説明

車両用電池パック

【課題】急速充電の回数を低減して電池寿命の向上を図る車両用電池パックを提供する。
【解決手段】電池パック10は、車両の走行に使用される電力を充電または放電する電池モジュール13と、電池モジュール13に対する充電運転を制御する監視制御部11と、を備える。監視制御部11は、過去の充電実績及び放電実績を充放電履歴マップに記憶するとともに、充電要求がある場合に、充放電履歴マップに記憶された充放電サイクルの学習データを解析して急速充電の実施が必要か否かを判定する急速充電要否判定を実行する。監視制御部11は、急速充電判定において肯定的に判定された場合には、急速充電を実施し、急速充電判定において否定的に判定された場合には、単位時間当たりの充電電流を急速充電時よりも小さくして充電する通常充電を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電可能な電池を備える車両用電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用電池への充電を制御する従来技術として、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に記載の技術は、マイクロコンピューターや各種センサを内蔵したインテリジェント型電池パックにおいて、電池の充放電状況や再充電回数を監視することにより電池の寿命管理を精度良く行うようにしている。さらに、ノート型パーソナルコンピューター(以下、ノートパソコンと称する)等に内蔵されて使用される電池パックは、各データを電池パック固有のID番号と紐付けて管理される集中サーバーに定期的に送信する。サーバーはこれらの情報を管理、解析することで、電池パックの故障予兆や電池パックの寿命予知を行う。このように電池パックの故障や寿命が予知できた場合には、サーバーから電池パックの使用者であるユーザーに警告案内を送信し、電池パックの予防交換を促すことにより、電池パックで動作しているノートパソコン等の装置が稼動停止に陥ることを未然に防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−221900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術の電池パックが、例えばノートパソコン等のように比較的頻繁に商用電源からの充電を行い、その電力量が大きくない場合や、また充電方式として急速充電を実施する機会が高頻度でない場合には、充電方式による電池寿命への影響はさほど問題とならない。しかしながら、車両走行のための駆動電力を供給する電池パックとして用いられる場合には、比較的大きな電力量で、急速充電を毎日実施することが想定されるため、充電方式が電池寿命に与える影響が大きいという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、急速充電の回数を低減して電池寿命の向上を図る車両用電池パックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。請求項1に記載の車両用電池パックに係る発明は、車両の走行に使用される電力を充電または放電する電池と、過去の充電実績及び放電実績を充放電履歴マップに記憶するとともに、充電要求がある場合に、充放電履歴マップに記憶された充放電サイクルの学習データを解析して急速充電の実施が必要か否かを判定する急速充電要否判定を実行し、電池に対する充電運転を制御する制御装置と、を備え、
制御装置は、急速充電判定において肯定的に判定された場合には、急速充電を実施し、急速充電判定において否定的に判定された場合には、単位時間当たりの充電電流を急速充電時よりも小さくして充電する通常充電を実施することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、車両用電池パック自身が充放電履歴マップに記憶された充放電サイクルの学習データを解析する学習機能を備えることにより、急速充電の要否判定を高精度に実行することができる。この発明は、電池のユーザーによる過去の充電パターンに高い円環的性質(サイクリック性)がある場合には、特に有用である。したがって、不必要な急速充電の機会を減らすことができるので、電池寿命の向上が図れ、充電コストの低減や給電インフラの負荷軽減にも貢献できる車両用電池パックが得られる。
【0008】
請求項2に記載の発明によると、制御装置は、少なくとも今後の車両運行に関する使用予約データを管理する車両運行管理サーバーと通信し、充放電サイクルの学習データと車両運行管理サーバーから取得した使用予約データとを用いて解析を行い、急速充電の実施が必要か否かを判定することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、車両用電池パックは、外部の車両運行管理サーバーとの通信によって今後の使用予約データを取得して充放電サイクルの学習データと合わせた解析により急速充電の要否を判定する。これにより、次回使用予定として予定外の車両使用が入った場合等、充放電サイクルの学習データの解析による判定では対応できない急速充電の需要に対して、適切な対応を実施する車両用電池パックを提供できる。
【0010】
請求項3に記載の発明によると、制御装置は、使用予約データに基づく次回の使用予定までの時間と電池に残っている蓄電残量とを用いた解析により、急速充電の実施が必要か否かを判定することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、必要な電力を次回使用予定までの時間内に電池に蓄電することができれば通常通電を実施するように判定し、必要な電力を当該時間内に蓄えることができない場合は急速充電を実施するように判定することができる。したがって、次回使用予定が充放電履歴等から予測し得る場合、次回使用予定が予測できない突発的な予定である場合のいずれであっても、余分な急速充電を防止し、必要な場合のみに急速充電を実施する車両用電池パックを提供できる。
【0012】
請求項4に記載の発明によると、制御装置は、電池の劣化度合いを評価するための電池の劣化評価指標を電池に対して何らかの責任を負うべき責任組織に送信することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、マイクロコンピューター等の制御装置を搭載した、いわゆるインテリジェント電池パックから電池の劣化評価指標が上記の責任組織に送信されることにより、例えば、電池メーカー等の責任組織において電池の寿命分析や故障予知分析を実施することが可能になり、的確なメンテナンスの実現に寄与する。さらに当該責任組織による高精度な寿命予測、故障予測の実現が図れる。
【0014】
請求項5に記載の発明によると、制御装置は、急速充電判定において否定的に判定された場合でも、ユーザー操作に伴う急速充電要求を取得したときには急速充電を実施することを特徴とする。この発明によれば、充放電履歴に基づいて急速充電が必要であるとの判定をした場合でも、ユーザーの意向を反映した急速充電を実施することができる。したがって、ユーザーが急速充電を必要とする状況にあるときにはユーザーの意向を優先してユーザーの要求を満足する急速充電を実施でき、さらにユーザーの要求がない場合は急速充電の回数を低減して電池寿命の向上が図れる車両用電池パックを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係る車両用電池パックと外部のサーバーとを含むシステムの構成図である。
【図2】第1実施形態において車両用電池パックが充電時に実施する制御の手順を示すフローチャートである。
【図3】車両用電池パックが充放電履歴マップに記憶されている1週間の充放電サイクルの学習データを示す図である。
【図4】監視制御部が電池メーカー等に送信する電池の劣化評価指標の一例を示した図表である。
【図5】第2実施形態において車両用電池パックが充電時に実施する制御の手順を示すフローチャートである。
【図6】車両運行管理サーバーが管理する車両使用予約状況を示した図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合わせることも可能である。
【0017】
(第1実施形態)
本発明に係る車両用電池パックは、例えば電動機のみによって走行する電気自動車、電動機と内燃機関とを併用して走行するハイブリッド自動車に適用することができる。図1は、第1実施形態に係る車両用電池パックと外部のサーバーとを含むシステムの構成図である。
【0018】
車両1には、電池パック10が搭載されている。電池パック10は、複数の電池モジュール13と、電池モジュール13に含まれる電池セル14の温度を検出する温度検出部16と、電池セル14の出力電圧を検出する電圧検出部17と、電池セル14の充放電時の電流を検出する電流検出部18と、複数の電池モジュール13の充放電を監視、制御する制御装置としての監視制御部11と、を備えている。
【0019】
車両1には、走行装置2が搭載されている。走行装置2は、電池モジュール13から供給される電力によって車両1を走行させる。走行装置2には、電動機が含まれている。さらに、走行装置2には、車両1を走行させる動力を発生する内燃機関を含むことができる。
【0020】
車両1と関連のある地上施設としては、充電スタンド30と、電池セル14等の製造者であるメーカー21と、外部で集中管理を実施するサーバー20と、がある。充電スタンド30は、車両1に搭載された電池セル14に充電する機能を備える充電装置と、車両外部のサーバー20や車両の通信部4と通信する機能を有するデータ通信装置と、を備えている。充電スタンド30は、急速充電と通常充電の両方を実施可能な急速・通常充電用スタンドである。
【0021】
サーバー20は、車両1に搭載された通信部4と無線通信が可能な外部のサーバーであり、記憶装置及び演算処理装置を有し、さらにメーカー21と通信するためのデータ通信装置を備えている。サーバー20の記憶装置は、車両1や充電スタンド30からの各種データ及び演算処理装置による解析結果を含むデータを記憶する。サーバー20の記憶装置に記憶されたデータは、メーカー21において閲覧及び利用可能である。
【0022】
車両1には、充電装置12が搭載されている。充電装置12は、電池モジュール13への充電を制御する。充電装置12は、充電スタンド30と車両1とが電線によって接続されているときに、充電スタンド30から電池セル14への充電を制御する。充電装置12は、外部から入力される信号に応じて電池セル14の充電を許可、または禁止する断続機能を備える。充電装置12は、外部から入力される信号に応じて電池セル14への充電量を最低充電量と満充電との間の所定の充電量に制御する充電量調節機能を備える。
【0023】
車両1には、外部と通信可能な通信部4が搭載されている。通信部4は、無線によってサーバー20と通信可能に構成されている。通信部4は、電線を介して充電スタンド30と通信することもできる。通信部4は、無線通信装置を用いて、外部のサーバー20、すなわち外部機器である記憶装置にデータを送信する。
【0024】
車両1には、車両1に搭載される各種の負荷3が搭載されている。負荷3は、電力により動作する電気機器であり、例えば、点灯機器、点滅機器、車両1に搭載されたメーター装置、ナビゲーション装置、映像表示装置、空調装置等である。
【0025】
監視制御部11は、コンピューターによって読み取り可能な記憶媒体を備えるマイクロコンピューターによって提供される制御装置である。記憶媒体は、コンピューターによって読み取り可能なプログラムを格納している。記憶媒体は、メモリによって提供されうる。プログラムは、制御装置によって実行されることによって、監視制御部11をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される制御方法を実行するように監視制御部11を機能させる。監視制御部11は、記憶部、認証部、及び演算部を備え、これらの構成要素は、マイクロコンピューターの回路とプログラムとによって提供される。
【0026】
監視制御部11の記憶媒体には少なくとも充放電履歴マップが格納され、さらに充放電履歴マップに過去の充電実績及び放電実績が書き込まれて充放電履歴として活用される。所定期間分の充放電履歴は、継続的に更新されることにより、充放電履歴マップに記憶された充放電サイクルの学習データとなる。充放電サイクルの学習データは、充電制御の際に所定のプログラムにより解析されて、充電方式の判定に活用される。
【0027】
監視制御部11は、電池モジュール13が適切に使用されるように電池セル14、走行装置2、及び充電装置12を制御する。監視制御部11は、温度検出部16、電圧検出部17、電流検出部18等によって検出される電池セル14の状態に応じて上記制御を実行するように構成される。さらに監視制御部11は、電池の認証制御、少なくとも過去の充放電実績に基づく学習データを用いた解析による急速充電または通常充電を実施する充電制御、電池の劣化度合いを評価するための電池の劣化指標を外部のサーバー20に送信する機能等を実行する。
【0028】
通常充電とは、単位時間当たりの充電電流を急速充電時よりも小さくして充電する充電方法のことであり、急速充電よりも長い充電時間を要する。通常充電は、例えば10時間程度要して電池セル14を満充電にする充電方式であり、急速充電は、例えば30分から2時間程度を要して満充電にする充電方式である。また、12V/10Ahの蓄電容量を備えた二次電池の場合、放電状態から1Aの電流で充電したときは満充電までに10時間要する通常充電に相当し、放電状態から10Aの電流で充電したときは満充電までに1時間要する急速充電に相当する。
【0029】
したがって、急速充電の方が、通常充電よりも充電電流が大きいため、電池セル14に与える負荷が大きく、二次電池の重要な性能指標のひとつである再充電による再生使用回数を悪化させ、電池の劣化を促進することになる。また、急速充電の方が社会の電力インフラに対しても負荷が大きく、電池の長寿命化や電力ピークの軽減のために、急速充電の回数を減らすことができると有用である。
【0030】
このように電池パック10は、マイクロコンピューター、各種のセンサ類を有したインテリジェント電池パックである。電池パック10はマイクロコンピューターの時計・カレンダー機能と合わせた充放電サイクルのパターンを学習できる機能を有している。
【0031】
電池モジュール13は、交換可能であり、電池セル14と記憶装置15とからなる。電池セル14は、電池としての基本構成部分である。電池セル14は、例えばリチウムイオン電池等の二次電池である。また、電池セル14と記憶装置15は、電池モジュール13を破壊せずには分離できないように構成されている。記憶装置15は、電池モジュール13を認証するための情報を記憶している。この情報には、電池モジュール13の識別情報(ID)と、管理情報とを含むことができる。識別情報は、その電池モジュール13が正規電池であることを示すコード、及びその電池モジュール13が正規の流通経路に供給されたことを示すコードを含むことができる。管理情報は、その電池モジュール13を正規に使用するための情報である。管理情報には、電池モジュール13の保障期間、上限充電回数、充電条件、放電条件等が含まれている。記憶装置15は、電池に関連するセキュリティ情報を記憶している。
【0032】
正規電池は、例えば、車両1の製造または販売に関わる者によって指定された電池を意味することがある。また、正規電池は、車両1の製造者と、電池セル14の製造者との両方によって、その車両1への使用に適したものとして指定された電池を意味することがある。また、正規電池は、車両1の製造者及び電池セル14の製造者の少なくとも一方によって指定された電池を意味することがある。正規電池には、例えば、公的な組織によって指定された準純正電池、または製造者または製造者等を構成員に含む組織によって指定された準純正電池を包含することができる。つまり、正規電池は、単に純正である旨の表示によって特定されるものではない。電池が正規であるとは、純正電池を意味する場合、機能的に有効な電池を意味する場合、正規入手した電池を意味する場合等がある。正規電池は、車両1または外部のサーバー20においてコンピューターによって認証することができる。
【0033】
(本発明特有の充電制御)
本実施形態に記載する特徴的な充電制御は、充電運転を実施する際に、過去の充電実績及び放電実績に基づく充放電履歴マップに記憶された充放電サイクルの学習データを解析し、急速充電の実施が必要か否かを判定する急速充電要否判定を実行し、電池に対する充電運転を制御するものである。これにより、不必要な急速充電を低減し、電池の劣化の抑制、電力インフラの負荷低減を図ることができるのである。
【0034】
以下に、停車中に充電スタンド30等から電力を充電するときの処理について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、電池パック10が充電時に実施する制御の手順を示すフローチャートである。図3は、電池パック10が充放電履歴マップに記憶されている1週間の充放電サイクルの学習データを示す図である。
【0035】
図2に示す各ステップは、監視制御部11によって実行される。本フローチャートは、停車中の車両1の電池セル14に充電することが可能な状態であるときにスタートする。例えば、充電スタンド30のプラグが車両1の受電口であるコンセントに正規に接続された状態になったときにスタートする。次にステップ10で、記憶媒体に記憶された充放電履歴の読み込みを実行する。読み込まれる充放電履歴は、例えば図3に示すように1週間分の曜日、時刻と電池残容量に関する充放電サイクルに係る学習データである。
【0036】
ステップ20では、読み込まれた充放電サイクルの学習データを解析する。この解析のステップでは、充放電サイクルの学習データの解析により、少なくとも次回の放電までの時間(猶予時間)を求める。次にステップ30では、ステップ20で求めた猶予時間内で充電すべき必要な電力を充電できる充電方式を決定するために、急速充電が必要か否かを判定する。
【0037】
例えば、猶予時間が3時間に求まれば、通常充電を行った場合には必要な電力を充電できないため、急速充電を実施することに決定する。また例えば、猶予時間が10時間に求まったときに、必要な電力が急速充電の場合1時間で充電可能であり、通常充電の場合8時間で充電可能であるならば、電池に対する負荷の小さい通常充電を実施することに決定する。つまり、ステップ30では、必要な電力が充電できる充電方式が、通常充電及び急速充電である場合は通常充電の実施に決定し、急速充電のみである場合には急速充電に決定する。
【0038】
ステップ30で急速充電が必要であると判定すると、ステップ33で充電スタンド30のデータ通信装置に対して急速充電を実施するための指令信号を送信し、今回の充電方式として適切な急速充電を実施する。さらにステップ40で、今回の急速充電に関する諸データを充放電履歴マップに書き込み、充放電履歴を更新する。
【0039】
ステップ30で急速充電が不要であると判定すると、次にステップ31でユーザー等から急速充電指令があるか否かを判定する。この急速充電指令は、例えば、充電スタンド30、車両1の操作パネル等をユーザーが操作することにより、ユーザーの意向に応じた急速充電の要求を示す信号である。ステップ31で急速充電指令があると判定したときは、ユーザーの意向を優先して、ステップ33で充電スタンド30のデータ通信装置に対して急速充電を実施するための指令信号を送信し、今回の充電方式として適切な急速充電を実施する。さらにステップ40で、今回の急速充電に関する諸データを充放電履歴マップに書き込み、充放電履歴を更新する。
【0040】
ステップ31で急速充電指令がないと判定したときは、ステップ32で今回の充電方式として適切な通常充電を実施する。さらにステップ40で、今回の通常充電に関する諸データを充放電履歴マップに書き込み、充放電履歴を更新する。
【0041】
ステップ40の充放電履歴を更新する処理の実施後は、ステップ50で、電池の劣化度合いを評価するための重要な指標である電池の劣化評価指標を演算する。電池の劣化評価指標は、例えば、図4の図表に示す指標であり、満充電時電圧、放電後電圧、通常充電回数、急速充電回数、完全放電回数である。電池の劣化評価指標の一つである通常充電回数、急速充電回数、完全充電回数は、電池の使用が開始されてからの通算の回数である。また、監視制御部11の記憶媒体やサーバー20に過去の劣化評価指標が記憶されている場合には、監視制御部11は、新たな期間における劣化評価指標を演算するようにしてもよい。
【0042】
次にステップ60で、電池パック10は、通信部4によって外部のサーバー20に対して電池の管理情報を送信する。電池の管理情報は、少なくとも、ステップ50で求められた劣化評価情報、電池モジュール13または電池セル14固有のID管理情報(識別情報)である。
【0043】
そして、外部のサーバー20では、電池パック10から送信された電池の管理情報をデータ通信装置で受信し、記憶装置に記憶済みのデータを更新する。サーバー20の演算処理装置は、記憶装置に更新された電池の管理情報を用いて、電池の寿命予測、故障予測に係る解析を実施する。電池の寿命予測、故障予測の解析は、平均的性能の電池との性能劣化度合いを比較、分析することにより実施することができる。
【0044】
例えば、ID管理情報に基づく電池個々の再生使用可能回数が通常充電のみで1000回であり、急速充電のみで800回である場合、通常充電を1回行ったという指標が送信された場合、再生使用可能回数から1を減算する。また、急速充電を1回行ったという指標が送信された場合、再生使用可能回数から1÷0.8=1.25回を減算する。ここで、通算の通常充電回数が300回で急速充電回数が500回である場合には、サーバー20の演算処理装置は、500回の急速充電回数を500×1.25=625回の通常運転に換算し、残りの再生使用可能回数、つまり残寿命サイクル回数を、1000−(300+625)=75回と予測する。
【0045】
サーバー20は、この解析結果を随時、または寿命もしくは故障通知の必要があると判定した場合に、電池パック10やメーカー21に送信し、監視制御部11は現在の電池の状況を取得することができ(ステップ70)、本充電制御は終了する。ユーザーまたはメーカー21は、当該解析結果の受信により、必要がある場合には電池交換等のメンテナンス措置をとることができ、安全かつ安心な製品の使用を確保できる。
【0046】
なお、本充電制御のフローにおいて、ステップ70は必ずしも実施しなくてもよい。この場合でも、電池に関して何らかの不具合があり、メンテナンスが必要な場合は、メーカー21からユーザーに対して通知があるため、不具合解消の措置が実行されるからである。また、サーバー20が実施した電池の寿命予測、故障予測の解析結果は、メーカー21側において随時、閲覧及び利用可能に構成してもよい。
【0047】
本実施形態の電池パック10がもたらす作用効果を説明する。電池パック10は、車両の走行に使用される電力を充電または放電する電池モジュール13と、電池モジュール13に対する充電運転を制御する監視制御部11と、を備える。監視制御部11は、過去の充電実績及び放電実績を充放電履歴マップに記憶するとともに、充電要求がある場合に、充放電履歴マップに記憶された充放電サイクルの学習データを解析して急速充電の実施が必要か否かを判定する急速充電要否判定を実行する。監視制御部11は、急速充電判定において肯定的に判定された場合には、急速充電を実施し、急速充電判定において否定的に判定された場合には、単位時間当たりの充電電流を急速充電時よりも小さくして充電する通常充電を実施する。
【0048】
車両の走行に用いられる電池は、大容量で比較的頻繁な充放電を反復する使用が予想される。車両用の電池は、その車両を使用するユーザーの生活サイクル等に密接に関連した用途に使用されることが考えられ、この点に着目すると、所定期間、例えば1週間、2週間、隔週、1ヶ月という単位での反復性の高い充放電サイクルのパターンが想定できる。
【0049】
そこで、本実施形態の電池パック10によれば、ユーザーの特有の充放電サイクルのパターンを学習したデータを解析するため、放電後に行われる充電の際に、次回の充電までに確保できる猶予時間(充電可能時間)を予測することができる。この充電可能時間を使用した通常充電が可能であれば、急速充電をあえて実施する必要はなくなり、急速充電の代わりに、電池への負荷が小さく時間を要する通常充電を行うことで、急速充電の回数を低減することができる。したがって、不必要な急速充電の機会を減らすことができるので、電池寿命の向上が図れ、充電コストの低減や電力インフラの負荷軽減(例えば、充電電力のピークカット)にも貢献する電池パック10を提供できる。
【0050】
また、監視制御部11は、電池の劣化度合いを評価するための電池の劣化評価指標を電池に対して何らかの責任を負うべき責任組織、例えば電池、車両等の製造業者に送信する。この制御によれば、マイクロコンピューター等の制御装置を搭載した、いわゆるインテリジェント電池パックから電池の劣化評価指標が上記の責任組織に送信されることにより、責任組織において電池の寿命分析や故障予知分析を実施することが可能になり、的確なメンテナンスが実現できる。さらに責任組織による高精度な寿命予測、故障予測の実現が図れ、ユーザーにとって安心、安全な製品を提供できる。
【0051】
また、監視制御部11は、急速充電判定において否定的に判定された場合でも、ユーザー操作に伴う急速充電要求を取得したときには急速充電を実施する。この制御によれば、充放電履歴に基づいて急速充電が必要であるとの判定をした場合でも、ユーザーの意向を反映した急速充電を実施可能である。したがって、ユーザーが急速充電を必要とする状況にあるときにはユーザーの意向を優先した急速充電を実施でき、さらにユーザーの要求がない場合、例えば、自動充電モード等のお任せモードでは、急速充電の回数を低減して電池寿命の向上を優先的に実施する電池パック10を提供できる。
【0052】
(第2実施形態)
第2実施形態では、第1実施形態で説明した充電制御の他の形態として、第2実施形態に記載する特徴的な充電制御を図5及び図6を参照して説明する。図5は、第2実施形態において電池パック10が充電時に実施する制御の手順を示すフローチャートである。図6は、車両運行管理サーバーが管理する車両使用予約状況を示した図表である。なお、第2実施形態のフローチャートを実施する電池パック10は、第1実施形態で説明した電池パック10と同様の構成であり、その作用効果も同様である。
【0053】
本実施形態に記載する特徴的な充電制御は、第1実施形態に記載の充電制御に加え、記憶されている充放電履歴では想定不可能な予定外の使用がある場合に対処できる有用な充電制御を実施するものである。
【0054】
図5に示す各ステップは監視制御部11によって実行される。本フローチャートは、第1実施形態同様に、停車中の車両1の電池セル14に充電することが可能な状態であるときにスタートする。次にステップ100で、車両運行管理サーバーで管理される車両の使用予約状況を取得する。取得される車両使用予約状況は、例えば図6に示すように、本フローチャートを実行する時刻以降の所定時間(例えば24時間)における時刻単位の使用予約スケジュールである。
【0055】
この使用予約スケジュールは、電池パック10が搭載される車両を複数のユーザーで使用する場合に作成、管理されるデータである。例えば、1台の自動車を不特定多数の人がインターネット、携帯端末等を介して使用予約をするシェアカーの場合、あるいは、1台の自動車を家族、知人等の特定の集団が共有利用し予約を入れた人が優先して車両を使用する場合であり、いずれの場合でも、車両の使用を予約して使用を望む時間帯に空きがあれば、先着順で予約を確定していき、確定した予約権を持っている人のみが当該時間帯に車両を使用できるルールにのっとってユーザーの使用が行われるものである。
【0056】
次に、ステップ110では、読み込まれた使用予約スケジュールに今後予定外の使用予約が入っているか否かを判定する。例えば、図6に示す例では、本日火曜日の17時〜19時までは「Aさん」の慣例的な予約が確認でき、明日水曜日の6時〜8時までは「Aさん」の慣例的な予約が確認できる。さらに、本日の21時〜23時までは、「Bさん」の予定外の予約が確認できる。
【0057】
ステップ110で予定外の使用予約があると判定すると、ステップ111で次回使用予定までの猶予時間と現在の電池の残容量を取得する。そして、ステップ112で、第1実施形態のステップ30と同様に急速充電が必要か否かを判定する。ステップ112で急速充電が必要でないと判定すると、第1実施形態のステップ32と同様に通常充電を実施し(ステップ113)、ステップ160に進み、第1実施形態のステップ40と同様に、今回の通常充電に関する諸データを充放電履歴マップに書き込み、充放電履歴を更新する。また、ステップ112で急速充電が必要であると判定すると、第1実施形態のステップ33と同様に急速充電を実施し(ステップ113)、ステップ160に進み、第1実施形態のステップ40と同様に、今回の急速充電に関する諸データを充放電履歴マップに書き込み、充放電履歴を更新する。
【0058】
つまり、図6に示す使用予約スケジュールの例にしたがうと、19時前に「Aさん」が車両使用を終了して返却した後、充電要求があり、監視制御部11は、使用予約スケジュールに基づいて21時からの「Bさん」の予定外の使用予約を検出する(ステップ110)。監視制御部11は、当初の翌朝6時からの「Aさん」の使用に対応する場合ならば、十分な時間があるため必要な電力を通常充電で充電することが可能である(ステップ111,112,113)。しかしながら、充電サイクルの学習データからは検出できない21時の「Bさん」の予定外の使用に対応するためには必要な電力を通常充電によっては蓄電することができないと判定し、急速充電を実施する(ステップ111,112,114)。さらに、23時前に「Bさん」が車両使用を終了して返却した後、監視制御部11は、当初の翌朝6時からの「Aさん」の使用に対応するためには、必要な電力を通常充電によっては蓄電することができないと判定し、急速充電を実施する(ステップ111,112,114)。
【0059】
一方、ステップ110で予定外の使用予約がないと判定すると、ステップ120で、第1実施形態のステップ10と同様に、記憶媒体に記憶された充放電履歴の読み込みを実行する。次にステップ130で、充放電サイクルの学習データの解析により、充放電履歴から得られる次回使用予定までの猶予時間と現在の電池の残容量を取得する。例えば、充放電サイクルマップにおいて、充電状態100%〜90%へ落ちるポイントを次回の使用予定と判断することができる。そして、ステップ140で、第1実施形態のステップ30と同様に急速充電が必要か否かを判定する。
【0060】
ステップ140で急速充電が必要であると判定すると、ステップ114と同様に急速充電を実施し(ステップ141)、ステップ160で今回の急速充電に関する諸データを充放電履歴マップに書き込み、充放電履歴を更新する。また、ステップ140で急速充電が必要でないと判定すると、ステップ113と同様に通常充電を実施し(ステップ150)、ステップ160で今回の通常充電に関する諸データを充放電履歴マップに書き込み、充放電履歴を更新する。
【0061】
次にステップ170では、第1実施形態のステップ50と同様に例えば図4に示すような充電監視用データ(電池の管理情報の一つ)を取得する。そして、ステップ180では、電池パック10は、第1実施形態のステップ60と同様に、通信部4によって外部のサーバー20に対して電池の管理情報を送信する。
【0062】
さらにサーバー20は、電池の管理情報に基づく異常予兆のための解析を実施し、寿命、故障等に関する異常予兆の通知の必要があると判定した場合に、電池パック10やメーカー21に送信し、監視制御部11は現在の電池の状況を取得することができ(ステップ190)、本充電制御は終了する。ユーザーまたはメーカー21は、当該解析結果の受信により、必要がある場合には電池交換等のメンテナンス措置をとることができ、安全かつ安心な製品の使用を確保できる。
【0063】
なお、本充電制御のフローにおいて、ステップ190は必ずしも実施しなくてもよい。この場合でも、電池に関して何らかの不具合があり、メンテナンスが必要な場合は、メーカー21からユーザーに対して通知があるため、異常状態解消の措置が実行されるからである。また、サーバー20が実施した電池の異常予兆に関する解析結果は、メーカー21側において随時、閲覧及び利用可能に構成してもよい。
【0064】
また、図6に示される「Bさん」の毎週火曜日21時からの利用が慣例化した場合には、車両管理サーバーの使用予約スケジュールが更新されることによって、「Bさん」の毎週火曜日21時からの利用は、予定外でない予約として認識されるようになる。
【0065】
また、図6に示される「Bさん」の毎週火曜日21時からの利用が慣例化した場合には、電池パック10の使用状況変化等の情報をサーバー20に入力することにより、電池寿命の再計算分析が可能になる。さらに必要に応じて、ユーザーに対し、電池寿命等の短縮日数を通知、または警告することが可能になる。
【0066】
本実施形態の電池パック10がもたらす作用効果を説明する。監視制御部11は、少なくとも今後の車両運行に関する使用予約データを管理する車両運行管理サーバーと通信し、充放電サイクルの学習データと車両運行管理サーバーから取得した使用予約データとを用いて解析を行い、急速充電の実施が必要か否かを判定する(ステップ112)。
【0067】
この制御によれば、電池パック10は、外部の車両運行管理サーバーとの通信によって今後の使用予約データを取得して充放電サイクルの学習データと合わせた解析により急速充電の要否を判定する。これにより、次回使用予定として予定外の車両使用が入った場合等、充放電サイクルの学習データの解析による判定では対応できない急速充電の需要に対して、適切な対応が可能になる。
【0068】
監視制御部11は、外部の車両運行管理サーバーで管理される使用予約データに基づく次回の使用予定までの時間と電池に残っている蓄電残量とを用いた解析を行う(ステップ111)。この解析により、急速充電の実施が必要か否かを判定する。
【0069】
この制御によれば、必要な電力を次回使用予定までの時間内に電池に蓄電することができれば通常通電を実施するように判定し、必要な電力を当該時間内に蓄えることができない場合は急速充電を実施するように判定することができる。したがって、次回使用予定が充放電履歴等から予測し得る場合、次回使用予定が予測できない突発的な予定である場合のいずれであっても、余分な急速充電を防止し、必要な場合のみに急速充電を実施することができる。
【0070】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0071】
上記実施形態における充放電履歴マップは、予め何のデータも記憶されなく、電池パック10に対して最初に充電を行うときに始めて記憶され、その後の充放電の都度更新される形態でもよいし、予め標準的なマップがデフォルトデータとして記憶されており、このマップを充放電毎に更新する形態であってもよい。
【0072】
上記実施形態における充電スタンド30は、外部との通信機能を有する構成であるが、本発明に係る車両用電池パックは、インテリジェント電池パックであるため、通信機能を有さない充電スタンドから電力を充電しても、電池パック自身の機能により、充電に関する諸データを記憶することができる。
【0073】
上記実施形態では、本発明に係る車両用電池パックは、電力供給側または車両側に充電プラグを備えるプラグインの充電形態を有する車両に限定されず、例えば、充電器の充電用コイルによって、車両との間で非接触の状態で充電を可能とする非接触充電方式の車両にも適用可能である。このような非接触式の充電器を備える車両の場合には、上記の充電可能な状態とは、車両側の受電部と充電コイル側の送電部とが送電可能位置に配置されるように、車両が停止した状態になることである。
【0074】
本発明の車両用電池パックは、上記実施形態に記載する車両の他、電池に充電された電力を使用して走行する車両に広く適用できる。例えば、内燃機関と電動機を備えるハイブリッド方式の車両の場合には、内燃機関の駆動により発生するエネルギーから変換した電力を電池に充電し、電池に充電された電力を使用して電動機の駆動力によって走行する車両にも適用できる。
【0075】
上記実施形態では、記憶装置15は、各電池モジュール13に搭載されているが、電池パック10全体に関する管理情報を記憶する記憶装置を備えるようにしてもよい。この記憶装置には、電池パック10全体としての保障期間、充電条件、放電条件等の管理情報が記憶されている。
【0076】
上記実施形態において各電池モジュール13は、電池セル14を単数含む場合だけでなく、複数含むように構成することができる。また、上記実施形態においてメーカー21は、電池セル14等の製造者としているが、電池パック10や車両1の製造業者であってもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…車両
10…電池パック(車両用電池パック)
11…監視制御部(制御装置)
13…電池モジュール
14…電池セル(電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行に使用される電力を充電または放電する電池と、
過去の充電実績及び放電実績を充放電履歴マップに記憶するとともに、充電要求がある場合に、前記充放電履歴マップに記憶された充放電サイクルの学習データを解析して急速充電の実施が必要か否かを判定する急速充電要否判定を実行し、前記電池に対する充電運転を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記急速充電判定において肯定的に判定された場合には、前記急速充電を実施し、前記急速充電判定において否定的に判定された場合には、単位時間当たりの充電電流を前記急速充電時よりも小さくして充電する通常充電を実施することを特徴とする車両用電池パック。
【請求項2】
前記制御装置は、少なくとも今後の車両運行に関する使用予約データを管理する車両運行管理サーバーと通信し、前記充放電サイクルの学習データと前記車両運行管理サーバーから取得した前記使用予約データとを用いて解析を行い、急速充電の実施が必要か否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用電池パック。
【請求項3】
前記制御装置は、前記使用予約データに基づく次回の使用予定までの時間と電池に残っている蓄電残量とを用いた解析により、急速充電の実施が必要か否かを判定することを特徴とする請求項2に記載の車両用電池パック。
【請求項4】
前記制御装置は、前記電池の劣化度合いを評価するための電池の劣化評価指標を前記電池に対して何らかの責任を負うべき責任組織に送信することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両用電池パック。
【請求項5】
前記制御装置は、前記急速充電判定において否定的に判定された場合でも、ユーザーの操作に伴う急速充電要求を取得したときには前記急速充電を実施することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両用電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−90480(P2012−90480A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236741(P2010−236741)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】