車両用駆動装置の制御装置
【課題】無段変速機および有段変速機を共に変速する場合でもそれ等の変速が何れも適切に行われるようにする。
【解決手段】無段変速機16を構成している差動機構24の2つの回転要素RE1、RE3の回転速度、すなわちエンジン回転速度NeおよびMG2回転速度NMG2を制御量として、それ等の最終目標値Nem、NMG2mに向かうように変速中の過渡目標値Net、NMG2tが逐次設定され、エンジン回転速度Ne、MG2回転速度NMG2が過渡目標値Net、NMG2tに近付くように第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルクTMG1、TMG2がフィードバック制御される。変速過渡時のエンジントルクTeの変化や有段変速機20の摩擦係合装置の係合トルクの変化、両変速機16、20の変速の相互干渉などは外乱としてフィードバック制御に反映され、両変速機16、20の変速が何れも適切に行われるようになる。
【解決手段】無段変速機16を構成している差動機構24の2つの回転要素RE1、RE3の回転速度、すなわちエンジン回転速度NeおよびMG2回転速度NMG2を制御量として、それ等の最終目標値Nem、NMG2mに向かうように変速中の過渡目標値Net、NMG2tが逐次設定され、エンジン回転速度Ne、MG2回転速度NMG2が過渡目標値Net、NMG2tに近付くように第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルクTMG1、TMG2がフィードバック制御される。変速過渡時のエンジントルクTeの変化や有段変速機20の摩擦係合装置の係合トルクの変化、両変速機16、20の変速の相互干渉などは外乱としてフィードバック制御に反映され、両変速機16、20の変速が何れも適切に行われるようになる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的な無段変速機と機械式の有段変速機とを有する車両用駆動装置に係り、特に、それ等の無段変速機および有段変速機が共に変速される際の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) エンジンに連結された第1回転要素と第1回転機に連結された第2回転要素と伝達部材に連結された第3回転要素とを有する差動機構と、その伝達部材に連結された第2回転機と、を備えている電気的な無段変速機と、(b) 前記伝達部材と駆動輪との間の動力伝達経路に配設され、複数の摩擦係合装置の係合解放状態に応じて変速比が異なる複数のギヤ段が成立させられる機械式の有段変速機と、を有する車両用駆動装置が提案されている。特許文献1に記載の装置はその一例で、無段変速機または有段変速機による有段変速に際して、上記差動機構の回転要素やエンジンの回転速度が変速後の同期回転速度と一致するように、第1回転機および第2回転機を用いて同期制御するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−344850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えばアクセルペダルが踏込み操作されてエンジンの回転速度を増大させるとともに有段変速機をダウンシフトするパワーONダウンシフト時など、無段変速機および有段変速機を共に変速する場合、従来のように変速後の回転速度となるように同期制御するだけでは、変速過渡時のエンジントルクの変化や有段変速機の摩擦係合装置の係合トルクの変化、或いは両変速機の変速の相互干渉などで制御が不安定になり、エンジン回転速度が吹き上がったり、有段変速機の変速の急な進行に起因する摩擦係合装置の急係合や一方向クラッチの衝突などで変速ショックが発生したり、逆に変速の進行が遅れたりすることがあった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、無段変速機および有段変速機を共に変速する場合でもそれ等の変速が何れも適切に行われるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、本発明は、(a) エンジンに連結された第1回転要素と第1回転機に連結された第2回転要素と伝達部材に連結された第3回転要素とを有する差動機構と、その伝達部材に連結された第2回転機と、を備えている電気的な無段変速機と、(b) 前記伝達部材と駆動輪との間の動力伝達経路に配設され、複数の摩擦係合装置の係合解放状態に応じて変速比が異なる複数のギヤ段が成立させられる機械式の有段変速機と、を有する車両用駆動装置の制御装置において、(c) 前記無段変速機および前記有段変速機が共に変速される際に、前記第1回転機、前記第2回転機、および前記エンジンが連結された前記差動機構の3つの回転要素の中の少なくとも2つの回転要素の回転速度を制御量として、各々の変速後の最終目標値を設定する最終目標値設定手段と、(d) その最終目標値設定手段により設定された前記最終目標値に向かうように、予め定められた補間処理に従って変速中の過渡目標値を設定する過渡目標値設定手段と、(e) 前記複数の制御量がそれぞれ前記過渡目標値設定手段によって設定された前記過渡目標値に近付くように、前記第1回転機および前記第2回転機のトルクをフィードバック制御するフィードバック制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このような車両用駆動装置の制御装置によれば、差動機構の少なくとも2つの回転要素の回転速度を制御量として、最終目標値設定手段により設定された最終目標値に向かうように変速中の過渡目標値が設定され、複数の制御量がそれぞれその過渡目標値に近付くように第1回転機および第2回転機のトルクがフィードバック制御されるため、変速過渡時のエンジントルクの変化や摩擦係合装置の係合トルクの変化、両変速機の変速の相互干渉などは外乱としてフィードバック制御に反映される。これにより、両変速機の変速が何れも適切に行われるようになり、エンジン回転速度の吹き上がりや有段変速機の摩擦係合装置の急係合等による変速ショックの発生が抑制される。
【0008】
ここで、差動機構の3つの回転要素の回転速度は一定の関係を有するため、2つの回転要素の回転速度を制御量として制御すれば、残りの回転要素の回転速度も一義的に定まり、無段変速機の変速状態が規定される。また、差動機構の第3回転要素は伝達部材を介して機械式の有段変速機に連結されており、その第3回転要素の回転速度が制御されることにより、有段変速機の変速進行状態が車速に応じて規定される。したがって、差動機構の3つの回転要素の中の少なくとも2つの回転要素の回転速度を制御量として制御すれば、無段変速機および有段変速機の変速状態を何れも規定することができ、それ等の変速の進行をコントロールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が好適に適用される車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置に設けられた有段変速機の複数のギヤ段とそれを成立させる油圧式摩擦係合装置との関係を説明する図である。
【図3】図1の車両用駆動装置に設けられた無段変速機および有段変速機の共線図である。
【図4】図1の車両用駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】図1の車両用駆動装置に設けられたシフトレバーのシフトパターンの一例を示す図である。
【図6】図1の車両用駆動装置に設けられた有段変速機のクラッチC1〜C3、およびブレーキB1、B2の係合解放を制御する油圧制御回路の要部を示す回路図である。
【図7】図1の車両用駆動装置を搭載している車両の概略構成図で、図4の電子制御装置が備えている制御機能を併せて示した図である。
【図8】図1の車両用駆動装置が備えている有段変速機の変速線図、およびエンジンおよびモータジェネレータの駆動力源切換線図の、各々の一例を説明する図である。
【図9】図1のエンジンの最適燃費率曲線を説明する図である。
【図10】図7の変速コントロール手段を具体的に説明する機能ブロック線図である。
【図11】図10の変速コントロール手段による信号処理を具体的に説明するフローチャートである。
【図12】パワーONの3→2ダウシンフト時における無段変速機および有段変速機の各部の回転速度変化を説明する共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
無段変速機の差動機構としては、シングルピニオン型或いはダブルピニオン型の遊星歯車装置が好適に用いられる。この遊星歯車装置はサンギヤ、キャリア、およびリングギヤの3つの回転要素を備えているが、それ等の回転速度を1本の直線で結ぶことができる共線図において、例えば中間に位置する回転要素にエンジンが連結され、両端の回転要素に第1回転機、第2回転機が連結されるが、中間の回転要素に第2回転機すなわち伝達部材を連結するようにしても良い。この3つの回転要素は、常に相対回転可能であっても良いが、任意の2つをクラッチにより一体的に連結できるようにして、運転状態に応じて一体回転させるようにしたり、第2回転要素をブレーキにより回転停止できるようにしたりすることも可能である。必要に応じて、それ等の回転要素とエンジン、第1回転機、第2回転機との間にクラッチ等の断続手段を設けることもできる。
【0011】
第1回転機および第2回転機は回転電気機械のことで、具体的には電動モータ、発電機、或いはその両方の機能を択一的に用いることができるモータジェネレータである。第1回転機として発電機を採用し、第2回転機として電動モータを採用することもできるが、種々の運転状態を想定した場合、第1回転機、第2回転機の何れもモータジェネレータを用いることが望ましい。
【0012】
有段変速機としては、遊星歯車式や平行軸式の変速機が広く用いられており、運転状態に応じて自動的に或いは運転者の変速指令に従って変速判断が行われ、油圧制御回路が電気的に切り換えるなどして摩擦係合装置が係合、解放されることによりギヤ段が切り換えられる。
【0013】
無段変速機および有段変速機が共に変速される際に、第1回転機および第2回転機をフィードバック制御する時の制御量としては、差動機構の3つの回転要素の中の少なくとも2つの回転要素の回転速度が用いられれば良く、例えばエンジンが連結された第1回転要素と、第1回転機が連結された第2回転要素および第2回転機が連結された第3回転要素の何れか一方、の回転速度が制御量として用いられる。第1回転機が連結された第2回転要素および第2回転機が連結された第3回転要素の回転速度を制御量として用いることもできるし、3つの回転要素の回転速度を総て制御量として用いることも可能である。
【0014】
最終目標値設定手段によって設定される最終目標値は、変速判断時の車速や加速度、変速の種類、アクセル操作量等により、変速中の車速変化を考慮して設定される。過渡目標値設定手段によって設定される過渡目標値は、現在値と最終目標値とを直線補間或いはアクセル操作量等に応じて定められる所定の変化パターンによる補間処理等に従って算出されるとともに、例えば制御サイクルタイムに応じて逐次設定される。この過渡目標値は、できるだけ細かく設定することが望ましいが、変速開始時の現在値と最終目標値との間に少なくとも1つ設定されれば良い。これ等の最終目標値および過渡目標値は、複数の制御量毎にそれぞれ設定される。
【0015】
フィードバック制御手段は、単一の制御ロジックにより複数の制御量がそれぞれ過渡目標値設定手段によって設定された過渡目標値に近付くように、それ等の偏差に基づいて、予め定められたフィードバック制御式に従って第1回転機および第2回転機のトルクをそれぞれ算出し、そのトルク指令値に従ってそれ等の第1回転機および第2回転機を制御する。このフィードバック制御手段は、最後は最終目標値に対して各制御量が近付くように、第1回転機および第2回転機のトルクをフィードバック制御する。
【0016】
上記過渡目標値を用いたフィードバック制御は、アクセルペダルが踏込み操作されてエンジンの回転速度を増大させるとともに有段変速機をダウンシフトするパワーONダウンシフト時、またはアクセルペダルが戻し操作されてエンジンの回転速度を低下させるとともに有段変速機をアップシフトするパワーOFFアップシフト時に好適に採用される。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10を示す骨子図である。図1において、車両用駆動装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接的に連結された電気式の無段変速機16と、その無段変速機16から駆動輪34(図7参照)への動力伝達経路に伝達部材18を介して直列に連結されている機械式の有段変速機20と、この有段変速機20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この車両用駆動装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図7参照)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。エンジン8は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速機16に直結されている。
【0018】
無段変速機16は、エンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路に配設されており、第1モータジェネレータMG1と、入力軸14に伝達されたエンジン8の出力を第1モータジェネレータMG1および伝達部材18に機械的に分配する差動機構24と、出力軸として機能する伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2モータジェネレータMG2と、を備えている。第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2は、何れも電動モータおよび発電機として択一的に用いることができるもので、第1モータジェネレータMG1は第1回転機に相当し、第2モータジェネレータMG2は第2回転機に相当する。
【0019】
上記差動機構24は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、差動サンギヤS0、遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動キャリヤCA0、遊星歯車P0を介してサンギヤS0と噛み合う差動リングギヤR0を、相対回転可能な3つの回転要素として備えている。差動キャリヤCA0は入力軸14を介してエンジン8に連結されている第1回転要素RE1で、差動サンギヤS0は第1モータジェネレータMG1に連結されてている第2回転要素RE2で、差動リングギヤR0は伝達部材18に連結されている第3回転要素RE3である。これ等の差動サンギヤS0、差動キャリヤCA0、差動リングギヤR0は互いに相対回転可能で、エンジン8の出力が第1モータジェネレータMG1と伝達部材18に分配され、第1モータジェネレータMG1が回生制御(発電制御ともいう)されることによって得られた電気エネルギーで第2モータジェネレータMG2が回転駆動され、或いは蓄電装置56(図7参照)が充電される。第1モータジェネレータMG1の回生制御や力行制御で、その第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1すなわち差動サンギヤS0の回転速度を制御することにより、差動機構24の差動状態を適宜変更することが可能で、入力軸14の回転速度NINと出力軸として機能する伝達部材18の回転速度N18との変速比γ0(=NIN/N18)が連続的に変化させられる。入力軸14の回転速度NINはエンジン8の回転速度(エンジン回転速度)Neと同じで、伝達部材18の回転速度N18は第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2と同じである。
【0020】
有段変速機20は、エンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部を構成しており、何れもシングルピニオン型の第1遊星歯車装置26および第2遊星歯車装置28を有する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えている。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えている。そして、第2サンギヤS2にて構成される第4回転要素RE4は、第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結される。第1リングギヤR1および第2キャリヤCA2は、互いに一体的に連結されて第5回転要素RE5を構成しており、出力軸22に一体的に連結されている。第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2は、互いに一体的に連結されて第6回転要素RE6を構成しており、第2クラッチC2を介して伝達部材18に連結されるとともに、第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結される。この第6回転要素RE6(CA1、R2)はまた、一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結されてエンジン8と同方向の回転が許容される一方、逆方向の回転が禁止されている。第1サンギヤS1にて構成されている第7回転要素RE7は、第3クラッチC3を介して伝達部材18に連結されるとともに、第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結される。
【0021】
そして、このような有段変速機20は、油圧式摩擦係合装置である上記クラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)が選択的に係合させられることにより、変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT )が異なる複数のギヤ段が成立させられる。図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1の係合および一方向クラッチF1により変速比γが最も大きい第1速ギヤ段(1st)が成立させられ、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により第1速ギヤ段よりも変速比γが小さい第2速ギヤ段(2nd)が成立させられ、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により変速比γ=1の第3速ギヤ段(3rd)が成立させられ、第2クラッチC2および第1ブレーキB1の係合により変速比γが1より小さい第4速ギヤ段(4th)が成立させられる。また、第3クラッチC3および第2ブレーキB2の係合により後進ギヤ段(Rev)が成立させられ、総てのクラッチC1〜C3、およびブレーキB1、B2の解放によりニュートラル状態(N)とされる。なお、第1速ギヤ段でエンジンブレーキを効かせる場合には、第2ブレーキB2が係合させられる。図2の変速比γの値は一例で、遊星歯車装置26、28のギヤ比(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に応じて定められる。
【0022】
以上のように構成された車両用駆動装置10においては、有段変速機20が何れかのギヤ段Mに保持されている状態で、その有段変速機20の入力回転速度である伝達部材18の回転速度N18が、無段変速機16によって無段的に変化させられることにより、そのギヤ段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。このような車両用駆動装置10の全体変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT )は、無段変速機16の変速比γ0と有段変速機20の変速比γとを掛け算した値となり、無段階に変化させられる。また、無段変速機16の変速比γ0が一定(例えばγ0=1)に維持されるように第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1等を制御すれば、有段変速機20の変速に伴って全体変速比γTは有段で変化させられ、全体として有段変速機と同様な変速フィーリングが得られる。
【0023】
図3は、無段変速機16および有段変速機20に関し、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図である。この図3の共線図において、横線X1は回転速度0を示し、横線X2は回転速度が1.0すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Neを示し、X3は無段変速機16から有段変速機20に入力される第3回転要素RE3の回転速度を示している。また、無段変速機16の3本の縦線Y1〜Y3の中、左端の縦線Y1は、第2回転要素RE2に対応する差動サンギヤS0の相対回転速度を示すもので、中間の縦線Y2は第1回転要素RE1に対応する差動キャリヤCA0の相対回転速度を示すもので、右端の縦線Y3は第3回転要素RE3に対応する差動リングギヤR0の相対回転速度を示すものである。これらの縦線Y1〜Y3の間隔は、差動機構24のギヤ比に応じて定められる。
【0024】
図3において、有段変速機20の4本の縦線Y4〜Y7の中、左端の縦線Y4は、第4回転要素RE4に対応する第2サンギヤS2の相対回転速度を示すもので、左から2番目の縦線Y5は第5回転要素RE5に対応する第1リングギヤR1および第2キャリヤCA2の相対回転速度を示すもので、左から3番目の縦線Y6は第6回転要素RE6に対応する第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2の相対回転速度を示すもので、右端の縦線Y7は第7回転要素RE7に対応する第1サンギヤS1の相対回転速度を示すものである。これ等の縦線Y4〜Y7の間隔は、第1、第2遊星歯車装置26、28のギヤ比に応じて定められる。
【0025】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の車両用駆動装置10の無段変速機16は、差動機構24の第1回転要素RE1(差動キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2(差動サンギヤS0)が第1モータジェネレータMG1に連結され、第3回転要素RE3(差動リングギヤR0)が伝達部材18および第2モータジェネレータMG2に連結されることにより、入力軸14の回転を所定の変速比γ0で変速して伝達部材18を介して有段変速機20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。そして、1本の直線L0によって無段変速機16の各回転要素RE1〜RE3の相対回転速度が示され、この場合は、MG1回転速度NMG1が略0となるように第1モータジェネレータMG1が回生制御されることにより、変速比γ0は1よりも小さくなり、出力部材である第3回転要素RE3がエンジン回転速度Neに対して増速回転させられる。
【0026】
また、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定に保持される場合に、第1モータジェネレータMG1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動キャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度Neが上昇或いは下降させられる。すなわち、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1を制御することによってエンジン回転速度Ne、すなわち変速比γ0を適当に調整することができる。例えば、差動機構24が略一体的に回転するように、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1を差動リングギヤR0の回転速度(伝達部材18の回転速度N18)と一致するように制御すれば、直線L0は横線X2と一致させられて無段変速機16の変速比γ0=1になり、エンジン回転速度Neと差動リングギヤR0すなわち伝達部材18の回転速度N18とが同じになる。
【0027】
また、有段変速機20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結される。そして、例えば図3に示すように無段変速機16の差動サンギヤS0の回転速度が略零となるように第1モータジェネレータMG1が制御され、無段変速機16が直線L0で示す変速状態に保持される場合について、有段変速機20の複数のギヤ段を具体的に説明すると、第1クラッチC1および第2ブレーキB2(或いは一方向クラッチF1)が係合させられる第1速ギヤ段では、有段変速機20は斜めの直線L1で示す変速状態となり、その直線L1と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点「1st」により、第1速ギヤ段における出力軸22の回転速度が示される。第1クラッチC1および第1ブレーキB1が係合させられる第2速ギヤ段では、有段変速機20は斜めの直線L2で示す変速状態となり、その直線L2と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点「2nd」により、第2速ギヤ段における出力軸22の回転速度が示される。第1クラッチC1および第2クラッチC2が係合させられる第3速ギヤ段では、有段変速機20は水平な直線L3で示す変速状態となり、その直線L3と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点「3rd」により、第3速ギヤ段における出力軸22の回転速度が示される。第2クラッチC2および第1ブレーキB1が係合させられる第4速ギヤ段では、有段変速機20は斜めの直線L4で示す変速状態となり、その直線L4と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点「4th」により、第4速ギヤ段における出力軸22の回転速度が示される。また、第3クラッチC3および第2ブレーキB2が係合させられる後進ギヤ段では、有段変速機20は斜めの直線LRで示す変速状態となり、その直線LRと第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点「Rev」により、後進ギヤ段における出力軸22の回転速度が示される。
【0028】
図4は、本実施例の車両用駆動装置10を制御するための制御装置である電子制御装置100に入力される信号、およびその電子制御装置100から出力される信号を例示している。この電子制御装置100は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン8、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2に関するハイブリッド駆動制御や、有段変速機20の変速制御等を実行するものである。
【0029】
電子制御装置100には、図4に示すような各種のセンサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPW を表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン回転速度センサ48によって検出されるエンジン8の回転速度(エンジン回転速度)Neを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、車速センサ46により検出される出力軸22の回転速度NOUT に対応する車速Vを表す信号、有段変速機20の作動油温TOIL を表す信号、ETCスイッチの有無を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行の設定信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、レゾルバ等のMG1回転速度センサ42により検出される第1モータジェネレータMG1の回転速度(MG1回転速度)NMG1を表す信号、レゾルバ等のMG1回転速度センサ44により検出される第2モータジェネレータMG2の回転速度(MG2回転速度)NMG2を表す信号、各モータジェネレータMG1、MG2の間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56の充電残量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。なお、上記回転速度センサ42、44および車速センサ46は、回転速度だけでなく回転方向をも検出できるセンサであり、車両走行中に有段変速機20が中立ポジションである場合には車速センサ46によって車両の進行方向が検出される。
【0030】
また、上記電子制御装置100からは、エンジン8の出力(エンジン出力)PE を制御するエンジン出力制御装置58(図7参照)への制御信号、例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や、燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号などが出力される他、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、モータジェネレータMG1、MG2の力行トルクや回生トルクを指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、全体変速比γTを表示させるための変速比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、有段変速機20の油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図7参照)に含まれる電磁弁(ATソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(ライン圧コントロールソレノイド)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動オイルポンプ85を作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0031】
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。シフトレバー52は、有段変速機20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ有段変速機20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、有段変速機20内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて無段変速機16の無段的な変速比幅と有段変速機20の第1速ギヤ段〜第4速ギヤ段の全変速範囲で得られる車両用駆動装置10の変速可能な全体変速比γTの変速範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて有段変速機20における高速側のギヤ段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。このシフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に従って、図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「Rev」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「1st」〜「4th」が成立するように前記油圧制御回路70が切り換えられる。
【0032】
上記「P」〜「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、図2の係合作動表に示されるようにクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2の総てが解放されることにより、有段変速機20内の動力伝達経路が遮断されて車両を駆動不能とする非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、図2の係合作動表に示されるようにクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2、一方向クラッチF1の何れか2つが係合させられることにより、有段変速機20内の動力伝達経路が接続されて車両を駆動可能とする駆動ポジションである。
【0033】
図6は、クラッチCおよびブレーキBの各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5等に関する回路図であって、油圧制御回路70の要部を示す回路図である。図6において、クラッチC1、C2、およびブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)72、74、78、80には、油圧供給装置82から出力されたDレンジ圧(前進レンジ圧、前進油圧)PDがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL4、SL5により調圧されて供給され、クラッチC3の油圧アクチュエータ76には、油圧供給装置82から出力されたリバース圧(後進レンジ圧、後進油圧)PRがリニアソレノイドバルブSL3により調圧されて供給される。ブレーキB2の油圧アクチュエータ80には、リニアソレノイドバルブSL5の出力油圧およびリバース圧(後進レンジ圧、後進油圧)PRのうち何れか供給された側の油圧がシャトル弁84を介して供給される。
【0034】
油圧供給装置82は、エンジン8によって回転駆動される機械式オイルポンプ83、およびエンジン非作動時に電動モータによって駆動される電動オイルポンプ85を油圧源として備えている。そして、それ等のポンプ83または85から発生させられる油圧を元圧としてライン油圧(第1ライン油圧)PL1を調圧する例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ86(以下プライマリバルブ86と記載)、プライマリバルブ86によるライン油圧PL1の調圧のためにプライマリバルブ86から排出される油圧を元圧としてライン油圧(第2ライン油圧、セカンダリ圧)PL2を調圧するセカンダリレギュレータバルブ88(以下、セカンダリバルブ88と記載)、アクセル操作量Acc或いはスロットル弁開度θTHで表されるエンジン負荷等に応じたライン油圧PL1、PL2に調圧するためにプライマリバルブ86およびセカンダリバルブ88へ信号圧PSLT を供給するリニアソレノイドバルブSLT、ライン油圧PL1を元圧として一定のモジュレータ油圧PMに調圧するモジュレータバルブ90、シフトレバー52の操作に伴って油路が切り換えられることにより入力されたライン油圧PL1をシフトレバー52が「D」ポジション或いは「M」ポジションへ操作されたときにはDレンジ圧PDとして出力し、「R」ポジションへ操作されたときにはリバース圧PRとして出力するマニュアルバルブ92等を備えており、ライン油圧PL1、PL2、モジュレータ油圧PM、Dレンジ圧PD、およびリバース圧PRを供給する。
【0035】
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5、SLTは、基本的には何れも同じ構成であり、電子制御装置100により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータ72、74、76、78、80の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1、C2、C3、ブレーキB1、B2の係合圧が制御される。そして、有段変速機20は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合させられることによって各ギヤ段が成立させられる。また、有段変速機20の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチツークラッチ変速が実行される。例えば、図2の係合作動表に示すように3速→2速のダウンシフトでは、クラッチC2が解放されると共にブレーキB1が係合させられ、変速ショックを抑制するようにクラッチC2の解放過渡油圧とブレーキB1の係合過渡油圧とが適切に制御される。このように、有段変速機20の複数の係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧すなわち係合トルクは、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5によって各々直接的に制御される。
【0036】
図7は、上記車両用駆動装置10を搭載している車両の概略構成図で、図4の電子制御装置100が備えている制御機能を併せて示した図であり、電子制御装置100は機能的に有段変速制御手段120およびハイブリッド制御手段122を備えている。有段変速制御手段120は、図8に示すような車速Vと有段変速機20の出力トルクTOUT とをパラメータとして予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速Vおよび有段変速機20の要求出力トルクTOUT で示される車両状態に基づいて、有段変速機20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち有段変速機20の変速すべきギヤ段を判断し、その判断したギヤ段が得られるように有段変速機20の自動変速制御を実行する。また、シフトレバー52が「M」ポジションへ操作された手動モードでは、シフトレバー52がアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ手動操作されることにより、高速側のギヤ段の変速範囲が異なる複数の変速レンジを切り換える。これにより、下り坂などで強制的にギヤ段を低速側へ切り換えてエンジンブレーキ力を増大させることができる。なお、アクセル操作量Accと有段変速機20の要求出力トルクTOUT (図8の縦軸)とは、アクセル操作量Accが大きくなるほどそれに応じて上記要求出力トルクTOUT も大きくなる対応関係にあることから、図8の変速線図の縦軸はアクセル操作量Accであっても差し支えない。
【0037】
上記有段変速制御手段120は、例えば図2に示す係合作動表に従ってギヤ段が達成されるように、有段変速機20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置(クラッチCおよびブレーキB)を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)、すなわち有段変速機20の変速に関与する解放側係合装置の油圧を所定の油圧制御ロジックに従って低下させて解放するとともに、係合側係合装置の油圧を所定の油圧制御ロジックに従って上昇させて係合させて、クラッチツークラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して有段変速機20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を作動させて、その変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ72〜80を作動させる。
【0038】
ハイブリッド制御手段122は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2モータジェネレータMG2との駆動力の配分や第1モータジェネレータMG1の発電による反力を最適になるように変化させて無段変速機16の変速比γ0を制御する。例えば、その時の走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル操作量Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出するとともに、その車両の目標出力と充電要求値とから必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2モータジェネレータMG2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出する。そして、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるように、エンジン8を制御するとともに第1モータジェネレータMG1の発電量(回生トルク)を制御する。
【0039】
このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Neと、車速Vおよび有段変速機20のギヤ段で定まる伝達部材18の回転速度N18とを整合させるように、無段変速機16の変速比γ0を制御する。すなわち、ハイブリッド制御手段122は、エンジン回転速度Neとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Teとで構成される二次元座標内において、動力性能と燃費とを両立するように予め実験的に求められた図9の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線上にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が位置するようにエンジン8を作動させるとともに、車速Vおよび有段変速機20のギヤ段で定まる伝達部材18の回転速度N18および最適燃費のエンジン回転速度Neに応じて無段変速機16の変速比γ0を求め、その変速比γ0となるように第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1を制御する。
【0040】
このとき、ハイブリッド制御手段122は、第1モータジェネレータMG1により発電された電気エネルギーをインバータ54を通して蓄電装置56や第2モータジェネレータMG2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1モータジェネレータMG1の発電のために消費されてそこで電気エネルギーに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギーが第2モータジェネレータMG2へ供給され、その第2モータジェネレータMG2が駆動されて第2モータジェネレータMG2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギーの発生から第2モータジェネレータMG2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギーに変換し、その電気エネルギーを機械的エネルギーに変換するまでの電気パスが構成される。
【0041】
また、ハイブリッド制御手段122は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、MG1回転速度NMG1および/またはMG2回転速度NMG2を制御してエンジン回転速度Neを略一定に維持したり任意の回転速度に制御したりすることができる。言い換えれば、エンジン回転速度Neを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ、MG1回転速度NMG1および/またはMG2回転速度NMG2を任意の回転速度に制御することができる。また、有段変速機20の変速方向に対して、その変速を打ち消すように無段変速機16を反対方向に変速させることで、有段変速機20の変速前後の全体変速比γTを一定に維持することができる。例えば、図3の共線図からも分かるように、車両走行中にエンジン回転速度Neを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束されるMG2回転速度NMG2を略一定に維持しつつ、MG1回転速度NMG1の引き上げを実行する。また、有段変速機20の変速中にエンジン回転速度Neを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度Neを略一定に維持しつつ有段変速機20の変速に伴うMG2回転速度NMG2の変化とは反対方向にMG1回転速度NMG1を変化させる。
【0042】
また、ハイブリッド制御手段122は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PE を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル操作量Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
【0043】
また、ハイブリッド制御手段122は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、第2モータジェネレータMG2を走行用の駆動力源とするモータ走行をさせることができる。例えば、一般的に高トルク域に比較してエンジン効率が悪いとされる低トルク域、すなわちエンジントルクTeが低い低負荷域、或いは車速Vが比較的低い低車速域において、モータ走行を実行する。すなわち、前記図8に示される実線Aよりも低トルク側、低車速側で、エンジン8を停止して第2モータジェネレータMG2のみを駆動力源として走行するモータ走行を実行する。このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、エンジン回転速度Neが略0になるように、例えば第1モータジェネレータMG1を無負荷状態にして逆回転方向へ空転することを許容する。
【0044】
図8の実線Aよりも高トルク側、高車速側は、エンジン8を走行用の駆動力源として走行するエンジン走行領域であるが、前記電気パスによる第1モータジェネレータMG1からの電気エネルギーおよび/または蓄電装置56からの電気エネルギーを第2モータジェネレータMG2へ供給し、その第2モータジェネレータMG2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。すなわち、エンジン走行には、エンジン8のみを走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8および第2モータジェネレータMG2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。
【0045】
また、アクセルペダルが踏込み操作されていないアクセルOFFの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させるために車両の運動エネルギーすなわち駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により回転駆動される第2モータジェネレータMG2を発電機として作動させ、得られた電気エネルギーをインバータ54から蓄電装置56へ充電する回生制御手段としての機能を有する。この回生制御は、蓄電装置56の充電残量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るための油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。
【0046】
ところで、アクセルペダルが踏込み操作されてエンジン回転速度Neを増大させるとともに有段変速機20をダウンシフトするパワーONダウンシフト時には、無段変速機16および有段変速機20を共に変速することになるが、変速過渡時のエンジントルクTeの変化や有段変速機20の変速の進行、すなわち変速に関与するクラッチC、ブレーキBの係合トルクの変化、或いは両変速機16、20の変速の相互干渉などで無段変速機16の変速制御が不安定になり、エンジン回転速度Neが吹き上がったり、有段変速機20の変速の急な進行に起因するクラッチCやブレーキBの急係合や一方向クラッチF1の衝突などで変速ショックが発生したり、逆に変速の進行が遅れたりする恐れがある。
【0047】
例えば、図12は、白丸「○」で示す第3速ギヤ段の状態からアクセルペダルが踏込み操作されて黒丸「●」で示す第2速ギヤ段の状態へパワーONダウンシフトが行われた場合の共線図で、アクセルペダルの踏込み操作に伴うエンジントルクTeの増大でエンジン回転速度Neすなわち第1回転要素RE1の回転速度が上昇させられ、それに伴って伝達部材18に連結された第3回転要素RE3の回転速度(MG2回転速度NMG2と同じ)も上昇させられる。一方、有段変速機20が3→2ダウンシフトされることにより、伝達部材18に連結された第4回転要素RE4の回転速度が上昇させられる。第3回転要素RE3と第4回転要素RE4は伝達部材18を介して一体的に連結されているため、それ等の回転速度は、有段変速機20のダウンシフトによって上昇させられるとともに、無段変速機16のエンジン回転速度Neの上昇によっても上昇させられる。言い換えれば、有段変速機16のダウンシフトに伴い、エンジン8には伝達部材18を介してエンジン回転速度Neを上昇させる方向のトルクが作用し、これによりエンジン回転速度Neが必要以上に上昇して吹き上がる可能性がある。逆に、エンジントルクTeの増大に伴い、有段変速機16の入力要素である第4回転要素RE4には、伝達部材18を介して回転速度が上昇する方向のトルクが作用し、有段変速機16のダウンシフトが促進されて、第1ブレーキB1の急係合により変速ショックを生じる可能性がある。なお、パワーONの2→1ダウンシフトでは、そのダウンシフトの急な進行により一方向クラッチF1が衝突する可能性もある。
【0048】
これに対し、本実施例のハイブリッド制御手段122は、無段変速機16および有段変速機20を共に変速する場合でもそれ等の変速が何れも適切に行われるように変速をコントロールする変速コントロール手段124を備えている。この変速コントロール手段124は、図10の機能ブロック線図に示すように、最終目標値設定手段130、過渡目標値設定手段132、および多入力多出力制御手段134を備えて構成されており、図11のフローチャートに従って変速処理を実行する。すなわち、エンジン回転速度NeおよびMG2回転速度NMG2を制御量として用いて、単一の制御ロジックにより第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルクTMG1、TMG2をフィードバック制御するのである。この場合、エンジン8は、アクセル操作量Accの変化に応じて電子スロットル弁62等が制御され、エンジントルクTeが制御される一方、有段変速機20の変速に関与する係合側摩擦係合装置および解放側摩擦係合装置の各油圧(係合トルク)は、それぞれ予め定められた油圧制御ロジックに従って制御されるが、上記フィードバック制御では何れも外乱として処理される。図11のステップSA2は最終目標値設定手段130に相当し、ステップSA3は過渡目標値設定手段132に相当し、ステップSA4は多入力多出力制御手段134に相当する。なお、多入力多出力制御手段134はフィードバック制御手段として機能する。
【0049】
図11のフローチャートは、前記有段変速制御手段120により有段変速機20の変速制御が実行される際にステップSA1以下を実行する。ステップSA1では、パワーONダウンシフトか或いはパワーOFFアップシフトかを判断し、その何れかである場合はステップSA2以下を実行するが、パワーONダウンシフトでもパワーOFFアップシフトでもない場合は、そのまま終了する。但し、パワーONダウンシフト、パワーOFFアップシフトに限らず、有段変速機20の総ての変速実行時にステップSA2以下の変速コントロール処理を行うことも可能である。
【0050】
ステップSA2では、有段変速機20の変速の種類や車速V、車速Vの変化率(加速度)等に基づいて、変速中の車速Vの変化を考慮して変速後の第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2、すなわち第3回転要素RE3、第4回転要素RE4の回転速度を求め、その回転速度をMG2回転速度NMG2の最終目標値NMG2mとして決定する。また、アクセル操作量Acc等に基づいて前記図9の最適燃費率曲線に従って変速後のエンジン回転速度Ne、すなわち第1回転要素RE1の回転速度を求め、その回転速度をエンジン回転速度Neの最終目標値Nemとして決定する。次のステップSA3では、ステップSA2で決定された最終目標値NMG2m、Nemに達するまでの変速途中の過渡目標値NMG2t、Netを、それぞれ予め定められた直線補間等の補間処理に従って設定する。この過渡目標値NMG2t、Netは、変速時の運転状態などから求まる変速所要時間や制御サイクルタイム、要求される制御精度等に応じて複数定められる。最初のステップSA3の実行時に、最終目標値Nemに達するまでの一連の過渡目標値NMG2t、Netを総て算出するようにしても良いが、ステップSA5に続いてステップSA3が繰り返される毎に次の過渡目標値NMG2t、Netを1つずつ算出しても良い。なお、最後は最終目標値NMG2m、Nemをそのまま設定する。
【0051】
ステップSA4では、制御量であるMG2回転速度NMG2、エンジン回転速度Neが、それぞれステップSA3で設定された過渡目標値NMG2t、Netに近付くように、その過渡目標値NMG2t、Netとその時点の実際のMG2回転速度NMG2、エンジン回転速度Neとの偏差ΔNMG2、ΔNeに基づいて、次式(1) 、(2) に示す予め定められたフィードバック制御式に従って第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルク指令値TMG1s、TMG2sをそれぞれ算出し、そのトルク指令値TMG1s、TMG2sに従ってそれ等の第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルクTMG1、TMG2を制御する。このように所定の制御サイクルタイムで逐次設定される過渡目標値NMG2t、Netに対する偏差ΔNMG2、ΔNeに基づいて第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルクTMG1、TMG2がフィードバック制御されることにより、変速過渡時のエンジントルクTeの変化や有段変速機20の摩擦係合装置の係合トルクの変化、両変速機16、20の変速の相互干渉などが外乱としてフィードバック制御に反映される。
TMG1s=f1(ΔNMG2、ΔNe) ・・・(1)
TMG2s=f2(ΔNMG2、ΔNe) ・・・(2)
【0052】
図12に示すパワーONの3→2ダウンシフトの場合、第1モータジェネレータMG1のトルク指令値TMG1sはMG1回転速度NMG1を低下させるための回生トルクで、第2モータジェネレータMG2のトルク指令値TMG2sはMG2回転速度NMG2を上昇させるための力行トルクである。その場合、上記トルク指令値TMG1sのフィードバック制御式(1) は、MG2回転偏差ΔNMG2が大きい程第1モータジェネレータMG1の回生トルクTMG1が大きくなり、エンジン回転偏差ΔNeが大きい程第1モータジェネレータMG1の回生トルクTMG1が小さくなるように定められる。また、トルク指令値TMG2sのフィードバック制御式(2) は、MG2回転偏差ΔNMG2が大きい程第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2が大きくなり、エンジン回転偏差ΔNeが大きい程第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2が大きくなるように定められる。
【0053】
ステップSA5では、その時点の実際のMG2回転速度NMG2、エンジン回転速度Neが、それぞれステップSA2で設定された最終目標値NMG2m、Nemに達したか否かを判断し、その最終目標値NMG2m、Nemに達するまでステップSA3以下を繰り返し実行する。そして、実際のMG2回転速度NMG2、エンジン回転速度Neが、それぞれ最終目標値NMG2m、Nemに到達したら一連の変速コントロール処理を終了する。
【0054】
このような本実施例の車両用駆動装置10の制御装置においては、無段変速機16を構成している差動機構24の2つの回転要素RE1、RE3の回転速度、すなわちエンジン回転速度NeおよびMG2回転速度NMG2を制御量として、最終目標値設定手段130により設定された最終目標値Nem、NMG2mに向かうように変速中の過渡目標値Net、NMG2tが逐次設定され、エンジン回転速度NeおよびMG2回転速度NMG2がそれぞれその過渡目標値Net、NMG2tに近付くように第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルクTMG1、TMG2がフィードバック制御されるため、変速過渡時のエンジントルクTeの変化や有段変速機20の摩擦係合装置の係合トルクの変化、両変速機16、20の変速の相互干渉などは外乱としてフィードバック制御に反映される。これにより、両変速機16、20の変速が相互の干渉等に拘らず何れも適切に行われるようになり、エンジン回転速度Neの吹き上がりや有段変速機20の摩擦係合装置の急係合等による変速ショックの発生、その有段変速機20の変速時間の遅延等が抑制される。
【0055】
ここで、差動機構24の3つの回転要素RE1〜RE3の回転速度は一定の関係を有するため、その中の2つの回転要素RE1およびRE3の回転速度を制御量として制御すれば、残りの回転要素RE2の回転速度も一義的に定まり、無段変速機16の変速状態が規定される。また、差動機構24の第3回転要素RE3は伝達部材18を介して機械式の有段変速機20に連結されており、その第3回転要素RE3の回転速度が制御されることにより、有段変速機20の変速進行状態が車速Vに応じて規定される。すなわち、差動機構24の3つの回転要素RE1〜RE3の中の2つの回転要素RE1およびRE3の回転速度を制御量として制御すれば、無段変速機16および有段変速機20の変速後の状態を何れも規定することができ、それ等の変速の進行をコントロールすることができるのである。
【0056】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0057】
8:エンジン 10:車両用駆動装置 16:無段変速機 18:伝達部材 20:有段変速機 24:差動機構 34:駆動輪 100:電子制御装置 124:変速コントロール手段 130:最終目標値設定手段 132:過渡目標値設定手段 134:多入力多出力制御手段(フィードバック制御手段) MG1:第1モータジェネレータ(第1回転機) MG2:第2モータジェネレータ(第2回転機) C1〜C3:クラッチ(摩擦係合装置) B1、B2:ブレーキ(摩擦係合装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的な無段変速機と機械式の有段変速機とを有する車両用駆動装置に係り、特に、それ等の無段変速機および有段変速機が共に変速される際の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) エンジンに連結された第1回転要素と第1回転機に連結された第2回転要素と伝達部材に連結された第3回転要素とを有する差動機構と、その伝達部材に連結された第2回転機と、を備えている電気的な無段変速機と、(b) 前記伝達部材と駆動輪との間の動力伝達経路に配設され、複数の摩擦係合装置の係合解放状態に応じて変速比が異なる複数のギヤ段が成立させられる機械式の有段変速機と、を有する車両用駆動装置が提案されている。特許文献1に記載の装置はその一例で、無段変速機または有段変速機による有段変速に際して、上記差動機構の回転要素やエンジンの回転速度が変速後の同期回転速度と一致するように、第1回転機および第2回転機を用いて同期制御するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−344850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えばアクセルペダルが踏込み操作されてエンジンの回転速度を増大させるとともに有段変速機をダウンシフトするパワーONダウンシフト時など、無段変速機および有段変速機を共に変速する場合、従来のように変速後の回転速度となるように同期制御するだけでは、変速過渡時のエンジントルクの変化や有段変速機の摩擦係合装置の係合トルクの変化、或いは両変速機の変速の相互干渉などで制御が不安定になり、エンジン回転速度が吹き上がったり、有段変速機の変速の急な進行に起因する摩擦係合装置の急係合や一方向クラッチの衝突などで変速ショックが発生したり、逆に変速の進行が遅れたりすることがあった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、無段変速機および有段変速機を共に変速する場合でもそれ等の変速が何れも適切に行われるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、本発明は、(a) エンジンに連結された第1回転要素と第1回転機に連結された第2回転要素と伝達部材に連結された第3回転要素とを有する差動機構と、その伝達部材に連結された第2回転機と、を備えている電気的な無段変速機と、(b) 前記伝達部材と駆動輪との間の動力伝達経路に配設され、複数の摩擦係合装置の係合解放状態に応じて変速比が異なる複数のギヤ段が成立させられる機械式の有段変速機と、を有する車両用駆動装置の制御装置において、(c) 前記無段変速機および前記有段変速機が共に変速される際に、前記第1回転機、前記第2回転機、および前記エンジンが連結された前記差動機構の3つの回転要素の中の少なくとも2つの回転要素の回転速度を制御量として、各々の変速後の最終目標値を設定する最終目標値設定手段と、(d) その最終目標値設定手段により設定された前記最終目標値に向かうように、予め定められた補間処理に従って変速中の過渡目標値を設定する過渡目標値設定手段と、(e) 前記複数の制御量がそれぞれ前記過渡目標値設定手段によって設定された前記過渡目標値に近付くように、前記第1回転機および前記第2回転機のトルクをフィードバック制御するフィードバック制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このような車両用駆動装置の制御装置によれば、差動機構の少なくとも2つの回転要素の回転速度を制御量として、最終目標値設定手段により設定された最終目標値に向かうように変速中の過渡目標値が設定され、複数の制御量がそれぞれその過渡目標値に近付くように第1回転機および第2回転機のトルクがフィードバック制御されるため、変速過渡時のエンジントルクの変化や摩擦係合装置の係合トルクの変化、両変速機の変速の相互干渉などは外乱としてフィードバック制御に反映される。これにより、両変速機の変速が何れも適切に行われるようになり、エンジン回転速度の吹き上がりや有段変速機の摩擦係合装置の急係合等による変速ショックの発生が抑制される。
【0008】
ここで、差動機構の3つの回転要素の回転速度は一定の関係を有するため、2つの回転要素の回転速度を制御量として制御すれば、残りの回転要素の回転速度も一義的に定まり、無段変速機の変速状態が規定される。また、差動機構の第3回転要素は伝達部材を介して機械式の有段変速機に連結されており、その第3回転要素の回転速度が制御されることにより、有段変速機の変速進行状態が車速に応じて規定される。したがって、差動機構の3つの回転要素の中の少なくとも2つの回転要素の回転速度を制御量として制御すれば、無段変速機および有段変速機の変速状態を何れも規定することができ、それ等の変速の進行をコントロールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が好適に適用される車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置に設けられた有段変速機の複数のギヤ段とそれを成立させる油圧式摩擦係合装置との関係を説明する図である。
【図3】図1の車両用駆動装置に設けられた無段変速機および有段変速機の共線図である。
【図4】図1の車両用駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】図1の車両用駆動装置に設けられたシフトレバーのシフトパターンの一例を示す図である。
【図6】図1の車両用駆動装置に設けられた有段変速機のクラッチC1〜C3、およびブレーキB1、B2の係合解放を制御する油圧制御回路の要部を示す回路図である。
【図7】図1の車両用駆動装置を搭載している車両の概略構成図で、図4の電子制御装置が備えている制御機能を併せて示した図である。
【図8】図1の車両用駆動装置が備えている有段変速機の変速線図、およびエンジンおよびモータジェネレータの駆動力源切換線図の、各々の一例を説明する図である。
【図9】図1のエンジンの最適燃費率曲線を説明する図である。
【図10】図7の変速コントロール手段を具体的に説明する機能ブロック線図である。
【図11】図10の変速コントロール手段による信号処理を具体的に説明するフローチャートである。
【図12】パワーONの3→2ダウシンフト時における無段変速機および有段変速機の各部の回転速度変化を説明する共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
無段変速機の差動機構としては、シングルピニオン型或いはダブルピニオン型の遊星歯車装置が好適に用いられる。この遊星歯車装置はサンギヤ、キャリア、およびリングギヤの3つの回転要素を備えているが、それ等の回転速度を1本の直線で結ぶことができる共線図において、例えば中間に位置する回転要素にエンジンが連結され、両端の回転要素に第1回転機、第2回転機が連結されるが、中間の回転要素に第2回転機すなわち伝達部材を連結するようにしても良い。この3つの回転要素は、常に相対回転可能であっても良いが、任意の2つをクラッチにより一体的に連結できるようにして、運転状態に応じて一体回転させるようにしたり、第2回転要素をブレーキにより回転停止できるようにしたりすることも可能である。必要に応じて、それ等の回転要素とエンジン、第1回転機、第2回転機との間にクラッチ等の断続手段を設けることもできる。
【0011】
第1回転機および第2回転機は回転電気機械のことで、具体的には電動モータ、発電機、或いはその両方の機能を択一的に用いることができるモータジェネレータである。第1回転機として発電機を採用し、第2回転機として電動モータを採用することもできるが、種々の運転状態を想定した場合、第1回転機、第2回転機の何れもモータジェネレータを用いることが望ましい。
【0012】
有段変速機としては、遊星歯車式や平行軸式の変速機が広く用いられており、運転状態に応じて自動的に或いは運転者の変速指令に従って変速判断が行われ、油圧制御回路が電気的に切り換えるなどして摩擦係合装置が係合、解放されることによりギヤ段が切り換えられる。
【0013】
無段変速機および有段変速機が共に変速される際に、第1回転機および第2回転機をフィードバック制御する時の制御量としては、差動機構の3つの回転要素の中の少なくとも2つの回転要素の回転速度が用いられれば良く、例えばエンジンが連結された第1回転要素と、第1回転機が連結された第2回転要素および第2回転機が連結された第3回転要素の何れか一方、の回転速度が制御量として用いられる。第1回転機が連結された第2回転要素および第2回転機が連結された第3回転要素の回転速度を制御量として用いることもできるし、3つの回転要素の回転速度を総て制御量として用いることも可能である。
【0014】
最終目標値設定手段によって設定される最終目標値は、変速判断時の車速や加速度、変速の種類、アクセル操作量等により、変速中の車速変化を考慮して設定される。過渡目標値設定手段によって設定される過渡目標値は、現在値と最終目標値とを直線補間或いはアクセル操作量等に応じて定められる所定の変化パターンによる補間処理等に従って算出されるとともに、例えば制御サイクルタイムに応じて逐次設定される。この過渡目標値は、できるだけ細かく設定することが望ましいが、変速開始時の現在値と最終目標値との間に少なくとも1つ設定されれば良い。これ等の最終目標値および過渡目標値は、複数の制御量毎にそれぞれ設定される。
【0015】
フィードバック制御手段は、単一の制御ロジックにより複数の制御量がそれぞれ過渡目標値設定手段によって設定された過渡目標値に近付くように、それ等の偏差に基づいて、予め定められたフィードバック制御式に従って第1回転機および第2回転機のトルクをそれぞれ算出し、そのトルク指令値に従ってそれ等の第1回転機および第2回転機を制御する。このフィードバック制御手段は、最後は最終目標値に対して各制御量が近付くように、第1回転機および第2回転機のトルクをフィードバック制御する。
【0016】
上記過渡目標値を用いたフィードバック制御は、アクセルペダルが踏込み操作されてエンジンの回転速度を増大させるとともに有段変速機をダウンシフトするパワーONダウンシフト時、またはアクセルペダルが戻し操作されてエンジンの回転速度を低下させるとともに有段変速機をアップシフトするパワーOFFアップシフト時に好適に採用される。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10を示す骨子図である。図1において、車両用駆動装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接的に連結された電気式の無段変速機16と、その無段変速機16から駆動輪34(図7参照)への動力伝達経路に伝達部材18を介して直列に連結されている機械式の有段変速機20と、この有段変速機20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この車両用駆動装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図7参照)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。エンジン8は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速機16に直結されている。
【0018】
無段変速機16は、エンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路に配設されており、第1モータジェネレータMG1と、入力軸14に伝達されたエンジン8の出力を第1モータジェネレータMG1および伝達部材18に機械的に分配する差動機構24と、出力軸として機能する伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2モータジェネレータMG2と、を備えている。第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2は、何れも電動モータおよび発電機として択一的に用いることができるもので、第1モータジェネレータMG1は第1回転機に相当し、第2モータジェネレータMG2は第2回転機に相当する。
【0019】
上記差動機構24は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、差動サンギヤS0、遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動キャリヤCA0、遊星歯車P0を介してサンギヤS0と噛み合う差動リングギヤR0を、相対回転可能な3つの回転要素として備えている。差動キャリヤCA0は入力軸14を介してエンジン8に連結されている第1回転要素RE1で、差動サンギヤS0は第1モータジェネレータMG1に連結されてている第2回転要素RE2で、差動リングギヤR0は伝達部材18に連結されている第3回転要素RE3である。これ等の差動サンギヤS0、差動キャリヤCA0、差動リングギヤR0は互いに相対回転可能で、エンジン8の出力が第1モータジェネレータMG1と伝達部材18に分配され、第1モータジェネレータMG1が回生制御(発電制御ともいう)されることによって得られた電気エネルギーで第2モータジェネレータMG2が回転駆動され、或いは蓄電装置56(図7参照)が充電される。第1モータジェネレータMG1の回生制御や力行制御で、その第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1すなわち差動サンギヤS0の回転速度を制御することにより、差動機構24の差動状態を適宜変更することが可能で、入力軸14の回転速度NINと出力軸として機能する伝達部材18の回転速度N18との変速比γ0(=NIN/N18)が連続的に変化させられる。入力軸14の回転速度NINはエンジン8の回転速度(エンジン回転速度)Neと同じで、伝達部材18の回転速度N18は第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2と同じである。
【0020】
有段変速機20は、エンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部を構成しており、何れもシングルピニオン型の第1遊星歯車装置26および第2遊星歯車装置28を有する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えている。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えている。そして、第2サンギヤS2にて構成される第4回転要素RE4は、第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結される。第1リングギヤR1および第2キャリヤCA2は、互いに一体的に連結されて第5回転要素RE5を構成しており、出力軸22に一体的に連結されている。第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2は、互いに一体的に連結されて第6回転要素RE6を構成しており、第2クラッチC2を介して伝達部材18に連結されるとともに、第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結される。この第6回転要素RE6(CA1、R2)はまた、一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結されてエンジン8と同方向の回転が許容される一方、逆方向の回転が禁止されている。第1サンギヤS1にて構成されている第7回転要素RE7は、第3クラッチC3を介して伝達部材18に連結されるとともに、第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結される。
【0021】
そして、このような有段変速機20は、油圧式摩擦係合装置である上記クラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)が選択的に係合させられることにより、変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT )が異なる複数のギヤ段が成立させられる。図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1の係合および一方向クラッチF1により変速比γが最も大きい第1速ギヤ段(1st)が成立させられ、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により第1速ギヤ段よりも変速比γが小さい第2速ギヤ段(2nd)が成立させられ、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により変速比γ=1の第3速ギヤ段(3rd)が成立させられ、第2クラッチC2および第1ブレーキB1の係合により変速比γが1より小さい第4速ギヤ段(4th)が成立させられる。また、第3クラッチC3および第2ブレーキB2の係合により後進ギヤ段(Rev)が成立させられ、総てのクラッチC1〜C3、およびブレーキB1、B2の解放によりニュートラル状態(N)とされる。なお、第1速ギヤ段でエンジンブレーキを効かせる場合には、第2ブレーキB2が係合させられる。図2の変速比γの値は一例で、遊星歯車装置26、28のギヤ比(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に応じて定められる。
【0022】
以上のように構成された車両用駆動装置10においては、有段変速機20が何れかのギヤ段Mに保持されている状態で、その有段変速機20の入力回転速度である伝達部材18の回転速度N18が、無段変速機16によって無段的に変化させられることにより、そのギヤ段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。このような車両用駆動装置10の全体変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT )は、無段変速機16の変速比γ0と有段変速機20の変速比γとを掛け算した値となり、無段階に変化させられる。また、無段変速機16の変速比γ0が一定(例えばγ0=1)に維持されるように第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1等を制御すれば、有段変速機20の変速に伴って全体変速比γTは有段で変化させられ、全体として有段変速機と同様な変速フィーリングが得られる。
【0023】
図3は、無段変速機16および有段変速機20に関し、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図である。この図3の共線図において、横線X1は回転速度0を示し、横線X2は回転速度が1.0すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Neを示し、X3は無段変速機16から有段変速機20に入力される第3回転要素RE3の回転速度を示している。また、無段変速機16の3本の縦線Y1〜Y3の中、左端の縦線Y1は、第2回転要素RE2に対応する差動サンギヤS0の相対回転速度を示すもので、中間の縦線Y2は第1回転要素RE1に対応する差動キャリヤCA0の相対回転速度を示すもので、右端の縦線Y3は第3回転要素RE3に対応する差動リングギヤR0の相対回転速度を示すものである。これらの縦線Y1〜Y3の間隔は、差動機構24のギヤ比に応じて定められる。
【0024】
図3において、有段変速機20の4本の縦線Y4〜Y7の中、左端の縦線Y4は、第4回転要素RE4に対応する第2サンギヤS2の相対回転速度を示すもので、左から2番目の縦線Y5は第5回転要素RE5に対応する第1リングギヤR1および第2キャリヤCA2の相対回転速度を示すもので、左から3番目の縦線Y6は第6回転要素RE6に対応する第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2の相対回転速度を示すもので、右端の縦線Y7は第7回転要素RE7に対応する第1サンギヤS1の相対回転速度を示すものである。これ等の縦線Y4〜Y7の間隔は、第1、第2遊星歯車装置26、28のギヤ比に応じて定められる。
【0025】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の車両用駆動装置10の無段変速機16は、差動機構24の第1回転要素RE1(差動キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2(差動サンギヤS0)が第1モータジェネレータMG1に連結され、第3回転要素RE3(差動リングギヤR0)が伝達部材18および第2モータジェネレータMG2に連結されることにより、入力軸14の回転を所定の変速比γ0で変速して伝達部材18を介して有段変速機20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。そして、1本の直線L0によって無段変速機16の各回転要素RE1〜RE3の相対回転速度が示され、この場合は、MG1回転速度NMG1が略0となるように第1モータジェネレータMG1が回生制御されることにより、変速比γ0は1よりも小さくなり、出力部材である第3回転要素RE3がエンジン回転速度Neに対して増速回転させられる。
【0026】
また、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定に保持される場合に、第1モータジェネレータMG1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動キャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度Neが上昇或いは下降させられる。すなわち、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1を制御することによってエンジン回転速度Ne、すなわち変速比γ0を適当に調整することができる。例えば、差動機構24が略一体的に回転するように、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1を差動リングギヤR0の回転速度(伝達部材18の回転速度N18)と一致するように制御すれば、直線L0は横線X2と一致させられて無段変速機16の変速比γ0=1になり、エンジン回転速度Neと差動リングギヤR0すなわち伝達部材18の回転速度N18とが同じになる。
【0027】
また、有段変速機20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結される。そして、例えば図3に示すように無段変速機16の差動サンギヤS0の回転速度が略零となるように第1モータジェネレータMG1が制御され、無段変速機16が直線L0で示す変速状態に保持される場合について、有段変速機20の複数のギヤ段を具体的に説明すると、第1クラッチC1および第2ブレーキB2(或いは一方向クラッチF1)が係合させられる第1速ギヤ段では、有段変速機20は斜めの直線L1で示す変速状態となり、その直線L1と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点「1st」により、第1速ギヤ段における出力軸22の回転速度が示される。第1クラッチC1および第1ブレーキB1が係合させられる第2速ギヤ段では、有段変速機20は斜めの直線L2で示す変速状態となり、その直線L2と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点「2nd」により、第2速ギヤ段における出力軸22の回転速度が示される。第1クラッチC1および第2クラッチC2が係合させられる第3速ギヤ段では、有段変速機20は水平な直線L3で示す変速状態となり、その直線L3と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点「3rd」により、第3速ギヤ段における出力軸22の回転速度が示される。第2クラッチC2および第1ブレーキB1が係合させられる第4速ギヤ段では、有段変速機20は斜めの直線L4で示す変速状態となり、その直線L4と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点「4th」により、第4速ギヤ段における出力軸22の回転速度が示される。また、第3クラッチC3および第2ブレーキB2が係合させられる後進ギヤ段では、有段変速機20は斜めの直線LRで示す変速状態となり、その直線LRと第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点「Rev」により、後進ギヤ段における出力軸22の回転速度が示される。
【0028】
図4は、本実施例の車両用駆動装置10を制御するための制御装置である電子制御装置100に入力される信号、およびその電子制御装置100から出力される信号を例示している。この電子制御装置100は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン8、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2に関するハイブリッド駆動制御や、有段変速機20の変速制御等を実行するものである。
【0029】
電子制御装置100には、図4に示すような各種のセンサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPW を表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン回転速度センサ48によって検出されるエンジン8の回転速度(エンジン回転速度)Neを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、車速センサ46により検出される出力軸22の回転速度NOUT に対応する車速Vを表す信号、有段変速機20の作動油温TOIL を表す信号、ETCスイッチの有無を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行の設定信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、レゾルバ等のMG1回転速度センサ42により検出される第1モータジェネレータMG1の回転速度(MG1回転速度)NMG1を表す信号、レゾルバ等のMG1回転速度センサ44により検出される第2モータジェネレータMG2の回転速度(MG2回転速度)NMG2を表す信号、各モータジェネレータMG1、MG2の間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56の充電残量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。なお、上記回転速度センサ42、44および車速センサ46は、回転速度だけでなく回転方向をも検出できるセンサであり、車両走行中に有段変速機20が中立ポジションである場合には車速センサ46によって車両の進行方向が検出される。
【0030】
また、上記電子制御装置100からは、エンジン8の出力(エンジン出力)PE を制御するエンジン出力制御装置58(図7参照)への制御信号、例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や、燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号などが出力される他、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、モータジェネレータMG1、MG2の力行トルクや回生トルクを指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、全体変速比γTを表示させるための変速比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、有段変速機20の油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図7参照)に含まれる電磁弁(ATソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(ライン圧コントロールソレノイド)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動オイルポンプ85を作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0031】
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。シフトレバー52は、有段変速機20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ有段変速機20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、有段変速機20内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて無段変速機16の無段的な変速比幅と有段変速機20の第1速ギヤ段〜第4速ギヤ段の全変速範囲で得られる車両用駆動装置10の変速可能な全体変速比γTの変速範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて有段変速機20における高速側のギヤ段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。このシフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に従って、図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「Rev」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「1st」〜「4th」が成立するように前記油圧制御回路70が切り換えられる。
【0032】
上記「P」〜「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、図2の係合作動表に示されるようにクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2の総てが解放されることにより、有段変速機20内の動力伝達経路が遮断されて車両を駆動不能とする非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、図2の係合作動表に示されるようにクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2、一方向クラッチF1の何れか2つが係合させられることにより、有段変速機20内の動力伝達経路が接続されて車両を駆動可能とする駆動ポジションである。
【0033】
図6は、クラッチCおよびブレーキBの各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5等に関する回路図であって、油圧制御回路70の要部を示す回路図である。図6において、クラッチC1、C2、およびブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)72、74、78、80には、油圧供給装置82から出力されたDレンジ圧(前進レンジ圧、前進油圧)PDがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL4、SL5により調圧されて供給され、クラッチC3の油圧アクチュエータ76には、油圧供給装置82から出力されたリバース圧(後進レンジ圧、後進油圧)PRがリニアソレノイドバルブSL3により調圧されて供給される。ブレーキB2の油圧アクチュエータ80には、リニアソレノイドバルブSL5の出力油圧およびリバース圧(後進レンジ圧、後進油圧)PRのうち何れか供給された側の油圧がシャトル弁84を介して供給される。
【0034】
油圧供給装置82は、エンジン8によって回転駆動される機械式オイルポンプ83、およびエンジン非作動時に電動モータによって駆動される電動オイルポンプ85を油圧源として備えている。そして、それ等のポンプ83または85から発生させられる油圧を元圧としてライン油圧(第1ライン油圧)PL1を調圧する例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ86(以下プライマリバルブ86と記載)、プライマリバルブ86によるライン油圧PL1の調圧のためにプライマリバルブ86から排出される油圧を元圧としてライン油圧(第2ライン油圧、セカンダリ圧)PL2を調圧するセカンダリレギュレータバルブ88(以下、セカンダリバルブ88と記載)、アクセル操作量Acc或いはスロットル弁開度θTHで表されるエンジン負荷等に応じたライン油圧PL1、PL2に調圧するためにプライマリバルブ86およびセカンダリバルブ88へ信号圧PSLT を供給するリニアソレノイドバルブSLT、ライン油圧PL1を元圧として一定のモジュレータ油圧PMに調圧するモジュレータバルブ90、シフトレバー52の操作に伴って油路が切り換えられることにより入力されたライン油圧PL1をシフトレバー52が「D」ポジション或いは「M」ポジションへ操作されたときにはDレンジ圧PDとして出力し、「R」ポジションへ操作されたときにはリバース圧PRとして出力するマニュアルバルブ92等を備えており、ライン油圧PL1、PL2、モジュレータ油圧PM、Dレンジ圧PD、およびリバース圧PRを供給する。
【0035】
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5、SLTは、基本的には何れも同じ構成であり、電子制御装置100により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータ72、74、76、78、80の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1、C2、C3、ブレーキB1、B2の係合圧が制御される。そして、有段変速機20は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合させられることによって各ギヤ段が成立させられる。また、有段変速機20の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチツークラッチ変速が実行される。例えば、図2の係合作動表に示すように3速→2速のダウンシフトでは、クラッチC2が解放されると共にブレーキB1が係合させられ、変速ショックを抑制するようにクラッチC2の解放過渡油圧とブレーキB1の係合過渡油圧とが適切に制御される。このように、有段変速機20の複数の係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧すなわち係合トルクは、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5によって各々直接的に制御される。
【0036】
図7は、上記車両用駆動装置10を搭載している車両の概略構成図で、図4の電子制御装置100が備えている制御機能を併せて示した図であり、電子制御装置100は機能的に有段変速制御手段120およびハイブリッド制御手段122を備えている。有段変速制御手段120は、図8に示すような車速Vと有段変速機20の出力トルクTOUT とをパラメータとして予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速Vおよび有段変速機20の要求出力トルクTOUT で示される車両状態に基づいて、有段変速機20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち有段変速機20の変速すべきギヤ段を判断し、その判断したギヤ段が得られるように有段変速機20の自動変速制御を実行する。また、シフトレバー52が「M」ポジションへ操作された手動モードでは、シフトレバー52がアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ手動操作されることにより、高速側のギヤ段の変速範囲が異なる複数の変速レンジを切り換える。これにより、下り坂などで強制的にギヤ段を低速側へ切り換えてエンジンブレーキ力を増大させることができる。なお、アクセル操作量Accと有段変速機20の要求出力トルクTOUT (図8の縦軸)とは、アクセル操作量Accが大きくなるほどそれに応じて上記要求出力トルクTOUT も大きくなる対応関係にあることから、図8の変速線図の縦軸はアクセル操作量Accであっても差し支えない。
【0037】
上記有段変速制御手段120は、例えば図2に示す係合作動表に従ってギヤ段が達成されるように、有段変速機20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置(クラッチCおよびブレーキB)を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)、すなわち有段変速機20の変速に関与する解放側係合装置の油圧を所定の油圧制御ロジックに従って低下させて解放するとともに、係合側係合装置の油圧を所定の油圧制御ロジックに従って上昇させて係合させて、クラッチツークラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して有段変速機20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を作動させて、その変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ72〜80を作動させる。
【0038】
ハイブリッド制御手段122は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2モータジェネレータMG2との駆動力の配分や第1モータジェネレータMG1の発電による反力を最適になるように変化させて無段変速機16の変速比γ0を制御する。例えば、その時の走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル操作量Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出するとともに、その車両の目標出力と充電要求値とから必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2モータジェネレータMG2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出する。そして、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるように、エンジン8を制御するとともに第1モータジェネレータMG1の発電量(回生トルク)を制御する。
【0039】
このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Neと、車速Vおよび有段変速機20のギヤ段で定まる伝達部材18の回転速度N18とを整合させるように、無段変速機16の変速比γ0を制御する。すなわち、ハイブリッド制御手段122は、エンジン回転速度Neとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Teとで構成される二次元座標内において、動力性能と燃費とを両立するように予め実験的に求められた図9の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線上にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が位置するようにエンジン8を作動させるとともに、車速Vおよび有段変速機20のギヤ段で定まる伝達部材18の回転速度N18および最適燃費のエンジン回転速度Neに応じて無段変速機16の変速比γ0を求め、その変速比γ0となるように第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1を制御する。
【0040】
このとき、ハイブリッド制御手段122は、第1モータジェネレータMG1により発電された電気エネルギーをインバータ54を通して蓄電装置56や第2モータジェネレータMG2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1モータジェネレータMG1の発電のために消費されてそこで電気エネルギーに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギーが第2モータジェネレータMG2へ供給され、その第2モータジェネレータMG2が駆動されて第2モータジェネレータMG2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギーの発生から第2モータジェネレータMG2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギーに変換し、その電気エネルギーを機械的エネルギーに変換するまでの電気パスが構成される。
【0041】
また、ハイブリッド制御手段122は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、MG1回転速度NMG1および/またはMG2回転速度NMG2を制御してエンジン回転速度Neを略一定に維持したり任意の回転速度に制御したりすることができる。言い換えれば、エンジン回転速度Neを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ、MG1回転速度NMG1および/またはMG2回転速度NMG2を任意の回転速度に制御することができる。また、有段変速機20の変速方向に対して、その変速を打ち消すように無段変速機16を反対方向に変速させることで、有段変速機20の変速前後の全体変速比γTを一定に維持することができる。例えば、図3の共線図からも分かるように、車両走行中にエンジン回転速度Neを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束されるMG2回転速度NMG2を略一定に維持しつつ、MG1回転速度NMG1の引き上げを実行する。また、有段変速機20の変速中にエンジン回転速度Neを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度Neを略一定に維持しつつ有段変速機20の変速に伴うMG2回転速度NMG2の変化とは反対方向にMG1回転速度NMG1を変化させる。
【0042】
また、ハイブリッド制御手段122は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PE を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル操作量Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
【0043】
また、ハイブリッド制御手段122は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、第2モータジェネレータMG2を走行用の駆動力源とするモータ走行をさせることができる。例えば、一般的に高トルク域に比較してエンジン効率が悪いとされる低トルク域、すなわちエンジントルクTeが低い低負荷域、或いは車速Vが比較的低い低車速域において、モータ走行を実行する。すなわち、前記図8に示される実線Aよりも低トルク側、低車速側で、エンジン8を停止して第2モータジェネレータMG2のみを駆動力源として走行するモータ走行を実行する。このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、エンジン回転速度Neが略0になるように、例えば第1モータジェネレータMG1を無負荷状態にして逆回転方向へ空転することを許容する。
【0044】
図8の実線Aよりも高トルク側、高車速側は、エンジン8を走行用の駆動力源として走行するエンジン走行領域であるが、前記電気パスによる第1モータジェネレータMG1からの電気エネルギーおよび/または蓄電装置56からの電気エネルギーを第2モータジェネレータMG2へ供給し、その第2モータジェネレータMG2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。すなわち、エンジン走行には、エンジン8のみを走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8および第2モータジェネレータMG2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。
【0045】
また、アクセルペダルが踏込み操作されていないアクセルOFFの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させるために車両の運動エネルギーすなわち駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により回転駆動される第2モータジェネレータMG2を発電機として作動させ、得られた電気エネルギーをインバータ54から蓄電装置56へ充電する回生制御手段としての機能を有する。この回生制御は、蓄電装置56の充電残量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るための油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。
【0046】
ところで、アクセルペダルが踏込み操作されてエンジン回転速度Neを増大させるとともに有段変速機20をダウンシフトするパワーONダウンシフト時には、無段変速機16および有段変速機20を共に変速することになるが、変速過渡時のエンジントルクTeの変化や有段変速機20の変速の進行、すなわち変速に関与するクラッチC、ブレーキBの係合トルクの変化、或いは両変速機16、20の変速の相互干渉などで無段変速機16の変速制御が不安定になり、エンジン回転速度Neが吹き上がったり、有段変速機20の変速の急な進行に起因するクラッチCやブレーキBの急係合や一方向クラッチF1の衝突などで変速ショックが発生したり、逆に変速の進行が遅れたりする恐れがある。
【0047】
例えば、図12は、白丸「○」で示す第3速ギヤ段の状態からアクセルペダルが踏込み操作されて黒丸「●」で示す第2速ギヤ段の状態へパワーONダウンシフトが行われた場合の共線図で、アクセルペダルの踏込み操作に伴うエンジントルクTeの増大でエンジン回転速度Neすなわち第1回転要素RE1の回転速度が上昇させられ、それに伴って伝達部材18に連結された第3回転要素RE3の回転速度(MG2回転速度NMG2と同じ)も上昇させられる。一方、有段変速機20が3→2ダウンシフトされることにより、伝達部材18に連結された第4回転要素RE4の回転速度が上昇させられる。第3回転要素RE3と第4回転要素RE4は伝達部材18を介して一体的に連結されているため、それ等の回転速度は、有段変速機20のダウンシフトによって上昇させられるとともに、無段変速機16のエンジン回転速度Neの上昇によっても上昇させられる。言い換えれば、有段変速機16のダウンシフトに伴い、エンジン8には伝達部材18を介してエンジン回転速度Neを上昇させる方向のトルクが作用し、これによりエンジン回転速度Neが必要以上に上昇して吹き上がる可能性がある。逆に、エンジントルクTeの増大に伴い、有段変速機16の入力要素である第4回転要素RE4には、伝達部材18を介して回転速度が上昇する方向のトルクが作用し、有段変速機16のダウンシフトが促進されて、第1ブレーキB1の急係合により変速ショックを生じる可能性がある。なお、パワーONの2→1ダウンシフトでは、そのダウンシフトの急な進行により一方向クラッチF1が衝突する可能性もある。
【0048】
これに対し、本実施例のハイブリッド制御手段122は、無段変速機16および有段変速機20を共に変速する場合でもそれ等の変速が何れも適切に行われるように変速をコントロールする変速コントロール手段124を備えている。この変速コントロール手段124は、図10の機能ブロック線図に示すように、最終目標値設定手段130、過渡目標値設定手段132、および多入力多出力制御手段134を備えて構成されており、図11のフローチャートに従って変速処理を実行する。すなわち、エンジン回転速度NeおよびMG2回転速度NMG2を制御量として用いて、単一の制御ロジックにより第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルクTMG1、TMG2をフィードバック制御するのである。この場合、エンジン8は、アクセル操作量Accの変化に応じて電子スロットル弁62等が制御され、エンジントルクTeが制御される一方、有段変速機20の変速に関与する係合側摩擦係合装置および解放側摩擦係合装置の各油圧(係合トルク)は、それぞれ予め定められた油圧制御ロジックに従って制御されるが、上記フィードバック制御では何れも外乱として処理される。図11のステップSA2は最終目標値設定手段130に相当し、ステップSA3は過渡目標値設定手段132に相当し、ステップSA4は多入力多出力制御手段134に相当する。なお、多入力多出力制御手段134はフィードバック制御手段として機能する。
【0049】
図11のフローチャートは、前記有段変速制御手段120により有段変速機20の変速制御が実行される際にステップSA1以下を実行する。ステップSA1では、パワーONダウンシフトか或いはパワーOFFアップシフトかを判断し、その何れかである場合はステップSA2以下を実行するが、パワーONダウンシフトでもパワーOFFアップシフトでもない場合は、そのまま終了する。但し、パワーONダウンシフト、パワーOFFアップシフトに限らず、有段変速機20の総ての変速実行時にステップSA2以下の変速コントロール処理を行うことも可能である。
【0050】
ステップSA2では、有段変速機20の変速の種類や車速V、車速Vの変化率(加速度)等に基づいて、変速中の車速Vの変化を考慮して変速後の第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2、すなわち第3回転要素RE3、第4回転要素RE4の回転速度を求め、その回転速度をMG2回転速度NMG2の最終目標値NMG2mとして決定する。また、アクセル操作量Acc等に基づいて前記図9の最適燃費率曲線に従って変速後のエンジン回転速度Ne、すなわち第1回転要素RE1の回転速度を求め、その回転速度をエンジン回転速度Neの最終目標値Nemとして決定する。次のステップSA3では、ステップSA2で決定された最終目標値NMG2m、Nemに達するまでの変速途中の過渡目標値NMG2t、Netを、それぞれ予め定められた直線補間等の補間処理に従って設定する。この過渡目標値NMG2t、Netは、変速時の運転状態などから求まる変速所要時間や制御サイクルタイム、要求される制御精度等に応じて複数定められる。最初のステップSA3の実行時に、最終目標値Nemに達するまでの一連の過渡目標値NMG2t、Netを総て算出するようにしても良いが、ステップSA5に続いてステップSA3が繰り返される毎に次の過渡目標値NMG2t、Netを1つずつ算出しても良い。なお、最後は最終目標値NMG2m、Nemをそのまま設定する。
【0051】
ステップSA4では、制御量であるMG2回転速度NMG2、エンジン回転速度Neが、それぞれステップSA3で設定された過渡目標値NMG2t、Netに近付くように、その過渡目標値NMG2t、Netとその時点の実際のMG2回転速度NMG2、エンジン回転速度Neとの偏差ΔNMG2、ΔNeに基づいて、次式(1) 、(2) に示す予め定められたフィードバック制御式に従って第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルク指令値TMG1s、TMG2sをそれぞれ算出し、そのトルク指令値TMG1s、TMG2sに従ってそれ等の第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルクTMG1、TMG2を制御する。このように所定の制御サイクルタイムで逐次設定される過渡目標値NMG2t、Netに対する偏差ΔNMG2、ΔNeに基づいて第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルクTMG1、TMG2がフィードバック制御されることにより、変速過渡時のエンジントルクTeの変化や有段変速機20の摩擦係合装置の係合トルクの変化、両変速機16、20の変速の相互干渉などが外乱としてフィードバック制御に反映される。
TMG1s=f1(ΔNMG2、ΔNe) ・・・(1)
TMG2s=f2(ΔNMG2、ΔNe) ・・・(2)
【0052】
図12に示すパワーONの3→2ダウンシフトの場合、第1モータジェネレータMG1のトルク指令値TMG1sはMG1回転速度NMG1を低下させるための回生トルクで、第2モータジェネレータMG2のトルク指令値TMG2sはMG2回転速度NMG2を上昇させるための力行トルクである。その場合、上記トルク指令値TMG1sのフィードバック制御式(1) は、MG2回転偏差ΔNMG2が大きい程第1モータジェネレータMG1の回生トルクTMG1が大きくなり、エンジン回転偏差ΔNeが大きい程第1モータジェネレータMG1の回生トルクTMG1が小さくなるように定められる。また、トルク指令値TMG2sのフィードバック制御式(2) は、MG2回転偏差ΔNMG2が大きい程第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2が大きくなり、エンジン回転偏差ΔNeが大きい程第2モータジェネレータMG2の力行トルクTMG2が大きくなるように定められる。
【0053】
ステップSA5では、その時点の実際のMG2回転速度NMG2、エンジン回転速度Neが、それぞれステップSA2で設定された最終目標値NMG2m、Nemに達したか否かを判断し、その最終目標値NMG2m、Nemに達するまでステップSA3以下を繰り返し実行する。そして、実際のMG2回転速度NMG2、エンジン回転速度Neが、それぞれ最終目標値NMG2m、Nemに到達したら一連の変速コントロール処理を終了する。
【0054】
このような本実施例の車両用駆動装置10の制御装置においては、無段変速機16を構成している差動機構24の2つの回転要素RE1、RE3の回転速度、すなわちエンジン回転速度NeおよびMG2回転速度NMG2を制御量として、最終目標値設定手段130により設定された最終目標値Nem、NMG2mに向かうように変速中の過渡目標値Net、NMG2tが逐次設定され、エンジン回転速度NeおよびMG2回転速度NMG2がそれぞれその過渡目標値Net、NMG2tに近付くように第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2のトルクTMG1、TMG2がフィードバック制御されるため、変速過渡時のエンジントルクTeの変化や有段変速機20の摩擦係合装置の係合トルクの変化、両変速機16、20の変速の相互干渉などは外乱としてフィードバック制御に反映される。これにより、両変速機16、20の変速が相互の干渉等に拘らず何れも適切に行われるようになり、エンジン回転速度Neの吹き上がりや有段変速機20の摩擦係合装置の急係合等による変速ショックの発生、その有段変速機20の変速時間の遅延等が抑制される。
【0055】
ここで、差動機構24の3つの回転要素RE1〜RE3の回転速度は一定の関係を有するため、その中の2つの回転要素RE1およびRE3の回転速度を制御量として制御すれば、残りの回転要素RE2の回転速度も一義的に定まり、無段変速機16の変速状態が規定される。また、差動機構24の第3回転要素RE3は伝達部材18を介して機械式の有段変速機20に連結されており、その第3回転要素RE3の回転速度が制御されることにより、有段変速機20の変速進行状態が車速Vに応じて規定される。すなわち、差動機構24の3つの回転要素RE1〜RE3の中の2つの回転要素RE1およびRE3の回転速度を制御量として制御すれば、無段変速機16および有段変速機20の変速後の状態を何れも規定することができ、それ等の変速の進行をコントロールすることができるのである。
【0056】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0057】
8:エンジン 10:車両用駆動装置 16:無段変速機 18:伝達部材 20:有段変速機 24:差動機構 34:駆動輪 100:電子制御装置 124:変速コントロール手段 130:最終目標値設定手段 132:過渡目標値設定手段 134:多入力多出力制御手段(フィードバック制御手段) MG1:第1モータジェネレータ(第1回転機) MG2:第2モータジェネレータ(第2回転機) C1〜C3:クラッチ(摩擦係合装置) B1、B2:ブレーキ(摩擦係合装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに連結された第1回転要素と第1回転機に連結された第2回転要素と伝達部材に連結された第3回転要素とを有する差動機構と、該伝達部材に連結された第2回転機と、を備えている電気的な無段変速機と、
前記伝達部材と駆動輪との間の動力伝達経路に配設され、複数の摩擦係合装置の係合解放状態に応じて変速比が異なる複数のギヤ段が成立させられる機械式の有段変速機と、
を有する車両用駆動装置の制御装置において、
前記無段変速機および前記有段変速機が共に変速される際に、前記第1回転機、前記第2回転機、および前記エンジンが連結された前記差動機構の3つの回転要素の中の少なくとも2つの回転要素の回転速度を制御量として、各々の変速後の最終目標値を設定する最終目標値設定手段と、
該最終目標値設定手段により設定された前記最終目標値に向かうように、予め定められた補間処理に従って変速中の過渡目標値を設定する過渡目標値設定手段と、
前記複数の制御量がそれぞれ前記過渡目標値設定手段によって設定された前記過渡目標値に近付くように、前記第1回転機および前記第2回転機のトルクをフィードバック制御するフィードバック制御手段と、
を有することを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項1】
エンジンに連結された第1回転要素と第1回転機に連結された第2回転要素と伝達部材に連結された第3回転要素とを有する差動機構と、該伝達部材に連結された第2回転機と、を備えている電気的な無段変速機と、
前記伝達部材と駆動輪との間の動力伝達経路に配設され、複数の摩擦係合装置の係合解放状態に応じて変速比が異なる複数のギヤ段が成立させられる機械式の有段変速機と、
を有する車両用駆動装置の制御装置において、
前記無段変速機および前記有段変速機が共に変速される際に、前記第1回転機、前記第2回転機、および前記エンジンが連結された前記差動機構の3つの回転要素の中の少なくとも2つの回転要素の回転速度を制御量として、各々の変速後の最終目標値を設定する最終目標値設定手段と、
該最終目標値設定手段により設定された前記最終目標値に向かうように、予め定められた補間処理に従って変速中の過渡目標値を設定する過渡目標値設定手段と、
前記複数の制御量がそれぞれ前記過渡目標値設定手段によって設定された前記過渡目標値に近付くように、前記第1回転機および前記第2回転機のトルクをフィードバック制御するフィードバック制御手段と、
を有することを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−30626(P2012−30626A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169763(P2010−169763)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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