説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】トルクコンバータに備えられたロックアップクラッチの係合制御により変速応答性の向上及び変速ショックの低減を実現する車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】コースト走行中に自動変速機16における係合要素の掴み替えによるダウンシフトが行われる際、開放側係合要素の開放と同期してロックアップクラッチ26を係合させ、そのロックアップクラッチ26が係合された状態においてエンジン12の回転速度NEを電子スロットル弁22によって一時的に上昇させるブリッピング制御を行うものであることから、ロックアップクラッチ26の係合後にブリッピング制御を行うことでエンジン回転速度NEの制御性のばらつきを抑制することができ、トルクコンバータ14の入力回転速度の高精度の制御が可能とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータにロックアップクラッチを備えた車両用駆動装置の制御装置に関し、特に、変速応答性の向上及び変速ショックの低減を実現するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと自動変速機との間に設けられたトルクコンバータと、係合によりそのトルクコンバータにおける入力回転部材と出力回転部材とを直結するロックアップクラッチとを、備えた車両用駆動装置が知られている。また、斯かる車両用駆動装置における前記自動変速機のダウンシフトに際して、前記ロックアップクラッチの係合状態を制御することで変速応答性を向上させる技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された駆動装置の制御装置がそれである。この技術によれば、前記自動変速機のダウンシフト時に前記ロックアップクラッチを係合させると共に、モータジェネレータの動力により前記エンジン回転速度を上昇させることで、ダウンシフトの応答性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−179677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記車両用駆動装置において、電気的指令に基づいて前記エンジンの出力回転速度を制御する電子スロットル弁を備えたものが知られている。また、コースト走行中に前記自動変速機におけるダウンシフトが行われる際、前記エンジンの出力回転速度を前記電子スロットル弁によって一時的に上昇させるブリッピング制御が知られている。本発明者は、前記自動変速機のダウンシフトに際して、斯かるブリッピング制御と前記従来の技術によるロックアップクラッチの係合制御とを併用することを考えた場合、そのロックアップクラッチの係合状態の相違に起因して制御性がばらつくおそれがあるという不具合を新たに見出した。斯かる知見に基づいて、トルクコンバータに備えられたロックアップクラッチの係合制御により変速応答性の向上及び変速ショックの低減を実現する車両用駆動装置の制御装置を発明するに至った。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、トルクコンバータに備えられたロックアップクラッチの係合制御により変速応答性の向上及び変速ショックの低減を実現する車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、エンジンと、複数の係合要素の係合乃至開放の組み合わせにより複数の変速段を選択的に成立させる自動変速機と、前記エンジンとその自動変速機との間に設けられたトルクコンバータと、係合によりそのトルクコンバータにおける入力回転部材と出力回転部材とを直結するロックアップクラッチと、電気的指令に基づいて前記エンジンの出力回転速度を制御する電子スロットル弁とを、備えた車両用駆動装置の制御装置であって、コースト走行中に前記自動変速機における前記係合要素の掴み替えによるダウンシフトが行われる際、開放側係合要素の開放と同期して前記ロックアップクラッチを係合させ、そのロックアップクラッチが係合された状態において前記エンジンの出力回転速度を前記電子スロットル弁によって一時的に上昇させるブリッピング制御を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、コースト走行中に前記自動変速機における前記係合要素の掴み替えによるダウンシフトが行われる際、開放側係合要素の開放と同期して前記ロックアップクラッチを係合させ、そのロックアップクラッチが係合された状態において前記エンジンの出力回転速度を前記電子スロットル弁によって一時的に上昇させるブリッピング制御を行うものであることから、前記ロックアップクラッチの係合後にブリッピング制御を行うことでエンジン回転速度の制御性のばらつきを抑制することができ、前記ロックアップクラッチの入力回転速度の高精度の制御が可能とされる。すなわち、トルクコンバータに備えられたロックアップクラッチの係合制御により変速応答性の向上及び変速ショックの低減を実現する車両用駆動装置の制御装置を提供することができる。
【0008】
ここで、前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記ブリッピング制御が行われた後、前記ダウンシフトにおける係合側係合要素の係合が行われる前に前記ロックアップクラッチをスリップ係合状態に移行させるものである。このようにすれば、前記ダウンシフトにおける係合側係合要素の係合時におけるショックを抑制でき、そのダウンシフトにおける変速ショックを更に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が好適に適用される車両用駆動装置及びその制御系統を説明する図である。
【図2】図1の車両用駆動装置に備えられたトルクコンバータ及び自動変速機の構成を説明する骨子図である。
【図3】図2の自動変速機において選択的に成立される複数の変速段と複数の油圧式摩擦係合装置の作動状態との関係をまとめた係合作動表である。
【図4】図1の車両用駆動装置における電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図1の車両用駆動装置における電子制御装置の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートである。
【図6】図1の車両用駆動装置における電子制御装置によるコーストダウンシフト制御の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明が好適に適用される車両用駆動装置10(以下、単に駆動装置10という)及びその制御系統を説明する図である。この図1に示す駆動装置10は、走行用の駆動源であるエンジン12と、トルクコンバータ14と、自動変速機16とを、直列に備えて構成されており、上記エンジン12と図示しない一対の駆動輪との間に設けられて、そのエンジン12から出力される動力を駆動装置の他の一部を構成する差動歯車装置等を順次介して上記一対の駆動輪へ伝達する動力伝達装置である。
【0012】
上記エンジン12は、例えば、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン或いはディーゼルエンジン等の内燃機関である。斯かるエンジン12の吸気配管18には、後述する電子制御装置50からの電気信号(電気的指令)に基づいて作動するスロットルアクチュエータ20によって開閉作動させられることにより、上記エンジン12の吸入空気量を調節してそのエンジン12の出力回転速度すなわちエンジン回転速度NEを変化させることができる電子スロットル弁22を備えている。この電子スロットル弁22の開度すなわちスロットル開度θTHが大きいほどエンジン出力(出力回転速度)が大きくなる。基本的には、予め定められた関係から図示しないアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCに基づいて、そのアクセル開度ACCが大きいほど上記スロットル開度θTHが大きくなるように制御される。また、本実施例の駆動装置10においては、後述するブリッピング制御のように、アクセル操作によらず電子制御装置50から出力される電気信号に基づいてスロットル開度θTHが変更される制御も実行される。
【0013】
前記トルクコンバータ14は、流体を介して動力伝達を行う流体式動力伝達装置である。また、前記自動変速機16は、予め定められた複数の変速段(本実施例では6段)の何れかが選択的に成立させられる有段式変速機である。図2は、前記トルクコンバータ14及び自動変速機16の構成を説明する骨子図である。なお、前記トルクコンバータ14及び自動変速機16は、軸心Cに対して略対称的に構成されており、図2においてはその軸心Cの下半分が省略されている。
【0014】
図2に示すように、前記トルクコンバータ14は、前記エンジン12と自動変速機16との間の動力伝達経路に設けられている。このトルクコンバータ14は、前記エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車(入力回転部材)14pと、タービン軸24を介して前記自動変速機16に連結されたタービン翼車(出力回転部材)14tと、一方向クラッチによって一方向の回転が阻止されているステータ翼車14sとを備えており、上記ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間で流体を介して動力伝達を行うものである。そして、上記ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間には、それらの間すなわち前記トルクコンバータ14の入出力部材間を直結することができるロックアップクラッチ26が設けられている。そして、上記ポンプ翼車14pには、前記自動変速機16を変速制御したり、上記ロックアップクラッチ26の作動を制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりする為の元圧となる油圧を発生させて図1に示す油圧制御回路28へ供給するために、そのポンプ翼車14pによって回転駆動される機械式のオイルポンプ30が連結されている。
【0015】
上記ロックアップクラッチ26は、上記油圧制御回路28から供給される油圧によって係合側油室32内の油圧と解放側油室34内の油圧との差圧が制御されることにより、フロントカバー36に摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチである。前記トルクコンバータ14の運転状態としては、例えば、上記差圧が負とされて上記ロックアップクラッチ26が開放される所謂ロックアップ開放状態(非係合状態)、上記差圧が零以上とされて上記ロックアップクラッチ26が滑りを伴って半係合される所謂ロックアップスリップ状態(半係合状態)、及び上記差圧が最大値とされて上記ロックアップクラッチ26が完全係合される所謂ロックアップ状態(係合状態)の3状態に大別される。例えば、上記ロックアップクラッチ26が完全係合させられることにより、上記ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tが一体回転させられて前記エンジン12の動力が前記自動変速機16側へ直接伝達される。また、所定のスリップ状態で係合するように上記差圧が制御されて、例えばスリップ量NS(エンジン回転速度NEとタービン回転速度NTとの差の絶対値)がフィードバック制御されることにより、車両のパワーオン走行時には所定のスリップ量NSで上記タービン軸24が前記クランク軸に対して追従回転させられる一方、車両のパワーオフ時には所定のスリップ量NSで前記エンジン12のクランク軸が上記タービン軸24に対して追従回転させられる。上記スリップ量NSの目標値すなわち目標スリップ量NSは、例えば50〜100[rpm]程度に予め設定されている。
【0016】
前記自動変速機16は、好適には、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両において横置きに搭載されて用いられるものであり、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース38内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置40と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置42及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置44から成るラビニヨ型遊星歯車装置46とを共通の軸心C上に備えており、上記各遊星歯車装置を介してタービン軸24の回転を変速して出力歯車48から出力する。上記タービン軸24は、前記自動変速機16の入力部材に相当するものである。また、上記出力歯車48は、前記自動変速機16の出力部材に相当するものであり、その自動変速機16の後段側に設けられる図示しない差動歯車装置に動力を伝達するためにその差動歯車装置のデフドリブンギヤと噛み合うデフドライブギヤとして機能する。
【0017】
また、前記自動変速機16は、その各回転要素(サンギヤS1乃至S3、キャリヤCA1乃至CA3、リングギヤR1乃至R3)同士の係合状態、又は各回転要素と上記トランスミッションケース38との係合状態に応じて、第1変速段「1st」乃至第6変速段「6th」の6つの前進変速段、及び1つの後進変速段「Rev」の何れかを選択的に成立させるための複数の係合要素として、図2に示すようにクラッチC1、C2、及びブレーキB1乃至B3を備えている。これらクラッチ及びブレーキは、例えば、何れも多板式のクラッチやブレーキ等、油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、前記油圧制御回路28に備えられた電磁制御弁の励磁状態が制御されることにより、その係合状態が切り換えられると共に係合及び開放時の過度油圧等が制御されるものである。
【0018】
図3は、前記自動変速機16において選択的に成立される前記複数の変速段と前記クラッチ及びブレーキの作動状態との関係をまとめた係合作動表である。この図3に示すように、前記自動変速機16においては、クラッチC1及びブレーキB2の係合により第1変速段「1st」が成立させられる。また、クラッチC1及びブレーキB1の係合により第2変速段「2nd」が成立させられる。また、クラッチC1及びブレーキB3の係合により第3変速段「3rd」が成立させられる。また、クラッチC1及びクラッチC2の係合により第4変速段「4th」が成立させられる。また、クラッチC2及びブレーキB3の係合により第5変速段「5th」が成立させられる。また、クラッチC2及びブレーキB1の係合により第6変速段「6th」が成立させられる。また、ブレーキB2及びブレーキB3の係合により後進変速段「Rev」が成立させられる。また、すべての係合要素が開放されることによりニュートラル「N」が成立させられる。
【0019】
また、前記自動変速機16においては、前記係合要素の掴み替えによる所謂クラッチ・ツウ・クラッチ変速が行われる。例えば、第4変速段「4th」から第3変速段「3rd」へのダウンシフト(変速比が小さい変速段から大きい変速段への変速)においては、クラッチC1の係合が維持されると共に、クラッチC2からブレーキB3への掴み替えすなわち開放側係合要素(変速前に開放される係合要素)であるクラッチC2の開放制御及び係合側係合要素(変速後に係合される係合要素)であるブレーキB3の係合制御が順次行われる。また、図3に示すように、前記自動変速機16における前進変速段では、すべてのダウンシフトにおいて前記係合要素の掴み替えによる所謂クラッチ・ツウ・クラッチ変速が行われる。
【0020】
図1に戻って、前記駆動装置10は、前記エンジン12の出力制御、前記自動変速機16の変速制御、及び前記ロックアップクラッチ26の係合制御等の各種制御を行うための電子制御装置50を備えている。この電子制御装置50は、本発明における車両用駆動装置の制御装置に相当し、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記各種制御を実行するように構成されている。
【0021】
図1に示すように、上記電子制御装置50には、車両の各部に設けられてその車両の状態を示す各種センサからの信号が入力されるようになっている。例えば、スロットル開度センサ52により検出された前記電子スロットル弁22のスロットル開度θTHを表す信号、アクセル開度センサ54により検出された図示しないアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、エンジン回転速度センサ56により検出された前記エンジン12のエンジン回転速度NEを表す信号、タービン回転速度センサ58により検出された前記タービン翼車14tのタービン回転速度NTを表す信号、車速センサ60により検出された車速Vを表す信号、及びレバーポジションセンサ62により検出されたシフトレバー64の操作位置PSHを表す信号等が、それぞれ供給される。
【0022】
また、前記電子制御装置50からは、前記駆動装置10に備えられた各種装置の作動を制御するための信号が出力されるようになっている。例えば、前記エンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号SEとして、前記電子スロットル弁22の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ20を駆動するスロットル信号、図示しない燃料噴射装置から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号、及び図示しない点火装置による前記エンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号等が出力される。また、前記自動変速機16の変速制御のための変速制御指令信号STMとして、前記油圧制御回路28内に前記複数の係合要素それぞれ対応して備えられた図示しない各種電磁弁を駆動するための信号等が出力される。また、前記ロックアップクラッチ26の係合制御のためのロックアップクラッチ係合制御信号SLUとして、前記油圧制御回路28内に備えられたロックアップ制御用リニアソレノイド弁SLUを駆動するための信号等が出力される。
【0023】
前記シフトレバー64は、例えば運転席の近傍に配設され、図1に示すように、5つの操作位置「P」、「R」、「N」、「D」、又は「S」へ手動操作されるようになっている。上記操作位置「P」は、メカニカルパーキング機構によって機械的に前記自動変速機16の出力歯車48の回転を阻止する為の駐車ポジションである。また、操作位置「R」は、前記自動変速機16において後進変速段「Rev」を成立させるための後進走行ポジションである。また、上記操作位置「N」は、前記自動変速機12内の動力伝達を遮断するニュートラル状態を成立させるための中立ポジションである。また、上記操作位置「D」は、予め定められた関係から車両の走行状態に基づいて前記自動変速機12の変速段を第1変速段「1st」乃至第6変速段「6th」の何れか1に切り換えるための自動変速制御が実行される自動変速モードを選択する前進走行ポジションである。また、上記操作位置「S」は、前記シフトレバー64が操作位置「+」及び「−」へ操作される毎に前記自動変速機12の変速段を高速側及び低速側に1段ずつ切り換えるための手動変速制御が実行される手動変速モードを選択する前進走行ポジションである。
【0024】
図4は、前記電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図4に示す変速制御手段68な、予め記憶された関係から車両の走行状態(運転状態)に基づいて前記自動変速機16の自動変速制御を行う。例えば、予め定められた自動変速マップから、前記アクセル開度センサ52により検出されるアクセル開度ACC(或いはスロットル弁開度θTH)及び前記車速センサ60により検出される車速Vに基づいて、前記自動変速機16において成立させられるべき変速段を判定し、その判定された変速段が成立するように前記自動変速機16に備えられた前記複数の係合要素それぞれの係合状態を制御する。具体的には、前記変速制御指令信号STMとして、前記油圧制御回路28内に前記複数の係合要素それぞれ対応して備えられた図示しない各種電磁弁を駆動するための電気信号(電気的指令)を出力する。
【0025】
上記変速制御を実現するために、上記変速制御手段68は、開放側係合要素制御手段70、係合側係合要素制御手段72、及び変速進行度判定手段74を含んでいる。この開放側係合要素制御手段70は、上記変速制御手段68による変速制御に際して、その変速において(変速前に)開放される開放側係合要素を開放させる制御を行う。例えば、前記クラッチ・ツウ・クラッチ変速において、開放されるべき係合要素を開放させるための電気信号を前記油圧油圧制御回路28内に備えられた対応する電磁弁に対して出力する。この開放側係合要素の開放は、好適には、上記変速制御手段68による変速判定と略同時に開始される。また、上記係合側係合要素制御手段72は、上記変速制御手段68による変速制御に際して、その変速において(変速後に)係合される係合側係合要素を係合させる制御を行う。例えば、前記クラッチ・ツウ・クラッチ変速において、係合されるべき係合要素を係合させるための電気信号を前記油圧油圧制御回路28内に備えられた対応する電磁弁に対して出力する。この係合側係合要素の係合は、好適には、前記開放側係合要素の開放がある程度進行した段階において(或いは、完全に開放された後に)行われる。例えば、上記変速制御手段68による変速判定から予め定められた所定時間後に、前記係合側係合要素の係合制御が開始される。
【0026】
また、変速進行度判定手段74は、前記変速制御手段68による変速制御の進行度が予め定められた閾値を超えたか否かを判定する。例えば、前記変速制御手段68によるクラッチ・ツウ・クラッチ変速における開放側係合要素の開放状態が規定段階に達したか否か、すなわちその開放側係合要素の係合圧が予め定められた閾値未満となったか否かを判定する。また、前記変速制御手段68によるクラッチ・ツウ・クラッチ変速における係合側係合要素の係合状態が規定段階に達したか否か、すなわちその係合側係合要素の係合圧が予め定められた閾値以上となったか否かを判定する。これらの判定は、前記開放側係合要素及び係合側係合要素にそれぞれ対応して備えられた油圧センサの検出結果に基づいて行われるものであってもよいが、予め実験的に変速開始から前記開放側係合要素の開放完了までの時間及び前記係合側係合要素の係合完了までの時間を計測して記憶しておくと共に、前記変速制御手段68による変速制御の開始からの経過時間を計測し、その経過時間が予め定められた閾値以上となったか否かを判定するものであってもよい。また、前記エンジン回転速度センサ56により検出されるエンジン回転速度NE及び前記タービン回転速度センサ58により検出されるタービン回転速度NT等の変化に基づいて変速進行度の判定を行うものであってもよい。例えば、前記変速制御手段68によるダウンシフトにおいては、前記エンジン回転速度NE乃至タービン回転速度NTが予め定められた閾値以上であるか否かを判定することで、その変速進行度を判定することができる。
【0027】
ロックアップ制御手段76は、予め記憶された関係から車両の走行状態(運転状態)に基づいて前記ロックアップクラッチ26の係合制御を行う。例えば、前記電子制御装置50に備えられた記憶装置には、スロットル弁開度θTH又はアクセル開度ACC及び車速Vに基づいて、前記ロックアップクラッチ26を開放させるトルコン領域、そのロックアップクラッチ26を半係合(スリップ係合)させるロックアップスリップ領域、及びそのロックアップクラッチ26を係合(完全係合)させるロックアップ領域がそれぞれ定められたロックアップクラッチ係合マップが予め記憶されており、上記ロックアップ制御手段76は、斯かるロックアップクラッチ係合マップから前記スロットル開度センサ52により検出されるスロットル弁開度θTH、前記アクセル開度センサ54により検出されるアクセル開度ACC、及び前記車速センサ60により検出される車速V等に基づいて、前記ロックアップクラッチ26を開放させる開放制御、半係合させるロックアップスリップ制御、及び完全係合させるロックアップ制御の何れかを実行するかを判定し、その判定された制御を行うために前記油圧制御回路28のロックアップ制御用リニアソレノイド弁SLUに対して電気信号を出力する。
【0028】
ブリッピング制御手段78は、前記変速制御手段68による変速制御に際して、予め定められた条件が成立する場合に、変速時間短縮等を目的として前記エンジン12の回転速度NEを前記電子スロットル弁22によって一時的に上昇させるブリッピング制御を実行する。例えば、前記変速制御手段68によりコーストダウンシフト(パワーオフダウンシフト)すなわち前記アクセル開度センサ54により検出されるアクセル開度ACCが零(アクセルオフ)である場合におけるダウンシフトが行われる場合において、予め実験的に求められた関係から、前記トルクコンバータ14の出力回転速度と入力回転速度との差すなわちタービン回転速度NTとエンジン回転速度NEとの差の絶対値である入出力回転速度差△Nに基づいて、そのエンジン回転速度NEを一時的に上昇させるブリッピング要求があるか否かを判定する。具体的には、入出力回転速度差△Nが予め定められた所定の入出力回転速度差△N1以上である場合に、ブリッピング要求があると判定する。
【0029】
上記判定においてブリッピング要求があると判定された場合に、上記ブリッピング制御手段78は、前記変速制御手段68により実行されるコーストダウンシフトに際して、エンジン回転速度NEを前記電子スロットル弁22によって一時的に上昇させるブリッピング制御を行う。具体的には、前記変速制御手段68におけるコーストダウンシフト中に前記自動変速機16がニュートラル状態とされたと判定されてから所定時間の間、スロットル開度θTHを予め定められた規定値だけ増加させる。この規定値及び所定時間は、例えば、上記コーストダウンシフト中に入出力回転速度差△Nが予め定められた所定値Aよりも小さくなるように予め実験的に求められて記憶されている。なお、上記所定値Aは、ロックアップ制御又はロックアップスリップ制御を実行しても、例えば、前記ロックアップクラッチ26のトルク容量不足によりエンジン回転速度NEを引き上げることが困難である、エンジン回転速度NEの引き上げに伴って大きなショックが発生する、或いは前記ロックアップクラッチ26の発熱量が許容値を超える等の問題が発生しない値として、予め実験的に求められた値である。
【0030】
本実施例において、前記ロックアップ制御手段76は、前記変速制御手段68により前記自動変速機16における前記係合要素の掴み替えによるコーストダウンシフト(クラッチ・ツウ・クラッチ変速)が行われる際、開放側係合要素の開放と同期して前記ロックアップクラッチ26を係合させる制御を行う。すなわち、図5に示すように、時点t1においてコースト走行中における第4速段「4th」から第3速段「3rd」へのダウンシフトが判定(要求)された場合であって、その時点t1において前記ロックアップクラッチ26の係合状態がロックアップ開放状態乃至ロックアップスリップ状態である場合、前記ロックアップクラッチ26の係合を開始してロックアップ状態(完全係合状態)を成立させる前記ロックアップ制御を実行する。好適には、図5に示すように、変速における開放側係合要素(第4速段「4th」から第3速段「3rd」へのダウンシフトにおいてはクラッチC2)の開放が判定された時点、すなわち前記変速進行度判定手段74により開放側係合要素の開放状態が規定段階に達したと判定された時点t2において、前記ロックアップクラッチ26を完全係合させる前記ロックアップ制御を実行する。換言すれば、前記係合要素の掴み替えによるコーストダウンシフトにおいて開放側係合要素が開放されてニュートラル状態が成立した段階で前記ロックアップクラッチ26を係合させてロックアップ状態へ移行することで、そのロックアップクラッチ26の係合時(ロックアップ移行時)のショックを低減することができる。
【0031】
また、前記ブリッピング制御手段78は、前記変速制御手段68により前記自動変速機16における前記係合要素の掴み替えによるコーストダウンシフトが行われる際、前記ロックアップクラッチ26が係合された状態において前記ブリッピング制御を実行する。すなわち、前記変速進行度判定手段74により前記コーストダウンシフトにおける開放側係合要素の開放状態が規定段階に達したと判定され、前記ロックアップ制御手段76により前記ロックアップクラッチ26を完全係合させるロックアップ制御が実行された後、前記スロットルアクチュエータ20を介して前記電子スロットル弁22のスロットル開度θTHを所定時間予め定められた規定値だけ増加させるブリッピング制御を実行する。図5に示す例では、時点t2において前記ロックアップクラッチ26を係合させるロックアップ制御が実行された後、更に所定時間経過後にブリッピング制御の要求(出力)が行われている。また、このブリッピング制御に応じて前記エンジン回転速度NE及びタービン回転速度NTが上昇させられており、入出力回転速度差△Nが小さくなるため、パワーオン状態と同様に前記ロックアップクラッチ26の係合が可能とされる。
【0032】
また、前記ロックアップ制御手段76は、前記変速制御手段68により前記自動変速機16における前記係合要素の掴み替えによるコーストダウンシフトが行われる際、前記ブリッピング制御手段78によるブリッピング制御が行われた後、そのコーストダウンシフトにおける係合側係合要素(第4速段「4th」から第3速段「3rd」へのダウンシフトにおいてはブレーキB3)の係合が行われる前に前記ロックアップクラッチ26をスリップ係合状態(半係合状態)に移行させる。例えば、前記変速進行度判定手段74により前記エンジン回転速度NE乃至タービン回転速度NTが予め定められた閾値以上となったことが判定された段階、或いは変速開始から予め定められた規定時間が経過した段階で、前記ロックアップクラッチ26をスリップ係合させる前記ロックアップスリップ制御を開始する。図5に示す例では、時点t3においてコーストダウンシフトの変速進行度が予め定められた閾値を超えたことが判定され、それをもって前記ロックアップスリップ制御が開始されている。この時点t3は、係合側クラッチ圧すなわち係合側係合要素の係合圧は上昇を開始しているが、未だ係合(完全係合)させられていない段階に相当する。また、上記ブリッピング制御後のロックアップスリップ制御における前記ロックアップクラッチ26のスリップ量NSすなわちそのスリップ量NSを実現するための係合圧(差圧)は、そのブリッピング制御開始後に減少する、前記トルクコンバータ14の出力回転速度と入力回転速度との差すなわち入出力回転速度差△Nに基づいて定められる。
【0033】
図6は、前記電子制御装置50によるコーストダウンシフト制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0034】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、予め定められた自動変速マップからアクセル開度ACC(或いはスロットル弁開度θTH)及び車速Vに基づいて前記自動変速機16におけるコーストダウン変速が判定されたか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、タービン回転速度NTとエンジン回転速度NEとの差の絶対値である入出力回転速度差△Nに基づいてブリッピング制御要求があるか否か、すなわちブリッピング制御併用のコーストダウンシフトであるか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S2の判断が肯定される場合には、S3において、コーストダウンシフトにおける開放側係合要素の開放が開始されたか否かが判断される。このS3の判断が否定される場合には、S3の判断が繰り返されることにより待機させられるが、S3の判断が肯定される場合には、S4において、前記ロックアップクラッチ26を係合(完全係合)させるロックアップ制御が実行される。次に、S5において、前記スロットルアクチュエータ20を介して前記電子スロットル弁22のスロットル開度θTHを所定時間予め定められた規定値だけ増加させるブリッピング制御が実行される。次に、S6において、コーストダウンシフトの変速進行度が予め定められた閾値を超えたか否か、例えばエンジン回転速度NE乃至タービン回転速度NTが予め定められた閾値以上となったか否かが判断される。このS6の判断が否定される場合には、S6の判断が繰り返されることにより待機させられるが、S6の判断が肯定される場合には、S7において、前記ロックアップクラッチ26をスリップ係合(半係合)させるロックアップスリップ制御が開始された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S1、S3、及びS6が前記変速制御手段68の動作に、S4及びS7が前記ロックアップ制御手段76の動作に、S5が前記ブリッピング制御手段78の動作に、それぞれ対応する。
【0035】
このように、本実施例によれば、コースト走行中に前記自動変速機16における前記係合要素の掴み替えによるダウンシフトが行われる際、開放側係合要素の開放と同期して前記ロックアップクラッチ26を係合させ、そのロックアップクラッチ26が係合された状態において前記エンジン12の回転速度NEを前記電子スロットル弁22によって一時的に上昇させるブリッピング制御を行うものであることから、前記ロックアップクラッチ26の係合後にブリッピング制御を行うことでエンジン回転速度NEの制御性のばらつきを抑制することができ、前記ロックアップクラッチ26の入力回転速度の高精度の制御が可能とされる。すなわち、トルクコンバータ14に備えられたロックアップクラッチ26の係合制御により変速応答性の向上及び変速ショックの低減を実現する車両用駆動装置10の制御装置を提供することができる。
【0036】
本実施例の制御に比して、従来の制御では、減速中に何らかの要因により前記ロックアップクラッチ26が開放(ロックアップオフ状態)とされた場合、アクセルオンからアクセルオフへの切り替えが行われるまでロックアップ制御を再開することができなかった。アクセルオフにより運転者が減速度を要求しているにもかかわらず、ロックアップ制御が行われない場合には、十分な減速度を出すことができず、ドライバビリティが低下するおそれがあった。また、減速中にロックアップ制御が行われない場合、前記トルクコンバータ14の入力回転速度よりタービン回転速度NTの方が大きくなるため、再加速時にタービン回転速度NTよりも前記トルクコンバータ14の入力回転速度の方が大きくなるまで十分な加速度を出すことができず、ドライバビリティが低下するおそれがあった。斯かる点について、本実施例によれば、コーストダウンシフトにおける開放側係合要素の開放と同期して前記ロックアップクラッチ26を係合させ、そのロックアップクラッチ26が係合された状態において前記ブリッピング制御を行うことで、上記不具合を解消して変速応答性の向上及び変速ショックの低減を実現することができる。
【0037】
また、前記ブリッピング制御が行われた後、前記ダウンシフトにおける係合側係合要素の係合が行われる前に前記ロックアップクラッチ26をスリップ係合状態に移行させるものであるため、前記ダウンシフトにおける係合側係合要素の係合時(変速同期時)におけるショックを抑制でき、そのダウンシフトにおける変速ショックを更に低減することができる。
【0038】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0039】
10:車両用駆動装置、12:エンジン、14:トルクコンバータ、14p:ポンプ翼車(入力回転部材)、14t:タービン翼車(出力回転部材)、16:自動変速機、22:電子スロットル弁、26:ロックアップクラッチ、50:電子制御装置、C1、C2:クラッチ(係合要素)、B1〜B3:ブレーキ(係合要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、複数の係合要素の係合乃至開放の組み合わせにより複数の変速段を選択的に成立させる自動変速機と、前記エンジンと該自動変速機との間に設けられたトルクコンバータと、係合により該トルクコンバータにおける入力回転部材と出力回転部材とを直結するロックアップクラッチと、電気的指令に基づいて前記エンジンの出力回転速度を制御する電子スロットル弁とを、備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
コースト走行中に前記自動変速機における前記係合要素の掴み替えによるダウンシフトが行われる際、開放側係合要素の開放と同期して前記ロックアップクラッチを係合させ、該ロックアップクラッチが係合された状態において前記エンジンの出力回転速度を前記電子スロットル弁によって一時的に上昇させるブリッピング制御を行うことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記ブリッピング制御が行われた後、前記ダウンシフトにおける係合側係合要素の係合が行われる前に前記ロックアップクラッチをスリップ係合状態に移行させるものである請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−218670(P2012−218670A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89134(P2011−89134)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】