説明

車体後部構造

【課題】リヤフレームの車体略前後方向の荷重伝達効率を高められるようにして、車体の軽量化と剛性向上の両立を図ることのできる車体後部構造を提供する。
【解決手段】リヤフレーム2A,2Bの低位領域aから屈曲領域cまでを、上方に開口する断面略コ字の第1フレーム部材20によって形成し、リヤフレーム2A,2Bの高位領域bを、上方に開口する断面略コ字状の第2フレーム部材21によって形成する。第2フレーム部材21に、高位領域構成部21bから直線的に前方に延出する断面略コ字状の前部延長片23を一体に形成する。第1フレーム部材20の後縁部の内側に第2フレーム部材21の前縁部を嵌合し、第2フレーム部材21の前部延長片23を、第1フレーム部材20の屈曲領域構成部を跨いで低位領域構成部20aに結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体両側部に車体前後方向に略沿って延出するリヤフレームを備えた車体後部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の多くは、後部のフロア下に一対のリヤフレームが車体前後方向に略沿って設けられ、そのリヤフレームの前端部が車体中央側部の強度部材であるサイドシルに結合されるとともに、両側のリヤフレーム同士がクロスメンバによって結合されている。そして、各リヤフレームは、通常、上方側に開口する断面略コ字状に形成されるとともに、サイドシルに結合される前部側が低位に形成され、後部側が緩やかな段差部を介して高位に形成されている。つまり、前部側の低位領域と後部側の高位領域が屈曲領域を挟んで連続した形状となっている。
【0003】
ところで、このようになリヤフレームを備えた後部車体構造においては、後面衝突時等に、リヤフレームの屈曲領域に曲げ応力が作用し易いため、屈曲領域を跨いでリヤフレームの低位領域と高位領域を直線的に結合するスチフナーが設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−53431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この従来の車体後部構造においては、リヤフレームの低位領域と高位領域をスチフナーによって結合するものであるため、リヤフレームの後部に入力された後面衝突荷重が高位領域からスチフナーに伝達され、さらにスチフナーから低位領域に伝達されることになり、衝突荷重を効率良く前方に伝達し得るものとは言えない。つまり、この従来の車体後部構造においては、荷重の伝達経路に二段の接合部が介在されるため、この二段の接合部によって効率の良い荷重伝達が阻害されてしまう。
このため、荷重の伝達効率をさらに高めるためには、リヤフレームの肉厚を増加したり、補強部材をさらに追加したりしなければならず、車体重量の増加を避けることができなくなる。
【0005】
そこで、この発明は、リヤフレームの車体略前後方向の荷重伝達効率を高められるようにして、車体の軽量化と剛性向上の両立を図ることのできる車体後部構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、車体両側部に上方に開口する断面略コ字状の一対のリヤフレーム(例えば、後述の実施形態におけるリヤフレーム2A,2B)を有し、前記各リヤフレームが、車体前部側で略水平に延出する低位領域(例えば、後述の実施形態における低位領域a)と、車体前部側で略水平に延出する高位領域(例えば、後述の実施形態における高位領域b)と、前記低位領域と高位領域を接続する屈曲領域(例えば、後述の実施形態における屈曲領域c)を備えて成る車体後部構造であって、前記リヤフレームの低位領域から屈曲領域までを、上方に開口する断面略コ字の第1フレーム部材(例えば、後述の実施形態における第1フレーム部材20)によって形成するとともに、前記リヤフレームの高位領域を、上方に開口する断面略コ字状の第2フレーム部材(例えば、後述の実施形態における第2フレーム部材21)によって形成し、この第2フレーム部材に、高位領域構成部(例えば、後述の実施形態における高位領域構成部21b)から直線的に前方に延出する断面略コ字状の延長片(例えば、後述の実施形態における前部延長片23)を一体に形成し、前記第1フレーム部材の後縁部の内側に前記第2フレーム部材の前縁部を嵌合し、前記第2フレーム部材の延長片を、前記第1フレーム部材の屈曲領域構成部(例えば、後述の実施形態における屈曲領域構成部20c)を跨いで低位領域構成部(例えば、後述の実施形態における低位領域構成部20a)に結合したことを特徴とする。
【0007】
これにより、リヤフレームの後端部に入力された後面衝突荷重は、第2フレーム部材の高位領域構成部から延長片を介して第1フレーム部材の低位領域構成部に直接的に伝達される。また、第1フレーム部材の屈曲領域は第2フレーム部材の高位領域構成部から直線的に延出する延長片によって補強される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、リヤフレームが第1フレーム部材と第2フレーム部材から構成され、第2フレーム部材の高位領域構成部から直線的に前方に延出する断面略コ字状の延長片により、第1フレーム部材の屈曲領域構成部が車体略前後方向に沿って効率良く補強されるため、リヤフレームの肉厚増加等による重量増加を招くことなく、車体の剛性向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においては特別に断らない限り、「上」「下」と「前」「後」は、前進方向に向いた車両1についての上下と前後を意味するものとする。また、図中矢印Fは、車両1の前方を示し、矢印Uは、車両1の上方を示すものとする。
【0010】
図1は、この発明にかかる車体後部構造を採用したセダン型の車両1を前後に切断し、その切断した車両1の後部を前方斜め上方から見た図であり、図2は、図1の要部を構成する部材を拡大して示した図、図3,図4,図5は、図2の各部の拡大断面図である。
【0011】
図1に示すように、車両1の後部下方の左右両側には車体前後方向に略沿う一対のリヤフレーム2A,2Bが配置され、この両リヤフレーム2A,2Bの前端部同士と略中間部同士がミドルクロスメンバ3とリヤクロスメンバ4によって相互に結合されるとともに、両リヤフレーム2A,2Bの前縁部が夫々車体側部の強度部材であるサイドシル5A,5Bに結合されている。そして、車体後部の左右両側には、左右の後輪(図示せず)の外周上半部を覆う略円弧状のリヤホイールハウス6A,6Bが設けられ、このリヤホイールハウス6A,6Bの下縁が対応するリヤフレーム2A,2Bに夫々結合されている。
【0012】
また、図示しないリヤシートの後方側位置には、車室内とトランクルーム内をほぼ上下に仕切るリヤパーセルシェルフ7が設けられている。このリヤパーセルシャルフ7は、前端部側に、略矩形断面が車幅方向に沿って延出するパーセルフレーム8が設けられ、このパーセルフレーム8の両端部が後述するダンパベースカバー9を介してリヤホイールハウス6A,6Bに支持されるとともに、車体の内側の側壁を成すサイドパネルインナ10に連結されている。
【0013】
また、この車両1のリヤサスペンション11には、独立したダンパ12とスプリング13を別位置で支持するダブルウィシュボーン式のサスペンションが用いられている。左右の各リヤサスペンション11は、ロアアーム14の先端部がリヤクロスメンバ4の車幅方向内側寄りのアーム支持部15に揺動可能に支持され、ダンパ12の上端部がリヤホイールハウス6A,6Bの頂部のダンパ支持部16に取り付けられるとともに、スプリング13の上端部がリヤフレーム2A,2Bの下面のスプリング支持部17に取り付けられている。スプリング支持部17は、リヤフレーム2A,2Bのうちのリヤクロスメンバ4との結合部の近傍に設けられている。
【0014】
左右のリヤホイールハウス6A,6Bのダンパ支持部16の真横位置の側面には、鉛直方向上下に延出する断面略コ字状のホイールハウスフレーム18が夫々接合され、そのホイールハウスフレーム18の上下端が、パーセルフレーム8とリヤクロスメンバ4の各端部に結合されている。パーセルフレーム8とリヤクロスメンバ4は、こうして両側の端部同士がホイールハウスフレーム18,18によって結合されることにより、ホイールハウスフレーム18,18とともに環状骨格フレームを構成している。そして、パーセルフレーム8はリヤクロスメンバ4の直上位置に配置され、環状骨格フレーム全体は車体前後方向と直交する一平面内に配置されている。
【0015】
各ホイールハウスフレーム18の上端部は、パーセルフレーム8の端縁の下面に略T字状に突き当てられ、パーセルフレーム8の端縁に結合されている。そして、ホイールハウスフレーム18よりも車幅方向外側に突出するパーセルフレーム8の端縁の下方には、リヤホイールハウス6A,6Bの頂部のダンパ支持部16の上方を覆う前記のダンパベースカバー9が配置されている。
【0016】
ところで、左右のリヤフレーム2A,2Bとリヤクロスメンバ4の上面側には、図示しないスペアタイヤパンが接続され、スペアタイヤパン上のリヤクロスメンバ4よりも後方側位置に図示しないスペアタイヤが脱着可能に取り付けられるようになっている。また、スペアタイヤパンの下方のリヤクロスメンバ4とミドルクロスメンバ3の間のスペースには、図示しない燃料タンクが配置されるようになっている。
【0017】
また、車体左右のリヤフレーム2A,2Bは、図2,図5に示すように、車体前部側で前方に略水平に延出してサイドシル5A,5Bとミドルクロスメンバ3に結合される低位領域aと、車体後部側の低位領域aよりも高い位置において車体後方側に略水平に延出するとともにリヤクロスメンバ4に結合される高位領域bと、車体前方から後方側に向かって上方に傾斜して低位領域aと高位領域bを接続する屈曲領域cと、を備えている。
【0018】
ここで、左右の各リヤフレーム2A,2Bは、低位領域aと屈曲領域cを主に形成する断面略コ字状の第1フレーム部材20と、高位領域bを主に形成する断面略コ字状の第2フレーム部材21とによって構成されている。
【0019】
第1フレーム部材20は、図5に示すようにほぼ一定深さの低位領域構成部20aの後端部に、底壁が車体後方側に向かって上方に傾斜する屈曲領域構成部20cが連設され、さらに、その屈曲領域構成部20cの後端部に後部延長片22が連設されている。低位領域構成部20aから後部延長片22までは連続した略コ字状断面に形成されているが、低位領域構成部20aから屈曲領域構成部20cにかけての両側の上縁部には、図4に示すように、スペアタイヤパンを結合するためのフランジ部25が設けられている。なお、後部延長片22の上縁部には、低位領域構成部20aや屈曲領域構成部20cのようなフランジ部25は形成されていないが、後部延長片22の上面は、図5に示すように、低位領域構成部20と屈曲領域構成部20cの上面とほぼ直線を成すように形成されている。
【0020】
また、第2フレーム部材21は、図5に示すように、ほぼ一定深さの高位領域構成部21bの前端部に、高位領域構成部21bから前方に延出する断面略コ字状の前部延長片23(延長片)が連続して形成されている。この実施形態の場合、前部延長片23は、高位領域構成部21bと同深さの付根部側の大断面部23aと、高位領域構成部21bよりも深さの浅い先端部側の小断面部23bと、大断面部23aから小断面部23bに向かって深さが次第に浅くなる徐変断面部23cとから構成されている。そして、この前部延長片23の大断面部23aと徐変断面部23c、小断面部23bは各断面の深さは変化するものの、これらの底面は高位領域構成部21bの底面から前方にストレートに形成されている。また、高位領域構成部21bと大断面部23aの両側の上縁部には、図3に示すように、スペアタイヤパンを結合するためのフランジ部26が設けられている。
【0021】
そして、第1フレーム部材20の後縁部の内側には、図3,図5に示すように、第2フレーム部材21の前縁部が嵌合され、両者が重合状態で溶接固定されている。具体的には、第1フレーム部材20の後部延長片22の底壁と両側壁の内側に、第2フレーム部材21の高位領域構成部21bの前縁部が重合状態で溶接固定され、さらに、第1フレーム部材20の両側壁の内側に、第2フレーム部材21の前部延長片23の両側壁が重合状態で溶接固定されている。すなわち、第1フレーム部材20と第2フレーム部材21は、後部延長片22と高位領域構成部21bの前縁部が底壁同士で重合固定されるとともに、後部延長片22から屈曲領域構成部20c、さらに低位領域構成部20aの後縁部に亙る部位の側壁内面に、第2フレーム部材21の高位領域構成部21bの前縁部から前部延長片23に亙る部位の側壁外面が車体前後方向に沿って重合固定されている(図5中のクロスハッチングで示す領域参照)。
【0022】
以上のように、この車両1の車体後部構造においては、各リヤフレーム2A,2Bが前部側の第1フレーム部材20と後部側の第2フレーム部材21によって構成されるとともに、第2フレーム部材21の断面略コ字状の前部延長片23が第1フレーム部材20の屈曲領域構成部20cを車体前後方向に直線的に横切って低位領域構成部20aに結合されているため、第2フレーム部材21の前部延長片23によって屈曲領域構成部20cを効率良く補強することができるとともに、リヤフレーム2A,2Bの後端に後面衝突荷重が入力されたときに、その衝突荷重を前部延長片23を介して第1フレーム部材20の低位領域構成部20aに直接的に伝達することができる。
【0023】
したがって、この車体後部構造を採用することにより、リヤフレーム2A,2Bの肉厚増加や補強部材の追加等による重量増加を招くことなく、車体の剛性、特に、後面衝突荷重に対するリヤフレーム2A,2Bの曲げ剛性を確実に高めることができる。
【0024】
また、この実施形態の車体後部構造においては、第1フレーム部材20に後部延出片22が設けられ、その後部延出片22の底壁と両側壁が外面を包み込むようにして第2フレーム部材21に重合固定されているため、この結合部構造もリヤフレーム2A,2Bの曲げ剛性を高めるうえで有利となっている。
【0025】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の一実施形態を示すものであり、前後に切断した車体骨格部を斜め後方側に向かって見た図。
【図2】同実施形態を示す車体左側のリヤフレームの拡大斜視図。
【図3】同実施形態を示す図2のA−A断面に対応する断面図。
【図4】同実施形態を示す図2のB−B断面に対応する断面図。
【図5】同実施形態を示す図2のC−C断面に対応する断面図。
【符号の説明】
【0027】
2A,2B…リヤフレーム
20…第1フレーム部材
20a…低位領域構成部
20c…屈曲領域構成部
21…第2フレーム部材
21b…高位領域構成部
23…前部延長片(延長片)
a…低位領域
b…高位領域
c…屈曲領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体両側部に上方に開口する断面略コ字状の一対のリヤフレームを有し、
前記各リヤフレームが、車体前部側で略水平に延出する低位領域と、車体前部側で略水平に延出する高位領域と、前記低位領域と高位領域を接続する屈曲領域を備えて成る車体後部構造であって、
前記リヤフレームの低位領域から屈曲領域までを、上方に開口する断面略コ字の第1フレーム部材によって形成するとともに、前記リヤフレームの高位領域を、上方に開口する断面略コ字状の第2フレーム部材によって形成し、
この第2フレーム部材に、高位領域構成部から直線的に前方に延出する断面略コ字状の延長片を一体に形成し、
前記第1フレーム部材の後縁部の内側に前記第2フレーム部材の前縁部を嵌合し、前記第2フレーム部材の延長片を、前記第1フレーム部材の屈曲領域構成部を跨いで低位領域構成部に結合したことを特徴とする車体後部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−279922(P2008−279922A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126661(P2007−126661)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】