説明

車体前部構造

【課題】修理・交換が容易であり、また取り付けスペース効率の良い自動車用パンパを実現する。
【解決手段】バンパ31の下部に下部衝撃吸収プレート37が設けられ、フロントバルクヘッド13のロア部材13aがコ字状断面部材34と蓋状部材35とによる矩形閉断面形状に形成され、下部衝撃吸収プレートのロア部材側となる基端部37eが、ロア部材のフランジの延長部分36にクリップ38で固定されかつロア部材の壁面39に至るようにされた延出部分37dを有している。下部衝撃吸収プレートの固定を1箇所とすることができ、固定作業を簡素化し得るため、軽微なダメージ時の修理・交換が容易となる。また、前方衝突による下部衝撃吸収プレートへの荷重を、延出部分がロア部材の壁面に衝当することにより受けることができ、上記1箇所の固定でも何等問題が無い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部衝撃吸収部材を有するパンパに適用される車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の軽微な前方衝突時に衝撃を吸収するために、自動車の車体前側にはバンパが設けられている。また、バンパの機能として、歩行者に対する保護も必要であり、バンパの凹部内であって上側部分に上段衝撃吸収体を設けると共に下側部分に上段衝撃吸収体よりも剛性の高い下段衝撃吸収体を設けて、衝突時歩行者の足(脚部)を上段衝撃吸収体により衝突エネルギを吸収すると共に下段衝撃吸収体により脚部の下側を払い上げるようにして、歩行者の脚部を衝突から安全に保護することができるようにしたものがあった(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−274298公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1の下段衝撃吸収体にあっては、十分な剛性を確保するために、板状体に縦リブおよび横リブを設けることによりある程度の厚さを有する形状に形成され、その車体側部分が車体フレームに固設されている。
【0004】
しかしながら、下段衝撃吸収体にあっては、上記したように厚さを有する形状に形成されていることから、厚さ方向への変位を防止するために、その車体への固設構造にあっては、板状体の車体側延出部分が車体フレームの下面に固設され、隣り合う一対のリブの上端同士を連結するように橋渡し状に形成されたリム部が車体フレームの上部部分に固設されている。このように、下段衝撃吸収体の車体フレームへの固設箇所が2箇所必要となっており、軽微なダメージの場合に行う修理・交換が容易ではないという問題があった。
【0005】
また、上記したように厚さがあるため、上下方向に離間した2箇所で車体フレームに固設することが望ましく、そのため車体フレームにおいてもある程度厚さのある部分に限られてしまい、取付スペースの確保などレイアウトに制約が生じるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決して、修理・交換が容易であり、また取り付けスペース効率の良い自動車用パンパを実現するために本発明に於いては、衝突エネルギを吸収するべくバンパ(31)の車体(1)側かつ下部に設けられた下部衝撃吸収部材(37)を有する車体前部構造であって、フロントバルクヘッド(13)のロア部材(13a)が、板材をコ字状断面形状に形成したコ字状断面部材(34)と、前記コ字状断面部材(34)の前記開口を遮蔽するように板材から形成した蓋状部材(35)とからなり、かつ前記両部材(34・35)のそれぞれの縁部にて外向きに形成された各フランジ(34a・35a)の対峙するもの同士を固着して閉断面形状に形成され、前記各フランジ(34a・35a)の一方が前記バンパ(31)側に延出され、前記下部衝撃吸収部材(37)の前記ロア部材(13a)側となる基端部(37e)が、前記フランジの延長された部分(36)に固定され、かつ前記基端部(37e)の前記固定された部分から前記フランジの延長された部分(36)に沿って前記ロア部材(13a)の前記バンパ(31)に臨む壁面(39)に至るように形成された延出部分(37d)が設けられているものとした。
【0007】
特に、前記下部衝撃吸収部材(37)の前記延出部分(37d)は、一段下げられた階段状に形成されかつ階段上面に設けられたリブ(41)を有すると共に前記フランジの延長された部分(36)を挿通する開口(37f)を有し、前記フランジの延長された部分(36)が前記下部衝撃吸収部材(37)の前記基端部(37e)と前記リブ(41)とにより挟持されていると良い。また、前記下部衝撃吸収部材(37)の車体前側端部に、前記バンパ(31)の下部にて車体後方に突出形成された突出部分(31b)と車体上下方向に対峙する、凸部(40)が設けられていると良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1によれば、バンパ内に設けられた下部衝撃吸収部材の基端部が、フロントバルクヘッドのロア部材のフランジ延長部分に固定され、かつロア部材のバンパ側壁面に至る延出部分を有していることにより、下部衝撃吸収部材の車体前後方向についての固定箇所を1箇所とすることができ、固定作業を簡素化し得るため、軽微なダメージ時の修理・交換が容易となる。また、前方衝突による下部衝撃吸収部材への荷重を、延出部分がロア部材の壁面に衝当することにより受けることができ、上記1箇所の固定でも何等問題が無い。
【0009】
また、請求項2によれば、ロア部材を構成する部材のフランジの延長された部分が下部衝撃吸収部材の基端部とリブとにより挟持されるため、基端部をフランジに車体上下方向について1箇所で止める構造にしても安定して下部衝撃吸収部材を保持することができる。また、請求項3によれば、衝突時に下部衝撃吸収部材をはね上げる力が作用しても、凸部がバンパに衝当して、それ以上の跳ね上がりが防止されるため、下部衝撃吸収部材の基端部がロア部材のバンパ側壁面に確実に衝当し、歩行者の足払いが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明が適用された乗用車型自動車のフレーム全体を斜め前方から見た斜視図であり、図2は、図1の矢印II線から見た車体前部を示す要部拡大断面図である。
【0011】
図1に示されるように、本実施形態の車体構造は、車体10の前部の骨格強度部材として、車体前後方向に延在する左右のフロントサイドフレーム11・12と、フロントサイドフレーム11・12の先端部(車体前側)間に嵌め込まれた状態に結合された矩形状のフロントバルクヘッド13とを有し、これらの内側にエンジンルーム14を画定している。なお、フロントサイドフレーム11・12の車体前側には車体前方に延出する左右のエクステンション11a・12aがそれぞれ結合されており、各エクステンション11a・12aの車体前側部分にフロントバンパビーム26の左右両端部が結合されている。左右のフロントサイドフレーム11・12は、各々、後端をアウトリガー15・16によって左右のサイドシルメンバー17・18の前端に固定接合されている。
【0012】
また、左右のフロントピラー19・20から斜め下方に延出し、左右のフロントサイドフレーム11・12の車体前側端部の近傍にそれぞれ至る左右のメンバー21・22が配設されている。左右のフロントサイドフレーム11・12と左右のメンバー21・22との各車体前側端部は連結部材25を介して一体的に結合されている。なお、左右のメンバー21・22と左右のフロントサイドフレーム11・12とにより確定される空間には前輪用の左右のホイールハウス23・24が設けられている。
【0013】
なお、各骨格強度部材は例えばコ字状断面部材と板状部材とにより矩形閉断面を形成するものであって良く、この形状は車体の骨格強度部材として公知であり、その詳しい説明は省略する。
【0014】
図2は、上記骨格部材の他に、バンパ31・ラジエータ32・コンデンサ33が配設された状態を示す図である。バンパ31は図示されないブラケットなどを介してフロントバルクヘッド13に結合されており、ラジエータ32はフロントバルクヘッド13の矩形状の枠内に収まるように図示されないブラケットを介して支持され、コンデンサ33もフロントバルクヘッド13に図示されないブラケットを介して支持されていて良い。
【0015】
フロントバルクヘッド13の車体下側の車幅方向に延在するロア部材13aは、図2に示されるように、板材としての鋼板をプレス加工して車体上方に開口するコ字状断面に形成されたコ字状断面部材34と、同じく鋼板により形成されかつコ字状断面部材34の開口を遮蔽するべくコ字状断面部材34に重ね合わされる蓋状部材35とにより形成されている。各部材34・35のそれぞれの両縁部には、両部材34・35により形成される矩形閉断面形状に対して外側(車体前後方向)にそれぞれ延出する各フランジ34a・35aが形成されている。各フランジ34a・35aの対峙するもの同士を溶接することにより矩形閉断面形状のロア部材13aが形成されている。
【0016】
そして、ロア部材13aの車体前側に延出するフランジ34a・35aの一部である蓋状部材35のフランジ35aが、対峙するフランジ34aよりも長く形成されている。そのフランジ35aの延長された部分としての延長部36には下部衝撃吸収部材としての合成樹脂製の衝撃吸収プレート37のロア部材13a側となる基端部37eが結合されている。
【0017】
衝撃吸収プレート37は、図3に併せて示されるように、ロア部材13aに対応して車幅方向に長く形成された板状部分37aと、その板状部分37aの車体下側となる裏面から下方に突設されたリブ37bとを有する形状に形成されている。その板状部分37aのロア部材13a側に基端部37eがあり、その後縁部には車幅方向に間隔をあけて厚さ方向に貫通する複数の孔37cが設けられている。
【0018】
また、衝撃吸収プレート37を図3の矢印IV−IV線に沿って破断して示すと共に延長部36との結合状態を示す図4に併せて示されるように、上記延長部36には各孔37cに対応して同数の孔36aが設けられている。衝撃吸収プレート37は延長部36に、それぞれの対応する孔36a・37cに上方から挿通されたクリップ38により上下方向に固定されている。なお、クリップ38は、円板状の頭部と、頭部に一体かつ同軸に突設された軸部と、軸部の一部を切り欠くように形成されかつ軸部の外方に突出し得る複数の係合片と、頭部から軸部に没入可能に設けられかつ没入状態で係合片を突出させるための押しピンとを有する公知の2部材を締結する工業用ファスナであって良い。
【0019】
また、衝撃吸収プレート37の車体後側となるロア部材13a側には、クリップ38による固定される基端部37eから、延長部36を挿通する開口37fを下方に有し、延長部36の下面に沿って延在して、ロア部材13aの車体前側となるバンパ31に臨む壁面39に至るように延出部分37dが形成されている。図4に良く示されるように、板状部分37aは延長部36の上面に載置状態に固定され、延出部分37dは延長部36の下側に位置するようにされていることから、板状部分37aと延出部分37dとは、板状部分37aに対して延出部分37dが1段下がる階段状に形成されている。また、延出部分37dの上面に、延長部分36またはフランジ34a・35aを挟み込むためのリブ41を設けることにより、安定して、車体上下方向について1箇所のクリップ38での固定構造で衝撃吸収プレート37を保持できる。
【0020】
このようにして構成された衝撃吸収プレート37にあっては、図5に示されるように前方からの弱い荷重Fが加わった時に、一番剛性の低い部分(例えばクリップ38の挿通孔37c回り)が変形し、ロア部材13aに向けて変位する。すると、延出部分37dの突出端が壁面39に衝当するため、衝撃吸収プレート37が座屈する程の大きな荷重でなければその状態が保持される。例えば歩行者の足であればバンパ31の上部を支点とするように下側を払い上げることができ、歩行者の足を衝突から安全に保護することができる。
【0021】
このように、車体1の上下方向についてはクリップ38による1箇所で固定する構造ですみ、荷重Fに対してはクリップ38と延出部分37dの衝当する壁面39とにより受けることができるため従来技術のように2箇所で固定しなくても、はね上げ支持剛性が確保される。
【0022】
また、衝撃吸収プレート37の車体前側端部には、車幅方向の複数箇所に板状部分37aの一部を上方に突設させた凸部40が一体に形成されている。凸部40の突出端面にはさらに図示例では剛性の向上のため左右一対のリブ40aが設けられている。また、バンパ31の開口31aを形成するべく車体内側に折り込むように形成された、バンパの下部にて車体後方に突出形成された突出部分としての縁形成部分31bと凸部40とが車体前後方向に対して略同一位置にて対峙するように設定されている。これにより、上記荷重Fが加わって衝撃吸収プレート37が図5の二点鎖線で示されるように車体上側に変位した場合でも、縁形成部分31bに凸部40(リブ40a)が衝当し得るため、衝突時に衝撃吸収プレート37が跳ね上がるのを防止することができる。
【0023】
したがって、衝撃吸収プレート37は、後方のロア部材13a側へ押され、衝撃吸収プレート37の延出部分37dを上記したようにロア部材13aの延長部36に沿って壁面39に至るように延在させる形状としたことから、延出部分37dをロア部材13aへ干渉させ、歩行者の足払いを行うことができる。また、延出部分37dをロア部材13aの下面に至るまで延出させてロア部材13aとバンパ31の車体下側部分とにより挟み込むように固定する必要も生じない。これにより、ロア部材13の下面より下方に突出する部材の数を最小限(バンパ31の車体下側部分のみ)とすることができ、車体上下方向に対する必要な寸法を短く設定することができ、車体上下方向のレイアウト性を向上し得る。
【0024】
このように、上記したようなバンパ31への軽微なダメージで衝撃吸収プレート37を修理・交換するために取り外す場合にはクリップ38を抜くだけという簡単なもので済み、修理・交換作業が容易である。さらに、上記縁形成部分31bと凸部40との衝当による衝撃吸収プレート37の跳ね上がり防止構造により、衝撃吸収プレート37の車体前側部分を車体側部材に固定する必要がないため、固定構造のより一層の簡素化を促進し得る。
【0025】
本発明の上記構造によれば、図2に示されるようにバンパ31に冷却風導入用に開口31aが設けられている場合にも有効である。開口31aを介してバンパ31の車体側となる内側が見えてしまう(中見え)が、衝撃吸収プレート37の板状部分37aにより覆い隠すことができ、板状部分37aの意匠性を考慮することにより中見えに対する見栄えを良くすることができる。
【0026】
なお、ロア部材13aの閉断面形状を形成するコ字状断面部材34と蓋状部材35との互いに固着されるフランジ34a・35aに孔37cを設けると共に孔にクリップ38を挿通して衝撃吸収プレート37を固定することから、固定作業を容易に行うことができ、修理・交換作業をより一層簡単に行うことができる。また、延出部分37dとロア部材13aとの車体上下方向の厚さが延出部分37dの方が薄いことにより、延出部分37dの下端をロア部材13aの下端より上に位置させることができ、フレームの下側への出っ張りを防止でき、レイアウト性が向上し得る。また、フランジ35aの延長部36を設けた構造により、バンパ31とフロントバルクヘッド13のロア部材13aとの間が離れていても、下部衝撃吸収プレート37を長くする必要がないため、コンパクト化により楽に組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明が適用された乗用車型自動車のフレーム全体を斜め前方から見た斜視図である。
【図2】図1の矢印II線から見た車体前部を示す要部拡大断面図である。
【図3】本発明に基づく衝撃吸収プレートを示す斜視図である。
【図4】衝撃吸収プレートの固定構造を示す拡大断面図である。
【図5】軽微な衝突状態を示す図4に対応する図である。
【符号の説明】
【0028】
1 車体
13 フロントバルクヘッド
13a ロア部材
31 バンパ
31b 縁形成部分(突出部分)
34 コ字状断面部材
34a・35a フランジ
35 蓋状部材
36 延長部分(フランジの延長された部分)
37 下部衝撃吸収プレート(下部衝撃吸収部材)
36a・37c 孔
37d 延出部分
37e 基端部
37f 開口
38 クリップ
39 壁面
40 凸部
41 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突エネルギを吸収するべくバンパの車体側かつ下部に設けられた下部衝撃吸収部材を有する車体前部構造であって、
フロントバルクヘッドのロア部材が、板材をコ字状断面形状に形成したコ字状断面部材と、前記コ字状断面部材の前記開口を遮蔽するように板材から形成した蓋状部材とからなり、かつ前記両部材のそれぞれの縁部にて外向きに形成された各フランジの対峙するもの同士を固着して閉断面形状に形成され、
前記各フランジの一方が前記バンパ側に延長され、
前記下部衝撃吸収部材の前記ロア部材側となる基端部が、前記フランジの延長された部分に固定され、かつ前記基端部の前記固定された部分から前記フランジの延長された部分に沿って前記ロア部材の前記バンパに臨む壁面に至るように形成された延出部分が設けられていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記下部衝撃吸収部材の前記延出部分は、一段下げられた階段状に形成されかつ階段上面に設けられたリブを有すると共に前記フランジの延長された部分を挿通する開口を有し、
前記フランジの延長された部分が前記下部衝撃吸収部材の前記基端部と前記リブとにより挟持されていることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記下部衝撃吸収部材の車体前側端部に、前記バンパの下部にて車体後方に突出形成された突出部分と車体上下方向に対峙する、凸部が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−248738(P2009−248738A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98857(P2008−98857)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】