのアクセル操作量PAPが加速要求判定値PAPLを超えた時の車速Vに応じて、図7に従って目標回転速度基準値NINTLBが定められ、その目標回転速度基準値NINTLBは加速要求判定値PAPLに応じて前記図4の変速マップに従って求められる目標回転速度NINTと一致する比較的低い値で、その目標回転速度基準値NINTLBを基準として加速変速モードの変速制御が実行されるのである。
NINT=NINTLB+NINTLPAP+NINTLSPD ・・・(1)
【0036】
図10は、上記リニアシフト手段110によって実行される加速変速モードの変速制御の一例を具体的に説明する図で、前記図4の変速マップと同様に車速Vをパラメータとして目標回転速度NINTの変化、すなわち変速比γの変化を示したものである。図10の点Aは、前記図5のステップS2の判断がYES(肯定)となって通常変速モードから加速変速モードへ切り換えられた時(或いは直前)の目標回転速度NINT、すなわち前記図4のマップに従って車速Vおよびアクセル操作量PAP(加速要求判定値PAPL)に応じて定められる目標回転速度NINTで、上記(1) 式における目標回転速度基準値NINTLBと一致する。
【0037】
上記アクセル踏込み補正値NINTLPAPは、アクセル操作量PAPすなわち加速要求値が大きい程目標回転速度NINTを高くするための補正値で、例えば図8に示すようにアクセル操作量PAPをパラメータとして予め定められたマップや演算式に従って求められる。また、車速変化補正値NINTLSPDは、車速Vの上昇に対して目標回転速度NINTすなわち入力軸回転速度NINを一定の増加割合で増加させるための補正値で、例えば次式(2) に示すように、車速Vの変化速度ΔV或いはサイクルタイム当りの車速Vの変化量ΔVに、所定の補正係数αを掛け算した値を前回の補正値NINTLSPDi-1 に加算することによって求められる。車速Vは急に変化しないため、加速変速モードへ切り換えられた当初は車速変化補正値NINTLSPD=0であり、前記(1) 式に従って求められる目標回転速度NINTは、目標回転速度基準値NINTLBにアクセル踏込み補正値NINTLPAPを加算した値となる。図10の点Bは、この時の目標回転速度NINTで、点Aから点Bまで一気にダウンシフトされる。
NINTLSPDi =NINTLSPDi-1 +α×ΔV ・・・(2)
【0038】
一方、上記点Bまでダウンシフトされると、車両の駆動力が高められて車両が加速させられ、その車速変化ΔVに応じて車速変化補正値NINTLSPDが補正係数αによって定まる一定の増加割合で増大する。これにより、前記(1) 式に従って求められる目標回転速度NINTも、車速変化ΔVに対して一定の増加割合で増加させられ、図10において点B〜点Cに示すように車速Vに対して直線的に増加させられる。前記アクセル踏込み補正値NINTLPAP、および車速変化補正値NINTLSPDは、一連の加速変速モードでの変速制御の過程で、所定のサイクルタイムで目標回転速度NINTが算出される度に逐次更新され、車速変化補正値NINTLSPDは車速Vの増加に応じて連続的に増大させられる。上記図8のアクセル踏込み補正値NINTLPAPに関するマップや前記図7の目標回転速度基準値NINTLBに関するマップは、前記図4の変速マップと同様に電子制御装置80のマップ記憶装置94に予め記憶されている。
【0039】
そして、このように前記(1) 式に従って目標回転速度NINTを求めたら、前記通常変速モードと同様に、実際の入力軸回転速度NINが目標回転速度NINTと一致するように、それ等の偏差等に応じて変速制御回路50のデューティソレノイドバルブのデューティ比、或いはリニアソレノイドバルブの駆動電流等をフィードバック制御することにより、プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sに対する作動油の供給、排出を制御する。なお、最終的な目標回転速度NINTは、エンジン12の最大回転速度等に基づいて予め定められた一定の上限値NINTmax を超えないようにガードが掛けられる。また、上記目標回転速度NINTと実際の入力軸回転速度NINとは厳密に一致するものではないが、入力軸回転速度NINは目標回転速度NINTに追従して変化させられるため、その応答遅れが問題にならない場合には目標回転速度NINTを入力軸回転NINと見做すことができる。
【0040】
ここで、前記車速変化補正値NINTLSPDを算出する際の補正係数αによって、車速変化ΔVに対する目標回転速度NINTの勾配(増加割合)は変化し、例えば補正係数αが比較的大きい場合は、図10に破線で示す比較例1のように目標回転速度NINTの勾配も比較的大きくなり、高加速度の優れた加速性能が得られる。しかしながら、そのまま目標回転速度NINTが上昇して上限値NINTmax に達すると、後はその上限値NINTmax に張り付いたまま、車速Vの上昇に伴って連続的にアップシフトが行われるため、加速性能や加速フィーリングが低下する。したがって、市街地走行などでの短時間加速では、高加速度の優れた加速フィーリングが得られるものの、高車速まで加速する高速道路等の長時間加速では必ずしも十分に満足できる加速フィーリングが得られない。
【0041】
一方、図10において一点鎖線で示す比較例2は、補正係数αが比較的小さい場合で、目標回転速度NINTの勾配も比較的小さくなり、比較例1に比較して高加速度の加速フィーリングは劣るが、目標回転速度NINTが上限値NINTmax に達することなく高車速まで連続的に加速できて滑らかな延びのある加速フィーリングが得られる。このため、市街地走行などでの短時間加速では必ずしも十分に満足できる加速性能が得られないものの、高速道路等の長時間加速では優れた加速フィーリングが得られる。
【0042】
このように、補正係数αによって加速フィーリングが異なり、市街地走行等の短時間加速でも高速道路等の長時間加速でも共に運転者の要求に合致した優れた加速フィーリングが得られるようにすることは困難である。これに対し、本実施例では所定の切換タイミングで補正係数αを小さくすることにより、図10において実線で示すように目標回転速度NINTが上限値NINTmax に達する前に、車速Vに対する目標回転速度NINTの増加割合すなわち入力軸回転速度NINの増加割合を小さくし、市街地走行等の短時間加速でも高速道路等の長時間加速でも運転者の要求に合致した優れた加速フィーリングが得られるようになっている。すなわち、図3に示すように、前記リニアシフト手段110は、切換タイミング判定手段112および増加割合切換手段114を機能的に備えており、図9に示すフローチャートに従って信号処理を行うようになっている。図9のフローチャートのステップR2は切換タイミング判定手段112に相当し、ステップR3は増加割合切換手段114に相当する。
【0043】
図9のステップR1では、加速変速モードの実行中か否かを、例えば前記ステップS2の判定結果を表すフラグ等によって判断し、加速変速モードの実行中であればステップR2を実行する。ステップR2では、リニアシフト勾配すなわち前記図10における目標回転速度NINTの勾配(増加割合)で本実施例では前記補正係数α、を切り換える変更条件を満足するか否かを判断する。この変更条件は、今回の加速要求が高速道路等の長時間加速か否かを判定するためのもので、具体的には、加速変速モードによる変速制御の経過時間が所定値以上になったか否か、車速Vの上昇幅が所定値以上になったか否か、および入力軸回転速度NINの上昇幅が所定値以上になったか否かを判断し、何れか一つでも成立した場合には加速要求時間が長くて長時間加速を要求しているものと考えられるため、変更条件を満足する旨の判断を行う。また、目標回転速度NINTから上限値NINTmax までの回転速度差が所定値以下になった場合には、そのまま目標回転速度NINTが変化して上限値NINTmax に達すると加速フィーリングが損なわれる一方、運転者のアクセル操作量PAPが減少した場合は、高加速に対する要求の程度が低くて滑らかな延びのある加速を求めていると考えられるため、これ等の場合も変更条件を満足する旨の判断が為されるようになっている。上記各判断の所定値などは、例えば予め一定値が定められるが、運転状態や運転環境等をパラメータとして予め定められたマップ等により、条件によって異なる値が設定されるようにすることもできる。
【0044】
そして、上記ステップR2の判断がYES(肯定)になった場合には、ステップR3を実行し、リニアシフト勾配が小さくなるようにする。具体的には、目標回転速度NINTが上限値NINTmax に達することなく高車速まで連続的に加速できて滑らかな延びのある加速フィーリングが得られるように、その目標回転速度NINTの増加割合に対応する前記補正係数αを小さくする。この時の補正係数αは、予め一定の値が定められても良いが、車速Vや入力軸回転速度NIN、或いはその入力軸回転速度NINと上限値NINTmax との回転速度差などをパラメータとして、目標回転速度NINT(或いは入力軸回転速度NIN)が上限値NINTmax に達することなく所定の高車速(例えば100km/h等)まで加速できるようにマップや演算式等により設定されるようにしても良い。また、ステップR2の複数の変更条件に応じて異なる補正係数αが定められても良い。そして、この新たな補正係数αを用いて前記(2) 式に従って車速変化補正値NINTLSPDが求められることにより、車速Vに対する目標回転速度NINTの増加割合が小さくされる。図10において実線で示すグラフは本実施例のもので、点Cが、上記ステップR3で補正係数αが切り換えられる切換タイミングに相当する。なお、ステップR3で小さくされる前の補正係数αは、優れた加速性能が得られるように比較的大きな値が定められており、目標回転速度NINTは図10において点B〜点Cに示すように比較的大きな増加割合で増加させられる。
【0045】
このように、本実施例の変速制御装置においては、車速Vの上昇に応じて目標回転速度NINT(入力軸回転速度NINに対応)が増加するように変速制御を行なう加速変速モードで、目標回転速度NINTが予め定められた上限値NINTmax に達する前の所定の切換タイミング(図10の点C)に達したら、車速変化補正値NINTLSPDの補正係数αが小さくされることにより、目標回転速度NINTを低下させることなく車速Vの上昇に対する増加割合が小さくされる。このため、切換タイミングに達する前の目標回転速度NINTの増加割合が比較的大きくなるように補正係数αを比較的大き目に設定すれば、高加速度の優れた加速性能が得られるようになり、市街地走行等の短時間加速において運転者の要求に合致した高加速度の優れた加速フィーリングが得られる一方、切換タイミングに達したら目標回転速度NINTの増加割合が小さくされるため、その目標回転速度NINTが上限値NINTmax に達することなく高車速まで連続的に変速しながら滑らかに加速することが可能で、高速道路等の長時間加速において運転者の要求に合致した滑らかで延びのある加速フィーリングが得られるようになる。
【0046】
また、本実施例では、加速変速モードによる変速制御の経過時間、車速Vの上昇幅、入力軸回転速度NINの上昇幅、入力軸回転速度NINから上限値NINTmax までの回転速度差、および運転者のアクセル操作量PAPの変化について変更条件が定められ、その何れか一つでも成立した場合には切換タイミングと判断して補正係数αが変更されるため、市街地走行等の短時間加速か高速道路等の長時間加速かを含めて運転者の要求に一層合致した加速フィーリングが得られるようになる。すなわち、加速変速モードによる変速制御の経過時間が所定値以上となった場合、車速Vの上昇幅が所定値以上となった場合、或いは入力軸回転速度NINの上昇幅が所定値以上となった場合には、加速要求時間が長くて長時間加速を要求しているものと考えられるため、目標回転速度NINTの増加割合が小さくされることにより、運転者の要求に合致した滑らかな延びのある加速フィーリングが得られるようになる。また、入力軸回転速度NINから上限値NINTmax までの回転速度差が所定値以下になった場合には、そのまま入力軸回転速度NINが変化して上限値NINTmax に達すると加速性能が損なわれるため、目標回転速度NINTの増加割合が小さくされることにより、良好な加速フィーリングを持続させることができる。また、運転者のアクセル操作量PAPが減少した場合は、高加速に対する要求の程度が低くて滑らかな延びのある加速を求めていると考えられるため、目標回転速度NINTの増加割合が小さくされることにより、運転者の要求に合致した加速フィーリングが得られるようになる。
【0047】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明が好適に適用される車両用駆動装置の一例を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置における無段変速機の制御系統を説明するブロック線図である。
【図3】図2の電子制御装置が変速制御に関して備えている機能を説明するブロック線図である。
【図4】図3の通常変速手段によって実行される通常変速モードでの変速制御において目標回転速度NINTを求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図5】図3の変速モード切換手段によって実行される信号処理を具体的に説明するフローチャートである。
【図6】図5のステップS1で加速要求判定値PAPLを設定する際に用いられるマップの一例を説明する図である。
【図7】図3のリニアシフト手段によって実行される加速変速モードでの変速制御において目標回転速度基準値NINTLBを求める際に用いられるマップの一例を説明する図である。
【図8】図3のリニアシフト手段によって実行される加速変速モードでの変速制御においてアクセル踏込み補正値NINTLPAPを求める際に用いられるマップの一例を説明する図である。
【図9】図3の切換タイミング判定手段および増加割合切換手段により所定の切換タイミングで目標回転速度の増加割合を切り換える際の作動を説明するフローチャートである。
【図10】図9のフローチャートに従って目標回転速度の増加割合が切り換えられる本実施例と、増加割合が一定の比較例を説明する図である。
【符号の説明】
【0049】
18:ベルト式無段変速機(無段変速機) 36:入力軸 80:電子制御装置 110:リニアシフト手段(加速変速モード) 112:切換タイミング判定手段 114:増加割合切換手段 PAP:アクセル操作量(加速要求) NIN:入力軸回転速度 NINT:目標回転速度(入力軸回転速度) NINTmax :上限値 V:車速 C:所定の切換タイミング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の加速要求が大きい高加速要求時に車速の上昇に応じて入力軸回転速度が増加するように変速制御を行なう加速変速モードを有する車両用無段変速機の変速制御装置において、
前記入力軸回転速度が予め定められた上限値に達する前の所定の切換タイミングで、該入力軸回転速度を低下させることなく前記車速の上昇に対する該入力軸回転速度の増加割合を小さくする
ことを特徴とする車両用無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記加速変速モードでは、前記車速の上昇に対する前記入力軸回転速度の増加割合を規定する車速変化補正値を用いて変速制御が行われる一方、
前記車速の上昇に対する前記入力軸回転速度の増加割合が小さくなるように前記車速変化補正値を切り換える増加割合切換手段と、
前記加速変速モードによる変速制御の経過時間、前記車速の上昇幅、前記入力軸回転速度の上昇幅、該入力軸回転速度から前記上限値までの回転速度差、および運転者のアクセル操作量の変化、の少なくとも一つを用いて前記切換タイミングを判定する切換タイミング判定手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用無段変速機の変速制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−92176(P2009−92176A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264767(P2007−264767)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】