説明

車両走行状態判別装置および車両走行状態判別方法

【課題】 砂地走行状態と牽引走行状態とを精度よく判別することができる車両走行状態判別装置および車両走行状態判別方法の提供。
【解決手段】 車両1は、車輪FR〜RLのスリップ率に基づいて制動力を付与するためのブレーキ圧を増減させるECU100を備え、ECU100は、車両1の走行路が砂地路であるか否かを判定する走行路判定部105を備える。走行路判定部105は、車両1が砂地路を走行している状態にあると判断した後、車両1の減速中あるいは高速走行中に、車両1が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを再判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車両の走行状態を判別するための車両走行状態判別装置および車両走行状態判別方法に関し、特に、車両が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを判別可能とする車両走行状態判別装置および車両走行状態判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の走行駆動負荷、変速頻度、ロックアップクラッチの作動頻度、車速変動、スロットル開度の変動に基づいて車両が牽引走行状態にあるか否か判定する牽引状態推定器を備えた自動変速機の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この制御装置は、牽引状態推定器によって車両が牽引走行状態に在ると判断された際に、トルクコンバータのロックアップクラッチの締結量を増加させる。
【特許文献1】特開2003−14100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、車両の走行時における各種パラメータを用いることにより、車両がトレーラー等を牽引する牽引走行状態にあるか否かをある程度判定することが可能となる。しかしながら、車両が牽引走行状態にあるか否かを精度よく判定するのは容易なことではない。特に、砂地走行状態と牽引走行状態とでは、駆動源の発生出力と実際の車両の加減速度との相関が似通っており、上述のような各種パラメータを用いても、砂地走行状態と牽引走行状態とを精度よく判別することは困難であった。
【0004】
そこで、本発明は、砂地走行状態と牽引走行状態とを精度よく判別することができる車両走行状態判別装置および車両走行状態判別方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による車両走行状態判別装置は、車両の走行状態を判別する車両走行状態判別装置において、車両が砂地路を走行している状態にあるか否かを判定する第1判定手段と、第1判定手段により車両が砂地路を走行している状態にあると判断された場合、車両の減速中あるいは高速走行中に、車両が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを再判定する第2判定手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
一般に、車両が砂地路を走行している際、駆動源の発生出力に対して本来期待される加減速度が得られないことがあるが、砂地走行状態と牽引走行状態とでは、駆動源の発生出力と実際の車両の加減速度との相関が似通っており、車両がトレーラー等を牽引している際にも、駆動源の発生出力に対して本来期待される加減速度が得られないことがある。従って、駆動源の発生出力と実際の車両の加減速度との相関を用いて車両が砂地路を走行しているか否か判定しても、誤判定を招くおそれがある。
【0007】
これに対して、砂地走行状態と牽引走行状態との間では、路面からの走行抵抗や慣性等の影響により、車両が減速させられる際の減速度が異なる。また、一般に、トレーラー等を牽引している車両が凹凸がある路面上で高速走行するということはまずないといってよい。従って、この車両走行状態判別装置のように、第1判定手段により車両が砂地路を走行している状態にあると判断された後の車両の減速中あるいは高速走行中に、車両が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを再判定することにより、砂地走行状態と牽引走行状態とを精度よく判別することが可能となる。
【0008】
また、第2判定手段は、車両の惰行中または制動時の車両減速度に基づいて、車両が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを判定すると好ましい。
【0009】
すなわち、アクセル操作とブレーキ操作との双方が実行されない車両の惰行時や、車両が制動された際には、路面からの走行抵抗や慣性等の影響により、砂地走行状態と牽引走行状態との間で車両の減速度が顕著に異なることになる。従って、かかる態様によれば、砂地走行状態と牽引走行状態とを精度よく判別することが可能となる。
【0010】
この場合、第2判定手段は、第1判定手段により車両が砂地路を走行している状態にあると判断された後に車両が惰行状態となった場合、車両の惰行中の減速度が所定値を下回っていると、車両が牽引走行状態にあると判断すると好ましい。
【0011】
また、第2判定手段は、第1判定手段により車両が砂地路を走行している状態にあると判断された後に車両が制動された場合、車両の実減速度がドライバーの制動操作量に基づいて推定される車両減速度よりも小さいと、車両が牽引走行状態にあると判断してもよい。
【0012】
更に、第2判定手段は、第1判定手段により車両が砂地路を走行している状態にあると判断された場合、車両の車速が所定値以上である状態での車両の車輪加速度に基づいて、車両が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを判定すると好ましい。
【0013】
一般に、車両が砂地路を高速走行(例えば60km/h以上)している場合、車輪が路面に埋まりにくくなるので、路面の凹凸の影響により車輪加速度の変動が大きくなる。また、上述のように、トレーラー等を牽引している車両が凹凸が多い路面上で高速走行するということはまずないといってよい。従って、第1判定手段により車両の走行路が砂地路であると判断された後、車両の車速が所定値以上である状態での車両の車輪加速度を監視することにより、車両が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを精度よく判定することが可能となる。
【0014】
この場合、第2判定手段は、第1判定手段により車両が砂地路を走行している状態にあると判断された場合、車両の車速が所定値以上である状態で車両の車輪加速度が所定時間内に所定値を上回らなかった場合、車両が牽引走行状態にあると判断すると好ましい。
【0015】
そして、第1判定手段は、車両の加速時における駆動輪の推定車輪加速度と実車輪加速度との偏差に基づいて車両の走行路が砂地路であるか否かを判定すると好ましい。
【0016】
一般に、砂地路を走行している際の走行抵抗は、通常路を走行している際の走行抵抗よりも大きい。このため、砂地路を走行している車両の加速時における駆動輪の推定車輪加速度と実車輪加速度との偏差は、通常路を走行している際の駆動輪の推定車輪加速度と実車輪加速度との偏差よりも大きくなる。従って、第1判定手段として、車両の加速時における駆動輪の推定車輪加速度と実車輪加速度との偏差と予め定められた基準値とを比較するものを採用することにより、第1判定手段による誤判定をできるだけ少なくすることが可能となる。
【0017】
本発明による車両走行状態判別方法は、車両の走行状態を判別する車両走行状態判別方法において、
(a)車両が砂地路を走行している状態にあるか否かを判定するステップと、
(b)ステップ(a)で車両が砂地路を走行している状態にあると判断された場合に、車両の減速中あるいは高速走行中に、車両が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを再判定するステップとを含むものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、砂地走行状態と牽引走行状態とを精度よく判別可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明による車両走行状態判別装置が適用された車両を示す概略構成図である。同図に示される車両1は、車輪FL,FR,RLおよびRRを有する。ここでは、車輪FRは運転席からみて前方右側、車輪FLは前方左側、車輪RRは後方右側、車輪RLは後方左側の車輪をそれぞれ示す。また、車両1は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンである内燃機関2と、自動変速機または無段変速機である変速機3を含むトランスアクスル4と、図示されないトランスファとを有する。すなわち、本実施形態の車両1は、例えばRV車両やいわゆるピックアップトラックといったような4輪駆動車両として構成されており、前輪FL,FRには、トランスファ、図示されないフロントデファレンシャルおよびドライブシャフト5L,5Rを介して、内燃機関2から動力が伝達される。また、トランスアクスル4のアウトプットシャフト6は、リヤデファレンシャル7に接続されており、このリヤデファレンシャル7には、ドライブシャフト8L,8Rを介して後輪RLおよびRRが連結されている。なお、本実施形態の車両1は、いわゆるハイブリッド車両や電気自動車として構成され得ることはいうまでもない。
【0021】
また、車両1は、車輪FR〜RLごとに設けられたディスクブレーキユニット9FR,9FL,9RRおよび9RLを含む制動装置10を備えている。制動装置10は、いわゆるEBD(Electronic Brake force Distribution:電子制動力分配制御)付きアンチスキッド制御装置(ABS)として構成されている。各ディスクブレーキユニット9FR〜9RLは、それぞれブレーキディスク11およびブレーキキャリパ12を含み、各ブレーキキャリパ12は、ホイールシリンダ41,42,43または44を内蔵している。また、各ブレーキキャリパ12のホイールシリンダ41〜44は、それぞれ独立の液圧ラインを介してブレーキアクチュエータ20に接続されている。
【0022】
ブレーキアクチュエータ20は、マスタシリンダ14の2つの出力ポートに接続されており、マスタシリンダ14には、ブースタ15を介してブレーキペダル16が接続されている。そして、本実施形態では、各ブレーキキャリパ12に含まれるホイールシリンダ41〜44のブレーキ圧が、マスタシリンダ14から供給される液圧に拘らず独立して設定可能とされている。マスタシリンダ14に対しては、マスタシリンダ圧センサ13が設けられており、ブレーキペダル16に対しては、ペダル踏み込み時にONされるブレーキスイッチ17が設けられている。更に、車輪FR〜RLには、それぞれの回転速度すなわち車輪速度に応じた信号を出力する車輪速センサ18が設けられている。
【0023】
図2は、制動装置10に含まれるブレーキアクチュエータ20の系統図である。同図に示されるように、ブレーキアクチュエータ20における液圧回路は、右前輪FRおよび左後輪RL用の系統と、左前輪FLおよび右後輪RR用の系統とが独立したダイアゴナル系統として構成される。これにより、一方の系統に何らかの支障をきたしても、他方の系統の機能は確実に維持される。
【0024】
マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、ノーマルオープンの電磁弁31および37が並列に接続されており、電磁弁31には液圧路を介して右前輪FR用のホイールシリンダ41が、電磁弁37には、液圧路を介して左後輪RL用のホイールシリンダ44が接続されている。そして、電磁弁31,37とマスタシリンダ14との間には、液圧ポンプ21の吐出口が接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポートには、ノーマルオープンの電磁弁33および35が並列に接続されており、電磁弁33には液圧路を介して左前輪FL用のホイールシリンダ42が、電磁弁35には、液圧路を介して右後輪RR用のホイールシリンダ43が接続されている。そして、電磁弁33,35とマスタシリンダ14との間には、液圧ポンプ22の吐出口が接続されている。液圧ポンプ21および22は電動モータ23によって駆動されるものであり、これらの液圧ポンプ21および22が作動すると、ホイールシリンダ41〜44に対して所定の圧力に昇圧されたブレーキ液が供給される。
【0025】
ホイールシリンダ41には、更にノーマルクローズの電磁弁32が接続され、ホイールシリンダ44には、更にノーマルクローズの電磁弁38が接続されている。電磁弁32および38の下流側ポートはリザーバ24に接続されると共に、逆止弁CVを介して液圧ポンプ21の吸入口に接続されている。また、ホイールシリンダ42には、ノーマルクローズの電磁弁34が接続され、ホイールシリンダ43には、ノーマルクローズの電磁弁36が接続されている。電磁弁34および36の下流側ポートはリザーバ25に接続されると共に、逆止弁CVを介して液圧ポンプ22の吸入口に接続されている。各リザーバ24,25は、ピストンおよびスプリングを含み、電磁弁32〜38を介して流れ込むホイールシリンダ41〜44からのブレーキ液を収容する。
【0026】
電磁弁31〜38は、何れもソレノイドコイルを備えた2ポート2位置電磁切換弁である。電磁弁31〜38は、ソレノイドコイルの非通電時に図2に示される第1位置に設定され、これにより、ホイールシリンダ41〜44はマスタシリンダ14と連通する。また、電磁弁31〜38は、ソレノイドコイルの通電時に第2位置に設定され、これにより、ホイールシリンダ41〜44はマスタシリンダ14から遮断され、リザーバ24または25と連通する。なお、図2において、DPはダンパ、CVは逆止弁、ORはオリフィス、FTはフィルタを示す。逆止弁CVは、ホイールシリンダ41〜44およびリザーバ24,25からマスタシリンダ14へのブレーキ液の流通を許容する一方、それとは逆方向の流れを遮断する。
【0027】
そして、電磁弁31〜38のソレノイドコイルの通電状態を制御することにより、ホイールシリンダ41〜44のブレーキ液圧を増圧、減圧または保持することが可能となる。すなわち、電磁弁31〜38のソレノイドコイルの非通電時には、ホイールシリンダ41〜44にマスタシリンダ14および液圧ポンプ21または22からブレーキ液が供給され、これにより、ホイールシリンダ41〜44のブレーキ液圧が増圧される。また、電磁弁31〜38のソレノイドコイルの通電時には、ホイールシリンダ41〜44がリザーバ24または25と連通し、ホイールシリンダ41〜44のブレーキ液圧が減圧される。更に、電磁弁31,33,35および37のソレノイドコイルに通電する一方、その他の電磁弁32,34,36および38のソレノイドコイルを非通電とすれば、ホイールシリンダ41〜44のブレーキ液圧が保持される。そして、上記ソレノイドコイルに対する通電、非通電の時間間隔を調整することにより、ホイールシリンダ41〜44のブレーキ液圧を緩やかに増圧(パルス増圧)させることも可能となる。
【0028】
このように構成されるブレーキアクチュエータ20は、図1および図2に示されるように、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)100によって制御される。すなわち、ECU100は、車輪FR〜RLのスリップ率に基づいて各車輪FR〜RLに制動力を付与するためのブレーキ圧を増減させるアンチスキッド制御(以下「ABS制御」という)を実行する。ECU100は、図示されないCPU、ROM、RAM、入出力インターフェースおよび記憶装置等を含むものであり、ブレーキアクチュエータ20を構成する電磁弁31〜38のソレノイドコイルの通電状態を制御する。また、上述の液圧ポンプ21および22の電動モータ23もECU100により制御される。
【0029】
図3は、車両1に設けられている制動装置10の制御ブロック図である。ECU100には、上述のマスタシリンダ圧センサ13や、ブレーキスイッチ17、各車輪FR〜RLの車輪速センサ18が接続されている。マスタシリンダ圧センサ13は、マスタシリンダ14内のブレーキオイルの圧力を検知し、検知した値を示す信号をECU100に与える。ブレーキスイッチ17は、ブレーキペダル16がドライバーによって踏み込まれるとONされ、その旨を示す信号をECU100に与える。各車輪速センサ18は、対応する車輪FL〜RRの回転速度すなわち車輪速度と回転方向とを示す信号をECU100に与える。
【0030】
これに加えて、ECU100には、アクセルセンサ19、加速度センサ45、シフトポジションセンサ46、回転数センサ47およびスロットル開度センサ48が接続されている。アクセルセンサ19は、ドライバーによるアクセルペダルの操作量を検出し、検出値を示す信号をECU100に与える。加速度センサ45は、いわゆる2軸加速度センサであり、車両1の前後方向すなわち進行方向における加速度(加減速度)と、車両1の横方向すなわち幅方向における加速度とを検出可能である。ただし、加速度センサ45としては、車両1の前後方向における加速度のみを検出するセンサと、車両1の横方向における加速度のみを検出するセンサとが用いられてもよい。加速度センサ45は、車両の前後方向および横方向の加速度を示す信号をECU100に与える。
【0031】
シフトポジションセンサ46は、ドライバーにより設定された変速機3のシフトレンジを検知して、検知したレンジを示す信号をECU100に与える。回転数センサ47は、内燃機関2の回転数を検知し、検知した値を示す信号をECU100に与える。スロットル開度センサ48は、内燃機関2に含まれる図示されないスロットルバルブ(例えば電子制御式スロットルバルブ)の開度を検知し、検知した値を示す信号をECU100に与える。また、ECU100は、車両1の4輪駆動機構を制御する4WDECU50と信号線または無線を介して互いに接続され、相互に信号のやり取りを行う。
【0032】
図3に示されるように、ECU100には、スリップ率取得部101、ブレーキ圧設定部102、車速取得部103、加速度演算部104および走行路判定部105が構築されている。スリップ率取得部101は、車輪FR〜RLのスリップ率を取得する。ブレーキ圧設定部102は、スリップ率取得部101により取得された車輪FR〜RLのスリップ率に応じてホイールシリンダ41〜44のブレーキ液圧を設定し、電磁弁31〜38や電動モータ23への制御信号を生成する。車速取得部103は、各車輪速センサ18の検出値に基づいて車両1(車体)の速度を取得する。加速度演算部104は、各車輪速センサ18の検出値に基づいて車両1の車体や車輪FR〜RLの加速度を算出する。走行路判定部105は、車速取得部103により取得された車速や、加速度演算部104により算出された各種加速度に基づいて、車両1の走行路の状態を判定する。これにより、ECU100は、車両の走行状態を判別する車両走行状態判別装置としても機能することになる。
【0033】
本実施形態において、ECU100の加速度演算部104は、推定加速度演算部と実加速度演算部とを含む。推定加速度演算部は、回転数センサ47により検出される内燃機関2の回転数と、シフトポジションセンサ46からの信号に基づいて得られる変速機3のギヤ比とに基づいて、駆動輪である各車輪FR〜RLの推定車輪速度を所定のサンプリング時間おきに求めた上で、求めた推定車輪速度と当該サンプリング時間とに基づいて推定される車輪加速度を算出し、各車輪FR〜RLの推定される車輪加速度の平均値を推定車輪加速度DVWeとして算出する。一方、実加速度演算部は、各車輪速センサ18によって検出される回転速度と上記サンプリング時間とに基づいて各車輪FR〜RLの実際の車輪加速度を求めた上で、各車輪FR〜RLの実際の車輪加速度の平均値を実車輪加速度DVWとして算出する。また、実加速度演算部は、加速度センサ45からの信号に基づいて車両1の加速度、すなわち車体加速度Gxを算出する。
【0034】
ECU100の走行路判定部105は、加速度演算部104によって算出される実車輪加速度DVW等に基づいて車両の走行路が「通常路」および「砂地路」および「悪路」の何れかであるかを判定する。なお、通常路とは、砂地路よりも走行抵抗が小さい舗装路や平坦路をいうものとする。図4は、走行路判定部105によって実行される車両1の走行路の判定手順を説明するためのフローチャートである。同図に示されるルーチンは、車両1の走行中(加速時)に、走行路判定部105によって所定時間おきに繰り返し実行されるものである。
【0035】
図4のルーチンの実行タイミングになると、走行路判定部105は、加速度演算部104によって算出される推定車輪加速度DVWeを取得すると共に(S10)、同様に加速度演算部104によって算出される実車輪加速度DVWを取得する(S12)。そして、走行路判定部105は、実車輪加速度DVWが予め定められた閾値DVWr以下であるか否か判定する(S14)。走行路判定部105は、実車輪加速度DVWが当該閾値DVWrを超えていると判断した場合(S14におけるNo)、走行路が悪路であるとみなし、悪路フラグをONする(S16)。一方、実車輪加速度DVWが上記閾値DVWr以下であると判断した場合(S14におけるYes)、走行路判定部105は、推定車輪加速度DVWeと実車輪加速度DVWとの偏差を求め、当該偏差が所定の基準値α以上であるか否か判定する(S18)。
【0036】
推定車輪加速度DVWeと実車輪加速度DVWとの偏差が基準値α以上であると判断した場合(S18におけるYes)、走行路判定部105は、車両1の走行路が砂地路であるとみなし、砂地フラグをONする(S20)。これに対して、推定車輪加速度DVWeと実車輪加速度DVWとの偏差が基準値αを下回っていると判断した場合(S18におけるNo)、走行路判定部105は、車両1の走行路が通常路であるとみなし、通常路フラグをONする(S22)。
【0037】
すなわち、車両1が砂地路を走行している際の走行抵抗は、通常路を走行している際の走行抵抗よりも大きい。このため、砂地路を走行している車両1の加速時における推定車輪加速度DVWeと実車輪加速度DVWとの偏差は、通常路を走行している際の推定車輪加速度DVWeと実車輪加速度DVWとの偏差よりも大きくなる。従って、車両1の加速時における当該偏差と予め定められた基準値αとを比較することにより、走行路が砂地路であるか通常路であるか否かを精度よく判定することが可能となる。なお、基準値αは、予め実験的に車両を砂地路および通常路で走行させることによって得られる値であってもよく、このような実験に際して得られた複数の値を平均化したものであってもよい。
【0038】
上述のようにして走行路判定部105によって車両1の走行路が判定され、通常路フラグ、砂地フラグおよび悪路フラグの何れかがONされると、ECU100のブレーキ圧設定部102は、ABS制御を実行すべきタイミングになると、これらのフラグに示される車両1の走行路と、スリップ率取得部101により取得された車輪FR〜RLのスリップ率とに応じてホイールシリンダ41〜44のブレーキ液圧を設定し、電磁弁31〜38や電動モータ23への制御信号を生成する。すなわち、車両1では、走行路が悪路である場合に悪路用のABS制御が、走行路が砂地路である場合に砂地用のABS制御が、そして、走行路が通常路である場合に通常路用のABS制御が実行される。
【0039】
ところで、車両1が砂地路を走行している際、駆動源である内燃機関2の発生出力に対して本来期待される加減速度が得られないことがある。また、RV車両やピックアップトラック等として構成される車両1は、例えばボートトレーラーやキャンピングトレーラーといったトレーラーを牽引することがあるが、「砂地走行状態」と「牽引走行状態」とでは、駆動源の発生出力と実際の車両1の加減速度との相関が似通っており、車両1がトレーラーを牽引している際にも、駆動源の発生出力に対して本来期待される加減速度が得られないことがある。従って、図4のルーチンのように、駆動源の発生出力と実際の車両1の加減速度との相関を用いて車両1が砂地路を走行しているか否か判定しても、誤判定を招くおそれがある。このため、車両1では、ECU100によって図5から図7に示される処理が実行され、車両1の走行路が砂地路であるか否か再判定される。
【0040】
図5等に示されるルーチンは、車両1の走行中に、ECU100の走行路判定部105によって所定時間おきに繰り返し実行されるものである。このルーチンの実行タイミングになると、走行路判定部105は、まず、砂地フラグがONされているか否か判定し(S30)、砂地フラグがOFFされている場合(S30におけるNo)、S32以降の処理を実行することなく本ルーチンを終了させる。砂地フラグがONされている場合(S30におけるYes)、走行路判定部105は、アクセルセンサ19からの信号に基づいて、ドライバーによりアクセルペダルが踏み込まれていないかどうか判定する(S32)。
【0041】
走行路判定部105は、ドライバーによりアクセルペダルが踏み込まれていないと判断すると(S32におけるYes)、更に、ブレーキスイッチ17からの信号に基づいて、ドライバーによりブレーキペダル16が踏み込まれていないかどうか判定する(S34)。そして、ドライバーによりブレーキペダル16が踏み込まれていないと判断すると(S34におけるYes)、走行路判定部105は、加速度演算部104により算出されている車体加速度Gxを取得し(S36)、車体加速度Gxが予め定められている閾値Gr(例えば−0.2G、ただし、マイナス符号は減速状態を示す)を上回っているか否か判定する(S38)。
【0042】
ここで、ドライバーによりアクセルペダルが踏み込まれておらず(S32におけるYes)、かつ、ドライバーによりブレーキペダル16が踏み込まれていない場合(S34におけるYes)、車両1はアクセル操作とブレーキ操作との双方が実行されない惰行状態にある。そして、かかる惰行時には、路面からの走行抵抗や慣性等の影響により、「砂地走行状態」と「牽引走行状態」との間で車両1の減速度が顕著に異なることになる。すなわち、砂地路で車両1が惰行状態に入ると、車両1に対する走行抵抗が大きいことから、車両1の減速度は比較的速やかに大きくなる。これに対して、「牽引走行状態」にある車両1の惰行時には、慣性の影響により車両1の減速度は比較的小さいままに維持される。
【0043】
このため、走行路判定部105は、車体加速度Gxが上記閾値Grを上回っていると、すなわち、車両1の減速度が当該閾値Grを下回っていると判断すると(S38におけるYes)、車両1が「砂地走行状態」ではなく「牽引走行状態」にあるものとみなし、砂地フラグをOFFする一方、牽引フラグをONし(S40)、本ルーチンを一旦終了させる。このように、図4のルーチンを経て車両1が砂地路を走行している状態にあると判断された後に車両1が惰行状態となった場合、車両1の惰行中の減速度に基づいて車両1が「砂地走行状態」にある否か再判定することにより、「砂地走行状態」と「牽引走行状態」とを精度よく判別することが可能となる。
【0044】
一方、車体加速度Gxが閾値Gr以下であると判断された場合(S38におけるNo)、路面からの走行抵抗により車体加速度Gxが低下していると考えられるので、車両1が砂地路を走行しているとみなすことができる。従って、この場合、走行路判定部105は、砂地フラグをOFFすることなく、本ルーチンを一旦終了させる。
【0045】
また、図5のS32においてドライバーによりアクセルペダルが踏み込まれていると判断した場合(S32におけるNo)、走行路判定部105は、図6に示されるように、車速取得部103から車両1の車速を取得し(S42)、車速が予め定められている基準速度Vr以上であるか否か判定する(S44)。車速が当該基準速度Vrを下回っている場合(S44におけるNo)、S46以降の処理はスキップされ、本ルーチンは一旦終了させられる。
【0046】
車両1の車速が上記基準速度Vr以上であると判断した場合(S44におけるYes)、走行路判定部105は、図示されない所定のタイマをONすることにより計時を開始し(S46)、更に、加速度演算部104から実車輪加速度DVWを取得する(S48)。そして、走行路判定部105は、実車輪加速度DVWが予め定められた閾値DVWxを下回っているか否か判定する(S50)。閾値DVWxは、例えば1G程度の比較的大きな値とされる。走行路判定部105は、実車輪加速度DVWが当該閾値DVWxを下回っていると判断した場合(S50におけるYes)、車速取得部103から車両1の車速を取得し(S52)、車速が予め定められている基準速度Vr以上であるか否か再度判定する(S54)。車両1の車速が上記基準速度Vr以上であると判断した場合(S54におけるYes)、走行路判定部105は、上記タイマにより計測されている経過時間が予め定められた時間T2(例えば100mSec)を超えたか否か判定する(S56)。
【0047】
上記タイマにより計測されている経過時間が時間T2を超えていないと判断されると(S56におけるNo)、上述S48からS54までの処理が繰り返し実行される。そして、上記タイマにより計測されている経過時間が時間T2を超えたと判断した場合(S56におけるYes)、走行路判定部105は、タイマをOFFした上で(S58)、車両1が「砂地走行状態」ではなく「牽引走行状態」にあるものとみなし、砂地フラグをOFFする一方、牽引フラグをONし(S40)、本ルーチンを一旦終了させる。
【0048】
すなわち、車両1が砂地路を高速(例えば60km/h以上)で走行している場合、一般に車輪FR〜RLが路面に埋まりにくくなるので、路面の凹凸の影響により実車輪加速度DVWの変動が大きくなる。また、トレーラーを牽引している車両1が凹凸が多い路面上で高速走行するということはまずないといってよく、牽引状態で高速する車両1の実車輪加速度DVWの変動は比較的小さい。従って、図4のルーチンを経て車両1の走行路が砂地路であると判断された後、車両1の車速が基準速度Vr以上であると判断され(S54におけるYes)、かつ、実車輪加速度DVWが閾値DVWxを下回っていると判断される状態(S50におけるYes)が、時間T2だけ継続した場合(S56におけるYes)、車両1が「牽引走行状態」にあるとみなすことができる。
【0049】
また、実車輪加速度DVWが閾値DVWx以上であると判断された場合(S50におけるNo)、路面の凹凸の影響により実車輪加速度DVWの変動が大きくなっていると考えられるので、車両1が砂地路を走行しているとみなすことができる。この場合、走行路判定部105は、砂地フラグをOFFすることなく、タイマをOFFし(S60)、本ルーチンを一旦終了させる。このように、車両1の車速が閾値Vr以上である状態での車両1の実車輪加速度DVWを監視することにより、車両1が「砂地走行状態」にあるか、または「牽引走行状態」にあるかを精度よく再判定することが可能となる。なお、S50にて実車輪加速度DVWが閾値DVWxを下回っていると判断されても、車両1の車速が基準速度Vrを下回った場合(S54におけるNo)、車両1が「砂地走行状態」にあるか、「牽引走行状態」にあるかを再判定するためのサンプリング時間が上記時間T2を下回ってしまうことになるので、S60にてタイマがOFFされて本ルーチンは一旦終了させられる。
【0050】
更に、図5のS34におてドライバーによりブレーキペダル16が踏み込まれていると判断した場合(S34におけるNo)、図7に示されるように、加速度演算部104によってマスタシリンダ圧センサ13により検出されるマスタシリンダ圧に基づいて推定車体加速度Gxestが算出される(S62)。推定車体加速度Gxestは、ドライバーによるブレーキペダル16の操作量から推定される車両1の加速度であり、予め定められた関数またはマップを用いて算出される。次いで、走行路判定部105は、加速度演算部104から、推定車体加速度Gxestと車両1の実際の加速度である車体加速度Gxとを取得する(S64)。そして、走行路判定部105は、推定車体加速度Gxestから予め定められている誤差定数Kを減じた値と、車体加速度Gxとを比較する(S66)。
【0051】
ここで、ドライバーによってブレーキペダル16が踏み込まれて車両1が制動された際にも、路面からの走行抵抗や慣性等の影響により、「砂地走行状態」と「牽引走行状態」との間で車両1の減速度が顕著に異なることになる。すなわち、砂地路で車両1が制動された場合、車両1に対する走行抵抗が大きいことから、車両1の減速度がマスタシリンダ圧から推定される減速度よりも大きくなることが多い。従って、推定車体加速度Gxextから誤差定数Kを減じた値が実際の車体加速度−Gx以下である場合には(S66におけるYes)、車両1が「砂地走行状態」にあるとみなすことができる。このため、走行路判定部105は、S66にて肯定判断を行った場合、砂地フラグをOFFすることなく、本ルーチンを一旦終了させる。
【0052】
これに対して、「牽引走行状態」にある車両1の制動時には、慣性の影響により車両1の減速度はマスタシリンダ圧から推定される減速度より小さくなることが多い。従って、推定車体加速度Gxextから誤差定数Kを減じた値が実際の車体加速度−Gxを上回っている場合には(S66におけるNo)、車両1が「牽引走行状態」にあるとみなすことができる。このため、走行路判定部105は、S66にて否定判断を行った場合、砂地フラグをOFFする一方、牽引フラグをONし(S40)、本ルーチンを一旦終了させる。
【0053】
以上説明されたように、本実施形態の車両1では、図4のルーチンを経て砂地路を走行している状態にあると判断された後の減速中あるいは高速走行中に、「砂地走行状態」にあるか、または「牽引走行状態」にあるかが精度よく再判定される。そして、車両1では、図5から図7のルーチンを経て走行路が砂地路ではないと判断された場合、砂地用のABS制御が行われないことになる。この結果、車両1の走行路が砂地路ではないにも拘わらず、砂地用のABS制御が実行され、車両1の操縦安定性や加減速性能等が損なわれてしまうことを良好に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明による車両走行状態判別装置が適用された車両を示す概略構成図である。
【図2】図1の車両に設けられている制動装置のブレーキアクチュエータを説明するための系統図である。
【図3】図1の車両に設けられている制動装置の制御ブロック図である。
【図4】図1の車両において実行される走行路の判定手順を説明するためのフローチャートである。
【図5】図1の車両において走行路が砂地路であるか否か再判定する手順を説明するためのフローチャートである。
【図6】図1の車両において走行路が砂地路であるか否か再判定する手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】図1の車両において走行路が砂地路であるか否か再判定する手順を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0055】
1 車両、2 内燃機関、3 変速機、4 トランスアクスル、9FR,9FL,9RR,9RL ディスクブレーキユニット、10 制動装置、11 ブレーキディスク、12 ブレーキキャリパ、13 マスタシリンダ圧センサ、14 マスタシリンダ、16 ブレーキペダル、17 ブレーキスイッチ、18 車輪速センサ、19 アクセルセンサ、20 ブレーキアクチュエータ、21,22 液圧ポンプ、23 電動モータ、24,25 リザーバ、31,32,33,34,35,36,37,38 電磁弁、41,42,43,44 ホイールシリンダ、45 加速度センサ、46 シフトポジションセンサ、47 回転数センサ、48 スロットル開度センサ、50 4WDECU、100 ECU、101 スリップ率取得部、102 ブレーキ圧設定部、103 車速取得部、104 加速度演算部、105 走行路判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行状態を判別する車両走行状態判別装置において、
前記車両が砂地路を走行している状態にあるか否かを判定する第1判定手段と、
前記第1判定手段により前記車両が砂地路を走行している状態にあると判断された場合、前記車両の減速中あるいは高速走行中に、前記車両が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを再判定する第2判定手段とを備えることを特徴とする車両走行状態判別装置。
【請求項2】
前記第2判定手段は、前記車両の惰行中または制動時の車両減速度に基づいて、前記車両が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを判定することを特徴とする請求項1に記載の車両走行状態判別装置。
【請求項3】
前記第2判定手段は、前記第1判定手段により前記車両が砂地路を走行している状態にあると判断された後に前記車両が惰行状態となった場合、前記車両の惰行中の減速度が所定値を下回っていると、前記車両が牽引走行状態にあると判断することを特徴とする請求項1または2に記載の車両走行状態判別装置。
【請求項4】
前記第2判定手段は、前記第1判定手段により前記車両が砂地路を走行している状態にあると判断された後に前記車両が制動された場合、前記車両の実減速度がドライバーの制動操作量に基づいて推定される車両減速度よりも小さいと、前記車両が牽引走行状態にあると判断することを特徴とする請求項1または2に記載の車両走行状態判別装置。
【請求項5】
前記第2判定手段は、前記第1判定手段により前記車両が砂地路を走行している状態にあると判断された場合、前記車両の車速が所定値以上である状態での前記車両の車輪加速度に基づいて、前記車両が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを判定することを特徴とする請求項1に記載の車両走行状態判別装置。
【請求項6】
前記第2判定手段は、前記第1判定手段により前記車両が砂地路を走行している状態にあると判断された場合、前記車両の車速が所定値以上である状態で前記車両の車輪加速度が所定時間内に所定値を上回らなかった場合、前記車両が牽引走行状態にあると判断することを特徴とする請求項1または5に記載の車両走行状態判別装置。
【請求項7】
前記第1判定手段は、前記車両の加速時における駆動輪の推定車輪加速度と実車輪加速度との偏差に基づいて前記車両の走行路が砂地路であるか否かを判定することを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の車両走行状態判別装置。
【請求項8】
車両の走行状態を判別する車両走行状態判別方法において、
(a)前記車両が砂地路を走行している状態にあるか否かを判定するステップと、
(b)ステップ(a)で前記車両が砂地路を走行している状態にあると判断された場合に、前記車両の減速中あるいは高速走行中に、前記車両が砂地走行状態にあるか、または牽引走行状態にあるかを再判定するステップとを含む車両走行状態判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−335113(P2006−335113A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159107(P2005−159107)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】