説明

車両用駆動装置

【課題】伝達部材の複数の伝達歯と駆動部材の複数の駆動歯とが適切に係合する。
【解決手段】駆動装置では、スイッチが操作されて、従動クラッチ68が駆動クラッチ62に接近されることで、従動クラッチ68の複数の従動歯72が駆動クラッチ62の複数の駆動歯66に噛合されて、従動クラッチ68が駆動クラッチ62から駆動力を伝達される。ここで、駆動クラッチ62では、単数の駆動歯66Hの高さが他の全ての駆動歯66の高さに比し高くされている一方、従動クラッチ68では、全ての従動歯72の高さが同一にされている。このため、従動クラッチ68が駆動クラッチ62に接近される際に従動歯72が駆動歯66に対向する場合には、単数の従動歯72が単数の駆動歯66Hに接触されて、従動クラッチ68と駆動クラッチ62とが相対回転される。これにより、複数の従動歯72が複数の駆動歯66に適切に噛合できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた駆動機構が駆動力を伝達されることで駆動される車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載の画像形成装置では、駆動側カップリング及び従動側カップリングにそれぞれ複数の凸部が設けられており、駆動側カップリングと従動側カップリングとが噛み合うことで、駆動側カップリングの回転駆動力が従動側カップリングに伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−228748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この画像形成装置では、駆動側カップリングの各凸部及び従動側カップリングの各凸部が、それぞれ、同一の高さにされると共に、先端部を角錐形状にされている。
【0005】
このため、駆動側カップリングと従動側カップリングとが接近されて噛み合う際に、駆動側カップリングの複数の凸部の先端部と従動側カップリングの複数の凸部の先端部とが接触すると、駆動側カップリングの1つの凸部の先端部と従動側カップリングの1つの凸部の先端部との接触により駆動側カップリングに対し従動側カップリングが周方向一側への回転力を受ける一方、駆動側カップリングの他の凸部の先端部と従動側カップリングの他の凸部の先端部との接触により駆動側カップリングに対し従動側カップリングが周方向他側への回転力を受ける場合があると解される。
【0006】
この場合、駆動側カップリングと従動側カップリングとが相対回転できなくなり、駆動側カップリングと従動側カップリングとが噛み合うことができない可能性がある。
【0007】
本発明は、上記事実を考慮し、伝達部材の複数の伝達歯と駆動部材の複数の駆動歯とが適切に係合できる車両用駆動装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の車両用駆動装置は、車両に設けられ、駆動力を伝達されることで駆動される駆動機構と、複数の伝達歯が設けられ、駆動力を伝達されることで前記駆動機構に駆動力を伝達する伝達部材と、複数の駆動歯が設けられ、前記伝達部材と接近されることで複数の前記伝達歯と複数の前記駆動歯とが係合されて駆動力を前記伝達部材に伝達可能にされると共に、前記伝達部材と接近される際に単数の前記伝達歯と単数の前記駆動歯とが接触可能にされた駆動部材と、を備えている。
【0009】
請求項1に記載の車両用駆動装置では、伝達部材に複数の伝達歯が設けられると共に、駆動部材に複数の駆動歯が設けられており、伝達部材と駆動部材とが接近されることで、複数の伝達歯と複数の駆動歯とが係合されて、駆動部材が駆動力を伝達部材に伝達可能にされる。さらに、伝達部材が駆動力を伝達されることで、伝達部材が駆動機構に駆動力を伝達して、駆動機構が駆動される。
【0010】
ここで、伝達部材と駆動部材とが接近される際に、単数の伝達歯と単数の駆動歯とが接触可能にされている。このため、単数の伝達歯と単数の駆動歯との接触によって、伝達部材と駆動部材とが相対移動でき、複数の伝達歯と複数の駆動歯とが適切に係合できる。
【0011】
請求項2に記載の車両用駆動装置は、請求項1に記載の車両用駆動装置において、前記単数の伝達歯及び前記単数の駆動歯の少なくとも一方に設けられ、前記駆動部材の駆動方向に対し傾斜された傾斜面を備えている。
【0012】
請求項2に記載の車両用駆動装置では、単数の伝達歯及び単数の駆動歯の少なくとも一方に設けられた傾斜面が、駆動部材の駆動方向に対し傾斜されている。このため、伝達部材と駆動部材とが接近されて、単数の伝達歯と単数の駆動歯とが接触される際に、傾斜面によって伝達部材と駆動部材とが適切に相対移動でき、複数の伝達歯と複数の駆動歯とが一層適切に係合できる。
【0013】
請求項3に記載の車両用駆動装置は、請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動装置において、前記伝達部材と前記駆動部材とが接近される際に前記駆動部材が駆動されない。
【0014】
請求項3に記載の車両用駆動装置では、伝達部材と駆動部材とが接近される際に、駆動部材が駆動されない。このため、単数の伝達歯と単数の駆動歯とが接触されても、単数の伝達歯及び単数の駆動歯が損傷することを抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、請求項1に記載の車両用駆動装置では、伝達部材と駆動部材とが接近される際に単数の伝達歯と単数の駆動歯とが接触可能にされているため、複数の伝達歯と複数の駆動歯とが適切に係合できる。
【0016】
請求項2に記載の車両用駆動装置では、単数の伝達歯及び単数の駆動歯の少なくとも一方に設けられた傾斜面が駆動部材の駆動方向に対し傾斜されているため、複数の伝達歯と複数の駆動歯とが一層適切に係合できる。
【0017】
請求項3に記載の車両用駆動装置では、伝達部材と駆動部材とが接近される際に駆動部材が駆動されないため、単数の伝達歯及び単数の駆動歯が損傷することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るシートの主要部を示す前斜め左方から見た斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るシートの駆動装置を示す前斜め右方から見た斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るシートの駆動装置を示す前斜め右方から見た分解斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るシートの駆動装置における駆動クラッチ及び従動クラッチ等を示す前斜め右方から見た分解斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るシートの駆動装置における駆動クラッチ、従動クラッチ及びカム等を示す側面図である。
【図6】(A)〜(D)は、本発明の実施の形態に係るシートの駆動装置における駆動クラッチと従動クラッチとの噛合状況を示す展開図であり、(A)は、当該噛合前を示す図であり、(B)は、当該噛合初期を示す図であり、(C)は、当該噛合後期を示す図であり、(D)は、当該噛合状態を示す図である。
【図7】(A)〜(C)は、本発明の実施の形態に係るシートの駆動装置における3つの従動クラッチのカムによる押圧状況を示す左方から見た概略図であり、(A)は、前側の従動クラッチのカムによる押圧状況を示す図であり、(B)は、上側の従動クラッチのカムによる押圧状況を示す図であり、(C)は、後側の従動クラッチのカムによる押圧状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1には、本発明の実施の形態に係る駆動装置10(車両用駆動装置)が適用されたシート12(パワーシート)の主要部が前斜め上方から見た斜視図にて示されている。なお、図面では、シート12の前方を矢印FRで示し、シート12の右方を矢印RHで示し、シート12の上方を矢印UPで示している。
【0020】
本実施の形態に係るシート12は、車両(自動車)の車室に設置されるものであり、シート12は、前方、右方及び上方をそれぞれ車両の前方、右方及び上方に向けられる。
【0021】
図1に示す如く、シート12の下部には、シートクッション14が設けられており、シートクッション14は、略水平に配置されて、シート12に着座した乗員の下半身を下側から支持可能にされている。シートクッション14の内部には、骨格部材(フレーム)としての平面視矩形枠状のクッションフレーム16が設けられており、クッションフレーム16は、金属製にされて、シートクッション14を補強している。
【0022】
シート12の後部には、シートバック18が設けられており、シートバック18は、シートクッション14の後端から上側に起立されて、シート12に着座した乗員の上半身を後側から支持可能にされている。シートバック18の内部には、骨格部材(フレーム)としての正面視矩形枠状のバックフレーム20が設けられており、バックフレーム20は、金属製にされて、シートバック18を補強している。
【0023】
クッションフレーム16の後端とバックフレーム20の下端との間には、駆動機構(傾動手段)としてのリクライニング機構22が設けられており、リクライニング機構22が駆動されることで、クッションフレーム16に対しバックフレーム20が前後方向へ傾動(駆動)される。これにより、シートクッション14に対しシートバック18が前後方向へ傾動(駆動)されて、シートクッション14に対するシートバック18の前後方向への傾動角度が調整される。
【0024】
クッションフレーム16の右端及び左端の下側には、金属製のスライドフレーム24が設けられている。クッションフレーム16とスライドフレーム24との間には、駆動機構(上下移動手段)としての昇降機構28が設けられており、昇降機構28が駆動されることで、スライドフレーム24に対しクッションフレーム16が上下方向へ移動(駆動)されて、シート12(シートクッション14及びシートバック18)の上下方向位置が調整される。
【0025】
各スライドフレーム24の下側には、金属製のスライドレール30が設けられている。スライドフレーム24とスライドレール30との間には、駆動機構(前後移動手段)としてのスライド機構32が設けられており、スライド機構32が駆動されることで、スライドレール30に対しスライドフレーム24が前後方向へスライド(駆動)されて、シート12(シートクッション14及びシートバック18)の前後方向位置が調整される。
【0026】
クッションフレーム16の内部には、切替手段としてのクラッチユニット34が固定されている。
【0027】
図2及び図3に示す如く、クラッチユニット34の外周には、容器状の第1ケース36が設けられており、第1ケース36の内部は、左側へ開口されている。第1ケース36の左側には、板状の第2ケース38が設けられており、第2ケース38は、第1ケース36に固定されて、第1ケース36の内部を閉じている。第2ケース38には、ラック室40が形成されており、ラック室40の内部は、右側へ開口されている。第1ケース36と第2ケース38との間には、板状の第3ケース42が設けられており、第3ケース42は、第2ケース38に固定されて、ラック室40の内部を閉じている。
【0028】
第1ケース36の右壁外側には、断面略U字形板状のモータブラケット44が固定されており、モータブラケット44の右側には、駆動手段としてのモータ46が固定されている。モータ46の出力軸46Aは、モータブラケット44及び第1ケース36の右壁を貫通されて、第1ケース36の内部に挿入されており、モータ46が駆動されることで、出力軸46Aが回転される。
【0029】
第1ケース36の内部には、モータギア48が配置されており、モータギア48は、モータ46の出力軸46Aに連結されている。これにより、出力軸46Aが回転されることで、モータギア48が出力軸46Aと一体に回転される。
【0030】
第1ケース36の内部には、ギアホルダ50が固定されている。第1ケース36とギアホルダ50との間には、主駆動部材としてのアイドルギア52が回転自在に支持されており、アイドルギア52の右側部は、アイドルギア52の左側部に比し、大径にされている。アイドルギア52の右側部(大径部)の外周は、モータギア48の外周に噛合されており、モータギア48が回転されることで、アイドルギア52が回転される。
【0031】
第1ケース36の内部には、切替機構としてのクラッチ機構54が3個設けられており、3個のクラッチ機構54は、アイドルギア52の前側(一側方)、上側及び後側(他側方)に配置されている。
【0032】
クラッチ機構54には、略円軸状のクラッチシャフト56が設けられており、クラッチシャフト56は、第1ケース36の内部に回転自在に支持されている。
【0033】
第1ケース36の右壁外側には、略円筒状のケーブルホルダ58が3個固定されている。ケーブルホルダ58には、伝達手段としてのケーブル60(図1参照)が挿通かつ保持されており、ケーブル60は、第1ケース36の右壁を貫通されて、クラッチシャフト56に接続されている。
【0034】
図1に示す如く、前側のクラッチシャフト56に接続されたケーブル60は、リクライニング機構22に接続されており、前側のクラッチシャフト56が回転されることで、リクライニング機構22が当該ケーブル60を介して駆動力を伝達されて駆動される。上側のクラッチシャフト56に接続されたケーブル60は、昇降機構28に接続されており、上側のクラッチシャフト56が回転されることで、昇降機構28が当該ケーブル60を介して駆動力を伝達されて駆動される。後側のクラッチシャフト56に接続されたケーブル60は、スライド機構32に接続されており、後側のクラッチシャフト56が回転されることで、スライド機構32が当該ケーブル60を介して駆動力を伝達されて駆動される。
【0035】
図4に示す如く、クラッチシャフト56の左端近傍には、外周断面略楕円状(外周断面非円状)の係止部56Aが形成されており、係止部56Aの最大径は、クラッチシャフト56の他の部分の径に比し、大きくされている。
【0036】
クラッチシャフト56には、係止部56Aの右側において、駆動部材(被接近部材)としての駆動クラッチ62が回転自在に支持されている。クラッチシャフト56は、駆動クラッチ62の両側において、略円環状のブッシュ64に挿通されており、一対のブッシュ64によって駆動クラッチ62のクラッチシャフト56軸方向両側への移動が係止されている。
【0037】
駆動クラッチ62の左面には、周部全体において、略矩形柱状の駆動歯66が複数形成されており、複数の駆動歯66は、駆動クラッチ62の周方向に沿って、等間隔に配置されている。
【0038】
図6の(A)〜(D)に示す如く、駆動歯66間の間隙の駆動クラッチ62周方向における幅は、駆動歯66の駆動クラッチ62周方向における幅に比し、大きくされている。駆動歯66の先端部は、断面三角形状にされて、一対の傾斜面66Aが形成されており、駆動クラッチ62周方向一側の傾斜面66Aは、駆動クラッチ62周方向一側へ向かうに従い駆動歯66基端側へ向かう方向へ傾斜されると共に、駆動クラッチ62周方向他側の傾斜面66Aは、駆動クラッチ62周方向他側へ向かうに従い駆動歯66基端側へ向かう方向へ傾斜されている。複数の駆動歯66の高さ(駆動クラッチ62の左面から左方への突出寸法)は、単数の駆動歯66(以下「駆動歯66H」という)以外の全ての駆動歯66において、同一にされており、単数の駆動歯66Hの高さは、他の全ての駆動歯66の高さに比し、所定寸法(例えば0.3mm)だけ高くされている。
【0039】
図3に示す如く、各駆動クラッチ62の外周は、アイドルギア52の左側部(小径部)の外周に噛合されており、アイドルギア52が回転されることで、各駆動クラッチ62が回転される。
【0040】
図4に示す如く、クラッチシャフト56には、係止部56Aにおいて、伝達部材(接近部材)としての従動クラッチ68が支持されており、従動クラッチ68は、クラッチシャフト56と一体回転可能にされると共に、クラッチシャフト56の軸方向へ移動(スライド)可能にされている。
【0041】
図5にも示す如く、クラッチシャフト56と従動クラッチ68との間には、付勢手段としての圧縮コイルスプリング70が架け渡されており、従動クラッチ68は、圧縮コイルスプリング70によって左方へ付勢されて、駆動クラッチ62から左側へ離間した位置に係止されている。従動クラッチ68の左端は、断面台形状にされており、従動クラッチ68の左端の周部は、従動クラッチ68の径方向内側へ向かうに従い左側へ向かう方向へ傾斜されている。
【0042】
従動クラッチ68の右面には、周部全体において、伝達歯としての略矩形柱状の従動歯72が複数形成されており、複数の従動歯72は、従動クラッチ68の周方向に沿って、等間隔に配置されている。従動クラッチ68の従動歯72形成部分の径は、駆動クラッチ62の駆動歯66形成部分の径と、同一にされると共に、従動クラッチ68の従動歯72の数は、駆動クラッチ62の駆動歯66の数と、同一にされている。
【0043】
図6の(A)〜(D)に示す如く、従動歯72の従動クラッチ68周方向における幅及び従動歯72間の間隙の従動クラッチ68周方向における幅は、それぞれ駆動歯66の駆動クラッチ62周方向における幅及び駆動歯66間の間隙の駆動クラッチ62周方向における幅と、同一にされており、従動歯72間の間隙の従動クラッチ68周方向における幅は、従動歯72の従動クラッチ68周方向における幅に比し、大きくされている。従動歯72の先端部は、断面三角形状にされて、一対の傾斜面72Aが形成されており、従動クラッチ68周方向一側の傾斜面72Aは、従動クラッチ68周方向一側へ向かうに従い従動歯72基端側へ向かう方向へ傾斜されると共に、従動クラッチ68周方向他側の傾斜面72Aは、従動クラッチ68周方向他側へ向かうに従い従動歯72基端側へ向かう方向へ傾斜されている。また、全ての従動歯72の高さ(従動クラッチ68の右面から右方への突出寸法)は、同一にされている。
【0044】
図3に示す如く、第1ケース36の内部には、ギアホルダ50の左側において、セレクタを構成する略円軸状のカムシャフト74が設けられており、カムシャフト74は、アイドルギア52と同軸上に配置されている。カムシャフト74の左部は、第3ケース42を貫通されて第2ケース38のラック室40下部に挿入されると共に、第2ケース38に支持されており、カムシャフト74は、回転自在にされている。カムシャフト74の右端には、セレクタを構成する切替部材としての略円盤状のカム76の周部が固定されており、カムシャフト74が回転されることで、カム76が、カムシャフト74を中心として回動されて、各クラッチ機構54の従動クラッチ68の左側に回動可能にされている。
【0045】
図5に示す如く、カム76の右端は、断面台形状にされており、カム76の右端の周部は、カム76の径方向内側へ向かうに従い右側へ向かう方向へ傾斜されている。カム76が従動クラッチ68の左側に回動される際には、カム76の右端周部が従動クラッチ68の左端周部を押圧することで、従動クラッチ68が、圧縮コイルスプリング70の付勢力に抗して右方へ移動されて、駆動クラッチ62に接近される。これにより、カム76が従動クラッチ68の左側に回動された際には、従動クラッチ68の複数の従動歯72が駆動クラッチ62の複数の駆動歯66に噛合(係合)される。
【0046】
図6(D)に示す如く、複数の従動歯72が複数の駆動歯66に噛合された際には、各従動歯72の先端(頂部)が駆動クラッチ62(駆動歯66間の間隙の底面)から離間されると共に、各駆動歯66の先端(頂部)が従動クラッチ68(従動歯72間の間隙の底面)から離間される。
【0047】
図3に示す如く、第2ケース38のラック室40には、ラック78がスライド可能に収容されている。ラック78の下部には、カムシャフト74の左部が噛合されており、ラック78がスライドされることで、カムシャフト74が回転される。
【0048】
図1〜図3に示す如く、クラッチユニット34の左側(第2ケース38の左側)には、スイッチ80が配置されている。スイッチ80は、クッションフレーム16の左端外側に取り付けられており、スイッチ80の左側部は、シートクッション14の外部に露出されている。
【0049】
スイッチ80の左側部には、操作部としての略円柱状の回転部82(ダイヤル部)が回転可能に設けられており、回転部82は、「リクライニング位置」、「昇降位置」及び「スライド位置」に回転操作可能にされている。
【0050】
回転部82には、中心軸位置において、円軸状の回転軸84が一体回転可能に連結されており、回転軸84は、スイッチ80に対し右方に延出されている。回転軸84は、クッションフレーム16の左端を貫通されてクッションフレーム16の内部に挿入されており、回転軸84の右部は、第2ケース38を貫通されて第2ケース38のラック室40上部に挿入されると共に、第3ケース42に支持されている。回転軸84の右部は、ラック室40のラック78の上部に噛合されており、回転部82が回転操作されて、回転軸84が回転されることで、ラック78がスライドされる。このため、カムシャフト74が回転されて、カム76が回動される。
【0051】
図7(A)に示す如く、回転部82が「リクライニング位置」に回転操作された際には、カム76が前側のクラッチ機構54の従動クラッチ68の左側に回動される。図7(B)に示す如く、回転部82が「昇降位置」に回転操作された際には、カム76が上側のクラッチ機構54の従動クラッチ68の左側に回動される。図7(C)に示す如く、回転部82が「スライド位置」に回転操作された際には、カム76が後側のクラッチ機構54の従動クラッチ68の左側に回動される。
【0052】
図1に示す如く、回転部82の左側には、操作部としての略矩形柱状のスライド部86がスライド可能に保持されており、スライド部86は、「初期位置」から互いに反対側の「正回転位置」と「逆回転位置」とにスライド操作可能にされている。
【0053】
スライド部86は、モータ46に電気的に接続されており、スライド部86が「正回転位置」又は「逆回転位置」にスライド操作されることで、それぞれ、モータ46が正駆動又は逆駆動されて、モータ46の出力軸46Aが正回転又は逆回転される。
【0054】
次に、本実施の形態の作用及び効果について説明する。
【0055】
以上の構成のシート12では、スイッチ80の回転部82が「リクライニング位置」、「昇降位置」又は「スライド位置」に回転操作されることで、回転軸84が回転部82と一体に回転されて、ラック78がスライドされる。このため、カムシャフト74が回転されて、それぞれ、カム76が前側、上側又は後側のクラッチ機構54の従動クラッチ68の左側に回動される。
【0056】
カム76が従動クラッチ68の左側に回動される際には、カム76の右端周部が従動クラッチ68の左端周部を押圧することで、従動クラッチ68が、圧縮コイルスプリング70の付勢力に抗して右方へ移動されて、駆動クラッチ62に接近される。これにより、カム76が従動クラッチ68の左側に回動された際には、従動クラッチ68の複数の従動歯72が駆動クラッチ62の複数の駆動歯66に噛合される。
【0057】
さらに、スイッチ80のスライド部86が「正回転位置」又は「逆回転位置」にスライド操作されることで、それぞれ、モータ46が正駆動又は逆駆動されて、モータ46の出力軸46Aが正回転又は逆回転される。このため、それぞれ、モータギア48が出力軸46Aと一体に正回転又は逆回転されることで、アイドルギア52が正回転又は逆回転されて、各クラッチ機構54の駆動クラッチ62が正回転又は逆回転される。
【0058】
スイッチ80の回転部82が「リクライニング位置」に回転操作された際には、前側のクラッチ機構54において、従動クラッチ68の複数の従動歯72が駆動クラッチ62の複数の駆動歯66に噛合されることで、従動クラッチ68が駆動クラッチ62によって正回転又は逆回転されて(駆動クラッチ62から駆動力を伝達されて)、クラッチシャフト56が正回転又は逆回転される。これにより、リクライニング機構22がケーブル60を介して駆動力を伝達されて正駆動又は逆駆動されることで、シートクッション14に対しシートバック18が前側又は後側へ傾動されて、シートクッション14に対するシートバック18の前後方向への傾動角度が調整される。
【0059】
スイッチ80の回転部82が「昇降位置」に回転操作された際には、上側のクラッチ機構54において、従動クラッチ68の複数の従動歯72が駆動クラッチ62の複数の駆動歯66に噛合されることで、従動クラッチ68が駆動クラッチ62によって正回転又は逆回転されて(駆動クラッチ62から駆動力を伝達されて)、クラッチシャフト56が正回転又は逆回転される。これにより、昇降機構28がケーブル60を介して駆動力を伝達されて正駆動又は逆駆動されることで、スライドフレーム24に対しクッションフレーム16が上側又は下側へ移動されて、シート12(シートクッション14及びシートバック18)の上下方向位置が調整される。
【0060】
スイッチ80の回転部82が「スライド位置」に回転操作された際には、後側のクラッチ機構54において、従動クラッチ68の複数の従動歯72が駆動クラッチ62の複数の駆動歯66に噛合されることで、従動クラッチ68が駆動クラッチ62によって正回転又は逆回転されて(駆動クラッチ62から駆動力を伝達されて)、クラッチシャフト56が正回転又は逆回転される。これにより、スライド機構32がケーブル60を介して駆動力を伝達されて正駆動又は逆駆動されることで、スライドレール30に対しスライドフレーム24が前側又は後側へスライドされて、シート12(シートクッション14及びシートバック18)の前後方向位置が調整される。
【0061】
ここで、クラッチ機構54の駆動クラッチ62では、複数の駆動歯66の高さが、単数の駆動歯66H以外の全ての駆動歯66において、同一にされると共に、単数の駆動歯66Hの高さが、他の全ての駆動歯66の高さに比し、所定寸法だけ高くされている。一方、クラッチ機構54の従動クラッチ68では、全ての従動歯72の高さが、同一にされている。
【0062】
このため、図6(A)に示す如く、従動クラッチ68が右方へ移動されて駆動クラッチ62に接近される際に、従動クラッチ68の従動歯72が駆動クラッチ62の駆動歯66に左右方向において対向する場合には、図6(B)に示す如く、従動クラッチ68の単数の従動歯72が駆動クラッチ62の単数の駆動歯66Hに接触されて、従動クラッチ68の当該単数の従動歯72以外の従動歯72が駆動クラッチ62の当該単数の駆動歯66H以外の駆動歯66に接触されない。これにより、図6(C)に示す如く、当該単数の従動歯72が当該単数の駆動歯66Hの傾斜面66Aに案内(摺動)されるか当該単数の従動歯72の傾斜面72Aに当該単数の駆動歯66Hが案内(摺動)されるかの少なくとも一方により、従動クラッチ68及び駆動クラッチ62の少なくとも一方が回転されて、従動クラッチ68と駆動クラッチ62とが相対回転される。このため、図6(D)に示す如く、従動クラッチ68の各従動歯72が駆動クラッチ62の駆動歯66間の間隙に挿入されると共に、駆動クラッチ62の各駆動歯66が従動クラッチ68の従動歯72間の間隙に挿入されて、従動クラッチ68の複数の従動歯72が駆動クラッチ62の複数の駆動歯66に噛合される。
【0063】
このように、従動クラッチ68が右方へ移動されて駆動クラッチ62に接近される際に、従動歯72が駆動歯66に左右方向において対向する場合でも、単数の従動歯72が単数の駆動歯66Hに接触されることで、複数の従動歯72が複数の駆動歯66に適切に噛合できる。このため、スイッチ80の回転部82を回転操作することでカム76の回動により従動クラッチ68を駆動クラッチ62に接近させて噛合させる際における回転部82の操作力が大きくなることを抑制できる。
【0064】
さらに、駆動クラッチ62の単数の駆動歯66Hの先端部が、断面三角形状にされて、一対の傾斜面66Aが形成されている。しかも、従動クラッチ68の各従動歯72の先端部が、断面三角形状にされて、一対の傾斜面72Aが形成されている。このため、従動クラッチ68の単数の従動歯72が駆動クラッチ62の単数の駆動歯66Hに接触された際に、従動クラッチ68と駆動クラッチ62とが適切に相対回転でき、複数の従動歯72が複数の駆動歯66に一層適切に噛合できる。
【0065】
また、スイッチ80の回転部82が回転操作されて、従動クラッチ68が駆動クラッチ62に接近される際には、スイッチ80のスライド部86がスライド操作されずに、駆動クラッチ62が回転されていない。このため、従動クラッチ68の単数の従動歯72が駆動クラッチ62の単数の駆動歯66Hに接触されても、当該単数の従動歯72及び当該単数の駆動歯66Hが損傷することを抑制できる。
【0066】
さらに、図6(D)に示す如く、従動クラッチ68の複数の従動歯72が駆動クラッチ62の複数の駆動歯66に噛合された際には、従動クラッチ68の各従動歯72の先端(頂部)が駆動クラッチ62(駆動歯66間の間隙の底面)から離間されると共に、駆動クラッチ62の各駆動歯66の先端(頂部)が従動クラッチ68(従動歯72間の間隙の底面)から離間される。このため、従動クラッチ68の各従動歯72及び駆動クラッチ62の各駆動歯66が損傷することを抑制できる。
【0067】
なお、本実施の形態において、駆動クラッチ62の単数の駆動歯66Hの高さを他の全ての駆動歯66の高さに比し高くするために、単数の駆動歯66Hの一部(頂部)のみの高さを他の全ての駆動歯66の高さに比し高くした構成としてもよい。
【0068】
また、本実施の形態では、駆動クラッチ62の単数の駆動歯66Hの高さを他の全ての駆動歯66の高さに比し高くすると共に、従動クラッチ68の全ての従動歯72の高さを同一にした構成としたが、従動クラッチ68が駆動クラッチ62に接近される際に従動クラッチ68の単数の従動歯72が駆動クラッチ62の単数の駆動歯66に接触される構成であればよい。例えば、駆動クラッチ62の全ての駆動歯66の高さを同一にすると共に、従動クラッチ68の単数の従動歯72の高さを他の全ての従動歯72の高さに比し高くした構成としてもよい。この場合、単数の従動歯72の一部(頂部)のみの高さを他の全ての従動歯72の高さに比し高くした構成としてもよい。
【0069】
さらに、本実施の形態では、駆動歯66の先端部が断面三角形状にされて一対の傾斜面66Aを形成されると共に、従動歯72の先端部が断面三角形状にされて一対の傾斜面72Aを形成された構成としたが、駆動歯66の先端部及び従動歯72の先端部の少なくとも一方が断面半円状にされて一対の湾曲傾斜面を形成された構成としてもよい。しかも、駆動歯66の先端部及び従動歯72の先端部の少なくとも一方が断面直角三角形状又は断面四半円状にされて1つの傾斜面又は湾曲傾斜面を形成された構成としてもよい。
【0070】
また、本実施の形態において、スイッチ80が操作されることで、シートクッション14の前部が後部に対し上下方向へ回動され、又は、シートバック18の少なくとも一部(下部等)が前後方向へ移動される構成としてもよい。
【0071】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施の形態に限定されないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0072】
10 駆動装置(車両用駆動装置)
22 リクライニング機構(駆動機構)
28 昇降機構(駆動機構)
32 スライド機構(駆動機構)
62 駆動クラッチ(駆動部材)
66 駆動歯
66A 傾斜面
68 従動クラッチ(伝達部材)
72 従動歯(伝達歯)
72A 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ、駆動力を伝達されることで駆動される駆動機構と、
複数の伝達歯が設けられ、駆動力を伝達されることで前記駆動機構に駆動力を伝達する伝達部材と、
複数の駆動歯が設けられ、前記伝達部材と接近されることで複数の前記伝達歯と複数の前記駆動歯とが係合されて駆動力を前記伝達部材に伝達可能にされると共に、前記伝達部材と接近される際に単数の前記伝達歯と単数の前記駆動歯とが接触可能にされた駆動部材と、
を備えた車両用駆動装置。
【請求項2】
前記単数の伝達歯及び前記単数の駆動歯の少なくとも一方に設けられ、前記駆動部材の駆動方向に対し傾斜された傾斜面を備えた請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記伝達部材と前記駆動部材とが接近される際に前記駆動部材が駆動されない請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−169429(P2011−169429A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35268(P2010−35268)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】