説明

車両用駆動装置

【課題】電動機に連結された遊星歯車装置のピニオンの耐久性低下を抑制することができる車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】第2モータジェネレータMG2のロータ60においてその軸中心線C1方向の中央位置PCから第1軸受56の支持位置P1までの軸中心線C1方向の第1距離L1が、上記中央位置PCから第2軸受58の支持位置P2までの軸中心線C1方向の第2距離L2と同じになるように設定されている。そのため、第2モータジェネレータMG2のロータシャフト54が振れながら回転する過程で、ロータシャフト54が第1軸受56および第2軸受58により支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機とその電動機の回転を減速する遊星歯車装置とを備える車両用駆動装置に係り、特に、その遊星歯車装置の耐久性低下を抑制するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機と、その電動機のロータシャフトの一端部と出力部材との間に同心に設けられ、前記電動機のロータシャフトの回転を減速して前記出力部材へ伝達する遊星歯車装置と、その遊星歯車装置側の前記ロータシャフトの一端部を回転可能に支持する第1軸受と、前記ロータシャフトの他端部を回転可能に支持する第2軸受とを備えた車両用駆動装置が知られている。例えば、特許文献1に記載されたものがそれである。なお、特許文献1においては、モータMG2、第2プラネタリギヤ35、ベアリング67、およびベアリング69が、それぞれ上記電動機、上記遊星歯車装置、上記第1軸受、および上記第2軸受に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−308094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の車両用駆動装置においては、電動機が回転する際に、電動機のロータの重心の偏心や、電動機のロータとステータとの径方向の隙間が周方向において異なることに起因する電磁力の偏り等の影響により、ロータシャフトの両端部に振れが生じる場合がある。そのような振れが生じつつ回転する過程では、ロータシャフトは、第1軸受および第2軸受に存在する僅かな径方向隙間のうちの円周方向の一部を詰めつつ回転することとなる。そして、第1軸受および第2軸受は、径方向隙間が詰められた周方向位置でロータシャフトを支持することとなる。
【0005】
ところが、上記従来の車両用駆動装置においては、電動機のロータの軸中心線方向における中央位置から第1軸受の支持位置までの軸中心線方向距離が、上記中央位置から第2軸受の支持位置までの軸中心線方向距離よりも短く設定されている。そして、遊星歯車装置のサンギヤが第1軸受よりも ロータシャフトの一端部の軸端に設けられている。したがって、電動機のロータシャフトの両端部が振れながら回転する過程で、第1軸受の径方向隙間が詰まるよりも前に、第2軸受の径方向隙間が詰まると共に遊星歯車装置のサンギヤとそれと噛み合う所定のピニオンとの間のガタが詰まり、ロータシャフトが第2軸受と上記ピニオンとにより支持される可能性があった。その場合には上記ピニオンに作用する荷重が増すこととなり、そのピニオンの耐久性が低下する可能性があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、電動機に連結された遊星歯車装置のピニオンの耐久性低下を抑制することができる車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、(a)電動機と、該電動機のロータを支持するために該ロータから突き出すロータシャフトと、該ロータシャフトの一端部と出力部材との間に同心に設けられ、該電動機のロータシャフトの回転を減速して該出力部材へ伝達する遊星歯車装置と、該ロータシャフトの該遊星歯車装置側の一端部を回転可能に支持する第1軸受と、該ロータシャフトの他端部を回転可能に支持する第2軸受とを備えた車両用駆動装置であって、(b)前記第1軸受および前記第2軸受は、前記電動機のロータの軸中心線方向の中央位置からその第1軸受の支持位置までの前記軸中心線方向の距離が、前記中央位置から前記第2軸受の支持位置までの前記軸中心線方向の距離以上となるように設けられていることにある。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、電動機のロータの軸中心線方向の中央位置から第1軸受の支持位置までの軸中心線方向の距離が、上記中央位置から第2軸受の支持位置までの軸中心線方向の距離以下となるように設定されているので、電動機のロータシャフトの両端部が振れながら回転する過程で、ロータシャフトが第1軸受および第2軸受により支持される。よって、ロータシャフトが第1軸受により支持されず遊星歯車装置のピニオンにより支持されてそのピニオンに作用する荷重が増すことが回避されるので、そのピニオンの耐久性低下を抑制することができる。
【0009】
ここで、好適には、(c)前記ロータシャフトの一端部は、前記遊星歯車装置のサンギヤと相対回転不能に嵌合して該サンギヤを支持し、該ロータシャフトの一端部は、該サンギヤよりも前記ロータ側において前記第1軸受によって回転可能に支持されていることを特徴とする。このようにすれば、ロータシャフトの一端部を第1軸受により確実に支持させることができるので、ロータシャフトが第1軸受により支持されず遊星歯車装置のピニオンにより支持されてそのピニオンに作用する荷重が増すことが好適に回避される。
【0010】
また、好適には、(d)前記ロータシャフトの一端部は、前記遊星歯車装置のサンギヤと相対回転不能に嵌合して該サンギヤを支持し、該ロータシャフトの一端部は、該サンギヤよりも前記ロータとは反対側において前記第1軸受によって回転可能に支持されていることを特徴とする。すなわち、前記第1軸受は、前記遊星歯車装置のサンギヤおよびピニオンよりも前記ロータシャフトの先端側に設けられる。このようにすれば、ロータシャフトを第1軸受により確実に支持させることができる。よって、ロータシャフトが第1軸受により支持されず遊星歯車装置のピニオンにより支持されてそのピニオンに作用する荷重が増すことが回避される。また、第1軸受の径方向隙間が遊星歯車装置のサンギヤとピニオンとの間の径方向のガタと比べて小さい場合でも、電動機のロータシャフトが振れながら回転する過程で、ロータシャフトを第1軸受により確実に支持させることができる。
【0011】
また、好適には、(e)前記電動機および遊星歯車装置を収容するケースを含み、前記遊星歯車装置は、前記サンギヤと噛み合う複数個のピニオンを前記軸中心線に平行な軸心まわりに回転可能にそれぞれ支持し且つ前記ケースに固設されたキャリヤを、有するものであることを特徴とする。このような構成では、キャリヤがケースに固定されていることから、ロータシャフトが振れたときにはそのロータシャフトの一端部に支持されたサンギヤも振れるので、そのサンギヤは上記ピニオンにより支持されてそのピニオンの荷重が増加し易い傾向が存在するが、前述のように、ロータシャフトが第1軸受により支持されず遊星歯車装置のピニオンにより支持されてそのピニオンに作用する荷重が増すことが回避されるので、このような構成の遊星歯車装置でも、そのピニオンの耐久性低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例の車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1のII-II矢視部の円筒状出力部材、第2ピニオン、第2キャリヤ、および減速歯車装置を示す図である。
【図3】図1の車両用駆動装置のうちの第2モータジェネレータのロータ、ロータシャフト、減速用遊星歯車装置、第1軸受、および第2軸受を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施例における車両用駆動装置の一部を示す断面図であって、実施例1の図3に相当する図である。
【図5】図4の車両用駆動装置において、第2モータジェネレータのロータシャフトの端部が振れながら回転する場合のピニオン荷重、第1軸受荷重、および第2軸受荷重の変化をそれぞれ同じ時系列で示すグラフである。
【図6】本発明の他の実施例における車両用駆動装置の一部を示す断面図であって、実施例1の図3に相当する図である。
【図7】本発明の他の実施例における第2モータジェネレータのロータシャフトの端部が振れながら回転する場合のピニオン荷重、第1軸受荷重、および第2軸受荷重の変化をそれぞれ同じ時系列で示すグラフであって、図5に相当する図である。
【図8】従来の車両用駆動装置を示す断面図であって、実施例1の図3に相当する図である。
【図9】図8の従来の車両用駆動装置において、第2モータジェネレータのロータシャフトの端部が振れながら回転する場合のピニオン荷重、第1軸受荷重、および第2軸受荷重をそれぞれ時系列で示すグラフであって、実施例1の図5に相当する図である。
【図10】図8の従来の車両用駆動装置において、第2モータジェネレータのロータシャフトの両端部が振れながら回転する様子を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の一実施例の車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。図1において、車両用駆動装置10は、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)形式のハイブリッド車両に備えられる。この車両用駆動装置10は、駆動輪12を駆動するためのものであり、エンジン14と、そのエンジン14の出力軸(クランク軸)にダンパ装置18を介して連結された動力伝達軸20と、動力伝達軸20の外周側においてダンパ装置18および動力伝達軸20とそれぞれ同心に設けられると共にトランスアクスルケース16内に収容され、ダンパ装置18側から順に設けられた第1モータジェネレータMG1、動力分配用遊星歯車装置22、減速用遊星歯車装置24、および第2モータジェネレータMG2とを備えている。上記ダンパ装置18、動力伝達軸20、第1モータジェネレータMG1、動力分配用遊星歯車装置22、減速用遊星歯車装置24、および第2モータジェネレータMG2は、共通の軸中心線C1上に同心に配置されている。第2モータジェネレータMG2は、本発明における電動機に相当するものである。また、減速用遊星歯車装置24は、本発明の遊星歯車装置に相当するものである。
【0015】
動力分配用遊星歯車装置22は、第1モータジェネレータMG1に連結された第1サンギヤS1と、動力分配用遊星歯車装置22および減速用遊星歯車装置24の外周側に配置された円筒状出力部材26の動力分配用遊星歯車装置22側の端部に一体に設けられた第1リングギヤR1と、第1サンギヤS1の外周側および第1リングギヤR1の内周側においてそれら第1サンギヤS1および第1リングギヤR1にそれぞれ噛み合わされた複数の第1ピニオンP1と、動力伝達軸20に連結され、複数の第1ピニオンP1をそれぞれ回転可能且つ軸中心線C1まわりの公転可能に支持する第1キャリヤCA1とを有するシングルピニオン型の遊星歯車装置である。この動力分配用遊星歯車装置22は、エンジン14からの動力を第1モータジェネレータMG1と円筒状出力部材26とに機械的に分配する動力分配機構として機能するものであり、円筒状出力部材26の内周側において減速用遊星歯車装置24に隣接して設けられている。なお、上記円筒状出力部材26は、本発明における出力部材に相当するものである。
【0016】
上記動力分配用遊星歯車装置22により第1モータジェネレータMG1に分配されたエンジン14の動力は、その第1モータジェネレータMG1を発電機として駆動するために用いられる。また、動力分配用遊星歯車装置22により円筒状出力部材26に分配されたエンジン14の動力は、駆動輪12を回転駆動するために用いられる。上記円筒状出力部材26の軸中心線C1方向の中間部には、その軸中心線C1方向において動力分配用遊星歯車装置22の第1リングギヤR1と減速用遊星歯車装置24の第2リングギヤR2との間に位置する外周歯から成る第1ドライブギヤ28が一体に設けられている。
【0017】
第1モータジェネレータMG1は、エンジン14により動力分配用遊星歯車機構22を介して駆動されることで発電機として機能させられ、発電により発生した電気エネルギーを例えばバッテリ等の蓄電装置に充電する。また、第1モータジェネレータMG1は、例えばエンジン始動時には動力分配用遊星歯車機構22を介してエンジン14を駆動することで電動機(エンジンスターター)として機能させられる。
【0018】
上記動力分配用遊星歯車装置22の差動状態は、第1モータジェネレータMG1の運転状態が制御されることにより連続的に変化させられる。そのため、動力分配用遊星歯車装置22および第1モータジェネレータMG1は、その第1モータジェネレータMG1の運転状態を制御して動力分配用遊星歯車装置22の差動状態を連続的に変化させることにより円筒状出力部材26の回転速度を無段階に変化させる電気式変速部を構成している。円筒状出力部材26に形成された第1ドライブギヤ28は、その電気式変速部の出力歯車として機能する。
【0019】
減速用遊星歯車装置24は、第2モータジェネレータMG2に連結された第2サンギヤS2と、円筒状出力部材26の減速用遊星歯車装置24側の端部に内周歯として一体に設けられた第2リングギヤR2と、第2サンギヤS2の外周側および第2リングギヤR2の内周側においてそれら第2サンギヤS2および第2リングギヤR2にそれぞれ噛み合わされた複数個(本実施例では5個)の第2ピニオンP2と、トランスアクスルケース16に相対回転不能に嵌合されることにより固定され、複数の第2ピニオンP2を軸中心線C1に平行な回転軸心まわりにそれぞれ回転可能に支持する位置固定の第2キャリヤCA2とを有するシングルピニオン型の遊星歯車装置である。この減速用遊星歯車装置24は、第2モータジェネレータMG2の回転を減速して円筒状出力部材26へ伝達するものである。
【0020】
第2モータジェネレータMG2は、単独で或いはエンジン14と共に駆動輪12を回転駆動する駆動用電動機として機能させられる。また、第2モータジェネレータMG2は、例えば車両の減速時等には駆動輪12により駆動されることで発電機として機能させられ、発電により発生した電気エネルギーを例えばバッテリ等の蓄電装置に充電する。
【0021】
車両用駆動装置10は、さらに、円筒状出力部材26の回転を減速して差動歯車装置40へ伝達する減速歯車装置36と、その減速歯車装置36から伝達された動力を、左右一対の車軸38にそれらの回転差を許容しつつ分配する差動歯車装置40とを備えている。減速歯車装置36は、前記第1ドライブギヤ28と、動力伝達軸20に平行に設けられたカウンタ軸42に一体に設けられて第1ドライブギヤ28に噛み合わされた第1ドリブンギヤ44と、カウンタ軸42に一体に設けられた第2ドライブギヤ46と、差動歯車装置40のデフケース48の外周側に固定されて第2ドライブギヤ46に噛み合わされた第2ドリブンギヤ50とを有して構成されている。
【0022】
このように構成された車両用駆動装置10は、例えばエンジン始動時には第1モータジェネレータMG1を用いてエンジン14を始動する。また、車両の発進時には第2モータジェネレータMG2を用いて駆動輪12を駆動する。また、車両の定常走行時には、エンジン14の動力を動力分配用遊星歯車装置22により円筒状出力部材26と第1モータジェネレータMG1とに分配し、円筒状出力部材26に分配された動力の一部により駆動輪12を駆動する共に、第1モータジェネレータMG1に分配された動力の他部によりその第1モータジェネレータMG1を発電させ、その発電により得られた電力により第2モータジェネレータMG2を駆動することでエンジン14の動力を補助する。また、車両の減速時および制動時には、駆動輪12から伝わる動力により第2モータジェネレータMG2を回転させて回生発電を行うことで、運動エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電装置に回収する。
【0023】
図2は、図1のII-II矢視部の円筒状出力部材26、第2ピニオンP2、第2キャリヤCA2、および減速歯車装置36を示す図である。なお、図2において、円筒状出力部材26は、第1ドリブンギヤ44と噛み合う周方向の一部のみが断面で示されている。円筒状出力部材26(第1ドライブギヤ28、第2リングギヤR2)は、図2中に矢印aで示す方向すなわちエンジン14側から見て右回りに回転する。それに伴って、第1ドリブンギヤ44および第2ドライブギヤ46は図中に矢印bで示す方向に回転し、第2ドリブンギヤ50は図中に矢印cで示す方向に回転する。
【0024】
第2キャリヤCA2は、外周部のうちの第1ドリブンギヤ44とは反対側の周方向の一部に偏って位置して径方向外側に突き出すように形成され、前記トランスアクスルケース16に周方向に係合された複数(本実施例では4つ)の係合歯52を備えている。これにより、第2キャリヤCA2は、軸中心線C1まわりの回転不能に前記トランスアクスルケース16に固定されている。
【0025】
なお、図2において、第1ドライブギヤ28と第1ドリブンギヤ44とが噛み合う周方向位置から第2リングギヤR2の回転方向前方側の2つ目に位置する第2ピニオンP2を、No.1ピニオンP2(1)と称する。そして、そのNo.1ピニオンP2(1)から第2リングギヤR2の回転方向において順にNo.2ピニオンP2(2)、No.3ピニオンP2(3)、No.4ピニオンP2(4)、No.5ピニオンP2(5)と称する。これらの名称は以下で共通して用いる。
【0026】
図1に戻って、第2モータジェネレータMG2のロータシャフト54は、減速用遊星歯車装置24側の一端部が第1軸受56により回転可能に支持され、また、他端部が第2軸受58により回転可能に支持されている。
【0027】
図3は、図1の車両用駆動装置10の第2モータジェネレータMG2のロータ60、そのロータ60から軸中心線C1方向両側に突き出されたロータシャフト54、減速用遊星歯車装置24、ロータシャフト54の一端部および他端部を回転可能に支持する第1軸受56および第2軸受58を示す断面図である。図3に示すように、ロータシャフト54は、第2モータジェネレータMG2のロータ60が固定された中間部54aと、その中間部54aの減速用遊星歯車装置24側において第1軸受56により回転可能に支持された第1端部(一端部)54bと、中間部54aの減速用遊星歯車装置24とは反対側において第2軸受58により回転可能に支持された第2端部(他端部)54cと、上記第1端部54bの先端側すなわち減速用遊星歯車装置24側の一部であってその減速用遊星歯車装置24の第2サンギヤS2が外周側にスプライン嵌合により相対回転不能に嵌め着けられてその第2サンギヤS2を片持状に支持するサンギヤ嵌合部54dとを有している。
【0028】
第1軸受56および第2軸受58は、第2モータジェネレータMG2のロータ60の軸中心線C1方向における中央位置PCからその第1軸受56の支持位置P1までの軸中心線C1方向の距離すなわち第1距離L1と、上記中央位置PCから第2軸受58の支持位置P2までの軸中心線C1方向の距離すなわち第2距離L2とが、同じ値すなわち所定値A[mm]となるように設けられている。
【0029】
因みに、図8は、従来の車両用駆動装置90を示す断面図であって、本実施例の図3に相当する図である。図8に示すように、従来の車両用駆動装置90において、第2モータジェネレータMG2のロータシャフト92は、実施例1のロータシャフト54の中間部54a、第1端部54b、およびサンギヤ嵌合部54dと同様の中間部92a、第1端部(一端部)92b、およびサンギヤ嵌合部92dを有している。また、ロータシャフト92は、中間部92aの減速用遊星歯車装置24とは反対側において第2軸受58により回転可能に支持された第2端部(他端部)92cを有している。この第2端部92cは、実施例1のロータシャフト54の第2端部54cと比較して長く形成されている。そして、第2軸受58は、実施例1と比べてロータ60から離れて設けられている。そして、第2モータジェネレータMG2のロータ60の軸中心線C1方向における中央位置PCから第2軸受58の支持位置P2までの軸中心線C1方向の距離すなわち第2距離L2が、前記所定値A[mm]よりも大きい所定値D[mm]となるように設定されている。つまり、第1距離L1が第2距離L2よりも小さくなるようにすなわちL1(=A)<L2(=D)となるように設定されている。
【0030】
図9は、上記従来の車両用駆動装置90において、ロータシャフト54の端部が振れながら回転する過程でNo.4ピニオンP2(4)に作用する上下方向の荷重すなわちピニオン荷重Fpと、第1軸受56に作用する上下方向の荷重すなわち第1軸受荷重Fbrg1と、第2軸受58に作用する上下方向の荷重すなわち第2軸受荷重Fbrg2とを同じ時系列上でそれぞれ示したグラフである。図9に示すように、従来の車両用駆動装置90においては、d区間およびe区間において第1軸受荷重Fbrg1が略零となる代わりにピニオン荷重Fpが増加している。これは、第2モータジェネレータMG2のロータシャフト92の両端部が歳差運動のように振れながら回転するとき、第1軸受56の径方向の微小隙間が詰まるよりも前に減速用遊星歯車装置24のたとえば第2サンギヤS2とNo.4ピニオンP2(4)との間のガタが詰まり、d区間およびe区間において、第1軸受56が受ける荷重が零に維持されるとともに、図10に矢印fで示すようにロータシャフト92から上記No.4ピニオンP2(4)に荷重が入力されると推測される。これにより、従来の車両用駆動装置90においては、第2ピニオンP2、特にNo.4ピニオンP2(4)の耐久性が低下する可能性があった。なお、上記ロータシャフト54の端部の振れは、例えば、第2モータジェネレータMG2のロータ60の重心の偏心や、第2モータジェネレータMG2のロータ60とステータ62(図1参照)との径方向の隙間が周方向において異なることに起因する電磁力の偏り等の影響により生じると推測される。
【0031】
図10は、第2モータジェネレータMG2のロータシャフト92の両端部が微小に振れながら回転する様子を、理解を容易とするために振れを極端に大きく示す概念図である。その振れでは、荷重が大きいロータ92の中央位置PCを中心としてロータシャフト54の両端部が振れる。図10には、上記図9のd区間およびe区間にのロータシャフト92の荷持荷重の変化状況が例示されている。図10に示すように、第2軸受58の径方向隙間が詰められつつ第2サンギヤS2とNo.4ピニオンP2(4)との間の微小なガタが詰められると、ロータシャフト92の一端部92bおよび他端部92cが第2軸受58およびNo.4ピニオンP2(4)により支持される。この際、第1軸受56の径方向の微小隙間は詰められておらず、その第1軸受56はロータシャフト92の支持に寄与していない状態であって、ロータシャフト92の一端部92bの振れが許容されてしまう。
【0032】
これに対して、本実施例の車両用駆動装置10によれば、第2モータジェネレータMG2のロータ60の軸中心線C1方向における中央位置PCから第1軸受56の支持位置P1までの軸中心線C1方向の第1距離L1が、上記中央位置PCから第2軸受58の支持位置P2までの軸中心線C1方向の第2距離L2と同じになるように設定されている。このようにすれば、第2モータジェネレータMG2のロータシャフト54が振れながら回転する過程で、第1軸受56および第2軸受58の径方向隙間が略同じである場合、第2軸受58の径方向隙間が詰められると同時に第1軸受56の径方向隙間も詰められるので、ロータシャフト54が第1軸受56および第2軸受58により支持される。そのため、図5に示す場合と同様に、ロータシャフト54が第1軸受56により支持されず減速用遊星歯車装置24の第2ピニオンP2により支持されてその第2ピニオンP2(特にNo.4ピニオンP2(4))に作用する荷重が増すことが回避されるので、その第2ピニオンP2の耐久性低下を抑制することができる。
【実施例2】
【0033】
次に、本発明の他の実施例について説明する。なお、以下の実施例の説明において、実施例相互に重複する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0034】
図4は、本発明の他の実施例の車両用駆動装置70の一部を示す断面図であって、実施例1の図3に相当する図である。図4に示すように、本実施例の第2モータジェネレータMG2のロータシャフト72は、実施例1のロータシャフト54の中間部54a、第1端部54b、およびサンギヤ嵌合部54dと同様の、中間部72a、第1端部(一端部)72b、およびサンギヤ嵌合部72dを有している。また、ロータシャフト72は、中間部72aの減速用遊星歯車装置24とは反対側において第2軸受58により回転可能に支持された第2端部(他端部)72cを有している。この第2端部72cは、実施例1のロータシャフト54の第2端部54cと比較して短く形成されている。そして、第2軸受58は、実施例1と比べてロータ60側に設けられている。そして、第2モータジェネレータMG2のロータ60の軸中心線C1方向における中央位置PCから第2軸受58の支持位置P2までの軸中心線C1方向の距離すなわち第2距離L2が前記所定値A[mm]よりも小さい所定値B[mm]となるように設定されている。つまり、第1距離L1が第2距離L2よりも大きくなるようにすなわちL1(=A)>L2(=B)となるように設定されている。
【0035】
図5は、前記ロータシャフト72の端部が振れながら回転する場合においてNo.4ピニオンP2(4)に作用する上下方向の荷重すなわちピニオン荷重Fpと、第1軸受56に作用する上下方向の荷重すなわち第1軸受荷重Fbrg1と、第2軸受58に作用する上下方向の荷重すなわち第2軸受荷重Fbrg2とを時系列でそれぞれ示したグラフである。図5に示すように、本実施例の車両用駆動装置70においては、第1軸受荷重Fbrg1および第2軸受荷重Fbrg2は、ピニオンシャフト92の両端部が振れながら回転する過程で零に維持される区間が存在せず、ピニオンシャフト92の両端部から常時荷重が入力されている。このため、ピニオン荷重Fpは、図8の値よりも少なくとも25N以上低下している。
【0036】
本実施例の車両用駆動装置70によれば、第2モータジェネレータMG2のロータ60の軸中心線C1方向における中心位置から第1軸受56の支持位置までの軸中心線C1方向の第1距離L1が、上記中心位置から第2軸受58の支持位置までの軸中心線C1方向の第2距離L2よりも大きくなるように設定されている。このようにすれば、第2モータジェネレータMG2のロータシャフト72が振れながら回転する過程で、ロータシャフト72を第1軸受56により確実に支持させることができる。そのため、図5に示すように、ロータシャフト72が第1軸受56により支持されず減速用遊星歯車装置24の第2ピニオンP2により支持されてその第2ピニオンP2(特にNo.4ピニオンP2(4))に作用する荷重が増すことが回避されるので、実施例1と同様に、第2ピニオンP2の耐久性低下を抑制することができる。
【実施例3】
【0037】
図6は、本発明の他の実施例の車両用駆動装置80の一部を示す断面図であって、実施例1の図3に相当する図である。図6に示すように、本実施例の第2モータジェネレータMG2のロータシャフト82は、実施例1のロータシャフト54の中間部54aおよびサンギヤ嵌合部54dと同様の中間部82aおよびサンギヤ嵌合部82dを有している。また、ロータシャフト82は、中間部82aの減速用遊星歯車装置24とは反対側において第2軸受58により回転可能に支持された第2端部(他端部)82cを有している。この第2端部82cは、実施例1のロータシャフト54の第2端部54cと比較して長く形成されている。そして、第2軸受58は、実施例1と比べてロータ60から離されて設けられている。そして、第2サンギヤS2が嵌合されたサンギヤ嵌合部82dの先端からロータ60とは反対側へ延び出し、その延び出した先端部に第1軸受56が嵌めつけられた突出部82eが形成されている。第1軸受56は、減速用遊星歯車装置24の第2サンギヤS2よりもロータシャフト82の先端側に設けられている。そして、第2モータジェネレータMG2のロータ60の軸中心線C1方向における中央位置PCからその第1軸受56の支持位置P1までの軸中心線C1方向の距離すなわち第1距離L1が前記所定値A[mm]よりも大きい所定値C[mm]に設定され、また、上記中央位置PCから第2軸受58の支持位置P2までの軸中心線C1方向の距離すなわち第2距離L2が上記所定値C[mm]よりも小さい所定値D[mm]となるように設定されている。つまり、第1距離L1が第2距離L2よりも大きくなるように設定されている(L1=C>L2=D)。なお、ロータシャフト82の第1端部82bは実施例1および実施例2のように第1軸受56で支持されていない。
【0038】
本実施例の車両用駆動装置80によれば、第2モータジェネレータMG2のロータ60の軸中心線C1方向における中央位置PCから第1軸受56の支持位置P1までの軸中心線C1方向の第1距離L1が、上記中央位置PVから第2軸受58の支持位置P2までの軸中心線C1方向の第2距離L2よりも大きくなるように設定されている。このようにすれば、第2モータジェネレータMG2のロータシャフト82が振れながら回転する過程で、ロータシャフト82を第1軸受56により確実に支持させることができる。そのため、ロータシャフト82が第1軸受56により支持されず減速用遊星歯車装置24の第2ピニオンP2により支持されてその第2ピニオンP2(特にNo.4ピニオンP2(4))に作用する荷重が増すことが回避されるので、実施例1および実施例2の場合と同様以上に、図7に示すように、第2ピニオンP2の耐久性低下を抑制することができる。
【0039】
また、本実施例の車両用駆動装置80によれば、第1軸受56は、減速用遊星歯車装置24の第2サンギヤS2および第2ピニオンP2よりもロータシャフト82の先端側に設けられている。このようにすれば、第1軸受56の径方向隙間が第2サンギヤS2と第2ピニオンP2との間の径方向のガタと比べて小さい場合には、第2モータジェネレータMG2のロータシャフト54が振れながら回転する過程で、ロータシャフト82を第1軸受56により一層確実に支持させることができる。よって、ロータシャフト82が第1軸受56により支持されず第2ピニオンP2により支持されてその第2ピニオンP2に作用する荷重が増すことが好適に回避される。
【0040】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0041】
例えば、前述の実施例において、車両用駆動装置10(70および80)には、エンジン14、第1モータジェネレータMG1、動力分配用遊星歯車装置22、および減速歯車装置36が備えられていたが、これらは必ずしも必要ない。
【0042】
また、前述の実施例において、減速用遊星歯車装置24は、5つの第2ピニオンP2を備えていたが、必ずしも5つでなくてもよい。例えば、4つ以下であってもよいし、6つ以上であってもよい。
【0043】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0044】
10:車両用駆動装置
24:減速用遊星歯車装置(遊星歯車装置)
26:円筒状出力部材(出力部材)
54:ロータシャフト
54b:第1端部(一端部)
54c:第2端部(他端部)
56:第1軸受
58:第2軸受
60:ロータ
L1:第1距離(ロータの軸中心線方向における中心位置から第1軸受の支持位置までの軸中心線方向の距離)
L2:第2距離(ロータの軸中心線方向における中心位置から第2軸受の支持位置までの軸中心線方向の距離)
MG2:第2モータジェネレータ(電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、該電動機のロータを支持するために該ロータから突き出すロータシャフトと、該ロータシャフトの一端部と出力部材との間に同心に設けられ、該電動機のロータシャフトの回転を減速して該出力部材へ伝達する遊星歯車装置と、該ロータシャフトの該遊星歯車装置側の一端部を回転可能に支持する第1軸受と、該ロータシャフトの他端部を回転可能に支持する第2軸受とを備えた車両用駆動装置であって、
前記第1軸受および前記第2軸受は、前記電動機のロータの軸中心線方向における中心位置から該第1軸受の支持位置までの該軸中心線方向の距離が、該中心位置から該第2軸受の支持位置までの該軸中心線方向の距離以上となるように設けられていることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記ロータシャフトの一端部は、前記遊星歯車装置のサンギヤと相対回転不能に嵌合して該サンギヤを支持し、
該ロータシャフトの一端部は、該サンギヤよりも前記ロータ側において前記第1軸受によって回転可能に支持されていることを特徴とする請求項1の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記ロータシャフトの一端部は、前記遊星歯車装置のサンギヤと相対回転不能に嵌合して該サンギヤを支持し、
該ロータシャフトの一端部は、該サンギヤよりも前記ロータとは反対側において前記第1軸受によって回転可能に支持されていることを特徴とする請求項1の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記電動機および遊星歯車装置を収容するケースを含み、
前記遊星歯車装置は、前記サンギヤと噛み合う複数個のピニオンを前記軸中心線に平行な軸心まわりに回転可能にそれぞれ支持し且つ前記ケースに固設されたキャリヤを、有するものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−19494(P2013−19494A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154291(P2011−154291)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】